(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】アラミド繊維による補強用テープ
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20241202BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20241202BHJP
【FI】
D03D1/00 A
D03D15/283
(21)【出願番号】P 2020161887
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】512019295
【氏名又は名称】森保染色株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520253188
【氏名又は名称】愛宕織物株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520234305
【氏名又は名称】丹羽 国治
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100068663
【氏名又は名称】松波 祥文
(72)【発明者】
【氏名】早川 典雄
(72)【発明者】
【氏名】伴 隆行
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 国治
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-034639(JP,A)
【文献】特開平11-050348(JP,A)
【文献】特開2002-194640(JP,A)
【文献】特開2010-053487(JP,A)
【文献】特開2003-027349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維糸からなる経糸と熱溶融性繊維糸からなる緯糸が織成されている補強用テープであって、
経糸及び緯糸をそれぞれ構成する隣り合った糸同士が寄り合って
、織成密度の高い糸群を
経方向および緯方向に繰り返し形成し、
前記織成密度の高い糸群
により構成される井桁状部分に形成された隙間によりメッシュ目が形成された透かし織物であって、
前記経糸又は緯糸を構成する隣り合った糸同士が寄り合って形成した各糸群のそれぞれの内部に位置する少なくとも1本の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の各糸群全体の上に浮いたり沈んだりして交差し織成され、該織成された糸以外の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の各糸群の前記織成された糸以外の糸と交互に交差し織成されていることにより、前記メッシュ目が漏斗形状となっている
とともに、
前記アラミド繊維糸は、単繊維フィラメント数が100~3000本で繊度が150~4500デニールであるマルチフィラメント糸であり、
前記熱溶融性繊維糸は、単繊維フィラメント数が30~1000本で繊度が90~3000デニールであるマルチフィラメント糸であって、撚り数が500T/m以下の弱撚糸であることを特徴とする補強用テープ。
【請求項2】
前記熱溶融性繊維糸はポリエステル繊維糸又はナイロン繊維糸であることを特徴とする
請求項1に記載の補強用テープ。
【請求項3】
前記各糸群はそれぞれ3本の繊維糸からなっていることを特徴とする
請求項1、または2に記載の補強用テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物である柱や梁の補修または補強に用いられるアラミド繊維による補強用テープに関する。
【背景技術】
【0002】
既存のコンクリート構造物の柱や梁を補修または補強する方法としては、高強度繊維であるアラミド繊維による織物を補強用テープとして用いて、コンクリート構造物の表面に張り付け、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸、硬化させて接着する方法が行われている。この方法においては、柱や梁などのコンクリート構造物の各種の寸法に合わせて、補強用テープの幅や長さを揃えるには限界があるため、施工時に構造物の寸法に合わせて切断する必要がある。この場合、補強用テープの切断面において、繊維のほつれが発生して、施工に支障がでる場合があった。さらには、補強用テープへの熱硬化性樹脂の含浸に際しては、樹脂の含浸量のムラや気泡の抱き込みによるボイドの発生を防止すると共に、過剰な樹脂による厚塗り防止や作業効率の向上を図るために、補強用テープは熱硬化性樹脂をスムーズに含浸できることが望まれている。
