(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤、悪性腫瘍再発抑制剤、及びT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20241202BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241202BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241202BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241202BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20241202BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20241202BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20241202BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20241202BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241202BHJP
C12N 15/24 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N5/10
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/763
A61K35/761
A61K35/765
A61K35/768
C12N15/12
C12N15/24
(21)【出願番号】P 2023018050
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2019548200の分割
【原出願日】2018-10-09
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2017196718
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム「「免疫機構をターゲットとした創薬」(次世代型遺伝子改変T細胞による新規がん免疫療法の開発)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 幸美
(72)【発明者】
【氏名】安達 圭志
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴史
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056228(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159736(WO,A1)
【文献】NEOPLASIA,2012年,Vol.14, No.12,p.1115-1121,doi:10.1593/neo.121272
【文献】American Association for Cancer Research,2011年,Vol.17, No.15,p.4975-4986,doi:10.1158/1078-0432.CCR-10-3328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/01
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸と、ケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸とを含む、
腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス、腫瘍溶解性レオウイルス、腫瘍溶解性麻疹ウイルス、腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルス、腫瘍溶解性牛痘ウイルス、腫瘍溶解性ムンプスウイルス、又は腫瘍溶解性コクサッキーウイルスであることを特徴とする
請求項1に記載の
腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
IL―7をコードする核酸と、CCL19をコードする核酸とが、自己切断型ペプチドをコードする核酸を介して連結されていることを特徴とすることを特徴とする
請求項1又は2に記載の
腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
自殺遺伝子をコードする核酸を含むことを特徴とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の
腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の
腫瘍溶解性ウイルスと薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物。
【請求項6】
腫瘍溶解性ウイルスにインターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸
を導入する工程
、を含む、
IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む
腫瘍溶解性ウイルスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸送達媒体、インターロイキン7(Interleukin-7:IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(chemokine(C-C motif) ligand 19:CCL19)をコードする核酸を含む、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤、悪性腫瘍再発抑制剤、及び投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は世界中で多くの罹患者がいる疾患であり、一般的に化学療法、放射線療法、又は外科療法が広く行われている。しかしながら、副作用が生じることや、一部の機能が失われることや、再発若しくは転移を治療できないこと等、様々な問題があった。そこで、より患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高く維持すべく、近年、免疫細胞療法の開発が進められている。この免疫細胞療法は、患者から免疫担当細胞を採取し、かかる免疫担当細胞の免疫機能を高めるように処置して増幅し、再度患者に移入する療法である。具体的には、患者からT細胞を採取し、かかるT細胞にCARをコードする核酸を導入して増幅し、再度患者に移入する療法(非特許文献1参照)が知られている。かかる療法は、現在世界中で臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫等の造血器悪性腫瘍等において有効性を示す結果が得られている。
【0003】
また、T細胞等の免疫担当細胞の免疫機能制御因子としては、サイトカイン、ケモカイン、シグナル制御タンパク質等、少なくとも数百種類の因子が知られている。その中でインターロイキン7(IL-7)はT細胞の生存に必須のサイトカインであり、骨髄、胸腺、リンパ器官・組織のストローマ細胞等の非造血細胞によって産生されることが知られている。かかるIL-7の機能を利用したT細胞として、IL-7とIL-7Rアルファを融合したキメラサイトカイン受容体を発現するT細胞(特許文献1参照)が開示されている。しかしながら、かかるT細胞におけるキメラサイトカイン受容体は、一つの融合タンパク質として、導入したT細胞の膜表面に限定して発現し、自己の細胞に対してのみリガンド非依存的にIL-7R等のサイトカインシグナルを伝達するものに過ぎず、上記受容体を導入していないT細胞の機能を高めることはできなかった。
【0004】
また、CCL19やCCL21、IL-7の発現低下がSIRPアルファ変異マウスにおける脾臓でのT細胞領域の維持欠損の原因となること(非特許文献2参照)や、CCL19やCCL21、IL-7が二次リンパ組織(脾臓やリンパ節)においてT細胞の恒常性を維持する働きを有していること(非特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、上記非特許文献2、3は二次リンパ組織のT細胞領域に恒常的に存在する非活性化T細胞に対する作用を示したものであり、抗腫瘍免疫応答と直接的な関係性を示すものではなかった。さらに、上記非特許文献2、3におけるCCL19やCCL21、IL-7発現細胞はT細胞ではなく、二次リンパ組織に存在する細網内皮系の細胞であった。
【0005】
一方、本発明者らは、IL-7とCCL19を同時に発現することで、固形がんを顕著に抑制する免疫細胞療法(特許文献2、3参照)を提案した。かかる方法によって、宿主(レシピエント)における内在性の免疫担当細胞の活性化や腫瘍細胞への集積能を高めることができるが、当該免疫細胞療法によって長期に渡って再発等を防ぎ、悪性腫瘍を拒絶し続けることができるかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/123061号パンフレット
【文献】国際公開第2016/056228号パンフレット
【文献】国際公開第2017/159736号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】中沢洋三 信州医誌 61(4):197~203(2013)
【文献】SATO-HASHIMOTO M. et al., J. Immunol., 2011, vol.187, no. 1,291-7
【文献】SIEGERT S. et al., Front. Immunol., 2012, vol.3, article 285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにIL-7とCCL19を同時に発現するCAR発現T細胞やTCR発現T細胞等の免疫細胞療法を開発し、免疫担当細胞の増殖能、生存能、又は宿主の免疫担当細胞の集積能を顕著に向上させ、従来免疫細胞療法で十分な治療効果が認められなかった固形がんに適応できる技術の開発が進んでいる。しかしながら、悪性腫瘍は再発することが多く、たとえ上記免疫細胞療法で一時的に悪性腫瘍の治療ができても、長期にわたって悪性腫瘍を拒絶し続けるか否かは明らかでなかく、また、再発に対する予防策も検討されていなかった。そこで本発明の課題は、長期にわたって悪性腫瘍を拒絶し続けるべく、メモリー機能を有する内在性のT細胞又はB細胞の増強剤、悪性腫瘍再発抑制剤、及び内在性のT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者ら、これまで自らが開発してきたCAR、IL-7及びCCL19を発現するT細胞の更なる可能性を検討した中で、かかるT細胞を対象に投与すると、投与したT細胞だけでなく対象(宿主)における内在性のT細胞においてもメモリー機能を誘導してメモリー機能を有する細胞の絶対数が増加すること、及び悪性腫瘍の再発モデル実験において、CARが認識する抗原を有さない細胞に対して悪性腫瘍形成を抑制することを見出した。さらにCARの代わりにTCRを用いた場合や、T細胞の代わりにウイルスを用いた場合でも同様の効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を含む、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(2)核酸送達媒体が、免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)、ナノ粒子から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、上記(1)記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(3)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞への集積能、又は悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能を有することを特徴とする、上記(1)又は(2)記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(4)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞傷害能を有することを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(5)核酸送達媒体が免疫担当細胞であり、当該免疫担当細胞が悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子を有することを特徴とする、上記(1)~(4)のいずれか記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(6)悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor:CAR)又はT細胞受容体(T-Cell Receptor:TCR)であることを特徴とする、上記(5)記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(7)免疫担当細胞が、T細胞であることを特徴とする、上記(5)又は(6)記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(8)メモリー機能を有するT細胞又はB細胞が、セントラルメモリーT細胞であることと特徴とする、上記(1)~(7)のいずれか記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤。
(9)上記(1)~(8)のいずれか記載の投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物
(10)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を含む、悪性腫瘍再発抑制剤。
