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  • 特許-製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法 図1
  • 特許-製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20241202BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20241202BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20241202BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20241202BHJP
【FI】
C04B5/00 C
C21C5/28 C
B09B3/70
B09B3/00 ZAB
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021147401
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2023040444
(43)【公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504233100
【氏名又は名称】協材砕石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】石田 和滝
(72)【発明者】
【氏名】橋山 和生
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-138053(JP,A)
【文献】特開2014-024713(JP,A)
【文献】特開2009-067646(JP,A)
【文献】特開2021-059469(JP,A)
【文献】特開2016-044102(JP,A)
【文献】特開2010-222227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00-5/06
B09B 3/00-3/80
C21C 5/28-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する製鋼スラグを、規格粒度になるように破砕、篩分けした後、蒸気エージング処理を施す製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法であって、
蒸気エージング処理の前工程で、フッ素を含有する製鋼スラグに、pHが12以上の強アルカリ性を示す鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石を混合することを特徴とする製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法。
【請求項2】
鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石の混合率を、1/3以下とする請求項1に記載の製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程において発生する電気炉スラグまたは二次精錬スラグ等の製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の生産の際、生成される非金属酸化物の滓を総じて「鉄鋼スラグ」という。この「鉄鋼スラグ」は、高炉で銑鉄を製造する際に副生成される「高炉スラグ」と、銑鉄やスクラップなどを精錬して鋼を製造する際に同時に生成される「製鋼スラグ」に分類される。この「製鋼スラグ」は製錬炉の種類によって、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、二次精錬スラグ、電気炉スラグに分類され、電気炉スラグはさらに酸化スラグと還元スラグに細分される。
【0003】
製鋼プロセスから排出される製鋼スラグの中には、フッ素を含有するものがある。特に高純度鋼や特殊合金鋼等を生産する場合には、溶解しがたい酸化物をスラグ中に溶解させるために造滓材としてCaFを主成分とする蛍石を使用することがあり、フッ素を含む製鋼スラグが発生する。このようなスラグを路盤材や地盤改良材などの土木用資材として使用すると、スラグから溶出するフッ素が環境上の問題となる惧れがある。例えば土壌で使用する場合には、土木環境基準として、環境庁告示第46号試験において、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であることが定められている。
【0004】
そこで近年では、転炉操業では蛍石を使用せず、アルミナで滓化を促進する精錬方法(例えば特許文献1など)も開発されている。しかし、電気炉精錬や二次精錬において脱リンや脱硫処理を行う必要がある場合には、転炉に比べて強撹拌が困難である等の操業制約により、蛍石の使用回避が困難であるのが実態である。従ってこれらの電気炉スラグまたは二次精錬スラグ等の製鋼スラグにはフッ素を含有するものが多くあり、これらを土木用資材として再利用することが極めて難しくなっている。
