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特許7596002顕微授精支援装置、顕微授精支援システム、顕微授精支援プログラム、及び卵子保持デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】顕微授精支援装置、顕微授精支援システム、顕微授精支援プログラム、及び卵子保持デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
G02B21/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024154443
(22)【出願日】2024-09-09
【審査請求日】2024-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524335729
【氏名又は名称】株式会社アークス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 将康
(72)【発明者】
【氏名】丸山 裕也
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126126(JP,A)
【文献】特開2020-185007(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102959452(CN,A)
【文献】特開2001-330781(JP,A)
【文献】特開2021-29453(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0019781(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
C12M 1/00 - 3/10
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
B25J 1/00 - 21/02
A61D 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援装置であって、
前記精子を収容する精子プール及び前記卵子を保持する卵子保持デバイスはステージ上に配置され、
前記顕微授精支援装置は、
前記精子注入ツールと前記卵子との相対的な位置関係を含む情報と、前記精子注入ツールと前記精子プールに収容された精子との相対的な位置関係を含む情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得した前記情報に基づいて、不動化された前記精子を前記精子注入ツールに保持するために前記ステージの移動を制御し、かつ前記精子を前記卵子に注入して顕微授精を行うために前記ステージの移動を制御する制御部と、
を備える、顕微授精支援装置。
【請求項2】
前記卵子、前記精子、及び前記精子注入ツールを撮像する撮像部と、
前記制御部の指示に基づいて前記ステージを移動させるための駆動部と、
をさらに備える、
請求項1に記載の顕微授精支援装置。
【請求項3】
前記卵子保持デバイスは、前記卵子を前記卵子保持デバイスに保持するための吸引装置に接続され、
前記制御部は、前記吸引装置をさらに制御する、
請求項1に記載の顕微授精支援装置。
【請求項4】
前記卵子保持デバイスは、前記卵子を前記卵子保持デバイスにおいて回転させるための流体供給装置に接続され、
前記流体供給装置は、前記卵子保持デバイスに配置された前記卵子に流体を供給することにより前記卵子を回転させ、
前記制御部は、前記流体供給装置をさらに制御する、
請求項1に記載の顕微授精支援装置。
【請求項5】
前記取得部が、前記卵子の極体の位置を含む情報をさらに取得し、
前記制御部が、前記極体が位置しない方向から前記精子注入ツールにより前記精子を注入するために前記卵子を回転させるために前記流体供給装置を制御する、
請求項に記載の顕微授精支援装置。
【請求項6】
前記流体供給装置は、供給する流体の温度を一定の範囲に維持するための温度制御手段を備える、
請求項に記載の顕微授精支援装置。
【請求項7】
前記精子注入ツールが、前記撮像部に対して固定して設けられる、
請求項に記載の顕微授精支援装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の顕微授精支援装置に接続される前記ステージ上に配置するための卵子保持デバイスであって、
卵子を収容するための凹部と、
卵子を前記凹部において保持するための吸引口と、
を備える、
卵子保持デバイス。
【請求項9】
卵子を前記凹部において回転させるための流体供給口をさらに備える、
請求項に記載の卵子保持デバイス。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の顕微授精支援装置と、
前記精子注入ツールと、
を備える、
顕微授精支援システム。
【請求項11】
精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援プログラムであって、
前記精子を収容する精子プール及び前記卵子を保持する卵子保持デバイスはステージ上に配置され、
コンピュータを、
前記精子注入ツールと前記卵子との相対的な位置関係を含む情報と、前記精子注入ツールと前記精子プールに収容された精子との相対的な位置関係を含む情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得した前記情報に基づいて、不動化された前記精子を前記精子注入ツールに保持するために前記ステージの移動を制御し、かつ前記精子を前記卵子に注入して顕微授精を行うために前記ステージの移動を制御する制御部と、
として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微授精支援装置、顕微授精支援システム、顕微授精支援プログラム、及び卵子保持デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療の1つとして、精子を直接卵子細胞質内に注入して受精させる卵細胞質内精子注入法(ICSI)が開発され、実用化されている。ICSIでは、精子及び卵子を顕微鏡で観察しながら、精子の不動化、精子の吸入、及び精子の卵子への注入等の作業が行われるため、ICSIは顕微授精とも呼ばれている。
【0003】
現在、顕微授精は胚培養士により行われているものの、顕微授精の習熟には非常に時間を要するため、顕微授精を支援する技術が求められている。例えば、特許文献1には、胚培養士が手動操作する術具を所望の位置に移動するための制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-029453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在のところ、顕微授精を支援するための技術は開発途上である。例えば、精子注入ツールの移動を自動化しようとする場合、特許文献1に示すように装置構成が複雑になってしまう場合がある。そこで、本発明は、簡便な装置構成を有する顕微授精支援装置、顕微授精支援システム、顕微授精支援プログラム、又は卵子保持デバイス等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る顕微授精支援装置は、精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援装置であって、精子注入ツールと卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する取得部と、取得部によって取得した情報に基づいて、精子を卵子に注入して顕微授精を行うために卵子保持デバイスが配置されるステージの移動を制御する制御部と、を備える。
【0007】
かかる顕微授精支援装置は、取得した精子注入ツールと卵子との相対的な位置関係を含む情報に基づき、ステージを移動させることにより顕微授精を支援する。このため、例えば、特許文献1のような精子注入ツールの移動を制御して顕微授精を支援する装置と異なり、顕微授精システムを、精子注入ツールの移動を制御するための機構を省略した構成とすることができる。
【0008】
本開示の一側面に係る卵子保持デバイスは、卵子を収容するための凹部と、卵子を凹部において保持するための吸引口と、を備える。かかる卵子保持デバイスは、上記の顕微授精支援装置に配置して用いられる。