(11)核酸送達媒体が、免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(MSC)、ナノ粒子から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、上記(10)記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(12)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞への集積能、又は悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能を有することを特徴とする、上記(10)又は(11)記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(13)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞傷害能を有することを特徴とする、上記(10)~(12)のいずれか記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(14)核酸送達媒体が免疫担当細胞であり、当該免疫担当細胞が悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子を有することを特徴とする、上記(10)~(13)のいずれか記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(15)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞抗原を認識する細胞表面分子を有する免疫担当細胞であり、悪性腫瘍再発が、当該細胞表面分子が特異的に認識する悪性腫瘍抗原を有さない悪性腫瘍細胞に起因する悪性腫瘍再発であることを特徴とする、上記(14)記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(16)悪性腫瘍細胞抗原を認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)であることを特徴とする、上記(14)又は(15)記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(17)免疫担当細胞が、T細胞であることを特徴とする、上記(14)~(16)のいずれか記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(18)核酸送達媒体が腫瘍溶解性ウイルスであることを特徴とする、上記(11)記載の悪性腫瘍再発抑制剤。
(19)上記(10)~(18)のいずれか記載の悪性腫瘍再発抑制剤と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物。
(20)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を含む、投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
【0011】
また、本発明の他の態様としては、以下のとおりである。
1)投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤の調製のための、核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸の使用;
2)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を対象に投与する、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強方法;
3)悪性腫瘍再発抑制剤の調製のための、核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸の使用;
4)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を対象に投与する、悪性腫瘍再発の抑制方法;
5)投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤の調製のための、核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸の使用;
6)核酸送達媒体、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸を対象に投与する、T細胞又はB細胞へのメモリー機能の誘導方法;
7)核酸送達媒体が、免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(MSC)、ナノ粒子から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、上記(20)記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
8)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞への集積能、又は悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能を有することを特徴とする、上記(20)又は7)記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
9)核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞傷害能を有することを特徴とする、上記(20)、7)又は8)のいずれか記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
10)核酸送達媒体が免疫担当細胞であり、当該免疫担当細胞が悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子を有することを特徴とする、上記(20)、7)~9)のいずれか記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
11)悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)であることを特徴とする、上記10)記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
12)免疫担当細胞が、T細胞であることを特徴とする、上記10)又は11)記載の投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤を用いれば、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞を増強することが可能となる。さらに、本発明の悪性腫瘍再発抑制剤を用いれば、悪性腫瘍治療後の再発を抑制することが可能となる。また、本発明のT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤を用いれば、投与対象におけるT細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は実施例1において、悪性腫瘍組織におけるT細胞の局在を標識抗体によって染色し、顕微鏡で観察した結果を示す図である。(b)は、上記(a)で観察した結果を画像解析処理して、投与したドナーT細胞とレシピエントの内在性T細胞のエリア(μm
2)を示すグラフである。
【
図2】実施例2において、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)又はかかるT細胞と共に抗CD90.2抗体(anti-CD90.2)をマウスに投与した場合の投与後14日目の悪性腫瘍体積(mm
3)を調べたグラフである。
【
図3】実施例3において、投与したドナーT細胞及びレシピエントの内在性T細胞のメモリー化を調べた結果を示すグラフである。
【
図4】実施例3において、投与したドナーT細胞及びレシピエントの内在性T細胞のメモリー化の機能をIFN-γの生産により調べた結果を示すグラフである。(a)は、CD90.1陽性のドナーT細胞におけるIFN-γ陽性細胞の割合、(b)はCD90.2陽性の内在性CD8陽性T細胞におけるIFN-γ陽性細胞をフローサイトメトリーで検出した結果である。
【
図5A】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の前におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(α鎖:処理前、CAR-positive)を調べた結果を示すグラフである。
【
図5B】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の前におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(α鎖:処理前、CAR-negative)を調べた結果を示すグラフである。
【
図5C】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の後におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(α鎖:処理後、CAR-positive)を調べた結果を示すグラフである。
【
図5D】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の後におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(α鎖:処理後、CAR-negative)を調べた結果を示すグラフである。
【
図6A】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の前におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(β鎖:処理前、CAR-positive)を調べた結果を示すグラフである。
【
図6B】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の前におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(β鎖:処理前、CAR-negative)を調べた結果を示すグラフである。
【
図6C】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の後におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(β鎖:処理後、CAR-positive)を調べた結果を示すグラフである。
【
図6D】実施例4において、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の後におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化(β鎖:処理後、CAR-negative)を調べた結果を示すグラフである。
【
図7A】実施例5において、P815-hCD20を接種後140日目に、腫瘍を治療して根治したマウス(tumor-rejected mice)又はコントロールのナイーブマウス(naive mice)に対してP815-hCD20又はhCD20を発現していない親株のP815を左右の脇腹にそれぞれ接種し、腫瘍体積の測定結果を示す図である。
【
図7B】実施例5において、3LL-hCD20を接種後140日目に、腫瘍を治療して根治したマウス(tumor-rejected mice)又はコントロールのナイーブマウス(naive mice)に対して3LL-hCD20又はhCD20を発現していない親株の3LLを左右の脇腹にそれぞれ接種し、腫瘍体積の測定結果を示す図である。
【
図8】実施例6において、腫瘍の再発抑制効果を確認するための実験プロトコール図である。
【
図9A】実施例6において、後述するACC-MESO1-GFP-Lucを投与し、day1に抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞(7×19 CAR-T)を投与した群及びconventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞(conventional CAR-T)を投与した群におけるday1、3、7、10、14、21、31、38のマウスを露光時間30秒で撮影した結果を示す図である。
【
図9B】実施例6において、後述するACC-MESO1-GFP-Lucを投与し、day1に抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞(7×19 CAR-T)を投与した群及びconventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞(conventional CAR-T)を投与した群におけるday45、59、73、87、101、115、129、143のマウスを露光時間30秒で撮影した結果を示す図である。day129の左から2番目の個体は死亡したため写真を省略する。
【
図10】実施例6において、後述するACC-MESO1-GFP-Luc投与からの日数とマウスの生存率との関係を示したグラフである。
【
図11】実施例6において、後述するACC-MESO1-GFP-Luc投与からの日数とトータルの蛍光量との関係を示したグラフである。
【
図12】実施例7において、(a)は脾臓細胞におけるCD8+GFP+細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果、(b)はCD8+GFP+細胞絶対数をフローサイトメトリーで解析した結果を示す図である。
【
図13】実施例7において、(a)はnaive BDA/2マウスのCD8
+脾臓細胞及びP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞で処理したマウスのCD8
+GFP
-又はCD8
+GFP
+脾臓細胞におけるCD44
+細胞の細胞数を示す図であり、(b)は(a)おけるCD44
+細胞の割合を示す図である。
【
図14】実施例7において、P815で処理した粘膜型マスト細胞(Mucosal mast cell:MMC)と5日間ほど共培養し、培地の上清中のIFN-γの濃度をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によって検出した結果を示す図である。
【
図15】実施例8において、(a)は遺伝子組換えワクシニアウイルスLC16mO TK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFP(TK-ICE)の構造、(b)は遺伝子組換えワクシニアウイルスLC16mO TK-SP-Luc-F2A-eGFP(TK-LE)の構造を示す図である。
【
図16】実施例8において、遺伝子組換えワクシニアウイルスTK-ICE又はTK-LEを感染させたA549細胞及びCT26細胞におけるワクシニアウイルスの細胞変性効果とeGFP蛍光発現との関係を観察像で示す図である。
【
図17】実施例8において、遺伝子組換えワクシニアウイルスTK-ICE又はTK-LEを感染させたA549細胞又はCT26細胞におけるIL-7及びCCL19の分泌量を調べた図である。
【
図18】実施例8において、マウス大腸癌CT26細胞をマウスの両腹部の皮下に移植する概念を示す図である。
【
図19】実施例9において、マウス大腸癌細胞CT26を用いた腫瘍両側皮下移植BALB/cマウスモデルに対し、遺伝子組換えワクシニアウイルスTK-ICE又はTK-LEを腫瘍内投与後の腫瘍サイズ(mm
3)の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における「メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤」としては、核酸送達媒体、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含んでいれば特に制限されず、かかる増強剤により、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞を増強することが可能となる。また、本明細書における「T細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤」としては、核酸送達媒体、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含んでいれば特に制限されず、かかる誘導剤により、T細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導することが可能となる。なお、以下、本明細書において、上記「メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強剤」又は上記「T細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導する誘導剤」をまとめて、「本件増強剤又は誘導剤」ともいう。
