(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電極昇降制御装置
(51)【国際特許分類】
H05B 7/152 20060101AFI20241202BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20241202BHJP
F27D 11/10 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H05B7/152
F27B3/28
F27D11/10
(21)【出願番号】P 2021157690
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】宍田 康裕
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-126417(JP,A)
【文献】特開2016-093039(JP,A)
【文献】特開2000-235886(JP,A)
【文献】特開平11-058007(JP,A)
【文献】特表2004-526281(JP,A)
【文献】特開平07-161473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B7/00-7/22
F27B1/00-3/28
F27D11/00-11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流の各相に接続された電極を昇降するモータを駆動する駆動装置に速度指令値を供給し前記モータにより前記電極を昇降することによって前記電極とスクラップとの間に形成されたアークのアーク長を制御する電極昇降制御装置であって、
前記3相交流の電圧信号をdq変換し基本波成分を抽出して電圧直流信号を生成し、生成された前記電圧直流信号を逆dq変換して、前記3相交流の各相の基本波成分の電圧実効値を計算して出力し、前記3相交流の電流信号をdq変換し基本波成分を抽出して電流直流信号を生成し、生成された前記電流直流信号を逆dq変換して、前記3相交流の各相の基本波成分の電流実効値を計算して出力する高調波除去演算手段と、
前記電圧実効値および前記電流実効値を用いてインピーダンスを演算し、演算された前記インピーダンスがあらかじめ設定された目標値に追従するように速度指令値を生成し、生成された前記速度指令値を前記駆動装置に供給する速度演算手段と、
を備えた電極昇降制御装置。
【請求項2】
前記高調波除去演算手段は、
前記3相交流の電圧信号をdq変換する第1dq変換手段と、
前記第1dq変換手段から出力される電圧信号から高調波成分を除去して前記電圧直流信号を生成する第1フィルタと、
前記電圧直流信号を逆dq変換する第1逆dq変換手段と、
前記3相交流の電流信号をdq変換する第2dq変換手段と、
前記第2dq変換手段から出力される電流信号から高調波成分を除去して前記電流直流信号を生成する第2フィルタと、
前記電流直流信号を逆dq変換する第2逆dq変換手段と、
を含む
請求項1記載の電極昇降制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流アーク炉の電極昇降制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼用の交流アーク炉の電極昇降制御装置は、電極とスクラップとの間に形成されるアークのアーク長を一定に制御して、投入電力を制御する。単位時間あたりの投入電力を大きくすることにより、スクラップの溶解がすすみ、生産性を向上させることができる。
【0003】
アーク長の制御方式としては、インピーダンス一定制御方式が知られている。インピーダンス一定制御方式では、炉電圧および炉電流のそれぞれの計測信号からインピーダンスを演算し、演算されたインピーダンスが所定の設定値に追従するように電極を昇降させる。インピーダンスの演算には、炉電圧の実効値および炉電流の実効値が用いられる。
【0004】
一方、検出器によって検出される炉電圧や炉電流は、スクラップの溶解の状態等に応じ、多くの高調波成分を含んでいる。高調波成分を含んだ交流電圧や交流電流の実測値をそのまま用いて実効値を計算すると、基本波(たとえば商用周波数)のみの実効値よりも大きい値となる。つまり、電極昇降制御装置は、入力される電圧や電流の瞬時値をそのまま用いて実効値を計算すると、投入される電力値よりも大きな電力値となる。また、電圧と電流のそれぞれに含まれる高調波成分は異なるので、演算されるインピーダンス値は、高調波成分の含有の割り合いにより、大きかったり、小さかったりすることもある。
【0005】
