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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】抗菌性織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/283 20210101AFI20241202BHJP
   D03D 15/217 20210101ALI20241202BHJP
   D03D 15/233 20210101ALI20241202BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20241202BHJP
   D04H 1/4326 20120101ALI20241202BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20241202BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20241202BHJP
【FI】
D03D15/283
D03D15/217
D03D15/233
D03D15/292
D04H1/4326
D04H1/425
D04H1/435
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021085897
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022178824
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-05-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】717000414
【氏名又は名称】株式会社プレジール
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】城口 聡子
(72)【発明者】
【氏名】野村 学
(72)【発明者】
【氏名】梅村 俊和
(72)【発明者】
【氏名】圓井 良
(72)【発明者】
【氏名】田茂井 勇人
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-153740(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147998(WO,A1)
【文献】特開2003-268627(JP,A)
【文献】特開2020-133032(JP,A)
【文献】特開2020-133031(JP,A)
【文献】特開2008-303472(JP,A)
【文献】特開2018-084003(JP,A)
【文献】中国実用新案第210362749(CN,U)
【文献】特開2020-139235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維及び天然繊維を含む抗菌性ハイブリッド布帛であって、
前記合成繊維は、ポリアセタール樹脂(以下POMと云う)50~100wt%と生分解性ポリエステル樹脂0~50wt%とのアロイ(POM単独を含む)から得られ
繊維径0.5~100μmの単層あるいは多層の合成繊維であり、
前記天然繊維は、絹、麻、木綿、又は、羊毛であり、
前記合成繊維が、布帛全体の50wt%~70wt%であり、かつ、
前記天然繊維が、布帛全体の30wt%~50wtである、抗菌性ハイブリッド布帛
【請求項2】
前記生分解性ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸(以下PLAと云う)、ポリブチレンサクシネート(以下PBSと云う)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、及び、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である請求項1記載のハイブリッド布帛
【請求項3】
前記合成繊維が芯鞘構造を有し、
前記芯がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、又は、POMの何れかであり、
前記鞘がPOM50~100wt%、生分解性ポリエステル樹脂0~50wt%と、のアロイ(POM単独を含む)から得られる請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド布帛
【請求項4】
前記合成繊維が、
前記POM50~90wt%前記生分解性ポリエステル樹脂10~45wt%と、のアロイから得られ、
前記生分解性ポリエステル樹脂が、PBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAであって、
前記PBS又はPBSの類似構造樹脂のメルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分であり、
前記PBSの類似構造樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレエート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、及び、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である、請求項1に記載の抗菌性ハイブリッド布帛
