(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】[6,6]メタノフラーレン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/343 20060101AFI20241202BHJP
C07C 69/608 20060101ALI20241202BHJP
C07C 69/736 20060101ALI20241202BHJP
C07C 41/30 20060101ALI20241202BHJP
C07C 43/215 20060101ALI20241202BHJP
C07C 317/44 20060101ALI20241202BHJP
C07D 333/54 20060101ALI20241202BHJP
C01B 32/156 20170101ALI20241202BHJP
【FI】
C07C67/343
C07C69/608
C07C69/736
C07C41/30
C07C43/215
C07C317/44
C07D333/54
C01B32/156
(21)【出願番号】P 2020090407
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000134637
【氏名又は名称】株式会社ナード研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】岩井 利之
(72)【発明者】
【氏名】松元 深
(72)【発明者】
【氏名】隅野 修平
(72)【発明者】
【氏名】郷田 慎
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/055850(WO,A1)
【文献】特開2014-034519(JP,A)
【文献】特表2004-531517(JP,A)
【文献】David H. RINGGER et al.,“Quantitative Description of Structural Effects on the Stability of Gold(I) Carbenes”,Chemistry - A European Journal,2014年09月18日,Vol. 20, No. 44,p.14270-14281,DOI: 10.1002/chem.201403988
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C01B
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[6,6]メタノフラーレン誘導体を製造するための方法であって、
塩基の存在下、溶媒中、下記式(I)で表されるスルホン化合物とフラーレンとを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【化1】
[式中、
R
1は、
トリフルオロメチル基を示し、
R
2は、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基βを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
3は、H、または-X-C(=O)O-R
4(式中、Xは単結合またはC
1-10アルカンジイル基を示し、R
4は、置換基αを有していてもよいC
1-30アルキル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルケニル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルキニル基、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、置換基βを有していてもよい芳香族複素環基、またはポリアルキレングリコール基を示す。)を示し、
置換基αは、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示す。]
【請求項2】
上記フラーレンがC60フラーレンまたはC70フラーレンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記フラーレンがC70フラーレンであり、且つ上記反応により生成する[6,6]メタノフラーレン誘導体におけるα-異性体の割合が99%超である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が芳香族炭化水素溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
芳香族炭化水素溶媒がジクロロベンゼンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
非プロトン性極性溶媒がジメチルスルホキシドおよび/またはジメチルホルムアミドである請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
R
2が置換基βを有していてもよいフェニル基である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
R
4がメチル基である請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
下記式(II)で表される
スルホン化合物を含有することを特徴とする
、フラーレンの[6,6]メタノフラーレン化剤。
【化2】
[式中、
R
1は、
トリフルオロメチル基を示し、
R
2は、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基γを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
4は、置換基αを有していてもよいC
1-30アルキル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルケニル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルキニル基、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、置換基βを有していてもよい芳香族複素環基、またはポリアルキレングリコール基を示し、
nは、3以上、5以下の整数を示し、
