(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20241202BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N33/24 B
(21)【出願番号】P 2021056875
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮里 心一
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094860(JP,A)
【文献】特開2010-243472(JP,A)
【文献】骨材の品質の影響に着目した コンクリートの乾燥収縮率の予測に関する検討,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),2020年,Vol. 76, No. 2,109‐118,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejmcs/76/2/76_109/_pdf
【文献】骨材の種類がコンクリートの乾燥収縮に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,2009年,Vol.31,No.1,https://www.data.jci-net.or.jp/data_pdf/31/031-01-1086.pdf
【文献】山田宏,コンクリートの乾燥収縮率の粗骨材品質による推定,土木技術資料,(一財)土木研究センター,2012年,5月号,p18-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01N 31/00-31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの乾燥収縮率を推定する装置であって、
骨材の化合水含有率を入力する化合水入力手段と、
前記化合水入力手段によって入力された化合水含有率と、コンクリート乾燥収縮率算定式と、に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出手段と、
前記乾燥収縮率算出手段によって算出
されたコンクリートの乾燥収縮率を出力する乾燥収縮率出力手段と、を備え、
前記コンクリート乾燥収縮率算定式は、骨材の化合水含有率とコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数である、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定装置。
【請求項2】
骨材の乾燥収縮率を推定する装置であって、
骨材の化合水含有率を入力する化合水入力手段と、
前記化合水入力手段によって入力された化合水含有率と、骨材乾燥収縮率算定式と、に基づいて骨材の乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出手段と、
前記乾燥収縮率算出手段によって算出
された骨材の乾燥収縮率を出力する乾燥収縮率出力手段と、を備え、
前記骨材乾燥収縮率算定式は、骨材の化合水含有率と骨材の乾燥収縮率との関係を表す関数である、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定装置。
【請求項3】
コンクリートの乾燥収縮率を推定する装置であって、
骨材の化合水含有率を入力する化合水入力手段と、
前記化合水入力手段によって入力された化合水含有率と、骨材膨張ひずみ算定式と、に基づいて骨材の吸水膨張ひずみを算出する膨張ひずみ算出手段と、
前記膨張ひずみ算出手段によって算出された骨材の吸水膨張ひずみと、コンクリート乾燥収縮率算定式と、に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出手段と、
前記乾燥収縮率算出手段によって算出
されたコンクリートの乾燥収縮率を出力する乾燥収縮率出力手段と、を備え、
前記骨材膨張ひずみ算定式は、骨材の化合水含有率と骨材の吸水膨張ひずみとの関係を表す関数であり、
前記コンクリート乾燥収縮率算定式は、骨材の吸水膨張ひずみとコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数である、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定装置。
【請求項4】
前記化合水入力手段では、粗骨材の化合水含有率が入力される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに
記載された乾燥収縮率推定装置。
【請求項5】
前記化合水入力手段によって入力された細骨材の化合水含有率、及び粗骨材の化合水含有率に基づいて、骨材の化合水含有率を算出する骨材化合水含有率算出手段を、さらに備え、
前記骨材化合水含有率算出手段によって算出された値が、骨材の化合水含有率として処理される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに
記載された乾燥収縮率推定装置。
【請求項6】
コンクリートの乾燥収縮率を推定する方法であって、
骨材の化合水含有率とコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数であるコンクリート乾燥収縮率算定式を設定する乾燥収縮率算定式設定工程と、
コンクリートに配合する骨材の化合水含有率を測定する化合水含有率測定工程と、
前記化合水含有率測定工程によって得られた化合水含有率と、前記コンクリート乾燥収縮率算定式と、に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出工程と、を備え、
前記乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の骨材試料の化合水含有率を測定するとともに、該骨材試料を配合した複数種類のコンクリート試料の乾燥収縮率を測定し、複数種類の該骨材試料の化合水含有率と該コンクリート試料の乾燥収縮率の組み合わせに基づいて、前記コンクリート乾燥収縮率算定式を設定する、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定方法。
【請求項7】
骨材の乾燥収縮率を推定する方法であって、
骨材の化合水含有率と骨材の乾燥収縮率との関係を表す関数である骨材乾燥収縮率算定式を設定する乾燥収縮率算定式設定工程と、
コンクリートに配合する骨材の化合水含有率を測定する化合水含有率測定工程と、
前記化合水含有率測定工程によって得られた化合水含有率と、前記骨材乾燥収縮率算定式と、に基づいて骨材の乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出工程と、を備え、
前記乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の骨材試料の化合水含有率を測定するとともに、該骨材試料の乾燥収縮率を測定し、複数種類の該骨材試料の化合水含有率と乾燥収縮率の組み合わせに基づいて、前記骨材乾燥収縮率算定式を設定する、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定方法。
