(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造、及び、これを備えた掘削ヘッド
(51)【国際特許分類】
E02D 7/22 20060101AFI20241202BHJP
E02D 13/00 20060101ALI20241202BHJP
E21B 10/32 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
E02D7/22
E02D13/00 Z
E21B10/32
(21)【出願番号】P 2021078191
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2023-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】511148938
【氏名又は名称】株式会社永井組
(73)【特許権者】
【識別番号】592237194
【氏名又は名称】日本テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】永井 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】行元 俊隆
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-083316(JP,A)
【文献】特開2005-171733(JP,A)
【文献】特開2007-162216(JP,A)
【文献】特開2003-239669(JP,A)
【文献】特開2004-011241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/22
E02D 13/00
E21B 10/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド周りに複数の螺旋羽根を有した地盤掘削ヘッドにおいて、
各螺旋羽根の羽根経路の途中
であって羽根上面の上方空間に、螺旋羽根を切り欠くことなく設けた、特定角度の支持軸を有する支持枠と、
各支持枠によって支持軸周りへ回動可能に支持された可動アームと、
各可動アームの先部の片側面に並設されたビットセットと、
を具備した拡径掘削構造であって、
ロッドが正回転方向へ回転した状態で、
各可動アームは、自らの慣性によって支持軸の一方向廻りに所定の第一規制位置まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視外方へ突出した拡径状態となる一方、
ロッドが前記正回転方向と反対の逆回転方向へ回転した状態で、
各可動アームは、自らの慣性によって支持軸の他方向廻りに所定の第二規制位置まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視内側へ収容された収容状態となり、
前記支持軸の回動軸角度が、螺旋羽根法線に対し鉛直方向寄り
へ傾斜
し、かつ、ロッド軸に対し斜め上方へ傾斜した一定の傾斜角度からなることで、
収容状態の可動アーム及びビットセットが、支持枠の下部に連なる螺旋羽根の上部
であって各螺旋羽根上面の上方空間へ、ロッド軸に対してそれぞれ斜め方向を向くように収容されることを特徴とする、矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【請求項2】
前記可動アームは、支持枠の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部と、第一延伸部から連なる湾曲部を介して
、第一延伸方向からねじれた第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部とから構成され、
第一延伸部を軸支する支持枠の枠空間が、螺旋羽根の羽根厚さ中央よりも
上方寄りの、螺旋羽根上面の上方空間内の位置であって、かつ、ロッド軸先への螺旋進行方向を向いて設けられることで、
収容状態の可動アーム及びビットセットが、支持枠の下部に連なる螺旋羽根の上部へ収容されることを特徴とする、請求項1に記載の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【請求項3】
前記可動アームは、支持枠の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部と、第一延伸部から連なる湾曲部を介して
、第一延伸方向からねじれた第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部とから構成され、
