(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】水力駆動型地滑り観測警報方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20241202BHJP
G01D 21/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01D21/00 D
(21)【出願番号】P 2024110549
(22)【出願日】2024-07-09
【審査請求日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】202311465682.9
(32)【優先日】2023-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524260775
【氏名又は名称】石家庄鉄道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】袁維
(72)【発明者】
【氏名】王偉
(72)【発明者】
【氏名】牛慶合
(72)【発明者】
【氏名】尹超
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特許第7466883(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第107507396(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112085921(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105788180(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00-1/18
G01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地滑り体の複数の観測点に対し、個々の観測点において変位センサにより当該各観測点の前記地滑り体の変位観測データを取得し、前記変位観測データを傾向項と周期項に分解することと、
前記複数の観測点の傾向項に応じて、データ反転によって異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、前記地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、前記地滑り体の安全係数時間系列を得ることと、
前記複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得、前記融合傾向項系列と前記融合周期項系列を重畳し、総合変形時間系列を得、前記総合変形時間系列に応じて総合変形速力時間系列を確定することと、
前記安全係数時間系列と前記総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、前記対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定し、前記少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、前記地滑り体に対して観測警報を行うことと、を含み、
前記複数の観測点の傾向項に応じて、データ反転によって異なる時刻点の最良力学パラメータを得ることは、
前記複数の観測点の傾向項に応じて、前記複数の観測点の傾向項と力学パラメータとの加重目的関数
を作成し、そのうち、T(x)は、目的関数値であり、
は、i番目の観測点の傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係であり、T
Diは、i番目の観測点の傾向項であり、xは、力学パラメータの組合せベクトルであり、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であることと、
異なる時刻点の、前記目的関数値を最も小さくさせる力学パラメータを計算し、異なる時刻点の最良力学パラメータを得ることと、を含み、
前記力学パラメータは、弾性率、ポアソン比、粘着力及び摩擦角を含む、
ことを特徴とする地滑り観測警報方法。
【請求項2】
前記傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係は、
であり、
そのうち、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータに対応するフィッティング係数であり、mは、反転待ちの力学パラメータの数であり、
は、プリセット値であり、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータである、
ことを特徴とする請求項1に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項3】
前記した、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、前記地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、前記地滑り体の安全係数時間系列を得ることは、
