(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】信号解析装置、制御回路、記憶媒体および信号解析方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/89 20060101AFI20241129BHJP
G01S 7/41 20060101ALI20241129BHJP
G01S 13/86 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
G01S13/89
G01S7/41
G01S13/86
(21)【出願番号】P 2024525535
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2022033281
(87)【国際公開番号】W WO2024052962
(87)【国際公開日】2024-03-14
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】秋山 祐治
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-507718(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0179007(US,A1)
【文献】国際公開第2020/208627(WO,A1)
【文献】特開2011-149805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0041555(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
G01N22/00-22/04
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナから観測領域に送信する送信部と、
前記送信部から送信された信号を、前記観測領域を介して複数の受信アンテナで受信し、前記複数の受信アンテナで受信された受信信号と前記チャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する受信部と、
デジタル信号に変換された前記複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで前記複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、前記少数の値を用いて前記観測領域の粗い反射率分布を推定し、前記粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、前記観測領域について前記粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する受信処理部と、
を備えることを特徴とする信号解析装置。
【請求項2】
前記受信処理部は、前記観測領域を撮影するカメラで撮影された情報を
併せて用いて前記粗い反射率分布を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項3】
前記受信処理部は、前記周波数領域の値をまとめる際、有意な値のない周波数領域の部分を除去する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項4】
前記チャープ信号は、連続チャープ信号である、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項5】
前記チャープ信号は、ステップチャープ信号である、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項6】
前記チャープ信号は、周波数ホッピング信号である、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項7】
前記チャープ信号の生成を制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記チャープ信号を生成する発信器の動作を制御することで、前記チャープ信号を前記送信部および前記受信部に分配する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項8】
前記チャープ信号の生成を制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記チャープ信号を生成するデジタルアナログコンバータの動作を制御することで、前記チャープ信号を前記送信部および前記受信部に分配する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項9】
前記受信処理部は、前記粗い反射率分布を推定する粗推定を、前記粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する精推定よりも頻繁に行い、前記粗推定で推定された前記粗い反射率分布に基づいて、観測対象の物体が前記観測領域において観測に適した位置に存在していると判定した場合、前記精推定を行う、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の信号解析装置。
【請求項10】
信号解析装置を制御するための制御回路であって、
同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナから観測領域に送信、
送信された信号を、前記観測領域を介して複数の受信アンテナで受信し、前記複数の受信アンテナで受信された受信信号と前記チャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換、
デジタル信号に変換された前記複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで前記複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、前記少数の値を用いて前記観測領域の粗い反射率分布を推定し、前記粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、前記観測領域について前記粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定、
を前記信号解析装置に実施させることを特徴とする制御回路。
【請求項11】
信号解析装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記プログラムは、
