(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】切断加工品
(51)【国際特許分類】
B21D 28/02 20060101AFI20241202BHJP
B23D 15/02 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B21D28/02 Z
B23D15/02
(21)【出願番号】P 2018159647
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
(72)【発明者】
【氏名】安富 隆
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特公平7-40601(JP,B2)
【文献】特開平9-13182(JP,A)
【文献】特開2018-75600(JP,A)
【文献】特開2011-155745(JP,A)
【文献】特開2005-74567(JP,A)
【文献】特開2005-190968(JP,A)
【文献】特開昭60-62407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/02
B23D 15/02 - 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材を切断加工して形成された切断加工品であって、
前記複層材は、前記被覆材がZn、Alもしくはそれらの合金からなり、前記母材が鋼板である、めっき鋼板であり、
前記切断加工品の切断端面は、
板厚方向に第1の表面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、
板厚方向に第2の表面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、
前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面との間に形成される破断面と、
からなり、
前記母材の板厚tは、0.2mm以上10mm以下(ただし、0.5mm以下を除く。)であり、
前記切断端面を側面から見たとき、前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面は直線状であり、
前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面は、
少なくとも一部が前記母材の前記表面を覆う前記被覆材により被覆され、
前記切断端面を正面から見たときの傾斜面の厚さは、下記関係式(1)を満た
し、
前記複層材の板幅の60%以上の範囲において、
前記第1の傾斜面の厚さT
1
と前記第2の傾斜面の厚さT
2
との和及び比の値のばらつきは30%以下であり、
前記切断端面を側面から見たときの傾斜面の長さに対して被覆材が存在する部分の長さの割合で表される被覆材の被覆率のばらつきは30%以下である、切断加工品。
(T
1+T
2)<T ・・・(1)
T
1=A
1cosθ
1、T
2=A
2cosθ
2
ここで、T
1は前記切断端面を正面から見たときの前記第1の傾斜面の厚さ、T
2は前記切断端面を正面から見たときの前記第2の傾斜面の厚さ、A
1は前記切断端面を側面から見たときの前記第1の傾斜面の長さ、A
2は前記切断端面を側面から見たときの前記第2の傾斜面の長さ、θ
1は前記第1の傾斜面の傾斜角度、θ
2は前記第2の傾斜面の傾斜角度、Tは前記複層材の板厚である。
【請求項2】
前記第1の傾斜面の厚さT
1と前記第2の傾斜面の厚さT
2との比は、下記関係式(2)を満たす、請求項1に記載の切断加工品。
0.6≦(T
1/T
2)≦1.4 ・・・(2)
【請求項3】
前記切断端面を正面から見たときの前記破断面の厚さT
3は、下記関係式(3)を満たす、請求項1または2に記載の切断加工品。
0<T
3≦0.5T ・・・(3)
【請求項4】
前記第1の傾斜面は、少なくとも一部が前記母材の前記第1の表面を覆う被覆材により被覆され、
前記第2の傾斜面は、少なくとも一部が前記母材の前記第2の表面を覆う被覆材により被覆されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の切断加工品。
【請求項5】
前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面を覆う被覆材の量は、板厚方向に前記表面から中央に向かうにつれて減少する、請求項1~4のいずれか1項に記載の切断加工品。
【請求項6】
前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面について、前記切断端面を側面から見たときの傾斜面の長さに対して被覆材が存在する部分の長さの割合で表される被覆材の被覆率は、それぞれ20%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の切断加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材を切断加工して形成された切断加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面にめっき処理を施しためっき鋼板、あるいは、鋼板の表面を塗装した塗装鋼板等のように、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材が用途に応じて製造されている。例えば、建材や自動車、家電製品には、耐食性に優れるめっき鋼板が利用されている。
【0003】
めっき鋼板を用いた部品は、例えば、めっき鋼板を切断した後、加工し、製造される。めっき鋼板5の切断は、例えば
図9に示すようなせん断加工工具10を用いて切断することができる。せん断加工工具10は、ダイ11、パンチ12及びブランクホルダ13からなる。例えば、めっき鋼板5の一端をダイ11及びブランクホルダ13で拘束した状態で、ダイ11からクリアランスdを有して置かれたパンチ12をダイ11側に相対的に移動させ、めっき鋼板5にせん断力を与える。これにより、めっき鋼板5が切断される。
【0004】
図9に示したようなせん断加工工具10を用いて切断されためっき鋼板5は、
図10に示すような切断端面を有する。めっき鋼板5の切断端面は、ダレ、せん断面及び破断面からなる。ダレは、母材である鋼板5aの表面にめっき5bが被覆されためっき鋼板5に対し、めっき鋼板5の上面側から下面側に向かって
