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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】モータ駆動装置及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20241129BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241129BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024502349
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007717
(87)【国際公開番号】W WO2023162106
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】乗松 泰治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】豊留 慎也
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232591(JP,A)
【文献】特開2016-73191(JP,A)
【文献】特開2012-151963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、
前記整流部の出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成してモータに出力するインバータと、
前記コンデンサの電力状態に応じた脈動が前記モータの駆動パターンに重畳されるように前記インバータの動作を制御し、前記コンデンサの充放電電流を抑制する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記モータの回転速度を制御する定電流負荷制御を優先して行いつつ、負荷脈動を補償する負荷脈動補償制御、前記コンデンサの充放電電流を抑制する電源脈動補償制御、及び前記インバータに入力されるインバータ入力電流を抑制する過負荷補償制御を行う
モータ駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
回転座標系における前記定電流負荷制御用の指令である第1のトルク電流指令を生成する速度制御部と、
前記第1のトルク電流指令に対する第1のリミット値と前記第1のトルク電流指令との第1差分を用いて設定される第2のリミット値を用いて、前記負荷脈動補償制御用の第1の補償値を生成する負荷脈動補償制御部と、
前記第1差分と前記第1の補償値との第2差分を用いて設定される第3のリミット値を用いて、前記電源脈動補償制御用の第2の補償値を生成する電源脈動補償制御部と、
第4のリミット値を用いて、前記過負荷補償制御用の第3の補償値を生成する過負荷補償制御部と、
を備える請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記第2のリミット値は、前記第1差分と、0以上1以下の第1の制限比とを乗算することで生成され、
前記第3のリミット値は、前記第2差分と、0以上1以下の第2の制限比とを乗算することで生成され、
前記第3の補償値は、回転速度指令と、0以上1以下の第3の制限比と乗算することで生成され、
前記第1のトルク電流指令は、前記第3の補償値によって補償される
請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1のトルク電流指令は、前記第1から第3の制限比のうちの少なくとも1つによって制限され、前記第1から第3の制限比は優先順位を決めて使用される
請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記第1のトルク電流指令は、前記第1から第3の制限比のうちの少なくとも1つによって制限され、前記第1から第3の制限比は下限値を決めて使用される
請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記第1から第3の制限比は、前記インバータ入力電流に基づいて変更され得る
請求項3から5の何れか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記第1から第3の制限比は、前記インバータ又はコンデンサの温度情報に基づいて変更され得る
請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載のモータ駆動装置を備える
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、入力される交流電力をモータへの所望の電力に変換する電力変換装置を備えてモータを駆動するモータ駆動装置及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に容量の大きいコンデンサを使用すると、電力変換装置の大型化、及びコストアップにつながる。従来、コンバータとインバータとの間に設けられる平滑部のコンデンサの容量を抑えることを目的とした電力変換装置が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献には、コンバータ側のパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)制御のためのキャリアと、インバータ側のPWM制御のためのキャリアとに位相差を与えて、双方のパルスの重なる面積が最大となるように位相差を調整する技術が開示されている。この特許文献1によれば、平滑部のコンデンサに流れる電流を最小にできるので、平滑部のコンデンサの容量が最小限に抑えられると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-288035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータ駆動装置の特性として、モータの負荷が大きい高負荷域においては、インバータに流れるインバータ電流を大きくする必要がある。このような高負荷域では、必然的に平滑部のコンデンサから流出する電流も大きくなるので、平滑部のコンデンサに流れる電流を最小化することは困難である。このため、容量の小さいコンデンサを用いたときには、特に外気温が高い高外気温環境下において、コンデンサの温度上昇による故障等の問題が生じ得る。
【0006】
