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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】変化検出装置及び変化検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
G01S13/90 176
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024523558
(86)(22)【出願日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2023028499
【審査請求日】2024-04-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有井 基文
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-215211(JP,A)
【文献】特開2015-215210(JP,A)
【文献】特開2023-065066(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115840202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR(Synthetic Aperture Radar)観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部により取得された2つの多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinに基づいて、前記観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、前記観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態を切り替えながら、送信偏波状態と前記観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する偏波状態決定部と、を備え、
前記偏波状態決定部は、
任意の送信偏波状態を選択したときに、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態を算出し、送信偏波状態を切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出処理と、受信偏波状態の算出処理とを繰り返し行い、全ての組み合わせ分の差分ΔPlinを互いに比較して、電力値の差分ΔPlinを最大化する、最適な送信偏波状態と受信偏波状態との組み合わせを決定し、
前記偏波状態決定部は、前記画像取得部により取得されたそれぞれの多偏波SAR画像の中から、前記偏波状態決定部により決定された組み合わせに対応する偏波成分を抽出する偏波成分抽出部、を備える、
変化検出装置。
【請求項2】
互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR(Synthetic Aperture Radar)観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部により取得された2つの多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinに基づいて、前記観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、前記観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態を切り替えながら、送信偏波状態と前記観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する偏波状態決定部と、を備え、
前記偏波状態決定部は、
任意の送信偏波状態を選択したときに、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態を算出し、送信偏波状態を切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出処理と、受信偏波状態の算出処理とを繰り返し行い、全ての組み合わせ分の差分ΔPlinを互いに比較して、電力値の差分ΔPlinを最大化する、最適な送信偏波状態と受信偏波状態との組み合わせを決定し、
前記画像取得部により取得されたそれぞれの多偏波SAR画像の中から、前記偏波状態決定部により決定された組み合わせに対応する偏波成分を抽出する偏波成分抽出部と、
前記偏波成分抽出部により抽出された複数の偏波成分の電力を互いに比較し、電力の比較結果に基づいて、前記観測対象の変化を検出する変化検出部と、を備える、
変化検出装置。
【請求項3】
前記偏波状態決定部は、以下の式に示される範囲において、
-90deg≦ψ≦90deg (9)
-45deg≦χ≦45deg (10)
orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出を繰り返し行う、
請求項1又は2に記載の変化検出装置。
【請求項4】
前記偏波状態決定部は、以下の式に示される範囲において、
-90deg≦ψ≦90deg (9)
-45deg≦χ≦45deg (10)
物理的に実現可能なアンテナ状態の最適化問題を解く、
請求項1又は2に記載の変化検出装置。
【請求項5】
画像取得部と、偏波成分抽出部を含む偏波状態決定部と、を備える変化検出装置の変化検出方法であって、
前記画像取得部が、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR(Synthetic Aperture Radar)観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得し、
前記偏波状態決定部が、前記画像取得部により取得された2つの多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinに基づいて、前記観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、前記観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態を切り替えながら、送信偏波状態と前記観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定し、