このうち第二延伸方向は、第一延伸方向に対して一定角度で傾斜すると共に、
第二延伸部の、第二延伸方向と直交する特定方向の片側面に、複数のビットからなるビットセットが、第二延伸部先端から見て斜め下のビット軸方向を向くように設けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【請求項4】
前記可動アームは、支持枠の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部と、第一延伸部から連なる湾曲部を介して第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部とから構成され、第二延伸部の特定の片側面寄りの取付け面に複数のビットが平行に取り付けられるものであって、
当該ビットが取り付けられた、前記第二延伸部の取付け面と反対側の背側面は、回動軸上方から見た平面視にて、第一延伸部の背側面よりも取付け面寄りのオフセット位置へ段差状にずれて設定されることを特徴とする、請求項1、2又は3のいずれかに記載の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【請求項5】
前記螺旋羽根は、ロッド軸の周りへ等位相間隔に3枚設けられた三枚羽根構成からなり、
三枚の螺旋羽根の各螺旋経路途中であって、ロッド軸の所定の軸方向位置に、
ロッド軸先への螺旋進行方向を向く枠空間を有した支持枠が
、各螺旋羽根上面の上方空間に、螺旋羽根を切り欠くことなく設けられ、各枠空間内を挿通する回動軸によって可動アームが軸支されることで、
拡径状態の可動アームの先端に取り付けられたビットセットが、軸面視にて螺旋羽根外形よりも外方へ、ロッド軸中心周りに等間隔に3セット突出することを特徴とする、請求項1、2、3、又は4のいずれかに記載の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【請求項6】
ロッド軸と、
ロッド軸周囲に螺旋状に取り付けられた3枚の螺旋羽根と、
3枚の螺旋羽根の各螺旋経路の途中
であって各螺旋羽根上面の上方空間に、螺旋羽根を切り欠くことなくにそれぞれ取り付けられた請求項1、2、3、又は4のいずれかに記載の拡径掘削構造の支持枠、支持軸、並びに可動アームを備えた掘削用ヘッドであって、
3つの支持軸は、ロッド軸方向の各取り付け位置が互いにずれてなることを特徴とする、矢板打設穴形成用の地盤掘削用ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
矢板打設用の矢板打設穴形成ヘッドにおいて、ヘッド径よりも大きい拡径部を掘削形成するための拡径構造、及び、これを備えた掘削ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、矢板打設用の螺旋羽根付きハンマーヘッドに可動アームを備えた構造として、下記文献記載のものが開示される。
【0003】
特許文献1(特開2020-197001)には、刃具16の外周部近傍に、コの字状のホルダ23を一体化してあり、その中に棒状の拡径爪22が収容されている構造が開示される。
【0004】
特許文献2(登実3110253)には、螺旋板を切り欠いてに枢支金具を備えると共に、枢支金具の両平行片部25,25間に拡大ビット23の基端部が挿入され、両平行片部25,25及び拡大ビット23に枢軸27を上下方向に貫通させることにより、拡大ビット23を、枢軸27を中心にして水平方向に回動可能に支持させた構造が開示される。
【0005】
特許文献3(特開2004-332253)には、掘削ビット本体33の外周部に二重螺旋状のスクリュー21,21が形成され、該掘削ビット本体33の先端外周部に複数の固定された掘削爪22,22…が固設されている。更に、前記スクリュー21,21の所定位置に拡大翼23,23がピン24,24に回動自在に軸支されており、該拡大翼23,23は前記掘削ビット本体33が掘削方向に向かって右回りに回転する時、閉翼して収納位置にあり、左回りに回転する時、拡翼して掘削可能となるように構成された構造が開示される。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-197001号公報
【文献】登実3110253号公報
