(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】オーブン
(51)【国際特許分類】
A47J 37/06 20060101AFI20241202BHJP
A21B 1/14 20060101ALI20241202BHJP
A21B 1/33 20060101ALI20241202BHJP
A21B 1/22 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
A47J37/06 366
A21B1/14
A21B1/33
A21B1/22
(21)【出願番号】P 2023197080
(22)【出願日】2023-11-21
【審査請求日】2024-03-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191157
【氏名又は名称】株式会社マスダック
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早野 武志
(72)【発明者】
【氏名】大舘 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 盛二
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0350602(US,A1)
【文献】実開昭63-123903(JP,U)
【文献】特開2009-291622(JP,A)
【文献】特開2017-140162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 37/00-37/07
A21B 1/00- 1/52
F24C 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーブンの中に載置されるか、又はオーブンの中を移動する食品の上方に水平に並置され、一方の水平方向に燃焼口を備える複数の直線状のバーナと、
下面にのみセラミックコーティング層を備える薄板の金属板からなり、それぞれのバーナ上方のバーナ及びオーブンの天井面から離隔した位置において、それぞれのバーナと、バーナの一方の水平方向に吹き出す炎及び炎の先の加熱ゾーンとを覆うようにして設けられる複数の遠赤外線発生プレートとを有
し、
前記遠赤外線発生プレートは矩形形状であり、バーナの長手方向と平行する2つの端面が下面側に折り曲げられた形状を備えることを特徴とするオーブン。
【請求項2】
前記遠赤外線発生プレートの金属板の厚さは2±0.5mmであることを特徴とする請求項1に記載のオーブン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーブンに関し、特に上部熱源であるバーナの上方に、バーナ及びバーナによる炎の先の加熱ゾーンを覆うようにして薄板金属板をベースとする遠赤外線発生プレートを備えることにより加熱効率を高める加熱構造を備えるオーブンに関する。
【背景技術】
【0002】
食品に加熱処理を行うオーブン、特に多量の食品に加熱処理する産業用のオーブンでは、通常、食品の上下にガスバーナなどの加熱装置を備え、上下の加熱装置の間に静置又は搬送装置などにより上下の加熱装置の間を搬送される食品を上下から加熱する。加熱装置がバーナの場合、食品の下側では、バーナの炎による輻射と、燃焼により生ずる高温の排出ガスや加熱された周辺空気の上昇流により、食品を支持するトレーや搬送ベルトなどに熱が伝えられる。一方食品の上側では主にバーナの炎からの輻射熱により食品が加熱される。上側のバーナで生成される高温の排出ガスや加熱された周辺空気は上昇するため、一部はオーブン外に排出され、残りはオーブン内の対流によって食品の加熱に寄与するが、熱の利用としては効率的ではない。またバーナにより炎が生成される場所の直下と、バーナ間の間隙部分などのように炎で覆われない部分とでは輻射熱の効果が異なるため、食品の加熱状態にムラが発生しやすい。そこで上側のバーナに遠赤外線発生プレートを組み合わせ、均一化を図る構造も実用化されている。
【0003】
特許文献1には、焼成炉を備え、加熱されることにより輻射熱を放出可能かつ多数の通気孔を備え、焼成炉内を上下に区分する輻射パネルと、輻射パネルの下部に設けられた焼成室と、輻射パネルの上部に設けられ、内部にバーナを備える燃焼室と、焼成室に被焼成物を搬送するためのコンベアとを有するトンネルオーブンが記載されている。