図9に示すパンチ12を押し込んだ際、めっき鋼板5の上面に作用した引張力により生じた変形である。せん断面は、めっき鋼板5にめり込んだパンチ12の移動によって形成される平滑面であり、破断面は、めっき鋼板5に生じたクラックが起点となってめっき鋼板5が破断した面である。
図10に示すように、めっき鋼板5の切断端面において、めっき5bはダレのみに残存し、せん断面及び破断面では鋼板5aが露出している。
【0005】
ここで、めっき鋼板5の切断端面において鋼板5aが露出しているせん断面及び破断面の耐食性は低く、赤錆の発生が懸念される。めっき鋼板の切断端面の防錆対策としては、例えばめっきによる犠牲防食あるいは化成が一般的である。例えば特許文献1には、切断端面のダレの大きさが、板厚方向においては板厚の0.10倍以上の範囲に、平面方向においては板厚の0.45倍以上の範囲に入るように切断加工を行うことが開示されている。このような切断加工により鋼板に掛かる引張力とせん断力を高め、素地鋼板の表面に被覆されためっき金属層を切断端面に回り込ませ、切断端面のうちせん断面の少なくとも一部をめっき金属層で被覆させる。この切断端面に回り込んだめっき金属層の犠牲防食作用により、切断端面における赤錆の発生を抑制している。
【0006】
あるいは、特許文献2には、上下両方のパンチを動かし打抜き加工を行うことによりめっき鋼板の端面加工部分のめっき残存率を高め、耐食性を高める技術が開示されている。また、上下の刃を用いて鋼片を切断する方法としては、例えば特許文献3には、一対のV字型の刃を鋼片に食い込ませて鋼片を切断する方法が開示されている。
【0007】
さらには、特許文献4には、表面処理鋼板を上下にずらした回転刃で切断した後、成形ロールを用いて端面処理する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-87294号公報
【文献】特開2008-155219号公報
【文献】特開昭60-62407号公報
【文献】特開2018-075600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1では、素地鋼板の表面のめっき金属層は、切断端面のうちせん断面の少なくとも一部のみを被覆するのみであり、破断面では素地鋼板は露出したままである。このため、めっき鋼板の切断端面の耐食性が十分ではない。また、一般に、防錆を目的として切断端面に過度の犠牲防食性を付与しようとすると、めっき鋼板表面のめっきが減少し、めっき鋼板表面の表面耐食性(すなわち、平面耐食性)が低下してしまう。
【0010】
また、上記特許文献2では、工具の構造上、上下のパンチの径は同一ではないため、切断後のめっき鋼板は、形状が対称ではなく、切断位置がくびれた形状となる。このため、くびれに水が溜まり、切断端面の耐食性が下がることが懸念される。また、鋼板の下面のめっき層は、上側のパンチによって一度下方向に向かって広範囲に延び、その後、下側のパンチによってはさまれ圧縮がかかった後に上方向に延びる鋼板に追随して移動する。この際、めっき層に引張の力がかかり、破断あるいはめっき層による切断端面の被覆が不十分となり、耐食性を発揮できないことが懸念される。
【0011】
上記特許文献3は、鋼片、特に厚手のスラブ等の切断に関する技術を開示するものであり、比較的薄いめっき鋼板等の切断に関しては具体的な記載はなく、容易に転用できるものではない。
【0012】
上記特許文献4では、表面処理鋼板の切断加工と、切断加工された表面処理鋼板の端面部の成形との、二度の加工によってめっきの被覆率を高める。しかし、上下にずらした回転刃で表面処理鋼板を切断した後、その端面部の形状を整えることから、上記特許文献2と同様、各工程で異なる方向に応力が付与されるため、めっき層に割れや剥離が生じやすい。さらに特許文献4の
図1に示すように、母材である鋼板の端面部は円弧形状である。したがって、母材の端面の表面積は、直線により規定される端面形状の場合よりも大きくなり、端面を覆うためにより多くのめっき層を表面側から流し込む必要がある。このため、表層のめっきが割れたり局部的に薄くなったりする等の不具合が生じたり、酸化被膜あるいはコンタミが付着した鋼板表面上にめっきが流れ込むことよるめっきの密着不良が生じたりする可能性がある。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複層材を切断して形成される切断加工品において、母材の平面における被覆材の機能を維持しながら、その機能を切断端面にも発現させることが可能な、新規かつ改良された切断加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、母材の表面を被覆材により被覆してなる複層材を切断加工して形成された切断加工品であって、切断加工品の切断端面は、板厚方向に第1の表面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、板厚方向に第2の表面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、第1の傾斜面と第2の傾斜面との間に形成される破断面と、からなり、第1の傾斜面及び第2の傾斜面は、少なくとも一部が母材の表面を覆う被覆材により被覆され、切断端面を正面から見たときの傾斜面の厚さは、下記関係式(1)を満たす、切断加工品が提供される。
(T1+T2)<T ・・・(1)
T1=A1cosθ1、T2=A2cosθ2
ここで、T1は切断端面を正面から見たときの第1の傾斜面の厚さ、T2は切断端面を正面から見たときの第2の傾斜面の厚さ、A1は切断端面を側面から見たときの第1の傾斜面の長さ、A2は切断端面を側面から見たときの第2の傾斜面の長さ、θ1は第1の傾斜面の傾斜角度、θ2は第2の傾斜面の傾斜角度、Tは複層材の板厚である。
【0015】
切断端面を側面から見たとき、第1の傾斜面及び第2の傾斜面は直線状であってもよい。
【0016】
第1の傾斜面の厚さT1と第2の傾斜面の厚さT2との比は、下記関係式(2)を満たすようにしてもよい。
0.6≦(T1/T2)≦1.4 ・・・(2)
【0017】
切断端面を正面から見たときの破断面の厚さT3は、下記関係式(3)を満たすようにしてもよい。
0<T3≦0.5T ・・・(3)
【0018】