高調波を含んだ炉電圧や炉電流の計測値を用いてアーク長制御を行うと、投入電力を十分大きくすることができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、十分な投入電力を確保できる電極昇降制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の電極昇降制御装置は、3相交流の各相に接続された電極を昇降するモータを駆動する駆動装置に速度指令値を供給し前記モータにより前記電極を昇降することによって前記電極とスクラップとの間に形成されたアークのアーク長を制御する。この電極昇降制御装置は、前記3相交流の電圧信号をdq変換し基本波成分を抽出して電圧直流信号を生成し、生成された前記電圧直流信号を逆dq変換して、前記3相交流の各相の基本波成分の電圧実効値を計算して出力し、前記3相交流の電流信号をdq変換し基本波成分を抽出して電流直流信号を生成し、生成された前記電流直流信号を逆dq変換して、前記3相交流の各相の基本波成分の電流実効値を計算して出力する高調波除去演算手段と、前記電圧実効値および前記電流実効値を用いてインピーダンスを演算し、演算された前記インピーダンスがあらかじめ設定された目標値に追従するように速度指令値を生成し、生成された前記速度指令値を前記駆動装置に供給する速度演算手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態では、十分な投入電力を確保できる電極昇降制御装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る電極昇降制御装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の電極昇降制御装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】第2の実施形態の電極昇降制御装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電極昇降制御装置10を例示する模式的なブロック図である。
図1では、電極昇降制御装置10のほか、電極昇降制御装置10が接続された交流アーク炉の構成が合わせて示されている。なお、
図1では、後述する他の実施形態の場合の電極昇降制御装置210および高調波除去演算装置205の符号も併記されている。
図1に示すように、交流アーク炉は、交流の相ごとに、電極1、炉用変圧器2および駆動装置7等を含んでいる。炉用変圧器2の1次側は、図示しないが、高圧または特別高圧電力線に接続されている。炉用変圧器2の2次側は、電極1が接続されている。電極1は、炉体に装入されたスクラップ上に配置されており、電極1とスクラップとの間のアーク放電により、スクラップが溶解される。
【0013】
電極1は、モータを含む駆動系を介して、駆動装置7に接続されている。駆動系は、
図1では、破線の直線で示されている。駆動装置7は、モータを駆動するように設けられている。電極昇降制御装置10は、駆動装置7に接続されている。電極昇降制御装置10は、駆動装置7に速度指令値を供給してモータを駆動し、電極1とスクラップとの間の距離を調整するように、電極1を上下に昇降させる。
【0014】
炉用変圧器2の2次側には、電圧検出器3が設けられており、電圧検出器3は、たとえば電極1とスクラップ(炉体)との間の電圧値を検出する。炉用変圧器2の2次側と電極1との間には、電極1に流れる電流を検出するように電流検出器4が設けられている。電圧検出器3の出力および電流検出器4の出力は、それぞれ電極昇降制御装置10に接続されている。
【0015】
電極昇降制御装置10では、スクラップに投入される電力が設定されている。投入される電力は、たとえばスクラップの溶解の状態等によりあらかじめ設定されている。電極昇降制御装置10は、電圧検出器3によって検出された電圧の瞬時値および電流検出器4によって検出された電流の瞬時値を逐次入力して、これらにもとづいて演算されるインピーダンスが一定になるように、電極1を昇降させて、電極1とスクラップとの間に形成されるアークのアーク長を制御する。
【0016】
交流アーク炉の制御システムでは、上述のような電極1が3相のそれぞれに設けられ、電極1ごとに設けられた電極昇降制御装置10によってアーク長を制御する。
【0017】
本実施形態の電極昇降制御装置10では、あらかじめ設定された投入電力の下、検出された電圧および電流から不要な高調波成分を除去して、3相交流の各相の基本波成分を抽出して、実効値をそれぞれ演算する。電極昇降制御装置10は、3相交流の担当する相の基本波成分の実効値にもとづいて、インピーダンス一定制御を実行する。また、投入電力も、各相の基本波成分の実効値を用いて演算される。
【0018】
電極昇降制御装置10の詳細な構成について説明する。
電極昇降制御装置10は、高調波除去演算装置5と、アーク長一定制御・電極昇降速度演算装置6と、を備える。高調波除去演算装置5は、電圧検出器3の出力および電流検出器4の出力に接続されている。高調波除去演算装置(高調波除去演算手段)5は、電圧検出器3によって検出された電圧の瞬時値および電流検出器4によって検出された電流瞬時値を入力し、たとえば、1周期分の電圧波形および電流波形を生成する。生成された電圧波形および電流波形から高調波成分を除去し、高調波成分が除去された電圧の実効値および電流の実効値を演算して出力する。
【0019】
高調波が除去された電圧の実効値および電流の実効値は、アーク長一定制御・電極昇降速度演算装置6に入力され、入力した電圧の実効値および電流の実効値を用いて、インピーダンスが目標値に追従するように速度指令値を生成する。
【0020】
高調波除去演算装置5は、LPF22,26および実効値演算部24,26を含んでいる。LPF22,26は、ローパスフィルタである。LPF22,26は、3相交流電圧および電流の基本波の周波数(たとえば、商用周波数)を通過させ、それよりも高い周波数の信号を除去するように設定されている。LPF22,26は、
図2では、高調波除去用ローパスフィルタと表記されている。
