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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】トランスミッション及び噛合いクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20241202BHJP
   F16D 11/00 20060101ALI20241202BHJP
   F16H 63/32 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
F16H3/083
F16D11/00 A
F16H63/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021525918
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012245
(87)【国際公開番号】W WO2020250535
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019117861
(32)【優先日】2019-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ-ミュラ
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140892(JP,A)
【文献】国際公開第2018/010715(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第10234318(DE,A1)
【文献】特開平2-236040(JP,A)
【文献】実公昭37-28816(JP,Y1)
【文献】特開平9-264336(JP,A)
【文献】特開2018-76905(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02184177(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0214522(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16D 11/00
F16H 63/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合いにより一の変速段を結合し同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは離脱する噛合いクラッチ(51、49)を備え、
前記噛合いクラッチ(51、49)は、前記噛合いを行う一方及び他方の噛合い歯(51a、49b、25a、27a)を備え、
前記一方の噛合い歯(51a、49b)は、前記一の変速段でトルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材(63、61)に備えると共に、前記他方の噛合い歯(25a、27a)は、前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯(51a、49b)が噛合い前記一方の回転部材(63、61)との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材(25、27)に備え、
前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)には、ドライブトルクを伝達するために噛合うドライブ噛合い面(119、101)とコーストトルクの発生により噛合うコースト噛合い面(115、99)とが備えられ、
前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯先の先端に、相対回転により相手の歯先の先端を当接させ前記離脱をガイドする回転方向に傾斜した離脱ガイド部(97)を周方向で歯厚のほぼ全体に備え、
前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯元に前記ドライブ噛合い面(101)に隣接して備えられドライブトルクの伝達を行うとき相対回転で前記ドライブ噛合い面(119、101)の当接を可能とする浅い第2の噛合い位置に前記一方の回転部材(63、61)を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除して深い第1の噛合い位置での噛合いを許容する移動機構(101a)を備え、
前記一方の回転部材(63、61)は、トルク伝達部材(3)に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、
前記他方の回転部材(25、27)は、前記トルク伝達部材(3)に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、
前記一方の回転部材(63、61)と前記トルク伝達部材(3)との間に配置され前記一方の回転部材(63、61)が中立位置から前記他方の回転部材(25、27)へ移動することに起因して前記噛合い歯(25a、51a)が噛み合うように前記一方の回転部材(63、61)を前記移動機構(101a)が発生する軸力よりも弱い力により前記ドライブ噛合い面(101)及び前記移動機構(101a)に対し前記噛合い歯(51a)を付勢する付勢機構(1000)を備え、
前記付勢機構(1000)は、当接体(824)及び付勢機能部(822)を備え、
前記当接体(824)は、前記トルク伝達部材(3)に周方向所定間隔で複数をそれぞれ径方向に形成した支持穴(620)に配置されて前記付勢機能部(822)により前記一方の回転部材(63、61)の径方向の内周へ向けて付勢され、
前記一方の回転部材(63、61)の内周に、前記付勢機能部(822)により径方向に付勢される前記当接体(824)を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を付勢する付勢変換部(460)を備え、
前記一の変速段の結合では、前記第2の噛合い位置から前記第1の噛合い位置への移動を戻すために前記付勢機構(1000)が前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を周方向で均等に付勢し、
前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは、前記中立位置から移動する一方の回転部材(63、61)を前記付勢機構(1000)が周方向で均等に付勢し、
前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生したときは、前記離脱ガイド部(97)により前記相手の歯先の先端に解除方向の軸力を発生させて前記一の変速段の結合を前記付勢機構(1000)による周方向の均等な付勢力に抗して離脱させる、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項2】
請求項1記載のトランスミッションであって、
前記付勢変換部(460)は、前記一方の回転部材(63、61)を前記トルク伝達部材(3)に前記当接体(824)を介して回転方向に結合する傾斜溝部(460)である、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項3】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記離脱ガイド部(97)の傾斜は、前記回転部材(25、27)の軸心方向に対し回転方向へ45°を上回る角度θで設定されcotθが前記一方及び他方の噛合い歯(51a、25a)間の前記離脱ガイド部(97)での摩擦係数を上回る、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項4】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記一方の回転部材は、クラッチスリーブ(63、61)であり、
前記他方の回転部材は、変速ギヤ(25、27)であり、
前記離脱をガイドするための相対回転は、シフトアップ動作により下段及び上段の変速段のクラッチスリーブ(63、61)が前記下段及び上段の変速段の変速ギヤ(25、27)にそれぞれ同時噛合いした時に前記下段の変速段のクラッチスリーブ(63、61)に発生するコースティングトルクに起因する、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項5】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記離脱ガイド部は、螺旋状である、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項6】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記移動機構(101a)は、前記噛合い歯(25a)の歯元に傾斜形成され前記噛合い歯(25a、51a)が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき相手の歯先をガイドして前記一方の回転部材(63、61)を第1の噛合い位置から第2の噛合い位置へ移動させて前記相対回転での当接を可能とする移動ガイド部(101a)である、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項7】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記一の変速段が上段であると共に前記他の変速段が下段であり、
前記一の変速段から前記他の変速段へ結合を変更する変速駆動部(800)を備え、
前記変速駆動部(800)は、前記他の変速段へ結合の変更を行うために前記上段の変速段の一方の回転部材(61)と前記下段の変速段の一方の回転部材(63、61)との軸方向移動のためのシフトストロークを設定し、
前記変速駆動部(800)によるシフトストロークの設定は、前記上段へのシフトアップ時よりも前記下段へのシフトダウン時を大きくした、
ことを特徴とするトランスミッション。
【請求項8】
請求項1又は2記載のトランスミッションであって、
前記一の変速段から前記他の変速段へ結合を変更する変速駆動部(800)と、
前記一の変速段の一方の回転部材(63、61)の第2の噛合い位置へ移動した状態を検出する検出器(200)と、
前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するとき前記検出された一の回転部材(63、61)が前記移動機構(101a)の働きにより移動する軸方向位置にないとき前記変速駆動部(800)による他の変速段への結合の変更をキャンセルする制御部(201)と、
を備えたことを特徴とするトランスミッション。
【請求項9】
噛合いにより一の変速段を結合し同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは離脱する一方及び他方の噛合い歯(51a、49b)、(25a、27a)を備え、
前記一方の噛合い歯(51a、49b)は、トルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材(63、61)に備えると共に、前記他方の噛合い歯(25a、27a)は、前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯(51a、49b)が噛合い前記一方の回転部材(63、61)との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材(25、27)に備え、
前記一方又は他方の噛合い歯(51a)、(25a)には、ドライブトルクの伝達するために噛合うドライブ噛合い面(119、101)とコーストトルクの発生により噛合うコースト噛合い面(99)とが備えられ
前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯先の先端に、相対回転により相手(51a)の歯先の先端を当接させ前記離脱をガイドする回転方向に傾斜した離脱ガイド部(97)を周方向で歯厚のほぼ全体に備え、
前記噛合い歯(25a)の歯元に前記ドライブ噛合い面(101)に隣接して備えられ前記噛合い歯(51a)が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき相対回転で前記ドライブ噛合い面(119、101)の当接を可能とする浅い第2の噛合い位置に前記一方の回転部材(63、61)を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除して深い第1の噛合い位置での噛合いを許容する移動機構(101a)を備え、