同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナから観測領域に送信、
送信された信号を、前記観測領域を介して複数の受信アンテナで受信し、前記複数の受信アンテナで受信された受信信号と前記チャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換、
デジタル信号に変換された前記複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで前記複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、前記少数の値を用いて前記観測領域の粗い反射率分布を推定し、前記粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、前記観測領域について前記粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定、
を前記信号解析装置に実施させることを特徴とする記憶媒体。
【請求項12】
信号解析装置の信号解析方法であって、
送信部が、同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナから観測領域に送信する第1のステップと、
受信部が、前記送信部から送信された信号を、前記観測領域を介して複数の受信アンテナで受信し、前記複数の受信アンテナで受信された受信信号と前記チャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、前記複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する第2のステップと、
受信処理部が、デジタル信号に変換された前記複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで前記複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、前記少数の値を用いて前記観測領域の粗い反射率分布を推定し、前記粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、前記観測領域について前記粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する第3のステップと、
を含むことを特徴とする信号解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受信信号の信号処理を行う信号解析装置、制御回路、記憶媒体および信号解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アレイアンテナで受信された信号に対して3D-MIMO(three dimensions-Multi Input Multi Output)処理を行うことによって、物体の立体形状を推定することが行われている。しかしながら、3D-MIMO処理によって広帯域のRF(Radio Frequency)信号から分解能の高い立体形状を得る場合、多数のアレイ受信信号から立体の反射率分布を表す非常に多くの格子点の反射率を推定するという巨大な逆問題を解く必要があり、信号処理負荷が極めて重くなる。このような問題に対して、特許文献1には、信号処理負荷を削減する手法として、光学カメラによって物体の粗い存在位置を測定し、物体の粗い存在位置の情報を基に反射率分布がスパースであると仮定して処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0291148号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、反射率分布がスパースであると仮定して処理を行うため、反射率、照射RFパワーなどに幅がある場合、また、物体の形状が複雑な場合など、スパース推定が困難となる場合には適用できない、という問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、受信信号の信号処理負荷を抑制可能な信号解析装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の信号解析装置は、同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナから観測領域に送信する送信部と、送信部から送信された信号を、観測領域を介して複数の受信アンテナで受信し、複数の受信アンテナで受信された受信信号とチャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する受信部と、デジタル信号に変換された複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、少数の値を用いて観測領域の粗い反射率分布を推定し、粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、観測領域について粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する受信処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る信号解析装置は、受信信号の信号処理負荷を抑制できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る信号解析装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部の構成例を示す図
【
図3】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部が備えるビニング部の構成例を示す図
【
図4】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部の受信処理によって得られる反復精推定の収束回数削減効果の例を示す図
【
図5】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部の受信処理によって得られる収束時間削減効果の例を示す図
【
図6】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部の受信処理によって得られる推定誤り削減効果の例を示す図
【
図7】実施の形態1に係る信号解析装置の受信処理部の受信処理によって得られる推定SNR(Signal to Noise Ratio)向上効果の例を示す図
【