前記異なる時刻点の最良力学パラメータを、プリセットされた地滑り体数値分析モデルに入力し、数値模擬前向計算法により前記地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、前記地滑り体の安全係数時間系列を得る、ことを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項4】
前記した、前記複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得ることは、
事前に計算された個々の観測点の傾向項重み値に応じて、前記複数の観測点の傾向項に対して加重結合を行い、前記融合傾向項系列を得ることと、
事前に計算された個々の観測点の周期項重み値に応じて、前記複数の観測点の周期項に対して加重結合を行い、前記融合周期項系列を得ることと、を含む、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項5】
前記個々の観測点の傾向項重み値は、
に応じて計算され、
そのうち、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であり、nは、観測点の数であり、H
iは、i番目の観測点のエントロピーであり、
であり、lは、個々の観測点の傾向項数であり、
であり、T
Diは、i番目の観測点の傾向項である、
ことを特徴とする請求項4に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項6】
前記個々の観測点の周期項重み値は、
個々の観測点の貯水池水位データ及び降雨量データを取得し、
前記貯水池水位データ及び降雨量データに応じて、個々の観測点のプリセット時間帯内での最大貯水池水位差、最大貯水池水位変化率、移動平均降雨量、有効降雨量を計算し、
個々の観測点の周期項及び各指標に対して平均値化処理を行った後、周期項と各指標との相関度をそれぞれ計算し、前記各指標には、前記最大貯水池水位差、前記最大貯水池水位変化率、前記移動平均降雨量及び前記有効降雨量が含まれ、
前記相関度に応じて、個々の観測点に対応する相関度モジュラス長を計算し、
に応じて個々の観測点の周期項重み値を計算し、そのうち、
は、i番目の観測点の周期項重み値であり、nは、観測点の数であり、Rl
iは、i番目の観測点に対応する相関度モジュラス長である、方式により計算される、
ことを特徴とする請求項4に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項7】
前記した、前記安全係数時間系列と前記総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、前記対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定することは、
安全係数と総合変形速力との灰色相関係数を計算することと、
灰色相関係数と安全係数をランダムフォレストモデルの入力とし、総合変形速力をランダムフォレストモデルの出力とし、総合変形速力予測モデルを訓練して得ることと、
少なくとも1つの安全係数臨界値と灰色相関係数プリセット値を前記総合変形速力予測モデルに入力し、前記少なくとも1つの総合変形速力臨界値を得ることと、を含み、
前記した、前記少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、前記地滑り体に対して観測警報を行うことは、
前記地滑り体のリアルタイム総合変形速力を観測することと、
前記リアルタイム総合変形速力と前記少なくとも1つの総合変形速力臨界値の大小関係に応じて、地滑り危険度を確定することと、
前記地滑り危険度に基づいて、前記地滑り体に対して観測警報を行うことと、を含む、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の地滑り観測警報方法。
【請求項8】
メモリ、プロセッサ及び前記メモリに記憶されて前記プロセッサで動作可能なコンピュータプログラムを備える電子機器であって、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを執行すると請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法のステップが実現される、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサに執行されると請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法のステップが実現される、
ことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地滑り地質災害予防制御の技術分野に属し、特に地滑り観測警報方法、電子機器及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地滑り観測は、既に従来の点式の人為的観測から「天(光学的リモートセンシング及びレーダー)-空(無人航空機写真測量)-地(全地球測位衛星システム、トータルステーション等の専門観測)」の多次元協働観測へと徐々に発展している。また、観測内容も単一の変形観測から応力、傾斜、地下水、雨量、微動、音波、映像等の様々な異次元データの観測へと発展している。しかしながら、現在の地滑り観測方法と警報モデルは実質上、1つの単純なデータ処理方式であり、いずれも地滑り体自体の地質条件及び斜面体構造形式を考慮していないため、観測警報モデルの地質及び力学基礎が不足しており、正確度が高くない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これに鑑みて、本発明の実施例では、地滑り観測警報の正確度を向上させるための地滑り観測警報方法、電子機器及び記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施例の第1態様では、
