(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電気的駆動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
(21)【出願番号】P 2021071326
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】内田 義則
(72)【発明者】
【氏名】木船 仁志
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-092664(JP,A)
【文献】特開2020-148255(JP,A)
【文献】特開2007-056954(JP,A)
【文献】特開2002-098386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0051749(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室を有する弁本体と、前記弁室に配置され、端面に弁座が設けられた円筒部と、前記弁座に接離される弁体と、前記弁室に接続された入口管と、前記円筒部の内側に設けられた弁口に接続された出口管と、前記弁本体に収容されたプランジャと、前記弁体と前記プランジャとを連結する弁軸と、前記プランジャを前記弁体が前記弁座から離れる方向に押すプランジャばねと、前記弁本体の外側に配置された電磁コイルと、円筒形状を有する弁体収容部材と、を有する電気的駆動弁であって、
前記弁体収容部材が、前記円筒部と間隔をあけて配置されており、前記弁体が前記弁座から離れた開弁状態において前記弁体を収容する収容空間を有し、
前記円筒部の中心軸と前記弁体の中心軸とが第1軸線上に配置されており、
前記入口管の中心軸が、前記第1軸線と直交する第2軸線上に配置されており、
前記弁体が前記弁座に接した閉弁状態において前記弁室の流体圧力と前記弁口の流体圧力との圧力差が所定の閉弁維持圧力以上のとき、前記電磁コイルの通電を停止しても閉弁状態を維持するように構成されており、
前記入口管の前記第1軸線方向の内径をD1とし、前記入口管の内面における前記弁体収容部材から最も遠い箇所と前記円筒部の前記端面との前記第1軸線方向の距離をD2としたとき、次の式(1)を満たすことを特徴とする電気的駆動弁。
-0.03≦D2/D1≦0.08 ・・・ (1)
ただし、距離D2は、前記円筒部の前記端面が前記箇所より前記弁体収容部材に近いときを正の値とし、前記円筒部の前記端面が前記箇所より前記弁体収容部材から遠いときを負の値とする。
【請求項2】
前記電気的駆動弁が、円筒形状の固定鉄心を有し、
前記固定鉄心が、前記弁体と前記プランジャとの間に配置されるとともに、前記弁軸が内側に挿入されており、
前記弁体収容部材が、前記固定鉄心に取り付けられている、請求項
1に記載の電気的駆動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的駆動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気的駆動弁の一例である電磁弁が特許文献1に開示されている。特許文献1の電磁弁は、弁本体と、弁体と、プランジャと、電磁コイルと、を有している。弁本体は、弁室と、弁室に開口する弁口と、を有している。弁室には、弁口を囲む弁座が配置されている。弁体は、弁座(弁口)を開閉する。弁体はプランジャと連結されている。プランジャは、プランジャばねによって開弁方向(弁体が弁座から離れる方向)に押されている。プランジャは、電磁コイルに通電すると閉弁方向(弁体が弁座に近づく方向)に移動する。弁本体には、弁室に通じる入口側パイプと、弁口に通じる出口側パイプと、が接合されている。入口側パイプの中心軸は、弁体の中心軸と直交している。この電磁弁では、弁座の位置を入口側パイプの中心軸に近づけている。