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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/18 20060101AFI20241202BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241202BHJP
   B60L 58/15 20190101ALI20241202BHJP
   B60L 7/20 20060101ALI20241202BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20241202BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241202BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20241202BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B60L7/18
B60L50/60
B60L58/15
B60L7/20
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/18 900
B60W10/30 900
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020183367
(22)【出願日】2020-10-31
(65)【公開番号】P2022073408
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 稜治
(72)【発明者】
【氏名】平尾 知之
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161962(JP,A)
【文献】特開2010-004670(JP,A)
【文献】特開2019-009886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/18
B60L 50/60
B60L 58/15
B60L 7/20
B60K 6/46
B60W 10/08
B60W 10/18
B60W 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
力行運転により駆動系に伝達される動力を発生し、回生運転により前記駆動系の動力で発電する駆動モータと、前記駆動モータの力行運転に使用する電力を蓄える駆動用バッテリと、を搭載し、電動車両の加速を要求する操作が行われていないときに、前記駆動モータの回生運転により回生制動力が前記駆動系に付与される前記電動車両に用いられる制御装置であって、
前記電動車両の加速を要求する操作が行われていないときに、前記電動車両の減速度を車速に応じて所定の最大減速度以下で設定する設定手段と、
前記設定手段により設定される減速度が前記最大減速度となる車速以上の車速において、前記設定手段により設定される減速度と前記最大減速度との差を変動幅として、前記変動幅が許容変動幅以下に収まるように、前記設定手段により設定される減速度を調整する調整手段と、
当該調整の結果、前記駆動モータの回生運転により得られる回生電力が前記駆動用バッテリが受け入れ可能な充電電力を超える場合、電力を強制的に消費する制御を行う廃電手段と、を含む、制御装置。
【請求項2】
前記調整手段は、所定車速以上で前記電動車両の減速度を一定値に調整し、
前記調整手段による調整後の減速度が得られるように、前記駆動モータの回生運転により発生する回生トルクの目標値を設定し、当該目標値に基づいて、前記駆動モータの回生運転を制御する回生制御手段、をさらに含む、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両(HV:Hybrid Vehicle)などの電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、シリーズ方式のハイブリッド車両には、エンジンの動力で発電する発電モータと、走行用の動力を発生する駆動モータと、駆動モータの駆動に使用する電力を蓄える駆動用バッテリとが搭載されている。そのため、シリーズ方式のハイブリッド車両は、アクセルペダルのみの操作により加速、減速および減速からの停車をコントロール可能なワンペダルシステムを採用することができる。
【0003】
ワンペダルシステムでは、アクセルペダルが踏まれているときには、駆動モータの力行運転により、駆動モータがアクセルペダルの操作量(アクセル開度)に応じた動力を発生する。アクセルペダルが踏まれておらず、アクセル開度が0%であるときには、駆動モータの回生運転により、駆動モータが駆動系の抵抗となり、その抵抗による制動力が駆動系に作用する。駆動モータが回生運転により発生する電力は、駆動用バッテリに蓄えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-47820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3(a)は、アクセル開度が0%であるときの車速と駆動モータの回生運転により得られる回生パワー(発生電力)との関係の一例を示す図であり、図3(b)は、アクセル開度が0%であるときの車速とハイブリッド車両の減速度との関係の一例を示す図である。