置換基αは、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基γは、ハロゲノ基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量生産にも適する効率的な[6,6]メタノフラーレン誘導体の製造方法、および当該方法で好適に使用することができるスルホン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電は、CO2等の排出ガスを伴わないために極めてクリーンな発電方法であり、温室効果ガスを削減し、地球温暖化問題を解決する手段として期待されている。その中で有機薄膜太陽電池は、大面積、簡易、安価な製造法が期待でき軽量で、且つ柔軟性に富むため有望な次世代太陽電池と考えられており、その実用化に向けて各種材料の工業化に適した製造法の確立が重要課題となっている。
【0003】
1992年にフラーレンC60が、有機薄膜太陽電池の電子受容材料としての特性を有することが示された(非特許文献1,特許文献1)。更に、フラーレンのホール輸送材料への相溶性を高めることを目的として、フェニル基と酪酸エステル基をメチレンで架橋したメタノフラーレンPC61BM([6,6]-フェニルC61ブチリックアシッドメチルエステル)が合成され(非特許文献2)、C60に比べて光電変換効率が大幅に改善された。
【0004】
一方、C60以外のフラーレンとして、C70は入手性も高く、またC60と比較してより長波長領域に吸収を持つために長波長側のエネルギーを吸収できることから、電子材料としての利用が活発に進められている。特許文献2と非特許文献3では、C70を用いて合成したメタノフラーレンPC71BM([6,6]-フェニルC71ブチリックアシッドメチルエステル)を光電変換層に用いることにより、PC61BMに比べて50%以上の光電変換効率の向上が確認された。フラーレンC70は、フラーレンC60と異なり楕円形の中空構造であるため、化学反応性や立体障害の異なる2つの二重結合であるα結合とβ結合を有している。このPC71BMは、従来公知の製造法で得られるα体を約85%含有する2種類の位置異性体混合物として利用されたが、特許文献3では、精密な異性体の分離操作を加え、一方の位置異性体の割合を95%以上に高めることにより、さらに高い光電変換効率が示された。
【0005】
現在、上記メタノフラーレン誘導体が、有機薄膜太陽電池の開発において標準材料として利用されているため、工業化に適した製造法の確立が求められている。
【0006】
しかしながら、PC61BMを含むメタノフラーレン誘導体の従来公知の製造法は、高温、長時間の反応条件に加え、フラーレンに対して[5,6]付加体のフレロイドを経由するため、[6,6]付加体のメタロフラーレンへの超高温条件による異性化が必要である。具体的には、付加原料の前駆体としてメチル 4-ベンゾイル酪酸p-トシルヒドラゾンにC60を加えて70℃で加熱攪拌を22時間という長時間行った後、中間体として得られた[5,6]付加体フレロイドを、180℃という高温による7時間の熱異性化に付すことにより[6,6]付加体のPC61BMが得られる(非特許文献2)。
【0007】
また、PC71BMの製造に関しても、PC61BMと同様手法で合成されるため(非特許文献3)、PC61BMの製造と同じ問題点を有する。加えてPC71BMの製造では、α体を主成分とする極めて分離困難な2種類の位置異性体の混合物として得られる。このため、特許文献3では位置異性体の割合を高くする方法として、多大な労力を要する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて単離する方法が採用されており、製造コスト面において問題があった。
【0008】
本発明者らは、スルホニウム塩から調製された準安定硫黄イリドとC60との反応を開発した。本法では、[5,6]異性体を形成することなく、[6,6]-フェニル-C61-酪酸メチル(PC61BM)が得られる。フラーレンC70との反応では、ジイソプロピル(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)スルホニウム塩より調製され硫黄イリドを用いることにより、α-PC71BMの生成割合を98%まで向上できることを示した(特許文献4,非特許文献4~5)。一方、特許文献5と特許文献6においても、同じジイソプロピル(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)スルホニウム塩から調製された硫黄イリドを用いることにより、α-PC71BMが98%で合成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第5331183号
【文献】特表2006-518110号
【文献】特開2009-76683号
【文献】特開2014-034519号
【文献】米国特許第9527797号
【文献】特開2017-197518号
【非特許文献】
【0010】
【文献】N.S.Sariciftci,et al.,Science,1992,258,1474
【文献】J.C.Hummelen,et al.,J.Org.Chem.,1995,60,532
【文献】M.M.Wienk,et al.,Angew.Chem,Int.Ed.,2003,42,3371
【文献】T.Ito,et al.,Synlett,2013,24,1988
【文献】T.Ito,et al.,Synlett,2017,28,1457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、メタノフラーレン誘導体が有機薄膜太陽電池の材料として注目されているが、従来のメタノフラーレン誘導体の製造方法は、[5,6]フレロイドから[6,6]メタロフラーレンへの熱転移反応が必要で効率が悪かったり、原料化合物の安定性が低かったりと、工業的な大量生産には適していないものであった。
そこで本発明は、大量生産にも適する効率的なメタノフラーレン誘導体の製造方法、および当該方法で好適に使用することができるスルホン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、塩基の存在下、安定なスルホン化合物とフラーレンとを反応させれば、効率的に目的のメタノフラーレン誘導体が得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0013】
[1] [6,6]メタノフラーレン誘導体を製造するための方法であって、
塩基の存在下、溶媒中、下記式(I)で表されるスルホン化合物とフラーレンとを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【化1】
