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特許7595785電力用半導体素子の駆動回路、電力用半導体モジュール、および電力変換装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電力用半導体素子の駆動回路、電力用半導体モジュール、および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20241129BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20241129BHJP
   H03K 17/567 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/08 Z
H03K17/567
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023553818
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2021037882
(87)【国際公開番号】W WO2023062745
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀口 剛司
(72)【発明者】
【氏名】益原 貴志
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-78258(JP,A)
【文献】特開2000-333441(JP,A)
【文献】特開2017-123709(JP,A)
【文献】特開2017-5698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H03K 17/08
H03K 17/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子のための駆動回路であって、
前記電力用半導体素子は、高電位側の第1の主電極、低電位側の第2の主電極、および制御電極を含み、前記制御電極に印加された電圧に応じて前記第1の主電極と前記第2の主電極との間が導通状態および非導通状態に切り替わり、
前記駆動回路は、
コントローラからのオン指令に従って、第1の電源電圧を前記制御電極に与えることにより、前記電力用半導体素子をターンオンするターンオン回路と、
前記コントローラからのオフ指令に従って、第2の電源電圧を前記制御電極に与えることにより、前記電力用半導体素子をターンオフする第1のターンオフ回路と、
前記第1の主電極と前記制御電極との間に接続された電圧クランプ回路と、
前記制御電極と前記第2の主電極との間に直列に接続された容量素子およびスイッチング素子ならびに前記容量素子と並列に接続された抵抗素子を含む第2のターンオフ回路と、
前記第2のターンオフ回路の前記スイッチング素子のオンおよびオフを制御するターンオフ制御回路とを備え、
前記ターンオフ制御回路は、前記第1のターンオフ回路によって前記電力用半導体素子のターンオフが開始された後、前記第1の主電極と前記第2の主電極との間の電圧が上昇するときに、前記スイッチング素子をオン状態に切り替える、駆動回路。
【請求項2】
前記ターンオフ制御回路が前記スイッチング素子をオン状態にすることにより、前記容量素子の容量値に応じた期間、前記第2のターンオフ回路には前記第1のターンオフ回路を流れるゲート電流よりも大きなゲート電流が流れ、
前記ターンオフ制御回路は、前記容量素子の容量値に応じた前記期間が経過した後に、前記スイッチング素子をオフ状態に切り替える、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記ターンオフ制御回路は、第1の信号生成器を含み、
前記第1の信号生成器は、前記コントローラから前記オフ指令を受信し、前記オフ指令を受信したタイミングに基づいて、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記ターンオフ制御回路は、第2の信号生成器を含み、
前記第2の信号生成器は、前記第1のターンオフ回路による前記電力用半導体素子のターンオフ時に、前記電力用半導体素子の前記制御電極と前記第2の主電極との間の電圧を検出し、前記検出した電圧が基準値より小さくなったときに、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項5】
前記ターンオフ制御回路は、第2の信号生成器を含み、
前記第2の信号生成器は、前記第1のターンオフ回路による前記電力用半導体素子のターンオフ時に、前記制御電極から流出する電流を検出し、前記検出した電流の絶対値がピーク値に達した後に基準値より小さくなったときに、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記ターンオフ制御回路は、第2の信号生成器を含み、
前記第2の信号生成器は、前記第1のターンオフ回路による前記電力用半導体素子のターンオフ時に、前記制御電極から流出する電荷量を検出し、前記検出した電荷量が第1の基準値を超えたとき、または前記制御電極に残留する電荷量が第2の基準値未満となったときに、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項7】
前記電圧クランプ回路は、前記第1の主電極と前記制御電極との間に順に直列に接続された電圧クランプ用の1つ以上のツェナー型の第1のダイオードと前記第1のダイオードと逆向きに直列接続される第2のダイオードとを含み、
前記ターンオフ制御回路は、第2の信号生成器を含み、
前記第2の信号生成器は、前記第1のターンオフ回路による前記電力用半導体素子のターンオフ時に、前記第2のダイオードのアノード・カソード間の電圧を検出し、前記検出した電圧が基準値を超えたときに、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項8】
前記ターンオフ制御回路は、
第1の信号生成器と、
第2の信号生成器と、
論理演算器とを含み、
前記第1の信号生成器は、前記電力用半導体素子の前記制御電極と前記第2の主電極との間の電圧を検出し、前記検出した電圧が第1の基準値より小さくなったときに第1信号を出力し、
前記第2の信号生成器は、前記制御電極から流出する電流を検出し、前記検出した電流の絶対値がピーク値に達した後に第2の基準値より小さくなったときに第2信号を出力し、
前記論理演算器は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項9】
前記ターンオフ制御回路は、
第1の信号生成器と、
第2の信号生成器と、
論理演算器とを含み、
前記第1の信号生成器は、前記制御電極から流出する電流を検出し、前記検出した電流の絶対値がピーク値に達した後に第1の基準値より小さくなったときに第1信号を出力し、
前記第2の信号生成器は、前記制御電極から流出する電荷量を検出し、前記検出した電荷量が第2の基準値を超えたとき、または前記制御電極に残留する電荷量が第3の基準値未満となったときに、第2信号を出力し、
前記論理演算器は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項10】
前記電圧クランプ回路は、前記第1の主電極と前記制御電極との間に順に直列に接続された電圧クランプ用の1つ以上のツェナー型の第1のダイオードと前記第1のダイオードと逆向きに直列接続される第2のダイオードとを含み、
前記ターンオフ制御回路は、
第1の信号生成器と、
第2の信号生成器と、
論理演算器とを含み、
前記第1の信号生成器は、前記制御電極から流出する電流を検出し、前記検出した電流の絶対値がピーク値に達した後に第1の基準値より小さくなったときに第1信号を出力し、
前記第2の信号生成器は、前記第2のダイオードのアノード・カソード間の電圧を検出し、前記検出した電圧が第2の基準値を超えたときに第2信号を出力し、
前記論理演算器は、前記第1信号および前記第2信号に基づいて、前記スイッチング素子をオン状態に切り替えるための信号を出力する、請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項11】
前記第2のターンオフ回路は、負電源をさらに含み、
前記容量素子、前記スイッチング素子、および前記負電源は、前記制御電極と前記第2の主電極との間に順に直列に接続される、請求項1~のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項12】
前記第2のターンオフ回路は、前記容量素子および前記抵抗素子を含むとともに前記スイッチング素子と直列に接続された受動部品部を備え、
前記受動部品部の時定数は、5マイクロ秒以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の駆動回路。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項に記載の電力用半導体素子とその駆動回路とを備えた電力用半導体モジュール。
【請求項14】
請求項1~のいずれか1項に記載の電力用半導体素子とその駆動回路とを搭載した電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力用半導体素子の駆動回路、電力用半導体モジュール、および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子のターンオフ時に発生するサージ電圧によって過電圧が生じる場合がある。このような過電圧を防止する手段の一つに、電力用半導体素子の高電位側の主電極と制御電極との間に定電圧ダイオードを用いた電圧クランプ回路を接続する方式がある。高電位側の主電極と制御電極との間の電圧が、電圧クランプ回路の動作電圧レベルに到達すると、高電位側の主電極の電圧が一定電圧にクランプされるとともに、電圧クランプ回路を介して高電位側の主電極から制御電極に電流が流れる。しかしながら、このとき制御電極の電圧上昇によってターンオフ動作時間が長くなるために、ターンオフ損失が大きくなるという副作用が生じる。
【0003】
特開2016-86490号公報(特許文献1)は、ターンオフ損失の増加を抑制するために、制御電極の電圧の検出値に応じて制御電極に接続された出力段インピーダンスを変化させる手法を開示する。具体的には、サージが緩和されると、クランプ電流が減少することで制御電極の電圧が低下する。その後、ミラー期間が終了して制御電極の電圧が規定値以下に低下したことが検出されると、出力段回路は、出力段インピーダンスを低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-86490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特開2016-86490号公報(特許文献1)に記載の方法では、ターンオフ損失の抑制は十分とは言えない。具体的に、高電位側の主電極と制御電極との間の電圧が変化する期間と、主電極間を流れる主電流が変化する期間との両方で、出力段インピーダンスが高い値に維持されている。したがって、これらの期間でターンオフ損失が大きくなってしまう。
