(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】フォトクロミック物品および眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20241202BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20241202BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20241202BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20241202BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20241202BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241202BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G02C7/10
C08F220/20
C09D4/02
C09D7/48
B32B7/023
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
B32B27/18 A
(21)【出願番号】P 2020064597
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019239791
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101221(JP,A)
【文献】特開2016-203528(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111474(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189855(WO,A1)
【文献】特開2016-020489(JP,A)
【文献】特開2011-230426(JP,A)
【文献】特開2009-104002(JP,A)
【文献】特開2007-322679(JP,A)
【文献】特開2006-243314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
C08F 220/20
C09D 4/02
C09D 7/48
B32B 7/023
B32B 27/30
B32B 27/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、
重合性組成物
(ただし、(a)酸の作用により分解して親水性が増大する基を有し、フッ素原子及びケイ素原子から選択される少なくとも1種を含む基を有する樹脂と(b)酸発生剤とを含有する重合性組成物を除く)を硬化させた硬化層である保護層と、
を有するフォトクロミック物品であって、
前記重合性組成物は、
1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官
能アクリレートを95.0質量%超含み、
組成物の全量に対して、(メタ)アクリレートを80.0質量%以上含み、かつ
前記脂環式の2官
能アクリレートは、R
1-(L
1)n1-Q-(L
2)n2-R
2で表される構造を有する化合物であり、
Qは炭素数3~20の二価の脂環式炭化水素基を表し、
R
1およびR
2はそれぞれ独立に(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、
R
1
およびR
2
の少なくとも一方はアクリロイル基またはアクリロイルオキシ基を表し、
L
1およびL
2はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキレン基を表し、
n1およびn2はそれぞれ独立に0または1を表す、フォトクロミック物品。
【請求項2】
前記重合性組成物はラジカル重合開始剤を更に含む、請求項1に記載のフォトクロミック物品。
【請求項3】
前記重合性組成物は紫外線吸収剤を更に含む、請求項1または2に記載のフォトクロミック物品。
【請求項4】
前記保護層の厚さは、10~45μmの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項5】
基材を更に有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項6】
前記基材と、前記フォトクロミック層と、前記保護層と、有機ケイ素系硬化層と、をこの順に有する、請求項5に記載のフォトクロミック物品。
【請求項7】
眼鏡レンズである、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項8】
ゴーグル用レンズである、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項9】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項10】
ヘルメットのシールド部材である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項11】
請求項7に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物、フォトクロミック物品および眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。以下では、フォトクロミック化合物を含む物品を、フォトクロミック物品と呼ぶ。例えば特許文献1には、フォトクロミック化合物を含む層(フォトクロミック層)を基材上に設けたフォトクロミック物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、フォトクロミック物品の性能向上を目指し、フォトクロミック物品に保護層を設けることを検討した。かかる保護層に関して、本発明者は、以下の性能が望まれると考えるに至った。
第一には、高い硬度を有すること。高硬度の保護層を設けることによって、フォトクロミック物品の耐久性を高めることができるからである。