【0003】
上記の補強用テープの切断面の繊維のほつれの発生を防止するために特許文献1には、引張強度の大きいアラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)等の補強用繊維の経(縦)糸と熱溶融性繊維の緯(横)糸とを織成した繊維シートにおいて、さらに経糸の間に熱溶融性繊維を混在させたコンクリート構造物補強用繊維シートが示され、ヒートカッターなどの熱切断装置により切断した場合に、切断面において熱溶融性繊維が溶融して、融着することにより、繊維のほつれの発生が防止できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には熱硬化性樹脂の含浸に優れた補強用繊維織物として、炭素繊維やアラミド繊維などの高強度繊維を経糸に配し、一層の織物内に、経糸と緯糸とが規則的に交錯している領域Aと、経糸と緯糸とが交錯せず経糸が浮いている領域Bとが存在し、領域Bはその周囲を領域Aで取り囲まれており、縦方向および横方向に繰り返し存在している補強用繊維織物が記載されている。この補強用繊維織物では、領域Bを設けることにより、脱気が容易ならしめ、樹脂含浸が容易になるものである。しかしながら、この繊維織物では、樹脂含浸を確実のものとするには、領域Bはある程度の大きさが必要であり、例えば矩形であれば一辺が10mm~90mmの大きさが好ましいとされている(特許文献2、段落0016参照)。このように、経糸と緯糸とが規則的に交錯している領域の中に、交錯せず経糸が浮いている領域Bがこのような大きさで存在している場合には、熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させた補強樹脂層の均一性が確保できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-287017号公報
【文献】特開2008-13886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンクリート構造物への施工に際して、熱硬化性樹脂の含浸性に優れ、さらには、施工対象構造物の寸法に合わせて、切断面の繊維のほつれなく切断することができる作業性に優れたアラミド繊維による補強用テープを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、アラミド繊維糸からなる経糸と熱溶融性繊維糸からなる緯糸が織成されている補強用テープであって、経糸及び緯糸をそれぞれ構成する隣り合った糸同士が寄り合って、織成密度の高い糸群を経方向および緯方向に繰り返し形成し、前記織成密度の高い糸群により構成される井桁状部分に形成された隙間によりメッシュ目が形成された透かし織物であって、前記経糸又は緯糸を構成する隣り合った糸同士が寄り合って形成した各糸群のそれぞれの内部に位置する少なくとも1本の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の各糸群全体の上に浮いたり沈んだりして交差し織成され、該織成された糸以外の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の各糸群の前記織成された糸以外の糸と交互に交差し織成されていることにより、前記メッシュ目が漏斗形状となっているとともに、前記アラミド繊維糸は、単繊維フィラメント数が100~3000本で繊度が150~4500デニールであるマルチフィラメント糸であり、前記熱溶融性繊維糸は、単繊維フィラメント数が30~1000本で繊度が90~3000デニールであるマルチフィラメント糸であって、撚り数が500T/m以下の弱撚糸であることを特徴とするものである。
【0008】
上記した熱溶融性繊維糸とは、アラミド樹脂よりも融点の低い熱可塑性樹脂からなる合成繊維糸であり、ポリエステル繊維糸又はナイロン繊維糸であることが好ましく、さらに、アラミド繊維糸及び熱溶融性繊維糸はマルチフィラメント糸又はスパン糸であることが好ましい。また、各糸群は複数の繊維糸からなっており、その本数は特に限定されないがそれぞれ3本の繊維糸からなっていることが好ましい。
【0009】
