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特許7595882リスク評価システム、リスク評価方法およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】リスク評価システム、リスク評価方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0635 20230101AFI20241202BHJP
   G16H 15/00 20180101ALI20241202BHJP
【FI】
G06Q10/0635
G16H15/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021553591
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2020040057
(87)【国際公開番号】W WO2021085364
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019197314
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 医療安全管理体制の可視化と人材育成のための研究 平成30年度 総括研究報告書、令和1年6月1日(公開日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】植村 政和
(72)【発明者】
【氏名】長尾 能雅
(72)【発明者】
【氏名】田辺 公一
【審査官】鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6172694(JP,B1)
【文献】特開2008-269354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0191138(US,A1)
【文献】村松洋、ほか3名,看護記録のテキストマイニング,情報処理学会論文誌 論文誌トランザクション 平成22年度(1) [CD-ROM],日本,一般社団法人情報処理学会,2010年10月15日,第3巻,第3号(データベース),p.112-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある組織で発生した事象を報告するレポートを解析して、前記組織のリスクの大きさを評価するシステムであって、
複数の単語のそれぞれについて、前記組織の過失によって事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である過失タームスコアを記憶する第1記憶部と、
複数の単語のそれぞれについて、重大な事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である重症タームスコアを記憶する第2記憶部と、
解析対象のレポートに記載された各単語の過失タームスコアから過失スコアを導出し、前記解析対象のレポートに記載された各単語の重症タームスコアから重症スコアを導出し前記過失スコアと前記重症スコアとを予め定められたリスク評価における重みに基づく比率により合算し、前記組織のリスクの大きさを表す指標であるリスクスコアを導出するスコア導出部と、
を備えるリスク評価システム。
【請求項2】
前記スコア導出部は、前記組織で発生した事象を報告する複数のレポートをもとに複数のリスクスコアを導出し、前記複数のリスクスコアに基づく統計量を前記組織のリスクスコアとして導出することを特徴とする請求項1に記載のリスク評価システム。
【請求項3】
画像生成部をさらに備え、
前記スコア導出部は、複数の組織のそれぞれで発生した事象を報告する複数のレポートをもとに、前記複数の組織それぞれのリスクスコアを導出し、
前記画像生成部は、前記複数の組織それぞれのリスクスコアを示す画像を生成する請求項1または2に記載のリスク評価システム。
【請求項4】
画像生成部をさらに備え、
前記スコア導出部は、複数の期間のそれぞれで発生した事象を報告する複数のレポートをもとに、前記複数の期間のそれぞれにおける前記組織のリスクスコアを導出し、
前記画像生成部は、前記複数の期間に亘る前記組織のリスクスコアの変動を示す画像を生成する請求項1または2に記載のリスク評価システム。
【請求項5】
前記スコア導出部は、複数の組織のそれぞれで発生した事象を報告する複数のレポートをもとに、前記複数の組織それぞれのリスクスコアを導出し、
前記スコア導出部は、前記複数の組織それぞれのレポート数とリスクスコアとをもとに、レポート数と標準的なリスクスコアとの対応関係を求め、ある組織のレポート数に対応するリスクスコアの標準値と、当該組織のリスクスコアの導出値との差を当該組織のリスク偏差としてさらに導出する請求項1または2に記載のリスク評価システム。
【請求項6】
複数の単語のそれぞれについて、重要な内容が記載されていると人が判断したレポートにおける出現のしやすさを表す指標であるインパクトタームスコアを記憶する第3記憶部と、
画像生成部と、をさらに備え、
前記スコア導出部は、前記複数の組織のそれぞれで発生した事象を報告する複数のレポートに記載された各単語のインパクトタームスコアをもとに、前記複数の組織それぞれのリスクの大きさを表す指標であるインパクトスコアをさらに導出し、
前記スコア導出部は、前記複数の組織それぞれのレポート数とインパクトスコアとをもとに、レポート数と標準的なインパクトスコアとの対応関係を求め、ある組織のレポート数に対応するインパクトスコアの標準値と、当該組織のインパクトスコアの導出値との差を当該組織のインパクト偏差としてさらに導出し、
前記画像生成部は、リスク偏差を第1軸としインパクト偏差を第2軸とする2次元空間に、各組織のリスク偏差とインパクト偏差とに応じて各組織の位置をプロットした画像を生成する請求項5に記載のリスク評価システム。
【請求項7】
第1記憶部と第2記憶部とにアクセス可能なコンピュータが、ある組織で発生した事象を報告するレポートを解析して、前記組織のリスクの大きさを評価する方法であって、
前記第1記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、前記組織の過失によって事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である過失タームスコアを記憶し、
前記第2記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、重大な事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である重症タームスコアを記憶し、
解析対象のレポートに記載された複数の単語を抽出するステップと、
抽出した各単語の過失タームスコアから過失スコアを導出し、抽出した各単語の重症タームスコアから重症スコアを導出し前記過失スコアと前記重症スコアとを予め定められたリスク評価における重みに基づく比率により合算し、前記組織のリスクの大きさを表す指標であるリスクスコアを導出するステップと、
を備えるリスク評価方法。
【請求項8】
第1記憶部と第2記憶部とにアクセス可能なコンピュータに、ある組織で発生した事象を報告するレポートを解析して、前記組織のリスクの大きさを評価させるためのコンピュータプログラムであって、
前記第1記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、前記組織の過失によって事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である過失タームスコアを記憶し、
前記第2記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、重大な事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である重症タームスコアを記憶し、
解析対象のレポートに記載された複数の単語を抽出する機能と、
抽出した各単語の過失タームスコアから過失スコアを導出し、抽出した各単語の重症タームスコアから重症スコアを導出し前記過失スコアと前記重症スコアとを予め定められたリスク評価における重みに基づく比率により合算し、前記組織のリスクの大きさを表す指標であるリスクスコアを導出する機能と、
を前記コンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理技術に関し、特にリスク評価システム、リスク評価方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関においては、インシデントレポートと呼ばれる報告書が作成される。このインシデントとは、日常の診療現場における医療事故、医療過誤、またはそれらにつながりかねない事象を言う。インシデントレポートは、インシデントを分析して、類似するインシデントの再発を防ぐとともに、医療事故および医療過誤の発生を未然に防止するために活用される。本出願人は、以下の特許文献1において、インシデントレポートを精度よく分類するための技術を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-081334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、複数の医療機関が抱えるリスクの大きさについて、医療機関の間での比較が十分になされていなかった。また、ある医療機関内の複数の部署が抱えるリスクの大きさについて、部署間での比較も十分になされていなかった。本発明者は、インシデントレポートを解析することにより、組織が抱えるリスクの大きさを精度よく推定することができると考えた。
