(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】サクラソウ科植物の抽出物の用途
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20241202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241202BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20241202BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20241202BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20241202BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241202BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
A61K36/185 ZNA
A61P43/00 111
A61P17/16
A61P17/18
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2023125236
(22)【出願日】2023-08-01
(62)【分割の表示】P 2019165302の分割
【原出願日】2019-09-11
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399088289
【氏名又は名称】株式会社再春館製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 央
(72)【発明者】
【氏名】間地 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 智子
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-231016(JP,A)
【文献】特開2016-088939(JP,A)
【文献】特開2007-326799(JP,A)
【文献】特開2001-348305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モロコシソウの抽出物を含み、対象のヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進する、遺伝子発現促進用組成物。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸合成酵素遺伝子がHAS2
遺伝子を含み、対象のヒアルロン酸合成を促進する、請求項1に記載の遺伝子発現促進用組成物。
【請求項3】
対象の抗酸化作用に関連する遺伝子の発現をさらに促進し、対象における抗酸化促進作用を有
し、前記抗酸化作用に関連する遺伝子がSOD1遺伝子又はNRF2遺伝子である、請求項1又は2に記載の遺伝子発現促進用組成物。
【請求項4】
対象の脱糖化作用に関連する遺伝子の発現をさらに促進し、対象における脱糖化促進作用を有
し、前記脱糖化作用に関連する遺伝子がFN3K遺伝子である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の遺伝子発現促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進剤、又はこれらを含む化粧品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母及びカビは化粧品、飲食品、及び医薬品等の腐敗の原因となる。腐敗を抑制するために抗真菌活性がある防腐剤が使用され得るが、化学合成された防腐剤を含まない製品に対する消費者からの需要は高い。
【0003】
特許文献1には、少なくともリュウキュウアイの葉の抽出液とモロコシソウの葉の抽出液とを含むことを特徴とする防虫剤が記載されている。しかしながら、サクラソウ科植物の抽出物が抗真菌作用等を有することはこれまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一実施形態において、本発明は、抗真菌剤を提供することを課題とする。別の実施形態において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物の新規用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、サクラソウ科植物の抽出物が抗真菌作用を有することを見出した。また、本発明者は、サクラソウ科植物の抽出物が抗真菌作用だけでなく、抗酸化作用、脱糖化作用、ヒアルロン酸合成酵素の遺伝子発現促進作用、並びにSOD1、FN3K、NRF2、及びHAS2からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現促進作用を有し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)オカトラノオ属植物の抽出物を含み、対象のヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進する、遺伝子発現促進用組成物。