【0006】
アクセル開度が0%であるときは、ハイブリッド車両の減速度が大きいほど、駆動モータの回生運転により得られる回生パワーが増加し、ハイブリッド車両の燃費が向上する。一方で、駆動用バッテリの充電パワー(充電電力)には制限が存在するため、回生パワーの上限(回生可能上限)が設けられ、これに伴い、ハイブリッド車両の減速度に制限が設けられる。
【0007】
制限内で車速に応じた最大の減速度(理想回生時の減速度)を設定すれば、回生パワーが充電パワーを超えることなく、最大の回生パワーを得ることができる。しかし、車速が高速域からアクセル開度0%で連続的に減速し続けた場合に、ハイブリッド車両が停車するまでの減速度の変動幅が大きくなり、ドライバビリティが悪化する。減速度をその変動幅がドライバビリティを確保可能な許容変動幅内に収まるように設定するには、図3(b)に破線で示されるように、最大減速度を下げる必要がある。最大減速度を下げると、図3(a)に破線で示されるように、車速の低速域で回生パワーが実線で示される燃費上の理想的な回生パワー(理想回生パワー)よりも減少し、燃費が悪化する。
【0008】
本発明の目的は、燃費の悪化を避けつつ、ドライバビリティを確保できる、電動車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る電動車両の制御装置は、力行運転により駆動系に伝達される動力を発生し、回生運転により駆動系の動力で発電する駆動モータと、駆動モータの力行運転に使用する電力を蓄える駆動用バッテリとを搭載し、電動車両の加速を要求する操作が行われていないときに、駆動モータの回生運転により回生制動力が駆動系に付与される電動車両に用いられる制御装置であって、電動車両の加速を要求する操作が行われていないときに、電動車両の減速度を車速に応じて所定の最大減速度以下で設定する設定手段と、最大減速度を基準として、設定手段により設定される減速度の変動幅が許容変動幅以下に収まるように、所定車速以上で設定手段により設定される減速度を調整する調整手段と、当該調整の結果、駆動モータの回生運転により得られる回生電力が駆動用バッテリが受け入れ可能な充電電力を超える場合、電力を強制的に消費する制御を行う廃電手段とを含む。
【0010】
この構成によれば、電動車両の加速を要求する操作が行われていないときには、駆動モータの回生運転が行われて、駆動モータが抵抗となることによる回生制動力が駆動系に付与される。このとき、電動車両の減速度が所定の最大減速度以下で設定されるが、その最大減速度を基準として、減速度の変動幅が許容変動幅以下に収まるように減速度が調整される。これにより、最大減速度を低減させずに、減速度の変動幅を許容変動幅以下に収めることができ、燃費の悪化を避けつつ、ドライバビリティを確保することができる。
【0011】
ところが、かかる減速度の調整の結果、駆動モータの回生運転により得られる回生電力が駆動用バッテリに受け入れ可能な充電電力を超える場合がある。この場合には、電力を強制的に消費する制御が行われる。これにより、回生電力における充電電力を超える分を消費することができ、残りの回生電力を駆動用バッテリに蓄えることができる。
【0012】
たとえば、電動車両がエンジンおよびエンジンの動力で発電する発電モータを搭載している場合、電力を強制的に消費する制御は、発電モータによりエンジンをモータリングさせる制御であってもよい。
【0013】
また、電力を強制的に消費する制御は、エアコンディショナの電動コンプレッサを動作させる制御であってもよいし、冷却水を流通させる電動ウォータポンプを動作させる制御であってもよい。
【0014】
調整手段は、所定車速以上で電動車両の減速度を一定値に調整し、制御装置は、調整手段による調整後の減速度が得られるように、駆動モータの回生運転により発生する回生トルクの目標値を設定し、当該目標値に基づいて、駆動モータの回生運転を制御する回生制御手段をさらに含む構成であってもよい。
【0015】
この構成により、減速度を簡単に調整することができ、制御装置の負荷を軽減することができる。また、所定車速以上で減速度が調整されるので、調整の結果、駆動モータの回生運転により得られる回生電力が駆動用バッテリが受け入れ可能な充電電力を超える場合に、電力を強制的に消費する制御が行われても、その制御が行われることによる不快感をユーザに与えることを抑制できる。たとえば、電力を強制的に消費する制御が発電モータによりエンジンをモータリングさせる制御である場合、所定車速未満では、モータリングが行われないので、エンジンの始動による違和感をユーザに与えることを抑制できる。また、所定車速以上では、モータリングが行われても、エンジン音が走行音でマスクされるので、エンジン音による不快感(騒音)をユーザに与えることを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃費の悪化を避けつつ、ドライバビリティを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の構成を示すブロック図である。