【0005】
本開示は本発明者の上記着想に基づいてなされたものであり、1つの目的は、組織で発生した事象を報告するレポートをもとに、その組織のリスクの大きさを精度よく評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のリスク評価システムは、ある組織で発生した事象を報告するレポートを解析して、組織のリスクの大きさを評価するシステムであって、複数の単語のそれぞれについて、組織の過失によって事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である過失タームスコアを記憶する第1記憶部と、複数の単語のそれぞれについて、重大な事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である重大タームスコアを記憶する第2記憶部と、解析対象のレポートに記載された複数の単語を抽出し、抽出した各単語の過失タームスコアと、抽出した各単語の重大タームスコアと、組織の過失と事象の重大性のそれぞれついて予め定められたリスク評価における重みとをもとに、組織のリスクの大きさを表す指標であるリスクスコアを導出するスコア導出部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、リスク評価方法である。この方法は、第1記憶部と第2記憶部とにアクセス可能なコンピュータが、ある組織で発生した事象を報告するレポートを解析して、組織のリスクの大きさを評価する方法であって、第1記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、組織の過失によって事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である過失タームスコアを記憶し、第2記憶部は、複数の単語のそれぞれについて、重大な事象が発生したことを示すレポートにおける出現のしやすさを表す指標である重大タームスコアを記憶し、解析対象のレポートに記載された複数の単語を抽出するステップと、抽出した各単語の過失タームスコアと、抽出した各単語の重大タームスコアと、組織の過失と事象の重大性のそれぞれついて予め定められたリスク評価における重みとをもとに、組織のリスクの大きさを表す指標であるリスクスコアを導出するステップと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を装置、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、組織で発生した事象を報告するレポートをもとに、その組織のリスクの大きさを精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】過失タームスコアの決定方法を模式的に示す図である。
図2】重症タームスコアの決定方法を模式的に示す図である。
図3】インパクトタームスコアの決定方法を模式的に示す図である。
図4】第1実施例のリスク評価装置の機能ブロックを示すブロック図である。
図5】過失スコアの算出処理の流れを示すフローチャートである。
図6】病院におけるリスク評価因子の重みを示す図である。
図7】リスクスコアの算出方法の候補を示す図である。
図8】GRMによる順位評価と各算出方法による順位評価の相関を示す図である。
図9】第1実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図10】第1実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図11】報告量とリスクスコアの関係を示す散布図である。
図12】リスク偏差導出の具体例を示す図である。
図13】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図14】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図15】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図16】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図17】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
図18】第2実施例のリスク評価結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施例>
第1実施例では、医療機関で作成されたインシデントレポートをもとに医療機関が抱えるリスクの大きさを精度よく評価する技術を提案する。この技術により、例えば、医療機関や、医療機関内の部署等、様々な粒度の組織が抱えるリスクの大きさを可視化し、また、組織間でのリスク比較が可能になる。以下では、医療機関は病院として説明する。
【0012】
上記の特許文献1に記載された「特徴度」に対応する指標として、第1実施例では、過失タームスコア、重症タームスコアおよびインパクトタームスコアを用いる。図1は、過失タームスコアの決定方法を模式的に示す。過失タームスコアは、複数の単語のそれぞれについて、病院(言い換えれば医療従事者)の過失によってインシデントが発生したことを示すインシデントレポートにおける出現のしやすさを表す指標である。
【0013】
図2は、重症タームスコアの決定方法を模式的に示す。重症タームスコアは、複数の単語のそれぞれについて、患者に重症な事態、すなわち重大な事象が発生したことを示すインシデントレポートであり、具体的には、患者が重症になったこと(インシデントによって患者に重篤な事態が生じたこと)を示すインシデントレポートにおける出現のしやすさを表す指標である。
【0014】
図3は、インパクトタームスコアの決定方法を模式的に示す。インパクトタームスコアは、複数の単語のそれぞれについて、重要な内容が記載されていると人が判断したインシデントレポートであり、言い換えれば、慎重な検討や何らかのアクションが必要であると人が判断したインシデントレポートにおける出現のしやすさを表す指標である。
【0015】
図4は、第1実施例のリスク評価装置の機能ブロックを示すブロック図である。本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
リスク評価装置10は、インシデントレポートを解析して、病院や病院内の各部署が抱えるリスクの大きさを評価する情報処理装置である。リスク評価装置10は、制御部12と記憶部14を備える。制御部12は、リスク評価のための各種データ処理を実行する。記憶部14は、制御部12により参照または更新されるデータを記憶する。記憶部14は、分類情報記憶部20、過失タームスコア記憶部22、重症タームスコア記憶部24、インパクトタームスコア記憶部26を含む。
【0017】
分類情報記憶部20は、病院で作成された複数のインシデントレポートのそれぞれが、病院(言い換えれば医療従事者)の過失によってインシデントが発生したことを示すインシデントレポートに該当するか、否かを示す分類情報を記憶する。該当するインシデントレポートの集合を「過失レポート群」と呼び、非該当のインシデントレポートの集合を「非過失レポート群」と呼ぶ。図1に示すように、病院のGRM(ゼネラルリスクマネージャ、医療安全管理者)は、複数のインシデントレポートの内容を確認して、各インシデントレポートが過失レポート群に該当するか、非過失レポート群に該当するかを判断する。この判断結果を示す分類情報が分類情報記憶部20に格納される。例えば、分類情報記憶部20には、過失レポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報(レポート番号等)と、非過失レポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報が格納されてもよい。
【0018】
また、分類情報記憶部20は、病院で作成された複数のインシデントレポートのそれぞれが、患者が重症になったことを示すインシデントレポートに該当するか、否かを示す分類情報を記憶する。該当するインシデントレポートの集合を「重症レポート群」と呼び、非該当のインシデントレポートの集合を「非重症レポート群」と呼ぶ。図2に示すように、病院のGRMは、複数のインシデントレポートの内容を確認して、各インシデントレポートが重症レポート群に該当するか、非重症レポート群に該当するかを判断する。この判断結果を示す分類情報が分類情報記憶部20に格納される。例えば、分類情報記憶部20には、重症レポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報と、非重症レポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報が格納されてもよい。
【0019】
