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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】おろし器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 43/25 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
A47J43/25
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023053167
(22)【出願日】2023-03-29
(65)【公開番号】P2024141482
(43)【公開日】2024-10-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591128970
【氏名又は名称】プリンス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】高野 富雄
【審査官】杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7207802(JP,B1)
【文献】特開2005-013517(JP,A)
【文献】特開2002-191512(JP,A)
【文献】特開昭55-106123(JP,A)
【文献】特開2019-118648(JP,A)
【文献】特開2016-007622(JP,A)
【文献】特開2004-098166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 43/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に三角錐形状のおろし用突起を有し、このおろし用突起の裏面には三角錐形状の凹所が設けられたステンレス製のおろし器の製造方法であって、三角錐形状の凸部を有する上型と三角錐形状の凹部を有する下型とで前記基板を挟持して該基板に前記おろし用突起及び前記凹所を冷間鍛造成形し、前記上型と前記下型とで前記基板を挟持する場合、前記下型の凹部に入り込む前記基板の下面が該凹部の底部に当接しないように挟持することで、前記おろし用突起の先端部を半径寸法0.2~0.4mmの湾曲面形状とし、また、前記おろし用突起を構成する3つの立ち上がり周壁における厚さ寸法、前記基板の厚さ寸法の50~60%とし、更に、前記おろし用突起における前記基板の表面に対する各面の立ち上がり傾斜角63~65度とすることを特徴とするおろし器の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のおろし器の製造方法において、前記おろし用突起の先端部を半径寸法0.3mmの湾曲面形状とし、また、前記おろし用突起を構成する3つの立ち上がり周壁における厚さ寸法を、前記基板の厚さ寸法の55%とし、更に、前記おろし用突起における前記基板の表面に対する各面の立ち上がり傾斜角を64度とすることを特徴とするおろし器の製造方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載のおろし器の製造方法において、前記おろし用突起の高さを前記基板の厚さ寸法と同一若しくは近似した高さとすることを特徴とするおろし器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おろし器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば野菜をおろす器具として、特開平11-267046号に開示されるおろし器(以下、従来例という。)が提案されている。
【0003】
この従来例は、金属製の基板の表面に複数のおろし用突起をプレス加工により設けたものであり、それまで行われていた製造方法、即ち、職人の手作業にて金属板を鏨で彫り起こして突起を形成する場合に比し、生産性を向上してコストダウンを図ることができ、しかも、表面が丸味を帯びた突起を形成することができ、指先を切るなどの怪我を防止できるなど安全性に秀れたものができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-267046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、前述したおろし器について更なる開発を進めた結果、従来に無い非常に実用的なおろし器の製造方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
基板1の表面に三角錐形状のおろし用突起2を有し、このおろし用突起2の裏面には三角錐形状の凹所3が設けられたステンレス製のおろし器の製造方法であって、三角錐形状の凸部20aを有する上型20と三角錐形状の凹部21aを有する下型21とで前記基板1を挟持して該基板1に前記おろし用突起2及び前記凹所3を冷間鍛造成形し、前記上型20と前記下型21とで前記基板1を挟持する場合、前記下型21の凹部21aに入り込む前記基板1の下面が該凹部21aの底部に当接しないように挟持することで、前記おろし用突起2の先端部2’を半径寸法0.2~0.4mmの湾曲面形状とし、また、前記おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1、前記基板1の厚さ寸法L2の50~60%とし、更に、前記おろし用突起2における前記基板1の表面に対する各面の立ち上がり傾斜角R63~65度とすることを特徴とするおろし器の製造方法に係るものである。
【0008】
また、請求項1記載のおろし器の製造方法において、前記おろし用突起2の先端部2’を半径寸法0.3mmの湾曲面形状とし、また、前記おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1を、前記基板1の厚さ寸法L2の55%とし、更に、前記おろし用突起2における前記基板1の表面に対する各面の立ち上がり傾斜角Rを64度とすることを特徴とするおろし器の製造方法に係るものである。