前記偏波成分抽出部が、前記画像取得部により取得されたそれぞれの多偏波SAR画像の中から、前記偏波状態決定部により決定された組み合わせに対応する偏波成分を抽出し、
前記偏波状態決定部は、
任意の送信偏波状態を選択したときに、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態を算出し、送信偏波状態を切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出処理と、受信偏波状態の算出処理とを繰り返し行い、全ての組み合わせ分の差分ΔPlinを互いに比較して、電力値の差分ΔPlinを最大化する、最適な送信偏波状態と受信偏波状態との組み合わせを決定する
変化検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変化検出装置及び変化検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
観測対象の撮影映像である複数のSAR(Synthetic Aperture Radar)画像を互いに比較することによって、観測対象の変化を検出する変化検出装置がある。
このような変化検出装置として、例えば、特許文献1には、変位抽出対象領域の画像である基準画像と、基準画像と異なる時刻に撮影された変位抽出対象領域の画像である対象画像とを比較し、基準画像と対象画像との比較結果に基づいて、変位抽出対象領域の変化を検出する変化検出装置が開示されている。基準画像及び対象画像のそれぞれは、単一偏波のSAR画像である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-65066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SAR画像に係る送信電波の偏波状態と、SAR画像に係る受信電波の偏波状態との組み合わせによって、変位抽出対象領域の変化が明瞭である場合と、変位抽出対象領域の変化が不明瞭である場合とがある。具体的には、SAR画像に係る送信電波の偏波状態が例えば垂直偏波であって、SAR画像に係る受信電波の偏波状態が例えば水平偏波であるときには、変位抽出対象領域の変化が明瞭である場合がある。これに対して、送信電波の偏波状態が例えば水平偏波であって、受信電波の偏波状態が例えば垂直偏波であるときには、変位抽出対象領域の変化が不明瞭である場合がある。
特許文献1に開示されている変化検出装置では、SAR画像が、単一偏波のSAR画像であって、多偏波SAR観測することによって得られた多偏波SAR画像ではない。このため、当該変化検出装置は、変位抽出対象領域の変化が明確となる、送信電波の偏波状態と受信電波の偏波状態との組み合わせを選択することができないという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、観測対象の変化が明確となる偏波状態の組み合わせを選択することができる変化検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る変化検出装置は、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR(Synthetic Aperture Radar)観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する画像取得部と、画像取得部により取得された2つの多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinに基づいて、観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態を切り替えながら、送信偏波状態と観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する偏波状態決定部と、を備え、偏波状態決定部は、任意の送信偏波状態を選択したときに、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態を算出し、送信偏波状態を切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出処理と、受信偏波状態の算出処理とを繰り返し行い、全ての組み合わせ分の差分ΔPlinを互いに比較して、電力値の差分ΔPlinを最大化する、最適な送信偏波状態と受信偏波状態との組み合わせを決定し、偏波状態決定部は、画像取得部により取得されたそれぞれの多偏波SAR画像の中から、偏波状態決定部により決定された組み合わせに対応する偏波成分を抽出する偏波成分抽出部、を備える、というものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、観測対象の変化が明確となる偏波状態の組み合わせを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る変化検出装置を示す構成図である。
図2】実施の形態1に係る変化検出装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図3】変化検出装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
図4】変化検出装置の処理手順である変化検出方法を示すフローチャートである。
図5】orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを示す説明図である。
図6図6Aは、水平な双極子に対するCo-PolのPSの一例を示す説明図、図6Bは、水平な双極子に対するCr-PolのPSの一例を示す説明図である。
図7】実施の形態2に係る変化検出装置を示す構成図である。
図8】実施の形態2に係る変化検出装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る変化検出装置を示す構成図である。
図2は、実施の形態1に係る変化検出装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図1に示す変化検出装置は、画像取得部1、偏波状態決定部2、偏波成分抽出部3及び変化検出部4を備えている。
