(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】熱源装置の性能推定方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/62 20180101AFI20241202BHJP
【FI】
F24F11/62
(21)【出願番号】P 2021058553
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 隆広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大介
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-90585(JP,A)
【文献】特開2002-323463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源装置の性能についてメーカの仕様値による動力特性線図を取得し、
前記熱源装置の実機の運転により運転データを取得し、
前記動力特性線図に実機の運転データをプロットし、
前記動力特性線図にプロットされた運転データから、メーカの仕様値による
各動力特性曲線に対応するデータ群を
動力特性曲線毎に抽出し、
前記熱源装置の安定運転時のデータを抽出するようにトリミング処理をし、
前記各動力特性曲線毎に抽出したデータ群に属する各運転データに関し、熱源装置の実機の消費動力を表す値
として消費動力比率の実測値
を個別に算出し、
前記各運転データに関し、メーカ仕様値から、消費動力を表す値として消費動力比率のメーカ値を算出し、
各データにおける消費動力比率の実測値と、該実測値と同じ運転条件の消費動力比率のメーカ値との比率を算出し、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す散布図を作成し、
前記散布図に基づき、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す一次式の近似式を導出し、
前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性値を補正
し、
前記補正後の動力特性線図を作成すること
を特徴とする熱源装置の性能推定方法。
【請求項2】
前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いること
を特徴とする請求項
1に記載の熱源装置の性能推定方法。
【請求項3】
前記消費動力比率は、消費動力比率[%]=(消費動力/定格値)×100で表し、
前記消費動力比率の実測値は、運転データから得られる消費動力の実測値と、メーカの仕様値に基づく定格値から算出し、
前記一次式の近似式は、Y=aX+bで表し、Xは消費動力比率の実測値、Yは補正後の消費動力比率のメーカ値であり、a、bは定数であることを特徴とする請求項1に記載の熱源装置の性能推定方法。
【請求項4】
前記動力特性曲線の作成手順は、
第1段階として、Y=aX+bのXに消費動力比率のメーカ値を代入し補正後の消費動力比率を算出し、
第2段階として、補正後の動力特性値=(消費動力比率のメーカ値の熱源負荷条件における)生成熱量/補正後の消費動力=100×生成熱量/(補正後の消費動力比率×定格値)を算出し、
第3段階として、補正後の動力特性値の各点を補間して動力特性曲線を作成することを特徴とする請求項3に記載の熱源装置の性能推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調に用いられる熱源装置の実機の性能を推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルや商業施設、あるいはその他各種の建物においては、空調設備のエネルギー消費量を試算し運転計画を立案する際などに、空調に用いる熱源装置の消費動力を算出する場合がある。
【0003】
熱源装置の性能は、例えば
図7に示すような線図にて表される。この
図7のグラフでは、熱源装置の性能を示す値(以下、本明細書では必要に応じてこれを「動力特性値」と称する)としてCOP(Coefficient Of Performance)を想定し、該COPの熱源負荷率に対する関係を曲線(「動力特性曲線」と称する)にて表している。ここに示した例では、運転条件として3通りの冷却水の温度(入口温度)を想定し、各冷却水温度(A℃、B℃、C℃)における動力特性曲線を表示している。横軸の熱源負荷率は、生成熱量をその熱源装置の定格生成熱量で割った値である。縦軸のCOPは成績係数とも呼ばれ、生成熱量を消費動力(エネルギー消費量)で割った値である。尚、その他の条件(冷却水の出口温度や流量等)については、固定値として設定されている。