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、POM50~100wt%と生分解性ポリエステル樹脂が0~50wt%である単層あるいは多層の合成繊維が織物全体の30wt%~70wt%を占め、絹、木綿、羊毛、麻などの天然繊維が30から70wt%である抗菌性織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然繊維あるいは合成樹脂繊維は衣類のみならず様々な分野で重要な製品として使用され、我々の生活の中で欠かせざる物である。その製品の中には抗菌性を必要とするものも多く存在する。しかし従来繊維として多用されている絹や羊毛、麻や木綿などの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維は抗菌性を有しておらず、そのため抗菌性を付与する様々な技術が提案されている。抗菌剤を、バインダー樹脂を介して繊維に付着させる技術が特許文献1、特許文献2等で開示されている。また別の方法として、抗菌剤を樹脂の中に練り込む方法等も特許文献3、特許文献4等で開示されている。抗菌剤としては銀イオンを使用したものが多く、アパタイト、ガラス、ゼオライト、粘土化合物等の無機化合物に担持させたものが提案されている。こうした方法は、初期には効果を発揮するものの摩耗や洗濯によって、抗菌剤を担持させた無機化合物が脱落し、抗菌剤の効果が早期に失われる課題を有していた。更に紡糸加工後の処理工程や経時変化により変色する等の欠点も有していた。
【0003】
多くの繊維自体には抗菌性が無く、当該繊維を抗菌性とするには、前述の方法を採る必要があるが、唯一POMは樹脂そのものが抗菌性を有しており、射出成形品や押出成形品として水回りの用途で有用に用いられている。しかしPOMは、結晶性に優れ、結晶化速度が速く結晶化度も大きいことから繊維として用いることは困難とされてきた。近年POMを繊維として用いる検討が盛んに行なわれ始めている。POMの繊維化技術は特許文献5、特許文献6、特許文献7等に開示されている
【0004】
また特許文献8には、POMの持つ撥菌性・抗菌性を生かす目的で繊維とすることが開示されている。しかし、先にも述べたようにPOMは結晶化速度が速く且つ結晶化度が高いため伸び難く、そのため細線化が困難な欠点を有している。またPOMの特性として染色が難しいことが上げられる。POMの繊維を衣料用途に用いるには、従来の方法で容易に染色出来る事が好ましい。絹、木綿、羊毛、麻など天然繊維は独特の風合い、肌触り、つや、保湿性などを有し、人類が長く用いて来たという信頼性がある。しかし、天然繊維は、抗菌性、防カビ性、防虫性に劣り、時には非常に高価であるなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-279952号公報
【文献】特開平10-325075号公報
【文献】特開平7-238421号公報
【文献】特開平7-3527号公報
【文献】特開平1-272821号公報
【文献】特開平8-144128号公報
【文献】特開平11-293523号公報
【文献】WO2016/147998A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天然繊維の持つ、高級感、染色性、保湿性、信頼性を生かしつつ、POM繊維の持つ、抗菌性を利用することで、これまでに無かった織物を作ることが本発明の目的である。抗菌剤を使用した繊維は長期の抗菌持続性や変色の問題がある。一方、POMあるいはPOMと特定の生分解性ポリエステル樹脂とのアロイからなる合成繊維は抗菌剤を使用せずに優れた抗菌性能を有する。特にPOMとPBSあるいはPLAとのアロイは紡糸を行う時に延伸が容易で細繊維(繊維径20μm以下)を製造することが容易である。抗菌性を発揮するには細繊維化が有利であるので、当該アロイの前記の細繊維化特性は望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはPOM50~100wt%と特定の生分解性ポリエステル樹脂が0~50wt%とのアロイ(POM単独の場合も含む)からなる単層繊維あるいは多層繊維で、且つ繊維径を0.5~100μmにした合成繊維と絹、木綿、羊毛、麻、ケナフなどの天然繊維とを組み合わせたハイブリッド織物が極めて優れた抗菌性を有し、かつ天然繊維が持つ風合い、肌触り、つや、保湿性などを有した新しい織物を提供することを見出した。POMと混合して用いられる生分解性ポリエステル樹脂としてはメルトフローレート(MFR)4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAが好ましい。織物の形態としては編物、織物、不織布、ウェブなどの形態として利用することが可能であり、衣料、寝具、インテリアなどに容易に用いることが出来る。
【0008】
本発明者らの用いるPOM又はPOMと特定の生分解性ポリエステル樹脂からなる合成繊維は通常の溶融紡糸法で製造することが出来る。繊維径が0.5~100μmの単層あるいは多層の合成繊維は一旦、繊維径が20~500μmの繊維を溶融紡糸し、これを一段ないしは多段で延伸することにより繊維径を0.5~100μmに加工することが出来る。高い延伸性を有するポリアセタールアロイ樹脂繊維は、通常の溶融紡糸装置で極めて生産効率の良い極細繊維の製造が可能である。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
1)POM50~100wt%と生分解性ポリエステル樹脂0~50wt%とのアロイ(POM単独を含む)から得られる繊維径0.5~100μmの単層あるいは多層の合成繊維が織物全体の30wt%~70wt%を占め、天然繊維が織物全体の30wt%~70%を占めている抗菌性ハイブリッド織物。
【0010】
2)前記合成繊維が、織物全体の50~70%を占め、天然繊維が織物全体の30~50%を占めている1項記載の抗菌性ハイブリッド織物。
【0011】
3)生分解性ポリエステル樹脂が、PLA、PBS、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)からなる群から選ばれた1種以上の樹脂である前記1項~3項記載のハイブリッド織物。
【0012】
4)合成繊維が芯鞘構造を有し、芯がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、POMの何れかであり、鞘がPOM50~100wt%、MFRが4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂又はPLAが0~50wt%であるハイブリッド織物。
【0013】
5)POM50~90wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA10~45wt%である請求項第項1記載の抗菌性ハイブリッド織物または不織布。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアセタール(POM)樹脂を主成分とした繊維は、それ自体が優れた抗菌性を有する。これと絹、木綿、羊毛、麻などの天然繊維を織物全体
