(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】FM放送システム、FM送信装置、及びFM中継装置
(51)【国際特許分類】
H04H 20/67 20080101AFI20241202BHJP
H04H 20/02 20080101ALI20241202BHJP
H04H 20/18 20080101ALI20241202BHJP
【FI】
H04H20/67
H04H20/02
H04H20/18
(21)【出願番号】P 2024560556
(86)(22)【出願日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2024019298
【審査請求日】2024-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515320008
【氏名又は名称】山口放送株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591249323
【氏名又は名称】日本通信機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591164613
【氏名又は名称】株式会社NHKテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】惠良 勝治
(72)【発明者】
【氏名】河野 憲治
(72)【発明者】
【氏名】山根 実
(72)【発明者】
【氏名】村田 英一
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-065163(JP,A)
【文献】特開2017-092901(JP,A)
【文献】特開2010-283535(JP,A)
【文献】特開2019-047287(JP,A)
【文献】米国特許第5046124(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04H 20/67
H04H 20/02
H04H 20/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノラルコンポジット信号によってFM変調された上位局波を送信するように構成されたFM送信装置と、
前記FM送信装置から送信される前記上位局波を受信し、前記上位局波から再生した前記モノラルコンポジット信号によってFM変調された中継波を送信するように構成されたFM中継装置と、
を備え、
前記モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域にモノラル音声信号である放送用信号が重畳され、前記ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に、前記放送用信号によって変調された伝送用信号が重畳され、前記ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号が省略された構造を有し、
前記FM送信装置は、前記モノラル音声信号によって変調された前記伝送用信号と、前記モノラル音声信号を調整用遅延時間だけ遅延させた前記放送用信号とを混合することで前記モノラルコンポジット信号を生成するように構成され、
前記FM中継装置は、受信した前記上位局波から抽出される前記伝送用信号と、当該伝送用信号から復調される前記モノラル音声信号を、中継時遅延時間だけ遅延させた前記放送用信号とを混合することで前記モノラルコンポジット信号を生成するように構成され、
前記調整用遅延時間は、前記FM送信装置から前記FM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定され、
前記中継時遅延時間は、前記調整用遅延時間から前記伝送遅延時間を減じた長さに設定された、
FM放送システム。
【請求項2】
請求項1に記載のFM放送システムであって、
前記モノラルコンポジット信号は、前記ステレオコンポジット信号における前記L-R信号の帯域に、当該モノラルコンポジット信号の生成元を示す送信波識別信号を、更に重畳した構造を有する
FM放送システム。
【請求項3】
FM送信装置であって、
入力されたモノラル音声信号によって変調された伝送用信号を生成するように構成された変調部と、
前記モノラル音声信号を、調整用遅延時間だけ遅延させた放送用信号を生成するように構成された遅延部と、
前記変調部にて生成された前記伝送用信号と、前記遅延部にて生成された前記放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成するように構成された混合部と、
前記混合部にて生成された前記モノラルコンポジット信号によってFM変調された送信信号を生成するように構成されたFM変調部と、
前記FM変調部にて生成された前記送信信号に基づく上位局波を送信するように構成された上位局送信部と、
を備え、
前記モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域に前記放送用信号が重畳され、前記ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に前記伝送用信号が重畳され、前記ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号が省略された構造を有し、
前記調整用遅延時間は、前記上位局波の送信から、当該上位局波を中継するFM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定された、
FM送信装置。
【請求項4】
請求項3に記載のFM送信装置であって、
前記上位局波の送信元を識別するための送信波識別信号を、前記モノラルコンポジット信号に付与する上位局情報付与部を更に備える、
FM送信装置。
【請求項5】
FM中継装置であって、
モノラルコンポジット信号によってFM変調された上位局波を受信するように構成された中継受信部と、
前記中継受信部にて受信された受信信号から、伝送用信号を抽出するように構成された信号抽出部と、
前記伝送用信号を復調してモノラル音声信号を生成するように構成された中継復調部と、