【0006】
本開示は、上記の問題点を考慮してなされたものであって、その目的の一つは、サージ電圧の抑制とターンオフ損失の低減との両立を実現する、電力用半導体素子の駆動回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態において、電力用半導体素子のための駆動回路が提供される。電力用半導体素子は、高電位側の第1の主電極、低電位側の第2の主電極、および制御電極を含む。制御電極に印加された電圧に応じて第1の主電極と第2の主電極との間が導通状態および非導通状態に切り替わる。駆動回路は、ターンオン回路と、第1のターンオフ回路と、電圧クランプ回路と、第2のターンオフ回路と、ターンオフ制御回路とを備える。ターンオン回路は、コントローラからのオン指令に従って、第1の電源電圧を制御電極に与えることにより、電力用半導体素子をターンオンする。第1のターンオフ回路は、コントローラからのオフ指令に従って、第2の電源電圧を制御電極に与えることにより、電力用半導体素子をターンオフする。電圧クランプ回路は、第1の主電極と制御電極との間に接続される。第2のターンオフ回路は、制御電極と第2の主電極との間に直列に接続された容量素子およびスイッチング素子ならびに容量素子と並列に接続された抵抗素子を含む。ターンオフ制御回路は、第2のターンオフ回路のスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。ターンオフ制御回路は、第1のターンオフ回路によって電力用半導体素子のターンオフが開始された後、第1の主電極と第2の主電極との間の電圧が上昇するときに、スイッチング素子をオン状態に切り替える。
【発明の効果】
【0008】
上記の一実施形態の駆動回路によれば、電力用半導体素子のターンオフが開始された後、第1の主電極と第2の主電極との間の電圧が上昇するときに、スイッチング素子がオン状態に切り替えられる。これにより、サージ電圧の抑制とターンオフ損失の低減との両立を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図2図1の第2のターンオフ回路が設けられていない比較例の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図3図1に示す実施の形態1の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図4】実施の形態2による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図5】実施の形態3による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図6図5に示す実施の形態3の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図7】実施の形態4による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図8図7に示す実施の形態4の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図9】実施の形態5による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図10図9に示す実施の形態5の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図11】実施の形態5の変形例による駆動回路の構成を示す回路図である。
図12】実施の形態6による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図13図12に示す実施の形態6の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。
図14】実施の形態6の変形例による駆動回路の構成を示す回路図である。
図15】実施の形態7による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図16図15に示す実施の形態7の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を示す図である。
図17】実施の形態8の第1の例による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図18】実施の形態8の第2の例による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図19】実施の形態8の第3の例による電力用半導体素子の駆動回路の構成を示す回路図である。
図20】実施の形態9による電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。以下の説明では、論理演算には正論理を用いる。すなわち、アクティブ状態(“1”)にHレベル(High Level)を割り当て、非アクティブ状態(“0”)にLレベル(Low Level)を割り当てる。しかしながら、本開示は負論理の場合にも適用可能である。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0011】
実施の形態1.
[駆動回路の構成例]
図1は、実施の形態1による電力用半導体素子1の駆動回路100の構成を示す回路図である。電力用半導体素子1と駆動回路100とによって電力用半導体モジュールが構成される。この場合、電力用半導体素子1と駆動回路100とが一体で電力用半導体モジュールを構成してもよく、電力用半導体素子1と駆動回路100とが別体で電力用半導体モジュールを構成してもよい。
【0012】
電力用半導体素子1は、制御電極G(ゲート)に与えられる電圧に応じて、高電位側の第1の主電極C(コレクタ)と低電位側の第2の主電極E(エミッタ)との間を、導通(オン)状態または非導通(オフ)状態に切り替える。制御電極Gに与えられる電圧は、コントローラ10から与えられる指令信号CMDに基づいて駆動回路100によって生成される。図1では、電力用半導体素子1としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が例示されているが、IGBTに限られない。たとえば、電力用MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)など他の種類の電力用半導体素子を用いてもよい。また、電力用半導体素子1に用いられる材料は、Siに限らず、SiC、GaN、Gaなど他の半導体材料を用いてもよい。電力用半導体素子1と逆並列にフリーホイールダイオード2が接続される。
【0013】
駆動回路100は、ターンオン回路11と、第1のターンオフ回路12と、第2のターンオフ回路30と、ターンオフ制御回路40と、電圧クランプ回路20とを備える。
【0014】
図1に示すように、ターンオン回路11は、半導体スイッチング素子13とオンゲート抵抗14とを含む。半導体スイッチング素子13およびオンゲート抵抗14は、この順で電源電圧VCCが与えられるノード(以下、VCCノードと称する)と中間ノード18との間に接続される。第1のターンオフ回路12は、半導体スイッチング素子16とオフゲート抵抗15とを含む。半導体スイッチング素子16およびオフゲート抵抗15は、この順でグランド電位GNDが与えられるノード(以下、GNDノードと称する)と中間ノード18との間に接続される。中間ノード18は、制御電極配線17を介して電力用半導体素子1の制御電極Gに接続される。GNDノードは、電力用半導体素子1の第2の主電極Eに接続される。
【0015】
なお、本開示では、より一般的に、電源電圧VCCを第1の電源電圧と称し、グランド電位GNDを第2の電源電圧と称する場合がある。また、VCCノードを第1の電源ノードと称し、GNDノードを第2の電源ノードと称する場合がある。
【0016】
図1の場合、半導体スイッチング素子13としてNPN型バイポーラトランジスタが用いられる。また、半導体スイッチング素子16としてPNP型バイポーラトランジスタが用いられる。しかしながら、これに限定されず、たとえば、半導体スイッチング素子13としてPチャネルMOSFETを用い、半導体スイッチング素子16としてNチャネルMOSFETを用いてもよいし、他の導電型または他の種類の半導体スイッチング素子を用いてもよい。
【0017】
コントローラ10からの指令信号CMDとしてオン指令を受けることにより、半導体スイッチング素子13がオン状態に遷移し、半導体スイッチング素子16がオフ状態に遷移する。図1の場合、オン指令はHレベル電圧である。これにより、電力用半導体素子1の制御電極GはVCCノードと接続されるので、電力用半導体素子1は導通状態になる。
【0018】
一方、コントローラ10からの指令信号CMDとしてオフ指令を受けることにより、半導体スイッチング素子13がオフ状態に遷移し、半導体スイッチング素子16がオン状態に遷移する。図1の場合、オフ指令はLレベル電圧である。これにより、電力用半導体素子1の制御電極GはGNDノードと接続されるので、電力用半導体素子1は非導通状態になる。
【0019】
第2のターンオフ回路30は、制御電極配線17上のノード34と電力用半導体素子1の第2の主電極Eとの間に接続される。接続ノード34は、中間ノード18よりも制御電極Gに近い。図1に示すように、一例として第2のターンオフ回路30は、キャパシタ31(容量素子とも称する)と半導体スイッチング素子32と抵抗器33と含む。キャパシタ31と半導体スイッチング素子32とは、この順でノード34(すなわち、制御電極G)と第2の主電極Eとの間に接続される。抵抗器33はキャパシタ31と並列に接続される。キャパシタ31と抵抗器33とによって受動部品部が構成される。半導体スイッチング素子32がオフ状態の場合に、第2のターンオフ回路30(すなわち、制御電極Gと第2の主電極Eとの間)は非導通状態になり、半導体スイッチング素子32がオン状態の場合に、第2のターンオフ回路30は導通状態になる。
【0020】
図1の場合、半導体スイッチング素子32としてNチャネルMOSFETが用いられる。しかしながら、これに限定されず、たとえば、半導体スイッチング素子32としてNPN型バイポーラトランジスタとしてもよいし、他の導電型または他の種類の半導体スイッチング素子を用いてもよい。
【0021】
ターンオフ制御回路40は、電力用半導体素子1のターンオフ時に、すなわち、ターンオン回路11の半導体スイッチング素子13がオフ状態になり、第1のターンオフ回路12の半導体スイッチング素子16がオン状態になった後で、第1の主電極Cと第2の主電極Eとの間の電圧(コレクタ-エミッタ間電圧Vce)が上昇するときに(すなわち、上昇の途中で)、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32をオン状態に切り替える。望ましくは、半導体スイッチング素子32の切り替えタイミングは、第1の主電極Cと第2の主電極Eとの間の電圧(コレクタ-エミッタ間電圧Vce)が上昇し始めるときである。その後、ターンオフ制御回路40は、一定時間経過後に半導体スイッチング素子32をオフ状態に戻す。