の30wt%~70%用いたPOM繊維と天然繊維を組み合わせたハイブリッド織物あるいは不織布は、天然繊維の持つ風合い、肌触り、つや、保湿性を
有し、人類が長く用いて来たという信頼性と抗菌性というPOM繊維の特徴を併せ持つ優れた織物あるいは不織布を提供出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<合成繊維の製造方法>
本発明の抗菌性織物あるいは不織布に用いられるPOM、あるいはPOMと生分解性ポリエステル樹脂、例えばPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAのアロイよりなる繊維を製造するための方法は、公知の溶融紡糸法により製造することが出来る。即ち、あらかじめ所定の比率でPOMまたはPOMとPBS又はその類似構造樹脂、あるいはPOMとPLAを単軸または2軸押出機により溶融混練し、ペレットを製造する。この時、PBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAのアロイ100wt%に対して0.1から5wt%のカルボジイミド化合物を添加することが好ましい。合成繊維は単層または多層構造を取ることが出来る。多層構造を取る時は、最外層をPOM、あるいはPOMと生分解性ポリエステル樹脂、例えばPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAのアロイよりなる樹脂とし、内層をポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、POMとすることが出来る。
次に、得られたPOM組成物を紡糸機によって溶融し繊維用ダイから押出し、巻取機にて引取り紡糸繊維を製造する。
【0016】
更に、この紡糸した繊維を所望の繊度に調整するために延伸処理を行う。延伸処理は公知の延伸方法にて行うことができる。一例として温水浴中で行う湿式延伸、乾燥空気中あるいは加熱した金属ロールを用いて行う乾式延伸、100℃以上の温度に加熱した、過熱水蒸気雰囲気中で行う水蒸気延伸といった延伸方法が挙げられる。この中で、本発明のポリアセタール樹脂(POM)組成物繊維の製造に際しては、40~100℃の温水浴中、好ましくは50~90℃の温水浴中で湿式延伸するのが好ましい。あるいは80~120℃の熱板に押し出し繊維を接触させて乾式で延伸することが出来る。
【0017】
POM繊維あるいはPOMと生分解性ポリエステル樹脂のアロイから得られる合成繊維はモノフィラメントあるいはマルチフィラメント繊維として生産されるが、極細の繊維を製造する方法としてはマルチフィラメントを製造する方法が好ましい。マルチフィラメントの製造は複数のダイ穴から溶融した樹脂を押出・冷却し、得られた繊維を引き取りロールによって巻き取り、次に延伸用ロールにて繊維を延伸する。あるいは溶融紡糸した繊維径が20~100μmの繊維を一旦巻き取って、別の延伸機によって0.5~20μmの繊維径とすることが出来る。
【0018】
<合成繊維と天然繊維のハイブリッド織物の製造方法>
こうして製造したPOM繊維あるいはPOMと生分解性ポリエステル樹脂のアロイから得られる合成繊維を糸巻(ボビン)に巻き取り、織機の経糸に天然繊維、緯糸にPOM繊維を用いるか、あるいはこの逆で用いればPOM繊維と天然繊維が縦横に織られたハイブリッド織物を作ることが出来る。縦横に用いる繊維の太さ(デシテックス)をほぼ同等にする方が織布として仕上がりが美しい。POM繊維と天然繊維の比率は縦横に用いるボビンの本数で調節することが出来る。
【0019】
またPOM繊維とあるいはPOM樹脂と生分解性ポリエステル樹脂のアロイから得られる合成繊維と天然繊維を所望の本数、撚りあわせて1本の繊維を製造することも可能である。各々のボビンから繊維を撚糸機にかける際に、POM繊維と天然繊維の本数を調節することで容易に所望のPOM繊維比率の糸が得られる。この糸をニット製網機で布を織ることで、POM繊維と天然繊維の混紡の布地を製造することが出来る。
【0020】
<合成繊維と天然繊維のハイブリッド不織布の製造方法(1)>
POM繊維あるいはPOM樹脂と生分解性ポリエステル樹脂のアロイから得られる合成繊維と天然繊維のハイブリッド不織布は、まずPOM樹脂50~100wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAが0~50wt%である樹脂組成物から溶融紡糸して製造した20から100μmの繊維を延伸して0.5から20μmの繊維とし、これをボビンに巻き取る。所望の繊度の天然繊維を巻き取ったボビンを別途準備しておき、POM繊維あるいはPOMアロイ繊維と所望の比率で捲縮機に導入して原綿を製造する。次に原綿をカーディング装置にて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置によって繊維同士を絡め合うことにより、合成繊維と天然繊維の混ざった不織布を製造することが出来る。
【0021】
<合成繊維と天然繊維のメルトブロー法不織布の製造方法(2)>
あるいはPOM50~100wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA樹脂0~50wt%である樹脂組成物を押出機で加熱溶融し、ノズルから押出す際に圧縮空気で勢いよく吹き飛ばして、金網で出来たコレクターで捕集し、こうして得られたPOMあるいはPOMアロイ繊維の綿と、別途用意した天然繊維の綿を所望の比率でカーディング装置に導入し、繊維同士を絡み合わせて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置にて繊維同士を絡め合うことによって不織布を製造することが出来る。
【0022】
