(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】素子実装体
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0236 20210101AFI20241129BHJP
H01L 31/02 20060101ALI20241129BHJP
G02B 7/00 20210101ALN20241129BHJP
【FI】
H01S5/0236
H01L31/02 B
G02B7/00 F
(21)【出願番号】P 2024500842
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006540
(87)【国際公開番号】W WO2023157210
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横村 伸緒
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102956(WO,A1)
【文献】特開2003-037324(JP,A)
【文献】特開2020-021823(JP,A)
【文献】特開2006-021344(JP,A)
【文献】特開2007-019087(JP,A)
【文献】特開平09-027566(JP,A)
【文献】特開2009-050900(JP,A)
【文献】特開2011-238783(JP,A)
【文献】特開2011-148241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097387(US,A1)
【文献】特開平02-273711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
H01L 31/00-31/02
H01L 31/08-31/10
H01L 31/18
H05K 3/30-3/34
H05K 13/00-13/08
B41J 2/315-2/345
B41J 2/385-2/465
B41J 2/475-2/48
G02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を伝搬するエネルギーの出力と検知と操作の少なくともいずれかの特性に方向依存性を有する方向依存性素子、
前記方向依存性素子の配置範囲におけるある方向の一方に偏って設定された
第一領域に複数の溝が並列配置され
、他方に設定された第二領域が平坦面となっている実装面を有する基板、および
被接着体間の間隔を規定するスペーサ粒子を含有し、前記方向依存性素子を前記基板に接着する接着剤、を備え、
前記スペーサ粒子
が前記
第一領域において前記複数の溝に入り込み
、前記第二領域において前記方向依存性素子と前記平坦面との間に介在することで、前記ある方向を含む前記実装面に垂直な面において、前記方向依存性素子と前記実装面との間に傾斜角が設けられていることを特徴とする素子実装体。
【請求項2】
前記複数の溝どうしの間隔が前記スペーサ粒子の粒子径よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載の素子実装体。
【請求項3】
前記複数の溝の終端は、
前記基板の側端で開放されている、あるいは隣接する溝と連なっていることを特徴とする請求項1または2に記載の素子実装体。
【請求項4】
前記複数の溝は、前記ある方向に沿って異なる深さを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の素子実装体。
【請求項5】
前記接着剤は、前記
第一領域を含む部分と、前記
第二領域を含む部分に分かれて前記方向依存性素子と前記実装面との間に介在していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の素子実装体。
【請求項6】
前記方向依存性素子は、半導体レーザ素子であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の素子実装体。
【請求項7】
前記方向依存性素子は、光学素子であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の素子実装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、素子実装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子、光学素子、サーマルヘッド等の空間を伝播するエネルギーの出力、検知等の特性に方向依存性がある素子を用いる場合、性能を発揮するために方向依存性に応じて基板に対して傾斜角を設けて素子を実装する場合がある。その際、ステンレス板等の傾斜角を設けるための追加部材を基板と素子の間に挿入する必要があり、構成と工程が複雑になっていた。
【0003】
