(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】水洗大便器装置
(51)【国際特許分類】
E03D 5/01 20060101AFI20241202BHJP
E03D 1/26 20060101ALI20241202BHJP
E03D 3/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
E03D5/01
E03D1/26
E03D3/00
(21)【出願番号】P 2020130246
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大知
(72)【発明者】
【氏名】高野 仁嗣
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067968(JP,A)
【文献】実開平05-042376(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00- 7/00
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェットポンプ作用により洗浄水を便器本体に供給して洗浄する水洗大便器装置において、
汚物を受けるボウル部と、このボウル部に洗浄水を導くための導水路とを備えた便器本体と、
この便器本体に供給する洗浄水を貯水する貯水タンクと、
少なくともその一部が上記貯水タンク内で水没した状態で配置され、上記貯水タンク内の洗浄水を上記便器本体に供給するジェットポンプユニットと、を有し、
上記ジェットポンプユニットは、
その下方に形成された吸引口から斜め上方に延びる上昇管を備えたスロート管と、
このスロート管の吸引口に向けて洗浄水を噴射してジェットポンプ作用を誘発させるジェットノズルと、
給水源から上記ジェットノズルへの洗浄水の供給を給止水する給水弁と、を有し、
上記スロート管の上昇管には、所定の水位において上記貯水タンク内の空気を上昇管内の負圧により生じた吸引力により導入してその空気吐出口から上昇管内に吐出する空気導入部が設けられ、さらに、この空気導入部の空気吐出口の近傍に、上記上昇管の内側に向けて突出して負圧を保護する負圧保護用壁面が形成されている、水洗大便器装置。
【請求項2】
上記空気導入部の空気吐出口は、上記ジェットノズルと反対側に向いている、請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項3】
上記負圧保護用壁面は、上記空気導入部の一部を形成している、請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項4】
上記負圧保護用壁面は、上記スロート管の上昇管の内側に移動可能に突出するように構成されている、請求項1又は3に記載の水洗大便器装置。
【請求項5】
上記空気導入部を上昇管の上面に取り付けるためのベース部材を備え、このベース部材には、一端側に上記空気導入部が設けられ、他端側には、上記空気導入部を使用した場合よりも少ない洗浄水量を供給するために使用される第2空気導入部が設けられ、上記ベース部材は上昇管の上面に沿って上下方向に移動可能であり、このベース部材が上下方向に移動することにより、上記空気導入部と上記第2空気導入部を切り換えて、上記空気導入部と上記第2空気導入部の何れか一方から上昇管に貯水タンク内の空気を導入する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗大便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器装置に係り、特にジェットポンプ作用により洗浄水を便器本体に供給して洗浄する水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、ジェットポンプユニットを使用して大流量の洗浄水を便器本体に継続的に供給するようにした水洗大便器装置が知られている。
【0003】
このような従来の水洗大便器装置においては、水道管などの給水源と直結した給水路に給水弁が設けられ、この給水弁には貯水タンク内の水位に応じて上下動するフロートが設けられている。そして、このフロートの作動に応じて給水弁を開放または閉鎖することによって、ジェットノズルへの給止水を行っている。このジェットノズルは、ジェットポンプ作用を誘発させて洗浄水を吐水して、貯水タンク内の水をスロート管内に引き込むことにより大流量の洗浄水を便器本体に継続的に供給することができる。
【0004】
また、特許文献1及び特許文献2に記載されている従来の水洗大便器装置においては、貯水タンク内の水位が所定水位まで低下した段階で、スロート管内に空気を導入する空気導入管が設けられている。この空気導入管によって空気が導入されると、ジェットポンプ作用が弱まることにより、貯水タンク内の水がスロート管内に引き込まれ難くなる。つまり、貯水タンク内の水位が低下する速度が遅くなる。これにより、給水弁が開放されている期間が延びるため、ジェットノズルから供給される洗浄水量が増える。そのため、貯水タンク内に貯められる洗浄水量が少ない小型の貯水タンクを備えた水洗大便器であっても、便器本体への十分な洗浄水量を確保することが可能となる。
【0005】
さらに、これらの従来の水洗大便器装置においては、スロート管内に空気を導入する空気導入管の流路断面積を変化させて空気導入量を調整する(即ち、流路断面積が大きいほど、空気導入量が増え、ジェットノズルから供給される洗浄水量が増える)ことにより、必要な洗浄水量を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-36485号公報
【文献】特開2015-203287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載されている水洗大便器装置においても、少ない洗浄水量(例えば、4.8リットルや6リットル程度)で汚物を搬送可能な配管が短い現場であれば、貯水タンクを小型化しつつ便器本体への十分な洗浄水量を確保することが可能であった。しかしながら、汚物を搬送するために多くの洗浄水量(例えば、8リットル程度)が求められる配管が長い現場などにおいては、導入空気量はジェットノズルから噴出される洗浄水の流速に依存するので、空気導入管の流路断面積を大きくしても、それらには限界があり、そのため、小型化された貯水タンクでは十分な洗浄水量を確保することができず、貯水タンクを大型化せざるを得ないという問題があった。
