(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20241202BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241202BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20241202BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241202BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09K3/18 102
C09K3/18 103
C09D7/62
C09D183/00
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2020050796
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537484(JP,A)
【文献】特表2016-539085(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073726(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159867(WO,A1)
【文献】特開2009-154480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水撥油性膜
形成用液組成物の製造方法であって、
下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示される、ペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系化合物(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と、ケイ素アルコキシドの加水分解物であるシリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)とを含み、
前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、前記フッ素系化合物(A)の含有割合が、1質量%~30質量%であり、かつ前記フッ素系化合物(A)と前記金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、
前記金属酸化物粒子(B)に対する前記フッ素系化合物(A)の質量比(A/B)が0.05~0.80の範囲にあ
り、
フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とシリカゾルゲル液とを混合して調製される撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【化6】
【化7】
上記
式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物
の製造方法。
【請求項3】
前記シリカゾルゲル(C)は、前記シリカゾルゲルを100質量%としたときに、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物
の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物
の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液が、前記金属酸化物粒子(B)の分散液にフッ素系化合物(A)を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して調製される請求項
1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項6】
前記シリカゾルゲル液が、ケイ素アルコキシドとアルコールと水の混合液に触媒を添加混合して調製される請求項
1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性と撥油性を有する撥水撥油性膜を形成するための液組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、金属酸化物粒子を含む撥水撥油性膜形成用液組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、撥水性と撥油性を有する膜形成用液組成物及びその製造方法として、本出願人は、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、シリカゾルゲルを100質量%とするときに、このシリカゾルゲルが下記の一般式(28)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分(F)を0.5質量%~10質量%と炭素数2~7のアルキレン基成分(G)を0.5質量%~20質量%含み、溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする膜形成用液組成物を提案した(特許文献1(請求項1、請求項2)参照。)。
【0003】
この特許文献1には、(a) ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとエポキシ基含有シラン(B)と沸点が120℃未満の炭素数1~4のアルコールと水とを混合して混合液を調製する工程と、(b) 前記混合液と有機酸、無機酸又はチタン化合物からなる触媒とを混合して前記ケイ素アルコキシド(A)と前記エポキシ基含有シラン(B)とを加水分解することにより第1加水分解物(C)を含む液を調製する工程と、(c) 前記第1加水分解物(C)を含む液に、下記の一般式(28)で示されるフッ素含有シラン(D)と炭素数1~4のアルコール又は炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒とを混合して、前記フッ素含有シラン(D)を加水分解することにより第2加水分解物のシリカゾルゲル(E)を含む膜形成用液組成物を製造する工程とを含む方法であって、前記工程(a)において前記エポキシ基含有シラン(B)を前記ケイ素アルコキシド(A)と前記エポキシ基含有シラン(B)の合計質量に対して1~40質量%含むように混合し、前記工程(c)において前記フッ素含有シラン(D)を前記シリカゾルゲル(E)に対して0.6~12質量%の割合になるように混合することを特徴とする膜形成用液組成物の製造方法が示される。
【0004】
【0005】
一方、本出願人は、有機溶媒中に平均粒径が5~200nmであって親水性を有する炭酸カルシウムを分散させて分散液を調整する第1工程と、前記分散液中に、下記一般式(29)で表される含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸、又はそのハロゲン化物であるフッ素化合物を添加して、前記炭酸カルシウムと前記フッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する第2工程と、を含むフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法を提案した(特許文献2(請求項1、請求項5,請求項6、段落[0006]、段落[0017]、段落[0061]~段落[0065])参照。)。この特許文献2には、第2工程において、無機化合物の分散液中に、化学式[R1Si(OR2)3]で示されるトリアルコキシシランのようなシランカップリング剤を添加してもよい旨が示される。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許6609382号公報
