IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用音生成装置 図1
  • 特許-車両用音生成装置 図2
  • 特許-車両用音生成装置 図3A
  • 特許-車両用音生成装置 図3B
  • 特許-車両用音生成装置 図4
  • 特許-車両用音生成装置 図5
  • 特許-車両用音生成装置 図6
  • 特許-車両用音生成装置 図7
  • 特許-車両用音生成装置 図8
  • 特許-車両用音生成装置 図9
  • 特許-車両用音生成装置 図10
  • 特許-車両用音生成装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】車両用音生成装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20241202BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G10K15/04 303E
G10K15/04 302J
H04S7/00 310
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021059255
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155835
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】服部 之総
(72)【発明者】
【氏名】大槻 修平
【審査官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-20203(JP,A)
【文献】特開2010-175854(JP,A)
【文献】特開2021-32972(JP,A)
【文献】特開2007-10810(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
H04S 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、
音を表す音信号を生成するとともに、前記音の定位を設定するように構成された音制御部と、
前記音制御部により定位が設定された前記音信号に応じた音を、少なくとも前記車両の運転席の前方及び後方から出力可能な音出力部と、を有し、
前記音制御部は、前記車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいとき、前記音の音像が前記車両のドライバの後方に位置するように、前記音の定位を設定し、前記回転動力源の回転数又は出力トルクが大きい程、前記音出力部が前記運転席の前方から出力する音の出力レベルを大きくする、
ことを特徴とする車両用音生成装置。
【請求項2】
前記音制御部は、前記物理量の単位時間当たりの増加量が前記所定値以下のとき、前記音の音像位置が前記ドライバの前後に偏らないように、前記音の定位を設定する、請求項1に記載の車両用音生成装置。
【請求項3】
前記物理量は、前記回転動力源の出力トルクである、
請求項1又は2に記載の車両用音生成装置。
【請求項4】
前記音制御部は、前記物理量の単位時間当たりの増加量が前記所定値より大きいとき、前記音出力部が前記運転席の後方から出力する音の出力レベルを、前記回転動力源の回転数が所定値以下の場合に、前記回転数が前記所定値より大きい場合よりも大きく設定する、
請求項1から3の何れか一項に記載の車両用音生成装置。
【請求項5】
前記音制御部は、前記回転動力源の回転数に比例するように、前記音出力部が前記運転席の後方から出力する音の周波数を設定する、
請求項1から4の何れか一項に記載の車両用音生成装置。
【請求項6】
前記音制御部は、前記物理量の単位時間当たりの増加量と前記音の出力レベルとの関係を規定したマップに基づき、前記音出力部が前記運転席の後方から出力する音の出力レベルを設定し、
前記マップは、前記物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいときに、そうでないときよりも前記出力レベルが大きくなるように設定されている、
請求項1から5の何れか一項に記載の車両用音生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用音生成装置に係り、特に車両走行中に所定の音を出力する車両用音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車速等の車両の運転状態やアクセル開度等のドライバの運転操作に応じて、疑似的なエンジン音やモータ音をドライバに向けて出力する技術が知られている。(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車室内音場制御装置では、運転状態に応じて音場制御手段の信号処理を制御することにより、複数のスピーカからエンジン音が再生され、そのエンジン音の音場が運転状態に応じて制御される。これにより、運転状態を反映した生々しいエンジン音を車室内に生成するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の車両用能動型効果音発生装置では、アクセル開度の単位時間当たりの変化量又はアクセル開度自体に応じてリアスピーカから出力する効果音に遅延を与えることにより、吸気音と排気音の時間差を考慮した効果音を出力したり、音源の移動感を演出したりするなど、運転者によるアクセルペダルの操作状態を反映した効果音を演出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-10810号公報
【文献】特開2013-167851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献の技術は、単にエンジン音等の車両が元々発生させている音を再現するものに過ぎず、車両に加わる力の変化をドライバに知覚させることができなかった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる車両用音生成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、音を表す音信号を生成するとともに、音の定位を設定するように構成された音制御部と、音制御部により定位が設定された音信号に応じた音を、少なくとも車両の運転席の前方及び後方から出力可能な音出力部と、を有し、音制御部は、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいとき、音の音像が車両のドライバの後方に位置するように、音の定位を設定し、回転動力源の回転数又は出力トルクが大きい程、音出力部が運転席の前方から出力する音の出力レベルを大きくすることを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいときに、音の音像位置をドライバの後方に移動させる。これにより、加速開始に伴い車両の前方から後方への荷重移動が発生しているときに、この荷重移動を、音像位置の移動によりドライバに容易に知覚させることができる。即ち、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