【0015】
本明細書における「悪性腫瘍再発抑制剤」としては、核酸送達媒体、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含んでいれば特に制限されず、かかる悪性腫瘍再発抑制剤により、悪性腫瘍再発を抑制することが可能となる。なお、以下、本明細書において、上記「悪性腫瘍再発抑制剤」を、「本件悪性腫瘍再発抑制剤」ともいう。
【0016】
IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸としては、ヒト由来の核酸を好適に挙げることができる。上記それぞれの核酸は導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、かかるそれぞれの核酸の配列情報は、公知の文献やNCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。IL-7をコードする核酸としては、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を挙げることができ、IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用を有する限り、配列番号1に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸をコードする塩基配列でもよい。CCL19をコードする核酸としては、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を挙げることができ、CCL19における細胞の遊走作用を有する限り、配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸をコードする塩基配列を用いてもよい。なお、上記IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用やCCL19における細胞の遊走作用は、上記特許文献2に記載の方法により確認することができる。
【0017】
本明細書において、用語「同一性」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列近似性の程度(これは、クエリー配列と他の好ましくは同一の型の配列(核酸若しくはタンパク質配列)とのマッチングにより決定される)を意味する。「同一性」を計算及び決定する好ましいコンピュータープログラム法としては、例えば、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.1990,215:403-410;Altschul et al.,Nucleic Acids Res.1997,25:3389-3402;Devereux et al.,Nucleic Acid Res.1984,12:387)、並びにBLASTN 2.0(Gish W.,http://blast.Wustl.edu,1996-2002)、並びにFASTA(Pearson及びLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444-2448)、並びに最も長く重複した一対のコンティグを決定及びアライメントするGCG GelMerge(Wibur及びLipman,SIAM J.Appl.Math.1984,44:557-567;Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.1970,48:443-453)を挙げることができる。
【0018】
上記IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸は、プロモーターやターミネーター等の制御配列や、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列を含有するベクターに組み込まれていてもよい。さらに、ベクター内には、自殺遺伝子をコードする核酸や、2Aペプチド又はIRESをコードする核酸を含んでいてもよい。上記ベクター、自殺遺伝子をコードする核酸や、2Aペプチド又はIRESをコードする核酸については、上記特許文献2、3を参照に入手又は作製することが可能である。上記プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、NFATプロモーター、HIFプロモーター等を挙げることができる。また、上記ベクターとしては、例えば、pMSGVベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))やpMSCVベクター(タカラバイオ社製)等のレトロウイルスベクター又はかかるベクター由来のものを挙げることができる。
【0019】
また、IL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸と共に、IL-15、CCL21、IL-2、IL-4、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IP-10、CCL4、Flt3L、interferon-γ、MIP-1α、GM-CSF、M-CSF、TGF-β、TNF-α、チェックポイント阻害抗体若しくはその断片等の他の免疫機能制御因子をコードする核酸を含んでいてもよい。ただし、本件増強剤又は誘導剤や本件悪性腫瘍再発抑制剤は、免疫機能制御因子をコードする核酸として少なくともIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有していれば、上記他の免疫機能制御因子をコードする核酸を含有していなくても、本件増強剤又は誘導剤や本件悪性腫瘍再発抑制剤としての効果を十分に発揮できる。
【0020】
上記「メモリー機能」とは、過去に腫瘍抗原による刺激を受けた経験を有し、再び悪性腫瘍細胞に接した場合に、過去に腫瘍抗原による刺激を受けたことがないナイーブT細胞に比べてより早く且つ強力に活性化し、悪性腫瘍細胞に対する高い免疫機能を発揮する機能を意味する。また、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞としては、セントラルメモリーT細胞、メモリーB細胞を挙げることができる。かかるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞は、CD44、CD62L、CD127(IL-7R)等のそれぞれの陽性/陰性(+/-)や発現強度を総合的に評価することで確認することができ、ヒト、マウス等の対象に応じて適宜いずれのCDを測定すればよいかを選択することが可能である。なお、本願において、以下、陽性を「+」、陰性を「-」と記載することもある。
【0021】
上記「メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の増強」とは、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞を含む細胞集団において、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の割合が増加することや、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の絶対数が増加することや、メモリー機能を有するT細胞又はB細胞の細胞あたりのメモリー機能が増強することを意味する。
【0022】
上記「T細胞又はB細胞にメモリー機能を誘導」とは、ナイーブT細胞又はナイーブB細胞を含む細胞集団において、かかるナイーブT細胞又はナイーブB細胞が腫瘍抗原による刺激を受けて免疫記憶を獲得することにより、メモリー機能を有するように誘導することや、既にメモリー機能を有するT細胞又はB細胞において、そのメモリー機能がより高まるように誘導することや、既にメモリー機能を有するT細胞又はB細胞の生体内での数を増加させることを意味する。具体的には、例えばナイーブT細胞をセントラルメモリーT細胞に誘導することを挙げることができる。
【0023】
上記投与対象としては、哺乳動物又は哺乳動物細胞を好適に挙げることができ、かかる哺乳動物の中でも、ヒト、マウス、イヌ、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、サル、チンパンジーをより好適に挙げることができ、ヒトを特に好適に挙げることができる。
【0024】
上記「核酸送達媒体」としては、免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、リポソーム、間葉系幹細胞(MSC)、ナノ粒子から選択される少なくとも1種以上であればよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0025】
ここで、上記免疫担当細胞としては、免疫応答に関与し、IL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入することでIL―7及びCCL19を発現できる細胞であれば特に制限されないが、生体から分離(採取)された免疫担当細胞であることが好ましく、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞や、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞や、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球であって分離されたものを挙げることができ、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物から分離されたT細胞、好ましくはヒトから分離されたT細胞を好適に挙げることができる。なお、上記分離されたT細胞としては、T細胞以外に他の細胞も含んでいてもよいが、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%の割合でT細胞を含んでいればよい。また、T細胞は、血液、骨髄液等の体液や、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、若しくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織に浸潤する免疫細胞から免疫担当細胞を含む細胞集団を分離して得ることができる。前記細胞集団に含まれるT細胞の割合を高めるため、分離した前記細胞集団を、必要に応じて定法により更に単離又は精製して得ることもできる。またES細胞やiPS細胞から作製されたものを利用してもよい。かかるT細胞としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、NKT細胞を挙げることができる。なお、免疫担当細胞の由来と投与対象とは同じであっても異なってもよいが、同じであることが好ましい。さらに、投与対処がヒトの場合において、免疫担当細胞としては、投与対象としての患者本人から採取した自家細胞を用いても、他人から採取した他家細胞を用いてもよい。すなわち、ドナーとレシピエントは一致しても不一致でもよいが、一致することが好ましい。
【0026】
上記ウイルスとしては、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を封入でき、悪性腫瘍細胞に感染しうるウイルスであれば特に制限されないが、腫瘍溶解性ウイルスであることが好ましい。上記腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)とは、正常細胞に感染してもほとんど増殖しないが、悪性腫瘍細胞に感染すると増殖し、悪性腫瘍細胞を死滅(悪性腫瘍細胞傷害)させる能力を有するウイルスを意味するものであり、例えばMolecular Therapy、第18巻、第2号、2010年2月、233~234ページに総説されている。かかる腫瘍溶解性ウイルスとしては悪性腫瘍細胞に感染して悪性腫瘍細胞を死滅させる能力を有する限り特に限定されないが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス、腫瘍溶解性レオウイルス、腫瘍溶解性麻疹ウイルス、腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルス、腫瘍溶解性牛痘ウイルス、腫瘍溶解性ムンプスウイルス、腫瘍溶解性コクサッキーウイルス等を挙げることができる。また、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスとしては、Kim MK et al. Science Translational Medicine. 2013 May 15;5(185):185ra63、Heo J, et al. Nature Medicine, 2013 (3):329-36. doi: 10.1038/nm.3089. Epub 2013 Feb 10.、国際公開第2012/094386号パンフレットに記載のものを用いてもよいがこれに限られない。また、上記腫瘍溶解性アデノウイルスとしては、Tedcastle A et al. Mol Ther. 2016;24:796-804, Marino N, Illingworth S, Kodialbail P, Patel A, Calderon H, Lear R, Fisher KD, Champion BR, Brown ACN. PLoS One 2017;12(5):e0177810、Freedman JD, et al. EMBO Mol Med 9:1067-1087 (2017)、Lang FF et al., Journal of Clinical Oncology (2018)、James M. et al. The Journal of Oncology, 188(6):2391-7, 2012、特許第3867968号公報及び特許第5574284号公報に記載のものを用いてもよいがこれに限られない。また、上記腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスとしては、Mazzacurati et al., Mol Ther, 2015 Jan;23(1):99-107、Hirooka Y, et al. BMC Cancer 2018, 18, 596、Nakatake R, et al. Cancer Sci. 2018 Mar, 109(3);600-610.及びAndtbacka RHI, et al. J Clin Oncol. 2015;33:2780-2788に記載のものを用いてもよいがこれに限られない。また、上記腫瘍溶解性レオウイルスとしては、Mahalingam, et al, Cancers 2018, 10, 160に記載のものを用いてもよいがこれに限られない。また、上記腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルスとしては、Journal of Virology. 2016 Jun; 90(11):5343-5352.に記載のものを用いてもよいがこれに限られない。また、上記腫瘍溶解性水泡口内炎ウイルス病ウイルスとしては、Muik A. et al. Cancer Res; 74(13); 3567-78. に記載のものを用いてもよいがこれに限られない。なお、腫瘍溶解性ウイルスは遺伝子改変によりタンパク質を発現する機能を付加しているものもあるが、そのようなタンパク質の代わりに、又は加えてさらに上記IL-7及びCCL19を発現させてもよい。
