(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20241202BHJP
【FI】
H02J50/12
(21)【出願番号】P 2024501026
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2023001128
(87)【国際公開番号】W WO2023157529
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2022023872
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋昌
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌也
(72)【発明者】
【氏名】田村 義信
(72)【発明者】
【氏名】赤井 鈴鹿
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-239012(JP,A)
【文献】特開2019-041529(JP,A)
【文献】特開2019-092251(JP,A)
【文献】MEI, Henry et al.,Cavity Resonator Wireless Power Transfer System for Freely Moving Animal Experiments,IEEE Transactions on Biomedical Engineering,2017年04月,Vol.64,No.4,p.775-785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
適宜な導電率および周波数選択性を有する電磁波遮蔽部材によって全体が包囲されたキャビティ共振器と、少なくとも1つの受電部と、少なくとも1つの送電部と、少なくとも1つの共振器と、を備え、
前記送電部の送電回路から前記受電部の受電回路までの無線電力伝送システムの等価回路において、前記送電回路から前記受電回路までの送電経路上に、前記キャビティ共振器を含めたN個(N≧2)の共振器がインバータを介して直列に接続されて
おり、
前記共振器を前記キャビティ共振器からみて送電器側に1個以上備える、無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記共振器を前記キャビティ共振器からみて受電器側および送電器側の両側に1個以上備え、N≧3を満たす、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記共振器は、前記キャビティ共振器を除いてLC並列共振器からなる、請求項1または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記キャビティ共振器が送電器側から数えてm番目の共振器であるとき、m+1番目の共振器よりも送電回路側のシャント素子は前記キャビティ共振器に接地しており、m+1番目の共振器を含む受電回路側のシャント素子は前記受電部を構成する受電器のグラウンドに接続されている、請求項1
または2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記受電部を構成する受電器の導体線路および前記送電部を構成する送電器の導体線路は、いずれも一方の先端が開放端となっており、位相定数βと導体線路長Lの積がπ/2より小さい、請求項1
または2に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送システムに関する。より特定的には、無線電力伝送に用いるアンテナの短縮および広帯域化に関する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IOT(Internet of Things)デバイスの爆発的な増加に伴って、これらへの電力供給方法に課題が生じている。膨大な数のデバイスへの配線接続は困難であり、また、電池を電源とする場合には消耗した電池の交換に多大な労力を要する問題がある。これらを解決するために、無線にて電力を伝送する技術が期待されている。
【0003】
非特許文献1には、金属で囲まれた空間内を共振器(以下、キャビティ共振器と呼称する)に見立て、キャビティ共振器固有の共振周波数で送電部から電磁波を照射し、キャビティ共振器内の受電器へ送電する無線電力伝送システム(空洞共振式無線電力伝送システムと呼ばれる)が開示されている。非特許文献1には、キャビティ共振器のサイズおよび共振モードに対する共振周波数の関係が詳細に記載されている。
【0004】