さらに、従来の水洗大便器装置においては、空気導入管により導入された空気流れが次に洗浄水の流れにより潰され、負圧による吸引力を有効に利用できず、それにより、十分な洗浄水量を確保することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、多くの洗浄水量が求められる現場であっても、小型化された貯水タンクにより便器本体への十分な洗浄水量を確保することができる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、ジェットポンプ作用により洗浄水を便器本体に供給して洗浄する水洗大便器装置において、汚物を受けるボウル部と、このボウル部に洗浄水を導くための導水路とを備えた便器本体と、この便器本体に供給する洗浄水を貯水する貯水タンクと、少なくともその一部が貯水タンク内で水没した状態で配置され、貯水タンク内の洗浄水を便器本体に供給するジェットポンプユニットと、を有し、ジェットポンプユニットは、その下方に形成された吸引口から上方に延びる上昇官を備えたスロート管と、このスロート管の吸引口に向けて洗浄水を噴射してジェットポンプ作用を誘発させるジェットノズルと、給水源からジェットノズルへの洗浄水の供給を給止水する給水弁と、を有し、スロート管の上昇管には、所定の水位において貯水タンク内の空気を上昇管内の負圧により生じた吸引力により導入してその空気吐出口から上昇管内に吐出する空気導入部が設けられ、さらに、この空気導入部の空気吐出口の近傍に負圧を保護する負圧保護手段が形成されている、水洗大便器装置。
このように構成された本発明においては、スロート管の上昇管には、所定の水位において貯水タンク内の空気を上昇管内の負圧により生じた吸引力により導入してその空気吐出口から上昇管内に吐出する空気導入部が設けられ、さらに、この空気導入部の空気吐出口の近傍に上昇管内に発生した負圧を保護する負圧保護手段が形成されているので,吸引力により空気を導入しているときに次の洗浄水の流れがきても、負圧保護手段により負圧により生じる吸引力が洗浄水の流れにより潰されることが防止され、吸引力を効果的に使用することができる。その結果、本発明によれば、空気導入部により上昇管内に確実に貯水タンク内の空気を導入することができるので、長時間洗浄を達成することができる。
【0010】
本発明は、好ましくは、空気導入部の空気吐出口は、ジェットノズルと反対側に向いている。
空気導入部の空気吐出口から吐出される空気の流れとジェットノズルから噴出される洗浄水の流れが衝突し、これにより、空気が停滞し、吸引力を効果的に使用することができず、空気の導入が滞ってしまう可能性がある。しかしながら、このように構成された本発明においては、空気導入部の空気吐出口が、ジェットノズルと反対側に向いているので、吸引された空気と洗浄水の流れがスムーズに合流することができるので、空気が停滞することなく、効率的に吸気を行うことができる。
【0011】
本発明は、好ましくは、負圧保護手段は、上昇管の内側に向けて空気導入部の空気吐出口の近傍から突出する負圧保護用壁面を備えている。
このように構成された本発明においては、負圧保護手段が、上昇管の内側に向けて空気導入部の空気吐出口の近傍から突出する負圧保護用壁面を備えているので、この負圧保護用壁面により、負圧により生じる吸引力が洗浄水の流れにより潰されることがより防止することができ、それにより、吸引力を効果的に使用することができる。
【0012】
本発明は、好ましくは、負圧保護用壁面により形成された空間の内部に、空気導入部が形成されている。
このように構成された本発明においては、負圧保護用壁面により形成された空間の内部に、空気導入部が形成されているので、負圧保護用壁面により守られた負圧を効果的に空気導入部により使用することができる。さらに、空気導入部と負圧保護用壁面を一体的に形成することができるので、スロート管内の空間を有効に使用することができる。
【0013】
本発明は、好ましくは、負圧保護用壁面は、スロート管の上昇管の内側に移動可能に突出するように構成されている。
このように構成された本発明においては、負圧保護用壁面が、スロート管の上昇管の内側に移動可能に突出するように構成されているので、負圧保護用壁面の上昇管内の突出量を調整することにより、吸引する空気量を変化させて、所望の洗浄水量を供給することができる。
【0014】
本発明は、好ましくは、空気導入部を上昇管の上面に取り付けるためのベース部材を備え、このベース部材には、一端側に空気導入部が設けられ、他端側には、空気導入部を使用した場合よりも少ない洗浄水量を供給するために使用される第2空気導入部が設けられ、ベース部材は上昇管の上面に沿って上下方向に移動可能であり、このベース部材が上下方向に移動することにより、空気導入部と第2空気導入部を切り換えて、空気導入部と第2空気導入部の何れか一方から上昇管に貯水タンク内の空気を導入する。
このように構成された本発明においては、ベース部材が上下方向に移動することにより、空気導入部と第2空気導入部を切り換えて、空気導入部と第2空気導入部の何れか一方から上昇管に貯水タンク内の空気を導入するので、同じ貯水タンクを使用する場合であっても、施工現場に合わせて、種々の洗浄水量を便器本体に供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による水洗大便器装置によれば、多くの洗浄水量が求められる現場であっても、小型化された貯水タンクにより便器本体への十分な洗浄水量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す平面図である。
【
図2】
図1のII―II線に沿って見た断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による水洗大便器装置に使用されるジェットポンプユニットのジェットポンプ作用を説明するための洗浄水タンク装置の内部構造を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の洗浄水タンク装置の内部構造及びジェットポンプユニット内の流路の断面を示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットのスロート管及びこのスロート管に取り付けられた空気導入装置の部品を展開して示す部品展開図である。
【
図6】
図5のVI-VI線に沿って見たスペーサーの断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが8.0リットルの洗浄水を供給する場合の空気導入装置の取り付け位置を示すジェットポンプユニットの斜視図である。
【
図9】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが4.6リットル/分及び6.0リットル/分の洗浄水を供給する場合の空気導入装置の取り付け位置を示すジェットポンプユニットの斜視図である。
【