【0004】
特許文献2には、過熱蒸気または加熱空気をバーナと併用できるトンネルオーブンであって、焼き菓子を載せたトレーを搬送するコンベアの上側と下側に複数のバーナユニットが配置され、コンベアの上側に配置されるバーナユニットには、バーナユニットに対応してバーナユニット間の上方寄りに遠赤外線放射板が設けられるトンネルオーブンが記載されている。
【0005】
特許文献1のトンネルオーブンによれば、菓子生地等の被焼成物が搬送される焼成室は上面が輻射パネルによってほぼ均一に覆われているため、被焼成物に対して適切に輻射熱を作用させることが可能で、品質の均等な製品を焼成することができるという効果が期待される。しかし、特許文献1のトンネルオーブンの輻射パネルは上部のバーナと被焼成物との間に位置することから、上部のバーナで生成される熱は輻射パネルで一旦遮られ、被焼成物は、主に上部のバーナの輻射熱で温められた輻射パネルから放出される輻射熱で温められることになる。このため熱の効率的には必ずしも良好とはいえない。
【0006】
また特許文献2のトンネルオーブンによれば、遠赤外線放射板はバーナユニット間の上方寄りに設けられるので、遠赤外線放射板はバーナユニットから焼き菓子への熱輻射を遮ることがなく、またバーナユニットが存在しないバーナユニット間に設けられるので焼き菓子に放射される輻射熱のばらつきの低減が期待される。しかし、バーナユニットと遠赤外線放射板の間には間隙があり、バーナユニットからの熱はこの間隙から上方に抜けてしまい、バーナユニットで生成される熱を必ずしも有効に使えていないという課題が残る。
【0007】
遠赤外線を発生する輻射パネル、遠赤外線放射板などとも称される遠赤外線発生プレートは、温度が高くなるほどより強い輻射熱を放射することから、バーナで生成される熱を利用して温度をできるだけ高めることが熱の効率を高めるのには有効である。
そこで遠赤外線発生プレートを使用し、バーナで生成される熱を有効に利用し、バーナから生成される熱を遮ることなく、均一で熱効率の良い加熱構造を備える産業利用上有益なオーブンの提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-000033号公報
【文献】特許第5545422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来のオーブンにおける問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、上部熱源であるバーナの上方に、バーナ及びバーナによる炎の先の加熱ゾーンを覆うようにして薄板金属板をベースとする遠赤外線発生プレートを備えることにより加熱効率を高める加熱構造を備えるオーブンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明によるオーブンは、オーブンの中に載置されるか、又はオーブンの中を移動する食品の上方に水平に並置され、一方の水平方向に燃焼口を備える複数の直線状のバーナと、下面にのみセラミックコーティング層を備える薄板の金属板からなり、それぞれのバーナ上方のバーナ及びオーブンの天井面から離隔した位置において、それぞれのバーナと、バーナの一方の水平方向に吹き出す炎及び炎の先の加熱ゾーンとを覆うようにして設けられる複数の遠赤外線発生プレートとを有し、前記遠赤外線発生プレートは矩形形状であり、バーナの長手方向と平行する2つの端面が下面側に折り曲げられた形状を備えることを特徴とする。
【0011】
前記遠赤外線発生プレートの金属板の厚さは2±0.5mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るオーブンによれば、遠赤外線発生プレートは食品上方のバーナのさらに上方で、バーナと、バーナの一方の水平方向に吹き出す炎及び炎の先の加熱ゾーンとを覆うようにして設けられ、またバーナの長手方向と平行する2つの端面が下面側に折り曲げられた形状で設置されるため、遠赤外線発生プレートへの熱の移動を容易にし、その結果、遠赤外線発生プレートが高温化し、効率的に輻射熱を生成することが可能である。遠赤外線発生プレートは、バーナ上方を広く覆うように設置されるのでオーブン内の輻射熱の均一化にも効果が得られる。同時に、バーナと加熱される食品の間を遮るものがない為、バーナユニットで生成される熱によるオーブン内の対流熱もロスなく食品に送ることができ、特許文献1のように生成した熱をロスすることなく有効に利用できるため、輻射熱だけでなくオーブン内の熱を効率よく加熱に使用できる効果も得られる。