非特許文献2には、金属で囲まれた空間内を共振器に見立て、キャビティ共振器固有の共振周波数で送電部から電磁波を照射し、キャビティ共振器内の受電器へ送電する無線電力伝送システムが開示されている。非特許文献2には、キャビティ共振器の内包物によって共振周波数が変化する旨の記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】S.Rahimizadeh,S.Korhummel,B.Kaslon,Z.Popovic,“Scalable adaptive wireless powering of multiple electronic devices in an over-moded cavity”, Conference Paper:Wireless Power Transfer(WPT),2013 IEEE
【文献】H.Mei,K.A.Thanckston,R.A.Bercich,J.G.R.Jefferys,and P.P.Irazoqui,“Cavity Resonator Wireless Power Transfer System for Freely Moving Animal Experiments”, IEEE Biomed.Eng.,Vol.64,No.4,pp.775-785 June 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に示すように、空洞共振式無線電力伝送システムでは、導電体で包囲された空間を共振器に見立てて、キャビティ共振器の寸法と共振モードによって決定される共振周波数に設定した電磁波を利用して、無線電力伝送が行われる。従って、送電に際しては、共振周波数をあらかじめ何らかの方法で把握してから利用する必要があった。
【0007】
しかし、非特許文献2に示すように、キャビティ共振器に内包物が存在すると、空間の平均的な比誘電率が変化することによって、共振周波数が変化する問題がある。すなわち内包物の内容や設置箇所が変化するような環境では、あらかじめ調整しておいた共振周波数で適切に送電できるとは限らない課題があった。
【0008】
工場や倉庫などの空間をキャビティ共振器と見立て、実使用環境におけるIOTデバイスへ無線電力伝送するシステムを想定したとき、キャビティ共振器内のIOTデバイスの配置や、その他の物体の配置は必ずしも一定になるとは限らない。すなわち共振周波数はその時々で変化すると予想される。
【0009】
このとき送受電に用いられる送受電器の帯域以上に共振周波数が変化してしまうと、送受電の効率は著しく低下することが予想される。
【0010】
本発明は、キャビティ共振器内の物体の配置、個数、材質に関わらず、無線送電を可能とするために、送受電器の導体線路寸法と効率を維持したまま、広帯域化が可能となる無線電力伝送システムを提供することを目的とする。
【0011】
また、他の利用方法として、本発明は、送受電器の帯域と効率を維持したまま、導体線路寸法の小型化が可能となる無線電力伝送システムを提供することを目的とする。
【0012】
なお、ここでの導体線路は、通常の電磁波放射でいうアンテナに相当する部位であり、電磁波を放射するという意味では同義である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の無線電力伝送システムは、適宜な導電率および周波数選択性を有する電磁波遮蔽部材によって全体が包囲された構造体、すなわちキャビティ共振器と、少なくとも1つの受電部と、少なくとも1つの送電部と、少なくとも1つの共振器と、を備える。
【0014】
本発明の無線電力伝送システムでは、送電部の送電回路から受電部の受電回路までの無線電力伝送システムの等価回路において、送電回路から受電回路までの送電経路上に、キャビティ共振器を含めたN個(N≧2)の共振器がインバータを介して直列に接続されている。一実施形態においては、送電器の導体線路あるいは受電器の導体線路の片方または両方に共振回路網が接続される。ここで、共振回路網は、送電器の導体線路と送電回路との間または受電器の導体線路と受電回路との間に設置されるものである。このとき、適宜整合回路が取り付けられても良い。共振回路網は、例えば、LC並列共振器とシリーズ接続されたキャパシタからなる対を、1つあるいは2つ以上具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導体線路寸法と放射効率を維持したままで、送受電器の帯域を広げることが可能となる。また、他の利用方法として、送受電器の帯域と放射効率を維持したままで、導体線路寸法を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システムの一例の構成図である。
【
図2】受電部3における受電器7の構成の一例を示す模式図である。
【
図3A】送電部4における送電器10aの構成の一例を示す模式図である。
【
図3B】送電部4における送電器10aの構成の別の一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の参考例に係るキャビティ共振器14と送電部15との関係を示す模式図である。