アラミド繊維糸は単繊維フィラメント数が100~3000本、繊度が150~4500デニールであるマルチフィラメント糸であり、熱溶融性繊維糸は単繊維フィラメント数が30~1000本、繊度が90~3000デニールであるマルチフィラメント糸、もしくは繊度が90~3000デニール相当のスパン糸であることが好ましい。さらに、それぞれのマルチフィラメント糸及びスパン糸は弱撚糸であり、撚り数は500T/m以下であることが好ましい。また、補強用テープは上記のアラミド繊維糸及び熱溶融性繊維糸を10~100本/インチの割合で織成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補強用テープは、経糸又は緯糸の各糸群のそれぞれの内部に位置する少なくとも1本の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の糸群全体の上に浮いたり沈んだりして交差し織成され、各糸群のその他の糸は、織成相手の緯糸又は経糸の糸群のその他の糸と交互に交差し織成されていることにより、メッシュ目が漏斗形状となっているため、補強用テープに熱硬化性樹脂を含浸させる際に、熱硬化性樹脂が容易にメッシュ目に流れ込み、含浸作業をスムーズに行うことができる。さらに、補強の主体となる経糸のアラミド繊維糸に熱溶融性繊維が緯糸として織成されている場合には、テープの切断を熱切断装置にて行うことにより、切断時に熱溶融性繊維糸が溶融融着することにより、切断部における繊維のほつれも生ずることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】補強用テープの織物組織図(a)と格子構造模式図(b)。
【
図2】補強用テープの表面構造の拡大写真を模写した図。
【
図3】各糸群のそれぞれの内部に位置し、織成相手の緯糸又は経糸の糸群全体の上に浮いたり沈んだりして交差し織成された糸が稜線を形成している説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態に付き、さらに詳しく説明する。
【0013】
本発明の補強用テープは、アラミド繊維糸を織成した織物、又は、アラミド繊維糸を経糸に、熱溶融性繊維糸を緯糸にして織成した織物であり、経糸及び緯糸をそれぞれ構成する隣り合った糸同士が寄り合って織成密度の高い糸群を形成して、各糸群の間に隙間が形成され、メッシュ目が形成される透かし織物である。
【0014】
図1に示すのは、この透かし織物の実施例の織物組織図(a)と格子構造模式図(b)である。アラミド繊維糸からなる3本の糸同士が隣り合った経糸T
1、T
2、T
3及びT
4、T
5、T
6がそれぞれ寄り合って糸群を形成し、同様に、アラミド繊維糸、又は熱溶融性繊維糸からなる3本の糸同士が隣り合った緯糸Y
1、Y
2、Y
3及びY
4、Y
5、Y
6が寄り合って糸群を形成して、各糸群の間に矢印で示す隙間が形成される。そして、格子構造模式図(b)に示すように、各糸群の間に隙間が形成され、点線の円でマークした部分にメッシュ目100が形成された透かし織物となっている。このような織物は、摸紗織の技法を用いることにより織成することができる。
【0015】
図1に示す織物では、各糸群の中央の経糸T
2、T
5は、それぞれ織成相手の3本の緯糸からなる糸群の上に浮き、次いで3本の緯糸からなる糸群の下に沈むことを繰り返して交差し織成されており、同様に各糸群の中央の緯糸Y
2、Y
5も3本の経糸からなる糸群の上に浮き、次いで3本の経糸からなる糸群の下に沈むことを繰り返して交差し織成されている。そして、各糸群のこのように織成された糸以外の糸である経糸T
1、T
3、T
4,T
6はそれぞれ緯糸Y
1、Y
2、Y
3、Y
4、Y
5、Y
6と交互に交差し織成され、同様に緯糸Y
1、Y
3、Y
4、Y
6はそれぞれ経糸T
1、T
2、T
3、T
4,T
5、T
6と交互に交差し織成されている。
【0016】
図1に示す織物組織図(a)や格子構造模式図(b)では織成される糸の相互の位置関係が示されるだけであるので、
図2に、織成された各糸の形状状態を示すために、織成された織物表面の一部拡大写真を模写した図を示す。
図2では、3本の経糸T
1、T
2、T
3及びT
4、T
5、T
6がそれぞれ寄り合った糸群を形成し、緯糸も同様に3本の緯糸Y
1、Y
2、Y
3及びY
4、Y
5、Y
6が寄り合った糸群を形成し、それぞれの糸群の間に隙間が形成され、さらに隙間は、3本の経糸T
1、T
2、T
3及びT
4、T
5、T
6、並びに3本の緯糸Y
1、Y
2、Y
3及びY
4、Y
5、Y