【0004】
このような熱源装置の性能を表す線図(「動力特性線図」と称する)は、例えば熱源装置を製造販売するメーカから提供され、あるいはメーカから表の形で提供されたデータから作成される。そして、冷却水が特定の温度(例えば、入口温度がA℃)であるという条件下において、熱源負荷率に応じた生成熱量と、その際の消費動力(エネルギー消費量)をこのグラフから求めることができる。尚、
図7のグラフでは3通りの冷却水温度に応じた3パターンの曲線が図示されているが、これらとは冷却水温度が異なる場合の動力特性曲線も、図示された動力特性曲線に基づいて適宜作成し、これを利用することができる。例えば、冷却水温度がA℃とB℃の中間である場合には、A℃の場合を示す曲線とB℃の場合を示す曲線の中間にあたるような曲線を想定し、該曲線に基づいて生成熱量と消費動力(エネルギー消費量)を求めればよい。
【0005】
ところで、メーカのデータに基づくこのようなグラフは、あくまで仕様上の性能に基づいており、実機においてこの通りの性能が発揮されるとは限らない。熱源装置の性能にはそもそも個体差があり、実機の性能には、仕様値に対し±5~15%ほどの誤差が許容されている。すなわち、熱源装置の性能には、新品の状態で仕様値に対し±5~15%の範囲でばらつきがある。しかも、熱源装置が稼働を開始すると、経年劣化によって時間と共に性能が変化し、動力特性は仕様値から徐々に乖離していく。このため、メーカの仕様値に基づく
図7のようなグラフを用いて熱源装置の性能を推定しても、必ずしも実機の性能に応じた最適な推定はできていない可能性がある。
【0006】
実機の性能を正確に推定するためには、実機の運転において採集したデータから
図7に示すような動力特性のグラフを新たに作成するという方法が考えられるが、これには各条件毎に熱源負荷率を変更しつつCOPを測定する作業が必要であり、膨大な手間がかかる。また、実際の運転においては、メーカによる試験ほど広範な条件では運転されない場合がほとんどであり、動力特性曲線を描くのに十分なデータを得ることは難しい。
【0007】
そこで、仕様値と実機の性能との差を前提とし、仕様値によるデータを適宜補正することにより、実機の性能をなるべく正確に推定するための技術が種々提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術をはじめ、仕様値の補正により実機の性能を推定しようとする多くの技術においても、結局、実機においてある程度の量のデータを蓄積する必要があり、実機の運転データが少ない状態で動力特性の全体について満足な補正や性能の推定を行うことは難しかった。また、補正には往々にして複雑な演算が必要であり、熱源装置の実機に関して簡便に且つ精度よく性能を推定し得る方法を確立するには至っていなかった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定し得る熱源装置の性能推定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱源装置の性能についてメーカの仕様値による動力特性線図を取得し、
前記熱源装置の実機の運転により運転データを取得し、
前記動力特性線図に実機の運転データをプロットし、
前記動力特性線図にプロットされた運転データから、メーカの仕様値による各動力特性曲線に対応するデータ群を動力特性曲線毎に抽出し、
前記熱源装置の安定運転時のデータを抽出するようにトリミング処理をし、
前記各動力特性曲線毎に抽出したデータ群に属する各運転データに関し、熱源装置の実機の消費動力を表す値として消費動力比率の実測値を個別に算出し、
前記各運転データに関し、メーカ仕様値から、消費動力を表す値として消費動力比率のメーカ値を算出し、
各データにおける消費動力比率の実測値と、該実測値と同じ運転条件の消費動力比率のメーカ値との比率を算出し、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す散布図を作成し、
前記散布図に基づき、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す一次式の近似式を導出し、
