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特許7595983樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20241202BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20241202BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E04G23/02 D
E01D19/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023213843
(22)【出願日】2023-12-19
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】300011106
【氏名又は名称】サン・ロード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】山下 鉄太郎
(72)【発明者】
【氏名】重永 真志
(72)【発明者】
【氏名】牧角 龍憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】宗 栄一
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128860(JP,A)
【文献】特開2008-202251(JP,A)
【文献】特開2021-92062(JP,A)
【文献】特開昭63-142158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E04G 23/02~23/03
E01D 19/12
F16B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に沿って格子状の網鉄筋を固定し、この網鉄筋を被覆層によって被覆するコンクリート構造物の補強工法に用いられる樹脂注入用アンカーであって、
前記コンクリート構造物に形成された下穴に挿入されるロッド部であり、それぞれの先端部側が前記下穴の径よりも細く、根元部側が前記下穴の径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部を備え、各テーパ部の根元部側の径が前記ロッド部の根元部側に向かうに連れて段階的に太くなるロッド部と、
前記網鉄筋に当接することにより前記被覆層のかぶり厚の基準面を示す板状部と、
合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有するヘッド部と、
前記ヘッド部から前記ロッド部の先端部まで軸線方向に貫通する注入孔と
を有する樹脂注入用アンカー。
【請求項2】
前記ロッド部の周壁部に、前記注入孔まで貫通して形成されたスリットを有する請求項1記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項3】
前記ヘッド部の外周面に前記基準面からのかぶり厚を示す指標を有する請求項1記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項4】
前記ヘッド部は、前記注入器具を除去する際に折れやすくするための脆弱部を有する請求項1記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項5】
前記ヘッド部を延長する中空筒状の延長部材であり、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有する延長部材を含み、
前記ヘッド部は、前記延長部材を嵌合する嵌合部を有する請求項1記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項6】
前記ヘッド部を覆うキャップ部材であり、その外周面に前記基準面からのかぶり厚を示す指標を有するキャップ部材を含む請求項1記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項7】
前記キャップ部材の外周面に凸部を有する請求項6記載の樹脂注入用アンカー。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂注入用アンカーを用いたコンクリート構造物の補強工法であって、
コンクリート構造物の表面に沿って格子状の網鉄筋を固定すること、
前記樹脂注入用アンカーの前記板状部が前記網鉄筋に当接する位置に対応させて前記コンクリート構造物に下穴を穿設すること、
前記樹脂注入用アンカーの前記ロッド部を前記板状部が前記網鉄筋に当接するように前記下穴に挿入すること、
前記網鉄筋を前記被覆層によって被覆すること、
前記樹脂注入用アンカーの前記注入器具接続部に前記注入器具を接続して前記合成樹脂を注入すること