図11】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが8.0リットルの洗浄水を供給する場合のスロート管内の洗浄水の流れの様子を示すスロート管の断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが4.8リットル/分及び6.0リットル/分の洗浄水を供給する場合のスロート管内の洗浄水の流れの様子を示すスロート管の断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットによって便器本体に供給される洗浄水の瞬間流量と時間との関係を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施形態の第1変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【
図15】本発明の実施形態の第2変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【
図16】本発明の実施形態の第3変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【
図17】本発明の実施形態の第4変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【
図18】本発明の実施形態の第5変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【
図19】本発明の実施形態の第6変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器装置を説明する。
まず、
図1及び
図2により、本発明の一実施形態による水洗大便器装置の基本構造を説明する。
図1は本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す平面図であり、
図2は
図1のII―II線に沿って見た断面図である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1は、便器本体2と、この便器本体2に洗浄水を供給する洗浄水タンク装置4を備えている。
便器本体2は、その前方側に設けられたボウル部6と、ボウル部6の上縁に形成されたリム部8と、このリム部8の内周に形成された棚部10と、を備えている。
また、便器本体2のボウル部6の底部には、トラップ排水路12の入口12aが開口し、このトラップ排水路12は、上方に延びるトラップ上昇管12bと、下方に延びるトラップ下降管12cを備えている。このトラップ排水路12の形状から分かるように、本実施形態による水洗大便器装置1は、高さ方向の落差により汚物を排出する洗い落とし式便器である。
なお、本発明は、上述した洗い落とし式便器以外に、サイホン式便器等の他の水洗大便器についても適用可能である。
【0019】
次に、便器本体2は、洗浄水タンク装置4の排水口14から排出される洗浄水が流入する導水路16と、棚部10の前方から見て左側中央に形成された第1リム吐水口18と、前方から見て右側後方に形成された第2リム吐水口20とを備えている。
また、導水路16は、下流に向かって第1通水路22と第2通水路24に分岐し、導水路16の洗浄水が第1通水路22を経て第1リム吐水口18に到達する一方、第2通水路24を経て第2リム吐水口20に到達し、洗浄水が、それぞれ、第1リム吐水口18及び第2リム吐水口20から吐水され、ボウル部6を洗浄し、汚物をトラップ排水路12から排出するようになっている。
【0020】
次に、
図3及び
図4により、洗浄水タンク装置4について詳細に説明する。
図3は本発明の一実施形態による水洗大便器装置に使用されるジェットポンプユニットのジェットポンプ作用を説明するための洗浄水タンク装置の内部構造を示す断面図であり、
図4は本発明の一実施形態による水洗大便器装置の洗浄水タンク装置の内部構造及びジェットポンプユニット内の流路の断面を示す断面図である。
なお、
図4は本発明の実施形態による水洗大便器の内部構造に対応しているが、
図3はジェットポンプユニットによるジェットポンプ作用を説明するためのものであり、
図4の内部構造と一部異なる構造を示している。
【0021】
図3及び
図4に示すように、洗浄水タンク装置4は、平面視において左右方向に長い扁平形状に形成されて洗浄水を貯水する貯水タンク26と、水道管等の給水源(図示せず)から供給される洗浄水を貯水タンク26に供給する一次側の給水管28とを備えている。
また、洗浄水タンク装置4は、給水管28の上端(下流側端部)に接続されて給水管28から供給される洗浄水を給止水する給水弁装置30を含むジェットポンプユニット32と、使用者が手動操作により洗浄水の給水を行うための手動レバー34(
図3参照)とを備えている。
さらに、給水管28の下端(上流端部)には、止水栓35(
図3参照)が設けられている。この止水栓35は、水洗大便器装置1の据付時などに給水源(図示せず)からの給水を止水するためのものであり、通常使用時は開状態に保持されている。
【0022】
また、ジェットポンプユニット32は、給水弁装置30から給水された水が流れる二次側の給水管36と、この給水管36の下流側に配置されるスロート管38と、給水管36の下流側端部に接続されてスロート管38に向けて洗浄水を噴射してジェットポンプ作用を誘発させるジェットノズル40と、ジェットノズル40から噴射される洗浄水が進行する流路方向をスロート管38の内部方向に差し向ける流路からスロート管38の外部方向に差し向ける流路に切り替える流路切替弁装置42とを備えている。
【0023】
一次側の給水管28と給水弁装置30との間には、給水弁装置30に供給される洗浄水を定流量にする定流量弁43(
図3参照)が設けられている。
また、二次側の給水管36と給水弁装置30との間には、真空破壊弁44(
図3参照)が設けられており、この真空破壊弁44は、外部から空気を吸入することにより、ジェットノズル40までの給水管36の流路内が負圧にならないようにするためのものである。
【0024】
また、給水弁装置30は、
図3に示すように、パイロット式ダイアフラム弁である主弁体48と、この主弁体48が着座する主便座50と、内部の圧力により主弁体48を主便座50に対して移動させる圧力室52とを備えており、主弁体48が主便座50に着座して止水する止水状態と主便座50から離間して給水する給水状態とを切り替えるようになっている。
図3に示すように、圧力室52には、この圧力室52の圧力を開放する第一穴54及び第二穴56と、上述した手動レバー34における使用者の手動操作と連動して第一穴54を開放する第一パイロット弁58と、貯水タンク26内の洗浄水の水位に伴い上下動する給水フロート60と、この給水フロート60の上下動により第二穴56を開閉する第二パイロット弁62とが設けられている。
【0025】
また、
図3に示すように、主弁体48には、ブリード穴(図示せず)が設けられており、止水状態のとき、ブリード穴により給水管28の一次側流路Aと圧力室52との内部とが連通するようになっている。ここで、第一穴54は、その開口面積が第二穴56の開口面積よりも大きく形成されている。また、第一穴54は、第二穴56よりも上方位置に形成されている。
【0026】