【0027】
上記嫌気性菌としては、細胞内にIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入することでIL―7及びCCL19を発現できる嫌気性菌であれば特に制限されないが、悪性腫瘍細胞に集積する能力を有する嫌気性グラム陽性菌であることが好ましく、ビフィズス菌等のビフィドバクテリウム属菌、ラクトバシラス属菌、リステリア属菌を挙げることができる。なお、嫌気性菌は酸素が少ない環境下で生育しやすいことから、悪性腫瘍細胞に集積しやすいことが知られている。
【0028】
上記リポソームとしては、腫瘍細胞にIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を封入でき、リン脂質二重膜から構成される脂質ナノカプセルであれば特に制限されず、かかるリポソームは、市販品を用いることや常法によって合成することによって得ることができる。
【0029】
上記MSCとしては、細胞内にIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入することでIL―7及びCCL19を発現でき、悪性腫瘍細胞に集積する能力を有するMSCであれば特に制限されない。
【0030】
上記ナノ粒子としては、腫瘍細胞にIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を送達できる能力を有し、ナノメートルオーダー、好ましくは直径5~800nmの粒子体であれば特に制限されず、金ナノ粒子等の金属ナノ粒子やシリカナノ粒子を挙げることができる。かかるナノ粒子は市販品を用いることや常法によって合成することによって得ることができる。
【0031】
上記「核酸送達媒体が、悪性腫瘍細胞への集積能を有する」とは、核酸送達媒体が悪性腫瘍細胞に特異的に集積する能力を意味する。具体的には、a)核酸送達媒体が悪性腫瘍細胞の細胞表面分子を認識する物質を有し、かかる物質の作用により核酸送達媒体が悪性腫瘍細胞に集積する能力や、b)腫瘍組織の血管壁は正常組織の血管よりも1桁以上広い数百ナノメートルの隙間が開いていることを利用したEPR(enhanced permeability and retention)効果により核酸送達媒体が悪性腫瘍細胞へ集積する能力を挙げることができる。上記核酸送達媒体が悪性腫瘍細胞の細胞表面分子を認識する物質としては、キメラ抗原受容体(CAR)やT細胞受容体(TCR)を挙げることができる。かかるCARやTCRは、上記特許文献2、3に記載のものを利用することができる。したがって、悪性腫瘍細胞への集積能を有する核酸送達媒体としてはCAR発現免疫担当細胞や、TCR発現免疫担当細胞を挙げることができる。なお、キメラ抗原受容体(CAR)とは、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体(single chain Fv:scFv)と、T細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を融合させた人工的なキメラタンパク質である。
【0032】
上記「悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能を有する」とは、正常細胞に感染してもほとんど増殖しないが、悪性腫瘍細胞に感染すると増殖する能力を意味し、例えば、腫瘍溶解性ウイルスが有する、悪性腫瘍細胞において特異的に増殖する能力を挙げることができる。したがって、悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能を有する核酸送達媒体としては腫瘍溶解性ウイルスを挙げることができる。
【0033】
上記「悪性腫瘍細胞傷害能を有する」とは、悪性腫瘍細胞を傷害して悪性腫瘍細胞を溶解又は死滅させる能力を意味する。なお、悪性腫瘍細胞を溶解又は死滅させることによって、悪性腫瘍細胞内の悪性腫瘍抗原が溶解又は死滅した細胞周辺に放出されることとなる。
【0034】
上記「悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子」としては、悪性腫瘍の細胞表面に有する悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子であればよく、キメラ抗原受容体(CAR)やT細胞受容体(TCR)を挙げることができる。かかるCARやTCRは、上記特許文献2、3に記載のものを利用することができる。したがって、悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子を有する免疫担当細胞としてはCAR発現免疫担当細胞や、TCR発現免疫担当細胞を挙げることができる。
【0035】
上記悪性腫瘍抗原としては、悪性腫瘍細胞において正常細胞よりも高く発現する、あるいは悪性腫瘍細胞に特異的に発現するタンパク質、糖脂質等の物質を意味し、かかる悪性腫瘍抗原としては、腫瘍関連抗原や癌精巣抗原、血管新生関連抗原、遺伝子変異による悪性腫瘍新生抗原(ネオアンチゲン)のエピトープペプチドを挙げることができ、具体的には、WT1、MART-1、NY-ESO-1、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、Glypican-3、KIF20A、Survivin、AFP-1、gp100、MUC1、PAP-10、PAP-5、TRP2-1、SART-1、VEGFR1、VEGFR2、NEIL3、MPHOSPH1、DEPDC1、FOXM1、CDH3、TTK、TOMM34、URLC10、KOC1、UBE2T、TOPK、ECT2、MESOTHELIN、NKG2D、P1A、5T4、B7-H6、BCMA、CD123、CD133、CD138、CD171、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD33、CD38、CD44、CEA、cMet、CS1、EGFR、EGFRvIII、EphA2、ErbB2、FAP、FR-α、HER2、IL13Ra2、MUC1、MUC16、NKG2D、PSCA、PSMA、ROR1、TARP、DLL3、PRSS21、Claudin18.2、Claudin18、CAIX、L1-CAM、FAP-α、CTAG1B、FR-α等のタンパク質や、GD2、GM2等の糖脂質を挙げることができる。
【0036】
上記「核酸送達媒体、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む」には、核酸送達媒体の中にIL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む態様も含まれる。例えば、核酸送達媒体が免疫担当細胞の場合には、免疫担当細胞内にIL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸が含まれていればよい。また、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸が免疫担当細胞のゲノムに組み込まれた状態でも、ゲノムに組み込まれない状態(例えば、エピソーマルな状態)でもよい。
【0037】
上記核酸送達媒体が免疫担当細胞の場合、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、当該免疫担当細胞へ導入すること、すなわち、免疫担当細胞に、外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸(好ましくは、プロモーターの下流に作動可能に連結されている外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸)を導入することにより本件増強剤又は誘導剤や本件悪性腫瘍再発抑制剤を作製することができる。導入する方法としては、免疫担当細胞にDNAを導入する方法であればよく、例えば、エレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133(1990))、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,84,7413(1987))、ウイルス感染法等の方法を挙げることができる。かかるウイルス感染法としては、導入する核酸を含むベクターと、パッケージングプラスミドとをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)等のパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスをT細胞に感染させる方法(上記特許文献2)を挙げることができる。
【0038】
さらに、上記核酸送達媒体がウイルスの場合、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、当該ウイルスへ導入すること、すなわち、ウイルスに外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸(好ましくは、プロモーターの下流に作動可能に連結されている外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸)を導入して、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現するウイルス」を作製できる。かかる作製したウイルスを本件増強剤又は誘導剤や本件悪性腫瘍再発抑制剤として用いることができる。
【0039】
同様に、上記核酸送達媒体が嫌気性菌、リポソーム、又は間葉系幹細胞(MSC)の場合にも、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、当該嫌気性菌、リポソーム、又は間葉系幹細胞(MSC)へ導入すること、すなわち、嫌気性菌、リポソーム、又は間葉系幹細胞(MSC)に外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸(好ましくは、プロモーターの下流に作動可能に連結されている外来性のIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸)を導入して、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現する嫌気性菌、リポソーム、又は間葉系幹細胞(MSC)」を作製できる。かかる作製した嫌気性菌、リポソーム、又は間葉系幹細胞(MSC)を本件増強剤又は誘導剤や本件悪性腫瘍再発抑制剤として用いることができる。また、上記「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現するウイルス」、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現する嫌気性菌」、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現するリポソーム」、又は「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を有し、IL-7、及びCCL19を発現する間葉系幹細胞(MSC)」を悪性腫瘍の増殖抑制剤として用いてもよい。
【0040】
また、上記IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、免疫担当細胞へ導入する他の方法としては、免疫担当細胞にIL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、公知の遺伝子編集技術を用いて、適切なプロポーターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込む方法であってもよい。公知の遺伝子編集術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術を例示することができる。
【0041】
本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤として、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有し、悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子としてCARを有する免疫担当細胞、すなわち、CAR、IL-7、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CAR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」を作製する場合には、以下のいずれかの方法によって作製することができる。
(1)IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7及びCCL19を発現するベクター、及びCARをコードする核酸を含有し、CARを発現するベクター、の2種類を同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(2)CARをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、CARとIL-7を発現するベクター、及びCARをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、CARとCCL19を発現するベクター、の2種類を同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(3)CARをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、CARとIL-7を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(4)CARをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、CARとCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(5)CARをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、CARとIL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(6)CARをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、CARとCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(7)CARをコードする核酸を含有し、CARを発現するベクター、IL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクターの3種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