を含むコンクリート構造物の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁等のコンクリート構造物の補強に係り、特にクラックを生じた橋梁床版や壁体の補修の他、既設構造物に対して新たに鉄筋を追加施工して補強するための補強用治具とともに用いられる樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造によって構築される道路橋では、車両の通過による動荷重を繰り返し受けるため、道路橋の主要部材の中でも橋梁の床版に対する負荷はかなり大きい。そして、橋梁自身が持つ強度に対して、過大な負荷の繰り返しや衝撃荷重が大きかったり耐用年限を大きく超えたりすると、床版の下面にクラックが発生し、このクラックは次第に下面を縦横に走るようにまでなって細網化し、コンクリートの剥落などを招くことになる。
【0003】
このようなクラックの発生は、コンクリート中の鉄筋の腐食や破断の原因となるので、通常の場合はクラックが発生した初期の段階で床版を補修することが好ましいとされている。この床版の補修施工としては、従来、クラック内にエポキシ樹脂などを注入する樹脂注入法や、床版に発生した空洞部分やコンクリート剥離部分をセメントモルタルで修復する断面修復工法が行われている。
【0004】
ところが、これらの工法の殆どは破損部位の修復を主な目的とするものであって、鉄筋の腐食の進行等を防ぐことなどには有効であるものの、構造物自体の強度を上げるという施工には対応できない。これに対し、本出願人は、橋梁などを含めて既設のコンクリート構造体に対して好適な補修および補強のための補強用治具を開発している(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この補強用治具は、網鉄筋の交差する2本の鉄筋を固定方向に拘束するヘッド部と、このヘッド部からその軸線方向に突き出されてコンクリート構造物に開けた下穴にねじ込まれるロッド部と、このロッド部とヘッド部との間の周面に形成され、かつ差し込み方向が先細りするテーパ部とからなり、ロッド部が、下穴の内面に切り込む錐として作用する第1のねじ山と、この第1のねじ山よりも高さが低く形成され、ねじ込みの際の案内として作用する第2のねじ山との2条のねじ山が形成されたものである。
【0006】
この補強用治具を用いた補強施工方法では、既設のコンクリート構造物の表面に複数の鉄筋をほぼ格子状に交差させた網鉄筋を配置し、2本の交差する鉄筋の両方に補強用治具のテーパ部周面が突き当たる位置に対応させて複数の下穴を穿設し、複数の補強用治具のロッド部をそれぞれの下穴にねじ込むとともに、2本の交差する鉄筋から補強用治具のテーパ部が受ける拘束力と補強用治具のロッド部が下穴の内面から受ける拘束力とで補強用治具をコンクリート構造物側に連接することによって網鉄筋をコンクリート構造物の表面に固定し、網鉄筋および補強用治具を含めて被覆層によって被覆する。
【0007】
また、補強用治具として、合成樹脂の注入器具を接続するための注入器具接続部としての雌ねじ部と、雌ねじ部、六角穴およびヘッド部に連ねて軸線方向に貫通させた一様な内径の注入孔を設けたものを使用し、被覆層を構成する中塗材の塗布後、注入器具を雌ねじ部にねじ込んで、この注入器具から合成樹脂として例えばエポキシ樹脂を注入することにより、コンクリート構造物に発生しているクラックや隙間にエポキシ樹脂を充填し、その補修だけでなく、補強強度も充分に高くすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-202251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のようにエポキシ樹脂を注入する注入孔を設けた補強用治具を、網鉄筋の2本の交差する鉄筋からその補強用治具のテーパ部が拘束力を受ける位置以外に使用してエポキシ樹脂を注入する場合、補強用治具はそのロッド部が下穴の内面から受ける拘束力のみでコンクリート構造物側に連接されることになる。そのため、道路橋を交通規制せずに施工した場合、通過車両によって発生する振動等により施工中に補強用治具が下穴から脱落することがある。
【0010】
そこで、本発明は、コンクリート構造物の補強施工において施工中の脱落を防止することが可能な樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の樹脂注入用アンカーは、コンクリート構造物の表面に沿って格子状の網鉄筋を固定し、この網鉄筋を被覆層によって被覆するコンクリート構造物の補強工法に用いられる樹脂注入用アンカーであって、コンクリート構造物に形成された下穴に挿入されるロッド部であり、それぞれの先端部側が下穴の径よりも細く、根元部側が下穴の径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部を備え、各テーパ部の根元部側の径がロッド部の根元部側に向かうに連れて段階的に太くなるロッド部と、網鉄筋に当接することにより被覆層のかぶり厚の基準面を示す板状部と、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有するヘッド部と、ヘッド部からロッド部の先端部まで軸線方向に貫通する注入孔とを有するものである。
【0012】