【文献】特開204-332253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら前記掘削ヘッド又は掘削ビットはいずれも、比較的小型の拡径爪や拡大翼を螺旋羽根の下面側へ収容可能に備えたものである。小型の爪や翼では拡径領域が限られてしまい、ハット型矢板などの比較的広い拡径領域を要する杭打ちや、硬質岩盤など相応の拡径掘削能力を要する地盤掘削には適さなかった。
【0009】
ここで、拡径爪や拡径翼の拡径距離を確保するため、爪部や翼片自体を大きくすることが考えられる。しかし、上記従来の拡径爪や拡大翼の寸法を単純に長くしたり大きくしたりするだけでは、拡径掘削時の反力負担が過度になってしまい、拡径掘削部分での地盤干渉によって本来の掘削効率が低下したり、損傷や早期摩耗のリスクが高まったりするおそれがある。
【0010】
加えて、上記従来の拡径爪や拡大翼の寸法を単純に長くしたり大きくしたりすると、周囲の刃具やスクリューと干渉してしまい、収納時の転回角度が規制される。また、拡径爪や拡大翼の一部分が外形側へ突出してしまい、コンパクトな収納形態にできなくなることで、掘削後又は打設後の掘削ヘッドの回収が困難になってしまう。
【0011】
そこで本発明は、ハット型矢板などの比較的広い拡径領域を要する杭打ちや、硬質岩盤など相応の拡径掘削能力を要する地盤掘削にも適した拡径掘削を行うべく、
拡径掘削時の反力負担が過度になることを防ぎ、また本来の掘削効率の低下や、損傷、早期摩耗のリスクを抑制することのできる拡径掘削構造を提供することを課題とする。
【0012】
また、比較的大きな拡径領域を確保しつつ、収納時にはコンパクトな収納形態とすることのできる拡径掘削構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく下記の構成からなるものとしている。
【0014】
〔1〕(支持軸の傾斜による上部収納、及びコニカルビット並設による掘削能力の確保)
本発明の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造は、
ロッド軸(100)周りに複数の螺旋羽根(3(3A,3B,3C))を有した地盤掘削ヘッドにおいて、
各螺旋羽根(3)の羽根経路の途中に設けた、特定角度の支持軸(22)を有する支持枠(21)と、
各支持枠によって支持軸周りへ回動可能に支持された可動アーム(1)と、
各可動アームの先部の片側面に取り外し可能に並設された、複数のコニカルビット(51,52)の近接群からなるビットセット(5)と、を具備した拡径掘削構造であって、
ロッド軸(100)が正回転方向へ回転した状態で、
各可動アーム(1)は、自らの慣性によって支持軸の一方向廻りに所定の第一規制位置(S1)まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視外方へ突出した拡径状態(
図3)となる一方、
ロッド軸(100)が前記正回転方向と反対の逆回転方向へ回転した状態で、
各可動アーム(1)は、自らの慣性によって支持軸の他方向廻りに所定の第二規制位置(S2)まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視内側へ収容された収容状態(
図4)となり、
前記支持軸(22)の回動軸(RA)が、ロッド軸(CA)に対し、斜め上方へ傾斜した一定の傾斜角度(2Rθ)にて傾斜設定されることで、収容状態(S2)の可動アーム及びビットセットが、螺旋羽根の上部へ収容されることを特徴とする(例えば
図8、
図13)。
また、前記支持軸(22)の回動軸(RA)が、螺旋羽根法線(3N)に対し鉛直方向寄り上方へ傾斜した一定の角度にて傾斜設定されることで、収容状態(S2)の可動アーム及びビットセットが、螺旋羽根の上部へ収容されることを特徴とする(例えば
図14)。
【0015】
本構成はすなわち、比較的長いアーム先端へのビットセットの並設構造と、支持軸の傾斜設定とを同時に採用したものである。コニカルビットの並設構造によって、拡径領域の掘削能力と摩耗耐久性を確保しつつ、支持軸の傾斜設定によって、収納状態で羽根上部への収納を可能として、コンパクトな収容形態を確保している。ビットを併設すると突出してしまいやすくおさまりが悪くなるのを傾斜設定によって解消している。
【0016】
〔2〕(支持枠空間の上部寄り設定による上部収納)
前記矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造において、
前記可動アーム1は、支持枠21の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部11と、第一延伸部11から連なる湾曲部12を介して第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部13、14とから構成され、