【0022】
図1に示す実施形態では、ターンオフ制御回路40は、信号生成器41Aを含む。信号生成器41Aは、コントローラ10から指令信号CMDとしてオフ指令を受けた場合に、半導体スイッチング素子32を導通状態に制御するために一定時間Hレベルとなるパルス信号を出力する。
【0023】
半導体スイッチング素子32がオン状態になることにより第2のターンオフ回路30が導通状態となると、第1のターンオフ回路12と併せて2つの経路で電力用半導体素子1の制御電極GからGNDノードに電流が流れることになる。ここで、第1のターンオフ回路12の電流経路にはキャパシタが含まれていないのに対して、第2のターンオフ回路30の電流経路には、半導体スイッチング素子32と直列にキャパシタ31が設けられている。したがって、半導体スイッチング素子32のターンオンの直後に、第2のターンオフ回路30に瞬時に電流が流れる。これにより、第2のターンオフ回路30を流れる電流は、第1のターンオフ回路12を流れる電流に比べて大きく支配的になる。第2のターンオフ回路30のターンオフ動作期間(すなわち、第2のターンオフ回路30を流れる電流が定常状態になるまでの期間)は、キャパシタ31の容量によって一意的に定まるため、信号生成器41Aから出力されるパルス信号がハイレベルを有する期間とは関係ない。このように、キャパシタ31の容量に応じて非常に短い時間だけ第2のターンオフ回路30を介したターンオフ電流が支配的になる。
【0024】
キャパシタ31の容量は、第2のターンオフ回路30に実際に過渡電流が流れる期間が所望の期間となるように設定される。具体的には、キャパシタ31を介した電流が0になったときに、コレクタ-エミッタ間電圧Vceがほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が設定されるのが望ましい。
【0025】
電圧クランプ回路20は、電力用半導体素子1の高電位側の第1の主電極Cと制御電極Gとの間に接続され、第1の主電極Cと制御電極Gとの間の電圧をクランプするための回路である。図1に示す構成例では、電圧クランプ回路20は、第1の主電極Cと制御電極Gとの間に、この順で互いに直列に接続された1つ以上(6個)のツェナーダイオード21(第1のダイオードとも称する)と逆流防止用ダイオード22(第2のダイオードとも称する)とを含む。各ツェナーダイオード21は、カソードが第1の主電極C側に接続される。逆流防止用ダイオード22は、カソードが制御電極G側に接続される。ツェナーダイオード21の個数は、各ツェナーダイオード21の降伏電圧の和が、電力用半導体素子1の定格電圧を超えないように適切に設定される。逆流防止用ダイオード22は、ツェナー型であってもよいし、ツェナー型でなくてもよい。
【0026】
一般に、電力用半導体素子で発生する損失を低減することは、電力用半導体素子を用いた電力変換装置の小型化および高効率化を実現するために重要である。電力用半導体素子で発生する損失には、スイッチング動作の過渡状態で発生するスイッチング損失と、導通状態で発生する導通損失とがある。導通損失は、主として電力用半導体素子の特性によって決まるのに対して、スイッチング損失は、電力用半導体素子の駆動方法を工夫することによって低減できる。
【0027】
スイッチング損失は、ターンオン動作時に発生するターンオン損失と、ターンオフ動作時に発生するターンオフ損失とに分類することができる。ターンオフ損失を低減するためにはターンオフ時間を短くする、すなわち、スイッチング速度を速くする方法がある。
【0028】
しかしながら、ターンオフ時間を短くすると、サージ電圧が増大するという問題が生じる。具体的に、電力変換装置の主回路の寄生インダクタンスをLs、主電極間に流れる電流(コレクタ電流)の時間変化をdI/dtと表したとき、Ls×dI/dtで表されるサージ電圧が発生する。このため、スイッチング速度を速くしてdI/dtが高くなると、サージ電圧が高くなる。このように、ターンオフ損失とサージ電圧との間にはトレードオフの関係がある。
【0029】
電圧クランプ回路20は、サージ電圧に伴う過電圧を抑制する。具体的に、ターンオフ動作中には、第1の主電極Cと第2の主電極Eとの間の電圧が上昇する。このとき、サージ電圧によって主電極間の電圧が過大になったとき、電圧クランプ回路20のツェナーダイオード21が降伏して制御電極Gに電流が流れる。この結果、電力用半導体素子1が一時的に導通状態になるので、高電位側の第1の主電極Cの電圧を一定値に保つことができる。一方で、電圧クランプ回路20のクランプ動作によってターンオフ動作時間が長くなるのでターンオフ損失は増大するという問題が生じる。以下、ターンオフ時の各部の電圧および電流波形を参照して、さらに詳しく説明する。
【0030】
[比較例の駆動回路における電流電圧波形]
図2は、図1の第2のターンオフ回路30が設けられていない比較例の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図2では、上から順に、電力用半導体素子1の制御電極Gと第2の主電極Eとの間の電圧Vge(「ゲート-エミッタ間電圧」とも称する)、電力用半導体素子1の主電極間を流れる主電流Ic(「コレクタ電流」とも称する)、電力用半導体素子1の主電極間の電圧Vce(「コレクタ-エミッタ間電圧」とも称する)、および指令信号CMDの各波形が概略的に示されている。実線は、電圧クランプ回路20がクランプ動作を実行した場合の電圧または電流波形を示し、破線は、電圧クランプ回路20が設けられていない場合の電圧または電流波形を示す。
【0031】
図2を参照して、時刻t1において、図1のコントローラ10から出力される指令信号CMDがHレベル(オン指令)からLレベル(オフ指令)に切り替わる。これによって、ターンオン回路11の半導体スイッチング素子13がオフ状態に切り替わり、第1のターンオフ回路12の半導体スイッチング素子16がオン状態に切り替わる。この結果、電力用半導体素子1の制御電極Gに蓄積されていた電荷が制御電極配線17および第1のターンオフ回路12を通って流出し始める。
【0032】
電圧クランプ回路20が設けられていない場合(図2の破線)、ゲート-エミッタ間電圧Vgeは、時刻t2において下降し始め、時刻t3から時刻t5までのミラー期間を経てさらに低下する。コレクタ―エミッタ間電圧Vceはミラー期間に到達した時刻t3から上昇していき、直流リンク電圧(非導通状態時に印加されていた電圧)に到達するとコレクタ電流Icが減少し始める。
【0033】
一方、電圧クランプ回路20が設けられている場合(図2の実線)、時刻t4において、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが電圧クランプ回路20によって設定されたクランプ電圧よりも高くなると、電圧クランプ回路20のツェナーダイオード21が降伏して、第1の主電極C(コレクタ)から制御電極G(ゲート)に電流が流れる。これにより、ゲート-エミッタ間電圧Vge電圧が上昇するとともに、コレクタ-エミッタ間電圧Vceはクランプされる。このように電圧クランプ回路20によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceがクランプされるために、サージ電圧が抑制される。しかしながら、電圧クランプ回路20を設けた場合のほうが電力用半導体素子1のターンオフ動作期間が長くなるために、ターンオフ損失が増大するという問題がある。
【0034】
[実施の形態1の駆動回路における電流電圧波形]
図3は、図1に示す実施の形態1の駆動回路によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図3では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、指令信号CMD、および信号生成器41Aの出力電圧の各波形が概略的に示されている。実線は、実施の形態1の駆動回路100の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t1,t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。
【0035】
コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇し始める時刻t11において、信号生成器41Aは、その出力電圧をHレベルに切り替える。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30のキャパシタ31を介して急激にゲート電流が流れる。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが低下し、コレクタ電流Icが減少し、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する。
【0036】
次の時刻t12に、キャパシタ31を介したゲート電流が停止する。時刻t11から時刻t12までの期間はキャパシタ31の容量で決まる。したがって、時刻t12に、コレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が予め決定される。その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミング(時刻t13)で、信号生成器41はその出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。
【0037】
上記のように、電力用半導体素子1のターンオフ動作時において、少なくとも電力用半導体素子1の主電極間の電圧(コレクタ-エミッタ間電圧Vce)が上昇を続けている間は、半導体スイッチング素子32が導通状態となるように、信号生成器41は出力信号をハイレベルに維持する。さらに、キャパシタ31を介してゲート電流が流れる期間がコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇している期間だけとなるように、キャパシタ31の容量値を設定する。言い替えると、キャパシタ31を介して電流が流れなくなるときにコレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もクランプされるようにキャパシタ31の容量値が設定される。
【0038】
このように、第2のターンオフ回路30を介して電流が流れる期間は、半導体スイッチング素子32が導通状態となる期間ではなく、キャパシタ31の容量値によって設定される。コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する期間中に100ナノ秒程度の短いパルス幅のパルス信号によって半導体スイッチング素子32を制御して、実際に第2のターンオフ回路30に電流が流れるようにすることは難しい。これに比べて、コンデンサの容量値によって第2のターンオフ回路30に電流が流れる期間が決定されるようにすることは容易である。