図2】電動車両の減速度の設定について説明するための図であり、(a)は、アクセル開度が0%であるときの車速と駆動モータの回生運転により得られる回生パワーとの関係の一例を示し、(b)は、アクセル開度が0%であるときの車速と車両減速度との関係の一例を示す。
図3】(a)は、アクセル開度が0%であるときの車速と駆動モータの回生運転により得られる回生パワーとの関係の一例を示す図であり、(b)は、アクセル開度が0%であるときの車速と車両減速度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<電動車両>
図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両1の構成を示すブロック図である。
【0020】
電動車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載している。ハイブリッドシステム2には、エンジン(ENG)11、発電モータ(MG1)12、駆動モータ(MG2)13、駆動用バッテリ14およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15が含まれる。
【0021】
エンジン11は、たとえば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである。エンジン11のクランクシャフト21には、エンジン出力ギヤ22がクランクシャフト21と一体に回転するように設けられている。
【0022】
発電モータ12は、たとえば、永久磁石同期モータからなる。発電モータ12の回転軸23には、発電モータギヤ24が一体に回転するように設けられている。発電モータギヤ24は、エンジン出力ギヤ22と噛合している。発電モータ12は、エンジン11の停止時に、エンジン11をクランキングさせるスタータモータとして使用される。エンジン11の始動後、発電モータ12は、エンジン11の動力を電力に変換する発電機として機能する。
【0023】
駆動モータ13は、たとえば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータからなる。駆動モータ13の回転軸は、電動車両1の駆動系25に連結されている。駆動系25には、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪26に分配されて伝達される。これにより、左右の駆動輪26が回転し、電動車両1が前進または後進する。
【0024】
駆動用バッテリ14は、複数の二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。駆動用バッテリ14は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0025】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットであり、第1インバータ(MG1 INV)31、第2インバータ(MG2 INV)32および昇圧コンバータ(Bst CONV)33を備えている。
【0026】
電動車両1の加速走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が力行のための動力を発生する。このとき、駆動用バッテリ14から出力される直流電力が昇圧コンバータ33により必要に応じて昇圧されて、昇圧コンバータ33から出力される直流電力が第2インバータ32で交流電力に変換され、その交流電力が駆動モータ13に供給される。これにより、駆動用バッテリ14の電力が消費される。
【0027】
また、エンジン11の始動時には、駆動用バッテリ14から出力される直流電力が昇圧コンバータ33により昇圧されて、昇圧された直流電力が第1インバータ31で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ12に供給される。これにより、発電モータ12が力行運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリングされる。モータリングによりエンジン11のクランクシャフト21の回転数が始動に必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン11の点火プラグがスパークされると、エンジン11が始動する。
【0028】
エンジン11が動作している状態で、発電モータ12が発電運転されることにより、発電モータ12が交流電力を発生する。発電モータ12が発電する交流電力は、第1インバータ31により、直流電力に変換される。そして、第1インバータ31から出力される直流電力が第2インバータ32で交流電力に変換され、交流電力が駆動モータ13に供給される。また、駆動モータ13への電力の供給が不要なときには、第1インバータ31から出力される直流電力が昇圧コンバータ33で降圧されて、降圧後の直流電力が駆動用バッテリ14に供給されることにより、駆動用バッテリ14が充電される。