(2)前記ヒアルロン酸合成酵素遺伝子がHAS2を含み、対象のヒアルロン酸合成を促進する、(1)に記載の遺伝子発現促進用組成物。
(3)対象の抗酸化作用に関連する遺伝子の発現をさらに促進し、対象における抗酸化促進作用を有する、(1)又は(2)に記載の遺伝子発現促進用組成物。
(4)前記抗酸化作用に関連する遺伝子がSOD1又はNRF2である、(3)に記載の遺伝子発現促進用組成物。
(5)対象の脱糖化作用に関連する遺伝子の発現をさらに促進し、対象における脱糖化促進作用を有する、(1)~(4)のいずれかに記載の遺伝子発現促進用組成物。
(6)前記脱糖化作用に関連する遺伝子がFN3Kである、(5)に記載の遺伝子発現促進用組成物。
(7)前記オカトラノオ属植物が、モロコシソウである、(1)~(6)のいずれかに記載の遺伝子発現促進用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進剤、並びにSOD1、FN3K、NRF2、及びHAS2からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現促進剤等が提供される。本発明は、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、及び農薬等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、モロコシソウ抽出物で処理したHaCaT細胞におけるSOD1(A)、FN3K(B)、及びNRF2(C)の遺伝子発現量を示す。
【
図2】
図2は、モロコシソウ抽出物で処理した線維芽細胞におけるNRF2及びHAS2の遺伝子発現量をそれぞれ
図2A~Bに示す(2回の試験のうち、代表的なものを示す)。
図2A~Bに示される通り、NRF2及びHAS2の遺伝子発現量は、モロコシソウ抽出物による処理によって増加した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「サクラソウ科(Primulaceae)植物」の例は限定しないが、例えばオカトラノオ属(Lysimachia)、イズセンリョウ属(Maesa)、トチナイソウ属(Androsace)、サクラソウ属(Primula)、ルリハコベ属(Anagallis)、ヤブコウジ属(Ardisia)、及びカガリビバナ属(Cyclamen)が挙げられ、例えばオカトラノオ属又はイズセンリョウ属に属する植物であってよい。オカトラノオ属植物の例として、モロコシソウ(Lysimachia sikokiana)、ヤナギトラノオ(Lysimachia thyrsiflora)、コナスビ(Lysimachia japonica)、ヌマトラノオ(Lysimachia fortunei)、オカトラノオ(Lysimachia clethroides)、ノジトラノオ(Lysimachia barystachys)、及びツマトリソウ(Lysimachia europaea)等が挙げられ、イズセンリョウ属植物の例として、イズセンリョウ(Maesa japonica)、及びシマイズセンリョウ(Maesa montana A. DC.)が挙げられる。サクラソウ科(Primulaceae)植物は、例えば、モロコシソウ又はイズセンリョウであってよい。
【0011】
抽出物を得るために用いるサクラソウ科植物の部位及びその形態は限定しない。例えば、サクラソウ植物の全草、地上部又は地下部、例えば葉及び/又は茎等の地上部を用いることができる。また、サクラソウ科植物は、そのまま抽出物を得るために用いてもよいが、処理物、例えば乾燥、粉砕、殺菌若しくは除菌、加熱、及び/又は冷却を行ったもの、例えば乾燥粉末を用いて抽出物を得てもよい。
【0012】
抽出物は、任意の抽出方法により得ることができる。サクラソウ植物からの抽出は、上記のサクラソウ植物又はその処理物に溶媒を加え、静置、撹拌又は振とう等することにより行ってもよい。
【0013】
抽出のための溶媒(抽出溶媒)としては、特に限定されないが、アルコール及び/又は水を含む溶媒を用いることができ、例えば、水、アルコール、又は水とアルコールの混合溶媒(含水アルコール)であってもよい。水としては、純水、超純水、脱塩水、滅菌水、蒸留水、及び水道水等の任意の水であり得る。水を含む溶媒は、緩衝液、生理食塩水、希酸、及び希アルカリ等であってもよい。アルコールとしては、一価アルコール又は多価アルコール(例えば、二価アルコール、又は三価以上のアルコール)が挙げられる。一価アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。一実施形態では、溶媒は、医薬又は化粧料の分野で製剤上許容される溶媒であることが好ましく、例えば、医薬又は化粧料の分野で製剤上許容されるアルコール又は水を含むことが好ましい。あるいは、抽出後に溶媒置換等により溶媒を変更する場合には医薬又は化粧料の分野で製剤上許容されるもの以外の溶媒を抽出のために使用してもよい。例えば、溶媒は、水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、又は1,3-ブチレングリコール)、又は含水アルコール(水とアルコールの混合溶媒)を含んでよい。
【0014】