また、回転動力源の回転数又は出力トルクが大きい程、音出力部が運転席の前方から出力する音の出力レベルを大きくするので、加速による車速の上昇や回転動力源の負荷増大をドライバに容易に知覚させることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値以下のとき、音の音像位置がドライバの前後に偏らないように、音の定位を設定する。
このように構成された本発明によれば、車両が加速を開始しておらず車両の前方から後方への荷重移動が発生していないときには、音の音像位置がドライバの前後に偏らないようにするので、荷重移動が発生したときの音像位置の移動を一層容易にドライバに知覚させることができ、車両の荷重移動に関わる音であることをドライバに認識させやすくできる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、車両の前方への加速度と相関する物理量は、回転動力源の出力トルクである。
このように構成された本発明によれば、車両の加速度やサスペンションストロークより先に変化する回転動力源の出力トルクを用いて制御を行うので、車両の挙動変化が生じるより早く音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいとき、音出力部が運転席の後方から出力する音の出力レベルを、回転動力源の回転数が所定値以下の場合に、回転数が所定値より大きい場合よりも大きく設定する。
このように構成された本発明によれば、回転動力源の回転数が小さいとき、つまり停止状態や定常走行からの動き出しなど車両の前方から後方への荷重移動が発生していることを特にドライバに知覚させたい場面において、より効果的にドライバに音の音像位置の移動を知覚させることができる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、回転動力源の回転数に比例するように、音出力部が運転席の後方から出力する音の周波数を設定する。
このように構成された本発明によれば、回転動力源の回転数の増大とともに耳で感じる周波数増加により、車両の加速を認識することができるので、車両の挙動をより効果的にドライバに知覚させることができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量と音の出力レベルとの関係を規定したマップに基づき、音出力部が運転席の後方から出力する音の出力レベルを設定し、マップは、物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいときに、そうでないときよりも出力レベルが大きくなるように設定されている。
このように構成された本発明によれば、音を生成する処理において、車両の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量の大きさに基づく条件分岐等の判定処理を行うことなく、マップを参照するだけの簡易な制御で音像位置の移動を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用音生成装置によれば、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の車両用音生成装置の説明図である。
図2】本発明の実施形態の車両用音生成装置の構成図である。
図3A】本発明の実施形態の車両用音生成装置による制御の基本概念の説明図である。
図3B】本発明の実施形態の車両用音生成装置による制御の基本概念の説明図である。
図4】本発明の第1実施形態の車両用音生成装置における音生成処理の流れの説明図である。
図5】本発明の第1実施形態の音生成処理のフローチャートである。
図6】本発明の実施形態のモータ回転数と音圧レベルとの関係を示す第1音圧レベル設定マップである。
図7】本発明の実施形態のモータトルク値と音圧レベルとの関係を示す第2音圧レベル設定マップである。
図8】本発明の第1実施形態の音生成処理におけるイコライジング処理の概要を示すテーブルである。
図9】本発明の第2実施形態の車両用音生成装置における音生成処理の流れの説明図である。
図10】本発明の第2実施形態の音生成処理のフローチャートである。
図11】本発明の第2実施形態のリアスピーカにおけるモータ回転数、モータトルク値及びモータトルク増加量のそれぞれと音圧レベルとの関係を示す音圧レベル設定マップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明する。なお、特にこれらの実施形態を区別する必要が無い場合には単に「実施形態」といい、区別する場合には「第1実施形態」又は「第2実施形態」というものとする。
【0018】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の車両用音生成装置の構成を説明する。図1は車両用音生成装置の説明図、図2は車両用音生成装置の構成図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載されたコントローラ10と、車室内の運転席の前方から運転席に向かって音を出力するフロントスピーカ20Aと、運転席の後方から運転席に向かって音を出力するリアスピーカ20Bと、車両2の状態を検出する各種センサ群30とを備えている。
【0020】
車両2は、電動モータやエンジン等を含む回転動力源を用いて走行する車両であり、本実施形態では、電動モータ3を備えた電動車両(EV)であるが、これに限らず、車両2は、内燃機関と電動モータの両方を備えたハイブリッド車であってもよく、内燃機関のみを備えた車両であってもよい。
【0021】
コントローラ10は、プロセッサ、各種プログラムを記憶するメモリ(記憶部12)、データ入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。コントローラ10は、車内通信回線を介して、他の車載装置と通信可能に接続されている。コントローラ10は、センサ群30からの車両情報に基づいて、プロセッサがプログラムを実行することにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bに対して、音信号を出力するように構成されている。その際、コントローラ10のプロセッサは、以下に説明するように、音制御部11として機能する。