第一延伸部を軸支する支持枠の枠空間が、螺旋羽根の羽根厚さ中央よりも上方寄りに設けられ、
ロッド軸先への螺旋進行方向を向いて設けられることで、
収容状態(S2)の可動アーム及びビットセットが、支持枠の下部に連なる螺旋羽根の上部へ収容されることを特徴とする。
例えば後述する実施例1の
図7、
図8の側面図、或いは実施例2の
図13、
図14の側面図に示すように、支持枠21は、螺旋羽根3の経路途中に介設されるところ、螺旋羽根の厚さ方向中央の羽根軸線SAに対し、支持枠21の下枠片21Bが近接し、上枠片21Tが離間するように、支持枠21が羽根軸線SAよりも上部寄り(各図の向かって上方向)にずらした位置に介設固定されている。
【0017】
〔3〕
前記可動アーム1は、支持枠21の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部11と、第一延伸部11から連なる湾曲部12を介して第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部13、14とから構成され、
このうち第二延伸方向は、第一延伸方向に対して一定角度で傾斜すると共に、
第二延伸部の、第二延伸方向と直交する特定方向の片側面に、複数のビットからなるビットセットが、第二延伸部先端から見て斜め下のビット軸方向を向くように設けられることを特徴とする、
(前記ビットセットのビット軸方向は、支持枠の前記回動軸に対して鋭角(45度+-10度の範囲の傾斜角度)に傾斜して設定される)矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【0018】
〔4〕
前記可動アーム1は、支持枠21の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部11と、第一延伸部11から連なる湾曲部12を介して第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部13、14とから構成され、第二延伸部13、14の特定の片側面寄りの取付け面に複数のビットが平行に取り付けられるものであって、
当該ビットが取り付けられた、前記第二延伸部13、14の取付け面と反対側の背側面は、回動軸上方から見た平面視にて、第一延伸部の背側面よりも取付け面寄りのオフセット位置へ段差状にずれて設定されることを特徴とする。
【0019】
〔5〕
螺旋羽根は、ロッド軸CAの周りへ等位相間隔に3枚設けられた三枚羽根構成からなり、
三枚の螺旋羽根の各螺旋経路途中であって、ロッド軸の所定の軸方向位置に、枠空間を有した支持枠が設けられ、各枠空間内を挿通する回動軸によって可動アームが軸支されることで、
拡径状態の可動アームの先端に取り付けられたビットセット5が、軸面視にて螺旋羽根外形よりも外方へ、ロッド軸中心周りに等間隔に3セット突出することを特徴とする。
【0020】
〔6〕
各ビットセット5はアームの延伸方向に沿って等間隔に2個が近接して取付けされた2連のコニカルビット51,52からなり、拡径状態のビット軸が、平面視にて螺旋羽根の接線方向と略平行方向、又は、接線方向よりも回転方向外側(径外方向より)へ傾斜した外傾斜方向を向くことを特徴とする。
【0021】
〔7〕
各ビットセットは、先端寄りの第一ビットと基部寄りの第二ビットとからなり、先端寄りの第一ビットよりも第二ビットのビット径が大きく設定されることを特徴とする。
【0022】
なお、可動アームが螺旋羽根に取り付けられた状態で、第一ビットと第二ビットの各ビット軸方向が、掘削ヘッドの鉛直中心軸(ロッド軸)に対して斜め下方へ異なる角度で傾斜することを特徴としてもよい。
【0023】
さらに後述の実施例では、可動アームの回動支持軸が、螺旋羽根法線に対し斜め上方へ傾斜、かつ、ビット取付け軸が斜め下方へ傾斜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記手段を講じることで、
拡径掘削時の反力負担が過度になることを防ぎ、また本来の掘削効率の低下や、損傷、早期摩耗のリスクを抑制することのできる拡径掘削構造を提供するものとなった。
【0025】
また、比較的大きな拡径領域を確保しつつ、収納時にはコンパクトな収納形態とすることのできる拡径掘削構造を提供するものとなった。
【0026】
これにより、ハット型矢板などの比較的広い拡径領域を要する杭打ちや、硬質岩盤など相応の拡径掘削能力を要する地盤掘削にも適した拡径掘削を行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施例1の掘削ヘッドの、拡径状態(S1)の正面図