【0011】
画像取得部1は、例えば、図2に示す画像取得回路11によって実現される。
画像取得部1は、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR(Synthetic Aperture Radar)観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する。
多偏波SAR画像は、送信電波の偏波状態が水平偏波で、受信電波の偏波状態が水平偏波であるときの偏波成分(以下「hh」という)と、送信電波の偏波状態が水平偏波で、受信電波の偏波状態が垂直偏波であるときの偏波成分(以下「hv」という)とを含んでいる。
また、多偏波SAR画像は、送信電波の偏波状態が垂直偏波で、受信電波の偏波状態が水平偏波であるときの偏波成分(以下「vh」という)と、送信電波の偏波状態が垂直偏波で、受信電波の偏波状態が垂直偏波であるときの偏波成分(以下「vv」という)とを含んでいる。
画像取得部1は、時系列の多偏波SAR画像を偏波状態決定部2及び偏波成分抽出部3のそれぞれに出力する。
【0012】
偏波状態決定部2は、例えば、図2に示す偏波状態決定回路12によって実現される。
偏波状態決定部2は、画像取得部1から、時系列の多偏波SAR画像を取得する。
偏波状態決定部2は、多偏波SAR画像の電力に基づいて、観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態と観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。
具体的には、偏波状態決定部2は、送信電波の偏波状態が、複数の偏波状態のうちの、いずれかの偏波状態であるとして、時系列の多偏波SAR画像の中の、いずれか2つの多偏波SAR画像の電力の差分を繰り返し算出する。そして、偏波状態決定部2は、算出した複数の差分を互いに比較し、差分の比較結果に基づいて、送信電波の偏波状態を決定し、送信電波の偏波状態と受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。
【0013】
偏波成分抽出部3は、例えば、図2に示す偏波成分抽出回路13によって実現される。
偏波成分抽出部3は、画像取得部1から、時系列の多偏波SAR画像を取得する。
偏波成分抽出部3は、それぞれの多偏波SAR画像の中から、偏波状態決定部2により決定された組み合わせに対応する偏波成分を抽出する。
偏波成分抽出部3は、抽出したそれぞれの偏波成分を変化検出部4に出力する。
【0014】
変化検出部4は、例えば、図2に示す変化検出回路14によって実現される。
変化検出部4は、偏波成分抽出部3から、複数の偏波成分を取得する。
変化検出部4は、複数の偏波成分の電力を互いに比較する。
変化検出部4は、電力の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出する。
変化検出部4は、観測対象の変化の検出結果を、例えば図示せぬ監視装置に出力する。監視装置としては、例えば、地域の災害発生状況を監視する装置がある。
【0015】
図1では、変化検出装置の構成要素である画像取得部1、偏波状態決定部2、偏波成分抽出部3及び変化検出部4のそれぞれが、図2に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、変化検出装置が、画像取得回路11、偏波状態決定回路12、偏波成分抽出回路13及び変化検出回路14によって実現されるものを想定している。
画像取得回路11、偏波状態決定回路12、偏波成分抽出回路13及び変化検出回路14のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0016】
変化検出装置の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、変化検出装置が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして、コンピュータのメモリに格納される。コンピュータは、プログラムを実行するハードウェアを意味し、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)が該当する。
【0017】
図3は、変化検出装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
変化検出装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、画像取得部1、偏波状態決定部2、偏波成分抽出部3及び変化検出部4におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムがメモリ21に格納される。そして、コンピュータのプロセッサ22がメモリ21に格納されているプログラムを実行する。
【0018】
また、図2では、変化検出装置の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図3では、変化検出装置がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、変化検出装置における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0019】
最初に、観測対象に対する多偏波SAR観測について説明する。
例えば、レーダによって観測される受信信号の電力Pは、送信偏波の状態を示す偏波状態ベクトルp→tと、受信偏波の状態を示す偏波状態ベクトルp→rと、HV基底で表現された散乱行列Sとによって、以下の式(1)のように表される。レーダによって観測される受信信号は、観測対象による反射後の電波を示す信号である。明細書の文書中では、電子出願の関係上、文字の上に“→”の記号を付することができないため、p→t、又は、p→rのように表記している。HV基底は、水平偏波hと垂直偏波vとよるベクトル空間を示すものである。
ここでは、偏波状態ベクトルp→t,p→rが、HV基底で表現されているものとしている。しかし、基底は、互いに直交する2つの偏波によるベクトル空間であればよく、水平偏波hと垂直偏波vとよるベクトル空間に限るものではない。
【0020】