【請求項8】
コンクリートの乾燥収縮率を推定する方法であって、
骨材の化合水含有率と骨材の吸水膨張ひずみとの関係を表す関数である骨材膨張ひずみ算定式を設定する骨材膨張ひずみ算定式設定工程と、
骨材の吸水膨張ひずみとコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数であるコンクリート乾燥収縮率算定式を設定する乾燥収縮率算定式設定工程と、
コンクリートに配合する骨材の化合水含有率を測定する化合水含有率測定工程と、
前記化合水含有率測定工程によって得られた化合水含有率と、前記骨材膨張ひずみ算定式と、に基づいて骨材の吸水膨張ひずみを算出する膨張ひずみ算出工程と、
前記膨張ひずみ算出工程によって算出された骨材の吸水膨張ひずみと、前記コンクリート乾燥収縮率算定式と、に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する乾燥収縮率算出工程と、を備え、
前記乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の骨材試料の化合水含有率を測定するとともに、該骨材試料の吸水膨張ひずみを測定し、複数種類の該骨材試料の化合水含有率と吸水膨張ひずみの組み合わせに基づいて、前記
コンクリート乾燥収縮率算定式を設定し、
前記乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の前記骨材試料を配合した複数種類のコンクリート試料の乾燥収縮率を測定し、複数種類の該骨材試料の吸水膨張ひずみと該コンクリート試料の乾燥収縮率の組み合わせに基づいて、前記コンクリート乾燥収縮率算定式を設定する、
ことを特徴とする乾燥収縮率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリートの乾燥収縮に関するものであり、より具体的には、骨材の化合水含有率に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を推定する技術である。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは鋼材とともに最も重要な建設材料のひとつであり、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルなどの建築構造物をはじめ、様々な構造物に用いられている。このコンクリート構造物は、あらかじめ工場等で製作されて所定の場所まで運搬されることもあるが、土木構造物や建築構造物の場合、所定の場所(現場)で直接構築されることが多い。いずれにしろ、セメントと水、骨材等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を型枠の中に打込み、コンクリートの硬化を待って型枠を外すことでコンクリート構造物は構築される。
【0003】
上記のとおり、コンクリートは時間の経過とともに硬化していく材料であり、時間の経過に応じてコンクリートの水和反応により内部温度が上昇するとともに、その強度も上がり、弾性係数も向上していく材料である。ところで、フレッシュコンクリートから「硬化した状態のコンクリート」になる過程で、あるいは硬化後に構造物として供用されている間に、ひび割れが発生することがある。コンクリートのひび割れには、構造物の用途に影響を与えない無害なものもあるが、一方でその用途に重大な影響を及ぼす有害なひび割れもある。そのため、ひび割れが発生する原因や機構については解明されている部分も多く、その対策に関しても様々な手法が採用されている。
【0004】
ひび割れの種類はその発生原因によって分けられ、さらにコンクリート硬化前の原因と硬化後の原因で大別される。硬化前の原因としては、型枠の移動やセメントの異常凝結によって生じる「初期ひび割れ」、養生中における表面の急速乾燥によって生じる「プラスチック収縮ひび割れ」等が挙げられる。一方、硬化後の原因としては、「乾燥収縮ひび割れ」や、鉄筋の腐食やアルカリ骨材反応によって生じる「物理的・化学的なひび割れ」、過大な荷重の作用や構造物の沈下によって生じる「構造ひび割れ」等が挙げられる。
【0005】
このうち乾燥収縮ひび割れは、水分損失に伴うセメントゲルの収縮によって生じるもので、すなわちコンクリートの乾燥収縮が進行することによって生じるひび割れである。コンクリートの乾燥収縮は、使用する材料の物性や配合、環境条件、施工条件など様々な要因の影響を受けることが知られている。したがって、コンクリートの要求品質を確保するためには乾燥収縮を低減する対策が必要であり、これまでにも様々な研究が実施されている。なかでもコンクリート体積中の約7割を占める骨材の品質に着目した研究が数多く実施されており、例えば、密度や吸水率、静弾性係数、ひずみ特性、比表面積などの影響評価について研究されている。
【0006】
一般的にコンクリートの乾燥収縮量は、「JIS A 1129 モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」に準拠して測定される。しかしながら当該JIS手法によれば、乾燥開始から6箇月が経過するまで測定を継続する必要があり、コンクリート供試体の準備を含めると概ね7箇月以上の期間を要することとなる。また、コンクリートの配合が異なるごとにそれぞれ別の測定を実施する必要があり、多種の配合のコンクリートについて乾燥収縮量を把握するためには多大な時間と労量を強いられていた。
【0007】
そこで、上記したJIS手法に代えて、より短期間でかつ効率的にコンクリートの乾燥収縮量を把握する技術が望まれており、これまでにも種々の手法が提案されている。例えば、非特許文献1では、コンクリートに配合される粗骨材の乾燥収縮率に基づいて、コンクリートの乾燥収縮量を推定する手法について提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】山田宏、片平博、渡辺博志:粗骨材の収縮特性の評価に関する検討、土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造)、Vol.68、No.1、pp.63-71(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1の技術は、粗骨材の乾燥収縮率とコンクリートの乾燥収縮量の実測値からなる組み合わせ(いわば、平面座標)を複数点プロットすることによって、粗骨材の乾燥収縮率とコンクリートの乾燥収縮量の関係を示す算定式(関数)を求めるものである。したがってこの手法によれば、粗骨材の乾燥収縮率を測定するだけでコンクリートの乾燥収縮量を推定することができ、また岩種に関わらず推定することができる点において好適な手法といえる。しかしながらこの手法を実施するにあたっては、粗骨材の異方性の影響や、粗骨材の体積表面積比V/Sの影響を考慮するなど比較的高度な技術が要求されるうえに、粗骨材の平滑面を形成する作業や、粗骨材にひずみゲージを貼付する作業、そのひずみゲージの防水処理など、多くの作業が必要とされる。