【0029】
電動車両1では、ワンペダルシステムが採用されており、サービスブレーキ(フットブレーキ)の作動による減速時に限らず、アクセルペダルが踏まれておらず、アクセルペダルの最大操作量に対する運転者による操作量の割合であるアクセル開度が0%であるときにも、駆動モータ13が回生運転される。駆動モータ13の回生運転により、駆動輪5から駆動モータ13に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ13が駆動系25の抵抗となり、その抵抗が電動車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。駆動モータ13が発生する交流電力は、第2インバータ32により、直流電力に変換される。そして、第2インバータ32から出力される直流電力が昇圧コンバータ33で降圧されて、降圧後の直流電力が駆動用バッテリ14に供給されることにより、駆動用バッテリ14が充電される。
【0030】
また、電動車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)42を備えており、マイコン42には、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。図1には、複数のECUのうちの1つのECU41が示されている。
【0031】
ECU41には、制御に必要な各種センサが接続されている。センサの一例として、ECU41には、アクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ43が接続されている。アクセル開度は、ECU41において、アクセルセンサ43の検出信号から算出される。
【0032】
<減速度設定>
図2は、電動車両1の減速度の設定について説明するための図であり、(a)は、アクセル開度が0%であるときの車速と駆動モータ13の回生運転により得られる回生パワー(発生電力)との関係の一例を示し、(b)は、アクセル開度が0%であるときの車速と電動車両1の減速度(車両減速度)との関係の一例を示す。
【0033】
アクセル開度が0%であるときには、ECU41により、電動車両1の減速度(目標)が設定され、その減速度が得られるように、駆動モータ13が発生する回生トルクの目標値が設定される。そして、駆動モータ13が発生する回生トルクが目標値と一致するように、ECU41により、駆動モータ13の回生運転が制御される。
【0034】
図2(a)に示されるように、駆動用バッテリ14の充電パワー(充電電力)に制限が存在するため、回生パワーの上限(回生可能上限)が設けられ、これに伴い、電動車両1の減速度に制限が設けられる。その制限内で車速に応じた最大の減速度(理想回生時の減速度)を設定すれば、回生パワーが充電パワーを超えることなく、最大の回生パワーを得ることができる。
【0035】
図2(b)に示されるように、車速がV1以上の高速域では、車速にかかわらず、理想回生時の減速度が一定の値D1となる。車速が車速V1以上の高速域において、電動車両1の減速度の目標が一定の値D1に設定される場合、空気抵抗などの影響により、電動車両1の実際の減速度は、車速が高いほど小さい値となる。車速が車速V2以上で車速V1未満の中速域では、車速と電動車両1の減速度との関係を示す線が下側に凸湾曲する曲線となるように、車速が小さくなるにつれて、理想回生時の減速度が値D1から値D2まで増加する。車速が車速V2未満の低速域では、理想回生時の減速度が一定の値D2となる。減速により車速が車速V3以下に低下すると、電動車両1が停車に向かうため、減速度の目標が一定の値D2に設定されても、電動車両1の実際の減速度は、車速が低下するにつれて0に向かって低下する。
【0036】
ところが、電動車両1の減速度の目標が理想回生時の減速度に設定されると、電動車両1の車速が車速V4を超える車速域でアクセル開度が0%となり、そのままアクセル開度0%で電動車両1が連続的に減速し続けた場合に、電動車両1が停車するまでの期間における減速度の変動幅がドライバビリティを確保可能な許容変動幅を超えてしまい、ドライバビリティが悪化する。
【0037】
言い換えれば、電動車両1の車速が車速V4以上の車速域では、理想回生時の減速度が理想回生時の最大減速度の値D2からドライバビリティを確保可能な許容変動幅分を差し引いた値である値D3以上となるので、車速V4を超える車速域からアクセル開度0%で電動車両1が連続的に減速し続けた場合、電動車両1が停車するまでの期間における減速度の変動幅が許容変動幅を超えてしまい、ドライバビリティが悪化する。
【0038】