【
図2】実施例1の掘削ヘッドの、収納状態(S2)の正面図
【
図7】支持枠の側面視(螺旋羽根の周端面視)から見た、
図3のA-A部分拡大図
【
図8】支持枠の側面視(螺旋羽根の周端面視)から見た、
図4のB-B部分拡大図
【
図9】本発明の実施例2の掘削ヘッドの、拡径状態(S1)におけるα-α相当位置の平面断面図
【
図10】実施例2の掘削ヘッドの、収納状態(S2)におけるβ-β相当位置の平面断面図
【
図13】支持枠の側面視(螺旋羽根の周端面視)から見た、
図9のC-C部分拡大図
【
図14】支持枠の側面視(螺旋羽根の周端面視)から見た、
図10のD-D部分拡大図
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、発明を実施するための最良の形態例について実施例1,2として示す各図とともに説明する。
【0029】
〔基本構成〕
本発明の矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造は、地盤掘削ヘッドに付属する構造であって、地盤を掘削しながら当該地盤内へ矢板を圧入する際に用いる。この拡径掘削構造によって、掘削ヘッド本来のヘッド掘削径よりも拡径させた拡径領域を掘削する。
【0030】
特に、ハット型矢板のような、比較的大きな有効幅を有した矢板の打設では、施工のための下孔掘削本数を減らすために、本発明の拡径掘削構造が好ましく用いられる。また、硬質岩盤への掘削や矢板圧入工事においても、本発明の拡径掘削構造が好ましく用いられる。
【0031】
(ハット型矢板)
なお、ハット型鋼管矢板は、ウェブ板断面に対してその両端に連なるフランジ板断面が90度よりも大きい角度で傾斜してなり、各フランジ板の先に連なるアーム板断面が、ウェブ板断面よりも比較的離れた位置にあることを形状上の特徴とする。左右のアーム板両端の距離、すなわち有効幅が900mmに定格設定され、従来の角型矢板と比べて大断面であるため、同一施工延長での使用枚数が少なくて済む特徴がある。
【0032】
このようなハット型矢板は、
図15に示すように、矢板同士のアーム連結個所に相当する先掘削孔(下穴)を略等間隔に掘削形成しておき、先掘削孔(下穴)間の打設中心を、アースオーガとケーシングがセットされた三点式杭打機によって円形掘削しながら、アースオーガの掘削円よりも外径側の拡径領域を拡径掘削し、拡径領域内へ矢板を圧入する必要がある。
【0033】
ところがこのような拡径領域は径方向の長さの確保が必要となるため、従来のような小型の拡径板や拡径爪では対応ができず、特に硬質岩盤の場合には拡径掘削ができず、ハット型矢板を圧入できないという問題が生じていた。
【0034】
この問題に対して、本発明では、螺旋羽根の経路途中に傾斜介在させた支持枠によって傾斜支承させた湾曲ねじれ形の可動アームと、その先部の片側面に近接して取り付けた複数のビット列とからなる拡径掘削構造を採用することで、比較的大きい拡径領域であっても、また硬質岩盤であっても確実に掘削でき、ハット型鋼管矢板の掘削圧入に適した拡径掘削が可能となった。
【0035】
(地盤掘削ヘッド)
本発明の地盤掘削ヘッドは、ロッド軸(100)周りに複数の螺旋羽根(3(3A,3B,3C))を有した構造からなる。
そして、複数の螺旋羽根(3(3A,3B,3C))それぞれの螺旋経路であって螺旋外形に沿って介設された支持枠と、支持枠によって軸支された可動アームとからなる拡径掘削構造を備えている。
【0036】
(拡径掘削構造)
本発明の拡径掘削構造は、基本構成として、
各螺旋羽根(3)の羽根経路の途中に設けた、特定角度の支持軸(22)を有する支持枠(21)と、
各支持枠によって支持軸周りへ回動可能に支持された可動アーム(1)と、
各可動アームの先部の片側面に取り外し可能に並設された、複数のコニカルビット(51,52)の近接群からなるビットセット(5)と、を具備する。
【0037】
(拡径状態(S1))
ロッド軸(100)が正回転方向へ回転した状態で、
各可動アーム(1)は、自らの慣性によって支持軸の一方向廻りに所定の第一規制位置まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視外方へ突出した拡径状態(S1)となる。
【0038】
(収容状態(S2))
一方、ロッド軸(100)が前記正回転方向と反対の逆回転方向へ回転した状態では、