地滑り体の複数の観測点の変位観測データを取得し、変位観測データを傾向項と周期項に分解することと、
複数の観測点の傾向項に応じて、反転して異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得ることと、
複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得、融合傾向項系列と融合周期項系列を重畳し、総合変形時間系列を得、総合変形時間系列に応じて総合変形速力(Comprehensive deformation rate)時間系列を確定することと、
安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定し、少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行うことと、を含む地滑り観測警報方法を提供する。
【0005】
さらに、複数の観測点の傾向項に応じて、反転して異なる時刻点の最良力学パラメータを得ることは、
複数の観測点の傾向項に応じて、複数の観測点の傾向項と力学パラメータとの加重目的関数
を作成し、そのうち、
T(x)
は、目的関数値であり、
は、i番目の観測点の傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係であり、T
Diは、i番目の観測点の傾向項であり、xは、力学パラメータの組合せベクトルであり、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であることと、
異なる時刻点の、目的関数値を最も小さくさせる力学パラメータを計算し、異なる時刻点の最良力学パラメータを得ることと、を含む。
【0006】
さらに、傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係は、
であり、
そのうち、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータに対応するフィッティング係数であり、Mは、反転待ちの力学パラメータの数であり、
は、プリセット値であり、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータである。
【0007】
さらに、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得ることは、
異なる時刻点の最良力学パラメータを、プリセットされた地滑り体数値分析モデルに入力し、数値模擬前向計算法により地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得る、ことを含む。
【0008】
さらに、複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得ることは、
事前に計算された個々の観測点の傾向項重み値に応じて、複数の観測点の傾向項に対して加重結合(Weighted connection)を行い、融合傾向項系列を得ることと、
事前に計算された個々の観測点の周期項重み値に応じて、複数の観測点の周期項に対して加重結合を行い、融合周期項系列を得ることと、を含む。
【0009】
さらに、個々の観測点の傾向項重み値は、
に応じて計算され、
そのうち、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であり、nは、観測点の数であり、H
iは、i番目の観測点のエントロピーであり、
であり、lは、個々の観測点の傾向項数であり、
であり、T
Diは、i番目の観測点の傾向項である。
【0010】
さらに、個々の観測点の周期項重み値は、
個々の観測点の貯水池水位データ及び降雨量データを取得し、
貯水池水位データ及び降雨量データに応じて、個々の観測点のプリセット時間帯内での最大貯水池水位差、最大貯水池水位変化率、移動平均降雨量、有効降雨量を計算し、
個々の観測点の周期項及び各指標に対して平均値化処理を行った後、周期項と各指標との相関度をそれぞれ計算し、各指標には、最大貯水池水位差、最大貯水池水位変化率、移動平均降雨量及び有効降雨量が含まれ、
相関度に応じて、個々の観測点に対応する相関度モジュラス長(Modulus length of correlation degree)を計算し、
に応じて個々の観測点の周期項重み値を計算し、そのうち、
は、i番目の観測点の周期項重み値であり、nは、観測点の数であり、Rl
iは、i番目の観測点に対応する相関度モジュラス長である、方式により計算される。
【0011】
さらに、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定することは、
安全係数と総合変形速力との灰色相関係数を計算することと、
灰色相関係数と安全係数をランダムフォレストモデルの入力とし、総合変形速力をランダムフォレストモデルの出力とし、総合変形速力予測モデルを訓練して得ることと、