【文献】特開2018-39987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された膜形成用液組成物及びその製造方法では、成膜性に優れ、基材への密着性が良好で、強度の高く、虹色の干渉縞を発生しない膜を形成できる特長があるけれども、膜を形成したときに、膜の硬さと膜の摩耗強度が十分でない。また膜が平滑に形成されるため、膜表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ち易く、特許文献1の発明には、更なる改善が求められていた。
【0009】
また、特許文献2には、無機化合物の親水性、耐久性、表面構造形成能とフッ素化合物が持つ優れた撥水・撥油・防汚特性とを活かす材料であって、低分子量のフッ素化合物を原料とし、高い撥水撥油性、または親水撥油性を有する新規なフッ素含有ナノコンポジット粒子及びその製造方法を提供する旨が記載され、また第2工程において、無機化合物の分散液中に、トリアルコキシシランのようなシランカップリング剤を添加する旨が記載されている。しかしながら、第2工程でシランカップリング剤を添加した場合には、シランカップリング剤は主に無機化合物との結合に用いられ、膜を基材に密着させるためのバインダとして用いられなかった。そのため、特許文献1の発明よりも、膜の硬さと膜の摩耗強度がより十分でなく、特許文献2の発明にも改善が求められていた。
【0010】
更に、特許文献1に示されるフッ素含有官能基成分(F)及び特許文献2に示されるフッ素化合物は、ともにペルフルオロアミン構造であって、ペルフルオロ基が窒素を中心として結合しているため、剛直な構造を取り易い。そのため、液組成物中にフッ素の含有量を多くしても、膜に油が付着したときに、油の転落性が良好にならない場合があり、撥油性の観点から、特許文献1の発明及び特許文献2の発明には、まだ改善すべき余地があった。
【0011】
本発明の目的は、形成した膜の撥油性が高く、膜の硬さと膜の摩耗強度が向上し、膜表面に指紋が目立ちにくい撥水撥油性膜形成用液組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ペルフルオロエーテル構造はペルフルオロアミン構造と比べて柔軟な構造を取り易く、ペルフルオロエーテル構造のフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物がフッ素の含有量が少なくても、膜に油が付着したときに、油の転落性が良好であること、金属酸化物粒子同士をシリカゾルゲルで結着させて膜を形成すると、膜の硬さと膜の摩耗強度が向上し、かつ膜表面に凹凸が形成されて耐指紋性が改善されることに着目し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の第1の観点は、撥水撥油性膜を形成するための液組成物であって、下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系化合物(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と、ケイ素アルコキシドの加水分解物であるシリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)とを含み、前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、前記フッ素系化合物(A)の含有割合が、1質量%~30質量%であり、かつ前記フッ素系化合物(A)と前記金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、前記金属酸化物粒子(B)に対する前記フッ素系化合物(A)の質量比(A/B)が0.05~0.80の範囲にあることを特徴とする撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0014】
【0015】
上記式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0017】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である。
【0018】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記シリカゾルゲル(C)は、前記シリカゾルゲルを100質量%としたときに、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0019】
本発明の第4の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0020】
本発明の第5の観点は、第1から第4の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物を製造するための撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法であって、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とシリカゾルゲル液とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を製造する撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【0021】
本発明の第6の観点は、第5の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液が、前記金属酸化物粒子(B)の分散液にフッ素系化合物(A)を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して、調製される請求項5記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【0023】
本発明の第7の観点は、第5の観点に基づく発明であって、前記シリカゾルゲル液が、ケイ素アルコキシドとアルコールと水の混合液に触媒を添加混合して、調製される撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物は、前述した式(19)から式(27)のいずれか1つで示される、ペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系化合物(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と、ケイ素アルコキシドの加水分解物であるシリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)とを含み、前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、前記フッ素系化合物(A)の含有割合が、1質量%~30質量%であり、かつ前記フッ素系化合物(A)と前記金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合が、5質量%~80質量%であり、前記金属酸化物粒子(B)に対する前記フッ素系化合物(A)の質量比(A/B)が0.05~0.80の範囲にある。この液組成物は、成膜したときに、前記フッ素系化合物(A)が結合した金属酸化物粒子(B)を含むため、形成した膜の撥油性が高い。また成膜したときに、平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)同士がシリカゾルゲル(C)により、膜中で結合するため、膜の硬さと膜の摩耗強度を向上させることができる。形成した膜の表面が平滑でないため、膜表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい。