【0009】
かかる卵子保持デバイスによれば、顕微授精支援装置が収容した卵子の固定及び回転を実施することができるため、例えば、精子注入ツールの移動を制御することなく、適切な方向から卵子に精子注入ツールを挿入することができる。
【0010】
本開示の一側面に係る顕微授精支援システムは、本開示の一側面に係る顕微授精支援装置と、精子注入ツールと、を備える。
【0011】
本開示の一側面に係る顕微授精支援プログラムは、精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援プログラムであって、コンピュータを、精子注入ツールと卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する取得部と、取得部によって取得した情報に基づいて、精子を卵子に注入して顕微授精を行うために卵子保持デバイスが配置されるステージの移動を制御する制御部と、として機能させる。
【0012】
かかる顕微授精支援システム及び顕微授精支援プログラムは、取得した精子注入ツールと卵子との相対的な位置関係を含む情報に基づき、ステージを移動させることにより顕微授精を支援する。このため、例えば、特許文献1のような精子注入ツールの移動を制御して顕微授精を支援する装置と異なり、顕微授精システムを、精子注入ツールの移動を制御するための機構を省略した構成とすることができる。
【0013】
なお、本開示の一側面に係るプログラムは、CD-ROM等の光学ディスク、磁気ディスク、半導体メモリなどの各種の記録媒体を通じて、又は通信ネットワーク等を介してダウンロードすることにより、コンピュータ及び/又は装置にインストール又はロードすることができる。
【0014】
また、本明細書等において、「部」とは、単に物理的構成を意味するものではなく、その構成が有する機能をソフトウェアによって実現する場合も含む。また、1つの構成が有する機能が2つ以上の物理的構成により実現されても、2つ以上の構成の機能が1つの物理的構成により実現されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便な装置構成を有する顕微授精支援装置、顕微授精支援システム、顕微授精支援プログラム、又は卵子保持デバイス等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る顕微授精支援システムの全体概念図である。
図2】本実施形態に係る顕微授精支援装置の機能ブロック図の一例である。
図3】本実施形態に係る顕微授精支援装置の物理的構成の一例である。
図4】本実施形態に係る卵子保持デバイスの概略斜視図(A)及び拡大平面図(B)である。
図5】本実施形態に係る顕微授精方法の工程の一例を示すフローチャートである。
図6】本実施形態に係る卵子保持デバイスの別の一例の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0018】
[顕微授精支援システム]
図1を参照して、本実施形態に係る顕微授精支援システム1について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る顕微授精支援システム1の全体概念図である。
【0019】
本実施形態に係る顕微授精支援システム1は、本実施形態に係る顕微授精支援装置2と、精子注入ツール3と、を備える。本実施形態に係る顕微授精支援装置2の詳細については、後述する。
【0020】
図1に示すように、顕微授精支援装置2は、精子注入ツール3と、ステージ11を移動させるための駆動部12と、ステージ11上に配置される試料を撮像する撮像部13とに接続されている。なお、図1では、顕微授精支援装置2が他の構成要素と有線で接続されているが、顕微授精支援装置2は他の構成要素と無線で接続されていてもよいし、他の構成要素と物理的に一体化していてもよい。したがって、ステージ11、駆動部12、及び撮像部13の1以上は、顕微授精支援装置2の一部として、顕微授精支援装置2に包含されていてもよい。
【0021】
ステージ11には、試料が導入された容器14が配置される。容器14は、例えばガラス製又は樹脂製等のディッシュである。図1では、容器14には、精子プールPSと、卵子プールPOが設けられている。容器14及び/又はステージ11には、精子プールPS及び/又は卵子プールPOを顕微授精に適した温度に保つための温度制御手段が備えられていてよい。温度制御手段としては、例えば、ヒーター及びクーラーが挙げられる。温度制御手段は、容器14中の温度を計測する機能を有していてよい。顕微授精に適した温度としては、例えば、約37℃付近であり、33~40℃、35~38℃、36~37℃、又は37℃であってよい。
【0022】
精子プールPSは、顕微授精の実施を希望する患者又は被験者等から取得された精子を含む。精子プールPSは、精子の他、精子の培養液、又は精子の運動を抑制する高粘性液体(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)溶液)等を含んでいてよい。また、卵子プールPOは、顕微授精の実施を希望する患者又は被験者等から取得された卵子を含む。
【0023】
卵子プールPOは、卵子の他、卵子の培養液等を含んでいてよい。精子や卵子の培養液としては、特に限定されないが、生理食塩水(塩化ナトリウムを0.9w/v%含有する食塩水)が挙げられる。卵子プールPOは、卵子保持デバイスにより卵子を保持できるように、卵子保持デバイス上又は卵子保持デバイスに隣接して設けられる。
【0024】
ステージ11は、ステージを移動させるための駆動部12を備える。駆動部12は、ステージ11の面内方向(図1のxy方向)においてステージ11を移動させることができればよいが、ステージ11の面に垂直な方向(図1のz方向)においてもステージ11を移動させることができると好ましい。すなわち、ステージ11は、駆動部12を備えた3軸方向の移動が可能なステージであると好ましい。駆動部12は、各軸x、y、zを中心としてステージを回転させてもよい。この時、駆動部12は、x軸、y軸、z軸に対する並進移動と回転移動の計6自由度の移動を制御可能である。
【0025】
駆動部12は、顕微授精支援装置2の制御によりステージ11を移動させることができれば特に限定されず、例えば電気的に制御可能なモーターであってよい。ステージ11及び駆動部12は、例えば顕微鏡に備えられた電気的に制御可能な自動ステージであってよい。
【0026】
撮像部13は、ステージ11上の試料及び精子注入ツール3の撮像画像又は撮像動画像を取得する。図1において、撮像部13は、ステージ11の鉛直上方向からステージ11上の試料を平面視で撮像している。また、撮像部13は、精子注入ツール3の少なくとも精子の吸引及び注入をするための部分の位置情報を取得できるように精子注入ツール3の当該部分を視野角に含むように撮像を行う。なお、撮像部13は、ステージ11上の試料及び精子注入ツール3の位置関係を含む画像又は動画像を取得することができればよく、必ずしもステージ11の鉛直上方向に設けられなくてもよい。
【0027】
撮像部13は、例えばCCDカメラやCMOSセンサーを備えた撮像装置により構成されてよい。撮像部13は、光学顕微鏡を介してステージ11上の試料及び精子注入ツール3を撮像してもよい。光学顕微鏡による観察法としては、特に限定されないが、明視野観察法、暗視野観察法、位相差観察法、偏光観察法、紡錘体観察法、微分干渉観察法、及びレリーフコントラスト観察法等が挙げられる。また、対物レンズの倍率も適宜調整すればよく、例えば、20倍、40倍、60倍等であってよい。撮像部13が撮像したデータは、静止画像であってよく、動画像であってよい。以下では、撮像部13が動画像を取得する場合について説明するが、撮像部13が複数の静止画像を取得する場合も同様に顕微授精の支援をできることは言うまでもない。
【0028】
精子注入ツール3は、特定の精子を卵子の細胞質に注入するためのツールである。精子注入ツール3は、例えば、顕微授精に一般的に用いられるインジェクションピペットであってよい。精子注入ツール3は、精子プールPSに接触させて精子を吸引できることが好ましい。精子注入ツール3は、精子プールPS中の精子を不動化させるための手段を備えていてもよい。精子を不動化させるための手段としては、ピエゾ素子等の微弱な振動を与える手段、及びレーザー光照射手段等が挙げられる。あるいは、精子注入ツール3の先端(例えば入出口)を用いて精子に直接圧力を加えることで、不動化してもよい。精子を不動化させるための手段は、精子注入ツール3とは異なる機構として、顕微授精支援システム1に備えられていてよい。