また、分類情報記憶部20は、病院で作成された複数のインシデントレポートのそれぞれが、重要な内容が記載されていると人が判断したインシデントレポートに該当するか、否かを示す分類情報を記憶する。該当するインシデントレポートの集合を「インパクトレポート群」と呼び、非該当のインシデントレポートの集合を「非インパクトレポート群」と呼ぶ。図3に示すように、病院のGRMは、複数のインシデントレポートの内容を確認して、各インシデントレポートがインパクトレポート群に該当するか、非インパクトレポート群に該当するかを判断する。この判断結果を示す分類情報が分類情報記憶部20に格納される。例えば、分類情報記憶部20には、インパクトレポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報と、非インパクトレポート群に該当する1つ以上のインシデントレポートの識別情報が格納されてもよい。
【0020】
なお、実施例では、各インシデントレポートがインパクトレポート群に該当するか否かを8名のGRMに投票させた。そして、インパクトレポート群に該当する旨の投票が3票以上のインシデントレポートをインパクトレポート群に分類し、3票未満のインシデントレポートを非インパクトレポート群に分類した。
【0021】
図4に戻り、過失タームスコア記憶部22は、インシデントレポートから抽出された複数の単語それぞれの過失タームスコアを記憶する。重症タームスコア記憶部24は、インシデントレポートから抽出された複数の単語それぞれの重症タームスコアを記憶する。まインパクトタームスコア記憶部26は、インシデントレポートから抽出された複数の単語それぞれのインパクトタームスコアを記憶する。
【0022】
制御部12は、レポート読込部30、組織情報読込部32、タームスコア決定部34、スコア導出部42、出力部52、画像生成部54を含む。これら複数の機能ブロックに対応する複数のモジュールを含むコンピュータプログラムが記録媒体に格納され、その記録媒体を介してリスク評価装置10のストレージにインストールされてもよい。または、このコンピュータプログラムがネットワークを介してリスク評価装置10のストレージにインストールされてもよい。リスク評価装置10のCPUは、このコンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより上記複数の機能ブロックの機能を発揮してもよい。
【0023】
レポート読込部30は、インシデントレポートが記録された電子ファイルから、インシデントレポートのデータ(例えばテキストデータ)を読み込む。インシデントレポートのデータ項目は、レポート番号、作成者情報(医師、看護士等の職種を含む)、発生日(インシデントが発生した日付)、部署名(インシデントが発生した部署名)、自由記載を含む。リスク評価装置10は、インシデントレポートの自由記載における記載内をもとにリスクの大きさをスコア化する。
【0024】
組織情報読込部32は、病院の各部署に関する情報(「組織情報」とも呼ぶ。)が記録された電子ファイルから組織情報を読み込む。組織情報は、病院内の複数の部署それぞれの名称(部署名)と、所属人数を含む。組織情報は、複数の病院のそれぞれについて、各病院に設けられた複数の部署の名称と所属人数を含んでもよい。
【0025】
タームスコア決定部34は、複数の単語それぞれの過失タームスコアを決定する過失タームスコア決定部36と、複数の単語それぞれの重症タームスコアを決定する重症タームスコア決定部38と、複数の単語それぞれのインパクトタームスコアを決定するインパクトタームスコア決定部40を含む。
【0026】
図1を参照して、過失タームスコアの決定方法を説明する。過失タームスコア決定部36は、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートに含まれる複数の単語(図1の例では15966個の単語)を抽出する。例えば、過失タームスコア決定部36は、形態素解析等の公知技術を用いて、複数のインシデントレポートの自由記載欄に記載された文章から名詞(または名詞と動詞)を抽出してもよい。また、過失タームスコア決定部36は、分類情報記憶部20に記憶された分類情報を参照して、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートのそれぞれが過失レポート群に該当するか、非過失レポート群に該当するかを識別する。
【0027】
ここでは過失タームスコアを求める対象となる単語を対象単語と呼ぶ。過失タームスコア決定部36は、過失レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数A、過失レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数B、非過失レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数C、非過失レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数Dを特定する。過失タームスコア決定部36は、図1の式1または式2にしたがって、過失レポート群と非過失レポート群における対象単語の出現率の比を、対象単語の過失タームスコアとして算出する。
【0028】
過失タームスコア決定部36は、抽出した複数の単語のそれぞれを順次対象単語として上記処理を実行し、各単語の過失タームスコアを算出する。過失タームスコア決定部36は、複数の単語と、各単語の過失タームスコアとを対応付けて過失タームスコア記憶部22に格納する。
【0029】
式1と式2で示すように、過失タームスコアは、-1未満の数値または1以上の数値となる。ある単語の過失タームスコアが大きいほど、その単語は非過失レポート群より過失レポート群において出現しやすいことを意味する。図1の例では、単語「同姓」は、過失レポート群における出現率が、非過失レポート群における出現率の約45倍であることを示している。また、ある単語の過失タームスコアが小さいほど、その単語は過失レポート群より非過失レポート群において出現しやすいことを意味する。
【0030】
図2を参照して、重症タームスコアの決定方法を説明する。重症タームスコア決定部38は、過失タームスコア決定部36と同様に、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートに含まれる複数の単語(図2の例では15966個の単語)を抽出する。また、重症タームスコア決定部38は、分類情報記憶部20に記憶された分類情報を参照して、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートのそれぞれが重症レポート群に該当するか、非重症レポート群に該当するかを識別する。
【0031】
ここでは重症タームスコアを求める対象となる単語を対象単語と呼ぶ。重症タームスコア決定部38は、重症レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数A、重症レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数B、非重症レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数C、非重症レポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数Dを特定する。重症タームスコア決定部38は、図2の式3または式4にしたがって、重症レポート群と非重症レポート群における対象単語の出現率の比を、対象単語の重症タームスコアとして算出する。
【0032】
重症タームスコア決定部38は、抽出した複数の単語のそれぞれを順次対象単語として上記処理を実行し、各単語の重症タームスコアを算出する。重症タームスコア決定部38は、複数の単語と、各単語の重症タームスコアとを対応付けて重症タームスコア記憶部24に格納する。
【0033】
過失タームスコアと同様に、重症タームスコアは、-1未満の数値または1以上の数値となる。ある単語の重症タームスコアが大きいほど、その単語は非重症レポート群より重症レポート群において出現しやすいことを意味する。図2の例では、単語「心停止」は、重症レポート群における出現率が、非重症レポート群における出現率の約74倍であることを示している。また、ある単語の重症タームスコアが小さいほど、その単語は重症レポート群より非重症レポート群において出現しやすいことを意味する。
【0034】
図3を参照して、インパクトタームスコアの決定方法を説明する。インパクトタームスコア決定部40は、過失タームスコア決定部36と同様に、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートに含まれる複数の単語(図3の例では14000個の単語)を抽出する。また、インパクトタームスコア決定部40は、分類情報記憶部20に記憶された分類情報を参照して、レポート読込部30により読み込まれた複数のインシデントレポートのそれぞれがインパクトレポート群に該当するか、非インパクトレポート群に該当するかを識別する。
【0035】
ここではインパクトタームスコアを求める対象となる単語を対象単語と呼ぶ。インパクトタームスコア決定部40は、インパクトレポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数A、インパクトレポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数B、非インパクトレポート群のうち自由記載欄に対象単語を含むレポート数C、非インパクトレポート群のうち自由記載欄に対象単語を含まないレポート数Dを特定する。インパクトタームスコア決定部40は、図3の式5または式6にしたがって、インパクトレポート群と非インパクトレポート群における対象単語の出現率の比を、対象単語のインパクトタームスコアとして算出する。