【0013】
また、本発明に係るオーブンによれば、遠赤外線発生プレートは、2つの端面が下面側に折り曲げられた形状とすることで板厚を2±0.5mmと薄板化することができるので、遠赤外線発生プレートの熱容量が低く抑えられ、バーナにより生成される熱で効率的に高温化するが、プレート自体の蓄熱が少なく抑えられるため食品加熱に使用したい熱がプレート内に溜め込まれてしまうロスは少なくなる。遠赤外線発生プレートは、下面にのみセラミックコーティング層を備える薄板の金属板で形成されるので、高温化した遠赤外線発生プレートは主に下面側で熱輻射が生じ、金属面である上面への輻射は抑制される。そのため食品加熱がより効率的に行われ、バーナの火力を抑えても食品を良好に焼成することが可能である。
【0014】
さらに、本発明に係るオーブンによれば、遠赤外線発生プレートは熱容量が低く抑えられることから温度変化に対する温度の安定化までの時間が短くなり、オーブンの温度分布の設定変更を行う際も、設定変更に要する時間を短縮することが可能となる。一般的にオーブンは複数の異なる温度設定の食品を加熱する際の設定切り替えに要する時間が長くなり、生産の効率の低下やエネルギーロスに繋がり、大幅時間短縮が出来ることは生産効率の上昇や省エネ効果もあり、それらは、CO2排出削減、ランニングコストの低減にも繋がり産業利用上大きなメリットとなる。
そしてさらに、本発明に係るオーブンによれば、搬送体の下に配置されるバーナと搬送体の間にも遮るものがなく、効率よく熱を利用して食品を加熱することが可能である。バーナと搬送体の間に遮るものを設けなくても、オーブンの炉体の断熱構造と、吸気排気の調整機能と、下部のバーナで生成される熱の流れを制御する内部構造とにより、バーナユニットから発生する熱を食品に均一に伝わるように搬送体を加熱することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態によるオーブンの全体構造を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態によるオーブンの加熱構造を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による遠赤外線発生プレートの構造を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による遠赤外線発生プレートの取り付け構造を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施形態によるオーブンの加熱構造を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の他の実施形態によるオーブンの加熱構造の変形例を概略的に示す図である。
【
図7】本発明の他の実施形態による遠赤外線発生プレートの構造を示す図である。
【
図8】加熱構造の違いによる食品の焼成状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係るオーブンを実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるオーブンの全体構造を概略的に示す図である。
図1を参照すると、本発明の一実施形態によるオーブン1は、食品を焼成するトンネルオーブン2であり、食品の上方から加熱する上部焼成部14、下方から加熱する下部焼成部15、及び搬送装置11を有する。
【0017】
搬送装置11は、トンネルオーブン2の入り口側と出口側にそれぞれ設けた折り返し部13で折り返されるようにしてトンネルオーブン2内を循環走行する搬送体12を備え、搬送体12により生地などの食品を、トンネルオーブン2の入り口から出口に向かって搬送する。搬送体12としては、複数の焼成板を循環するチェーンで駆動するキャタピラ形状のものでもよいし、無端のスチールベルト状のものでも構わない。搬送装置11の搬送速度は操作盤10により調節が可能である。
【0018】
上部焼成部14、下部焼成部15は、それぞれ搬送装置11の搬送方向に沿って複数のバーナ16を備える。