【0029】
精子注入ツール3は、精子を吸引し、注入するための圧力制御機構を備えていてよい。圧力制御機構は、顕微授精支援装置2の制御に基づいて、精子注入ツール3が有する、又は精子注入ツール3に取り付けられたポンプの出力を調整し、精子注入ツール3の入出口付近に存在する精子を吸引したり、吸引され精子注入ツール3内に保持された精子を入出口から排出したりしてよい。
【0030】
精子注入ツール3は、撮像部13に対して相対的位置が固定して設けられることが好ましい。このような態様によれば、ステージ11を移動させたとしても撮像部13の撮像視野においては精子注入ツール3の位置は移動しないため、ステージ11上の試料と精子注入ツール3との相対的位置関係を容易に調整することができる。
【0031】
顕微授精支援装置2は、撮像部13により取得されるステージ11上の試料及び精子注入ツール3の撮像動画像に基づいて顕微授精を支援する。以下、顕微授精支援装置2について詳述する。
【0032】
(顕微授精支援装置)
図2は、顕微授精支援装置2の機能ブロック図である。顕微授精支援装置2は、取得部21、制御部22、及び解析部23を備える。顕微授精支援装置2は、精子注入ツール3に保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する。
【0033】
取得部21は、撮像部13がステージ11上の卵子プールPO及び精子注入ツール3を撮像することで取得した精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する。取得部21は、撮像部13が撮像した撮像画像又は撮像動画像に基づいて、精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得すればよく、撮像部13が撮像した撮像画像又は撮像動画像そのものを取得する必要はない。
【0034】
一実施形態において、取得部21は、撮像部13が撮像した、撮像視野に精子注入ツール3と卵子とを含む、撮像画像又は撮像動画像を取得してよい。一実施形態において、取得部21は、撮像部13が撮像した撮像画像又は撮像動画像を解析して得られる、精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を示す情報を取得してよい。精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を示す情報は、例えば、精子注入ツール3の入出口と卵子との距離、又は精子注入ツール3の入出口及び卵子の座標等であってよい。精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を示す情報は、例えば、精子注入ツール3と卵子保持デバイスの卵子を収容する部分の周辺に設けられたマーカーとの相対的な位置関係から推定されてよい。精子注入ツール3の入出口及び卵子の座標は、ステージ11の面内方向のxy座標であってよく、さらにステージ11の面に垂直なz方向を加えたxyz座標であってよい。取得部21は、精子注入ツール3の入出口の延伸方向、すなわち、精子注入ツール3を卵子に挿入する際の挿入方向を取得してよい。
【0035】
取得部21は、卵子の極体の位置を含む情報をさらに取得してもよい。顕微授精において、卵子の細胞質への精子の注入は卵子の極体を避けて行われることが多い。これは、卵子の極体(第一極体)付近に紡錘体が存在する傾向にあり、精子注入ツール3の挿入により紡錘体が傷つくことを抑制するためである。したがって、取得部21は、卵子の紡錘体の位置を含む情報をさらに取得してもよい。
【0036】
卵子の極体の位置は、卵子の観察画像から取得することができるため、取得部21は、撮像部13が撮像した卵子の撮像画像又は撮像動画像を取得することで、卵子の極体の位置を含む情報を取得してよい。一実施形態において、取得部21は、撮像部13が撮像した撮像画像又は撮像動画像を解析して得られる、卵子の極体の位置を示す情報を取得してよい。
【0037】
取得部21は、精子注入ツール3とステージ11に配置される精子プールPSに収容された精子との相対的な位置関係を含む情報をさらに取得してもよい。
【0038】
一実施形態において、取得部21は、撮像部13が撮像した、撮像視野に精子注入ツール3と精子とを含む、撮像画像又は撮像動画像を取得してよい。一実施形態において、取得部21は、撮像部13が撮像した撮像画像又は撮像動画像を解析して得られる、精子注入ツール3と精子との相対的な位置関係を示す情報を取得してよい。精子注入ツール3と精子との相対的な位置関係を示す情報は、例えば、精子注入ツール3の入出口と精子との距離、又は精子注入ツール3の入出口及び精子の座標等であってよい。
【0039】
取得部21は、後述の通信部2dにより実現されてよい。
【0040】
制御部22は、取得部21によって取得した情報に基づいて、精子を卵子に注入して顕微授精を行うために卵子保持デバイスが配置されるステージ11の移動を制御する。また、制御部22は、取得部21によって取得した情報に基づいて、不動化された精子を精子注入ツール3に保持するためにステージ11の移動を制御してよい。
【0041】
制御部22は、精子注入ツール3に精子を保持させ、保持した精子を卵子に注入して顕微授精を行うために、撮像制御部221、駆動制御部222、精子注入ツール制御部223、吸引装置制御部224、及び送水装置制御部225を備えていてよい。
【0042】
撮像制御部221は、撮像部13を制御し、撮像部13の撮像領域を調整する。撮像制御部221は、撮像部13の撮像視野を調整することにより撮像領域を調整してよい。撮像部13が顕微鏡システムを介して撮像を行う場合、撮像制御部221は、精子及び/又は卵子を解像度高く撮像するために、撮像部13に取り付けられた顕微鏡システムの設定を調整してもよい。当該調整は、顕微授精の実施者が行ってもよい。
【0043】
駆動制御部222は、駆動部12を制御し、ステージ11を移動させる。駆動制御部222は、駆動部12が備える電気的機構を介してステージ11を移動させてよい。
【0044】
精子注入ツール制御部223は、精子注入ツール3を制御し、精子の吸引及び排出を行う。精子注入ツール制御部223は、精子注入ツール3の圧力制御機構を制御して、精子注入ツール3が有する、又は精子注入ツール3に取り付けられたポンプの出力を調整してよい。精子注入ツール3が精子を不動化させるための手段を備える場合、精子注入ツール制御部223は、精子を不動化させるための手段を稼働させ精子を不動させるために精子注入ツール3を制御してもよい。
【0045】
吸引装置制御部224及び送水装置制御部225は、卵子保持デバイスに接続されてよい吸引装置及び送水装置をそれぞれ制御する。卵子保持デバイスの詳細は後述するが、吸引装置により卵子保持デバイスに卵子が保持される。また、送水装置により卵子保持デバイスに保持又は収容された卵子を回転させてよい。
【0046】
吸引装置制御部224及び送水装置制御部225は、それぞれ吸引装置及び送水装置を制御することにより、卵子の吸引及び回転を行う。吸引装置制御部224及び送水装置制御部225は、取得部21が取得した卵子に関する情報に基づいて卵子を吸引し、卵子に対して送水を行う。
【0047】
送水装置制御部225は、取得部21が取得した卵子の極体の位置を含む情報に基づいて、極体が位置しない方向から精子注入ツールにより精子を注入するために卵子を回転させるために送水装置を制御してよい。このために、送水装置制御部225は、精子注入ツール3が位置する方向を3時の方向として、卵子の極体が略12時又は6時の方向に位置するように、送水装置を制御して卵子に対して送水を行うことで、卵子を回転させてよい。送水装置制御部225は、容器14中の温度が顕微授精に適した温度に保たれるように、送水装置から供給する流体の温度を制御してよい。流体の温度の制御は、例えば、送水装置に備えられてよい温度制御手段により行われる。温度制御手段としては、例えば、ヒーター及びクーラーが挙げられる。温度制御手段は、送水装置から送水される流体の温度を計測する機能を有していてよい。
【0048】
なお、吸引装置は、卵子保持デバイスに接続され、卵子保持デバイスの吸引口付近に位置する卵子を吸引することができる装置であれば特に限定されない。吸引装置は、例えば吸引装置制御部224により圧力を制御可能なポンプであってよい。