以上のように、特許文献1の技術では、高負荷域及び高外気温環境下での駆動に難があり、容量の小さいコンデンサを用いたときには、装置の信頼性が低下するという問題があった。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、高負荷域及び高外気温環境下での駆動においても装置の信頼性の低下を抑制できるモータ駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係るモータ駆動装置は、整流部と、整流部の出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサの両端に接続されるインバータと、制御部とを備える。整流部は、商用電源から供給される第1の交流電力を整流する。インバータは、第2の交流電力を生成してモータに出力する。制御部は、コンデンサの電力状態に応じた脈動がモータの駆動パターンに重畳されるようにインバータの動作を制御し、コンデンサの充放電電流を抑制する。制御部は、モータの回転速度を制御する定電流負荷制御を優先して行いつつ、負荷脈動を補償する負荷脈動補償制御、コンデンサの充放電電流を抑制する電源脈動補償制御、及びインバータに入力されるインバータ入力電流を抑制する過負荷補償制御を行う。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るモータ駆動装置によれば、高負荷域及び高外気温環境下での駆動においても装置の信頼性の低下を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係るモータ駆動装置の構成例を示す図
図2】実施の形態1に係るモータ駆動装置を冷凍サイクル装置に適用した構成例を示す図
図3図2に示す冷凍サイクル装置が有する圧縮機の例であるロータリー圧縮機とレシプロ圧縮機とのトルクについて説明する図
図4】実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部の構成例を示すブロック図
図5】実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部における要部の動作説明に供するフローチャート
図6】実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係るモータ駆動装置及び冷凍サイクル装置について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は例示であって、以下の実施の形態によって、本開示の範囲が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るモータ駆動装置の構成例を示す図である。図1において、実施の形態1に係るモータ駆動装置10は、商用電源1及び圧縮機30に接続される。モータ駆動装置10は、商用電源1から供給される第1の交流電力を所望の振幅及び位相を有する第2の交流電力に変換して圧縮機30に供給する。商用電源1は交流電源の一例である。圧縮機30には、モータ32が搭載されている。モータ32の一例は、センサレス型ブラシレスモータである。
【0013】
モータ駆動装置10は、リアクトル2と、整流部3と、平滑部4と、インバータ5と、制御部6と、電流検出部7,8とを備える。
【0014】
リアクトル2は、商用電源1と整流部3との間に接続される。整流部3は、4つの整流素子から構成されるブリッジ回路を有し、商用電源1から供給される第1の交流電力を整流して出力する。整流部3は、全波整流を行う。
【0015】
平滑部4は、整流部3の出力端に接続される。平滑部4は、平滑素子としてのコンデンサ4aを有し、整流部3によって整流された電力を平滑化する。コンデンサ4aは、例えば、電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどである。コンデンサ4aは、整流部3の出力端に接続され、整流部3によって整流された電力を平滑化するような容量を有する。商用電源1が出力する電源電圧の波形は全波整流波形であるのに対し、平滑化によってコンデンサ4aに発生する電圧波形は、直流成分に商用電源1の周波数に応じた電圧リプルが重畳した波形となり、大きく脈動しない。この電圧リプルの周波数は、商用電源1が単相の場合は電源電圧の周波数の2倍成分となり、商用電源1が3相の場合は6倍成分が主成分となる。商用電源1から入力される電力、及びインバータ5から出力される電力が変化しない場合、この電圧リプルの振幅はコンデンサ4aの容量によって決定される。例えば、コンデンサ4aに発生する電圧リプルの振幅は、その最大値が最小値の2倍未満となるような範囲で脈動している。
【0016】
インバータ5は、平滑部4の両端に接続される。インバータ5は、スイッチング素子及び還流ダイオードを有する。スイッチング素子の具体例は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)といった半導体素子であり、シリコン半導体で形成されている。シリコン半導体以外ではワイドバンドギャップ半導体がある。ワイドバンドギャップ半導体は、シリコンのバンドギャップより大きなバンドギャップを有する半導体のことを指している。代表的なワイドバンドギャップ半導体は、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウム(Ga)、又はダイヤモンドである。ワイドバンドギャップ半導体を用いれば、シリコン半導体を用いるより、損失を減らすことができる。インバータ5は、制御部6の制御によってスイッチング素子がオンオフ制御される。この制御により、整流部3及び平滑部4から出力される電力は、モータ32の負荷に合わせて、第1の交流電力とは振幅及び位相の違う第2の交流電力に変換されて圧縮機30に出力される。
【0017】
電流検出部7は、整流部3から平滑部4及びインバータ5に向けて出力されるコンデンサ入力電流I1を検出し、検出した電流値を制御部6に出力する。電流検出部7は、コンデンサ4aの電力状態を検出する検出部として用いることができる。
【0018】
電流検出部8は、インバータ5から出力される3相の電流のうちの2相分の電流値を検出し、検出した電流値を制御部6に出力する。検出した電流値がU相電流Iu及びV相電流Ivである場合、残りの1相であるW相電流Iwの電流値は、Iu+Iv+Iw=0の関係式から演算で求めることができる。電流検出部8に用いるセンサとしては、DCCT(Direct Current Current Transducer)、ACCT(Alternating Current Current Transducer)、シャント抵抗といったセンサが想定されるが、これらに限定されない。3相の電流値が検出できれば、これら以外のセンサを用いてもよい。
【0019】
図2は、実施の形態1に係るモータ駆動装置を冷凍サイクル装置に適用した構成例を示す図である。図2において、冷凍サイクル装置100は、実施の形態1に係るモータ駆動装置10を備える。冷凍サイクル装置100は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。
【0020】
冷凍サイクル装置100は、モータ32を内蔵した圧縮機30と、凝縮器35と、膨張弁36と、蒸発器37とが冷媒配管38を介して取り付けられている。これらの圧縮機30、凝縮器35、膨張弁36及び蒸発器37が閉ループに接続されることで冷媒回路が形成される。なお、図示はしていないが、圧縮機30と凝縮器35との間に四方弁を取り付けることで、蒸発器37及び凝縮器35を室内器と室外器とで入れ替えることができ、暖房運転と冷房運転とを切り替えることができる。
【0021】