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比してより少ない作業でより効率的にコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定することができる乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、骨材の化合水含有率とコンクリートの乾燥収縮率との相関が高いことに着目し、すなわち骨材の化合水含有率に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を推定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の乾燥収縮率推定装置は、コンクリートの乾燥収縮率を推定する装置であって、水量入力手段と乾燥収縮率算出手段、乾燥収縮率出力手段を備えたものである。このうち化合水入力手段は、オペレータ操作によって骨材の化合水含有率を入力する手段であり、乾燥収縮率算出手段は、骨材の化合水含有率とコンクリート乾燥収縮率算定式に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する手段、乾燥収縮率出力手段は算出されたコンクリートの乾燥収縮率を出力する手段である。なおコンクリート乾燥収縮率算定式は、骨材の化合水含有率とコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数である。
【0013】
本願発明の乾燥収縮率推定装置は、骨材の乾燥収縮率を推定する装置とすることもできる。この場合、乾燥収縮率算出手段は、骨材の化合水含有率と骨材乾燥収縮率算定式に基づいて骨材の乾燥収縮率を算出し、乾燥収縮率出力手段は、算出れた骨材の乾燥収縮率を出力する。なお骨材乾燥収縮率算定式は、骨材の化合水含有率と骨材の乾燥収縮率との関係を表す関数である。
【0014】
本願発明の乾燥収縮率推定装置は、膨張ひずみ算出手段をさらに備えたものとすることもできる。この膨張ひずみ算出手段は、骨材の化合水含有率と骨材膨張ひずみ算定式に基づいて骨材の吸水膨張ひずみを算出する手段である。そして乾燥収縮率算出手段が、算出された骨材の吸水膨張ひずみとコンクリート乾燥収縮率算定式に基づいて、コンクリートの乾燥収縮率を算出する。なお骨材膨張ひずみ算定式は、骨材の化合水含有率と骨材の吸水膨張ひずみとの関係を表す関数であり、この場合のコンクリート乾燥収縮率算定式は、骨材の吸水膨張ひずみとコンクリートの乾燥収縮率との関係を表す関数である。
【0015】
本願発明の乾燥収縮率推定装置は、化合水入力手段において粗骨材の化合水含有率が入力されるものとすることもできる。
【0016】
本願発明の乾燥収縮率推定装置は、骨材化合水含有率算出手段をさらに備えたものとすることもできる。この骨材化合水含有率算出手段は、入力手段によって入力された細骨材の化合水含有率と粗骨材の化合水含有率に基づいて、骨材の化合水含有率を算出する手段である。この場合、骨材化合水含有率算出手段によって算出された値が、骨材の化合水含有率として処理される。
【0017】
本願発明の乾燥収縮率推定方法は、コンクリートの乾燥収縮率を推定する方法であって、乾燥収縮率算定式設定工程と化合水含有率測定工程、乾燥収縮率算出工程を備えた方法である。このうち乾燥収縮率算定式設定工程では、コンクリート乾燥収縮率算定式を設定し、化合水含有率測定工程では、コンクリートに配合する骨材の化合水含有率を測定し、乾燥収縮率算出工程では、骨材の化合水含有率とコンクリート乾燥収縮率算定式に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する。なお乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の骨材試料の化合水含有率を測定するとともに、この骨材試料を配合した複数種類のコンクリート試料の乾燥収縮率を測定し、これら複数種類の骨材試料の化合水含有率とコンクリート試料の乾燥収縮率の組み合わせ(いわば、平面座標)に基づいてコンクリート乾燥収縮率算定式を設定する。
【0018】
本願発明の乾燥収縮率推定方法は、骨材の乾燥収縮率を推定する方法とすることもできる。この場合、乾燥収縮率算定式設定工程では、複数種類の骨材試料の化合水含有率を測定するとともに、骨材試料の乾燥収縮率を測定し、これら複数種類の骨材試料の化合水含有率と乾燥収縮率の組み合わせ(いわば、平面座標)に基づいて骨材乾燥収縮率算定式を設定する。また、乾燥収縮率算出工程では、骨材の化合水含有率と骨材乾燥収縮率算定式に基づいて骨材の乾燥収縮率を算出する。
【0019】
本願発明の乾燥収縮率推定方法は、膨張ひずみ算出工程をさらに備えたものとすることもできる。この膨張ひずみ算出工程では、化合水含有率と骨材膨張ひずみ算定式に基づいて骨材の吸水膨張ひずみを算出する。そして乾燥収縮率算工程では、算出された骨材の吸水膨張ひずみとコンクリート乾燥収縮率算定式に基づいてコンクリートの乾燥収縮率を算出する。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法には、次のような効果がある。
(1)骨材の化合水含有率を測定するだけで、コンクリートの乾燥収縮率を推定することができる。その結果、従来技術に比してより少ない作業でより効率的にコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定することができる。
(2)骨材の化合水含有率を測定するにあたっては少量(例えば20mg)の骨材試料を用意すれば足り、この点においてもより効率的にコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定することができる。
(3)特段、専門的な知識が求められることがなく、そのため測定者によるバラツキが回避されるうえ、客観的かつ高精度でコンクリートの乾燥収縮率を推定することができる。
(4)岩種を特定することなくコンクリートの乾燥収縮率を推定することができ、また川砂利や陸砂利など複数の岩種の混合物であっても推定することができる。
(5)骨材の化合水含有率を評価要素に加えることによって、より高品質のコンクリートを得るための配合設計が可能となる。すなわち、乾燥収縮ひび割れの発生の抑制が可能な配合を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】コンクリート直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な構成を示すブロック図。
【
図2】コンクリート直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な処理の流れを示すフロー図。
【
図3】骨材化合水含有率を横軸、コンクリート乾燥収縮率を縦軸とする座標系に、各粗骨材試料から得られた骨材化合水含有率とコンクリート乾燥収縮率のデータセットをプロットした散布図。
【
図4】骨材直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な構成を示すブロック図。
【
図5】骨材直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な処理の流れを示すフロー図。
【
図6】粗骨材乾燥収縮率の測定試験の結果を模式的に示すグラフ図。
【
図7】コンクリート間接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な構成を示すブロック図。
