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特許7595865マンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】マンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20241202BHJP
   H01F 1/44 20060101ALI20241202BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01F1/34 140
H01F1/44 150
C01G49/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021066878
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2021170638
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020073321
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 純
(72)【発明者】
【氏名】野口 幸紀
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-165104(JP,A)
【文献】特開平07-267645(JP,A)
【文献】特開平05-175031(JP,A)
【文献】特開平02-130902(JP,A)
【文献】特開2017-119615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0187045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
H01F 1/44
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子であって、
透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径Rが15nm以上50nm以下であり、
標準偏差(nm)/前記平均粒径R(nm)×100で示される変動係数が30%以下である
ことを特徴とするマンガン亜鉛フェライト粒子。
【請求項2】
前記平均粒径Rが15nm以上35nm以下であり、
前記変動係数が20%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のマンガン亜鉛フェライト粒子。
【請求項3】
シェラー式により求められる結晶子径R(nm)に対する前記平均粒径R(nm)の比が1以上1.8以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンガン亜鉛フェライト粒子。
【請求項4】
亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、1/9以上9/1以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載のマンガン亜鉛フェライト粒子。
【請求項5】
亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、6/4以上7.5/2.5以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つの項に記載のマンガン亜鉛フェライト粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの項に記載の磁性微粒子としてのマンガン亜鉛フェライト粒子を含むことを特徴とする感温性磁性流体。
【請求項7】
感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子の製造方法であって、
オキシ水酸化鉄と水を含む懸濁液と、2価マンガンイオンと2価亜鉛イオンと水を含む水溶液と、塩基とを混合して、ゲル状混合液を得る第1工程と、
前記ゲル状混合液において、FeOOHとFe(III)水酸化物との溶解平衡を維持した状態で、マンガン亜鉛フェライト粒子を生成し、成長させる第2工程と、を含む
ことを特徴とするマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程において、前記ゲル状混合液のpHが12.5以上の状態で、前記ゲル状混合液を80℃以上250℃以下で30分間以上48時間以下静置することを特徴とする請求項7に記載のマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法に係り、更に詳細には、感温性磁性流体の磁性微粒子として用いられるマンガン亜鉛フェライト粒子、マンガン亜鉛フェライト粒子を含む感温性磁性流体、及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感温性磁性流体を用いた熱エネルギーの運動エネルギーへの変換システムが知られている。このような変換システムに好適に用いることができ、温度の変化に対する磁化の変化が極めて鋭敏な感温性磁性流体が提案されている(特許文献1参照。)。
【0003】