本発明の樹脂注入用アンカーを用いたコンクリート構造物の補強工法は、コンクリート構造物の表面に沿って格子状の網鉄筋を固定すること、樹脂注入用アンカーの板状部が網鉄筋に当接する位置に対応させてコンクリート構造物に下穴を穿設すること、樹脂注入用アンカーのロッド部を板状部が網鉄筋に当接するように下穴に挿入すること、網鉄筋を被覆層によって被覆すること、樹脂注入用アンカーの注入器具接続部に注入器具を接続して合成樹脂を注入することを特徴とする。
【0013】
本発明の樹脂注入用アンカーによれば、下穴に挿入されるロッド部が、それぞれの先端部側が下穴の径よりも細く、根元部側が下穴の径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部を備え、各テーパ部の根元部側の径がロッド部の根元部側に向かうに連れて段階的に太くなるものであるため、下穴へのロッド部の挿入時には下穴の径よりも細い各テーパ部の先端部側からスムーズに挿入することができ、下穴の径よりも太い各テーパ部の根元部によって下穴内へ固定される。そして、網鉄筋を被覆層によって被覆し、樹脂注入用アンカーの注入器具接続部に注入器具を接続して合成樹脂を注入するが、下穴に挿入されたロッド部は各テーパ部の根元部側の径がロッド部の根元部側に向かうに連れて太くなっているため、この各テーパ部の根元部側が下穴の内壁に引っ掛かって保持されるため、樹脂注入用アンカーの脱落を防止することができる。
【0014】
ロッド部の周壁部には、注入孔まで貫通して形成されたスリットを有することが望ましい。これにより、注入器具接続部に接続した注入器具から注入孔内へ注入した合成樹脂が、ロッド部の先端部だけでなく、ロッド部の周壁部に形成されたスリットを通じてコンクリート構造物中に流れ込むようになる。
【0015】
本発明の樹脂注入用アンカーは、ヘッド部の外周面に基準面からのかぶり厚を示す指標を有することが望ましい。これにより、樹脂注入用アンカーのロッド部を板状部が網鉄筋に当接するように下穴に挿入したのち、網鉄筋を被覆層によって被覆する際、この樹脂注入用アンカーのヘッド部の基準面からのかぶり厚を示す指標を目印として被覆層を形成することができる。
【0016】
ヘッド部は、注入器具を除去する際に折れやすくするための脆弱部を有することが望ましい。これにより、注入器具接続部に接続した注入器具から合成樹脂を注入したのち、注入器具接続部から注入器具を除去する際に、脆弱部からヘッド部が折れ、注入器具とともに除去することができる。
【0017】
本発明の樹脂注入用アンカーは、ヘッド部を延長する中空筒状の延長部材であり、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有する延長部材を含み、ヘッド部は、延長部材を嵌合する嵌合部を有することが望ましい。これにより、被覆層のかぶり厚が厚く、ヘッド部の長さが不足した場合に、ヘッド部の嵌合部に延長部材を嵌合することで、この延長部材の注入器具接続部に注入器具を接続して合成樹脂を注入することが可能となる。
【0018】
本発明の樹脂注入用アンカーは、ヘッド部を覆うキャップ部材であり、その外周面に基準面からのかぶり厚を示す指標を有するキャップ部材を含むことが望ましい。これにより、樹脂注入用アンカーのロッド部を板状部が網鉄筋に当接するように下穴に挿入したのち、ヘッド部をキャップ部材により覆った状態で網鉄筋を被覆層によって被覆する。このとき、キャップ部材の外周面の基準面からのかぶり厚を示す指標を目印として被覆層を形成することができる。また、被覆後にキャップ部材を取り外すことで、ヘッド部の注入器具接続部が露出するので、この露出した注入器具接続部に注入器具を接続して合成樹脂を注入することができる。
【0019】
また、キャップ部材の外周面には凸部を有することが望ましい。これにより、キャップ部材を指で摘まんで取り外す際、このキャップ部材の外周面の凸部に指が引っ掛かるため、容易に取り外すことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
(1)コンクリート構造物に形成された下穴に挿入されるロッド部であり、それぞれの先端部側が下穴の径よりも細く、根元部側が下穴の径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部を備え、各テーパ部の根元部側の径がロッド部の根元部側に向かうに連れて段階的に太くなるロッド部と、網鉄筋に当接することにより被覆層のかぶり厚の基準面を示す板状部と、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有するヘッド部と、ヘッド部からロッド部の先端部まで軸線方向に貫通する注入孔とを有する樹脂注入用アンカーによれば、下穴へのロッド部の挿入時には下穴の径よりも細い各テーパ部の先端部側からスムーズに挿入することができ、合成樹脂の注入時には、各テーパ部の根元部側が下穴の内壁に引っ掛かって保持されるため、樹脂注入用アンカーの脱落を防止して樹脂注入を行い、コンクリート構造物の補強施工を行うことが可能となる。
【0021】
