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7595896照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G21C 1/02 20060101AFI20241202BHJP
   G21B 1/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G21C1/02
G21B1/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024166817
(22)【出願日】2024-09-26
【審査請求日】2024-09-26
(31)【優先権主張番号】202311453483.6
(32)【優先日】2023-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523095211
【氏名又は名称】天津大学
(74)【代理人】
【識別番号】100232862
【弁理士】
【氏名又は名称】王 雪
(72)【発明者】
【氏名】徐 連勇
(72)【発明者】
【氏名】趙 雷
(72)【発明者】
【氏名】王 棟
(72)【発明者】
【氏名】韓 永典
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 康達
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-9828(JP,A)
【文献】特開昭63-286556(JP,A)
【文献】特開昭62-37352(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108374166(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第116514541(CN,A)
【文献】中国特許第113061781(CN,B)
【文献】谷川 博康 他,これからの原子力システムを担う新原子力材料,日本原子力学会誌,Vol.54,No.10,日本,2012年,p.680-684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 1/02
G21B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する方法であって、
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、前記原子力発電構造材料の化学的自由エネルギー密度を取得するステップと、
前記原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、前記原子力発電構造材料の弾性自由エネルギー密度を取得するステップと、
前記化学的自由エネルギー密度及び前記弾性自由エネルギー密度に基づいて、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式の熱力学モデルを構築し、界面モビリティ、ヘリウム及び空孔の化学的移動度、並びに照射条件下でのヘリウム及び空孔の生成速度を取得することにより、フェーズフィールド方程式の動力学モデルを構築し、照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測するステップと、
を含み、
照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測する過程において、現時間ステップの濃度場及び秩序変数場を取得し、可視化し、現時間ステップのヘリウムバブルの進化を取得し、前記秩序変数場に基づいてヘリウムバブルの密度及びサイズを定量的統計した後、反復計算を行い、照射下ヘリウムバブルの進化過程を取得することを特徴とする、方法。
【請求項2】
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー及びヘリウム原子形成エネルギーを取得する過程において、最適化後の空孔含有単位格子の総エネルギー及び最適化後の格子間ヘリウム原子含有単位格子総エネルギーを取得し、最適化後の完全な単位格子の総エネルギー及び総粒子数に基づいて、分子動力学計算を行い、前記空孔形成エネルギー及び前記ヘリウム原子形成エネルギーをそれぞれ取得することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化学的自由エネルギー密度を取得する過程において、基体の第1自由エネルギー密度及びヘリウムバブルの第2自由エネルギー密度に基づいて、補間関数を設定することにより、前記化学的自由エネルギー密度を生成し、ここで、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、前記第1自由エネルギー密度及び前記第2自由エネルギー密度を取得することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1自由エネルギー密度を取得する過程において、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、モル体積分率、アボガドロ定数、気体定数及び絶対温度に従って前記第1自由エネルギー密度を取得することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第2自由エネルギー密度を取得する過程において、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、ヘリウムバブルにおけるヘリウムの平衡濃度及びヘリウムバブルにおけるヘリウムの最大濃度、並びに前記モル体積分率、前記気体定数及び前記絶対温度に従って、前記第2自由エネルギー密度を取得することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