第1の傾斜面は、少なくとも一部が母材の第1の表面を覆う被覆材により被覆され、第2の傾斜面は、少なくとも一部が母材の第2の表面を覆う被覆材により被覆されている。
【0019】
また、第1の傾斜面及び第2の傾斜面を覆う被覆材の量は、板厚方向に表面から中央に向かうにつれて減少している。
【0020】
第1の傾斜面及び第2の傾斜面について、切断端面を側面から見たときの傾斜面の長さに対して被覆材が存在する部分の長さの割合で表される被覆材の被覆率は、それぞれ20%以上であるのが望ましい。
【0021】
また、切断加工品は、複層材の板幅の60%以上の範囲において、第1の傾斜面の厚さT1と第2の傾斜面の厚さT2との和及び比の値のばらつきは30%以下であり、切断端面を側面から見たときの傾斜面の長さに対して被覆材が存在する部分の長さの割合で表される被覆材の被覆率のばらつきは30%以下であるように形成されてもよい。
【0022】
母材の板厚tは、0.2mm以上10mm以下であってもよい。
【0023】
被覆材は、Zn、Alもしくはそれらの合金からなる材料を用いてもよい。
【0024】
母材は、鋼板であってもよい。
【0025】
複層材は、めっき鋼板であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、複層材を切断して形成される切断加工品において、母材の平面における被覆材の機能を維持しながら、その機能を切断端面にも発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る切断加工品の切断端面を模式的に示す説明図である。
【
図2】同実施形態に係る切断加工品の形状を説明するための説明図である。
【
図3】同実施形態に係る切断加工品の形状の他の例を示す説明図である。
【
図4】同実施形態に係る切断断加工工具の一例を示す説明図であって、めっき鋼板の切断前の状態を示す。
【
図5】
図4に示す切断加工工具によるめっき鋼板の切断後の状態を示す説明図である。
【
図6】同実施形態に係る切断加工品の一例としてクラッド材の切断加工品を示す説明図である。
【
図7】切断加工品の切断端面の正面写真及び側面断面写真である。
【
図8】切断加工品の切断加工後の切断端面の50日暴露試験後の切断端面の状態を示す説明図である。
【
図9】従来のせん断加工工具の一例を示す説明図である。
【
図10】
図9のせん断加工工具により切断された複層材の切断端面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
<1.切断加工品>
[1-1.概略構成]
まず、
図1に基づいて、本発明の一実施形態に係る切断加工品3の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aを模式的に示す説明図であって、切断端面3aを側面から見た状態を示している。以下の説明では、複層材の一例として、母材である鋼板5aの表面に被覆材であるめっき5bが被覆されためっき鋼板5を取り上げる。めっき鋼板5は、例えばJIS G-3301、3302、3314、3321、3323などに規定されるめっき鋼板である。また、めっき鋼板5の板長方向をX方向、板幅方向をY方向、板厚方向をZ方向とする。
図1では、めっき鋼板5を板厚方向(Z方向)に切断して形成された切断加工品3を示しており、切断端面3aを板幅方向(Y方向)からみた状態を示している。
【0030】
図1に示すように、切断加工品3の切断端面3aは、第1の傾斜面s1と、第2の傾斜面s2と、破断面s5とからなる。
【0031】
第1の傾斜面s1は、ダレs11及び傾斜部s13からなる。第2の傾斜面s2は、ダレs21及び傾斜部s23からなる。ダレs11、S21は、めっき鋼板5を切断加工した際、めっき鋼板5の表面に作用した引張力により生じた変形である。傾斜部s13、s23は、ダレs11、s21と連続する面であり、めっき鋼板5の板厚方向に対して所定の傾斜角度を有する面である。第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、少なくとも一部が、鋼板5aの表面を被覆するめっき5bにより覆われている。
【0032】
破断面s5は、第1の傾斜面s1と第2の傾斜面s2との間に形成される面である。破断面s5は、切断加工時にめっき鋼板5に生じたクラックが起点となってめっき鋼板5が破断して形成される。このため、切断面s5はめっき5bによって被覆されにくく、鋼板5aが露出した状態となっている。
【0033】
このような切断端面3aは、
図1に示すように、側面からみて、破断面s5が第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2よりも突出した形状となる。また、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状は、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状である。以下、
図1~
図3に基づいて、本実施形態に係る切断加工品3の構成について詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る切断加工品3の形状を説明するための説明図である。
図3は、本実施形態に係る切断加工品3の形状の他の例を示す説明図である。
【0034】
[1-2.特徴]
(傾斜面の長さ及び両傾斜面の長さの比)
切断加工品3は、第1の傾斜面s1と、第2の傾斜面s2と、破断面s5とからなる切断端面3aを有する。ここで、切断加工品3は、切断端面3aの第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2について、切断端面3aを正面(X方向)から見たときの各傾斜面s1、s2の厚さが下記関係式(1)を満たす。関係式(1)では、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、切断端面3aを正面から見たときの第1の傾斜面s1の厚さT1(すなわち、板厚方向における第1の傾斜面s1の長さ(A1cosθ1))と、切断端面3aを正面から見たときの第2の傾斜面s2の厚さT2(すなわち、板厚方向における第2の傾斜面s2の長さ(A2cosθ2))との和が、めっき鋼板5の板厚Tより小さいことを表している。
【0035】
(T1+T2)<T ・・・(1)
T1=A1cosθ1、T2=A2cosθ2