(2)ロッド部の周壁部に、注入孔まで貫通して形成されたスリットを有することにより、注入器具接続部に接続した注入器具から注入孔内へ注入した合成樹脂が、ロッド部の先端部だけでなく、ロッド部の周壁部に形成されたスリットを通じてコンクリート構造物中に流れ込みやすくなり、コンクリート構造物内のクラックに効率良く充填される。
【0022】
(3)ヘッド部の外周面に基準面からのかぶり厚を示す指標を有することにより、樹脂注入用アンカーのヘッド部の基準面からのかぶり厚を示す指標を目印として被覆層を形成することができ、簡単かつ確実に被覆層の所定のかぶり厚を確保することが可能となる。
【0023】
(4)ヘッド部が、注入器具を除去する際に折れやすくするための脆弱部を有することにより、注入器具接続部から注入器具を除去する際に、脆弱部からヘッド部が折れ、注入器具とともに除去することができ、除去作業が容易となる。
【0024】
(5)ヘッド部を延長する中空筒状の延長部材であり、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部を有する延長部材を含み、ヘッド部は、延長部材を嵌合する嵌合部を有することにより、ヘッド部の長さが不足した場合に、ヘッド部の嵌合部に延長部材を嵌合して合成樹脂を注入することが可能となり、被覆層のかぶり厚が厚い時でも対応することが可能となる。
【0025】
(6)ヘッド部を覆うキャップ部材であり、その外周面に基準面からのかぶり厚を示す指標を有するキャップ部材を含むことにより、被覆後にキャップ部材を取り外すことで、ヘッド部の注入器具接続部を露出させ、注入器具を接続して簡単に合成樹脂を注入することができ、作業性が向上する。また、キャップ部材の外周面の基準面からのかぶり厚を示す指標を目印として被覆層を形成することができ、簡単かつ確実に被覆層の所定のかぶり厚を確保することが可能となる。
【0026】
(7)キャップ部材の外周面に凸部を有することにより、キャップ部材を指で摘まんで取り外す際、このキャップ部材の外周面の凸部に指が引っ掛かるため、容易に取り外すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態におけるコンクリート構造物の補強工法によって橋梁の床版を補強した例を示す概略図である。
図2図1のA-A線矢視図であって、網鉄筋、補強用アンカーおよび樹脂注入用アンカーの配置を示す底面図である。
図3】アンカーピンをアンカー穴にねじ込んで鉄筋を固定した状態を示す要部断面図である。
図4】樹脂注入用アンカー本体を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は右側面図、(e)はB-B線断面図、(f)はC部拡大図である。
図5】キャップ部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)はD-D線部分断面図、(c)は底面図である。
図6】樹脂注入用アンカー本体をアンカー穴に挿入した状態を示す要部断面図である。
図7】樹脂注入用アンカーの注入孔からエポキシ樹脂を注入したときの樹脂の流れを示す要部の断面図である。
図8】延長部材を使用する例を示す図であって、(a)は延長部材の接続前の状態を示す正面図、(b)は延長部材を接続した状態を示す右側面図、(c)はE-E線断面図である。
図9】床版の底面に刻む溝の施工例であって、(a)は床版を斜め下方から見たときの概略図、(b)は溝の形状を示す断面図である。
図10】エポキシ樹脂の注入によって床版の溝に樹脂が充填されたときの要部の断面図である。
図11】網鉄筋の鉄筋に対する樹脂注入用アンカーの配置の概略を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は本発明の実施の形態におけるコンクリート構造物の補強工法によって橋梁の床版を補強した例を示す概略図、図2図1のA-A線矢視図であって、網鉄筋、補強用アンカーおよび樹脂注入用アンカーの配置を示す底面図、図3はアンカーピンをアンカー穴にねじ込んで鉄筋を固定した状態を示す要部断面図である。
【0029】
図1において、コンクリート構造物は、路幅方向の両端に地覆2をそれぞれ一体に形成するとともに内部には鉄筋をスラブ状に配筋した橋梁の床版1が橋桁3によって支持されたものである。床版1は既設のものであって、通過車両Vによる動荷重を繰り返し受けてその下面の表面にクラックが発生しているものである。本実施形態におけるコンクリート構造物の補強工法では、床版1を補強するために、図2に示す格子状に縦および横の鉄筋4a,4bを予め溶接によって一体化した網鉄筋4を、本実施形態における補強用アンカーとしてのアンカーピン5によって固定保持する。
【0030】
図3に示すように、アンカーピン5は、下端にその端面を緩やかな円弧面状としたヘッド部5aと、このヘッド部5aから上端に向けて延びるロッド部5bとを有する。ロッド部5bの下端側には、ヘッド部5aから上端側、すなわち、ねじ込み進行方向に外形を先細りさせたテーパ部5cが形成されている。また、アンカーピン5のヘッド部5a側には、回転工具を嵌めて回転させるための多角形断面穴としての六角穴5dを有する。
【0031】