少なくとも1つの安全係数臨界値と灰色相関係数プリセット値を総合変形速力予測モデルに入力し、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を得ることと、を含み、
さらに、少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行うことは、
地滑り体のリアルタイム総合変形速力を観測することと、
リアルタイム総合変形速力と少なくとも1つの総合変形速力臨界値の大小関係に応じて、地滑り危険度を確定することと、
地滑り危険度に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行うことと、を含む。
【0012】
本発明の実施例の第2態様では、メモリ、プロセッサ及びメモリに記憶されてプロセッサで動作可能なコンピュータプログラムを備える電子機器であって、プロセッサがコンピュータプログラムを執行すると上記第1態様又は第1態様の任意の1つの実現方式における方法のステップが実現される、電子機器を提供する。
【0013】
本発明の実施例の第3態様では、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であって、コンピュータプログラムがプロセッサに執行されると上記第1態様又は第1態様の任意の1つの実現方式における方法のステップが実現される、コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施例は、既存技術と比べて以下の有益な効果がある。
【0015】
本発明の実施例では、複数の観測点の傾向項を反転することにより、異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、さらに地滑り体の安全係数時間系列を得、そして、総合変形速力時間系列を作成することにより、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係に応じて、合理的な総合変形速力臨界値を確定して地滑り体に対して観測警報を行う。即ち本方案では、地滑り体の地質条件、変形規則及び安全係数といった多次元のものによる観測警報への影響が同時に考慮され、安全係数と総合変形速力を運用して地質及び力学基礎を有する警報モデルが構築され、単純に数学的な角度から観測データを分析することが回避され、地滑り観測警報の正確度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明の実施例における技術方案をより明白に説明するために、実施例又は既存技術の記述で使用する必要がある図面を簡単に紹介する。
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係る地滑り観測警報方法の全体フロー模式図である。
【
図2】本発明の実施例に係る地滑り観測警報方法の詳細フロー模式図である。
【
図3】本発明の実施例に係る地滑り体の工学的地質平面及び変位観測点の配置模式図である。
【
図4】本発明の実施例に係る複数の観測点の観測データ模式図である。
【
図5】本発明の実施例に係る複数の計算指標の模式図である。
【
図6】本発明の実施例に係る3次元数値分析モデルの模式図である。
【
図7】本発明の実施例に係る傾向項と周期項の時間系列模式図である。
【
図8】本発明の実施例に係る力学パラメータのタイムコース曲線模式図である。
【
図9】本発明の実施例に係る観測周期内の安全係数のタイムコース曲線模式図である。
【
図10】本発明の実施例に係る融合前の各観測点の変形観測データ模式図である。
【
図11】本発明の実施例に係る総合変形速力時間系列模式図である。
【
図12】本発明の実施例に係る安全係数と総合変形速力の個々の時刻点での相関係数模式図である。
【
図13】本発明の実施例に係る地滑り観測警報装置の構造模式図である。
【
図14】本発明の実施例に係る電子機器の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は現在の既存技術の不足に対応して、地滑り体の地質条件、変形規則及び安全係数といった多次元のものによる地滑り体観測警報への影響を総合的に考慮し、水力駆動型地滑り観測警報の精度及び時効性が高められた水力駆動型の地滑り観測警報方法を提供する。
図1及び
図2に示すように、
ステップS101において、地滑り体の複数の観測点の変位観測データを取得し、変位観測データを傾向項と周期項に分解する。
【0019】
個々の観測点において、変位センサにより一定時間置きにデータを収集することができ、これにより、得られた変位観測データは、時間に従って並べられた変位データ系列であり、変位データ系列の中で分解されていない変位データを元の総変位と呼ぶ。経験的モード分解法を採用して、元の総変位を傾向項と周期項に分解する。
【0020】
ステップS102において、複数の観測点の傾向項に応じて、反転(inversion)して異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得る。
【0021】
複数の観測点の傾向項と力学パラメータとの加重目的関数を作成することで、数学的最適化方法により異なる時刻点の目的関数値の最小値を取得させる岩土体の最良力学パラメータを検索することができる。
【0022】
そのうち、加重目的関数は、以下の通りであり、
、
式中、T(x)は、目的関数値であり、