第二には、溶剤耐性に優れること。フォトクロミック物品の製造工程においては、通常、層を形成した後、形成された層の表面の清浄化のために溶剤による拭き取り処理が行われる。この拭き取り処理において保護層がダメージを受けてしまうと、フォトクロミック物品に曇りや光学的欠陥が発生する原因となってしまうからである。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一態様は、高い硬度と優れた溶剤耐性とを兼ね備えた保護層を有するフォトクロミック物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む、フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物(以下、単に「保護層形成用重合性組成物」または「組成物」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む。これにより、かかる組成物を硬化した硬化層として、高硬度であって溶剤耐性に優れる保護層をフォトクロミック物品に設けることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、高硬度かつ溶剤耐性に優れる保護層をフォトクロミック物品に形成可能な、フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる組成物から形成された保護層を有するフォトクロミック物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物]
以下、上記組成物について、更に詳細に説明する。
【0010】
上記組成物は、フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物である。本発明および本明細書において、「フォトクロミック物品」とは、フォトクロミック化合物を含む物品である。フォトクロミック物品において、フォトクロミック化合物は、例えば、基材上に設けられた層(フォトクロミック層)に含まれる。フォトクロミック層について、詳細は後述する。上記組成物から形成される保護層は、例えば、フォトクロミック層の上に設けることができ、これによりフォトクロミック物品の耐久性向上に寄与することができる。
【0011】
<(メタ)アクリレート>
上記組成物は重合性組成物であって、1種以上の重合性化合物を含む。本発明および本明細書において、「重合性化合物」とは、1分子中に重合性基を1つ以上有する化合物である。上記組成物は、重合性化合物として、1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量を100質量%として、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む。
【0012】
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0013】
(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)
脂環式の2官能(メタ)アクリレートとは、脂環構造を有し、1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基の数が2つである化合物をいうものとする。上記組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む。このことが、上記組成物から形成される保護層が、高い硬度と優れた溶剤耐性を示すことができる理由であると、本発明者は考えている。より高い硬度とより優れた溶剤耐性を示すことができる保護層をフォトクロミック物品に設けることを可能とする観点から、上記組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを75.0質量%以上含むことが好ましく、80.0質量%以上含むことがより好ましく、85.0質量%以上含むことが更に好ましく、90.0質量%以上含むことが一層好ましく、95.0質量%以上含むことがより一層好ましい。一形態では、上記組成物は、(メタ)アクリレートの全量が、脂環式の2官能(メタ)アクリレートであることもできる。上記組成物は、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の脂環式の2官能(メタ)アクリレートが含まれる場合、上記の脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0014】
脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、例えば、R1-(L1)n1-Q-(L2)n2-R2で表される構造を有する化合物であることができる。ここでQは二価の脂環族基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に連結基を表し、n1およびn2はそれぞれ独立に0または1を表す。Qで表される二価の脂環族基としては、炭素数3~20の脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、トリシクロデカニレン基、アダマンチレン基、イソボルニル基等を挙げることができる。L1およびL2で表される連結基としては、例えばアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基は、例えば炭素数1~6のアルキレン基であることができる。
脂環式の2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。脂環式の2官能(メタ)アクリレートの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0015】
(他の(メタ)アクリレート)
上記組成物は、一形態では、(メタ)アクリレートとして脂環式の2官能(メタ)アクリレートに加えて1種以上の他の(メタ)アクリレートを含むことができ、他の一形態では、(メタ)アクリレートとして脂環式の2官能(メタ)アクリレートのみを含むことができる。前者の形態の場合、脂環式の2官能(メタ)アクリレートとともに含まれる他の(メタ)アクリレートについては、特に制限はなく、各種(メタ)アクリレートの1種または2種以上を使用することができる。他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、単官能、2官能、3官能、4官能および5官能(メタ)アクリレートを挙げることができ、非環状であっても環状であってもよい。「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。環状構造を含む(メタ)アクリレートは、環状構造として脂環構造を有するものであってもよく、他の環状構造を有するものであってもよい。脂環構造については、脂環式の2官能(メタ)アクリレートに関する先の記載を参照できる。上記組成物において、他の(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して、30.0質量%以下、25.0質量%以下、20.0質量%以下、15.0質量%以下であることができる。また、上記組成物において、他の(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して、0質量%、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、5.0質量%以上または10.0質量%以上であることができる。