また、ロッド部5bのテーパ部5cよりも先端側の外周面には、2条のねじ山5g,5hが形成されている。ねじ山5gは、断面形状が三角形になっている三角ねじであり、後述するアンカー穴1bの内面に切り込む錐として作用するものである(以下、このねじ山5gを「錐ねじ山」と称す。)。ねじ山5hは、錐ねじ山5gよりも高さが低く形成された台形ねじまたは角ねじであり、ねじ込みの際の案内として作用するものである(以下、このねじ山5hを「案内ねじ山」と称す。)。
【0032】
アンカーピン5は、図2に示したように、縦および横配列の鉄筋4a,4bが交差する部分に対応させてそれぞれ床版1にねじ込まれる。すなわち、アンカーピン5は、鉄筋4a,4bが十字状に交差しているコーナ部であってこれらの鉄筋4a,4bにロッド部5bの周面が同時に接触するような位置にねじ込まれる。そして、アンカーピン5を床版1にねじ込んでいくと、図3に示すようにテーパ部5cが鉄筋4a,4bの周面に当たるようになり、アンカーピン5の打設中心から見るとこのテーパ部5cによってその外形半径が大きくなる。したがって、アンカーピン5は図2において矢印方向に鉄筋4a,4bを押すようになり、これらの鉄筋4a,4bには引張力が作用する。
【0033】
このようにアンカーピン5がテーパ部5cを備えることによって、図2に示す格子状の網鉄筋4に対してアンカーピン5の位置を適切にすれば、図中の矢印で示すように網鉄筋4の中心から格子と45度の角度を持つ方向への一様な引張力を作用させることができる。したがって、図1に示すように床版1に対して施工したときには、この床版1が撓み変形しても網鉄筋4がこの撓み変形に追従して、アンカーピン5と鉄筋4a,4bとの間に隙間が発生することが防止される。
【0034】
なお、網鉄筋4の施工後には、モルタル樹脂等による被覆層6を施工する。図1においては、被覆層6として一点鎖線でその概略を示している。また、本実施形態におけるコンクリート構造物の補強工法では、床版1および網鉄筋4と被覆層6との間に存在する微細空隙やクラック等に合成樹脂を注入するため、樹脂注入用アンカー10を使用する。
【0035】
図4は樹脂注入用アンカー本体を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図、(d)は右側面図、(e)はB-B線断面図、(f)はC部拡大図である。図5はキャップ部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)はD-D線部分断面図、(c)は底面図である。図6は樹脂注入用アンカー本体をアンカー穴に挿入した状態を示す要部断面図である。
【0036】
樹脂注入用アンカー10は、図4に示す樹脂注入用アンカー本体10aと、図5に示すキャップ部材10bとから構成される。樹脂注入用アンカー10は合成樹脂(プラスチック)製である。樹脂注入用アンカー本体10aは、後述する下穴としてのアンカー穴1dに挿入されるロッド部11と、アンカー穴1dに挿入した際に網鉄筋4に当接させる板状部12と、合成樹脂の注入器具8(図7参照。)を接続するヘッド部13とを有する。また、樹脂注入用アンカー本体10aには、ヘッド部13の末端部13aからロッド部11の先端部11aまで軸線方向に貫通する注入孔14が形成されている。
【0037】
ロッド部11の先端部11aの径はアンカー穴1dの径よりも細く、根元部11bの径はアンカー穴1dの径よりも太い。ロッド部11は、それぞれの先端部11a側がアンカー穴1dの径よりも細く、根元部11b側がアンカー穴1dの径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部15a,15b,15c,15d,15eと、各テーパ部15a,15b,15c,15d,15eの根元部11b側にそれぞれ設けられた円柱状の円柱部16a,16b,16c,16d,16eとから構成される。
【0038】
各テーパ部15a~15eの根元部11b側の径は、根元部11b側に向かうに連れて段階的に太くなっている。各円柱部16a~16eは各テーパ部15a~15eの根元部11b側の径と同一径となっている。すなわち、各円柱部16a~16eの径も、根元部11b側に向かって段階的に太くなっている。なお、テーパ部15a~15eおよび各円柱部16a~16eの数に制限はない。
【0039】
また、ロッド部11の周壁部には、ロッド部11の軸線方向に長いスリット17を有する。スリット17は、注入孔14まで貫通するように形成されている。なお、本実施形態においては、スリット17はテーパ部15aの途中からテーパ部15eの途中までに渡って形成されている。スリット17は軸線回りに180°間隔で2つ形成されている。なお、スリット17の長さ、間隔および数に制限はない。
【0040】
板状部12は円板状である。板状部12はロッド部11とヘッド部13との間に配置されている。板状部12は、図6に示すように、ロッド部11をアンカー穴1dに挿入した際に網鉄筋4に当接させることにより、ロッド部11側の面が被覆層6(図10参照。)のかぶり厚の基準面12aを示す。
【0041】