弾性定数及び弾性歪みを取得する過程において、前記原子力発電構造材料のj方向における小歪み、正の歪み条件下での応力及び負の歪み条件下での応力を取得することにより、前記原子力発電構造材料の弾性定数を取得し、
前記原子力発電構造材料の総歪みに基づいて、前記原子力発電構造材料の照射によるヘリウムバブルの固有歪み及び前記原子力発電構造材料の塑性歪みに応じて、前記弾性歪みを取得することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
照射によるヘリウムバブルの固有歪みを取得する過程において、ヘリウムバブルの内圧及び前記弾性定数の成分を取得し、クロネッカーのデルタに従って照射ヘリウムバブルの固有歪みを取得し、ここで、ヘリウムバブル内のヘリウム濃度、ボルツマン定数、絶対温度、原子体積及びファンデルワールス定数により、前記ヘリウムバブルの内圧を取得することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
塑性歪みを取得する過程において、初期塑性剪断速度、転位剪断速度、歪み感度指数、Schimidテンソル因子、応力テンソル、限界剪断応力、総すべり系数及び現在のすべり系に基づいて、前記塑性歪みを取得することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測するシステムであって、
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度を採取するためのデータ採取モジュールと、
前記原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、前記原子力発電構造材料の化学的自由エネルギー密度を取得するための化学的自由エネルギー密度計算モジュールと、
前記原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、前記原子力発電構造材料の弾性自由エネルギー密度を取得するための弾性自由エネルギー密度計算モジュールと、
前記化学的自由エネルギー密度及び前記弾性自由エネルギー密度に基づいて、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式の熱力学モデルを構築し、界面モビリティ、ヘリウム及び空孔の化学的移動度、並びに照射条件下でのヘリウム及び空孔の生成速度を採取することにより、フェーズフィールド方程式の動力学モデルを構築し、前記原子力発電構造材料の照射下ヘリウムバブルの進化を予測する照射下ヘリウムバブル進化予測モジュールと、
を含み、
照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測する過程において、現時間ステップの濃度場及び秩序変数場を取得し、可視化し、現時間ステップのヘリウムバブルの進化を取得し、前記秩序変数場に基づいてヘリウムバブルの密度及びサイズを定量的統計した後、反復計算を行い、照射下ヘリウムバブルの進化過程を取得することを特徴とする、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電システム用金属構造材料の照射条件下でのミクロ組織の予測技術分野に属し、具体的には、照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化(Evolution of helium bubble in metal materials under irradiation)を予測する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会のクリーンエネルギーへの需要が高まるにつれ、原子力エネルギーは現代のエネルギーシステムの重要な部分となっている。高速増殖炉を主とする先進的な原子力エネルギーシステムの材料問題は、プロジェクト開発の重要な問題である。他の産業と比較して、原子力構造材料は使用中に中性子照射にさらされ、継続的な変位損傷により空孔や格子間原子などの飽和点欠陥が発生する場合がある。拡散、温度、応力及び固有微細構造(例えば、粒界、転位、界面)の共同作用下で、これらの点欠陥は転位ループ、ボイド、バブルに発展することがよくあります。照射硬化と高温ヘリウム脆化が金属の粒界破壊を引き起こすため、照射された材料中の核変換ヘリウムによるヘリウムバブルは特に注目されている。しかし、実験機器の空間的及び時間的分解能により、ナノ及びミクロンスケールでのヘリウムバブルの研究は大きく制限されている。