(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】地滑り災害領域検出装置、及び地滑り災害領域検出方法
(51)【国際特許分類】
G01D 21/00 20060101AFI20241129BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
G01D21/00 D
E02D17/20 106
(21)【出願番号】P 2024500139
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2022020755
(87)【国際公開番号】W WO2023223483
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-01-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将敬
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/016153(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第114241333(CN,A)
【文献】特開2013-221886(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113408547(CN,A)
【文献】特開2021-056008(JP,A)
【文献】特開2013-231843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00-17/20
G01D 18/00-21/02
G01S 7/00- 7/42
13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地滑り災害の発生前後のリモートセンシング画像を取得する第1の取得部と、
前記リモートセンシング画像から植生領域を検出する第1の検出部と、
前記地滑り災害が発生した地域の数値標高モデルを取得する第2の取得部と、
前記数値標高モデルから対象地点の傾斜角を算出する第1の算出部と、
前記リモートセンシング画像中の前記対象地点が、前記地滑り災害の発生前に植生領域であった地点であり、前記地滑り災害の発生後に植生領域でなくなった地点であり、かつ、前記傾斜角が予め定められた傾斜角閾値を上回る地点であるとき、山間部の地滑り災害域であると判定する第1の判定部と、
前記地滑り災害の発生前後のSAR画像を取得する第3の取得部と、
前記SAR画像から局所領域における後方散乱係数のばらつきを算出する第2の算出部と、
前記地滑り災害の発生前後でのばらつきの差分を算出する第3の算出部と、
前記山間部の地滑り災害域の周辺に限定する第2の判定部と、
前記差分が予め定められた閾値を上回り、
前記地滑り災害の発生前後に亘り植生領域でないとき、市街地の地滑り災害域であると判定する第3の判定部と、
前記山間部の地滑り災害域及び前記市街地の地滑り災害域に基づき、地滑り災害域分布を生成する生成部と、
を含む地滑り災害領域検出装置。
【請求項2】
前記対象地点での
前記傾斜角を正接に変換する第1の変換部と、
前記対象地点での正接の大きさと傾斜の向きに応じたモルフォロジー変換用カーネルを作成する作成部と、
前記山間部の地滑り災害域をモルフォロジー変換する第2の変換部と、
を更に含む請求項1に記載の地滑り災害領域検出装置。
【請求項3】
第1の取得部は、地滑り災害の発生前後のリモートセンシング画像を取得し、
第1の検出部は、前記リモートセンシング画像から植生領域を検出し、
第2の取得部は、前記地滑り災害が発生した地域の数値標高モデルを取得し、
第1の算出部は、前記数値標高モデルから対象地点の傾斜角を算出し、
第1の判定部は、前記リモートセンシング画像中の前記対象地点が、前記地滑り災害の発生前に植生領域であった地点であり、前記地滑り災害の発生後に植生領域でなくなった地点であり、かつ、前記傾斜角が予め定められた傾斜角閾値を上回る地点であるとき、山間部の地滑り災害域であると判定し、
第3の取得部は、
前記地滑り災害の発生前後のSAR画像を取得し、
第2の算出部は、前記SAR画像から局所領域における後方散乱係数のばらつきを算出し、
第3の算出部は、前記地滑り災害の発生前後でのばらつきの差分を算出し、
第2の判定部は、前記山間部の地滑り災害域の周辺に限定し、
第3の判定部は、前記差分が予め定められた閾値を上回り、
前記地滑り災害の発生前後に亘り植生領域でないとき、市街地の地滑り災害域であると判定し、
生成部は、前記山間部の地滑り災害域及び前記市街地の地滑り災害域に基づき、地滑り災害域分布を生成する
地滑り災害領域検出方法。
【請求項4】
第1の変換部は、前記対象地点での
前記傾斜角を正接に変換し、
作成部は、前記対象地点での正接の大きさと傾斜の向きに応じたモルフォロジー変換用カーネルを作成し、
第2の変換部は、前記山間部の地滑り災害域をモルフォロジー変換し、
請求項3に記載の地滑り災害領域検出方法。
【請求項5】
地滑り災害の発生前後のSAR画像から局所領域における後方散乱係数のばらつきの差分が予め定められた閾値を上回るとき、市街地の地滑り災害域であると判定する