ヘッド部13は、合成樹脂を注入するための注入器具8(図7参照。)を接続する注入器具接続部18を有する。ヘッド部13の外周面には、基準面12aからのかぶり厚を示す指標としての溝部19a,19b,19cが形成されている。例えば、溝部19a~19cはそれぞれ基準面12aから10mm、15mm、20mmの位置に形成される。溝部19a~19cは、図4(f)に示すように、90°の角度でV字状に切り込んだ溝である。溝部19a~19cは、注入器具を除去する際に折れやすくするための脆弱部としても機能する。また、ヘッド部13には、後述する延長部材9(図8参照。)を嵌合する嵌合部としての凹部20を有する。
【0042】
図6に示すように、キャップ部材10bは、被覆層6をモルタル樹脂等により施工する際に注入孔14内に流入しないようにヘッド部13を覆うためのものである。キャップ部材10bは注入器具接続部18に嵌合する。図5に示すように、キャップ部材10bは有底筒状であり、開口部23aから底部23bへ向かって内径が徐々に小さくなるように形成されている。これにより、キャップ部材10bを注入器具接続部18に嵌合した際、キャップ部材10bが注入器具接続部18から脱落しないようになっている。
【0043】
キャップ部材10bの外周面には、かぶり厚を示す指標としての溝部21が形成されている。溝部21は、キャップ部材10bの先端面が板状部12に当接した状態において基準面12aからのかぶり厚を示す。例えば、板状部12の厚さが2mmの場合、キャップ部材10bの先端面からの溝部21の位置を8mmとすることで、溝部21はかぶり厚10mmを示す。溝部21は、前述の溝部19a~19cと同様に90°の角度でV字状に切り込んだ溝である。
【0044】
また、キャップ部材10bの外周面には、凸部22を有する。凸部22はキャップ部材10bの軸線回りに形成された矩形状断面の帯状部である。凸部22は、キャップ部材10bを指で摘まんだ際に指が引っ掛かるように形成されたものである。
【0045】
以上のアンカーピン5および樹脂注入用アンカー10を用いた網鉄筋4による床版1に対する補強施工の要領は次の通りである。
【0046】
まず、床版1の底面には、図9に示すように溝1aを刻む施工を行う。この溝1aは例えば幅1.5~3mm程度、深さが5~10mm程度として、注入される合成樹脂が速やかに流れることができるようにし、格子状の網鉄筋4の縦,横の鉄筋4a,4bの配列方向だけでなく、斜めに走る線も含むランダムな配列とする。このような溝1aの現場での施工は、例えばサンダー等の工具を用いれば比較的容易にしかも一様な深さに形成することができる。
【0047】
次いで、網鉄筋4を床版1の下面の表面に沿わせてその位置を仮決めし、図3で説明したように、鉄筋4a,4bの両方にアンカーピン5のロッド部5bが接触できる位置を、芯出し棒等を使って床版1の下面の表面に墨出しする。なお、このときの芯出し棒はロッド部5bと同じ外形を持つ金属棒等を利用すれば良く、アンカーピン5の施工数は網鉄筋4の大きさに応じて適宜選択すれば良い。
【0048】
アンカーピン5の施工位置の墨付け後には、網鉄筋4を床版1に保持具によって位置を仮決めしたままとして、墨付けマークを目印にして図3に示すように下穴としてのアンカー穴1bをドリルによって穿孔する。このアンカー穴1bの内径は、ロッド部5bの外径よりも大きく、かつ、錐ねじ山5gよりも小さい程度とする。また、アンカー穴1bの深さは、樹脂注入用アンカー本体10aをきっちり挿入したときにその先端に若干の間隙1cが形成される程度の穿ち長さとする。
【0049】
アンカー穴1bの穿孔作業を終えると、網鉄筋4の位置を再び正確に位置合わせして鉄筋4a,4bが交差する部分とアンカー穴1bの間の位置関係を調整して、再度床版1の底面に沿わせて仮固定する。そして、アンカーピン5のロッド部5bの先端部をアンカー穴1bの入口にあてがい、回転工具を六角穴5dに嵌めてアンカーピン5を回転させながら床版1にねじ込んでいく。このとき、アンカーピン5の錐ねじ山5gはアンカー穴1bの内面に切り込みながら進行し、案内ねじ山5hはアンカー穴1bの内面に当接することによって、アンカーピン5の姿勢を、その軸線がアンカー穴1bの軸線と一致するように保持する。
【0050】
このようにアンカーピン5を回転させながら床版1にねじ込んでいくと、テーパ部5cが鉄筋4a,4bの周面に当たるようになり、アンカーピン5はこれらの鉄筋4a,4bによって保持される。すなわち、アンカーピン5をアンカー穴1bの中に打ち込んでいくにつれて、テーパ部5cが鉄筋4a,4bに対して楔のように係合していき、テーパ部5cはこれらの鉄筋4a,4bによってその周面の2点が拘束される。その結果、アンカー穴1bの中にねじ込まれたロッド部5bは、鉄筋4a,4bとの接触点から受ける反作用方向すなわち図2において示した矢印方向と逆向きの作用力を受け、この作用力が働く方向にアンカー穴1bの内面に押圧される。
【0051】
したがって、図3に示すように、ヘッド部5aが鉄筋4aに突き当たって打ち込み完了となったときには、テーパ部5cが鉄筋4a,4bによって2点が拘束され、ロッド部5bはアンカー穴1bの中で図2の矢印方向と逆向きの作用力により押圧され、その周面がアンカー穴1bの内周面にほぼ線接触する。これにより、アンカーピン5はテーパ部5cで2点およびロッド部5bで1点が拘束されてその周面が3点で拘束されることになり、アンカーピン5はこれらの3点による拘束によって図3の状態に保持される。