【0009】
[請求項3]
また、請求項1,2いずれか1項に記載のおろし器の製造方法において、前記おろし用突起2の高さを前記基板1の厚さ寸法L2と同一若しくは近似した高さとすることを特徴とするおろし器の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように構成したから、被おろし物を良好におろすことができ、しかも、秀れた強度性(耐久性)を有するなど、従来に無い非常に実用的なおろし器の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施例を示す斜視図である。
図2】本実施例の要部の拡大平面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】本実施例に係るおろし器の製造方法に使用される上型20及び下型21の説明図である。
図5】本実施例に係るおろし器の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0013】
大根やニンジンなどの被おろし物を、基板1に対して押し当てながら該基板1の面方向に移動させると、三角錐形状のおろし用突起2(稜線部)が当たることでおろし作用が生じて、おろし物が得られる。
【0014】
ところで、本発明は、おろし用突起2は鍛造成形により設けられており、前述した従来例のようなプレス加工で設けられた場合に比し、おろし用突起2を高く突出させ、且つ、三角錐形状における稜線部を鋭角状に成形することができる為、被おろし物を良好におろすことができ、しかも、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aは、鍛造成形故に組織が密となって秀れた強度性(耐久性)を有することになる。
【0015】
また、本発明は、おろし用突起2を鍛造成形するに際し、このおろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の50~60%に設定され、更に、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは63~65度に設定されており、これら数値は種々の対象物(被おろし物)をおろすことで見い出した最適な数値であり、おろし器として高い性能(良好なおろし作用を奏する性能)と、秀れた強度(耐久性)を有することになる。
【0016】
即ち、立ち上がり周壁2aの厚さ寸法L1が基板1の厚さ寸法L2の50%よりも薄くなるように鍛造成形した場合、強度(耐久性)が低いという問題点があり、一方、立ち上がり周壁2aの厚さ寸法L1が基板1の厚さ寸法L2の60%よりも厚くなるように鍛造成形した場合、良好なおろし作用に必要な高さとならず且つ稜線部の鋭角度も足りないという問題点がある。
【0017】
従って、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の50~60%が良い。
【0018】
また、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rが63度よりも小さくなるように鍛造成形した場合、良好なおろし作用を奏しないという問題点があり、一方、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rが65度よりも大きくなるように鍛造成形した場合、おろした際の抵抗が強過ぎておろし操作感が良くないという問題点がある。
【0019】
従って、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは63~65度が良い。
【0020】
以上から、本発明は、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1と、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rが、最適な数値であるから、おろし器として高い性能(良好なおろし作用を奏する性能)と、秀れた強度(耐久性)とを有することになる。
【実施例
【0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、基板1の表面に三角錐形状のおろし用突起2を有し、このおろし用突起2の裏面には三角錐形状の凹所3が設けられたおろし器である。
【0023】
尚、本書面で言う三角錐形状とは、後述するように先端部2’(頂点部2b)が凸湾曲面形状であったり稜線部(辺2c)が若干丸味を帯びた形状であったりするなど、三角錐に近似したほぼ三角錐の形状も含む。
【0024】
具体的には、本実施例は、図1に図示したように適宜な金属製の部材(ステンレス)で形成したものであり、おろし部1’と、このおろし部1’の基端部に連設される把手部1”とで構成され、このおろし部1’は、基板1の平坦表面に無数のおろし用突起2及び平坦裏面に凹所3が後述する鍛造成形により設けられている。
【0025】
このおろし用突起2は、図2に図示したように三つの立ち上がり周壁2aと、四つの頂点部2bと、六つの辺2c(稜線部)とで構成されている。
【0026】
また、本実施例では、おろし用突起2の高さは基板1の厚さ寸法L2と同一若しくは近似した高さに設定され、更に、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の50~60%に設定され、更に、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは63~65度(上方の頂点部2bの軸心を通過する垂線に対する2つの立ち上がり周壁2a外面の傾斜角の和が50~54度)に設定されており、これら数値は種々の対象物(大根やニンジンなどの野菜である被おろし物)をおろすことで見い出した最適な数値である。
【0027】