これにより、開弁状態において入口側パイプから出口側パイプに流れる流体によって弁体が弁座を閉じてしまうことを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した電磁弁は、開弁状態において入口側パイプの流体圧力が比較的高い場合に流体によって弁体が弁座を閉じてしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、開弁状態において流体によって弁体が弁座を閉じてしまうことを効果的に抑制できる電気的駆動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る電気的駆動弁は、弁室を有する弁本体と、前記弁室に配置され、端面に弁座が設けられた円筒部と、前記弁座に接離される弁体と、前記弁室に接続された入口管と、前記円筒部の内側に設けられた弁口に接続された出口管と、前記弁本体に収容されたプランジャと、前記弁体と前記プランジャとを連結する弁軸と、前記プランジャを前記弁体が前記弁座から離れる方向に押すプランジャばねと、前記弁本体の外側に配置された電磁コイルと、円筒形状を有する弁体収容部材と、を有する電気的駆動弁であって、前記弁体収容部材が、前記円筒部と間隔をあけて配置されており、前記弁体が前記弁座から離れた開弁状態において前記弁体を収容する収容空間を有し、前記円筒部の中心軸と前記弁体の中心軸とが第1軸線上に配置されており、前記入口管の中心軸が、前記第1軸線と直交する第2軸線上に配置されており、前記入口管の前記第1軸線方向の内径をD1とし、前記入口管の内面における前記弁体収容部材から最も遠い箇所と前記円筒部の前記端面との前記第1軸線方向の距離をD2としたとき、次の式(1)を満たすことを特徴とする。
-0.03≦D2/D1≦0.08 ・・・ (1)
ただし、距離D2は、前記円筒部の前記端面が前記箇所より前記弁体収容部材に近いときを正の値とし、前記円筒部の前記端面が前記箇所より前記弁体収容部材から遠いときを負の値とする。
【0007】
本発明によれば、弁体収容部材が、端面に弁座が設けられた円筒部と間隔をあけて配置されている。弁体収容部材が、開弁状態において弁体を収容する収容空間を有している。円筒部の中心軸と弁体の中心軸とが第1軸線上に配置されている。弁室に接続された入口管の中心軸が、第1軸線と直交する第2軸線上に配置されている。入口管の第1軸線方向の内径をD1とし、入口管の内面における弁体収容部材から最も遠い箇所と円筒部の端面との第1軸線方向の距離をD2としたとき、上記式(1)を満たす。このようにしたことから、開弁状態において、弁体収容部材が流体による弁体への作用を抑制する。さらに、入口管の内面における弁体収容部材から最も遠い箇所と円筒部の端面とがほぼ第2軸線方向に並び、入口管から円筒部を介して出口管にスムーズに流体が流れて弁室内での乱流の発生を抑制する。これにより、流体によって弁体やプランジャなどに加わる閉弁方向(弁体が弁座に近づく方向)の力を低減できる。そのため、開弁状態において流体によって弁体が弁座を閉じてしまうことを効果的に抑制できる。
【0008】
本発明において、前記弁体が前記弁座に接した閉弁状態において前記弁室の流体圧力と前記弁口の流体圧力との圧力差が所定の閉弁維持圧力以上のとき、前記電磁コイルの通電を停止しても閉弁状態を維持するように構成されている、ことが好ましい。このようにすることで、閉弁状態を維持するための電力を低減できる。
【0009】
本発明において、前記電気的駆動弁が、円筒形状の固定鉄心を有し、前記固定鉄心が、前記弁体と前記プランジャとの間に配置されるとともに、前記弁軸が内側に挿入されており、前記弁体収容部材が、前記固定鉄心に取り付けられている、ことが好ましい。例えば、弁体収容部材を弁本体に溶接で取り付ける構成では、弁本体の内側に溶接するため組み立てづらく、弁体収容部材を弁本体にかしめて取り付ける構成では、弁本体の歪みが生じるおそれがある。そして、弁体収容部材を固定鉄心に取り付ける構成では、あらかじめ固定鉄心に弁体収容部材を取り付けて、固定鉄心を弁本体に組み込むことができる。そのため、電気的駆動弁は、組み立てやすく、弁本体の歪みなどの不具合を抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、開弁状態において流体によって弁体が弁座を閉じてしまうことを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例に係る電磁弁の断面図である。
【
図2】
図1の電磁弁の一部を拡大した断面図である。
【
図3】
図1の電磁弁の変形例に係る電磁弁の一部を拡大した断面図である。
【
図4】
図3の電磁弁が有する弁体収容部材を示す図である。
【
図5】
図1の電磁弁の第1比較例に係る電磁弁の一部を拡大した断面図である。