【0005】
なお、フッ素を含有するスラグからのフッ素の溶出抑制方法は従来から数多くの提案がなされている。例えば、特許文献2には電気炉スラグと溶銑予備処理スラグを混合する方法、特許文献3には石灰または飛灰を混合する方法、特許文献4にはAOD還元スラグを混合する方法、特許文献5には酸化マグネシウム系のフッ素不溶化溶剤を混合する方法がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-220621号公報
【文献】特開2010-222227号公報
【文献】特許第4920533号公報
【文献】特開2003-226908号公報
【文献】特開2013-163605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献2-4の方法は、スラグへの溶出抑制剤の混合作業が必要となる。このため混合作業の煩雑さや、混合用資材の調達・購入によるコスト負担など、現実の大量生産工程に適用するには課題があり、実操業にそぐわない。また溶出抑制剤の混合比率が大きい場合には、スラグ量そのものが増加するという難点もある。特許文献5の方法はフッ素溶出抑制の可能性はあるが、混合品が酸化マグネシウムを主体としているため、処理されたスラグを路盤材として使用すると、酸化マグネシウムに起因する遅延性の膨張を誘発する危険性があり、品質上の問題を惹起する不安がある。
【0008】
上記した従来技術に鑑み、本発明の目的は、フッ素を含有する製鋼スラグからのフッ素の溶出を、安価にかつ安定して実現し、路盤材などの土木用資材としての使用を可能とする製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、フッ素を含有する製鋼スラグを、規格粒度になるように破砕、篩分けした後、蒸気エージング処理を施す製鋼スラグからのフッ素の溶出抑制方法であって、蒸気エージング処理の前工程で、フッ素を含有する製鋼スラグに、pHが12以上の強アルカリ性を示す鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石を混合することを特徴とするものである。フッ素を含有する製鋼スラグとしては、電気炉スラグまたは二次精錬スラグを挙げることができるが、必ずしもこれらのスラグに限定されるものではない。
【0010】
好ましい実施形態によれば、蒸気エージング処理の前工程で、フッ素を含有する製鋼スラグに、強アルカリ性を示す鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石を混合する。この場合、鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石の混合率を、1/3以下とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、フッ素を含有している製鋼スラグ(電気炉スラグ、二次精錬スラグ、等)を規格粒度になるように破砕、篩分けした上で蒸気エージング処理を施すことにより、フッ素の溶出を抑制して環境基準を満足する状態に改質できることを見出し、多くの操業データにより確認した。本発明により処理された電気炉スラグまたは二次精錬スラグは、路盤材などの土木用資材として使用することができる。本発明において破砕・篩分けした後に蒸気エージング処理を行うのは、逆に蒸気エージング処理を先行させると、その後の破砕により新たな活性断面が発生してフリーCaOやフッ素が外部に溶出し易くなり、膨張率やフッ素の溶出量が増加して土木用資材としての品質を悪化させるためである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のフッ素溶出データを示すグラフである。
図2】実施例2のフッ素溶出データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を説明する。
先ず表1に、製鋼スラグ中の二次精錬スラグ、電気炉スラグ、溶銑予備処理スラグの代表的な成分データを示す。
【0014】
【表1】
【0015】
表1に示されるように、製鋼スラグはCaO、SiO2、Al2O3を主成分とし、さらにMnO、FeO、MgO等を含む。特にCaOは製鋼スラグ中に30~50%程含有されており、その一部がスラグ中に熔融しきれず、未熔融の遊離生石灰(Free Lime)として数%存在している。このため製鋼スラグを破砕・篩分け後、粒度を規格に合致するように調整しただけの状態で路盤材などの土木用資材として現場に施工すると、この遊離石灰分が雨水などの水分と反応してCa(OH)に消化反応し、路盤材に膨張・亀裂・隆起等の異常を誘発するという問題があった。その対策として、JISには大気エージングまたは蒸気エージングなどの処理を施すことが規定されている。
【0016】
大気エージングとは、スラグを大気中に長期間にわたり自然放置することにより、遊離石灰分の消化反応を進行させる処理を意味する。しかし大気エージングは一般的には6か月以上の処理期間を要するうえに、広い敷地も必要となる。一方、蒸気エージングは、コンクリート擁壁に囲まれた設備にスラグを貯留してその上面を耐熱シートで覆い、底面に配置された蒸気噴霧管から蒸気を吹き込む方法で行われる。この蒸気エージングによれば、その処理期間を大気エージングの処理期間である6か月から、1週間程度にまで大幅に短縮することができる。また、加圧蒸気を使用することにより、処理期間をさらに短縮することも可能である。