式(1)~(3)において、全ての要素は、複素数である。
【0021】
レーダに搭載されるアンテナのアンテナベクトルAが、以下の式(5)のように表され、共分散行列Cが、以下の式(6)のように表される場合、受信信号の電力Pは、以下の式(4)のように変形することができる。
【0022】

式(4)~(6)において、Tは、転置行列を示す数学記号であり、*は、共役を示す数学記号である。
【0023】
複数の散乱体からの散乱をインコヒーレントに重ね合わせた状態は、以下の式(7)に示すように、共分散行列Cを用いることによって、アンサンブル平均で表現することができる。複数の散乱体からの散乱をインコヒーレントに重ね合わせた状態は、現実に受信する信号の状態である。
【0024】
【0025】
偏波状態ベクトルp→iは、以下の式(8)に示すように、orientation角ψとellipticity角χとを用いて表現することができる。
【0026】

【0027】
orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれは、図5に示すように、一般的な楕円偏波上で定義すれば、orientation角ψ及びellipticity角χにおけるそれぞれの角度範囲は、以下の式(9)~(10)のようになる。
-90deg≦ψ≦90deg (9)
-45deg≦χ≦45deg (10)
図5は、orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを示す説明図である。
図5において、hは、水平偏波の偏波方向を示し、vは、垂直偏波の偏波方向を示している。図5中の楕円は、楕円偏波を表している。
【0028】
多偏波SAR観測を行うことによって、複数の散乱行列Sが得られた場合、複数の散乱行列Sをアンサンブル平均することによって、共分散行列Cを得ることができる。式(7)に示す共分散行列Cに対して、式(9)~(10)に示す角度範囲で、orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを変化させながら、散乱係数を導出することができる。特に、送信の偏波状態と受信の偏波状態とが同じであるCo-Pol(Co-polarization)と、送信の偏波状態と受信の偏波状態とが直交するCr-Pol(Cross-polarization)とについて算出した受信電力を図示したものは、PS(Polarimetric Signature)と呼ばれる。
【0029】
例えば、水平な双極子(Dipole)に対するCo-PolのPSは、図6Aのようになり、水平な双極子(Dipole)に対するCr-PolのPSは、図6Bのようになる。
図6Aは、水平な双極子に対するCo-PolのPSの一例を示す説明図であり、図6Bは、水平な双極子に対するCr-PolのPSの一例を示す説明図である。
PSは、観測対象の状態を表す固有の情報であり、観測対象の状態とレーダにおけるセンサの状態とが変わらなければ、その形状は変わらない。また、現状、偏波SAR観測で広く使用される基底は、H偏波とV偏波とであり、その組み合わせは、Co-Pol(HH偏波とVV偏波)と、Cr-Pol(HV偏波とVH偏波)とであり、以下のように、角度が対応する。
Co-Pol
:HH@(ψ,χ)=(0,0)、VV@(ψ,χ)=(±90,0)
Cr-Pol
:VH@(ψ,χ)=(0,0)、HV@(ψ,χ)=(±90,0)
(11)
【0030】
したがって、観測対象の散乱状況を表現するPSを用いれば、観測対象の変化に対する偏波への感度は、次のように定義することができる。
偏波感度=観測対象の変化がPSの形状に与える影響
また、送受信におけるそれぞれのorientation角ψ及びellipticity角χと、観測対象のパラメータp(t)とを用いれば、偏波感度は、以下の式(12)のように表すことができる。
【0031】
式(12)において、pは、時間又は入射角等の観測条件、あるいは、連続的に変化する物理量を示すものである。連続的に変化する物理量としては、例えば、観測対象の高さ、又は、観測対象の生育状況がある。
【0032】
式(7)に示す受信信号の電力Pは、送信の偏波状態と受信の偏波状態とを切り離すことによって、以下の式(13)のように表すこともできる。
【0033】

【0034】
受信信号の電力Pを最大化する最適化は、式(7)に示す電力P、又は、式(13)に示す電力Pを最大化することに相当し、Lagrange未定乗数法を用いることによって最適化することができる。
式(7)に対してLagrange未定乗数法を適用すれば、以下の式(15)に示すような固有値問題となる。
【0035】

式(15)において、λは、固有値である。
【0036】
<[C]>が4×4の行列であるため、4つの固有値と、4つの固有ベクトルとが得られる。4つの固有値のうち、最大の固有値に対応する固有ベクトルが、受信信号の電力Pを最大化するアンテナベクトルとなる。
式(13)に対してLagrange未定乗数法を適用すれば、以下の式(16)に示すような固有値問題となる。
【0037】

【0038】
<[C’]>は、2×2の行列であるため、2つの固有値と、2つの固有ベクトルとが得られる。2つの固有値のうち、最大の固有値に対応する固有ベクトルが、受信信号の電力Pを最大化する受信偏波状態となる。
【0039】
式(15)は、送信と受信との双方をまとめて最適化しているのに対して、式(16)は、任意の送信偏波状態について、受信偏波状態を最適化している点で相違している。
前者は純数学的な最適化であり、後者より高い受信電力を得ることを期待できる反面、得られたアンテナベクトルからorientation角ψとellipticity角χとを復元できる保証はない。即ち、物理的に実現不可能なアンテナ状態で最適化される可能性がある。一方、後者は、それらの角度を常に復元でき、物理的な偏波状態を知ることができる反面、最大化の選択肢は、それらの角度範囲内に制限される。
式(13)において、送信偏波状態は、指定したψとχとよって、任意に決められる。一方、以下の式(17)~(18)に示すように、最適化された受信偏波状態から、 次のように、ψとχとを復元することができる。
上記の最適化によって、一対の(ψ,χ)に対して、一対の(ψ,χ)を決めることができる。
【0040】