コンピュータシミュレーション技術の発展に伴い、多くの研究成果により、Heバブルの核形成、成長、粗大化のプロセスが原子スケール、ナノスケール及びマイクロスケールで明らかになり、照射下材料内のHeバブルについての理解が深まっている。しかし、実際の使用中、Heバブルの発生は材料の応力及び歪み状態と強い相互作用を有する。Heバブル内の高圧により、高温で塑性変形が発生することで使用条件下で材料が降伏する可能性がある。一方、原子力発電構造材料は応力下で使用されることが多いが、照射によるHeバブルに対する応力状態の影響を報告した研究はほとんどない。したがって、物理的に意味のあるHeバブルの進化方程式を確立することは、照射下Heバブルの形成を理解し、材料の照射欠陥を予測する上で非常に重要である。照射によるHeバブルと応力状態の間の相互作用を深く理解でき、原子力発電構造材料の性能評価と寿命予測に重要な理論的基礎を提供することができる。
【発明の概要】
【0003】
上記の問題を解決するために、本発明の目的は、ヘリウムバブルの進化(evolution)を定量的に予測する技術を提供することで照射条件下でのヘリウムバブルの進化をより機序的に理論的基礎を築くことである。
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明は、照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する方法であって、
原子力発電(nuclear power)構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、原子力発電構造材料の化学的自由エネルギー密度を取得するステップと、
原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、原子力発電構造材料の弾性自由エネルギー密度を取得するステップと、
化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて、原子力発電構造材料の空孔及びヘリウム原子の拡散係数、並びに照射下ヘリウム原子の生成速度を採取することにより、フェーズフィールド方程式に基づく動力学モデルを構築し、照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測するステップと、
を含む方法を提供する
【0005】
好ましくは、原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー及びヘリウム原子形成エネルギーを取得する過程において、最適化後の空孔含有単位格子の総エネルギー及び最適化後の格子間ヘリウム原子含有単位格子総エネルギーを取得し、最適化後の完全な単位格子の総エネルギー及び総粒子数に基づいて、分子動力学計算を行い、空孔形成エネルギー及びヘリウム原子形成エネルギーをそれぞれ取得する。
【0006】
好ましくは、化学的自由エネルギー密度を取得する過程において、基体の第1自由エネルギー密度及びヘリウムバブルの第2自由エネルギー密度に基づいて、補間関数を設定することにより、化学的自由エネルギー密度を生成し、ここで、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、第1自由エネルギー密度及び第2自由エネルギー密度を取得する。
【0007】
好ましくは、第1自由エネルギー密度を取得する過程において、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、モル体積分率、アボガドロ定数、気体定数及び絶対温度に従って第1自由エネルギー密度を取得する。
【0008】
好ましくは、第2自由エネルギー密度を取得する過程において、空孔濃度及びヘリウム濃度に基づいて、ヘリウムバブルにおけるヘリウムの平衡濃度及びヘリウムバブルにおけるヘリウムの最大濃度、並びにモル体積分率、気体定数及び絶対温度に従って、第2自由エネルギー密度を取得する。
【0009】
好ましくは、弾性定数及び弾性歪みを取得する過程において、原子力発電構造材料のj方向における小歪み、正の歪み条件下での応力及び負の歪み条件下での応力を取得することにより、原子力発電構造材料の弾性定数を取得し、
原子力発電構造材料の総歪みに基づいて、原子力発電構造材料の照射によるヘリウムバブルの固有歪み及び原子力発電構造材料の塑性歪みに応じて、弾性歪みを取得する。
【0010】
好ましくは、照射によるヘリウムバブルの固有歪みを取得する過程において、ヘリウムバブルの内圧及び弾性定数の成分を取得し、クロネッカーのデルタに従って照射ヘリウムバブルの固有歪みを取得し、ここで、ヘリウムバブル内のヘリウム濃度、ボルツマン定数、絶対温度、原子体積及びファンデルワールス定数により、ヘリウムバブルの内圧を取得する。
【0011】
好ましくは、塑性歪みを取得する過程において、初期塑性剪断速度、転位剪断速度、歪み感度指数、Schimidテンソル因子、応力テンソル、限界剪断応力、総すべり系数及び現在のすべり系に基づいて、塑性歪みを取得する。
【0012】