【
図6】
図1の電磁弁の第2比較例に係る電磁弁の一部を拡大した断面図である。
【
図7】第1導管の内面における最下部と円筒部の上端面との距離と、開弁状態を維持可能な第1導管の流体圧力の上限値と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電気的駆動弁の一実施例に係る電磁弁について、
図1、
図2参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例に係る電磁弁の断面図である。
図2は、
図1の電磁弁の弁座が設けられた円筒部およびその近傍を拡大した断面図である。
図2では、磁気コイルの記載を省略している。
【0014】
図1、
図2に示すように、本実施例に係る電磁弁1は、弁本体10と、弁体20と、プランジャ30と、弁軸40と、固定鉄心50(「吸引子」ともいう。)と、電磁コイル60と、弁体収容部材70と、を有している。
【0015】
弁本体10は、弁本体部材11と、弁座部材12(「シート本体」ともいう。)と、を有している。弁本体部材11と弁座部材12とは、例えば、ステンレスなどの金属製である。
【0016】
弁本体部材11は、小径部11aと、大径部11bと、を有している。小径部11aは、上端が塞がれた円筒形状を有している。大径部11bは、小径部11aより外径の大きい円筒形状を有している。大径部11bは、小径部11aの下端部に同軸に一体的に接続されている。弁本体10は、段付きの円筒形状を有している。
【0017】
弁座部材12は、円筒部12aと、フランジ部12bと、を有している。フランジ部12bは、円筒部12aの下端部に一体的に接続されている。円筒部12aの上端面12cには、弁座13が設けられている。弁座13は、上方から下方に向かうにしたがって径が小さくなる内向きの環状テーパー面である。円筒部12aは、弁本体部材11の大径部11bの内側に配置されている。フランジ部12bは、大径部11bに接合されている。
【0018】
弁本体部材11の大径部11bの内側には、弁室14が設けられている。弁室14には、弁座部材12の円筒部12aが配置されている。円筒部12aの内側には、弁口15が設けられている。弁口15は、弁座13に囲まれており、弁室14に開口している。弁本体部材11の大径部11bには、円管である第1導管91が接合されている。第1導管91は、弁室14に接続されている。弁座部材12には、円管である第2導管92が接合されている。第2導管92は、弁口15に接続されている。第1導管91は入口管である。第2導管92は出口管である。本実施例において、第1導管91の内径は、5~11mmである。第2導管92の内径は、第1導管91の内径と同一である。
【0019】
弁体20は、平面視円形のキャップ形状を有している。弁体20は、例えば、真ちゅうやステンレスなどの金属製である。弁体20が弁座13に接すると、弁口15が閉じて閉弁状態となる。弁体20が弁座13から離れると、弁口15が開いて開弁状態となる。弁体20は、弁座13(すなわち弁口15)を開閉する。本実施例において、弁体20が弁座13に接することと、弁体20が弁座13を閉じることと、は同義である。
【0020】
プランジャ30は、円筒形状を有している。プランジャ30は、弁本体部材11の小径部11aに上下方向(第1軸線L1方向)に移動可能に収容されている。
【0021】
弁軸40は、円柱形状を有している。弁軸40の径は、弁体20の径より小さい。弁軸40の下端部は弁体20の上端部に一体的に接続されている。弁体20および弁軸40は、例えば、真ちゅうやステンレスなどの金属製である。弁軸40の上端部は、プランジャ30の下端部にかしめにより接続されている。弁軸40は、弁体20とプランジャ30とを連結している。
【0022】
固定鉄心50は、円筒形状を有している。固定鉄心50は、弁本体部材11の小径部11aの下部に配置されている。固定鉄心50は、弁体20とプランジャ30との間に配置されている。固定鉄心50の内側には、弁軸40が上下方向に移動可能に挿入されている。固定鉄心50とプランジャ30との間には、プランジャばね35が配置されている。プランジャばね35は、圧縮コイルばねである。プランジャばね35は、プランジャ30を上方(弁体20が弁座13から離れる方向)に押している。
【0023】