[式中、
R
1は、置換基αを有していてもよいC
1-30アルキル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルケニル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルキニル基、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基βを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
2は、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基βを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
3は、H、または-X-C(=O)O-R
4(式中、Xは単結合またはC
1-10アルカンジイル基を示し、R
4は、置換基αを有していてもよいC
1-30アルキル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルケニル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルキニル基、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、置換基βを有していてもよい芳香族複素環基、またはポリアルキレングリコール基を示す。)を示し、
置換基αは、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示す。]
[2] 上記フラーレンがC60フラーレンまたはC70フラーレンである上記[1]に記載の方法。
[3] 上記フラーレンがC70フラーレンであり、且つ上記反応により生成する[6,6]メタノフラーレン誘導体におけるα-異性体の割合が99%超である上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 溶媒が芳香族炭化水素溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒である上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 芳香族炭化水素溶媒がジクロロベンゼンである上記[4]に記載の方法。
[6] 非プロトン性極性溶媒がジメチルスルホキシドおよび/またはジメチルホルムアミドである上記[4]または[5]に記載の方法。
[7] R
2が置換基βを有していてもよいフェニル基である上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] R
4がメチル基である上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 下記式(II)で表されることを特徴とするスルホン化合物。
【化2】
[式中、
R
1は、置換基γを有するC
1-30アルキル基、置換基γを有するC
2-30アルケニル基、置換基γを有するC
2-30アルキニル基、置換基γを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基γを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
2は、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、または置換基γを有していてもよい芳香族複素環基を示し、
R
4は、置換基αを有していてもよいC
1-30アルキル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルケニル基、置換基αを有していてもよいC
2-30アルキニル基、置換基βを有していてもよいC
6-30アリール基、置換基βを有していてもよい芳香族複素環基、またはポリアルキレングリコール基を示し、
nは、3以上、5以下の整数を示し、
置換基αは、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基βは、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、C
6-12アリール基、C
1-7アルカノイル基、アミノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示し、
置換基γは、ハロゲノ基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を示す。]
【0014】
本開示において「C6-30アリール基」とは、炭素数が6以上、30以下の一価芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、ビフェニル、アントラセニル、ピレニル、ナフタセニル、ペンタセニル、ヘキサセニル、ヘプタセニル等を挙げることができ、C6-20アリール基が好ましく、C6-12アリール基がより好ましく、フェニルがより更に好ましい。
【0015】
「芳香族複素環基」とは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子などのヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環芳香族複素環基、6員環芳香族複素環基または縮合環芳香族複素環基をいう。例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チエニル、フリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾール等の5員環複素環基;ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル等の6員環複素環基;インドリル、イソインドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル等の縮合環芳香族複素環基を挙げることができる。
【0016】
「単結合」とは、隣り合う2つの炭素原子を結合する共有結合をいう。
【0017】