好ましくは、照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測する過程において、化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式の熱力学モデルを構築し、界面モビリティ、ヘリウム及び空孔の化学的移動度(Chemical mobility)、並びに照射条件下でのヘリウム及び空孔の生成速度を取得し、フェーズフィールド方程式の動力学モデルを構築し、現時間ステップ(即ち、現在の時間ステップ)の濃度場(concentration field)及び秩序変数場(order parameter field)を取得し、可視化し、現時間ステップでのヘリウムバブルの進化を取得し、秩序変数場に基づいてヘリウムバブルの密度及びサイズを定量的統計した後、反復計算を行い、照射下ヘリウムバブルの進化過程を取得する。
【0013】
本発明は、照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測するシステムであって、
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度を採取するためのデータ採取モジュールと、
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、原子力発電構造材料の化学的自由エネルギー密度を取得するための化学的自由エネルギー密度計算モジュールと、
原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、原子力発電構造材料の弾性自由エネルギー密度を取得するための弾性自由エネルギー密度計算モジュールと、
化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式の熱力学モデルを構築し、原子力発電構造材料の空孔及びヘリウム原子の拡散係数、並びに照射下ヘリウム原子の生成速度を採取し、フェーズフィールド方程式の動力学モデルを構築し、原子力発電構造材料の照射下ヘリウムバブルの進化を予測する照射下ヘリウムバブル進化予測モジュールと、
を含むことを特徴とする、システムをさらにて開示する。
【0014】
本発明は、下記の技術的効果を有する。
本発明では、フェーズフィールドシミュレーションにより照射下ヘリウムバブルの形成及び進化を研究し、ヘリウムバブルの密度及びサイズを定量的に取得し、実験研究の欠点を補うことができる。
本発明では、結晶塑性理論に基づいて、ヘリウムバブルの高内圧によって引き起こされ得る塑性変形を考慮した上、フェーズフィールドシミュレーションによるヘリウムバブルの進化の予測精度を向上させる。
本発明に係る予測方法は、簡単で、必要なパラメータが原子シミュレーション及び有限要素シミュレーションにより確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の実施例又は従来技術における技術的手段をより明確に説明するために、以下、実施例に使用される図面を簡単に説明する。明らかなように、以下に説明される図面は、本発明のいくつかの実施例にすぎず、当業者であれば、創造的努力なしにこれらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【0016】
図1】本発明の実施例に記載の方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施例に記載の単一のヘリウムバブルの進化過程をシミュレートする図である。ここで、aではシミュレーション時間ステップが1であり、bではシミュレーション時間ステップが20であり、cではシミュレーション時間ステップが30である。
図3】本発明の実施例に記載の単一のヘリウムバブルの進化をシミュレートする過程におけるヘリウム濃度の変化の模式図である。
図4】本発明の実施例に記載の316Hオーステナイト系ステンレス鋼の550℃、ヘリウムイオン照射条件下でのヘリウムバブルのサイズ及びサイズ分布のシミュレーションと実験の比較図である。
図5】本発明の実施例に記載の316Hオーステナイト系ステンレス鋼の550℃、ヘリウムイオン照射条件下での応力作用のHeバブルに対する影響をシミュレートする図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、本発明の実施例における図面を参照しながら本発明の実施例における技術的手段を明確で完全に説明する。明らかなように、以下の実施例は本発明の実施例の一部であり、全ての実施例ではない。通常、図面に示される本発明の実施例の部品は様々な異なるレイアウトで配置及び設計することができる。したがって、以下の図面で提供される本発明の実施例の説明は、特許請求の範囲を制限するものではなく、本発明の特定の実施例を示すものに過ぎない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的努力なしに得た全ての他の実施例はいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0018】
図1-5に示すように、本発明は、照射下での金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する技術を提供する。この技術は、予測方法、及び予測方法に基づいて予測システムを構築する過程を含む。具体的には、