【0025】
本発明の第2の観点の液組成物では、金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、形成する膜の用途又は使用環境に適した金属酸化物粒子を含むことができる。
【0026】
本発明の第3の観点の液組成物では、シリカゾルゲル中に炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含むため、撥水撥油性膜を形成する基材に良好に密着し、かつ撥水撥油性膜の厚さが均一になり、撥水撥油性膜により一層優れた撥油性能を付与することができる。
【0027】
本発明の第4の観点の液組成物では、溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールとこのアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であるため、液組成物の乾燥速度が向上し、液組成物の粘度が低減する。このため、この液組成物は取り扱いが容易で、基材への成膜性に優れる。
【0028】
本発明の第5の観点の液組成物の製造方法では、
第1から第4の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物を製造するための撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法であって、図1に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とシリカゾルゲル液とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を製造する。これにより、粒子表面が撥水撥油性である金属酸化物粒子がシリカゾルゲル中に存在し、液組成物を成膜したときに、膜に撥水撥油性が保持される。
【0029】
本発明の第6の観点の液組成物の製造方法では、金属酸化物粒子(B)の分散液にフッ素系化合物(A)を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合するため、フッ素含有金属酸化物粒子が均一に分散した分散液が得られる。
【0031】
本発明の第7の観点の液組成物の製造方法では、ケイ素アルコキシドとアルコールと水の混合液に触媒を添加混合して調製されたシリカゾルゲル液は、フッ素含有金属酸化物粒子のバインダとして作用するとともに、液組成物を基材表面に成膜したときに、膜を基材表面に堅牢に結着させることができる。
【0032】
なお、比較のために述べると、後述する比較例4に示すように、ケイ素アルコキシドとフッ素含有シランとアルコールと水の混合液に触媒を添加混合して得られたゾルゲル液に、金属酸化物粒子の分散液を添加する、
図1に示した本発明とは異なる方法で撥水撥油性膜形成用液組成物を製造した場合には、この液組成物を成膜したときに、膜に肝心の撥油性能を十分に付与させることができない。これに対して、本発明の第5ないし第
7の観点のいずれかの観点の液組成物の製造方法では、液組成物を基材表面に成膜したときに、撥水撥油性膜がフッ素系官能基成分が結合した金属酸化物粒子を含むため、撥水撥油性膜に撥油性能を十分に付与させることができる。更にシリカゾルゲルで結着した金属酸化物粒子により、膜の硬さと膜の摩耗強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本実施形態の撥水撥油性膜形成用液組成物を製造するフロー図である。
【
図2】本実施形態の基材上に形成された撥水撥油性膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0035】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法〕
撥水撥油性膜形成用液組成物は次の方法により、概略製造される。
図1に示すように、金属酸化物粒子11と有機溶媒12を混合して金属酸化物粒子の分散液13を調製する。この分散液13にフッ素系官能基成分(B)を含むフッ素系化合物14を混合し、更に水15と触媒16を混合してフッ素含有金属酸化物粒子の分散液17を調製する。一方、ケイ素アルコキシド21とアルコール22と水23と、必要に応じてアルキレン基成分24を混合し、この混合液に触媒25を加えることにより、シリカゾルゲル液26を調製する。
このシリカゾルゲル液26にアルコール27を混合し、この混合液と上記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液17とを混合することにより、撥水撥油性膜形成用液組成物30を製造する。以下、各工程毎に詳しく述べる。
【0036】
〔金属酸化物粒子分散液の調製〕
先ず、有機溶媒中に、金属酸化物粒子を分散させて金属酸化物粒子の分散液を調製する。金属酸化物粒子は、2nm~90nm、好ましくは2nm~85nmの平均粒子径を有する。平均粒子径が2nm未満では、金属酸化物粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。90nmを超えると、液組成物を成膜したときに、金属酸化物粒子が撥水撥油性膜から脱落する。金属酸化物粒子としては、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、TiO2、ZnO、ZrO2の粒子、これらの混合粒子、MgAl2O4等の複合酸化物粒子等が例示される。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(以下、IPAということもある。)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、フッ素系溶剤などが例示される。これらの中でも、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが好ましい。なお、本明細書において、金属酸化物粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した粒子形状のうち、200点の粒子サイズを画像解析により測定したものの平均値をいう。
【0037】
〔フッ素含有金属酸化物粒子分散液の調製〕
次に、調製された金属酸化物粒子の分散液中に、上述した式(1)又は式(2)で表されるフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を添加して、金属酸化物粒子とフッ素系官能基成分とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。更に反応を促進するために、水及び触媒を添加する。これにより、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液を調製する。
【0038】
上記触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が挙げられ、有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
【0039】
フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0044】
【0045】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0046】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0047】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0048】