A1:切断端面3aを側面から見たときの第1の傾斜面s1の長さ
A2:切断端面3aを側面から見たときの第2の傾斜面s2の長さ
θ1:第1の傾斜面s1の傾斜角度
θ2:第2の傾斜面s2の傾斜角度
T:めっき鋼板5の板厚
【0036】
また、切断加工品3は、切断端面3aの第1の傾斜面s1の厚さT1と第2の傾斜面s2の厚さT2との比(T1/T2)が下記関係式(2)を満たす。関係式(2)では、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aについて、第1の傾斜面s1の厚さ(T1=A1cosθ1)と第2の傾斜面s2の厚さ(T2=A2cosθ2)の比が0.6以上1.4以下であることを示している。これは、第1の傾斜面s1と第2の傾斜面s2との形状差が小さいこと、すなわち切断端面3aの対称性が高いことを表している。第1の傾斜面s1の厚さT1と第2の傾斜面s2の厚さT2との比(T1/T2)は、望ましくは0.75以上1.25以下、さらに望ましくは0.85以上1.15以下である。
【0037】
0.6≦(T1/T2)≦1.4 ・・・(2)
【0038】
この関係式を持たすことによって、切断端面3aの対称性の高い複層材が得られる。例えば、切断端面3aのうち少なくとも一部は、複層材の切断加工時に、刃に追従して移動する母材の表面を覆う被覆材により覆われる。このとき、母材の両面を被覆する被覆材の厚みが略同一である場合には、切断端面3aの対称性が高いほど、切断端面3aを第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2それぞれを覆う被覆材の厚みが同一となる。その結果、切断端面3aの耐食性を安定させることができる。
【0039】
ここで、第1の傾斜面s1の長さA
1は、
図2に示すように、ダレs11のめっき鋼板5の表面側の端部(以下、「傾斜開始位置P
1」とする。)から傾斜部s13の破断面s5側の端部(以下、「傾斜終了位置P
2」とする。)までの直線長さをいう。第2の傾斜面s2の長さA
2は、ダレs21のめっき鋼板5の表面側の端部(以下、「傾斜開始位置P
3」とする。)から傾斜部s23の破断面s5側の端部(以下、「傾斜終了位置P
4」とする。)までの直線長さをいう。
【0040】
また、切断加工品3の切断端面3aは、切断加工工具100の形状によっては、例えば
図3に示すように破断面s5が引きちぎられたような形状となる。この場合にも、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、それぞれダレ及び傾斜部からなる。一方の傾斜面(
図3では第1の傾斜面s1)は破断面s5と略同一の傾斜を有し、他方の傾斜面(
図3では第2の傾斜面s2)は破断面s5に向かって傾斜した後、反り返るような形状となっている。この場合、第1の傾斜面s1の厚さT
1及び第2の傾斜面s2の厚さT
2は、以下のように定義すればよい。
【0041】
第1の傾斜面s1の傾斜開始位置P
1及び第2の傾斜面s2の傾斜開始位置P
3は、
図2と同様、ダレのめっき鋼板5の表面側の端部である。第1の傾斜面s1の長さA
1は、傾斜面s1の傾斜開始位置P
1から、傾斜面s1の破断面s5側の端部である傾斜終了位置P
2までの直線長さである。第2の傾斜面s2の長さA
2は、傾斜面s2の傾斜開始位置P
3から、傾斜面s2の破断面s5側の端部である傾斜終了位置P
4までの直線長さである。このとき、傾斜面s1、s2が鋼板5a側に窪み湾曲している場合には、直線近似してその長さを求めてもよい。また、
図3のように反り返った傾斜面s2については、めっき5bが存在する部分の破断面s5側の端部P
5と傾斜開始位置P
3との間の傾斜を直線近似し、この近似直線と、反り返りの頂点でもある傾斜終了位置P
4を通る水平方向への延長線との交点P
6を傾斜終了位置P
4とみなし、第2の傾斜面s2の長さA
2の一端としてもよい。破断面s5の厚さT
3は、傾斜終了位置P
2と傾斜終了位置P
4との間の距離となる。
【0042】
第1の傾斜面s1の傾斜角度θ
1は、
図2及び
図3に示すように、板厚方向(Z方向)に延びる基準直線に対する傾斜部s13の傾きである。傾斜開始位置P
1と傾斜終了位置P
2とを結ぶ直線と基準直線とのなす角を傾斜角度θ
1とみなしてもよい。同様に、第2の傾斜面s2の傾斜角度θ
2は、基準直線に対する傾斜部s23の傾きである。傾斜開始位置P
3と傾斜終了位置P
4とを結ぶ直線と基準直線とのなす角を傾斜角度θ
2とみなしてもよい。
【0043】
めっき鋼板5の板厚Tは、
図2及び
図3に示すように、鋼板5aの板厚tと、鋼板5aの表面に形成されためっき5bのめっき層厚t
a、t
bとの和で表される。なお、
図1~
図3において、めっき層厚t
aとめっき層厚t
bとは、略同一としているが、本技術はかかる例に限定されず、めっき層厚t
aとめっき層厚t
bとは異なる厚さであってもよい。
【0044】
さらに、切断加工品3は、切断端面3aを正面から見たときの破断面s5の厚さT3が下記関係式(3)を満たす。関係式(3)は、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、切断最終段階での延性破壊面である破断面s5の長さが、板厚の50%以下であることを表している。なお、破断面s5の厚さT3が0とは、切断端面3aが傾斜面s1、s2のみからなることを意味する。実際の切断加工品においてはほぼ0に近い状態であっても破断面s5は存在することから、切断加工品3の破断面s5の厚さT3は0より大きいものとする。破断面s5の厚さT3は、望ましくは0.4、さらに望ましくは0.3以下とする。
【0045】
0<T3≦0.5T ・・・(3)
【0046】
この関係式を持たすことによって、傾斜面s1、s2(すなわち、ダレ部s11、s21及び傾斜部s13、s23)が増加するため、結果的にめっきの被覆率が向上する。すなわち、母材に対して犠牲防食をする場合は、切断端面耐食性の向上効果が発現される。またこの形状は、切断工具の刃先形状あるいは位置を調整することによって得られる。
【0047】
(傾斜面のめっき被覆)
第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、少なくとも一部がめっきにより覆われている。より詳細には、