【0041】
次に、図1に示す変化検出装置の動作について説明する。
図4は、変化検出装置の処理手順である変化検出方法を示すフローチャートである。
画像取得部1は、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する(図4のステップST1)。
画像取得部1は、時系列の多偏波SAR画像を偏波状態決定部2及び偏波成分抽出部3のそれぞれに出力する。
ここでは説明の便宜上、時系列の多偏波SAR画像として、画像取得部1が、2つの時刻の多偏波SAR画像を取得するものとする。
また、2つの時刻の多偏波SAR画像のうち、イベントが発生する前に観測された多偏波SAR画像の電力値は、Pbeforeであり、イベントが発生した後に観測された多偏波SAR画像の電力値は、Pafterであるものとする。
【0042】
偏波状態決定部2は、画像取得部1から、2つの時刻の多偏波SAR画像を取得する。
偏波状態決定部2は、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力に基づいて、観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態と観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。
具体的には、偏波状態決定部2は、以下の式(20)に示すように、イベントが発生した後に観測された多偏波SAR画像の電力値Pafterと、イベントが発生する前に観測された多偏波SAR画像の電力値Pbeforeとの差分ΔPlinを算出する(図4のステップST2)。
ΔPlin=Pafter-Pbefore (20)
【0043】
ここでは、偏波状態決定部2が、画像取得部1から、2つの時刻の多偏波SAR画像を取得して、多偏波SAR画像の電力値Pafterと多偏波SAR画像の電力値Pbeforeとの差分ΔPlinを算出している。しかし、これは一例に過ぎず、偏波状態決定部2が、画像取得部1から、複数の時刻の多偏波SAR画像を取得し、複数の時刻の多偏波SAR画像の中の、いずれか2つの多偏波SAR画像の電力の差分ΔPlinを算出するようにしてもよい。
【0044】
式(20)に示す差分ΔPlinは、式(13)を用いることによって、以下の式(21)のように表すことができる。
【0045】

【0046】
偏波状態決定部2は、式(9)に示す範囲及び式(10)に示す範囲において、orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを任意に選択することによって、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を選択する。
偏波状態決定部2は、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を選択したのち、式(16)に対してLagrange未定乗数法を適用することによって、以下の式(22)に示すように、電力値の差分ΔPlinの最大値を算出する。
【0047】

【0048】
<[C’]>は、2×2の行列であるため、2つの固有値と、2つの固有ベクトルとが得られる。
偏波状態決定部2は、式(12)に示す偏波感度を最大化するために、絶対値が最大の固有値に対応する固有ベクトルvを最適な受信偏波状態として求める。これにより、例えば、前後の観測に伴い、電力が増加する場合にも減少する場合にも対応できる。
【0049】
具体的には、偏波状態決定部2は、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を選択したのち、以下の式(23)に示すように、電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態(ψ,χ)を算出する(図4のステップST3)。
【0050】

【0051】
任意の送信偏波状態(ψ,χ)に対応する最大化された電力値の差分ΔPlinであるΔP(ψ,χ)は、以下の式(24)に示すように、受信偏波状態(ψ,χ)を用いて表すことが可能である。
【0052】

【0053】
なお、偏波状態決定部2は、式(9)に示す範囲及び式(10)に示す範囲において、orientation角ψ及びellipticity角χのそれぞれを切り替えながら、電力値の差分ΔPlinの算出処理(図4のステップST2)と、受信偏波状態(ψ,χ)の算出処理(図4のステップST3)とを繰り返し行う。
即ち、偏波状態決定部2は、orientation角ψ及びellipticity角χの全ての組み合わせについて、受信偏波状態(ψ,χ)の算出が完了するまで(図4のステップST4がYESになるまで)、電力値の差分ΔPlinの算出処理(図4のステップST2)と、受信偏波状態(ψ,χ)の算出処理(図4のステップST3)とを繰り返し行う(図4のステップST4がNOの場合)。
偏波状態決定部2は、組み合わせ分の差分ΔP(ψ,χ)の絶対値を互いに比較して、絶対値が最大の差分ΔP(ψ,χ)を特定する。
偏波状態決定部2は、最適な送信偏波状態(ψ opt,χ opt)として、複数の組み合わせの中で、特定した差分ΔP(ψ,χ)に対応する組み合わせに含まれるorientation角ψ及びellipticity角χに係る、送信偏波状態(ψ opt,χ opt)を決定する(図4のステップST5)。
この結果、以下の式(25)及び式(26)に示すように、電力値の差分ΔPlinを最大化する、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)が決定される。最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)に含まれる(ψ opt,χ opt)は、最適な送信偏波状態(ψ opt,χ opt)であり、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)に含まれる(ψ opt,χ opt)は、電力値の差分ΔPlinの最大値に対応する受信偏波状態(ψ,χ)である。
偏波状態決定部2は、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)を示す情報を偏波成分抽出部3に出力する。
【0054】