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0049】
【0050】
【0051】
上述したように、本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0052】
〔シリカゾルゲル液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと、水とを混合して混合液を調製する。このときアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを一緒に混合してもよい。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い撥水撥油性膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0053】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%~40質量%、好ましくは2.5質量%~20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない基材に膜を形成した場合に、基材への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1質量%~40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、基材がガラス等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、基材が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾルゲル(C)中、0.5質量%~20質量%含むことが好ましい。
【0054】
沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、上述したアルコールが挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシドに、或いはケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランに、炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10℃~30℃の温度で5分~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0055】
上記調製された混合液に触媒を添加混合する。この触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が例示される。このとき液温を好ましくは30℃~80℃の温度に保持して、好ましくは1時間~24時間撹拌する。これにより、シリカゾルゲル液が調製される。次の工程のために、シリカゾルゲル液にアルコールを添加混合する。
【0056】
上記アルコールが添加混合されたシリカゾルゲル液は、ケイ素アルコキシドを2質量%~50質量%、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを20質量%~98質量%、水を0.1質量%~40質量%、触媒として0.01質量%~5質量%の割合で含有する。アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを混合した場合には、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで含有する。
【0057】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、ケイ素アルコキシドの加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、撥水撥油性膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0058】
シリカゾルゲル中のSiO2濃度(SiO2分)は1質量%~40質量%であるものが好ましい。このSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0059】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸により、膜の形成された基材が腐食等を生じ易い。
【0060】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素系官能基成分(A)が結合した金属酸化物粒子(B)と、シリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)とを含む。このフッ素系官能基成分は、上記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、液組成物中、1質量%~30質量%含まれる。フッ素系官能基成分が1質量%未満では形成した膜に撥油性を付与できず、30質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素系官能基成分の含有割合は2質量%~28質量%である。またフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合は、溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、液組成物中、5質量%~80質量%、好ましくは7質量%~75質量%である。更に金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.05~0.80、好ましくは0.07~0.70の範囲にある。
【0061】
溶媒を除いた液組成物中、成分(A)と粒子(B)が合計して、5質量%未満では、撥水撥油性膜の撥油性能が低下する。また合計して80質量%を超えると、シリカゾルゲル(C)の含有量が相対的に低くなり、液組成物を基材に成膜したときに、撥水撥油性膜が基材表面に堅牢に結着しなくなる。また質量比(A/B)が0.05未満では、撥水撥油性膜が撥油性に劣り、0.80を超えると、撥水撥油性膜の基材表面への密着性が低下する。
【0062】
上記溶媒(D)は、
図1に示すように、有機溶媒12、水15、アルコール22、水23及びアルコール27を含む。即ち、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと上記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である。ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(19)~(27)で示される構造を挙げることができる。
【0063】
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物がシリカゾルゲル液を主成分として含むため、基材表面に成膜したときに、撥水撥油性膜の基材表面への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥水撥油性膜が得られる。また撥水撥油性膜形成用液組成物が上記一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素系官能基成分を含むため、撥油性の効果がある。
【0064】
〔撥水撥油性膜の基材表面への形成方法〕
