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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】複合体、抗菌剤、及び複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20241202BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20241202BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20241202BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20241202BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20241202BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241202BHJP
   D01F 9/00 20060101ALI20241202BHJP
   A61K 8/19 20060101ALN20241202BHJP
   A61K 8/73 20060101ALN20241202BHJP
   A61K 33/38 20060101ALN20241202BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20241202BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
D06M11/83
A01N25/10
A01N43/16 A
A01N59/16 A
A01N61/00 D
A01P3/00
D01F9/00 A
A61K8/19
A61K8/73
A61K33/38
A61K47/36
D06M101:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021092114
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184334
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英司
(72)【発明者】
【氏名】木村 祥彦
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003175(JP,A)
【文献】特開2017-150117(JP,A)
【文献】特開2019-131772(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106729931(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
D01F 9/00
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
A61K 8/00 - 8/99
A61K 33/38
A61K 47/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスナノファイバーと銀ナノ粒子を含む複合体を含み
前記バイオマスナノファイバー上に前記銀ナノ粒子が析出し固定化されてなり、
前記銀ナノ粒子の析出量が前記バイオマスナノファイバー100質量部に対して0.1質量部以上であり、
前記銀ナノ粒子の平均粒子径が9nm以下であり、
前記バイオマスナノファイバーの重合度が200~700であり、
前記バイオマスナノファイバーがキトサンナノファイバーである、抗菌剤
【請求項2】
前記銀ナノ粒子の平均粒子径の標準偏差が9nm未満である請求項1に記載の抗菌剤
【請求項3】
前記バイオマスナノファイバーおよび前記銀ナノ粒子は結晶構造を有しており、X線回折測定において、回折角度(2θ)=18~25°に前記バイオマスナノファイバーに起因するピークが存在し、回折角度(2θ)=35~43°に前記銀ナノ粒子の銀に起因するピークが存在する請求項1又は2に記載の抗菌剤
【請求項4】
前記銀ナノ粒子の析出量が前記バイオマスナノファイバー100質量部に対して10質量部以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌剤の製造方法であって、
バイオマスナノファイバーを含み、かつ、銀化合物が溶解した原料液を、湿式ジェットミルを用いて圧力1~600MPaで加圧流体化処理を施す加圧流体化工程と、前記加圧流体化工程を経た処理液に遠心分離処理を施す遠心分離工程とを含み、
前記遠心分離処理における遠心力を500~4800×gとする抗菌剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合体、抗菌剤、及び複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医学、環境分野では、細菌、ウイルス等の捕捉、除去、又は不活化機能を有する素材、材料として、銀ナノ粒子とナノファイバーとの複合体の利用が提案されている。とりわけ、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、及びキトサンナノファイバーのようなバイオマス由来のナノファイバー(バイオマスナノファイバー)は、化石燃料由来材料の代替材料としてその有効活用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、セルロース繊維の表面に、粒径の小さい銀ナノ粒子が付着してなる複合体を、簡易かつ効率的に製造することができる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-3175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば、セルロースナノファイバーの表面に粒径の小さい銀ナノ粒子が付着してなる複合体が得られるが、重合度が比較的小さいバイオマスナノファイバーに対しては、十分な量の銀ナノ粒子を担持させられず、銀ナノ粒子本来の効果を良好に発現できる複合体とすることは難しかった。