【0042】
同様に、本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤として、「IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有し、悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子としてTCRを有する免疫担当細胞、すなわち、TCR、IL-7、及びCCL19をコードする核酸を含有し、TCR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」を作製する場合には、以下のいずれかの方法によって作製することができる。
(1)IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7及びCCL19を発現するベクター、及びTCRをコードする核酸を含有し、TCRを発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(2)TCRをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、TCRとIL-7を発現するベクター、及びTCRをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、TCRとCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(3)TCRをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、TCRとIL-7を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(4)TCRをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、TCRとCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(5)TCRをコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、TCRとIL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(6)TCRをコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、TCRとCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(7)TCRをコードする核酸を含有し、TCRを発現するベクター、IL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクターの3種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
【0043】
さらに、上記「TCR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」を作製する場合には、予め所望の腫瘍抗原に特異的なTCRを発現する免疫担当細胞を調製し、かかるTCR発現免疫担当細胞を用いて以下のいずれかの方法によって作製することもできる。
(1)IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7及びCCL19を発現するベクターを上記TCR発現免疫担当細胞に導入する方法;
(2)IL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクターの2種類を同時に、又は段階的に上記TCR発現免疫担当細胞に導入する方法;
【0044】
このほか、本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤として、「CAR、TCR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」を作製してもよい。具体的には、上記「CAR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を作製する場合」に記載した各ベクターの全て又はいずれかに、さらにTCRをコードする核酸を含めてTCRも発現するように作製する方法や、上記「TCR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を作製する場合」に記載した各ベクターの全て又はいずれかに、さらにCARをコードする核酸を含めてCARも発現するように作製する方法や、上記「TCR発現免疫担当細胞」に、上記「CAR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を作製する場合」に記載した各ベクターを導入して作製する方法を挙げることができる。
【0045】
さらに、本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤において、免疫担当細胞にCARを有する場合には、「異なる悪性腫瘍抗原を認識する複数、好ましくは2種類のCARを発現する免疫担当細胞」を作製してもよい。具体的には、上記「CAR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を作製する場合」に記載した各ベクターにおいて、異なる悪性腫瘍抗原を認識する複数、好ましくは2種類のCARをコードする核酸を含めて、複数、好ましくは2種類のCARを発現するように作製する方法を挙げることができる。特に、たとえば悪性腫瘍抗原Xを認識するCARをコードする核酸及びIL-7をコードする核酸を含有し、悪性腫瘍抗原Xを認識するCAR及びIL-7を発現するベクターと、悪性腫瘍抗原Yを認識するCARをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、悪性腫瘍抗原Yを認識するCAR及びCCL19を発現するベクターを作製して免疫担当細胞に導入すれば、X及びYを悪性腫瘍抗原として有する細胞の周辺にIL-7とCCL19が分泌され、より腫瘍特異性を高めることが可能となる。
【0046】
なお、上記核酸送達媒体が免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、又は間葉系幹細胞の場合、免疫担当細胞、ウイルス、嫌気性菌、又は間葉系幹細胞を培養して得られた培養物であって、当該免疫細胞を含有するものを用いてもよい。
【0047】
上記悪性腫瘍再発抑制剤における「悪性腫瘍再発」としては、一般的な化学療法、放射線療法、又は外科療法等によって悪性腫瘍治療後に再度悪性腫瘍が生じることを意味する。かかる悪性腫瘍再発としては、核酸送達媒体の悪性腫瘍細胞への集積能、又は悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能に対して抵抗性を有する悪性腫瘍細胞に起因する再発であることが好ましい。
【0048】
ここで、「悪性腫瘍細胞への集積能に対して抵抗性を有する悪性腫瘍細胞に起因する再発」とは、例えば、核酸送達媒体が悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子を有する免疫担当細胞であり、悪性腫瘍再発が、細胞表面分子が特異的に認識する悪性腫瘍抗原を有さない、又は細胞表面分子が特異的に認識する悪性腫瘍抗原を失った悪性腫瘍細胞に起因する悪性腫瘍再発を挙げることができる。また、「核酸送達媒体の悪性腫瘍細胞において特異的な増殖能に対して抵抗性を有する悪性腫瘍細胞に起因する再発」とは、例えば、悪性腫瘍溶解性ウイルスによる感染に対して感受性を有さない、又は悪性腫瘍溶解性ウイルスによる感染に対して感受性を失った悪性腫瘍細胞に起因する腫瘍再発を挙げることができる。かかる「悪性腫瘍細胞への集積能に対して抵抗性を有する悪性腫瘍細胞に起因する再発」は、例えば再発した組織の悪性腫瘍細胞における悪性腫瘍抗原を調べることによって確認することができる。
【0049】
上記悪性腫瘍再発抑制剤は、免疫治療を行った悪性腫瘍を有する対象に投与するために使用することができる。長期的な再発抑制を目的として、免疫治療を行った日から100日以後に免疫治療を行った悪性腫瘍を有する対象投与するために使用することもできる。
【0050】
本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤は、薬学的に許容される添加剤を含有していてもよい。さらに、本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤として用いるための説明書を含んでもよい。また、本件増強剤又は誘導剤や、本件悪性腫瘍再発抑制剤に薬学的に許容される添加剤を含有して医薬組成物としてもよい。以下、「本件増強剤と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物」、「本件誘導剤と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物」、及び「本件悪性腫瘍再発抑制剤と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物」をまとめて「本件医薬組成物」ともいう。前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0051】
本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物は、当業者に既知の方法を用いて、悪性腫瘍の治療又は再発抑制を必要とする被検体に投与することができ、投与方法としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0052】
本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物は、1日4回、3回、2回又は1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回独立して投与する方法を挙げることができる。
【0053】
本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物の投与量は被験体の年齢、性別、健康、及び体重等により適宜決定することができる。例えば、核酸送達媒体が免疫担当細胞の場合には、ヒト成人に対して、体重1kgあたり、1×103~1×109個、好ましくは1×104~1×108個、より好ましくは1×105~1×107個を挙げることができる。また、核酸送達媒体が腫瘍溶解性ウイルスの場合には、ヒト成人に対して、投与あたり約102~1010プラーク形成単位(PFU)、好ましくは105~106プラーク形成単位(PFU)を挙げることができる。
【0054】
本明細書における悪性腫瘍としては、固形悪性腫瘍でも血液悪性腫瘍でもよく、神経膠腫、メラノーマ、悪性中皮腫、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん、皮膚がん、甲状腺がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頭頸部がん、頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、大腸がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がん、脳腫瘍等のがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病、骨髄腫を挙げることができる。
【0055】
本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物は、他の抗腫瘍剤と併用して用いることができる。また、本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物を用いる方法と放射線によるがん治療法を組み合わせてもよい。上記他の抗腫瘍剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等の免疫制御薬を挙げることができる。
【0056】
上記本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物と他の抗がん剤とを併用して用いる」方法としては、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物を用いる方法や、本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物と他の抗がん剤を同時に用いる方法や、本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物を用いて処理し、その後他の抗がん剤を用いる方法を挙げることができる。また、本件増強剤又は誘導剤、本件悪性腫瘍再発抑制剤、又は本件医薬組成物と他の抗がん剤と併用した場合には、がんの治療効果がより向上するとともに、それぞれの投与回数又は投与量を減らすことで、それぞれによる副作用を低減させることが可能となる。
【0057】
本明細書において引用された、学術文献、特許出願等の参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0059】
(抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞及び抗ヒトCD20 CAR発現T細胞の作製)
後述の実施例において用いる「抗ヒトCD20 CAR、マウスIL-7、及びマウスCCL19を発現するT細胞(抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞:以下の実施例又は図面において「7×19」ともいう)」及び「抗ヒトCD20 CAR発現T細胞:以下の実施例又は図面において「Conv.」ともいう)」は、上記特許文献3及びTamadaらの文献(Nature Biotechnology doi:10.1038/nbt.4086)に記載の方法に準じて作製した。以下、作製方法を簡潔に記載する。なお、上記「抗ヒトCD20 CAR、マウスIL-7、及びマウスCCL19を発現するT細胞」は、悪性腫瘍細胞抗原を認識する細胞表面分子として抗ヒトCD20 CARを有するT細胞であり、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む。
【0060】
抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、まず、あらかじめ抗ヒトCD20 CARをコードする核酸、マウスIL-7をコードする核酸、及びマウスCCL19をコードする核酸を含有し、抗ヒトCD20 CARとIL-7とCCL19を発現するpMSGVベクターを作製した。次に、かかるベクターをCD90.1陽性(CD90.1+)、CD90.2陰性(CD90.2-)のコンジェニックマウス(Bar Harbor社製)の脾臓及びリンパ節からPan T Cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotec社製)を用いてマウス生体から分離したマウスT細胞にレトロウイルスを用いて導入して作製した。一方、抗ヒトCD20 CARを発現するT細胞(抗ヒトCD20 CAR発現T細胞)は、あらかじめ抗ヒト20 CARを発現するpMSGVベクターを作製し、かかるベクターを上記分離したマウスT細胞にレトロウイルスを用いて導入して作製した。なお、遺伝子導入無しの上記分離したマウスT細胞(non-transducted T cells)は以下の実施例又は図面において「non-transducted」ともいう。ここで、上記のとおり分離したマウスT細胞に抗ヒトCD20 CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入するためにレトロウイルスベクターであるpMSGVベクターを用いている。そのため、上記それぞれの核酸を導入したマウスT細胞を培養して増殖した場合には、マウスT細胞質内にレトロウイルスベクターを含んでいるものもあるが、多くはマウスT細胞において、抗ヒトCD20 CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれる。マウスT細胞において、抗ヒトCD20 CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれた場合には、抗ヒトCD20 CAR、IL-7、及びCCL19は導入した外来の組換えコンストラクトから発現することとなる。
【0061】
T細胞の培養には、10%ウシ胎児血清(Fetal calf serum:FCS、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、50μMの2メルカプトエタノール、25mMのHEPES、2mMのL-グルタミンを添加したRPMI-1640培地を用いた。
【0062】
[実施例1]
<T細胞の局在>
CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の抗腫瘍効果を調べるために、腫瘍組織において、投与したドナーT細胞と同様に宿主(recipient)由来の内在性T細胞が腫瘍組織に浸潤しているかどうかを調べた。まず、7-10週齢のC57BL/6マウス(SLC社製)に2.5×10
6個の3LL-hCD20(ヒトCD20を発現するように遺伝子組換えを行ったマウス肺がん由来細胞3LL)を皮下接種した(0日目)。その後7日目に抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA:100mg/kg)を腹腔内に投与した。10日目に、CD90.1陽性(CD90.1
+)、CD90.2陰性(CD90.2
-)コンジェニックマウスから生成した1×10
6個の上記抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、上記抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、若しくは遺伝子導入無しの上記分離したマウスT細胞を静脈内に投与した。19日目に、腫瘍組織をマウスから摘除した。プライマリー染色において、ビオチン標識した抗CD90.1抗体(clone OX-7 BioLegend社製:ドナーT細胞に結合)及び抗CD3抗体(clone 17A2:Tonbo biosciences社製:ドナーT細胞とレシピエントの内在性T細胞の両方に結合)の組み合わせを用い、セカンド染色としてAlexa Fluor488接合ストレプトアビジン(Thermo Fisher Scientific社製:green)及びAlexa Fluor647接合抗ラットIgG2b(Abcam社製:red)を用いた。核はDAPI(Thermo Fisher Scientific社製:blue)で染色した。顕微鏡による観察は400倍で行った。結果を
図1(a)に示す。セカンド染色により、ビオチン標識した抗CD90.1抗体が結合した細胞は緑色に、抗CD3抗体が結合した細胞は赤色で示されるため、ドナーT細胞である抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は黄色(緑色+赤色:CD90.1
++CD3
+)に、レシピエントの内在性T細胞は赤色(CD90.1
-+CD3
+)であったが、
図1(a)ではグレースケールで示す。
【0063】
また、
図1(a)によって標識された各ポジティブ領域をHybrid Cell Count program(KEYENCE社製)を用いて定量した結果を
図1(b)に示す。
図1(b)中、黒カラムはレシピエント(ホスト)の内在性T細胞(
図1(a)右図における赤色)の面積、白カラムは投与したドナーT細胞(
図1(a)右図における黄色)の面積を示す。
図1(a)、(b)により、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合には、投与したT細胞だけでなく、レシピエント(ホスト)の内在性T細胞も腫瘍局所における集積が増強していること、換言すれば、腫瘍局所にIL-7及びCCL19を分泌させることで、内在性T細胞も腫瘍局所における集積が増強していることが明らかとなった。
【0064】
[実施例2]
<抗腫瘍効果におけるT細胞の関与>
C57BL/6マウスに2.5×10
6個の3LL-hCD20を皮下接種した(0日目)。その後3日目にCD90.1陽性(CD90.1
+)、CD90.2陰性(CD90.2
-)コンジェニックマウスから生成した1×10
6個の抗ヒトCD20 CAR発現T細胞(Conventional:Conv.)若しくは抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)を静脈内に投与した。内在性T細胞に発現するCD90.2(Thy1.2)に対する抗体である抗CD90.2抗体(anti-CD90.2:本発明者らがATCCから購入したハイブリドーマを用いて作製)を1日目から2回/週ほど腹腔内に投与した。投与量は、初回の2回は1mg/マウスとし、その後は0.5mg/マウスとした。それぞれの群(n=5)の14日目の腫瘍体積のmean±SDを
図2に示す。○はそれぞれのマウスの値を示す。
【0065】
図2に示すように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合には悪性腫瘍の増殖が抑制されており、抗腫瘍効果が極めて高く、腫瘍が消失していたが、抗CD90.2抗体を投与することによって抗腫瘍効果が50%程度低減していた。したがって、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞による抗腫瘍効果には、レシピエントの内在性T細胞も関与していること、換言すれば、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞による抗腫瘍効果は、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞自身だけでなく、レシピエントの内在性のT細胞が大きく関与していることが明らかとなった。
【0066】
[実施例3]
<レシピエントの内在性T細胞のメモリー化>
抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞による、ドナーのCAR-T細胞及び内在性T細胞のメモリー機能獲得及びメモリー機能を有する細胞の増加について、メモリー細胞のマーカーであるCD44及びCD62Lにより評価した。
【0067】
C57BL/6マウスに2.5×106個の3LL-hCD20を皮下接種した(0日目)。その後3日目にCD90.1陽性(CD90.1+)、CD90.2陰性(CD90.2-)コンジェニックマウスから生成した1×106個の上記抗ヒトCD20 CAR発現T細胞(Conv.)若しくは上記抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)を静脈内に投与した。28日目に、脾臓細胞を採取して次の解析に用いた。
【0068】
ドナーT細胞はCD90.1陽性細胞(CD90.1
+)、レシピエントT細胞はCD90.2陽性細胞(CD90.2
+)で同定した。CD4陽性及びCD8陽性T細胞におけるメモリーT細胞マーカー(CD44及びCD62L)及びCARの発現はフローサイトメトリーで行った。ドットプロット又はヒストグラムの数値はそれぞれのゲートにおける細胞の割合を示す。結果を
図3に示す。
【0069】
また、メモリー化の機能、すなわち刺激に対する反応性獲得をIFN-γの生産により調べた。まず、28日目に採取した脾臓細胞を、マイトマイシンC(協和発酵キリン社製)で90分、37℃で処理した3LL-hCD20又はhCD20を発現していないその親株3LLと共培養して刺激した。IFN-γの生産は細胞内サイトカイン染色によって調べた。結果を
図4に示す。
図4中、(a)のヒストグラムにおける数値は、CD90.1陽性ドナーT細胞におけるIFN-γポジティブ細胞の割合を示す。
図4中、(b)はCD90.2陽性の内在性CD8陽性T細胞におけるIFN-γ陽性細胞をフローサイトメトリーで検出した結果を示す。ドットプロットの数値は、それぞれの4象限における細胞の割合を示す。
【0070】
図3に示すように、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞(Conv.)を投与した場合には、CD90.2ゲート細胞(レシピエントの内在性T細胞)においてセントラルメモリーT細胞(メモリーT細胞マーカーであるCD44陽性及びCD62L陽性細胞)がCD4陽性細胞において5.5%、CD8陽性細胞において24.8%であった。一方、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)を投与した場合には、CD90.2ゲート細胞(レシピエントの内在性T細胞)においてセントラルメモリーT細胞がCD4陽性細胞において6.76%、CD8陽性細胞において49.2%であり、いずれもセントラルメモリーT細胞の割合が増加していた。したがって、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)を投与すること、すなわちIL-7とCCL19を一つの細胞から分泌させることにより、レシピエントの内在性T細胞を活性化すると共に、レシピエントの内在性T細胞をセントラルメモリーT細胞に分化誘導し、セントラルメモリーT細胞の数を増加すると共に脾臓細胞群におけるセントラルメモリーT細胞の割合を増加可能であることが明らかとなった。換言すれば、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞の誘導剤や、投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞の増強剤として用いることができることが明らかとなった。
【0071】
一方、CD90.1ゲート細胞(ドナーT細胞)においてセントラルメモリーT細胞がCD4陽性細胞において75.8%、CD8陽性細胞において90.7%であり、ドナーT細胞自身もセントラルメモリーT細胞に誘導されていることが確認された。なお、Conv.においてCD90.1ゲート細胞が0%であり、CD90.1陽性細胞が検出されていない(n.d.)のは、Conv.ではIL-7とCCL19を発現させておらず、CAR発現T細胞の生存率が低いためである。
【0072】
さらに、
図4に示すように、3LLの刺激により、ドナー細胞においてCD4陽性細胞では90.5%、CD8陽性細胞では93.6%がIFN-γを生産していた。また、レシピエントの内在性T細胞(CAR-T発現無し)においても、CD4陽性細胞においてConv.では0.957%であるのに対し、7×19では14.9%もの細胞がIFN-γを生産していた。したがって、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によりIL-7とCCL19を分泌させることで、ドナーT細胞及びレシピエント細胞のいずれもが刺激によりIFN-γを生産しており、メモリー機能を獲得していることが明らかとなった。
【0073】
[実施例4]
<T細胞受容体の遺伝子発現パターンの変化>
T細胞のエピトープ多様性を調べるために、CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の処理の前後におけるT細胞受容体(TCR)レパートリーの変化を調べた。DBA/2マウス(n=5)に5×10
5個のP815-hCD20(ヒトCD20を発現するように遺伝子組換えを行ったマウス肥満細胞腫P815)を皮下接種した(0日目)。その後10日目にシクロホスファミド(CPA:100mg/kg)及び1×10
6個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を静脈内に投与して腫瘍を治療した。P815腫瘍細胞投与から140日目に、上記により腫瘍を治療して根治したマウス(腫瘍拒絶マウス:Tumor-rejectedmice)から脾臓細胞を採取し、セルソーター(SH800:ソニー社製)でソートしたCAR陽性T細胞又はCAR陰性T細胞を増殖するために4日間P815-hCD20又はhCD20を発現していない親株(hCD20陰性:hCD20
-)P815と共に培養した。その後、TCRレパートリー解析のために、CD8陽性かつCAR陽性(CD8
+CAR
+)又はCD8陽性かつCAR陰性(CD8
+CAR
-)ポピュレーションをフローサイトメーターでソートした。コントロールとして、マウスに投入する前のCD8陽性かつCAR陽性、又は、CD8陽性かつCAR陰性ポピュレーションをソートした。TCRレパートリーは次世代シークエンサーで解析し、α及びβ鎖におけるV及びJ領域の使用頻度を3-Dグラフで示した。結果を
図5A-D、
図6A-Dに示す。
図5A-Dはα鎖、
図6A-Dはβ鎖であり、また、
図5A、B、
図6A、Bは各細胞投入前、
図5C、D、
図6C、Dは各細胞投入後である。図中の左上の数値は1-Pielou均等度指数 (a higher number indicates a less diversity)で算出したdiversity indexesを示し、数値が低いほど多様性が高いことを示す。
【0074】
なお、T細胞受容体はT細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子である。α鎖とβ鎖、又はγ鎖とδ鎖からなるヘテロ二量体として存在しており、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原分子を認識することでT細胞を活性化することが知られている。
【0075】
図5A-D、
図6A-Dにおけるdiversity indexesから明らかなように、α鎖、β鎖のいずれも抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与によりdiversity indexes値が増加していた。したがって、投与した抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞だけでなく、レシピエントの内在性T細胞もTCRの多様性が低下しており、腫瘍局所でIL-7及びCCL19を分泌すると共に腫瘍細胞を破壊することで腫瘍抗原に対してメモリー機能を有すると思われるT細胞が選択的に増加していることが明らかとなった。
【0076】
[実施例5]
<腫瘍の再発抑制-1>
動物を利用したがん再発モデルを次の方法により行った。まず、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理したマウスにおいて、レシピエントT細胞の腫瘍特異的メモリー応答を調べた。7-10週齢の担がんマウス(DBA/2:n=4:SLC社製)に5×10