固定鉄心50の外周面50aには、周方向全体にわたって延在する溝状の固定凹部56が設けられている。小径部11aには内側に突出する固定凸部16が設けられている。固定凸部16は、小径部11aを外側からかしめたりポンチ打ちしたりして形成されている。固定凹部56に固定凸部16が掛かることにより固定鉄心50が小径部11aに固定される。
【0024】
電磁コイル60は、円筒形状を有している。電磁コイル60の内側には、弁本体部材11の小径部11aが挿入されている。電磁コイル60に通電すると、プランジャ30に対して下方(弁体20が弁座13に近づく方向)に移動させる力(磁力)が働き、プランジャ30はプランジャばね35の上方に押す力に抗って下方に移動して、弁体20が弁座13に接する。なお、電磁コイル60に通電するとプランジャ30が下方に移動する構成であれば、固定鉄心50を省略してもよい。
【0025】
弁体20が弁座13に接すると、弁体20における弁座13に接した箇所の内側の面積Sに対して弁室14の流体圧力と弁口15の流体圧力との圧力差ΔPが作用して、弁体20を下方に押す力が生じる。そのため、プランジャばね35のばねの設定荷重や上記面積Sなどを適宜設定することで、閉弁状態において上記圧力差ΔPが所定の閉弁維持圧力Pc以上のときに、電磁コイル60の通電を停止しても電磁弁1は閉弁状態を維持することができる。
【0026】
弁体収容部材70は、円筒形状を有している。弁体収容部材70は、円筒部12aと上下方向に間隔をあけて配置されている。弁体収容部材70の内径は、弁体20の外径よりわずかに大きい。弁体収容部材70は、例えば、ステンレスなどの金属製である。弁体収容部材70は、固定鉄心50の下端部に溶接やかしめなどにより固着されている。弁体収容部材70の内側には、収容空間74が設けられている。弁体20は、開弁状態において収容空間74に配置される。本実施例において、弁体20は、閉弁状態において収容空間74の外に配置される。なお、弁体収容部材70は、弁体20が閉弁状態においても収容空間74に配置されるように、当該弁体収容部材70の下端が弁座部材12の近くまで延びた構成を有していてもよい。この構成では、弁体収容部材70が、弁体20の開弁状態から閉弁状態までの移動をガイドする。
【0027】
電磁弁1において、弁本体10(弁本体部材11、円筒部12a、弁座13、弁口15)、弁体20、プランジャ30、弁軸40、固定鉄心50、弁体収容部材70および第2導管92は、それぞれの中心軸が第1軸線L1上に配置(すなわち第1軸線L1と一致するように配置)されている。また、電磁弁1において、第1導管91は、その中心軸が第2軸線L2上に配置(すなわち第2軸線L2と一致するように配置)されている。第2軸線L2は、第1軸線L1と直交している。
【0028】
また、電磁弁1において、第1導管91の第1軸線L1方向の内径をD1とし、第1導管91の内面における最下部91aと円筒部12aの上端面12cとの第1軸線L1方向の距離をD2としたとき、次の式(1)を満たす。
-0.03≦D2/D1≦0.08 ・・・ (1)
これにより、第1導管91の内面における最下部91aと円筒部12aの上端面12cとが、ほぼ第2軸線L2方向に並んでいる。最下部91aは、第1導管91の内面における弁体収容部材70から最も遠い箇所である。なお、距離D2は、上端面12cが最下部91aより上方にある(弁体収容部材70に近い)ときを正の値とし、上端面12cが最下部91aより下方にある(弁体収容部材70から遠い)ときを負の値としている。すなわち、距離D2は、最下部91aに対する上端面12cの第1軸線L1方向の位置を示しており、距離D2は、第2軸線L2方向から見たときの上端面12cにおける最下部91aから上方への突出量である。なお、上記式(1)は、次の式(1A)に変形することができる。
-0.03×D1≦D2≦0.08×D1 ・・・ (1A)
【0029】
本実施例において、第1導管91の内径を1としたときの各部の寸法は以下の通りである。
・第2導管92の内径:1
・弁座部材12の円筒部12aの内径(弁口15の径):1
・弁座部材12の円筒部12aの外径:1.31
・弁本体部材11の大径部11bの内径:1.74
・固定鉄心50の下端面と弁座部材12のフランジ部12bの上面との距離:1.80
・距離D2:-0.03~0.08
【0030】
次に、上述した電磁弁1の動作の一例について説明する。