「C1-10アルカンジイル基」とは、炭素数1以上、10以下の直鎖状または分枝鎖状の二価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチレン、エチレン、メチルメチレン、n-プロピレン、メチルエチレン、n-ブチレン、メチルプロピレン、ジメチルエチレン、n-ペンチレン、n-ヘキシレン、n-オクタレン、n-デカンジイル等が挙げられ、C1-8アルカンジイル基またはC1-6アルカンジイル基が好ましく、C2-4アルカンジイル基または-(CH2)2-4-基がより好ましく、n-プロピレン(n-プロパンジイル)がより更に好ましい。
【0018】
「C1-30アルキル基」は、炭素数1以上、30以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-デカニル、n-ドデカニル、n-テトラデカニル、n-ヘキサデカニル、n-オクタデカニル、n-イコサニル、n-ヘキシル、n-トリアコンタニル等が挙げられ、C1-20アルキル基またはC1-10アルキル基が好ましく、C1-8アルキル基またはC1-6アルキル基がより好ましく、C1-4アルキル基またはメチルがより更に好ましい。
【0019】
「C2-30アルケニル基」は、炭素数が2以上、30以下であり、且つ少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖状または分枝鎖状の一価不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、イソプロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、デセニル、イコセニル、トリアコンテニル等が挙げられ、C2-20アルケニル基またはC2-10アルケニル基が好ましく、C2-8アルケニル基またはC2-6アルケニル基がより好ましく、C2-4アルケニル基またはエテニル(ビニル)がより更に好ましい。
【0020】
「C2-30アルキニル基」は、炭素数が2以上、30以下であり、且つ少なくとも一つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖状または分枝鎖状の一価不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、2-ブチニル、3-ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、デシニル、イコシニル、トリアコンチニル等が挙げられ、C2-20アルキニル基またはC2-10アルキニル基が好ましく、C2-8アルキニル基またはC2-6アルキニル基がより好ましく、C2-4アルキニル基がより更に好ましい。
【0021】
「ポリアルキレングリコール基」は、式-(CR11R12-CR13R14-O)m-H(式中、R11~R14は、独立して、HまたはC1-4アルキル基を示し、mは、1以上、10以下の整数を示す。)で表される基をいう。上記式中、R11~R14としてはHまたはC1-2アルキル基が好ましく、Hまたはメチルがより好ましく、また、mとしては8以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がより更に好ましい。
【0022】
「C1-6アルコキシ基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ等が挙げられ、C1-4アルコキシ基が好ましく、C1-2アルコキシ基がより好ましく、メトキシがより更に好ましい。
【0023】
「C1-7アルカノイル基」は、炭素数1以上、7以下の脂肪族カルボン酸からOHを除いた残りの原子団をいう。例えば、ホルミル、アセチル、エチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、t-ブチルカルボニル、n-ペンチルカルボニル、n-ヘキシルカルボニル等が挙げられ、C1-4アルカノイル基が好ましく、C1-2アルカノイル基がより好ましく、アセチルがより更に好ましい。
【0024】
「アミノ基」には、無置換のアミノ基(-NH2)のほか、1個のC1-6アルキル基に置換されたモノ(C1-6アルキル)アミノ基と2個のC1-6アルキル基に置換されたジ(C1-6アルキル)アミノ基が含まれるものとする。ジ(C1-6アルキル)アミノ基において、2個のC1-6アルキル基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。かかるアミノ基としては、アミノ;メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t-ブチルアミノ、n-ペンチルアミノ、n-ヘキシルアミノ等のモノ(C1-6アルキル)アミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(n-ペンチル)アミノ、ジ(n-ヘキシル)アミノ、エチルメチルアミノ、メチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルメチルアミノ、エチル(n-プロピル)アミノ、n-ブチルエチルアミノ等のジ(C1-6アルキル)アミノを挙げることができる。好ましくは、無置換のアミノ基である。
【0025】
「ハロゲノ基」としては、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1以上のハロゲノ基が挙げられる。
【0026】
置換基αは脂肪族炭化水素基上の置換基であり、置換基βは芳香族基上の置換基であり、置換基γは電子吸引性の置換基である。置換基α、置換基βおよび置換基γの数は、置換可能である限り特に制限されないが、例えば1以上、5以下とすることができ、3以下または2以下が好ましく、1がより好ましい。また、置換基数が2以上である場合、置換基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。置換基γとしてはハロゲノ基が好ましく、フルオロ基がより好ましい。
【0027】
式(I)で表されるスルホン化合物の-SO2-R1基は、脱離基である。当該基としては、例えば、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、o-ニトロベンゼンスルホニル基が挙げられ、トリフルオロメタンスルホニル基が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明方法によれば、中間体として先ず[5,6]フレロイドが得られ、[5,6]フレロイドから[6,6]メタノフラーレンへの熱転移反応が必要ということが無く、目的の[6,6]メタノフラーレンが直接得られて効率が良い。また、本発明方法の原料化合物の一つである特定のスルホン化合物は、不安定な硫黄イリド化合物に比べて安定である。