【
図5A】本発明の参考例に係る直線形状の導体線路を有する送電部15の模式図である。
【
図5B】本発明の参考例に係る屈曲形状の導体線路を有する送電部15の模式図である。
【
図6A】
図5Aに示す直線形状の対応関係を示す模式図である。
【
図6B】
図5Bに示す屈曲形状の対応関係を示す模式図である。
【
図7A】
図6Aに示す直線形状におけるS11のスミスチャートである。
【
図7B】
図6Bに示す屈曲形状におけるS11のスミスチャートである。
【
図8】送電部17、Jインバータ18およびキャビティ共振器19からなる等価回路16である。
【
図9】
図7Aおよび
図7Bに示すスミスチャートを、
図8に示す等価回路16でフィッティングすることで得られた結合容量Ciを示すグラフである。
【
図10】送電回路21、第一のJインバータ22、キャビティ共振器19、第二のJインバータ23および受電回路24からなる等価回路20である。
【
図11】数式3~数式9を利用して算出した、導体線路長Lと目標効率以上で送電可能な周波数帯域幅Δfとの関係を表すグラフである。
【
図12】本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システムの等価回路25である。
【
図13】本発明の実施例に係る無線電力伝送システム41の模式図である。
【
図15】比較例および実施例における周波数特性を示すグラフである。
【
図16】比較例および実施例における帯域と導体線路長との関係を示すグラフである。
【
図17】比較例および実施例における伝送効率と導体線路長との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の無線電力伝送システムは以下の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変更を加えることが可能である。
【0018】
本明細書において、要素間の関係性を示す用語(例えば「垂直」、「平行」、「直交」など)、および、要素の形状を示す用語は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0019】
(無線電力伝送システムの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システムの一例の構成図である。
図1において、無線電力伝送システム1は、適宜な導電率を有する電磁波遮蔽部材2によって全体が包囲された構造体を共振器に見立て、その内部に、少なくとも1つの受電部3と、少なくとも1つの送電部4とを備え、さらに送電部4あるいは受電部3の片方または両方に共振回路網5を備える。例えば送電部4に共振回路網5を取り付ける場合は、送電部4と送電回路6との間に設置する。すなわち、無線電力伝送システム1は無線電力伝送を実現するシステムの全体を指している。なお、電磁波遮蔽部材2で構成されるキャビティ共振器の形状は直方体形状に限定されるものではない。
【0020】
電磁波遮蔽部材2は導電性を有していれば特に限定されないが、好ましくは銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルなどの金属材料が挙げられる。あるいは、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性酸化物材料、グラファイト、有機導電材料などが挙げられる。これらは上記部材からなる複数の層で構成されてもよい。また、導電性を有していれば合金または混合物であっても構わない。加えて、電力供給する周波数において電磁波遮蔽部材として動作するのであれば、形状は板状、メッシュ状、膜状、ポーラス状などであってもよい。なお、電磁波遮蔽部材2は、無線電力伝送に供する周波数に対してのみ電磁波遮蔽機能を有していればよく、例えば無線通信用の周波数に対しては電磁波透過能を持ってもよい。すなわち、電磁波遮蔽部材2は、適宜な周波数選択性を有していればよい。なお、電磁波遮蔽部材2は、樹脂など電磁波を透過しやすい部材で被覆しても良い。
【0021】
受電部3は受電器7からなる。受電器7の構成の一例について、
図2を用いて説明する。受電器7は、例えば、電磁波を受電する導体線路8と、整流回路を含む受電回路9とから構成される。必要に応じて、スイッチ、整合回路等を取り付けてもよい。本発明を受電部3に適用する場合は、共振回路網10を導体線路8と受電回路9の間に取り付ける。導体線路8は代表的にはダイポールタイプ、モノポールタイプ、パッチタイプなどが適している。なお、導体線路8は適宜折り曲げてもよい。また、グラウンドあるいは受電部3の基準電位となる部分に線路の一部を短絡させた逆F型構造を採用してもよい。導体線路8の一部にキャパシタまたはインダクタを挿入することで対応周波数を調整することも可能である。これらは、電磁波遮蔽部材2で形成されるキャビティ共振器に由来した共振周波数に応じて、適切に選択される。