災害領域検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地滑り災害領域検出装置、及び地滑り災害領域検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載された、地滑り、土砂崩れ、及び土石流など土砂の移動による災害(以下、「地滑り災害」という。)を検出する被害領域検出手法では、地滑り等のときに植生の分布に大きな変化が生じるという特徴を利用して、地滑り災害の発生の前後における、光学画像上での植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)、例えば、反射スペクトル特性の変化に基づき、地滑り等による被害を受けた領域を検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Co-seismic landslide detection using ALOS satellite image in the Mianyuan River Basin, China, C. Denget. Et. Al., 2017 IEEE 9th ICCSN, May 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した手法では、地滑り災害の発生前に植生でなかった領域、例えば、建物及び道路等の多様な地物が存在する市街地については、上記した光学画像上での、地滑り災害の発生の前後における反射スペクトル特性の変化も多様となり、前記反射スペクトル特性の変化が一様である領域、例えば、山間部に比して、上記した検出の精度が低いとの課題があった。
【0005】
本開示の目的は、山間部における地滑り災害域を検出する精度と同様な精度で、市街地における地滑り災害域を検出することが可能である地滑り災害領域検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決すべく、本開示に係る地滑り災害領域検出装置は、地滑り災害の発生前後のリモートセンシング画像を取得する第1の取得部と、リモートセンシング画像から植生領域を検出する第1の検出部と、地滑り災害が発生した地域の数値標高モデルを取得する第2の取得部と、数値標高モデルから対象地点の傾斜角を算出する第1の算出部と、リモートセンシング画像中の対象地点が、地滑り災害の発生前に植生領域であった地点であり、地滑り災害の発生後に植生領域でなくなった地点であり、かつ、傾斜角が予め定められた傾斜角閾値を上回る地点であるとき、山間部の地滑り災害域であると判定する第1の判定部と、地滑り災害の発生前後のSAR画像を取得する第3の取得部と、SAR画像から局所領域における後方散乱係数のばらつきを算出する第2の算出部と、地滑り災害の発生前後でのばらつきの差分を算出する第3の算出部と、山間部の地滑り災害域の周辺に限定する第2の判定部と、差分が予め定められた閾値を上回り、地滑り災害の発生前後に亘り植生領域でないとき、市街地の地滑り災害域であると判定する第3の判定部と、山間部の地滑り災害域及び市街地の地滑り災害域に基づき、地滑り災害域分布を生成する生成部と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る地滑り災害領域検出装置によれば、山間部における地滑り災害域を検出する精度と同様な精度で、市街地における地滑り災害域を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの機能ブロック図である。
【
図2】実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKのハードウェア構成を示す。
【
図3】実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その1)である。
【
図4】実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その2)である。
【
図5】実施形態1の山間部の地滑り災害域SAJの周辺を示す。
【
図6】
図6Aは、実施形態1の植生地点SC、差分評価値HCs、閾値評価値HCth、及び市街地の地滑り災害域SIJの関係(その1)を示す。
図6Bは、実施形態1の植生地点SC、差分評価値HCs、閾値評価値HCth、及び市街地の地滑り災害域SIJの関係(その2)を示す。
図6Cは、実施形態1の植生地点SC、差分評価値HCs、閾値評価値HCth、及び市街地の地滑り災害域SIJの関係(その3)を示す。
図6Dは、実施形態1の植生地点SC、差分評価値HCs、閾値評価値HCth、及び市街地の地滑り災害域SIJの関係(その4)を示す。
【
図7】実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの機能ブロック図である。
【
図8】実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その1)である。
【
図9】実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その2)である。
【
図10】実施形態2の数値標高モデルSHMから求めた傾斜角KKから作成されたカーネルKNを用いてモルフォロジー変換(その1)を示す。
【
図11】実施形態2の数値標高モデルSHMから求めた傾斜角KKから作成されたカーネルKNを用いてモルフォロジー変換(その2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係る地滑り災害領域検出装置の実施形態について説明する。
【0010】
実施形態1.