【0016】
<他の成分>
上記組成物は、重合性化合物として少なくとも1種以上の(メタ)アクリレートを含み、一形態では(メタ)アクリレート以外の他の重合性化合物を1種以上含むことができ、他の一形態では重合性化合物として(メタ)アクリレートのみを含むことができる。他の重合性化合物については、特に制限はなく、公知の重合性化合物の1種以上を使用することができる。上記組成物は、重合性化合物の全量を100質量%として、(メタ)アクリレートを80.0質量%以上、85.0質量%以上、90.0質量%以上または95.0質量%以上含むことができ、重合性化合物の全量が(メタ)アクリレートであることもできる。
【0017】
一形態では、上記組成物は、組成物の全量を100質量%として、(メタ)アクリレートの含有率(2種以上の(メタ)アクリレートを含む場合にはそれらの合計含有率)が、80.0質量%以上であることが好ましく、85.0質量%以上であることがより好ましく、90.0質量%以上であることが更に好ましく、95.0質量%以上であることがより好ましい。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。上記組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0018】
上記組成物は、重合性組成物に含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。かかる添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤、組成物の塗布適性向上のためのレベリング剤等の公知の各種添加剤を挙げることができる。
【0019】
例えば、重合開始剤としては、(メタ)アクリレートに対して重合開始剤として機能することができる公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。 また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。 これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0020】
また、一形態では、上記組成物は、紫外線吸収剤を含むことができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-s-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-エチルヘキシルオキシ)フェニル]-4,6-ジビフェニル-s-トリアジン、2-[[2-ヒドロキシ-4-[1-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)エチルオキシ]フェニル]]-4,6-ジフェニル-s-トリアジン等のヒドロキシフェニルトリアジン化合物、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等の各種紫外線吸収剤の一種以上を使用することができる。上記組成物が紫外線吸収剤を含むことは、この組成物から形成される保護層を有するフォトクロミック物品の耐候性向上に寄与し得る。上記組成物が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~1.0質量%の範囲であることができる。
【0021】
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0022】
[フォトクロミック物品]
本発明の一態様は、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、上記組成物を硬化させた硬化層である保護層と、を有するフォトクロミック物品に関する。
以下、上記フォトクロミック物品について、更に詳細に説明する。
【0023】
<フォトクロミック層>
(フォトクロミック化合物)
フォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、フォトクロミック層の質量を100質量%として、例えば0.1~15質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0024】
(フォトクロミック層を形成するための成分)
フォトクロミック層は、フォトクロミック化合物を1種以上含む重合性組成物を硬化させた硬化層であることができる。フォトクロミック層を形成するための重合性組成物に含まれる重合性化合物等の各種成分については、フォトクロミック物品に関する公知技術を適用できる。保護層との密着性の観点からは、フォトクロミック層は、重合性化合物として(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化した硬化層であることが好ましい。
【0025】
フォトクロミック層は、一形態では、フォトクロミック化合物を1種以上含む重合性組成物を基材の表面に直接塗布するか基材上に設けられた層の表面に塗布して形成された塗布層を硬化した硬化層であることができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。重合処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で重合反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。重合条件は、重合性組成物に含まれる各種成分の種類や組成に応じて決定すればよい。以上の塗布方法および重合処理に関する記載は、保護層形成用重合性組成物についても適用される。フォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0026】
<保護層>
上記フォトクロミック物品は、上記保護層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層である保護層を有する。保護層は、フォトクロミック層の表面に直接設けることができ、フォトクロミック層の上に位置する層の表面に設けることもできる。フォトクロミック層と保護層との間に位置し得る層としては、プライマー層等を挙げることができる。保護層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましく、25μm以上であることが一層好ましい。また、保護層の厚さは、45μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。上記保護層は、フォトクロミック物品の耐久性向上に寄与することができる。また、更なる処理(例えば後述の硬化層の形成)が行われるまでの間、フォトクロミック層を保護してフォトクロミック層に傷が発生することを抑制することもできる。