この磁性流体における強磁性金属酸化物微粒子は、湿式によって得られ、組成式(MnO)・(ZnO)・(Feで表わされ、0.35≦X≦0.47、0.12≦Y≦0.24、0.36≦Z≦0.46、X+Y+Z=1なる範囲の組成であることを特徴とする。さらに、この強磁性酸化物微粒子は、溶液のpHを10~13とし、溶液の温度を80~100℃とした共沈法によって作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-165104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような共沈法においては、金属塩溶液が水酸化ナトリウム水溶液に接触した瞬間に反応が進んでしまうので、強磁性金属酸化物微粒子の平均粒径や粒径の粒度分布を制御することが困難であった。そのため、このような強磁性金属酸化物微粒子においては、平均粒径が小さく、更に粒径の粒度分布が広い。従って、このような強磁性金属酸化物微粒子を用いた感温性磁性流体は依然として飽和磁化や感温性などの磁気特性が十分ではないという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、飽和磁化の増大や感温性の向上を実現し得るマンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、マンガン亜鉛フェライト粒子の平均粒径及び変動係数を所定の範囲内とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のマンガン亜鉛フェライト粒子は、感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子である。このマンガン亜鉛フェライト粒子は、透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径Rが15nm以上50nm以下であり、標準偏差(nm)/平均粒径R(nm)×100で示される変動係数が30%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の感温性磁性流体は、磁性微粒子としての上述のマンガン亜鉛フェライト粒子を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法は、感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子の製造方法である。このマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法は、次の第1工程及び第2工程を含むことを特徴とする。第1工程は、オキシ水酸化鉄と水を含む懸濁液と、2価マンガンイオンと2価亜鉛イオンと水を含む水溶液と、塩基とを混合して、ゲル状混合液を得る工程である。第2工程は、ゲル状混合液において、FeOOHとFe(III)水酸化物との溶解平衡を維持した状態で、マンガン亜鉛フェライト粒子を生成し、成長させる工程である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マンガン亜鉛フェライト粒子の平均粒径及び変動係数を所定の範囲内としたため、飽和磁化の増大や感温性の向上を実現し得るマンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の第3の実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法を模式的に示す説明図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子の一例(試験例1)の透過型電子顕微鏡像である。
図3図3は、本発明外のマンガン亜鉛フェライト粒子の一例(比較例1)の透過型電子顕微鏡像である。
図4図4は、各例の磁化曲線を示すグラフである。
図5図5は、各例の熱磁曲線を示すグラフである。
図6図6は、各例の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。
図7図7は、各例の磁化曲線を示すグラフである。
図8図8は、無磁場下における各例の熱磁曲線を示すグラフである。
図9図9は、磁場下における各例の熱磁曲線を示すグラフである。
図10図10は、各例の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。
図11図11は、動的光散乱法による各例の粒径及び分布の測定結果を示すグラフである。
図12図12は、各例の磁化曲線を示すグラフである。
図13図13は、各例の磁化曲線を示すグラフである。
図14図14は、各例の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子、感温性磁性流体及びマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子について詳細に説明する。本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子は、感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子である。
【0015】
ここで、感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子としては、温度上昇に伴う磁化の減少幅が大きいもの、特に超常磁性を示す微粒子を用いることが好ましい。このような磁性微粒子としては、マンガン亜鉛フェライト粒子を用いることが特に好ましい。
【0016】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子は、透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径Rが15nm以上50nm以下であり、標準偏差(nm)/平均粒径R(nm)×100で示される変動係数が30%以下である。
【0017】
ここで、「平均粒径R」は、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察したときの各粒子の円相当径の算術平均として算出できる。また、平均粒径Rを算出するに際しては、例えば、1~10視野中に観察される100~200個程度の粒子の円相当径を測定すればよい。標準偏差及び変動係数は平均粒径Rを算出する際に算出できる。
【0018】
本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子は、透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径R及び変動係数が上述の範囲内である。これにより、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子は、飽和磁化の増大や感温性の向上を実現できると考えられる。