〈実施形態1〉
実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKについて説明する。
【0011】
〈実施形態1の機能〉
図1は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの機能ブロック図である。実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの機能について、
図1を参照して説明する。
【0012】
実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKは、山間部及び市街地の両者における、地滑りの災害が発生した領域である地滑り災害域の検出を、合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)画像を用いて行うべく、
図1に示されるように、取得部SHと、検出部KEと、算出部SAと、判定部HAと、生成部SEと、を含む。
【0013】
市街地とは、狭義に、市街地のみを意味するのではなく、広義に、市街地、住宅街、及び工業地等、人工的な建築物が集合する領域の全般を意味する。
【0014】
取得部SHは、「第1の取得部」、「第2の取得部」、「第3の取得部」に対応する。
【0015】
検出部KEは、「検出部」に対応する。
【0016】
算出部SAは、「第1の算出部」、「第2の算出部」、「第3の算出部」に対応する。
【0017】
判定部HAは、「第1の判定部」、「第2の判定部」、第3の判定部」に対応する。
【0018】
生成部SEは、「生成部」に対応する。
【0019】
取得部SHは、以下の機能を有する。
・第1の取得部として、地滑り災害の発生前のリモートセンシング画像RG1、及び地滑り災害の発生後のリモートセンシング画像RG2を取得すること。
・第2の取得部として、地滑り災害が発生した地域の数値標高モデルSHMを取得すること。
・第3の取得部として、地滑り災害の発生前のSAR画像SG1、及び地滑り災害の発生後のSAR画像SG2を取得すること。
【0020】
リモートセンシング画像RG及びSAR画像SGの両者は、対象から離れた位置から、対象に触れることなく、対象を計測した画像である。
【0021】
検出部KEは、以下の機能を有する。
・リモートセンシング画像RG1、RG2から植生領域SRを検出すること。
【0022】
算出部SAは、以下の機能を有する。
・第1の算出部として、数値標高モデルSHMから対象地点TCの傾斜角KKを算出すること。
・第2の算出部として、SAR画像SG1、SG2から局所領域KRにおける後方散乱係数のばらつきを算出すること。
・地滑り災害の発生前後でのばらつきBAの差分を算出すること。
【0023】
判定部HAは、以下の機能を有する。
・第1の判定部として、山間部の地滑り災害域SAJであるか否かを判定すること。
・第2の判定部として、山間部の地滑り災害域SAJの周辺に限定すること。
・第3の判定部として、市街地の地滑り災害域SIJであるか否かを判定すること。
【0024】
生成部SEは、以下の機能を有する。
・地滑り災害域分布JBを生成すること。
〈実施形態1のハードウェア構成〉
図2は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKのハードウェア構成を示す。
【0025】
実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKは、上述した機能を果たすべく、
図2に示されるように、プロセッサPRと、メモリMEと、記憶媒体KIと、を含み、必要に応じて、入力部NYと、出力部SYと、更に含む。
【0026】
プロセッサPRは、ソフトウェアに従ってハードウェアを動作させる、よく知られたコンピュータの中核である。メモリMEは、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)から構成される。記憶媒体KIは、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、ROM(Read Only Memory)から構成される。記憶媒体KIは、プログラムPRGを記憶する。プログラムPRGは、プロセッサPRが実行すべき処理の内容を規定する命令群である。
【0027】
入力部NY及び出力部SYは、例えば、地滑り災害領域検出装置CKの外部との間でプロセッサPRの動作に関連する入力信号NS及び出力信号SSをやりとりするための入力用インターフェイス及び出力用インターフェイスから構成される。
【0028】
地滑り災害領域検出装置CKにおける機能とハードウェア構成との関係については、ハードウェア上で、プロセッサPRが、記憶媒体KIに記憶されたプログラムPRGを、メモリMEを用いて実行すると共に、必要に応じて、入力部NY及び出力部SYの動作を制御することにより、取得部SH~生成部SE(
図1に図示。)の各部の機能を実現する。