原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、材料の化学的自由エネルギー密度を確立する。
原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、材料の弾性自由エネルギー密度を確立する。
化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式熱力学(モデル)モジュールを構築する。
熱力学(モデル)モジュールに基づいて、原子力発電構造材料の空孔及びヘリウム原子の拡散係数、並びに照射下ヘリウム原子の生成速度を採取することによって、フェーズフィールド方程式の動力学(モデル)モジュールを構築する。
フェーズフィールド動力学(モデル)モジュールの計算結果に基づいて、データ処理(モデル)モジュールを構築する。
データ処理(モデル)モジュールのデータ結果に基づいて、次のシミュレーション時間ステップの熱力学(モデル)モジュール及び動力学(モデル)モジュールの計算を行い、このように繰り返しループを行って照射下のヘリウムバブルの進化を取得する。
【0019】
空孔形成エネルギー及びヘリウム原子形成エネルギーは、分子動力学に基づいて計算されたものである。
【0020】
分子動力学の計算方法として、LAMMPSソフトウェアにより分子動力学計算を行う。空孔形成エネルギーの計算式は下式である。
【数1】
式中、
【数2】
は空孔形成エネルギーであり、Eは最適化した後の空孔含有単位格子の総エネルギーであり、Eは最適化した後の完全な単位格子の総エネルギーであり、Nは総粒子数である。
【0021】
ヘリウム原子の形成エネルギーの計算式は下式である。
【数3】
式中、
【数4】
はヘリウム原子形成エネルギーであり、Eは最適化された後の格子間ヘリウム原子含有単位格子の総エネルギーであり、Eは最適化された後の完全な単位格子の総エネルギーであり、Nは総粒子数である。
【0022】
材料の弾性定数は、分子動力学に基づいて計算されたものである。
【0023】
分子動力学の計算方法として、LAMMPSソフトウェアにより分子動力学計算を行う。弾性定数の計算式は下式である。
【数5】
式中、Cijは弾性定数であり、δεはj方向における小歪みであり、
【数6】
は正の歪み条件下での応力であり、
【数7】
は負の歪み条件下での応力である。
【0024】
弾性歪みの計算式は下式である。
【数8】
式中、
【数9】
は弾性歪みであり、εijは総歪みであり、
【数10】
は照射ヘリウムバブル(照射により形成されたヘリウムバブル)の固有歪みであり、
【数11】
は塑性歪みである。
【0025】
照射ヘリウムバブルの固有歪み計算式は下式である。
【数12】
式中、Pはヘリウムバブルの内圧であり、C11及びC12は弾性定数の成分(component)であり、δijはクロネッカーのデルタである。
【0026】
ヘリウムバブル内圧は、ヘリウムバブル内のヘリウム濃度に基づいて計算されたものである。計算式は下式である。
【数13】
式中、cはヘリウムバブル内のヘリウム濃度であり、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、Ωは原子体積であり、bはファンデルワールス定数である。
【0027】
塑性歪みの計算式は、下記である。
【数14】
式中、
【数15】
は初期塑性剪断速度であり、
【数16】
は転位剪断速度であり、nは歪み感度指数であり、mαはSchimidテンソル因子であり、σは応力テンソルであり、
【数17】
は限界剪断応力であり、Nは総すべり系数であり、αは現在のすべり系である。
【0028】
限界剪断応力は、転位モデルに基づいて計算されたものである。その計算式は下式である。
【数18】
式中、
【数19】
は格子の固有抵抗であり、
【数20】
は可動転位密度であり、
【数21】
は不動転位密度であり、aαは転位間の硬化係数であり、μは剪断弾性率であり、bはバーガースベクトルの長さであり、Δτirは照射硬化の限界剪断応力に対する寄与である。
転位密度の計算式は下式である。
【数22】
式中、kmul、Rcp、βρ、krecovは、それぞれ可動転位の増殖、可動転位の消滅、他の転位での可動転位セグメントの捕捉(Trapping of mobile dislocation segment at other dislocation)及び不動転位の熱回復を示す。
【0029】
フェーズフィールド方程式の動力学(モデル)モジュールにより計算された現時間ステップの濃度場及び秩序変数場に基づいて、PARAVIEWソフトウェアにより可視化し、ヘリウムバブルの形態の進化を取得する。
フィールド方程式の動力学(モデル)モジュールにより計算された現時間ステップの秩序変数場に基づいて、ヘリウムバブル密度及びサイズを定量的統計する。
【0030】
定量的統計されたヘリウムバブル密度及びサイズに基づいて、次の時間ステップのヘリウムバブルの内圧を取得し、繰り返しループを行い、照射下ヘリウムバブルの進化過程を取得する。
【0031】
実施例1:実施例では、本発明で提供される照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する技術により、核グレード316Hオーステナイト系ステンレス鋼を例とする。以下のステップを含む。