圧縮機30は、図示を省略した冷媒圧縮室を備えている。この冷媒圧縮室には、冷媒を圧縮するための機械が設けられている。また、圧縮機30には、図示を省略した吸入口と吐出口とが接続されており、これらが冷媒回路の一部を構成している。圧縮機30を駆動するモータ32は、図示を省略した固定子と回転子とを有する。固定子は、ヨークにコイルを巻いた構造であり、回転子は永久磁石の役目を持つ部材で構成されている。モータ32の駆動により、冷媒を圧縮するための機械が駆動され、吸入口から流入した冷媒が圧縮室で圧縮され、吐出口から流出する構造になっている。なお、図1では、モータ32におけるモータ巻線がY結線の場合を示しているが、この例に限定されない。モータ32のモータ巻線は、Δ結線であってもよいし、Y結線とΔ結線とが切り替え可能な仕様であってもよい。
【0022】
圧縮機30としては、回転速度制御が可能な圧縮機、即ちインバータ5によりモータ32の回転速度が制御されるインバータ駆動の圧縮機を用いる。インバータ駆動の圧縮機には、例えば、ロータリー圧縮機、スクロール圧縮機、レシプロ圧縮機などがある。これらの圧縮機は、冷媒、潤滑油の種類、潤滑油の量などによって、駆動特性に影響が表れる。従って、条件によっては、冷媒圧縮室を動作させるために必要なトルクが大きくなるため、制御による出力電圧が大きくなる。
【0023】
図3は、図2に示す冷凍サイクル装置が有する圧縮機の例であるロータリー圧縮機とレシプロ圧縮機とのトルクについて説明する図である。図3に示すグラフの縦軸はトルクを表し、横軸は回転子の回転位置を示す角度を表す。トルクカーブC1はロータリー圧縮機についての角度と負荷トルクとの関係を表し、トルクカーブC2はレシプロ圧縮機についての角度と負荷トルクとの関係を表している。
【0024】
2つのトルクカーブC1,C2を比較すると、何れの圧縮機の場合も、圧縮動作によってトルク変動が発生していることが分かる。また、ロータリー圧縮機に比べてレシプロ圧縮機では、負荷トルクが大きくなる角度範囲が限定的であることが分かる。
【0025】
図1の説明に戻る。制御部6は、電流検出部7から平滑部4の入力電流の電流値を取得し、電流検出部8からインバータ5によって変換された第2の交流電力の電流値を取得する。制御部6は、各電流検出部によって検出された電流値を用いて、インバータ5の動作、具体的には、インバータ5が有するスイッチング素子のオンオフを制御する。
【0026】
実施の形態1において、制御部6は、整流部3から平滑部4のコンデンサ4aに流入する電力の脈動に応じた脈動を含む正弦波上の交流電力がインバータ5から圧縮機30に出力されるようにインバータ5を制御する。コンデンサ4aに流入する電力の脈動に応じた脈動とは、例えばコンデンサ4aに流入する電力の脈動の周波数などによって変動する脈動である。これにより、制御部6は、コンデンサ4aに流れる電流を抑制する。なお、制御部6は、各検出部から取得した全ての検出値を用いなくてもよく、一部の検出値を用いて制御を行ってもよい。
【0027】
制御部6は、モータの速度、電圧、電流の何れかが所望の状態になるように制御を行う。ここで、圧縮機30の駆動用に使用されるモータ32の場合、モータ32に回転子の位置を検出する位置センサを取り付けることが構造的にもコスト的にも困難なことが多い。このため、制御部6は、モータ32の制御を位置センサレスで行う。モータ32の位置センサレス制御方法については、一次磁束一定制御、センサレスベクトル制御といった制御手法がある。実施の形態1では、一例として、センサレスベクトル制御をベースに説明する。なお、以降で説明する制御方法については、軽微な変更で一次磁束一定制御に適用することも可能である。
【0028】
なお、モータ駆動装置10において、図1に示す各構成の配置は一例であり、各構成の配置は図1で示される例に限定されない。例えば、リアクトル2は、整流部3の後段に配置されてもよい。また、モータ駆動装置10は、昇圧部を備えてもよいし、整流部3に昇圧部の機能を持たせるようにしてもよい。
【0029】
次に、制御部6における実施の形態1での特徴的な動作について説明する。なお、図1に示すように、整流部3からコンデンサ4a及びインバータ5に向けて出力される電流を「I1」で表し、「コンデンサ入力電流」と呼ぶ。また、コンデンサ4aから出力されてインバータ5に入力される電流を「I2」で表し、「インバータ入力電流」と呼ぶ。また、コンデンサ4aに流出入する電流、即ちコンデンサ4aを充電する電流又はコンデンサ4aが放電する電流を「I3」で表し、「充放電電流」と呼ぶ。
【0030】
コンデンサ入力電流I1は、商用電源1の電源位相、整流部3の前後に設置される素子の特性などの影響を受ける。その結果、コンデンサ入力電流I1は、電源周波数及び電源周波数の2以上の整数倍の周波数成分である高調波成分を含む特性を有する。また、コンデンサ4aにおいて、充放電電流I3が大きいとコンデンサ4aの経年劣化が加速する。特に、コンデンサ4aとして電解コンデンサを用いる場合、経年劣化の加速の度合いが大きくなる。そこで、制御部6は、コンデンサ入力電流I1とインバータ入力電流I2とが等しくなるようにインバータ5を制御して、充放電電流I3をゼロに近づける制御を行うことで充放電電流I3を減少させる。これにより、コンデンサ4aの劣化が抑制される。但し、インバータ入力電流I2には、PWM制御に起因するリプル成分が重畳されるので、制御部6は、このリプル成分を加味してインバータ5を制御する必要がある。
【0031】
制御部6は、コンデンサ4aの電力状態を監視し、モータ32に適切な脈動を与えて充放電電流I3が減少するようにする。ここで、コンデンサ4aの電力状態とは、コンデンサ入力電流I1、インバータ入力電流I2、充放電電流I3、コンデンサ4aの電圧であるコンデンサ電圧などから計算されるものである。制御部6においては、これらのコンデンサ4aの電力状態を決める情報のうちの少なくとも1つが、充放電電流I3を抑制する制御に必要な情報となる。
【0032】
制御部6は、電流検出部7で検出されたコンデンサ入力電流I1の検出値を用いて、インバータ入力電流I2からPWMリプルを除いた値がコンデンサ入力電流I1と一致するようにインバータ5を制御し、モータ32に出力される電力に脈動を加える。即ち、制御部6は、コンデンサ4aの電力状態に応じた脈動がモータ32の駆動パターンに重畳されるようにインバータ5の動作を制御する。これにより、充放電電流I3が抑制される。本稿では、この制御を「電源脈動補償制御」と呼ぶ。
【0033】
なお、前述のように、コンデンサ入力電流I1には電源周波数の高調波成分が含まれることから、インバータ入力電流I2にも電源周波数の高調波成分が含まれることになる。このため、モータ駆動装置10は、インバータ入力電流I2を適切に脈動させる必要がある。
【0034】
また、例えば圧縮機30が空気調和機で使用され、圧縮機30の負荷がほぼ一定となる、即ちインバータ入力電流I2の実効値が一定となる場合においても、圧縮機30の負荷の種別によっては周期的な回転変動を生ずる機構を有するものがあることが知られている。従って、このような機構を有する圧縮機負荷を駆動する場合、負荷トルクは周期変動を有するものとなる。このため、インバータ5から出力電流一定、即ち定トルク出力で圧縮機30を駆動する定電流負荷制御を行うと、トルク差分に起因する速度変動が生じる。速度変動は低速域にて顕著に生じ、高速域に動作点が移動するに連れて速度変動は小さくなる特性がある。また、速度変動分は外部流出するため、振動として外部観測されることとなり、振動対策部品の追加などが必要である。そのため、インバータ5から出力される一定電流、即ち定トルク出力分電流とは別に、脈動トルク、即ち脈動電流分を圧縮機30に流すことで負荷トルク変動に応じたトルクをインバータ5から圧縮機30に与える方法がとられることが多い。これにより、トルク差分をゼロに近づけることで圧縮機30のモータ32の速度変動を低減して振動抑制することができる。その結果、インバータ5の出力トルクと負荷トルクとのトルク差分をゼロに近づけることができる。これにより、圧縮機30に具備されるモータ32の速度変動を低減することができ、圧縮機30の振動を抑制することができる。本稿では、この制御を「負荷脈動補償制御」と呼ぶ。