不織布を製造する際にはニードルパンチ処理後に、全体を熱板プレスで加熱圧縮することにより、合成繊維同士を熱溶融させることで不織布の引張強度を上げることが出来る。この場合、合成繊維はコアシェル型の2重構造の繊維とし、シェルにPOM樹脂とPBS樹脂又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA樹脂0~50wt%であるアロイ樹脂を用いることにより、POM樹脂の融点より10から50℃融点が低いシェル同士が熱融着し、コアのPOM樹脂を溶融させないで強固な不織布を製造できる。特にPBS又はPBSの類似構造樹脂とPOMのアロイをシェルに用いる場合、コアのPOMとの融点差が10℃から50℃ある為に、熱融着後の不織布の引っ張り強度が大きいので丈夫な不織布を作る事が出来る。
【0023】
<ポリアセタール樹脂の製造法>
本発明におけるPOMとしては、POMのホモポリマー又はコポリマーが使用できる。POMコポリマーは、単独で又はコモノマーの種類、含有量の異なるPOMコポリマー同士を混合して使用することができる。POMコポリマーは、分子中にオキシメチレン単位以外に、下記式(1)で表されるオキシアルキレン単位を有する。尚、ポリアセタール樹脂とポリオキシメチレン樹脂は同義語である。
【0024】
【化1】

(式中、R0及びR0’は、同一又は異なってもよく、水素原子、アルキル基、フェニル基又は1以上のエーテル結合で中断されているアルキル基であり、mは2~6の整数である)
【0025】
アルキル基は、非置換又は置換された炭素原子数1~20の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、炭素原子数1~4の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましい。アルキル基として、メチル、エチル、n―プロピル、i―プロピル、n―ブチル、i―ブチル、t―ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル及びオクタデシル等が挙げられる。置換基として、ヒドロキシ基、アミノ基、アルコキシ基、アルケニルオキシメチル基及びハロゲンが挙げられる。ここで、アルコキシ基として、メトキシ、エトキシ及びプロポキシ等が挙げられる。また、アルケニルオキシメチル基として、アリルオキシメチル等が挙げられる。
【0026】
フェニル基は、非置換、又は非置換若しくは置換されたアルキル基、非置換若しくは置換されたアリール基、若しくはハロゲンで置換されているフェニル基である。ここで、アリール基として、フェニル、ナフチル及びアントラシル等が挙げられる。
【0027】
1以上のエーテル結合で中断されているアルキル基は、下記式(2)で表される基が挙げられる。
-CH2-O-(R3-O)P-R4 (2)
(式中、R3はアルキレン基であり、Pは0~20の整数を表し、R4は水素原子、アルキル基、フェニル基又はグリシジル基であり、ここで各(R3-O)単位は、同一であっても、異なっていてもよい)
【0028】
アルキレン基は、直鎖又は分岐状であり、非置換又は置換されている、炭素原子数2~20のアルキレン基であり、エチレン、プロピレン、ブチレン及び2―エチルへキシレン等が挙げられる。R1としてのアルキレンは、エチレン及びプロピレンが好ましい。
【0029】
R0及びR0’は、同一であって水素原子であるのが好ましい。式(1)で表わされるオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位、オキシペンチレン単位、及びオキシヘキシレン単位が挙げられ、好ましくはオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、及びオキシブチレン単位であり、より好ましくは、オキシジメチレン単位、オキシトリメチレン単位、及びオキシテトラメチレン単位である。
【0030】
ポリオキシメチレン(POM)コポリマーは、更に、下記式(3)で表される単位を有することができる。
-CH(CH3)-CHR5- (3)
(式中、R5は、下記式(4)で表される基である)
-O-(R3-O)P-R6 (4)
(式中、R6は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、フェニル基又はフェニルアルキル基であり、R3及びPは、式(2)で定義されたとおりである)
【0031】
アルケニル基は、直鎖又は分岐状であり、非置換又は置換されている、炭素原子数2~20のアルケニル基であり、ビニル、アリル及び3-ブテニル等が挙げられる。フェニルアルキル基におけるアルキル部分及びフェニル部分は、上記したアルキル基及びフェニル基の例示が挙げられる。フェニルアルキル基として、ベンジル、フェニルエチル、フェニルブチル、2―メトキシベンジル、4―メトキシベンジル及び4―(アリルオキシメチル)ベンジル等が挙げられる。本発明において、存在する場合、式(2)で表される基におけるアルケニル基及びグリシジル基、又は式(4)で表される基におけるアルケニル基は、更なる重合反応における架橋点となることができ、これにより架橋構造が形成される。
【0032】
ポリオキシメチレン(POM)コポリマーの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒドの3量体であるトリオキサンと、コモノマーとを、必要に応じて三フッ化ホウ素等カチオン重合触媒を用いて塊状重合させる方法が挙げられる。コモノマーとしては、例えば、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,3,5―トリオキセパン及び1,3,6―トリキソカン等の炭素原子数2~8の環状エーテル;グリコールの環状ホルマール及びジグリコールの環状ホルマール等の炭素原子数2~8の環状ホルマール等が挙げられる。これらのコモノマーにより、R0及びR0’が、同一であって水素原子である式(1)で表されるオキシアルキレン単位が形成される。
【0033】
本発明において、ポリポリオキシメチレン(POM)コポリマーは、2元共重合体及び多元共重合体も含む。従って、本発明のPOMコポリマーとして、オキシメチレン単位及び上記式(1)で表されるオキシアルキレン単位を有するPOMコポリマー、オキシメチレン単位、上記式(1)で表されるオキシアルキレン単位及び式(3)で表わされる単位を含むPOMコポリマー、並びに、更に架橋構造を有する前記コポリマー等を広く用いることができる。本発明において、R0及びR0’が、同時に水素原子ではない式(1)で表わされる単位は、例えば、グリシジルエーテル化合物又はエポキシ化合物を共重合することで形成することができ、式(3)で表される単位は、例えば、アリルエーテル化合物を共重合することで形成することができる。