【0055】
偏波成分抽出部3は、画像取得部1から、時系列の多偏波SAR画像を取得する。
偏波成分抽出部3は、偏波状態決定部2から、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)を示す情報を取得する。
偏波成分抽出部3は、それぞれの多偏波SAR画像の中から、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)に対応する偏波成分を抽出する(図4のステップST6)。
例えば、ψ opt=χ opt=0であって、ψ opt=90,χ opt=0であれば、偏波成分抽出部3は、送信偏波の偏波状態が水平偏波であって、受信電波の偏波状態が垂直偏波であるときの偏波成分を抽出する。
例えば、ψ opt==90,χ opt=0であって、ψ opt=χ opt=0であれば、偏波成分抽出部3は、送信偏波の偏波状態が垂直偏波であって、受信電波の偏波状態が水平偏波であるときの偏波成分を抽出する。
偏波成分抽出部3は、それぞれの多偏波SAR画像の中から抽出した偏波成分を変化検出部4に出力する。
【0056】
変化検出部4は、偏波成分抽出部3から、複数の偏波成分を取得する。
変化検出部4は、複数の偏波成分の電力を互いに比較する。
変化検出部4は、電力の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出する(図4のステップST7)。
具体的には、変化検出部4は、複数の偏波成分のうち、例えば、時刻tの偏波成分の電力と、時刻tの偏波成分の電力との差分が、閾値Th以上であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていると判断する。
変化検出部4は、時刻tの偏波成分の電力と、時刻tの偏波成分の電力との差分が、閾値Th未満であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていないと判断する。
閾値Thは、変化検出部4の内部メモリに格納されていてもよいし、図1に示す変化検出装置の外部から与えられるものであってもよい。
変化検出部4は、観測対象の変化の検出結果を、例えば図示せぬ監視装置に出力する。
【0057】
以上の実施の形態1では、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する画像取得部1と、画像取得部1により取得された多偏波SAR画像の電力に基づいて、観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態と観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する偏波状態決定部2とを備えるように、変化検出装置を構成した。したがって、変化検出装置は、観測対象の変化が明確となる偏波状態の組み合わせを選択することができる。
【0058】
図1に示す変化検出装置では、偏波状態決定部2が、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値が線形空間で表現されているものとして、式(20)に示すように、多偏波SAR画像の電力値Pafterと多偏波SAR画像の電力値Pbeforeとの差分ΔPlinを算出している。
しかしながら、レーダ信号は、ダイナミックレンジが広いために、2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値が対数空間(dB)で表現される場合がある。この場合、偏波状態決定部2は、送信電波の偏波状態が、複数の偏波状態のうちの、いずれかの偏波状態であるとして、時系列の多偏波SAR画像の中の、いずれか2つの多偏波SAR画像の電力の比を繰り返し算出する。具体的には、偏波状態決定部2は、以下の式(27)に示すように、多偏波SAR画像の電力値Pafterと、多偏波SAR画像の電力値Pbeforeとの比ΔPlogを算出する。
【0059】

【0060】
対数空間では、以下の式(28)に示すように、電力値の比ΔPlogが、電力値Pafterと電力値Pbeforeとの比で表される。
【0061】

【0062】
偏波状態決定部2は、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を決めたのち、式(16)に対してLagrange未定乗数法を適用することによって、以下の式(29)に示すように、電力値の比ΔPlogを最適化するラグランジュ乗数をλとして、評価関数fを設定する。
【0063】

式(29)において、dは、任意の定数である。
【0064】
この場合、偏波状態決定部2は、dが任意の定数であるとして、以下の式(30)が成立する前提の下で、式(28)の分子を最大化することを想定する。式(29)を微分して0とおくと、以下の式(31)が得られる。
【0065】

【0066】
<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λは、電力比Pafter/Pbeforeに相当し、式(28)より、全ての固有値λが正の実数になる。
2つの時刻の多偏波SAR画像の電力値が線形空間で表現されている場合と同様に、Pafter>Pbeforeの場合だけでなく、Pafter<Pbeforeの場合でも、電力比Pafter/Pbeforeの感度を最大にするために、電力比Pafter/Pbeforeの逆数についても考慮しなければならない。
このため、式(31)は、以下の式(32)のように変形する。
【0067】

【0068】
式(29)より、固有値λ’は、以下の式(33)のように表される。
【0069】

【0070】
これにより、電力比Pafter/Pbeforeの感度を最大にする受信偏波状態は、以下の式(34)に示すように、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λと、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λの逆数λ’とのうち、大きい方に対応する固有ベクトルとなる。このため、偏波状態決定部2は、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λと、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λの逆数λ’とのうち、大きい方を選択し、大きい方に対応する固有ベクトルを求める。
ここでは、偏波状態決定部2が、式(31)に従って、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λの逆数λ’を算出している。しかし、これは一例に過ぎず、偏波状態決定部2は、直接、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λ’を算出するようにしてもよい。この場合、偏波状態決定部2は、以下の式(35)に示すように、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λと、<[Cbefore]>-1<[Cafter]>の固有値λ’とのうち、大きい方の固有値を選択し、大きい方の固有値に対応する固有ベクトルを求める。
【0071】