前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性値を補正し、
前記補正後の動力特性線図を作成すること
を特徴とする熱源装置の性能推定方法にかかるものである。
【0012】
本発明の熱源装置の性能推定方法においては、前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いることができる。
【0013】
本発明の熱源装置の性能推定方法において、前記消費動力比率は、消費動力比率[%]=(消費動力/定格値)×100で表し、
前記消費動力比率の実測値は、運転データから得られる消費動力の実測値と、メーカの仕様値に基づく定格値から算出し、
前記一次式の近似式は、Y=aX+bで表し、Xは消費動力比率の実測値、Yは補正後の消費動力比率のメーカ値であり、a、bは定数であることができる。
本発明の熱源装置の性能推定方法において、前記動力特性曲線の作成手順は、
第1段階として、Y=aX+bのXに消費動力比率のメーカ値を代入し補正後の消費動力比率を算出し、
第2段階として、補正後の動力特性値=(消費動力比率のメーカ値の熱源負荷条件における)生成熱量/補正後の消費動力=100×生成熱量/(補正後の消費動力比率×定格値)を算出し、
第3段階として、補正後の動力特性値の各点を補間して動力特性曲線を作成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱源装置の性能推定方法によれば、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施による熱源装置の性能推定方法を実行する手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図2】実機の運転により得られた実際の運転データを動力特性線図にプロットした様子の一例を示すグラフである。
【
図3】
図2のグラフにプロットされたデータから、各動力特性曲線に対応する運転条件のデータを抽出した様子を説明する図である。
【
図4】消費動力比率の実測値とメーカ値の関係の一例を示す散布図である。
【
図5】補正前および補正後の動力特性曲線の一例を示すグラフである。
【
図6】補正前および補正後の動力特性線図の一例を示すグラフである。
【
図7】熱源装置の動力特性線図の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施による熱源装置の性能推定方法を実行する手順の一例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに基づき、熱源装置の性能の推定手順を説明する。
【0018】
まず、メーカの仕様値による動力特性線図を取得する(ステップS1)。この動力特性線図は、それ自体がメーカから提供される場合もあるし、メーカの提供するカタログや仕様書といった資料に記載された動力特性値(COP)を含むデータから、曲線グラフを作成してもよい。ここで取得される動力特性線図は、例えば
図7に示す如きグラフである。
【0019】
続いて、実機の運転を行い、熱源装置の動力特性の把握に必要な運転データを取得する(ステップS2)。この熱源装置の実機とは、事務所ビルや病院や工場など実際に営業運転となっている空調システムに組み込まれ、実際の外気の変動や負荷の変動に応じて運転している熱源装置のことである。運転データは、例えば空調システムを構成する熱源装置の制御装置のログから取得することができる。すなわち、EMS(Energy Management System)等と称される制御装置では、例えば熱源装置の消費動力の実測値や、負荷熱量、冷却水の流量、冷却水の入口温度等といった熱源装置の実機の動作に関わる各種のデータを時々刻々記録しているので、この制御装置のログから必要なデータを取得すればよい。
【0020】
このステップS2で得られるデータを、ステップS1で取得した動力特性線図(
図7参照)上にプロットする(ステップS3)。プロットされた各時点のデータは、例えば
図2に示す各点のようになる。すなわち、ステップS2で得られるデータからは、実機の運転中の各時点における熱源負荷率と、その時の動力特性を表す成績係数値(COP)が取得できるので、各時点におけるそれらのデータを複数の冷却水温度に合わせて
図7の動力特性線図にプロットしたグラフが
図2である。
【0021】