一実施形態では、10~90w/w%、例えば30~80w/w%又は50~70w/w%のアルコール濃度の溶媒を抽出に用いることが好ましく、例えば、30~80w/w%又は50~70w/w%濃度のエタノール、メタノール、又は1,3-ブチレングリコールを含む溶媒を抽出に用いることができる。
【0015】
サクラソウ科植物又はその処理物に対する、抽出のための溶媒の添加量は、以下に限定されないが、例えば、原料のサクラソウ科植物又はその処理物(乾燥重量)の0.1~1000倍量、10~100倍量、25~75倍量、又は40~60倍量(重量比)であってよい。
【0016】
抽出は、限定されないが、例えば10~80℃、20~60℃、20~40℃、又は室温で行ってもよい。抽出時間は、限定されないが、例えば数時間~数か月、12時間~1か月、1日~14日、又は2日~7日であってもよい。
【0017】
一実施形態において、本発明のサクラソウ科植物の抽出物は、上記の抽出方法に従って得られる、上記の溶媒による抽出物である。なお、水ベースの溶媒による抽出物は水性抽出物であり、アルコールベースの溶媒による抽出物はアルコール性抽出物であり、含水アルコールベースの溶媒による抽出物は水性-アルコール性抽出物であるということができる。
【0018】
以上のようにして得られたサクラソウ科植物の抽出物は、そのまま(抽出原液)の状態で用いてもよいし、濃縮、希釈、溶媒交換、乾燥、殺菌・除菌、脱臭・脱色、又は濾過(例えば、精密濾過)や遠心分離等による精製などの1つ以上の処理を行った後に使用してもよい。精製方法は特に限定されないが、例えば、メンブレンフィルター等のフィルターを使用して濾過することにより精製してもよい。一実施形態において、サクラソウ科植物の抽出物は、乾燥をさせた後に、乾燥物を同じ又は別の溶媒で溶解又は懸濁したものであってもよい。この場合に用いる溶媒は、上記抽出溶媒について記載した通りのものであってもよいし、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の別の溶媒であってもよい。
【0019】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、又はこれからなる抗真菌剤に関する。本明細書において、「抗真菌剤」とは、真菌に対する殺菌、滅菌、又は静菌作用を有する剤を含む。抗真菌剤の対象となる真菌の種類は限定しないが、例えばTrichocomaceae科真菌、例えばPenicillium属、Aspergillus属、Talaromyces属真菌;並びにSaccharomycetaceae科真菌、例えばCandida属、Pichia属、Saccharomyces属、Zygosaccharomyces属、Kluyveromyces属、及びKomagataella属からなる群から選択される真菌が挙げられる。Penicillium属真菌の例として、例えばPenicillium paneum、Penicillium chrysogenum、Penicillium oxalicum、Penicillium citrinum、Penicillium expansum、Penicillium roqueforti、Penicillium digitatum、及びPenicillium italicumが挙げられ、Pichia属真菌の例として、例えばPichia anomala、Pichia membranaefaciens、Pichia pastoris、及びPichia kluyveriが挙げられ、Candida属真菌の例として、例えばCandida albicans、Candida parapsilosis、Candida famata、及びCandida glabrataが挙げられる。本発明の抗真菌剤の対象となる真菌は、例えばPenicillium paneum、Pichia anomala及びCandida albicansの少なくとも一つであってよい。
【0020】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、又はこれからなる抗酸化剤に関する。「抗酸化剤」とは、(例えば被験体又は被験体に由来する組織又は細胞等において)抗酸化作用を有する薬剤を意味する。一実施形態において、抗酸化作用は、抗酸化作用を有するタンパク質及び/又はその遺伝子の発現促進を含む。抗酸化作用を有するタンパク質の例として、スーパーオキシドアニオン(O2
-)を酸素と過酸化水素へ不均化する酸化還元酵素であるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、例えばSOD1、SOD2、及びSOD3、並びに酸化ストレス適応反応を制御し得る転写因子であるNRF2(NF-E2 Related Factor 2)が挙げられる。NRF2は、酸化還元ストレスに対して抗酸化剤及び解毒遺伝子を誘導することによって、酸化剤及び求電子試薬に対する細胞の適応を制御することが知られている(例えば、Hayes J.D. and McMahon M., 2009, Trends Biochem. Sci.,34, 176-188を参照されたい)。抗酸化作用を測定する方法は限定しない。例えばSOD2等のSOD2及び/又はNRF2の遺伝子及び/又はタンパク質の発現量を測定することによって、例えば実施例に記載の通りに遺伝子の発現量を測定することによって、抗酸化作用を測定することができる。