【0036】
インパクトタームスコア決定部40は、抽出した複数の単語のそれぞれを順次対象単語として上記処理を実行し、各単語のインパクトタームスコアを算出する。インパクトタームスコア決定部40は、複数の単語と、各単語のインパクトタームスコアとを対応付けてインパクトタームスコア記憶部26に格納する。
【0037】
過失タームスコアと同様に、インパクトタームスコアは、-1未満の数値または1以上の数値となる。ある単語のインパクトタームスコアが大きいほど、その単語は非インパクトレポート群よりインパクトレポート群において出現しやすいことを意味する。図3の例では、単語「激高」は、インパクトレポート群における出現率が、非インパクトレポート群における出現率の約99倍であることを示している。また、ある単語のインパクトタームスコアが小さいほど、その単語はインパクトレポート群より非インパクトレポート群において出現しやすいことを意味する。
【0038】
スコア導出部42は、病院および病院内の各部署が抱えるリスクの大きさを定量的に示す各種スコアを導出する。スコア導出部42は、過失スコア導出部44、重症スコア導出部46、インパクトスコア導出部48、リスクスコア導出部50を含む。
【0039】
過失スコア導出部44は、過失タームスコア記憶部22に記憶された過失タームスコアに基づいて、病院の過失(言い換えれば医療従事者の過失)の観点からのリスクの大きさを表す指標である過失スコアを導出する。図5は、過失スコアの算出処理の流れを示すフローチャートである。過失スコア導出部44は、レポート読込部30により読み込まれた解析対象のインシデントレポート(以下「解析対象レポート」)とも呼ぶ。)に記載された複数の単語を抽出する(S10)。過失スコア導出部44は、形態素解析等の公知技術を用いて解析対象レポートの自由記載欄に含まれる複数の単語を抽出してもよい。過失スコア導出部44は、解析対象レポートにおける各単語の出現回数(図5の「単語数」)を計数する。
【0040】
過失スコア導出部44は、抽出した単語ごとに、出現回数(図5の「単語数」)と過失タームスコアとの積(図5の「単語別集計値」)を算出する。過失スコア導出部44は、抽出した各単語の単語別集計値の合計(図5の「ΣNR」)を被除数とし、抽出した各単語の単語数の合計(図5の「ΣN」)を除数とする除算の結果(商)を過失スコアとして導出する(S12)。
【0041】
過失スコア導出部44は、レポート読込部30により複数の解析対象レポートが読み込まれた場合、解析対象レポートごとにS10およびS12の処理を繰り返し、解析対象レポートごと(レポート単位)の過失スコアを導出する。過失スコア導出部44は、複数の解析対象レポートの過失スコアを様々な粒度で集計する(S14)。
【0042】
例えば、過失スコア導出部44は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名をもとに、各部署の解析対象レポートの過失スコアに基づく統計量を求めることにより、部署ごと(部署単位)の過失スコアを導出する。言い換えれば、過失スコア導出部44は、複数の部署のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の部署それぞれの過失スコアを導出する。また、過失スコア導出部44は、ある病院で作成された複数の解析対象レポート(例えば解析対象レポート全件)の過失スコアに基づく統計量を求めることにより、病院全体(病院単位)の過失スコアを導出する。言い換えれば、過失スコア導出部44は、複数の病院のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の病院それぞれの過失スコアを導出する。
【0043】
また、過失スコア導出部44は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる発生日をもとに、複数の期間(年単位や月単位)のそれぞれに該当する解析対象レポートの過失スコアに基づく統計量を求めることにより、期間ごと(例えば年月別)の過失スコアを導出する。また、過失スコア導出部44は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名と発生日をもとに、複数の部署のそれぞれについて年月別の過失スコアを導出する。
【0044】
上記の統計量は、複数の解析対象レポートの過失スコアの平均値(相加平均値や移動平均値)、中央値、最頻値のいずれか、または任意の組み合わせであってもよい。また、上記の統計量は、複数の解析対象レポートの過失スコアの最小値、最大値、第1四分位点、第3四分位点をさらに含んでもよい。後述の重症スコア、インパクトスコア、リスクスコアの統計量についても同様である。
【0045】
重症スコア導出部46は、重症タームスコア記憶部24に記憶された重症タームスコアに基づいて、患者の重症度合い(言い換えればインシデントの重大性)の観点からのリスクの大きさを表す指標である重症スコアを導出する。重症スコアの導出方法は、図5に示した過失スコアの導出方法と同様である。
【0046】
すなわち、重症スコア導出部46は、レポート読込部30により読み込まれた解析対象レポートに記載された複数の単語を抽出し、抽出した単語ごとに、重症タームスコアに基づく単語別集計値を算出する(図5の過失タームスコアを重症タームスコアに置き換える)。重症スコア導出部46は、抽出した各単語の単語別集計値の合計(図5の「ΣNR」)を被除数とし、抽出した各単語の単語数の合計(図5の「ΣN」)を除数とする除算の結果(商)を重症スコアとして導出する。
【0047】
重症スコア導出部46は、レポート読込部30により複数の解析対象レポートが読み込まれた場合、解析対象レポートごと(レポート単位)の重症スコアを導出する。重症スコア導出部46は、複数の解析対象レポートの重症スコアを様々な粒度で集計する。
【0048】
例えば、重症スコア導出部46は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名をもとに、各部署の解析対象レポートの重症スコアに基づく統計量を求めることにより、部署ごと(部署単位)の重症スコアを導出する。言い換えれば、重症スコア導出部46は、複数の部署のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の部署それぞれの重症スコアを導出する。また、重症スコア導出部46は、ある病院で作成された複数の解析対象レポート(例えば解析対象レポートの全件)の重症スコアに基づく統計量を求めることにより、病院全体(病院単位)の重症スコアを導出する。言い換えれば、重症スコア導出部46は、複数の病院のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の病院それぞれの重症スコアを導出する。
【0049】
また、重症スコア導出部46は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる発生日をもとに、複数の期間(年単位や月単位)のそれぞれに該当する解析対象レポートの重症スコアに基づく統計量を求めることにより、期間ごと(例えば年月別)の重症スコアを導出する。また、重症スコア導出部46は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名と発生日をもとに、複数の部署のそれぞれについて年月別の重症スコアを導出する。
【0050】
インパクトスコア導出部48は、インパクトタームスコア記憶部26に記憶されたインパクトタームスコアに基づいて、重要な内容が記載されたインシデントレポートであると人が判断する観点からのリスクの大きさを表す指標であるインパクトスコアを導出する。インパクトスコアの導出方法は、図5に示した過失スコアの導出方法と同様である。
【0051】
すなわち、インパクトスコア導出部48は、レポート読込部30により読み込まれた解析対象レポートに記載された複数の単語を抽出し、抽出した単語ごとに、インパクトタームスコアに基づく単語別集計値を算出する(図5の過失タームスコアをインパクトタームスコアに置き換える)。インパクトスコア導出部48は、抽出した各単語の単語別集計値の合計(図5の「ΣNR」)を被除数とし、抽出した各単語の単語数の合計(図5の「ΣN」)を除数とする除算の結果(商)をインパクトスコアとして導出する。
【0052】
インパクトスコア導出部48は、レポート読込部30により複数の解析対象レポートが読み込まれた場合、解析対象レポートごと(レポート単位)のインパクトスコアを導出する。インパクトスコア導出部48は、複数の解析対象レポートのインパクトスコアを様々な粒度で集計する。
【0053】
例えば、インパクトスコア導出部48は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名をもとに、各部署の解析対象レポートのインパクトスコアに基づく統計量を求めることにより、部署ごと(部署単位)のインパクトスコアを導出する。言い換えれば、インパクトスコア導出部48は、複数の部署のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の部署それぞれのインパクトスコアを導出する。また、インパクトスコア導出部48は、ある病院で作成された複数の解析対象レポート(例えば解析対象レポートの全件)のインパクトスコアに基づく統計量を求めることにより、病院全体(病院単位)のインパクトスコアを導出する。言い換えれば、インパクトスコア導出部48は、複数の病院のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の病院それぞれのインパクトスコアを導出する。