図1の実施形態では、複数のバーナ16は、トンネルオーブン2の入り口側から出口側に向かってA、B、Cの3つのゾーンに区分けされ、ゾーンごとに温度調節がなされるように構成されている。各ゾーンには覗き窓19が設けられ、食品の加熱状態が確認できるようになっている。実施形態ではバーナ16は、ガスバーナである。
食品は搬送体12に載置されて、上流から下流に搬送される間に上部焼成部14及び下部焼成部15により加熱されて焼成が行われる。
【0019】
トンネルオーブン2の上部には排気ファン18を備え、バーナ16で発生する燃焼済みのガスを排気として排出する。
図1には示していないが、トンネルオーブン2の下部には自動開閉シャッターを有する吸気口が備えられており、吸気口からの吸気量と排気ファン18の排気量を制御装置により制御することにより、単に燃焼済みの排出ガスを排気するのに限らず、食品を搬送するトンネル内に対流を生じさせ、トンネル内の場所による温度ばらつきを低減することができる。
【0020】
本発明の実施形態によるオーブン1は、
図2を参照して次に説明するように、加熱構造に特徴があるものであり、トンネルオーブン2に限らず、他の実施形態として、搬送装置11を有さないバッチ式のオーブンであってもよい。ただ、本明細書ではトンネルオーブン2を代表として説明する。
【0021】
図2は本発明の実施形態によるオーブンの加熱構造を概略的に示す図である。
図2を参照すると、焼成される食品60が、循環する搬送体12に一定間隔で載置され、トンネルオーブン2の中を、図中ではx軸方向に、上流となる右側から下流となる左側に搬送され、その間に上部焼成部14及び下部焼成部15により加熱されて焼成が行われる様子が示される。
【0022】
上部焼成部14及び下部焼成部15はいずれも、それぞれが食品60の搬送方向と直交するy軸方向に延在し、食品60の搬送方向に沿って複数が配列される直線状のガスバーナ20を含む。
それぞれのガスバーナ20は水平方向に載置されるが、ガスバーナ20の一側、即ち一方の水平方向にガスバーナ20の長手方向に沿って複数の燃焼口21を備え、ガスバーナ20の一端から供給される燃焼ガスを、複数の燃焼口21から噴出させながら燃焼させ、水平方向に炎22を発生させる。このため炎22の先端側には、ガスバーナ20で生成される高温の排出ガスや加熱された周辺空気が存在する加熱ゾーン23が存在する。
【0023】
上部焼成部14と下部焼成部15とではガスバーナ20自体は共通で変わらないが、上部焼成部14には、それぞれのガスバーナ20と、ガスバーナ20の一方の水平方向に吹き出す炎22及び炎22の先の加熱ゾーン23とを覆うようにして遠赤外線発生プレート30が設けられる。
【0024】
遠赤外線発生プレート30は、下面にのみセラミックコーティング層33を備える薄板の矩形形状の金属板32からなり、ガスバーナ20で生成される熱を受けて高温化すると共に下面に形成されたセラミックコーティング層33から遠赤外線34を放射する。セラミックとしては炭化ケイ素、窒化ケイ素、二酸化チタンなどが挙げられ、セラミックコーティング層33はセラミック材料の溶射やセラミックコーティング剤を塗布して焼き付けるなどの方法で形成することができる。放射された遠赤外線34は、下方を移動する食品60に照射され、輻射熱として食品60の加熱に寄与する。
【0025】
輻射面の面積Aの平板からの輻射により放射される全熱エネルギー量Qは、以下の(1)式で表される。
〔数1〕
Q=σεT4A (1)
ここで、
σはステファンボルツマン定数、
εは輻射面の放射率
Tは輻射面の絶対温度
【0026】
このように、輻射面の放射率が高いほど、また輻射面の絶対温度が高いほど放出される熱エネルギー量は大きくなる。
このため食品60に対向し食品60の加熱に寄与する遠赤外線発生プレート30の下面には放射率の高い材料であるセラミックをコーティングする。逆に食品60の加熱に寄与しない遠赤外線発生プレート30の上面にはセラミックコーティング層33は設けない。
【0027】
一方、輻射面の絶対温度を高めるという点では、ガスバーナ20で生成された熱を受けて容易に温度が上昇するように、遠赤外線発生プレート30の熱容量を極力低く抑えることが有効である。また遠赤外線発生プレート30は、ガスバーナ20で生成された熱を効率的に利用するため、高温の排出ガスや加熱された周辺空気を留めやすい形状とすることが好ましい。