前記一方の回転部材(63、61)は、トルク伝達部材(3)に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、
前記他方の回転部材(25、27)は、前記トルク伝達部材(3)に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、
前記一方の回転部材(63、61)と前記トルク伝達部材(3)との間に配置され前記一方の回転部材(63、61)が中立位置から前記他方の回転部材(25、27)へ移動することに起因して前記噛合い歯(25a、51a)が噛み合うように前記一方の回転部材(63、61)を前記移動機構(101a)が発生する軸力よりも弱い力により前記ドライブ噛合い面(101)及び前記移動機構(101a)に対し前記噛合い歯(51a)を付勢する付勢機構(1000)を備え、
前記付勢機構(1000)は、当接体(824)及び付勢機能部(822)を備え、
前記当接体(824)は、前記トルク伝達部材(3)に周方向所定間隔で複数をそれぞれ径方向に形成した支持穴(620)に配置されて前記付勢機能部(822)により前記一方の回転部材(63、61)の径方向の内周へ向けて付勢され、
前記一方の回転部材(63、61)の内周に、前記付勢機能部(822)により径方向に付勢される前記当接体(824)を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を付勢すると共に前記一方の回転部材(63、61)を前記トルク伝達部材(3)に当接体(824)を介して回転方向に結合する付勢変換部(460)を備え、
前記一の変速段の結合では、前記第2の噛合い位置から前記第1の噛合い位置への移動を戻すために前記付勢機構(1000)が前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を周方向で均等に付勢し、
前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは、前記中立位置から移動する一方の回転部材(63、61)を前記付勢機構(1000)が周方向で均等に付勢し、
前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生したときは、前記離脱ガイド部(97)により前記相手の歯先の先端に解除方向の軸力を発生させて前記一の変速段の結合を前記付勢機構(1000)による周方向の均等な付勢力に抗して離脱させる、
ことを特徴とする噛合いクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建機、農業車両等の変速を行わせるトランスミッション及び噛合いクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シングルクラッチを使用した車両用のトランスミッションは、変速時に駆動力が途切れ、変速ショックや加速遅れ等が避けられなかった。また、大きな走行抵抗を有し速度エネルギーが小さい建機、農機等にあっては変速時、駆動力が途切れると即停止してしまい変速が困難な場合も生じる。
【0003】
これに対し、ツインクラッチのトランスミッションは、駆動力が途切れず、変速ショックや加速遅れを抑制できるものとして知られている。
【0004】
しかし、ツインクラッチのトランスミッションは、構造が複雑で重量が大きいという問題がある。
【0005】
これに対し、噛合い歯を用いたシームレスシフトのトランスミッションは、重量増を抑制できるものとして注目されている。
【0006】
本出願人は、この種のトランスミッションを変速ショックの観点においてさらに改良し、特許文献1として提案した。
【0007】
このトランスミッションは、複数の変速ギヤと複数のクラッチスリーブとシフト機構とを備えている。変速ギヤは、トルク伝達軸に相対回転可能に支持されている。クラッチスリーブは、変速ギヤをトルク伝達軸に選択的に結合して変速出力するためのものであり、噛合い歯により変速ギヤに選択的な噛合いが可能である。シフト機構は、アクセルワーク等に応じてクラッチスリーブを選択的に操作するものである。
【0008】
そして、シフト機構のシフトアップ動作又はシフトダウン動作により下段の変速段及び上段の変速段のクラッチスリーブが同時噛合いした時に、例えば上段のクラッチスリーブにドライブトルクが発生すると共に下段のクラッチスリーブにコースティングトルクが発生し、下段のクラッチスリーブに噛合い解除方向の軸力を生じさせるようにして変速を行う。
【0009】
かかるトランスミッションのクラッチスリーブ及び変速ギヤは、回転方向に噛合うトルク伝達用の噛合い歯を備え、噛合い歯は、コースティングトルクにより斜面の作用で噛合い解除方向の軸力を発生させるガイド面を備えている。
【0010】
従って、下段又は上段のクラッチスリーブを斜面に働くトルクにより確実に噛合い解除することができ、且つ変速ショックを軽減することができる。
【0011】
しかし、かかるガイド面は、噛合い歯の回転方向側の面に形成されているためその傾斜の傾きを小さくすることができず、例えば下段の変速段の噛合い歯が外れるときには同時噛み合いによる内部循環トルクがかなり増大した状態になっていた。
【0012】
このため、噛合い歯が外れるときは、増大した内部循環トルクにより相互の噛合い面が圧接され、且つ外れる方向に相対的にずれて行き、最終的に噛合いの端末で一気に外れて内部循環トルクが解放されるという挙動のため、変速ショック及び異音が大きく残るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015-140892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする問題点は、噛合いクラッチが離脱する際のショック及び異音が残る点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のトランスミッションは、噛合いにより一の変速段を結合し同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは離脱する噛合いクラッチ(51、49)を備え、前記噛合いクラッチ(51、49)は、前記噛合いを行う一方及び他方の噛合い歯(51a、49b、25a、27a)を備え、前記一方の噛合い歯(51a、49b)は、前記一の変速段でトルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材(63、61)に備えると共に、前記他方の噛合い歯(25a、27a)は、前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯(51a、49b)が噛合い前記一方の回転部材(63、61)との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材(25、27)に備え、前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)には、ドライブトルクを伝達するために噛合うドライブ噛合い面(119、101)とコーストトルクの発生により噛合うコースト噛合い面(115、99)とが備えられ、前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯先の先端に、相対回転により相手の歯先の先端を当接させ前記離脱をガイドする回転方向に傾斜した離脱ガイド部(97)を周方向で歯厚のほぼ全体に備え、前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯元に前記ドライブ噛合い面(101)に隣接して備えられドライブトルクの伝達を行うとき相対回転で前記ドライブ噛合い面(119、101)の当接を可能とする浅い第2の噛合い位置に前記一方の回転部材(63、61)を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除して深い第1の噛合い位置での噛合いを許容する移動機構(101a)を備え、前記一方の回転部材(63、61)は、トルク伝達部材(3)に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、前記他方の回転部材(25、27)は、前記トルク伝達部材(3)に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、前記一方の回転部材(63、61)と前記トルク伝達部材(3)との間に配置され前記一方の回転部材(63、61)が中立位置から前記他方の回転部材(25、27)へ移動することに起因して前記噛合い歯(25a、51a)が噛み合うように前記一方の回転部材(63、61)を前記移動機構(101a)が発生する軸力よりも弱い力により前記ドライブ噛合い面(101)及び前記移動機構(101a)に対し前記噛合い歯(51a)を付勢する付勢機構(1000)を備え、前記付勢機構(1000)は、当接体(824)及び付勢機能部(822)を備え、前記当接体(824)は、前記トルク伝達部材(3)に周方向所定間隔で複数をそれぞれ径方向に形成した支持穴(620)に配置されて前記付勢機能部(822)により前記一方の回転部材(63、61)の径方向の内周へ向けて付勢され、前記一方の回転部材(63、61)の内周に、前記付勢機能部(822)により径方向に付勢される前記当接体(824)を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を付勢する付勢変換部(460)を備え、前記一の変速段の結合では、前記第2の噛合い位置から前記第1の噛合い位置への移動を戻すために前記付勢機構(1000)が前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を周方向で均等に付勢し、前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは、前記中立位置から移動する一方の回転部材(63、61)を前記付勢機構(1000)が周方向で均等に付勢し、前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生したときは、前記離脱ガイド部(97)により前記相手の歯先の先端に解除方向の軸力を発生させて前記一の変速段の結合を前記付勢機構(1000)による周方向の均等な付勢力に抗して離脱させる。
【0016】
本発明の噛合いクラッチは、噛合いにより一の変速段を結合し同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは離脱する一方及び他方の噛合い歯(51a、49b)、(25a、27a)を備え、前記一方の噛合い歯(51a、49b)は、トルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材(63、61)に備えると共に、前記他方の噛合い歯(25a、27a)は、前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯(51a、49b)が噛合い前記一方の回転部材(63、61)との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材(25、27)に備え、前記一方又は他方の噛合い歯(51a)、(25a)には、ドライブトルクの伝達するために噛合うドライブ噛合い面(119、101)とコーストトルクの発生により噛合うコースト噛合い面(99)とが備えられ、前記一方又は他方の噛合い歯(51a、25a)の歯先の先端に、相対回転により相手(51a)の歯先の先端を当接させ前記離脱をガイドする回転方向に傾斜した離脱ガイド部(97)を周方向で歯厚のほぼ全体に備え、前記噛合い歯(25a)の歯元に前記ドライブ噛合い面(101)に隣接して備えられ前記噛合い歯(51a)が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき相対回転で前記ドライブ噛合い面(119、101)の当接を可能とする浅い第2の噛合い位置に前記一方の回転部材(63、61)を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除して深い第1の噛合い位置での噛合いを許容する移動機構(101a)を備え、前記一方の回転部材(63、61)は、トルク伝達部材(3)に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、前記他方の回転部材(25、27)は、前記トルク伝達部材(3)に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、前記一方の回転部材(63、61)と前記トルク伝達部材(3)との間に配置され前記一方の回転部材(63、61)が中立位置から前記他方の回転部材(25、27)へ移動することに起因して前