【0031】
電磁コイル60に通電すると、プランジャ30は、磁力によって下方に移動する。プランジャ30とともに弁軸40および弁体20が下方に移動する。弁体20が弁座13に接して電磁弁1は閉弁状態となる。
【0032】
閉弁状態において弁室14の流体圧力と弁口15の流体圧力との圧力差ΔPが閉弁維持圧力Pc以上のとき、電磁コイル60の通電を停止しても電磁弁1は閉弁状態を維持する。そして、上記圧力差ΔPが閉弁維持圧力Pcより小さくかつ電磁コイル60の通電が停止していると、プランジャ30は、プランジャばね31に押されて上方に移動する。プランジャ30とともに弁軸40および弁体20が上方に移動する。弁体20が弁座13から離れて電磁弁1は開弁状態となる。開弁状態において、弁体20は、弁体収容部材70の収容空間74に収容される。
【0033】
開弁状態において、第1導管91から弁室14に流入した流体は、弁口15を通り第2導管92から流出する。ここで、弁体収容部材70がない構成では、流体が、弁体20の上方に横方向(
図1、
図2の左右方向)から流れ、弁軸40と固定鉄心50との隙間から弁本体部材11の小径部11aに流れる。これにより、プランジャ30の上方の流体圧力が弁体20の下方(弁体20と弁口15との間)の流体圧力より大きくなり、弁体収容部材70を備えた構成と比べて、より低い出入口差圧(第1導管91の流体圧力と第2導管92の流体圧力との圧力差)でプランジャ30が下方に移動して弁座13(弁口15)が閉じてしまうことがある。一方、弁体収容部材70がある構成では、流体が、弁体20の下方から弁体20と弁体収容部材70との隙間を通り弁体20の上方に流れる。そのため、プランジャ30の上方の流体圧力が弁体20の下方の流体圧力より大きくなりにくく、プランジャ30が下方に移動することを抑制できる。このように、弁体収容部材70によって、開弁状態における流体の弁体への作用を抑制できる。
【0034】
また、第1導管91の内面の最下部91aと円筒部12aの上端面12cとがほぼ第2軸線L2方向に並び、第1導管91から円筒部12aを介して第2導管92にスムーズに流体が流れる。そのため、弁室14内での乱流の発生を抑制できる。
【0035】
以上説明したように、電磁弁1は、弁室14を有する弁本体10と、弁室14に配置され、上端面12cに弁座13が設けられた円筒部12aと、弁座13に接離される弁体20と、弁室14に接続された第1導管91と、円筒部12aの内側に設けられた弁口15に接続された第2導管92と、弁本体10に収容されたプランジャ30と、弁体20とプランジャ30とを連結する弁軸40と、プランジャ30を上方に押すプランジャばね35と、弁本体10の外側に配置された電磁コイル60と、円筒形状を有する弁体収容部材70と、を有している。電磁弁1は、電磁コイル60に通電すると弁体20が弁座13に接するように構成されている。弁体収容部材70が、円筒部12aと上下方向に間隔をあけて配置されている。弁体収容部材70が、開弁状態において弁体20を収容する収容空間74を有している。円筒部12aの中心軸と弁体20の中心軸とが第1軸線L1上に配置されている。第1導管91の中心軸が、第1軸線L1と直交する第2軸線L2上に配置されている。そして、電磁弁1は、第1導管91の第1軸線L1方向の内径をD1とし、第1導管91の内面における最下部91aと円筒部12aの上端面12cとの第1軸線L1方向の距離をD2としたとき、次の式(1)を満たす。
-0.03≦D2/D1≦0.08 ・・・ (1)
ただし、距離D2は、上端面12cが最下部91aより上方にあるときを正の値とし、上端面12cが最下部91aより下方にあるときを負の値とする。
【0036】
このようにしたことから、開弁状態において、弁体収容部材70が流体による弁体20への作用を抑制する。さらに、第1導管91の内面における最下部91aと円筒部12aの上端面12cとがほぼ第2軸線L2方向に並び、第1導管91から円筒部12aを介して第2導管92にスムーズに流体が流れて弁室14内での乱流の発生を抑制する。これにより、流体によって弁体20やプランジャ30などに加わる閉弁方向(弁体が弁座に近づく方向)の力を低減できる。そのため、開弁状態において流体によって弁体20が弁座13を閉じてしまうことを効果的に抑制できる。
【0037】