【0019】
以下、現時点において推測しているマンガン亜鉛フェライト粒子における飽和磁化の増大や感温性の向上のメカニズムを説明する。
【0020】
粒子を構成する原子のうち、最表面に位置する原子の割合は粒径が小さくなるほど大きくなる。粒子の最表面の原子はスピンがそろわない、デッドレイヤーと呼ばれることもあるため、粒径が小さくなるほど飽和磁化は相対的に小さくなる。従って、平均粒径Rが大きく、変動係数が小さい上述の範囲内のマンガン亜鉛フェライト粒子は、飽和磁化の増大や感温性の向上を実現できると考えられる。
【0021】
但し、上述のようなメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0022】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子においては、飽和磁化の増大や感温性の向上の観点からは、平均粒径Rが15nm以上45nm以下であり、変動係数が20%以下であることが好ましく、平均粒径Rが15nm以上35nm以下であり、変動係数が20%以下であることがより好ましく、平均粒径Rが20nm以上35nm以下であり、変動係数が20%以下であることが更に好ましい。平均粒径Rが大きくなると、室温付近での飽和磁化が大きくなると共に、室温付近などの低温域における感温性が向上する。
【0023】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子においては、飽和磁化の増大や感温性の向上の観点からは、シェラー式により求められる結晶子径R(nm)に対する平均粒径R(nm)の比が1以上1.8以下であることが好ましく、1以上1.6以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることが更に好ましく、1以上1.3以下であることが特に好ましい。平均粒径R/結晶子径Rが小さくなると、室温付近での飽和磁化が大きくなると共に、室温付近などの低温域においては感温性が向上する。
【0024】
ここで、「結晶子径R」は、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)によって、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末のX線回折パターンを取得し、回折ピークθ及び半値幅βを求めることによって、算出できる。なお、シェラー式は、R=Kλ/(βcosθ)であり、K=0.94、λ=1.5418Åである。
【0025】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子においては、単結晶のマンガン亜鉛フェライト粒子が得られ易いという観点からは、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、1/9以上9/1以下であることが好ましく、1/9以上7/3以下であることがより好ましい。なお、マンガン亜鉛フェライトにおいて、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、8/2より大きい場合、多結晶のマンガン亜鉛フェライト粒子が含まれることがある。
【0026】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子においては、飽和磁化の増大や感温性の向上の観点からは、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、6/4以上7.5/2.5以下であることが好ましい。マンガン亜鉛フェライトにおいて、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、6/4以上7.5/2.5以下の範囲内においてはマンガンの含有量の比の増加に伴い飽和磁化が増大する。また、マンガン亜鉛フェライトにおいて、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、8/2以上の場合、飽和磁化が減少に転じることがある。
【0027】
さらに、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子においては、飽和磁化の増大や感温性の向上の観点からは、結晶子径Rが10nm以上であることが好ましく、12.4nm以上であることがより好ましく、13.0nm以上であることが更に好ましく、結晶子径Rが35nm以下であることが好ましく、32.0nm以下であることがより好ましく、25.0nm以下であることが更に好ましい。
【0028】
マンガン亜鉛フェライトにおいて、マンガンの割合が大きくなると飽和磁化が大きくなると共にキュリー点は高くなる。また、マンガン亜鉛フェライトにおいて、マンガンの割合が大きくなると共に感温性が向上する。一方、マンガン亜鉛フェライトにおいて、マンガンの割合が小さくなると飽和磁化が小さくなると共にキュリー点は低くなる。なお、マンガン亜鉛フェライト粒子に外部磁場を印加した場合、キュリー点によらず磁化が消失する温度は300℃程度になる。
【0029】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る感温性磁性流体について詳細に説明する。本実施形態の感温性磁性流体は、上述の磁性微粒子としてのマンガン亜鉛フェライト粒子を含む。
【0030】
本実施形態の感温性磁性流体は、上述の磁性微粒子としてのマンガン亜鉛フェライト粒子を含むので、飽和磁化の増大や感温性の向上を実現できると考えられる。なお、飽和磁化の増大や感温性の向上のメカニズムは、上述した通りであると考えられる。
【0031】
感温性磁性流体においては、マンガン亜鉛フェライト粒子を従来公知の有機溶媒又は水に分散させればよい。また、感温性磁性流体においては、必要に応じて、マンガン亜鉛フェライト粒子の表面を従来公知の界面活性剤で被覆してもよい。
【0032】