図1は、本明細書の実施例で提供される照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化を予測する技術のフローチャートである。
【0032】
ステップ1:分子動力学に基づいて空孔形成エネルギー及びヘリウム原子形成エネルギーを計算する。
【0033】
分子動力学の計算方法として、LAMMPSソフトウェアにより分子動力学計算を行う。空孔形成エネルギーの計算式は下式である。
【数23】
式中、
【数24】
は空孔形成エネルギーであり、Eは最適化された後の空孔含有単位格子の総エネルギーであり、Eは最適化された後の完全な単位格子の総エネルギーであり、Nは総粒子数である。
【0034】
ヘリウム原子の形成エネルギーの計算式は下式である。
【数25】
式中、
【数26】
はヘリウム原子の形成エネルギーであり、Eは最適化された後の格子間ヘリウム原子含有単位格子の総エネルギーであり、Eは最適化された後の完全な単位格子の総エネルギーであり、Nは総粒子数である。
【0035】
ステップ2:化学的自由エネルギー密度を取得する。
【数27】
式中、
【数28】
は補間関数であり、fmatrix及びfbubbleは、それぞれ基体の自由エネルギー密度(第1自由エネルギー密度)及びヘリウムバブルの自由エネルギー密度(第2自由エネルギー密度)であり、c及びcはフェーズフィールドシミュレーションにおける濃度場であり、それぞれ空孔濃度及びヘリウム濃度を示す。ηはフェーズフィールドシミュレーションにおいてヘリウムバブルの進化を記述する非保存場(nonconservative field)変数であり、η=0は基体を示し、η=1はヘリウムバブルを示す。
【0036】
基体の自由エネルギー密度の数式は下式である。
【数29】
式中、Vはモル体積分率であり、Nはアボガドロ定数であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度である。
【0037】
ヘリウムバブルの自由エネルギー密度の数式は下式である。
【数30】
式中、
【数31】
はヘリウムバブルにおけるヘリウムの平衡濃度であり、
【数32】
はヘリウムバブルにおけるヘリウムの最大濃度である。
【0038】
ステップ3:分子動力学に基づいて材料の弾性定数を計算する。分子動力学の計算方法として、LAMMPSソフトウェアにより分子動力学計算を行う。弾性定数の計算式は下式である。
【数33】
式中、Cijは弾性定数であり、δεはj方向における小歪みであり、
【数34】
は正の歪み条件下での応力であり、
【数35】
は負の歪み条件下での応力である。
【0039】
ステップ4:弾性歪みの計算式を書き出す。
【数36】
式中、
【数37】
は弾性歪みであり、εijは総歪みであり、
【数38】
は照射ヘリウムバブルの固有歪みであり、
【数39】
は塑性歪みである。
【0040】
ステップ5:照射ヘリウムバブルの固有歪みを計算する。
【数40】
式中、Pはヘリウムバブルの内圧であり、C11及びC12は弾性定数の成分であり、δijはクロネッカーのデルタである。
【0041】
ヘリウムバブルの内圧は、ヘリウムバブル内のヘリウム濃度に基づいて計算されたものである。計算式は下式である。
【数41】
式中、cはヘリウムバブル内のヘリウム濃度であり、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、Ωは原子体積であり、bはファンデルワールス定数である。
【0042】
ステップ6:塑性歪みを計算する。
【数42】
式中、
【数43】
は初期塑性剪断速度であり、
【数44】
は転位剪断速度であり、nは歪み感度指数であり、mαはSchimidテンソル因子であり、σは応力テンソルであり、
【数45】
は限界剪断応力であり、Nは総すべり系数であり、αは現在のすべり系である。
【0043】
ステップ6において、限界剪断応力の計算式は下式である。
【数46】
式中、
【数47】
は格子の固有抵抗であり、
【数48】
は可動転位密度であり、
【数49】
は不動転位密度であり、aαは転位間の硬化係数であり、μは剪断弾性率であり、bはバーガースベクトルの長さであり、Δτirは照射硬化の限界剪断応力に対する寄与である。
【0044】
ステップ6において、転位密度の計算式は下式である。
【数50】
式中、kmul、Rcp、βρ、krecovは、それぞれ可動転位の増殖、可動転位の消滅、ブロックされた可動転位及び不動転位の熱回復を示す。
【0045】
ステップ7:計算されたヘリウムバブルの固有歪み及び塑性歪みに基づいて弾性自由エネルギー密度を取得する。
【数51】
式中、Cijklは弾性定数を示し、εijは総歪みを示し、
【数52】
はヘリウムバブルの固有歪みを示し、
【数53】
は塑性歪みを示す。
【0046】
ステップ8:計算された化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を記述するためのフェーズフィールド方程式の熱力学(モデル)モジュールを構築する。
【数54】
式中、Fはシミュレーションシステム全体のエネルギーを示し、kは界面能に関連するパラメータを示し、Vはフェーズフィールドシミュレーションシステムを示す。
【0047】
ステップ9:フェーズフィールド方程式の動力学(モデル)モジュールを構築する。