更に望ましい数値としては、図3に図示したようにおろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の55%であり、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは64度(上方の頂点部2bの軸心を通過する垂線に対する2つの立ち上がり周壁2a外面の傾斜角の和が52度)であり、このおろし用突起2は、おろし器として高い性能(良好なおろし作用を奏する性能)と秀れた強度(耐久性)を有している。
【0028】
また、おろし用突起2は、その先端部2’(上方の頂点部2b)が凸湾曲面形状(半径寸法R0.2~0.4mmが適し、最適な数値はR0.3mm)に設けられている。
【0029】
従って、このおろし用突起2の形状設定により、適度に尖った形状である故におろし作用を奏することができ、しかも、凸湾曲面形状故に指先(指や爪)を切るなどの危険を可及的に防止することができる。
【0030】
以上の構成から成る本実施例に係るおろし器の製造方法について説明する。
【0031】
具体的には、図4に図示したように無数の三角錐形状の凸部20aを有する上型20と、この上型20の凸部20aに対設される無数の三角錐形状の凹部21aを有する下型21とを用意し、凸部20aの頂点と凹部21aの頂点とが同一軸心上に位置する状態で上型20と下型21とで基板1を挟持して、該基板1の表面に三角錐形状のおろし用突起2を、裏面に三角錐形状の凹所3(空間)を鍛造成形する(図5参照)。尚、この三角錐形状のおろし用突起2及び三角錐形状の凹所3における鍛造成形は、材料から前述したおろし部1’及び把手部1”を形成する前若しくは後のいずれのタイミングでも良い。
【0032】
このおろし用突起2の鍛造成形の際、上型20及び下型21を配設する鍛造装置における鍛造圧力を基板1の材質に合わせた数値に適宜設定し、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1が基板1の厚さ寸法L2(1.0mm)の50~60%(0.5~0.6mm)となり、更に、おろし用突起2における基板1の表面に対する各面の立ち上がり傾斜角Rが63~65度(上方の頂点部2bの軸心を通過する垂線に対する2つの立ち上がり周壁2a外面の傾斜角の和が50~54度)となるように鍛造成形している。おろし用突起2がこのような形状となるように上型20の凸部20aと下型21の凹部21aは構成されている。
【0033】
本実施例では、前述したようにおろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の55%とし、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは64度(上方の頂点部2bの軸心を通過する垂線に対する2つの立ち上がり周壁2a外面の傾斜角の和が52度)としており、この数値で設けられたおろし用突起2は、良好なおろし作用に必要な高さ(約1.0mm)となり且つ稜線部(エッジ)の鋭角度も十分なものとなる。
【0034】
また、本実施例は、鍛造成形として冷間鍛造成形を採用している。
【0035】
この冷間鍛造成形は、材料の利用効率が良く、しかも、高精度で高強度であり、更に、大量生産が可能であるなど、前述した形状のおろし用突起2及び凹所3を有するおろし器の製法として極めて有用である。
【0036】
また、本実施例は、上型20と下型21とで基板1を挟持する場合、下型21の凹部21aに入り込む基板1の下面が該凹部21aの底部21a’に当接しない状態(空間が形成される状態)で挟持することで、おろし用突起2の先端部2’が凸湾曲面形状に設けられる。
【0037】
本実施例は上述のように構成したから、大根やニンジンなどの被おろし物を、基板1に対して押し当てながら該基板1の面方向に移動させると、三角錐形状のおろし用突起2(稜線部)が当たることでおろし作用が生じて、おろし物が得られる。
【0038】
また、本実施例は、おろし用突起2は鍛造成形により設けられており、前述した従来例のようなプレス加工で設けられた場合に比し、基板1を強い圧力で延伸させることでおろし用突起2を高く突出させ、且つ、三角錐形状における稜線部を鋭角状に成形することができる為、被おろし物を良好におろすことができ、しかも、おろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aは、鍛造成形故に組織が密となって秀れた強度性(耐久性)を有することになる。
【0039】
また、本実施例は、おろし用突起2を鍛造成形するに際し、このおろし用突起2を構成する3つの立ち上がり周壁2aにおける厚さ寸法L1は、基板1の厚さ寸法L2の50~60%に設定され、更に、おろし用突起2における基板1の表面に対する立ち上がり周壁2a外面の立ち上がり傾斜角Rは63~65度(上方の頂点部2bの軸心を通過する垂線に対する2つの立ち上がり周壁2a外面の傾斜角の和が50~54度)に設定されており、これら数値は種々の対象物(大根やニンジンなどの野菜である被おろし物)をおろすことで見い出した最適な数値であり、おろし器として高い性能(良好なおろし作用を奏する性能)と、秀れた強度(耐久性)を有することになる。
【0040】
また、本実施例は、鍛造成形として冷間鍛造成形を採用したから、前述した作用効果を発揮するおろし用突起2を確実に設けることができる。
【0041】
また、本実施例は、おろし用突起2の先端部2’(上方の頂点部2b)は凸湾曲面形状に設けられているから、指先(指や爪)を切るなどの危険を可及的に防止することができ、良好なおろし作用を奏する秀れた性能に加えて安全性を備えたものとなる。
【0042】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0043】
L1 厚さ寸法
L2 厚さ寸法
傾斜角
1 基板
2 おろし用突起
2’ 先端部
2a 立ち上がり周壁
3 凹所
20 上型
20a 凸部
21 下型
21a 凹部
図1
図2
図3
図4
図5