【0022】
送電部4は送電器10aからなる。送電器10aの構成の一例について、
図3Aおよび
図3Bを用いて説明する。
図3Aおよび
図3Bに示すように送電器10aは、導体線路11から構成される。導体線路11は、例えば
図3Aのように金属棒から構成されても良いし、
図3Bのように誘電体基板12の上にプリント基板配線13を取り付けて構成されても良い。導体線路11は電磁波遮蔽部材2に対して概ね垂直に設置されることが好ましい。このとき、導体線路11は、電磁波遮蔽部材2と電気的に接触しないように設置される。なお、本発明において導体線路11は共振回路網5または送電回路に接続されるが、適宜SMA(Sub Miniature Type A)端子などのコネクタを介してもよい。
【0023】
ここで、
図1に示す無線電力伝送システム1に利用される電磁波の周波数について考える。キャビティ共振器の水平方向の長さがa(X軸方向)およびb(Y軸方向)であり、垂直方向の長さがc(Z軸方向)である場合、共振周波数f
rは数式1のように決定することができる。
【0024】
【0025】
ここで、vは光速、μrは比透磁率、εrは比誘電率、m、n、pはそれぞれ整数を示している。
【0026】
例えば、キャビティ共振器の中に空気以外の物体が入った場合、空間の平均的な比透磁率と比誘電率は、それぞれμr’とεr’に変化する。これによって共振周波数はfr’にシフトすることとなる。このときfr’は数式2のように表される。
【0027】
【0028】
工場や倉庫などの空間をキャビティ共振器と見立て、実使用環境でのIOTデバイスへ無線電力伝送するシステムを想定したとき、キャビティ共振器内のIOTデバイスの配置や、その他の物体の配置は必ずしも一定とは限らない。つまり数式1に従って導出された共振周波数frと、数式2に従って導出された共振周波数fr’とは異なる。このことから、送受電器はいずれか1つの共振周波数だけを選択して設計するのではなく、ある程度の周波数の変化に対応できるように設計する必要がある。すなわち送受電帯域を広くする必要がある。
【0029】
本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システム1において、受電器7の導体線路8は、例えば、一方の先端が開放端となっており、位相定数βと導体線路長Lの積がπ/2より小さい。この場合、容量性オープンスタブとして機能する。そして導体線路8によってもたらされるキャパシタンスを介して、キャビティ共振器と受電部3は結合する。
【0030】
同様に、本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システム1において、送電器10aの導体線路11は、例えば、一方の先端が開放端となっており、位相定数βと導体線路長Lの積がπ/2より小さい。この場合、容量性オープンスタブとして機能する。そして導体線路11によってもたらされるキャパシタンスを介して、キャビティ共振器と送電部4は結合する。
【0031】
すなわちキャビティ共振器と受電部3、キャビティ共振器と送電部4がそれぞれ容量性結合をすることによって、送電部4から受電部3への無線電力伝送が可能となる。本発明者らによる鋭意検討の結果、導体線路長Lと結合容量に関する関係性を明らかにした。この関係性については、後述の参考例にて説明する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の構成およびその効果を具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
[参考例]
参考例では導体線路長Lと結合容量に関する関係性を明らかにし、本発明の構造とその効果との関係を説明する。
【0034】
図4は、本発明の参考例に係るキャビティ共振器14と送電部15との関係を示す模式図である。
【0035】
参考例では
図5Aまたは
図5Bに示す送電部15と、アルミニウムからなる骨組みと亜鉛メッシュ壁面とアルミニウム床面からなる電磁波遮蔽部材2とから構成される、
図4に示すキャビティ共振器14を考える。
【0036】
キャビティ共振器14は切妻屋根を持った形状をしている。X軸方向の長さaは1500mm、Y軸方向の長さbは1800mmである。垂直に立った壁部分の高さは1500mm、切妻屋根も含めた高さは1960mmである。送電部15の送電器はYZ面上に設置されている。
【0037】
送電部15としては、
図5Aに示すように直径1mmのCuロッドの先に直線形状の導体線路を配したプリント基板を取り付けたもの、または、
図5Bに示すように直径1mmのCuロッドの先に屈曲形状の導体線路を配したプリント基板を取り付けたものが用いられる。
図5Aおよび