各可動アーム(1)は、自らの慣性によって支持軸の他方向廻りに所定の第二規制位置まで回動し、アーム先部のビットセットが螺旋羽根外形よりも軸平面視内側へ収容された収容状態(S2)となる。
【0039】
前記支持軸(22)の回動軸(RA)が、螺旋羽根法線(3N)に対し鉛直方向寄り上方へ傾斜した一定の角度に設定されることで、
収容状態(S2)の可動アーム及びビットセットが、螺旋羽根の上部へ収容される。
本構成はすなわち、比較的長いアーム先端へのビットセットの並設構造と、支持軸の傾斜設定とを同時に採用したものである。コニカルビット並設構造によって、拡径領域の掘削能力と摩耗耐久性を確保しながら、支持軸の傾斜設定によって、収納状態で羽根上部への収納を可能としている。
【0040】
〔支持枠2〕
(支持枠空間の上部寄り設定による上部収納)
前記矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造において、
支持枠は、略コ字状の枠からなると共に一方向へ枠開口を有し、この枠開口が螺旋進行方向を向いて螺旋羽根に介在される。
可動アームの第一延伸部を軸支する支持枠の枠空間が、螺旋羽根の羽根厚さ中央よりも上方寄りに設けられる。
これにより、収容状態(S2)の可動アーム及びビットセットが、支持枠の下部に連なる螺旋羽根の上部へ収容されることとなる。
【0041】
〔可動アーム1〕
可動アームは、支持枠の回動軸に軸支されて第一延伸方向へ延伸する、基部寄りの第一延伸部11と、第一延伸部11から連なる湾曲部12を介して第二延伸方向へ延伸する、先部寄りの第二延伸部13、14とから構成され、
このうち第二延伸方向は、第一延伸方向に対して一定角度で傾斜すると共に、
第二延伸部の、第二延伸方向と直交する特定方向の片側面に、複数のビットからなるビットセットが、第二延伸部先端から見て斜め下のビット軸方向を向くように設けられることを特徴とする。
また、ビットが取り付けられた、前記第二延伸部13、14の取付け面と反対側の背側面は、回動軸上方から見た平面視にて、第一延伸部の背側面よりも取付け面寄りのオフセット位置へ段差状にずれて設定される。
(前記ビットセットのビット軸方向は、支持枠の前記回動軸に対して鋭角(45度+-10度の範囲の傾斜角度)に傾斜して設定される)矢板打設穴形成用の地盤掘削ヘッドにおける拡径掘削構造。
【0042】
〔ビットセット〕
前記可動アームの第二延伸部13、14の特定の片側面寄りの取付け面に複数のビットが平行に取り付けられる。
各ビットセットは等間隔に2個が近接して取付けされた2連のビットからなり、拡径状態のビット軸が、平面視にて螺旋羽根の接線方向と略平行方向、又は、進行方向内側へ傾斜した内傾斜方向を向く。
【0043】
〔螺旋羽根〕
螺旋羽根は、ロッド軸の周りへ等位相間隔に3枚設けられた三枚羽根構成からなり、
三枚の螺旋羽根の各螺旋経路途中であって、ロッド軸の所定の軸方向位置に、枠空間を有した支持枠が設けられ、各枠空間内を挿通する回動軸によって可動アームが軸支されることで、
拡径状態の可動アームの先端に取り付けられたビットセットが、軸面視にて螺旋羽根外形よりも外方へ、ロッド軸中心周りに等間隔に3セットが突出する。
【0044】
(実施例2)
実施例2の各ビットセットは、先端寄りの第一ビットと基部寄りの第二ビットとからなり、先端寄りの第一ビットよりも第二ビットのビット径が小さく設定されることを特徴とする。
【0045】
可動アームが螺旋羽根に取り付けられた状態で、第一ビットと第二ビットの各ビット軸方向が、掘削ヘッドの鉛直中心軸(ロッド軸)に対して斜め下方へ異なる角度で傾斜することを特徴とする。
【0046】
可動アームの回動支持軸が、螺旋羽根法線に対し斜め上方へ傾斜、かつ、ビット取付け軸がロッド軸方向に対して斜め下方へ傾斜し、傾斜方向へ打突することで掘削する。
【0047】
〔特許のポイント〕
1:2連ビット付きの可動アームを螺旋羽根上に収納可能に備えた点。
可動アームが、螺旋羽根の厚さ方向上寄りの位置で回動支持されている(
図7,8,13,14)。かつ、可動アームの回動支持軸が、螺旋羽根法線よりも鉛直寄り方向へ傾斜している(
図14)。これにより、螺旋羽根を切り欠くことなく、羽根上面の上方空間へコンパクトに収納される。
【0048】
2:実施例1のように、可動アームが湾曲+ねじれ部を有し、
ビットが(アーム先端正面から見て)斜め下方向を向く点(
図7)。
これにより、収納時は羽根外形から飛び出さずコンパクト収納されると共に、拡径時は鉛直斜め下方のビット軸で効率的に打突掘削する。
【0049】
3:実施例2のように、可動アームの延伸軸が階段状にずれている(オフセットされている)点(
図11)。