給水弁装置30は、止水状態では、第一穴54及び第二穴56は共に塞がれており、且つ、給水管28の一次側流路Aは圧力室52とブリード穴を通じて連通しているため、一時側流路Aと圧力室52の水圧は同一の水圧(一時側流路圧力α)となる。また、二次側流路Bは大気解放され、主弁体48に水圧が作用する面積の方が一次側流路Aの面積よりも大きくなるため、主弁体48は主便座50に押付けられ閉弁するようになっている。
【0027】
給水弁装置30において、第一穴54及び/又は第二穴56が、第一パイロット弁58及び/又は第二パイロット弁62により開放されると、圧力室52から洗浄水が流出し、圧力室52内の圧力が低下し、主弁体48が主便座50から離れるように移動し、開弁し、吐水状態となるようになっている。
【0028】
給水弁装置30において、第一穴54及び第二穴56が第一パイロット弁58及び第二パイロット弁62により閉じられると、再度圧力室52の圧力が一次側流路圧力αとなり、主弁体48が主便座50に向けて移動し、最終的に閉弁された状態(止水状態)となる。
なお、このとき、一次側流路Aの洗浄水が、圧力室52内へブリード穴から少しずつ注入されるため、第一穴54及び第二穴56を塞いでから、所定時間遅れて、主弁体48が閉弁状態(止水状態)となるようになっている。
【0029】
次に、ジェットポンプユニット32のスロート管38は、下方から斜め上方に延びる上昇管38aと、この上昇管38aの上端付近から下方に延びる下降管38bとを備えており、概ね逆V字形状に形成されている。
また、スロート管38の上昇管38aには、詳細は後述する空気導入装置80が接続されている。この空気導入装置80により、貯水タンク26内の空気を上昇管38a内に導入するようになっている。
【0030】
スロート管38の上昇管38aの上流側端部(入口部)には吸引口38cが形成されており、この吸引口38cは、貯水タンク26内の下部に位置するようになっている。
また、スロート管38の下降管38bの出口部38d(
図4参照)は、便器本体2の導水路16と連通する排水口14に接続されている。
さらに、スロート管38の吸引口38cと対向するようにジェットノズル40が配置されスロート管38の吸引口38cとジェットノズル40は、常時、貯水タンク26内で水没した状態となっている。
【0031】
次に、ジェットポンプユニット32の流路切替弁装置42は、便器洗浄後の貯水タンク26内への給水を行う際に、ジェットノズル40から噴射される洗浄水が進行する流路方向をスロート管38の内部方向に差し向ける流路からスロート管38の外部方向(貯水タンク26内)に差し向ける流路に切り替える流路切替弁66と、貯水タンク26内に貯水された洗浄水の水位に応じて上下動することにより流路切替弁66を作動させるフロート68と、フロート68と流路切替弁66とを連結する連結部70と、フロート68を連結部70に連結する高さを上下方向に調整する調整機構部72と、を備えている。
【0032】
また、
図4に示すように、ジェットポンプユニット32の二次側の給水管36内は、給水弁装置30とジェットノズル40との間を接続する主流路74を形成している。
さらに、ジェットポンプユニット32の二次側の給水管36において、逃がし弁装置46の下流側には、ジェットノズル40を経由せずに便器本体2へ洗浄水を供給する補給水用の分岐路を形成する分岐管76が接続されている。この分岐管76の下流側端部は、スロート管38の下降管38bに隣接して設けられて上下方向に延びるオーバーフロー管78に接続されている。このオーバーフロー管78の下流側は、便器本体2の導水路16と連通している。
【0033】
ジェットポンプユニット32は、ジェットノズル40からスロート管38の吸引口38cに向けて高速の洗浄水を噴射することで、ジェットノズル40に近いスロート管38内の吸引口38c近傍の空間に負圧を引き起こし、ジェットポンプ作用(エジェクタ効果)を誘発させる。このジェットポンプ作用により、貯水タンク26内の近傍の洗浄水が吸引され、この洗浄水とジェットノズル40から噴出される洗浄水とが一緒になり、スロート管38内を流れ、便器本体2の導水路16に供給されるようになっている。
すなわち、本明細書中に記載されている「ジェットポンプ作用」という用語については、ジェットノズル40からスロート管38の吸引口38cに向けて噴射される大流量の洗浄水の流れ自体が、ポンプ等のほかの機械要素に依存することなく、直接的にスロート管38の吸引口38cの近傍等の周囲の洗浄水を引き込むような負圧を形成し、この負圧を利用してスロート管38内に吸い込んだ貯水タンク26内の洗浄水を便器本体2側へ圧送する作用を意味している。
【0034】
次に、
図4に示すように、貯水タンク26内の水位WL1は、洗浄が開始される前の水位を示し、水位WL2は、洗浄が終了したときの水位を示している。
【0035】
次に、
図5乃至
図10により、空気導入装置80について説明する。
図5は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットのスロート管及びこのスロート管に取り付けられた空気導入装置の部品を展開して示す部品展開図であり、
図6は
図5のVI-VI線に沿って見たスペーサーの断面図であり、
図7は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが8.0リットル/分の洗浄水を供給する場合の空気導入装置の取り付け位置を示すジェットポンプユニットの斜視図であり、
図8は
図7の側面断面図である。
図9は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが4.8リットル/分及び6.0リットル/分の洗浄水を供給する場合の空気導入装置の取り付け位置を示すジェットポンプユニットの斜視図であり、
図10は
図9の側面断面図であ
る。
【0036】
先ず、
図5に示すように、スロート管38の上昇管38aの上面には、空気導入装置80を取り付けるための取付用部材82が設けられている。この取付用部材82及び上昇管38aには、取付用部材82及び上昇管38aを貫通する吸気口84が形成され、この吸気口84により、スロート管38内に貯水タンク26内の空気を導入できるようになっている。
【0037】
空気導入装置80は、ベース部材86を備え、このベース部材86には、第1空気導入部88及び第2空気導入部90が形成されている。
ここで、空気導入装置80のベース部材86は、取付用部材82に沿って、即ち、上昇管38aの上面に沿って、上下方向に移動して上方の第1位置(
図8参照)及び下方の第2位置(
図10参照)の2つの位置で固定されるようになっている。
空気導入装置80は、第1位置に位置するとき、第1空気導入部88により、ジェットポンプユニット32が8.0リットル/分の洗浄水を供給し、第2位置に位置するとき、第2空気導入部90により、4.8リットル/分又は6.0リットル/分の洗浄水を供給するようになっている。
【0038】
空気導入装置80のベース部材86が上方の第1位置で固定された場合には、