【0006】
そこで、本発明は、例えば、抗菌剤等に使用した際に、銀ナノ粒子本来の効果が従来よりも良好に発現できる複合体、及び当該複合体を含む抗菌剤を提供することを目的とする。また、当該複合体をより効率的に製造できる複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような状況に鑑み鋭意検討した結果、所定の重合度のバイオマスナノファイバーに所定の粒径の銀ナノ粒子を析出し固定化させることで、銀ナノ粒子の表面積が大きくなり、銀ナノ粒子本来の効果が従来よりも良好に発現できる複合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] バイオマスナノファイバーと銀ナノ粒子を含む複合体であって、前記バイオマスナノファイバー上に前記銀ナノ粒子が析出し固定化されてなり、前記銀ナノ粒子の析出量が前記バイオマスナノファイバー100質量部に対して0.1質量部以上であり、前記銀ナノ粒子の平均粒子径が9nm以下であり、前記バイオマスナノファイバーの重合度が200~700である、複合体。
[2] 前記銀ナノ粒子の平均粒子径の標準偏差が9nm未満である[1]に記載の複合体。
[3] 前記バイオマスナノファイバーおよび前記銀ナノ粒子は結晶構造を有しており、X線回折測定において、回折角度(2θ)=18~25°に前記バイオマスナノファイバーに起因するピークが存在し、回折角度(2θ)=35~43°に前記銀ナノ粒子の銀に起因するピークが存在する[1]又は[2]に記載の複合体。
[4] 前記バイオマスナノファイバーがキトサンナノファイバーである[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の複合体を含む抗菌剤。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の複合体の製造方法であって、バイオマスナノファイバーを含み、かつ、銀化合物が溶解した原料液を、湿式ジェットミルを用いて圧力1~600MPaで加圧流体化処理を施す加圧流体化工程と、前記加圧流体化工程を経た処理液に遠心分離処理を施す遠心分離工程とを含み、前記遠心分離処理における遠心力を500~4800×gとする複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗菌剤等に使用した際に、銀ナノ粒子本来の効果が従来よりも良好に発現できる複合体、及び当該複合体を含む抗菌剤を提供することができる。また、当該複合体をより効率的に製造できる複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】キトサンにおける比粘度と分子量との関係を示す図である。
図2】実施例1および比較例1の複合体のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[複合体]
本発明の複合体は、バイオマスナノファイバーと銀ナノ粒子を含み、バイオマスナノファイバー上に銀ナノ粒子が析出し固定化されてなる。このバイオマスナノファイバーの平均繊維径は2nm~100nmであり、この銀ナノ粒子の析出量はバイオマスナノファイバー100質量部に対して0.1質量部以上であり、2~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。析出量が1質量部未満では、銀量が少なく、抗菌などの機能が低下してしまう。
銀ナノ粒子の析出量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定して求めることができる。
【0012】
銀ナノ粒子の平均粒子径は9nm以下であり、2~8nmであることが好ましく、2~6nmであることがより好ましい。平均粒子径が9nmを超えると、比表面積が小さくなり、抗菌などの効果を十分に発揮できなくなってしまう。
銀ナノ粒子の平均粒子径は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)像に基づいて測定した銀ナノ粒子径(n=50程度)から算出することができる。
【0013】
銀ナノ粒子の平均粒子径の標準偏差は9nm未満であることが好ましく、2~6nmであることがより好ましく、0.1~4nmであることがより好ましい。標準偏差は9nm未満であることで、バイオマスナノファイバーの表面に万遍なく銀ナノ粒子を固定化させることができるため、銀ナノ粒子の効果発現性をより向上させることができる。
【0014】
また、バイオマスナノファイバーの重合度は200~700であり、200~670であることが好ましく、200~650であることがより好ましい。バイオマスナノファイバーの重合度が200未満だと、バイオマスナノファイバーの三次元ネットワークが形成できず、フィルム化や多孔質体化といった成形加工性が低下してしまい、700を超えると、バイオマスナノファイバーの比表面積が小さく、効率よく銀ナノ粒子が析出しなくなってしまう。
【0015】
ここで、本明細書におけるバイオマスナノファイバーの重合度とは、粘度平均重合度ともいわれるもので下記のようにして測定されるものである。
【0016】
例えば、バイオマスナノファイバーがセルロース由来(セルロースナノファイバー)である場合、バイオマスナノファイバーの重合度は、下記の論文を参考にして算出する。
TAPPI International Standard;ISO/FDIS 5351,2009.Smith,D. K.;Bampton, R. F.;Alexander, W. J. Ind. Eng. Chem.,Process Des. Dev.1963, 2, 57-62.
