(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】エポキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 301/26 20060101AFI20241202BHJP
C07D 303/22 20060101ALI20241202BHJP
C07C 41/03 20060101ALI20241202BHJP
C07C 43/13 20060101ALI20241202BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
C07D301/26
C07D303/22
C07C41/03
C07C43/13 B
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020216846
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】512235460
【氏名又は名称】株式会社MiChS
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】柳 日馨
(72)【発明者】
【氏名】福山 高英
(72)【発明者】
【氏名】笠門 崇好
(72)【発明者】
【氏名】西澤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】細見 哲也
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100265(JP,A)
【文献】特開2010-222340(JP,A)
【文献】特開2002-371024(JP,A)
【文献】特開平10-036307(JP,A)
【文献】米国特許第5025094(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 301/26
C07C 41/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含む、エポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
付加反応を溶媒の非存在下で行う、請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
アルコール性水酸基が1級水酸基である、請求項1または2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
エポキシ化合物のエポキシ当量が300以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
エポキシ化合物の数平均分子量が1000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
さらに、付加反応工程で得られたハロヒドリンエーテル化合物をアルカリにより閉環する工程を含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含む、
ハロヒドリンエーテル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、種々の硬化剤で硬化させることにより、機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気的性質などに優れた硬化物を形成できる。そのため、接着剤、塗料、積層板、成形材料、注型材料などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
エポキシ化合物の1種である脂肪族グリシジルエーテル類は、三フッ化ホウ素エーテル錯体などのルイス酸触媒の存在下でエピハロヒドリンとアルコール性水酸基を有する化合物(本明細書ではアルコール化合物とも呼ぶ)との付加反応により中間体であるハロヒドリンエーテルを合成する工程(工程1)、およびハロヒドリンエーテルにアルカリを作用させて分子内で閉環反応を行う工程(工程2)を経て合成することができる。ここで、工程1の付加反応の生成物であるハロヒドリンエーテルは、原料アルコール化合物と同様にアルコール性水酸基を有するアルコール化合物である。脂肪族グリシジルエーテルの製造において一般的に利用されている三フッ化ホウ素エーテル錯体をルイス酸触媒として用いた場合、原料であるアルコール化合物の水酸基と生成物であるハロヒドリンエーテルの水酸基を区別することが出来ず、付加反応工程ではハロヒドリンエーテルとエピハロヒドリンとが反応し、過剰付加物も生じてしまうため、純度が低下する。過剰付加物が工程2の閉環反応に持ち込まれると、ハロゲンを高濃度で含んだエポキシ化合物が生成してしまい、得られるエポキシ化合物は、ハロゲンによる腐食などの恐れがあり、高い信頼性が求められる電子材料用途に使用することは困難である。
【0004】
上述した過剰付加を防ぐために、従来、付加反応で大過剰量のアルコールを使用し、付加反応後に残余のアルコールを減圧留去する方法が知られている。しかし、この方法では収量が低下し、また、多量の残余アルコール除去のためにより多くのコストが必要となる。アルコールの過剰量を減らした条件下においても過剰付加を防ぐことが出来る新たな方法が求められていた。
【0005】