【0027】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、一形態では、光学物品であることができる。光学物品には、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等の各種物品が包含される。例えば、上記フォトクロミック物品は、光学物品の種類に応じて選択した基材上にフォトクロミック層と保護層とを有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0028】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0029】
フォトクロミック層は、基材の表面に直接設けてもよく、一層以上の他の層を介して間接的に設けてもよい。他の層としては、フォトクロミック層と基材との密着性を向上させるためのプライマー層を挙げることができる。そのようなプライマー層は公知である。
【0030】
<任意に設けられ得る層>
上記フォトクロミック物品は、「基材/フォトクロミック層/保護層」の層構成を有することができる。層構成に関して、「/」は、他の層を介さずに直接接している形態と、他の層の一層以上を介して設けられている形態とを包含する意味で使用する。例えば、基材とフォトクロミック層との間には、上記のようにプライマー層が存在し得るが、基材とフォトクロミック層とが直接接する場合もある。また、一形態では、上記フォトクロミック物品は、「基材/フォトクロミック層/保護層/他の硬化層」の層構成を有することができる。かかる層構成において、他の硬化層は、一般にハードコート層と呼ばれる硬化層であることができる。保護層に加えてハードコート層を設けることにより、フォトクロミック物品の耐久性をより一層高めることができる。また、一形態では、ハードコート層を設けることにより、フォトクロミック物品の耐衝撃性を高めることもできる。一形態では、上記の他の硬化層は、上記保護層と他の層を介さずに直接接することができる。
【0031】
上記の他の硬化層の厚さは、例えば1~10μmの範囲であることができ、1~8μmの範囲であることが好ましく、1~5μmの範囲であることがより好ましい。一形態では、上記の他の硬化層は、上記保護層より薄い層であることができる。上記の他の硬化層の一例としては、有機ケイ素系硬化層を挙げることができる。有機ケイ素系硬化層は、一般に耐衝撃性に優れるため好ましい。また、例えば反射防止膜を更に設ける場合、有機ケイ素系硬化層は、一般に反射防止膜との密着性に優れる点からも好ましい。
【0032】
有機ケイ素系硬化層とは、有機ケイ素化合物を含む重合性組成物を硬化した硬化層である。有機ケイ素化合物としては、重合処理が施されることによりシラノール基を生成可能な有機ケイ素化合物、シラノール基と縮合反応するハロゲン原子やアミノ基等の反応性基を有するオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。また、有機ケイ素化合物としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性基とアルコキシ基等の加水分解性基とを有するシランカップリング剤を挙げることもできる。有機ケイ素化合物を含む重合性組成物には、屈折率の調整等のために、ケイ素酸化物、チタン酸化物等の無機物質の粒子が含まれていてもよい。有機ケイ素化合物を含む重合性組成物の詳細については、ハードコート層として機能し得る有機ケイ素系硬化層に関する公知技術を適用できる。かかる重合性組成物は、組成物に含まれる成分の種類に応じて、光照射および/または加熱処理によって重合反応を進行させて硬化させることができる。
【0033】
上記保護層の上に上記の他の硬化層を設ける前、保護層表面に溶剤による拭き取り処理を施すことにより、上記の他の硬化層を形成するための重合性組成物が塗布される保護層表面の清浄度を高めることができる。このように溶剤による拭き取り処理を行うことは、上記保護層と上記の他の硬化層との間に異物が介在すること防ぐ観点等から好ましい。ただし、保護層が溶剤耐性に劣る場合には、溶剤拭き取り処理によって保護層がダメージを受けてしまう(例えば、面荒れの発生)。そのようなダメージの発生は、この保護層を含むフォトクロミック物品に曇りや光学的欠陥が発生する原因となってしまう。これに対し、先に記載した組成を有する保護層形成用重合性組成物から形成された保護層は、優れた溶剤耐性を示すことができる。
【0034】
溶剤による拭き取り処理は、公知の方法によって行うことができる。例えば、溶剤を浸み込ませた布で保護層表面を拭き取ることにより、溶剤による拭き取り処理を行うことができる。溶剤としては、アセトン等のケトン溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶剤を挙げることができる。一形態では、保護層は、光学物品の製造時に拭き取り用の溶剤として汎用されるケトン溶剤に対して高い耐性を有することが好ましい。
【0035】
上記フォトクロミック物品は、以上説明した各種の層に加えて、一層以上の層を更に有することもできる。かかる層としては、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0036】
上記フォトクロミック物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記フォトクロミック物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。上記フォトクロミック物品は、防眩機能を有する光学物品として好適に使用され得る。
【0037】
[眼鏡]
本発明の一態様は、眼鏡レンズである上記フォトクロミック物品を備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、室温下(20℃±5℃)大気中で行った。
【0039】
[実施例1]
<眼鏡レンズ(フォトクロミック物品)の作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン;粘度100CPS、固形分濃度38質量%)を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることにより、厚さ5.5μmのプライマー層を形成した。
上記プライマー層の上に、以下のように調製したフォトクロミック層形成用重合性組成物をスピンコート法により塗布して塗布層を形成した。この塗布層の表面に向かって窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この塗布層を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