5個のP815-hCD20を皮下接種した。その後10日目に抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA:100mg/kg)を腹腔内に投与した。14日目に、1×10
6個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を静脈内に接種した。P815-hCD20を接種後140日目に、腫瘍を治療して根治したマウス(tumor-rejected mice)又はコントロールのナイーブマウス(naive mice)に対して、P815-hCD20又はhCD20を発現していない親株のP815を左右の脇腹にそれぞれ接種した。腫瘍の体積は2回/週測定した。結果を
図7Aに示す。また、上記P815-hCD20の代わりに3LL-hCD20又はhCD20を発現していない親株の3LLを接種したC57BL/6マウスを用いて同様の解析を行った。結果を
図7Bに示す。なお、親株のP815及び3LLはヒトCD20を発現しないため、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞表面分子が特異的に認識する悪性腫瘍抗原を有さない悪性腫瘍細胞となる。
【0077】
図7Aにおける横軸は、ナイーブマウスについては最初にP815-hCD20又はP815を投与した日(0日)からの日数、腫瘍を治療して根治したマウスにおいては、最初のP815-hCD20接種後140日目に再度P815-hCD20を接種した日(0日)からの日数である。また、
図7Bにおける横軸は、ナイーブマウスについては最初に3LL-hCD20又は3LLを接種した日(0日)からの日数、腫瘍を治療して根治したマウスにおいては、再度3LL-hCD20を接種した日(0日)からの日数である。
図7A、7Bにおける縦軸は腫瘍の体積(mm
3)である。
【0078】
図7A、7Bの下段に示すように、腫瘍を治療して根治したマウス(tumor-rejected mice)においてP815-hCD20又は3LL-hCD20を接種した場合には腫瘍は形成されていなかった。すなわち、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で腫瘍を治療することで、CARが認識する抗原を有する腫瘍細胞に起因する腫瘍の再発を抑制できることが明らかとなった。さらに、驚くべきことに、
図7A、7Bの上段に示すように、腫瘍を治療して根治したマウスにおいて細胞表面にCD20を有さない親株のP815又は3LLを接種した場合に、腫瘍の形成がナイーブマウスと比較して著しく抑制されていた。すなわち、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理することで、CARが認識する抗原を有さない腫瘍細胞に起因する腫瘍の形成、換言すればCARが認識する抗原を有さない腫瘍細胞に起因する腫瘍再発も抑制できることが明らかとなった。このように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与することで投与対象の免疫機能に影響を与え、CARの標的抗原を発現していない親株の腫瘍に対しても投与対象は長期的に拒絶し続け、再発を抑制することについては、CAR-T細胞の標的分子特異的反応性という観点から予想外であった。上記実施例4におけるT細胞受容体の遺伝子発現パターンの変化の結果と合わせると、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与により、腫瘍細胞の破壊が起こり、その結果として腫瘍細胞が元来有する腫瘍抗原に対して、レシピエントの内在性T細胞が反応し、長期のメモリー機能が誘導されたと考えられる。すなわち、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与により腫瘍細胞を破壊すると共に腫瘍局所でIL-7及びCCL19を分泌することで、極めて効率的にEpitope Spreading現象を誘導し、メモリー機能を誘導及び増強することで悪性腫瘍の再発を抑制すると考えられる。なお、上記がん再発モデルでは、最初にP815-hCD20、P815、3LL-hCD20、及び3LLを皮下に接種し、140日目には上記それぞれの細胞を左右の脇腹にそれぞれ接種している。そのため、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与により、単に悪性腫瘍の再発を抑制しただけでなく、悪性腫瘍の転移を抑制するとも考えられる。したがって、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は「悪性腫瘍転移抑制剤」としても利用可能であると考えられる。
【0079】
[実施例6]
<腫瘍の再発抑制-2>
腫瘍の再発抑制効果を確認するために、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞株をマウスに投与して腫瘍を形成させ、その後抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与の有無による143日間の腫瘍再発の有無を調べた。具体的な実験プロトコールを
図8に示す。また、
図8中の「ACC-MESO1-GFP-Luc」、「抗メソセリン CAR発現T細胞」、「抗メソセリン CAR発現T細胞」の調製方法、T細胞の活性化方法は以下のとおりである。
【0080】
(ACC-MESO1-GFP-Luc株の作製)
愛知県がんセンター研究所 関戸好孝先生から分与いただいたメソセリン陽性腫瘍細胞株であるヒト悪性中皮種細胞株ACC-MESO1にレンチウイルスを用いて緑色蛍光タンパク質-ルシフェラーゼ(GFP-Luc)の遺伝子導入を行った。
【0081】
day0に96 well plateに1×103cells/wellでACC-MESO1を蒔いた。培地は10%FBS添加RPMI1640(Gibco社製)を使用した。day1に発光細胞作製用レンチウイルス粒子であるRediFect Red-FLuc-GFP(PerkinElmer社製)をMOI 100で加えて形質導入を開始した。その際に遺伝子導入効率を高めるため、Hexadimethrine Bromide(Sigma-aldrich社製)を再終濃度4μg/mLとなるように培地に加えた。ウイルス添加24時間後(day2)にウイルスを含む培地を除去して培地の交換を行った。培養継続後、GFPを発現する細胞のみをSH800(SONY社製)でソーティングし、ACC-MESO1-GFP-Luc株とした。
【0082】
(抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞、及び抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞の作製)
抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞、及び抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞(conventional CAR発現T細胞)は、特願2017-247109号及び国際公開第2016/056228号パンフレットに記載の方法に基づいて作製した。簡潔に記載すると、配列番号3に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号4に示すリンカーのアミノ酸配列と配列番号5に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる抗ヒトメソセリン一本鎖抗体、ヒトCD8膜貫通領域及びヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナルモチーフを順次備えた第3世代CARコンストラクト(配列番号6)を作製した。かかるコンストラクトのC末端に配列番号1に示すヒトIL-7と、それに続く配列番号7に示すピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)、配列番号2に示すヒトCCL19、及びヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)を順次備えたコンストラクトを作製し、pMSGV1レトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))に挿入してヒトIL-7/CCL19及びHSV-tkを発現するpMSGV1レトロウイルス発現ベクターを作製した。得られたpMSGV1レトロウイルス発現ベクターをレトロウイルスによりマウスT細胞に導入して抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞を作製した。同様に、上記ヒトIL-7/CCL19及びHSV-tkを発現するpMSGV1レトロウイルス発現ベクターの代わりに上記抗ヒトメソセリン一本鎖抗体、ヒトCD8膜貫通領域及びヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナルモチーフを順次備えた第3世代CARコンストラクトを発現するpMSGV1レトロウイルス発現ベクターをレトロウイルスによりマウスT細胞に導入して抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞(conventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞)を作製した。シグナルペプチドは、配列番号8に示すシグナルペプチドを用いた。
【0083】
(T細胞の活性化)
day0に健常人ドナーから採取した2×106個の末梢血単核球を、レトロネクチン25μL/mL(タカラバイオ社製)と、抗ヒトCD3モノクローナル抗体5μg/mL(invitrogen社製、5μg/mL)を固層化させた細胞培養用6wellプレートで、IL-2 200IU/mL(Peprotech社製)と共に37℃、5%CO2インキュベータで培養を開始した。培養液にはOpTmizer CTS(Gibco社製)にL-グルタミン2mM(Gibco社製)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(和光純薬工業社製)及びファンギゾン2.5μg/mL(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)を加えたものを用いた。3日間培養し、day3にT細胞が活性化して形態変化が起きていることを顕微鏡下にて確認した。
【0084】
(腫瘍の再発観察)
まず、day0に8週齢の雌NSG免疫不全マウスに対して2×10
6 cells/mouseで上記ACC-MESO1-GFP-Lucを胸腔内投与した。day1にIn vivoイメージングシステム(in vivo imaging system:IVIS)を用いて胸腔内への腫瘍生着を確認した。day1に健常ドナーの末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells:PBMC)から作製し凍結保存していた上記conventional CAR発現T細胞、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞、及び上記方法で活性化したT細胞を解凍した。上記conventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞と上記抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞のCAR発現率はそれぞれ49.6%、32.5%であったため、conventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞に上記活性化T細胞を加えて両者のCAR発現率を合わせた後、1×10
5cellsの上記conventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞を投与する群(N=5)、1×10
5cellsの上記抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞を投与する群(N=5)を準備した。conventional 抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞及び抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞の投与は尾静脈より静脈内投与にて行った。さらに、day3以降、IVISを用いた腫瘍蛍光強度の測定(発光量:Total Flux(photons/sec)を行った。結果を
図9A、Bに示す。また、上記結果における投与からの日数とマウスの生存率との関係をグラフ化したものを
図10に、投与からの日数とトータルの蛍光量(photons/second)との関係をグラフ化したものを
図11に示す。
図9A、B、
図10、及び
図11中、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞を投与したものを「7×19 CAR-T」で示し、conventional 抗メソセリン CAR発現T細胞を投与したものを「Conventional CAR-T」で示している。なお、本実施例6では内在性T細胞が欠損しているNSG免疫不全マウスをレシピエントとして使用しているため、レシピエントの内在性T細胞の影響は除かれており、投与した抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞自体の効果を評価していることとなる。
【0085】
図9A、B、
図10、及び
図11に示すように、day21頃には7×19 CAR-T、Conventional CAR-Tのいずれも腫瘍蛍光強度がほとんど観察されていない。7×19 CAR-Tにおいては、その後day143まで腫瘍蛍光が観察されておらず、再発が完全に抑制されていることが確認された。一方、Conventional CAR-Tではday45あたりから腫瘍蛍光が観察され始めて、day115には腫瘍蛍光強度が高まり、day129には1匹死亡し、day143には残りの4匹も死亡した。したがって、CAR-IL-7-CCL19発現T細胞の投与、すなわち腫瘍局所でIL-7及びCCL19を分泌すると共に腫瘍細胞を破壊することで悪性腫瘍の再発を抑制できることが明らかとなった。
【0086】
[実施例7]
<レシピエントの内在性T細胞のメモリー化>
上記では悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子としてCARを有するT細胞を用いたが、CARの代わりに悪性腫瘍抗原を認識する細胞表面分子としてT細胞受容体(TCR)を有するT細胞を用いてレシピエントの内在性T細胞のメモリー化を調べた。
【0087】
(P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞の作製)
P815の腫瘍抗原であるP1Aに特異的なTCR、マウスIL-7、マウスCCL19、及びGFPを発現するT細胞の作製は上記特許文献3に記載の方法に準じて行った。簡潔に記載すると以下のとおりである。
【0088】