前記中継復調部にて生成された前記モノラル音声信号を、中継時遅延時間だけ遅延させた放送用信号を生成するように構成された中継遅延部と、
前記信号抽出部にて抽出された前記伝送用信号と、前記中継遅延部にて生成された前記放送用信号を混合することで、前記モノラルコンポジット信号を生成するように構成された中継混合部と、
前記中継混合部にて生成された前記モノラルコンポジット信号によってFM変調された中継信号を生成するように構成された中継FM変調部と、
前記中継FM変調部にて生成された前記中継信号に基づく中継波を送信するように構成された中継送信部と、
を備え、
前記モノラルコンポジット信号は、
ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域に、前記放送用信号を重畳し、前記ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に、前記放送用信号によって変調された前記伝送用信号を重畳し、前記ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号を省略した構造を有し、
前記上位局波に含まれる前記モノラルコンポジット信号は、前記放送用信号が前記伝送用信号より調整用遅延時間だけ遅延するように設定され、
前記調整用遅延時間は、前記上位局波を送信するFM送信装置から当該FM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定された、
前記中継時遅延時間は、前記調整用遅延時間から前記伝送遅延時間を減じた長さに設定された、
FM中継装置。
【請求項6】
請求項5に記載のFM中継装置であって、
前記中継波の送信元を識別するための送信波識別信号を、前記モノラルコンポジット信号に付与する中継局情報付与部を更に備える、
FM中継装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のFM中継装置であって、
前記中継FM変調部にて生成された前記中継信号と、回込波探査期間に受信される前記受信信号とを用いて時間軸相関を算出し、前記時間軸相関の最大値である最大相関値、及び当該最大相関値が得られるときの前記受信信号に対する前記中継信号の遅延時間を含んだ情報である遅延プロファイルを生成するように構成されたプロファイル生成部と、
前記中継FM変調部にて生成された前記中継信号を、前記遅延プロファイルに従って、前記遅延時間だけ遅延させ且つ前記最大相関値に応じた強度と位相に調整することでレプリカ信号を生成し、前記信号抽出部に入力される前記受信信号から前記レプリカ信号を減じるように構成された抑制部と、
前記回込波探査期間は、前記中継送信部により送信された前記中継波が回込波として前記中継受信部にて受信されるまでに要する時間に基づいて設定される回込設定時間を用いて、前記中継FM変調部にて前記中継信号が生成されてから前記回込設定時間が経過するまでの期間に設定された、
FM中継装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FM放送システムの放送波を中継する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調された同一周波数かつ同一プログラムの音声放送波を、複数の送信所(以下、上位局)から送信するFM同期放送が知られている。FMは、Frequency Modulationの略である。FM同期放送では、複数の上位局からの放送波が、ほぼ同じ強度で重複して受信されるエリアにおいて、放送波が同時に受信されるように、上位局にて遅延時間を調整する必要がある。また、一般に放送システムでは、受信エリアを拡大するために中継用の送信所(以下、中継局)が設けられる。
【0003】
中継局では、上位局からの放送波である上位局波を受信して中継波を再送信する。中継局において、同一周波数で上位局波より強い中継波を受信すると、回り込み発振が発生して中継不能となる。これに対して、下記特許文献1には、中継局の受信波に含まれる回込波等の不要波をキャンセルする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中継波は、上位局波より遅れるため、上位局波と中継波とが重複して受信されるエリアでは、遅延時間を合わせることができないという問題がある。
【0006】
本開示の一局面は、FM放送システムにおいて上位局から送信される上位局波と、中継局から送信される中継波とが重複して受信されるエリアにおいて、上位局波と中継波とで遅延時間を調整可能とする技術を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、FM放送システムである。FM放送システムは、FM送信装置と、FM中継装置と、を備える。FM送信装置は、モノラルコンポジット信号によってFM変調された上位局波を送信するように構成される。FM中継装置は、FM送信装置から送信される上位局波を受信し、上位局波から再生したモノラルコンポジット信号によってFM変調された中継波を送信するように構成される。モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域にモノラル音声信号である放送用信号が重畳され、ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に、放送用信号によって変調された伝送用信号が重畳された構造を有する。また、モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号が省略された構造を有する。FM送信装置は、モノラル音声信号によって変調された伝送用信号と、モノラル音声信号を調整用遅延時間だけ遅延させた放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成するように構成される。FM中継装置は、受信した上位局波から抽出される伝送用信号と、当該伝送用信号から復調されるモノラル音声信号を、中継時遅延時間だけ遅延させた放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成するように構成される。調整用遅延時間は、FM送信装置からFM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定される。中継時遅延時間は、調整用遅延時間から伝送遅延時間を減じた長さに設定される。