上記フォトクロミック層の上に、以下のように調製した保護層形成用重合性組成物をスピンコート法により塗布して塗布層を形成した。この塗布層の表面に向かって窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この塗布層を硬化させて保護層を形成した。形成された保護層の厚さは15μmであった。
【0040】
<フォトクロミック層形成用重合性組成物の調製>
プラスチック製容器に、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック化合物として下記クロメン1を3質量部、光安定化剤LS765(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート)を5質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製イルガキュア245)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI-1870(BASF製)0.6質量部を添加して十分に撹拌混合を行った組成物に、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM503)を撹拌しながら6質量部滴下した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック層形成用重合性組成物を得た。
【0041】
【0042】
<保護層形成用重合性組成物の調製>
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)86.7質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート4.3質量部、イソボルニルアクリレート8.7質量部、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)0.3質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、実施例1の保護層形成用重合性組成物を調製した。
実施例1の保護層形成用重合性組成物において、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して87.0質量%である。
【0043】
[実施例2]
保護層形成用組成物を、以下の方法で調製した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
【0044】
<保護層形成用重合性組成物の調製>
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)99.0質量部およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)1.0質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、実施例2の保護層形成用重合性組成物を調製した。
実施例2の保護層形成用重合性組成物では、(メタ)アクリレートは脂環式の2官能(メタ)アクリレートのみであるため、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して100質量%である。
【0045】
[比較例1]
保護層形成用組成物を、以下の方法で調製した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
【0046】
<保護層形成用重合性組成物の調製>
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)68.0質量部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート20.0質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート12.0質量部およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)0.3質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、比較例1の保護層形成用重合性組成物を調製した。
比較例1の保護層形成用重合性組成物において、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して68.0質量%である。
【0047】
上記の実施例および比較例では、それぞれ3枚の眼鏡レンズを作製し、1枚を硬度の評価に付し、他の1枚を溶剤耐性の評価に付し、残りの1枚には後述の方法でハードコート層を形成した。
【0048】
[評価方法]
(1)硬度の評価
上記の各眼鏡レンズについて、エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT-2100を用いて、保護層の表面に荷重100mgfをかけて圧子を押し込んだ。このときに圧子の侵入した表面積を押し込み深さから測定し、「荷重/圧子の侵入した表面積」としてマルテンス硬さを求めた。マルテンス硬さは、荷重Fをかけて圧子を所定の押し込み量hまで押し込んだときに、荷重Fを圧子の侵入した表面積で除した値と定義される。試験荷重が負荷された状態で測定される硬さであり、負荷増加時の荷重-押し込み深さ曲線の値から求められる。
【0049】
(2)溶剤耐性の評価
上記の各眼鏡レンズの保護層の表面を、アセトンを染み込ませた布で拭き取った。拭き取り後の保護層の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
Good:面粗れなし
Damaged:面粗れが認められる。
【0050】
以上の評価の結果を、表1に示す。
【0051】
【0052】
[ハードコート層の形成]
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、および水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え十分に混合し、5℃で24時間撹拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコ-ン系界面活性剤0.05質量部、および硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ-トを1.5質量部加え、十分に撹拌した後、ろ過を行ってハードコーティング液(ハードコート層形成用重合性組成物)を調製した。
上記で作製した各眼鏡レンズの保護層の表面に、アセトンによる拭き取り処理を施した後、上記ハードコーティング液をディップコート法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングした。その後、炉内温度100℃の熱処理炉内で60分加熱硬化することにより、厚さ3μmのハードコート層(有機ケイ素系硬化層)を形成した。