【0021】
LPF22には、検出されたU相の電流の瞬時値iUが逐次入力される。LPF22は、電流の瞬時値iUから生成された電流波形から高調波成分を除去し、U相の電流の基本波成分iU1を出力する。実効値演算部24には、電流の基本波成分iU1が入力され、実効値演算部24は、基本波成分iU1の実効値IUを演算して出力する。
【0022】
LPF26には、検出されたU相の電圧の瞬時値vUが逐次入力される。LPF26は、電圧の瞬時値vUから生成された電圧波形から高調波成分を除去し、U相の電圧の基本波成分vU1を出力する。実効値演算部24には、電圧の基本波成分vU1が入力され、実効値演算部24は、基本波成分vU1の実効値VUを演算して出力する。
【0023】
高調波除去演算装置5は、V相およびW相についても同様に、電圧および電流のそれぞれの基本波成分の実効値を演算して出力する。
【0024】
3相交流の各相のアーク長一定制御・電極昇降速度演算装置(速度演算手段)6は、各相の電圧および電流の実効値を入力して、投入電力およびインピーダンス値を演算する。アーク長一定制御・電極昇降速度演算装置6は、演算したインピーダンス値があらかじめ設定された目標値に追従するように、速度指令値を生成し、駆動装置7に出力する。
【0025】
このようにして、電極昇降制御装置10は、電極1とスクラップとの間に形成されるアーク長を一定にするように電極1の位置を制御する。
【0026】
なお、LPFは、抽出すべき基本波の周波数を有する信号を抽出できれば、どのような構成でもかまわない。また、基本波の周波数を有する信号を抽出できれば、ローパスフィルタに限らず、バンドパスフィルタ等であってもよい。
【0027】
本実施形態の電極昇降制御装置10の効果について説明する。
本実施形態の電極昇降制御装置10は、検出した電圧および電流からそれぞれの高調波成分を除去し、高調波成分除去後の実効値を演算する。そのため、電極昇降制御装置10は、電極1とスクラップとの間の放電状態等にともなう高調波の影響を排除した電圧の実効値および電流の実効値を得ることができる。そのため、投入電力を目標値により近づけることが可能になる。また、検出した電圧や電流に含まれる高調波成分が同じ程度でない場合であっても、正確なインピーダンスを演算することができるので、より適切なインピーダンス一定制御を実現することができる。
【0028】
交流アーク炉に投入される電力は、高圧または特別高圧電力線から供給される。交流アーク炉が設置されるようなプラントでは、プラント内の高圧電力線は、各種調相設備等により、高調波抑制がなされている。しかしながら、交流アーク炉の制御システムが取得する電圧や電流は、スクラップの溶解の状態等に応じて変動し、高調波成分が重畳される。
【0029】
高調波成分を含む交流電圧や交流電流にもとづいて実効値を演算すると、基本波のみの場合よりも大きい値として計算される。また、スクラップの溶解に寄与するのは、投入された電力のうち、電圧および電流の基本波によるものであり、高調波成分に関連する部分は、スクラップの溶解にほとんど寄与しない。
【0030】
たとえば、あらかじめ設定された投入電力が100kW(負荷の力率を考慮済みの場合)であり、インピーダンスの目標値が10Ωの場合には、電圧の実効値は、1000Vであり、電流の実効値は10Aとなる。ここで、電圧および電流のそれぞれ5%分が高調波によるものであり、残りの95%分がスクラップの溶解に寄与するものとすると、そのときの電力は90kWとなり、目標の投入電力に対して、10%も低くなってしまう。このような場合には、インピーダンス一定制御は、適切に行われるものの、スクラップへの投入電力が実質的に低下してしまい、必要な量のスクラップを溶解するのに要する操業時間が長くなってしまう。なお、上述の具体的数値は、説明を単純化するための仮想的なものとしている。
【0031】
仮に、電圧には高調波成分が含まれず、電流に5%の高調波成分が含まれるものとすると、計算されるインピーダンスが高調波成分が含まれない場合よりも5%大きくなる。そのため、電極昇降制御装置は、電流値を上げてインピーダンスを下げようとして、電極1をスクラップに近づけるように動作する。もともと電極1がスクラップに近い状態の場合には、さらに距離を狭めるように動作することは、電極1とスクラップとの衝突事故を招くおそれがある。
【0032】
上述とは逆に、電圧に5%の高調波成分が含まれ、電流に高調波成分が含まれないような場合には、計算されるインピーダンスは、目標値よりも5%小さくなるため、電極昇降制御装置は、電流値を下げようと、電極1がスクラップから遠ざかるように制御する。もともと電極1がスクラップから離れているような場合には、さらに遠ざかるように動作することは、形成されていたアークを消失させる事態となる可能性がある。
【0033】
本実施形態では、スクラップに投入する電力をより正確に演算することができ、検出された電圧および電流が高調波成分を含んでいるときによりも投入電力を大きくすることができる。そのため、スクラップに投入する電力を実質的に大きくすることができ、スクラップの溶解時間を短縮し、生産効率を向上させることができる。
【0034】