【0049】
また、送水装置は、卵子保持デバイスに接続され、卵子保持デバイスの送水口から流体を送水できる装置であれば特に限定されない。送水装置は、例えば送水装置制御部225により送水する流体の流量を制御可能なポンプであってよい。送水装置は、送水する流体の温度を一定の範囲に維持するための温度制御手段を備えてよい。温度制御手段としては、例えば、ヒーター及びクーラーが挙げられる。温度制御手段は、送水装置から送水される流体の温度を計測する機能を有していてよい。流体の温度は、顕微授精に適した温度に維持されることが好ましく、当該温度は、例えば、約37℃付近であり、33~40℃、35~38℃、36~37℃、又は37℃であってよい。温度制御手段は、容器14中の温度が顕微授精に適した温度に保たれるように、送水する流体の温度を制御してよい。
【0050】
制御部22は、後述のRAM2b又はROM2cに記憶されCPU2aにより実行されるプログラムにより実現されてよい。制御部22による指示は、通信部2dを介して、各部及び装置に送信される。
【0051】
解析部23は、取得部21が取得した情報を解析し、制御部22による制御を補助する。本実施形態において、解析部23は顕微授精支援装置2に備えられているが、顕微授精支援装置2以外の部又は装置、例えば撮像部13や撮像部13に接続されたコンピュータに備えられてよい。解析部23は、例えば、精子認識部231、卵子認識部232、精子評価部233、及び卵子評価部234を備えていてよい。
【0052】
精子認識部231は、取得部21が取得した情報を解析し、精子を認識する。取得部21が撮像画像又は撮像動画像を取得する場合、画像又は動画像から精子を認識する方法としては、精子の代表的形状を示す代表画像を複数用意し、画像又は動画像中の各フレームに対して代表画像を用いてパターンマッチングする方法や、精子の観察画像を教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いる方法が挙げられる。
【0053】
卵子認識部232は、取得部21が取得した情報を解析し、卵子を認識する。取得部21が撮像画像又は撮像動画像を取得する場合、画像又は動画像から卵子を認識する方法としては、卵子の代表的形状を示す代表画像を複数用意し、画像又は動画像中の各フレームに対して代表画像を用いてパターンマッチングする方法や、卵子の観察画像を教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いる方法が挙げられる。また、卵子保持デバイスに付されたマーカーに基づいて卵子を認識してもよい。
【0054】
精子評価部233は、取得部21が取得した情報を解析し、各精子の品質を評価する。精子の品質とは、顕微授精に用いた場合の受精成功率、胚盤胞到達率、着床率、及び/又は出産成功率等に関する各精子が有する性質を意味する。精子の品質が高いとは、顕微授精に用いた場合の受精成功率、胚盤胞到達率、着床率、及び/又は出産成功率等が相対的に高いことを意味する。精子評価部233は、精子の品質に関わる少なくとも1つの指標を算出することで精子の品質を定量化してよい。
【0055】
精子の品質に関わる少なくとも1つの指標としては、特に限定されないが、例えば世界保健機関(WHO)が発行するWHOラボマニュアル第6版(WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen; Sixth Edition)に記載の指標が挙げられる。そのような指標としては、例えば、精子の運動性、精子の形態性、及び精子のDNA断片化の発生の程度の少なくとも1つ、又はこれら2種以上から算出されたものが挙げられる。
【0056】
精子評価部233は、精子の品質に関わる少なくとも1つの指標を種々の方法で算出してよい。例えば、精子の運動性は、所定の時間間隔における運動の速度、及び移動軌跡の直線性等により指標化することができる。精子評価部233は、所定の時間間隔において精子を追跡して、各フレームにおける精子の位置情報に基づいて運動の速度、及び移動軌跡の直線性等を算出できる。精子の運動性は、精子の品質及び運動を教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いて算出してもよい。
【0057】
精子の形態性は、撮像画像又は撮像動画像の各フレームにおいて撮像された精子の形態に基づいて指標化することができる。精子評価部233は、1つの精子について、複数のフレームに基づいて精子の形態性を指標化し、それらの値を平均して1つの指標として算出してもよい。精子の形態性は、例えば、精子の頭部の形状、尾部の形状、それらの欠損及びサイズのバランス等に基づいて指標化することができる。精子の運動性は、精子の品質及び形態を教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いて算出してもよい。
【0058】
精子のDNA断片化の発生の程度は、所定の時間間隔における運動の速度、及び移動軌跡の直線性等の精子の運動や、撮像画像又は撮像動画像の各フレームにおいて撮像された精子の形態を総合的に考慮して指標化することができる。精子のDNA断片化の発生の程度は、精子のDNA断片化の発生の程度と、精子の運動及び/又は形態とを教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いて算出してもよい。なお、精子のDNA断片化の発生の程度は、DNA断片化を生じている精子を選択的に染色した染色画像を用いて計測することができる。
【0059】
精子評価部233は、上記のような指標を2種以上考慮して、精子の品質を総合的に評価した指標を算出してもよい。精子評価部233は、精子の運動性、精子の形態性、及び精子のDNA断片化の発生の程度にそれぞれ関する指標を任意選択的に重み付けした後に平均した指標を算出してよい。その際、いずれかの指標が閾値を下回る場合には、算出する指標から一定数を減ずる罰則を与えてもよい。
【0060】
卵子評価部234は、取得部21が取得した情報を解析し、各卵子の品質を評価する。卵子の品質とは、顕微授精に用いた場合の受精成功率、胚盤胞到達率、着床率、及び/又は出産成功率等に関する各卵子が有する性質を意味する。卵子の品質が高いとは、顕微授精に用いた場合の受精成功率、胚盤胞到達率、着床率、及び/又は出産成功率等が相対的に高いことを意味する。卵子評価部234は、卵子の品質に関わる少なくとも1つの指標を算出することで卵子の品質を定量化してよい。
【0061】
卵子評価部234は、例えば、極体、紡錘体、及び滑面小胞体の位置、形状、及びサイズ、並びに細胞質の濁り度合い等に基づいて、卵子の品質を評価してよい。卵子評価部234は、卵子の品質及び形態を教師データとして用いて学習させた学習モデルを用いて卵子の品質を評価してもよい。
【0062】
解析部23は、後述のRAM2b又はROM2cに記憶されCPU2aにより実行されるプログラムにより実現されてよい。解析部23による解析結果は、制御部22が利用してよく、通信部2dを介して、各部及び装置に送信されてもよく、表示部2fに表示されてもよい。
【0063】
次いで、図3を参照して顕微授精支援装置2の物理的構成について説明する。図3は、顕微授精支援装置2の物理的構成の一例を示す図である。顕微授精支援装置2は、プロセッサに相当するCPU(Central Processing Unit)2aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)2b、及びROM(Read only Memory)2cと、通信部2dと、入力部2eと、表示部2fと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。なお、本例では顕微授精支援装置2の機能が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、顕微授精支援装置2の機能は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、図3で示す構成は一例であり、顕微授精支援装置2はこれら以外の構成要素を有してもよいし、これらの構成要素のうち一部を有さなくてもよい。
【0064】