図1に示すように、第1の傾斜面s1は、鋼板5aの下面(第1の表面)を覆うめっき5bにより被覆されている。第2の傾斜面s2は、鋼板5aの上面(第2の表面)を覆うめっき5bにより被覆されている。このように、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、めっき鋼板5のめっき層から連続するめっき5bによりそれぞれ覆われている。このように、鋼板5aの表面から傾斜面にわたって同一のめっき5bで覆うことで、切断端面3aにおける鋼板5aの酸化を抑制することができる。
【0048】
例えば、めっき鋼板5の切断後に、切断端面3aをめっき処理したり塗装したりすることで、切断端面3aで鋼板5aが露出しないようにすることは可能である。しかし、めっき鋼板5のめっき5bと同一組成の材料で切断端面3aを被覆することは難しく、切断端面3aの耐食性は鋼板5aの表面に比べて低い。これに対して、本実施形態に係る切断加工品3の切断端面3aは、連続する同一のめっき5bで鋼板5aの表面から傾斜面s1、s2まで被覆されている。かかるめっき5bは、切断加工時に、切断加工工具の刃部の動きに追従して鋼板5aの表面から傾斜面s1、s2へ向かって、鋼板5aに押しつけられながら移動する。このため、後から切断端面3aに対する表面処理を行う場合よりも切断端面3aにおける鋼板5aとめっき5bとの密着力が高くなり、切断端面3aの耐食性を高めることができる。
【0049】
また、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2を覆うめっき5bの量は、板厚方向(Z方向)に鋼板5aの表面から中央に向かうにつれて減少している。すなわち、
図1及び
図2に示すように、鋼板5aの表面を被覆するめっき5bのめっき層厚に比べて、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2では、表面から板幅方向の中央に向かってめっき層厚は徐々に小さくなっている。第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2を覆うめっき5bは、めっき鋼板5を構成するめっき層のめっき5bが移動したものである。このため、第1の傾斜面s1及び第1の傾斜面s2のめっき5bのめっき層厚が厚くなると、切断端面3aの耐食性は向上するが、鋼板5aの表面のめっき5bのめっき層厚が薄くなるため、平面耐食性が低下する可能性がある。したがって、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2では、鋼板5aの表面から中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっき5bの量が減少するように、めっき5bが被覆されていることで、切断加工品3の平面耐食性を維持するとともに、切断端面3aの耐食性を高めることができる。
【0050】
ここで、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状は、
図1~
図3に示すように、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状となるようにしてもよい。仮に、鋼板5aの切断端面3aの形状が側面から見て円弧形状であると、
図1~
図3に示すように第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の鋼板5aが略直線状である場合に比べ、鋼板5aの端面の表面積が大きくなる。そうすると、切断端面3aを覆うためにより多くのめっき層のめっき5bを表面側から切断端面3aに流し込む必要がある。そこで、
図1~
図3に示すように、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2の母材である鋼板5aの形状を、切断端面3aを側面から見たとき、略直線状となるようにすることで、表層にめっきの割れが生じたり局部的に薄くなったりする等の不具合が生じることを抑制できる。
【0051】
さらに、第1の傾斜面s1及び第2の傾斜面s2は、必ずしも傾斜面全体がめっき5bにより覆われている必要はなく、少なくとも一部がめっき5bにより覆われていればよい。傾斜面s1、s2の一部が覆われていれば、めっき5bにより覆われていない部分についても犠牲防食効果により腐食の進行が抑制される。犠牲防食効果を傾斜面s1、s2及び破断面s5に及ぼすためには、傾斜面s1、s2のめっき被覆率Xは20%以上であるのが好ましい。
【0052】
ここで、めっき被覆率Xは、切断端面3aを側面(すなわち、板幅方向(Y方向))から見たときの傾斜面s1、s2の長さA1、A2に対して、めっき5bが存在する部分の長さB1、B2の割合であり、下記式(4)で表される。なお、下記式(4)において、Aは、第1の傾斜面s1の長さA1と第2の傾斜面s2の長さA2との和(すなわち、A1+A2)である。Bは、第1の傾斜面s1においてめっき5bが存在する部分の長さB1と第2の傾斜面s2においてめっき5bが存在する部分の長さB2との和(すなわち、B1+B2)である。
【0053】
X=100×(B/A) ・・・(4)
A(=A1+A2):傾斜面の長さ
B(=B1+B2):めっきが存在する部分の長さ
【0054】
めっき5bが存在する部分の長さB1、B2は、傾斜開始位置P1、P3から、傾斜面s1、s2におけるめっき5bのめっき層厚が、切断加工前のめっき鋼板5のめっき層厚ta、tbの5%程度となった位置までの長さとする。これは、耐食性のためにめっき処理をした材料の長期利用を考えた場合、めっき鋼板5の表面と同程度の耐食性が切断端面3aでも必要となることによる。めっき鋼板5から切断端面に溶け出しためっき成分の回り込みを考慮すると、5%程度のめっきが切断端面3aに残留していれば初期の耐食性として発現すると考えられる。また、めっき5bが残存する位置を特定するための係数は、鋼板5aの板厚tに応じて設定すればよい。鋼板5aの板厚tが小さければ、係数は小さくてもよい。なお、鋼板5aの板厚tは、切断加工品3を製造可能な板厚であればよく、例えば0.2mm以上10mm以下としてもよい。
【0055】
また、切断加工品3が
図3に示したような切断端面3aを有する場合、反り返った傾斜面s2については、反り返りの頂点でもある傾斜終了位置P
4よりもダレ側において一旦めっき5bがほぼ存在しなくなるが、工具の先端に残存するめっきが傾斜終了位置P
4付近に付着することもある。傾斜終了位置P