【0034】
グリシジルエーテル及びエポキシ化合物は、特に限定されないが、エピクロルヒドリン;メチルグリシジルホルマール、エチルグリシジルホルマール、プロピルグリシジルホルマール及びブチルグリシジルホルマール等のアルキルグリシジルホルマール;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4―ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾンシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリブチレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル;グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル;ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のテトラグリシジルエーテル;が挙げられる。
【0035】
アリルエーテル化合物として、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、フェニルエチルアリルエーテル、フェニルブチルアリルエーテル、4―メトキシベンジルアリルエーテル、2―メトキシベンジルアリルエーテル及び1,4―ジアリルオキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0036】
中でも、量産性と熱安定性の観点から、トリオキサン100重量部に対し、トリオキサン以外の1種又は2種以上の環状エーテル及び/又は環状ホルマールからなるコモノマーを0.5~30重量部、好ましくは1~15重量部を添加して得られるポリポリオキシメチレン(POM)コポリマーが好ましい。コモノマーが0.5重量部以上であれば、溶融紡糸に必要な耐熱性が十分であり、押出機内部や紡糸ノズル内の滞留部でPOMコポリマーの分解、発泡が生じにくく、加工性に優れる。30重量部以下であれば、POMコポリマーを製造する際の歩留まりが向上する。また、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物及びアリルエーテル化合物の量は、特に限定されないが、好ましくはトリオキサン100重量部に対し、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物及びアリルエーテル化合物を0.05~20重量部添加することができる。
【0037】
本発明に用いるポリアセタール樹脂(POM)は、ISO1133に則ったMFRが50g/10分以下であることが好ましい。MFRが大きいほど溶融紡糸で細い糸を得るのに適しているが、50g/10分以下であれば、機械物性(特に靭性)に優れるという利点がある。MFRは、POMの重合反応における連鎖移動剤の量を適宜調整することによって調整することができる。
【0038】
<ポリブチレンサクシネート樹脂(PBS)の製造法>
PBSは、コハク酸とブタンジオールとを原料として公知の方法で製造することができる。例えば、コハク酸とブタンジオールとのエステル化反応および/またはエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができる。経済性や製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合で製造する方法が好ましい。
【0039】
PBS系樹脂として使用可能な製品(市販品)としては、三菱ケミカル「BioPBS(バイオPBS)」(登録商標)、昭和電工社製「ビオノーレ」(登録商標)、Shandong Fuwin New Material社製PBS樹脂、BASF社製ポリブチレンアジペートテレフタレート系樹脂「エコフレックス」(登録商標)等が挙げられる。
【0040】
PBS系樹脂には構造が類似する樹脂(類似構造樹脂)が存在し、類似構造樹脂としてはポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート-コヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)が挙げられ、本発明の樹脂組成物においては、ポリブチレンサクシネート樹脂(PBS)と等価に扱うことができる。
【0041】
PBSあるいはその類似構造物の最適なMFRは4~30g/10分である。MFRが4g/10分以下の高分子量である場合、あるいはMFRが30g/10分以上の低分子量である場合は、当該樹脂とPOMとの相溶性が悪く、繊維に高い延伸度を与えることが出来ない。
【0042】
<ポリ乳酸樹脂(PLA)の製造法>
PLAは、乳酸のL体のみを重合させたポリ-L-乳酸であるかD体のみを重合させたポリ-D-乳酸であるか、D体、L体がランダムに重合、あるいはブロック重合したポリ-DL-乳酸を用いることが出来る。PLAは、公知の方法で製造することができ、例えば、一般的に工業プロセスで採用されるラクチド法では乳酸を加熱脱水重合して得られるオリゴマーをさらに減圧下加熱分解して乳酸の二量体であるラクチドを得て、これを金属塩の触媒存在下で重合してPLAを得る。あるいは直接重合法ではジフェニルエーテルなどの溶媒中で乳酸を減圧化に加熱し、水を取り除きながら重合させることによりPLAを製造することが出来る。
【0043】
PLAは米国のカーギル・ダウ社がポリマーを製造し、Nature Worksという商品名で供給している。これを輸入して日本ではカネボウ合繊(株)、(株)クラレ、ユニチカ(株)、三井化学(株)が加工して包装容器、農業土木、コンポスト関連、スポーツウエア、寝具製品などとして多岐に渡り販売されている。ユニチカ(株)からは「テラマック」(登録商標)としてPLAが市販されている。
【0044】
本発明では、PBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはポリ乳酸樹脂100wt%に対してカルボジイミド化合物を0.1~5wt%添加して使用でき