【0039】
さらに、図1の第2のターンオフ回路30では、キャパシタ31と並列に抵抗器33が接続されている。この理由について説明する。電力用半導体素子のアプリケーションとして電力変換装置を想定した場合、電力用半導体素子は連続的にスイッチング動作するように制御される。すなわち、ターンオフ動作が繰り返し行われる。したがって、毎回のターンオフ動作で第2のターンオフ回路を動作させるためには、ターンオフ動作が終了する度にキャパシタ31に蓄積された電荷を放電する必要がある。抵抗器33はこのような場合にキャパシタ31の放電を行うために設けられている。実際に、半導体スイッチング素子32がオフ状態になると、キャパシタ31に蓄積された電荷が放電される。電力変換装置を駆動するPWM(Pulse Width Modulation)信号におけるキャリア周波数および最小オフパルス幅を考慮すると、キャパシタ31と抵抗器33とで決まる時定数(より一般的には、受動部品部の時定数)としては5マイクロ秒以下とすることが望ましい。
【0040】
[実施の形態1の効果]
以上のように、実施の形態1の電力用半導体素子1の駆動回路100によれば、電力用半導体素子1の高電位側の第1の主電極Cと制御電極Gとの間に電圧クランプ回路20が設けられるとともに、制御電極Gと低電位側の第2の主電極Eとの間に第2のターンオフ回路30が設けられる。第2のターンオフ回路30は、第1のターンオフ回路12と異なり、半導体スイッチング素子32と直列にキャパシタ31が設けられる。さらに、キャパシタ31と並列に抵抗器33が接続されている。
【0041】
第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を制御するターンオフ制御回路40は、第1のターンオフ回路12が導通状態になった後のターンオフ期間中に、半導体スイッチング素子32をオン状態にする。このとき、第1のターンオフ回路12を流れる電流よりも大きな電流がキャパシタ31を介して流れるので、より短い時間で電力用半導体素子1の主電極間の電圧(コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を上昇させることができる。すなわち、電力用半導体素子1のターンオフ時の電圧変化(dV/dt)がより急峻になるのでターンオフ損失を低減できる。キャパシタ31を介して過渡的に電流が流れる期間が、半導体スイッチング素子32がオン状態に切り替わった後、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが直流リンク電圧に達するまでの期間に略等しくなるように、キャパシタ31の容量値が設定される。ターンオフ制御回路40は、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが直流リンク電圧に達した後に、任意のタイミングで半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。したがって、ターンオフ制御回路40によって半導体スイッチング素子32がオン状態に制御されている期間は、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(コレクタ-エミッタ間電圧Vce)が0から最大値まで上昇する期間よりも長い。
【0042】
一方、駆動回路100には電圧クランプ回路20が設けられているので、電力用半導体素子1のターンオフ動作時の電流変化(dI/dt)に伴うサージ電圧を抑制できる。これにより、ターンオフ損失とサージ電圧とのトレードオフを改善できるので、電力用半導体素子1を備えた電力変換器の小型化および高効率化を実現できる。
【0043】
[実施の形態1の変形例]
なお、本実施の形態1の駆動回路100では、オンゲート抵抗14とオフゲート抵抗15とが独立して設けられている。これに対して、ターンオン用とターンオフ用で共通化したゲート抵抗を制御電極配線17に設けた場合にも、上記と同様の効果が得られる。
【0044】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2による電力用半導体素子1の駆動回路101の構成を示す回路図である。
【0045】
実施の形態2の駆動回路101は、電圧クランプ回路20Aが複数のツェナーダイオード21と直列に接続されたキャパシタ24をさらに含む点で、実施の形態1の駆動回路100と異なる。図4に示す例では、キャパシタ24は、電力用半導体素子1の第1の主電極Cと複数のツェナーダイオード21との間に接続されている。図4のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0046】
キャパシタ24を設けることによって、直流電流を遮断できる。したがって、電力用半導体素子1の第1の主電極Cと第2の主電極Eとの間に定常的に印加される直流電圧が、ツェナーダイオード21の個数によって決まるクランプ電圧よりも高い場合であっても、電圧クランプ回路20に直流電流が流れることはない。
【0047】
実施の形態2の駆動回路101のその他の効果は、実施の形態1の駆動回路100の場合と同様である。すなわち、電力用半導体素子1のターンオフ期間中に第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32が導通状態になることによって、キャパシタ31を介して制御電極Gの電荷が引き抜かれる。この結果、ターンオフ時の電圧変化(dV/dt)をより急峻にできるので、ターンオフ損失を低減できる。一方で、駆動回路101は、さらに電圧クランプ回路を備えているので、主電極間に生じるサージ電圧を抑制できる。
【0048】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3による電力用半導体素子1の駆動回路102の構成を示す回路図である。
【0049】
実施の形態3の駆動回路102は、第2のターンオフ回路30Aが負電源35をさらに含む点で、実施の形態2の駆動回路101と異なる。図5に示す第2のターンオフ回路30Aでは、キャパシタ31、半導体スイッチング素子32および負電源35は、この順で接続ノード34とGNDノードとの間に(したがって、制御電極Gと第2の主電極Eとの間に)直列に接続される。すなわち、負電源35の正極はGNDノードに接続され、負電源35の負極は半導体スイッチング素子32の低電位側の主電極(エミッタ)に接続される。
【0050】
上記の構成によって、半導体スイッチング素子32の制御電極(ゲート)と低電位側の主電極(エミッタ)との電位差が大きくなる。これにより、半導体スイッチング素子32を介して第2のターンオフ回路30Aに流れる電流を大きくすることができる。結果として、電力用半導体素子1のターンオフ時にコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する速度をより一層速くでき、これにより、ターンオフ損失の低減効果をより一層高めることができる。
【0051】
図5のその他の点は、図1および図4で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0052】
図6は、図5に示す実施の形態3の駆動回路102によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図6では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、および信号生成器41Aの出力電圧の各波形が概略的に示されている。実線は、実施の形態1の駆動回路100の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。点線は、実施の形態3の駆動回路102の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。
【0053】
点線の波形で示すように、本実施の形態の駆動回路102では、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇し始める時刻t14に、信号生成器41Aは、その出力電圧をHレベルに切り替える。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30Aのキャパシタ31を介して急激に電流が流れる。このとき、第2のターンオフ回路30Aに流れる電流は、実施の形態1の第2のターンオフ回路30の場合(図6の実線)よりも大きい。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeの低下量は実施の形態1の場合よりも大きく、コレクタ電流Icの減少速度は実施の形態1の場合よりも大きく、コレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇速度は実施の形態1の場合よりも大きい。
【0054】
時刻t15に、コレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇がほぼクランプされる。このときに、第2のターンオフ回路30Aのキャパシタ31を介して流れる電流も停止するように、キャパシタ31の容量値が設定される。その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミング(時刻t16)で、信号生成器41はその出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。図6に示すように、実施の形態3の場合にキャパシタ31を介して電流を流れる期間は、時刻t14から時刻t15までである。この期間は、実施の形態1の場合の時刻t11から時刻t12までよりも短い。
【0055】
以上のように、実施の形態3の電力用半導体素子1の駆動回路102によれば、第2のターンオフ回路30Aの半導体スイッチング素子32の低電位側に負電源35が直列に接続される。これにより、半導体スイッチング素子32がオン状態のときに半導体スイッチング素子32に流れる電流を増加させることができるので、電力用半導体素子1がターンオフする速度を一層高めることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失の更なる低減を実現できる。また、実施の形態1,2の場合と同様に、駆動回路102は電圧クランプ回路20を備えているため、ターンオフ時に電力用半導体素子1の主電極間に過渡的に生じるサージ電圧を抑制できる。
【0056】
なお、負電源35をさらに備えた第2のターンオフ回路30Aの構成は、後述する実施の形態4~9のいずれの駆動回路103~111とも組み合わせることができる。
【0057】
実施の形態4.