【0072】
図1に示す変化検出装置では、偏波状態決定部2が、電力値の差分ΔPlin、又は、電力比Pafter/Pbeforeを物理的に最適化している。しかし、これは一例に過ぎず、偏波状態決定部2が、電力値の差分ΔPlin、又は、電力比Pafter/Pbeforeを数学的に最適化するようにしてもよい。
【0073】
電力値の差分ΔPlin、又は、電力比Pafter/Pbeforeを物理的に最適化する代わりに、数学的に最適化する場合、偏波状態決定部2は、以下の式(36)又は式(37)に示すように、2×2の共分散行列<[C’]>の代わりに、4×4の共分散行列<[C]>を使用する。また、偏波状態決定部2は、式(36)又は式(37)に示すように、最適化するベクトルを、2×1のR→*から、4×1のA→*に置き換える。これにより、固有値の数が、2から4に増加する。
【0074】

【0075】
この場合、最適なベクトルA→*から、最適化された受信偏波状態(ψ,χ)が求まる。このため、偏波状態決定部2が、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を決定する必要がない。よって、送信偏波状態(ψ,χ)の変更に伴う処理ループが不要になる。
【0076】
実施の形態2.
実施の形態2では、変化検出部6が、偏波状態決定部5により決定された、複数の多偏波SAR画像についての偏波状態を互いに比較し、偏波状態の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出する変化検出装置について説明する。
【0077】
図7は、実施の形態2に係る変化検出装置を示す構成図である。図7において、図1と同一符号は、同一又は相当部分を示すので、詳細な説明を省略する。
図8は、実施の形態1に係る変化検出装置のハードウェアを示すハードウェア構成図である。図8において、図2と同一符号は、同一又は相当部分を示すので、詳細な説明を省略する。
図7に示す変化検出装置は、画像取得部1、偏波状態決定部5及び変化検出部6を備えている。
【0078】
偏波状態決定部5は、例えば、図8に示す偏波状態決定回路15によって実現される。
偏波状態決定部5は、画像取得部1から、時系列の多偏波SAR画像を取得する。
偏波状態決定部5は、それぞれの多偏波SAR画像の電力に基づいて、それぞれの多偏波SAR画像についての偏波状態として、送信電波の偏波状態と受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。
【0079】
変化検出部6は、例えば、図8に示す変化検出回路16によって実現される。
変化検出部6は、偏波状態決定部5により決定された、複数の多偏波SAR画像についての偏波状態を互いに比較する。
変化検出部6は、偏波状態の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出する。
【0080】
図7では、変化検出装置の構成要素である画像取得部1、偏波状態決定部5及び変化検出部6のそれぞれが、図8に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、変化検出装置が、画像取得回路11、偏波状態決定回路15及び変化検出回路16によって実現されるものを想定している。
画像取得回路11、偏波状態決定回路15及び変化検出回路16のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0081】
変化検出装置の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、変化検出装置が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
変化検出装置が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、画像取得部1、偏波状態決定部5及び変化検出部6におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムが図3に示すメモリ21に格納される。そして、図3に示すプロセッサ22がメモリ21に格納されているプログラムを実行する。
【0082】
また、図8では、変化検出装置の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図3では、変化検出装置がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、変化検出装置における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0083】
次に、図7に示す変化検出装置の動作について説明する。
画像取得部1は、互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する。
画像取得部1は、時系列の多偏波SAR画像を偏波状態決定部5に出力する。
【0084】
偏波状態決定部5は、画像取得部1から、時系列の多偏波SAR画像を取得する。
偏波状態決定部5は、それぞれの多偏波SAR画像の電力に基づいて、それぞれの多偏波SAR画像についての偏波状態として、送信電波の偏波状態と受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。
以下、偏波状態決定部5による組み合わせの決定処理を具体的に説明する。
【0085】
それぞれの多偏波SAR画像の電力Pは、式(13)を用いることによって、以下の式(38)のように表すことができる。
【0086】

【0087】
偏波状態決定部5は、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を選択したのち、式(16)に対してLagrange未定乗数法を適用することによって、以下の式(39)に示すように、それぞれの多偏波SAR画像の電力Pを最適化する。
【0088】