図2に示す如く動力特性線図上にプロットされたデータから、各動力特性曲線に対応するデータ群を、ステップS4で動力特性曲線毎に抽出する(層別処理)。ここで、「各動力特性曲線に対応するデータ群」とは、「各動力特性曲線と合致する運転条件(冷却水入口温度、冷却水流量、冷水出口温度および熱源負荷率)において取得された実測データ群」を指す。
図7や
図2に表示された各動力特性曲線は、それぞれ一定の運転条件(冷却水の温度など)を前提としているので、各動力特性曲線毎に、その動力特性曲線について設定された運転条件と合致する運転条件下で採集された実測データを選び出すのである。
図2では、冷却水温度(入口温度)がA℃の場合の動力特性曲線に対応する実測データを○の記号で、冷却水温度がB℃の場合の動力特性曲線に対応する実測データを△の記号で、冷却水温度がC℃の場合の動力特性曲線に対応する実測データを□の記号で、それぞれ表している。すなわち、ステップS4では、A℃の動力特性曲線に関しては○で表されるデータを、B℃の動力特性曲線に関しては△で表されるデータを、C℃の動力特性曲線に関しては□で表されるデータを、それぞれ抽出する。
【0022】
尚、ここでいう「運転条件の合致」とは、全ての運転条件が厳密に一致することのみを意味しない。実用上、同じと見なして扱っても差し支えない程度に運転条件が似通っている場合も、「運転条件が合致する」と表現している。また運転条件の一部が一致することも含まれる。
【0023】
またこのとき、さらに所定の要件を満たすデータを、ステップS5で近似式の導出および動力特性値の補正に用いるデータとして選択し、抽出する(トリミング処理)。具体的には、例えば下記に該当するデータを除外するとよい。
・熱源装置の実機が起動してからしばらくの間(例えば、30分間)のデータ。冷水を安定して連続的に生成できるようになるまでの間のエネルギー消費量は近似式に使用できないため。なお冷却水は冷水を生成するための排熱を除去するためものであり、例えば冷凍機の凝縮器などの熱源装置への入口温度が32℃、出口温度が37℃となり、入口温度が変わっても出口温度は比較して温度が高くなって出てくるものである。
・低負荷時(例えば、熱源負荷率が30%以下での運転時)のデータ。熱源負荷率が連続運転の運転下限未満の条件では、熱源装置は連続運転ではなくオン・オフ運転にて稼働する場合があり、運転が安定していない状態でデータが取得されている可能性があるため。
・熱源停止時のデータ。散布図(
図4参照;後に説明する)の原点にあたるデータが近似式に影響することを避けるため。
・メンテナンス時など通常運転と異なる条件の運転時データ。通常運転と異なる運転条件(例えば冷却水流量の変更など)の場合により近似式に影響を与えることを避けるため。
【0024】
こうして各動力特性曲線毎に抽出したデータ群に属する各運転データに関し、熱源機の消費動力の定格値に対する実際の消費動力(実測値)の相対値(以下、「消費動力比率」と称する)を個別に算出する(ステップS6)。ステップS4では、各動力特性曲線毎に対応するデータ群(
図2の冷却水温度がA℃の動力特性曲線については○で示す群、B℃の動力特性曲線については△で示す群、C℃の動力特性曲線については□で示す群)をそれぞれ抽出したが、このステップS6では、こうして抽出されたデータのそれぞれ(
図2中に○または△または□で表される各点に対応する個々のデータ)について、上記消費動力比率を算出していく。
【0025】
消費動力比率は、例えば以下の式で表すことができ、消費動力比率の実測値は、運転データから得られる消費動力の実測値と、メーカの仕様値に基づく定格値から算出することができる。
消費動力比率[%]=(消費動力/定格値)×100 ……(1)
【0026】
続いて、各運転データ(
図2中に○または△または□で表される各点に対応する個々のデータ)に関し、同条件(冷却水温度および熱源負荷率)におけるメーカの仕様値から、消費動力比率の仕様上の値(以降、「消費動力比率のメーカ値」と称する)を算出する(ステップS7)。この消費動力比率のメーカ値は、
図7に示す如きメーカの仕様値による動力特性線図に基づき、上記式(1)を用いて算出することができる。すなわち、ある冷却水温度および熱源負荷率を条件として与えれば、まず
図7に示す動力特性線図から、同じ条件下でのメーカの仕様値によるCOPを求めることができる。さらに、消費動力は熱源装置における負荷熱量と、COPの逆数の積として求めることができ、負荷熱量は熱源装置の定格能力と熱源負荷率の積として求められるので、