CPU2aは、RAM2b又はROM2cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う。CPU2aは、コンピュータを、取得部21、制御部22、及び解析部23として機能させるプログラムを実行する演算部である。CPU2aは、入力部2eや通信部2dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部2fに表示したり、RAM2bやROM2cに格納したりする。
【0065】
RAM2bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM2bは、CPU2aが実行するプログラムを記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM2bには、これら以外のデータが記憶されていてもよい。
【0066】
ROM2cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM2cは、例えば書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0067】
通信部2dは、顕微授精支援装置2を他の部及び装置、例えば、精子注入ツール3、駆動部12、撮像部13、吸引装置、及び送水装置に接続するインターフェースである。通信部2dは、有線又は無線でネットワークに接続されてよい。
【0068】
入力部2eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0069】
表示部2fは、CPU2aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。表示部2fは、取得部21が取得した情報、例えば撮像部13が取得した撮像画像又は撮像動画像を表示してよい。
【0070】
なお、本実施形態に係る顕微授精支援プログラムは、RAM2bやROM2c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部2dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。顕微授精支援装置2では、CPU2aが本実施形態に係るプログラムを実行することにより、図2を用いて説明した機能が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、顕微授精支援装置2は、CPU2aとRAM2b及び/又はROM2cとが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0071】
(卵子保持デバイス)
次いで、図4を参照しながら、顕微授精支援システム1に用いるための卵子保持デバイスについて説明する。本実施形態に係る卵子保持デバイスは、本実施形態に係る顕微授精支援装置2による制御を効率よく実施するために用いられる。本実施形態に係る卵子保持デバイスは、例えば樹脂製であってよい。
【0072】
図4は、本実施形態に係る卵子保持デバイスD1の概略斜視図(図4(A))及び拡大平面図(図4(B))である。図4(A)及び(B)に示すように、卵子保持デバイスD1は、卵子O1,O2,O3をそれぞれ収容するための凹部151a,151b,151cと、卵子O1,O2,O3を凹部151a,151b,151cにおいてそれぞれ保持するための吸引口154a,154b,154cと、を備える。図4(B)は、凹部151aに保持された卵子O1に関する拡大平面図である。卵子保持デバイスD1は、卵子O1,O2,O3を凹部151a,151b,151cにおいて回転させるための送水口153a,153b,153cをさらに備える。
【0073】
なお、図4(A)では、3つの卵子O1,O2,O3がそれぞれ3つの凹部151a,151b,151cに収容されているが、卵子保持デバイスD1は1つ以上の卵子を収容し、保持するための構造を有していればよい。以下では、図4(A)のように3つの卵子O1,O2,O3がそれぞれ3つの凹部151a,151b,151cに収容される場合について説明するが、卵子保持デバイスD1に収容され、保持される卵子の数は特に限定されない。
【0074】
また、以下では、3つの卵子O1,O2,O3を区別する必要がない場合は、これらをまとめて卵子Oと称する。その他の構成についても同様であり、図4(A)では、卵子保持デバイスD1の各構成要素に対して3つの卵子O1,O2,O3に対応させてそれぞれa,b,cの符号が割り当てられているが、3つの卵子O1,O2,O3に対応した各構成要素を区別する必要がない場合は、a,b,cの符号を省略する。例えば、3つの卵子O1,O2,O3に対応した3つの凹部151a,151b,151cの総称として、凹部151という場合がある。
【0075】
また、本実施形態に係る卵子保持デバイスD1は、図1の卵子プールPOとして設けられてもよく、卵子プールPOに隣接して設けられてもよい。すなわち、卵子保持デバイスD1の各凹部を卵子プールPOとしてもよく、卵子保持デバイスD1の凹部とは別に卵子を収容した卵子プールPOが設けられてもよい。したがって、本実施形態に係る卵子保持デバイスD1は、ステージ11に追随して移動してよい。精子注入ツール3が撮像部13に固定して設けられている場合、ステージ11を移動させることにより撮像部13の撮像視野において、精子注入ツール3は略固定され、卵子保持デバイスD1のみを移動させることができる。これにより、ステージ11を移動させることで、高精度で顕微授精を実施できる。
【0076】
図4に戻って、卵子保持デバイスD1の凹部151には、卵子Oが収容されている。凹部151は卵子Oを所定の領域に収容できれば特に限定されない。凹部151は、平面視で、例えば100~1000μm、好ましくは150~500μmの横幅及び縦幅を有していてよい。凹部151は、例えば100~1000μm、好ましくは150~500μmの深さを有していてよい。
【0077】
凹部151は、底面及び四方を囲われ、上方に開口を有する凹部であってよい。凹部151を形成する四方の囲いは、一方が部分的に取り除かれていてもよい。このように凹部151を形成する四方の囲いの一方を部分的に取り除くことにより、卵子Oと精子注入ツール3とを接触させやすくすることができる。
【0078】
一実施形態において、凹部151は、底面及び該底面から上方に延伸する壁部に囲われることで形成されていてよく、当該壁部の少なくとも一部は他の壁部と比べて高さが低くなるように構成されていてよい。例えば、壁部の一部は、例えば100~1000μm、好ましくは150~500μmの高さを有していてよく、壁部の高さが相対的に低い部分は、例えば20~200μm、好ましくは50~150μmの高さを有していてよい。壁部の高さが相対的に低い部分は、後述の吸引口が設けられる壁部と反対側に位置してよい。
【0079】
卵子保持デバイスD1の凹部151を形成する壁部には、吸引口154が設けられている。吸引口154により卵子Oを吸引することで、卵子Oを卵子保持デバイスD1に保持することができる。吸引口154により卵子Oを吸引した状態で、精子注入ツール3の入出口を卵子Oと接触させることで、卵子Oに精子を注入することができる。すなわち、吸引口154は、従来の顕微授精の操作におけるホールディングピペットの役割を有する。
【0080】
したがって、吸引口154は、ホールディングピペットの吸引口と同様の形状を有していてよい。例えば、図4(B)に示すように、吸引口154は、凹部151に近づくにしたがって径を縮小する略先細り形状を有していてよい。吸引口154の開口の形状は、特に限定されないが、例えば略円形、略楕円形又は角丸矩形であってよい。このような形状とすることにより、卵子Oを吸引する際に卵子Oに与えるダメージを小さくできる。また、吸引口154の開口の円相当直径dは、例えば10~150μm、好ましくは15~100μmである。円相当直径とは開口の形状と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0081】
吸引口154は、吸引ポート158を通して卵子Oを吸引するための吸引装置に接続される。吸引口154と吸引ポート158とは、卵子保持デバイスD1内部で流路により接続されている。吸引ポート158は複数の吸引口154a,154b,154cに対応して複数設けられてもよく、複数の吸引口154a,154b,154cのそれぞれに接続された1又は複数の吸引ポート158が設けられてもよい。図4(A)では、複数の吸引口154a,154b,154cのそれぞれに接続された1つの吸引ポート158が設けられている。したがって図4(A)では、吸引ポート158に接続した吸引装置を稼働させ、卵子Oの吸引を行った場合、凹部151a,151b,151cに収容された卵子O1,O2,O3の全てが同時に吸引されることとなる。