【0052】
このように、アンカーピン5は従来のコンクリート用打設ピンのようにロッド部の先端が拡張変形してこれによって係合力を作用させるのではなく、鉄筋4a,4bによるテーパ部5cへの拘束力を利用することで仮固定することができる。したがって、アンカーピン5を施工するときに既設の床版1に対して無用な内部応力を発生させることはなく、アンカーピン5の施工ピッチも短くなる。
【0053】
なお、アンカーピン5のロッド部5bはアンカー穴1bの内周面に接触した状態で保持されるが、この部分だけがほぼ線接触状態になるだけであって、ロッド部5bとアンカー穴1bとの間には十分な隙間が保たれ、後述する合成樹脂の注入に何ら支障はない。
【0054】
一方、樹脂注入用アンカー10の施工については、図6に示すように、鉄筋4a,4bの両方に樹脂注入用アンカー本体10aのロッド部11が接触できる位置を、芯出し棒等を使って床版1の下面の表面に墨出しする。樹脂注入用アンカー本体10aの施工位置の墨付け後には、網鉄筋4を床版1に保持具によって位置を仮決めしたままとして、墨付けマークを目印にしてアンカー穴1dをドリルによって穿孔する。このアンカー穴1dの内径は、ロッド部11の外径よりも若干小さい程度とし、樹脂注入用アンカー本体10aをきっちり挿入したときにその先端に後述の合成樹脂を注入するための間隙1eが形成される程度の穿ち長さとする。
【0055】
アンカー穴1dの穿孔作業を終えると、樹脂注入用アンカー本体10aのロッド部11の先端部11aをアンカー穴1dの入口にあてがい、ゴムハンマー等で叩いて挿入していく。このとき、樹脂注入用アンカー本体10aの各テーパ部15a~15dの先端部11a側はアンカー穴1dの径よりも細いのでアンカー穴1d内へスムーズに挿入することができる。特に、本実施形態における樹脂注入用アンカー本体10aは合成樹脂製であり、テーパ部15aの途中からテーパ部15eの途中までに渡って形成されているスリット17の隙間によって、各テーパ部15a~15dおよび各円柱部16a~16dが弾性変形し、縮径するので、アンカー穴1d内へスムーズに進行する。
【0056】
このように樹脂注入用アンカー本体10aを床版1のアンカー穴1dに挿入していくと、板状部12が鉄筋4aに当接する。アンカー穴1dに挿入された樹脂注入用アンカー本体10aは、アンカー穴1dの径よりも太い各テーパ部15a~15dの根元部および各円柱部16a~16dによってアンカー穴1d内へ固定される。
【0057】
以上の要領で樹脂注入用アンカー本体10aをアンカー穴1dに挿入後、図6に示すように、注入器具接続部18にキャップ部材10bを取り付ける。あるいは、予めキャップ部材10bを注入器具接続部18に取り付けた状態で樹脂注入用アンカー本体10aをアンカー穴1dに挿入する。
【0058】
次に、中塗材6bを図6に示すように増厚施工する。この中塗材6bはコテ塗りまたは吹き付け作業によって行う。中塗材6bの厚さはキャップ部材10bの溝部21を目安とすることで、必要なかぶり厚を確保することができる。このとき、中塗材6bは、コテ塗りまたは吹き付けによって十分に充填することが好ましいが、作業性の面からもこのような充填増厚施工は困難である。これに対し、本発明の施工では、空洞ができてこれが残ったままでも、後述するように注入樹脂が代わって充填されるので、最終的な施工には何ら影響はない。
【0059】
なお、被覆層6のかぶり厚が厚く、ヘッド部13の長さが不足する場合には、図8に示す延長部材9を使用することができる。延長部材9は中空筒状であり、軸線方向に貫通する注入孔90が形成されている。また、延長部材9は、ヘッド部13の凹部20に嵌合する嵌合部としての凸部91と、ヘッド部13の注入器具接続部18と同様の注入器具接続部92とを有する。延長部材9の外周面には、ヘッド部13に接続した状態で、基準面12aからのかぶり厚を示す指標としての溝部93a,93b,93cが形成されている。この延長部材9を樹脂注入用アンカー本体10aのヘッド部13に接続することで、延長部材9の注入器具接続部92に注入器具8を接続して合成樹脂を注入することが可能となる。
【0060】
中塗材6bの増厚施工の後には、樹脂注入用アンカー本体10aの注入器具接続部18からキャップ部材10bを抜き取り、図7に示すように注入器具8を注入器具接続部18に接続して、注入器具8から合成樹脂として例えばエポキシ樹脂7を注入する。エポキシ樹脂7の注入には樹脂注入用アンカー本体10aの1個ごとに行うこともできるが、それほど数が多くない場合にはエポキシ樹脂7の圧送装置から複数のホースを分岐させてこれらを各樹脂注入用アンカー本体10aの注入器具接続部18に接続して同時に注入作業しても良い。この同時作業であれば、各樹脂注入用アンカー本体10aからのエポキシ樹脂7の注入量および注入圧を一様化できるので、施工上では非常に好ましい。
【0061】