【
図8】コンクリート間接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置の主な処理の流れを示すフロー図。
【
図9】コンクリート直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図。
【
図10】骨材直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図。
【
図11】コンクリート間接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図。
【
図12】実験に用いた9種類の粗骨材試料を示す一覧図。
【
図13】化合水コンクリート算定式を設定したグラフ図。
【
図15】ひずみコンクリート算定式を設定したグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法の実施の例を図に基づいて説明する。なお、本願発明の乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法は、骨材の化合水含有率を基にコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定することを特徴の一つとしており、骨材の化合水含有率から直接的にコンクリートの乾燥収縮率(以下、単に「コンクリート乾燥収縮率」という。)を推定する手法(以下、「コンクリート直接推定手法」という。)と、骨材の化合水含有率から直接的に骨材の乾燥収縮率(以下、単に「骨材乾燥収縮率」という。)を推定する手法(以下、「骨材直接推定手法」という。)、そして骨材の化合水含有率から骨材の吸水膨張ひずみ(以下、単に「骨材膨張ひずみ」という。)を推定したうえでいわば間接的にコンクリート乾燥収縮率を推定する手法(以下、「コンクリート間接推定手法」という。)の3つの手法に大別することができる。
【0023】
ここで骨材の化合水含有率について説明する。化合水とは、骨材試料を105℃から950℃に加熱する間に発生する水分のことであり、化合水含有率は骨材試料の単位質量当たりの化合水のことである。本願発明における骨材の化合水含有率を測定するにあたっては、従来知られているあらゆる手法を採用することができ、例えば、日本産業規格(JIS M 8211-1995)に示される直接滴定法や逆滴定法、電量滴定法に従って測定することができる。いずれにしろ、105℃における骨材の水分量(D105℃)を測定するとともに、950℃における骨材の水分量(D950℃)を測定することによって、骨材の化合水含有率を得ることができる。
【0024】
以下、発明者らが実施した骨材の化合水含有率の測定例について説明する。まず、用意された粗骨材試料の中から無作為に20mg程度の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する。併せて、測定に用いる水分気化装置とカールフィッシャー水分計の調整を行う。具体的には、水分気化装置に関しては、装置内の温度を設定して昇温するとともに、装置内にキャリアガス(N2)を充填する。一方、カールフィッシャー水分計に関しては、装置パラメーターを設定するとともに、パブラー管を取り付けてドリフト値を安定させる。そして、粗骨材粉末試料を水分気化装置に入れ、キャリアガスの切り替え等を行うことで、粗骨材粉末試料が窒素雰囲気内になるように3分間ほど通気する。その後、粗骨材粉末試料を載せたボードを低温側(105℃)の炉に入れてカールフィッシャー水分計により吸湿水量(D105℃)を測定し、さらに粗骨材粉末試料を載せたボードを高温側(950℃)の炉に入れてカールフィッシャー水分計により吸湿水量(D950℃)を測定する。この場合、次式(1)によって骨材の化合水含有率(CW)を求めることができる。
CW=D950℃÷(W-D105℃)×100 (1)
ここで、式(1)中に示される記号は以下のとおりである。
CW:骨材の化合水含有率(%)
D950℃:950℃における骨材の水分量(g)
D105℃:105℃における骨材の水分量(g)
W:骨材の質量(上記例の場合、約20mg)
なお、上記例では粗骨材の化合水含有率CWを測定する手順を説明したが、細骨材も同様の手順で測定することができる。
【0025】
1.乾燥収縮率推定装置
本願発明の乾燥収縮率推定装置について詳しく説明する。なお、本願発明の乾燥収縮率推定方法は、本願発明の乾燥収縮率推定装置を用いてコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定する方法である。したがって、まずは本願発明の乾燥収縮率推定装置について説明し、その後に本願発明の乾燥収縮率推定方法について説明することとする。また、既述したとおり本願発明の乾燥収縮率推定装置は、「コンクリート直接推定手法」と「骨材直接推定手法」、「コンクリート間接推定手法」の3手法に大別することができることから、それぞれの手法ごとに分けて説明する。
【0026】
(コンクリート直接推定手法)
図1は、コンクリート直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置100(以下、便宜上「第1の乾燥収縮率推定装置100」という。)の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように第1の乾燥収縮率推定装置100は、化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、乾燥収縮率出力手段103を含んで構成され、さらに骨材化合水含有率算出手段104やコンクリート算定式記憶手段106を含んで構成することもできる。
【0027】
第1の乾燥収縮率推定装置100を構成する主な要素のうち化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、骨材化合水含有率算出手段104は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。ディスプレイを具備したコンピュータ装置を利用する場合は、そのディスプレイを骨材化合水含有率算出手段104として利用することもできるし、あるいはディスプレイ等の表示手段に代えて(もしくは加えて)プリンタやファイル生成手段、スピーカーなどを骨材化合水含有率算出手段104として利用することもできる。
【0028】
また、コンクリート算定式記憶手段106は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(有線や無線通信)で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0029】
次に、
図2を参照しながら第1の乾燥収縮率推定装置100を使用したときの主な処理の流れについて説明する。
図2は、第1の乾燥収縮率推定装置100の主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理によって生成される出力情報を示している。
【0030】
まずは、粗骨材の化合水含有率(以下、「粗骨材化合水含有率C
wg」という。)からコンクリートの乾燥収縮率(以下、「コンクリート乾燥収縮率E