【0022】
フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、増幅器(アンプ)を備えた音出力部である。フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、コントローラ10から音信号を受け取り、音信号を所定の増幅率で増幅して、音信号に基づく音を出力する。なお、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、車室内に設けられていなくてもよく、ドライバに対してフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bが発生する音の定位ができればよい。
【0023】
センサ群30は、電動モータ3の回転数を検出する回転数センサ31と、電動モータ3を制御するPCM32を含む。これらセンサ群30は、車内通信回線を通して、検出した車両情報を示す信号を送信する。コントローラ10は、車内通信回線を介して、センサ群30から各種の車両情報信号を受け取ることができる。
【0024】
車両情報信号は、モータ回転数信号SR、モータトルク値信号STを含む。コントローラ10(プロセッサ)は、モータ回転数信号SRからモータ回転数Rを読み取り、モータトルク値信号STからモータトルク値Tを読み取る。モータトルク値Tは、電動モータ3への要求モータトルク値(又は、目標モータトルク値)である。
【0025】
PCM32は、コントローラ10と同様にプロセッサ、各種プログラムを記憶するメモリ,データ入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。PCM32は、車内通信回線を介して、車速信号、アクセル開度信号、その他信号を受け取る。PCM32は、アクセル開度及び変速段等(又はアクセル開度及びその変化率(アクセルの踏み込み速さ)並びに変速段等)と目標加速度との関係を規定する加速度特性マップ(PCM32のメモリに記憶されている)を用いて、現在のアクセル開度等から、目標加速度を計算する。さらに、PCM32は、目標加速度を実現するための要求モータトルク値(又は、目標モータトルク値)を算出する。
【0026】
なお、本実施形態では、モータトルク値Tが、電動モータ3への要求モータトルク値であるが、これに限らず、電動モータ3が実際に出力している実モータトルク値であってもよい。しかしながら、実モータトルク値よりも要求モータトルク値を用いる方が、ドライバのアクセル操作に対して、より迅速に音出力をドライバに提供することができるので、運転の操作性の向上に対するより大きな貢献が期待できる。この点において、実モータトルク値よりも要求モータトルク値を用いる方が好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、コントローラ10は、PCM32からモータトルク値信号STを受け取っているが、これに限らず、上述のようにコントローラ10が、加速度特性マップ等を用いて、アクセル開度等からモータトルク値Tを計算してもよい。
【0028】
次に、図3A及び図3Bを参照して、本実施形態の車両用音生成装置1による制御について説明する。図3A及び図3Bは、本実施形態の車両用音生成装置1による制御の基本概念の説明図である。これらの図3A及び図3Bにおいて、楕円の位置はドライバを基準とする音像位置を概念的に表し、楕円の大きさは音圧レベルを概念的に表している。また、点線は、音像位置や音圧レベルが変化したときの変化前の状態を表し、実線は変化後の状態を表している。
【0029】
図3Aは、車両2が加速を開始したときの状態を表している。車両2が停止状態あるいは一定の速度で走行している状態から加速を開始すると、慣性力が車両2の重心に作用することにより前輪の荷重が減少すると共に後輪の荷重が増大する。即ち、前輪から後輪への荷重移動が発生する。このときドライバは、車両2が加速を開始したこと自体は知覚できても、加速度の変化速度(加加速度あるいは躍度)や荷重の移動を体の平衡感覚だけで知覚するのは難しい。そこで、本実施形態では、車両用音生成装置1は、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される音の音像定位を制御し、車両2の荷重移動に応じてドライバに対する音の到来方向を変化させることにより、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助けるようにしている。
【0030】
具体的には、コントローラ10は、複数の周波数の音の合成音を生成し、この合成音をドライバに対してフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力させる。車両2の前方への加速度と相関する物理量(例えば加速度、モータトルク値、リアサスペンションのストローク量)の単位時間当たりの増加量(例えば加加速度、トルク増加量、リアサスペンションが沈み込む方向のピッチレート)が所定値以下であるとき、即ち車両2において前方から後方への荷重移動が発生していないか、発生していても十分小さいときには、コントローラ10は、合成音のうち重みや力強さを感じさせる低周波数成分を、その音像位置がドライバの前後に偏らないように(つまり重みや力強さを感じさせる低音がドライバの周囲から偏りなく聞こえるように)、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力させる。例えば、運転席のヘッドレストの前後における音圧レベルの差が4dB未満であれば、音像位置がドライバの前後に偏っていないといえる。また、コントローラ10は、合成音のうちの高周波数成分を、その音像位置がドライバの前方にあるように(つまり高音がドライバの前方から聞こえるように)、フロントスピーカ20Aから出力させる。
【0031】
一方、車両2の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量が所定値より大きいとき、即ち図3Aに示すように車両2において前方から後方への荷重移動が発生しているときには、コントローラ10は、合成音のうちの重みや力強さを感じさせる低周波数成分の音像位置がドライバの後方に移動するように(つまり合成音の低周波数成分の発生源が後方にあるとドライバが感じられるように)、リアスピーカ20Bが出力する低周波数成分の音圧レベルを上昇させる。このように、重みや力強さを感じさせる低音の音像位置をドライバの後方に移動させることにより、車両2の荷重が後方に移動しているとドライバに知覚させることができる。
【0032】