図7及び
図8に示すように、第1空気導入部88により、スロート管38の上昇管38a内に貯水タンク26内の空気が導入されるようになっている。
一方、空気導入装置80のベース部材86が下方の第2位置で固定された場合には、
図9及び
図10に示すように、第2空気導入部90により、スロート管38の上昇管38a内に貯水タンク26内の空気が導入されるようになっている。
【0039】
図5乃至
図8により、第1空気導入部88について、具体的に説明すると、第1空気導入部88は、上述した吸気口84と連通するように、ベース部材86の下方側(上昇管38aの上流側)の上面に形成された2枚の取付用プレート部材92と、これらの取付用プレート部材92の間に挿入され、吸気口84を経て、上昇管38a内まで挿入されるスペーサー94とにより形成される。2枚の取付用プレート部材92にはそれぞれ係合用開口92aが形成されている(
図5参照)。
【0040】
スペーサー94は、2枚のプレート部材94aと、これらの2枚のプレート部材94aをそのほぼ長手方向の中間位置で接続する接続プレート94bと、2枚のプレート部材94bの内径側端部及び上流側を接続する底プレート94cと、
図5及び
図6に示すように、2枚のプレート部材94aの外側面の上方側に形成された第1係合用突起94d(第1位置で使用)及び外側面の中間位置に形成された第2係合用突起94e(第2位置で使用)を備えている。さらに、2枚のプレート部材94aの内径側の下流側は、
図8に示すように、空気が上昇管38a内に吐出する空気吐出口94fとなっている。
ここで、スペーサー94の底プレート94cは、
図8に示すように、吸引口38cから空気吐出口94fに向けて傾斜する傾斜面として形成されている。
【0041】
接続プレート94bは、2枚のプレート部材94aの幅方向の上方側(下流側)のみに設けられている。そのため、2枚のプレート部材94aの上方側(下流側)は、接続ブレート94bの箇所以外は、開放され、さらに、2枚のプレート部材94aの下方側(上流側)は、底プレート94cの箇所以外は、開放され、これにより、後述するように、貯水タンク26内の空気が、第2空気導入部90からスロート管38の上昇管38a内に導入し易くなっている。
この実施形態では、接続プレート94bの幅方向(上下方向)は、一定であるが幅方向の長さを調整することにより、吸気が開始する水位の調整や吸気量を調整することができる。そのため、必要な吸気量によっては、接続プレート94bを省略したり部品交換などにより、水位の調整や吸気量を調整するようにしてもよい。
これらの2枚のプレート部材94a、接続ブレート94b及び底プレート94cは、スペーサー94の壁面(即ち、負圧保護用壁面)を形成している。
【0042】
図8に示す空気導入装置80のベース部材86が上方の第1位置に位置するとき、スペーサー94が取付用プレート部材92に挿入される。
このように、
図8に示す状態で、第1空気導入部88により、スロート管38の上昇管38a内に貯水タンク26内の空気を導入することができるようになっている。なお、WL3は、第1空気導入部88により、貯水タンク26内の空気がスペーサー94を通って上昇管38a内への導入が開始される水位を示している。
【0043】
この実施形態では、スペーサー94の上昇管38a内への挿入量は、一定であるが、挿入量を可変にして、便器本体2への供給する洗浄水量を可変にするようにしてもよい。この場合には、スペーサー94の挿入量が大の場合には、洗浄水量も多くなり、一方、挿入量が小の場合には、洗浄水量も少なくなる。
【0044】
次に、
図5、
図6、
図9及び
図10におり、第2空気導入部90について、具体的に説明すると、第2空気導入部90は、上下方向に延びる円筒部96と、この円筒部96の上端開口を塞ぐ蓋体98を備えている。円筒部96の側面には、空気導入孔100が形成されている。蓋体98は、蓋体98を回転させるための摘み部98aと、蓋体98から円筒部96内を下方に延びる円筒形状の挿入部98bと、この挿入部98bに形成された切欠き98cを備えている。摘み部98aを回転させることにより、切欠き98cと空気導入孔100との重複面積を変化させ、空気の吸込流量を調整できるようになっている。この例では、重複面積が小さい場合には、空気の吸込流量が小さいので4.8リットルの洗浄水を供給し、重複面積が大きい場合には、空気の吸込流量が大きいので6.0リットルの洗浄水を供給するようになっている。なお、
図10に示すWL4は、第2空気導入部90により、貯水タンク26内の空気が上昇管38a内への導入が開始される水位を示している。
【0045】
この実施形態では、空気導入孔100と切欠き98cの重複面積を変化させて吸気量を調整するようにしているが、切欠き98cの代わりに大きさの異なる複数の穴を設け、空気導入孔100とそれらの穴を合わせるようにして空気の吸込流量を調整してもよい。
【0046】
ベース部材86が上下方向に移動することにより、第1空気導入部88と第2空気導入部90を切り替えて、第1空気導入部88と第2空気導入部90の何れか一方から上昇管38aに貯水タンク26内の空気を導入するので、同じ貯水タンク26を使用する場合であっても、施工現場に合わせて、種々の洗浄水量を便器本体2に供給することが可能となる。
【0047】
図9及び
図10に示すように、第2空気導入部90と吸気口84が連通している状態では、ベース部材86が下方向に位置しており(第2位置)、ベース部材86と取付用部材82の嵌合、重力によって維持されており、水位の上下動によって、ベース部材86が移動しないようになっている。このとき、スペーサー94の第2係合用突起94eが取付用プレート部材92の係合用開口92aに係合することにより、スペーサー94がベース部材86に取り付けられ,ベース部材86からスペーサー94が脱落しないようになっている。なお、ベース部材86と取付用部材82を下方向の位置に固定するロック手段を別途設けても良い。
【0048】
図7及び
図8に示すように、第2空気導入部90よりも大きい吸込流量が必要な場合は、ベース部材86を上方向にスライド移動させる。
図8に示すように、空気導入装置80のベース部材86が上方の第1位置に位置させた後に、スペーサー94の第2係合用突起94eと取付用プレート部材92の係合用開口92aの係合を解除して、スペーサー94が取付用プレート部材92に挿入される。このとき、プレート部材94aの上方側に形成された第1係合用突起94dと係合用開口92aが係合することにより、スペーサー94とベース部材86との移動が制限される。そのため、水位の上下動や重力によって、ベース部材86が移動せず第1位置に保持されるようになっている。大きな吸込流量が必要なくなった場合は、スペーサー94を引き抜きスペーサー94の第1係合用突起94dと取付用プレート部材92の係合用開口92aとの係合を解除させ下方向にスライド移動させることにより第1位置と第2位置が切替可能となっている。すなわち、ベース部材86の下方に第1空気導入部88、上方に第2空気導入部90が設けられているため、重力と嵌合力によって保持される(吸気口84とのロック手段を有さない)第2位置が下方に位置しており、重力や水位変化によって移動しやすい上方に位置した際にロック機構と併用できる第1空気導入部が設けられている。