c」という。)を求める算定式(以下、便宜上「化合水コンクリート算定式」という。)を設定する(
図2のStep201)。ここで設定された化合水コンクリート算定式は、コンクリート算定式記憶手段106(
図1)に記憶される。以下、この化合水コンクリート算定式を設定する手順の例について説明する。
【0031】
まず、複数種類の粗骨材試料を用意するとともに、この粗骨材を配合したコンクリートを粗骨材試料の種類ごとに作成する。ただし、それぞれのコンクリートは、粗骨材を除く水やセメント、細骨材、混和材料などはいずれも同一条件(材料や配合量)で配合される。なお、ここで用意する粗骨材試料は、川砂利や陸砂利など種々の産地のものとすることができ、また種々の岩種のものとすることができ、さらに複数の産地や岩種の混合物とすることができる。次に、粗骨材試料ごとに粗骨材化合水含有率Cwgを測定するとともに、作成したコンクリートごとにコンクリート乾燥収縮率Ecを測定する。コンクリート乾燥収縮率Ecを測定するにあたっては、既述した日本産業規格(JIS A 1129-1995)に準拠して測定するとよい。
【0032】
粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率C
wgとコンクリート乾燥収縮率E
cの組み合わせ(以下、「第1測定データセット」という。)が得られると、
図3に示すように、粗骨材化合水含有率C
wgを横軸とし、コンクリート乾燥収縮率E
cを縦軸とする座標系を設定し、この座標系に粗骨材試料ごとの第1測定データセットをプロットする。
図3では、5種類の粗骨材試料が用意され、5点の第1測定データセット、すなわち(X
1,Y
1)と(X
2,Y
2)、(X
3,Y
3)、(X
4,Y
4)、(X
5,Y
5)がプロットされている。そして第1測定データセットをプロットすると、これら第1測定データセットに基づく回帰式を求め、この回帰式を化合水コンクリート算定式として設定する。回帰式を求めるにあたっては、最小二乗法など従来用いられている手法を利用することができ、回帰式としては直線回帰や単回帰などやはり従来用いられている手法を利用することができる。
【0033】
ここまで説明した化合水コンクリート算定式を設定する処理は、いわば事前準備の処理であり、以降の処理が実際にコンクリートの配合計画を行う際に実行される。本願発明は、ひび割れの要因となるコンクリート乾燥収縮率Ecをあらかじめ推定することができ、したがって骨材の化合水含有率を評価要素に加えることによってより高品質のコンクリートを得るための配合設計が可能となる。
【0034】
例えば、コンクリートの配合計画を行う場合、まずは使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の粗骨材化合水含有率C
wgを測定する。そして、化合水入力手段101(
図1)を用いて、オペレータが粗骨材化合水含有率C
wgを入力する(
図2のStep202)。粗骨材化合水含有率C
wgを入力するにあたっては、ポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボードといった機器や装置を利用するとよい。
【0035】
粗骨材化合水含有率C
wgが入力されると、乾燥収縮率算出手段102(
図1)がコンクリート算定式記憶手段106(
図1)から化合水コンクリート算定式を読み出し、この化合水コンクリート算定式と粗骨材化合水含有率C
wgに基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを算出する(
図2のStep203)。そして乾燥収縮率出力手段103が、算出されたコンクリート乾燥収縮率E
cを、ディスプレイに表示したり、プリンタで印刷したり、音声で出力したり、所定のファイルとして出力したりする(
図2のStep204)。
【0036】
ここまで、骨材のうち粗骨材を対象とする例で説明したが、骨材のうち細骨材の化合水含有率に基づいてコンクリート乾燥収縮率Ecを推定することもできるし、あるいは粗骨材と細骨材(つまり、骨材全体)の化合水含有率に基づいてコンクリート乾燥収縮率Ecを推定することもできる。細骨材の化合水含有率に基づいて推定する場合、上記した化合水コンクリート算定式と同様の要領で、細骨材の化合水含有率(以下、「細骨材化合水含有率Cws」という。)からコンクリート乾燥収縮率Ecを求める化合水コンクリート算定式を設定し、これによりコンクリート乾燥収縮率Ecを推定する。
【0037】
一方、骨材(粗骨材と細骨材)の化合水含有率に基づいて推定する場合、やはり上記した化合水コンクリート算定式と同様の要領で、骨材の化合水含有率(以下、「骨材化合水含有率C
wa」という。)からコンクリートのコンクリート乾燥収縮率E
cを求める化合水コンクリート算定式を設定し、これによりコンクリート乾燥収縮率E
cを推定する。この骨材化合水含有率C
waは、骨材化合水含有率算出手段104(
図1)によって算出され、粗骨材化合水含有率C
wgと細骨材化合水含有率C
wsに基づいて得られる値である。例えば、粗骨材化合水含有率C
wgと細骨材化合水含有率C
wsの平均値を骨材化合水含有率C
waとしたり、粗骨材化合水含有率C
wgと細骨材化合水含有率C
wsの加重平均値(実際の配合量による加重平均値)を骨材化合水含有率C
waとしたり、あるいは次式(2)によって骨材化合水含有率C
waを求めることもできる。
C
wa=C
ws×s+C
wg×g (2)
ここで、式(2)中に示される記号は以下のとおりである。
C
wa:骨材(粗骨材と細骨材)の化合水含有率(%)
C
ws:細骨材の化合水含有率(%)
s:細骨材の配合量(g)
C
wg:粗骨材の化合水含有率(%)
g:粗骨材の配合量(g)
【0038】
以上説明したように本願発明によれば、一度、化合水コンクリート算定式を設定しておけば、粗骨材化合水含有率Cwgを測定するだけでコンクリート乾燥収縮率Ecを推定することができ、すなわち「JIS A 1129 モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」に準拠して測定する必要がなく、これまでコンクリート乾燥収縮率Ecを得るために強いられていた多大な時間と労量を回避することができるわけである。
【0039】
(骨材直接推定手法)
図4は、骨材直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置100(以下、便宜上「第2の乾燥収縮率推定装置100」という。)の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように第2の乾燥収縮率推定装置100は、化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、乾燥収縮率出力手段103を含んで構成され、さらに骨材化合水含有率算出手段104や骨材算定式記憶手段107を含んで構成することもできる。
【0040】
第2の乾燥収縮率推定装置100を構成する主な要素のうち化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、骨材化合水含有率算出手段104は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。また、骨材算定式記憶手段107は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。