そこで、間隔を規定する粒子として、それぞれ粒子径の異なるスペーサ粒子を含有する接着剤を領域で使い分けることで、追加部材を挿入することなく、基板に対して傾斜角を設けて素子を実装する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-148241号公報(段落0057、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、それぞれ粒子径の異なるスペーサ粒子を含有する接着剤を領域で使い分ける場合、基剤が同じであったとしても、仕様の異なる接着剤として別々に扱う必要がある。その場合、正確に傾斜角を設けるためには、それぞれの領域での塗布範囲を正確に再現する必要があり、品質にばらつきが生じる可能性が高くなるとともに、工程が複雑になる。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、追加部材を必要とせず、基板に対して正確な傾斜角を設けた素子実装体を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される素子実装体は、空間を伝搬するエネルギーの出力と検知と操作の少なくともいずれかの特性に方向依存性を有する方向依存性素子、前記方向依存性素子の配置範囲におけるある方向の一方に偏って設定された第一領域に、複数の溝が並列配置され、他方に設定された第二領域が平坦面となっている実装面を有する基板、および被接着体間の間隔を規定するスペーサ粒子を含有し、前記方向依存性素子を前記基板に接着する接着剤、を備え、前記スペーサ粒子が前記第一領域において前記複数の溝に入り込み、前記第二領域において前記方向依存性素子と前記平坦面との間に介在することで、前記ある方向を含む前記実装面に垂直な面において、前記方向依存性素子と前記実装面との間に傾斜角が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される素子実装体によれば、接着厚みを規定するスペーサ粒子を含有する単一仕様の接着剤を用いて傾斜角を設けることができるので、追加部材を必要とせず、基板に対して正確な傾斜角を設けた素子実装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aと
図1Bは、それぞれ実施の形態1にかかる素子実装体の構成を示す基板部分の平面図と素子実装体の断面図である。
【
図2】実施の形態1にかかる素子実装体において、スペーサ粒子のほかに粒子径の小さな粒子を含有する接着剤を用いた場合の素子実装体の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、実施の形態1にかかる素子実装体として、それぞれ異なる配置領域に溝が配置された基板を用いた素子実装体の断面図である。
【
図4】
図4Aと
図4B、および
図4Cは、実施の形態1にかかる素子実装体として、それぞれ異なる深さで溝が形成された基板を用いた素子実装体の断面図、および領域に応じて異なる深さの溝が形成された基板を用いた素子実装体の断面図である。
【
図5】
図5A、および
図5Bと
図5Cは、それぞれ実施の形態1の第一変形例にかかる素子実装体として、異なる配置パターンで溝が設けられた基板部分の平面図、および素子実装体のそれぞれ切断面が異なる断面図である。
【
図6】
図6Aと
図6Bは、実施の形態1の第一変形例にかかる素子実装体として、それぞれさらに異なる配置パターンで溝が設けられた基板部分の平面図である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、実施の形態1の第二変形例にかかる素子実装体として、それぞれ異なる断面形状で溝が設けられた基板部分の端面図である。
【
図8】
図8Aと
図8Bは、実施の形態2にかかる素子実装体のそれぞれ異なる配置範囲に溝が形成された基板を用いた素子実装体の断面図である。
【
図9】実施の形態2にかかる素子実装体の応用例としてプリズムを実装した素子実装体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1Aと
図1Bは、実施の形態1にかかる素子実装体の構成について説明するためのものであり、
図1Aは素子実装体の素子実装前の基板を実装面側から見た平面図、
図1Bは
図1AのA-A線に対応する素子実装後の素子実装体の断面図である。また、
図2は変形例として、スペーサ粒子のほかに粒子径の小さな粒子を含有する接着剤を用いた素子実装体の構成を示す
図1Bに対応する断面図である。
【0011】
そして、
図3A~
図3Cは、それぞれ異なる配置領域に溝が形成された基板を用いた素子実装体の
図1Bに対応する断面図、
図4Aと
図4Bは、それぞれ異なる深さで溝が形成された基板を用いた素子実装体の
図1Bに対応する断面図、
図4Cは領域に応じて異なる深さの溝が形成された基板を用いた素子実装体の
図1Bに対応する断面図である。
【0012】
実施の形態1にかかる素子実装体1は、