【0049】
なお、ベース部材86に設けられた第1空気導入部88と第2空気導入部90は、上方に第1空気導入部88、下方に第2空気導入部90が設けられているが、第2空気導入部90を上方に、第1空気導入部88を下方に設けてもよい。
【0050】
次に、
図3乃至
図13により、上述した本発明の実施形態による水洗大便器装置の動作(作用)を説明する。
図11は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが8.0リットルの洗浄水を供給する場合のスロート管内の洗浄水の流れの様子を示すスロート管の断面図であり、
図12は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットが4.8リットル/分及び6.0リットル/分の洗浄水を供給する場合のスロート管内の洗浄水の流れの様子を示すスロート管の断面図であり、
図13は本発明の一実施形態による水洗大便器装置のジェットポンプユニットによって便器本体に供給される洗浄水の瞬間流量と時間との関係を示すグラフである。なお、
図13において、二点鎖線で描かれたAは瞬間流量が4.8リットル/分の場合を示し、一点鎖線で描かれたBは瞬間流量が6.0リットル/分の場合を示し、実線で描かれたCは瞬間流量が8.0リットル/分の場合を示している。
【0051】
先ず、
図3及び
図4に示すように、洗浄開始前の洗浄水タンク装置4においては、貯水タンク26内の水位が通常状態の水位WL1であり、給水弁装置30において、第一穴54及び第二穴56はいずれも閉じられており、主弁体48は主便座50上に着座し、止水状態となっている。
【0052】
洗浄を開始するために、使用者が手動レバー34を手動操作すると、手動レバー34に接続された駆動軸64が回転し、給水弁装置30の第一パイロット弁58が作動して、第一穴54が開く。このとき、給水弁装置30の主弁体48が主便座50から離間して給水する給水状態となる。これにより、外部の給水源から供給される洗浄水は、止水栓35、定流量弁43、給水弁装置30、および二次側の給水管36を経てジェットノズル40に到達し、ジェットノズル40からスロート管38の吸引口38cに向けて洗浄水が噴射される。このとき、スロート管38の吸引口38c付近は負圧となるので、貯水タンク26内に貯水された洗浄水もスロート管38内に吸引され、洗浄水タンク装置4により外部から供給される洗浄水と貯水タンク26内の洗浄水が一緒となってスロート管38内を流れ、便器本体2に供給され、ボウル部6の洗浄が開始される(
図8の時間t0)。洗浄開始により貯水タンク26内の水位が下がり、給水フロート60が下降する。給水フロート60が下降すると直ぐに第二パイロット弁62が作動し、これにより、第二穴56が開く。このとき、第一穴54は、手動レバー34が操作され開いた状態となっていたが、第二穴56が開くタイミングで、閉鎖状態となる。第二穴56は、給水フロート60が再び上昇する状態まで、開状態が保持される。
【0053】
次に、給水弁装置30から洗浄水の供給が開始された直後においては、貯水タンク26内に貯水された洗浄水の水位がWL1近くまであるので、流路切替弁装置42のフロート68は上昇した状態であり、流路切替弁66は下降しており、ジェットノズル40の前方側を開放している状態となっている。これにより、貯水タンク26内に貯水された洗浄水はジェットノズル40及びスロート管38の吸引口38cに向かう流れが形成され、大流量の洗浄水が便器本体2に供給される(
図13の時間t1)。
【0054】
便器本体2への洗浄水の供給が開始してからの時間経過とともに、貯水タンク26内の水位が
図8に示す水位WL3又は
図10に示す水位WL4まで低下すると、洗浄水が流れているスロート管38内部に、上昇管38a内の水の流れに伴い発生する負圧により空気導入装置80の第1空気導入部88又は第2空気導入部90から空気が吸い込まれる。これにより、スロート管38を通して便器本体2に供給される洗浄水の流量(瞬間流量)が一気に低減される(
図13の時間t2参照)。
【0055】
これは、第1空気導入部88又は第2空気導入部90からスロート管38の上昇管38a内に吸い込まれた空気により、上昇管38a内の洗浄水が流れる面積が小さくなり、洗浄水の流量が抑制されるからである。このように、上昇管38a内へと送られる空気の量が多くなると、便器本体2へ供給される洗浄水の流量が少なくなる。これにより、ジェットノズル40によりスロート管38内に吸引される貯水タンク26の洗浄水の使用量が低減する。
つまり、上昇管38a内へと送られる空気の量が多いほど、貯水タンク26内の水位が低下する速度は遅くなり、給水時間も長くなり、最終的には、貯水タンク2から便器本体2へ供給する洗浄水量を増大させることができる。
【0056】
貯水タンク26内の水位がWL2まで低下すと、フロート68も水位の低下に連動して水位WL2の位置まで下降し、流路切替弁66が上昇する。これにより、スロート管38の流路が流路切替弁66に遮られ、ジェットノズル40から噴射される洗浄水は、流路切替弁66に衝突して、スロート管38内を流れることなく、流路切替弁66によって跳ねかえされる。これによって、便器本体2への洗浄水の供給が停止される(
図13の時間t3、t4、t5参照)。
【0057】
その後、ジェットノズル40から噴射される洗浄水は、流路切替弁66によってスロート管38の外部方向へと進行方向が切り替えられ、貯水タンク26内に貯水される。そして、貯水タンク26の水位が上昇してWL1に達すると、給水弁装置30の給水フロート60もWL1の水位まで上昇し、給水弁装置30において、第二パイロット弁62が作動し、第二穴56が閉じられる。これにより、圧力室52の圧力が一次側流路圧力αとなり、主弁体48が主便座50に向けて移動し、最終的に閉弁された状態(止水状態)となる。給水弁装置30が止水状態となり、給水が終了し、洗浄動作が終了する。
【0058】
次に、
図11、
図12及び
図13により、空気導入装置80による動作(作用)を具体的に説明する。
図11に示すように、第1空気導入部88により、貯水タンク26内の空気を上昇管38a内に導入する場合、スペーサー94が上昇管38a内に突出しているため、これにより、上昇管38aのスペーサー94の空気吐出口94fの近傍の領域に、縮径部102が形成される。この縮径部102により、スペーサー94の空気吐出口94fの近傍の領域の断面積が小さくなり、それにより、洗浄水の流速が加速され、さらに、洗浄水の流速が上がることにより、空気吐出口94fの近傍の領域の負圧が増加する。これにより、第1空気導入部88により導入される空気量(吸気巻き込み量)が、スペーサー94を設けず縮径されない場合に比べて、増大し、その分、長時間洗浄が達成でき(