図5Bにおいて、hはキャビティ共振器からプリント基板接続部までの距離を表しており、50mmで設定している。また、Lは導体線路の合計長さを表している。
【0038】
参考例では、導体線路長Lは100、150、200、385または600mmがありえる。また、
図5Aに示す直線形状(L形状とも記載する)の対応関係は
図6Aに示すとおりであり、
図5Bに示す屈曲形状(S形状とも記載する)の対応関係は
図6Bに示すとおりである。
【0039】
図6Aに示す直線形状および
図6Bに示す屈曲形状で導体線路長Lを適宜変更しつつ、計測したS11のスミスチャートを
図7Aおよび
図7Bにそれぞれ示す。
【0040】
ここで容量性結合をなすキャパシタンスを導出するため、
図8に等価回路16を示す。等価回路16は送電部17、Jインバータ18およびキャビティ共振器19からなっている。また、送電部17とキャビティ共振器19は、Jインバータ18の容量Ciを介して結合している。
【0041】
図7Aおよび
図7Bに示すスミスチャートを、
図8に示す等価回路16でフィッティングを行うことで、キャビティ共振器19の等価容量Cr、等価インダクタンスLr、等価抵抗Rr、送電部17の等価容量Ct、Jインバータ18の結合容量Ciを算出した。なお、フィッティングにはKeysight社のAdvanced Design Systemsを用いた。
【0042】
このようにして導体線路長L=100~600mmの値におけるキャビティ共振器19の等価容量Cr、等価インダクタンスLrを算出した結果、等価容量Crは19.884~20.575pF、等価インダクタンスLrは86.927~89.949nHが得られた。つまり、導体線路長Lに関わらず、キャビティ共振器19の等価容量Crと等価インダクタンスLrはほぼ一定の値を得ることができるとわかる。
【0043】
図9に、
図7Aおよび
図7Bに示すスミスチャートを、
図8に示す等価回路16でフィッティングすることで得られた結合容量Ciを示す。ここから得られる関係は数式3で近似することができる。
【0044】
【0045】
ここまでの議論によって、本発明の構造を用いない場合における、導体線路長Lとキャビティ共振器/導体線路間の結合容量Ciの関係を明らかにした。なお、等価回路16において、Jインバータ18を介してキャビティ共振器19に接続される回路を送電部17としたが、これは受電部と読み替えたとしても同じ等価回路である。すなわち、送受電の両方に対する議論として扱うことができる。
【0046】
つぎに
図10のように、受電部も加えた等価回路20に拡張する。等価回路20は送電回路21、第一のJインバータ22、キャビティ共振器19、第二のJインバータ23および受電回路24からなる。ここで送電回路21とキャビティ共振器19は、第一のJインバータ22の結合容量C
01を介して結合している。また、キャビティ共振器19と受電回路24は、第二のJインバータ23の結合容量C
12を介して結合している。
【0047】
いま無線電力伝送が、ある帯域を伴って電力を通過させるということは、すなわち等価回路20が適切なバンド幅(通過帯域幅)のバンドパスフィルタとして機能していると言い換えることができる。つまり、バンドパスフィルタの設計理論を適用することができる。
【0048】
共振器を集中定数回路素子で近似するため、数式4で表現されるサセプタンススロープパラメータbを用いて共振周波数付近の特性を近似する。ここでωは周波数、Bはサセプタンス、CおよびLは共振器を表現するキャパシタンスとインダクタンスを示している。
【0049】
【0050】
Jインバータにおける結合容量Cは、デシベルで表現されるバンドパスフィルタの通過帯域内リプルLAR、サセプタンススロープパラメータb、入力端子コンダクタンスG、通過帯域の中心周波数と通過帯域幅の比を示す比帯域w、プロトタイプフィルタの共振周波数ω’、共振器の数(バンドパスフィルタの段数)n、gパラメータを用いることで、数式5から数式9のように表すことができる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
数式4からキャビティ共振器のサセプタンススロープを求め、所望の伝送効率η、所望の比帯域w、入出力コンダクタンスGA、GBを設定して、数式4から数式9までの関係式に上記結合容量を代入することによって、キャビティ共振器と送受電器との結合容量C01、C12を算出することができる。そして、数式3の関係から上記結合容量C01、C12を満足する導体線路長Lが決定できる。ここで、伝送効率η(%)は次式で表現される。
【0057】
【0058】
図11は、数式3~数式9を利用して算出した、導体線路長Lと目標効率以上で送電可能な周波数帯域幅Δfとの関係を表している。ここでコンダクタンスG=0.02S、伝送効率η=90%、50%または10%とした。
図11は、例えば帯域幅6MHz、伝送効率η=90%の送受電を達成しようとするには、導体線路長L=1240mmが必要ということを示している。