これにより、収納時は羽根外形から飛び出さずコンパクト収納されると共に、拡径時は斜め下のビット方向で効率的に打突掘削する。
【0050】
実施例の構成は特に下記特徴を備える。
(特徴1)可動アームはアーム伸長方向に沿って2連又は3連以上が略同方向を向いて連設された複数のコニカルビットを備え、螺旋羽根中に介設したコの字枠によってピン軸支される。複数のコニカルビットの各ビット軸は、いずれも、ロッド軸に対して40度±5度の範囲内の斜め下方を向いている。これにより、正回転時には可動アームが拡径し、多連ビットで硬質岩盤を連続して掘削し、ハンマーヘッドの元の掘削径を確実に拡径する。
(特徴2)ピン回動軸は、螺旋羽根法線に対して上方(ビット軸先への螺旋進行方向を向いて上方)へ第一傾斜角度で傾斜し、かつ、ビット軸よりも螺旋進行方向斜め下方へ第二傾斜角度で傾斜する。ここで、前記第一傾斜角度は第二傾斜角度よりも大きく設定される。また、ビット軸はピン回動軸に対して下方、かつ、ロッド軸に対しても下方へ鋭角の傾斜角度で傾斜するように取り付けられる。これにより、螺旋羽根上部にアーム収納される一方、アーム拡開時にはコニカルビットが螺旋羽根の螺旋進行方向と略平行な、対ロッド軸角度が略45度±5度以内の斜め下方へ打突する。
(特徴3)第一、第二ビットは同一径体の組合せ、又は先側の小径体と基部側の大径体の組合せからなり、互いに平行軸配置され、突出先端の位置が略同位置になるように、ビット取付け枠14の取付け面が段状にずれて設定される。
(特徴4)可動アームは、半円板の基端部を有して第一伸長方向へ伸長する第一アームの先に、伸長方向を変える略三角形板の屈曲部12が連なり、さらに、台に伸長方向へ伸長する先部の第二アーム13が連なってなる。この第三アームは第一アームに対して所定のねじれ角度でねじれ設定される。さらに実施例2では第三アーム背部は第一アームの背部に対して屈曲方向側へずれたオフセット位置に設定される。第三アームは、基部寄りの第二ビット取付け枠14と先部寄りの第一ビット取付け枠14が一体形成され、各取付け枠14にはコニカルビットが交換可能に嵌め込み突入される。
【0051】
(実施例の構造の作用効果)
実施例の拡径掘削構造は、可動アームが支持軸面視にて曲げ方向へ所定の曲げ角度で湾曲し、かつねじり方向へ所定のねじれ角度でねじれ屈曲してなること、並びに、支持軸が螺旋羽根の法線に対して鉛直方向寄りに所定の傾斜角度(15度±10度)の範囲内で傾斜していることによって、コンパクトな収納状態を確保している。
【0052】
また、アームの屈曲先端の所定の取付け面に複数のコニカルビットを交換可能に取り付けたこと、これら複数のコニカルビットが互いに近接して、アーム基部側から先端側へ向けて並設して、ロッド軸に対して斜め下の所定範囲(45°±10度)の傾斜角度に設定したことによって、拡径領域が径方向へ大きい場合であっても、地盤に負けることのない相応の拡径掘削能力と耐久性を確保している。
【0053】
摩耗部品をコニカルビットに集中させているため、長期使用によって摩耗したコニカルビットだけを交換することで、拡径構造付き掘削ヘッド全体の耐久性を確保することができる。
【0054】
また特に、ビットセットが、先端側の比較的小径のコニカルヒ゛ットと基端側の比較的大径のコニカルヒ゛ットとの大小の組合せからなるものとすることで、先端側のビットが受ける掘削反力を比較的抑えつつ基端側のビットによって内径側の拡径掘削能力を確保し、掘削効率と耐久性とを両立することができる。
【0055】
また、可動アームの先端側を基端側に対して細くすることなく、延伸軸を第一回転方向寄りへずらす(オフセットする)と共に湾曲させることで、アームの剛性や耐久性を確保し、さらに、先端側へ行くほど小径のコニカルビットを備えたことと相まって、収納状態のコンパクト性を確保することができる。
【0056】
本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば一部構成の省略、抽出、部分構造の部品化、交換可能な構成の組合せ、公知構成への置換が可能である。
【符号の説明】
【0057】
ロッド軸(100)
可動アーム(1)
第一延伸部(11)
湾曲部(12)
第二延伸部(13)(14)
傾斜角度(2Rθ)
支持枠(21)
下枠片(21B)
上枠片(21T)
支持軸(22)
螺旋羽根(3)(3A,3B,3C)
螺旋羽根法線(3N)
第一規制位置(拡径状態)(S1)
第二規制位置(収容状態)(S2)
ビットセット(5)
コニカルビット(51,52)
ロッド軸(CA)
回動軸(RA)
収容状態(S2)
羽根軸線(SA)