【0082】
なお、図4(B)に示すように、吸引ポート158を通じて卵子Oを吸引する場合、吸引口154の開口から吸引ポート158に向かう流体の流れF1が生じ、卵子Oが吸引口154の開口に吸い寄せられ、開口に接触することとなる。このように開口に接触した状態で吸引を維持することで、吸引口154の開口に卵子Oを保持することができる。
【0083】
卵子保持デバイスD1の凹部151を形成する壁部には、さらに送水口153が設けられている。送水口153から流体を送水することで凹部151に収容されている卵子を凹部151において移動乃至回転させることができる。
【0084】
上述のとおり、顕微授精においては、紡錘体の損傷を避けるために、精子注入ツールを卵子に挿入する際には極体を避けることが好ましい。図4(B)に示すように、卵子Oの極体PBの位置情報を取得部21が取得しながら送水口153から卵子Oに対して送水を行うことで、極体を適切な位置に移動させ、この状態で吸引口154の開口に保持することができる。
【0085】
図4(B)に示す態様では、精子注入ツール3を吸引口154の反対方向、すなわち、図4(B)の下方から挿入するため、極体PBは送水口153又は排水口155方向、すなわち、図4(B)の左方又は右方に位置することが好ましい。
【0086】
送水口153の形状等は、凹部151に対して流体を送水できる限り特に限定されない。また、送水口153から送水する流体は、典型的には水や培養液等の液体であるが、空気等の気体を凹部151に供給してもよい。
【0087】
送水口153は、送水ポート157を通して卵子Oに対して送水を行うための送水装置に接続される。送水口153と送水ポート157とは、卵子保持デバイスD1内部で流路により接続されている。送水ポート157は複数の送水口153a,153b,153cに対応して複数設けられてもよく、複数の送水口153a,153b,153cのそれぞれに接続された1又は複数の送水ポート157が設けられてもよい。図4(A)では、複数の送水口153a,153b,153cのそれぞれに接続された1つの送水ポート157が設けられている。したがって図4(A)では、送水ポート157に接続した送水装置を稼働させ、卵子Oの吸引を行った場合、凹部151a,151b,151cに対して送水が行われることとなる。
【0088】
なお、図4(B)に示すように、送水ポート157を通じて凹部151に送水する場合、送水ポート157から送水口153の開口に向かう流体の流れF2が生じる。
【0089】
卵子保持デバイスD1の凹部151を形成する壁部には、排水口155が設けられてもよい。排水口155は、送水口153から供給された流体の排出経路として設けられる。図4(A)のように凹部151の上部を開口部とする場合、排水口155は省略することができる。
【0090】
排水口155は、排水ポート159を通して排水装置に接続されてよい。排水口155と排水ポート159とは、卵子保持デバイスD1内部で流路により接続されている。排水ポート159は複数の排水口155a,155b,155cに対応して複数設けられてもよく、複数の排水口155a,155b,155cのそれぞれに接続された1又は複数の排水ポート159が設けられてもよい。図4(B)に示すように、排水ポート159を通じて排水する場合、排水口155の開口から排水ポート159に向かう流体の流れF3が生じる。
【0091】
卵子保持デバイスD1の凹部151の周辺には、凹部151及び卵子Oの認識を補助するマーカー152が付されていてよい。マーカー152は、1つ又は複数存在してよい。卵子Oと精子注入ツール3とを接触させやすくするために、吸引口154が設けられた壁部の反対側の壁部にマーカー152が設けられることが好ましい。この場合、制御部22は、当該マーカー152を認識して、当該マーカー152の方向から精子注入ツール3を卵子Oに挿入するように制御を実施することができる。マーカー152は、凹部151の周囲に設けられてよく、この場合、解析部23は、当該マーカー152を認識して、卵子Oの位置する大まかな位置を認識することができる。
【0092】
[顕微授精方法]
以下、本実施形態に係る顕微授精支援システムを用いて顕微授精を実施する方法について説明する。本実施形態に係る顕微授精方法は、本実施形態に係る顕微授精支援システムを用いるため、顕微授精の少なくとも一部の工程を自動化することができる。特に、卵子に対して精子を注入する工程を自動化することができるため、胚培養士の個別の技能によらずに効率及び成功率高く、顕微授精を実施することができる。
【0093】
図5は、本実施形態に係る顕微授精方法の工程の一例を示すフローチャートである。なお、図5には示していないが、顕微授精の実施者(典型的には胚培養士)は、本実施形態に係る顕微授精支援システム1のステージ11に試料を配置した容器14を配置し、撮像部13の撮像視野に試料と精子注入ツール3の入出口を設けるようにセッティングを行う。
【0094】
以下では、顕微授精支援システム1が自動的に、顕微授精の実施者の処理を介さずに顕微授精を実施する方法について説明するが、以下の各ステップの一部又は全部は顕微授精の実施者が手動で行うこともできる。
【0095】
図5に示すように、本実施形態に係る顕微授精方法では、まず、撮像部13の撮像視野を精子プールPSに移動させる(以下、「ステップS1」ともいう)。ステップS1は、撮像制御部221が撮像部13を制御し、及び/又は駆動制御部222が駆動部12を制御してステージ11を移動させることで、撮像部13がステージ11上の精子プールPSを撮像するようにする。
【0096】
ステップS1において、精子プールPSの位置を顕微授精支援装置2に記憶させておくことで、記憶していた精子プールPSの位置を呼び出し、撮像部13の撮像領域を精子プールPSに移動させてもよい。あるいは、精子プールPSの位置を示すマーカーを精子プールPSの周囲に設けておくことで、当該マーカーを解析部23に認識させて、撮像部13の撮像領域を精子プールPSに移動させてもよい。
【0097】
次いで、顕微授精に用いる精子の選択と不動化を行う(以下、「ステップS2」ともいう)。ステップS2では、まず、顕微授精に用いるのに適した、良好な精子を選択する。具体的には、精子認識部231が精子プールPS中の各精子を認識し、精子評価部233が各精子の品質を評価する。精子評価部233は、品質を評価した精子の中から、良好な精子を選択する。精子評価部233は、品質を評価した精子の中から相対的に品質が高いと評価された精子を選択してもよく、事前に設けられた閾値を超える精子を選択してもよい。
【0098】
ステップS2では、次いで、選択した精子を不動化させる。精子の不動化は、精子注入ツール制御部223が精子注入ツール3に備えられた不動化手段を制御して実施してもよいし、制御部22が精子注入ツール3とは異なる不動化装置を制御して実施してもよい。精子注入ツール制御部223が精子注入ツール3に備えられた不動化手段を制御して精子を不動化する場合、選択した精子と精子注入ツール3に備えられた不動化手段とを不動化に適切な位置関係とするために、駆動制御部222が駆動部12を制御し、ステージ11を移動させてよい。精子注入ツール3の入出口を直接精子に押し当てて不動化する場合、適切に精子注入ツール3の入出口を精子に接触させるために、駆動制御部222が駆動部12を制御し、ステージ11を移動させてよい。
【0099】
次いで、ステップS2で選択し、不動化した精子の吸引を行う(以下、「ステップS3」ともいう)。ステップS3では、吸引する精子を精子注入ツール3の入出口に近接させるために、駆動制御部222が駆動部12を制御し、ステージ11を移動させる。次いで、精子注入ツール制御部223が精子注入ツール3を制御し、入出口から精子を吸引し精子注入ツール3に精子を保持する。
【0100】
次いで、撮像部13の撮像視野を卵子プールに移動させる(以下、「ステップS4」ともいう)。ステップS4は、撮像制御部221が撮像部13を制御し、及び/又は駆動制御部222が駆動部12を制御してステージ11を移動させることで、撮像部13がステージ11上の卵子プールPOを撮像するようにする。
【0101】