図11から、例えば導体線路長Lを維持したままで帯域幅Δfを増やすためには、伝送効率ηを下げるしかないことが理解できる。また、伝送効率ηを維持したままで帯域幅Δfを増やすためには、導体線路長Lを長くするしかないことが理解できる。
【0059】
このように、旧来のキャビティ共振器を利用した無線送電では、実用的な帯域を確保するためには、伝送効率を下げたり導体線路長を長くするなど、実利用の観点からは受け入れがたい方法を採用するしかないことが理解できる。
【0060】
[実施例]
旧来の方式をモデル化した
図10の等価回路20では、キャビティ共振器のみを利用したn=1段の共振器を持つバンドパスフィルタとなっている。これは送電器とキャビティ共振器との間の結合が数式7~数式9におけるn=1の入力段に相当し、キャビティ共振器と受電器との間の結合が数式7~数式9におけるn=1の出力段に相当することを意味している。
【0061】
これに対して、
図12のようにキャビティ共振器とは異なる共振回路網を新たに加えたバンドパスフィルタの等価回路25においては、無線電力の送受電に用いられる容量性結合が数式7~数式9の段間結合に相当することとなる。つまり共振回路網の追加によって、結合に用いられる容量を異なる数式へと変換することが可能となる。
【0062】
図12は、本発明の実施の形態に係る無線電力伝送システムの等価回路25である。等価回路25は、送電回路26、第一のJインバータ27、第一の共振回路網28、第m-1のJインバータ29、第m-1の共振器30、送電器等価容量31、第mのJインバータ32、第mの共振器(キャビティ共振器)33、第m+1のJインバータ34、受電器等価容量35、第m+1の共振回路網36、第m+1のJインバータ37、第Nの共振器38、第NのJインバータ39および受電回路40からなる。ここでm<Nかつ、N≧2である。なお、N=2とは、送電回路26または受電回路40のいずれか片側に共振回路網を実装した場合を指している。本実施形態では、キャビティ共振器33を除く共振器は、LC並列共振器からなる。
【0063】
図12に示すように、キャビティ共振器33が送電器側から数えてm番目の共振器であるとき、m+1番目の共振器よりも送電回路26側のシャント素子はキャビティ共振器33に接地しており、m+1番目の共振器を含む受電回路40側のシャント素子は受電部を構成する受電器のグラウンドに接続されている。
【0064】
等価回路20から等価回路25への変換は、送受電器を構成する導体線路とキャビティ共振器との間の入出力結合に相当するJインバータの結合を、数式7~数式9の入出力段モデルから、段間結合モデルへと変化させることを意味している。これを利用することによって、同等の帯域と伝送効率を維持したままで結合容量を小さくすることが可能である。これはすなわち導体線路長を短縮することと等価である。あるいは伝送効率と結合容量を維持したままで(すなわち導体線路長を維持したままで)、帯域を広げることが可能となる。
【0065】
従って、本発明の回路構造を採用することによって、同等の帯域と伝送効率を維持したままで結合容量を小さくすることができる。すなわち性能を維持したままで導体線路長を短縮できるシステムを提供することが可能となる。
【0066】
本発明の回路構造の異なる機能として、伝送効率と結合容量を維持したままで、帯域を広げることが可能となる。これはすなわち導体線路長を維持したままで、帯域を広げられるシステムを提供することが可能となる。
【0067】
本発明においては、キャビティ共振器からみて受電器側および送電器側の両側に1個以上の共振器を備え、キャビティ共振器を含めた共振器の個数NがN≧3を満たすことが好ましい。ここで、共振器の個数Nは、回路基板の実装面積と実装するLC部品に由来するロスの許容する範囲で大きくすることが望ましく、現実的には8個未満がより望ましい。例えば、共振器の個数Nを7とする場合は、送電器側に3個および受電器側に3個の共振器を備え、キャビティ共振器1個と合わせて計7個とすることができる。
【0068】
図13は、本発明の実施例に係る無線電力伝送システム41の模式図である。
【0069】
実施例では、導体線路および共振回路網を有する受電部42と、導体線路および共振回路網を有する送電部43と、アルミニウムからなる骨組みと亜鉛メッシュ壁面とアルミニウム床面からなる電磁波遮蔽部材2とから構成されるキャビティ共振器で構成される無線電力伝送システム41を考える。
【0070】
実施例では、比較例との比較を行う。比較例の等価回路20は
図10の通りであり、キャビティ共振器からなるn=1段の共振器をもつバンドパスフィルタの様態である。また、実施例の等価回路44は
図14の通りであり、キャビティ共振器を挟むように設置された2つの共振回路網とキャビティ共振器からなるn=3段の共振器をもつバンドパスフィルタの様態である。
【0071】