【0017】
具体的には、バイオマスナノファイバーをイオン交換水で含有量が2±0.3質量%となるように希釈した懸濁液30gを、遠沈管に分取して冷凍庫に一晩静置し、凍結させる。さらに凍結乾燥機で5日間以上乾燥させた後、105℃に設定した定温乾燥機で3時間以上4時間以下加熱し、絶乾状態のバイオマスナノファイバーを得る。
リファレンスを測定するために、空の50ml容量のスクリュー管に純水15mlと1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液を調製する。キャノンフェンスケ粘度計に上記の0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃における落下時間を測定して溶媒落下時間とする。
【0018】
次に、バイオマスナノファイバーの粘度を測定するため、絶乾状態のバイオマスナノファイバー0.14g以上0.16g以下を空の50ml容量のスクリュー管に量り取り、純水15mlを添加する。さらに1mol/Lの銅エチレンジアミン15mlを加え、自転公転式スーパーミキサーで1000rpm、10分撹拌し、バイオマスナノファイバーが溶解した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液とする。リファレンスの測定と同様に、キャノンフェンスケ粘度計に調製した0.5mol/Lの銅エチレンジアミン溶液10mlを入れ、5分間置いた後、25℃における落下時間を測定する。落下時間の測定は3回行い、その平均値をバイオマスナノファイバー溶液の落下時間とする。
【0019】
測定に用いた絶乾状態のバイオマスナノファイバーの質量、溶媒落下時間、及びバイオマスナノファイバー溶液の落下時間から下式を用いて重合度を算出する。なお、下記の重合度は2回以上測定した場合は、それらの平均値である。
【0020】
測定に用いた絶乾状態のバイオマスナノファイバー質量:a(g)(ただし、aは0.14以上0.16以下)
溶液のセルロース濃度:c=a/30(g/mL)
溶媒落下時間:t(sec)
バイオマスナノファイバー溶液の落下時間:t(sec)
溶液の相対粘度:ηrel=t/t
溶液の比粘度:ηsp=ηrel-1
固有粘度:[η]=ηsp/c(1+0.28ηsp
重合度:DP=[η]/0.57
【0021】
また、バイオマスナノファイバーがキトサン由来(キトサンナノファイバー)である場合、バイオマスナノファイバーの重合度は、下記のようにして算出する。
測定溶液は、キトサン試料50mgに4%酢酸水溶液50ml、0.6M/Lの食塩水50mlを加え、溶解して調製する。シバタ製オストワルド粘度計の内径0.5mmの毛細管を使用し、刻線aから刻線bの通過時間を測定し、この時間をtとする。
【0022】
キトサンを溶解しない溶液を調製し、同様に刻線aから刻線bの通過時間を測定し、この時間をtとする。t、tともに3回測定し、平均値を使用する。
【0023】
次に、比粘度を、式:比粘度=t/t-1から算出する。図1に示す比粘度と分子量との関係から、算出した比粘度に対応する分子量を読み取り、この値をキトサンのモノマー単位である(C11NO)の分子量161で除することで重合度とする。
【0024】
さらに、バイオマスナノファイバーがキチン由来(キチンナノファイバー)である場合、特許第3781733号公報に記載の方法で脱アセチル化してキトサン化し、上記キトサンナノファイバーと同様の方法でキチンナノファイバーの重合度を算出する。
【0025】
本発明の複合体はX線回折測定において、回折角度(2θ)=18~25°にバイオマスナノファイバーに起因するピークが存在し、回折角度(2θ)=35~43°に銀ナノ粒子の銀に起因するピークが存在する。これらのピークが存在することで、バイオマスナノファイバー及び銀が結晶構造を有していることが分かる。
ここで上記X線回折測定は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、10~100nmであることが好ましく、10~40nmであることがより好ましく、10~25nmであることがさらに好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真や原子間力顕微鏡像に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出することができる。
【0027】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも本実施形態に係るバイオマスナノファイバーとしては、機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましい。
【0028】
機械解繊バイオマスナノファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0029】
他方、化学修飾を経て製造される化学修飾バイオマスナノファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。化学修飾バイオマスナノファイバーの化学的処理として、バイオマスナノファイバーに親水性の置換基を導入し、バイオマスナノファイバー表面のヒドロキシ基の全部または一部を親水性の官能基で置換することで、バイオマスナノファイバー同士の静電反発作用を用いて微細化しやすくする処理がある。親水性の官能基は、例えば、カルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基である。しかしながら、化学修飾バイオマスナノファイバーの場合は、耐熱性が低いなども問題がある、また、化学修飾のため、化学プラントが必要であり、製造コストも高い。それに対して、機械解繊バイオマスナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、化学的にも熱的にも安定であり、設備も本発明に必要な湿式ジェットミル(高圧ホモジナイザー)のみで製造可能なため、製造コストを抑えることができる。また、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0030】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、バイオマスのグルコース単位当たりのカルボキシ基、リン酸基、及び硫酸基のいずれかである親水性官能基の導入量が0.1mmol/g以下であり、0.01mmol/g以下であることが好ましい。ここで、導入量とは、含有量とも読み代えることができる。