は、i番目の観測点の傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係であり、T
Diは、i番目の観測点の傾向項であり、xは、力学パラメータの組合せベクトルであり、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であり、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータに対応するフィッティング係数であり、mは、反転待ちの力学パラメータの数であり、
は、プリセット値であり、
は、i番目の反転待ちの力学パラメータである。
【0023】
傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係
により、地滑り体の地質条件を考慮に入れ、予測の正確性が向上する。上記した力学パラメータは、弾性率、ポアソン比、粘着力及び摩擦角等を含み、傾向項と力学パラメータとの間の数学的関係
は、試験により計算して得られる。
【0024】
異なる時刻点の最良力学パラメータを、プリセットされた地滑り体数値分析モデルに入力し、数値模擬前向計算法により地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得る。地滑り体数値分析モデルは、1つの3次元数値分析モデルであり、該モデルは、個々の計算結果ファイルを個別に呼び出し、強度低下法を採用して個々の観測時刻点の安全係数を計算し、これにより、全体の観測周期内の安全係数のタイムコース曲線が得られる。
【0025】
ステップS103において、複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得、融合傾向項系列と融合周期項系列を重畳し、総合変形時間系列を得、総合変形時間系列に応じて総合変形速力時間系列を確定する。
事前に計算された個々の観測点の傾向項重み値に応じて、複数の観測点の傾向項に対して加重結合を行い、融合傾向項系列を得るが、表現式は以下の通りであり、
式中、F
TDは、融合傾向項変位を表し、w
iは、i番目の観測点の傾向項重み値であり、T
Diは、i番目の観測点の実測値の傾向項である。
【0026】
事前に計算された個々の観測点の周期項重み値に応じて、複数の観測点の周期項に対して加重結合を行い、融合周期項系列を得るが、表現式は以下の通りであり、
式中、F
PDは、融合周期項変位を表し、λ
iは、i番目の観測点の周期項重み値であり、P
Diは、i番目の観測点の実測値の周期項である。
【0027】
F
TDとF
PDを重畳すれば、全ての観測点の総合変形時間系列Com_Dを得ることができ、
総合変形時間系列の勾配、即ち総合変形速力は、平均勾配法により総合変形時間系列Com_Dに対して勾配計算を行って得られる。
【0028】
ステップS104において、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定し、少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行う。
【0029】
安全係数は、地滑りの危険状況を反映することができ、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係により、いくつかの安全係数臨界値に対応する総合変形速力臨界値を計算することができる。地滑り体の総合変形速力を観測することにより、総合変形速力と各総合変形速力臨界値の大小関係に応じて、地滑り体の危険度を判断する。
【0030】
例えば、本実施例では、以下のような4段階漸進的警報モデルが作成される。
【0031】
段階Iは、Com_Vel_Cur<Com_Vel_1.25であり、地滑り体は、安定状態にある。
【0032】
段階IIは、Com_Vel_1.25≦Com_Vel_Cur<Com_Vel_1.05であり、地滑り体は、ほぼ安定状態にある。
【0033】
段階IIIは、Com_Vel_1.05≦Com_Vel_Cur<Com_Vel_1.0であり、地滑り体は、安定欠如状態にある。
【0034】
段階IVは、Com_Vel_1.0≦Com_Vel_Curであり、地滑り体は、不安定状態にある。
【0035】
Com_Vel_Curは、現在時刻点の地滑り体の総合変形速力を表し、Com_Vel_1.0、Com_Vel_1.05、Com_Vel_1.25は、それぞれ安全係数が1.0、1.05、1.25に等しくなるときに対応する総合変形速力を表す。
【0036】
個々の観測点の傾向項重み値w
iは、以下の方式により計算することができ、
式中、nは、観測点の数であり、
H
iは、i番目の観測点のエントロピーであり、計算数式は、以下の通りであり、
式中、lは、個々の観測点の傾向項数であり、
f
jiの計算数式は、以下の通りであり、
式中、T
Diは、i番目の観測点の傾向項である。f
ji=0の場合、f
jiln(f
ji)は、0として扱われる。
【0037】
個々の観測点の周期項重み値
は、以下の方式により計算することができ、即ち、
であり、
は、i番目の観測点の周期項重み値であり、nは、観測点の数であり、Rl
iは、i番目の観測点に対応する相関度モジュラス長である。
【0038】
プリセット時間帯が1ヶ月であると仮定し、上記
の計算過程を以下のように詳しく説明する。
【0039】