よって本発明は、有機薄膜太陽電池材料などとして有用なメタノフラーレン誘導体を効率的に製造可能な技術として、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例2で製造した[6,6]PC71BMの
1H NMRチャートとその一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る[6,6]メタノフラーレン誘導体の製造方法は、塩基の存在下、溶媒中、式(I)で表されるスルホン化合物とフラーレンとを反応させる工程を含む。以下、本発明方法を説明する。
【0031】
フラーレンとは、炭素原子が球状またはラグビー状に配置して形成される閉殻状の骨格を有する炭素クラスターをいう。本発明の製造方法で用いるフラーレンは特に制限されず、具体的にはC60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96、およびより高次の炭素クラスターが挙げられる。これらは単一でも混合物であってもよい。例えばC60フラーレンは、炭素骨格を構成する炭素数が60のフラーレンをいい、C70フラーレンは、炭素骨格を構成する炭素数が70のフラーレンをいう。
【0032】
式(I)で表されるスルホン化合物(以下、「スルホン化合物(I)」という)は、フラーレンに結合させることによりフラーレンのホール輸送材料に対する相溶性を高めるためのものであり、スルホン化合物(I)が結合した本発明に係る[6,6]メタノフラーレン誘導体を用いた有機薄膜太陽電池は、相当するフラーレンを用いたものに比べ、光電変換効率が改善される。
【0033】
スルホン化合物(I)の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、原料フラーレンに対して0.8倍モル以上用いることが好ましく、1倍モル以上用いることが好ましく、1.1倍モル以上用いることが好ましい。当該比の上限は特に制限されないが、例えば、10倍モル以下とすることができ、5倍モル以下が好ましく、2倍モル以下がより好ましい。
【0034】
本発明に係る反応は、スルホン化合物(I)に塩基を作用させることにより生成するアニオンを経由すると考えられる。使用する塩基は、適宜選択すればよく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム t-ブトキシド等の金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド等のアミド;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン、トリエタノールアミン等の第三級アミン;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン;グアニジン塩などのグアニジンなどが挙げられる。
【0035】
塩基の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、原料フラーレンに対して1倍モル以上、20倍モル以下用いることができる。当該比としては、2倍モル以上が好ましく、4倍モル以上がより好ましく、また、15倍モル以下または10倍モル以下が好ましく、8倍モル以下がより好ましい。
【0036】
本発明で用いる溶媒は、塩基、スルホン化合物(I)およびフラーレンに対して適度の溶解性を示し、且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒;アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0037】
溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて併用してもよい。例えば、反応の加速効果や安定化効果が認められることから、芳香族炭化水素溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
溶媒の使用量は、塩基、スルホン化合物(I)およびフラーレンを適度に溶解できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、塩基、スルホン化合物(I)およびフラーレンの合計1gあたり30mL以上、100mL以下程度とすることができる。
【0039】
反応条件は適宜調整すればよい。本発明方法によれば、温和な条件と短時間で目的化合物であるメタノフラーレン誘導体を製造することができる。例えば反応温度は-40℃以上、80℃以下に調整できる。当該温度としては、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上がより更に好ましく、また、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。また、反応は温度制御せずに常温で行うことも可能である。また、反応時の圧力は、上記範囲の温度であれば常圧でよい。
【0040】
反応時間は、30分以上、50時間以下とすることができる。反応時間としては、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上がより更に好ましく、また、40時間以下が好ましく、30時間以下がより好ましく、20時間以下がより更に好ましい。実際の反応時間は、予備実験で決定したり、薄層クロマトグラフィ等によりいずれかの原料の消費が確認できたときまでとすることもできる。
【0041】
反応系内の気相は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスに置換してもよいが、本発明に係る反応は空気雰囲気下でも行うことが可能である。
【0042】
反応終了後は、通常の後処理を行ってもよい。例えば、反応液を濃縮した後、HPLCやシリカゲルカラムクロマトグラフィー等で目的化合物を精製してもよい。また、反応液にメタノール等を加え、析出した粗生成物を濾取した後、更に目的化合物を精製してもよい。
【0043】
本発明方法で得られるメタノフラーレン誘導体は[6,6]メタノフラーレン誘導体、即ちフラーレンを構成する6員環と6員環が縮合している部分の炭素-炭素二重結合がメタノ基(>C<)で架橋された下記構造を有する。
【0044】
【0045】
球状であるC60フラーレン等に由来する[6,6]メタノフラーレン誘導体には、その対称性から異性体は存在しないが、C70フラーレン等に由来する[6,6]メタノフラーレン誘導体には、1個の置換基を有する場合、フラーレン骨格の長軸上に置換基を有するα位異性体と、フラーレン骨格の長軸上に置換基を有するβ位異性体が存在する。