また、設定された投入電力の下で、高調波を含んで検出された電圧および電流から高調波を除去して、実効値を演算してその演算結果にもとづいてインピーダンスを計算する。そのため、目標のインピーダンスに追従するように昇降制御したときに、電圧および電流の実効値を、実際に形成されているアークにもとづくインピーダンスにより近い値とすることができる。そのため、電極昇降制御装置10は、電極1の昇降制御をより適切に実行することができる。電極昇降制御装置10では、たとえば、電極1とスクラップとの突発的な衝突やアーク消失といった事故を防止することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
図3は、本実施形態の電極昇降制御装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図1および
図3に示すように、本実施形態の電極昇降制御装置210は、高調波除去演算装置205を備える。本実施形態の電極昇降制御装置210では、高調波除去演算装置205の構成が上述の他の実施形態の場合と相違する。
上述の他の実施形態では、各相の交流信号ごとにローパスフィルタを設けたため、実効値演算の結果が出力されるまでに位相遅れが発生する。スクラップの溶解の状態によって投入電力やインピーダンスの設定値をダイナミックに設定したい場合等に制御遅れが生じ得る。本実施形態では、3相交流信号をdq変換し、基本波成分を直流レベルに変換することにより応答性能を向上させる。
【0036】
図3に示すように、高調波除去演算装置(高調波除去演算手段)205は、abc/dq0変換部221,225と、LPF222,226と、dq0/abc変換部223,227と、実効値演算部224,228と、同期位相検出回路229と、を含む。LPFは、ローパスフィルタである。
【0037】
abc/dq0変換部221には、各相の交流電圧瞬時値vU,vV,vWが入力される。abc/dq0変換部221は、交流電圧瞬時値vU,vV,vWを、vUに同期する位相でdq変換する。dq変換されたd出力およびq出力は、LPF222により不要な高調波が除去されて、dq0/abc変換部223に入力される。dq0/abc変換部223は、各相の交流電圧に逆変換して、実効値演算部224に出力する。実効値演算部224は、各相の交流電圧の実効値VU,VV,VWをそれぞれ演算して出力する。
【0038】
abc/dq0変換部225には、各相の交流電流瞬時値iU,iV,iWが入力される。abc/dq0変換部225は、交流電流瞬時値iU,iV,iWを、vUに同期する位相でdq変換する。dq変換されたd出力およびq出力は、LPF226により不要な高調波が除去されて、dq0/abc変換部227に入力される。dq0/abc変換部227は、各相の交流電流に逆変換して、実効値演算部228に出力する。実効値演算部228は、各相の交流電流の実効値IU,IV,IWをそれぞれ演算して出力する。
【0039】
同期位相検出回路229は、U相の電圧vUに同期した位相を検出して、検出した位相を、abc/dq0変換部221,225およびdq0/abc変換部223,227に供給する。abc/dq0変換部221,225およびdq0/abc変換部223,227は、検出された位相によって変換動作を実行する。なお、検出する位相は、U相に限らず、V相でもよいし、W相でももちろんかまわない。
【0040】
本実施形態の電極昇降制御装置210の効果について説明する。
本実施形態の電極昇降制御装置210は、abc/dq0変換部221,225およびLPF222,226を含む高調波除去演算装置205を備えているので、交流電圧および交流電流の基本波を直流成分として抽出することができる。そのため、フィルタによる位相遅れを生じることなく、基本波による実効値を演算することができる。3相交流の高調波は、100Hzから数Hzと低い周波数成分を含むので、このような周波数の高調波を除去するフィルタのカットオフ周波数はそれに応じて低くなるため、それにともなう応答遅れも生じ得る。スクラップを溶解するアーク炉では、スクラップの溶解の状態に応じて、投入電力等をダイナミックに変動させる場合があり、本実施形態の電極昇降制御装置210は、そのような運転時であっても、十分に高速な制御応答を実現することができる。
【0041】
そのほか、上述の他の実施形態の場合と同様に、電極昇降制御装置210では、検出した電圧および電流の基本波の実効値を用いて、より正確に投入電力を演算することができるので、スクラップに投入する電力を実質的に大きくすることができ、スクラップの溶解時間を短縮し、生産効率を向上させることができる。また、電極昇降制御装置210では、検出した電圧および電流の基本波の実効値によりインピーダンス一定制御を行うことができるので、より正確にインピーダンス値を演算することができ、より適切に電極1の昇降制御を実行することができる。
【0042】
以上説明した実施形態によれば、より適切な電極の昇降制御を実現できる電極昇降制御装置を実現することができる。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 電極、2 炉用変圧器、3 電圧検出器、4 電流検出器、5,205 高調波除去演算装置、6 アーク長一定制御・電極昇降速度演算装置、7 駆動装置、10,210 電極昇降制御装置、22,26,222,226 LPF(ローパスフィルタ)、24,28,224,228 実効値演算部、221,225 abc/dq0変換部、223,227 dq0/abc変換部、229 同期位相検出回路