【0041】
次に、
図5を参照しながら第2の乾燥収縮率推定装置100を使用したときの主な処理の流れについて説明する。
図5は、第2の乾燥収縮率推定装置100の主な処理の流れを示すフロー図である。
【0042】
まずは、粗骨材化合水含有率C
wgから粗骨材の乾燥収縮率(以下、「粗骨材乾燥収縮率E
g」という。)を求める算定式(以下、便宜上「化合水粗骨材算定式」という。)を設定する(
図5のStep201)。ここで設定された化合水粗骨材算定式は、骨材算定式記憶手段107(
図4)に記憶される。この化合水粗骨材算定式は、概ね化合水コンクリート算定式と同様の手順で設定することができる。以下、化合水粗骨材算定式を設定する手順の例について説明する。
【0043】
用意された複数種類の粗骨材試料ごとに粗骨材化合水含有率C
wgを測定するとともに、粗骨材乾燥収縮率E
gを測定する。粗骨材乾燥収縮率E
gを測定するにあたっては、次の要領で行うとよい。まず、粒径が10mm以上の複数個(例えば、10個)の粗骨材を無作為に採取し、それぞれ機械を利用して平滑面を形成する。次に、乾燥炉にて粗骨材試料を105℃で乾燥した後に常温に戻し、平滑面に下地剤(伸縮性が小さく防水性、防湿性が高い剤)を塗布し、ひずみゲージを貼り付けたうえでさらにエポキシ樹脂でコーティングを行う。ここまで粗骨材試料の準備が整うと、はじめに7日間は粗骨材試料を水中浸漬し、その後10日間は気中自然乾燥する試験を行う。なおこの試験は、温度20℃、相対湿度60%の恒温恒湿度室内で実施するとよい。
図6は、この試験の結果を模式的に示すグラフ図であり、この図に水中浸漬中の粗骨材試料の最大ひずみ(以下、「吸水膨張ひずみ」という。)と、気中乾燥時の最大ひずみ(以下、「乾燥収縮ひずみ」という。)を示している。試験によって得られる「吸水膨張ひずみ」と「乾燥収縮ひずみ」のうちいずれかを粗骨材乾燥収縮率E
gとすることもできるが、試験の簡便性を考えると「吸水膨張ひずみ」を粗骨材乾燥収縮率E
gをとするとよい。
【0044】
粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率Cwgと粗骨材乾燥収縮率Egの組み合わせ(以下、「第2測定データセット」という。)が得られると、粗骨材化合水含有率Cwgを横軸とし、粗骨材乾燥収縮率Egを縦軸とする座標系を設定し、この座標系に粗骨材試料ごとの第2測定データセットをプロットする。そして第2測定データセットをプロットすると、これら第2測定データセットに基づく回帰式を求め、この回帰式を化合水粗骨材算定式として設定する。ここまで説明した化合水粗骨材算定式を設定する処理は、いわば事前準備の処理である。
【0045】
例えば、コンクリートの配合計画を行う場合、まずは使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の粗骨材化合水含有率C
wgを測定する。そして、化合水入力手段101(
図4)を用いて、オペレータが粗骨材化合水含有率C
wgを入力する(
図5のStep202)。粗骨材化合水含有率C
wgが入力されると、乾燥収縮率算出手段102(
図4)が骨材算定式記憶手段107(
図4)から化合水粗骨材算定式を読み出し、この化合水粗骨材算定式と粗骨材化合水含有率C
wgに基づいて粗骨材乾燥収縮率E
gを算出する(
図5のStep203)。そして乾燥収縮率出力手段103が、算出された粗骨材乾燥収縮率E
gを、ディスプレイに表示したり、プリンタで印刷したり、音声で出力したり、所定のファイルとして出力したりする(
図2のStep204)。
【0046】
ここまで、骨材のうち粗骨材を対象とする例で説明したが、骨材のうち細骨材の化合水含有率に基づいて細骨材の乾燥収縮率(以下、「細骨材乾燥収縮率E
s」という。)を推定することもできるし、あるいは粗骨材と細骨材(つまり、骨材全体)の化合水含有率に基づいて骨材の乾燥収縮率(以下、「骨材乾燥収縮率E
a」という。)を推定することもできる。細骨材の化合水含有率に基づいて推定する場合、上記した化合水粗骨材算定式と同様の要領で、細骨材化合水含有率C
wsから細骨材乾燥収縮率E
sを求める算定式(以下、便宜上「化合水細骨材算定式」という。)を設定し、この化合水細骨材算定式により細骨材乾燥収縮率E
sを推定する。一方、骨材(粗骨材と細骨材)の化合水含有率に基づいて推定する場合、やはり上記した化合水粗骨材算定式と同様の要領で、骨材化合水含有率C
waから骨材乾燥収縮率E
aを求める算定式(以下、便宜上「化合水骨材算定式」という。)を設定し、この化合水骨材算定式により骨材乾燥収縮率E
aを推定する。この骨材化合水含有率C
waは、骨材化合水含有率算出手段104(
図4)によって算出される。
【0047】
(コンクリート間接推定手法)
図7は、コンクリート間接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定装置100(以下、便宜上「第3の乾燥収縮率推定装置100」という。)の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように第3の乾燥収縮率推定装置100は、化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、乾燥収縮率出力手段103を含んで構成され、さらに骨材化合水含有率算出手段104や膨張ひずみ算出手段105、コンクリート算定式記憶手段106、ひずみ算定式記憶手段108を含んで構成することもできる。
【0048】
第3の乾燥収縮率推定装置100を構成する主な要素のうち化合水入力手段101と乾燥収縮率算出手段102、骨材化合水含有率算出手段104、膨張ひずみ算出手段105は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。また、コンクリート算定式記憶手段106とひずみ算定式記憶手段108は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。
【0049】
次に、
図8を参照しながら第3の乾燥収縮率推定装置100を使用したときの主な処理の流れについて説明する。
図8は、第3の乾燥収縮率推定装置100の主な処理の流れを示すフロー図である。
【0050】
まずは、粗骨材化合水含有率C
wgから粗骨材の吸水膨張ひずみ(以下、「粗骨材膨張ひずみE
ge」という。)を求める算定式(以下、便宜上「化合水粗骨材ひずみ算定式」という。)を設定するとともに、粗骨材膨張ひずみE
geからコンクリート乾燥収縮率E
cを求める算定式(以下、便宜上「粗骨材ひずみコンクリート算定式」という。)を設定する(
図8のStep201)。ここで設定された化合水粗骨材ひずみ算定式と粗骨材ひずみコンクリート算定式は、ひずみ算定式記憶手段108(
図7)とコンクリート算定式記憶手段106(
図7)にそれぞれ記憶される。化合水粗骨材ひずみ算定式と粗骨材ひずみコンクリート算定式は、概ね化合水コンクリート算定式や化合水粗骨材算定式と同様の手順で設定することができる。以下、化合水粗骨材ひずみ算定式を設定する手順の例について説明する。
【0051】