【0054】
また、インパクトスコア導出部48は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる発生日をもとに、複数の期間(年単位や月単位)のそれぞれに該当する解析対象レポートのインパクトスコアに基づく統計量を求めることにより、期間ごと(例えば年月別)のインパクトスコアを導出する。また、インパクトスコア導出部48は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名と発生日とをもとに、複数の部署のそれぞれについて年月別のインパクトスコアを導出する。
【0055】
本実施例では、病院や病院内の各部署が抱えるリスクの大きさを総合的に表す指標として「リスクスコア」を導入する。まず、リスクスコアについて説明する。
【0056】
図6は、病院におけるリスク評価因子の重みを示す。同図は、病院における複数のリスク評価因子について、AHP(Analytic Hierarchy Process)分析により求めた、7人の評価者(GRMを含む医師や看護師等)による重み付けの結果(平均値)を示している。複数のリスク評価因子のうち過失と重症の重みが大きく、また、過失と重症の重みの比は約4:3という結果であった。この結果を踏まえ、本発明者は、リスクスコアの導出におけるパラメータ候補として、過失スコアと重症スコアを選択した。
【0057】
一方で、過失スコアと重症スコアには様々な組み合わせが考えられる。図7は、リスクスコアの算出方法の候補を示す。同図では、算出方法(1)~(10)を示している。算出方法(9)と(10)におけるAHP分析による重み付けは、過失スコアと重症スコアを図6に示す比率(約4:3)で合算するものである。
【0058】
図8は、GRMによる順位評価と各算出方法による順位評価の相関を示す。本発明者は、7名の評価者(GRMを含む医師や看護師等)に、病院における複数種類のインシデントの順位を評価させた。図8に示すように、インシデントの種類は、「予期しない死亡」、「手術室関連」、・・・、「事務・手続き」の12種類である。図8のGRM行は、7名の評価者による順位付けの結果(平均値)を示している。また、図8の(1)~(10)行は、図7に示したリスクスコア算出方法ごとの順位付けの結果を示している。相関分析の結果、図7の算出方法(9)が、GRMの判断と最も相関が高いことが判明した。そこで実施例では、図7の算出方法(9)を用いてリスクスコアを導出する。
【0059】
図4に戻り、リスクスコア導出部50は、解析対象レポートから抽出された各単語の過失タームスコア(実施例ではそれらの統計量である過失スコア)と、解析対象レポートから抽出された各単語の重症タームスコア(実施例ではそれらの統計量である重症スコア)と、病院の過失と患者の重症度合いのそれぞれについて予め定められたリスク評価における重み(実施例では過失スコア:重症スコア=4.106:3.245)とをもとに、リスクスコアを導出する。具体的には、リスクスコア導出部50は、過失スコア導出部44により導出された過失スコアと過失の重み(4.106)との積と、重症スコア導出部46により導出された重症スコアと重症の重み(3.245)との積との合計値をリスクスコアとして導出する。
【0060】
リスクスコア導出部50は、レポート読込部30により複数の解析対象レポートが読み込まれた場合、解析対象レポートごと(レポート単位)のリスクスコアを導出する。リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートのリスクスコアを様々な粒度で集計する。
【0061】
例えば、リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名をもとに、各部署の解析対象レポートのリスクスコアに基づく統計量を求めることにより、部署ごと(部署単位)のリスクスコアを導出する。言い換えれば、リスクスコア導出部50は、複数の部署のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の部署それぞれのリスクスコアを導出する。また、リスクスコア導出部50は、ある病院で作成された複数の解析対象レポート(例えば解析対象レポートの全件)のリスクスコアに基づく統計量を求めることにより、病院全体(病院単位)のリスクスコアを導出する。言い換えれば、リスクスコア導出部50は、複数の病院のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートをもとに、それら複数の病院それぞれのリスクスコアを導出する。
【0062】
また、リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる発生日をもとに、複数の期間(年単位や月単位)のそれぞれに該当する解析対象レポートのリスクスコアに基づく統計量を求めることにより、期間ごと(例えば年月別)のリスクスコアを導出する。例えば、リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートのそれぞれに含まれる部署名と発生日とをもとに、複数の部署のそれぞれについて年月別のリスクスコアを導出してもよい。
【0063】
出力部52は、スコア導出部42により導出された複数種類のスコアを所定の装置や媒体へ出力する。例えば出力部52は、複数の病院のそれぞれについて、各病院の過失スコア、重症スコア、リスクスコア、インパクトスコアを記録したCSV(comma-separated values)ファイルを所定の記憶装置に格納してもよい。また、出力部52は、各病院の年月別(例えば2012年1月、2012年2月・・・等)の過失スコア、重症スコア、リスクスコア、インパクトスコアを記録したCSVファイルを所定の記憶装置に格納してもよい。
【0064】
また、出力部52は、病院内の複数の部署について、各部署の過失スコア、重症スコア、リスクスコア、インパクトスコアを記録したCSVファイルを所定の記憶装置に格納してもよい。また、出力部52は、各部署の年月別の過失スコア、重症スコア、リスクスコア、インパクトスコアを示すCSVファイルを所定の記憶装置に格納してもよい。なお、出力部52は、スコア導出部42により導出された複数種類のスコアを表示装置に表示させてもよい。
【0065】
画像生成部54は、スコア導出部42により導出された複数種類のスコアに基づく統計図表(統計グラフ等)を含む画像を生成する。出力部52は、画像生成部54により生成された画像データを所定の装置や媒体へ出力する。画像生成部54により生成される画像の例は後述する。
【0066】
過失スコア、重症スコア、インパクトスコア、リスクスコアのいずれについても、その値が大きいほど、病院や病院内の各部署が抱えるリスクが大きいことを意味する。第1実施例のリスク評価装置10によると、病院や病院内の部署等、様々な粒度の組織が抱えるリスクの大きさを定量的に把握することが可能となり、また、病院間や部署間等でリスクを比較することが可能となる。
【0067】
以上の構成による第1実施例のリスク評価装置10の動作を説明する。
リスク評価装置10の分類情報記憶部20には、複数のインシデントレポートに関するGRMによる分類情報が予め格納され、また、その分類情報は日々、追加・更新される。ユーザインタフェース等を介して、タームスコア設定用の複数のインシデントレポートを指定したタームスコア設定指示が入力されると、リスク評価装置10のレポート読込部30は、指定された複数のインシデントレポートのデータを読み込む。
【0068】
過失タームスコア決定部36は、読み込まれた複数のインシデントレポートに記載された複数の単語のそれぞれについての過失タームスコアを決定し、過失タームスコア記憶部22に格納する。重症タームスコア決定部38は、読み込まれた複数のインシデントレポートに記載された複数の単語のそれぞれについての重症タームスコアを決定し、重症タームスコア記憶部24に格納する。インパクトタームスコア決定部40は、読み込まれた複数のインシデントレポートに記載された複数の単語のそれぞれについてのインパクトタームスコアを決定し、インパクトタームスコア記憶部26に格納する。なお、過失タームスコア、重症タームスコア、インパクトタームスコアは、日次や月次のバッチ処理により更新されてもよい。
【0069】
ユーザインタフェース等を介して、解析対象の複数のインシデントレポート(解析対象レポート)および組織情報を指定した、リスクスコア算出指示が入力されると、リスク評価装置10のレポート読込部30は、複数の解析対象レポートを読み込む。また、組織情報読込部32は、組織情報を読み込む。
【0070】
過失スコア導出部44は、過失タームスコア記憶部22に記憶された過失タームスコアをもとに、複数の解析対象レポートの過失スコアを導出する。また、過失スコア導出部44は、複数の解析対象レポートの過失スコアを病院単位、部署単位、年月単位のそれぞれで集計して統計量を求めることにより、病院単位、部署単位および年月単位の過失スコアを導出する。
【0071】