【0008】
このような構成によれば、FM中継装置の近傍において、中継波に含まれる放送用信号と、上位局波に含まれる放送用信号とが同じタイミングで受信されるように、中継波に含まれる放送用信号の遅延時間を調整することができる。
【0009】
本開示の別の態様は、FM送信装置である。FM送信装置は、変調部と、遅延部と、混合部と、FM変調部と、上位局送信部と、を備える。変調部は、入力されたモノラル音声信号によって変調された伝送用信号を生成するように構成される。遅延部は、モノラル音声信号を、調整用遅延時間だけ遅延させた放送用信号を生成するように構成される。混合部は、変調部にて生成された伝送用信号と、遅延部にて生成された放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成するように構成される。FM変調部は、混合部にて生成されたモノラルコンポジット信号によってFM変調された送信信号を生成するように構成される。上位局送信部は、FM変調部にて生成された送信信号に基づく上位局波を送信するように構成される。モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域に放送用信号が重畳され、ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に伝送用信号が重畳された構造を有する。また、モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号が省略された構造を有する。調整用遅延時間は、上位局波の送信から、当該上位局波を中継するFM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定される。
【0010】
このような構成によれば、前述のFM放送システムを構成するFM送信装置として用いることができる。
【0011】
本開示の別の態様は、FM中継装置である。FM中継装置は、中継受信部と、信号抽出部と、中継復調部と、中継遅延部と、中継混合部と、中継FM変調部と、中継送信部と、を備える。中継受信部は、モノラルコンポジット信号によってFM変調された上位局波を受信するように構成される。信号抽出部は、中継受信部にて受信された受信信号から、伝送用信号を抽出するように構成される。中継復調部は、伝送用信号を復調してモノラル音声信号を生成するように構成される。中継遅延部は、中継復調部にて生成されたモノラル音声信号を、中継時遅延時間だけ遅延させた放送用信号を生成するように構成される。中継混合部は、信号抽出部にて抽出された伝送用信号と、中継遅延部にて生成された放送用信号を混合することで、モノラルコンポジット信号を生成するように構成される。中継FM変調部は、中継混合部にて生成されたモノラルコンポジット信号によってFM変調された中継信号を生成するように構成される。中継送信部は、中継FM変調部にて生成された中継信号に基づく中継波を送信するように構成される。モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域に、放送用信号を重畳し、ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域に、放送用信号によって変調された伝送用信号を重畳した構造を有する。また、モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるパイロット信号を省略した構造を有する。上位局波に含まれるモノラルコンポジット信号は、放送用信号が伝送用信号より調整用遅延時間だけ遅延するように設定される。調整用遅延時間は、上位局波を送信するFM送信装置から当該FM中継装置までの伝送遅延時間より長い時間に設定される。中継時遅延時間は、調整用遅延時間から伝送遅延時間を減じた長さに設定される。
【0012】
このような構成によれば、前述のFM放送システムを構成するFM中継装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】FM放送システムの概要を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態で用いるモノラルコンポジット信号のスペクトラムを、ステレオコンポジット信号のスペクトラムと対比して示す説明図である。
【
図3】第1実施形態におけるFM放送システムの上位局を構成するFM送信装置のブロック図である。
【
図4】第1実施形態におけるFM放送システムの中継局を構成するFM中継装置のブロック図である。
【
図5】FM放送システムにおける上位局波、中継波、回込波の関係を示す説明図である。
【
図6】放送信号及び中継信号の波形及び遅延調整方法を示す説明図である。
【
図7】放送信号及び中継信号のスペクトラムの他の形式を示す説明図である。
【
図8】第2実施形態で用いるモノラルコンポジット信号のスペクトラムを例示する説明図である。
【
図9】第2実施形態におけるFM送信装置の信号処理部のブロック図である。
【
図10】第2実施形態におけるFM中継装置の中継処理部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0015】
[1.第1実施形態]
[1―1.システム構成]
第1実施形態のFM放送システム100は、
図1に示すように、上位局101と、一つ以上の中継局102とを備える。
【0016】
上位局101は、所定の伝送網を介して配信される音声信号を、所定形式の信号に変換して放送エリアA1に送信する。上位局101及び図示しない他の上位局は、いずれも配信された同一の音声信号により、同一周波数の搬送波を周波数変調(以下、FM変調)した放送波を送信するSFNを構成し、FM同期放送(以下、単に同期放送)を実現する。SFNは、Single Frequency Networkの略である。
【0017】
FM放送システム100では、FMステレオ放送にて使用されるステレオコンポジット信号の仕組みを利用して作成された新たなコンポジット信号であるモノラルコンポジット信号が用いられる。