図13参照)、8.0リットルの洗浄水量の便器本体2への供給が可能となる。
【0059】
さらに、
図13の実線Cで示すように、第1空気導入部88により空気を導入した場合には、便器本体2での汚物搬送に必要な洗浄水の流速及び流量を、第2空気導入部90により空気を導入した場合に比べて、洗浄後半期間も継続して供給することができるので、汚物搬送性も高くできる。
【0060】
図11に示すように、本実施形態においては、第1空気導入部88のスペーサー94が、上昇管38aの上面から内側に向けて突出するように設けられているので、上昇管38aの中心からスペーサー94の空気吐出口94fと反対側の領域38bを流れる洗浄水の流速が増加する。このとき、スペーサー94により空気を吸引するための負圧が保護されているので、次に来る洗浄水の流れがスペーサー94に衝突し空気突出口94eから離れる位置に誘導されるため、空気吐出口94fから吐出される空気と洗浄水の流れが衝突することが抑制される。これにより、洗浄水の流速が増加することにより増大した吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管38a内に導入することができる。
【0061】
ここで、スペーサー94の空気吐出口94fから吐出される空気の流れとジェットノズル40から噴出される洗浄水の流れが衝突し、これにより、空気が停滞し、吸引力を効果的に使用することができず、空気の導入が滞ってしまう可能性がある。しかしながら、本実施形態においては、スペーサー94の空気吐出口94fが、ジェットノズル40と反対側(下流側)に向いているので、第2空気導入部88により吸引された空気とジェットノズル40から噴出される洗浄水の流れがスムーズに合流することができるので、空気が停滞することなく、効率的に吸気を行うことができる。
【0062】
本実施形態においては、スペーサー94が、負圧保護用壁面として可能しており、このスぺーサー94により形成された空間の内部を通って空気が導入されるようになっているので、スペーサー(負圧保護用壁面)94により守られた負圧を効果的に使用することができる。さらに、空気を導入するために、スぺーサー94のみを使用し、他の部品を必要としないので、スロート管38の上昇管38a内の空間を有効に使用することができる。
【0063】
本実施形態においては、スペーサー94が、スロート管38の上昇管38aの内側に移動可能に突出するように形成されているので、スペーサー(負圧保護用壁面)94のスロート管38の上昇管38a内の突出量を調整することにより、吸引する空気量を変化させて、所望の洗浄水量を便器本体2に供給することができる。
【0064】
さらに、本実施形態においては、ベース部材86が上下方向に移動することにより、第1空気導入部88と第2空気導入部90を切り換えて、第1空気導入部88と第2空気導入部90の何れか一方から上昇管38aに貯水タンク26内の空気を導入するので、同じ貯水タンク26を使用する場合であっても、施工現場に合わせて、種々の洗浄水量を便器本体2に供給することが可能となる。
【0065】
次に、
図12に示すように、第2空気導入部90により、貯水タンク26内の空気を上昇管38a内に導入する場合、単に、空気導入口100から貯水タンク26内の空気を導入するだけなので、空気が導入される上昇管38aの領域の流速が加速されることはない。そのため、第1空気導入部88により空気を導入する場合に比べ、導入空気量(吸気巻き込み量)は少ない。これにより、便器本体2に供給される洗浄水量は、第1空気導入部88の場合の8.0リットルに比べて少ない、4.8リットル又は6.0リットルとなる。
【0066】
次に、
図14乃至
図19により、上述した本発明の実施形態の第1変形例乃至第6変形例について説明する。
図14乃至
図19は、本発明の実施形態の第1変形例乃至第6変形例による水洗大便器装置のジェットポンプユニットを示す部分概略断面図である。これらの第1変形例乃至第6変形例は、上述した実施形態における第1空気導入部88の変形例である。そのため、以下、上述した第1空気導入部88と異なる部分を主に説明する。
【0067】
先ず、
図14に示すように、第1変形例において、第1空気導入部104は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84に連通するスペーサー106を備えている。このスペーサー104の下流側の下方端には、上昇管38aが接続され、一方、スペーサー4104の上流側は、通常の上昇管38aの直径D1よりも内径側まで延びる負圧保護用壁面106aが形成されている。この負圧保護用壁面106aの内径側端106bが、上昇管38aの内側に凹んだ凹部38eの下流端と接続されている。スペーサー104の空気吐出口104cは、吸気口84の下方で且つ負圧保護用壁面106aの上流側に形成されている。さらに、凹部38eにより、上昇管38aが縮径され、その分、洗浄水の流速が増加し、さらに、負圧により生じる吸引力も増加する。
この第1空気導入部104においては、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気がスペーサー106の空気吐出口106cから吐出されるが、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。
このように、第1変形例による第1空気導入部104によれば、洗浄水の流速が増加することにより増大した吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。
【0068】
次に、
図15に示すように、第2変形例において、第1空気導入部108は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84に連通するスペーサー110を備えている。このスペーサー110の下流側の下方端には、上昇管38aが接続され、一方、スペーサー110の上流側は、通常の上昇管38aの直径D1よりも内径側まで延びる負圧保護用壁面110aが形成されている。この負圧保護用壁面110aの内径側端110bが、上昇管38aの内側に凹んだ凹部38eの下流端と接続されている。さらに、スペーサー110の負圧保護用壁面110aの内径側端110bには、上流側の延びる負圧保護用壁面110cが接続されている。スペーサー110の空気吐出口110dは、吸気口84の下方で負圧保護用壁面110bの上流側且つ負圧保護用壁面110cの上方に形成されている。さらに、凹部38eにより、上昇管38aが縮径され、その分、洗浄水の流速が増加し、さらに、負圧により生じる吸引力も増加する。
この第1空気導入部108においては、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気が空気吐出口110dから吐出されるが、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。さらに、スペーサー110の上流側の内径側端に形成された負圧保護用壁面110bにより、両者の衝突はより効果的に回避される。