6がそれぞれ寄り合った4組の糸群により、メッシュ目100を形成していることを示している。そして、メッシュ目100の周囲には、3本の緯糸Y
1、Y
2、Y
3が寄り合った糸群の上に浮いた経糸T
2の浮き部分11、3本の緯糸Y
4、Y
5、Y
6が寄り合った糸群の上に浮いた経糸T
5の浮き部分12、3本の経糸T
4、T
5、T
6が寄り合った糸群の上に浮いた緯糸Y
2の浮き部分21、及び3本の経糸T
1、T
2、T
3が寄り合った糸群の上に浮いた緯糸Y
5の浮き部分22の各浮き部分の4個が井桁状に配置されていることも示している。
【0017】
図3には、上記したメッシュ目100の周囲に井桁状に配置された4個の浮き部分11、12、21,22を点線の矩形でマークして示した。この井桁状に配置された4個の浮き部分は、織物表面において周辺の織物組織に対して相対的に高くなっており、メッシュ目100の周囲にて稜線を形成し、メッシュ目100を流出口とする漏斗形状を構成している。
【0018】
本発明においては、剛性の高いアラミド繊維糸を用いているため、複数の繊維糸が寄り合った糸群の上に浮いて織成される場合には、この浮き部分は高い剛性によって、持ち上がり相対的に高くなる。一方、緯糸に熱溶融性繊維糸を用いた場合でも、熱溶融性繊維糸はアラミド繊維糸のような剛性はなく、自身の剛性により持ち上がることはないものの、浮き部分は剛性の高いアラミド繊維糸が寄り合った糸群の上に位置することとなり、寄り合ったアラミド繊維糸の糸群により支えられて持ち上がることになり、同様に相対的に高くなる。
【0019】
図3に示されるように、メッシュ目100の周りに配置される4個の浮き部分11、21、12及び22は、4隅が開口した井桁状に配置されてメッシュ目100を取り囲み漏斗形状を構成している。この形状により、補強用テープに熱硬化性樹脂を含浸させた場合には、熱硬化性樹脂は点線の矢印30で示すように、取り囲んだメッシュ目100に向かって渦を巻くように流れ込み、又、隣接して形成された各メッシュ目に向かっても流れ込み、補強用テープ全体にスムーズに含浸させることができる。さらには、補強用テープを織成する各糸がマルチフィラメント糸の場合では各糸内にも含浸させることもでき、マルチフィラメント糸が弱撚糸である場合には、より好ましく含浸させることができる。
【0020】
以上説明した織物表面の構造は、経糸も緯糸も交差し織成されているために裏面も同様な構造となり、同様な作用を示す。そのため、補修、補強工事において、補強テープの表裏いずれの面を、既存コンクリート構造物の表面に張り付けて使用してもよく、いずれも同様に良好な熱硬化性樹脂の含浸が得られる。また、緯糸に熱溶融性繊維糸を用いた実施例の補強用テープを熱溶断装置で切断したが、切断面での繊維のほつれは見られなかった。
【0021】
各図にて示した実施例では3本の糸を寄り添った糸群とし、中央の糸を織成される糸群の上に浮いて織成されるとしたが、3本を超える本数でもよい。この場合は、糸群の内部に位置する一本ないしは複数本の糸を織成相手の糸群の上に浮かして織成し、それ以外の糸は織成相手の糸群の浮かして織成された糸以外の糸と交互に交差して織成すればよい。
【0022】
また、上記の実施例と同じ繊維糸を用いて平織に織成して、3本の糸を寄り添った糸群とし、各糸群の間に形成された隙間により、ほぼ同様の大きさのメッシュ目が形成された透かし織物による補強用テープを作成した。この補強用テープは平織りであるため、実施例のように、糸群の上に浮いて存在する浮き部分のない織物による補強用テープであり、形成されたメッシュ目は漏斗状ではなかった。この補強用テープを用いて既設のコンクリート柱の補強工事を行ったところ、熱硬化性樹脂の含浸作業において、気泡の発生や含浸樹脂量のバラツキを生じ、作業に手間がかかったが、上記の実施例の漏斗状のメッシュ目が形成された補強用テープでは、熱硬化性樹脂をスムーズに含浸させることができ、作業に手間取ることがなかった。
【0023】
本発明の強化用テープに含浸させ熱硬化させる熱硬化性樹脂は、特に限定されることなく、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂など既存の樹脂が適用できる。既存のコンクリート構造物の補修、補強工法は従来の行われている工法がそのまま適用でき、以上述べたように補強テープへの熱硬化性樹脂の含浸はスムーズに行えるため、作業の効率化に寄与するものである。
【符号の説明】
【0024】
T1~T6 経糸
Y1~Y6 緯糸
11、12 経糸の浮き部分
22、22 緯糸の浮き部分
100 メッシュ目
30 矢印(熱硬化性樹脂の流れ)