マウスIL-7(ストップコドン無し)と、それに続くピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)、マウスCCL19をコードするIL-7-F2A-CCL19 DNA断片を人工合成した(ライフテクノロジー社製)。上記で合成したIL-7-F2A-CCL19 DNA断片を、F2A-eGFP配列を有するpMSGVレトロウイルス発現ベクター(上記特許文献3)のマルチクローニングサイトに、制限酵素(NCOI及びECORI)処理及びライゲーションにより挿入し、IL-7-F2A-CCL19-F2A-eGFP DNA断片(配列番号9)を含むpMSGVベクター(IL-7×CCL19-eGFP発現ベクター)を得た。また、コントロールとしてeGFPを含み、IL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(eGFPコントロールベクター)を作製した。なお、配列番号9において、1~462番目の塩基がIL-7(1~75番目の塩基はIL-7のシグナル配列)、463~537番目の塩基がF2A、538~861番目の塩基がCCL19(538~612番目の塩基はCCL19のシグナル配列)、868~942がF2A、946~1662番目の塩基がeGFPをコードする核酸、1663~1665番目の塩基がストップコドンである。
【0089】
Y.Liuから入手した、H-2Ld拘束性のP815の腫瘍抗原であるP1Aに特異的なTCRを発現するトランスジェニックマウス(Sarma, S., Y. Guo, Y. Guilloux, C. Lee, X.-F. Bai, Y. Liu. 1999. J. Exp. Med. 189:811.)から脾臓細胞を採取し、脾臓細胞由来のP815の腫瘍抗原であるP1Aに特異的なTCRを発現するマウスT細胞(P1A特異的TCR-T細胞)を得た。次に、IL-7×CCL19-eGFP発現ベクター及びeGFPコントロールベクターを導入したレトロウイルスを作製し、上記P1A特異的TCR-T細胞を含む脾臓細胞(3×106個/ウェル)をP1Aペプチドで48時間活性化した細胞に形質導入して、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞(7×19 P1A-CTL)又はP1A特異的TCR/eGFP発現T細胞(conv. P1A-CTL)を得た。各発現ベクターの形質導入はサロゲートマーカーとしてeGFPを検出するフローサイトメトリー解析によって確認した。得られたそれぞれのT細胞のeGFPの発現レベルは、いずれの実験においても70~80%であった。
【0090】
P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞又はP1A特異的TCR/eGFP発現T細胞それぞれでマウスを処理した場合の脾臓細胞におけるCD8
+GFP
+細胞の割合及びCD8
+GFP
+細胞絶対数をフローサイトメトリーで解析した結果を
図12(a)、(b)に示す。脾臓細胞においてP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞で処理した場合には、CD8
+GFP
+細胞の割合及びCD8
+GFP
+細胞絶対数が増加していることが確認された。
【0091】
次に、naive BDA/2マウスのCD8
+脾臓細胞及びP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞で処理したマウスのCD8
+GFP
-又はCD8
+GFP
+脾臓細胞におけるCD44の発現をフローサイトメトリーで解析した結果を
図13(a)、(b)に示す。
図13(a)は代表的なCD44
+細胞の細胞数、
図13(b)はCD44
+細胞の割合を示す。
図13(a)、(b)に示すように、投与したT細胞(GFP
+ gated)だけでなく、レシピエントの内在性T細胞(GFP
- gated)もCD44
+の割合がnaive T細胞と比較して2倍以上増加していた。したがって、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞はレシピエントの内因性T細胞をメモリー化する作用、すなわちレシピエントの内因性T細胞のメモリー機能を誘導し、レシピエントの内因性T細胞のメモリー機能を増強する作用を有することが確認された。
【0092】
さらに、メモリー化の機能、すなわち刺激に対する反応性獲得を確認するために、IFN-γの生産により調べた。T細胞を脾臓細胞から磁気で単離し、P815で処理した粘膜型マスト細胞(Mucosal mast cell:MMC)と5日間ほど共培養した。培地の上清中のIFN-γの濃度をELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によって検出した結果を
図14に示す。
図14に示すように、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞はIFN-γの生産が多いことが確認された。したがって、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞はレシピエントの内在性T細胞の抗腫瘍活性を向上させことが確認された。このことから、レシピエントにおいて再発抑制効果を誘導することが考えらえた。
【0093】
[実施例8]
<IL-7及びCCL19を発現するウイルス>
上記では核酸送達媒体として免疫担当細胞を用いたが、腫瘍局所にIL-7及びCCL19が分泌されれば免疫担当細胞を用いなくても投与対象におけるメモリー機能を有するT細胞又はB細胞を増強することや、悪性腫瘍再発を抑制することが可能であるはずである。そこで、核酸送達媒体として免疫担当細胞の代わりにウイルスを用いて解析を行った。
【0094】
(マウスIL-7及びマウスCCL19を発現する遺伝子組換えワクシニアウイルスの作製)
マウスIL-7及びマウスCCL19を発現する遺伝子組換えワクシニアウイルスは上記特許文献3及び国際公開第2011/125469号パンフレットに記載の方法に準じて、以下の方法で作製した。pTagBFP-Nベクター(FP172、Evrogen社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(5’-ATG GCC GGA CCG GCC ACC GGT CGC CAC CAT GAG CGA G-3’:配列番号10)と(5’-TCG AAT TCG CTA GCG GCC GCT TAA TTA AGC TTG TGC CCC AG-3’:配列番号11)によって、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein:BFP)遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素SfiIとEcoRIで切断し、それをpTK-SP-LGベクター(国際公開第2011/125469号パンフレット)の同じ制限酵素部位にクローニングし、合成ワクシニアウイルスプロモーター(Hammond JM. et al., Journal of Virological Methods. 1997; 66(1):135-138)下にBFPを連結したpTK-SP-BFPを構築した。次に、pAmCyan1-N1ベクター(タカラバイオ社製)を制限酵素AgeIとNotIで切断し、その蛍光タンパク質AmCyan1断片を、pTK-SP-BFPの同じ制限酵素で処理した部位へクローニングし、pTK-SP-AmCyan1を構築した。
【0095】
マウスIL-7と、それに続くピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)、マウスCCL19、F2A、eGFPをコードするDNA断片を含むpMSGVプラスミド(上記特許文献3)を制限酵素BamHIで切断し、Blunt処理後、NcoIで切断して得たマウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFP断片を、pTK-SP-AmCyan1を制限酵素NheIで切断し、Blunt処理後、NcoIで切断した部位へクローニングし、トランスファーベクタープラスミドpTK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFPを構築した。
【0096】
pGL4.20(プロメガ社製)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(5’-GCT CCG GAC GCC ACC ATG GAA GAT GCC AAA AAC-3’(配列番号12)と5’-GCG AAT TCC ACG GCG ATC TTG CCG CCC TTC T-3’(配列番号13))によって、ホタルルシフェラーゼ遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素BspEI及びEcoRIで切断して得たLuc断片、及びpTK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFPを制限酵素EcoRIとBsrGIで切断して得たeGFPの一部を含む断片を同時に、pTK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFPを制限酵素BspEIとBsrGIで切断した部位へクローニングし、トランスファーベクタープラスミドpTK-SP-Luc-F2A-eGFPを構築した。
【0097】
図15(a)、(b)に示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスの回収のため、6wellディッシュに80%コンフルエントに培養されたCV1細胞にワクシニアウイルス(LC16mO)をMOI=0.02~0.1で感染させ、室温で1時間吸着後、FuGENE HD(プロメガ社製)と混合したトランスファーベクタープラスミドDNA(pTK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFP又はpTK-SP-Luc-F2A-eGFP)をマニュアルに従って細胞に添加して取り込ませ、37℃にて2~5日間培養した。細胞を回収し凍結融解後、ソニケーション処理し、ほぼコンフルエントになったBSC1細胞に適当に希釈して接種し、0.8%メチルセルロースを含むEagle MEM、5%FBS培地を加え、37℃で2~5日間培養した。培地を除き、BFP発現プラークをチップの先で掻き取り、Opti-MEM培地(Invitrogen社製)に浮遊させた。BSC1細胞にてさらに3回以上この操作を繰り返し、プラーク純化した。プラーク純化後に採取したプラークの浮遊液をソニケーション後、その200μLよりHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche社製)を用いマニュアルに従ってゲノムDNAを抽出し、PCRによるスクリーニングに供した。2つのプライマー(5’-ATT TCT CCG TGA TAG GTA TCG ATG-3’(配列番号14)と5’-AAC GGT TTA CGT TGA AAT GTC C-3’配列番号15)によってPCRを行い、所定の大きさのPCRプロダクトが検出されたクローンについて、PCRプロダクトの塩基配列をダイレクトシーケンスにより確認した。塩基配列に問題が無いウイルスクローンを選択し、A549細胞にて増幅させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、遺伝子組換えワクシニアウイルスLC16mO TK-SP-マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-eGFP(TK-ICE:
図15(a))又はLC16mO TK-SP-Luc-F2A-eGFP(TK-LE:
図15(b))として以下の実験に供した。
【0098】
A549細胞(1×10
5細胞/well)又はCT26細胞(5×10
4細胞/well)を24wellプレートに播種し37℃培養後、TK-ICE又はTK-LEをA549細胞MOI=0.1又はCT26細胞MOI=10でそれぞれ感染させ(n=3)、感染から24、48、72時間後に細胞を蛍光顕微鏡(オリンパス社製)にて観察を行い(
図16)、上清を回収した。各24、48、72時間後に回収した上清を100倍希釈し、DuoSet ELISA Mouse IL-7 (R&D Systems社製 DY407)、DuoSet ELISA Mouse CCL-19 (R&D Systems社製 DY440)及びDuoSet Ancillary Reagent Kit2 (R&D Systems社製 DY008)によって、上清0.5mL中のIL-7及びCCL19の分泌量を測定した。測定結果を
図17に示す。
【0099】
図16、17に示すように、感染24、48、72時間のA549細胞及びCT26細胞におけるeGFP蛍光発現はTK-ICEとTK-LEで同程度であり、A549細胞では感染48時間後にはほとんど全ての細胞において検出され、CT26細胞では時間の経過に伴ってeGFP蛍光の発現が増加していた。また、A549細胞及びCT26細胞において、TK-ICEを感染させた場合には感染24時間後よりIL-7及びCCL19は検出され、A549細胞では感染48時間後にはほぼプラトーに達しており、CT26細胞では時間の経過に伴って上昇していた。一方、TK-LEを感染させた場合にはIL-7及びCCL19は検出限界以下であった。上記結果から、TK-ICEは腫瘍細胞を破壊すると共に、IL-7、CCL19を分泌することが確認された。
【0100】
[実施例9]
<抗腫瘍効果>
上記実施例8により、上記で作製した遺伝子組換えワクシニアウイルスTK-ICEは、腫瘍細胞に感染してがん細胞を破壊すると共に、IL-7及びCCL19を分泌することが確認された。そこで、遺伝子組換えワクシニアウイルスTK-ICEの抗腫瘍効果を調べた。
【0101】
図18に示すようにマウス大腸癌CT26細胞(5×10
5細胞)をBALB/cマウスの両腹部の皮下に移植し成長させた。次に、各遺伝子組換えワクシニアウイルス(3-5×10
7プラーク形成単位(PFU))を合計3回(0、2、4日)、両腹部に形成した腫瘍のうち大きい方を選択し、その選択した腫瘍内に投与し、以後両腹部の腫瘍径測定によりウイルスの抗腫瘍効果を検討した。尚、1回目の投与前の投与側の腫瘍は43~102mm
3、非投与側の腫瘍は24~82mm
3であった。結果を
図19に示す。
【0102】
図19の結果から、IL-7とCCL19を発現しないTK-LE投与群(N=7)では、PBS投与群(N=8)と比べ投与側の腫瘍では腫瘍の増殖を抑制していたが、非投与群では腫瘍に対する抑制効果は見られなかった。それに対して、IL-7及びCCL19を発現するTK-ICE投与群(N=4)では、PBS投与群(N=4)と比べ投与側の腫瘍だけではなく非投与側の腫瘍においても腫瘍増殖の抑制が見られた。なお、図示はしていないが、TK-LEが感染した腫瘍細胞で発現する発光酵素(ルシフェラーゼを)を、基質(ルシフェリン)を投与して発光の有無を確認することで非侵襲的にウイルスを検出する方法により、一方の腹側の腫瘍に投与した遺伝子組換えワクシニアウイルスは、他腹側の腫瘍にまで移ることはないことを確認した。したがって、TK-ICEによる腫瘍細胞の破壊と共に腫瘍局所でのIL-7及びCCL19の分泌によって、投与対象の腫瘍免疫が惹起されると共に内在性T細胞のメモリー機能が増強されることで、投与側の腫瘍の消失だけではなく非投与側の腫瘍の増殖抑制が確認され、当該悪性腫瘍の再発を抑制すると考えられる。
【配列表】