本実施形態の撥水撥油性膜を基材表面に形成するには、撥水撥油性膜形成用液組成物を基材上に塗布した後に、大気中で室温乾燥させて上記液組成物を硬化することにより形成される。この基材としては、特に限定されないが、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、鉄等の金属板、窓ガラス、鏡等のガラス、タイル、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム等が挙げられる。上記液組成物の塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0065】
図2に示すように、基材1の表面に形成された撥水撥油性膜2は、粒子表面がフッ素系官能基成分に覆われた多数の金属酸化物粒子3がバインダとしてのシリカゾルゲル4で結着して構成される。撥水撥油性膜2はフッ素系官能基成分が結合した金属酸化物粒子3を含むため、膜の撥油性能が保持される。また平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子3同士がシリカゾルゲル4により、膜2中で結合するため、膜2の硬さと膜2の摩耗強度を向上させることができる。また金属酸化物粒子3の存在により膜表面が凹凸になり、膜2表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい利点もある。膜厚は、金属酸化物粒子の粒子径と膜成分中の金属酸化物粒子の含有割合を変えることにより制御することができる。
【実施例】
【0066】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、金属酸化物粒子の分散液を調製する合成例1~9及び比較合成例1~3を説明し、次いでこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性膜形成用液組成物の製造に関する実施例1~9及び比較例1~7を説明する。
【0067】
〔金属酸化物粒子分散液を調製するための合成例1~9、比較合成例1~3〕
<合成例1>
平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を9.75g添加し混合した。次に、水を3.51g添加し混合した。更に、硝酸を0.031g添加し、40℃で2時間混合し、フッ素系化合物が二酸化ケイ素粒子に結合した二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化ケイ素に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.61であった。
【0068】
<合成例2>
平均粒子径が45nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-L、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(20)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.09であった。
【0069】
<合成例3>
平均粒子径が80nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-ZL、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(21)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.27g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.05であった。
【0070】
<合成例4>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(22)で表されるフッ素系化合物を2.25g添加し混合した。次に、水を0.81g添加し混合した。更に、硝酸を0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.14であった。
【0071】
<合成例5>
合成例4で用いたフッ素系化合物を上述した式(27)で表されるフッ素系化合物に代えた以外は、合成例4と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.14であった。
【0072】
<合成例6>
平均粒子径が3nmの二酸化ジルコニウムのメタノール分散液(SZR-M、堺化学社製、ZrO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を11.25g添加し混合した。次に、水を4.05g添加し混合した。更に、硝酸が0.035g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ジルコニウム粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化ジルコニウムに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.71であった。
【0073】
<合成例7>
平均粒子径が6nmの二酸化チタンのIPA分散液(TKD-701、テイカ社製、TiO2濃度18%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を2.70g添加し混合した。次に、水を0.97g添加し混合した。更に、硝酸が0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化チタンに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.28であった。
【0074】
<合成例8>
平均粒子径が60nmのアルミナと二酸化ケイ素のIPA分散液(バイラールAS-L10、多木化学社製、3Al2O3・2SiO2濃度10%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.25g添加し混合した。次に、水0.09gを添加混合した。更に、硝酸0.005g添加し、以下、合成例1と同様にしてアルミナと二酸化ケイ素の粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)であるアルミナと二酸化ケイ素に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.05であった。
【0075】
<合成例9>
平均粒子径が25nmの酸化亜鉛のIPA分散液(MZ-500、テイカ社製、ZnO濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして酸化亜鉛粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である酸化亜鉛に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.09であった。
【0076】
<比較合成例1>
平均粒子径が230nmの二酸化チタンのIPA分散液(R32、堺化学社製、TiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.54g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化チタンに対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.09であった。
【0077】
<比較合成例2>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.45g添加し混合した。次に、水を0.16g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.03であった。
【0078】
<比較合成例3>