る。カルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば良い。例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジメチル
カルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジーt
-ブチルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0045】
その他、繊維の性能を損なわない範囲で、POMあるいはPBSあるいはPLAに一般的に添加される添加剤、例えば、酸化安定剤、内部滑剤、核化剤、紫外線吸収剤、着色剤等が使用可能である。
【0046】
POMと、MFRが4~30g/10分のPBS又はその類似構造樹脂とのアロイ、またはPOMとポPLAとのアロイは公知の方法に従い単軸または二軸押出機で混練することで得られる。
【0047】
PBS又はその類似構造樹脂の比率、あるいはPLAの比率は0~50wt%が好ましい。特に繊維径を20μm以下、好ましくは10μm以下にすることで、より高い抗菌性が得られるが、繊維径を細くするにはPOMに対して10から40wt%の、PBS又はその類似構造樹脂とのアロイ、あるいはPLAとのアロイを用いることで、延伸性に優れた繊維を得る事が出来る。
【0048】
PBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA100wt%に対して0.1から5wt%のカルボジイミド化合物を加えることにより、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上し、紡糸工程で安定した繊維の細線化(延伸)が可能となる。特に紡糸温度が高温になる場合に有効となる。5wt%以上では、それ以上の効果は期待できず経済的でなくなる。
【0049】
本発明の多層繊維において、最外層を除いた内層、例えば芯鞘構造を有する繊維の芯層に用いられる樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹
脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、POMの何れかである。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂が
好適である。ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂は融点が240℃以下である共重合体が好ましい。
【0050】
本発明でPOM50~100wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA0~50wt%である樹脂組成物よりなる繊維径0.5~20μmの単層あるいは多層の抗菌性繊維と共に用いる天然繊維として、植物繊維としては木綿、麻が代表であるが、果実繊維である椰子、ケナフ、いぐさ、麦わらなどの繊維を用いることが出来る。セルロース系再生繊維、あるいは半合成繊維としてレーヨン、キュプラ、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、プロミックスなども用いられる。動物繊維としては絹、羊毛が代表であるが、ダウン、フェザーなどの羽毛繊維も用いることが出来る。
【0051】
本発明による抗菌性ハイブリッド織物は保管中の虫食いや臭いの発生が少ない。また100%天然繊維織物に比べて、洗濯後の乾燥がし易いなど取扱いが容易である。一般に絹や羊毛の織物は高価である為に長期保存されることが多く、防虫には細心の注意が必要であるが、本発明によるハイブリッド織物はメンテナンスが容易である。また木綿や麻などの天然繊維は汗を吸いやすく通風性に優れる為、夏季において最も着心地の良い素材であるが、臭いの原因であるモラクセラ菌が繁殖し易いという問題がある。本発明によるハイブリッド織物はこの臭い原因菌の発生を防止できる。
【0052】
本発明の新たな効果として織物が有する質感に対する変化がある。この質感は所謂、手触りや肌触りと呼ばれるもので、極めて感覚的であるために客観的な評価が困難であるが、織物の曲げ、引っ張り、せん断強度、圧縮強度、表面粗さを測定して普遍的な数値を得ることが出来る。中でもドレープ係数の測定法がJIS L1096で定められており、布地の剛軟度をドレープ係数で表す事が出来る。例えば絹のドレープ係数は0.2~0.4であるが、これにPOM繊維を50%程度混紡した織物はドレープ係数0.7から0.9となり、感触的にはややしゃっきり感がありカジュアルに適した感触の織物となる。天然繊維がウールの場合にも同様の傾向が生じる。木綿や麻のドレープ係数はPOMと混紡することによる変化は少ないが、滑らかな感触となる。このような感触の変化は従来の使い方と違った繊維の用途の開発に有用と考えられる。
絹とPOM繊維を組み合わせて、抗菌性とカジュアル感の両方を満たそうとする場合、合成繊維が、織物全体の40~60%を占め、天然繊維が織物全体の40~60%を占めている事が望ましい。動物性繊維である羊毛も同様の比率が推奨される。この様な混紡比率は天然繊維の持つ高級感を保持しつつ、扱いやすいカジュアル感のある感触を与える。
木綿や麻などの植物性繊維とPOM繊維の組み合わせではドレープ係数には大きな影響はないが、目視または手触りによる風合いの差が表れる。一方、抗菌性についてはPOM繊維が30%以下であると急激に下がる為に、望ましくはPOM繊維が50%~70%を占め、植物性天然繊維が30%から50%の領域が抗菌性と風合いの好ましい範囲となる。
尚、不織布のドレープ性は繊維素材の組み合わせよりも、繊維の太さや繊維同士の絡み合い、あるいが繊維の熱融着の影響が大きい為、本発明では不織布のドレープ性は測定しなかった。
【実施例
【0053】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例に制限されるものではない。
<実施例及び比較例>
【0054】
<原料>
・ポリアセタール樹脂(POM)としては、
POM-1:ユピタールF20-02(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