そのため、電動車両1の車速が車速V4以上の車速域でアクセル開度が0%になった場合には、図2(b)に二点鎖線で示されるように、車速がV4未満に低下するまでの間、電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定される。言い換えれば、理想回生時の減速度が値D3以上の値となる車速V4以上の車速域では、電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定される。
【0039】
車速V4以上の車速域で電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定されると、図2(a)に二点鎖線で示されるように、駆動モータ13の回生運転により得られる回生パワーが駆動用バッテリ14が受け入れ可能な充電パワーを超える場合がある。この場合には、電力を強制的に消費するため、たとえば、回生パワーおよび車速に応じたエンジン回転数の目標が設定されて、エンジン回転数がその目標に一致するように、発電モータ12への駆動電力の供給が制御されて、発電モータ12によるエンジン11のモータリングが実行される(モータリング制御)。これにより、回生パワーにおける充電パワーを超える分が消費されて、回生パワーの残りが駆動用バッテリ14に受け入れられる。
【0040】
なお、電動車両1の減速中にブレーキペダルが踏まれて、サービスブレーキが作動した場合には、電動車両1の減速度の目標がそのまま維持されて、サービスブレーキが解除されると、車速に応じた減速度が設定される。
【0041】
<作用効果>
以上のように、電動車両1の加速を要求する操作、つまりアクセルペダルを踏む操作が行われておらず、アクセル開度が0%であるときには、駆動モータ13の回生運転が行われて、駆動モータ13が抵抗となることによる回生制動力が駆動系25に付与される。このとき、電動車両1の減速度が最大減速度D2以下で設定されるが、その最大減速度D2を基準として、減速度の変動幅が許容変動幅以下に収まるように減速度が調整される。すなわち、電動車両1の車速が車速V4以上の車速域でアクセル開度が0%になった場合には、車速がV4未満に低下するまでの間、電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定される。これにより、最大減速度D2を低減させずに、減速度の変動幅を許容変動幅以下に収めることができ、燃費の悪化を避けつつ、ドライバビリティを確保することができる。
【0042】
また、電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定されることにより、駆動モータ13の回生運転により得られる回生パワーが駆動用バッテリ14が受け入れ可能な充電パワーを超える場合には、モータリング制御が行われて、電力が強制的に消費される。これにより、回生パワーにおける充電パワーを超える分を消費することができ、回生パワーの残りで駆動用バッテリ14を充電することができる。
【0043】
電動車両1の減速度の目標が一定の値D3に設定されるのは、車速が車速V4以上の車速域であるから、モータリング制御が行われても、ユーザに不快感を与えることを抑制できる。すなわち、車速が車速V4未満の車速域では、モータリングが行われないので、エンジン11の始動による違和感をユーザに与えることを抑制できる。また、車速V4以上の車速域では、エンジン11のモータリングが行われても、エンジン音(モータリングによりエンジン11から発生する音)が走行音でマスクされるので、エンジン音による不快感(騒音)をユーザに与えることを抑制できる。
【0044】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0045】
たとえば、前述の実施形態では、電力を強制的に消費する制御として、モータリング制御を取り上げたが、電力を強制的に消費する制御は、エアコンディショナの電動コンプレッサを動作させる制御であってもよいし、冷却水を流通させる電動ウォータポンプを動作させる制御であってもよい。
【0046】
ドライバビリティを確保可能な許容変動幅は、電動車両1が走行している路面の勾配に応じて可変に設定されてもよい。たとえば、路面が上り勾配である場合、路面が平坦な場合よりも許容変動幅が小さく設定され、路面が下り勾配である場合、路面が平坦な場合よりも許容変動幅が大きく設定されてもよい。
【0047】
また、前述の実施形態では、ワンペダルシステムを採用した電動車両1を取り上げて、アクセル開度が0%であるときの制御について説明したが、本発明は、アクセル開度が0%であるときに限らず、駆動モータ13の回生運転が行われているときの制御に広く適用することができる。
【0048】
本発明は、ハイブリッドシステム2を搭載した電動車両1に限らず、モータを走行用の駆動源として搭載した電動車両であれば、エンジンを搭載していない電気自動車(EV:Electric Vehicle)に適用することもできる。
【0049】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1:電動車両
13:駆動モータ
14:駆動用バッテリ
25:駆動系
41:ECU(制御装置)
42:マイコン(設定手段、調整手段、廃電手段、回生制御手段)
図1
図2
図3