【0029】
〈実施形態1の動作〉
図3は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その1)である。
【0030】
図4は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その2)である。
【0031】
実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作について、
図3、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
〈山間部における地滑り災害域の検出〉
ステップST11:取得部SH(
図1に図示。)は、地滑り災害の発生前のリモートセンシング画像RG1、及び地滑り災害の発生後のリモートセンシング画像RG2を取得する。
【0033】
ステップST12:検出部KE(
図1に図示。)は、リモートセンシング画像RG1、RG2中の各画素が植生領域を示すか否かを判定し、植生領域SR(図示せず。)を示す画素の座標を検出する。
【0034】
上空から地上を撮像したリモートセンシング画像RG1、RG2中の各画素を属性分けすることを土地被覆分類という。地図上へ位置合わせされたリモートセンシング画像RG1、RG2中の各画素は、地球上のどの地点であるかという情報を有する。その地点の表面がどのような物体(例えば、植生、土砂、アスファルト)により覆われているかをリモートセンシング画像RG1、RG2から調査することができる。
【0035】
上記した植生領域SRの検出には、例えば、マルチスペクトル画像の場合には、マルチスペクトル画像から得られる反射率特性を用いて、式(1)に示されるNDVI(Normalized Difference Vegetation Index、規格化植生指標)を利用することができる。
NIR:近赤外領域の分光反射率
Red:赤色領域の分光反射率
【0036】
マルチスペクトル画像とは、波長に対して連続的な分布を持つ反射スペクトル特性をいくつかの波長帯に分解し、それぞれの波長帯に対して画像データを取得したものである。マルチスペクトル画像では、同一の被写体に対して複数の波長における反射率を面的に取得することができる。
【0037】
上記した植生領域SRの検出には、また、例えば、多偏波SAR画像の場合には、式(2)に示されるRVI(Radar thin-Vegetation Index)を利用することができる。
σ:後方散乱係数(真数)
【0038】
添え字は、送受信電波の偏波方向を表し、Hは、水平方向を示し、Vは、垂直方向を指す。例えば、σHVは、水平方向偏波の送信電波に対して垂直方向偏波の電波を受信したときの後方散乱係数である。
【0039】
多偏波SAR画像とは、いくつかの偏波信号を同時に取得したときのSAR画像である。
【0040】
ステップST13:取得部SHは、地滑り災害が発生した地域の数値標高モデルSHMを取得する。
【0041】
ステップST14:算出部SA(
図1に図示。)は、数値標高モデルSHMを用いて、対象地点TC(図示無し。)の傾斜角KKを算出する。
【0042】
地すべり災害は、高所から低所へ向かい土砂が流出する災害であることから、地形が傾いている地点で発生する。前記した理由から、地形の傾きの大きさを、地すべり災害が発生した地点であるか否かを判定するための基準の1つとして用いる。
【0043】
ステップST15:判定部HA(
図1に図示。)ステップST12での植生領域SRの判定の結果から、リモートセンシング画像RG1、RG2に撮像されている対象地点TCが、地滑り災害の発生前に植生領域SRであった地点であり、かつ、地滑り災害の発生後に植生領域SRでなくなった地点である可能性、即ち、地滑り災害の発生に起因して植生領域SRでなくなった地点である可能性があるか否かを判定する。
【0044】
ステップST16:判定部HAは、ステップST14で算出された傾斜角KKから、リモートセンシング画像RG1、RG2に撮像されている対象地点TCの傾斜角KKが、予め定められた傾斜角閾値KKthを上回るか否かを判定する。
【0045】
ステップST17:判定部HAは、ステップST15で、対象地点TCが、地滑り災害の発生に起因して植生領域SRでなくなった地点である可能性があると判定され、かつ、ステップST16で、対象地点TCの傾斜角KKが傾斜角閾値KKthを上回ると判定されたとき、前記対象地点TCを山間部における地滑り災害域であると判定する。
【0046】
ステップST18:判定部HAは、ステップST17と対照的に、上記した対象地点TCを山間部における地滑り災害域でないと判定する。
【0047】
〈市街地における地滑り災害域の検出〉
ステップST19:取得部SHは、地すべり災害の発生前のSAR画像SG1、及び地すべり災害の発生後のSAR画像SG2を取得する。
【0048】
SAR画像SG1、SG2に撮影されている地点、及び撮影された時刻は、リモートセンシング画像RG1、RG2(ステップST11で取得。)に撮影されている地点、及び撮影された時刻と同一である。