【0046】
上記のように異性体が存在する[6,6]メタノフラーレン誘導体の場合、一方の位置異性体の割合が大きいほど光電変換効率が高いという報告がある。本発明方法によれば、後記の実施例の通り、[6,6]メタノフラーレン誘導体が効率的に生成するのみならず、そのα-異性体の割合が98%超と、従来技術では達成できなかったほど高い。よって、α-異性体の割合を高めるための精製への負荷が低減される。本発明に係る式(II)で表されるスルホン化合物は、本発明方法により優れた特性を有する[6,6]メタノフラーレン誘導体の効率的な製造を可能にするものとして、非常に有用である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1: [6,6]PC61BMの製造
(1)(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)トリフルオロメチルスルホンの製造
【化4】
100mLナス型フラスコに、ベンジルトリフルオロメチルスルホン(904mg)を加え、ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解した。得られた溶液を0℃に冷却し、水素化ナトリウム(192mg)を加えて1時間攪拌した。4-ブロモ酪酸メチル(797mg)をジメチルホルムアミド(3mL)に溶解した溶液を滴下し、室温下で6時間攪拌した。反応終了後、反応液に希塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水および飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:63%,収量:822mg)。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.45-7.43(m,5H),4.39-4.35(m,1H),3.65(s,3H),2.94-2.20(m,4H),1.58-1.51(m,2H)
【0049】
(2)[6,6]PC61BMの製造
【化5】
25mL容二口付フラスコに、C60(29mg)を加え、o-ジクロロベンゼン(4mL)に溶解した後、(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)トリフルオロメチルスルホン(14mg)、およびジメチルスルホキシド(2mL)を加えた。次に炭酸セシウム(39mg)を加え、室温下で15時間攪拌した。反応液に酢酸と水を加えた後、トルエンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:63%,収量:23mg)。
得られた生成物は、
1H-NMRで分析し、非特許文献2のスペクトルデータと比較して[6,6]PC61BMであることを確認した。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.91(d,J=8.7Hz,2H),7.60-7.43(m,3H),3.68(s,3H),2.94-2.87(m,2H),2.52(t,J=7.5Hz,2H),2.23-2.12(m,2H)
【0050】
試験例1: 安定性試験
スルホン化合物の安定性について試験を下記の条件で行った。
実施例1(1)で製造したスルホン化合物((5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)トリフルオロメチルスルホン)にテレフタロニトリルを内部標準物質として加え、約1mLの重クロロホルムに溶解させた。得られた試料溶液を25℃で保存し、経時的に1H-NMRで分析し、内部標準物質とのプロトン比からスルホン化合物の残存率を求めた。結果を表1に示す。
また、比較のために、特許文献4に記載のスルホニウム塩(ジプロピル(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)スルホニウム テトラフルオロホウ酸)についても、スルホニウム塩の残存率を同様に求めた。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1に示される結果の通り、スルホニウム塩は経時的に分解し、7日後の残存率は74%まで減少した。
それに対してスルホン化合物は全く分解せず、7日後においても調製時と同様の残存率であった。
かかる結果より、スルホン化合物はスルホニウム塩と比較して安定性が高いことが示された。
【0053】
実施例2: [6,6]PC71BMの製造
【化6】
25mL容二口付フラスコ中、実施例1(1)で製造した(5-メトキシ-5-オキソ-1-フェニルペンチル)トリフルオロメチルスルホン(14mg)をジメチルスルホキシド(4mL)に溶解した。水素化ナトリウム(2.2mg)を加えて15分間攪拌した後、C70(25mg)をo-ジクロロベンゼン(12mL)に溶解した溶液へ添加し、室温下で18時間攪拌した。反応液に酢酸と水を加えた後、トルエンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:61%,収量:19mg)。得られた生成物を
1H-NMRにより分析し、非特許文献3のスペクトルデータと比較して、[6,6]PC71BMであることを確認し、異性体比に関し、
図1に示す通り、α体の異性体割合が99.5%以上であることを確認した。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.92-7.40(m,5H),3.74(β-type,s,0.00743H),3.67(α-type,s,2.99H),3.50(β-type,s,0.00718H),2.53-2.42(m,4H),2.25-1.99(m,2H)
【0054】
実施例3: 4-メトキシ-[6,6]-PC61BMの製造
(1){5-メトキシ-5-オキソ-1-(4-メトキシフェニル)ペンチル}トリフルオロメチルスルホンの製造
【化7】