図2に示すように、1チャンネル分のモノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号で使用される周波数帯50Hz~53kHzの周波数成分を含む。具体的には、モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号におけるL+R信号の帯域50Hz~15kHzに重畳される放送用信号と、ステレオコンポジット信号におけるL-R信号の帯域23k~53kHzに重畳される伝送用信号とを備える。また、モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号とは異なり、19kHzのパイロット信号は省略される。
【0018】
放送用信号は、FMラジオ受信機での再生に使用されるモノラルの音声信号である。
【0019】
伝送用信号は、放送用信号によって、38KHzの搬送波を搬送波抑圧振幅変調することで得られる、搬送波38kHzが抑圧された下側波帯23k~38kHz、及び上側波帯38k~53kHzの信号である。
【0020】
モノラルコンポジット信号を受信したFMラジオ受信機は、モノラルコンポジット信号にパイロット信号が含まれていないため、50Hz~15kHz帯の放送用信号をモノラルの音声信号として再生する。つまり、モノラルコンポジット信号は、既存のFMラジオ受信機によって受信可能である。
【0021】
また、上位局101は、GPSやQZSSを利用して取得される1秒パルス信号(以下、1pps)に同期したクロックを用いて、FM変調のタイミングを含むFM変調特性が、複数の上位局101間で同一となるように制御される。GPSは、Global Positioning Systemの略である。QZSSは、Quasi-Zenith Satellite System 日本の準天頂衛星システムの略である。
【0022】
中継局102は、地勢的な影響等で上位局101ではカバーできない地域(以下、難聴地域)での番組聴取を可能とするために設けられる。中継局102は、上位局101の放送エリアA1内に配置され、上位局101から放送信号を受信して、難聴地域を含む放送エリアA2に、同一周波数にて再送信することで中継放送を実現する。
【0023】
以下では、上位局101の放送エリアA1と、中継局102の放送エリアA2とが、互いに重なり合うエリアを重複エリアAdという。
【0024】
[1-2.送信装置の構成]
上位局101を構成するFM送信装置1について説明する。
【0025】
図3に示すように、FM送信装置1は、信号処理部2と、送信部3と、パワーアンプ4と、送信アンテナ5とを備える。
【0026】
信号処理部2は、その全部をハードウェアによって実現されてもよいし、少なくとも一部が、プロセッサ201及び非遷移的実体的記録媒体であるメモリ202を有するマイクロコンピュータが実行する処理によって実現されてもよい。この場合、マイクロコンピュータが実現する各種機能は、プロセッサ201が非遷移的実体的記録媒体であるメモリ202に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0027】
信号処理部2は、音声信号入力部21と、プリエンファシス22と、遅延調整部23と、伝送用信号生成部24と、信号加算部26と、FM変調部27とを備える。
【0028】
音声信号入力部21は、所定の伝送網を介して各上位局101に配信されるFM放送用の音声信号を、コネクタ20を介して入力する。音声信号入力部21は、1ppsに同期したクロックに基づき、音声信号に付与された同期用ポイントが、複数の上位局101間で同期するように音声信号のタイミングを調整する。ここで調整されるタイミングを局間同期タイミングという。
【0029】
プリエンファシス22は、FM受信時に周波数が高くなるほど大きくなるノイズを補正するために、音声信号の高周波成分を増幅する。
【0030】
遅延調整部23は、音声信号に付与された同期用ポイントが、局間同期タイミングから、予め設定された調整用遅延時間だけ遅延するように遅延量を調整して出力する。この調整用遅延時間は、上位局101から中継局102に到る伝送遅延の最悪値より十分に長い時間(たとえば、10ms)となるように設定される。遅延調整部23にて遅延調整された音声信号が放送用信号となる。
【0031】
伝送用信号生成部24は、プリエンファシス22から出力される音声信号によって38kHzの搬送波を振幅変調し、フィルタによって、変調された信号から搬送波成分を除去することで、伝送用信号を生成する。
【0032】
信号加算部26は、遅延調整部23から出力される放送用信号と、伝送用信号生成部24から出力される伝送用信号とを混合することで、
図2に示すようなスペクトラムを有するモノラルコンポジット信号を生成する。
【0033】
また、
図6に示すように、FM送信装置1が送信する放送波である上位局波に含まれる放送用信号と伝送用信号とは、放送用信号の方が伝送用信号から調整用遅延時間だけ遅延したタイミングで混合される。なお、
図6では、伝送用信号については、伝送用信号の波形そのものではなく、伝送用信号から復調される音声信号の波形、すなわち、放送用信号として用いられる音声信号と同じ波形によって示す。
【0034】
図3に戻り、FM変調部27は、信号加算部26から出力される送信信号について、単位期間Δt毎にFM変調度Δfを算出し、FM変調度Δfから瞬時位相変化分Δθを算出する。FM変調部27は、この瞬時位相変化分Δθから、送信信号の同相成分を表すI信号、及び直交成分を表すQ信号、すなわち、送信IQ信号を生成する。
【0035】
送信部3は、直交変換器(以下、QMOD)31と、デジタルアナログ変換器(以下、D/A変換器)32と、ローカル信号生成器33と、ミキサ34と、増幅器35とを備える。
【0036】
QMOD31は、信号処理部2にて生成された送信IQ信号に、互いに直交する二つの搬送波信号を乗じて加算することで、FM変調された送信信号を生成する。
【0037】
D/A変換器32は、デジタル値の系列で表された送信信号を、アナログ信号に変換する。D/A変換器32より下流の処理に関する説明では、「信号」はアナログ信号を意味する。
【0038】
ローカル信号生成器33は、送信信号の周波数をアップコンバートするためのローカル信号LOを生成する。
【0039】