POM-2:ユピタールF30-03(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いた。
POM-3:ユピタールF40-03(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いた。
・ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂としては、
PBS-1:MFRが22のバイオBPS FZ71(三菱ケミカル製)
PBS-2:MFRが5のバイオBPS FZ91(三菱ケミカル製)
PBS-3:MFRが1.5のビオノーレ#1001(昭和電工製)
PBS-4:バイオBPS FZ71に3重量%のステアリン酸カルシウム
を加えて、樹脂温度200℃で溶融押出して、MFRを35に調整した。
・PHBH樹脂としては、AONILEX(カネカ製)を用いた
・ポリ乳酸樹脂(PLA)としては、テラマックTP-4000(ユニチカ製)を用いた。
・ポリプロピレン(PP)樹脂としてはプライムポリプロF-730NV(プライムポリマー製)を、またポリエステル(PET)樹脂としてはMA-1
340(ユニチカ製)、またポリアミド(PA)樹脂としては、6/66共重合体の5034(宇部興産製)を用いた。
・カルボジイミド化合物としては、カルボジライト LA-1(日清紡ケミカル製)を用いた。
【0055】
<評価用樹脂組成物の作製>
評価用サンプルの合成樹脂は市販のPOMは120℃で4時間熱風乾燥したものを紡糸機ホッパーに投入して溶融紡糸した。POMとPBS又はPBS
の類似構造樹脂あるいはPLAのアロイは表―1及び表―2に示した各成分を計量した後ドライブレンドを行ない、二軸混練機のホッパーに投入し、樹脂
温度205℃で溶融混練を行ない所望の組成物のペレットを製造した。得られたペレットを乾燥後、紡糸実験に使用した。尚、安定剤としてカルボジライ
ト LA-1をPBS樹脂又はPBSの類似構樹脂あるいはポリ乳酸樹脂に対して1.0wt%添加した。
【0056】
<溶融紡糸>
溶融紡糸には縦型の単軸押出機が2台(A、B)組み合わされた紡糸機を用いた。単層の繊維を製造する時は、A、Bそれぞれに同じ材料を投入して押し出しを行い、二重構造の繊維を製造する際にはA、Bの押出機に違う材料を投入することによってコアシェルで性質の異なる繊維を製造することが出来る。A、Bの押出機は軸径25mmのスクリュウとその周りに加熱シリンダーを有し、溶融した樹脂はダイスに接続された流路を通りダイスに導かれる。ダイス穴は円型に配置された24個の穴を有し、1ケ1ケのダイ穴は2重構造となっており、Aの押出機からは内部のダイ穴へ、Bの押出機からは外周のダイ穴へ溶融樹脂は導かれてコアシェル型の溶融樹脂が糸状になって排出される。ダイ穴の外径は300μm、コア部の内径は200μmである。押出し機のスクリュウ、シリンダー、溶融樹脂が流れる流路内面、ダイス内面はクロムメッキ加工が施されている。
【0057】
押出機及びダイスの温度は使用する樹脂の溶融温度に応じて160~250℃に制御できる。ノズルから排出した溶融樹脂は5本のローラーを用いて引き取られ、通常、各ローラーの回転速度を順次、早くして延伸できる。この場合、ローラーの表面温度を80~120℃に制御しておくことが有効である。この様にして繊維径が20~100μmコアシェル繊維を製造した。単層の繊維の場合は、A,Bそれぞれの押出機に同じ材料を投入して紡糸を行なった。多層繊維の場合は、A、Bに異なった材料を投入することで行なった。Aに投入した樹脂が芯を、Bに投入した樹脂が鞘となる芯鞘構造を有する繊維径が20~100μmの多層繊維を製造した。
【0058】
さらに一旦、巻き取った繊維を再び加熱して延伸し、繊維径が0.5~20μmの繊維を製造した。ボビンに巻き取られた繊維は延伸装置へ導かれ、延伸用の加熱装置の手前の回転ロールの速度と、加熱装置の後の巻き取りロールの回転速度や直径の差で延伸倍率を調整した。加熱装置は100~140℃の空気式加熱機を通過させる方法を用いた。なお他にも湯槽やオイルバスをくぐらせる方法等も有効である。加熱装置は一段でも良く、複数段用いて所望の延伸度まで上げることも出来る。
【0059】
<ハイブリッド織物の作製>
POMないしPOMアロイ樹脂を紡糸して製造した単層または多層繊維と組み合わせて用いる絹、木綿、羊毛、麻など天然繊維は市販の繊維を用いることが出来る。繊度は合成樹脂の繊度とほぼ等しい物を用いることが織物として平滑なものが得られるので好ましい。
POM、ないしPOMアロイ樹脂と天然繊維のハイブリッド織物は、経糸あるいは緯糸にそれぞれの繊維を用いるか、あるいはPOM樹脂、ないしPOMアロイ樹脂と天然繊維を一本の糸に撚りあわせて織ることによって製造できる。その比率は合成繊維が織物全体の30wt%~70wt%を占め、絹、木綿、羊毛、麻などの天然繊維が織物全体の30wt%~70%となる様に用いるそれぞれの比率を調整した。
【0060】
<ハイブリッド不織布の作製>
不織布の製造法は溶融紡糸法による方法とメルトブロー法がある。繊維の繊維径を精密に制御するには溶融紡糸法が適し、それに対してメルトブルー法は不織布を比較的安価に製造することが出来る。但し、メルトブロー法に用いる樹脂は流動性が高い必要がある。溶融紡糸法ではPOMをコアに、シェルにPOM50~100wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLA0~50wt%である樹脂組成物を用いて、コアシェルの2重構造の繊維を溶融紡糸して製造した20から100μmの繊維を延伸して0.5から20μmの繊維としこれをボビンに巻き取った。所望の繊度の天然繊維を巻き取ったボビンを別途準備しておき、POMコアシェル繊維と天然繊維を所望の比率で捲縮機に導入して原綿を製造した。次に原綿をカーディング装置にて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置によって繊維同士を絡め合い、最後に100℃から150℃で加熱圧縮することにより、不織布を製造する。