100mL容ナス型フラスコに、4-メトキシベンジル トリフルオロメチルスルホン(254mg)を加え、ジメチルスルホキシド(5mL)に溶解した。次にナトリウムt-ブトキシド(115mg)を加えて30分間攪拌した。4-ヨード酪酸メチル(273mg)をジメチルスルホキシド(1mL)に溶解した溶液を滴下し、室温下で18時間攪拌した。反応終了後、反応液に希塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水と飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:37%,収量:130mg)。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.31(d,J=7.8Hz,2H),6.94(d,J=9.0Hz,2H),4.34(dd,J=4.2Hz and 11.4Hz,1H),3.82(s,3H),3.65(s,3H),2.40-2.18(m,4H),1.61-1.51(m,2H)
【0055】
(2)4-メトキシ-[6,6]-PC61BMの製造
【化8】
25mL容二口付フラスコにC60(72mg)を加え、o-ジクロロベンゼン(4mL)に溶解した後、{5-メトキシ-5-オキソ-1-(4-メトキシフェニル)ペンチル}トリフルオロメチルスルホン(43mg)、および、ジメチルスルホキシド(2mL)を加えた。当該溶液に炭酸セシウム(98mg)を加え、室温下で18時間攪拌した。次に酢酸と水を加えた後、トルエンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:56%,収量:53mg)。得られた生成物は、
1H-NMRで分析し、非特許文献(F.B.Kooistra,et al.,Org.Lett.,2007,9,551)のスペクトルデータと比較して4-メトキシ-[6,6]PC61BMであることを確認した。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.82(d,J=8.4Hz,2H),7.05(d,J=9.0Hz,2H),3.89(s,3H),3.67(s,3H),2.88-2.84(m,2H),2.54-2.50(m,2H),2.19-2.15(m,2H)
【0056】
実施例4: 4-メトキシフェニル-[6,6]メタノフラーレンの製造
(1)4-メトキシベンジル トリフルオロメチルスルホンの製造
【化9】
100mL容ナス型フラスコに、4-メトキシベンジルクロリド(1.56g)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(1.72g)、およびヨウ化テトラブチルアンモニウム(1.11g)を加え、アセトニリル(20mL)に溶解させた。溶液を70℃で6時間攪拌した後、減圧下で反応溶媒を留去した。濃縮残渣に水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水および飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:67%,収量:1.71g)。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.33(d,J=8.4Hz,2H),6.95(d,J=8.4Hz,2H),4.42(s,2H),3.82(s,3H)
【0057】
(2)4-メトキシフェニル-[6,6]メタノフラーレンの製造
【化10】
25mL容二口付フラスコに、4-メトキシベンジル トリフルオロメチルスルホン(31mg)加えてジメチルスルホキシド(2mL)に溶解した後、水素化ナトリウム(4.8mg)を添加した。室温下で1時間攪拌した溶液を、C60(72mg)をo-ジクロロベンゼン(10mL)に溶解した溶液へ添加し、18時間攪拌した。反応液に酢酸および水を加えた後、トルエンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:28%,収量:24mg)。なお、得られた生成物を
1H-NMRにより分析し、非特許文献(M.Prato,et al.,J.Am.Chem.Soc.,1993,115,8479)のスペクトルデータと比較して4-メトキシフェニル-[6,6]メタノフラーレンであることを確認した。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.87(d,J=8.4Hz,2H),7.04(d,J=6.6Hz,2H),5.35(s,1H),3.80(s,3H)
【0058】
実施例5: 1-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-[6,6]メタノフラーレンの製造
(1)2-(トリフルオロメチルスルホニル)メチル-ベンゾ[b]チオフェンの製造
【化11】
100mL容ナス型フラスコに、2-クロロメチル-ベンゾ[b]チオフェン(390mg)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(390mg)、およびヨウ化テトラブチルアンモニウム(369mg)を加え、ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解させた。溶液を60℃で15時間攪拌した後、減圧下で反応溶媒を留去した。濃縮残渣に水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水および飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を濃縮することにより、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:70%,収量:412mg)。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.85-7.80(m,2H),7.49(s,1H),7.42-7.39(m,2H),4.78(s,2H)
【0059】
(2)1-(ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-[6,6]メタノフラーレンの製造
【化12】
25mL容二口付フラスコにC60(36mg)を加え、o-ジクロロベンゼン(3mL)に溶解した後、2-(トリフルオロメチルスルホニル)メチルベンゾ[b]チオフェン(17mg)、およびジメチルスルホキシド(1mL)を加えた。次に炭酸セシウム(49mg)を加え、室温下で15時間攪拌した。反応液にメタノールを加え、遠心分離することにより粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィーに付すことにより、目的化合物を得た(収率:20%,収量:9mg)。
1H-NMR(600MHz,CDCl
3):δ=7.90(dd,J=7.8 and 16.8Hz,2H),7.81(s,1H),7.46-7.35(m,2H),5.46(s,1H)