ミキサ34は、D/A変換器32にて生成された送信信号と、ローカル信号生成器33にて生成されたローカル信号LOとを混合して、送信信号の周波数をアップコンバートすることで、放送信号RFを生成する。放送信号RFは、FMラジオ放送で使用される周波数帯(例えば、76MHz~108MHz)の信号である。
【0040】
増幅器35は、ミキサ34にて生成された放送信号RFを増幅して、パワーアンプ4に供給する。
【0041】
パワーアンプ4は、送信部3にて生成された放送信号を、更に増幅して送信アンテナ5に供給する。なお、パワーアンプ4は、上位局101がカバーする放送エリアA1の大きさに応じて設定される増幅器であり、多段接続されてもよいし、省略されてもよい。
【0042】
送信アンテナ5は、放送信号RFに応じた放送波を放送エリアA1に向けて送信する。
【0043】
[1-3.FM中継装置の構成]
中継局102を構成するFM中継装置10について説明する。
【0044】
図4に示すように、FM中継装置10は、受信アンテナ11と、受信部12と、中継処理部13と、送信部14と、パワーアンプ15と、送信アンテナ16と、を備える。
【0045】
以下では、
図5に示すように、FM送信装置1(すなわち上位局101)の送信アンテナ5から、FM中継装置10(すなわち、中継局102)の受信アンテナ11に直接到来する放送波を上位局波Dという。FM中継装置10の送信アンテナ16から送信される再生された放送波を中継波Drという。また、送信アンテナ16から受信アンテナ11に回り込む中継波Drを回込波U0~Unという。回込波U0~Unは、受信アンテナ11での受信強度が大きい順に番号が付与されるものとする。通常、受信強度が最大となる回込波U0は、送信アンテナ16から受信アンテナ11に直接到達する直達波である。その他の回込波U1~Unは、何らかの物体に反射して間接的到達する反射波である。回込波U0~Unは、いずれも中継波Drを減衰かつ遅延させた波形を有する。
【0046】
また、FM中継装置10は、上位局波Dに含まれる伝送用信号から再生された放送用信号が、上位局波Dに含まれる放送用信号が受信されるタイミングと、同じタイミングで送信する。
【0047】
図4に戻り、受信アンテナ11は、上位局波Dを受信するように配置される。受信アンテナ11は、無指向性アンテナでも指向性アンテナでもよい。上位局波Dは、モノラルコンポジット信号によってFM変調されたFM変調波である。
【0048】
受信部12は、増幅器41と、ローカル信号生成器42と、ミキサ43と、A/D変換器44と、直交復調器(以下、QDEM)45とを備える。
【0049】
増幅器41は、受信アンテナ11からの受信信号を増幅する。
【0050】
ローカル信号生成器42は、受信アンテナ11から供給される受信信号の周波数をダウンコンバートするためのローカル信号LOを生成する。
【0051】
ミキサ43は、増幅器41にて増幅された受信信号に、ローカル信号生成器42から供給されるローカル信号LOを混合することで、受信信号の周波数をダウンコンバートする。
【0052】
A/D変換器44は、ミキサ43にてダウンコンバートされた受信信号を予め設定されたサンプリング周波数にてサンプリングする。なお、FM中継装置10において、A/D変換器44より上流の処理に関する説明では、「信号」はアナログ信号を意味し、A/D変換器44より下流の処理に関する説明では、「信号」はデジタル値の系列を意味する。A/D変換器44のサンプリング周波数は、所望するチャンネル(すなわち、放送波Dに割り当てられた帯域)以外の広帯域のノイズ成分(あるいは別チャンネルの放送波)を除去するために、数十MHz程度に設定される。具体的には、信号処理用のサンプリング周波数の整数倍、例えば、49.152MHzに設定される。また、信号処理用のサンプリング周波数の整数倍に設定することで、後述のダウンサンプリングを簡潔に行うことができる。
【0053】
QDEM45は、受信信号にヒルベルト変換を施して受信信号のサンプル値毎に同相成分及び直交成分を求めることで、受信信号を複素化する。具体的には、互いに直交する(即ち、位相が90°異なる)二つの搬送波信号を、受信信号に乗じることで同相成分を表すI信号及び直交成分を表すQ信号を生成する。I信号及びQ信号はベースバンド信号である。I信号及びQ信号はFM変調信号の2倍以上の帯域をカバーする周波数、例えば768kHzまでダウンサンプリングすることでデータ数を減らし、以降の中継処理部13での演算負荷を軽減してもよい。この信号処理用のサンプリング周波数は、FM変調信号の帯域を十分カバーすることができればよく、768kHz以外に設定されてもよい。
【0054】
以下では、受信部12で生成されるI信号及びQ信号を総称して、受信IQ信号という。
【0055】
中継処理部13は、受信部12にて生成された受信IQ信号から伝送用信号を抽出すると共に、抽出した伝送用信号から音声信号を復調する。更に、中継処理部13は、復調した音声信号に所定の遅延を加えた放送用信号を生成し、伝送用信号と放送用信号と送信波識別信号とを合成することで生成されたモノラルコンポジット信号から、FM変調されたI信号及びQ信号を生成する。中継処理部13の詳細は、後述する。以下では、中継処理部13で生成されるI信号及びQ信号を総称して、送信IQ信号という。
【0056】
送信部14は、QMOD71と、D/A変換器72と、ミキサ73と、増幅器74とを備える。QMOD71、D/A変換器72、ミキサ73、及び増幅器74は、FM送信装置1におけるQMOD31、D/A変換器32、ミキサ34、及び増幅器35と同様であるため、説明を省略する。但し、ミキサ73は、受信部12のローカル信号生成器42が生成するローカル信号LOを用いて中継信号をアップコンバートする。ローカル信号LOは、ローカル信号生成器42とは別に設けられたローカル信号生成器にて生成されてもよい。
【0057】
パワーアンプ15は、送信部14にて生成された中継信号を、更に増幅して送信アンテナ16に供給する。なお、パワーアンプ15は、中継局102がカバーする放送エリアA2の大きさに応じて設定される増幅器であり、多段接続されてもよいし、省略されてもよい。
【0058】
送信アンテナ16は、中継信号に応じた中継波Drを放送エリアA2に向けて送信する。
【0059】
[1-3-1.中継処理部]