【0028】
図3は、本発明の実施形態による遠赤外線発生プレートの構造を示す図である。
図3を参照すると、本発明の実施形態による遠赤外線発生プレート30は、ガスバーナ20の長手方向と同じy軸方向の長さがLで幅がWの矩形形状であり、ガスバーナ20の長手方向と平行する2つの端面が折り曲げられて、高さがHとなる折り曲げ部31が形成される。
【0029】
遠赤外線発生プレート30は、厚さtの金属板32を折り曲げて形成する。
図3では食品60に対向する下面が上を向くように示しており、折り曲げ部31も上を向くように示すが、実際にオーブン1の中に設置する状態では、折り曲げ部31は下向きのコの字の形状となるよう形成される。前述のように遠赤外線発生プレート30の熱容量は低い方が好ましく、そのためには金属板32の厚さtを小さくすることが有効である。実施形態では金属板32は耐熱性があり強度も高いステンレスを使用し、厚さtは2±0.5mmのものを使用する。
【0030】
一方、実施形態では遠赤外線発生プレート30は一辺が数百mmを超えるサイズで使用することがあり、薄板を使用すると長手方向に対しては撓み変形が生じやすくなるが、幅方向の端部に折り曲げ部31を形成することにより長手方向に対する曲げ剛性が向上し、実用上は問題がない。このような形状により薄板化することで低熱容量となる遠赤外線発生プレート30は、同じ熱量でも温度が上昇しやすくなると共に、温度が安定するまでの時間が短くなる効果が得られるため、例えば食品60の焼成終了後、焼成条件の異なる他の食品60に切り替えるため、トンネルオーブン2の設定温度を切り替える場合も、切り替えに伴う準備時間を短くすることが可能となる。
【0031】
このように折り曲げ部31は、遠赤外線発生プレート30の剛性を向上するのに有効であるが、それ以外にガスバーナ20により生成される高温の排出ガスや加熱された周辺空気との相互作用を増やす効果を有する。
図2に示すようにガスバーナ20の一側から水平方向に炎22が延び広がり、炎22の先には高温の排出ガスや加熱された周辺空気が流れていく加熱ゾーン23が広がる。折り曲げ部31は、高温の排出ガスや加熱された周辺空気が流れを遮るように折り曲げられるため、遠赤外線発生プレート30の下面側に気体との相互作用を増加させる。実施形態では折り曲げ部31の高さHは30~50mmであるが、これに限らない。
【0032】
本発明の実施形態による遠赤外線発生プレート30は、薄板の金属に折り曲げ部31を設けて形成することにより、熱を留めやすく、温度が上昇しやすい構造となっている。これに加え、遠赤外線発生プレート30は、下面に放射率εが概ね0.9と高いセラミックコーティング層33を備えるため、より効率的に遠赤外線34を放射する。
【0033】
一方遠赤外線発生プレート30の上面側はセラミックコーティング層33を設けず、金属板32の金属面がそのまま露出する。金属面は放射率が概ね0.1以下であり、熱の放射が不要な上面側の熱の流出を防止する。同じ金属でも鏡面と粗化面とでは放射率が異なり粗化面の方が放射率は高くなる。そこで遠赤外線発生プレート30の金属板32は表面が平坦な圧延面のものを使用するが、実施形態によっては上面側を鏡面状に研磨した金属板32を使用してもよい。なお、折り曲げ部31は食品60に対向しないため、折り曲げ部31にセラミックコーティング層33を設けても、折り曲げ部31から放出される遠赤外線34は食品60加熱にはあまり有効に寄与することがないため、折り曲げ部31にはセラミックコーティング層33は設けなくてもよい。
【0034】
図4は、本発明の実施形態による遠赤外線発生プレートの取り付け構造を示す図である。
図4を参照すると、本発明の実施形態による遠赤外線発生プレート30を取り付ける枠体40は、搬送装置11の搬送方向であるx軸方向に延在する2本の主フレーム41と、主フレーム41に直交し、2本の主フレーム41間をつなぐように設けられた複数の側方フレーム42とを備える。
【0035】
側方フレーム42は、断面がL字形状で、隣接する2本の側方フレーム42同士が対向する形で設けられる。2本の主フレーム41と、互いに対向する2本の側方フレーム42とで、1つの遠赤外線発生プレート30を取り付けるための上下に開口した矩形枠44を構成する。これにより、側方フレーム42のL字形状の下面側の辺が、遠赤外線発生プレート30の折れ曲がり部31の下方に位置するフランジ43を構成する。