【0049】
ステップST20:算出部SAは、SAR画像SG1、SG2に基づき、局所領域KR(図示せず。)における後方散乱係数(真数)のばらつきBA(図示せず。)を算出する。
【0050】
画像中の局所領域におけるばらつきとは、縦M画素×横N画素の領域を抜き出したときの全画素値から求めた画素値の不均一性(定量的には、分散、標準偏差、及び標準偏誤差という統計的ばらつきを評価する各種指標で表現される。)を意味する。算出部SAは、SAR画像SG1、SG2の全体に亘って、ばらつきBAを算出する。画像中の座標(i、j)の局所領域KRにおけるばらつきBAの値は、座標(i、j)を含む縦M画素×横N画素の画素値から求められる。
【0051】
後方散乱係数(真数)は、後方散乱係数が0以上の実数で表現されたものである。後方散乱係数(真数)は、一般に、デシベル(dB)または0以上の実数で表現される。
【0052】
ステップST21:算出部SAは、後方散乱係数のばらつきBAの評価値について、同一の地点における災害の発生前後での差分、即ち、地滑り災害の発生後のばらつきBAの評価値から地滑り災害の発生前のばらつきBAの評価値を引いた差を算出する。
【0053】
地滑り災害の被害を受けた市街地では、SAR画像SG1、SG2、即ち、後方散乱係数の空間分布のコントラストが、上昇する。SAR画像SG1、SG2中での高コントラストである領域では、画素の位置が相違することによる画素値の変動が、急峻である。従って、局所領域KR内でのばらつきBAを評価することにより、高コントラストな領域であるか否かを判定することが可能である。
【0054】
地滑り災害の発生前後で取得されたSAR画像SG1、SG2のそれぞれで後方散乱係数の空間的なばらつきBAを評価し、ばらつきBAの評価値の大きさを比較することにより、市街地における地滑り災害の被害の有無を推定することができる。
【0055】
ステップST22:判定部HAは、地滑り災害の発生前後での後方散乱係数の空間的なばらつきBAの評価値の差分である差分評価値HCs(図示せず。)が、予め定められた閾値評価値HCth(図示せず。)を上回るか否かを判定する。
【0056】
ステップST23:判定部HAは、ステップST19で取得されたSAR画像SG1、SG2を用いた市街地における地滑り災害の有無を検出すべき対象から、ステップST12でリモートセンシング画像RG1、RG2に基づき検出された地滑り災害の発生前後に亘る植生領域SRを除外する。
【0057】
上記した除外を行う理由は、地滑り災害の発生前に植生領域SRであった地滑り災害域は、リモートセンシング画像RG1、RG2に基づき検出されており、他方で、前記植生領域SRは、時間経過による変化を受け易いことから、誤検出の原因となり得るためである。
【0058】
図5は、実施形態1の山間部の地滑り災害域の周辺を示す。
【0059】
ステップST24:判定部HAは、地滑り災害が発生した領域以外におけるSAR画像SG1、SG2のばらつきBAの評価値の変化(地表の様々な変化に起因して起こり得る変化)のみを判定すべく、リモートセンシング画像RG1、RG2に基づき検出された山間部の地滑り災害域SAJの周辺領域SYRに限定する。
【0060】
SAR画像SG1、SG2は、非常に広域に撮像され、また、僅かな変化、例えば、車の位置の変化でも局所的なばらつきBAが変化する。そこで、
図5に示されるように、市街地の地滑り災害域SIJを検出すべき対象の領域として、山間部の地滑り災害域SAJの周辺領域SYRに限定する。
【0061】
上記の周辺領域SYRに限定する具体的な方法としては、例えば、山間部の地滑り災害域SAJを示す画像に平滑化処理を施すことにより広がらせ、画素値が一定値を上回った画素(山間部の地滑り災害域SAJに近い地点ほど、上記した平滑化処理の後の画素値が高くなることから、予め定められた閾値を基準に、山間部の災害域から遠い地点を除外する。)を周辺領域SYRであると定める。また、例えば、山間部の地滑り災害域SAJの画像から一定の距離以内である領域を周辺領域SYRであると定める。
【0062】
ステップST25:判定部HAは、地滑り災害の発生前に植生地点SCでないか否か、及び、地滑り災害の発生後に植生地点SCでないか否かを判定する。
【0063】
ステップST26:判定部HAは、ステップST25で、地滑り災害の発生前に植生地点SCでなく、地滑り災害の発生後に植生地点SCでないと判定され、かつ、ステップST22で、差分評価値HCsが閾値評価値HCthを上回ると判定されたとき、市街地の地滑り災害域SIJであると判定する。
【0064】
ステップST27:判定部HAは、ステップST26と対照的に、市街地の地滑り災害域SIJでないと判定する。
【0065】
図6は、実施形態1の植生地点SC、差分評価値HCs、閾値評価値HCth、及び市街地の地滑り災害域SIJの関係を示す。
【0066】
図6A、
図6B、
図6C、