重症スコア導出部46は、重症タームスコア記憶部24に記憶された重症タームスコアをもとに、複数の解析対象レポートの重症スコアを導出する。また、重症スコア導出部46は、複数の解析対象レポートの重症スコアを病院単位、部署単位、年月単位のそれぞれで集計して統計量を求めることにより、病院単位、部署単位および年月単位の重症スコアを導出する。
【0072】
インパクトスコア導出部48は、インパクトタームスコア記憶部26に記憶されたインパクトタームスコアをもとに、複数の解析対象レポートのインパクトスコアを導出する。また、インパクトスコア導出部48は、複数の解析対象レポートのインパクトスコアを病院単位、部署単位、年月単位のそれぞれで集計して統計量を求めることにより、病院単位、部署単位および年月単位のインパクトスコアを導出する。
【0073】
リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートそれぞれの過失スコアと重症スコアとを所定の比率で合算することにより、複数の解析対象レポートのリスクスコアを導出する。また、リスクスコア導出部50は、複数の解析対象レポートのリスクスコアを病院単位、部署単位、年月単位のそれぞれで集計して統計量を求めることにより、病院単位、部署単位および年月単位のリスクスコアを導出する。
【0074】
出力部52は、病院単位、部署単位および年月単位の過失スコア、重症スコア、インパクトスコア、リスクスコアを結果ファイルに記録し、その結果ファイルを所定の記憶領域に格納する。画像生成部54は、病院単位、部署単位および年月単位の過失スコア、重症スコア、インパクトスコア、リスクスコアをもとに所定の統計図表を生成し、その統計図表を含む画像データを生成する。出力部52は、画像生成部54により生成された画像データを所定の記憶領域に格納する。
【0075】
以下、リスク評価装置10によるリスク評価の例を説明する。
リスクスコア導出部50は、複数の病院のそれぞれで作成されたインシデントレポート群をもとに、複数の病院それぞれのリスクスコアを導出する。画像生成部54は、複数の病院それぞれのリスクスコアを並べて示す画像を生成する。
【0076】
この画像の例を図9に示す。図9は、リスク評価結果として、6つの病院(病院A~病院F)それぞれのリスクスコアを示す箱ひげ図を含む。図9の箱ひげ図は、病院ごとの複数のインシデントレポートについて、リスクスコアの最小値60、最大値62、第1四分点64、第3四分点66、中央値68、平均値70(相加平均値)を示している。このように、第1実施例のリスク評価装置10によると、異なる複数の組織が抱えるリスクの大きさを可視化し、組織間でリスクを比較することが容易になる。
【0077】
また、リスクスコア導出部50は、複数の期間のそれぞれで発生したインシデントを報告する複数のインシデントレポートであり、言い換えれば、複数の期間のそれぞれで作成されたインシデントレポートをもとに、上記複数の期間のそれぞれにおける病院および各部署のリスクスコアを導出する。画像生成部54は、上記複数の期間に亘る病院および各部署のリスクスコアの変動を示す画像を生成する。
【0078】
この画像の例を図10に示す。図10は、リスク評価結果として、病院内のある1部署における時系列でのリスクスコアの変動を示す折れ線グラフを含む。折れ線グラフの要素のうち実線は、当該部署におけるリスクスコアそのものを示す。破線は、リスクスコアの5ヶ月移動平均値を示し、一点鎖線は、リスクスコアの3ヶ月移動平均値を示している。画像生成部54は、病院内の複数の部署についての、時系列でのリスクスコアの変動を示す複数の折れ線グラフを含む画像を生成してもよい。このように、第1実施例のリスク評価装置10によると、様々な粒度の組織が抱えるリスクについて、その時系列での変動を可視化し、変動の傾向を容易に把握できるよう支援できる。
【0079】
<第2実施例>
以下、第2実施例について、第1実施例と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。第2実施例の特徴は、第1実施例および変形例の特徴と任意の組合せが可能であることはもちろんである。
【0080】
図11は、報告量とリスクスコアの関係を示す散布図である。この散布図では、病院内の複数の部署に対応する複数の点をプロットしている。横軸の報告量は、病院内の各組織における1年当たりかつ1人当たりのインシデントレポート件数である。この散布図が示すように、報告量が少ない部署ほどリスクスコアが高くなり、報告量が多い部署ほどリスクスコアが低くなる傾向が見られた。これは、報告量が多いからといって高リスクのインシデントレポートが多いわけではなく、むしろ低リスクのインシデントレポートが多く報告されるために、全体としてのスコアの統計量が低くなることが理由と考えられる。同様の傾向は、過失スコア、重症スコア、インパクトスコアにも見られた。
【0081】
このように、リスクスコア、過失スコア、重症スコア、インパクトスコアは、報告量(すなわちインシデントレポート件数)の影響を受けると考えられる。そこで第2実施例では、各組織の報告量を加味して各組織が抱えるリスクの大きさを一層精度よく評価する技術を提案する。第2実施例では、各組織の報告量を加味して各組織が抱えるリスクの大きさを示す指標として、リスク偏差、過失偏差、重症偏差、インパクト偏差を導入する。
【0082】
第2実施例のリスク評価装置10の機能ブロックは、図4に示した第1実施例のリスク評価装置10の機能ブロックと同様である。リスクスコア導出部50は、複数の組織のそれぞれで作成されたインシデントレポートの数であり、言い換えれば、各組織で発生したインシデントを報告するインシデントレポートの数と、各組織のリスクスコア(第1実施例の方法による導出値)との対応関係を求める。リスクスコア導出部50は、ある組織のインシデントレポート数に対応するリスクスコアの標準値と、当該組織のリスクスコアの導出値との差を当該組織のリスク偏差として導出する。
【0083】
図12は、リスク偏差導出の具体例を示す。リスクスコア導出部50は、組織情報読込部32により読み込まれた組織情報にしたがって、各組織の人数を取得する。リスクスコア導出部50は、インシデントレポートに記載された発生日と部署名をもとに、各組織における単位期間でのインシデントレポート件数を導出する。リスクスコア導出部50は、各組織の人数と、各組織における単位期間でのインシデントレポート件数とをもとに、各組織の報告量を導出する。第2実施例での報告量は、1年当たりかつ1人当たりのインシデントレポート件数である。
【0084】
変形例として、報告量は、インシデントレポート件数に基づく他の数値であってもよい。例えば、リスク比較対象となる複数組織の人数が互いに近似する場合、単位期間当たりのインシデントレポート件数を報告量としてもよい。また、リスク比較対象となる複数組織の人数およびインシデントレポート集計期間が互いに近似する場合、インシデントレポート件数そのものを報告量としてもよい。また報告量として、単位期間ごとの各組織のインシデントレポート件数の平均値、中央値、最頻値を採用してもよい。
【0085】
リスクスコア導出部50は、報告量(すなわち1年当たりかつ1人当たりのインシデントレポート件数)を第1軸とし、リスクスコアを第2軸とする2次元空間上に複数の組織の位置をプロットし、曲線当てはめ等の公知の手法を用いて、各組織の位置に対する近似曲線80(スプライン曲線、平滑化スプラインとも呼ばれる。)を求める。第2軸のリスクスコアは、同一報告量の複数組織のリスクスコアの統計量(中央値)を採用してもよい。近似曲線80は、報告量に対応するリスクスコアの標準値を示すものである。なお、図12の近似曲線80の上下に設けた破線は、近似曲線の95%信頼区間を示している。
【0086】
リスクスコア導出部50は、ある組織の報告量に対応する近似曲線80上のリスクスコアを、その報告量に対応するリスクスコアの標準値として識別する。リスクスコア導出部50は、その標準値と、当該組織のリスクスコアの導出値(第1実施例の手法で求めた値であり、例えば中央値)との差を当該組織のリスク偏差として導出する。例えば、部署Aが点82にプロットされる場合、点82の報告量に対応する近似曲線80上のリスクスコア(標準値)と、点82のリスクスコア(導出値)との差84を部署Aのリスク偏差として導出する。また、部署Bが点86にプロットされる場合、点86の報告量に対応する近似曲線80上のリスクスコア(標準値)と、点86のリスクスコア(導出値)との差88を部署Bのリスク偏差として導出する。
【0087】
過失スコア導出部44は、リスクスコア導出部50と同様の手法にて、過失偏差を導出する。すなわち、過失スコア導出部44は、複数の組織のそれぞれで作成されたインシデントレポートの数であり、言い換えれば、各組織で発生したインシデントを報告するインシデントレポートの数と、各組織の過失スコアとの対応関係を求める。過失スコア導出部44は、ある組織のインシデントレポート数に対応する過失スコアの標準値と、当該組織の過失スコアの導出値との差を当該組織の過失偏差として導出する。
【0088】
具体的には、過失スコア導出部44は、インシデントレポートの報告量(件数/人数/年)を第1軸とし、過失スコアを第2軸とする2次元空間上に複数の組織の位置をプロットし、各組織の位置に対応する近似曲線を求める。第2軸の過失スコアは、同一報告量の複数組織の過失スコアの統計量(中央値)を採用してもよい。この近似曲線は、報告量に対応する過失スコアの標準値を示すものと言える。過失スコア導出部44は、ある組織の報告量に対応する近似曲線上の過失スコアを、その報告量に対応する過失スコアの標準値として識別する。過失スコア導出部44は、その標準値と、当該組織の過失スコアの導出値(第1実施例の手法で求めた値であり、例えば中央値)との差を当該組織の過失偏差として導出する。