中継処理部13は、信号再生部50と、回込波除去部60とを備える。
【0060】
中継処理部13の機能は、全てハードウェアによって実現されてもよいし、少なくとも一部が、プロセッサ131及び非遷移的実体的記録媒体であるメモリ132を有するマイクロコンピュータが実行する処理によって実現されてもよい。この場合、マイクロコンピュータによって実現される各種機能は、プロセッサ131がメモリ132に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0061】
[1-3-2.信号再生部]
信号再生部50は、チャンネルフィルタ(以下、CHフィルタ)51と、FM直線検波部52と、フィルタ53と、音声信号復調部55と、遅延調整部56と、信号加算部57と、FM変調部58と、を備える。
【0062】
CHフィルタ51は、回込波除去部60を介して受信部12から供給される受信IQ信号から、FM変調された搬送波がとり得る周波数範囲の信号を抽出する。
【0063】
FM直線検波部52は、CHフィルタ51で不要成分が除去された受信IQ信号を用いて、予め設定された単位期間Δt毎に、受信信号の位相を算出すると共に、直前の単位期間Δtに算出された位相との差分である瞬時位相変化分Δθを算出する。なお、単位期間Δtは、信号処理用のサンプリング周波数の逆数であるサンプリング周期Ts又はその整数倍に設定される。そして、算出した瞬時位相変化分Δθを、予め用意された変換テーブル又は変換式を用いてFM変調度に置き換えるΔf検波を行うことで、放送用信号、伝送用信号及び送信波識別信号を含むモノラルコンポジット信号を抽出する。
【0064】
フィルタ53は、例えば、バンドパスフィルタで構成される。フィルタ53は、FM直線検波部52から供給されるモノラルコンポジット信号から、放送用信号を除去して、伝送用信号を抽出する。
【0065】
音声信号復調部55は、振幅変調されている伝送用信号を復調することでモノラルの音声信号を生成する。具体的には、伝送用信号と、38kHz(すなわち、振幅変調に用いてた搬送波の周波数)の信号とを混合し、フィルタによって両信号の差分信号を、音声信号として抽出する。
【0066】
遅延調整部56は、音声信号復調部55にて復調された音声信号が、伝送用信号の受信タイミングから、中継時遅延時間だけ遅延するように、音声信号の遅延を調整する。中継時遅延時間は、
図6に示すように、調整用遅延時間から、上位局101から中継局102に至る伝送遅延時間分だけ減算した時間である。つまり、中継時遅延時間は、重複エリアAdとなる中継局102の近傍にて、上位局波Dに含まれる放送用信号と、中継波Drに含まれる放送用信号とが、同じタイミングで受信されるように設定される。
【0067】
信号加算部57は、フィルタ53にて抽出された伝送用信号と、遅延調整された音声信号である放送用信号とを混合して、モノラルコンポジット信号を生成する。
【0068】
FM変調部58は、信号加算部57にて生成されたモノラルコンポジット信号によってFM変調された送信IQ信号を生成する。具体的な動作は、FM送信装置1におけるFM変調部27と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0069】
[1-3-3.回込波除去部]
回込波除去部60は、CHフィルタ61と、相関解析部62と、プロファイル記憶部63と、適応フィルタ64と、減算器65とを備える。
【0070】
CHフィルタ61は、信号再生部50にて生成された送信IQ信号から、FM変調された搬送波がとり得る周波数範囲の信号を抽出する。CHフィルタ61は、前述したCHフィルタ51と同様のフィルタである。
【0071】
相関解析部62は、回込波探査期間に当該回込波除去部60から出力される受信IQ信号と、CHフィルタ61から供給される送信IQ信号との時間軸相関を算出する。回込波探査期間は、送信IQ信号に含まれる伝送用信号に対する遅延時間が0~ΔTrとなる期間である。ΔTrは、送信アンテナ16から送信された中継波Drが回込波Uとして受信アンテナ11にて受信されるまでに要する時間の最大値より大きな値に設定される回込設定時間である。回込設定時間ΔTrは、適応フィルタ64のタップ数を調整することで設定され、例えば、100μs程度に設定される。
【0072】
相関解析部62は、あらかじめ設定された畳込演算時間To(<ΔTr)毎に受信IQ信号及び送信IQ信号を切り取る。そして、回込波探査期間0~ΔTrにおいて、サンプリング周期Tsの時間ずつ、送信IQ信号を順次遅延させながら、畳込演算時間To分の受信IQ信号と送信IQ信号の複素共役信号を乗算して畳み込み演算を行う。畳込演算時間Toは、信号の波形が十分識別できる時間、例えば、100Hz~数kHzの周波数が主となる音声信号を識別するには10ms程度に設定する。
【0073】
相関解析部62は、畳込演算の結果である時間軸相関に基づき、相関係数の最大値である最大相関値と、その最大相関値が得られる遅延時間DL(但し、DL≠0)とを抽出する。そして、相関解析部62は、抽出結果から推定される遅延波の信号強度Aと位相θと遅延時間DLとを遅延プロファイルとして記憶する。遅延プロファイルは、記憶内容を書き換え可能なメモリであるプロファイル記憶部63に記憶される。以下、相関解析部62にて生成され、プロファイル記憶部63に記憶される遅延プロファイルを、遅延プロファイルという。
【0074】
また、畳み込み演算時間To毎に生成される遅延プロファイルを生成プロファイルとし、既にプロファイル記憶部63に記憶されている遅延プロファイルを既存プロファイルという。
【0075】
相関解析部62は、遅延時間DLが生成プロファイルと一致する既存プロファイルが存在しない場合、生成プロファイルを追加でプロファイル記憶部63に記憶させる。相関解析部62は、遅延時間DLが生成プロファイルと一致する既存プロファイルが存在する場合、既存プロファイルの信号強度Aと位相θに、生成プロファイルの信号強度Aと位相θを加えることで既存プロファイルの内容を更新する。
【0076】
相関解析部62での処理の結果、プロファイル記憶部63には、遅延時間DLの異なる複数の遅延プロファイルが蓄積される。遅延プロファイルは、受信アンテナ11にて受信される回込波U0~Unの状態を表す情報である。
【0077】