また、閉弁状態において弁室14の流体圧力と弁口15の流体圧力との圧力差ΔPが閉弁維持圧力Pc以上のとき、電磁コイル60の通電を停止しても閉弁状態を維持するように構成されている。このようにすることで、閉弁状態を維持するための電力を低減できる。電磁コイル60の通電を停止しても閉弁状態を維持する構成では、プランジャばね35のばねの設定荷重が比較的小さく、上記式(1)を満たす構成の効果がより発揮される。
【0038】
また、電磁弁1が、円筒形状の固定鉄心50を有している。固定鉄心50が、弁体20とプランジャ30との間に配置されるとともに、弁軸40が内側に挿入されている。そして、弁体収容部材70が、固定鉄心50に取り付けられている。このようにすることで、あらかじめ固定鉄心50に弁体収容部材70を取り付けて、固定鉄心50を弁本体10に組み込むことができる。そのため、弁体収容部材70を弁本体10に取り付ける構成に比べて、電磁弁1は、組み立てやすく、弁本体10の歪みなどの不具合を抑制できる。
【0039】
次に、上述した電磁弁1の変形例に係る電磁弁1Aについて、
図3、
図4を参照して説明する。
【0040】
図3は、
図1の電磁弁の変形例に係る電磁弁が有する弁座が設けられた円筒部およびその近傍を拡大した断面図である。
図3では、磁気コイルの記載を省略している。
図4は、
図3の電磁弁が有する弁体収容部材を示す図である。
図4(a)は、弁体収容部材の正面図である。
図4(b)は、弁体収容部材の平面図である。以下の変形例の説明において、上記電磁弁1と同一(実質的に同一を含む)の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
電磁弁1Aは、弁本体10と、弁体20と、プランジャ30と、弁軸40と、固定鉄心50A(「吸引子」ともいう。)と、電磁コイル60と、弁体収容部材70Aと、を有している。
【0042】
固定鉄心50Aは、円筒形状を有している。固定鉄心50Aは、弁本体部材11の小径部11aの下部に配置されている。固定鉄心50Aは、弁体20とプランジャ30との間に配置されている。固定鉄心50Aの外周面50aには、周方向全体にわたって延在する溝状の固定凹部56が設けられている。固定鉄心50Aの内周面50bには、周方向全体にわたって延在する溝状の抜け止め凹部57が設けられている。抜け止め凹部57は、周方向に間隔をあけて配置された複数の穴でもよい。
【0043】
弁体収容部材70Aは、
図3、
図4に示すように、第1部分71と、第2部分72と、第3部分73と、を有している。第1部分71は、円筒形状を有している。第1部分71は、円筒部12aと上下方向に間隔をあけて配置されている。第2部分72は、第1部分71より外径の小さい円筒形状を有している。第3部分73は、第1部分71と第2部分72とを連結している。第3部分73の外周縁は、第1部分71の上端に一体的に接続されている。第3部分73の内周縁は、第2部分72の下端に一体的に接続されている。弁体収容部材70Aは、例えば、ステンレスなどの金属製である。
【0044】
第1部分71の内径は、弁体20の外径よりわずかに大きい。第1部分71の内側には、収容空間74が設けられている。弁体20は、開弁状態において収容空間74に配置される。本実施例において、弁体20は、閉弁状態において収容空間74の外に配置される。なお、第1部分71は、弁体20が閉弁状態においても収容空間74に配置されるように、当該第1部分71の下端が弁座部材12の近くまで延びた構成を有していてもよい。この構成では、第1部分71が、弁体20の開弁状態から閉弁状態までの移動をガイドする。
【0045】
第2部分72の内径は、弁軸40の外径よりわずかに大きい。第2部分72の内側には、弁軸40が挿入されている。第2部分72は、弁軸40を上下方向に移動可能に支持している。
【0046】
第2部分72には、その上端から下方に延びる複数のスリット76によって周方向に分割された複数の弾性片75が設けられている。すなわち、複数の弾性片75は、第2部分72が複数のスリット76によって周方向に分割されることにより形成されている。本変形例では、3つの弾性片75が設けられている。スリット76は、周方向に120度間隔で3つ設けられている。複数の弾性片75は、第2部分72の周方向に並ぶように配置されている。
【0047】