【0021】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、又はこれからなる脱糖化剤に関する。本明細書において、「脱糖化剤」とは、(例えば被験体又は被験体に由来する組織又は細胞等において)脱糖化作用、例えば産生される終末糖化産物(Advanced Glycation End Products、AGEs)を減少させる薬剤を意味する。一実施形態において、脱糖化作用は、脱糖化作用を有するタンパク質及び/又はその遺伝子の発現促進を含む。脱糖化作用を有するタンパク質の例として、AGEsを代謝する酵素であるFN3K(フルクトサミン-3キナーゼ、fructosamine 3-kinase)が挙げられる。FN3Kは糖化によって形成されるフルクトサミンのリン酸化を触媒し、フルクトサミンのリン酸化は、糖化タンパク質の脱糖化をもたらし得ることが知られている(例えば、Ghislain Delpierre et al., Biochem. J., 2002, 1, 365, 801-808、特開2014-76957号公報、及びRyoji Nagai et al., Anti-Aging Medicine, 7(10), 112-119, 2010を参照されたい)。脱糖化作用を測定する方法は限定しない。例えばFN3Kの遺伝子及び/又はタンパク質の発現量を測定することによって、例えば実施例に記載の通りに遺伝子の発現量を測定することによって、脱糖化作用を測定することができる。
【0022】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、又はこれからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進剤に関する。「ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進剤」とは、(例えば被験体又は被験体に由来する組織又は細胞等において)ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進する薬剤を意味する。ヒアルロン酸とは、直鎖状のグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種であり、皮膚に多量に存在し、水分を保持する能力によって乾燥を防ぎ、肌のみずみずしさ、ハリ、弾力性、シワやたるみ等に深く関与すると考えられている。哺乳類のヒアルロン酸合成酵素としては、HAS(ヒアルロナンシンターゼ、Hyaluronan synthase)1、HAS2、及びHAS3が挙げられる。ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進作用を測定する方法は限定しない。例えば実施例に記載の通りに、例えばHAS2等のヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現量を測定することによって、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進作用を測定することができる。
【0023】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を含む、又はこれからなる、SOD1、FN3K、NRF2、及びHAS2からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現促進剤に関する。SOD1、FN3K、NRF2、及びHAS2からなる群から選択される遺伝子の発現促進作用を測定する方法は限定しない。例えば実施例に記載の通りに、これらの遺伝子の発現量を測定することができる。
【0024】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を(例えば有効成分として)含む組成物に関する。一態様において、本発明は、本明細書に記載の抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、若しくは遺伝子の発現促進剤を(例えば有効成分として)含む組成物に関する。組成物の種類は限定しないが、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品組成物、及び農薬組成物のいずれであってもよい。
【0025】
本明細書において、「医薬部外品」とは、薬機法で定められている製品であって、人体に対する作用が医薬品よりも緩和な製品をいう。限定されるものではないが、医薬部外品の例として、サプリメント及び薬用化粧品等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、上記成分以外に、一以上の他の成分、例えば薬学的に許容される担体又は溶媒等を含んでもよい。薬学的に許容される担体の例として、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、希釈剤、等張化剤、緩衝剤、及び他の添加剤が挙げられ、溶媒の例として、滅菌水、生理食塩水、及び緩衝液(リン酸バッファー等を含む)が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は、原則として当該分野で公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法を用いて製剤化できる。具体的な製剤化の方法は、投与方法によって異なる。投与方法は、経口投与と非経口投与に大別され、投与方法は適宜選択することができる。