特許文献1は、ジグリシジルエーテルとポリオールとの付加反応において、ルイス酸触媒としてスズの塩化物を用いることにより過剰付加反応を防ぎ、高分子量の直鎖エポキシ樹脂を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エポキシ化合物の製造時に、中間体であるハロヒドリンエーテルとエピハロヒドリンとの過剰付加反応を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、原料であるアルコール化合物とエピハロヒドリンとの反応を優先的に触媒できるルイス酸触媒を探索した結果、ブチル錫トリクロライドを用いたときに過剰付加反応を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含む、エポキシ化合物の製造方法に関する。
【0010】
付加反応を溶媒の非存在下で行うことが好ましい。
【0011】
アルコール性水酸基が1級水酸基であることが好ましい。
【0012】
エポキシ化合物のエポキシ当量が300以下であることが好ましい。
【0013】
エポキシ化合物の数平均分子量が1000以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、付加反応工程で得られたハロヒドリンエーテル化合物をアルカリにより閉環する工程を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含む、ハロヒドリンエーテル化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、中間体であるハロヒドリンエーテルとエピハロヒドリンとの過剰付加反応を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】単一のミキサーを用いたフロー反応の模式図を示す。
【
図2】複数のミキサーを用いたフロー反応の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<エポキシ化合物の製造方法>>
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含むことを特徴とする。
【0019】
<付加反応工程>
アルコール性水酸基を有する化合物は、エピハロヒドリン中のエポキシ基と反応する化合物であれば特に限定されず、これらの中でも中間体のハロヒドリンエーテルの水酸基との反応性の差が大きくなるという理由で1級水酸基を有する化合物が好ましい。
【0020】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、ベンジルアルコールなどの1級モノアルコール類、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の1級ジオール類、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどの1級ポリオール類、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、フィタントリオールなどの1級水酸基と2級水酸基および/または3級水酸基の両方を有するポリオール類、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、シクロヘキサノール、水添ビスフェノールなどの2級アルコール、2-メチル-2-プロパノール、t-ブチルアルコールなどの3級アルコール、また、これらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。これらの中でも、過剰付加物が生成しにくい点で1級アルコールが好ましく、1価または2価の1級アルコールがより好ましい。アルコールの炭素数は1~20であることが好ましい。特に好ましいアルコールとして、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンが挙げられる。さらに、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸などアルコール性水酸基とカルボキシル基の両方を有するヒドロキシ酸類など、アルコール性水酸基とアルコール性水酸基以外の官能基を有している化合物が挙げられる。
【0021】
エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられる。これらの中では、取り扱いが簡便であり、安価であることからエピクロロヒドリンが好ましい。これらのエピハロヒドリンは、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
三フッ化ホウ素エーテル錯体などのルイス酸触媒の存在下で、エピハロヒドリンとアルコール等との付加反応によりハロヒドリンエーテルを合成する従来の方法では、エピハロヒドリンと生成物であるハロヒドリンエーテルからなる過剰付加物も生じてしまう。過剰付加反応の生成物としては、2-エチルヘキサノールにエピクロルヒドリンが2分子反応した下記式(I)の化合物や、1,6-ヘキサンジオールにエピクロルヒドリンが3分子付加した下記式(II)の化合物が挙げられる。
【化1】
【化2】
これに対し、本発明ではブチル錫トリクロライドが原料アルコール化合物とエピハロヒドリンとの反応を優先的に触媒するため、過剰付加反応を抑制できる。
【0023】
アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとのモル比(アルコール性水酸基を有する化合物のアルコール性水酸基/エピハロヒドリン)は、アルコール性水酸基を1つ有するモノアルコール化合物の場合、0.9~3.0が好ましく、0.9~2.0がより好ましく、0.95~1.5がさらに好ましい。0.9未満ではエピハロヒドリンが残存する傾向があり、3.0を超えると過剰のアルコールを除去するために長時間を要する傾向がある。アルコール性水酸基を2以上有するポリオール類の場合、アルコール性水酸基を有する化合物のアルコール性水酸基/エピハロヒドリンのモル比は、0.7~2.0が好ましく、0.7~1.5がより好ましく、0.7~1.3がさらに好ましい。0.7未満ではエピハロヒドリンが残存する傾向があり、2.0を超えると未反応の水酸基が残存し、モノ付加体が増加する傾向がある。
【0024】
ブチル錫トリクロライドの使用量は、エピハロヒドリンに対して0.01~10mol%が好ましく、0.1~5mol%がより好ましく、0.3~3mol%がさらに好ましい。0.01mol%未満では反応が遅くなる傾向があり、10mol%を超えると副反応が多くなる傾向がある。
【0025】
付加反応は、副反応を抑制するためにトルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどの溶媒の存在下で行ってもよいが、ブチル錫トリクロライドの使用により副反応を十分に抑制できるため、無溶媒系で行うこともできる。
【0026】
アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応は、フロー処理、バッチ処理のいずれによっても好適に行うことができる。
【0027】
付加反応をフロー処理によって行う場合、当該フロー反応装置としては、
図1に示したような複数の送液ポンプ、ミキサー、滞留時間ユニット、恒温槽からなる装置を使用することが出来る。反応溶液の沸点を超える温度で反応を行う場合は、さらにバックプレッシャーレギュレーターを付与することにより気化させることなく反応を行うことが出来る。ブチル錫トリクロライド、アルコール性水酸基を有する化合物、およびエピハロヒドリンを、ポンプで送液し、ミキサーを通して恒温槽に設置した滞留時間ユニットを通過させる。この時、滞留時間ユニットを通過する過程で、反応が進行する。三者の送液方法は特に限定されず、
図2に示したような多段階のフロー反応装置を組み、アルコール性水酸基を有する化合物、およびエピハロヒドリンを2台のポンプでそれぞれ送液し、一つ目のミキサーで混合後、3台目のポンプにてブチル錫トリクロライドを送液し、2つ目のミキサーでアルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンの混合物と混合させる方法や、予めブチル錫トリクロライドとアルコール性水酸基を有する化合物とを混合し、その混合物とエピハロヒドリンをそれぞれポンプで送液し、ミキサーで混合する方法などが挙げられる。また、アルコール性水酸基を有する化合物が常温で固体の場合、当該化合物の融点まで加温して送液する方法や、当該化合物を溶解可能な溶媒に溶解させ、溶液として送液する方法が挙げられる。
【0028】
フロー装置に用いるミキサーはα型マイクロミキサー(株式会社MiChS製)やユニオンティなどのT字型ミキサー、β型ミキサー(株式会社MiChS製)などの乱流型ミキサーなどを用いることができる。ミキサーの内径(流路幅)は、反応スケールにより適宜選択され、70μmから1/8インチ(3,175μm)のものが使用できる。
【0029】
フロー処理の滞留時間は0.1~60分が好ましく、1~30分がより好ましい。0.1分満では反応転化率が低くなる傾向があり、60分を超えると生産性が低下する傾向がある。
【0030】
フロー処理の滞留時間ユニットの内径は0.1~10mmが好ましく、0.5~5.0mmがより好ましい。0.1mm未満では滞留時間ユニット内の圧力損失によって送液することができなくなる傾向があり、10mmを超えると滞留時間ユニット内を流動する溶液の加熱が不十分となり、転化率が減少する傾向がある。滞留時間ユニットの長さは1~50mが好ましい。フロー処理の流速は、送液する薬液の仕込み比率(モル比)、滞留時間と、滞留時間ユニットの長さ、内径に応じて、任意に設定できる。
【0031】
付加反応をバッチ処理によって行う場合、ブチル錫トリクロライド、アルコール性水酸基を有する化合物、およびエピハロヒドリンの混合順は、過剰のエピハロヒドリンとブチル錫トリクロライドが混合されるとエピハロヒドリンの重合などの反応が進行してしまうため、あらかじめブチル錫トリクロライドとアルコール性水酸基を有する化合物とを混合させた後、エピハロヒドリンを滴下させ、滴下終了後も反応を進行させることが好ましい。本反応は発熱反応であるため、エピハロヒドリンの滴下時間は、所定の反応温度を保てるように、反応装置の冷却能力に応じて調節すればよいが、0.5~10時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。0.5時間未満では発熱の制御が難しくなる傾向があり、10時間を超えると副反応による純度低下の恐れがある。
【0032】
バッチ処理の反応時間は、通常、エピハロヒドリンが完全に消費されるまでの時間であるが、0.1~5時間が好ましく、0.5~3時間がより好ましい。0.1時間未満ではエピハロヒドリンが残存する傾向があり、5時間を超えると純度が低下する傾向がある。なお、反応時間はエピハロヒドリンの滴下終了後に反応を進行させる時間を意味する。