図7の動力特性線図と上記式(1)から、消費動力比率のメーカ値を求めることができる。
【0027】
こうして、ステップS6、S7を経て、各データにおける消費動力比率の実測値と、それと同じ運転条件(冷却水温度および熱源負荷率)における消費動力比率のメーカ値をそれぞれ算出した。続くステップS8では、それらの比率を算出する。さらに、各運転データに関して同様の作業を繰り返し、
図4に示す如く、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す散布図を作成する。
【0028】
ステップS8で作成した散布図に基づき、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す近似式を導出する(ステップS9)。近似式は、下記式(2)のような単純な一次式とすると、前記近似式の導出や、その後の動力特性値の補正を簡便に行うことができる。Xは消費動力比率の実測値、Yは補正後の消費動力比率のメーカ値であり、a、bは定数である。この近似式によって表される関係を、
図4中に破線にて示す。
Y=aX+b ……(2)
【0029】
尚、ここで作成する近似式は、上記式(2)の如き一次式に限定されず、例えば二次式や三次式、あるいはその他の各種の数式であってもよい。近似式としてどのような数式を作成するかは、実際に作成された散布図の様子に応じて適宜決定することができる。
【0030】
さらに、メーカの仕様値として取得されている各動力特性値(COP)のうち、対応する動力特性曲線に属する値を、上記式(2)に基づいて補正する(ステップS10)。例えば、先のステップS8およびステップS9において、散布図の作成や近似式の導出を
図2に○で示す点に対応する実測データに基づいて行った場合には、冷却水温度がA℃の場合の動力特性曲線に対応する実機の動力特性である成績係数値を補正する。
【0031】
メーカの提示する動力特性値に基づいて消費動力比率を算出すれば、各々が上記式(2)の右辺のXに相当する値となるが、これらの値を、左辺のYに相当する値が消費動力比率として算出されるような値に補正する。続いて、補正後の動力特性値に基づき、動力特性線図を再作成する(ステップS11)。再作成された動力特性線図における動力特性曲線は、例えば
図5に破線で示す如き曲線となる。尚、実線はメーカの仕様値による動力特性曲線を示す。ここで動力特性曲線の作成手順について説明すると、
(1)Y=aX+bのXに消費動力比率のメーカ値(例えば10%刻みの複数の値)を代入し補正後の消費動力比率を算出
(2)補正後のCOP値=(消費動力比率のメーカ値の熱源負荷条件における)生成熱量/補正後の消費動力=100×生成熱量/(補正後の消費動力比率×定格値)を算出
(3)補正後のCOP値の各点を補間してCOP曲線を作成
となる。
【0032】
以上のステップS6~S11を、各動力特性曲線に対応するデータ群毎に繰り返すと、最終的に
図6に示す如く、全ての動力特性曲線について、実機の運転データに基づき補正された動力特性曲線を得ることができる。
【0033】
以上に説明した本実施例の如き方法によれば、例えば実機の運転データを用いて動力特性曲線を描き直すような旧来の方法を用いる場合と比べ、実機の運転によって得られているデータが少なくても、実機の運転データに基づいた精度のよい動力特性線図を取得することが可能である。すなわち、実機の運転データのみを用いて動力特性曲線を描き直そうとした場合、実用に耐え得る精度の動力特性曲線を得ようとすれば相当な数のデータを採集する必要があるが、本実施例の方法では、実機の運転データを用いてメーカの仕様値による動力特性曲線を補正するようにしているので、実機の運転データのみを用いて動力特性曲線を描き直す場合に比べれば、必要な実測データは遥かに少なく済む。
【0034】
また、補正にあたっては、熱源負荷率とCOPの関わる値である消費動力を用いて近似式を作成し、メーカ値と実測値のずれを補正するようにしているので、ごく単純な演算を行うだけで良好な補正をすることが可能である。近似式として一次式を用いれば、必要な演算処理はいっそう単純である。
【0035】