図7は、実施の形態4による電力用半導体素子1の駆動回路103の構成を示す回路図である。実施の形態4の駆動回路103は、ターンオフ制御回路40Aが、実施の形態1~3で説明した第1の信号生成器41Aに加えて、第2の信号生成器41Bと遅延回路51と論理演算器45とをさらに含む点で、実施の形態1~3の駆動回路100~102と異なる。
【0058】
既に説明したように、第1の信号生成器41Aは、コントローラ10から出力された指令信号CMD(オフ指令)に基づいて、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0059】
第2の信号生成器41Bは、電力用半導体素子1の制御電極Gと低電位側の第2の主電極Eとの間の電圧を検出し、検出した電圧が基準電圧V1より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。基準電圧V1は、電力用半導体素子1がオン状態のときの制御電極Gの電圧よりも低く、電力用半導体素子1のターンオフ時のミラー電圧よりも高い値に設定される。
【0060】
遅延回路51は、第2の信号生成器41Bの出力がLレベルからHレベルに切り替わるタイミングを予め定められた遅延時間DT1だけ遅延させる。これにより、半導体スイッチング素子32がオフ状態からオン状態に切り替わるタイミングを調整できる。第2の信号生成器41Bに含まれる後述する比較器44および論理演算器45の各々の遅延時間によって半導体スイッチング素子32のターンオンのタイミングを調整可能な場合には、遅延回路51を設けなくてもよい。また、論理演算器45と半導体スイッチング素子32の制御電極Gとの間に遅延回路51を設けてもよい。
【0061】
論理演算器45は、第2の信号生成器41Bの出力信号を遅延回路51によって遅延させた信号と第1の信号生成器41Aの出力信号とが共にHレベルのとき、Hレベルの信号を半導体スイッチング素子32の制御電極Gに出力する。これにより、半導体スイッチング素子32は導通状態になる。このように、論理演算器45は、複数の入力信号に対して論理積演算を行う。
【0062】
図7に示すように、より詳細には第2の信号生成器41Bは、差動増幅器42と、直流電源43と、比較器44とを含む。差動増幅器42は、電力用半導体素子1の制御電極Gと低電位側の第2の主電極Eとの間の制御電圧(ゲート-エミッタ間電圧Vge)を検出する制御電圧検出回路として機能する。比較器44は、差動増幅器42の出力電圧と直流電源43の出力電圧とを比較し、差動増幅器42の出力電圧が直流電源43の出力電圧よりも小さくなった場合に、Hレベルの信号を出力する。
【0063】
図7のその他の点は図1および図4の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。なお、実施の形態4の駆動回路103は、実施の形態3における負電源35を備えた第2のターンオフ回路30Aと組み合わせることができる。
【0064】
図8は、図7に示す実施の形態4の駆動回路103によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図8では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、差動増幅器42の出力電圧、比較器44の出力電圧、および論理演算器45の出力電圧の各波形が概略的に示されている。実線は、実施の形態4の駆動回路103の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。
【0065】
図8の時刻t17において、差動増幅器42の出力電圧(すなわち、電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge)が基準電圧V1よりも小さくなる。これにより、比較器44の出力電圧は、LレベルからHレベルに切り替わる。なお、第1の信号生成器41Aの出力信号は、コントローラ10からオフ指令を受けたときに、既にLレベルからHレベルに切り替わっているとする。
【0066】
時刻t17から遅延回路51の遅延時間DT1が経過した時刻t18に、論理演算器45の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30のキャパシタ31を介して急激に電流が流れる。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが低下し、コレクタ電流Icが減少し、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する。次の時刻t19に、キャパシタ31を介した電流が停止する。時刻t18から時刻t19までの期間はキャパシタ31の容量で決まる。したがって、時刻t19にコレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が予め決定される。
【0067】
その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミングで、第1および第2の信号生成器41A,41Bはそれぞれの出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。
【0068】
[実施の形態4の効果]
ターンオフ動作では、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが一定となるミラー期間において、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する。したがって、図8に示すように、基準電圧V1をミラー電圧より少し高めの値に設定し、さらに遅延回路51の遅延時間DT1ならびに比較器44および論理演算器45に生じる遅延時間を考慮する。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングである時刻t18に、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路103はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0069】
なお、実施の形態4の駆動回路103では、第1の信号生成器41Aは、コントローラ10からの指令信号CMDのオン指令からオフ指令への切り替わりに基づいて、電力用半導体素子1のターンオフ時に第2のターンオフ回路30を動作させるために設けられている。半導体スイッチング素子32のオフ状態からオン状態への切り替えタイミングは、第2の信号生成器41Bによって決定される。
【0070】
実施の形態5.