記噛合い歯(25a、51a)が噛み合うように前記一方の回転部材(63、61)を前記移動機構(101a)が発生する軸力よりも弱い力により前記ドライブ噛合い面(101)及び前記移動機構(101a)に対し前記噛合い歯(51a)を付勢する付勢機構(1000)を備え、前記付勢機構(1000)は、当接体(824)及び付勢機能部(822)を備え、前記当接体(824)は、前記トルク伝達部材(3)に周方向所定間隔で複数をそれぞれ径方向に形成した支持穴(620)に配置されて前記付勢機能部(822)により前記一方の回転部材(63、61)の径方向の内周へ向けて付勢され、前記一方の回転部材(63、61)の内周に、前記付勢機能部(822)により径方向に付勢される前記当接体(824)を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を付勢すると共に前記一方の回転部材(63、61)を前記トルク伝達部材(3)に当接体(824)を介して回転方向に結合する付勢変換部(460)を備え、前記一の変速段の結合では、前記第2の噛合い位置から前記第1の噛合い位置への移動を戻すために前記付勢機構(1000)が前記一方の回転部材(63、61)の軸方向移動を周方向で均等に付勢し、前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは、前記中立位置から移動する一方の回転部材(63、61)を前記付勢機構(1000)が周方向で均等に付勢し、前記同時噛合いにより内部循環トルクが発生したときは、前記離脱ガイド部(97)により前記相手の歯先の先端に解除方向の軸力を発生させて前記一の変速段の結合を前記付勢機構(1000)による周方向の均等な付勢力に抗して離脱させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトランスミッションは、上記構成としたため、一の変速段の結合から同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するとき、噛合い歯の歯先の離脱ガイド部に相手の噛合い歯の歯先を当接させ相対回転により噛合いクラッチの離脱をガイドするから、噛合いクラッチに働く相対回転方向の噛合い力を大きく減少させながら離脱させることができ、変速ショック及び異音を軽減することができる。
【0018】
本発明の噛合いクラッチは、上記構成としたため、噛合い歯の歯先の離脱ガイド部に相手の噛合い歯の歯先を当接させ相対回転により噛合いクラッチの離脱をガイドするから、噛合いクラッチに働く相対回転方向の噛合い力を大きく減少させながら離脱させることができ、ショック及び異音を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シームレスシフトのトランスミッションを示す概略断面図である。(実施例1)
図2】第2、第3の噛合いクラッチを4速ギヤ及び5速ギヤとの関係で示す説明図である。(実施例1)
図3】4速ギヤの状態に係り、(A)は、ドライブトルクによる噛合いを示す一部省略の展開図、(B)は、コーストトルクによる噛合いを示す一部省略の展開図である。(実施例1)
図4】第3の噛合いクラッチにおける付勢機構の拡大断面図である。(実施例1)
図5図4のV-V線矢視に対応する断面図である。(実施例1)
図6】付勢機構によるクラッチスリーブの4速ギヤ方向への付勢状態を示す断面図である。(実施例1)
図7】付勢機構の変形例を示す断面図である。(実施例1)
図8】シフト機構の断面図である。(実施例1)
図9】シフト機能と第3の噛合いクラッチとの関係を示す説明図である。(実施例1)
図10】シフトアップ時のシフトカム及びロッカーアームの関係を6速のシフトカム側から見た正面図である。(実施例1)
図11】カムと副カムとの関係を示し、(A)は、シフトアップ時のシフトカム及び副カムの関係を示す正面図、(B)は、シフトダウン時のシフトカム及び副カムの関係を示す正面図である。(実施例1)
図12】ロッカーアームの正面図である。(実施例1)
図13】シフトアップ時のロッカーアームと副カム動作前のシフトカムとの関係を示す正面図である。(実施例1)
図14】シフトダウン時のロッカーアームと副カム動作後のシフトカムとの関係を示す正面図である。(実施例1)
図15】シフト機構の変形例に係り、シフトドラムに副カムを適用した説明図である。(実施例1)
図16】シフト機構の変形例に係り、ロッカーアーム及びシフトカムに代えたシフトドラムの例を示す説明図である。(実施例1)
図17】シフト機構の変形例に係り、ロッカーアーム及びシフトカムに代えたシフトアクチュエーターの例を示す説明図である。(実施例1)
図18】実施例(対策後B)と比較例(対策前A)との騒音発生の比較を示すグラフである。(実施例1)
図19】実施例(対策後B)と比較例(対策前A)とを示す説明図である。(実施例1)
図20】変速キャンセルを行うシステムの概略構成図である。(実施例2)
図21】変速キャンセルを行うフローチャートである。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0020】
トルクが掛かった状態の噛合いクラッチが離脱するに際しショック及び異音をより軽減することを可能にするという目的を、以下のように実現した。
【0021】
トランスミッションは、噛合いにより一の変速段を結合し同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するときは離脱する噛合いクラッチを備え、前記噛合いクラッチは、前記噛合いを行う一方及び他方の噛合い歯を備え、前記一方の噛合い歯は、前記一の変速段でトルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材に備えると共に、前記他方の噛合い歯は、前記一方の回転部材の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯が噛合い前記一方の回転部材との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材に備え、前記一方又は他方の噛合い歯の何れか一方の歯先に、相対回転により相手の歯先を当接させ前記離脱をガイドする傾斜した離脱ガイド部を備え、前記噛合い歯が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき前記相対回転での当接を可能とする軸方向位置に前記一方の回転部材を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除する移動機構を備え、前記一方の回転部材は、トルク伝達部材に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、前記他方の回転部材は、前記トルク伝達部材に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、前記一方の回転部材と前記トルク伝達部材との間に配置され前記一方の回転部材が中立位置から前記他方の回転部材へ移動することに起因して前記噛合い歯が噛み合うように前記一方の回転部材を前記移動機構が発生する軸力よりも弱い力で付勢する付勢機構を備え、前記付勢機構は、当接体及び付勢機能部を備え、前記当接体は、前記トルク伝達部材に径方向に形成した支持穴に配置されて前記付勢機能部により前記一方の回転部材の内周へ向けて付勢され、前記一方の回転部材の内周に、前記付勢機能部により径方向に付勢される前記当接体を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材の軸方向移動を付勢すると共に前記一方の回転部材を前記トルク伝達部材に当接体を介して回転方向に結合する付勢変換部を備えた。
【0022】
前記同時噛合いを経て離脱する噛合いクラッチは、全ての変速段に備えることができる。前記同時噛合いを経て離脱する噛合いクラッチは、一の変速段に備え、他の変速段は一般的な噛合い歯の変速段にすることができる。
【0023】
前記噛合い歯は、回転部材の回転軸線に平行な噛合い面を設定し、或は回転軸線に対しトルク伝達方向の前方又は後方へ傾斜する噛合い面を設定することができる。前方又は後方へ傾斜する噛合い面を設定する場合は、噛合う相手の噛合い歯を相対的に引き込む又は押し出す方向の軸力、或いは相対的に押し出す又は引き込む方向の軸力を発生させることができる。
【0024】
前記離脱ガイド部は、歯先全体で一定の勾配を有するように傾斜する面で設定している。但し、離脱ガイド部を曲面で構成してもよい。
【0025】
前記離脱ガイド部の傾斜上端部と噛合い方向との間に回転方向に平行な面を形成しても良い。ガイド部の傾斜上端部とに面取り或はアールを形成しても良い。
【0026】
前記離脱ガイド部の傾斜は、前記回転部材の軸心方向に対し回転方向へ45°を上回る角度θで設定されcotθが前記一方及び他方の噛合い歯が当接する離脱ガイド部での摩擦係数を上回るように設定している。
【0027】
前記離脱ガイド部が曲面であるときは、一方及び他方の噛合い歯が当接する離脱ガイド部での接線の傾斜角が回転部材の軸心方向に対し回転方向へ45°を上回る角度θで設定されることになる。
【0028】
前記離脱ガイド部が回転部材の双方に形成される場合は、離脱ガイド部を噛合い歯に間欠的に配置し、相手の噛合い歯の歯先が当接可能なように設定することができる。
【0029】
前記一方の回転部材は、トルク伝達部材に回転方向に係合すると共に軸方向に移動可能に支持されたクラッチスリーブであり、前記他方の回転部材は、前記トルク伝達部材に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持された変速ギヤである。
【0030】
前記離脱をガイドするための相対回転は、シフトアップ動作により下段の変速段及び上段の変速段のクラッチスリーブがそれぞれの変速ギヤに同時噛合いした時に前記下段のクラッチスリーブに発生するコースティングトルク及び上段のクラッチスリーブに発生するドライブトルクに起因する。シフトダウン動作による上段の変速段の場合は、シフトダウン動作により離脱ガイド部に相手の歯先が当接可能となる軸方向位置に一方の回転部材を待機させて離脱ガイド部が働くようにしてもよい。
【0031】
前記離脱ガイド部は、螺旋状である。螺旋状は、螺旋面、或いは螺旋条などで構成される。
【0032】
前記噛合い歯が噛み合ってトルク伝達を行うとき前記当接を可能とする軸方向位置に前記一方の回転部材を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除する移動機構を備えた。
【0033】
前記移動機構は、前記噛合い歯の歯元に傾斜形成され前記噛合い歯が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき相手の歯先をガイドして前記一方の回転部材を第1の噛合い位置から第2の噛合い位置へ移動させて前記相対回転での当接を可能とする軸方向位置とする移動ガイド部である。
【0034】
前記移動ガイド部は、噛合い歯の歯元に形成された移動ガイド面である。但し、前記移動機構を、移動ガイド面に代えてクラッチドライバなどのアクチュエーターで構成することもできる。
【0035】
前記クラッチドライバは、例えば変速駆動部により構成でき、シフトドラムのシフト溝の設定とシフトアームとの関係で設定できる。クラッチドライバは、機械式トルク調節機構が用いられており、クラッチスリーブを移動させると共に、クラッチスリーブから力を受けるとクラッチが外れてクラッチスリーブに位置保持力を与えないようにする。
【0036】
つまり、シフトアップ時にシフトドラムのシフト溝の設定により下段の変速段のクラッチスリーブを第2の噛合い位置に移動させ、上段の変速段側のクラッチスリーブをそのまま噛合い移動させ、上段の変速段と下段の変速段とで同時噛合いとする。
【0037】
前記一方の回転部材は、トルク伝達部材に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、前記他方の回転部材は、前記トルク伝達部材に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、前記一方の回転部材と前記トルク伝達部材との間に配置され前記一方の回転部材が中立位置から前記他方の回転部材へ移動することに起因して前記噛合い歯が噛み合うように前記一方の回転部材を前記移動機構が発生する軸力よりも弱い力で付勢する付勢機構を備えた。
【0038】
前記付勢機構は、当接体及び付勢機能部を備え、前記当接体は、前記トルク伝達部材に径方向に形成した支持穴に配置されて前記付勢機能部により前記一方の回転部材の内周へ向けて付勢され、前記一方の回転部材の内周に、前記付勢機能部により径方向に付勢される前記当接体を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材の軸方向移動を付勢すると共に前記一方の回転部材を前記トルク伝達部材に当接体を介して回転方向に結合する付勢変換部を備えた。