このように、第2変形例による第1空気導入部108によれば、洗浄水の流速が増加することにより増大した吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。
【0069】
次に、
図16に示すように、第3変形例において、第1空気導入部112は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84に連通するスペーサー114を備えている。このスペーサー114の上流側の下方端114aには、上昇管38aが接続され、一方、スペーサー114の下流側の下方端114bには、上昇管38aの外側に突出した凸部38fの上流端が接続されている。スペーサー114の下方側114cは負圧保護用壁面として機能している。スペーサー114の空気吐出口114dは、吸気口84の下方で且つ負圧保護用壁面である下方側114cの上流側に形成されている。このスペーサー114の空気吐出口114dは、上昇管38aの管径D1よりも外径側に位置しているので、空気吐出口114cd下流側には、空間Cが形成される。
この第1空気導入部112において、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気が空間Bを通って空気吐出口114cから吐出され、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。
このように、第3変形例による空気導入部112によれば、吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。
【0070】
次に、
図17に示すように、第4変形例において、第1空気導入部116は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84に連通するスペーサー118を備えている。このスペーサー118の上流側の下方端118aには、上昇管38aが接続され、一方、スペーサー118の下流側の下方端118bには、上昇管38aの外側に突出した凸部38fの上流端が接続されている。スペーサー118の下方側118cは負圧保護用壁面として機能している。スペーサー118の上流側の下方端118aには、下流側に延びる負圧保護用壁面118dが接続されている。スペーサー118の空気吐出口118eは、吸気口84の下方で負圧保護用壁面である下方側118cの上流側且つ負圧保護用壁面118dの上方に形成されている。このスペーサー118の空気吐出口118eは、上昇管38aの管径D1よりも外径側に位置しているので、空気吐出口118eの下流側には、空間Cが形成される。
この第1空気導入部116において、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気が空間Bを通って空気吐出口118eから吐出され、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。さらに、スペーサー118の上流側の内径側端に形成された負圧保護用壁面118dにより、両者の衝突はより効果的に回避される。
このように、第4変形例による空気導入部116によれば、吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。
【0071】
次に、
図18に示すように、第5変形例において、第1空気導入部120は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84を貫通して上昇管38a内まで延びるスペーサー122を備えている。このスペーサー122の上昇管38a内の上流側には、内径側に突出する負圧保護用壁面122aが形成されている。このスペーサー122の負圧保護用壁面112aが内径側に突出しているので、上昇管38aが縮径され、その分、洗浄水の流速が増加し、さらに、負圧により生じる吸引力も増加する。
この第1空気導入部120においては、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気がスペーサー122の空気吐出口122bから吐出され、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。
このように、第5変形例による第1空気導入部120によれば、洗浄水の流速が増加することにより増大した吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。
【0072】
次に、
図19に示すように、第6変形例において、第1空気導入部124は、スロート管38の上昇管38aの吸気口84に連通するように設けられたスペーサー126を備えている。このスペーサー126の上流側及び下流側のそれぞれの下方端は、上昇管38aに接続されている。第1空気導入部124は、さらに、上昇管38aのスペーサー126が設けられた近傍の上流側に上昇管38a内に突出し負圧保護用壁面として機能する突出部材128を備えている。この突出部材128は、上昇管38aの内径側に突出しているので、上昇管38aが縮径され、その分、洗浄水の流速が増加し、さらに、負圧により生じる吸引力も増加する。
この第1空気導入部124においては、負圧により吸引された貯水タンク26内の空気がスペーサー126の空気吐出口126aから吐出される、この吐出される空気の流れAが、次に来る洗浄水の流れBと衝突することがない。
このように、第6変形例による第1空気導入部126によれば、洗浄水の流速が増加することにより増大した吸引力を効果的に利用して、確実に、空気を上昇管内に導入することができる。なお、第2、4変形例のように突出部材128の上流側の内径側端に負圧保護用壁面を形成することもできる。
【0073】
上述した第1変形例乃至第6変形例による第1空気導入部104,108,112,116,120及び124においても、上述した実施形態における第1空気導入部88が奏する作用効果と同様な作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 水洗大便器装置
2 便器本体
4 洗浄水タンク装置
6 ボウル部
16 導水路
26 貯水タンク
30 給水弁装置
32 ジェットポンプユニット
38 スロート管
38a 上昇管
38b 反対側の領域
38c 吸引口
40 ジェットノズル
80 空気導入装置
84 吸引口
86 ベース部材
88、104、108、112、116、120、124 第1空気導入部
90 第2空気導入部
94、106、110、114、118、122、128 スペーサー
94a プレート部材
94b 接続プレート
94c 底プレート
94f、106c、110d、114d、118e、122b、126a 空気吐出口
96 円筒部
98 蓋体
100 空気導入口
102 縮径部