複数の弾性片75のそれぞれは、弾性変形する前の状態(すなわち外部から力が加えられていない状態)において、先端75aが基端75bより外側(径方向外方)に配置されている。本実施例において、複数の弾性片75は、上下方向(第1軸線L1方向)に対して傾斜している。第2部分72における複数の弾性片75の基端75bがある箇所の外径は、固定鉄心50Aの内周面50bの径(具体的には、固定鉄心50Aの内周面50bにおける複数の弾性片75が挿入される箇所の径)と同一であるが、厳密には、当該外径が内周面50bの径よりわずかに小さい寸法であることが好ましい。本変形例において、複数の弾性片75は、固定鉄心50Aの内側に挿入されると抜け止め凸部77が内周面50bに当接して内側に弾性変形し、抜け止め凸部77が抜け止め凹部57に進入すると上下方向と平行になるように構成されている。これにより、複数の弾性片75の外側面75cが、固定鉄心50Aの内周面50bに押し付けられる。
【0048】
複数の弾性片75の外側面75cには、抜け止め凸部77が設けられている。抜け止め凸部77は、概ね半球形状を有している。抜け止め凸部77は、複数の弾性片75のそれぞれの外側面75cにおいて、幅方向(周方向)の中心でかつ先端75a寄りの箇所に1つ配置されている。抜け止め凸部77は、複数の弾性片75が固定鉄心50Aの内側に挿入されたとき、固定鉄心50Aの抜け止め凹部57に進入し、抜け止め凹部57に掛かる。抜け止め凸部77が抜け止め凹部57に掛かることで、複数の弾性片75の下方(固定鉄心50Aの内側から抜ける方向)への移動が規制される。また、抜け止め凸部77が抜け止め凹部57に掛かった状態において、第3部分73の上面73c(第3部分73の第2部分72側の面)が、固定鉄心50Aの下端面50cに接している。第3部分73の上面73cが固定鉄心50Aの下端面50cに接することで、複数の弾性片75の上方(固定鉄心50Aの内側に挿入する方向)への移動が規制される。
【0049】
なお、本実施例の弾性片75は、弾性変形する前の状態において、先端75aが基端75bより外側に配置されるように形成されており、弾性片75は固定鉄心50Aの内周面50bを常時外方に押し続けている。しかしながら、弾性片75は、弾性変形する前の状態において、先端75aと基端75bとが上下方向に並ぶように(すなわち、弾性片75が上下方向と平行になるように)形成されていてもよく、または、先端75aが基端75bより内側(径方向内方)に配置されるように形成されていてもよい。これらの場合、弾性片75の抜け止め凸部77が抜け止め凹部57の底面を常時外方に押し続けるように構成されていることが好ましい。このようにすることで、弁体収容部材70Aのガタつき防止を防止できる。さらに、弾性片75は、抜け止め凸部77の下側(弁座13側)の曲面部分が抜け止め凹部57の下端に当接するように形成されていることがより好ましい。このようにすることで、弾性片75の弾性によって抜け止め凸部77が上方に移動しようとするため、第3部分73の上面73cが固定鉄心50Aの下面に常時押し付けられて、弁体収容部材70Aのガタつきを防止できる。
【0050】
電磁弁1Aにおいても、上述した実施例の電磁弁1と同様の作用効果を奏する。
【0051】
また、弁体収容部材70Aの第2部分72には、複数のスリット76によって周方向に分割された複数の弾性片75が設けられている。そして、複数の弾性片75が内側に弾性変形するように、複数の弾性片75が固定鉄心50Aの内側に挿入されている。そのため、複数の弾性片75が復元力により固定鉄心50Aに押し付けられ、簡易な構成で弁体収容部材70Aを固定鉄心50Aに固定することができる。なお、上述したように、弾性片75は、弾性変形する前の状態において、先端75aと基端75bとが上下方向に並ぶように形成されていてもよく、または、先端75aが基端75bより内側に配置されるように形成されていてもよい。
【0052】
また、複数の弾性片75が、弾性変形する前の状態において、先端75aが基端75bよりも外側に配置されるように弁体収容部材70Aの軸方向(第1軸線L1方向)に対して傾斜している。このようにすることで、固定鉄心50Aの内周面50bの径を弁体収容部材70Aの第2部分72における複数の弾性片75の基端75bがある箇所の外径と同一にし、複数の弾性片75を固定鉄心50Aの内側に挿入することで、複数の弾性片75を内側に弾性変形させることができる。そのため、固定鉄心50Aの内周面50bに複数の弾性片75を弾性変形させるためのテーパー面や凸部などを設ける必要がなくなり、固定鉄心50Aを比較的簡易な形状にすることができる。