【0039】
つまり、当接体はボール、付勢機能部はコイルスプリングであり、ボールが径方向の支持穴にコイルスプリングにより突出付勢するように支持される。支持穴は、トルク伝達部材の一部を構成するクラッチハブに形成される。ボールがクラッチスリーブの内周に傾斜設定された付勢変換部に弾接可能となる。
【0040】
前記当接体は、ピン、ビュレット形状体等でも良い。付勢機能部は、コイルスプリングの他にボール自体の遠心力を利用した構成に代え、或は支持穴にトルク伝達部材側のオイルホールから油圧を導くことによる流体圧を利用した構成に代え、さらにはこれらの組み合わせとすることもできる。
前記付勢機構は、軸方向では1か所に備えれば機能するが、複数個所に配置することもできる。前記付勢変換部は、前記一方の回転部材を前記トルク伝達部材に前記当接体を介して回転方向に結合する傾斜溝部であり、傾斜溝部は、トルク伝達に関わる。但し、傾斜溝部は、トルク伝達に関わらない傾斜部として構成することもできる。
【0041】
前記一の変速段が上段であると共に前記他の変速段が下段であり、前記一の変速段から前記他の変速段へ結合を変更する変速駆動部を備え、前記変速駆動部は、前記他の変速段へ結合の変更を行うために前記上段の変速段の一方の回転部材と前記下段の変速段の一方の回転部材との軸方向移動のためのシフトストロークを設定し、前記変速駆動部によるシフトストロークの設定は、前記上段へのシフトアップ時よりも前記下段へのシフトダウン時を大きくした。
【0042】
前記シフトストロークの設定は、例えばシフトカムの本体に小さな副カムを相対回転自在に結合して行わせる。シフトカムの一方への回転により副カムが突出してシフトカムの輪郭を大きくし、シフトアームを連動させるロッカーアームの一方側への揺動範囲を他方側より大きくしてシフトストロークの設定を変えることになる。
【0043】
前記一の変速段から前記他の変速段へ結合を変更する変速駆動部と、前記一の変速段の一方の回転部材の軸方向位置を検出する検出器と、前記同時噛合いを経て他の変速段へ結合を変更するとき前記検出された一の回転部材が前記移動機構の働きにより移動する軸方向位置にないとき前記変速駆動部による他の変速段への結合の変更をキャンセルする制御部とを備えた。
【0044】
前記変速駆動部は、電動モーターなどによりシフトカム、シフトドラム等を駆動して変速段の結合の変更を行わせるもの、手動によるシフト操作によるものの何れでもよい。
【0045】
前記検出器には、近接センサー、レーザーセンサー、360°角度センサーなどが用いられ、この検出器でシフトフォーク、シフトロッド、クラッチスリーブ等の位置を検出する。トランスミッションが本来備えるシフトセンサーを用いることもできる。制御部は、クラッチスリーブが本来あるべき位置を示さない場合に一の変速段のクラッチスリーブが本来の軸方向位置にないと判断し、変速段の結合をキャンセルすることもできる。
【0046】
前記変速駆動部による他の変速段への結合の変更をキャンセルする状態では、警報を発生するようにしても良い。
【0047】
噛合いクラッチは、噛合いを行う一方及び他方の噛合い歯を備え、前記一方の噛合い歯は、トルク伝達を行う軸方向移動可能な一方の回転部材に備えると共に、前記他方の噛合い歯は、前記一方の回転部材の軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯が噛合い前記一方の回転部材との間で前記トルク伝達を行う他方の回転部材に備え、前記一方又は他方の噛合い歯の何れか一方の歯先に、相対回転により相手の歯先を当接させ前記離脱をガイドする傾斜したガイド部を備え、前記噛合い歯が噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき前記当接を可能とする軸方向位置に前記一方の回転部材を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除する移動機構を備え、前記一方の回転部材は、トルク伝達部材に回転方向に係合すると共に軸方向移動可能に支持され、前記他方の回転部材は、前記トルク伝達部材に相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持され、前記一方の回転部材と前記トルク伝達部材との間に配置され前記一方の回転部材が中立位置から前記他方の回転部材へ移動することに起因して前記噛合い歯が噛み合うように前記一方の回転部材を前記移動機構が発生する軸力よりも弱い力で付勢する付勢機構を備え、前記付勢機構は、当接体及び付勢機能部を備え、前記当接体は、前記トルク伝達部材に径方向に形成した支持穴に配置されて前記付勢機能部により前記一方の回転部材の内周へ向けて付勢され、前記一方の回転部材の内周に、前記付勢機能部により径方向に付勢される前記当接体を受け前記付勢の方向を軸方向に変換して前記一方の回転部材の軸方向移動を付勢すると共に前記一方の回転部材を前記トルク伝達部材に当接体を介して回転方向に結合する付勢変換部を備えた。
【実施例1】
【0048】
[トランスミッションの概要]
図1は、本発明の実施例1に係るシームレスシフトのトランスミッションを示す概略断面図である。
【0049】
図1のように、トランスミッション1は、トルク伝達部材として中実のメインシャフト3及びカウンターシャフト5、アイドラーシャフト40を備えている。これらメインシャフト3及びカウンターシャフト5は、軸受9、11、13、15等によりトランスミッションケース(図示せず。)に回転自在に支持されている。アイドラーシャフト40は、トランスミッションケース側に固定されている。
【0050】
前記メインシャフト3とカウンターシャフト5とには、複数段の変速ギヤとして1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29が適所に相対回転可能に支持されている。
【0051】
前記カウンターシャフト5上の1速ギヤ19、3速ギヤ23は、メインシャフト3の出力ギヤ31、33に噛合い、メインシャフト3上の2速ギヤ21、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29は、カウンターシャフト5のギヤ35、37、39、41にそれぞれ噛合っている。
【0052】
前記アイドラーシャフト40上のリバースアイドラー42は、軸方向移動によりメインシャフト3上の出力ギヤ44及びカウンターシャフト5上の入力ギヤ45に噛合い可能に配置されている。
【0053】
前記1速ギヤ19、3速ギヤ23は、第1の噛合いクラッチ47によりカウンターシャフト5に選択的に結合される。前記2速ギヤ21及び5速ギヤ27と、4速ギヤ25及び6速ギヤ29とは、第2、第3の噛合いクラッチ49、51によりそれぞれメインシャフト3に選択的に結合される。この選択的な結合によりメインシャフト3からカウンターシャフト5に変速出力可能となっている。
【0054】
前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51は、噛合いにより一の変速段を選択的に結合し同時噛み合いを経て他の変速段へ結合を変更するとき離脱するように構成されている。本実施例では、シフトアップ時に、上段の変速段を結合し下段の変速段の同時噛み合いを経て下段の変速段を離脱させる。
【0055】
例えば1速ギヤ19から2速ギヤ21への結合の変更は、第1、第2の噛合いクラッチ47、49により行なう。
【0056】
前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51は、基本的には同一構造であり、クラッチハブ53、55、57、クラッチスリーブ59、61、63、噛合い歯47a、47b、49a、49b、51a、51b、19a、21a、23a、25a、27a、29aを備えている。
【0057】
前記一方の噛合い歯47a、47b、49a、49b、51a、51bは、クラッチスリーブ59、61、63に備えられている。これらの噛合い歯47a、47b、49a、49b、51a、51bは、1速ギヤ19~6速ギヤ29に対するクラッチスリーブ59、61、63の対向面に備えられている。これらのクラッチスリーブ59、61、63は、一方の回転部材を構成する。つまり、クラッチスリーブ59、61、63は、トルク伝達部材としてのメインシャフト3、カウンターシャフト5に回転方向に係合すると共に軸方向に移動可能に支持されている。
【0058】
前記他方の噛合い歯19a、21a、23a、25a、27a、29aは、クラッチスリーブ59、61、63に備えられている。これらの噛合い歯19a、21a、23a、25a、27a、29aは、クラッチスリーブ59、61、63に対する1速ギヤ19~6速ギヤ29の対向面に備えられている。これらの1速ギヤ19~6速ギヤ29は、他方の回転部材を構成する。つまり、1速ギヤ19~6速ギヤ29は、カウンターシャフト5にニードルベアリングなどを介して相対回転自在に支持されると共に軸方向移動不能に支持されている。
【0059】
前記クラッチスリーブ59、61、63の選択的な軸方向移動に起因して前記一方の噛合い歯47a、47b、49a、49b、51a、51bが他方の噛み合い歯19a、21a、23a、25a、27a、29aに選択的に噛合う。
【0060】
前記第1の噛合いクラッチ47のクラッチハブ53は、カウンターシャフト5にスプライン嵌合などにより結合され、一体回転可能となっている。第2、第3の噛合いクラッチ49、51のクラッチハブ55、57は、メインシャフト3にスプライン嵌合などにより結合され、一体回転可能となっている。これらクラッチハブ53、55、57の位置決めは、カウンターシャフト5、メインシャフト3に形成された段付き部とスナップリングとにより行われている。クラッチハブ53がカウンターシャフト5にスプライン嵌合して一側がカウンターシャフト5の段付き部に突き当てられ、このクラッチハブ53の他側にカウンターシャフト5に係合されたスナップリングを位置決め配置している。クラッチハブ55、57もメインシャフト3に対して同様の構造で位置決められる。
【0061】
前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51のクラッチスリーブ59、61、63は、クラッチハブ53、55、57の外周に嵌合配置され、軸方向へ移動可能にスプライン結合されている。クラッチスリーブ61は、変速ギヤである2速ギヤ21、5速ギヤ27、クラッチスリーブ63は、4速ギヤ25、6速ギヤ29をメインシャフト3へ選択的に結合して変速出力するために備えられている。クラッチスリーブ59は、変速ギヤである1速ギヤ19、3速ギヤ23をカウンターシャフト5に選択的に結合して変速出力するために備えられている。
【0062】
前記クラッチスリーブ59には、シフトフォーク80が嵌合する周凹条81が形成されている。アイドラーシャフト40上のリバースアイドラー42にも、シフトフォーク84が嵌合する周凹条86が形成されている。なお、アイドラーシャフト40は、ミッションケース側に固定支持されている。クラッチスリーブ59には、さらに前記入力ギヤ45が形成されている。クラッチスリーブ61、63には、シフトフォーク85、87が嵌合する周凸条89、91が形成されている。クラッチスリーブ59、61、63の両サイドには、1速ギヤ19、2速ギヤ21、3速ギヤ23、4速ギヤ25、5速ギヤ27、6速ギヤ29を選択して各両サイドに2速以上離して配置し、それぞれ両サイドの変速ギヤに選択的な噛み合いが可能となっている。
【0063】
つまり、クラッチスリーブ59の両サイドには1速ギヤ19、3速ギヤ23が配置され、クラッチスリーブ61の両サイドには2速ギヤ21、5速ギヤ27が配置され、クラッチスリーブ63の両サイドには4速ギヤ25、6速ギヤ29が配置されている。
【0064】
前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51は、変速駆動部であるシフト機構800により選択的に操作されるようになっている。リバースアイドラー42も、シフト機構800により操作されるようになっている。
【0065】
前記シフト機構800は、トランスミッションケース内に備えられ、シフトフォーク80、85、87とシフトロッド803、805、807とシフトアーム811、813、815とにより前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51に連動構成されている。シフト機構800は、シフトフォーク80とシフトロッド801とシフトアーム809とによりリバースアイドラー42に連動構成されている。
【0066】