図9は、実施の形態5による電力用半導体素子1の駆動回路104の構成を示す回路図である。実施の形態5の駆動回路104では、第2の信号生成器41Cの機能が実施の形態4の駆動回路103における第2の信号生成器41Bの機能と異なる。
【0071】
具体的に、図9の第2の信号生成器41Cは、第1のターンオフ回路12の電流経路上に設けられた電流センサ60によって検出された電流値を取得する。そして、第2の信号生成器41Cは、検出した電流値の絶対値がピーク値になった後に、基準値(基準電圧V2に対応する)より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0072】
図9に示すように、より詳細には信号生成器41Cは、増幅器52と、比較器44と、直流電源43とを含む。増幅器52は、電力用半導体素子1のターンオフ時に電流センサ60によって検出されたゲート電流値を取得する。なお、増幅器52は、電流センサ60から差動信号を取得する差動増幅器として構成されていてもよい。比較器44は、増幅器52から出力された電流センサ60の検出値の絶対値と直流電源43から出力された基準電圧V2とを比較する。比較器44は、増幅器52から出力されたゲート電流検出値の絶対値がピーク値を超えた後、基準電圧V2より低くなったときに、一定期間Hレベルとなるパルス信号を出力する。
【0073】
図9のその他の構成は図7の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0074】
図10は、図9に示す実施の形態5の駆動回路104によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図10では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、ゲート電流検出器としての電流センサ60の出力電圧、比較器44の出力電圧、および論理演算器45の出力電圧の各波形が示されている。実線は、実施の形態5の駆動回路104の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。なお、ゲート電流の値は、中間ノード18から電力用半導体素子1の制御電極Gの方向に流れる場合を正とし、その逆方向に流れる場合を負とする。
【0075】
図10の時刻t21において、ゲート電流が流れ始め、時刻t22にピーク値を有する。その後、ゲート電流の絶対値が基準値(基準電圧V2に対応する)より小さくなる時刻t23に、比較器44の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。第1の信号生成器41Aの出力信号は、コントローラ10からオフ指令を受けたときに、既にLレベルからHレベルに切り替わっているとする。
【0076】
時刻t23から遅延回路51の遅延時間DT2が経過した時刻t24に、論理演算器45の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30のキャパシタ31を介して急激に電流が流れる。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが低下し、コレクタ電流Icが減少し、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇し、ゲート電流の絶対値が増加する。次の時刻t25に、キャパシタ31を介した電流が停止する。時刻t24から時刻t25までの期間はキャパシタ31の容量で決まる。したがって、時刻t25にコレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が予め決定される。
【0077】
その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミングで、第1および第2の信号生成器41A,41Cはそれぞれの出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。
【0078】
[実施の形態5の効果]
以上のとおり、実施の形態5の電力用半導体素子1の駆動回路104によれば、第2のターンオフ回路30における半導体スイッチング素子32の動作タイミングを、ターンオフ時に流れるゲート電流の検出値に基づいて決定できる。そのため、遅延回路51の遅延時間DT2ならびに比較器44および論理演算器45に生じる遅延時間を考慮することにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングである時刻t24に、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路10はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0079】
[実施の形態5の変形例]
図11は、実施の形態5の変形例による駆動回路105の構成を示す回路図である。図11の駆動回路105は、第2の信号生成器41Dが、電流センサ60の検出値に代えて第1のターンオフ回路12に設けられたオフゲート抵抗15に生じる電圧降下に基づいて、ゲート電流の値を取得する点で、図9の駆動回路104と異なる。したがって、第2の信号生成器41Dの差動増幅器42は、オフゲート抵抗15の両端間の電圧からゲート電流を検出するゲート電流検出回路として機能する。
【0080】
図11のその他の点は図7および図9の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0081】
実施の形態6.
図12は、実施の形態6による電力用半導体素子1の駆動回路106の構成を示す回路図である。実施の形態6の駆動回路106では、第2の信号生成器41Eの機能が、実施の形態4の駆動回路103における第2の信号生成器41Bの機能および実施の形態5の駆動回路104,105における第2の信号生成器41C,41Dの機能と異なる。
【0082】
具体的に、図12の第2の信号生成器41Eは、制御電極配線17に設けられたゲート抵抗46によって検出されたゲート電流を積分することによって、電力用半導体素子1の制御電極Gに流入または制御電極Gから流出する電荷量を検出する。そして、第2の信号生成器41Eは、ターンオフ時に電力用半導体素子1の制御電極Gに蓄積している電荷量が基準値(基準電圧V4に対応する)より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。もしくは、信号生成器41Eは、ターンオフ時に制御電極Gから流出する電荷量が基準値(図14の基準電圧V5に対応する)より大きくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力してもよい。
【0083】
図12に示すように、より詳細には信号生成器41Eは、差動増幅器48と、積分器49と、比較器44と、直流電源43とを含む。差動増幅器48は、ゲート抵抗46の両端間にかかる電圧に基づいて制御電極配線17を流れる電流を検出する。積分器49は、差動増幅器48によって検出されたゲート電流を積分することによって、電力用半導体素子1の制御電極Gに流入および制御電極Gから流出する電荷量を検出する。したがって、差動増幅器48および積分器49によって、電力用半導体素子1の制御電極Gに蓄積されている電荷量を検出する電荷量検出回路47が構成される。比較器44は、電力用半導体素子1のターンオフ時に、電荷量検出回路47によって検出された蓄積電荷量が基準値(基準電圧V4に対応する)より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0084】
図12のその他の点は図7図9図11の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0085】
図13は、図12に示す実施の形態6の駆動回路106によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を概略的に示す図である。図13では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、積分器49の出力電圧、比較器44の出力電圧、および論理演算器45の出力電圧の各波形が示されている。実線は、実施の形態6の駆動回路106の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。
【0086】
図12のゲート抵抗46は、ターンオン時に電力用半導体素子1の制御電極Gに電荷が流入する場合の正方向のゲート電流、およびターンオフ時に電力用半導体素子1の制御電極Gから電荷が流出する場合の負方向ゲート電流のいずれも検出可能である。したがって、積分器49の出力は、ターンオン時には0から単調に増加して最大値に達し、ターンオフ時には最大値から単調に減少して0に戻る。図13には、積分器49の出力電圧として、ターンオフ時のゲート電荷量が示されている。したがって、時刻t1にコントローラ10からのオフ指令に基づいて第1のターンオフ回路12の半導体スイッチング素子16がオフ状態からオン状態に切り替わった後、積分器49の出力電圧は、最大値から単調に減少して0に戻る。
【0087】
時刻t30に積分器49の出力電圧が基準電圧V4よりも小さくなると、比較器44の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。第1の信号生成器41Aの出力信号は、コントローラ10からオフ指令を受けたときに、既にLレベルからHレベルに切り替わっているとする。
【0088】
時刻t30から遅延回路51の遅延時間DT3が経過した時刻t31に、論理演算器45の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30のキャパシタ31を介して急激に電流が流れる。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが低下し、コレクタ電流Icが減少し、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇する。次の時刻t32に、キャパシタ31を介した電流が停止する。時刻t31から時刻t32までの期間はキャパシタ31の容量で決まる。したがって、時刻t32にコレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が予め決定される。
【0089】
その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミングで、第1および第2の信号生成器41A,41はそれぞれの出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。
【0090】
なお、ターンオン動作の初期においても、積分器49の出力電圧が基準電圧よりも小さくなる。この期間に誤出力しないようにするために、第1の信号生成器41Aが設けられている。第1の信号生成器41Aは、コントローラ10からオフ指令が出力されているときに、一定時間Hレベルとなるパルス信号を出力する。最終的なターンオフ制御回路40Bの出力は、第1の信号生成器41Aの出力電圧と第2の信号生成器41Eの出力電圧を遅延させた信号との論理積によって得られる。
【0091】
[実施の形態6の効果]
以上のとおり、実施の形態6の電力用半導体素子1の駆動回路106によれば、第2のターンオフ回路30における半導体スイッチング素子32の動作タイミングを、ターンオフ時の制御電極Gの電荷量の検出値に基づいて決定できる。そのため、遅延回路51の遅延時間DT3ならびに比較器44および論理演算器45に生じる遅延時間を考慮することにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングである時刻t31に、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路10はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0092】
[実施の形態6の変形例]
図14は、実施の形態6の変形例による駆動回路107の構成を示す回路図である。図14の駆動回路107は、第2の信号生成器41Fが、制御電極配線17に設けられたゲート抵抗46を流れるゲート電流値に代えて、第1のターンオフ回路12のオフゲート抵抗15を流れるゲート電流値を検出する点で、図12の駆動回路106と異なる。
【0093】
ここで、第1のターンオフ回路12のオフゲート抵抗15には、ターンオフ時に中間ノード18からGNDノードの方向に電流が流れる(図14では、この方向の電流を正とする)。ターンオフ時にオフゲート抵抗15に流れるこの電流を積分することによって、制御電極Gから流出する電荷量を検出できる。この流出電荷量は0から単調に増加する。電力用半導体素子1のターンオフごとに流出電荷量を繰り返し測定するためには、次のターンオフ動作が開始されるまでに、積分器49の積分値を初期化する必要がある。このため、駆動回路107の第2の信号生成器41Fの電荷量検出回路47Aは、差動増幅器48および積分器49に加えて、積分器49の積分値を初期化するための初期化回路50を含む。
【0094】
第2の信号生成器41Fの比較器44は、電荷量検出回路47Aによって検出され流出電荷量が基準値(基準電圧V5に対応する)を超えたときに、一定時間Hレベルとなるパルス電圧を出力する。流出電荷量が基準値を超えてから遅延回路51の遅延時間DT3が経過すると、論理演算器45の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。これによって、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32が導通状態になる。
【0095】
図12および図13で説明したように、遅延回路51の遅延時間DTならびに比較器44および論理演算器45に生じる遅延時間を考慮することにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングに、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路107はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0096】
実施の形態7.