ステップS4において、卵子プールPOの位置を顕微授精支援装置2に記憶させておくことで、記憶していた卵子プールPOの位置を呼び出し、撮像部13の撮像領域を卵子プールPOに移動させてもよい。あるいは、卵子プールPOの位置を示すマーカーを卵子プールPOの周囲に設けておくことで、当該マーカーを解析部23に認識させて、撮像部13の撮像領域を卵子プールPOに移動させてもよい。解析部23は、卵子保持デバイスを認識してもよく、卵子保持デバイスに付されたマーカーを認識してもよい。
【0102】
次いで、顕微授精に用いる卵子の認識と選択を行う(以下、「ステップS5」ともいう)。ステップS5では、顕微授精に用いるのに適した、良好な卵子を選択する。具体的には、卵子認識部232が卵子プールPO中の各卵子を認識し、卵子評価部234が各卵子の品質を評価する。卵子評価部234は、品質を評価した卵子の中から、良好な卵子を選択する。卵子評価部234は、品質を評価した卵子の中から相対的に品質が高いと評価された卵子を選択してもよく、事前に設けられた閾値を超える卵子を選択してもよい。
【0103】
なお、顕微授精では、準備する卵子の細胞数が、精子の細胞数よりも少ないことが多い。したがって、品質の良い卵子に対しては品質の良い精子を注入し、受精成功率をより高めることが好ましい。図5において、ステップS4及びS5をステップS1よりも前に実施して、選択した卵子の品質に応じてステップS2で選択する精子の品質を調整してもよい。
【0104】
例えば、ステップS5において品質の良い卵子が選択された場合、ステップS2で相対的に品質の高い精子を選択するか、あるいは選択する精子の閾値を通常の設定よりも高く設定し、品質の良い精子を選別してもよい。
【0105】
あるいは、顕微授精では、準備した卵子の全てに対して精子の注入を行うことも多いため、卵子の品質の評価は省略してもよい。
【0106】
あるいは、ステップS5において品質に劣る卵子が選択された場合、例えば品質を示す指標が閾値を下回る卵子が選択された場合、精子の注入の自動化を取りやめ、顕微授精の実施者に通知し、実施者による手動の注入を促すようにしてもよい。
【0107】
次いで、ステップS5で選択した卵子の向きの調整する(以下、「ステップS6」ともいう)。ステップS6では、まず、取得部21が取得した精子注入ツール3と卵子との位置関係に基づいて、解析部23が好ましい卵子の向きを決定する。例えば、解析部23は取得部21が取得した卵子の極体の位置を認識して、精子注入ツール3が挿入される方向に対して卵子の極体が垂直に配置されるように卵子の向きを決定する。
【0108】
次いで、ステップS5で決定した方向を向いた卵子を卵子保持デバイスに保持する(以下、「ステップS7」ともいう)。ステップS7では、送水装置制御部225が送水装置を制御しながら吸引装置制御部224が吸引装置を制御することにより、適切な方向を向いた卵子を卵子保持デバイスに保持する。
【0109】
次いで、ステップS7で保持した卵子にステップS3で吸引した精子を注入する(以下、「ステップS8」ともいう)。ステップS8では、まず、精子を卵子に注入して顕微授精を行うために、卵子を精子注入ツール3の入出口に近接させる。この際、駆動制御部222が駆動部12を制御し、ステージ11を移動させる。次いで、精子注入ツール制御部223が精子注入ツール3を制御し、入出口から精子を卵子に注入する。注入が完了した後、精子注入ツール3を卵子から抜き、顕微授精の完了とする。
【0110】
次いで、全ての卵子に対して精子の注入が終わったかを判定する(以下、「ステップS9」ともいう)。ステップS9は、準備した卵子の細胞数が少ない場合に実施すればよく、非常に多くの卵子が準備できた場合には省略することができる。顕微授精支援装置2は、精子を注入した卵子を記憶することにより、精子を注入していない卵子が存在すると判断した場合(ステップS9:No)に、ステップS1に戻る。この際、精子を注入していない卵子の個数を表示部2fに表示させてもよい。すべての卵子に対して精子の注入が完了したと判断した場合(ステップS9:Yes)は、処理を終了する。
【0111】
なお、以上の各ステップにおいて、任意選択的に、取得部21は、精子注入ツール3の入出口と卵子との相対的な位置関係を含む情報、及び/又は精子注入ツール3の入出口と精子との相対的な位置関係を含む情報を取得してよい。例えば、ステップS3において、精子注入ツール3と精子との相対的な位置関係を含む情報を取得し、これに基づいて、精子注入ツール3により精子を吸引する。また、ステップS8において、精子注入ツール3の入出口と卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得し、これに基づいて、精子注入ツール3を卵子に挿入する。また、ステップS6において、取得部21は、卵子の極体又は紡錘体の位置を含む情報をさらに取得する。また、取得部21が撮像部13からの撮像画像又は撮像動画像を取得する場合、各ステップにおいて、撮像視野に精子注入ツール3、卵子、及び精子の少なくともいずれかが含まれる場合、撮像画像又は撮像動画像に基づいて、精子注入ツール3、卵子、及び精子の少なくともいずれかの座標を取得してよい。
【0112】
[変形例]
以上、本実施形態の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものではない。例えば、各構成要素及びステップの説明における例示及び/又は好ましい態様等(好ましい、より好ましい、さらに好ましい、さらにより好ましい態様等。)は、特に言及がない限り、それぞれを任意に組み合わせて本実施形態とすることができる。例えば、各実施形態について、好ましい態様として記載されている実施形態と、好ましい態様として記載されている実施形態とを組み合わせてもよいし、好ましい態様等として記載されている実施形態と、より好ましい実施形態(あるいは更に好ましい実施形態等)として記載されている構成とを組み合わせてもよい。また、各構要素成及びステップは、本実施形態の効果を阻害しない限り、適宜省略することができる。
【0113】
例えば、図1に示す顕微授精支援システム1では、同一の容器14に卵子プールPO及び精子プールPSが配置されているが、卵子プールPO及び精子プールPSは異なる容器に設けられていてよい。また、顕微授精支援システム1を卵子への精子の注入にのみ用いる場合、ステージ11には精子プールが設けられていなくてもよい。この場合、顕微授精支援システム1の使用者(典型的には、胚培養士)が精子を保持した精子注入ツール3を用いて、顕微授精を行えばよい。この場合、図5に示したフローチャートのステップS1~S3を省略することができる。
【0114】
また、上述の説明では、精子注入ツール3を撮像部13に固定して設けているが、精子注入ツール3を移動させる機構を追加することを妨げるものではない。したがって、本実施形態に係る顕微授精支援装置2は、精子注入ツール制御部223において、精子注入ツール3の移動を制御してもよい。この場合、ステージ11の移動を主たる移動手段(例えば、卵子と精子注入ツール3の入出口との並進方向の位置合わせ手段)として用いてよく、精子注入ツール3の移動を補助的移動手段(例えば、精子注入ツール3の入出口が卵子に挿入される方向を調整するための回転方向の位置合わせ手段)として用いてよい。
【0115】
また、本実施形態に係る顕微授精方法において、各ステップの前後又は途中に、顕微授精の実施者の処理を受け付けてもよい。例えば、ステップS2において、顕微授精の実施者が吸引する精子を選択してもよいし、顕微授精の実施者が不動化をしてもよい。
【0116】
また、ステップS3において、顕微授精の実施者が精子の吸引方法を指定してもよい。例えば、顕微授精の実施者により、精子を頭部側から吸引するか、尾部側から吸引するかが選択されてよい。
【0117】
また、ステップS5において、顕微授精の実施者が精子を注入する卵子を選択してよい。
【0118】
また、ステップS6~S8における卵子への精子の注入において、顕微授精の実施者が調整を行ってもよい。例えば、精子注入ツール3を卵子のどの部分に挿入するかということや、どの方向から挿入するか、どの部分まで挿入するかということを顕微授精の実施者が指定してよい。
【0119】
また、各ステップの前段又は各ステップの最中において、精子及び/又は卵子を解像度高く撮像するために、撮像制御部221が、撮像部13及び/又は撮像部13に取り付けられた顕微鏡システムの設定を調整してもよい。当該調整は、顕微授精の実施者が行ってもよい。例えば、各ステップの撮像対象や目的に応じて、光学顕微鏡における観察法や倍率を調整して、各ステップが適切に実施されるようにしてよい。