こうしてハードコート層が形成された各眼鏡レンズを目視で観察したところ、実施例1の眼鏡レンズおよび実施例2の眼鏡レンズは、比較例1の眼鏡レンズよりも透明性に優れていた。これは、表1に示されているように、実施例1の眼鏡レンズおよび実施例2の眼鏡レンズの保護層が比較例1の眼鏡レンズの保護層と比べて溶剤耐性に優れているため、ハードコート層形成前に行われた溶剤による拭き取り処理において面粗れが生じ難かったことによるものと考えられる。
【0053】
[実施例3]
保護層形成用重合性組成物に、組成物の全量を100質量%として、0.3質量%の紫外線吸収剤(ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、商品名Tinubin479(BASF社製))を添加した点以外、実施例1と同様に、基材、プライマー層、フォトクロミック層、保護層およびハードコート層をこの順に有する眼鏡レンズを作製した。
【0054】
実施例1の眼鏡レンズと実施例3の眼鏡レンズについて、JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって発色濃度の評価を行った。
各眼鏡レンズの物体側表面に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表2に示す値となるように行った。
【0055】
【0056】
上記で測定される透過率(以下、「発色時透過率」と記載する。)の値が小さいほどフォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0057】
その後、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.2W/m2の照射条件で紫外線を1週間照射した。
上記紫外線照射後の眼鏡レンズについて、一旦暗室に置きフォトクロミック化合物を退色させた後に上記と同様に発色時透過率を求めた。紫外線照射前に対して紫外線照射後の発色時透過率の上昇が小さいほど、耐候性に優れると評価することができる。実施例1の眼鏡レンズについては、「(紫外線照射後の発色時透過率)-(紫外線照射前の発色時透過率)」の値は2.8%であった。これに対し、実施例3の眼鏡レンズについても同様の評価を行ったところ、「(紫外線照射後の発色時透過率)-(紫外線照射前の発色時透過率)」の値は0.3%であった。
【0058】
実施例1の眼鏡レンズと実施例3の眼鏡レンズについて、株式会社村上色彩技術研究所製分光透過率測定器DOT-3を用いてJIS K 7373:2006に規定されているYI値を測定した。YI値は着色の程度を示す指標であり、値が小さいほど着色が少ないことを示す。
その後、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.2W/m2の照射条件で紫外線を1週間照射した。
上記紫外線照射後の眼鏡レンズについて、上記と同様にYI値を求めた。紫外線照射前に対して紫外線照射後のYI値の上昇が小さいほど、耐候性に優れると評価することができる。実施例1の眼鏡レンズについては、「(紫外線照射後のYI値)-(紫外線照射前のYI値)」の値は9.9%であった。これに対し、実施例3の眼鏡レンズについても同様の評価を行ったところ、「(紫外線照射後のYI値)-(紫外線照射前のYI値)」の値は4.6%であった。
【0059】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0060】
一態様によれば、1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む、フォトクロミック物品の保護層形成用重合性組成物が提供される。
【0061】
上記保護層形成用重合性組成物によれば、高い硬度と優れた溶剤耐性を兼ね備えた保護層をフォトクロミック物品に形成することができる。
【0062】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを80.0質量%以上含むことができる。
【0063】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを90.0質量%以上含むことができる。
【0064】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、組成物の全量に対して、(メタ)アクリレートを80.0質量%以上含むことができる。
【0065】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、組成物の全量に対して、(メタ)アクリレートを90.0質量%以上含むことができる。
【0066】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、ラジカル重合開始剤を更に含むことができる。
【0067】
一形態では、上記保護層形成用重合性組成物は、紫外線吸収剤を更に含むことができる。
【0068】
一態様によれば、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック層と、上記保護層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層である保護層と、を有するフォトクロミック物品が提供される。
【0069】
一形態では、上記保護層の厚さは、10~45μmの範囲であることができる。
【0070】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、基材を更に有することができる。
【0071】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、上記基材と、上記フォトクロミック層と、上記保護層と、有機ケイ素系硬化層と、をこの順に有することができる。
【0072】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0073】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0074】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0075】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0076】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0077】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。