本実施形態の感温性磁性流体は、自動車廃熱を利用した熱輸送システムに利用できる。さらに、本実施形態の感温性磁性流体は、80℃以下、好ましくは50℃以下、代表的には室温付近の低い温度範囲において優れた感温性を有するので、CPUやパワー半導体などの冷却を目的とした熱輸送システムにおいて、冷却対象の温度が上昇した際における応答を早くすることができる。
【0033】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法について詳細に説明する。本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法は、感温性磁性流体に用いられる磁性微粒子の製造方法であって、上述した第1の実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子の好適な製造方法である。
【0034】
本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法は、次の第1工程及び第2工程を含む。以下、工程ごとに説明する。
【0035】
第1工程においては、オキシ水酸化鉄と水を含む懸濁液と、2価マンガンイオンと2価亜鉛イオンと水を含む水溶液と、塩基とを混合して、ゲル状混合液を得る。
【0036】
ここで、オキシ水酸化はα、β、γ-FeOOHがあるが、オキシ水酸化鉄としてはβ-FeOOHを用いることが好ましい。
【0037】
2価マンガンイオン源及び2価亜鉛イオン源としては、特に限定されないが、それぞれ硫酸マンガン及び硫酸亜鉛を用いることが好ましい。
【0038】
塩基としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0039】
溶媒としては水を用いることができる。溶媒としての水と共に、溶媒としての1-プロピルアルコール、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMAc)を添加した混合溶媒を用いてもよい。
【0040】
マンガン亜鉛フェライト粒子におけるマンガンの割合が大きい場合、オストワルト熟成が生じ易い。オストワルド熟成が生じるのはマンガンの溶解度が高いためと考えられる。特に限定されないが、オストワルト熟成を抑制できるという観点からは、水とジメチルアセトアミド(DMAc)の混合溶媒を用いることが好ましい。混合溶媒におけるジメチルアセトアミド(DMAc)の濃度は25vol%以上50vol%以下であることが好ましい。
【0041】
また、鉄源、マンガン源及び亜鉛源の仕込み比Fe/(Mn+Zn)は、2価金属イオンを過剰に加えて得られる粒子が特段優れているわけではないので、水酸化物を除去する手間などの観点からは、2/1であることが好ましいが、2/2、更には2/3程度にすることも可能である。
【0042】
Fe/(Mn+Zn)が2/1よりも大きい場合、鉄源の一種であるβ-FeOOHは残存する。β-FeOOHは固体微粒子であるためフェライトのみを得るためには両者を分離する必要があり好ましくない。一方でFe/(Mn+Zn)が2/1よりも小さい場合)、Mn(OH)、及びZn(OH)が残存する。これらの水酸化物は希酸に容易に溶解するため、遠心洗浄の際に溶液を酸性に調製して行えばフェライトを単相で得ることができる。
【0043】
例えば、Fe/(Mn+Zn)を2/2とした場合、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子の蛍光X線分析法(XRF)測定により決定したMn/Znは仕込みのMn/Znからずれる。一方、Fe/(Mn+Zn)を2/1とした場合、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子のMn/Znと仕込みのMn/Znは一致する。
【0044】
さらに、Fe/(Mn+Zn)を2/3のようにした場合、Mnの割合が低下したことからフェライトには亜鉛のほうが取り込まれる速度が早い。また、粒径がほぼ一定であり、粒度分布も変化がないことから過剰量の2価金属イオンは粒径に影響を与えないと考えられる。
【0045】
水酸化ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、0.48mol/L以上1.60mol/L以下であることが好ましい。水酸化ナトリウム濃度が0.48mol/L未満の場合、マンガン亜鉛フェライト粒子が得られても、β-FeOOHが残存し易い。また、水酸化ナトリウム濃度が1.60mol/Lよりも高い場合、オストワルト熟成が生じ、平均粒径Rが大きくなると共に多結晶の粗大粒子が生成し、変動係数が大きくなり易い。なお、このような粗大粒子は磁性流体の調製の際に沈殿してしまうので好ましくない。水酸化ナトリウム濃度が1.20mol/Lである場合、金属イオン濃度は0.375mol/L以上0.751mol/L以下であることが好ましい。
【0046】
R値(R値=(NaOH濃度)/(鉄イオン濃度×3+マンガンイオン濃度×2+亜鉛イオン濃度×2))が3.20である場合、金属イオン濃度は0.188mol/L以上0.375mol/L以下であることが好ましい。また、R値が1.28である場合、金属イオン濃度は0.047mol/L以上0.375mol/L以下であることが好ましい。従って、金属イオン濃度は0.188mol/L以上0.375mol/L以下であることがより好ましい。
【0047】
マンガン亜鉛フェライト粒子における亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比をモル比で6/4以上7.5/2.5以下として、マンガンの割合を大きくする場合、水酸化ナトリウムの濃度が0.160mol/L以上0.48mol/L以下であることが好ましく、金属イオン濃度が0.081mol/L以上0.375mol/L以下であることが好ましく、R値が0.48以上1.17以下であることが好ましい。これにより、高いマンガン比で粒度分布が狭く、粒径の大きいマンガン亜鉛フェライト粒子を得ることができる。
【0048】