ステップ1において、月間最大貯水池水位差(D_Level)、月間最大貯水池水位変化率(D_Rate)、月間移動平均降雨量(R_Ave)、月間有効降雨量(R_Val)を計算し、
式中、W
0は、現在観測時刻点の貯水池水位値を表し、W
iは、現在観測時刻点よりi日前の貯水池水位値を表し、R
0は、現在観測時刻点の降雨量値を表し、R
iは、現在観測時刻点よりi日前の降雨量値を表す。
【0040】
ステップ2において、個々の観測点の周期項変位(P
Di)、月間最大貯水池水位差(D_Level)、月間最大貯水池水位変化率(D_Rate)、月間移動平均降雨量(R_Ave)、月間有効降雨量(R_Val)に対して平均値化処理を行い、
式中、
、
、
、
、
は、それぞれP
Di、D_Level、D_Rate、R_Ave、R_Valベクトルの平均値を表す。
【0041】
ステップ3において、各観測点の周期項と以上の4つの指標との相関係数を計算し、
式中、
、
、
、
は、それぞれi番目の観測点の周期項の t 時刻でのD_Level、D_Rate、R_Ave、R_Valとの相関係数値を表す。
【0042】
ステップ4において、相関度を計算し、
式中、
、
、
、
は、それぞれi番目の観測点の周期項とD_Level、D_Rate、R_Ave、R_Valとの相関度を表す。
【0043】
ステップ5において、個々の観測点の相関度モジュラス長を計算し、
式中、Rl
iは、i番目の観測点の周期項の相関度モジュラス長を表す。
【0044】
ステップ6において、Rliに応じて、数式を利用してi番目の観測点の周期項の重み値を計算する。
【0045】
本実施例に係る観測警報方法は、地滑り体の地質条件、変形規則及び安全係数といった多次元のものを総合的に考慮し地滑り体に対して観測警報を行い、水力駆動型地滑り観測警報精度及び時効性を有効に高めることができる。
【0046】
図3は、ある地滑り体の工学的地質平面及び変位観測点の配置図であり、その地滑り周囲内の12個の観測点の合計変位、貯水池水位昇降及び降雨量の元の観測データは、
図4に示す通りである。
図3における元の観測データに応じてD_Level、D_Rate、R_Ave、R_Valの4つの指標を計算した結果は、
図5に示す通りである。
【0047】
地滑り体の地形図に応じて、地質の平面図、断面図及び掘削等の地質探査資料と組み合わせてその3次元数値分析モデルを作成し、
図6に示す通りである。
【0048】
地滑り体モデルは、(1)砕石、塊石含有シルト粘土、(2)シルト粘土入り塊石、砕石、(3)滑り帯、(4)滑り床の計4つの部分に簡略化され、4つの部分の岩土体は、いずれもムーア・クーロン弾塑性構成モデルを採用している。地表変形は、主に滑り体自体が変形することと滑り帯に沿って滑ることとの両者の重畳によるものであるため、(1)、(2)、(3)の弾性率E、ポアソン比μ、粘着力c及び摩擦角φの合計12個のパラメータは反転待ちパラメータとして確定され、(1)、(2)、(3)のかさ密度(Unit weight/-bulk density)及び(4)の全てのパラメータは、既存の地質探査資料の取り値を採用している。取り値範囲及び確定性パラメータの取り値は、表1に示す。
【0049】
【0050】
個々の反転待ちパラメータは、直交試験の影響因子とされ、個々の影響因子は、3つのレベル値(即ち最大値、中間値、最小値)を取り、各要素間の相互作用を考慮せず、12個の要素、3つの要素レベルを表すL27(312)の直交表を選定し、必要な試験回数は27回であり、直交試験方案は、表2に示す。
【0051】
【0052】
表1における全ての試験方案のパラメータを3次元数値分析モデルに代入し天然作業状況に従って有限差分「前向計算」を行い、全ての「前向計算」を完成させた後、個々の「前向計算」方案の地滑り体における12個の観測点の対応位置における計算変形値を抽出し、そして重回帰分析方法を採用して第9、18、27号方案以外の計算変形値をフィッティングし、個々の観測点の計算変形値と12個の反転待ちパラメータとの関数関係式を作成する。フィッティング結果は、表3に示す。
【0053】
表3 観測点の計算変形値と岩土体力学パラメータのフィッティング結果表
【0054】
最後に、第9、18、27号方案の値を
に代入し12個の観測点の予測値を得て、それに対応する数値模擬変形値と比較し検証を行い、得られた12個の観測点の平均二乗差は、0.8012である。式中、xは、岩土体力学パラメータ組合せベクトルであり、x = [E
1, μ
1, c
1, φ
1, E
2, μ
2, c
2, φ
2, E
3, μ
3, c
3, φ
3]である。
【0055】
経験的モード分解法を採用して地滑り周囲内の12個の観測点の地表変形観測データを
図7のように傾向項と周期項に分解し、エントロピー重み法に応じて12個の観測点の傾向項変位のエントロピー重み値を計算し、即ちw = [0.0570, 0.1328, 0.0842, 0.0707, 0.0562, 0.0696, 0.0709, 0.0721, 0.1112, 0.1326, 0.0737, 0.0688]である。エントロピー重み値、計算変形値と力学パラメータとの関数関係及び傾向項変位に応じて最適化目的関数を構築し、表1における力学パラメータの取り値範囲に応じて予定反転パラメータの上限値、下限値及び初期値(注:初期値は、上限値、下限値の中間値を取る)を設定し、模擬焼鈍法を利用して異なる時刻点の岩土体力学パラメータを適化し、これにより、