【数55】
式中、Mηは界面モビリティであり、M及びMはヘリウム及び空孔の化学的移動度(モビリティ)であり、g及びgは照射条件下でのヘリウム及び空孔の生成速度を示す。
【0048】
ステップ10:フェーズフィールド方程式の動力学(モデル)モジュールにより計算された現時間ステップの濃度場及び秩序変数場に基づいて、PARAVIEWソフトウェアにより可視化し、現時間ステップでのヘリウムバブルの形態の進化を取得し、フィールド方程式の動力学(モデル)モジュールにより計算された現時間ステップの秩序変数場に基づいてヘリウムバブル密度及びサイズを定量的統計する。
【0049】
ステップ11:ステップ10における密度及びサイズに基づいて、ステップ5における算式により次の時間ステップのヘリウムバブル内圧を取得し、繰り返しループを行い、照射ヘリウムバブルの進化過程を取得する。表1には、実施例1の主な物性パラメータが示される。
【表1】
【0050】
図4-5は、本発明で提供される照射下金属材料中のヘリウムバブルの進化の予測技術による316Hオーステナイト系ステンレス鋼の550℃、ヘリウムイオン照射条件下でのヘリウムバブルのサイズ及びサイズ分布のシミュレーションと実験の比較、並びにヘリウムイオン照射条件下での応力作用のHeバブルに対する影響を示す。図4,5から分かるように、フェーズフィールドシミュレーションは比較的高い予測精度を有し、外部応力の作用は照射下Heバルブの形成を促進でき、フェーズフィールドシミュレーションは実験研究の不足を補うことができる。
【0051】
実施例の結果から分かるように、本発明において、照射条件下でのヘリウムバブルの形成及び進化を予測し、ヘリウムバブルの進化を定量的に予測する方法を提供する。これは、照射条件下でのヘリウムバブルの進化をより機序的に理論的基礎を築き、照射条件下での原子力発電システム構造材料のミクロ組織予測の理論的基礎として計算シミュレーションの応用価値を向上させる。
【0052】
本発明は、本発明の実施例に係る方法、装置(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート及び/又はブロック図を参照して説明される。コンピュータプログラム命令によってフローチャート及び/又はブロック図における各フロー及び/又はブロック、並びにフローチャート及び/又はブロック図におけるフロー及び/又はブロックの結合を実現することができることを理解されたい。これらのコンピュータプログラム命令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、組み込みプロセッサ又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに命令して、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサによって実行される命令によって、フローチャートの1つ又は複数のフロー及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックにおいて指定された機能を実現するための装置を生成するように、1つのマシンを生成することができる。
【0053】
本発明の説明において、「第1」、「第2」という用語は、単に目的を説明するためのものであり、相対的な重要性を指示又は暗示する、又は指示された技術的特徴の数を暗黙的に示すものと理解できない。よって、「第1」、「第2」の特徴は、明示的又は暗黙的に1つ又はそれ以上の特徴を含むことができる。本発明の説明において、「複数」は、特に明記しない限り、2つ又は2つ以上の意味である。
【0054】
当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な変更及び修正を行うことができる。このように、本発明のこれらの修正及び修正は、本発明の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内に属する限り、本発明は、これらの修正及び変形を含むことを意図する。
【要約】
本発明は、照射下原子力発電システム金属構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測するための方法及びシステムに関し、原子力発電システム金属構造材料の照射条件下でのミクロ組織予測の技術分野に属し、原子力発電構造材料の空孔形成エネルギー、ヘリウム原子形成エネルギー、気体定数、モル体積分率及び絶対温度に基づいて、原子力発電構造材料の化学的自由エネルギー密度を取得するステップと、
原子力発電構造材料の弾性定数及び弾性歪みに基づいて、原子力発電構造材料の弾性自由エネルギー密度を取得するステップと、化学的自由エネルギー密度及び弾性自由エネルギー密度に基づいて、原子力発電構造材料の空孔及びヘリウム原子の拡散係数、並びに照射下ヘリウム原子の生成速度を採取することにより、フェーズフィールド方程式に基づく動力学モデルを構築し、照射下原子力発電構造材料中のヘリウムバブルの進化を予測するステップとを含む。照射条件下でのヘリウムバブルの進化をより機序的に理論的基礎を築く。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5