図6Dは、それぞれ、地滑り災害の発生前の植生地点SC、地滑り災害の発生後の植生地点SC、レーダ後方散乱係数の局所的なばらつきBAの差分評価値HCsが上記した閾値評価値HCthを上回るほどに増加した地点、及び、市街地の地滑り災害域SIJであると判定された地点を示す。
【0067】
図6Aは、例えば、画素(1、6)が、地滑り災害の発生前に植生地点SCであったことを示す。
【0068】
図6Bは、例えば、画素(4、1)が、地滑り災害の発生後に植生地点SCであることを示す。
【0069】
図6Cは、例えば、画素(2、1)が、レーダ後方散乱係数の局所的なばらつきBAの差分評価値HCsが閾値評価値HCthを上回るほどに増加した地点であることを示す。
【0070】
図6Dは、例えば、画素(6、2)が、(1)地滑り災害の発生前に植生地点SCでなく(
図6Aに図示。)、(2)地滑り災害の発生後に植生地点SCでなく(
図6Bに図示。)、(3)レーダ後方散乱係数の局所的なばらつきBAの差分評価値HCsが閾値評価値HCthを上回るほどに増加した地点であることから(
図6Cに図示。)、市街地の地滑り災害域SIJであると判定される。
【0071】
ステップST28(当初のステップST23):生成部SE(
図1に図示。)は、山間部での地滑り災害域SAJ、及び市街地での地滑り災害域SIJの両者を地滑り災害域分布JBとして生成する。
【0072】
〈実施形態1の効果〉
上述したように、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKでは、山間部での地滑り災害域SAJを検出する精度と同様な精度で、市街地での地滑り災害域SIJの被害を受けた領域を検出することが可能となる。
【0073】
実施形態2.
〈実施形態2〉
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKについて説明する。
【0074】
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKは、地滑り災害では、土砂は高所から低所へと斜面の傾斜方向に沿って流れ落ちるという特徴を利用する。実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKは、より詳しくは、数値標高モデルSHMから得られた傾斜角KKから作成されたカーネルを用いてモルフォロジー変換を行うことにより、山間部での地滑り災害域SAJを誤検出することを低減する。
【0075】
〈実施形態2の機能〉
図7は、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの機能ブロック図である。実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの機能について、
図7を参照して説明する。
【0076】
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKは、
図7に示されるように、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CK(
図1に図示。)と同様に、取得部SH~生成部SEを含む。
【0077】
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKは、他方で、
図7に示されるように、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKと相違し、変換部HEと、作成部SSと、を更に含む。
【0078】
変換部HEは、「第1の変換部」、「第2の変換部」に対応する。
【0079】
作成部SSは、「作成部」に対応する。
【0080】
変換部HEは、以下の機能を有する。
・第1の変換部として、対象地点TCでの傾斜角を正接に変換すること。
・第2の変換部として、山間部の地滑り災害域SAJをモルフォロジー変換すること。
【0081】
作成部SSは、以下の機能を有する。
・対象地点TCでの正接の大きさと傾斜の向きに応じたモルフォロジー変換用カーネルを作成すること。
【0082】
〈実施形態2のハードウェア構成〉
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKのハードウェア構成は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKのハードウェア構成(
図2に図示。)と同様である。
【0083】
〈実施形態2の動作〉
図8は、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その1)である。
【0084】
図9は、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示すフローチャート(その2)である。
【0085】
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作について、