4付近のめっきの付着は不確定要素であるため、傾斜終了位置P
4付近のめっき層厚が切断加工前のめっき鋼板5のめっき層厚t
a、t
bの5%程度以上であったとしても、めっき5bが存在する部分の長さB
2としては考慮しないこととしてもよい。
【0056】
このように、本実施形態によれば、めっき鋼板5の切断端面の形状を上述のようにすることで、めっき鋼板5において複層材であるめっき5bによる平面耐食性を維持しながら、切断端面耐食性を向上させることができる。
【0057】
(切断端面の観察方法)
切断加工品3の形状は、切断端面3aを観察することにより特定可能である。
【0058】
切断端面3aを正面から見たときの第1の傾斜面s1の厚さT
1及び第2の傾斜面s2の厚さT
2は、切断加工品3を樹脂等に埋め込み研磨して作成された試料を側面から観察することにより測定される。すなわち、試料は、
図1に示すようにY方向(板幅方向)から観察される。観察は、例えば実体顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて行われる。具体的には、例えば、試料を幅方向に測定回数で等分し、各断面を測定すればよい。測定は、少なくとも3箇所行うのがよい。そして、各断面における第1の傾斜面s1の厚さの平均値を第1の傾斜面s1の厚さT
1とし、各断面における第2の傾斜面s2の厚さの平均値を第2の傾斜面s2の厚さT
2とすればよい。
【0059】
切断端面における被覆材の被覆率を観察する場合には、被覆材の種類によっては実際の被覆率よりも少ない被覆材しか観察されないことがある。このため、例えば試料作成時に、被覆材周辺部を当て板により補強した状態で樹脂等に埋め込み研磨するのが望ましい。また、被覆材の種類または硬度に応じた研磨方法を用いるのが望ましい。
【0060】
切断加工品3を樹脂等に埋め込み作成した試料を観察する方法以外の、切断加工品3の切断端面3aを観察する別の方法としては、例えば、切断端面3aを正面から実体顕微鏡またはSEM-EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって観察する方法がある。色あるいは光沢によって被覆材を確認可能な場合は実体顕微鏡を用いて切断端面3aの被覆材を確認すればよい。一方、色あるいは光沢からは被覆材の確認が困難な場合は、SEMの反射電子像(BSE像)あるいはEDSを用いて被覆材の存在を確認すればよい。
【0061】
これらの方法から、実際に切断端面3aのどのあたりまで被覆材が存在しているかを推測することができるので、研磨が目的通りに実施されているかを確認することができる。なお、試料の研磨が難しい場合は、切断加工品3を正面から(すなわちX方向から)観察し、切断端面3aにおいて被覆材が存在している部分の長さを測定することにより、第1の傾斜面s1の厚さT1及び第2の傾斜面s2の厚さT2を特定してもよい。このとき、切断端面3aの板幅方向の複数箇所において被覆材が存在している部分の長さを測定し、これらの平均長さを傾斜面の厚さとしてもよい。
【0062】
なお、本実施形態に係る切断加工品3は、複層材の板幅の60%以上の範囲において、第1の傾斜面s1の厚さT1と第2の傾斜面s2の厚さT2との和及び比の値のばらつきが30%以下であれば、切断端面3aの複層材の平面耐食性を維持しながら切断端面耐食性を向上させることが可能である。このとき、複層材の板幅の60%以上の範囲において、切断端面3aを側面から見たときの被覆材の被覆率のばらつきは、30%以下であればよい。被覆率のばらつきについては、上記被覆率の測定時と同様、被覆材が被覆されている部分を、実体顕微鏡またはSEM-EDSを用いて板幅方向に複数箇所測定し、これらの平均値を算出することにより、そのばらつきを算出すればよい。
【0063】
<3.切断加工>
本実施形態に係る切断加工品3は、例えば
図4及び
図5に示す切断加工工具100によって製造可能である。
図4は、本実施形態に係る切断加工工具100の一例を示す説明図であって、めっき鋼板5の切断前の状態を示す。
図5は、
図4に示す切断加工工具100によるめっき鋼板5の切断後の状態を示す説明図である。
【0064】
本実施形態に係る切断加工工具100は、
図4に示すように、板幅方向(Y方向)から見て、基部111に楔形状の第1の刃部113を有するダイ110と、基部121に楔形状の第2の刃部123を有するパンチ120と、からなる。楔形状の第1の刃部113及び第2の刃部123は板幅方向(Y方向)に延びており、第1の刃部113及び第2の刃部123の延びる方向に沿ってめっき鋼板5は切断される。
【0065】
ダイ110の第1の刃部113及びパンチ120の第2の刃部123により切断されるめっき鋼板5は、その両端をブランクホルダ(図示せず。)により保持された状態で、ダイ110とパンチ120との間に配置される。このとき、ダイ110とパンチ120とは、第1の刃部113と第2の刃部123とを対向させて設置されている。そして、ダイ110に対してパンチ120を相対的に押し込ませることで、
図5に示すようにめっき鋼板5が切断される。
【0066】
本実施形態に係る切断加工工具100は、パンチ120をダイ110に押し込んだ際、第1の刃部113及び第2の刃部123とめっき鋼板5との間に生じる引張力により、めっき鋼板5の表面のめっき5bを切断端面3aへ入り込ませ、
図1及び
図2に示したように切断端面3aがめっき5bで覆われるようにする。すなわち、パンチ120をダイ110に押し込んだときのめっき鋼板5に対する第1の刃部113及び第2の刃部123の動きにめっき鋼板5の表面のめっき5bを追従させ、めっき5bを切断端面3aへ入り込ませる。これにより、めっき鋼板5を切断加工して製造された切断加工品3の切断端面3aをめっき5bで被覆させることができる。
【0067】
なお、本実施形態に係る切断加工工具100により切断されためっき鋼板5の切断端面3aの形状は、第1の刃部113及び第2の刃部123の形状に起因する。第1の刃部113及び第2の刃部123は楔形状であるため、めっき鋼板5の切断端面3aには、
図10に示したような垂直なせん断面ではなく、
図1及び
図2に示すような楔形状の斜面に沿った傾斜面s1、s2を有する形状となる。その結果、切断加工により製造された切断加工品3の切断端面3aは、板厚方向中心に向かうにつれて突出した形状となる。
【0068】
また、
図4及び