図15は、実施の形態7による電力用半導体素子1の駆動回路108の構成を示す回路図である。図15の駆動回路108のターンオフ制御回路40Aでは、第2の信号生成器41Gの機能が、図7図9図11の第2の信号生成器41B,41C,41Dの機能と異なる。
【0097】
具体的に、図15のターンオフ制御回路40Aの第2の信号生成器41Gは、電圧クランプ回路20Aの逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間にかかる電圧を検出する。ここで、逆流防止用ダイオード22のアノードの正側、カソードを負側として電圧が検出される。そして、第2の信号生成器41Gは、検出した逆流防止用ダイオード22の両端間にかかる電圧が基準電圧V6を超えたときに、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0098】
図15に示すように、より詳細には信号生成器41Gは、差動増幅器42と、比較器44と、直流電源43とを含む。差動増幅器42は、電力用半導体素子1のターンオフ時に、逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間にかかる電圧を検出する。比較器44は、差動増幅器42の出力電圧と直流電源43の基準電圧V6とを比較し、差動増幅器42の出力電圧が基準電圧V6を超えている場合に、一定時間Hレベルとなるパルス信号を出力する。
【0099】
図15のその他の点は図7図9図11の第2の信号生成器41B,41C,41Dの場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0100】
図16は、図15に示す実施の形態7の駆動回路108によるターンオフ時の各部の電圧または電流波形を示す図である。図16では、上から順に電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流Ic、コレクタ-エミッタ間電圧Vce、差動増幅器42の出力電圧、比較器44の出力電圧、および論理演算器45の出力電圧の各波形が示されている。実線は、実施の形態7の駆動回路108の場合の電圧または電流波形を示す。破線は、図1において電圧クランプ回路20および第2のターンオフ回路30がいずれも設けられていない比較例の場合の電圧または電流波形を示す。時刻t2,t3,t5における波形変化は、図2の場合と同じである。
【0101】
逆流防止用ダイオード22のカソード端子は、電力用半導体素子1の制御電極Gと同電位である。したがって、逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧は、電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vgeと類似の波形を示す。具体的には、逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧はターンオフ時には負の値となり、ミラー期間が始まるまでは、電力用半導体素子1のゲート-エミッタ間電圧Vgeを負方向にオフセットしたような波形となる。その後、時刻t3にミラー期間に入ってゲート-エミッタ間電圧Vgeが一定値になると、それに呼応するように逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧は上昇していく。
【0102】
直流電源43の基準電圧V6を、ミラー期間に入るときの値よりも少し高めの値に設定する。逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧(すなわち、差動増幅器42の出力電圧)が基準電圧V6よりも高くなる時刻t40に、比較器44の出力信号はLレベルからHレベルに切り替わる。なお、第1の信号生成器41Aの出力信号は、コントローラ10からオフ指令を受けたときに、既にLレベルからHレベルに切り替わっているとする。
【0103】
時刻t40から遅延回路51の遅延時間DT4が経過した時刻t41に、論理演算器45の出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わる。これにより、半導体スイッチング素子32が導通状態になるので、第2のターンオフ回路30のキャパシタ31を介して急激に電流が流れる。この結果、ゲート-エミッタ間電圧Vgeが低下し、コレクタ電流Icが減少し、コレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇し、逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧が上昇する。次の時刻t42に、キャパシタ31を介した電流が停止する。時刻t41から時刻t42までの期間はキャパシタ31の容量で決まる。したがって、時刻t2にコレクタ-エミッタ間電圧Vceの上昇もほぼクランプされるように、キャパシタ31の容量値が予め決定される。
【0104】
その後、次に電力用半導体素子1のターンオンが開始されるまでの任意のタイミングで、第1および第2の信号生成器41A,41Gはそれぞれの出力電圧をLレベルに戻すことにより、半導体スイッチング素子32をオフ状態にする。
【0105】
[実施の形態7の効果]
以上のとおり、実施の形態7の電力用半導体素子1の駆動回路108によれば、第2のターンオフ回路30における半導体スイッチング素子32の動作タイミングを、電圧クランプ回路20Aの逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間電圧の検出値に基づいて決定できる。そのため、遅延回路51の遅延時間DT4ならびに比較器44および論理演算器45に生じる遅延時間を考慮することにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングである時刻t41に、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。この結果、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路108はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0106】
実施の形態8.
実施の形態8では、実施の形態4~7で説明した第2の信号生成器41B~41Gのうち複数個を組み合わせることによって、ターンオフ制御回路を構成した例について説明する。
【0107】
[第1の例]
図17は、実施の形態8の第1の例による電力用半導体素子1の駆動回路109の構成を示す回路図である。図17の駆動回路109のターンオフ制御回路40Dは、図7で説明した信号生成器41Bと、図11で説明した信号生成器41Dと、遅延回路51A,51Bと、論理演算器45とを含む。
【0108】
信号生成器41Bは、電力用半導体素子1の制御電極Gと低電位側の第2の主電極Eとの間の電圧を検出し、検出した電圧が基準電圧V1より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。基準電圧V1は、電力用半導体素子1がオン状態のときの制御電極Gの電圧よりも低く、電力用半導体素子1のターンオフ時のミラー電圧よりも高い値に設定される。
【0109】
遅延回路51Aは、信号生成器41Bの出力電圧を遅延時間DT1だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Aの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0110】
信号生成器41Dは、第1のターンオフ回路12に設けられたオフゲート抵抗15に生じる電圧降下に基づいてゲート電流を検出する。信号生成器41Dは、検出したゲート電流の絶対値がピーク値を超えた後に基準値(基準電圧V3に対応する)より小さくなったときに、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0111】
遅延回路51Bは、信号生成器41Dの出力電圧を遅延時間DT2だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Bの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0112】
論理演算器45は、遅延回路51Aと遅延回路51Bとの出力の論理積を出力する。論理演算器45の出力がLレベルからHレベルに切り替わることによって、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32が導通する。図17のその他の構成は実施の形態4~7で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0113】
以上の構成により、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングに、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。これにより、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路109はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0114】
[第2の例]
図18は、実施の形態8の第2の例による電力用半導体素子1の駆動回路110の構成を示す回路図である。図18の駆動回路110のターンオフ制御回路40Eは、図11で説明した信号生成器41Dと、図12で説明した信号生成器41Eと、遅延回路51A,51Bと、論理演算器45とを含む。
【0115】
信号生成器41Dは、第1のターンオフ回路12に設けられたオフゲート抵抗15に生じる電圧降下に基づいてゲート電流を検出する。信号生成器41Dは、検出したゲート電流の絶対値がピーク値を超えた後に基準値(基準電圧V3に対応する)より小さくなったときに、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0116】
遅延回路51Aは、信号生成器41Dの出力電圧を遅延時間DT2だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Aの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0117】
信号生成器41Eは、制御電極配線17に設けられたゲート抵抗46によって検出されたゲート電流を積分することによって、電力用半導体素子1の制御電極Gに流入および制御電極Gから流出する電荷量を検出する。そして、第2の信号生成器41Eは、ターンオフ時に電力用半導体素子1の制御電極Gに蓄積している電荷量が基準値(基準電圧V4に対応する)より小さくなったときに一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0118】
遅延回路51Bは、信号生成器41Eの出力電圧を遅延時間DT3だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Bの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0119】