合成例1と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を15.00g添加し混合した。次に、水を5.40g添加し混合した。更に、硝酸を0.047g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。質量比(A/B)は0.95であった。
【0079】
以下の表1に、合成例1~9及び比較合成例1~3のフッ素含有金属酸化物粒子の分散液の内容を示す。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)~式(22)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0080】
【0081】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造のための実施例1~9、比較例1~4〕
<実施例1>
正ケイ酸エチル30gとエタノール60gと水10gを混合した後、硝酸を1g添加し、30℃で3時間混合し、シリカゾルゲル液を得た。得られたシリカゾルゲル液10.00gに工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)を72.18g、ジアセトンアルコール1.70g、イソプロピルグリコール11.04gをそれぞれ添加し混合した後、合成例1の金属酸化物粒子の分散液11.51gを添加し混合し、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。この内容を以下の表2に示す。表2には、『溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)』の含有割合及び『溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)を合計した含有割合』も示す。なお、溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合(%)は、金属酸化物粒子(C)の含有割合を考慮して表現をすれば、[(A)/[(A)+(B)+(C)]]の百分率であり、溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)を合計した含有割合(%)は、金属酸化物粒子(C)の含有割合を考慮して表現をすれば、[[(A)+(B)]/[(A)+(B)+(C)]]の百分率である。
【0082】
【0083】
<実施例2~9及び比較例1~3>
実施例2~9及び比較例1~3について、表2に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液の種類と秤量、シリカゾルゲル液の秤量、及び実施例1と同一の工業アルコール、ジアセトンアルコール及びイソプロピルグリコールの秤量をそれぞれ決定して、実施例2~9及び比較例1~3の各撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
シリカゾルゲル液に関して、実施例2~9及び比較例1~3では、実施例1で用いた正ケイ酸エチルの代わりに、テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)28.50gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM-403)1.50gを用いた。それ以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0084】
<比較例4>
比較例4では、撥水撥油性膜形成用液組成物を上記実施例1~9及び比較例1~3とは異なる方法で調製した。即ち、ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)8.52gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM-403)0.48gと、フッ素系化合物として式(27)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.24gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)17.34gとを混合し、更にイオン交換水3.37gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.05gを添加し、40℃で2時間撹拌してフッ素含有シリカゾルゲル液を得た。このシリカゾルゲル液10gに、実施例1と同一の工業アルコール90g、ジアセトンアルコール2g及びイソプロピルグリコール13gをそれぞれ混合し、金属酸化物粒子の分散液として、合成例1と同一の平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液を10g添加し混合して、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0085】
<比較例5>
比較例4において、比較例4で得られたシリカゾルゲル液10gに、実施例1と同一の工業アルコール90g、ジアセトンアルコール2g及びイソプロピルグリコール13gをそれぞれ混合した後で、金属酸化物粒子の分散液である合成例1と同一の平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液を添加せずに、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0086】
<比較例6>
実施例1で用いた合成例1の金属酸化物粒子の分散液を調製するためのフッ素系化合物の代わりに、下記の式(30)のペルフルオロアミン構造のフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0087】
【0088】
<比較例7>
実施例1で調製したシリカゾルゲル液の代わりに、メチルトリエトキシシランのシランカップリング剤を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0089】
<比較試験及び評価>
実施例1~9及び比較例1~7で得られた16種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1~3μmとなるように塗布し、16種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に16種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(撥水性)、撥油性及び膜の外観を評価し、膜の強度試験、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験及び耐指紋性試験を行った。これらの結果を表3に示す。なお、膜の耐指紋性とは、膜に指紋付着後に指紋が膜表面に目立ちにくく、また付着した場合の指紋の拭き取りが容易であることに加えて、指紋が膜に付着しにくい特性である。
【0090】
(1) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(撥水性)を評価した。
【0091】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0092】
(3) 膜の外観
評価するSUS304基材上の膜を目視で観察して、膜が透明であるか否か、また膜が白濁しているか否かを調べた。膜が透明であるものを『良好』とし、膜が白濁しているものは、その程度に応じて『白濁不良』又は『やや白濁不良』とした。
【0093】
(4) 膜の強度試験