【0036】
図4の実施形態では、枠体40は4本の側方フレーム42を備え、これにより2つの遠赤外線発生プレート30を、間をあけて取付けるための2つの矩形枠44を構成する。2つの矩形枠44の間の間隙は熱を利用した燃焼済みのガスを排気として排気ファンに抜けさせる通路となるものである。他の実施形態では枠体40はさらに多い側方フレーム42を備え、3つ以上の遠赤外線発生プレート30を取り付けるように構成してもよい。
【0037】
主フレーム41には矩形の開口部に向けて突出する支持突起45が備えられる。支持突起45は、1つの矩形枠44に対し、対向する2本の主フレーム41それぞれに2箇所ずつ、計4箇所に設けられる。この支持突起45により遠赤外線発生プレート30の下面が支持される。支持突起45の位置や配置は
図4の例に限らない。遠赤外線発生プレート30が安定して支持されれば変更可能である。
【0038】
遠赤外線発生プレート30は、矩形枠44に収まるように上方から載置すると、小面積の支持突起45により支持されるため、ガスバーナ20で生成された熱により高温化した遠赤外線発生プレート30から枠体40へ逃げる熱量は無視できる程度に小さい。
図4では支持突起45は水平方向に広がるような形状に示したが、他の実施形態では上下方向に沿ってyz平面に広がるように設けてもよい。このようにすると遠赤外線発生プレート30を支持する強度を確保しつつ、遠赤外線発生プレート30との接触面積を低減できるため、遠赤外線発生プレート30からの熱の流出をさらに抑制することができる。
【0039】
遠赤外線発生プレート30を設置した枠体40はトンネルオーブン2の内部側壁に設けられた枠体支持レール51に載置され、トンネルオーブン2のガスバーナ20に対応する位置に移動して設置される。ガスバーナ20に対応する位置とは、それぞれの遠赤外線発生プレート30が、ガスバーナ20、ガスバーナ20により生成される炎22、及び炎22の先の加熱ゾーン23を覆うような位置である。これにより、遠赤外線発生プレート30はガスバーナ20で生成される熱を効率よく受け取り高温化しやすくなる。
【0040】
ガスバーナ20により生成された高温の排出ガスや加熱された周辺空気は、遠赤外線発生プレート30に熱を伝達しつつ、後から生成される排出ガスに押し出され隣接する遠赤外線発生プレート30の間を上方に抜けていき、最終的には大部分が排気ファン18から外部に排出される。しかし排出ガスや加熱された周辺空気は、隣接する遠赤外線発生プレート30の間を上方に抜けていく段階でもまだ十分高い温度を有しているため、この温度を遠赤外線発生プレート30の高温の温度保持に利用することができる。
【0041】
図5は、本発明の他の実施形態によるオーブンの加熱構造を概略的に示す図である。
図5を参照すると、焼成される食品60が、循環する搬送体12により搬送され、この間、それぞれガスバーナ20を備える上部焼成部14と下部焼成部15により焼成されること、上部焼成部14にはガスバーナ20の上方を覆う遠赤外線発生プレート30が備えられることなど、基本的な加熱構造は、
図2を参照して説明した加熱構造と変わらないが、
図5の実施形態では、遠赤外線発生プレート30の上方に一定間隔離隔して、さらにカバープレート37を備える点で相違する。
【0042】
カバープレート37は、少なくとも隣接する遠赤外線発生プレート30の間の間隙を上方から覆うように設けられる。またカバープレート37は、隣接する遠赤外線発生プレート30の少なくとも一方の上部を部分的、又は全体的に覆うように設置される。このような構造とすることにより、隣接する遠赤外線発生プレート30の間を上方に抜けていく排出ガスや加熱された周辺空気は、カバープレート37により上昇が遮られ、カバープレート37に沿って水平方向に流れ広がる。カバープレート37には遠赤外線発生プレート30と同様、幅方向の端部を下面側に折り曲げた折り曲げ部を設けてもよい。カバープレート37は専用の要素として別に製作せずに遠赤外線発生プレート30と共通のものとしてもよい。
【0043】
上記のような構造を備えることにより、遠赤外線発生プレート30の上面とカバープレート37の下面で構成される空間に、比較的高温の排出ガスや加熱された周辺空気が満たされる状態が形成される。ガスバーナ20での燃焼に伴い、この空間には比較的高温の排出ガスや加熱された周辺空気が連続的に供給されるので、この空間内の温度は比較的高温に保たれ、遠赤外線発生プレート30の上面は、カバープレート37がない場合に比べてより高い温度を維持することができる。この空間内の温度が遠赤外線発生プレート30の上面より高い場合は遠赤外線発生プレート30の更なる高温化にも寄与することとなる。