図3Bは、図3Aの状態の後に車両2が一定の加速度で加速を継続しているときの状態を表している。すなわち、車両2において前方から後方への荷重移動は終了しているので、コントローラ10は、合成音のうち重みや力強さを感じさせる低周波数成分を、その音像位置がドライバの前後に偏らないように、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力させる。また、車両2が加速を継続することにより電動モータ3の負荷が増大しているので、コントローラ10は、フロントスピーカ20Aが出力している高周波数成分の音圧レベルを上昇させる。これにより、電動モータ3の負荷が増大していることをドライバに知覚させることができる。
【0033】
次に、図4を参照して、第1実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れを説明する。図4は、第1実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れの説明図である。
【0034】
図4に示すように、第1実施形態の車両用音生成装置1は、音生成処理において、まず、モータ回転数Rに基づいて、複数の周波数を設定する(周波数設定)。各周波数は、モータ回転数Rに比例するように設定される。つまり、モータ回転数Rが増加する程、各周波数が高くなる。
【0035】
次に、車両用音生成装置1は、設定した各周波数の音圧レベルを、モータ回転数Rとモータトルク値とに基づき設定する(音圧設定)。具体的には、モータ回転数Rと音圧レベルとの関係を規定した第1音圧レベル設定マップを参照して、モータ回転数Rに応じた第1音圧レベルp1を各周波数について設定し、モータトルク値と音圧レベルとの関係を規定した第2音圧レベル設定マップを参照して、モータトルク値に応じた第2音圧レベルp2を各周波数について設定する。そして、第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、各周波数の音の音圧レベルとする。なお、図4では第1音圧レベル設定マップと第2音圧レベル設定マップとがそれぞれ1つずつ示されているが、実際には複数の周波数それぞれについて第1及び第2音圧レベル設定マップが予め準備され、記憶部12に記憶されている。
【0036】
次に、車両用音生成装置1は、音圧を設定した各周波数の音を合成することにより、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルの合成音信号と、リアスピーカ20B用の後方チャンネルの合成音信号とを生成する(合成音生成処理)。第1実施形態では、前方チャンネル及び後方チャンネルのどちらの合成音信号も、音圧設定において設定した全ての周波数の音を合成することにより生成される。つまり、この段階における前方チャンネルの合成音信号と後方チャンネルの合成音信号とは同じである。
【0037】
次に、車両用音生成装置1は、前方チャンネルの合成音信号と後方チャンネルの合成音信号とのそれぞれについて、イコライジング及びゲイン調整を行う。このとき、車両用音生成装置1は、後方チャンネルの合成音信号における高周波数成分の音圧レベルを下げることにより、高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位を設定する。また、車両用音生成装置1は、モータトルク値の増加量に基づき、後方チャンネルの合成音信号における低周波数成分の音圧レベルを調整することにより、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに低周波数成分の音像位置がドライバの後方に位置するように定位を設定する。
【0038】
そして、車両用音生成装置1は、イコライジング及びゲイン調整後の前方チャンネルの合成音信号SSFをフロントスピーカ20Aに出力し、イコライジング及びゲイン調整後の後方チャンネルの合成音信号SSRをリアスピーカ20Bに出力する。フロントスピーカ20Aは合成音信号SSFを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力し、リアスピーカ20Bは、合成音信号SSRを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する。
【0039】
次に、図5図8を参照して、第1実施形態の車両用音生成装置1の音生成処理について説明する。図5は第1実施形態の音生成処理のフローチャート、図6は本実施形態のモータ回転数と音圧レベルとの関係を示す第1音圧レベル設定マップ、図7は本実施形態のモータトルク値と音圧レベルとの関係を示す第2音圧レベル設定マップ、図8は第1実施形態の音生成処理におけるイコライジング処理の概要を示すテーブルである。
【0040】
車両用音生成装置1は、図5に示す音生成処理を所定時間毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行する。
【0041】
音生成処理が開始されると、コントローラ10は、まず、車内通信回線を介して、センサ群30からセンサ情報を取得する(ステップS1)。上述のように、コントローラ10は、少なくともモータ回転数Rとモータトルク値Tを取得する。
【0042】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数設定処理を行う(ステップS2)。周波数設定処理では、モータ回転数Rに基づいて、複数の周波数を設定する。具体的には、1次周波数(基本周波数)であるモータ回転数Rに対する、5つの周波数f1~f5が以下の式により設定される。
fk(Hz)=R(Hz)×nk (式1)
【0043】
ここで、k=1~5であり、nkはモータ回転数Rに対する次数である。具体的には、例えば、n1は3.3、n2は4、n3は5.3、n4は6.7、n5は8である。例えば、3.3次周波数f1は、モータ回転数Rの3.3倍の周波数(R(Hz)×3.3)である。なお、本実施形態では、基本周波数をモータ回転数Rとしているが、これに限らず、基本周波数をモータ回転数Rの増加と共に増加する関係にある周波数としてもよい(例えば、比例関係)。
【0044】
例えば、モータ回転数Rが50Hz(3000rpm)の場合、周波数f1は165Hz、周波数f2は200Hz、周波数f3は265Hz、周波数f4は335Hz、周波数f5は400Hzである。
【0045】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12に記憶されている第1音圧レベル設定マップ(以下「マップM1」ともいう)を参照し、モータ回転数Rに基づいて、各周波数の第1音圧レベルp1を設定する(ステップS3)。図6に示すように、マップM1は、5つの次数n1~n5の周波数f1~f5の各々に対して設定されている。マップM1は、モータ回転数R(rpm)に対して、各周波数f1~f5の音S1~S5の第1音圧レベルp1(dB)が規定されている。