メルトブロー法ではPOM樹脂をコアに、シェルにはPOM50~100wt%、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂あるいはPLAが0~50wt%である樹脂組成物を用いて、押出機で加熱溶融し、ノズルから押出す際に圧縮空気で勢いよく吹き飛ばして、金網で出来たコレクターで捕集し、こうして得られたコアシェル型POM繊維の綿と、別途用意した天然繊維の綿を所望の比率でカーディング装置に導入し、繊維同士を絡み合わせて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置にて繊維同士を絡め合うことによって不織布を製造する。得られた綿を100℃から150℃、1分間熱圧縮して不織布を製造できる。
【0061】
<手触りの測定法>
手触りの測定はJIS L1096の剛軟度測定法(ドレープ係数法)によって測定した。資料はまずハイブリッド織物、あるいは不織布から直径254mmの円形試験片を5枚切り出し、各試験片の中心に直径10mmの孔をあける。次に試験片の測定面を上にしてドレープテスターの試料台(直径127mm)の上に置き、試料押さえによって固定し、試料台を3回上下に振動させた後、1分間放置し、その時のドレープ形状面積を試料片の表裏について測定した。次の式によってドレープ係数を求めて表裏の平均値を算出し、小数点以下3桁に丸めた。

Df=Ad-S1/S2-S1

Df:ドレープ係数
Ad:試料台の垂直投影面積(ドレープ形状面積)(mm
S1:試料台の面積(mm
S2:試料の面積(mm
天然の絹の場合、ドレープ係数は、0.2から0.4程度で、感触としては柔らかで滑らかい。一方、絹とPOM繊維は経糸、緯糸に50:50の比率で用いられたハイブリッド織物はドレープ係数が0.7から0.9になり、感触として腰のあるしゃっきりとした感触となる。ドレープ係数は100倍して%で表示される。
【0062】
<繊維の抗菌性の評価>
JIS L1902に菌液吸収法が規定されている。この方法は衣類の着用時を想定した試験であり、標準布と試験布に対する菌の増殖性を比較することにより抗菌効果を評価するものである。試験菌としては、(1)黄色ぶどう球菌はStaphylococcusaureus NBRC12732 (2)大腸菌はEscherichia coli NBRC3301を用い、試験前の試料はオートクレーブ減菌を行った。接種菌液濃度(CFU/ml)は1.5*10である。繊維の抗菌性は、抗菌活性値[A]で示した。この抗菌活性値は(1)式で計算される。
A=(LogCb-LogCa)-(LogC2-LogC1) (1式)
Ca:標準布の生菌数 Cb:標準布での18時間培養後の生菌数
C1:評価試料の生菌数 C2:評価試料での18時間培養後の生菌数
【0063】
<結果>
実施例に用いた試料の表1-1中の1-aから1-iは、POM繊維と絹、木綿、羊毛、麻のハイブリッド織布を示し、表1-2はこれらの抗菌性試験結果である。POM繊維はPOM単独あるいはPOMアロイ樹脂繊維を用いた。いずれも抗菌活性値[A] は5以上と高い抗菌性を示している。JIS基準では[A]が2以上で、またSEK基準では[A]が2.2以上で抗菌加工製品とされており、その値よりも遥かに優れた抗菌性を示している。
【0064】
【表1-1】
【0065】
【表1-2】
【0066】
実施例、表2-1中の2-aから2-iは、POM繊維と絹、木綿、羊毛、麻のハイブリッド不織布を示し、表2-2はこれらの抗菌性試験結果である。表2-1中の2-a~2-iは、溶融紡糸法によって製造した本発明のPOMあるいはPOMアロイ繊維と、天然繊維を所望の比率で捲縮機に導入して原綿を製造した。次に原綿をカーディング装置にて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置によって繊維同士を絡め合い、最後に100℃から150℃で加熱圧縮することにより、不織布を製造した。これら絹、木綿、羊毛、麻の糸を混紡して製造した不織布の抗菌性試験結果を表2-2に示した。何れも高い抗菌活性値[A]を示している。
この時シェルに用いたPOMアロイ樹脂は、POM樹脂の配合比が50~90wt%であり、メルト・フロー・レート(MFR)が4~30g/10分のPBS又はPBSの類似構造樹脂又はPLAが10~45wt%で、安定剤としてカルボジイミド化合物0~5wt%の範囲含んでいる。コアには通常の市販されているPOM樹脂を用いた。
【0067】
【表2-1】
【0068】
【表2-2】
【0069】
比較例に用いた試料の織布を表3-1に示し、これらの抗菌性試験結果を表3-2に示した。比較例、表3-1の2-a~2-fは、POMあるいはPOMアロイ繊維が織物全体の30%以下であるハイブリッド織物を示しており、これらの抗菌性試験結果を表3-2に示した。表3-1の3-g、3-hはPOMとPBS樹脂のアロイを緯糸に用いたが、MFRが4以下あるいは30g/10分以上のPBSを用いた場合は繊維が破断した。
POM繊維が天然繊維に対して70%以上用いられた場合には、天然繊維特有の風合いなどの特徴が少なくなり、本発明の目的である天然繊維の持つ、高級感、染色性、保湿性、信頼性を生かしつつ、ポリアセタール繊維の持つ、抗菌性を付与する事が達成されない。天然繊維の持つ高級感、風合いを維持するには天然繊維が少なくとも30%以上、望ましくは40%以上配合されることが望ましい。一方、その織物の抗菌性が発現されるのは少なくともPOM繊維の配合比率は30%以上、望ましくは50%以上あることが望ましい。この風合いと抗菌性の両立を勘案すると合成繊維50から70%、天然繊維が30から50%が望ましい比率ということになる。
【0070】
【表3-1】
【0071】
【表3-2】
【0072】
表4-1は、メルトブロー法によって製造したPOM樹脂あるいはPOMアロイ繊維の綿と天然繊維の綿を所望の比率でカーディング装置に導入し、繊維同士を絡み合わせて繊維の配向方向を揃え、次にニードルパンチ装置にて繊維同士を絡め合うことによって不織布を製造したものである。得られた綿は100℃から150℃、1分間熱圧縮して不織布を製造した。表4-2に抗菌性試験結果を示したがPOMあるいはPOMアロイ繊維が30%以下の場合は抗菌性が無い。不織布の風合いは織布よりさらに感触判定が難しくドレープ係数の差が小さくなるが、織布と同様に抗菌性の両立を勘案すると合成繊維50から70%、天然繊維が30から50%が好ましい。
【0073】
【表4-1】
【0074】
【表4-2】