論理演算器45は、遅延回路51Aと遅延回路51Bとの論理積を出力する。論理演算器45の出力がLレベルからHレベルに切り替わることによって、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32が導通する。図18のその他の構成は実施の形態4~7で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0120】
以上の構成により、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングに、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。これにより、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路110はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0121】
[第3の例]
図19は、実施の形態8の第3の例による電力用半導体素子1の駆動回路111の構成を示す回路図である。図19の駆動回路111のターンオフ制御回路40Fは、図11で説明した信号生成器41Dと、図15で説明した信号生成器41Gと、遅延回路51A,51Bと、論理演算器45とを含む。
【0122】
信号生成器41Dは、第1のターンオフ回路12に設けられたオフゲート抵抗15に生じる電圧降下に基づいてゲート電流を検出する。信号生成器41Dは、検出したゲート電流の絶対値がピーク値を超えた後に基準値(基準電圧V3に対応する)より小さくなったときに、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0123】
遅延回路51Aは、信号生成器41Dの出力電圧を遅延時間DT2だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Aの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0124】
信号生成器41Gは、電圧クランプ回路20Aの逆流防止用ダイオード22のアノード・カソード間にかかる電圧を検出する。ここで、逆流防止用ダイオード22のアノードの正側、カソードを負側として電圧が検出される。そして、第2の信号生成器41Gは、検出した逆流防止用ダイオード22の両端間にかかる電圧が基準電圧V6を超えたときに、一定期間Hレベルになるパルス信号を出力する。
【0125】
遅延回路51Bは、信号生成器41Gの出力電圧を遅延時間DT4だけ遅延させる。これにより、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングで、遅延回路51Bの出力電圧がLレベルからHレベルに切り替わるようにする。
【0126】
論理演算器45は、遅延回路51Aと遅延回路51Bとの出力の論理積を出力する。論理演算器45の出力がLレベルからHレベルに切り替わることによって、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32が導通する。図1のその他の構成は実施の形態4~7で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0127】
以上の構成により、第1のターンオフ回路12の動作によってコレクタ-エミッタ間電圧Vceが上昇を開始するタイミングに、第2のターンオフ回路30の半導体スイッチング素子32を導通状態に切り替えることができる。これにより、電力用半導体素子1の電圧変化(dV/dt)を急峻にすることができ、ターンオフ損失のさらなる低減を実現できる。また、駆動回路111はさらに電圧クランプ回路20Aを備えているため、電力用半導体素子1の主電極間の電圧(すなわち、コレクタ-エミッタ間電圧Vce)を抑制できる。
【0128】
実施の形態9.
図20は、実施の形態9による電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【0129】
図20に示す電力変換システムは、電源220、電力変換装置210、負荷230を備える。電源220は、直流電源であり、電力変換装置210に直流電力を供給する。電源220は種々のもので構成することが可能であり、例えば、直流系統、太陽電池、蓄電池で構成することができるし、交流系統に接続された整流回路やAC/DCコンバータで構成することとしてもよい。また、電源220を、直流系統から出力される直流電力を設定された電力に変換するDC/DCコンバータによって構成することとしてもよい。
【0130】
電力変換装置210は、電源220と負荷230の間に接続された三相のインバータであり、電源220から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷230に交流電力を供給する。電力変換装置210は、図20に示すように、直流電力を交流電力に変換して出力する主変換回路211と、主変換回路211を制御する制御信号を主変換回路211に出力する制御回路212とを備えている。
【0131】
負荷230は、電力変換装置210から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。なお、負荷230は特定の用途に限られるものではなく、各種電気機器に搭載された電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道車両、エレベーター、もしくは、空調機器向けの電動機として用いられる。
【0132】
以下、電力変換装置210の詳細を説明する。主変換回路211は、スイッチング素子と還流ダイオードを備えており(図示せず)、スイッチング素子がスイッチングすることによって、電源220から供給される直流電力を交流電力に変換し、負荷230に供給する。主変換回路211の具体的な回路構成は種々のものがあるが、本実施の形態にかかる主変換回路211は2レベルの三相フルブリッジ回路であり、6つのスイッチング素子とそれぞれのスイッチング素子に逆並列された6つの還流ダイオードから構成することができる。主変換回路211の各スイッチング素子の少なくともいずれかは、上述した実施の形態1~8のいずれかの電力用半導体素子1である。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続され上下アームを構成し、各上下アームはフルブリッジ回路の各相(U相、V相、W相)を構成する。そして、各上下アームの出力端子、すなわち主変換回路211の3つの出力端子は、負荷230に接続される。
【0133】
また、上述した実施の形態1~8で説明したように、各スイッチング素子を駆動する駆動回路100~111のいずれか1つ(図示なし)がパワーモジュール200に内蔵されているため、主変換回路211は駆動回路100~111いずれか1つを備えている。駆動回路100~111のいずれか1つは、主変換回路211のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成し、主変換回路211のスイッチング素子の制御電極に供給する。具体的には、後述する制御回路212からの制御信号に従い、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とを各スイッチング素子の制御電極に出力する。スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以下の電圧信号(オフ信号)となる。
【0134】
制御回路212は、負荷230に所望の電力が供給されるよう主変換回路211のスイッチング素子を制御する。制御回路212は、実施の形態1~8のコントローラ10に対応する。より詳細には、制御回路212は、負荷230に供給すべき電力に基づいて主変換回路211の各スイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するPWM制御によって主変換回路211を制御することができる。そして、制御回路212は、各時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号を、オフ状態となるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるよう、主変換回路211が備える駆動回路100~111に制御指令(制御信号)を出力する。駆動回路100~111は、この制御信号に従い、各スイッチング素子の制御電極にオン信号又はオフ信号を駆動信号として出力する。
【0135】
本実施の形態に係る電力変換装置では、主変換回路211を構成するパワーモジュール200として実施の形態1~8にかかる電力用半導体素子1およびその駆動回路101~111を適用するため、サージ電圧の抑制とターンオフ損失の低減との両立を実現した電力変装置を提供できる。
【0136】
本実施の形態では、2レベルの三相インバータに本開示を適用する例を説明したが、本開示は、これに限られるものではなく、種々の電力変換装置に適用することができる。本実施の形態では、2レベルの電力変換装置としたが3レベルやマルチレベルの電力変換装置であっても構わないし、単相負荷に電力を供給する場合には単相のインバータに本開示を適用しても構わない。また、直流負荷等に電力を供給する場合にはDC/DCコンバータやAC/DCコンバータに本開示を適用することも可能である。
【0137】
また、本開示を適用した電力変換装置は、上述した負荷が電動機の場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機やレーザー加工機、又は誘導加熱調理器や非接触給電システムの電源装置として用いることもでき、さらには太陽光発電システムや蓄電システム等のパワーコンディショナーとして用いることも可能である。
【0138】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
1 電力用半導体素子、2 フリーホイールダイオード、10 コントローラ、11 ターンオン回路、12 第1のターンオフ回路、13,16,32 半導体スイッチング素子、14 オンゲート抵抗、15 オフゲート抵抗、17 制御電極配線、18 中間ノード、20,20A 電圧クランプ回路、21 ツェナーダイオード(第1のダイオード)、22 逆流防止用ダイオード(第2のダイオード)、24,31 キャパシタ、30,30A 第2のターンオフ回路、33 抵抗器、35 負電源、40,40A~40F ターンオフ制御回路、41,41A~41G 信号生成器、42,48 差動増幅器、43 直流電源、44 比較器、45 論理演算器、46 ゲート抵抗、47,47A 電荷量検出回路、49 積分器、50 初期化回路、51,51A,51B 遅延回路、52 増幅器、60 電流センサ、100~111 駆動回路、200 パワーモジュール、210 電力変換装置、211 主変換回路、212 制御回路、220 電源、230 負荷、C 第1の主電極(コレクタ)、DT1~DT4 遅延時間、E 第2の主電極(エミッタ)、G 制御電極(ゲート)、V1~V6 基準電圧。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図20