図8、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0086】
実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示す
図8、
図9と、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作を示す
図3、
図4との比較から明らかであるように、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKの動作は、実施形態1の地滑り災害領域検出装置CKの動作と相違し、ステップST51~ST53を更に有する。
【0087】
以下、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKのステップST51~53での動作を中心に説明する。
【0088】
図10は、実施形態2の数値標高モデルSHMから求めた傾斜角KKから作成されたカーネルKNを用いてモルフォロジー変換(その1)を示す。
【0089】
図11は、実施形態2の数値標高モデルSHMから求めた傾斜角KKから作成されたカーネルKNを用いてモルフォロジー変換(その2)を示す。
【0090】
ステップST51:変換部HE(
図7に図示。)は、数値標高モデル(実施形態1で説明。)から算出された傾斜角KKを正接に変換する。
【0091】
傾斜角KKは、周囲の画素について計算される。ここで、周囲の画素については、例えば、縦3画素×横3画素(9つの画素)のうち、着目する画素が、中心の1つの画素であり、周囲の画素とは、中心の画素を除く8つの画素を指す。
【0092】
ステップST52:作成部SS(
図7に図示。)は、傾斜角KKの正接の大きさに比例した幅で、
図10に図示される下り坂となっている方向へと、
図11に図示される画像の縮小処理および膨張処理(モルフォロジー変換)を行うためのカーネルKNを作成する。
【0093】
作成部SSによる上記の作成は、2つの地点を比較するとき、その傾斜角KKの正接に比例してより高い位置における土砂の位置エネルギーが増加することから、土砂が流出したときの流出距離RKは、傾斜角KKの正接に応じて増加する、との性質を利用する。
【0094】
図11に図示の画素値「1」の配置の方向は、平面上のどの方向へモルフォロジー変換を行うかという変換の向きを表す。中心から何画素分離れた位置まで画素値「1」が配置されているかというカーネルKNの幅は、何画素分の縮小及び拡大を行うかという変換の長さを表す。
【0095】
図10に図示された画素(3、3)を基準に、下方向、右下方向、及び右方向へ高度が低下している。これにより、
図11に示されるように、カーネルKNは、上記した3方向へ伸びている。
【0096】
図10で、画素(3、3)から右下方向へ高度が低下する度合いが大きいことから、即ち、正接の絶対値が大きいことから、
図11で、カーネルKNは、右下方向への幅が大きくなっている。
【0097】
ステップST53:変換部HEは、上記した傾斜角KKを反映したモルフォロジー変換用カーネルKNを用いて、山間部の地滑り災害域SAJ(ステップST37で判定。)について、モルフォロジー変換を実施する。
【0098】
モルフォロジー変換は、図形の変形に用いられることに加えて、ノイズの除去にも用いられる。具体的には、収縮処理では、隣接した他の画素が周囲に存在しないという孤立した画素を1画素より小さく収縮することにより除去する。他方で、膨張処理では、周囲の画像を膨張させることにより埋めることによって、微小な検出漏れを除去する。
【0099】
〈実施形態2の効果〉
上述したように、実施形態2の地滑り災害領域検出装置CKでは、地滑り災害域を収縮させることにより、傾斜に沿った検出結果以外を除去する効果を得ることができ、他方で、その後に、全く同一のカーネルKNを用いて膨張処理を施すことにより、除去されずに残った、即ち、傾斜に沿った地滑り災害域を縮小前の状態に復元することが可能である。
【0100】
本開示の要旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態同士を組み合わせてもよく、また、各実施形態中の構成要素を適宜、削除し、変更し、または、他の構成要素を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示に係る地滑り災害領域検出装置は、山間部における地滑り災害域を検出する精度と同様な精度で、市街地における地滑り災害域を検出することに利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 CK 地滑り災害領域検出装置、HA 判定部、HE 変換部、JB 地滑り災害域分布、KE 検出部、RG リモートセンシング画像、SA 算出部、SAJ 地滑り災害域、SE 生成部、SG SAR画像、SH 取得部、SHM 数値標高モデル、SIJ 地滑り災害域、SS 作成部。