図1Bに示すように、スペーサ粒子3を含有する接着剤5を用いて方向依存性素子である光半導体素子8を基板2に接着し、基板2に対して傾斜角θを設けて実装したものである。ここで、基板2の実装面2fmと光半導体素子8との間に介在する接着剤5としては、基剤4内に被接着体間の間隔を規定するスペーサ粒子3を含有した接着剤5を使用する。
【0013】
しかし、使用する接着剤5は、傾斜の両端(図中左右方向)にわたって同じ間隔を規定するスペーサ粒子3を含有している。つまり、平坦面同士の間に介在させたときに、平坦面同士の間隔を規定する粒子径D3として、同じ粒子径D3のスペーサ粒子3を用いた同じ仕様の接着剤5を接着領域全体で用いている。
【0014】
それに対して、基板2の光半導体素子8を実装するための実装面2fmは、紙面右側の領域Rtは平坦面となっているが、紙面左側の領域Rbには、スペーサ粒子3の粒子径D3よりも広い溝幅Gdの溝2dが
図1Aに示すようにパターン化して並列配置されている。
【0015】
ここで、基板2に形成する溝2dの溝幅Gdは、スペーサ粒子3が入り込める幅として、例えば粒子径D3よりも大きな径を有するように設定する。そして、隣接する溝2d間の畝2rについては、スペーサ粒子3が頂部2rtに安定して留まることがないような形状、あるいは粒子径D3よりも小さな畝幅Wrを有するようにしている。
【0016】
そのため、領域Rbにおいては、スペーサ粒子3は溝2d内に入り込んでいる。さらに、溝2dの深さ(溝深さdd)は粒子径D3よりも深い。その結果、領域Rb内のスペーサ粒子3は光半導体素子8と溝2dの底部2dbとの間において基剤4内で浮いた状態となり、光半導体素子8の接合面8frと基板2との隙間の規定に寄与しないフリー粒子3fとなっている。つまり、領域Rbおいては、実装面2fmと光半導体素子8の接合面8frとの間に間隔をあけて保持する構成が存在しないことになる。
【0017】
一方、領域Rtにおいては、スペーサ粒子3は平坦な実装面2fm上に位置しており、実装面2fmと光半導体素子8の接合面8frとの間に粒子径D3に対応する間隔を形成する機能を有することができる。つまり、紙面左右方向の両端にて接合厚に差異が生じることになり、接合面8frは実装面2fmに対して傾斜することになる。ただし、領域Rt内のスペーサ粒子3のうち、領域Rbから離れた位置では、粒子径D3よりも間隔が広くなるため、領域Rbに最も近い位置のスペーサ粒子3が厚み規定に寄与する寄与粒子3sとして機能する。
【0018】
傾斜角θは、式(1)に示すように、接合面8frにおける領域Rb側の端部と、寄与粒子3sと接触するまでの距離Lsと粒子径D3により決まり、距離Lsは領域Rbの範囲で調整できるため、傾斜角θを再現性良く設けることができる。ただし、傾斜角θを大きくしすぎると、光半導体素子8を固定する際に難が生じると推測されるため、注意が必要である。
tanθ=D3/Ls (1)
【0019】
例えば光半導体素子8がレーザ半導体素子の場合、端面8feから出力されるレーザ光のビーム中心Cbを基板2の実装面2fmに対して傾斜角θで傾けることができる。あるいは、光半導体素子8が検知面8fdでレーザ光を反射するとともにレーザ強度を検知するフォトダイオードチップの場合、反射面を兼ねた検知面8fdを実装面2fmに対して傾斜角θで傾けることができる。
【0020】
このように容易に傾斜角θを設定できる構造を形成するに至る各部材の詳細およびプロセスに関して、以下に説明する。基板2と光半導体素子8のような方向依存性素子との接合に用いる接着剤5には、接合材としての機能に加え、スペーサ粒子3を含有することで被接着体間の間隔の制御にも活用する。スペーサ粒子3に求める条件は、材質に関してはとくに制限はないが、形状が重要となる。
【0021】
まず、スペーサ粒子3のサイズに関して、基板2に接着剤5を塗布した状態における実装面2fmの法線方向のサイズ(厚み)がポイントであり、その最大値(粒子径D3)が間隔を決定する要素となる。最大サイズ(厚み)のスペーサ粒子と同等サイズのスペーサ粒子3が、接着剤5中に多量に存在する必要があるが、最大値を超える粗大な粒子は使用不可である。
【0022】
一方で、接着剤5に含まれる粒子としては、
図1Bに示したような間隔を規定するスペーサ粒子3のみ(単一サイズ)である必要はなく、
図2の変形例に示すように、粒子径D3以下であれば、任意のサイズの粒子が含まれていてもよい。ただし、頂部2rt上に留まることなく、間隔に影響を与えない粒径、あるいは頂部2rt上に留まる場合は、その粒径に応じて傾斜角θを設定できる粒径である必要がある。粒子形状に関しては、上記の条件を満たせばとくに制約はないが、実用的には球状粒子が最適である。
【0023】
基板2の実装面2fmのうち、傾斜角θを設ける平面に沿った一端側の領域Rbに溝2dを設けることで、その領域Rbでのスペーサ粒子3の間隔規定機能を制限する例を示した。ここで、間隔規定機能を制限する手段として、例えば、領域Rb全体を窪ませることも考えられる。その場合、光半導体素子8が窪みの底面まで沈み込むので、スペーサ粒子3がなくても傾斜を設けることは可能であるが、基板2の曲げ剛性が低下してしまう。
【0024】