混合する際の温度は、特に限定されないが、混合する懸濁液、水溶液及び塩基、更に必要に応じて用いるイオン交換水の温度が0℃以上60℃以下であることが好ましい。60℃で混合した場合、変動係数が大きくなる傾向があるので、混合温度は室温以下であることが好ましい。
【0049】
特に限定されるものではないが、変動係数をより小さくすることができるという観点からは、懸濁液と水溶液を混合した後に塩基を添加することが好ましい。
【0050】
第2工程においては、ゲル状混合液において、FeOOHとFe(III)水酸化物との溶解平衡を維持した状態で、マンガン亜鉛フェライト粒子を生成し、成長させる。
【0051】
図1は、本発明の第3の実施形態に係るマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法を模式的に示す説明図である。図1に示すように、ゲル状混合液(5)に含まれる水に不溶のβ-FeOOH(3)は水に溶解するFe(III)水酸化物と溶解平衡を保っており、ゲル状混合液(5)に含まれる図示しない2価マンガンイオン及び2価亜鉛イオンに対してFe(III)水酸化物を均一に供給する。そして、ゲル状混合液(5)に含まれる2価マンガンイオン、2価亜鉛イオン及びFe(III)水酸化物が反応して、マンガン亜鉛フェライト粒子(1)が生成し、粒径が成長する。なお、共沈法においては、このような鉄イオンの系内への均一な供給を実現できない。
【0052】
特に限定されないが、本実施形態のマンガン亜鉛フェライト粒子の製造方法の第2工程においては、飽和磁化が増大し、感温性が向上したマンガン亜鉛フェライト粒子を作製し易いという観点からは、ゲル状混合液のpHが12.5以上の状態で、ゲル状混合液を80℃以上250℃以下で30分間以上48時間以下静置することが好ましい。
【0053】
pHが12.5未満である場合には、マンガン亜鉛フェライト粒子の生成が途中で止まり、マンガン亜鉛フェライト粒子が定量的に得られ難い。
【0054】
合成温度が80℃未満である場合には、副生物であるα-FeOOHが生成し易い。また、150℃超である場合には、溶媒である水の沸騰を防ぐためオートクレーブが必要になる。従って、これらの観点からは、合成温度は80℃以上150℃以下であることがより好ましく、デュラン瓶などの簡易な容器で合成できるという観点からは、合成温度は80℃以上100℃以下であることが好ましい。また、R/Rを小さくし易いという観点からは、合成温度は100℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0055】
反応時間が30分間未満である場合には、マンガン亜鉛フェライト粒子が定量的に得られ難い。また、必要以上の加熱によってオストワルト熟成が生じる可能性があるという観点からは、反応時間が48時間以下であることが好ましい。これらの観点から、反応時間は、1時間以上24時間以下であることが好ましく、1時間以上4時間以下であることがより好ましい。
【実施例
【0056】
以下、本発明を試験例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら試験例に限定されない。
【0057】
(試験例1)
<β-FeOOHの準備>
塩化鉄六水和物を濃度が2.0mol/Lになるようにイオン交換水に溶解させ、孔径0.1μmの親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルタによりろ過することで水溶液を調製した。得られた塩化鉄水溶液に5.4mol/Lの同体積の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を撹拌しながら加えることでpH=2の混合溶液を得た。水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えた後に撹拌を10分間行い、デュラン瓶に移し、密閉した後に100℃のオーブンに移し、6時間静置することで、β-FeOOHからなるゲル状の酸性溶液を得た。流水で冷却した後にイオン交換水で遠心洗浄することで精製を行った。最後に、遠心分離により得られた沈殿をイオン交換水に分散させ、塩酸を加えることでpH=3に調製し、β-FeOOHからなる粘度の低い水分散液を得た。β-FeOOHの分散濃度は2mlのβ-FeOOH分散液を100℃で乾燥させることで得られる固体重量から決定し、マンガン亜鉛フェライト粒子の作製に供した。
【0058】
<マンガン亜鉛フェライト粒子の作製>
硫酸マンガン五水和物490.0mmol及び硫酸亜鉛七水和物219.5mmolをイオン交換水に溶解させ、メスフラスコを用いて100mlに調製することでMn=1.30mol/L、Zn=0.70mol/Lのマンガン亜鉛ストック溶液を作製した。
室温にて、β-FeOOH分散液をFe=12.5mmol分、100mlのパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製ボトルに移し、イオン交換水を加えて15mlに調製した。続いて、マンガン亜鉛ストック溶液を3.13ml加えて撹拌した(Fe/Mn/Zn=2.00/0.65/0.35)。この際、塩析によりβ-FeOOHは沈殿し、ゲル状の粘度の高い溶液になった。さらに、8mol/L水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を3.0ml加え、撹拌した後に、メスフラスコを用いてイオン交換水により50mlに調製した。この際、濃度はそれぞれFe=0.250mol/L、Mn=0.081mol/L、Zn=0.044mol/L、NaOH=0.480mol/Lである。最後に100mlのパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製ボトルに戻し、密閉した後に100℃のオーブンに入れ、2時間静置した。流水により冷却した後にイオン交換水により遠心洗浄することで精製を行った。最後に沈殿を55℃で乾燥させることで、本例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末(R:21.5nm、R:30.5nm、標準偏差:5.0nm、変動係数:16.4%、R/R:1.42)を得た。なお、図2は、試験例1のマンガン亜鉛フェライト粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【0059】