適応フィルタ64は、プロファイル記憶部63に記憶された遅延プロファイルのそれぞれに基づき、レプリカIQ信号を生成する。レプリカIQ信号は、遅延プロファイルに示された遅延時間DL、信号強度A、位相θに基づき、送信IQ信号を遅延時間DLだけ遅延させ、信号強度Aに基づいて振幅を調整し、位相θに基づいて位相を調整した信号である。レプリカIQ信号は、レプリカI信号、及びレプリカI信号とは位相が90°異なるレプリカQ信号の総称である。以下、適応フィルタ64で生成されるレプリカIQ信号を、レプリカIQ信号という。適応フィルタ64は、遅延プロファイルの数と同数のレプリカIQ信号を生成する。
【0078】
減算器65は、受信部12から供給される受信IQ信号から、適応フィルタ64にて生成されたレプリカIQ信号を減じた結果を、信号再生部50に供給する。
【0079】
[1-4.動作]
システムの動作について説明する。
【0080】
FM送信装置1は、放送用信号及び伝送用信号を含むモノラルコンポジット信号を送信する。モノラルコンポジット信号は、ステレオコンポジット信号と同じ帯域を使用しているが、パイロット信号が重畳されていないため、既存のFMラジオ受信機はFMモノラル放送として放送波を受信し、モノラル音声信号である放送用信号を再生する。つまり、FMラジオ受信機では、伝送用信号及び送信波識別信号は無視される。
【0081】
FM中継装置10の信号再生部50は、受信したモノラルコンポジット信号から伝送用信号を抽出し、抽出した伝送用信号を復調することで音声信号を生成する。また、信号再生部50は、生成された音声信号を中継時遅延時間だけ遅延させた信号を放送用信号とし、この放送用信号と、先に抽出された伝送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成する。そして、信号再生部50は、生成されたモノラルコンポジット信号によってFM変調した信号を、中継波Drとして送信する。
【0082】
FM中継装置10から送信される中継波Drに含まれる伝送用信号は、FM送信装置1から送信される上位局波Dに含まれる伝送用信号から、上位局101から中継局102までの伝送遅延分だけ遅延する。なお、FM中継装置10での処理遅延が無視できない場合、伝送遅延にはFM中継装置10での処理遅延が含まれてもよい。また、FM中継装置10から送信される中継波Drに含まれる放送用信号は、FM中継装置10にて受信される上位局波Dに含まれる放送用信号と同じタイミングを有する。
【0083】
FM中継装置10の回込波除去部60において、相関解析部62は、受信IQ信号に含まれる最も強度が強い回込波Ui(i=0,1,…,n)についての遅延プロファイル(すなわち、遅延プロファイル)を生成する。従って、最初は、直達波U0についての遅延プロファイルが生成されて、プロファイル記憶部63に記憶される。適応フィルタ64は、プロファイル記憶部63に記憶された遅延プロファイルに従って直達波U0についてのレプリカIQ信号を生成する。減算器65が、レプリカIQ信号を受信IQ信号から減じることで、直達波U0に基づく信号成分が受信IQ信号から除去される。
【0084】
引き続き、回込波除去部60では、直達波U0の影響が除去された受信IQ信号について、同様の処理が行われることにより、直達波U0を除いて最大強度となる反射波U1についての遅延プロファイルが新たに生成される。この新たに生成された遅延プロファイルによって、プロファイル記憶部63に記憶された遅延プロファイルの内容が更新される。適応フィルタ64は、メモリに記憶された遅延プロファイルに従って、直達波U0,反射波U1についてのレプリカIQ信号を生成する。減算器65が、レプリカIQ信号を受信IQ信号から減じることで、直達波U0及び反射波U1に基づく信号成分が受信IQ信号から除去される。
【0085】
以下、同様の処理を繰り返すことで、回込波U0~Unに基づく信号成分が受信強度の大きい順に、受信IQ信号から順次除去される。
【0086】
[1-5.用語の対応]
本実施形態において遅延調整部23が本開示の遅延部の一例に相当し、遅延調整部56が本開示の中継遅延部の一例に相当する。本実施形態において信号加算部26が本開示の混合部の一例に相当し、信号加算部57が本開示の中継混合部の一例に相当する。本実施形態において送信部3が本開示の上位局送信部の一例に相当し、送信部14が本開示の中継送信部の一例に相当する。本実施形態において受信部12が本開示の中継受信部の一例に相当する。本実施形態においてFM直線検波部52が本開示の信号抽出部の一例に相当し、音声信号復調部55が本開示の中継復調部の一例に相当する。本実施形態において相関解析部62が本開示のプロファイル生成部の一例に相当し、適応フィルタ64及び減算器65が本開示の抑制部の一例に相当する。本実施形態においてレプリカIQ信号が本開示におけるレプリカ信号の一例に相当する。
【0087】
[1-6.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0088】
(1a)FM放送システム100では、上位局101を構成するFM送信装置1は、FMステレオ放送の仕組みを利用したモノラルコンポジット信号によってFM変調された上位局波Dを送信する。モノラルコンポジット信号は、モノラルの音声信号である放送用信号と、放送用信号を振幅変調した信号であって放送用信号より早いタイミングで送信される伝送用信号とを含む。従って、中継局102を構成するFM中継装置10は、上位局波Dに含まれる伝送用信号から復調した音声信号の遅延時間を調整することで、中継波Drに含まれる放送用信号の送信タイミングを、上位局波Dに含まれる放送用信号の受信タイミングと一致するように調整することができる。しかも、このような放送用信号の遅延時間の調整を、既存のFMラジオ受信機に変更を加えたり、上位局波Dと中継波Drとの間で周波数の偏差を持たせたりすることなく実現できる。
【0089】
(1b)FM中継装置10では、回込波U0~Unに基づく信号成分を受信IQ信号から除去するために用いるレプリカIQ信号を、中継波Drの生成に用いる送信IQ信号、即ち、回込波U0~Unの元となる信号から生成する。このため、FM中継装置10によれば、発振の原因となる回込波U0~Unに基づく成分を的確に抑制できる。
【0090】
[1-7.変形例]