尚、本実施例の如き方法では、実測データのうち、メーカ値による各動力特性曲線の運転条件(冷却水温度およびその他の各種条件)に合致するデータのみを抽出して補正に用いるようにしている。一方で、多くの場合、実機の稼働はある程度限られた運転条件でのみ行われる。このため、本実施例の如き方法では、全ての範囲で補正した動力特性曲線を得ることは難しい。尤も、例えば空調システムのエネルギー消費量を算出し運転計画を立案するなどの目的で熱源装置の性能を推定しようとする場合、ある程度限られた運転条件下での性能が把握できればよいので、実用上は、必ずしも全ての範囲で動力特性曲線を補正する必要はない。
【0036】
以上の工程は、次のようにまとめることができる。ステップS2で得たある時点の運転データに関し、熱源負荷率とCOPとの関係を動力特性線図にプロットすると、例えば
図2に符号P1にて示す点の位置にあったとする。この点P1に該当する時点の運転データには、熱源負荷率とCOPのほかに、冷却水の流量や温度(入口温度)等が含まれている。よって、この点P1に該当する時点の運転データと同じ条件における仕様上のCOPの値(メーカ値)を算出することもできる。このメーカ値は、例えば符号P2にて示す点の位置にプロットされる。
【0037】
そこで、点P1に対応するデータに基づいて消費動力比率の実測値を算出すると共に(ステップS6)、点P2に対応するデータに基づいて消費動力比率のメーカ値を算出し(ステップS7)、これらの比率を算出する。これを各データについて行い、散布図を作成し(ステップS8)、近似式を導出する(ステップS9)。こうして得られた近似式を該当する動力特性曲線に適用し(ステップS10、S11)、補正された動力特性曲線を得る(
図5参照)。これを各動力特性曲線毎に繰り返せば、
図6に示す如く全体的に補正された動力特性線図を得ることができる。
【0038】
尚、上に述べた手順はあくまで一例であって、本発明を実施する際には、一部の工程の内容を変更したり、ステップ同士の順序を入れ替えるなど、適宜改変を加えてもよい。例えば、ステップS6における消費動力比率の実測値の算出と、ステップS7におけるメーカ値の算出は、前後を入れ替えてもよいし、同時並行で実行することもできる。
【0039】
また、上では説明の便宜のため、ステップS3で運転データを動力特性線図にプロットしたうえで、各動力特性曲線に対応する運転データを抽出する手順を説明したが、運転データの抽出は必ずしも散布図の作成を経る必要はない。散布図を作成せずに特定の運転条件(冷却水温度およびその他の各種条件)に合致する運転データを抽出し、抽出したデータを用いて後のステップを実行することも可能である。
【0040】
また、上では消費動力の実測値とメーカ値の関係を相対値(消費動力比率)で算出する場合を説明したが、
図4に示すような散布図を作成したり、式(2)に示すような近似式を導出するにあたっては、消費動力を表す値として相対値ではなく絶対値を使用することもできる。その場合、実測値としては、運転データから得られる消費動力の値そのものを用いることができる。また、メーカ値は
図7に示す如き動力特性線図を用いて算出することができる。
【0041】
以上のように、上記本実施例においては、熱源装置の実機の運転により得られた運転データから、メーカの仕様値による動力特性曲線に対応するデータ群を抽出し、抽出した運転データにおける熱源装置の消費動力を表す値の実測値と、消費動力を表す値のメーカ値との関係を表す近似式を導出し、前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性を表す成績係数値を補正している。このようにすれば、実機の運転データを用いてメーカの仕様値による動力特性値を補正することにより、実機の運転によって得られているデータが少なくても、実機の運転データに基づいた精度のよい動力特性線図を取得することができる。その際、熱源負荷率とCOPの関わる値である消費動力を用いて近似式を作成し、メーカ値と実測値のずれを補正することにより、単純な演算で良好な補正をすることが可能である。
【0042】
また、本実施例において、前記近似式は一次式とすることができ、このようにすれば、近似式の導出や動力特性値の補正を簡便に行うことができる。
【0043】
また、本実施例においては、前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いることができる。
【0044】
したがって、上記本実施例によれば、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定し得る。
【0045】
尚、本発明の熱源装置の性能推定方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。