そのため、基板2の変形による傾斜角θの再現性の低下、あるいは基板2の破損による歩留まり低下が懸念される。基板2の厚みを厚くすることで曲げ剛性を向上させることも考えられるが、その場合、実装体として嵩高くなり、小型化が困難になり、現実的ではない。
【0025】
一方、本願のように畝2rと溝2dとが交互に並ぶように溝2dを並列配置すれば、曲げ剛性を損なうことなく、スペーサ粒子3の粒子径D3と、溝2dの配置範囲(領域Rb)の設定で制御できる距離Lsによって所望の傾斜角θを設けることができる。
【0026】
例えば、
図3A~
図3Cにおいて、溝2dの配置範囲のうち、領域Rbの領域Rtから遠い側の端部(図中左側端部)は同じであるが、
図3Aから
図3Cに進むにつれ、領域Rtに近い方の端部(同右側端部)が左側に移動して配置範囲が狭くなっていく。寄与粒子3sは、上述したように領域Rtにおける領域Rbとの境界部分に位置するので、領域Rbの右側端部が左側に移動するにつれて距離Lsが短くなり、傾斜角θが大きくなる。
【0027】
また、同じ距離Ls(領域Rbの範囲)、同じ粒子径D3を用いた場合でも、溝深さddの設定により、傾斜角θを調整することが可能である。例えば、
図4Aに示すようにスペーサ粒子3が完全に溝2d内に沈み込む溝深さdd(≧D3)を基本と考えるが、これに限ることはない。
【0028】
図4Bに示すように、粒子径D3よりも小さな溝深さdd(<D3)で溝2dを形成した場合、溝2d内のスペーサ粒子3は、溝2d内に完全に沈むことなく、一部が実装面2fmより高い位置に突き出ることになる。領域Rb内で実装面2fmから突き出たスペーサ粒子3のうち、領域Rtから最も離れた位置で接合面8frと接する粒子は、接合面8frと実装面2fmとの間に粒子径D3から溝深さddを減じた値の間隔を規定する第二の寄与粒子3sdとして機能する。つまり、式(2)に基づいて傾斜角θを設定することができる。
tanθ=dd/Ls (2)
【0029】
さらに
図4Cに示すように、領域Rtにおいても、溝2dよりも浅い溝深さddmの溝2dmを設けるようにした場合(ddm<dd<D3)でも、式(3)に基づいて傾斜角θを設定することができる。つまり、複数種の深さの溝を組み合わせても傾斜角θを設定することは可能である。
tanθ=(dd―ddm)/Ls (3)
【0030】
なお、
図4A、
図4Cにように、溝に入り込んだスペーサ粒子3の一部が実装面2fmから突き出て、例えば、粒子の半分以上を突き出させるような場合、溝幅Gdは必ずしも粒子径D3より広く設定する必要はない。突き出し量、あるいは入り込む深さに応じて適宜設定すればよい。
【0031】
第一変形例.
つぎに、第一変形例として、スペーサ粒子の間隔規定機能を制限する溝の配置パターンについて種々の配置パターンを例示する。
図5Aは第一変形例にかかる素子実装体の基板部分の
図1Aに対応する平面図、
図5Bは
図5AのB-B線に対応する断面図、
図5Cは
図5BのC-C線に対応する断面図である。また、
図6Aと
図6Bは、それぞれさらに異なる配置パターンで溝が設けられた基板部分の
図5Aに対応する平面図である。
【0032】
溝2dの配置パターンとして、
図1A、
図1Bでは、実装面2fmにおける光半導体素子8が傾斜する向き(傾斜角θを設ける平面に沿った向き)に対して直交する方向に溝2dが延びる配置パターンについて説明したがこれに限ることはない。例えば、
図5A~
図5Cに示すように、光半導体素子8が傾斜する向きに対して溝2dが平行に延びる配置パターンでもよい。
【0033】
さらには、
図6Aに示すように光半導体素子8が傾斜する向きに対して溝2dが傾斜して延びるようにしてもよい。ここで、溝2dの終端部が実装面2fmのいずれかの端部まで達していない場合、終端部が袋小路にならないように配置することが好ましい。具体的には、溝2dの延伸方向における終端部に関しては、行き止まりが生じないよう隣接する溝2d同士を連通させることで、隣接する溝2dからのスペーサ粒子3を含めた接着剤5の流入を許容可能な空間を設けることが好適である。例えば、ある溝2dにおいて余剰接着剤の逃げ道が実装面2fm側以外に存在しない場合、その溝2dにスペーサ粒子3が詰まって積み上がり、実装面2fmより高くなって余分な間隔が形成されてしまう可能性があるからである。
【0034】
なお、上述した配置パターンは、基本的に基板2の実装面2fm内に接着剤5を留める形状であるが、
図6Bに示すように、溝2dが基板2の端部に抜けて開放されるように延伸させることで、基板外に余剰分の接着剤5を排出するようにしてもよい。ただし、排出した接着剤5が不具合の原因とならぬように注意が必要である。
【0035】
実装の際の光半導体素子8と溝2dの配置範囲との位置関係に関しては、光半導体素子8と基板2の間隔を狭めるための溝2dが配置された領域Rbにおいて、傾斜角θが許容値から外れない範囲で任意である。ただし、位置関係は傾斜角θの設定以外にも影響し、接合強度および光半導体素子8の接合面8fr以外への接着剤5の付着などへの影響も考慮する必要がある。
【0036】
第二変形例.