【0035】
また、前述したように、モータ駆動装置10は、高負荷域及び高外気温環境下で圧縮機30を駆動しなければならない場合がある。この場合、必然的にインバータ入力電流I2が大きくなるので、コンデンサ4aの温度上昇による故障等の問題が生じ得る。また、インバータ入力電流I2が大きくなると、回路部品及び回路部品のはんだ付け部の温度上昇による故障等も考えられる。更に、モータ32に流れるモータ電流の増加によってモータの減磁が引き起こされ、モータ32の性能低下、又は故障等も考えられる。そこで、制御部6は、一時的に速度指令値に対して回転速度を下げる制御を行いつつ、負荷脈動補償制御及び電源脈動補償制御を一時的に弱める制御を行う。この制御を行えば、インバータ入力電流I2を低減できるので、発熱及び温度上昇を抑制することが可能となる。本稿では、モータ駆動装置10の運転環境が、高負荷域及び高外気温環境下に置かれるときを「過負荷状態」又は「過負荷状態時」と呼ぶ。また、モータ駆動装置10の運転環境が過負荷状態であるときに行う、インバータ入力電流I2を低減する制御を「過負荷補償制御」と呼ぶ。
【0036】
以上のように、実施の形態1に係るモータ駆動装置10において、制御部6は、モータ32の回転速度を制御する定電流負荷制御、負荷脈動を補償する負荷脈動補償制御、電源脈動を補償する電源脈動補償制御、及び運転環境が過負荷状態であるときにインバータ入力電流I2を抑制する過負荷補償制御を実施する。その一方で、各制御による配分が適切ではない場合、モータ32の回転速度が速度指令に対し追従できない、負荷脈動補償制御が過補償になる、電源脈動補償が満足に制御できないなどの状態が発生するおそれがある。そこで、実施の形態1では、各制御の動作が適切になるようにモータ駆動装置10を動作させる。或いは、各制御の動作が適切になるように、各制御間の優先順位を決定する。以下、具体的な制御方法について説明する。なお、本稿では、制御部6が処理を行う際の座標系として、モータ32が永久磁石モータである場合において好適に用いられるdq軸座標系で説明するが、これに限定されない。制御部6の制御系が、位置センサレス制御において一般的に用いられるγδ軸座標系で構築されていてもよい。
【0037】
まず、モータ駆動装置10においては、駆動するモータ32が速度指令に追従することは必須の事項である。このため、制御部6は、定電流負荷制御を優先した制御を行う。また、制御部6は、定電流負荷制御、電源脈動補償制御、及び負荷脈動補償制御の各制御で使用可能なトルク電流指令であるq軸電流指令に対し、そのリミット値を設定する。具体的に、制御部6は、全体のq軸電流指令のリミット値から定電流負荷制御で使用するq軸電流指令の値を引いた範囲内で、電源脈動補償制御及び負荷脈動補償制御の各リミット値を設定し、電源脈動補償制御及び負荷脈動補償制御のq軸電流指令を生成する。即ち、制御部6は、モータ32の回転速度を制御する定電流負荷制御を優先して行いつつ、負荷脈動を補償する負荷脈動補償制御、及びコンデンサ4aの充放電電流I3を抑制する電源脈動補償制御を行う。
【0038】
次に、全体のq軸電流リミット値Iqlimについて説明する。全体のq軸電流リミット値Iqlimは、d軸電流Iの値、モータ32の速度などによって変化する。低速度域におけるモータ32の減磁限界、インバータ5の最大電流などの観点から、q軸電流リミット値Iqlimを、例えば、以下の式(1)のように決定する。なお、本稿では、q軸電流リミット値Iqlimを「第1のリミット値」と記載することがある。
【0039】
【数1】
【0040】
式(1)において、Irmslimは相電流のリミット値を実効値表記したものを示し、I*は励磁電流指令であるd軸電流指令を示す。Irmslimは、インバータ5における過電流遮断保護の閾値よりも10%から20%程度低めに設定するのが一般的である。高速度域では、電圧飽和の影響によって流せるq軸電流Iが減少してしまう。q軸電流指令が過大な状態になると、積分器のワインドアップ現象によって制御不安定に陥るケースがあることがよく知られている。式(1)では速度上昇に伴う最大q軸電流の低下が考慮されていないため、最大q軸電流の低下を加味した数式を導出する。高速領域では、dq軸電圧のリミット値をVomとした場合、Vomに対して式(2)の近似式の関係が成り立つ。
【0041】
【数2】
【0042】
式(2)において、Vomはdq平面上の電圧制限円の半径である。式(2)は、(v*)+(v*)=Vom に定常状態の電圧方程式を代入し、電機子抵抗による電圧降下を無視して整理したものである。ここで、式(2)をq軸電流Iについて解くと、式(3)が得られる。
【0043】
【数3】
【0044】
従って、d軸電流Iをリミット値限界まで流したとき、q軸電流リミット値Iqlimは式(4)のように表される。
【0045】
【数4】
【0046】
なお、電圧が最小になるまでd軸電流Iを流した場合、Φ+Ldlim=0となるが、このときは式(5)が成立する。この場合、q軸電流リミット値Iqlimは、モータ32の電気角速度ωに反比例して減少していくことが分かる。
【0047】
【数5】
【0048】
最終的な結論として、q軸電流リミット値Iqlimは、式(1)及び式(4)の両方を加味して、式(6)のように設定される。
【0049】
【数6】
【0050】
式(6)において、MINは最小のものを選択する関数である。
【0051】
上記のような演算を行う制御部6の構成について説明する。図4は、実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部の構成例を示すブロック図である。制御部6は、回転子位置推定部401と、速度制御部402と、弱め磁束制御部403と、電流制御部404と、座標変換部405,406と、PWM信号生成部407と、減算部408,412と、負荷脈動リミット部409と、負荷脈動補償制御部410と、加算部411,415と、電源脈動リミット部413と、電源脈動補償制御部414と、インバータ入力電流演算部417と、閾値優先順位制御部418と、過負荷補償制御部419とを備える。なお、加算部411,415でq軸電流指令生成部420を構成している。
【0052】
回転子位置推定部401は、モータ32を駆動するためのdq軸電圧指令ベクトルVdq*及びdq軸電流ベクトルIdqを用いて、モータ32が有する図示しない回転子について、回転子磁極のdq軸での方向である推定位相角θest、及び回転子速度である推定速度ωestを推定する。
【0053】
速度制御部402は、後述する過負荷補償速度指令ωlimと推定速度ωestとが一致するようにq軸電流指令Iqspを自動調整、即ち生成する。q軸電流指令Iqspは、前述の定電流負荷制御用のトルク電流指令である。なお、本稿では、q軸電流指令Iqspを「第1のトルク電流指令」と記載することがある。