【0033】
フロー処理、バッチ処理のいずれにおいても、反応温度は10~140℃が好ましく、30~100℃がより好ましい。10℃未満では反応時間が長くなり生産性が低下する傾向があり、140℃を超えると副反応により純度が低下する傾向がある。
【0034】
<閉環工程>
付加反応工程で得られたハロヒドリンエーテル化合物をアルカリにより閉環する工程を経て、エポキシ化合物が得られる。
【0035】
閉環工程で用いるアルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。閉環工程は、付加反応工程から触媒を除去してから行ってもよいが、触媒を除去することなく行うこともできる。アルカリはそのまま添加しても良いし、水溶液として添加しても良い。アルカリは分割仕込みまたは滴下仕込みすることが好ましい。アルカリの添加時間は0.5~5時間が好ましい。
【0036】
閉環工程で添加するアルカリの量は、付加反応工程で存在するハロヒドリン基の数に対し0.9~2.0当量が好ましく、0.95~1.5当量がより好ましい。アルカリは、例えば5~60%の水溶液として添加することが好ましい。閉環反応の温度は10~90℃が好ましい。10℃未満では反応が進行しない傾向があり、90℃を超えると生成したエポキシ基が重合し、純度が低下する傾向がある。反応時間は0.5~5時間が好ましい。ここで反応時間とは、アルカリの添加後に反応を進行させる時間を意味する。
【0037】
アルカリによる閉環反応時間は0.1~3時間が好ましい。閉環反応は、フロー処理、バッチ処理のいずれによっても好適に行うことができる。閉環反応をフロー処理によって行う場合、フロー処理の流速は滞留時間ユニットの容量と滞留時間により適宜設定される。
【0038】
付加工程で得られるハロヒドリンエーテル化合物、および閉環工程で得られるエポキシ化合物は、ガスクロマトグラフィーで測定できる。付加反応工程の終了時点で、過剰付加反応の生成物は、ガスクロマトグラフィーで得られたピークの合計面積の23%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0039】
本発明の製造方法は、目的とするエポキシ化合物のエポキシ当量が300以下であるか、エポキシ化合物の数平均分子量は1000以下である場合に、特に好適に用いることができる。このような低分子量のエポキシ化合物は、原料となるアルコール性水酸基を有する化合物の分子量が低いため、高分子量のアルコール性水酸基を有する化合物を用いる場合に比べ、副生する過剰付加体の量が僅かであってもエポキシ化合物の純度やハロゲン含量への影響が大きくなりやすい。そのため、従来は、低分子量のアルコール性水酸基を有する化合物を用いる際には、過剰付加体の生成量をより厳しく制御する必要があったが、本発明の製造方法を用いることで低分子量のアルコール化合物を用いた場合でも容易に高純度で低ハロゲン含量のエポキシ化合物を製造することができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られるエポキシ化合物は、接着剤、塗料、積層剤、電子回路の基板の封止剤などの用途に適用可能である。
【0041】
<<ハロヒドリンエーテル化合物の製造方法>>
本発明のハロヒドリンエーテル化合物の製造方法は、ブチル錫トリクロライドを触媒として、アルコール性水酸基を有する化合物とエピハロヒドリンとの付加反応を行う工程を含むことを特徴とする。付加反応工程は、エポキシ化合物の製造方法について上述した条件により行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0043】
(使用材料)
(1)触媒
ブチル錫トリクロライド(東京化成工業株式会社製)
三フッ化ホウ素エーテル錯体(東京化成工業株式会社製)
(2)アルコール性水酸基を有する化合物
2-エチルヘキサノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
1,6-ヘキサンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(3)エピハロヒドリン
エピクロルヒドリン(東京化成工業株式会社製)
(4)溶媒
キシレン(キシダ化学株式会社製)
【0044】
(実施例1)
ジムロート冷却管、温度計、滴下ロートを備えた300mlセパラブルフラスコ中に、2-エチルヘキサノール(2-EH) 120.0g(0.92mol)、ブチル錫トリクロライド(MBTC)8.7g(0.03mol)を投入し、内温が30~40℃となるように攪拌混合した。滴下ロートにエピクロルヒドリン(ECH)56.8g(0.61mol)を入れ、内温30~40℃を保てるよう、適宜、加熱、冷却を行いながら、3時間かけて滴下仕込みした。エピクロルヒドリンの滴下終了後、さらに2時間、30~40℃で反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)にて反応液を分析した。その結果、ECHの転化率は100%、目的物の選択性は94.6%であった。
【0045】
(実施例2)
ブチル錫トリクロライドを3.47g(0.01mol)に変更した以外は、実施例1と同様に実験を行い、GC分析を行った。その結果、ECHの転化率は100%、目的物の選択性は94.9%であった。
【0046】