用意された複数種類の粗骨材試料ごとに粗骨材化合水含有率Cwgを測定するとともに、粗骨材膨張ひずみEgeを測定する。粗骨材膨張ひずみEgeを測定するにあたっては、既述したように粗骨材乾燥収縮率Egの測定と同様の要領で行うとよい。粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率Cwgと粗骨材膨張ひずみEgeの組み合わせ(以下、「第3測定データセット」という。)が得られると、粗骨材化合水含有率Cwgを横軸とし、粗骨材膨張ひずみEgeを縦軸とする座標系を設定し、この座標系に粗骨材試料ごとの第3測定データセットをプロットする。そして第3測定データセットをプロットすると、これら第3測定データセットに基づく回帰式を求め、この回帰式を化合水粗骨材ひずみ算定式として設定する。
【0052】
続いて、粗骨材ひずみコンクリート算定式を設定する手順の例について説明する。粗骨材を配合したコンクリートを粗骨材試料の種類ごとに作成し、それぞれコンクリートごとにコンクリート乾燥収縮率Ecを測定する。コンクリート乾燥収縮率Ecを測定するにあたっては、既述した日本産業規格(JIS A 1129-1995)に準拠して測定するとよい。粗骨材試料に係る粗骨材膨張ひずみEge(上記した測定値)とコンクリート乾燥収縮率Ecの組み合わせ(以下、「第4測定データセット」という。)が得られると、粗骨材膨張ひずみEgeを横軸とし、コンクリート乾燥収縮率Ecを縦軸とする座標系を設定し、この座標系に粗骨材試料ごとの第4測定データセットをプロットする。そして第4測定データセットをプロットすると、これら第4測定データセットに基づく回帰式を求め、この回帰式を粗骨材ひずみコンクリート算定式として設定する。ここまで説明した化合水粗骨材ひずみ算定式と粗骨材ひずみコンクリート算定式を設定する処理は、いわば事前準備の処理である。
【0053】
例えば、コンクリートの配合計画を行う場合、まずは使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の粗骨材化合水含有率C
wgを測定する。そして、化合水入力手段101(
図7)を用いて、オペレータが粗骨材化合水含有率C
wgを入力する(
図8のStep202)。粗骨材化合水含有率C
wgが入力されると、膨張ひずみ算出手段105(
図7)がひずみ算定式記憶手段108(
図7)から化合水粗骨材ひずみ算定式を読み出し、この化合水粗骨材ひずみ算定式と粗骨材化合水含有率C
wgに基づいて粗骨材膨張ひずみE
geを算出する(
図8のStep205)。
【0054】
粗骨材膨張ひずみE
geが得られると、乾燥収縮率算出手段102(
図7)がコンクリート算定式記憶手段106(
図7)から粗骨材ひずみコンクリート算定式を読み出し、この粗骨材ひずみコンクリート算定式と粗骨材膨張ひずみE
ge(ひずみ算定式記憶手段108による算出値)に基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを算出する(
図8のStep203)。そして乾燥収縮率出力手段103が、算出されたコンクリート乾燥収縮率E
cを、ディスプレイに表示したり、プリンタで印刷したり、音声で出力したり、所定のファイルとして出力したりする(
図8のStep204)。
【0055】
ここまで、骨材のうち粗骨材を対象とする例で説明したが、骨材のうち細骨材の化合水含有率に基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを推定することもできるし、あるいは粗骨材と細骨材(つまり、骨材全体)の化合水含有率に基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを推定することもできる。細骨材の化合水含有率に基づいて推定する場合、上記した化合水粗骨材ひずみ算定式や粗骨材ひずみコンクリート算定式と同様の要領で、細骨材化合水含有率C
wsから細骨材の吸水膨張ひずみ(以下、「細骨材膨張ひずみE
se」という。)を求める算定式(以下、便宜上「化合水細骨材ひずみ算定式」という。)を設定するとともに、細骨材膨張ひずみE
seからコンクリート乾燥収縮率E
cを求める算定式(以下、便宜上「細骨材ひずみコンクリート算定式」という。)を設定し、これら化合水細骨材ひずみ算定式と細骨材ひずみコンクリート算定式によりコンクリート乾燥収縮率E
cを推定する。一方、骨材(粗骨材と細骨材)の化合水含有率に基づいて推定する場合、やはり上記した化合水粗骨材ひずみ算定式や粗骨材ひずみコンクリート算定式と同様の要領で、骨材化合水含有率C
waから骨材の吸水膨張ひずみ(以下、「骨材膨張ひずみE
ae」という。)を求める算定式(以下、便宜上「化合水骨材ひずみ算定式」という。)を設定するとともに、骨材膨張ひずみE
aeからコンクリート乾燥収縮率E
cを求める算定式(以下、便宜上「骨材ひずみコンクリート算定式」という。)を設定し、これら化合水骨材ひずみ算定式と骨材ひずみコンクリート算定式によりコンクリート乾燥収縮率E
cを推定する。この骨材化合水含有率C
waは、骨材化合水含有率算出手段104(
図7)によって算出される。
【0056】
2.乾燥収縮率推定方法
続いて、本願発明の乾燥収縮率推定方法ついて、図を参照しながら説明する。なお、本願発明の乾燥収縮率推定方法は、ここまで説明した乾燥収縮率推定装置を用いてコンクリートや骨材の乾燥収縮率を推定する方法である。したがって、乾燥収縮率推定装置について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の乾燥収縮率推定方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.乾燥収縮率推定装置」で説明したものと同様である。
【0057】
また、既述したとおり本願発明の乾燥収縮率推定装置は、「コンクリート直接推定手法」と「骨材直接推定手法」、「コンクリート間接推定手法」の3手法に大別することができることから、本願発明の乾燥収縮率推定方法もこの3手法に大別することができる。したがって、それぞれの手法ごとに分けて説明する。
【0058】
(コンクリート直接推定手法)
図9は、コンクリート直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すようにコンクリート直接推定手法における乾燥収縮率推定方法は、事前に化合水コンクリート算定式を作成するまでの「試験工程」と、実際にコンクリートの配合計画等を行う際にコンクリート乾燥収縮率E
cをあらかじめ推定する「推定工程」に分けることができる。
【0059】
試験工程では、まず用意された粗骨材試料の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図9のStep311)。そして、粗骨材粉末試料の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図9のStep312)。併せて、粗骨材を配合したコンクリートを粗骨材試料の種類ごとに作成し(
図9のStep313)、そのコンクリート乾燥収縮率E
cを測定する(
図9のStep314)。粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率C
wgとコンクリート乾燥収縮率E
cの組み合わせ(第1測定データセット)が得られると、化合水コンクリート算定式を設定する(