本実施形態では、モノラルコンポジット信号には、放送用信号を振幅変調することで得られる下側波帯の信号と、上側波帯の信号とがいずれも含まれている。モノラルコンポジット信号には、パイロット信号が含まれないため、L―R信号の帯域の信号はFMラジオ受信機では復調されない。従って、この帯域に重畳される放送用信号は、搬送波抑圧変調されている必要はなく、例えば、
図7の変形例1及び変形例2に示すように、上側波帯だけ又は下側波帯だけのSSB変調(Single Side Band amplitude modulation)信号を用いてもよい。SSB変調信号を用いる場合、上側波帯又は下側波帯のいずれかが、23kHz~53kHzに含まれていればよく、
図7の変形例3に示すように、搬送波の周波数は38kHz以外であってもよい。また、伝送用信号は、振幅変調に限らず、他の変調方式、例えば、デジタル変調方式が用いられていてもよい。
【0091】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0092】
前述した第1実施形態では、モノラルコンポジット信号は、放送用信号と伝送用信号とを含むように構成されている。第2実施形態では、伝送用信号として放送用信号としてSSB変調した信号を用い、ステレオコンポジット信号のL-R信号に対応する帯域のうち、未使用の帯域に、送信波を識別するための信号を重畳する点で、第1実施形態とは異なる。
【0093】
また、FM送信装置1に属する信号処理部2a、及びFM中継装置10に属する信号再生部50aの構成の一部が、第1実施形態とは異なる。
【0094】
[2-2.モノラルコンポジット信号]
本実施形態におけるモノラルコンポジット信号は、
図8の構成例1に示すように、ステレオコンポジット信号においてL-R信号が重畳される帯域に、伝送用信号と送信波識別信号とが重畳される。例えば、下側波帯を伝送用信号として用い、上側波帯に割り当てられていた38kHz~53kHzに、送信波識別信号が重畳される。
【0095】
送信波識別信号は、モノラルコンポジット信号の生成元、ひいては当該モノラルコンポジット信号によってFM変調された放送波の送信元が、どの上位局101又はどの中継局102であるかを識別するための信号である。送信波識別信号は、モノラルコンポジット信号の帯域0~53kHzのうち、放送用信号及び伝送用信号に使用されていない未使用周波数帯に属する周波数が割り当てられる。送信波識別信号は、上位局101及び中継局102のそれぞれに異なる周波数が割り当てられていてもよい。また、送信波識別信号は、上位局101及び中継局102のそれぞれに割り当てられた固有の識別番号によって、未使用周波数帯に属する周波数の搬送波を変調した信号であってもよい。
【0096】
モノラルコンポジット信号は、
図8の構成例2に示すように、伝送用信号が38kHzを中心として配置されていたり、送信波識別信号が、放送用信号と伝送用信号との間の帯域に配置されていたりしてもよい。
【0097】
[2-3.FM送信装置の信号処理部]
図9に示すように、信号処理部2aは、伝送用信号生成部24と信号加算部26との間に識別信号付与部25を備える。
【0098】
識別信号付与部25は、伝送用信号生成部24にて生成された伝送用信号に、FM送信装置1に割り当てられた送信波識別信号を付与する。
【0099】
[2-4.FM中継装置の中継処理部]
図10に示すように、中継処理部13aは、信号再生部50aと、回込波除去部60とを備える。
【0100】
信号再生部50aは、フィルタ53と、信号加算部57との間に識別信号付与部54を備える。
【0101】
識別信号付与部54は、識別信号付与部25と同様に構成され、FM中継装置10に割り当てられた送信波識別信号を、フィルタ53から供給される伝送用信号に付与する。
【0102】
[2-5.用語の対応]
本実施形態において識別信号付与部25が本開示の上位局情報付与部の一例に相当し、識別信号付与部54が本開示の中継局情報付与部の一例に相当する。
【0103】
[2-6.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1g)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0104】
(2a)モノクロコンポジット信号には、上位局波Dと、中継波Dr(ひいては、回込波U)と区別する送信波識別情報が重畳されている。送信波識別信号は、放送用信号及び伝送用信号がノイズレベルとなる無音時にも、信号が存在するため、回込波Uの解析をしやすくすることができ、また、無音時の誤作動を抑制できる。
【0105】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は前述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0106】
(3a)前述の実施形態では、本開示の技術を、SFNを構成するFM放送システム100に適用する場合について例示したが、MFNを構成するFM放送システムに適用してもよい。MNFは、Multi-Frequency Networkの略である。
【0107】
(3b)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0108】
(3c)本開示は、前述したFM送信装置1、FM中継装置10、及びFM放送システム100の他、FM送信装置1及びFM中継装置10としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、FM波中継方法など、様々な形態で実現することが可能である。
【要約】
FM送信装置は、モノラル音声信号によって変調された伝送用信号と、モノラル音声信号を調整用遅延時間だけ遅延させた放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成する。FM中継装置は、受信した上位局波から抽出される伝送用信号と、伝送用信号から復調されるモノラル音声信号を、中継時遅延時間だけ遅延させた放送用信号とを混合することでモノラルコンポジット信号を生成する。調整用遅延時間は、上位局から中継局までの伝送遅延時間より長い時間に設定される。中継時遅延時間は、調整用遅延時間から伝送遅延時間を減じた長さに設定される。