図5に示した切断加工工具100のように第1の刃部113及び第2の刃部123の形状を楔形状とすることで、めっき鋼板5の切断時、楔形状の斜面に沿って鋼板5aの表面のめっき5bが第1の刃部113及び第2の刃部123の動きに追従しやすくなる。その結果、
図1等に示すように、鋼板5aの表面のめっき5bを切断端面3aのダレs11、s21だけでなく、傾斜部s13、s23まで追従させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る切断加工工具100のように、ダイ110の第1の刃部113とパンチ120の第2の刃部123とを楔形状とすることで、例えば引張強度が100MPa以上の強度を有する材料、あるいは、厚みのある材料も切断可能となる。
【0070】
<4.複層材>
上記説明では、複層材はめっき鋼板であったが、本発明はかかる例に限定されない。被覆材は、母材の表面を被覆材により被覆して形成されているものであればよい。例えば、鋼板等の金属材を母材とし、Zn、Alもしくはそれらの合金からなる材料、酸化物被膜、塗装材、樹脂材等を被覆材としてもよい。付帯的には、複層材は、母材である金属材に対して表面を塗装した塗装鋼板であってもよく、鋼板にフィルムをラミネートしたフィルムラミネート鋼板であってもよい。あるいは、
図6に示すように、切断加工品3を、母材7aと被覆材7bとからなるクラッド材7から製造することも可能である。クラッド材7としては、例えば、Cu板を母材7a、Ni板を被覆材7bとしたNiクラッド銅材等がある。
【0071】
また、複層材を構成する被覆材は1層のみに限定されるものではなく、複数層被覆されていてもよい。例えば、上述のめっき鋼板の表面に、化成処理、塗装、ラミネート等の処理がされていてもよい。この場合、上記関係式(1)~(3)は、母材の直上に被覆された被覆材について考慮すればよい。
【0072】
なお、複層材の平面耐食性を維持しながら切断端面耐食性を向上させるとの目的とは異なるが、プラスチック等の樹脂材を母材として、Cu、Cr、Ag、Au、Pt等の金属材を被覆材とした複層材の切断加工品も、同様に形成することができる。
【0073】
金属が被覆されたプラスチック等の樹脂材を切断すると、端面の電気伝導性が失われる。また、樹脂の露出する比率が高い場合は帯電しやすくなるため、火花の発生等が懸念される。そこで、このような樹脂材の切断端面を、本実施形態に係る複層材の切断端面と同様の形状とすることにより、切断端面の電気伝導性を向上させ、帯電を防止することが可能となる。
【0074】
また、クラッド材の場合は、被覆材との組み合わせ、用途によって切断加工されたときに求められる目的は異なる。しかし、本実施形態にかかる複層材の切断端面と同様の形状とすることで、切断端面の母材の耐食性、耐薬品性等を改善し得る。また、切断端面の一部あるいは全体の電気伝導性、熱伝導性、磁性等を、従来の切断法に比較して改善し得る。
【0075】
塗膜、ラミネートの場合は、その切断端面を本実施形態にかかる複層材の切断端面と同様の形状とすることで、母材の耐食性はもちろん、塗膜-フィルム下の膨れの抑制、母材が露出しないことによる外観の改善、切断端面の一部あるいは全体の絶縁性の改善を実現し得る。
【0076】
このように、複層材の切断端面の形状を、本実施形態に係る切断端面の形状とすることで、平面において被覆材が有する機能を、切断端面にも持たせることが可能となる。なお、被覆材が有する機能は上述の例に限定されるものではなく、被覆材の用途に応じてその機能を発現し得る。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
図7に、加工工具により切断されためっき鋼板の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。比較例として、
図9に示した従来のせん断加工工具10を用いてめっき鋼板を切断したときの、めっき鋼板の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。また、実施例として、
図4に示した切断加工工具100を用いてめっき鋼板を切断したときの、めっき鋼板の切断端面の正面写真及び側面断面写真を示す。実施例では、ダイの刃先の先端半径R
1及びパンチの刃先の先端半径R
2を0.05mmとした場合(実施例1)と0.5mmとした場合(実施例2)とについて調べた。
【0078】
図7に示すように、比較例では、切断端面は、ダレ、せん断面及び破断面で形成されており、破断面の割合が大きかった。めっきは、ダレには多く存在していたが、せん断面及び破断面にはほとんど存在しなかった。せん断面は、工具の刃先が鋼板及びめっきに入り込むことで形成され、破断面は延性破壊亀裂の進展によって形成される。このため、従来のせん断加工工具を用いた場合には、めっきはせん断面及び破断面に追従できず、めっきがほとんど存在しなかったと考えられる。
【0079】
一方、実施例1、2では、切断端面は、ダレ、傾斜面及び破断面で形成されており、傾斜面の割合が大きかった。傾斜面にはめっきが残存しており、鋼板表面から板厚中央に向かうにつれて傾斜面を覆うめっきの量は減少していた。
【0080】
また、
図8に、
図7の比較例のせん断加工品及び実施例1、2の切断加工品について50日暴露試験を行ったときの切断端面の状態を示す。めっき被覆率は、上記式(4)に基づき算出した。50日暴露試験は、工場近くの海岸沿いにこれらの加工品を50日間放置し、その後の切断端面の状態を調べた。各切断端面の外観を
図8左側に示し、各切断端面を樹脂に埋め込み観察した状態を
図8右側に示す。
【0081】
図8に示すように、比較例のせん断加工品は、切断端面の傾斜面のめっき被覆率は約10%であった。比較例のせん断加工品について50日暴露試験を実施した後、切断端面の赤錆発生率を調べたところ、切断端面の約95%で赤錆が発生していた。切断端面は、発生した赤錆が流れ、外観不良となっていた。一方、実施例1、2の切断加工品は、切断端面の傾斜面のめっき被覆率は約50~80%であった。実施例1、2の切断加工品について50日暴露試験を実施した後、切断端面の赤錆発生率を調べたところ、赤錆の発生は切断端面の約30%で抑制されていた。また、切断端面の外観も良好であった。
【0082】
(実施例2)
(1)めっき鋼板以外の複層材の検証
下記表1に示す4つの複層材について、上記関係式(1)~(3)に基づく加工品の形状と各複層材に求められる性能との関係を調べた。