結晶子径Rは、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)によって、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末のX線回折パターンを取得し、回折ピークθ及び半値幅βを求めることによって、算出した。なお、シェラー式は、R=Kλ/(βcosθ)であり、K=0.94、λ=1.5418Åとした。
【0060】
平均粒径Rは、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察したときの各粒子の円相当径の算術平均として算出した。また、平均粒径Rを算出するに際しては、例えば、1視野中に観察される200個程度の粒子の円相当径を測定した。標準偏差及び変動係数は平均粒径Rを算出する際に算出した。本例の仕様の一部を表1に示す。
【0061】
(試験例2~試験例10)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、金属イオン濃度、R値、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。なお、試験例5、6は得られたβ-FeOOHを洗浄せずにそのままマンガン亜鉛フェライト粒子の作製に供した点が試験例1と更に異なる。
【0062】
なお、各温度(25℃及び100℃)における質量磁化(飽和磁化)は、銅製のカプセルにサンプルを封入し、振動試料型磁力計(VMS)により磁化曲線を測定することで決定した。また、キュリー温度は、銅製のカプセルにサンプルを封入し、振動試料型磁力計(VMS)により測定した。各例の仕様の一部を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、表1中の比較例1としては、感温性磁性流体(株式会社イチネンケミカルズ製、フェリコロイド、TS-50K)に含まれる磁性微粒子を用いた。なお、図3は、比較例1のマンガン亜鉛フェライト粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【0065】
(試験例11~試験例14)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(試験例15、試験例16)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、溶媒として水とジメチルアセトアミドの混合溶媒を用い、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
(試験例17、試験例18)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、R値、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。
【0070】
(試験例19~試験例22)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、金属イオン濃度、R値を変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。
【0071】
(試験例23~試験例25)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、金属イオン濃度、R値、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
(試験例26~試験例28)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、合成温度を変えたこと、メスフラスコで50mlに調製した後で、容量20mlのテフロン(登録商標)内筒に15ml加えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
(試験例29、試験例30)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、Fe/(Mn+Zn)、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、金属イオン濃度を変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
(試験例31~試験例34)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、R値、混合温度、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
(試験例35)
得られたβ-FeOOHを洗浄せずにそのままマンガン亜鉛フェライト粒子の作製に供したこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、本例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。
【0080】
(試験例36~試験例38)
マンガン亜鉛フェライト粒子の作製工程において、水酸化ナトリウム(NaOH)濃度、R値、混合温度、Mn/Znを変えたこと以外は、試験例1と同様の操作を繰り返し、各例のマンガン亜鉛フェライト粒子の粉末を得た。各例の仕様の一部を表8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表1より、本発明の範囲に属する試験例1~試験例4のマンガン亜鉛フェライト粒子においては透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径R及び変動係数が所定の範囲内であることが分かる。これに対して、本発明外の比較例1のマンガン亜鉛フェライト粒子においては透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径R及び変動係数が所定の範囲内でないことが分かる。試験例1~試験例4の所定の範囲内の平均粒径R及び変動係数を有するマンガン亜鉛フェライト粒子が得られたのは、上述した所定のゲル状混合液を用いた製造方法により作製したためと考えられる。