【0046】
マップM1では、概ねモータ回転数Rの増加に応じて第1音圧レベルp1も増加する。なお、本実施形態では、ドライバは、40dBよりも小さな音圧レベルの音をほとんど認識できず、目安として40dB以上の音圧レベル(可聴音圧レベル)の音を認識することができる。したがって、マップM1によれば、例えば、周波数f4では、モータ回転数Rが約2500rpm未満で第1音圧レベルp1が30dB未満に設定されているので、低速回転時には、ドライバは、周波数f4の音S4を聞き取ることができない。よって、ドライバは、合成音SCに含まれる30dB程度の周波数音を意識下で聞き取ることはできない。しかしながら、このような30dB程度の周波数音も無意識下でドライバの車両操作に影響を与えることもあり得る。
【0047】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第2音圧レベル設定マップ(「マップM2」ともいう)に基づいて、各周波数f1~f5の第2音圧レベルp2を設定する(ステップS4)。図7に示すように、マップM2は、次数n1~n5の周波数f1~f5の各々に対して設定されている。マップM2は、モータトルク値T(N・m)に対して、各周波数f1~f5における第2音圧レベルp2(dB)が規定されている。なお、マップM2において、正のモータトルクは、電動モータ3が力行状態で作動していることを示し、負のモータトルクは、電動モータ3が回生状態で作動していることを示している。
【0048】
マップM2では、各周波数f1~f5において、第2音圧レベルp2は負値であり、正のモータトルク値の増加に応じて第2音圧レベルp2も増加する。したがって、本実施形態では、モータ回転数Rにより第1音圧レベルp1が設定され、ドライバの加速要求(アクセル操作)が低いときは、第2音圧レベルp2により音圧レベルを下げるように補正された合成音が生成される。すなわち、加速時は、モータ回転数R又はモータトルク値Tが大きくなるほど、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bが出力する音の出力レベルが大きくなる。
【0049】
さらに、マップM2では、周波数f1、f3では、モータトルク値Tがゼロから増加しても、モータトルク値Tの増加量が所定量を超えるまでは、第2音圧レベルp2は増加しないように設定されている。これに対して、周波数f2、f4及び周波数f5では、モータトルク値Tがゼロから増加すると、所定量の増加を待つことなく、モータトルク値Tの増加量にほぼ比例して、第2音圧レベルp2が増加するように設定されている。したがって、ドライバがアクセル操作により、車両2を加速させるとき、必ず低い方の周波数f1、f3の音が強調されて出力される。すなわち、加速時は、少なくとも最も低い音域の音(k=1)の立ち上がりが早く、その後に、より高い音域の音(k=2、4、5)が追従する。
【0050】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数f1~f5の音S1~S5の第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、各周波数f1~f5の音S1~S5の音圧レベルとして設定し、音圧を設定した各周波数f1~f5の音S1~S5を合成することにより、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルの合成音信号SSFと、リアスピーカ20B用の後方チャンネルの合成音信号SSRとを生成する(ステップS5)。
【0051】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、前方チャンネルの合成音信号SSFと、後方チャンネルの合成音信号SSRとのそれぞれについて、個別にイコライジング処理を行う(ステップS6)。
【0052】
図8に示すように、第1実施形態のイコライジング処理において、コントローラ10(音制御部11)は、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける高周波数成分の音圧レベルを40dB減少させる。図6及び図7に示したように、合成音の音圧レベルは最大で80dB程度に設定されているので、このイコライジング処理において音圧レベルを40dB減少させることにより、後方チャンネルの高周波数成分の音圧レベルは40dBより小さくなる。即ち、ドライバはリアスピーカ20Bから出力される音の高周波数成分を意識下で聞き取ることができなくなる。これにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位が設定される。
【0053】
また、コントローラ10(音制御部11)は、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分については、車両2の前方への加速度と相関する物理量の単位時間当たりの増加量としてのモータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが、所定値ΔT0より大きいか否かに基づき、イコライジングを行う。具体的には、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値ΔT0以下のとき、つまりモータトルク値Tが増加していないか、増加していても十分小さく、車両2において前方から後方への荷重移動が十分小さいとき、コントローラ10(音制御部11)は、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分の音圧レベルを、ステップS5の設定値から変更しない。
【0054】
一方、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値ΔT0より大きいとき、つまりモータトルク値Tが増加しており車両2において前方から後方への荷重移動が発生しているとき、コントローラ10(音制御部11)は、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分の音圧レベルを上昇させる。このとき、モータ回転数Rが所定値R0以下の場合には、モータ回転数RがR0より大きい場合よりも後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分の音圧レベルが大きくなるようにイコライジング処理を行う。即ち、図8の例では、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTがΔT0より大きい(ΔT>ΔT0)ときに、モータ回転数RがR0以下(R≦R0)の場合には、コントローラ10(音制御部11)は、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分の音圧レベルを30dB上昇させる。これに対し、モータ回転数RがR0より大きい(R>R0)場合には、後方チャンネルの合成音信号SSRにおける低周波数成分の音圧レベルを20dB上昇させる。これにより、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの後方に位置するように定位が設定される。特に、モータ回転数Rが小さいときに、低周波数成分の音像位置の後方への移動が強調される。