前記第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51のクラッチスリーブ59、61、63と前記クラッチハブ53、55、57との間に第1~第3の付勢機構1000が配置されている。第1の付勢機構1000は、クラッチスリーブ59を付勢する。つまり、クラッチスリーブ59は、中立位置から1速ギヤ19又は3速ギヤ23方向へ移動することに起因して噛合い歯47a、19a又は噛み合い歯47b、23aが噛み合うように付勢される。第2の付勢機構1000は、クラッチスリーブ61を付勢する。つまり、クラッチスリーブ61は、中立位置から2速ギヤ21又は5速ギヤ27方向へ移動することに起因して噛合い歯49a、21a又は噛み合い歯49b、27aが噛み合うように付勢される。第3の付勢機構1000は、クラッチスリーブ63を付勢する。つまり、クラッチスリーブ63は、中立位置から4速ギヤ25又は6速ギヤ29へ移動することに起因して噛合い歯51a、25a又は噛み合い歯51b、29aが噛み合うように付勢される。
【0067】
前記第1~第3の付勢機構1000はほぼ同一構成であり、第3噛合いクラッチ51において第3の付勢機構1000を代表して後述する。
【0068】
前記トランスミッション1の出力は、カウンターシャフト5の出力ギヤ93にリダクションギヤ212Rにより噛合うフロントデファレンシャル装置から行う。
【0069】
すなわち、シフトレバーのマニュアル操作信号に基づき、或いはアクセルペダルの操作によるアクセル開度及び車速信号等に基づき、シフト機構800が駆動されると、何れかのシフトアーム809、811、813、815を介してシフトロッド801、803、805、807が軸方向へ選択的に駆動される。
【0070】
このシフトロッドの駆動によりシフトフォーク811、813、815を介して対応する第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51が駆動操作され、シフトフォーク809を介してリバースアイドラー42が駆動操作される。この操作により、1速ギヤ19~6速ギヤ29、リバースアイドラー42が選択的に結合され、シフトアップ、シフトダウン、リバースの変速を行わせることができる。
【0071】
[離脱ガイド部]
図2は、第2、第3の噛合いクラッチを4速ギヤ及び5速ギヤとの関係で示す説明図である。図3は、4速ギヤの状態に係り、(A)は、ドライブトルクによる噛合いを示す一部省略の展開図、(B)は、コーストトルクによる噛合いを示す一部省略の展開図である。
【0072】
本実施例の第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51の噛合い歯は同一構造に形成されている。このため、図2図3を用い第3の噛合いクラッチ51の噛合い歯に関して具体形状を説明し、第1、第2の噛合いクラッチ47、49に関する噛合い歯の形状は第3の噛合いクラッチ51の噛合い歯の形状を適宜参照することとし重複した説明は省略する。
【0073】
図1図2図3のように、第3の噛合いクラッチ51は、クラッチスリーブ63の複数の噛合い歯51a、51b、及び噛合い歯51aに噛み合う4速ギヤ25の複数の噛合い歯25a、6速ギヤ29(図1)の複数の噛合い歯29a(図1)を有している。
【0074】
本実施例の第3の噛合いクラッチ51をクラッチスリーブ63及び4速ギヤ25との関係でさらに説明する。クラッチスリーブ63の噛合い歯51a及び4速ギヤ25の噛合い歯25aは、周方向で均一の高さに設定されている。但し、噛合い歯51a、25aを周方向所定間隔毎、例えば1歯毎に高低を有するように設定することもできる。
【0075】
前記噛合い歯51a、25aは、メインシャフト3の軸心に対して螺旋状に形成されている。このため、噛合い歯51aが噛合い歯25aに噛合う時、或は、離脱するとき、両者の噛合いは、ネジのような動作を伴って螺旋ガイドされる。軸心に対して螺旋状とは、軸心を中心とする螺旋状、軸心から螺旋の中心がオフセットされた螺旋状の何れも含む意味である。
【0076】
前記第3の噛合いクラッチ51の噛合い歯25a、51a一方として、例えば噛合い歯25aの歯先には、離脱ガイド部として離脱ガイド面97が備えられている。噛合い歯25aには、ドライブトルク伝達方向の後部にドライブ噛合い面101が備えられ、同前部にコースト噛合い面99が備えられている。
【0077】
前記ドライブ噛合い面101、離脱ガイド面97、及びコースト噛合い面99は、噛合い歯25aを螺旋状とするために共に螺旋状に形成されている。
【0078】
前記離脱ガイド面97は、メインシャフト3の回転軸心に対し回転方向に漸次傾斜して形成されている。この傾斜により離脱ガイド面97は、コースティングトルクにより他方の噛合い歯51aを相対的にガイドしてクラッチスリーブ63に噛合い解除方向の軸力を発生させる機能を有する。
【0079】
例えば、一の変速段である4速から他の変速段である5速へシフトアップするとき、クラッチスリーブ63、61は同時噛み合いを経る。この同時噛合いは、クラッチスリーブ63の噛合いにより4速ギヤ25をメインシャフト3に結合している状態において第2の噛合いクラッチ49のクラッチスリーブ61の噛合いにより5速ギヤ27をメインシャフト3に結合する状態となる。
【0080】
この同時噛合いを経て4速ギヤ25の結合から5速ギヤ27へ結合を変更するときに噛合い歯25a、51aが相対トルクを受けて噛合い歯51aの歯先を離脱ガイド面97に当接させ、クラッチスリーブ63を4速ギヤ25から離間移動させる構成となっている。
【0081】
この場合、前記相対回転は、シフトアップ動作でのクラッチスリーブ61、63での同時噛み合いにより下段の変速段に発生するコースティングトルク及び上段の変速段に発生するドライブトルクに起因する。
【0082】
本実施例において、離脱ガイド面97は回転方向に沿って傾斜形成され、その傾斜角度は、メインシャフト3の回転軸心に対しθ=45°~80°の範囲で設定されている。離脱ガイド面97の傾斜は、cotθが噛合い歯25a、51a間の離脱ガイド面97での摩擦係数を上回る設定としている。なお、離脱ガイド面97の傾斜角度は、下段の変速段及び上段の変速段のクラッチスリーブ61、63が同時噛合いした時にコースティングトルクにより下段の変速段のクラッチスリーブ63に噛合い解除方向の軸力を生じさせるものであればよく、場合によっては上限を80°を越えて設定することもできる。
【0083】
回転軸心に対する離脱ガイド面97の傾斜角度45°は、周方向の分力と回転軸心方向の分力とが拮抗するが、回転軸心方向の分力が上回る傾斜角度45°未満の場合に比較して後述の内部循環トルクの増大を抑制することのできる限界として定義づけることができる。
【0084】
なお、離脱ガイド面97は、途中から歯先113にかけて傾斜角度を大きくすることもできる。離脱ガイド面97の傾斜上端側を回転方向に沿った面で構成することもできる。離脱ガイド面97とドライブ噛合い面101との間をアールで連続させることもできる。
【0085】
前記離脱ガイド面97は、クラッチスリーブ61の周方向で歯厚のほぼ全体に形成され、内径側から外径側に向けて螺旋状となっている。離脱ガイド面97は、螺旋状とすることなく、径方向に沿った斜面で構成することもできる。
【0086】
前記ドライブ噛合い面101は、ドライブトルクの伝達方向に対し後方へ指向して設定されている。このドライブ噛合い面101は、回転軸心に対してドライブトルクの伝達方向に対し歯先に向かって後方へ傾斜するように設定されている。この設定の傾斜により、噛合い歯51aが噛み合ったとき噛合い歯51aを噛合い方向に引き込む作用を奏する。
【0087】
なお、ドライブ噛合い面101をドライブトルクの伝達方向に対し歯先に向かって前方へ傾斜するように設定することもできる。この場合は、噛合い歯51aが噛み合ったとき噛合い歯51aを噛合い方向に対し押し出す作用を奏する。但し、この押し出す作用は、ドライブトルクの伝達時は外れない程度のものである。
【0088】
[移動機構]
前記移動機構とは、前記噛合い歯25a、51aが噛み合ってトルク伝達を行うとき前記離脱ガイド面97に噛合い歯51a当接を可能とする軸方向位置の第2の噛合い位置に前記クラッチスリーブ63を移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除するものである。
【0089】
前記噛合い歯25aの歯元には、ドライブ噛合い面101に隣接して移動ガイド面101aを備えている。移動ガイド面101aは、移動機構としての移動ガイド部を構成する。移動ガイド面101aは、前記噛合い歯25aの歯元に傾斜形成された面である。前記噛合い歯25a、51aが噛み合ってドライブトルクの伝達を行うとき相手の歯先113をガイドして第1の噛合い位置から前記軸方向位置の第2の噛合い位置へ移動させる軸力を発生すると共にコーストトルクの発生により前記軸力を解除するものである。第1の噛合い位置は、コースト噛合い面99、115がクラッチスリーブ63及び4速ギヤ25のコーストトルク時の相対回転により噛合うことができる深い噛合い位置である。第2の噛合い位置は、噛合い歯51aの歯先が離脱ガイド面97に回転方向に対向する浅い噛合い位置である。
【0090】
前記移動ガイド面101aは、回転軸心に対して傾斜している。この傾斜により移動ガイド面101aは、ドライブトルクによって噛合い歯51aの歯先が当接すると噛合い歯51aに軸力を発生させる。この軸力により噛合い歯51aは、第1の噛合い位置から第2の噛合い位置へ移動する。この第2の噛合い位置は、噛合い歯25aの歯底の面からΔXの距離となる。
【0091】
つまり、一の変速段の4速から同時噛み合いを経て他の変速段の5速へ結合を変更するとき4速の噛合い歯51aの歯先が第1の噛合い位置から第2の噛合い位置となるようにクラッチスリーブ63を移動させる。
【0092】
前記噛合い歯25aのコースト噛合い面99は、変速時、エンジンブレーキ時に噛合い歯51aが噛み合う。コースト噛合い面99は、離脱ガイド面97の傾斜下端においてメインシャフト3の軸心方向に沿って立ち上がっている。コースト噛合い面99は、メインシャフト3の回転軸心に対してコースティングトルクの伝達方向に対し歯底の面から離脱ガイド面97に向かって後方へ傾斜するように設定されている。
【0093】
このコースト噛合い面99の傾斜設定により、コースティングトルクにより噛合い歯51aが噛み合ったとき噛合い歯51aを噛合い方向に引き込む作用を奏する。
【0094】
なお、コースト噛合い面99をコースティングトルクの伝達方向に対し離脱ガイド面97に向かって前方へ傾斜するように設定することもできる。この場合は、噛合い歯51aが噛み合ったとき噛合い歯51aを噛合い方向に対し押し出す作用を奏する。但し、この押し出す作用は、エンジンブレーキの伝達時は外れない程度のものである。エンジンブレーキ時にクラッチスリーブ63に働く軸力はごく僅かであり、シフト機構800側のガイドなどにより噛合い歯25a、51aを無理なく噛合い維持させることができる。
【0095】
前記コースト噛合い面99の回転軸心方向での高さは、エンジンブレーキ時に他方の4速ギヤ25の噛合い歯25aからクラッチスリーブ63が抜けない範囲においてできるだけ低いのがよい。コースト噛合い面99は、メインシャフト3の回転軸心に対する傾斜を零に設定することもできる。
【0096】
前記コースト噛合い面99の傾斜角度により噛合い歯51aに押し出す作用が働く形態では、コースト噛合い面99の傾斜角度は、エンジンブレーキ時に4速ギヤ25の噛合い歯25aからクラッチスリーブ63の噛合い歯51aが自律的には抜けない範囲とする。また、コースト噛合い面99の傾斜角度により発生する軸力が小さいときは、シフト機構800の設定等で抜けを規制する形態にすることもできる。コースト噛合い面99を無くした場合でも、クラッチスリーブ63の噛合い歯51aが離脱ガイド面97の傾斜下端に係合し、この係合状態をシフト機構800の設定等で維持させることができる。
【0097】
前記クラッチスリーブ63の噛合い歯51aの歯先113は、平坦面やアール面(曲面)で形成している。噛合い歯51aには、ドライブ噛合い面119、コースト噛合い面115が形成されている。噛合い歯51aのドライブ噛合い面119及びコースト噛合い面115は、噛合い歯25aのドライブ噛合い面101、コースト噛合い面99に対応して傾斜等が設定されている。
【0098】
前記噛合い歯51aの歯先113、ドライブ噛合い面119、及びコースト噛合い面115は、メインシャフト3の回転軸心に対して螺旋状で形成されている。この螺旋状は、噛合い歯51aを噛合い歯25aと同様の螺旋状とするためである。したがって、噛合い歯25aが螺旋状ではなく、径方向に沿った形状であるときは、噛合い歯51aも同様に径方向に沿った形状とする。
【0099】
図3の展開図において前記噛合い歯25a、51aの高さ及び回転方向の歯幅はほぼ同一に設定されている。噛合い歯25a、51aの歯の間隔は、歯幅よりも大きく設定されている。本実施例では、歯先の幅に対し歯の間隔がほぼ1.5倍に設定されている。この歯の間隔の設定は、噛合い歯25a、51aを円滑に噛合わせ、離脱させるためのものであり、その設定は自由である。
