(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/24 20060101AFI20241202BHJP
H01Q 9/42 20060101ALI20241202BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q9/42
H01Q1/24 Z
(21)【出願番号】P 2020123693
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】行正 浩二
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-223120(JP,A)
【文献】特開2008-301046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0234909(US,A1)
【文献】実開平03-010618(JP,U)
【文献】特開2018-074345(JP,A)
【文献】特開平07-131240(JP,A)
【文献】特開平10-314139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 9/42
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定
の周波数で動作する
円偏波アンテナであって、
信号電力を供給する給電
部と、
所定の方向
に配置された
4個の放射素子と、
接地部と、
前記給電
部からの前記信号電力を前記
4個の放射素子
に給電する給電線路と、
前記4個の放射素子と前記接地部を各々接続する4個の短絡部と、
を備える
円偏波アンテナであって、
前記給電線路は
3個の分岐点を有し、
前記
3個の分岐点の各々において第一の分岐線路と第二の分岐線路に分岐し、
第一の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第一の放射素子と接続され、前記第一の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第二の分岐点と接続され、
前記第二の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第二の放射素子と接続され、
前記第二の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第三の分岐点と接続され、
前記第三の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第三の放射素子と接続され、
前記第三の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の二波長であり、第四の放射素子と接続されることを特徴とする
円偏波アンテナ。
【請求項2】
前記
4個の放射素子は、それぞれ、所定
の方向に略
90度ずつ異なる方向へ延びる開放端を有することを特徴とする請求項1に記載の
円偏波アンテナ。
【請求項3】
前記第一の分岐点における前記第一の分岐線路の幅と前記第二の分岐線路の幅は異なることを特徴とする請求項1に記載の円偏波アンテナ。
【請求項4】
前記
第一の分岐点における前記第一の分岐線路へ信号電力分岐と前記第二の分岐線路への信号電力分岐は、前記第一の分岐線路の幅と前記第二の分岐線路の幅とにより決まることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の
円偏波アンテナ。
【請求項5】
前記第一の分岐点における前記第一の分岐線路へ信号電力分岐と前記第二の分岐線路への信号電力分岐は、1:3で信号分配され、
前記第二の分岐点における前記第一の分岐線路へ信号電力分岐と前記第二の分岐線路への信号電力分岐は、1:2で信号分配され、
前記第三の分岐点における前記第一の分岐線路へ信号電力分岐と前記第二の分岐線路への信号電力分岐は、1:1で信号分配されることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の円偏波アンテナ。
【請求項6】
前記
第一の分岐点における前記第一の分岐線路へ信号電力分岐と前記第二の分岐線路への信号電力分岐は、抵抗により行われるか、コンデンサおよびインダクタにより行われることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の
円偏波アンテナ。
【請求項7】
前記
円偏波アンテナは、給電基板と、前記給電基板から所定距離だけ隔てられて位置する放射基板と、前記給電基板を前記放射基板に接続する接続部とを備え、
前記給電
部と前記給電線路は、前記給電基板に設けられ、
前記放射素子は前記放射基板に設けられ、
前記接続部は前記給電線路を前記放射素子に接続することを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の
円偏波アンテナ。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか一項に記載の
円偏波アンテナと、
前記
円偏波アンテナの放射素子から無線信号を放射させる無線通信
部と、
前記無線
通信部を制御する制御
部と、
を備える
個体識別リーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、免許不要のISM(Industrial Scientific Medical)バンド無線を用いたRFID(Radio Frequency IDentifier)による個体識別システムが開発されている。この個体識別システムは、工場、病院、店舗などにおける物品管理に用いられている。この個体識別システムでは、ランダムに置かれた物品に貼付されたタグを様々な方向から感度よく認識するために、円偏波アンテナを用いる場合が多い。