【0044】
ところでトンネルオーブン2において、搬送装置11の搬送方向と直交する方向で見たときに、中央に近い部分の食品60の温度が、トンネルオーブン2の両側壁に近い両端部の食品60の温度より高くなりやすいことも技術課題として知られている。そこで搬送装置11の搬送方向と直交する方向に長手方向が来るように設置される直線状のガスバーナ20を長さ方向で中央部とその両端部の3つの区間に分割し、区間によって火力を調節できるようなガスバーナ20も実用化されている。しかし、このような特殊なガスバーナ20を使用しなくても、遠赤外線発生プレート30を使用して温度分布の課題を改善することも可能である。
【0045】
図6は、本発明の他の実施形態によるオーブンの加熱構造の変形例を概略的に示す図である。
図6を参照すると、カバープレート37が隣接する遠赤外線発生プレート30の間の間隙の上方に、また、隣接する遠赤外線発生プレート30に跨るように設置される。カバープレート37のy軸方向の長さ、すなわち搬送装置11の搬送方向と直交する方向の長さは遠赤外線発生プレート30のy軸方向の長さより短く、遠赤外線発生プレート30の中央部をあけて両端に位置するように2つのカバープレート37が設けられる。
【0046】
隣接する遠赤外線発生プレート30の間を上方に抜けていく排出ガスや加熱された周辺空気は、カバープレート37が設けられていない遠赤外線発生プレート30の中央部では遮るものがないのでそのまま上昇して抜けていくが、カバープレート37が設けられている両端部ではカバープレート37に遮られ、遠赤外線発生プレート30の上面とカバープレート37の下面の間の空間に流れ広がる。この結果、遠赤外線発生プレート30はy軸方向に沿ってみた場合、中央部に比べて両端部の温度が上昇し、中央部に比べて両端部から放射される輻射熱が増加する。遠赤外線発生プレート30の両端部はトンネルオーブン2の側壁に近く、下を流れる製品60の温度が上昇しにくい部分に相当するが、カバープレート37の設置により、この部分からの放射熱が増加することで製品60の焼きムラを低減することが可能となる。
【0047】
搬送装置11の搬送方向と直交する方向で見たときの温度分布のばらつきは、
図6に示したようなカバープレート37を使用しなくても、遠赤外線発生プレート30の構造を変えることでも低減可能である。
図7は本発明の他の実施形態による遠赤外線発生プレートの構造を示す図である。
【0048】
図7を参照すると、本発明の他の実施形態による遠赤外線発生プレート35の基本的な形状は
図3に示した遠赤外線発生プレート30と変わらないが、下面に設けるセラミックコーティング層33の形成状態が異なる。遠赤外線発生プレート30では下面全体に均一なセラミックコーティング層33が形成されるように示したが、遠赤外線発生プレート35では、下面の内、前述のように食品60の温度が上がりやすいトンネルオーブン2の中央に近い部分に位置する部分に、マスキング等によりセラミックコーティング層33が形成されないようにした金属露出部分36を設ける。
【0049】
部分的にマスキング等によりセラミックコーティング層33が形成されないようにした部分を設けることにより、遠赤外線発生プレート35では長手方向の中央付近と両端部では同じ温度でも放射する遠赤外線34の量が異なるようになり、トンネルオーブン2の両側壁に近い両端部を搬送される食品60と、温度の上がりやすい中央部を搬送される食品60の温度ばらつきが低減される。
【0050】
図7では、セラミックコーティング層33が形成されないようにした金属露出部分36を、長手方向に沿う5本の太線状に示したが、セラミックコーティング層33が形成されないようにした部分の形状はこれに限らず、長手方向と直交するようなパターン形状でもよいし、長手方向に対し傾きを設けたパターン形状でも、格子状に設けたパターン形状でも構わない。さらには、長手方向の中央部は全面的にセラミックコーティング層33が形成されないようにしてもよい。
【0051】