図9のStep315)。
【0060】
推定工程では、まず使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図9のStep321)。そして、微粉砕した粗骨材の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図9のStep322)。粗骨材化合水含有率C
wgが得られると、この粗骨材化合水含有率C
wgと化合水コンクリート算定式に基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを算出する(
図9のStep323)。
【0061】
(骨材直接推定手法)
図10は、骨材直接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように骨材直接推定手法における乾燥収縮率推定方法は、事前に化合水粗骨材算定式を作成するまでの「試験工程」と、実際にコンクリートの配合計画等を行う際に粗骨材乾燥収縮率E
gをあらかじめ推定する「推定工程」に分けることができる。
【0062】
試験工程では、まず用意された粗骨材試料の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図10のStep311)。そして、粗骨材粉末試料の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図10のStep312)とともに、粗骨材乾燥収縮率E
gを測定する(
図10のStep316)。粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率C
wgと粗骨材乾燥収縮率E
gの組み合わせ(第2測定データセット)が得られると、化合水粗骨材算定式を設定する(
図10のStep317)。
【0063】
推定工程では、まず使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図10のStep321)。そして、微粉砕した粗骨材の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図10のStep322)。粗骨材化合水含有率C
wgが得られると、この粗骨材化合水含有率C
wgと化合水粗骨材算定式に基づいて粗骨材乾燥収縮率E
gを算出する(
図10のStep324)。
【0064】
(コンクリート間接推定手法)
図11は、コンクリート間接推定手法における本願発明の乾燥収縮率推定方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すようにコンクリート間接推定手法における乾燥収縮率推定方法は、事前にひずみコンクリート算定式を作成するまでの「試験工程」と、実際にコンクリートの配合計画等を行う際にコンクリート乾燥収縮率E
cをあらかじめ推定する「推定工程」に分けることができる。
【0065】
試験工程では、まず用意された粗骨材試料の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図11のStep311)。そして、粗骨材粉末試料の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図11のStep312)とともに、粗骨材膨張ひずみE
geを測定する。粗骨材試料ごとの粗骨材化合水含有率C
wgと粗骨材膨張ひずみE
geの組み合わせ(第3測定データセット)が得られると、化合水ひずみ算定式を設定する(
図10のStep318)。併せて、粗骨材を配合したコンクリートを粗骨材試料の種類ごとに作成し(
図11のStep313)、そのコンクリート乾燥収縮率E
cを測定する(
図11のStep314)。粗骨材試料ごとの粗骨材試料に係る粗骨材膨張ひずみE
ge(上記した測定値)とコンクリート乾燥収縮率E
cの組み合わせ(第4測定データセット)が得られると、ひずみコンクリート算定式を設定する(
図11のStep319)。
【0066】
推定工程では、まず使用する粗骨材(あるいは仕様候補としている粗骨材)の中から無作為に所定量(例えば、20mg程度)の粗骨材を採取し、これを指先に粒径を感じない程度に微粉砕する(
図11のStep321)。そして、微粉砕した粗骨材の化合水含有率(粗骨材化合水含有率C
wg)を測定する(
図11のStep322)。粗骨材化合水含有率C
wgが得られると、この粗骨材化合水含有率C
wgと化合水ひずみ算定式に基づいて粗骨材膨張ひずみE
geを算出し(
図11のStep325)、これにより得られた粗骨材膨張ひずみE
geとひずみコンクリート算定式に基づいてコンクリート乾燥収縮率E
cを算出する(
図11のStep326)。
【0067】
(実験例)
発明者らは、化合水コンクリート算定式と化合水粗骨材算定式、粗骨材ひずみコンクリート算定式を設定するため実験を行っている。なおこの実験では、
図12に示すように9種類の粗骨材試料を用いている。
【0068】
図13は、化合水コンクリート算定式を設定したグラフ図である。この実験によれば化合水コンクリート算定式は、
図13に示す次式(3)によって表すことができる。
E
c=―118.72×C
wg―406.4 (3)
粗骨材化合水含有率C
wgとコンクリート乾燥収縮率E
cの関係を示す決定係数R
2=0.668であり両者の相関が高いことが認められる。
【0069】
図14は、化合水粗骨材算定式を設定したグラフ図である。この実験によれば化合水粗骨材算定式は、
図14に示す次式(4)によって表すことができる。
E
g=100.85×C
wg+22.151 (4)
粗骨材化合水含有率C
wgと粗骨材乾燥収縮率E
gの関係を示す決定係数R
2=0.7923であり両者の相関が高いことが認められる。
【0070】
図15は、粗骨材ひずみコンクリート算定式を設定したグラフ図である。この実験によればひずみコンクリート算定式は、
図15に示す次式(5)によって表すことができる。
E
c=1。1396×E
ge+386.24 (5)
粗骨材膨張ひずみE
geとコンクリート乾燥収縮率E
cの関係を示す決定係数R
2=0.7842であり両者の相関が高いことが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本願発明の乾燥収縮率推定装置、及び乾燥収縮率推定方法は、橋梁の上部工・下部工や、擁壁、カルバート、ダム、トンネル覆工コンクリートといった土木構造物、あるいは集合住宅やオフィスビルといった建築構造物、その他種々のコンクリート構造物に利用することができる。本願発明が、乾燥収縮ひび割れの発生を抑制する、いわば高品質のコンクリート構造物を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0072】
100 本願発明の乾燥収縮率推定装置
101 (乾燥収縮率推定装置の)化合水入力手段
102 (乾燥収縮率推定装置の)乾燥収縮率算出手段
103 (乾燥収縮率推定装置の)乾燥収縮率出力手段
104 (乾燥収縮率推定装置の)骨材化合水含有率算出手段
105 (乾燥収縮率推定装置の)膨張ひずみ算出手段
106 (乾燥収縮率推定装置の)コンクリート算定式記憶手段
107 (乾燥収縮率推定装置の)骨材算定式記憶手段
108 (乾燥収縮率推定装置の)ひずみ算定式記憶手段