注入孔14に供給されたエポキシ樹脂7は、図7に示すように注入孔14の上端から吹き出してアンカー穴1dの中に送り出され、アンカー穴1dの中では重力と注入圧力とによってエポキシ樹脂7は下向きに速やかに流れ出ていく。そして、アンカー穴1dから抜けたエポキシ樹脂7は、床版1の下側に刻んだ溝1aの中に流れ込んでクラックに浸透していくほか、床版1の下面の表面と鉄筋4a,4bとの間の隙間を充填するように流れていく。溝1aは、遊離石灰が発生しているクラックに樹脂充填できるクロスカット工法と同様の効果がある。
【0062】
すなわち、クラックC(図11参照。)は中塗材6bによって被覆された状態となっているが、溝1aと同様に切開された断面形状を持つので、溝1aからのエポキシ樹脂7がその注入圧によって流動してクラックCの中に浸透させることができる。また、鉄筋4a,4bが直にクラックCと交差している部分では、これらの鉄筋4a,4bに沿って供給されてくるエポキシ樹脂7は直接クラックCの中に入り込んでいく。したがって、クラックCの発生の仕方が不定型であっても、鉄筋4a,4bの背筋およびランダムに形成した溝1aを利用してエポキシ樹脂7をクラックCに充填することができる。
【0063】
なお、エポキシ樹脂7の充填の後には、注入器具8を樹脂注入用アンカー本体10aから取り外す。このとき、樹脂注入用アンカー本体10aのヘッド部13には溝部19a,19b,19cによって脆弱部が形成されているため、ヘッド部13は折れやすくなっており、注入器具8は注入器具接続部18ごと折り取るようにする。そして、図10に示すように中塗材6bの表面に上塗材6cをコテ、ローラーまたは刷毛によって塗布し、中塗材6bおよび上塗材6cによって被覆層6が形成される。
【0064】
以上のように、樹脂注入用アンカー本体10aの注入孔14から注入されたエポキシ樹脂7はアンカー穴1dの中だけに止まるのではなく、鉄筋4a,4bの背筋およびランダムに形成した溝1aを通じて床版1のほぼ全体の広い領域に分布させることができ、アンカーピン5がねじ込まれたアンカー穴1bにも充填される。したがって、エポキシ樹脂7を適当な量だけ注入した後に養生期間を置くと、エポキシ樹脂7の固化によってアンカーピン5のロッド部5bはアンカー穴1bの中に強固に固定され、これによって網鉄筋4を安定して床版1に保持することができる。
【0065】
また、床版1の下面の表面と鉄筋4a,4bとの間にも固化したエポキシ樹脂7がそのまま残るので、床版1の下面の表面を強固に被覆でき、床版1内の既設鉄筋の腐食の防止だけでなく、新たに補強用として施工した網鉄筋4も同様にその腐食が防止される。
【0066】
さらに、クラックCについてもエポキシ樹脂7が充填されることから、衝撃荷重等を受けてもその成長を抑えることができ、その補修だけでなく、補強強度も充分に高くすることができる。
【0067】
以上の例では橋梁の床版の補強施工としたが、これに代えて各種のコンクリート構造体の上下面や側面などの表面を施工対象としてもよいことは無論である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法は、例えば橋梁等のコンクリート構造物の補強、特に亀裂を生じた橋梁床版や壁体の補修の他、既設構造物に対して新たに鉄筋を追加施工して補強するためのものとして有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 床版
1a 溝
1b,1d アンカー穴
1c,1e 間隙
2 地覆
3 橋桁
4 網鉄筋
4a,4b 鉄筋
5 アンカーピン
5a ヘッド部
5b ロッド部
5c テーパ部
5d 六角穴
5g,5h ねじ山
6 被覆層
6b 中塗材
6c 上塗材
7 エポキシ樹脂
8 注入器具
9 延長部材
10 樹脂注入用アンカー
10a 樹脂注入用アンカー本体
10b キャップ部材
11 ロッド部
11a 先端部
11b 根元部
12 板状部
12a 基準面
13 ヘッド部
13a 末端部
14,90 注入孔
15a,15b,15c,15d,15e テーパ部
16a,16b,16c,16d,16e 円柱部
17 スリット
18,92 注入器具接続部
19a,19b,19c,93a,93b,93c 溝部
20 凹部
21 溝部
22 凸部
23a 開口部
23b 底部
91 凸部
【要約】
【課題】コンクリート構造物の補強施工において施工中の脱落を防止することが可能な樹脂注入用アンカーおよびこれを用いたコンクリート構造物の補強工法の提供。
【解決手段】樹脂注入用アンカー本体10aは、コンクリート構造物に形成された下穴に挿入されるロッド部11であり、それぞれの先端部11a側が下穴の径よりも細く、根元部13a側が下穴の径よりも太いテーパ状の複数のテーパ部15a~15eを備え、各テーパ部15a~15eの根元部13a側の径がロッド部11の根元部13a側に向かうに連れて段階的に太くなるロッド部11と、網鉄筋に当接することにより被覆層のかぶり厚の基準面を示す板状部12と、合成樹脂を注入するための注入器具を接続する注入器具接続部18を有するヘッド部13と、ヘッド部13からロッド部11の先端部11aまで軸線方向に貫通する注入孔14とを有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11