実施例の等価回路44は、送電回路45、第一のJインバータ46、第一の共振回路網47、送電器等価容量48、第二のJインバータ49、第二の共振回路網(キャビティ共振器)50、第三のJインバータ51、受電器等価容量52、第三の共振回路網53、第四のJインバータ54および受電回路55からなる。
【0072】
比較例における等価回路20では、参考例での検討で明らかなようにCr=20.570pF、Lr=86.927nH、Rr=49.291kΩの値を有する。これを利用して帯域幅6MHz、効率90%の送受電を達成しようとするのに最適化された素子値はGA=0.02S、GB=0.02S、C01=6.64pF、C12=6.64pFであった。
【0073】
実施例における等価回路44においても、比較例と同じキャビティ共振器を利用しているため、Cr2=20.570pF、Lr2=86.927nH、Rr2=49.291kΩである。このときに、帯域幅6MHz、効率90%の送受電を達成しようとするのに最適化された素子値はGA=0.02S、GB=0.02S、C01=4.758pF、C12=0.861pF、C23=0.861pF、C34=4.758pF、Cr1+Ct=20.570pF、Cr3+Cr=20.570pF、Lr1=86.927nH、Lr3=86.927nHであった。
【0074】
比較例および実施例における等価回路と、各素子の最適値をKeysight社Advanced Design Systemsに入力し、周波数特性を図示したものが
図15である。比較例(n=1)および実施例(n=3)の双方ともに、おおむね帯域幅約6MHz、伝送効率η=90%を達成できていることが見て取れる。
【0075】
実験結果を元に、伝送効率90%を維持した状態で、目標帯域を満たすために必要となる導体線路長を算出した結果が
図16である。実施例(n=3)では、比較例(n=1)と比べて、同じ導体線路長Lであるにもかかわらず送受電帯域を広く取ることができることがわかる。また、実施例では、送受電帯域が維持されたままで、導体線路長Lを短縮することができる。
【0076】
同様に実験結果を元に、送受電帯域を6MHzに維持したままで、目標伝送効率を満たすために必要となる導体線路長を算出した結果が
図17である。実施例(n=3)では、比較例(n=1)と比べて、同じ導体線路長Lであるにもかかわらず伝送効率ηを上げることができることがわかる。また、実施例では、伝送効率ηが維持されたままで、導体線路長Lを短縮することができる。
【0077】
なお、本発明において、キャビティ共振器を除く共振器を構成するLC並列共振器については、そのキャパシタンス成分を、隣接するJインバータのキャパシタンス成分に完全に吸収させても良い。その場合はインダクタのみの実装で共振器を実現することができるため、より実装面積が有利になる。
【0078】
また、本発明において、受電回路に取り付ける共振器は、インダクタとキャパシタで表現される並列共振素子とバラン(あるいは平衡-不平衡変換回路)で構成しても構わない。
【0079】
本発明に係る説明はJインバータと並列共振器を用いて行ったが、Kインバータと直列共振器を利用した場合においても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 本発明に係る無線電力伝送システム
2 電磁波遮蔽部材
3 受電部
4 送電部
5 共振回路網
6 送電回路
7 受電器
8 導体線路
9 受電回路
10 共振回路網
10a 送電器
11 導体線路
12 誘電体基板
13 プリント基板配線
14 キャビティ共振器
15 送電部
16 送電のみを考慮した空洞共振式無線電力伝送システムの等価回路
17 送電部
18 Jインバータ
19 キャビティ共振器
20 送受電を考慮した既存構造の空洞共振式無線電力伝送システムの等価回路
21 送電回路
22 第一のJインバータ
23 第二のJインバータ
24 受電回路
25 本発明に係る無線電力伝送システムの等価回路
26 送電回路
27 第一のJインバータ
28 第一の共振回路網
29 第m-1のJインバータ
30 第m-1の共振器
31 送電器等価容量
32 第mのJインバータ
33 第mの共振器(キャビティ共振器)
34 第m+1のJインバータ
35 受電器等価容量
36 第m+1の共振回路網
37 第m+1のJインバータ
38 第Nの共振器
39 第NのJインバータ
40 受電回路
41 実施例に係る無線電力伝送システム
42 導体線路と共振回路網を有する受電部
43 導体線路と共振回路網を有する送電部
44 実施例の等価回路
45 送電回路
46 第一のJインバータ
47 第一の共振回路網
48 送電器等価容量
49 第二のJインバータ
50 第二の共振回路網(キャビティ共振器)
51 第三のJインバータ
52 受電器等価容量
53 第三の共振回路網
54 第四のJインバータ
55 受電回路