【0120】
また、各ステップの前段に、次のステップに移行するかどうかを顕微授精の実施者に確認する確認ステップを含んでいてよい。また、各ステップにおいて、異常を検知したときは、顕微授精の実施者による処理に切り替えることも可能である。そのような異常としては、例えば、卵子の状態が通常とは異なる場合、例えば囲卵腔が埋まっており細胞質が確認できない場合や、透明帯の形に異常がある場合等が挙げられる。また、異常を検知したときは、顕微授精支援システム1のセットアップを確認するように顕微授精の実施者に通知を表示してもよい。
【0121】
また、卵子保持デバイスとしては、図4に示す実施形態以外にも、図6に示す実施形態としてよい。図6に示す卵子保持デバイスD2は、図4に示す卵子保持デバイスD1と異なり、第1凹部251a、第2凹部251b、及び第3凹部251cの役割がそれぞれ異なる点で異なる。
【0122】
すなわち、図4に示す卵子保持デバイスD1は、3つの凹部151a,151b,151cは等価であり、同等の構成を有している。他方、図6に示す卵子保持デバイスD2では、第1凹部251aが精子を注入していない卵子のプール(すなわち、卵子プールPO)としての役割を有し、第2凹部251bが精子を注入する際の卵子を保持する凹部(すなわち、図4に示す卵子保持デバイスD1の凹部151)としての役割を有し、第3凹部251cが精子の注入を完了した卵子のプールとしての役割を有する。
【0123】
卵子保持デバイスD2によれば、精子を注入していない卵子と精子の注入を完了した卵子との区別が容易であり、図5に示すフローチャートにおけるステップS9の判断が容易である。
【0124】
図6に示す卵子保持デバイスD2は、卵子O1,O2,O3をそれぞれ収容するための第1凹部251a,第2凹部251b,第3凹部251cと、卵子O2を第2凹部251bにおいて保持するための吸引口254と、卵子O2を第2凹部251bにおいて回転させるための第2送水口253bと、を備える。
【0125】
図6において、卵子O1が精子を注入していない卵子であり、卵子O2が精子を注入されようとする卵子であり、卵子O3が精子の注入を完了した卵子である。
【0126】
卵子保持デバイスD2は、さらに、第1凹部251aに収容された卵子O1を第2凹部251bに移送するための第1送水口253aを備える。卵子保持デバイスD2では、第1送水口253aから流体を送水することにより、第1凹部251aに収容された卵子O1を第2凹部251bに移送させることができる。これにより、卵子O2の精子の注入が完了した後に、続けて卵子O1に対して精子の注入を行うことができる。
【0127】
卵子保持デバイスD2において、第2送水口253bは、卵子O2を第2凹部251bにおいて回転させるための役割だけでなく、卵子O2に対して精子の注入が完了した後に第3凹部251cに移送するための役割を有する。第2送水口253bから供給する流体の量や速度を調整することで、卵子O2を第2凹部251bにおいて回転させる場合と、卵子O2を第3凹部251cに移送する場合とを分けることができる。
【0128】
なお、第1送水口253a及び第2送水口253bは、卵子保持デバイスD1と同様に送水ポート257を介して、送水装置に接続される。卵子保持デバイスD1と同様に、第1送水口253a及び第2送水口253bは、同一の送水ポート257に接続されてよく、異なる送水ポート257に接続されてよい。
【0129】
また、卵子保持デバイスD2は、マーカー252、吸引口254、排水口255、吸引ポート258、及び排水ポート259を備えるが、その構成は、卵子保持デバイスD1のマーカー152、吸引口154、排水口155、吸引ポート158、及び排水ポート159と同様であってよい。
【0130】
[付記]
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援装置であって、
前記精子注入ツールと前記卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得した前記情報に基づいて、前記精子を前記卵子に注入して顕微授精を行うために前記卵子保持デバイスが配置されるステージの移動を制御する制御部と、
を備える、顕微授精支援装置。
[2]
前記取得部は、前記精子注入ツールと前記ステージに配置される精子プールに収容された精子との相対的な位置関係を含む情報をさらに取得し、
前記制御部は、さらに、取得部によって取得した前記情報に基づいて、不動化された前記精子を前記精子注入ツールに保持するために前記ステージの移動を制御する、
[1]に記載の顕微授精支援装置。
[3]
前記卵子、前記精子、及び前記精子注入ツールを撮像する撮像部と、
前記制御部の指示に基づいて前記ステージを移動させるための駆動部と、
をさらに備える、
[1]又は[2]に記載の顕微授精支援装置。
[4]
前記卵子保持デバイスは、前記卵子を前記卵子保持デバイスに保持するための吸引装置に接続され、
前記制御部は、前記吸引装置をさらに制御する、
[1]~[3]のいずれか1つに記載の顕微授精支援装置。
[5]
前記卵子保持デバイスは、前記卵子を前記卵子保持デバイスにおいて回転させるための送水装置に接続され、
前記制御部は、前記送水装置をさらに制御する、
[1]~[4]のいずれか1つに記載の顕微授精支援装置。
[6]
前記取得部が、前記卵子の極体の位置を含む情報をさらに取得し、
前記制御部が、前記極体が位置しない方向から前記精子注入ツールにより前記精子を注入するために前記卵子を回転させるために前記送水装置を制御する、
[5]に記載の顕微授精支援装置。
[7]
前記送水装置は、送水する流体の温度を一定の範囲に維持するための温度制御手段を備える、
[5]又は[6]に記載の顕微授精支援装置。
[8]
前記精子注入ツールが、前記撮像部に対して固定して設けられる、
[3]~[7]のいずれか1つに記載の顕微授精支援装置。
[9]
[1]~[8]のいずれか1つに記載の顕微授精支援装置に配置するための卵子保持デバイスであって、
卵子を収容するための凹部と、
卵子を前記凹部において保持するための吸引口と、
を備える、
卵子保持デバイス。
[10]
卵子を前記凹部において回転させるための送水口をさらに備える、
[9]に記載の卵子保持デバイス。
[11]
[1]~[8]のいずれか1つに記載の顕微授精支援装置と、
前記精子注入ツールと、
を備える、
顕微授精支援システム。
[12]
精子注入ツールに保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援プログラムであって、
コンピュータを、
前記精子注入ツールと前記卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得した前記情報に基づいて、前記精子を前記卵子に注入して顕微授精を行うために前記卵子保持デバイスが配置されるステージの移動を制御する制御部と、
として機能させる、
プログラム。
【符号の説明】
【0131】
1…顕微授精支援システム、2…顕微授精支援装置、3…精子注入ツール、11…ステージ、12…駆動部、13…撮像部、14…容器、21…取得部、22…制御部、23…解析部、151,251…凹部、152,252…マーカー、153,253…送水口、154,254…吸引口、155,255…排水口、157,257…送水ポート、158,258…吸引ポート、159,259…排水ポート、221…撮像制御部、222…駆動制御部、223…精子注入ツール制御部、224…吸引装置制御部、225…送水装置制御部、231…精子認識部、232…卵子認識部、233…精子評価部、234…卵子評価部、D1,D2…卵子保持デバイス、O…卵子、PO…卵子プール、PS…精子プール。
【要約】
【課題】簡便な装置構成を有する顕微授精支援装置を提供する。
【解決手段】精子注入ツール3に保持された精子を卵子保持デバイスによって保持された卵子に注入する顕微授精を支援する顕微授精支援装置2であって、精子注入ツール3と卵子との相対的な位置関係を含む情報を取得する取得部と、取得部によって取得した情報に基づいて、精子を卵子に注入して顕微授精を行うために卵子保持デバイスが配置されるステージ11の移動を制御する制御部と、を備える、顕微授精支援装置2。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6