【0100】
なお、上記説明では噛合い歯25aを4速ギヤ25に形成し、噛合い歯51aをクラッチスリーブ63に形成したが、噛合い歯25aをクラッチスリーブ63に形成し、噛合い歯51aを4速ギヤ25に形成する関係にすることもできる。
【0101】
[付勢機構]
図4は、第3の噛合いクラッチにおける付勢機構の拡大断面図である。図5は、図4のV-V線矢視に対応する断面図である。図6は、付勢機構によるクラッチスリーブの4速ギヤ方向への付勢状態を示す断面図である。図7は、付勢機構の変形例を示す断面図である。
【0102】
前記第3の噛合いクラッチ51における第3の付勢機構1000は、当接体としてのボール824及び付勢機能部としてのコイルスプリング822を備えている。
【0103】
前記クラッチハブ57には、支持穴620が径方向に貫通して形成されている。支持穴620に対向してメインシャフト3には、スプリング座のような凹部823が形成されている。支持穴620は、周方向所定間隔で複数形成されている。実施例では、6か所均等に備えられている。各支持穴620にボール824がコイルスプリング822と共に収容されている。各コイルスプリング822の径方向内端は、各凹部823に着座されている。各ボール824は、各コイルスプリング822により前記クラッチスリーブ63の内周へ向けて付勢されている。前記クラッチスリーブ63の内周に、付勢変換部である傾斜溝部460を備えている。傾斜溝部460は、コイルスプリング822により径方向に付勢されるボール824を受け、径方向への付勢を軸方向に変換してクラッチスリーブ63の軸方向移動を付勢するものである。
【0104】
前記傾斜溝部460は、各ボール824に応じて実施例では周方向で6か所に均等に備えられている。したがって、径方向でクラッチハブ57及びクラッチスリーブ63間に働くコイルスプリング822の弾発力は相殺される。
【0105】
図5のように、前記傾斜溝部460の断面形状は、ボール824がガタツキ無く嵌合するようにボール824の半径に対し僅かに大きな半径のRを有するように形成されている。
【0106】
したがって、ボール824が傾斜溝部460に嵌合することでクラッチスリーブ63をメインシャフト3のクラッチハブ57にボール824を介して回転方向に結合する。この結合によりクラッチハブ57とクラッチスリーブ63との間のスプラインによる噛合い面積の減少は僅かとなり、実用強度を維持させることができる。
傾斜溝部460は、トランスミッション1の仕様によりクラッチスリーブ63の片側にのみ設けることもできる。傾斜溝部460は、クラッチスリーブ63の内周から側面に至って傾斜して形成されている。クラッチスリーブ63の内周には、軸方向両側の傾斜溝部460間に谷部409が形成されている。
【0107】
したがって、クラッチスリーブ63は、図4のように中立位置で谷部409にボール824が弾接して位置決められている。なお、谷部409は省略することもできる。クラッチスリーブ63がシフト機構800による駆動で移動すると、ボール824が移動方向後方の傾斜溝部460に嵌合し、傾斜溝部460を径方向に当接し付勢する。この径方向の当接による付勢は、傾斜溝部460の傾斜により軸方向の付勢に変換される。このため、図5のようにクラッチスリーブ63がシフト方向に押し付けられ、噛合い歯51aが4速ギヤ25の噛合い歯25aに噛合うように付勢される。クラッチスリーブ63が6速ギヤ側にシフトされたときは、逆側の傾斜溝部460が機能し、同様に6速ギヤ29の噛合い歯29aに対する噛合い歯51bの噛合いが行われる。
【0108】
なお、前記ボール824に付勢力を与えるコイルスプリング822は、図7の流体圧に代えることもできる。かかる形態では、支持穴620にトルク伝達部材であるメインシャフト3側のオイルホール490から油圧を導く構成とする。
【0109】
前記付勢機構1000が発する軸力は、エンジンが駆動状態にあるとき、噛合い歯25aの移動ガイド面101aが噛合い歯51aに与える軸力より小さくなるように設定してある。このため、付勢機構1000の付勢力があっても第3の噛合いクラッチ51は、第2の噛合い位置にあるクラッチスリーブ63がその位置を維持し、噛合い歯51aが噛合い歯25aの歯底の面からΔXの距離を維持する。
【0110】
[シフト機構]
図8は、変速駆動部の断面図である。図9は、変速駆動部と第3の噛合いクラッチとの関係を示す説明図である。図10は、シフトアップ時のシフトカム及びロッカーアームの関係を6速のシフトカム側から見た正面図である。図11は、シフトカムと副カムとの関係を示し、(A)は、シフトアップ時のシフトカム及び副カムの関係を示す正面図、(B)は、シフトダウン時のシフトカム及び副カムの関係を示す正面図である。図12は、ロッカーアームの正面図である。
【0111】
図8図9のように、第3の噛合いクラッチ51は、変速駆動部としてのシフト機構800のロッカーアーム159に対しシフトアーム815の係合部141に係合している。
【0112】
本実施例の図8のシフト機構800は、一対のシフトカム及びこの一対のシフトカムをセットとしてロッカーアームを共有する構成とした。
【0113】
前記シフト機構800は、カム機構CA1~CA4をハウジング143内に備えている。カム機構CA1は、バックギヤ用であり、シフトアーム809を駆動するものである。カム機構CA2は、1速3速用であり、シフトアーム811を駆動するものである。カム機構CA3は、2速5速用であり、シフトアーム813を駆動するものである。カム機構CA4は、4速6速用であり、シフトアーム815を駆動するものである。
【0114】
前記カム機構CA1~CA4は、カムセット145、147、149、151と、カム機構CA1~CA4毎のシフト動作部としてロッカーアーム153、155、157、159とを備えている。
【0115】
前記ロッカーアーム153、155、157、159のシフトガイドは、カムセット145、147、149、151の各カム面による各係合ガイドで行われる。このシフトガイドにより各ロッカーアーム153、155、157、159がそれぞれの係合部141を介してシフトアーム809、811、813、815をシフト方向に軸方向移動させる。
【0116】
前記カムセット145、147、149、151は、カム軸161に取り付けられている。複数の変速段に応じた操作出力回転部としてカムセット145はリバース用のシフトカム163、カムセット147は、1速用のシフトカム165、3速用のシフトカム167、カムセット149は、2速用のシフトカム169、5速用のシフトカム171、カムセット151は、4速用のシフトカム173、6速用のシフトカム175をそれぞれ備えている。各シフトカム163、165、167、169、171、173、175は、板カムで形成され、外周に後述のカム面を備え、シフト指示によりカム軸161と共に一体に回転駆動されるものである。カム軸161には、電動のシフトモーター890が結合されている。シフトモーター890に代えて、油圧、空圧、電磁ソレノイド等のアクチュエーターの使用が可能である。シフトモーター890に代えてマニュアル操作用の操作レバーを用いることもできる。
【0117】
図9は、第3の噛合いクラッチ51を操作するロッカーアーム159及びカムセット151を代表して示す。しかし、第1、第2の噛合いクラッチ47、49を操作するロッカーアーム155、157及びカムセット147、149についても同様である。リバースアイドラー42を操作するロッカーアーム153及びカムセット145についても基本的には同様であるが、カムセット145のシフトカムについて後述する副カムの構成は必要が無く、設けられていない。
【0118】
前記カムセット151は、一対のシフトカム173、175がロッカーアーム159の軸方向両側に配置されている。シフトカム173、175は、2速以上離れている。シフトカム173、175は、対応するロッカーアーム159を共有し、各シフトカム173、175が、一つのロッカーアーム159の揺動動作に係わる。各シフトカム173、175は、カム軸161の回転により一体に回転し、本実施例においてそれぞれ4速、6速の変速段のシフトガイドに係わるものである。
【0119】
図9図10で示す遊び(L1>L2)は、L1をピン159a、159b間の距離、L2をピン159a、159b間でのカムセット151のシフトカム173、175間の外縁間寸法とする。つまり、遊び(L1>L2)が、カムセット151のシフトカム173、175のカム面とロッカーアーム159のピン159a、159bとの揺動方向間に形成される。シフトカム173は、ロッカーアーム159の4速へのシフトガイドに係わる。シフトカム175は、ロッカーアーム159の6速へのシフトガイドに係わる。他の変速段でも同様である。
【0120】
前記遊び(L1>L2)は、シフトフォーク87を遊びの範囲でフリーとし、クラッチスリーブ63の第1、第2の噛合い位置間での軸方向の動きを妨げない。これにより、ドライブ・コースト両方向のトルク伝達が確実に可能となる。
【0121】
前記ロッカーアーム153、155、159、159及びカムセット145、147、149、151によりリバースアイドラー42のシフト動作、第1~第3の噛合いクラッチ47、49、51のシフト動作が行われる。この場合、シフト機構800は、下段の変速段から上段の変速段への結合の変更を行うために上段の変速段のクラッチスリーブと下段の変速段のクラッチスリーブとの軸方向移動のためのシフトストロークを設定している。このシフト機構800によるシフトストロークの設定は、シフトカムの構造により上段へのシフトアップ時よりも前記下段へのシフトダウン時を大きくした。但し、シフトアップ時、シフトダウン時のシフトストロークを同一にしてもよい。シフトストロークの設定は後述する。
【0122】
[シフトカム]
図11により前記4速6速のカム機構CA4の6速用のシフトカム175を代表して説明する。1速3速のカム機構CA2、2速5速のカム機構CA3の他のシフトカムの構造についても同様である。
【0123】
前記シフトカム175は、軸心部に六角穴175aが形成され、この六角穴175aが図8のカム軸161の断面六角の周面に嵌合し、一体回転可能となっている。なお、シフトカム175のカム軸161に対する一体回転構造は、スプライン、キーなど周知構造を適用できる。
【0124】
なお、図8中右から1速、3速、6速、4速、5速、2速のシフトカム165、167、175、173、171、169、及び図8中右端のリバースのシフトカム163は、位相をずらしてカム軸161に取り付けられている。
【0125】
前記シフトカム175の周面は、カム面175bとなっている。このカム面175bに、ロッカーアーム159のピン159a、159bが習動してロッカーアーム159が揺動し、シフト動作を行う。
【0126】
前記シフトカム175の表面には、一対のストッパー面175c、175dが段付き状に形成されている。シフトカム175の表面の段付き部に、副カム174が軸176により回転可能に支持されている。副カム174には、ストッパー面175c、175dに対向する当接縁部174aが一側に形成され、外縁部174bが、カム面175bの一部に倣って形成されている。
【0127】
したがって、副カム174は、軸176を中心に回転することで当接縁部174aがストッパー面175c、175dの何れかに切り換えて当接可能となっている。
【0128】
前記副カム174の外縁部174bは、凸部174cを備えている。副カム174は、凸部174cがシフトカム175の凸部175eを含めるようにして外縁部174bがカム面175bに倣っている。凸部175e及び174cは、その高さの設定によりシフトストロークを設定する。
【0129】
つまり、図11(A)のように、副カム174が一方に回転して当接縁部174aがストッパー面175cに当接すると副カム174の凸部174cがシフトカム175の凸部175eに重なる。このときの凸部175e、174c先端の共通の回転半径はR1となる。
【0130】
図11(B)のように、副カム174が他方に回転して当接縁部174aがストッパー面175dに当接すると副カム174の凸部174cがシフトカム175の凸部175eよりも径方向に突出する。このときの凸部174c先端の回転半径はR2となる。回転半径R1、R2の関係は、R1<R2となる。シフトカム175側の回転半径R1<R2の関係によりか下段へのシフトダウン側を上段へのシフトアップ側よりもΔYだけシフトストロークを大きくすることができる。このΔYは、第1の噛合い位置と第2の噛合い位置との間の距離ΔXに対応している。
【0131】
なお、シフトカム175には特段の突部を形成せず、副カム174の凸部174cのみで回転半径R1、R2の関係を形成することもできる。
【0132】
[ロッカーアーム]