また、セラミックコーティング層33は下面全面に設けるものの、付着させるセラミックの密度を中央部で下地の金属板32が部分的に露出する程度に低く、両端部で高くするように変えてもよい。またセラミックコーティング層33を下面全面に設けた後、セラミックコーティング層33に対する機械的な研削などにより、セラミックコーティング層33を部分的に削除して金属露出部分36を形成し、遠赤外線34の発生量が場所によって変わるように加工してもよい。
【0052】
いずれにしても上記のような手法で、トンネルオーブン2内の温度の上がりやすい部分と上がりにくい部分とに対応して遠赤外線34の発生量が変わるようにセラミックコーティング層33を設けることにより、通常の直線状のガスバーナ20を使用しても、食品60の場所による温度ばらつきを抑制する遠赤外線発生プレート35を実現することが可能である。遠赤外線発生プレート35は
図6に示す加熱構造の変形例と組み合わせて使用してもよい。
【0053】
図8は、加熱構造の違いによる食品の焼成状態を示す図である。
図8(a)は、特許文献2に記載のような従来技術による加熱構造Aのトンネルオーブンで食品を焼成した場合、
図8(b)は本願発明の実施形態による加熱構造Bのトンネルオーブンで食品を焼成した場合の食品の焼成状態を示す。
【0054】
加熱構造Aでは、上下に備えられるガスバーナ20の間を製品60が搬送されるという基本構成は
図2に示した加熱構造と同様であるが、加熱構造Aにおける遠赤外線発生プレート70は、本発明の実施形態による遠赤外線発生プレート30とは異なりガスバーナ20及びガスバーナ20から水平方向に生成される炎は覆わず、隣接するガスバーナ20の間に設けられる。また遠赤外線発生プレート70は、金属板を折り曲げて形成するが、折り曲げ方向が遠赤外線発生プレート30とは逆に上向きに折り曲げられる。金属板の厚さは3±0.5mmであり、下面に限らず上面も含めセラミックコーティング層33が形成されている。このため、遠赤外線34は、遠赤外線発生プレート70の下面と同様に上面側にも放出される。加熱構造Aでは上側のガスバーナ20の上にはカバーキャップ71が設けられるが、カバーキャップ71にはセラミックコーティング層33は設けられず、食品加熱のための遠赤外線はほとんど放出しない。
加熱構造Bは
図2を参照して説明した本発明の実施形態による遠赤外線発生プレート30を備える構造である。
【0055】
図8に示す例では、上記のような加熱構造A、Bのトンネルオーブン2により、それぞれ食品60としてクロワッサン生地を使用して、同じ搬送速度、同じ設定温度で焼成した場合の食品60の焼き上がり状態を比較している。クロワッサン生地の焼き上がり状態は、加熱構造Aにより焼成した場合に比べ、加熱構造Bにより焼成した場合の方が、明らかに焼きが強くなっていることが確認された。この結果は熱の効率が向上したことを示しており、本発明の実施形態による薄い板厚の遠赤外線発生プレート30を使用することで、設定温度を下げても必要な焼き上がり状態が得られることを示すものである。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 オーブン
2 トンネルオーブン
10 操作盤
11 搬送装置
12 搬送体
13 折り返し部
14 上部焼成部
15 下部焼成部
16 バーナ
17 ターボブロワー
18 排気ファン
19 覗き窓
20 ガスバーナ
21 燃焼口
22 炎
23 加熱ゾーン
30、35、70 遠赤外線発生プレート
31 折り曲げ部
32 金属板
33 セラミックコーティング層
34 遠赤外線
36 金属露出部分
37 カバープレート
40 枠体
41 主フレーム
42 側方フレーム
43 フランジ
44 矩形枠
45 支持突起
50 天井面
51 枠体支持レール
60 食品
71 カバーキャップ
【要約】
【課題】加熱効率を高める加熱構造を備えるオーブンを提供する。
【解決手段】本発明によるオーブンは、オーブンの中に載置されるか、又はオーブンの中を移動する食品の上方に水平に並置され、一方の水平方向に燃焼口を備える複数の直線状のバーナと、下面にのみセラミックコーティング層を備える薄板の金属板からなり、それぞれのバーナ上方のバーナ及びオーブンの天井面から離隔した位置において、それぞれのバーナと、バーナの一方の水平方向に吹き出す炎及び炎の先の加熱ゾーンとを覆うようにして設けられる複数の遠赤外線発生プレートとを有することを特徴とする。
【選択図】
図2