つぎに、第二変形例として、スペーサ粒子の間隔規定機能を制限する溝の延在方向に垂直な断面形状について種々の態様を例示する。
図7A~
図7Dは、第二変形例にかかる素子実装体として、それぞれ異なる断面形状で溝が設けられた基板の例えば
図1AのA-A線による切断面に対応する端面図である。
【0037】
溝2dの延在方向に垂直な断面形状のうち、基本条件として、スペーサ粒子3が入り込むだけの溝幅Gdが必要であり、隣接する溝2d間に形成される畝2rについては、スペーサ粒子3を頂部2rtにとどめない寸法(畝幅Wr)と形状である必要がある。その上で、上述した例では、
図1Bで代表する断面形状がシンプルな矩形の溝2dを例示した。
【0038】
矩形の溝2dはシンプルであるため工作性が良く、スペーサ粒子3を含む接着剤5を多量に取り込むことが可能な形状である。一方、スペーサ粒子3を留めないようにする必要がある畝2rについては、強度が強いとは言い難く、底部2dbについては、接着剤5の流動性の観点からは最適とは言い難い。単純に畝2rの強度を補強するなら、畝幅Wr幅を広げた形状が考えられるが、頂部2rt上にスペーサ粒子3が残留してしまう可能性が高まるので、十分な検証を必要とする。
【0039】
そこで、
図7Aに示すように、頂部2rtを尖らせることで、必要な強度が得られるまで畝幅Wrを拡げても、スペーサ粒子3が頂部2rt上に残留するのを防止できる。スペーサ粒子3が頂部2rtに残留する不具合の防止に有効な形状であるが、光半導体素子8との接触に際し、互いに傷つけることのないように十分な注意が必要となる。そのため、
図7Bに示すように、側面2dsに傾斜はつけるが、
図7Aと比べて頂部2rtに幅を持たせて尖りを鈍らせるようにしてもよい。
【0040】
これらの場合、側面2dsに傾斜が付くので溝2d内における接着剤5の流動性は向上すると考えられるが、頂部2rt側の溝幅Gdtよりも底部2db側の溝幅Gdbの方が小さくなるように、溝幅Gdが深さによって変化する。そのため、スペーサ粒子3が必ずしも底部2dbと接触できるとは限らず、接触に必要な粒子径D3の上限選定、あるいは接触状況に応じたスペーサ粒子3の沈み込み深さに基づいて、式(1)~式(3)で説明した傾斜角θの修正が必要になる。
【0041】
また、
図7Cに示すように、底部2dbの平坦部を無くすようにすることも可能である。矩形形状と比べれば、畝2rの強度が大幅に強化される形状である。ただし、底部2dbに向けての溝幅Gdの変化が大きく、スペーサ粒子3が底部2dbと接触することができない。そのため、
図7A、
図7Bで示した場合よりも溝形状と粒子径D3との関係によるスペーサ粒子3の沈み込み高さを計算する必要がある。
【0042】
あるいは、
図7Dに示すように、底部2db側で底部2dbから離れるにつれて溝幅Gdが拡がるように側面2dsに傾斜を設けてアンカーを形成することで、接合強度を向上させることもできる。このようアンカーを形成することは、強固な接合を必要とするケースにおいては有効である一方で、許容される粒子径D3の上限が小さくなること、および溝加工の手間が大きくなることなどが不利となる。
【0043】
つまり、いずれの断面形状にせよ、一長一短あり、基板仕様および要求仕様に合わせて、適切な断面形状で溝2dを設けることが望ましい。
【0044】
上述した構成を前提として、基板2に光半導体素子8等の方向依存性素子を実装するプロセスに関して、実装装置にダイボンダを用いたプロセスについて説明する。まず、ダイボンド装置にて基板2がダイボンドステージに搬送され、基板2のアライメントがなされる。つぎに、基板2上にディスペンサ等の塗布機により接着剤5が塗布される。接着剤5の塗布位置および塗布量に関しては、方向依存性素子の実装位置および実装時の接着剤5の流動性を考慮した上で設定される。
【0045】