図12のように、ロッカーアーム159は、両面にピン159a、159bを備えている。ピン159aは、6速側のシフトカム175のカム面によりガイドを受けるものである。ピン159bは、4速側のシフトカム173のカム面によりガイドを受けるものである。つまりピン159a、159bは、ロッカーアーム159を正面から見て左右両側に表裏に分けて配置されている。
【0133】
前記ロッカーアーム159の中央部には、孔159cが弧状に形成され、カム軸161に遊嵌している。ロッカーアーム159の先端部には、作用部159dが備えられ、シフトアーム815の係合部141に係合している。このロッカーアーム159は、ピボット159eでハウジング143に揺動回転自在に支持されている。
【0134】
[トルク伝達]
図1に示すように、エンジンのトルクは発進クラッチ2を介しメインシャフト3に伝達される。4速の変速段で説明すると、メインシャフト3から、クラッチハブ57、クラッチスリーブ63を経て、4速ギヤ25に伝達される。4速ギヤは、ギヤ37を駆動する。ギヤ37は、カウンターシャフト5を駆動し、ギヤ93、リダクションギヤ212R、デファレンシャル装置(図示せず。)、車軸を経て、車輪に動力を伝達する。クラッチスリーブ63が、両側の4速ギヤ25、6速ギヤ29の中間位置(ニュートラル)にあるときは、第3の噛合いクラッチ51の噛み合いが外れており、動力は伝達されない。
【0135】
前記のように、4速の変速段が結合されているとき、エンジンからドライブトルクが入力されると、図3(A)のようにクラッチスリーブ63のドライブ噛合い面119が、4速ギヤ25のドライブ噛合い面101に噛合いドライブトルクの伝達が行われる。この時の噛合いは、軸力ガイド面101aの働きで噛合い歯51a、25aにおいてΔX離間した第2噛合い位置で行われる。
【0136】
一方、エンジンがコーストトルクを発生するとクラッチスリーブ63は図3(A)の位置から図3(B)のようにコースト噛合い面99方向へ相対回転する。この時、噛合い歯51aのドライブ噛合い面119は噛合い歯25aのドライブ噛合い面101に対する噛合いから解放される。噛合いが開放されることで付勢機構1000の付勢力によりクラッチスリーブ63が図中左方向へ移動する。この移動により噛合い歯51aが噛合い歯25aの歯底まで移動する。この移動位置で噛合い歯51aのコースト噛合い面113が第1の噛合い位置でコースト噛合い面99に噛合う。
【0137】
このトルク方向変化によるクラッチスリーブ63の軸方向移動はシフト機構800によらず、付勢機構1000及び移動ガイド面101aの働きにより自律的に行われる。この状態においては、シフト機構800のロッカーアーム159とカムセット151間の遊び(L1>L2)が前記のように設けられているため、クラッチスリーブ63の円滑な動作を実現する。付勢機構1000及び移動ガイド面101aの働きによるクラッチスリーブ63の自律的な動作は、シフトフォーク87によるクラッチスリーブ63への強制力を不要とし、クラッチスリーブ63、シフトフォーク87の摩耗を抑制することができる。
【0138】
本発明実施例の付勢機構1000は、クラッチスリーブ63の傾斜溝部460がボール824から同一軸方向に直接的に軸力を受けるから軸力を大きく設定することが可能である。加えて、放射方向に配置された各コイルスプリング822の付勢力及びボール824の遠心力による径方向の力は傾斜溝部460で受け止められて互いに打ち消される。このため、クラッチハブ57とクラッチスリーブ63との間の摺動部に有害な摩擦は発生しないか抑制される。
【0139】
またエンジン回転が高くなると、エンジンの摺動抵抗、ポンピングロス等が増加するため、スロットルバルブを閉じた時、ドライブトルクから、コーストトルクへの変化がより速くなり、クラッチスリーブ63のより速い軸方向の動きが求められる。
【0140】
一方、エンジンの回転が上昇しクラッチスリーブ63の回転数が上昇すると、ボール824、コイルスプリング822(付勢力を流体圧で発生するときは支持穴620内の流体等の遠心力)は、クラッチスリーブ63の回転数の2乗に比例し増大する。このため、付勢機構1000による、クラッチスリーブ63を押し付ける軸力もエンジンの回転数増加に伴い増大する。つまり、エンジンの回転数が高いときであっても、クラッチスリーブ63の軸方向の移動はトルク方向の変化に正確に追従することができる。その結果、確実なトルク伝達が可能となる。
【0141】
[変速操作]
下段から上段の変速段に結合を変更するときは、発進クラッチ2の結合力が弱められ発進クラッチ2の出力伝達トルクがコースティングトルクに一致するなど適正な滑りが発生した時にシフト機構800がシフト駆動を行う。
【0142】
前記シフト機構800は、シフトレバーの操作により、或はアクセルワークに応じてコントローラがモーター駆動等を制御することにより適時動作する。例えば、4速から5速へのシフトアップが行われると、シフトアーム813、815、シフトロッド805、807、シフトフォーク85、87を介して上段のクラッチスリーブ61及び下段のクラッチスリーブ63が操作される。
【0143】
前記クラッチスリーブ61の噛合い歯49bが上段の5速ギヤ27の噛合い歯27aに噛合うと同時に上段と下段の変速比の違いにより、クラッチスリーブ63は4速ギヤ25より速く回転を始める。このためクラッチスリーブ63の噛合い歯51aが4速ギヤ25の噛合い歯25aにおけるコースト噛合い面99方向へ相対回転し、ドライブ噛合い面101、119での噛合いが解除される。
【0144】
この時クラッチスリーブ63は付勢機構1000の付勢により噛合い歯25aの歯底方向へ付勢を受ける。しかし、上段の5速ギヤ27のシフトカム171の回転と連動して回転する下段の4速ギヤ25のシフトカム173のカム面173bによりロッカーアーム159の動きが規制され、噛合い歯51aが噛合い歯25a対し△Xだけ浮き上がった第2の噛合い状態のまま保持される。
【0145】
この時、シフト機構800は、クラッチスリーブ63が第2の噛合い位置へ離間した状態をそのまま保持する機能のみを受け持つ。このためシフト機構800は、クラッチスリーブ63を第1の噛合い位置から第2の噛合い位置へ強制的に浮き上がらせる駆動を行う必要がなく、シフト機構800の摩耗や、エネルギー消費を防止できる。
【0146】
前記クラッチスリーブ63が4速ギヤ25よりも速く回転するとき、噛合い歯51aの歯先113が噛合い歯25aの歯底から△X離れた第2の噛合い位置で離脱ガイド面97に当接し得る軸方向位置にある。
【0147】
このため、噛合い歯51a、25aの相対回転により歯先113が離脱ガイド面97に当接し、歯先113には斜面作用でニュートラル方向(クラッチが解放される方向)の軸力が働く。一方、上記のようにシフト機構800の下段のシフトカム173に関係してカムセット151とロッカーアーム159のピン159a、159b間に、クラッチスリーブ63のニュートラル位置への移動を妨げない遊び(L1>L2)が設けられているため、下段の噛合い歯51a及びクラッチスリーブ63は、斜面効果で自律的にニュートラル位置に移動する。そして上段のクラッチスリーブ61の噛合い歯49bと5速ギヤ27の噛合い歯27aとが所定のかみ合い位置に納まり、上段への変速が完了する。
【0148】
一般に、この種のシームレスシフトのトランスミッションでは、上段への変速時に、短時間、下段の変速段と上段の変速段との同時噛合いが発生する。同時噛合いに伴う内部循環トルクは、メインシャフト3等に捻じれのポテンシャルエネルギーを蓄積させ、下段の第3の噛合いクラッチ51の解放時にエネルギー解放による騒音が発生する。
【0149】
本発明の実施例においては、内部循環トルクの大きさは、下段の低速側の噛合い歯25a、51aのコースティングトルクの大きさTiと等しくなる。該トルクTiの大きさは、噛合い歯51a、クラッチスリーブ63、それに連動するシフトフォーク87等シフト機構側の合計質量Mの軸方向への加速抵抗、及び噛合い歯25a、51a、クラッチハブ57とクラッチスリーブ63との間のスプラインの摩擦抵抗により決定される。
【0150】
ここで、噛合い歯25aの歯先の離脱ガイド面97の回転軸との角度をθ、比例定数をKとすると、質量Mによる軸方向の加速抵抗FaはFa=K・M・cotθとなり、Tiを決定する要素である加速抵抗Faの回転方向の分力Fxは、Fx=Fa・cotθ=K・M・(cotθ)2となる。
【0151】
したがって、内部循環トルクTiはcotθの2乗に比例し、θが大きいほど急激に小さくなる。その結果、軸ねじれのポテンシャルエネルギーも小さくなり、解放時の騒音が小さくなる。
【0152】
また、噛合い歯25a、51aのクラッチ半径部での回転速度差を△Vとすると、噛合い歯51aの軸方向速度成分VthはVth=ΔV・cotθとなり、θが大きいほどVthが小さくなる。そしてそれに連なるクラッチスリーブ63及びシフトフォーク87等シフト機構側の軸方向速度も小さくなる。運動エネルギーはVthの2乗に比例するため、θが大きいほど、シフトフォーク87等シフト機構側の衝突音が減少する。
【0153】
以上のようにθが大きいほど、つまり離脱ガイド面97の回転方向での傾斜が緩いほど騒音に関し有利である。但し離脱ガイド面97の傾斜は、下段へのシフトを考慮しながら決定するとその大きさは例えば上記の所定範囲となる。
【0154】
下段の変速段への結合の変更は通常のマニュアル変速機と同様に、発進クラッチ2を切り離し、上段の第2の噛合いクラッチ49を5速ギヤ27に対する噛合いを外してニュートラル位置に移動させ、次に下段の第3の噛合いクラッチ51を4速ギヤ25に対して噛合わせる。
【0155】
この時、前記した離脱ガイド面97の傾きθに関し、cotθ>摩擦係数でないと、噛合い歯51aの歯先113と離脱ガイド面97との間の摩擦により、歯先113は離脱ガイド面97の斜面にブロックされ、噛合い歯51a、25a間の相対回転が惹起されない恐れがある。したがって、θは45度より大きくcotθが噛合い歯51aの歯先113と離脱ガイド面97との間の摩擦係数より大きくなる範囲で設定してある。
【0156】
[シフトストロークの差]
図13は、シフトアップ時のロッカーアームと副カム動作前のシフトカムとの関係を示す正面図である。図14は、シフトダウン時のロッカーアームと副カム動作後のシフトカムとの関係を示す正面図である。なお、シフとアップ、シフトダウンのシフトストロークの差は、6速には無いので、5速、4速間で説明する。
【0157】
図9図13図14のように、ロッカーアーム159は、シフトカム173、175の回転により2本のピン159b、159aが駆動されてピボット159eを中心に揺動する。ピン159b、159aとカムセット149間の前記遊び(L1>L2)に対応し、クラッチスリーブ63は、遊び内での自由な動きが可能となる。
【0158】
図13のように、4速用のシフトカム173がシフトアップのために回転するとき副カム174がストッパー面173cに当接すると副カム174の凸部174cがシフトカム173の凸部173eに重なる。このときの凸部173e、174c先端の共通の回転半径はR1となる。
【0159】
図14のように、前記シフトカム173がシフトダウンのために逆方向に回転すると副カム174が他方に回転して当接縁部174aがストッパー面173dに当接する。この当接により副カム174の凸部174cがシフトカム173の凸部173eよりも径方向に突出する。このときの凸部174c先端の回転半径はR2となる。
【0160】
したがって、ロッカーアーム159は下段へのシフト時は上段へのシフト時より△Y=R2-R1だけ多くピボット159eを中心に揺動する。
【0161】
このため、ロッカーアーム159の作用部159dに連動する図1のシフトロッド807、シフトフォーク87がクラッチスリーブ63をシフトダウン時にシフトアップ時よりもΔY(=△X)だけ多く噛合い移動させる。この噛合い移動により5速から4速へのシフトダウン時に4速の噛合い歯25a、51aを深く噛合わせることができる。
【0162】
シフトダウン時、発進クラッチ2が結合されていない場合であっても、変速比及び、歯車の慣性により、クラッチスリーブ63は4速ギヤ25よりも遅く回転している場合がある。この場合、クラッチスリーブ63の噛合い歯51aの歯先113は、噛合い歯25aの離脱ガイド面97により噛合いが離脱する方向の速度成分が負荷される。回転差が大きい場合に付勢機構1000の付勢力のみでは前記速度成分を打ち消し相手の噛合い歯25aの次の歯の歯底まで噛合い歯51aを移動させるだけの加速度を与えられない場合が生じる。そこで、付勢機構1000に加えシフトダウン時とシフトアップ時とでシフトストロークに差を設けることで噛合い歯51aの歯先113を噛合い歯25aの歯元まで確実に送り込むようにする。
【0163】
なお、前記第3の噛合いクラッチ51のコースト噛合い面99をコースト回転方向へ傾くように傾斜設定し、コースト噛合い面115を対応させて傾斜設定した場合には、コーストトルクが働くと、噛合い歯51aを噛合い歯25aから引き離す軸推力が生じる。該推力は、コースト噛合い面99、115の歯面の傾き角度、歯面、及びクラッチスリーブ63とクラッチハブ57との間の摩擦係数等から算出可能である。