【0055】
また、図8に示すように、第1実施形態のイコライジング処理において、コントローラ10(音制御部11)は、前方チャンネルの合成音信号SSFの音圧レベルについては、ステップS5における設定値から変更しない。
【0056】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、前方チャンネルの合成音信号SSFと、後方チャンネルの合成音信号SSRとのそれぞれについてゲイン調整処理を行い、各チャンネルの合成音全体としての振幅を調整する(ステップS7)。
【0057】
そして、フロントスピーカ20Aは合成音信号SSFを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力し、リアスピーカ20Bは、合成音信号SSRを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する(ステップS8)。
【0058】
次に、図9を参照して、第2実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れを説明する。図9は、第2実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れの説明図である。
【0059】
図9に示すように、第2実施形態の車両用音生成装置1は、音生成処理において、まず、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルのために複数の周波数を設定すると共に、リアスピーカ20B用の後方チャンネルのために1つ又は複数の周波数を設定する(周波数設定)。各周波数は、モータ回転数Rに比例するように設定される。つまり、モータ回転数Rが増加する程、各周波数が高くなる。
【0060】
後方チャンネルの周波数は、前方チャンネルの複数の周波数のうちの低周波数からなる。例えば、前方チャンネルの複数の周波数のうちの最も低い周波数を後方チャンネルの周波数として設定する。あるいは、前方チャンネルの周波数より低い周波数を設定しても良い。これにより、合成音の高周波数成分はフロントスピーカ20Aのみから出力されるようになり、高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位が設定される。
【0061】
次に、車両用音生成装置1は、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルについて設定した各周波数の音圧レベルを、モータ回転数Rとモータトルク値Tとに基づき設定する(音圧設定)。具体的には、第1実施形態と同様に、第1音圧レベル設定マップを参照して、モータ回転数Rに応じた第1音圧レベルp1を各周波数について設定し、第2音圧レベル設定マップを参照して、モータトルク値Tに応じた第2音圧レベルp2を各周波数について設定する。そして、第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、前方チャンネルにおける各周波数の音の音圧レベルとする。なお、図9では前方チャンネルの第1音圧レベル設定マップと第2音圧レベル設定マップとがそれぞれ1つずつ示されているが、実際には前方チャンネルの複数の周波数それぞれについて第1及び第2音圧レベル設定マップが予め準備され、記憶部12に記憶されている。
【0062】
また、車両用音生成装置1は、リアスピーカ20B用の後方チャンネルについて設定した周波数の音圧レベルを、モータ回転数R、モータトルク値T、及びモータトルク値Tの単位時間当たり増加量ΔTに基づき設定する(音圧設定)。具体的には、第1音圧レベル設定マップを参照して、モータ回転数Rに応じた第1音圧レベルp1を設定し、第2音圧レベル設定マップを参照して、モータトルク値Tに応じた第2音圧レベルp2を設定し、第3音圧レベルマップを参照して、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTに応じた第3音圧レベルp3を設定する。第3音圧レベルマップにおいては、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値より大きいときに第3音圧レベルp3が上昇するように設定されている。これにより、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに、リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの後方に位置するように定位が設定される。
【0063】
このように設定した第1音圧レベルp1、第2音圧レベルp2、及び第3音圧レベルp3の和を、後方チャンネルの音の音圧レベルとする。なお、図9では、後方チャンネルの第1音圧レベル設定マップ、第2音圧レベル設定マップ、及び第3音圧レベル設定マップがそれぞれ1つずつ示されているが、後方チャンネルのために複数の周波数を設定した場合には、複数の周波数それぞれについて第1及び第2音圧レベル設定マップが予め準備されると共に、少なくとも最も低い周波数について第3音圧レベル設定マップが予め準備され、記憶部12に記憶されている。
【0064】
次に、車両用音生成装置1は、音圧を設定した前方チャンネルの各周波数の音を合成することにより、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルの合成音信号SSFを生成する。また、音圧を設定した後方チャンネルの音を合成することにより、リアスピーカ20B用の後方チャンネルの合成音信号SSRを生成する(合成音生成処理)。第2実施形態では、周波数設定において設定される周波数及び音圧設定において設定される音圧レベルが、前方チャンネルと後方チャンネルとで異なっているので、前方チャンネルと後方チャンネルとで異なる合成音信号が生成されることになる。
【0065】