【0003】
特許文献1は、複数の給電線路を用い各円偏波パッチアンテナ素子(放射素子)へ給電する円偏波アンテナを開示している。特許文献1の円偏波アンテナでは、各放射素子は2つのグループ(アレー)に分けられて、基板上に実装されている。また、特許文献1のアンテナでは、導波管から基板上の2つの放射素子アレーへ給電をする際、1つの放射素子アレーに対して180度の位相差で他方の放射素子アレーに給電している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1つの放射素子アレーに対して180度の位相差で他方の放射素子アレーに給電を行うためには、放射素子アレーが実装された基板上に、180度位相差相当の給電線路が必要である。このような給電線路では線路長が長くなってしまう。
そこで、本発明は省スペースで放射素子へ給電ができる構造を有するアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様による所定の周波数で動作する円偏波アンテナは、信号電力を供給する給電部と、所定の方向に順次配置された4個の放射素子と、接地部と、前記給電部からの前記信号電力を前記4個の放射素子に給電する給電線路と、前記4個の放射素子と前記接地部を各々接続する4個の短絡部と、を備え、前記給電線路は、3個の分岐点を有し、前記3個の分岐点の各々において第一の分岐線路と第二の分岐線路に分岐し、第一の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第一の放射素子と接続され、前記第一の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第二の分岐点と接続され、前記第二の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第二の放射素子と接続され、前記第二の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第三の分岐点と接続され、前記第三の分岐点における第一の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の一波長であり、第三の放射素子と接続され、前記第三の分岐点における第二の分岐線路の長さは前記所定の周波数の略四分の二波長であり、第四の放射素子と接続される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアンテナによれば、省スペースで放射素子へ給電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一の実施形態における個体識別リーダのブロック図。
【
図2】第一の実施形態におけるアンテナの給電構造を示す図。
【
図4】第一の実施形態の給電構造のシミュレーション図。
【
図6】第二の実施形態におけるアンテナの給電構造を示す図。
【
図7】
図6のアンテナの信号分配部の詳細を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るアンテナを備える個体識別リーダについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正又は変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されない。
【0010】
第一の実施形態
図1は本実施形態における個体識別リーダ10のブロック図を示している。個体識別リーダ10は、無線通信部11と、制御部12と、アンテナ13と、記憶部14とを有する。本実施形態の個体識別リーダ10は、図示しない個体(例えば、物品)に貼付されたタグを読み取り、当該物品を識別する装置である。タグは、例えば、RFIDタグ(RFタグ)である。タグには個体識別コードが付されている。個体識別コードは例えば、物品固有番号であり、本実施形態でタグを読み取るとは、物品固有番号を読み取ることを含む。
【0011】
無線通信部11は高周波無線信号(例えば、ISMバンド無線信号)を生成する。
制御部12は、記憶部14に記憶される制御プログラムを実行することにより個体識別リーダ10全体を制御する。制御部12は1つまたは複数のプロセッサ(例えば、CPUやMPU)を有する。CPUはCentral Processing Unitの略である。MPUはMicro-Processing Unitの略である。
アンテナ13は、本実施形態では、円偏波アンテナである。アンテナ13の詳細は
図2を用いて後述する。
記憶部14は、制御部12が実行する制御プログラムや通信パラメータ等の各種情報を記憶する。また、記憶部14は、外部から受信した情報や、無線通信部11で復調された情報を記憶する。記憶部14は、1つ以上のROMやRAMなどからなる。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略である。
【0012】
無線通信部11が生成した高周波無線信号は、アンテナ13を通じて空間(個体識別リーダ10の外部)に放射される。アンテナ13より放射された信号は、物品に貼付されたタグで受信される。
タグは、物品固有番号に基づき、受信信号を変調する。受信信号の変調は、タグ自身がもつ電源、もしくは個体識別リーダ10から受信した電力を用いて行われる。そして、タグは、変調後の信号(変調信号)を個体識別リーダ10に送信する。
タグから送信された変調信号は、アンテナ13を介して個体識別リーダ10に受信され、無線通信部11で復調される。当該復調により取得した物品固有番号は、記憶部14に記憶される。個体識別リーダ10は無線通信部11とアンテナ13を備えるので、通信装置であると言える。
【0013】