接着剤塗布後、方向依存性素子をダイボンド位置に搬送し荷重をかける。素子ダイボンド時の荷重に関して、方向依存性素子の搬送機構もしくはダイボンドステージに荷重を平均化する機構(搬送機構なら軸部にフレキシブルジョイント機構など、ダイボンドステージならクッション機構など)を組み込んでおくことが望ましい。こうすることで、傾斜の両端において、方向依存性素子をスペーサ粒子3もしくは実装面2fmに接触するまで押し込むことが可能となり、設計通りの傾斜角θを得ることができる。この状態で、接着剤5に合わせてUV照射、加熱、一定時間保持などの硬化処理を施し、方向依存性素子が基板2に対して傾斜角θを有する状態で実装された素子実装体1を得ることができる。
【0046】
以上のように、傾斜をつける方向における一端側の領域Rbにスペーサ粒子3が入り込む溝2dが並列配置された基板2を用いて方向依存性素子を実装することにより、1種類の仕様の接着剤5のみの使用で傾斜角θを設けた実装が可能となる。つまり、追加部材を必要とせず、接着剤5の塗布も複数回に分ける必要がなく、工程数削減と時間短縮が見込まれる。
【0047】
また溝2dが配置されている範囲が一定しているため、スペーサ粒子3が間隔に寄与しない部分、つまり実装面2fmとの間隔が狭い部分と、スペーサ粒子3が間隔に寄与する部分、つまり間隔が広い部分の位置が一定する。そのため、製造による実装ばらつきが低減され、製造品質のばらつきの低減によって歩留まりが向上し、また時間短縮と高手数削減により、運用コストの増大も抑えられる効果が得られる。
【0048】
実施の形態2.
実施の形態1においては、基板と方向依存性素子との間において、溝が並列配置された領域から配置されていない領域にかけて、途切れることなく接着剤が介在するように接着剤の塗布範囲を設定した例について説明した。本実施の形態2では、溝が並列配置された領域と配置されていない領域との間で接着剤を間欠的に塗布するようにした例について説明する。
【0049】
図8A、
図8B、および
図9は、実施の形態2にかかる素子実装体の構成について説明するためのものであり、
図8Aは素子実装体の構成を示す実施の形態1の
図1Bに対応する断面図、
図8Bは
図8Aとは異なる配置範囲に溝が形成された基板を用いた素子実装体の断面図である。そして、
図9は、実施の形態2にかかる素子実装体の応用例としてプリズムを方向依存性素子として実装した素子実装体の断面図である。なお、実施の形態1と同様の部分については同じ符号を付するとともに、同様部分の説明は省略する。
【0050】
実施の形態2にかかる素子実装体1は、
図8A、
図8Bに示すように、接着剤5の塗布範囲を溝2dが並列配置された領域Rbと、実装面2fmとしての平坦面が拡がる領域Rtそれぞれに分かれて設定したものである。そして、
図8Aではそれぞれの領域において素子端部にかかるように塗布範囲を設定した例を示す。また、
図8Bでは、素子端部にかからないように塗布範囲を設定した例を示す。
【0051】
また、紙面奥行き方向での塗布範囲としては、ライン状に延在させてもよいし、中間部分を途切れさせ、例えば、四隅付近を塗布範囲としてもよく、仕様における接合強度、塗布可能位置などに基づいて、適宜設定すればよい。いずれの場合でも、実施の形態1で説明した領域Rbと領域Rtにかけて途切れなく接着剤5を塗布した場合と同様に、正確に再現性良く傾斜角θを設定することができる。
【0052】
このように、塗布範囲を間欠的に設定する有効な応用例として、
図9に示すように方向依存性素子としてプリズム9のように光を屈折、反射等によって操作する光学素子を実装するケースが考えられる。このケースでは、基板2には、プリズム9の入射面9fbに対応する領域に開口部2aを設けている。そして、入射面9fbが実装面2fmに対して傾斜角θで傾くように、溝2dを並列配置した領域Rbとスペーサ粒子3が寄与粒子3sとして機能する平坦面が連続する領域Rtを設定した。
【0053】
接着剤5は、領域Rbと領域Rtそれぞれに分かれて設定した範囲に分かれ、開口部2a部分を外して間欠的に塗布している。これによって、例えば、基板2の紙面下方から開口部2aを通してビーム中心Cbが真上に向かうレーザ光を入射面9fbに入射させ、設定した傾斜角θによって定まる所望の角度(ビーム中心Cb)で出射させるように操作することができる。