【0054】
弱め磁束制御部403は、dq軸電圧指令ベクトルVdq*の絶対値が電圧リミット値Vlim*の制限値内に収まるようにd軸電流指令I*を自動調整する。弱め磁束制御は、大別して、電圧制限楕円の方程式からd軸電流指令I*を計算する方法、及び電圧リミット値Vlim*とdq軸電圧指令ベクトルVdq*との絶対値の偏差がゼロになるようにd軸電流指令I*を計算する方法の2種類があるが、どちらの方法を使用してもよい。
【0055】
電流制御部404は、dq軸電流ベクトルIdqがd軸電流指令I*及びq軸電流指令I*に追従するようにdq軸電圧指令ベクトルVdq*を自動調整する。なお、本稿では、q軸電流指令I*を「第2のトルク電流指令」と記載することがある。
【0056】
座標変換部405は、推定位相角θestに応じて、dq軸電圧指令ベクトルVdq*をdq座標から交流量の電圧指令Vuvw*に座標変換する。
【0057】
座標変換部406は、推定位相角θestに応じて、モータ32に流れるモータ電流Iuvwを交流量からdq座標のdq軸電流ベクトルidqに座標変換する。前述のように、制御部6は、モータ電流Iuvwについて、インバータ5から出力される3相の電流値のうち、電流検出部8で検出される2相の電流値、及び2相の電流値を用いて残りの1相の電流値を算出することによって取得することができる。
【0058】
PWM信号生成部407は、座標変換部405で座標変換された電圧指令Vuvw*に基づいてPWM信号を生成する。制御部6は、PWM信号生成部407で生成されたPWM信号をインバータ5のスイッチング素子に出力することで、モータ32に電圧を印加する。
【0059】
減算部408は、前述のq軸電流リミット値Iqlimと、q軸電流指令Iqspの絶対値との差分である第1のq軸電流マージンIqmarginを生成する。なお、q軸電流指令Iqspの値が正である場合には、絶対値の演算は不要である。q軸電流リミット値Iqlimは、電流制御部404に入力されるq軸電流指令I*に対するリミット値である。第1のq軸電流マージンIqmarginは、q軸電流リミット値Iqlimから定電流負荷制御で必要なq軸電流指令Iqspの電流分を差し引いた残りであって、負荷脈動補償制御、電源脈動補償制御及び過負荷補償制御に対して分配可能な値である。なお、減算部408は、Iqlim-|Iqsp|が速度脈動、母線電圧脈動などの影響を受けるため、式(7)のようにローパスフィルタを用いて平滑化してもよい。なお、本稿では、q軸電流リミット値Iqlimとq軸電流指令Iqspとの差分である第1のq軸電流マージンIqmarginを「第1差分」と記載することがある。
【0060】
【数7】
【0061】
式(7)において、Tはフィルタ時定数であって遮断角周波数の逆数を示し、sはラプラス変換の変数を示す。次に、制御部6は、第1のq軸電流マージンIqmarginを負荷脈動補償制御及び電源脈動補償制御に対して分配する。
【0062】
閾値優先順位制御部418は、負荷脈動リミット部409、電源脈動リミット部413及び過負荷補償制御部419に対し、予め決められた優先順位に従って予め設定された閾値I2lim*を送信する。この閾値I2lim*は、優先順位に従って、個別に、又は順番に、又は同時に負荷脈動リミット部409、電源脈動リミット部413及び過負荷補償制御部419のうちの少なくとも1つに送信される。
【0063】
負荷脈動リミット部409では、負荷脈動補償制御を制限するための負荷脈動補償制限比KlimAVSが入力信号に対して乗算される。電源脈動リミット部413では、電源脈動補償制御を制限するための電源脈動補償制限比KlimD2Vが入力信号に対して乗算される。過負荷補償制御部419では、過負荷動補償制御を制限するための過負荷補償制限比KlimOLが入力信号に対して乗算される。
【0064】
優先制御の具体的な例を挙げると、例えば負荷脈動補償制御のみでインバータ入力電流I2を低減させる場合、電源脈動補償制御及び過負荷補償制御は制限されないので、これらの制御に関する制限比が下がることはない。この例の場合、インバータ入力電流I2が閾値I2lim*を下回るまで実施され、下回った場合は制限比を戻していく。また、優先順位に従って順番で制限していく場合、インバータ入力電流I2が閾値I2lim*を下回ったときには、優先順位の逆の順番で制限比を戻していく。また、優先順位をつけない場合は同時に制限をかけていき、インバータ入力電流I2が閾値I2lim*を下回ったときには、制限比を同時に戻していくこととなる。以下、各制御部における個々の動作について説明する。
【0065】
まず、インバータ入力電流演算部417は、座標変換部406からdq軸電流ベクトルIdqを取得し、式(8)に示すように、d軸電流I及びq軸電流Iを用いてインバータ入力電流I2を算出する。
【0066】
【数8】
【0067】
負荷脈動リミット部409は、減算部408から第1のq軸電流マージンIqmarginを取得し、インバータ入力電流演算部417からインバータ入力電流I2を取得し、閾値優先順位制御部418から閾値I2lim*を取得する。負荷脈動リミット部409は、インバータ入力電流I2と閾値I2lim*との比較によって、負荷脈動補償制御における負荷脈動補償制限比KlimAVSを決定する。負荷脈動リミット部409は、式(9)に示すように、減算部408から取得した第1のq軸電流マージンIqmarginに、負荷脈動補償制限比KlimAVSを乗算し、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSを生成する。なお、本稿では、負荷脈動補償制限比KlimAVSを「第1の制限比」と記載し、負荷脈動リミット部409を「第1の制限比乗算部」と記載することがある。
【0068】
【数9】
【0069】
負荷脈動補償制限比KlimAVSは、第1のq軸電流マージンIqmarginの制限比率であって、0以上、1以下の変数である。負荷脈動補償制限比KlimAVSは、コンデンサ4aの電力状態、モータ32の動作状態、モータ駆動装置10が冷凍サイクル装置として空気調和機に使用される場合における空気調和機の運転状態などによって設定されてもよい。このように、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSは、第1のq軸電流マージンIqmarginを用いて設定される。なお、本稿では、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSを「第2のリミット値」と記載することがある。
【0070】
ここで、負荷脈動リミット部409が負荷脈動補償制限比KlimAVSを決定する手法について、補足する。前述のように、電源脈動補償制御及び負荷脈動補償制御で使用可能なq軸電流Iqは制限される。このため、負荷脈動リミット部409は、負荷脈動補償制限比KlimAVSを決定することで、負荷脈動補償制御及び電源脈動補償制御の各補償制御に対する優先順位を決定する。実施の形態1において、負荷脈動リミット部409は、q軸電流Iqの制限比を決めるために、インバータ入力電流I2と負荷脈動補償制御、電源脈動補償制御及び過負荷補償制御における優先順位と、閾値I2lim*とに基づいて、負荷脈動補償制限比KlimAVSを決定する。
【0071】