【0053】
また、固定鉄心50Aの内周面50bには、抜け止め凹部57が設けられている。複数の弾性片75の外側面75cには、複数の弾性片75の下方(固定鉄心50Aの内側から抜ける方向)への移動を規制するように抜け止め凹部57に掛かる抜け止め凸部77が設けられている。このようにすることで、抜け止め凹部57に抜け止め凸部77が掛かることによって、弁体収容部材70Aが固定鉄心50Aから脱落してしまうことを抑制できる。
【0054】
また、弁体収容部材70Aが、円筒形状を有する第1部分71と、第1部分71より外径の小さい円筒形状を有する第2部分72と、第1部分71と第2部分72とを連結する円環平板形状の第3部分73と、を有している。第1部分71に収容空間74が設けられている。第2部分72に複数の弾性片75が設けられている。第3部分73の上面73cが、固定鉄心50Aの下端面50cに接している。このようにすることで、抜け止め凹部57に抜け止め凸部77が掛かることによって複数の弾性片75の下方への移動を規制するとともに、固定鉄心50Aの下端面50cと第3部分73の上面73cとが接することによって複数の弾性片75の上方への移動を規制することができる。そのため、弁体収容部材70Aの移動(がたつき)を抑制できる。
【0055】
本発明者らは、本発明の効果を確認するための検証を行った。
【0056】
本発明者らは、上述した電磁弁1と同様の構成を有し、距離D2が異なる複数の電磁弁を作製した。
図5に、円筒部12aの上端面12cが第1導管91の中心軸近くにある構成(D2/D1=0.30)を有する第1比較例の電磁弁1Bを示す。
図6に、円筒部12aの上端面12cが第1導管91より下方にある構成(D2/D1=-0.20)を有する第2比較例の電磁弁1Cを示す。これら以外にも、距離D2が内径D1の-20~30%の範囲内(-0.20≦D2/D1≦0.30)となる複数の電磁弁を作製した。なお、円筒部12aの上端面12cが第1導管91の内面における最下部91aより上方にあるとき、距離D2を正の値とし、上端面12cが最下部91aより下方にあるとき、距離D2を負の値としている。
【0057】
そして、本発明者らは、作製した各電磁弁について、第2導管92を大気開放状態とし、第1導管91に流体供給装置から流体を供給して徐々に流体圧力を上げていき、流体によって弁体20が弁座13を閉じる直前の流体圧力を測定した。測定した流体圧力は、電磁弁において開弁状態を維持可能な第1導管91の流体圧力の上限値Pmである。
図7に、横軸を第1導管91の内面における最下部91aと円筒部12aの上端面12cとの第1軸線L1方向の距離D2とし、縦軸を上限値Pmとしたグラフを示す。
図7において、符号G1は、開弁状態におけるリフト量(弁体20における閉弁状態の位置から開弁状態の位置までの距離)がX1となる電磁弁のグラフである。符号G2は、開弁状態におけるリフト量がX2(X2>X1)となる電磁弁のグラフである。
【0058】
図7のグラフから、リフト量が大きいほど上限値Pmが高くなるが、グラフの形状はリフト量にかかわらず距離D2が0%付近をピーク値とする山形状となることがわかる。そして、距離D2が-3~8%の範囲内(-0.03≦D2/D2≦0.08)となる構成の電磁弁では、各グラフとも上限値Pmが各グラフのピーク値の85%以上の高い値となった。このことから、本検証でも本発明の効果を確認することができた。
【0059】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1、1A、1B、1C…電磁弁、10…弁本体、11…弁本体部材、11a…小径部、11b…大径部、12…弁座部材、13…弁座、14…弁室、15…弁口、16…固定凸部、20…弁体、30…プランジャ、40…弁軸、50、50A…固定鉄心、50a…外周面、50b…内周面、50c…下端面、56…固定凹部、57…抜け止め凹部、60…電磁コイル、70、70A…弁体収容部材、71…第1部分、72…第2部分、73…第3部分、73c…上面、74…収容空間、75…弾性片、75a…先端、75b…基端、75c…外側面、76…スリット、77…抜け止め凸部、91…第1導管、92…第2導管、L1…第1軸線、L2…第2軸線