図8】実施の形態1に係る信号解析装置の動作を示すフローチャート
【
図9】実施の形態1に係る信号解析装置を実現する処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図
【
図10】実施の形態1に係る信号解析装置を実現する処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図
【
図11】実施の形態2に係る信号解析装置100aの構成例を示す図
【
図12】実施の形態2に係る信号解析装置100bの構成例を示す図
【
図13】実施の形態3に係る信号解析装置の構成例を示す図
【
図14】実施の形態3に係る信号解析装置の受信処理部の構成例を示す第1の図
【
図15】実施の形態3に係る信号解析装置の受信処理部の構成例を示す第2の図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態に係る信号解析装置、制御回路、記憶媒体および信号解析方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る信号解析装置100の構成例を示す図である。信号解析装置100は、制御部101と、チャープ信号生成部102と、送信信号生成部103と、複数のDAC(Digital Analog Converter)104と、複数のミキサ105と、複数の送信アンテナ106と、複数の受信アンテナ108と、複数のミキサ109と、複数のADC(Analog Digital Converter)110と、受信処理部111と、物体検出部112と、を備える。信号解析装置100は、複数のDAC104、複数のミキサ105、および複数の送信アンテナ106によって送信部113を構成しており、複数の受信アンテナ108、複数のミキサ109、および複数のADC110によって受信部114を構成している。なお、DAC104の数およびミキサ105の数は、送信アンテナ106の数と同じであり、ミキサ109の数およびADC110の数は、受信アンテナ108の数と同じである。送信アンテナ106の数および受信アンテナ108の数は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0011】
制御部101は、信号解析装置100の動作を制御する。具体的には、制御部101は、チャープ信号生成部102による高周波チャープ信号の生成、送信信号生成部103による送信信号の生成、受信処理部111による受信処理、物体検出部112による物体の検出などを制御する。なお、制御部101は、図示しない外部の装置との間で通信を行い、外部の装置からの指示などに基づいて、信号解析装置100の動作を制御してもよい。
【0012】
チャープ信号生成部102は、制御部101の制御に基づいて、同期された複数の高周波チャープ信号を生成し、複数のミキサ105および複数のミキサ109に出力する。チャープ信号生成部102で生成される高周波チャープ信号は、時間とともに周波数が増加するアップチャープの信号でもよいし、時間とともに周波数が減少するダウンチャープの信号でもよい。また、チャープ信号生成部102で生成される高周波チャープ信号は、周波数を連続して掃引する連続チャープ信号でもよいし、周波数を段階的に不連続に変化させるステップチャープ信号でもよいし、周波数をより不規則に不連続に変化させる周波数ホッピング信号でもよい。以降の説明において、高周波チャープ信号のことを単にチャープ信号と称することがある。
【0013】
信号解析装置100において、制御部101は、高周波チャープ信号を生成する発信器であるチャープ信号生成部102の動作を制御することで、高周波チャープ信号を送信部113および受信部114に分配する。
【0014】
送信信号生成部103は、制御部101の制御に基づいてデジタル信号である送信信号を生成し、複数のDAC104に出力する。
【0015】
複数のDAC104は、各々、送信信号生成部103で生成された送信信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0016】
複数のミキサ105は、各々、1つのDAC104に接続され、さらにチャープ信号生成部102に接続され、チャープ信号生成部102で生成された高周波チャープ信号を、DAC104で変換されたアナログ信号の送信信号を用いて変調する。
【0017】
複数の送信アンテナ106は、各々、1つのミキサ105に接続され、ミキサ105で変調されたチャープ信号を観測領域107に向けて送信する。なお、図示を省略しているが、信号解析装置100は、送信アンテナ106から送信する前のチャープ信号を、増幅器などを用いて適宜増幅する。
【0018】
複数の受信アンテナ108は、各々、複数の送信アンテナ106から送信され、観測領域107において散乱され、または吸収された信号を受信する。なお、図示を省略しているが、信号解析装置100は、受信アンテナ108で受信された信号を、増幅器などを用いて適宜増幅する。
【0019】
複数のミキサ109は、各々、1つの受信アンテナ108に接続され、さらにチャープ信号生成部102に接続され、受信アンテナ108で受信された信号と、チャープ信号生成部102で生成された高周波チャープ信号とを混合し、ベースバンドの受信信号を生成する。
【0020】
複数のADC110は、各々、1つのミキサ109に接続され、ミキサ109で生成されたベースバンドの受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0021】
受信処理部111は、制御部101の制御に基づいて、複数のADC110でデジタル信号に変換された複数の受信信号に対して信号処理などを行う。
【0022】
物体検出部112は、制御部101の制御に基づいて、受信処理部111で信号処理が施された信号を用いて観測領域107における物体の検出などを行う。
【0023】
受信処理部111の構成について詳細に説明する。
図2は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111の構成例を示す図である。受信処理部111は、複数のFFT(Fast Fourier Transform)201と、複数のビニング部202と、粗推定部203と、反復精推定部204と、を備える。なお、FFT201の数およびビニング部202の数は、受信アンテナ108の数と同じ、すなわちミキサ109の数およびADC110の数と同じである。
【0024】
複数のFFT201は、各々、1つのADC110に接続され、ADC110でデジタル信号に変換された受信信号の値を、時間領域の値から周波数領域の値に変換する。
【0025】