【0028】
本発明の組成物の形状は限定しない。例えば、液剤、水和剤、乳剤、粉剤、懸濁剤、粒剤、カプセル剤、スプレー剤のいずれであってもよい。本発明の組成物は、例えば防臭又は消臭スプレーとして用いることができる。
【0029】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、原則1回の投与でその有効成分が標的部位に達し得る量、かつそれを適用する被験体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量であればよい。このような含有量は、有効成分の種類、組成物の剤形及び投与方法等によって異なり、当業者によって適宜定められる。例えば、抽出物の組成物中の終濃度は、0.1ppm以上、1ppm以上、10ppm以上、50ppm以上、また10%以下、2%以下、1%以下、5000ppm以下、1000ppm以下、又は200ppm以下、例えば0.1ppm~10%又は50ppm~2%であってよい。
【0030】
本発明の組成物を被験体に投与する場合、対象の生物種は、限定しないが、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット及びマウス等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物、例えばヒトである。
【0031】
本発明のサクラソウ科植物の抽出物は、抗酸化、脱糖化、及び/又はヒアルロン酸合成酵素遺伝子の合成促進を有し得るので、本発明の組成物、例えば化粧品組成物は、皮膚の抗老化(例えば、肌のしわ、たるみ、ハリ及び/又は弾力の低下、及び肌荒れからなる群から選択される少なくとも一つの症状の改善、予防、及び/又は治療)のために用いることができる。
【0032】
一態様において、本発明は、サクラソウ科植物の抽出物を得ること、及び任意に当該抽出物に他の成分(例えば、本明細書に記載の薬学的に許容される担体)を加えることを含む、本明細書に記載の抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、若しくは遺伝子の発現促進剤、又は組成物を生産する方法に関する。当該抽出物又は組成物を生産する方法の詳細については、本明細書に記載する通りである。
【0033】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1:モロコシソウ抽出物の抗菌活性
(材料と方法)
モロコシソウ抽出物の調製
モロコシソウ地上部乾燥粉末を複数の溶媒で抽出し、抽出物を調製した。具体的には、モロコシソウ地上部乾燥粉末500mgに50% EtOH 25mlを添加し、2日間抽出した後、濃縮乾固し、DMSOで溶解したものを抽出物1とした。また、モロコシソウ地上部乾燥粉末500mgにMethanol(富士フイルム和光純薬株式会社、以下MeOHとも記載する)25mlを添加し、2日間抽出した後、濃縮乾固し、DMSOで溶解したものを抽出物2とした。また、モロコシソウ地上部乾燥粉末2.5gに70% 1,3-ブチレングリコール(化粧品用濃グリセリン:阪本薬品工業株式会社、以下BGとも記載する)25mlを添加し、1週間抽出したものを抽出物3とした。
これらの抽出物について、以下の方法で菌生育阻害試験を行った。
【0035】
モロコシソウ抽出物のPenicillium paneumに対する活性評価(菌生育阻害試験)
真菌用寒天培地(Sabouraud-Dextrose Agar with Lecithin & Polysorbate 80 DAIGO:日本製薬株式会社、組成:Dextrose 40.0g/L、Peptone(meat & casein) 10.0g/L、Agar 15.0g/L、Lecithin(ASOLECTIN)1.0g/L、Polysorbate 80 7.0g/L、最終pH 5.4-5.8)にてPenicillium paneum 野生株(以下P.pとも記載する、再春館製薬所内より入手)を培養した。滅菌綿棒を使って成熟した胞子を採取し、0.075% Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monooleate(富士フイルム和光純薬株式会社)を含む生理食塩水に懸濁させ、2×107cfu/mlに調製した。4つ折りにした滅菌ガーゼ(株式会社林衛材)で濾過し、これを菌液とした。
【0036】