【0017】
上記したように大気エージングや蒸気エージングなどのエージング処理は、スラグ中の遊離石灰分を消化させることにより、スラグの膨張を抑制する目的で行われてきた。しかし本発明者らは、蒸気エージング処理によって、製鋼スラグからのフッ素の溶出が抑制されることを見出した。本発明者らは蒸気エージングの処理前後のスラグのミクロ観察と分析とを繰り返し実施した結果、蒸気エージング処理により遊離石灰分由来のCa2+イオンとFイオンが結合して、CaF2という安定物質に変化し、Fイオンが固定化されることを知得した。この反応を化学式で示すと、Ca2++2F⇒CaF2となる。その結果、フッ素の溶出が抑制されることとなる。
【0018】
表1に示されるように、電気炉スラグはFの含有量が多く、未処理の状態では環境基準の4倍以上の溶出が検出された。電気炉スラグはCaOの濃度が転炉スラグに比較するとやや低く、Ca2+イオンが生成されにくい。このため蒸気エージング処理を行なうことによるフッ素溶出抑制効果はあるものの、フッ素溶出の環境基準を完全に満足できないおそれがある。
【0019】
そこで蒸気エージング処理の前工程で、フッ素を含有する電気炉スラグに、pHが12あるいはそれ以上の強アルカリ性を示す溶銑予備処理スラグを混合したところ、フッ素の溶出抑制効果が0.7mg/Lまで低下し、環境基準を満足することができた。なお添加する物質は溶銑予備処理スラグに限定されるものではなく、Ca2+イオンの供給源となるものであればよい。同等のpHを示す転炉スラグや廃コンクリート砕石(再生砕石)を用いても同様の効果が得られた。電気炉スラグへの鉄鋼スラグ砕石または廃コンクリート砕石の混合率は、1/3以下とすることが好ましい。混合率をこれより高めてもフッ素の溶出抑制効果を顕著に高めることはできないうえ、スラグが増量してしまうためである。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例
【0020】
(実施例1)
製鋼工場から排出される二次精錬スラグを、路盤材の規格粒度である25mm以下になるように破砕、篩分けした後、処理場において蒸気エージング処理を施した。蒸気温度は約100℃、処理時間は6日間である。処理の前後でスラグからのフッ素溶出量を、環境庁告示第46号試験に即して行った。169回の測定結果を図1のグラフにまとめた。図1は横軸が処理前の二次精錬スラグからのフッ素溶出量、縦軸が蒸気エージング処理後の二次精錬スラグからのフッ素溶出量である。処理前のフッ素溶出量は環境基準値である0.8mg/Lを超えるものがあったが、処理後のフッ素溶出量は0.1mg/L前後であり、最大でも0.7mg/Lであり、全て環境基準値を満足していた。しかもフッ素溶出量のばらつきも小さくなり、品質の安定化を図ることができた。
【0021】
(実施例2)
製鋼工場から排出される電気炉スラグを路盤材の規格粒度である30mm以下になるように破砕、篩分けした後、蒸気エージング処理を行い、実施例1と同様に処理の前後のスラグからのフッ素溶出量を測定し、図2に示した。図2は横軸がフッ素溶出量であり、縦軸が度数である。なお、蒸気エージング処理前にpH=12の強アルカリ性を示す溶銑予備処理スラグを、1/5の混合率で混合した。
【0022】
図2に示すように、n=21のサンプルについての処理前のフッ素溶出量は、基準値以下が11サンプル、基準値を超えたものが10サンプルあり、フッ素溶出量の平均1.03mg/Lであった。しかし蒸気エージング処理後のフッ素溶出量は全サンプルとも0.2mg/L以下であり、平均0.12mg/Lであった。
【0023】
(参考データ)
最後に、蛍石を造滓材として含む転炉スラグ、二次精錬スラグ、電気炉スラグ、電気炉スラグに溶銑予備処理スラグを加えた4種類のスラグについて、蒸気エージングの前後におけるフッ素溶出量の参考データを、表2に示す。表2のデータは上記の実施例1、実施例2とは異なる条件下で得られたものである。しかし何れのスラグについても、蒸気エージング処理によりフッ素溶出量が大幅に低下したことが分かる。
【0024】
【表2】
【0025】
転炉スラグと二次精錬スラグについては、蒸気エージング処理によりフッ素溶出量が大幅に減少した。電気炉スラグは前述したようにフッ素の含有量が多いため、そのまま蒸気エージング処理を行っても環境基準値を上回っていた。しかし電気炉スラグに溶銑予備処理スラグを加えることにより、蒸気エージング処理後のフッ素溶出量を環境基準値以下とすることができた。
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、製鋼スラグからのフッ素の溶出を比較的安価な方法で、しかも効果的、効率的に抑制することができる。本発明によれば、製鉄時に副産物として不可避的に発生する製鋼スラグを余すことなく路盤材などの土木用資材として有効活用できるようになり、最終処分場への排出の必要がなくなり、処理コストも大幅に改善した。
図1
図2