【0083】
ここで、図4は、試験例5、試験例6及び比較例1の磁化曲線を示すグラフである。また、図5は、試験例5、試験例6及び比較例1の熱磁曲線を示すグラフである。さらに、図6は、試験例5、試験例6及び比較例1の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。図4図6より、粒径の増加に伴い室温での飽和磁化が増大することが分かる。また、低温域における感温性(傾き)が向上することが分かる。
【0084】
また、図7は、試験例7~試験例10の磁化曲線を示すグラフである。さらに、図8は、無磁場下における試験例7~試験例10の熱磁曲線を示すグラフである。図7及び図8より、マンガン亜鉛フェライト粒子におけるマンガンの割合が大きくなると飽和磁化が大きくなると共にキュリー点は高くなることが分かる。
【0085】
また、図9は、磁場下における試験例5、試験例6、試験例10、比較例1の熱磁曲線を示すグラフである。さらに、図10は、試験例5、試験例6、試験例10、比較例1の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。図9及び図10より、磁場を印加するとキュリー点によらず、磁化が消失する温度が330℃程度であることが分かる。また、マンガン亜鉛フェライト粒子におけるマンガンの割合の増大に伴い感温性が向上することが分かる。
【0086】
図11は、動的光散乱法による試験例9、比較例1の粒径及び分布の測定結果を示すグラフである。なお、ここでの比較例1はTS-50Kを10倍に希釈したものである。また、試験例9の散乱強度分布は23.6±9.1nmであり、比較例1の散乱強度分布は48.3±16.9nmである。
【0087】
以下、ここでの試験例9について詳細に説明する。表面修飾を行っていないマンガン亜鉛フェライト粒子を一度乾燥させると、完全に再分散させることは困難であるため、マンガン亜鉛フェライト粒子を合成し、遠心洗浄で精製した後、沈殿を乾燥させずに溶媒に再分散させることで分散実験に供した。まず、マンガン亜鉛フェライト粒子を分散させた後、分散液を磁石の上で静置し、磁石を取り除いても沈殿したままの粒子を取り除く、磁気精製を行った。得られた粒子をオレイン酸などで疎水性の溶媒に分散させることは可能であるが、磁気精製で沈殿する粒子の割合が高いため、より粒子を安定に分散させることのできる界面活性剤として没食子酸エステルを用いた。
【0088】
以下、界面活性剤による表面修飾法を詳細に説明する。マンガン亜鉛フェライト粒子水分散液(100mg/mL)のpHを4に調製し、超音波照射することで分散させた。次いで、同体積の没食子酸ステアリルのメタノール溶液(100mg/mL)を超音波照射下で加えた。その後、さらに超音波照射を1時間行うことで表面修飾を行った。反応後、メタノールで遠心洗浄することで未吸着の没食子酸ステアリルを取り除き、精製した。得られた沈殿に粒子の分散濃度が10質量%になるようにキシレンを加え分散させた。最後に磁気精製を行い分散濃度と分散収率を調べたところ、それぞれ3.4質量%、24%であった。
【0089】
比較例1の測定結果から、粒子表面の界面活性剤等の影響により平均粒径Rより15nm程度大きくなることが分かる。また、図11より、試験例9においては凝集体が存在せず、安定に分散することが分かった。つまり、試験例9においては一次粒子の状態で分散していると考えられる。
【0090】
表2~表7より、本発明の範囲に属する試験例11~試験例34のマンガン亜鉛フェライト粒子においても透過型電子顕微鏡により求められる平均粒径R及び変動係数が所定の範囲内であることが分かる。試験例11~試験例34の所定の範囲内の平均粒径R及び変動係数を有するマンガン亜鉛フェライト粒子が得られたのは、上述した所定のゲル状混合液を用いた製造方法により作製したためと考えられる。
【0091】
図12は、試験例1及び試験例35の磁化曲線を示すグラフである。図12から、試験例1の飽和磁化が試験例35の飽和磁化よりも大きいにも関わらず、試験例1のゼロ磁場付近でのループの開きが試験例35のそれよりも小さいことが分かる。これは、試験例35の粒度分布よりも試験例1の粒度分布が狭くなったことにより、自発磁化を有する粗大粒子の割合が減ったためと考えられる。感温性磁性流体における粒子の分散性の観点からは、試験例35よりも試験例1が有利であると考えられる。
【0092】
図13は、試験例1及び試験例35の磁化曲線を示すグラフである。粒子分布を狭くすることで磁気感受性が向上したのは粒径の小さい粒子の割合が減ったためと考えられる。感温性磁性流体を用いた熱輸送システムの設計の際に強い磁石を用いなくてもよくなるという観点からは、試験例35よりも試験例1が有利であると考えられる。試験例1のマンガン亜鉛フェライト粒子を適用した感温性磁性流体は熱輸送システムの設計自由度を高くし得る。
【0093】
図14は、試験例1及び比較例1の温度と熱磁曲線の微分との関係を示すグラフである。図14から、80℃以下の低温域において優れた感温性を示すことが分かる。さらに、表8から、亜鉛の含有量に対するマンガンの含有量の比が、モル比で、6/4以上7.5/2.5以下であると6.5/3.5の場合と感温性がほぼ変わらないことが分かる。これらから、試験例36~試験例38も試験例1と同様に80℃以下の低温域において優れた感温性を示すことが分かる。
【0094】
以上、本発明を若干の実施形態及び試験例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 マンガン亜鉛フェライト粒子
3 β-FeOOH
5 ゲル状混合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14