続いて、内温を50~60℃に調整し、滴下ロートに仕込んだ48%苛性ソーダ水溶液54.2g(0.65mol)を2時間かけて添加し、添加終了後さらに2時間反応させた。反応終了後、反応液に水道水200gを添加し、10分攪拌後、分液ロートに移した。分液ロートを30分静置後、上層の有機層を回収した。2-エチルヘキサノールとECHとの反応物と苛性ソーダとの反応により、下記反応式に示すように、目的とするエポキシ化合物を得ることが出来た。回収した有機層をGC分析したところ、相当するエポキシ化合物(2-エチルヘキシルグリシジルエーテル)の純度は94.1%であった。
【化3】
【0047】
(実施例3)
図3に示したように、ダイヤフラムポンプ2台(Pump A、Pump B)、1/8インチユニオンティー型ミキサー、滞留時間ユニット(ステンレス製チューブ製、内径4.35mm、長さ16.5m、容積245.2ml)からなるフロー反応装置を準備し、滞留時間ユニットを120℃に設定したオイルバスに浸漬した。あらかじめ、2-エチルヘキサノール 100重量部に対して、MBTC 2.9重量部を混合した混合液を作成し、ダイヤプラムポンプ Pump Aより2-エチルヘキサノールとMBTCの混合液を、ダイヤフラムポンプ Pump Bよりエピクロルヒドリンを、滞留時間ユニットでの滞留時間が30分となるように送液した。この時、Pump Aの流速は6.15ml/分、Pump Bの流速は2.03ml/分であった。Pump AおよびPump Bの送液開始から1時間の流分(反応液)は初流として廃棄し、送液開始後、1時間~1時間30分の流分を本流として回収し、GC分析を行った。その結果、ECHの転化率100%、目的物選択性93.3%であった。
【0048】
(実施例4)
φ24ねじ口試験管に、1,6-ヘキサンジオール 600mg(5.08mmol)とMBTC 176mg(0.63mmol)を加え、ドライヤーで加温して溶解させた。その後、系内にECH 1.16g(12.5mmol)を滴下(2.4mg/s)し、滴下終了から30分後、GC分析を行った。その結果、1,6-ヘキサンジオールの転化率100%、目的物選択性61.7%であった。
【0049】
(実施例5)
図4に示したように、プランジャーポンプ2台(Pump A、Pump B)、株式会社MiChS社製マイクロミキサー MiChS α型ミキサー(内径600μm)、滞留時間ユニット(ステンレス製チューブ製、内径1.0mm、長さ2,500mm、容積1.96ml)からなるフロー反応装置を準備した。マイクロミキサーおよび滞留時間ユニットは、60℃に設定したウォーターバスに浸漬し、加温した。あらかじめ、1,6-ヘキサンジオール 100重量部に対して、MBTC 29.8重量部を加熱、混合した混合液を作成し、プランジャーポンプPump Aより1,6-ヘキサンジオールとMBTCの混合液を、プランジャーポンプPump Bよりエピクロルヒドリンを、滞留時間ユニットでの滞留時間が30分となるように送液した。この時、Pump Aの流速は27μl/分、Pump Bの流速は38μl/分であった。Pump AおよびPump Bの送液開始から1時間の流分(反応液)は初流として廃棄し、送液開始後、1時間~1時間30分の流分を本流として回収し、GC分析を行った。その結果、1,6-ヘキサンジオールの転化率100%、目的物選択性72.7%であった。
【0050】
(比較例1)
ブチル錫トリクロライド(MBTC)8.7g(0.03mol)を三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3エーテル錯体)0.26g(1.8mmol)に変更して表2に記載の条件で反応させた以外は、実施例1と同様の操作を行い、GC分析を行った結果、ECHの転化率は100%、目的物の選択性は87.6%であった。
【0051】
(比較例2)
2-エチルヘキサノール 100重量部に対して、MBTC 2.9重量部を混合した混合液を2-エチルヘキサノール 100重量部に対して、三フッ化ホウ素エーテル錯体 0.73重量部として、滞留時間ユニットでの滞留時間が2分となるように送液して表2に記載の条件で反応させた以外は、実施例3と同様に反応を行った。この時、Pump Aの流速は92.0ml/分、Pump Bの流速は30.6ml/分であった。本流のGC分析を行った結果、ECHの転化率は100%、目的物の選択性は86.5%であった。
【0052】
(比較例3)
MBTC 176 mg(0.63 mmol)を三フッ化ホウ素エーテル錯体 4.2mg(0.03mmol)に変更して表2に記載の条件で反応させた以外は、実施例4と同様に反応を行い、GC分析を行った結果、1,6-ヘキサンジオールの転化率は100%、目的物選択性47.9%であった。
【0053】
実施例の結果を表1に示し、比較例の結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
比較例1~2に対して、実施例1~3では目的化合物(2-エチルヘキシルクロルヒドリンエーテル)の生産性が向上し、下記式(I)で表される、2-エチルヘキサノール1分子にエピクロルヒドリンが2分子付加した副生成物が低減された。
【化4】
【0057】
同様に、比較例3に対して、実施例4~5では目的化合物の生産性が向上し、下記式(II)で表される、1,6-ヘキサンジオール1分子にエピクロルヒドリンが3分子付加した副生成物が低減された。
【化5】
【符号の説明】
【0058】
1 送液ポンプ
2 ミキサー
3 滞留時間ユニット
4 バックプレッシャーレギュレーター
5 恒温槽(ウォーターバス、オーブンなど)