評価するSUS304基材上の膜に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動した後で、基材上の膜が基材から剥離しないか否かを目視で調べた。膜が剥離しない場合を『合格』とし、剥離した場合を『不合格』とした。
(a) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(b) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:5mm×15mm角のネオプレーンゴム
【0094】
(5) 膜のセロテープ(登録商標)剥離試験
評価するSUS304基材上の膜に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた膜に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を貼り、JISK5600-5-6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ(登録商標)剥離試験を行った。クロスカットを施したマス目100個を分母で表し、セロテープ(登録商標)剥離試験後に基材上に残存するマス目の数を分子で表した。
【0095】
(6) 膜の耐指紋性試験
セルロース連続長繊維不織布(旭化成社製、製品名:ベンコットM-3II)を評価するSUS304基材上の膜の上に載せ、この不織布に人工指紋液(JIS K 2246に準じる)を100マイクロリットル滴下した。この不織布に黒ゴム24号(質量300g)を載せ、更に1kgの重りを載せて、30秒間静置することにより、膜に指紋液を付着させた。その後、不織布を剥がして、膜の耐指紋性を目視にて観察した。膜表面に指紋液が付着していなかったものを『良好』とし、付着しているものを『不良』とした。
【0096】
【0097】
表3から明らかなように、比較例1では、平均粒子径が230nmである金属酸化物(二酸化チタン)粒子を含む比較合成例1の二酸化チタン粒子の分散液から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、膜中の金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるシリカゾルゲルで金属酸化物粒子が基材表面に結着しにくかった。この結果、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し、セロテープ(登録商標)剥離試験では基材上に残存するマス目の数は20個しかなく、大部分が剥離した。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0098】
比較例2では、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液における『(A)/(B)』が0.03であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『フッ素系官能基成分(A)』の含有割合が0.1質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が3質量%であり、膜中のフッ素系官能基成分の含有量が少な過ぎた。このため、膜の外観は良好で、膜の強度試験及びセロテープ(登録商標)剥離試験はともに合格したけれども、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の耐指紋性が不良であった。
【0099】
比較例3では、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液における『(A)/(B)』が0.95であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『フッ素系官能基成分(A)』の含有割合が41.0質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が82質量%であり、膜中のフッ素系官能基成分の含有量が多過ぎた 。このため、水及びn-ヘキサデカンの接触角は良好であり、セロテープ(登録商標)剥離試験は合格したけれども、膜の耐指紋性が不良であり、膜がやや白濁していて、膜表面が荒れ、膜の外観がやや不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し不合格であった。
【0100】
比較例4では、フッ素含有シリカゾルゲル液に金属酸化物粒子の分散液を添加し混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製したため、粒子表面が親油性である金属酸化物粒子が膜中に多数存在することにより、撥油性能が大きく劣化していた。この結果、膜の外観は良好で、膜の強度試験及びセロテープ(登録商標)剥離試験はともに合格したけれども、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜の耐指紋性が不良であった。
【0101】
比較例5では、フッ素含有シリカゾルゲル液に金属酸化物粒子の分散液を添加することなく、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製したため、膜中に親水親油性の金属酸化物粒子が存在せず、撥油性能が良好であった。この結果、水及びn-ヘキサデカンの接触角及び膜の外観は、いずれも良好であり、セロテープ(登録商標)剥離試験は合格したけれども、膜の耐指紋性が不良であり、膜の強度試験では金属酸化物粒子が存在しないことにより、膜が基材から剥離し不合格であった。
【0102】
比較例6では、前述した式(30)のペルフルオロアミン構造のフッ素系化合物を用いたことにより、水及びn-ヘキサデカンの接触角は、ペルフルオロエーテル構造のフッ素系化合物と比較すると、それぞれやや低めであった。塗膜の外観、密着性試験、膜強度試験においては合格レベルであったが、水及びn-ヘキサデカンの接触角が低めであることから、膜の耐指紋性が不良であった。
【0103】
比較例7では、バインダ成分であるシリカゾルゲルの代わりに、シランカップリング剤としてメチルトリエトキシシランを用いたことにより、水及びn-ヘキサデカンの接触角も優れておらず、膜の耐指紋性が不良であった。また膜の外観もやや白濁しており、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験ではすべて剥離して密着性が悪かった。更に、膜の強度試験においても、1往復目より、膜が簡単に剥離しており、不合格であった。
【0104】
それに対して、実施例1~9では、フッ素系官能基成分が式(1)又は式(2)であり、金属酸化物粒子の平均粒子径が2nm~90nmの範囲にあり、溶媒(D)を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合が1質量%~30質量%であり、溶媒(D)を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合が5質量%~80質量%であり、『(A)/(B)』が0.05~0.80の範囲にあって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、水及びn-ヘキサデカンの接触角及び膜の外観は、いずれも良好であり、膜の強度試験、セロテープ(登録商標)剥離試験及び耐指紋性試験はいずれも合格していた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の撥水撥油性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。
【符号の説明】
【0106】
1 基材
2 撥水撥油性膜
3 金属酸化物粒子
4 シリカゾルゲル