【0089】
重症スコア導出部46は、リスクスコア導出部50と同様の手法にて、重症偏差を導出する。すなわち、重症スコア導出部46は、複数の組織のそれぞれで作成されたインシデントレポートの数であり、言い換えれば、各組織で発生したインシデントを報告するインシデントレポートの数と、各組織の重症スコアとの対応関係を求める。重症スコア導出部46は、ある組織のインシデントレポート数に対応する重症スコアの標準値と、当該組織の重症スコアの導出値との差を当該組織の重症偏差として導出する。
【0090】
具体的には、重症スコア導出部46は、インシデントレポートの報告量(件数/人数/年)を第1軸とし、重症スコアを第2軸とする2次元空間上に複数の組織の位置をプロットし、各組織の位置に対応する近似曲線を求める。第2軸の重症スコアは、同一報告量の複数組織の重症スコアの統計量(中央値)を採用してもよい。この近似曲線は、報告量に対応する重症スコアの標準値を示すものと言える。重症スコア導出部46は、ある組織の報告量に対応する近似曲線上の重症スコアを、その報告量に対応する重症スコアの標準値として識別する。重症スコア導出部46は、その標準値と、当該組織の重症スコアの導出値(第1実施例の手法で求めた値であり、例えば中央値)との差を当該組織の重症偏差として導出する。
【0091】
インパクトスコア導出部48は、リスクスコア導出部50と同様の手法にて、インパクト偏差を導出する。すなわち、インパクトスコア導出部48は、複数の組織のそれぞれで作成されたインシデントレポートの数であり、言い換えれば、各組織で発生したインシデントを報告するインシデントレポートの数と、各組織のインパクトスコアとの対応関係を求める。インパクトスコア導出部48は、ある組織のインシデントレポート数に対応するインパクトスコアの標準値と、当該組織のインパクトスコアの導出値との差を当該組織のインパクト偏差として導出する。
【0092】
具体的には、インパクトスコア導出部48は、インシデントレポートの報告量(件数/人数/年)を第1軸とし、インパクトスコアを第2軸とする2次元空間上に複数の組織の位置をプロットし、各組織の位置に対応する近似曲線を求める。第2軸のインパクトスコアは、同一報告量の複数組織のインパクトスコアの統計量(中央値)を採用してもよい。この近似曲線は、報告量に対応するインパクトスコアの標準値を示すものと言える。インパクトスコア導出部48は、ある組織の報告量に対応する近似曲線上のインパクトスコアを、その報告量に対応するインパクトスコアの標準値として識別する。インパクトスコア導出部48は、その標準値と、当該組織のインパクトスコアの導出値(第1実施例の手法で求めた値であり、例えば中央値)との差を当該組織のインパクト偏差として導出する。
【0093】
第2実施例のリスク評価装置10によると、インシデントレポートの内容に基づくリスク指標の導出値と、報告量(単位期間および単位人数当たりのインシデントレポート数)に対応するリスク指標の標準値との差を新たなリスク指標値(リスク偏差、過失偏差、重症偏差、インパクト偏差)とする。これにより、各組織のリスク指標値から各組織のインシデントレポート件数の影響を排除して、各組織が抱えるリスクの大きさを一層精度よく評価することができる。
【0094】
また、第2実施例のリスク評価装置10によると、複数の組織間でのリスク比較の精度を一層高めることができる。例えば、図12の部署A(点82)のリスクスコアは1.0、部署B(点86)のリスクスコアは0.5である。そのため一見すると、部署Aより部署Bの方がリスクが低いように思われる。しかし、部署Aのリスク偏差は、差84が示すように-0.4であり、部署Bのリスク偏差は、差88が示すように0.3である。したがって、報告量を加味することにより、部署Bより部署Aの方がリスクが低いと判断することができる。
【0095】
第2実施例のリスク評価装置10の動作を説明する。
過失スコア導出部44は、第1実施例と同様の動作にて、複数の病院および複数の部署それぞれの過失スコアを導出する。過失スコア導出部44は、複数の病院および複数の部署それぞれの報告量と過失スコアとをもとに、複数の病院および複数の部署それぞれの過失偏差をさらに導出する。重症スコア導出部46は、第1実施例と同様の動作にて、複数の病院および複数の部署それぞれの重症スコアを導出する。重症スコア導出部46は、複数の病院および複数の部署それぞれの報告量と重症スコアとをもとに、複数の病院および複数の部署それぞれの重症偏差をさらに導出する。
【0096】
インパクトスコア導出部48は、第1実施例と同様の動作にて、複数の病院および複数の部署それぞれのインパクトスコアを導出する。インパクトスコア導出部48は、複数の病院および複数の部署それぞれの報告量とインパクトスコアとをもとに、複数の病院および複数の部署それぞれのインパクト偏差をさらに導出する。リスクスコア導出部50は、第1実施例と同様の動作にて、複数の病院および複数の部署それぞれのリスクスコアを導出する。リスクスコア導出部50は、複数の病院および複数の部署それぞれの報告量とリスクスコアとをもとに、複数の病院および複数の部署それぞれのリスク偏差をさらに導出する。
【0097】
出力部52は、第1実施例での出力データに加えて、病院単位および部署単位の過失偏差、重症偏差、インパクト偏差、リスク偏差を結果ファイルに記録し、その結果ファイルを所定の記憶領域に格納する。画像生成部54は、病院単位および部署単位の過失偏差、重症偏差、インパクト偏差、リスク偏差をもとに所定の統計図表を生成し、その統計図表を含む画像データを生成する。出力部52は、画像生成部54により生成された画像データを所定の記憶領域に格納する。
【0098】
図13は、第2実施例のリスク評価装置10により生成されるリスク評価用の画像の例を示す。画像生成部54は、重症偏差を第1軸とし過失偏差を第2軸とする2次元空間に、複数の組織(病院や部署等)それぞれの重症偏差と過失偏差とに応じて各組織の位置をプロットした散布図を含む画像を生成する。同図の散布図では、医師の部署を白丸で示し、看護士の部署を黒丸で示し、メディカルスタッフ(薬剤師や放射線技師、検査技師、栄養管理士等)の部署を三角で示している。
【0099】
図14も、第2実施例のリスク評価装置10により生成されるリスク評価用の画像の例を示す。画像生成部54は、リスク偏差を第1軸としインパクト偏差を第2軸とする2次元空間に、複数の組織(病院や部署等)それぞれのリスク偏差とインパクト偏差とに応じて各組織の位置をプロットした散布図を含む画像を生成する。同図の散布図では、各組織の位置に各組織の名称を配置している。
【0100】
図13の散布図において第1象限(右上領域)に配置される組織は、重症スコアと過失スコアのいずれもが標準値より高い組織であり、安全管理上、特に注意や支援が必要な組織であると判断することができる。同様に、図14の散布図において第1象限(右上領域)に配置される組織は、リスクスコアとインパクトスコアのいずれもが標準値より高い組織であり、安全管理上、特に注意や支援が必要な組織であると判断することができる。
【0101】
図15も、第2実施例のリスク評価装置10により生成されるリスク評価用の画像の例を示す。図15は、図13に対応する画像であり、重症偏差を第1軸とし過失偏差を第2軸とする2次元空間に、複数の組織(病院や部署等)それぞれの重症偏差と過失偏差とに応じて各組織の位置をプロットした散布図を含む画像を示している。図13の散布図は、或る病院(ここでは病院Aとする)における各組織の位置をプロットしたものであり、図15の散布図は、別の病院(ここでは病院Bとする)における各組織の位置をプロットしたものである。図14の散布図と同様に、図13および図15の散布図にも組織名(例えば消化器外科、小児科、外来等)が記載されてもよい。
【0102】
病院Aに関する図13の散布図と病院Bに関する図15の散布図を比較すると、どちらの散布図でも重症偏差と過失偏差がある程度の範囲に収まっており、重症偏差と過失偏差にて病院が抱えるリスクを可視化することの有用性が確かめられた。また、第2実施例のリスク評価装置10によると、組織間(例えば病院間)でのリスク評価を実現できる。例えば、病院Aに関する図13の散布図と、病院Bに関する図15の散布図とを比較することで、重症偏差と過失偏差の観点からいずれの病院のリスクが高いか、また、リスクを高める要因(部署等)を容易に判別することができる。
【0103】
図16も、第2実施例のリスク評価装置10により生成されるリスク評価用の画像の例を示す。図16は、図14に対応する画像であり、リスク偏差を第1軸としインパクト偏差を第2軸とする2次元空間に、複数の組織(病院や部署等)それぞれのリスク偏差とインパクト偏差とに応じて各組織の位置をプロットした散布図を含む画像を示している。図14の散布図は、或る病院(ここでは病院Aとする)における各組織の位置をプロットしたものであり、図16の散布図は、別の病院(ここでは病院Bとする)における各組織の位置をプロットしたものである。図14の散布図と同様に、図16の散布図にも組織名が記載されてもよい。
【0104】
病院Aに関する図14の散布図と病院Bに関する図16の散布図を比較すると、どちらの散布図においてもリスク偏差とインパクト偏差がある程度の範囲に収まっており、リスク偏差とインパクト偏差にて病院が抱えるリスクを可視化することの有用性が確かめられた。また、第2実施例のリスク評価装置10によると、組織間(例えば病院間)でのリスク評価を実現できる。例えば、病院Aに関する図14の散布図と、病院Bに関する図16の散布図とを比較することで、リスク偏差とインパクト偏差の観点からいずれの病院のリスクが高いか、また、リスクを高める要因(部署等)を容易に判別することができる。