真菌用液体培地(DifcoTM Sabouraud Dextrose Broth:Becton, Dickinson and Company Sparks, MD 21152、組成:Peptic Digest of Animal Tissue 5.0g、Pancreatic Digest of Casein 5.0g、Dextrose 20.0g)と滅菌水の混合液14.9 mlに作製した菌液を100 μl加え、菌混合液体培地を作製した。96ウェルプレート(96 Well Cell Culture Plate Sterile, Non pyrogenic Polystyrene:True Line)に菌混合液体培地と、フィルター(Steradisc 25 0.2μm γ-ray sterile <s-2502>:倉敷紡績株式会社)で濾過したモロコシソウ抽出物をそれぞれ所定濃度になるように混合した。抽出物の最終濃度は、抽出物1は200ppm又は100ppm、抽出物2は200ppm、100ppm、又は50ppm、抽出物3は2%又は1%とした。25℃で72時間培養し、発芽の有無を目視、顕微鏡(OLYMPUS IX73)で確認し(菌生育阻害試験)、抽出物を加えない陰性対照(NC)との比較を行った。
【0037】
(結果)
Penicillium paneumに対する活性評価の結果を以下の表1及び2に示す(n=2の試験のうち、代表的なものを示す)。なお、評価基準は、目視・および顕微鏡で生育が認められない(-)、目視で生育が認められない(±)、目視でNCより抑制(+)、NCと同程度濁っている(++)の4つとした。
【0038】
【0039】
【0040】
実施例2:他の菌に対するモロコシソウ抽出物の活性
(材料と方法)
実施例1で調製した抽出物2を使用し、抗菌スペクトルを検討した。
試験菌はCandida albicans NBRC1594株(以下C.aとも記載する、NBRCより入手)、Pichia anomala 野生株(以下Pichiaとも記載する、再春館製薬所内より入手)で行った。実施例1と同じ真菌用寒天培地で培養したC.a又はPichiaを白金耳で採取し、生理食塩水に懸濁させ、C.aは2×107cfu/ml、Pichiaは2×106cfu/mlに調製し、これを菌液とした。抽出物2の最終濃度は400ppm、200ppm、又は100ppmとし、実施例1と同様の方法で菌生育阻害試験を行った。
【0041】
(結果)
Candida albicans、及びPichia anomalaに対する抽出物2の活性評価の結果を以下の表3に示す(n=2の試験のうち、代表的なものを示す)。なお、評価基準は実施例1と同様とした。
【0042】
【0043】
実施例3:モロコシソウの部位の検討
(材料と方法)
モロコシソウ葉乾燥粉末500mgにMeOH 25mlを添加し、2日間抽出した後、濃縮乾固したものをDMSOで溶解し、モロコシソウ葉抽出物とした。モロコシソウ茎乾燥粉末でも同様の方法でモロコシソウ茎抽出物を作製した。試験菌としてはP.pを用い、実施例1と同様の方法で菌生育阻害試験を行った。抽出物の最終濃度は、モロコシソウ葉抽出物を100ppm又は50ppm、モロコシソウ茎抽出物を500ppm又は250ppmとした。
【0044】
(結果)
Penicillium paneumに対するモロコシソウ葉抽出物、及びモロコシソウ茎抽出物の活性評価の結果を以下の表4及び5に示す(n=2の試験のうち、代表的なものを示す)。
【0045】
【0046】
【0047】
実施例4:イズセンリョウ抽出物の検討
(材料と方法)
イズセンリョウ抽出物の調製
イズセンリョウ地上部の乾燥物500 mgにMethanol(富士フイルム和光純薬株式会社、以下MeOHとも記載する)25mlを添加し、2日間抽出した後、濃縮乾固したものをDMSOで溶解し、イズセンリョウ抽出物を作製した。
【0048】
活性評価(菌生育阻害試験)
実施例1で用いたPenicillium paneumについて、実施例1と同様に菌混合液体培地を作製し、96ウェルプレート(96 Well Cell Culture Plate Sterile, Non pyrogenic Polystyrene:True Line)に菌混合液体培地とフィルター(Steradisc 25 0.2μm γ-ray sterile <s-2502>:倉敷紡績株式会社)で濾過したイズセンリョウ地上部抽出物をそれぞれ所定濃度になるように混合した。イズセンリョウ抽出物の最終濃度を500ppm又は200ppmとした。25℃で72時間培養し、発芽の有無を目視、顕微鏡で確認した。
【0049】
(結果)
Penicillium paneumに対する結果を以下の表6に示す(n=2の試験のうち、代表的なものを示す)。なお、評価基準は実施例1と同様とした。
【0050】
【0051】
実施例5:他の菌に対するイズセンリョウ抽出物の活性
実施例4で調製したイズセンリョウ地上部抽出物を使用し、菌生育阻害試験を行った。 試験菌としては実施例2で用いたPichia anomala 野生株(Pichia)を用いた。
実施例1と同じ真菌用寒天培地で培養したPichiaを白金耳で採取し、生理食塩水に懸濁させ、2×106cfu/mlに調製し、これを菌液とした。実施例4と同様の方法で菌生育阻害試験を行った。ただし、イズセンリョウ抽出物の最終濃度は500ppmとした。
【0052】
(結果)
Pichia anomalaに対する結果を以下の表7に示す(n=2の試験のうち、代表的なものを示す)。なお、評価基準は実施例1と同様とした。
【0053】
【0054】
実施例6:イズセンリョウ抽出物の細胞に対する活性評価
(材料と方法)
細胞培養