当該導入量(含有量)は、例えば、公知の伝導度滴定法などにより測定して求めることができる。
【0031】
また、機械解繊バイオマスナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、及び銅のいずれか1つ(好ましくはいずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ、さらに好ましくは4つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができる。
【0032】
上記のような機械解繊バイオマスナノファイバーとしては、例えば、(株)スギノマシン製のBiNFi-s等を使用することができる。
【0033】
ここで、バイオマスナノファイバーはキトサンナノファイバーであることが好ましい。キトサンナノファイバーを使用することで、銀ナノ粒子の析出量をより多くすることができる。これはキトサンナノファイバーにおけるアミノ基が作用している推察される。すなわち、銀イオンがアミノ基に配位して化学結合することで多量に、かつ安定して銀ナノ粒子が析出されると考えられる。
【0034】
以上のような本発明の複合体は、後述する抗菌剤以外に、抗カビ剤、消臭剤、触媒等の用途に好適である。
【0035】
[抗菌剤]
本発明の抗菌剤は既述の本発明の複合体を含む。抗菌剤が用いられる態様としては、繊維、洗濯機、塗料、ワニス、流しや衛生セラミックス、消毒剤、防臭剤、台所用品、化粧品、身体手入れ用品等が挙げられる。
【0036】
[複合体の製造方法]
本発明の複合体の製造方法は、バイオマスナノファイバーを含み、かつ、銀化合物が溶解した原料液に対して加圧流体化処理を施す加圧流体化工程と、その後に遠心分離処理を施す遠心分離工程とを含む。
以下、各工程について説明する。
【0037】
(加圧流体化工程)
加圧流体化工程では、バイオマスナノファイバーを含み、かつ、銀化合物が溶解した原料液を、湿式ジェットミルを用いて圧力1~600MPaで加圧流体化処理を施す。
【0038】
原料液の調製方法は特に限定されない。銀化合物が溶解した水溶液(銀化合物水溶液)にバイオマスナノファイバーを分散させてもよいし、バイオマスナノファイバーが分散した分散液(バイオマスナノファイバー分散液)に銀化合物を溶解させてもよい。また、銀化合物水溶液とバイオマスナノファイバー分散液とを混合してもよい。
【0039】
バイオマスナノファイバー及び銀化合物が均一に分散、溶解した液を得るという観点から、バイオマスナノファイバー分散液のバイオマスナノファイバー濃度は特に限定されないが、固形分濃度で、0.01~20質量%であることが好ましい。銀化合物水溶液中の銀化合物の濃度は特に限定されないが、0.001~2mol/Lであることが好ましい。銀化合物水溶液とバイオマスナノファイバー分散液における溶媒若しくは分散媒は、通常水であるが、少量の有機溶媒が含まれていてもよい。
【0040】
上記のようにして作製した原料液を、湿式ジェットミルを用いて圧力1~600MPaで処理する(加圧流体化処理)。
圧力が1MPa未満であるとセルロース繊維の表面に銀ナノ粒子が付着してなる複合体を得ることができない。セルロース繊維の表面への銀ナノ粒子の付着量を増やす観点から、圧力は10MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることがさらに好ましく、100MPa以上であることが特に好ましい。
【0041】
一方、圧力が600MPaを超えると製造にコストがかかり過ぎて工業的には現実的でない。銀ナノ粒子の粒径の大きさのバラツキを少なくする観点から、圧力は300MPa以下であることが好ましく、250MPa以下であることがより好ましく、200MPa以下であることがさらに好ましい。
【0042】
原料液が湿式ジェットミルを用いて処理される際の液温は、圧力との関係で設定されるが、室温~90℃であることが好ましい。処理時間は特に限定されず、処理する液の量により適宜決定される。
【0043】
ここで、湿式ジェットミルとは、原料となる水溶液や分散液を加圧して、スリットを通り抜ける際のせん断力を利用して粉砕を行う装置である。湿式ジェットミルは高圧ホモジナイザーと呼ばれることもある。
【0044】
所望の銀ナノ粒子析出量とする観点から、湿式ジェットミルを用いた加圧流体化処理は、同一の圧力若しくは異なる圧力で複数回行ってもよい。
【0045】
(遠心分離工程)
遠心分離工程では、加圧流体化工程を経た処理液に遠心分離処理を施す。ここで、遠心分離処理における遠心力を500~4800×gとする。遠心力が500g未満では、バイオマスナノファイバーと銀ナノ粒子の複合体の効率的な回収が困難であり、4800gを超えると比重の大きな銀ナノ粒子の離脱や、アモルファス化したバイオマスナノファイバーまで回収してしまう。遠心力は2000~3800gとすることが好ましい。
【0046】
遠心分離処理もバイオマスナノファイバーと銀ナノ粒子の複合化物の回収量の向上や未反応銀イオンや対イオンの除去の観点から、同一の遠心力若しくは異なる遠心力で遠心分離と水を追加後の洗浄工程を複数回交互に行ってもよい。