【0105】
なお、リスク評価装置10の画像生成部54は、基準となる値または範囲を示すオブジェクト(「基準オブジェクト」と呼ぶ。)を図13図16の散布図に付加した画像を生成してもよい。基準となる値または範囲は、基準となる病院または比較相手となる病院の最小値、最大値、または最小値から最大値の範囲であってもよい。例えば、基準オブジェクトは、基準となる病院のリスク偏差(重症偏差)の最小値から最大値の範囲と、基準となる病院のインパクト偏差(過失偏差)の最小値から最大値の範囲とを示す矩形のオブジェクトであってもよい。また、基準となる値または範囲は、複数の病院に亘る最小値の平均値、最大値の平均値、最小値の平均値から最大値の平均値の範囲であってもよい。この構成によると、各組織が抱えるリスクの評価、および、組織間のリスク比較を一層容易なものとすることができる。
【0106】
図17図18も、第2実施例のリスク評価装置10により生成されるリスク評価用の画像の例を示す。リスク評価装置10の画像生成部54は、比較対象となる複数の病院のインシデントレポートをもとに、それら複数の病院のリスク偏差を導出し、それら複数の病院のリスク偏差を並べて示すグラフ(例えば棒グラフ)を含む画像を生成する。図17は、複数の病院の心臓外科および血管外科のインシデントレポートをもとに導出された、各病院の心臓外科および血管外科のリスク偏差を示している。また、図18は、複数の病院の循環器内科のインシデントレポートをもとに導出された、各病院の循環器内科のリスク偏差を示している。この構成によると、組織間(ここでは病院間)でのリスク比較を一層容易なものとすることができる。
【0107】
以上、本開示を第1実施例、第2実施例をもとに説明した。これらの実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0108】
第1実施例および第2実施例では言及していないが、変形例として、リスク評価装置10は、コアスコアをさらに導出し、コアスコアに基づくリスク評価を行ってもよい。
具体的には、リスク評価装置10の分類情報記憶部20は、病院で作成された複数のインシデントレポートのそれぞれが、リスクの把握や評価の観点から重要な内容が記載されていると複数人の会議(以下「合議体」とも呼ぶ。)で判断されたインシデントレポートに該当するか、否かを示す分類情報を記憶してもよい。該当するインシデントレポートの集合を「コアレポート群」と呼び、非該当のインシデントレポートの集合を「非コアレポート群」と呼ぶ。合議体は、複数のインシデントレポートの内容を確認して、各インシデントレポートがコアレポート群に該当するか、非コアレポート群に該当するかを判断する。この判断結果を示す分類情報が分類情報記憶部20に格納されてもよい。なお合議体は、インパクトレポートを判断するGRMとは異なるメンバーにより構成されてもよく、コアレポートの判断はインパクトレポートの判断と異なってもよい。
【0109】
リスク評価装置10のタームスコア決定部34は、コアタームスコア決定部をさらに備えてもよい。コアタームスコアは、インパクトタームスコアに類似する。コアタームスコアは、リスクの把握や評価の観点から重要な内容が記載されていると合議体により判断されたインシデントレポートであり、言い換えれば、慎重な検討や何らかのアクションが必要であると合議体が判断したインシデントレポートにおける出現のしやすさを表す指標である。コアタームスコアの導出方法は、図3に示すインパクトタームスコアの導出方法と同様でよく、図3の「インパクトレポート群」を「コアレポート群」に置き換え、図3の「非インパクトレポート群」を「非コアレポート群」に置き換えた方法でよい。コアタームスコア決定部により導出された各単語のコアタームスコアは、記憶部14(コアタームスコア記憶部)に記憶されてよい。
【0110】
リスク評価装置10のスコア導出部42は、コアスコア導出部をさらに備えてもよい。コアスコア導出部は、コアタームスコア記憶部に記憶されたコアタームスコアに基づいて、コアスコアを導出する。コアスコアは、インパクトスコアに類似するものであり、重要な内容が記載されたインシデントレポートであると合議体が判断する観点からのリスクの大きさを表す指標である。コアスコアの導出方法は、図5に示した過失スコアの導出方法と同様である(図5の過失タームスコアをコアタームスコアに置き換える)。コアスコア導出部は、レポート読込部30により複数の解析対象レポートが読み込まれた場合、解析対象レポートごと(レポート単位)のコアスコアを導出する。コアスコア導出部は、複数の解析対象レポートのインパクトスコアを様々な粒度(病院単位、部署単位等)で集計する。コアスコア導出部は、インパクトスコア導出部と同様に、様々な粒度の組織や様々な期間におけるコアスコアを導出する。
【0111】
また、コアスコア導出部は、リスクスコア導出部50と同様の手法にて、コア偏差を導出する。すなわち、コアスコア導出部は、複数の組織のそれぞれで作成されたインシデントレポートの数であり、言い換えれば、各組織で発生したインシデントを報告するインシデントレポートの数と、各組織のコアスコアとの対応関係を求める。コアスコア導出部は、ある組織のインシデントレポート数に対応するコアスコアの標準値と、当該組織のコアスコアの導出値との差を当該組織のコア偏差として導出する。
【0112】
出力部52は、病院単位、部署単位および年月単位のコアスコアとコア偏差を結果ファイルにさらに記録してもよい。例えば、出力部52は、複数のインシデントレポートそれぞれの過失スコア、重症スコア、インパクトスコア、リスクスコア、コアスコアを示すドキュメントファイルを生成し、記録してもよい。画像生成部54は、病院単位、部署単位および年月単位のコアスコアまたはコア偏差を含む所定の統計図表を生成し、その統計図表を含む画像データを生成してもよい。例えば、画像生成部54は、図14および図16のインパクト偏差をコア偏差に置き換えた散布図を含む画像を生成してもよい。
【0113】
コアスコアとコア偏差を用いることで、一層多様な観点から組織のリスクを評価することができる。コアスコアは、インパクトスコアと同様に人の判断を基礎とするものであるが、インパクトスコアとは異なり複数人による合議の結果を基礎とするものである。そのため、コアスコアとコア偏差を導入することで、リスク評価に漏れが生じることを抑制し、一層適切なリスク評価および組織としての適切な判断を支援することができる。
【0114】
なお、リスク評価装置10は、重症スコア(重症偏差)、過失スコア(過失偏差)、リスクスコア(リスク偏差)およびコアスコア(コア偏差)を導出するが、インパクトスコア(インパクト偏差)を導出しない構成であってもよい。GRMによる判断を得られない組織もあり得るからである。
【0115】
第1実施例および第2実施例に記載したリスク評価装置10は、所定の通信プロトコルにしたがって外部装置と通信する通信部を備えてよく、クラウドサービスまたはSaaS(Software as a Service)としてリスク評価サービスを提供してもよい。例えば、クライアント装置は、インシデントレポートと組織情報をリスク評価装置10にアップロードし、リスク評価装置10にリスク評価を要求してもよい。リスク評価装置10の制御部12は、通信部を介してインシデントレポートと組織情報を取得し、各種リスク指標のスコアを導出してもよい。リスク評価装置10の出力部52は、リスク評価結果(リスクスコアやリスク偏差、統計図表等)を通信部を介してクライアント装置へ送信してもよい。
【0116】
第1実施例および第2実施例に記載したリスク評価装置10の複数の機能ブロックは、複数の装置に分散されて設けられてもよい。この場合、複数の装置が互いに通信し、システムとして連携することにより、第1実施例および第2実施例におけるリスク評価装置10と同等の機能を発揮してもよい。
【0117】
第1実施例および第2実施例に記載した技術思想(リスク評価技術)は、医療機関で作成されたインシデントレポートを解析して、医療機関が抱えるリスクを評価すること以外にも適用可能である。例えば、解析対象とするレポートは、交通業界や建設業界など種々の業界におけるインシデントレポートであってもよい。また、インシデントレポートに限らず、ヒヤリハットレポートや論文、ニュース記事であってもよい。第1実施例および第2実施例に記載の技術思想は、レポートが示す事象が発生した組織が抱えるリスクを推定し、可視化する場合に広く適用可能である。
【0118】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示の技術は、リスク評価に関するシステムまたは装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
10 リスク評価装置、 22 過失タームスコア記憶部、 24 重症タームスコア記憶部、 26 インパクトタームスコア記憶部、 30 レポート読込部、 34 タームスコア決定部、 42 スコア導出部、 52 出力部、 54 画像生成部。
図1
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図3
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