そして、車両用音生成装置1は、前方チャンネルの合成音信号SSFをフロントスピーカ20Aに出力し、後方チャンネルの合成音信号SSRをリアスピーカ20Bに出力する。フロントスピーカ20Aは合成音信号SSFを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力し、リアスピーカ20Bは、合成音信号SSRを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する。
【0066】
次に、図10及び図11を参照して、第2実施形態の車両用音生成装置1の音生成処理について説明する。図10は第2実施形態の音生成処理のフローチャート、図11は第2実施形態のリアスピーカ20Bにおけるモータ回転数R、モータトルク値T及びモータトルク増加量ΔTのそれぞれと音圧レベルとの関係を示す音圧レベル設定マップである。
【0067】
車両用音生成装置1は、図10に示す音生成処理を所定時間毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行する。
【0068】
音生成処理が開始されると、コントローラ10は、まず、車内通信回線を介して、センサ群30からセンサ情報を取得する(ステップS11)。上述のように、コントローラ10は、少なくともモータ回転数Rとモータトルク値Tを取得する。
【0069】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数設定処理を行う(ステップS12)。周波数設定処理では、モータ回転数Rに基づいて、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルのために複数の周波数を設定すると共に、リアスピーカ20B用の後方チャンネルのために1つ又は複数の周波数を設定する。例えば、前方チャンネルについては、第1実施形態と同様に5つの周波数f1~f5を設定する。一方、後方チャンネルについては、周波数f1を設定する。
【0070】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12に記憶されている第1音圧レベル設定マップ(マップM1)を参照し、モータ回転数Rに基づいて、前方チャンネルについて設定した各周波数の第1音圧レベルp1と、後方チャンネルについて設定した周波数の第1音圧レベルp1とを設定する(ステップS13)。
【0071】
前方チャンネルの第1音圧レベルp1は、第1実施形態と同様に設定される。即ち、図6に示すように、5つの周波数f1~f5の各々についてモータ回転数R(rpm)に応じた第1音圧レベルp1(dB)を規定したマップM1に基づき、前方チャンネルの第1音圧レベルp1が設定される。
【0072】
また、後方チャンネルの第1音圧レベルp1は、図11(a)に示すように、1つの周波数f1についてモータ回転数R(rpm)に応じた第1音圧レベルp1(dB)を規定したマップM1に基づき設定される。このマップM1は、前方チャンネルの周波数f1について第1音圧レベルp1を設定するためのマップM1と同じものを用いることができる。
【0073】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第2音圧レベル設定マップ(マップM2)を参照し、モータトルク値Tに基づいて、前方チャンネルについて設定した各周波数の第2音圧レベルp2と、後方チャンネルについて設定した周波数の第2音圧レベルp2とを設定する(ステップS14)。
【0074】
前方チャンネルの第2音圧レベルp2は、第1実施形態と同様に設定される。即ち、図7に示すように、5つの周波数f1~f5の各々についてモータトルク値T(N・m)に応じた第2音圧レベルp2(dB)を規定したマップM2に基づき、前方チャンネルの第2音圧レベルp2が設定される。
【0075】
また、後方チャンネルの第2音圧レベルp2は、図11(b)に示すように、1つの周波数f1についてモータトルク値T(N・m)に応じた第2音圧レベルp2(dB)を規定したマップM2に基づき設定される。このマップM2は、前方チャンネルの周波数f1について第2音圧レベルp2を設定するためのマップM2と同じものを用いることができる。
【0076】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第3音圧レベル設定マップ(マップM3)を参照し、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTに基づいて、後方チャンネルについて設定した周波数の第3音圧レベルp3を設定する(ステップS15)。後方チャンネルの第3音圧レベルp3は、図11(c)に示すように、1つの周波数f1についてモータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔT(N・m/s)に応じた第3音圧レベルp3(dB)を規定したマップM3に基づき設定される。
【0077】
マップM3では、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値(図11(c)では約250N・m/s)以下のときは、第3音圧レベルp3は0のまま増加しないように設定されている。そして、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値を超えると、第3音圧レベルp3はステップ的に20dB増加するように設定されている。したがって、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値を超え、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに、リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの後方に位置するように定位が設定される。
【0078】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数f1~f5の音S1~S5の第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、前方チャンネルにおける各周波数f1~f5の音S1~S5の音圧レベルとして設定し、音圧を設定した各周波数f1~f5の音S1~S5を合成することにより、フロントスピーカ20A用の前方チャンネルの合成音信号SSFを生成する。また、コントローラ10(音制御部11)は、周波数f1の音S1の第1音圧レベルp1、第2音圧レベルp2及び第3音圧レベルp3の和を、後方チャンネルにおける周波数f1の音S1の音圧レベルとして設定し、リアスピーカ20B用の後方チャンネルの合成音信号SSRを生成する(ステップS16)。
【0079】