【0047】
以上のような工程を経て、本発明の複合体が作製される。必要に応じて、複合物の乾燥といった処理を行ってもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を何ら限定もしくは制限するものでもない。
【0049】
[実施例1]
2質量%のキトサンナノファイバー(ChNF懸濁液、(株)スギノマシン製商品名: BiNFi-s キトサン EFo-08002 キトサンナノファイバー重合度:480)を500mL用意した。Ag(金属換算):キトサンナノファイバーの質量比が1:1となるように、硝酸銀(和光純薬(株)製)水溶液を500mL調製した。その後、高圧湿式ジェットミル((株)スギノマシン製スターバースト)にて圧力100MPaで、1回処理を行った(加圧流体化工程)。
処理液を遠心分離装置Suprema21;トミー工業(株)製)により、2,800×g、5分間、遠心分離を行い(遠心分離工程)、沈殿物を回収した。沈殿物にイオン交換水を追加し、再分散させたのち、再度同条件で遠心分離を行うことで、未反応の硝酸銀の除去を行った(洗浄工程)。この洗浄工程は計2回実施した。得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0050】
[実施例2]
加圧流体化工程における高圧湿式ジェットミルによる加圧流体化処理を5回とした以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0051】
[実施例3]
2質量%のキトサンナノファイバーの代わりに、2質量%のセルロースナノファイバー(CNF懸濁液、(株)スギノマシン製商品名:BiNFi-sセルロース FMa-10002 セルロースナノファイバー重合度:200)を500mL用意し、これを用いた以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0052】
[実施例4]
2質量%のキトサンナノファイバーの代わりに、2質量%のセルロースナノファイバー(CNF懸濁液、(株)スギノマシン製商品名:BiNFi-sセルロース WFo-10002 セルロースナノファイバー重合度:650)を500mL用意し、これを用いた以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0053】
[比較例1]
遠心分離工程における遠心力を12000×gとした以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0054】
[比較例2]
2質量%のキトサンナノファイバーの代わりに、2質量%のセルロースナノファイバー(CNF懸濁液、(株)スギノマシン製商品名:BiNFi-sセルロース IMa-10002 セルロースナノファイバー重合度:800)を500mL用意しこれを用いたこと、及び、遠心分離を4800×gとしたこと以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0055】
[比較例3]
遠心分離工程を設けなかった以外は実施例1と同様にして、沈殿物を回収し、得られた沈殿物(複合体)を試料とした。
【0056】
各実施例及び比較例で得られた試料について、下記の物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[物性評価]
(1)X線回折測定(ピークの確認)
回収した試料を凍結乾燥し、その後、カッターミルにより粉砕し、粉末試料を得た。試料の結晶構造が変化しないよう得られた粉末試料は、直ぐに粉末X線回折測定(XRD,Smart Lab,(株)リガク製,電圧:45kV,電流:200mA,2θ=10°~50°,ステップ幅:0.02°,スキャンスピード:1°/min,管球:Cu)を行い、結晶相の同定(ピークの有無)を行った。XRD測定のみ、凍結乾燥させた試料を用いた。実施例1および比較例1の複合体のXRDパターンを図2に示す。
【0058】
(2)Agナノ粒子の平均粒子径及び標準偏差の算出
回収した試料について、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM,SU8220,日立ハイテクノロジーズ製、加速電圧:1.0kV)による観察を行い、Agナノ粒子(n=50)の平均粒子径及び標準偏差の算出を行った。凍結乾燥品を観察用試料とした。
【0059】
(3)Agナノ粒子の含有量(析出量)
試料中の銀含有量を、ICP発光分光分析(ICP,iCAP6500Duo,サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)により3回測定し算出した。ペースト状試料に(1+1)硝酸を10ml加え、250℃のサンドバス上で30分間加熱し、ろ過(No.5B,アドバンテック東洋(株)製)による固液分離を行い、ろ液を50mlに定容し、ICP測定用溶液とした。
【0060】
(抗菌試験)
得られた試料について、下記のようにして抗菌試験を行った。
5質量%バイオマスナノファイバー・銀ナノ粒子複合体をイオン交換水で50倍希釈したサンプルを作製した。そのサンプルをスプレー噴霧にてセルロース製不織布にコーティングした。バイオマスナノファイバー・銀ナノ粒子複合体コーティングセルロース不織布を、ペトリフィルム(ACプレート、3Mジャパン(株))上に配置し、その上から非滅菌セルロースナノファイバー水分散液(植菌)を滴下した。32℃、48時間培養後、コロニーが見られたものを抗菌性なし(×)、コロニーが見られなかったものを抗菌性あり(〇)とした。
【0061】
【表1】
【0062】
表1より、実施例はいずれの比較例よりも銀本来の効果が良好に発現できていた。なお、比較例3は遠心分離工程を設けなかったため、未反応の硝酸銀まで回収してしまい、測定及び評価ができなかった。

図1
図2