【0089】
<[C’]>は、2×2の行列であるため、2つの固有値と、2つの固有ベクトルとが得られる。
偏波状態決定部5は、式(12)に示す偏波感度を最大化するために、絶対値が最大の固有値に対応する固有ベクトルvを最適な受信偏波状態として求める。
【0090】
具体的には、偏波状態決定部5は、任意の送信偏波状態(ψ,χ)を選択したのち、以下の式(40)に示すように、電力Pの最大値に対応する受信偏波状態(ψ,χ)を算出する。
【0091】

【0092】
任意の送信偏波状態(ψ,χ)に対応する最大化された電力PであるP(ψ,χ)は、以下の式(41)に示すように、受信偏波状態(ψ,χ)を用いて表すことが可能である。
【0093】

【0094】
偏波状態決定部5は、式(9)に示す範囲内のorientation角ψ及び式(10)に示す範囲内のellipticity角χにおいて、以下の式(42)に示すように、電力P(ψ,χ)を算出する。
そして、偏波状態決定部5は、電力P(ψ,χ)の絶対値が最大となる送信偏波状態(ψ opt,χ opt)を決定する。
以上により、以下の式(43)に示すように、電力Pを最大化する、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)が決定される。
偏波状態決定部5は、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)を示す情報を変化検出部6に出力する。
【0095】

【0096】
変化検出部6は、偏波状態決定部5から、それぞれの多偏波SAR画像についての多偏波による偏波状態として、最適な偏波状態(ψ opt,χ opt,ψ opt,χ opt)を示す情報を取得する。
変化検出部6は、時系列の多偏波SAR画像についての偏波状態を互いに比較する。
変化検出部6は、偏波状態の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出する。
具体的には、変化検出部6は、複数の多偏波SAR画像についての偏波状態のうち、例えば、時刻tの偏波状態と、時刻tの偏波状態との差分が、閾値Thp以上であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていると判断する。
即ち、変化検出部6は、時刻tのψ optと時刻tのψ optとの差分、時刻tのχ optと時刻tのχ optとの差分、時刻tのψ optと時刻tのψ optとの差分、又は、時刻tのχ optと時刻tのχ optとの差分のうち、いずれかの差分が、閾値Thp以上であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていると判断する。
変化検出部6は、時刻tの偏波状態と、時刻tの偏波状態との差分が、閾値Thp未満であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていないと判断する。
即ち、変化検出部6は、時刻tのψ optと時刻tのψ optとの差分、時刻tのχ optと時刻tのχ optとの差分、時刻tのψ optと時刻tのψ optとの差分、及び、時刻tのχ optと時刻tのχ optとの差分の全てが、閾値Thp未満であれば、時刻tから時刻tの間に、観測対象に変化が生じていないと判断する。
閾値Thpは、変化検出部6の内部メモリに格納されていてもよいし、図7に示す変化検出装置の外部から与えられるものであってもよい。
変化検出部6は、観測対象の変化の検出結果を、例えば図示せぬ監視装置に出力する。
【0097】
以上の実施の形態2では、偏波状態決定部5が、画像取得部により取得されたそれぞれの多偏波SAR画像の電力に基づいて、それぞれの多偏波SAR画像についての偏波状態として、送信電波の偏波状態と受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する。そして、変化検出部6が、偏波状態決定部5により決定された、複数の多偏波SAR画像についての偏波状態を互いに比較し、偏波状態の比較結果に基づいて、観測対象の変化を検出するように、変化検出装置を構成した。したがって、変化検出装置は、観測対象の変化が明確となる偏波状態の組み合わせに基づいて、観測対象の変化を検出することができる。
【0098】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示は、変化検出装置及び変化検出方法に適している。
【符号の説明】
【0100】
1 画像取得部、2 偏波状態決定部、3 偏波成分抽出部、4 変化検出部、5 偏波状態決定部、6 変化検出部、11 画像取得回路、12 偏波状態決定回路、13 偏波成分抽出回路、14 変化検出回路、15 偏波状態決定回路、16 変化検出回路、21 メモリ、22 プロセッサ。
【要約】
互いに異なる複数の時刻において、観測対象を多偏波SAR観測することによって得られた時系列の多偏波SAR画像を取得する画像取得部(1)と、画像取得部(1)により取得された多偏波SAR画像の電力に基づいて、観測対象の変化の検出に用いる偏波状態として、観測対象に向けて放射される送信電波の偏波状態と観測対象による反射後の電波である受信電波の偏波状態との組み合わせを決定する偏波状態決定部(2)とを備えるように、変化検出装置を構成した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8