複数のビニング部202は、各々、1つのFFT201に接続され、FFT201で変換された周波数領域の値に対して、多数の値を少数の値にまとめる処理を施す。
【0026】
粗推定部203は、複数のビニング部202でまとめられた値を用いて粗い反射率分布を推定する。粗推定部203による粗い反射率分布の推定を粗推定と称する。
【0027】
反復精推定部204は、粗推定部203で推定された粗い反射率分布を初期値として、反復的処理によって精度の高い反射率分布を推定する。粗推定部203による粗い反射率分布の推定よりも精度の高い反復精推定部204による反射率分布の推定を精推定と称する。
【0028】
なお、受信処理部111は、粗推定部203による粗推定を、粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する反復精推定部204による精推定よりも頻繁に行い、粗推定部203の粗推定で推定された粗い反射率分布に基づいて、観測対象の物体が観測領域107において観測に適した位置に存在していると判定した場合、反復精推定部204による精推定を行うようにしてもよい。これにより、受信処理部111は、信号処理の実施効率を向上させることができる。
【0029】
以上のような受信処理部111の信号処理によって得られた反射率分布情報を用いて、物体検出部112は、観測領域107において、物体の検出、物体の識別、物体の位置の判定といった処理を行う。これにより、信号解析装置100は、例えば、観測領域107において、危険物、検査の必要な物体などを検出し、信号解析装置100を扱う者に対して通知するといった機能を実現することができる。
【0030】
ここで、受信処理部111が備えるビニング部202の構成について詳細に説明する。
図3は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111が備えるビニング部202の構成例を示す図である。ビニング部202は、合算部301と、除去部302と、を備える。
【0031】
合算部301は、FFT201で変換された周波数領域の値について、いくつかの周波数領域で隣接する値を合算する。例えば、合算部301は、FFT201においてある周波数の範囲の成分が検出されていた場合、当該周波数の範囲、すなわち周波数領域の値を合算する。ある周波数の範囲については、送信アンテナ106から送信され、受信アンテナ108で受信される信号の周波数、観測領域107で観測対象の物体によって散乱され、または吸収されることが想定される周波数などに応じて適宜設定しておいてもよい。合算部301は、例えば、ある周波数の範囲の周波数領域の値を、当該周波数の範囲の中心周波数にまとめてもよいし、当該周波数の範囲の中で最も密な周波数帯にまとめてもよい。
【0032】
除去部302は、合算部301による合算処理の後、有意な値の無い周波数領域の部分の値を削除する。除去部302は、例えば、規定された大きさの周波数領域の値、すなわち規定された大きさの周波数成分の無い周波数の部分の値を削除する。規定された大きさの周波数領域の値については、例えば、周波数領域の値の絶対値に基づいて判定してもよい。除去部302は、削除処理の後に残った有意な値、および有意な値が散在する周波数領域を表すインデックス情報を粗推定部203に出力する。
【0033】
つぎに、本実施の形態の信号解析装置100の受信処理部111の受信処理によって得られる効果について説明する。
図4は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111の受信処理によって得られる反復精推定の収束回数削減効果の例を示す図である。
図5は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111の受信処理によって得られる収束時間削減効果の例を示す図である。
図6は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111の受信処理によって得られる推定誤り削減効果の例を示す図である。
図7は、実施の形態1に係る信号解析装置100の受信処理部111の受信処理によって得られる推定SNR向上効果の例を示す図である。
図4、
図5、
図6、および
図7に示す図は、代表的な反復計算アルゴリズムであるBiCG(Bi Conjugate Gradient)法、およびCGS(Conjugate Gradient Squared)法において、信号解析装置100の受信処理部111による受信処理を適用した場合、およびスパース処理を適用した場合の特性を示すものである。
【0034】
具体的には、
図4は、探索初期値SNR対収束回数特性の例を示すものであり、横軸は探索初期値SNRを示し、縦軸は収束回数を示している。また、
図5は、探索初期値SNR対収束時間特性の例を示すものであり、横軸は探索初期値SNRを示し、縦軸は収束時間を示している。また、
図6は、探索初期値SNR対推定誤差特性の例を示すものであり、横軸は探索初期値SNRを示し、縦軸は推定誤差を示している。また、
図7は、探索初期値SNR対推定SNR特性の例を示すものであり、横軸は探索初期値SNRを示し、縦軸は推定SNRを示している。
【0035】
図4、
図5、
図6、および
図7に示すように、信号解析装置100の受信処理部111による受信処理を適用した場合、BiCG法およびCGS法のどちらの探索法においても、探索初期値SNRが向上するに従って収束回数および収束時間が小さくなり、得られる初期情報に応じた信号処理負荷の削減効果が見られるとともに、推定誤差は小さくなり、推定SNRは大きくなり、推定精度の向上効果も見られる。一方、
図4、
図5、
図6、および
図7に示すように、スパース処理を適用した場合、信号解析装置100の受信処理部111による受信処理を適用した場合と比較して、探索初期値SNRが比較的良い場合でも収束性が悪く推定誤差は大きく、推定SNRは小さくなり、結果として信号処理負荷も大きくなることが分かる。
【0036】
信号解析装置100の動作を、フローチャートを用いて説明する。
図8は、実施の形態1に係る信号解析装置100の動作を示すフローチャートである。信号解析装置100において、チャープ信号生成部102は、高周波チャープ信号を生成する(ステップS101)。送信信号生成部103は、送信信号を生成する(ステップS102)。複数のDAC104は、送信信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する(ステップS103)。複数のミキサ105は、チャープ信号生成部102で生成された高周波チャープ信号を、DAC104で変換されたアナログ信号の送信信号を用いて変調する(ステップS104)。複数の送信アンテナ106は、ミキサ105で変調されたチャープ信号を観測領域107に向けて送信する(ステップS105)。すなわち、送信部113は、同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナ106から観測領域107に送信する。