そして、フロントスピーカ20Aは合成音信号SSFを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力し、リアスピーカ20Bは、合成音信号SSRを受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する(ステップS17)。
【0080】
なお、上述の実施形態では、車両2において前方から後方への荷重移動が発生しているときには、コントローラ10は、複数の周波数f1~f5のうち低周波数成分f1の音S1の音像が車両2のドライバの後方に位置するように、合成音の定位を設定すると説明したが、複数の周波数f1~f5の音S1~S5の何れか又は全ての音像が車両2のドライバの後方に位置するように、合成音の定位を設定するようにしてもよい。この場合、第1実施形態において、ステップS6のイコライジング処理ではなくステップS7のゲイン調整処理において合成音の定位を設定するようにしてもよい。
【0081】
次に、本実施形態の車両用音生成装置1の作用効果について説明する。
本実施形態の車両用音生成装置1は、電動モータ3を回転動力源として走行する車両2に搭載されており、電動モータ3のモータ回転数Rに応じた複数の周波数f1~f5を設定し、複数の周波数f1~f5の音S1~S5を含む合成音を表す合成音信号を生成するとともに、合成音の定位を設定するように構成されたコントローラ10(音制御部)と、コントローラ10により定位が設定された合成音信号に応じた音を、少なくとも車両2の運転席の前方及び後方から出力可能なフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bと、を有し、コントローラ10(音制御部11)は、モータトルク値T(車両2の前方への加速度と相関する物理量)の単位時間当たりの増加量ΔTが所定値より大きいとき、合成音のうちの低周波数成分(例えば周波数f1)の音像が車両2のドライバの後方に位置するように、合成音の定位を設定する。
【0082】
本実施形態では、モータトルク値T(車両2の前方への加速度と相関する物理量)の単位時間当たりの増加量ΔTが所定値より大きいときに、合成音のうちの低周波数成分(例えば周波数f1)の音像位置をドライバの後方に移動させる。これにより、加速開始に伴い車両2の前方から後方への荷重移動が発生しているときに、この荷重移動を、重みや力強さを感じさせる低音の音像位置の移動によりドライバに容易に知覚させることができる。即ち、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態では、電動モータ3の回転数又は出力トルクが大きい程、フロントスピーカ20Aが運転席の前方から出力する音の出力レベルを大きくする。これにより、加速による車速の上昇や電動モータ3の負荷増大をドライバに容易に知覚させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、コントローラ10は、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値以下のとき、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの前後に偏らないように、合成音の定位を設定する。
【0085】
この構成により、本実施形態では、車両2が加速を開始しておらず車両2の前方から後方への荷重移動が発生していないときには、低音の音像位置がドライバの前後に偏らないようにするので、荷重移動が発生したときの低音の音像位置の移動を一層容易にドライバに知覚させることができ、低周波数成分の音が車両2の荷重移動に関わる音であることをドライバに認識させやすくできる。
【0086】
また、本実施形態では、車両2の前方への加速度と相関する物理量としてモータトルク値Tを用いる。
【0087】
この構成により、本実施形態では、車両2の加速度やサスペンションストロークより先に変化するモータトルク値Tを用いて制御を行うので、車両2の挙動変化が生じるより早く低音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両2の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【0088】
また、第1実施形態では、コントローラ10は、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値より大きいとき、リアスピーカ20Bが運転席の後方から出力する音の出力レベルを、モータ回転数Rが所定値以下の場合に、モータ回転数Rが所定値より大きい場合よりも大きく設定する。
【0089】
この構成により、第1実施形態では、モータ回転数Rが小さいとき、つまり停止状態や定常走行からの動き出しなど車両2の前方から後方への荷重移動が発生していることを特にドライバに知覚させたい場面において、より効果的にドライバに低音の音像位置の移動を知覚させることができる。
【0090】
また、本実施形態では、コントローラ10は、モータ回転数Rに比例するように、リアスピーカ20Bが運転席の後方から出力する音の周波数を設定する。
【0091】
この構成により、本実施形態では、モータ回転数Rの増大とともに耳で感じる周波数増加により、車両の加速を認識することができるので、車両2の挙動をより効果的にドライバに知覚させることができる。
【0092】
また、第2実施形態では、コントローラ10は、モータ回転数Rに応じて複数の周波数f1~f5を設定し、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTと複数の周波数のうちの低周波数f1の出力レベルとの関係を規定した第3音圧レベル設定マップに基づき、リアスピーカ20Bが運転席の後方から出力する音の出力レベルを設定し、第3音圧レベル設定マップは、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTが所定値より大きいときに、そうでないときよりも出力レベルが大きくなるように設定されている。
【0093】
この構成により、第2実施形態では、合成音を生成する処理において、モータトルク値Tの単位時間当たりの増加量ΔTの大きさに基づく条件分岐等の判定処理を行うことなく、マップを参照するだけの簡易な制御で低音の音像位置の移動を実現することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 車両用音生成装置
2 車両
3 電動モータ
10 コントローラ
11 音制御部
12 記憶部
20A フロントスピーカ
20B リアスピーカ
30 センサ群
31 回転数センサ
32 PCM
M1 第1音圧レベル設定マップ
M2 第2音圧レベル設定マップ
M3 第3音圧レベル設定マップ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11