【0054】
つまり、接着剤5を間欠的に塗布することで、レーザ光を基板2の厚み方向に通過させることができ、基板2の裏側からレーザ光を取り込むことができた。他にも、接合部の中心付近まで接着剤5を広げたくない方向依存性素子、あるいは接着面積が広がると効果に難がある接着剤5を使用するケースなどでの活用が考えられる。さらに、接着剤使用量を減らせるので部材コスト低減に有効である。
【0055】
さらに、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0056】
例えば、本願では、基板2の実装面2fmのほぼ全面が方向依存性素子の設置範囲である状況を描画しているがこれに限ることはない。実装面2fmのうちの限られた範囲を設置範囲とし、設置範囲におけるある方向の偏った領域Rbに溝2dを並列配置するようにしてもよい。また、設置範囲が複数ある場合、それぞれの設置範囲で設定する傾斜方向、傾斜角θに応じて、溝2dの並列配置範囲、溝深さdd等の仕様を設定すればよい。
【0057】
また、方向依存性素子としてレーザ光等の光を扱う素子を例示したがこれに限ることはない。放射線、熱等の空間を伝播するエネルギーの出力、検知、あるいは収束、発散、進路変更、分離等の操作の特性に方向依存性を有する素子あればよい。
【0058】
以上のように、本願の素子実装体1によれば、空間を伝搬するエネルギーの出力と検知と操作の少なくともいずれかの特性に方向依存性を有する方向依存性素子(光半導体素子8、プリズム9)、方向依存性素子の配置範囲におけるある方向(例えば、
図1Aの左右方向)の一方(同、左側)に偏って設定された領域Rbに、複数の溝2dが並列配置された実装面2fmを有する基板2、および被接着体間の間隔を規定するスペーサ粒子3を含有し、方向依存性素子を基板2に接着する接着剤5、を備え、スペーサ粒子3は領域Rbにおいて複数の溝2dに入り込んでおり、ある方向を含む実装面2fmに垂直な面において、方向依存性素子と実装面2fmとの間に傾斜角θが設けられているように構成した。そのため、単一仕様の接着剤5を用いて、追加部材を必要とせず、基板2に対して正確な傾斜角θを設けた素子実装体1を得ることができる。
【0059】
その際、複数の溝2dどうしの間隔(畝幅Wr)がスペーサ粒子3の粒子径D3よりも狭いようにすれば、スペーサ粒子3を畝2r上に留めることなく、スムーズに溝2d内に入り込ませることができる。
【0060】
複数の溝2dの終端は、基板2の側端で開放されている、あるいは隣接する溝2dと連なっているようにすれば、余分な接着剤5が実装面2fm上に溢れることを防止できる。
【0061】
複数の溝2dは、ある方向に沿って異なる深さを有しているようにすれば、粒子径D3を変えずに、傾斜角θを変化させることができる。
【0062】
接着剤5は、領域Rbを含む部分と、ある方向の他方側の部分(例えば、領域Rt)に分かれて方向依存性素子と実装面2fmとの間に介在しているように構成すれば、例えば、基板2に設けた開口部2aを介してレーザ光を裏側から光学素子に向けて照射し、所望の光学処理を行うことができる。
【0063】
方向依存性素子が、半導体レーザ素子(光半導体素子8)であれば、追加部材を必要とせずに、所望の角度でレーザ光を出射できる半導体レーザ装置を得ることできる。
【0064】
方向依存性素子が、光学素子(プリズム9)であれば、追加部材を必要とせずに、受光した光の状態を所望の形態に操作できる光学装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:素子実装体、 2:基板、 2d:溝、 2fm:実装面、 3:スペーサ粒子、 4:基剤、 5:接着剤、 8:光半導体素子(方向依存性素子)、 8fr:接合面、 9:プリズム(方向依存性素子)、 9fb:入射面(接合面)、 D3:粒子径、 dd:溝深さ、 Gd:溝幅、 Rb:領域(第一領域)、 Wr:畝幅、 θ:傾斜角。