【0037】
複数の受信アンテナ108は、複数の送信アンテナ106から送信され、観測領域107において散乱され、または吸収された信号を受信する(ステップS106)。複数のミキサ109は、受信アンテナ108で受信された信号と、チャープ信号生成部102で生成された高周波チャープ信号とを混合し、ベースバンドの受信信号を生成する(ステップS107)。複数のADC110は、ミキサ109で生成されたベースバンドの受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する(ステップS108)。すなわち、受信部114は、送信部113から送信された信号を、観測領域107を介して複数の受信アンテナ108で受信し、複数の受信アンテナ108で受信された受信信号とチャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0038】
受信処理部111は、デジタル信号に変換された複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換する(ステップS109)。受信処理部111は、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換する(ステップS110)。受信処理部111は、少数の値を用いて観測領域107の粗い反射率分布を推定する(ステップS111)。このとき、受信処理部111は、周波数領域の値をまとめる際、有意な値のない周波数領域の部分を除去する。受信処理部111は、粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する(ステップS112)。物体検出部112は、受信処理部111で推定された精度の高い反射率分布を用いて、観測領域107における物体の検出を行う(ステップS113)。
【0039】
つづいて、信号解析装置100のハードウェア構成について説明する。信号解析装置100において、送信アンテナ106および受信アンテナ108はアンテナ素子である。チャープ信号生成部102および送信信号生成部103は発信器である。信号解析装置100においてその他の構成は、処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。処理回路は制御回路とも呼ばれる。
【0040】
図9は、実施の形態1に係る信号解析装置100を実現する処理回路をプロセッサ91およびメモリ92で実現する場合の処理回路90の構成例を示す図である。
図9に示す処理回路90は制御回路であり、プロセッサ91およびメモリ92を備える。処理回路90がプロセッサ91およびメモリ92で構成される場合、処理回路90の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、メモリ92に記憶されたプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路90は、信号解析装置100の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を備える。このプログラムは、処理回路90により実現される各機能を信号解析装置100に実行させるためのプログラムであるともいえる。このプログラムは、プログラムが記憶された記憶媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。
【0041】
上記プログラムは、送信部113が、同期された複数のチャープ信号を変調し、複数の送信アンテナ106から観測領域107に送信する第1のステップと、受信部114が、送信部113から送信された信号を、観測領域107を介して複数の受信アンテナ108で受信し、複数の受信アンテナ108で受信された受信信号とチャープ信号とを混合して複数のベースバンド信号を生成し、複数のベースバンド信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する第2のステップと、受信処理部111が、デジタル信号に変換された複数のベースバンド信号を時間領域の値から周波数領域の値に変換し、複数の周波数領域の値を規定された周波数の範囲の単位でまとめることで複数の周波数領域の値よりも少数の値に変換し、少数の値を用いて観測領域107の粗い反射率分布を推定し、粗い反射率分布を反復推定処理の初期値とし、観測領域107について粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する第3のステップと、を信号解析装置100に実行さるプログラムであるとも言える。
【0042】
ここで、プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。また、メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0043】
図10は、実施の形態1に係る信号解析装置100を実現する処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路93の例を示す図である。
図10に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態によれば、信号解析装置100は、送信部113から送信され、観測領域107で散乱され、または吸収された信号を受信部114で受信する。信号解析装置100の受信処理部111において、複数のFFT201は、細かい周波数領域の値に分け、複数のビニング部202は、隣接する細かい周波数領域の値を合算し、絶対値が比較的大きい値を抽出して少数の粗い周波数成分にまとめ、粗推定部203は、粗い周波数成分を用いて粗い反射率分布を推定し、反復精推定部204は、粗い反射率分布の推定値を探索初期値として利用し、細かい周波数成分によって前述の代表的な反復計算アルゴリズムであるBiCG法、CGS法などの勾配降下法を繰り返し、段階的に分解能の高い反射率分布推定を行う。これにより、信号解析装置100は、受信信号の信号処理負荷を抑制することができる。信号解析装置100は、スパース推定の適用が困難な場合でも、信号処理負荷を抑制することができる。また、信号解析装置100は、信号処理負荷の抑制によって、信号処理の高速化効果が得られる。
【0045】
実施の形態2.