【0083】
実施例A1及び比較例A1では、母材であるAlの表面に被覆材としてSUSが被覆された複層材を加工し、加工品を製造した。実施例A2及び比較例A2では、母材であるCuの表面に被覆材としてNiが被覆された複層材を加工し、加工品を製造した。実施例A3及び比較例A3では、母材であるABS樹脂の表面に被覆材としてCuが被覆された複層材を加工し、加工品を製造した。実施例A4及び比較例A4では、母材であるABS樹脂の表面に被覆材としてCrが被覆された複層材を加工し、加工品を製造した。
【0084】
実施例A1~A4については、上述の本実施形態に係る切断加工方法により複層材を加工し、上記関係式(1)~(3)を満たす切断加工品を製造した。一方、比較例A1~A4については、
図9に示した従来のせん断加工方法により複層材を加工し、せん断加工品を製造した。このため、比較例A1~A4のせん断加工品は、
図10に示したような端面形状となり、上記関係式(1)~(3)を満たさないものであった。
【0085】
表1に、上記せん断加工品及び切断加工品に対する評価結果を示す。なお、せん断加工品及び切断加工品に対する評価は、被覆材と母材との組み合わせによって求められる機能が異なるため、以下のように行った。
【0086】
実施例A1、A2及び比較例A1、A2については、切断端面の母材の耐食性、耐薬品性を検証するため、せん断加工品及び切断加工品をリチウムイオン二次電池に使用される有機溶媒系電解液に60分浸漬させた後に取り出し、以下の基準に基づき外観判断し、溶損の有無を調べた。
○(溶損なし):切断端面において外観変化が起きている面積が60%以下
×(溶損あり):切断端面において外観変化が起きている面積が60%超
【0087】
実施例A3、A4及び比較例A3、A4については、切断端面の電気伝導性を検証するため、以下の基準に基づき、切断端面と被覆材の表面との間の通電有無を調べた。
○(通電あり):通電した面積が切断端面の20%以上
×(通電なし):通電した面積が切断端面の20%未満
【0088】
【0089】
表1より、実施例A1~A4の切断加工品は、上記関係式(1)を満たす結果、それぞれに求められる機能を発現できていた。さらに、実施例A1~A4の切断加工品は、上記関係式(2)、(3)を満たしていることから、それぞれに求められる機能がより有意に発現されていたと推察される。一方、比較例A1~A4のせん断加工品は、上記関係式(1)を満たしておらず、さらには関係式(2)、(3)を満たしていないため、いずれも求められる機能が発現できていない結果となった。
【0090】
なお、本実施例にて検証した複層材は一例であり、他の複層材についても同様の結果が得られることは言うまでもない。例えば、金属材である母材の表面にAl、Cu、Ti、Sn、SUS等の被覆材を被覆した複層材、あるいは、樹脂材である母材の表面に塩化ビニル樹脂あるいはABS樹脂等の被覆した被覆材についても、上記と同等の結果が得られる。
【0091】
(2)めっき鋼板の検証
次に、下記表2に示すめっき鋼板である被覆材A~H及び鋼板Iについて、上記関係式(1)~(3)に基づく加工品の形状と50日暴露試験の実施結果との関係を調べた。その結果を表3に示す。なお、耐食性の評価は、海浜の日向環境に試料の切断端面(評価面)が上方を向くように設置し、50日間曝露した後の評価面の状態に基づき行った。評価面の状態は、評価面の全面積に対する赤錆が発生した面積の割合(赤錆発生面積率)に基づき、以下のように分類した。
◎(優):赤錆発生面積率30%未満
○(良):赤錆発生面積率30%以上60%未満
△(可):赤錆発生面積率60%以上80%未満
×(不可):赤錆発生面積率80%以上
【0092】
【0093】
【0094】
表3より、実施例B1~B36は、上記式(1)の関係を満たす結果、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも80%未満となった。なお、実施例B11、B12については、他の実施例の切断加工品に比べて板厚が薄い。このため、切断加工時にめっき鋼板が強固に抑えられていないと、刃部が当たるタイミングがずれてゆがみが生じやすい。しかし、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率は80%未満にとどまっている。また、実施例B21~B24に示すように、下刃(
図5の第1の刃部113)及び上刃(
図5の第2の刃部123)の形状が異なる場合であっても、切断加工品の切断端面の形状が上記式(1)の関係を満たすことで、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも80%未満とすることができた。さらに、実施例B1~B36の切断加工品は、上記関係式(2)、(3)を満たしていることから、安定した切断端面の耐食性を発現できていたと推察される。
【0095】
一方、比較例B1~B11、B14~B18は、上記式(1)~(3)の関係を満たさないため、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも80%以上となった。また、比較例B12、B13については、特許文献2の手法に基づきせん断した場合のせん断加工品の評価を行った。この場合も、上記式(1)、(2)の関係性を満たさないため、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも80%以上となった。比較例B20、B21は、めっき層のない冷延鋼板のせん断加工品のため、切断端面の形状は実施例と同様であるが耐食性がないことから、50日暴露試験後の評価面の赤錆発生面積率はいずれも80%以上となった。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0097】
例えば、上記実施形態の切断加工品は、板厚方向中央に対して上下対称の形状であったが、本発明はかかる例に限定されず、上下非対称の形状であってもよい。例えば、第1の傾斜面s1の長さA1が第2の傾斜面s2の長さA2よりも短くてもよい。また、傾斜角度θ1、θ2も必ずしも同一でなくともよい。
【符号の説明】
【0098】
3 切断加工品
3a 切断端面
5 めっき鋼板
5a 鋼板
5b めっき
7 クラッド材
7a 母材
7b 被覆材
100 切断加工工具
110 ダイ
111、121 基部
113 第1の刃部
120 パンチ
123 第2の刃部