【0164】
したがって、前記噛合い歯51a、噛合い歯25aのコースト噛合い面115、99の傾斜は、通常のコーストトルク(エンジンブレーキによるトルク)が働いたときに発生する前記推力により噛合い歯51aが噛合い歯25aから離れる方向の動きを付勢機構1000の付勢力により十分に抑制可能な角度とする。この角度は、前記算出等に基づき決定できる。
【0165】
前記噛合い歯25a、51aの歯面に発生する軸推力が付勢機構1000の推力を上回る想定外の大きなコーストトルクが一時的にかつ衝撃的に印加されることもある。このとき噛合い歯25a、51aの噛み合いは一時的に外れることもあるが、付勢機構1000の付勢力により速やかに正常噛み合い位置に復帰する。
【0166】
また、シフトアップ時、シフト系に故障が生じ下段の噛合い歯51aを噛合い歯25aから△Xだけ浮かせて保持できない事態が発生した場合であっても、故障モードの改善を図ることができる。つまり、上下段が同時に噛み合うことによる大きな内部循環トルクによりギヤ25、27等が破損する等する前に、下段の噛合い歯25a、51aの噛み合いは解放される。さらに、このような事態が生じても上段噛合いクラッチによる走行が持続可能となる。
【0167】
図15は、シフト機構の変形例に係り、シフトドラムに副カムを適用した説明図である。図16は、シフト機構の変形例に係り、ロッカーアーム及びシフトカムに代えたシフトドラムの例を示す説明図である。図17は、シフト機構の変形例に係り、ロッカーアーム及びシフトカムに代えたシフトアクチュエーターの例を示す説明図である。
【0168】
前記シフト機構800は、シフトロッドを独立して駆動できればよく、図15のシフトドラム880に副カム833を軸834で回転可能に支持し、シフト用の溝に対しΔYの範囲で出没させるように構成したもの、図16のような回転ドラム821で構成するもの、図17のように、シフトロッド860を個別に駆動する電動、油圧、空圧の何れか又は組み合わせたアクチュエーター900で構成するものなどを採用することができる。
【0169】
図18は、実施例(対策後B)と比較例(対策前A)との騒音発生の比較を示すグラフである。図19は、実施例(対策後B)と比較例(対策前A)とを示す説明図である。
【0170】
図18は、図19の対策前Aと対策後Bとの比較実験データであり、対策後Bとは、シームレスシフトのトランスミッションとして上記実施例の噛合いクラッチを採用した。つまり、対策後Bは、噛合い歯25aの歯先に離脱ガイド面97を備え、歯元にコースト噛合い面99を備えた構造である。対策前Aとは、噛合い歯25aの歯先が回転方向に平坦であり、コースト噛合い面99を傾斜面としたもので、歯先の離脱ガイド面を備えていない。
【0171】
実験条件は、以下の通りである。
【0172】
シャシーダイナモ上で加速、変速させ実車測定を行った。音計測は、マイクロホンをトランスミッション直上に設置して行った。変位計側は、トランスミッション内部の下段スリーブにギャップセンサを設置して行った。実験器具は、ローラー式シャシーダイナモを用いた。測定器は、データーレコーダとして、株式会社小野測器製のDR-7100ポータブルレコーダ、音計測として、株式会社小野測器製のMI-1235計測用マイクロホン及びMI3111プリアンプ、変位計測として、電子応用PU-05ギャップセンサ及びAEC-55変換器を用いた。
【0173】
図18のグラフでは、対策前A、対策後Bのいずれにおいても横軸は時間変化を示している。音量は、縦軸に示す。図18には示さないが、下段ギヤ変位は、上段、下段のクラッチスリーブが同時噛み合いし、上記のように下段のクラッチスリーブが噛合い位置から離脱移動するときの変位を測定した。
【0174】
対策前A、対策後Bの比較において、対策前Aの下段ギヤ変位は、離脱ガイド面でのガイドが存在しないため噛合い離脱動作において急速であるのに対し、対策後Bのそれは、離脱ガイド面でのガイドにより相対的に緩やかな変位となった。その後、対策前Aの下段ギヤは、離脱側で大きく振動しているのに対し、対策後Bの下段ギヤは、振動が小さかった。
【0175】
この結果、図18のように、噛合い離脱動作における騒音の発生は、対策後Bは、対策前Aよりも音量が明らかに小さかった。
【0176】
かかる相違から、対策後Bは、対策前Aよりも変速時の騒音が大きく軽減し、その結果シフト機構の摩耗損傷を防ぎ、確実でスムーズな変速が可能となった。
【0177】
その上、シフト位置チェック機構のためのギヤケースの穴、ねじ、シフトフォークのV溝が不要となり、構造が簡素化されコスト低減に寄与する。また例えば4速から5速へのシフトアップ時、クラッチスリーブ61と5速ギヤ27との相対回転のため、噛合い歯27a、49bが噛み合うためには通常、大きなバックラッシュや高低歯の組み合わせが必要となる。しかし本発明実施例において、クラッチスリーブ61は、噛合い歯49bの歯先421が、離脱ガイド面245の斜面に沿って進むことにより、噛みこむ方向の軸速度成分を得ることができる。
【0178】
このため同―高さの噛合い歯49b、27aを使用しながら、噛合い時のバックラッシュを小さくすることが可能となる。その結果、製作コストの低減に加え、機能面においても、シフトミスの防止、バックラッシュ減少による3次振動に起因する騒音の防止が図れる。
【実施例2】
【0179】
図20図21は、実施例2を示す。図20は、変速キャンセルを行うシステムの概略構成図である。図21は、変速キャンセルを行うフローチャートである。
【0180】
図20は、上段、下段が同時噛み合いするときの下段の噛合い歯の挙動を示す。例えば、第3の噛合いクラッチ51においてクラッチスリーブ63と4速ギヤ25との関係を示している。
【0181】
本実施例では、離脱ガイド面97、ドライブ噛合い面101、コースト噛合い面99、移動ガイド面101aをクラッチスリーブ63の噛合い歯51aに設けた。4速ギヤ25の噛合い歯25aは、ドライブ噛合い面119、コースト噛合面115、歯先113を設けた。この噛合い歯25a、51aの形状の関係は、実施例1とは逆になっている。なお、トルク伝達において、ドライブ方向とコースト方向とは、上記とは逆の表示になっている。
【0182】
図20において、4速ギヤ25がシフトアップ時の下段になるとき、本来であればクラッチスリーブ63は、移動ガイド面101a及びシフト機構との協働により第2の噛合い位置にある。
【0183】
したがって、実施例1で説明したように、4速、5速の変速段のクラッチスリーブが同時噛み合いしたとき、下段となる4速では、噛合い歯51aの離脱ガイド面97に噛合い歯25aの歯先113がガイドされて4速側の噛合いが円滑に解除され、5速へのシフトアップが完了する。
【0184】
しかし、下段シフト機構が故障し、下段のクラッチスリーブ63が第1の噛合い位置のままであると、上段、下段の同時噛み合い時に離脱ガイド面97が働かず、下段の噛合い歯51a、25aがコースト噛合面99、115で噛合ったまま上段の5速の噛合い歯が噛み合うことでダブル噛合いとなる。
【0185】
そこで、下段のクラッチスリーブが第1の噛合い位置にあるときは、変速不能とする。
【0186】
なお、ここでの説明は第3の噛合いクラッチ51で行うが、他の噛合いクラッチも同様である。
【0187】
図20のように、本実施例のシームレスシフトのトランスミッションは、シフト機構800、検出器200、制御部201を備えている。シフト機構800は、1方の変速段から前記他の変速段へ結合を変更する変速駆動部を構成するものであり、実施例1と同様に構成することができる。検出器200は、一の変速段の状態を検出する近接センサーなどである。検出器200は、一の変速段の状態としてクラッチスリーブが第1の噛合い位置から移動し第2の噛合い位置に移動しているか否かを検出する。検出器200の検出信号は制御部201に入力される。制御部201は、MPU、ROM、RAMなどを備え、フト機構800を制御し、アクセルワークなどに応じた通常のシフト動作を行う。また、一の変速段の状態が前記状態にないとき、つまりクラッチスリーブ63が図20の噛合いの浅い第2の噛合い位置にないとき前記シフト機構800による5速の変速段への結合の変更のための信号をキャンセルする。
【0188】
図21のフローチャートは、アクセルワーク等に基づくシフトアップ信号が入力されると割り込み処理が実行される。
【0189】
ステップS1では、「変速指示信号読み込み」の処理が実行されステップS2へ移行する。この処理では、制御部201がアクセルワーク等に基づく信号により制御部201がシフト指示する信号を読み込む。
【0190】
スタップS2では、「下段の状態読み込み」の処理が実行されステップS3へ移行する。下段の状態は、例えば4速から5速へのシフトアップであるとすると、下段のクラッチスリーブ63が第2の噛合い位置へ移動した状態となる。この状態は、検出器200で検出され制御部201に検出信号が入力されている。制御部201では、入力されている検出信号を読み込む。
【0191】
ステップS3では、「第2の噛合い位置?」の判断処理が実行される。この判断処理では、読み込まれた検出信号とクラッチスリーブ63が本来第2の噛合い位置にあるべきであるとする基準信号とが比較され、一致すれば(YES)、ステップS4へ移行し、一致しなければ(NO)、ステップS5へ移行する。
【0192】
ステップS4では、「変速指示」の処理が実行される。クラッチスリーブ63が第2の噛合い位置に移動しており、噛合い歯25a、51aの相対回転により離脱ガイド面97が有効に機能するので変速指示によりシフト機構800の動作が許容される。シフト機構800の動作により、上段のクラッチスリーブ61の5速ギヤ27への噛合いと下段のクラッチスリーブ63の変速ギヤ25に対する離脱ガイド面97での当接ガイドとによる同時噛み合いを経て上段への結合の変更が行われる。
【0193】
ステップS5では、「変速指示キャンセル」の処理が実行される。この処理では、シフトアップ時の不具合によるいわゆるダブル噛合いを防止し、シフト機構800による変速指示をキャンセルする。つまり、シフト機構800へのシフトアップ指示として、例えば4速から5速への変速指示をそのまま行うと、変速下段の4速のクラッチスリーブ63が第2の噛合い位置にないとき、同時噛み合いによる相対回転でクラッチスリーブ63のコースト噛合い面99が変速ギヤ25のコースト噛合い面115に衝突する。この衝突は、上段、下段のいわゆるダブル噛合いを引き起こす。このため、変速下段の4速のクラッチスリーブ63が第2の噛合い位置にないときシフト機構800への変速指示をキャンセルし、ダブル噛合いを解消する。このとき、変速下段の4速は、ドライブトルクの入力によりクラッチスリーブ63のドライブ噛合い面101が4速ギヤ25のドライブ噛合い面119に噛合う。このため、4速での走行は継続できるため、エマージェンシーとしての走行が可能である。また、ステップS5では、変速指示をキャンセルすると同時に警報用のブザーを鳴らし、ランプを点灯させて運転者に知らせる。
【0194】
こうして、シフトアップ時に同時噛み合いを行うトランスミッションであるが、ダブル噛合いを防止し、トランスミッションの破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0195】
1 トランスミッション
3 メインシャフト(トルク伝達部材)
5 カウンターシャフト(トルク伝達部材)
19 1速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
21 2速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
23 3速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
25 4速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
27 5速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
29 6速ギヤ(変速ギヤ、他方の回転部材)
19a、21a、23a、25a、27a、29a 噛合い歯
47 第1の噛合いクラッチ
49 第2の噛合いクラッチ
51 第3の噛合いクラッチ
47a、47b、49a、49b、51a、51b 噛合い歯
97 離脱ガイド面(離脱ガイド部)
59、61、63 クラッチスリーブ(一方の回転部材)
101a 移動ガイド面(移動機構、移動ガイド部、)
460 傾斜溝部(付勢変換部)
800 シフト機構(変速駆動部)
822 コイルスプリング(付勢機能部)
824 ボール(当接体)
1000 付勢機構

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