実施の形態1では、信号解析装置100は、チャープ信号生成部102を用いて高周波チャープ信号を生成していた。実施の形態2では、信号解析装置が、異なる構成を用いて高周波チャープ信号を生成する場合について説明する。
【0046】
図11は、実施の形態2に係る信号解析装置100aの構成例を示す図である。信号解析装置100aは、
図1に示す実施の形態1の信号解析装置100に対して、制御部101およびチャープ信号生成部102を削除し、制御部101aおよび複数のVCO(Voltage Controlled Oscillator)121を追加したものである。
【0047】
複数のVCO121は、送信アンテナ106および受信アンテナ108の付近にいくつか配置され、入力電圧に対応した周波数の信号を出力する発信器である。なお、
図11の例では、信号解析装置100aは4つのVCO121を備えているが、信号解析装置100aが備えるVCO121の数は4つに限定されない。
【0048】
制御部101aは、信号解析装置100aの動作を制御する。具体的には、制御部101aは、VCO121による高周波チャープ信号の生成、送信信号生成部103による送信信号の生成、受信処理部111による受信処理、物体検出部112による物体の検出などを制御する。なお、制御部101aは、図示しない外部の装置との間で通信を行い、外部の装置からの指示などに基づいて、信号解析装置100aの動作を制御してもよい。実施の形態1では、制御部101は、チャープ信号生成部102に対して高周波チャープ信号の生成を指示していた。実施の形態2では、制御部101aは、VCO121に出力する電圧などの制御信号を制御することで、VCO121による高周波チャープ信号の生成を制御する。制御部101aは、高周波生成用のクロック逓倍器などを用いて、VCO121に出力する制御信号の生成を制御してもよい。このように、制御部101aは、高周波チャープ信号を生成する発信器であるVCO121の動作を制御することで、高周波チャープ信号を送信部113および受信部114に分配する。
【0049】
図12は、実施の形態2に係る信号解析装置100bの構成例を示す図である。信号解析装置100bは、
図1に示す実施の形態1の信号解析装置100に対して、制御部101およびチャープ信号生成部102を削除し、制御部101bおよび複数のDAC122を追加したものである。
【0050】
DAC122は、送信アンテナ106および受信アンテナ108の付近にいくつか配置され、制御部101bからの制御信号に応じた周波数の信号を出力する。なお、
図12の例では、信号解析装置100bは4つのDAC122を備えているが、信号解析装置100bが備えるDAC122の数は4つに限定されない。
【0051】
制御部101bは、信号解析装置100bの動作を制御する。具体的には、制御部101bは、DAC122による高周波チャープ信号の生成、送信信号生成部103による送信信号の生成、受信処理部111による受信処理、物体検出部112による物体の検出などを制御する。なお、制御部101bは、図示しない外部の装置との間で通信を行い、外部の装置からの指示などに基づいて、信号解析装置100bの動作を制御してもよい。実施の形態1では、制御部101は、チャープ信号生成部102に対して高周波チャープ信号の生成を指示していた。実施の形態2では、制御部101bは、DAC122への制御信号、例えば、クロック、波形データなどを制御することで、DAC122による高周波チャープ信号の生成を制御する。制御部101bは、高周波生成用のクロック逓倍器などを用いて、DAC122に出力する制御信号の生成を制御してもよい。このように、制御部101bは、高周波チャープ信号を生成するDAC122の動作を制御することで、高周波チャープ信号を送信部113および受信部114に分配する。
【0052】
信号解析装置100aおよび信号解析装置100bで生成される高周波チャープ信号は、信号解析装置100のチャープ信号生成部102で生成される高周波チャープ信号と同様、時間とともに周波数が増加するアップチャープの信号でもよいし、時間とともに周波数が減少するダウンチャープの信号でもよい。また、信号解析装置100aおよび信号解析装置100bで生成される高周波チャープ信号は、信号解析装置100のチャープ信号生成部102で生成される高周波チャープ信号と同様、周波数を連続して掃引する連続チャープ信号でもよいし、周波数を段階的に不連続に変化させるステップチャープ信号でもよいし、周波数をより不規則に不連続に変化させる周波数ホッピング信号でもよい。
【0053】
なお、信号解析装置100aおよび信号解析装置100bにおいて、高周波チャープ信号を生成する動作以外の動作は、実施の形態1の信号解析装置100の動作と同様である。
【0054】
このように、信号解析装置100aは、VCO121を用いて高周波チャープ信号を生成する場合でも、実施の形態1の信号解析装置100と同様の効果を得ることができる。また、信号解析装置100bは、DAC122を用いて高周波チャープ信号を生成する場合でも、実施の形態1の信号解析装置100と同様の効果を得ることができる。
【0055】
実施の形態3.