ヒト皮膚線維芽細胞(NB1RGB、理研より入手)又はヒトケラチノサイト細胞(HaCaT)を5%FBS(fetal bovine serum)、100 units/ml penicillin及び100 μg/ml ストレプトマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社)を含むDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium(Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA))にて、5%CO2、温度37℃にて培養した。
【0055】
サンプル暴露
上記の培養法にて、6wellマルチプレートに1×105個/wellにて上記細胞を播種し、その24時間後、2μLのサンプルと、5%FBS、100 units/ml penicillin、及び100 μg/ml streptomycinを含む2mLのDMEMの混合溶液を作製し、培養液と入れ替えた。サンプルは全て実施例1で調製したモロコシソウの抽出物2を用いた。その18時間後、TRI ReagentTM(コスモ・バイオ社)を用いて細胞を溶解した。
【0056】
活性評価(Real-time RT-PCR Analysis)
上記に従って溶解した細胞に対して、Total RNAの抽出、精製をSV Total RNA Isolation System(Promega, Fitchburg, WI, USA)の手順に従って行った。サンプル(1μg RNA)をPrimeScriptTM RT Master Mix(TaKaRa)を用いて、製造業者のプロトコルに従ってcDNA合成を行った。SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いて、real-time RT-PCR(CFX ConnectTM(Bio-Rad, Hercules, CA, USA))を製造業者のプロトコルに従って行った。解析はCFX Manager Softwareを用いた。18s cDNAを内部標準とし、HaCaTはSOD1/18s、FN3K/18sおよびNRF2/18sの発現量を評価し、線維芽細胞はNRF2/18sおよびHAS2/18sの発現量を評価した。プライマーはPrimer3 websiteを用いてデザインした以下の配列を有するものを用いた。モロコシソウ抽出物による処理を行わなかった試験区の発現量を1とした場合の相対発現量を求めた。
【0057】
<内部標準>
18s:CCGCAGCTAGGAATAATGGA(配列番号1)及びCCCTCTTAATCATGGCCTCA(配列番号2)
<標的遺伝子>
FN3K:CAACCAGAAGCTCAGGGAGAA(配列番号3)及びGCTCAGCACCCTCACCTCTT(配列番号4)
NRF2:GAAAATGACAAAAGCCTTCACC(配列番号5)及びTTGGGAACAAGGAAAACATTG(配列番号6)HAS2:GGCCATTTTCAGAATCCAAA(配列番号7)及びGCCTGCCACACTTATTGATG(配列番号8)
SOD1:TGGCCGATGTGTCTATTGAA(配列番号9)及びACCTTTGCCCAAGTCATCTG(配列番号10)
【0058】
(結果)
モロコシソウ抽出物で処理したHaCaT細胞におけるSOD1、FN3K、及びNRF2の遺伝子発現量をそれぞれ
図1A~Cに示す(2回の試験のうち、代表的なものを示す)。
図1A~Cに示される通り、SOD1、FN3K、及びNRF2の遺伝子発現量は、モロコシソウ抽出物による処理によって増加した。
【0059】
また、モロコシソウ抽出物で処理した線維芽細胞におけるNRF2及びHAS2の遺伝子発現量をそれぞれ
図2A~Bに示す(2回の試験のうち、代表的なものを示す)。
図2A~Bに示される通り、NRF2及びHAS2の遺伝子発現量は、モロコシソウ抽出物による処理によって増加した。
【0060】
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(1)サクラソウ科植物の抽出物を含む、抗真菌剤。
(2)Penicillium属、Candida属、及びPichia属からなる群から選択される少なくとも一つの真菌に対する抗真菌剤である、(1)に記載の抗真菌剤。
(3)サクラソウ科植物の抽出物を含む、抗酸化剤。
(4)サクラソウ科植物の抽出物を含む、脱糖化剤。
(5)サクラソウ科植物の抽出物を含む、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進剤。
(6)サクラソウ科植物の抽出物を含む、SOD1、FN3K、NRF2、及びHAS2からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現促進剤。
(7)サクラソウ科植物の抽出物、又は(1)~(6)のいずれかに記載の抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、若しくは遺伝子の発現促進剤を含む、化粧品組成物。
(8)サクラソウ科植物が、オカトラノオ属又はイズセンリョウ属に属する植物である、(1)~(7)のいずれかに記載の抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、遺伝子の発現促進剤、又は化粧品組成物。
(9)サクラソウ科植物が、モロコシソウ又はイズセンリョウである、(8)に記載の抗真菌剤、抗酸化剤、脱糖化剤、遺伝子の発現促進剤、又は化粧品組成物。
【配列表】