負荷脈動補償制御部410は、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSを用いて、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSを生成する。負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSは、負荷脈動補償制御用のトルク電流指令である。具体的に、負荷脈動補償制御部410は、負荷脈動リミット部409で生成された負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSの範囲内で負荷脈動補償制御を実施し、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSを生成する。負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSは、式(10)のように表される。第1のq軸電流マージンIqmargin、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVS、及び負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSの大小関係は、Iqmargin≧IqlimAVS≧IqAVSとなる。なお、本稿では、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSを「第1の補償値」と記載することがある。
【0072】
【数10】
【0073】
実施の形態1の制御では、負荷脈動補償制御部410は、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSの全てを使い切らないケースも考えられる。そのため、減算部412は、式(11)に示すように、第1のq軸電流マージンIqmarginと負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSとの差分である第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vを生成する。なお、本稿では、第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vを「第2差分」と記載することがある。
【0074】
【数11】
【0075】
電源脈動リミット部413は、減算部412から第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vを取得し、インバータ入力電流演算部417からインバータ入力電流I2を取得し、閾値優先順位制御部418から閾値I2lim*を取得する。電源脈動リミット部413は、インバータ入力電流I2と閾値I2lim*との比較によって、電源脈動補償制御における電源脈動補償制限比KlimD2Vを決定する。電源脈動リミット部413は、式(12)に示すように、減算部412から取得した第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vに、電源脈動補償制限比KlimD2Vを乗算し、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを生成する。なお、本稿では、電源脈動補償制限比KlimD2Vを「第2の制限比」と記載し、電源脈動リミット部413を「第2の制限比乗算部」と記載することがある。
【0076】
【数12】
【0077】
電源脈動補償制限比KlimD2Vは、第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vの制限比率であって、0以上、1以下の変数である。電源脈動補償制限比KlimD2Vは、コンデンサ4aの電力状態、モータ32の動作状態、モータ駆動装置10が冷凍サイクル装置として空気調和機に使用される場合における空気調和機の運転状態などによって設定されてもよい。このように、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vは、第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vを用いて設定される。なお、本稿では、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを「第3のリミット値」と記載することがある。
【0078】
電源脈動補償制御部414は、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを用いて、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vを生成する。電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vは、電源脈動補償制御用のトルク電流指令である。具体的に、電源脈動補償制御部414は、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vを式(13)のように決定する。電源脈動補償制御部414は、q軸電流指令Iqspの絶対値が電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2V以上の場合、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vとして電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを選択する。電源脈動補償制御部414は、q軸電流指令Iqspの絶対値が電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2V未満の場合、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vとしてq軸電流指令Iqspの絶対値を選択する。なお、本稿では、電流振幅IqD2Vを「第2の補償値」と記載することがある。
【0079】
【数13】
【0080】
なお、上記の式(13)の処理では、q軸電流指令Iqspの絶対値と電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vとが等しい場合に、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを選択しているが、これに限定されない。q軸電流指令Iqspの絶対値と電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vとが等しい場合に、q軸電流指令Iqspの絶対値を選択してもよい。
【0081】