図8のように(1)、(2)、(3)領域の弾性率E、ポアソン比μ、粘着力c及び摩擦角φの計12個のパラメータのタイムコース曲線が得られる。
【0056】
個々の観測時刻で反転適化して得られた力学パラメータを3次元数値分析モデルに入力し、個々の計算結果ファイルを個別に呼び出し、強度低下法を採用して個々の観測時刻点の安全係数を計算し、これにより、
図9のように全体の観測周期内の安全係数のタイムコース曲線が得られる。
【0057】
12個の観測点の傾向項を加重して1つの時間系列、即ち融合傾向項F
TDを得る。また、灰色相関度法を採用して12個の観測点の周期項重み値を計算し、即ちλ = [0.083, 0.0823, 0.0818, 0.0823, 0.0832, 0.0837, 0.0839, 0.0840, 0.0840, 0.0839, 0.0839, 0.0838]であり、そして12個の観測点の周期項を加重して1つの時間系列、即ち融合周期項F
PDを得る。融合傾向項及び融合周期項変位と融合前の各観測点の傾向項、周期項との比較図は、
図7に示す。
【0058】
F
TDとF
PDを重畳し、総合変形時間系列Com_Dを得、全ての観測点の変形データの融合が実現され、同時に、計算して総合変形速力時間系列を得る。総合変形と融合前の各観測点の変形観測データとの比較は、
図10に示し、総合変形速力時間系列は、
図11に示す。
【0059】
図12に示すように、灰色相関度法を採用して安全係数と総合変形速力の個々の時刻点での相関係数F_Vel_ξ(t)を計算する。灰色相関係数と安全係数をランダムフォレストモデル訓練の決定属性入力項とし、総合変形速力をランダムフォレスト訓練モデルの結果出力項とし、モデル訓練を完成させた後、安全係数決定属性ベクトル{1.0,1.05,1.25}及び相関係数決定属性ベクトル{1.0,1.0,1.0}を訓練済みのランダムフォレストモデル(Random forest model)に代入し、得られた該地滑り体の段階別臨界総合変形速力は、Com_Vel_1.0=0.8546、Com_Vel_1.05=0.5802、Com_Vel_1.25=0.0809である。
図11から分かるように、現在観測時刻点(即ち最後の観測時刻点)の総合変形速力は、0.0599であり、構築された4段階警報モデルから分かるように、該地滑り体は、現在時刻点で安定状態にあり、そのため、該地滑り体は現在時刻で段階Iの警報であると考えられる。また、
図9から分かるように、該地滑り体は、現在時刻の反転計算で得られた安全係数が1.46であり、1.25よりも大きいため、地滑り体は安定状態にある。
【0060】
図13は、本発明の一実施例に係る地滑り観測警報装置の構造模式図であり、地滑り観測警報装置130は、以下のものを備える。
【0061】
取得モジュール131は、地滑り体の複数の観測点の変位観測データを取得し、変位観測データを傾向項と周期項に分解するように用いられる。
【0062】
反転評定モジュール132は、複数の観測点の傾向項に応じて、反転して異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、地滑り体の異なる時刻点での安定性を評価し、地滑り体の安全係数時間系列を得るように用いられる。
【0063】
融合モジュール133は、複数の観測点の傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得、融合傾向項系列と融合周期項系列を重畳し、総合変形時間系列を得、総合変形時間系列に応じて総合変形速力時間系列を確定するように用いられ、
警報モジュール134は、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定し、少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行うように用いられる。
【0064】
図14は、本発明の一実施例に係る電子機器140の模式図である。
【0065】
図14に示すように、該実施例の電子機器140は、プロセッサ141、メモリ142及びメモリ142に記憶されてプロセッサ141で動作可能なコンピュータプログラム143、例えば地滑り観測警報プログラムを備える。プロセッサ141がコンピュータプログラム143を執行すると上記各地滑り観測警報方法実施例におけるステップ、例えば
図1に示すステップS101~S104が実現される。或いは、プロセッサ141がコンピュータプログラム143を執行すると上記各装置実施例における各モジュールの機能、例えば
図13に示すモジュール131~134の機能が実現される。
【要約】 (修正有)
【課題】地滑り地質災害予防制御の技術分野に適しており、地滑り観測警報方法、電子機器及び記憶媒体を提供する。
【解決手段】地滑り体の複数の観測点の変位観測データを取得し、変位観測データを傾向項と周期項に分解することと、複数の観測点の傾向項に応じて、反転して異なる時刻点の最良力学パラメータを得て、異なる時刻点の最良力学パラメータに応じて、地滑り体の安全係数時間系列を得ることと、傾向項と周期項をそれぞれ融合し、融合傾向項系列と融合周期項系列を得、2つの系列を重畳し、総合変形時間系列を得、総合変形時間系列に応じて総合変形速力総合変形速力時間系列を確定することと、安全係数時間系列と総合変形速力時間系列との対応関係を作成し、対応関係に応じて、少なくとも1つの総合変形速力臨界値を確定し、少なくとも1つの総合変形速力臨界値に基づいて、地滑り体に対して観測警報を行うことと、を含む。
【選択図】
図1