実施の形態3では、信号解析装置が、カメラで得られた情報を、反復的処理によって精度の高い反射率分布を推定するときの初期値として利用する場合について説明する。
【0056】
図13は、実施の形態3に係る信号解析装置100cの構成例を示す図である。信号解析装置100cは、
図1に示す実施の形態1の信号解析装置100に対して、受信処理部111を削除し、受信処理部111cおよび複数のカメラ131を追加したものである。
【0057】
複数のカメラ131は、観測領域107の状態を撮影する。複数のカメラ131は、観測領域107を撮影して得られた情報を受信処理部111cに出力する。なお、
図13の例では、信号解析装置100cは2つのカメラ131を備えているが、信号解析装置100cが備えるカメラ131の数は2つに限定されない。
【0058】
受信処理部111cは、制御部101の制御に基づいて、複数のADC110でデジタル信号に変換された複数の受信信号、およびカメラ131から取得した情報に対して信号処理などを行う。
【0059】
受信処理部111cの構成について詳細に説明する。
図14は、実施の形態3に係る信号解析装置100cの受信処理部111cの構成例を示す第1の図である。受信処理部111cは、複数のFFT201と、粗推定部203cと、反復精推定部204と、を備える。粗推定部203cは、カメラ131で得られた情報を用いて粗い反射率分布を推定する。粗推定部203cにおける粗い反射率分布を推定する方法については、特許文献1に記載された方法と同じ方法でもよいし、特許文献1に記載された方法と異なる方法でもよいし、特に限定されない。このように、受信処理部111cは、観測領域107を撮影するカメラ131で撮影された情報を用いて粗い反射率分布を推定する。
【0060】
なお、受信処理部111cは、実施の形態1の受信処理部111と同様、粗推定部203cによる粗推定を、粗い反射率分布よりも精度の高い反射率分布を推定する反復精推定部204による精推定よりも頻繁に行い、粗推定部203cの粗推定で推定された粗い反射率分布に基づいて、観測対象の物体が観測領域107において観測に適した位置に存在していると判定した場合、反復精推定部204による精推定を行うようにしてもよい。これにより、受信処理部111cは、信号処理の実施効率を向上させることができる。
【0061】
このように、信号解析装置100cは、カメラ131を利用し、カメラ131で得られた情報を用いて粗い反射率分布を推定する場合でも、実施の形態1の信号解析装置100と同様の効果を得ることができる。
【0062】
なお、本実施の形態では、粗推定部203cが、カメラ131で得られた情報を用いて粗い反射率分布を推定する場合について説明したが、これに限定されない。粗推定部203cは、カメラ131で得られた情報とともに、実施の形態1の粗推定部203と同様、複数のFFT201および複数のビニング部202によって得られた情報を用いて、粗い反射率分布を推定してもよい。
図15は、実施の形態3に係る信号解析装置100cの受信処理部111cの構成例を示す第2の図である。このように、粗推定部203cは、カメラ131および複数のビニング部202から取得した情報を用いて、粗い反射率分布を推定することが可能である。
【0063】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0064】
100,100a,100b,100c 信号解析装置、101,101a,101b 制御部、102 チャープ信号生成部、103 送信信号生成部、104,122 DAC、105,109 ミキサ、106 送信アンテナ、107 観測領域、108 受信アンテナ、110 ADC、111,111c 受信処理部、112 物体検出部、113 送信部、114 受信部、121 VCO、131 カメラ、201 FFT、202 ビニング部、203,203c 粗推定部、204 反復精推定部、301 合算部、302 除去部。