q軸電流指令生成部420は、q軸電流指令Iqsp、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVS、及び電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vを用いて、q軸電流指令I*を生成する。具体的には、q軸電流指令生成部420において、加算部411は、q軸電流指令Iqspと、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSとを加算する。加算部415は、加算部411の加算結果であるq軸電流指令Iqsp+負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSと、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vとを加算する。q軸電流指令生成部420は、加算部415の加算結果を、q軸電流指令I*として電流制御部404に出力する。
【0082】
過負荷補償制御部419は、速度指令ω*を取得すると共に、インバータ入力電流演算部417からインバータ入力電流I2を取得し、閾値優先順位制御部418から閾値I2lim*を取得する。過負荷補償制御部419は、インバータ入力電流I2と閾値I2lim*との比較によって、過負荷補償制御における過負荷補償制限比KlimOLを決定する。過負荷補償制御部419は、式(14)に示すように、速度指令ω*に、過負荷補償制限比KlimOLを乗算し、過負荷補償速度指令ωlimを生成する。なお、本稿では、過負荷補償制限比KlimOLを「第3の制限比」と記載し、過負荷補償制御部419を「第3の制限比乗算部」と記載することがある。
【0083】
【数14】
【0084】
速度指令ω*は、モータ駆動装置10が冷凍サイクル装置として空気調和機などに使用される場合、例えば、図示しない温度センサで検出された温度、図示しない操作部であるリモコンから指示される設定温度を示す情報、運転モードの選択情報、運転開始及び運転終了の指示情報などに基づくものである。運転モードとは、例えば、暖房、冷房、除湿などである。
【0085】
速度指令ω*は、過負荷補償制限比KlimOLと乗算されることで、一時的に回転速度を制限することが可能となる。回転速度を制限する場合の加減速制御は、モータ32の加減速レートに従って実施する。なお、本稿では、過負荷補償速度指令ωlimを「第3の補償値」と記載することがある。
【0086】
前述したように、速度制御部402は、過負荷補償速度指令ωlimと推定速度ωestとが一致するようにq軸電流指令Iqspを自動調整する。即ち、第1のトルク電流指令であるq軸電流指令Iqspは、第3の補償値である過負荷補償速度指令ωlimによって補償される。
【0087】
次に、閾値I2lim*について説明する。前述したように、閾値I2lim*は、インバータ入力電流I2を制限する制御に用いる制御パラメータである。閾値I2lim*は、モータ32の回転速度、モータ駆動装置10の周囲温度などによって変化する。本稿では、閾値I2lim*を「第4のリミット値」と記載することがある。
【0088】
閾値I2lim*は、q軸電流リミット値Iqlimに対して、インバータ5の放熱構造及び回路構成、コンデンサ容量、動作環境といった様々な要素の影響を受けるため、試験を行って値を決めると共に、試験で求めた値から10%程度のマージンを持たせた値とする。
【0089】
また、前述したように、閾値I2lim*に基づいて設定される負荷脈動補償制限比KlimAVS、電源脈動補償制限比KlimD2V及び過負荷補償制限比KlimOLの取りうる値の範囲は、3つ共に0以上、1以下となる。インバータ入力電流I2が閾値I2lim*以上、もしくは閾値I2lim*を超えた場合、各制限比の値を1から徐々に下げていく。3つの制限比のうちどれから下げるかの優先順位は、インバータ5の放熱構造及び回路構成、コンデンサ容量、動作環境といった様々な要素の影響を受けると共に、インバータ5に求められる性能、高速度域におけるモータ32の減磁限界などの影響も受ける。このため、優先順位についても、試験を行って決定することが望ましい。また、どこまで下げるのかの下限値についても、試験を行って決定することが望ましい。なお、閾値I2lim*を超えた場合の各制限比の下げ方について、基本は、インバータ入力電流I2の増加に合わせて線形的に下げていくことでよいが、高次関数を用いるなどして下げ幅を非線形にしても問題はない。
【0090】
以上のように、制御部6は、状況に応じて負荷脈動補償制限比KlimAVS、電源脈動補償制限比KlimD2V及び過負荷補償制限比KlimOLを変更することで、それらの値を的確に設定する。これにより、速度指令ω*に追従しつつ、電源脈動補償制御、負荷脈動補償制御及び過負荷補償制御を適切に実施することが可能となる。
【0091】
次に、上述した制御部6における各部の動作を、制御部6の全体から見た動作態様で説明する。図5は、実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部における要部の動作説明に供するフローチャートである。
【0092】
制御部6は、dq軸電流ベクトルIdqからインバータ入力電流I2を算出する(ステップS1)。
【0093】
制御部6は、予め定められた優先順位に従って、閾値I2lim*を電源脈動補償制御、負荷脈動補償制御及び過負荷補償制御を実施する制限部に送る(ステップS2)。ここで言う制限部は、上述した負荷脈動リミット部409、電源脈動リミット部413及び過負荷補償制御部419である。
【0094】
制御部6は、インバータ入力電流I2と閾値I2lim*とを比較して、負荷脈動補償制限比KlimAVS、電源脈動補償制限比KlimD2V及び過負荷補償制限比KlimOLを決定する(ステップS3)。
【0095】
制御部6は、速度指令ω*に過負荷補償制限比KlimOLを乗算し、過負荷補償速度指令ωlimを生成する(ステップS4)。過負荷補償速度指令ωlimは、速度指令ω*のリミット値として生成される。
【0096】
制御部6は、q軸電流リミット値Iqlimとq軸電流指令Iqspの絶対値との差分である第1のq軸電流マージンIqmarginを生成し、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSを生成する(ステップS5)。前述したように、負荷脈動補償制御用の電流リミット値IqlimAVSは、第1のq軸電流マージンIqmarginに負荷脈動補償制限比KlimAVSを乗算することで生成される。
【0097】
制御部6は、電流リミット値IqlimAVSの範囲内で負荷脈動補償制御を実施し、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSを生成する(ステップS6)。
【0098】
制御部6は、第1のq軸電流マージンIqmarginと負荷脈動補償q軸電流指令IqAVSとの差分である第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vを生成する(ステップS7)。前述したように、第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vは、電源脈動補償制御用のq軸電流マージンである。
【0099】
制御部6は、第2のq軸電流マージンIqmarginD2Vに電源脈動補償制限比KlimD2Vを乗算して、電源脈動補償制御用の電流リミット値IqlimD2Vを生成する(ステップS8)。
【0100】
制御部6は、電流リミット値IqlimD2Vの範囲内で電源脈動補償制御を実施し、電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vを生成する(ステップS9)。
【0101】
制御部6は、q軸電流指令Iqsp、負荷脈動補償q軸電流指令IqAVS、及び電源脈動補償制御用の電流振幅IqD2Vを加算して、q軸電流指令I*を生成する(ステップS10)。
【0102】
次に、制御部6のハードウェア構成について説明する。図6は、実施の形態1に係るモータ駆動装置が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。
【0103】
制御部6は、プロセッサ61及びメモリ62により実現される。プロセッサ61は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)、又はシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ62は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmabule Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリを例示できる。また、メモリ62は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
【0104】
以上説明したように、実施の形態1に係るモータ駆動装置は、整流部と、整流部の出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサの両端に接続されるインバータと、制御部とを備える。整流部は、商用電源から供給される第1の交流電力を整流する。インバータは、第2の交流電力を生成してモータに出力する。制御部は、コンデンサの電力状態に応じた脈動がモータの駆動パターンに重畳されるようにインバータの動作を制御し、コンデンサの充放電電流を抑制する。制御部は、モータの回転速度を制御する定電流負荷制御を優先して行いつつ、負荷脈動を補償する負荷脈動補償制御、コンデンサの充放電電流を抑制する電源脈動補償制御、及びインバータに入力されるインバータ入力電流を抑制する過負荷補償制御を行う。これにより、高負荷域及び高外気温環境下での駆動においても装置の信頼性の低下を抑制することが可能となる。また、インバータ入力電流を抑制することでモータ電流を抑制できるので、モータの減磁に起因する性能低下及び故障を防止することが可能となる。
【0105】
実施の形態1に係るモータ駆動装置において、制御部は、速度制御部と、負荷脈動補償制御部と、電源脈動補償制御部と、過負荷補償制御部とを備えた構成とすることができる。速度制御部は、回転座標系における定電流負荷制御用の指令である第1のトルク電流指令を生成する。負荷脈動補償制御部は、第1のトルク電流指令に対する第1のリミット値と第1のトルク電流指令との第1差分を用いて設定される第2のリミット値を用いて、負荷脈動補償制御用の第1の補償値を生成する。電源脈動補償制御部は、第1差分と第1の補償値との第2差分を用いて設定される第3のリミット値を用いて、電源脈動補償制御用の第2の補償値を生成する。過負荷補償制御部は、第4のリミット値を用いて、過負荷補償制御用の第3の補償値を生成する。
【0106】
上記の制御部の構成において、第2のリミット値は、第1差分と、0以上1以下の第1の制限比とを乗算することで生成される。第3のリミット値は、第2差分と、0以上1以下の第2の制限比とを乗算することで生成される。第3の補償値は、回転速度指令と、0以上1以下の第3の制限比と乗算することで生成される。これにより、モータを駆動するための電圧指令ベクトルの元となる第1のトルク電流指令は、第3の補償値によって補償されることになる。
【0107】
また、実施の形態1に係るモータ駆動装置において、第1のトルク電流指令は、第1から第3の制限比のうちの少なくとも1つによって制限され、第1から第3の制限比は優先順位を決めて使用される。或いは、第1のトルク電流指令は、第1から第3の制限比のうちの少なくとも1つによって制限され、第1から第3の制限比は下限値を決めて使用される。そして、第1から第3の制限比は、インバータ入力電流に基づいて変更され得る。これにより、速度指令に追従しつつ、電源脈動補償制御、負荷脈動補償制御及び過負荷補償制御を適切に実施することができる。その結果、速度指令に対し追従できない、又は負荷脈動補償が過補償になる、又は電源脈動補償が満足に制御できないなどといった事象の発生を抑止することが可能となる。
【0108】
実施の形態2.
実施の形態1では、負荷脈動補償制限比KlimAVS、電源脈動補償制限比KlimD2V、過負荷補償制限比KlimOLをインバータ入力電流I2に基づいて決定していた。実施の形態2では、これら3つの制限比を温度情報に基づいて決定する。なお、実施の形態2に係るモータ駆動装置の構成は、実施の形態1に係るモータ駆動装置10の構成と同様である。実施の形態2に係る制御部による処理の流れも、図5のフローチャートで示される処理の流れと同様である。実施の形態2では、実施の形態1と異なる部分のみを説明し、重複する内容の説明は、省略する。
【0109】
実施の形態2では、インバータ入力電流I2の代わりに、モータ駆動装置10において、温度上昇が厳しい箇所の温度情報に基づいて、負荷脈動補償制限比KlimAVS、電源脈動補償制限比KlimD2V及び過負荷補償制限比KlimOLを決定する。温度上昇が厳しい箇所の例は、インバータ5又はコンデンサ4aである。
【0110】
なお、温度情報は、熱電対などの温度センサを用いて直接検出するような取得方法でもよいし、温度センサを用いずに間接的に取得するような方法でもよい。一例として、対象部位に流入する電流による損失から、対象部位の温度を推定するような方法が挙げられる。
【0111】
以上説明したように、実施の形態2に係るモータ駆動装置によれば、実施の形態1に係るモータ駆動装置の構成及び制御において、第1から第3の制限比は、インバータ5又はコンデンサ4aの温度情報に基づいて変更され得る。これにより、速度指令に追従しつつ、電源脈動補償制御、負荷脈動補償制御及び過負荷補償制御を適切に実施することができる。その結果、実施の形態1と同様の効果、即ち、速度指令に対し追従できない、又は負荷脈動補償が過補償になる、又は電源脈動補償が満足に制御できないなどといった事象の発生を抑止することが可能となる。
【0112】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 商用電源、2 リアクトル、3 整流部、4 平滑部、4a コンデンサ、5 インバータ、6 制御部、7,8 電流検出部、10 モータ駆動装置、30 圧縮機、32 モータ、35 凝縮器、36 膨張弁、37 蒸発器、38 冷媒配管、61 プロセッサ、62 メモリ、100 冷凍サイクル装置、401 回転子位置推定部、402 速度制御部、403 弱め磁束制御部、404 電流制御部、405,406 座標変換部、407 PWM信号生成部、408,412 減算部、409 負荷脈動リミット部、410 負荷脈動補償制御部、411,415 加算部、413 電源脈動リミット部、414 電源脈動補償制御部、417 インバータ入力電流演算部、418 閾値優先順位制御部、419 過負荷補償制御部、420 q軸電流指令生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6