なお、個体識別リーダ10は、表示部、入力部、電源などを備えてもよい。表示部は、例えばLCDを有し、種々の情報(文字、画像)を表示する。LCDはLiquid Crystal Displayの略である。入力部は、個体識別リーダ10のユーザにより操作され、各種のデータ、数値、指示、プログラム等を個体識別リーダ10に入力する。入力部は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどを含む。
【0014】
図2は、本実施形態におけるアンテナ13を示す。
図2(a)はアンテナ13の給電基板101を示している。
図2(b)はアンテナ13の放射基板102を示している。
図2(c)はアンテナ13の側面図である。
図2(c)に示すように、放射基板102は、給電基板101から所定距離だけ上方に隔てられて位置している。
アンテナ100は給電基板101と放射基板102を有する。給電基板101および放射基板102は、ガラスエポキシ樹脂、テフロン(登録商標)、ポリイミドなどの基材からなる電子基板である。放射基板102は放射素子基板と称される場合もある。後述するように、給電基板101には、給電線路が設けられる。本実施形態では、給電線路はマイクロストリップ線路であるとする。
【0015】
図2(a)に示すように、給電基板101は、1つの給電部(給電点)103と、3つの分岐点104、109、114と、6つの分岐線路(給電線路)105、106、110、111、115、118とを有する。分岐線路105、110、115、118の端部には、それぞれ、放射素子接続部107、112、116、119の一端が設けられている(接続されている)。なお、給電基板101は
図2(a)の紙面の裏側にグランド(接地部)を備える。給電部103は、信号電力を分岐線路(給電線路)105、106、110、111、115、118に供給する。
【0016】
3つの分岐点104、109、114は、給電部103から見て所定の方向(本実施形態では、右回り)に順次位置している。また、各分岐点からは、2つの分岐線路が延びている。より詳しくは、第一の分岐点104から分岐線路105、106が延び、第二の分岐点109から分岐線路110、111が延び、分岐点114から分岐線路115、118が延びている。また、放射素子接続部107、112、116、119も、給電部103から見て右回りに順次位置している。
本明細書において、給電基板101上の分岐点104から各放射素子接続部107、112、116、119までの配線を、給電線路と称する。また、給電基板101と、給電線路とをまとめて、アンテナ13の給電構造と称する。給電線路は、給電部103から信号電力を放射素子107、112、116、119に順次給電する。
【0017】
放射基板102は、
図2(b)に示すように、4つ放射素子108、113、117、120を有する。放射素子108、113、117、120の端部には、それぞれ、放射素子接続部107、112、116、119の他端が接続されている。4つの放射素子108、113、117、120も、右回り(所定の方向)に順次配置されている。各放射素子108、113、117、120は、
図2(b)では長方形で示されているが、実際にはモノポールを折り曲げた逆Lアンテナ形状を呈している。また、各放射素子108、113、117、120は、アンテナ素子と称されることがある。アンテナ13は放射素子108、113、117、120から高周波無線信号を放射する円偏波アンテナである。
図2(c)に示すように、給電基板101の上方に放射基板102が位置する。給電基板101と放射基板102の間には、給電基板101を放射基板102に接続する放射素子接続部107、112、116、119が立設されている。
【0018】
給電基板101の給電部103は、無線通信部11に接続される。給電部103から給電された信号電力は、第一の分岐点104において、第一の分岐線路105と第二の分岐線路106に分配(分岐)される。この分配(信号電力分岐)は電力比1:3で行われる。本実施形態では、放射素子の数をN個とした場合(Nは4以上の自然数)、給電部103からi番目(iはN-1以下の自然数)の分岐点における信号電力の分岐の割合(電力比)は1:N-iになるように設定される。上記したように、本実施形態では、Nは4であり、第一の分岐点104ではiが1になるので、第一の分岐点104における信号電力の分岐の割合は、1:4-1(つまり1:3)となる。なお、以下の記載において、信号電力は単に信号と称する場合がある。本実施形態では、1番目の放射素子が放射素子108であり、2番目の放射素子が放射素子113であり、N番目の放射素子が放射素子120である。放射素子117はN-1番目の放射素子である。
【0019】
第一の分岐線路105に分配された信号電力は、第一の分岐点104での分岐後、第一の放射素子接続部107まで動作周波数帯域の略四分の一波長の長さを伝送し、第一の放射素子108で放射される。略四分の一波長の長さを伝送させることにより、分岐での反射を低減している。以下の記載において、第一の放射素子接続部107での信号電力の位相を位相基準(0度)とする。
【0020】
第二の分岐線路106に分配された信号電力は、第一の分岐点104での分岐後、第二の分岐点109まで動作周波数帯域の略四分の一波長の長さを伝送する。信号電力は第二の分岐点109において、第三の分岐線路110と第四の分岐線路111に分配される。この分配は電力比1:2で行われる(Nが4で、iが2であるので、1:4-2)。第三の分岐線路110に分配された信号電力は、分岐後、第二の放射素子接続部112まで動作周波数帯域の略四分の一波長の長さを伝送し、第二の放射素子113で放射される。第二の放射素子接続部112での信号位相は略90度となる。
【0021】
第四の分岐線路111に分配された信号電力は、分岐後、第三の分岐点114まで動作周波数帯域の略四分の一波長の長さを伝送する。信号電力は第三の分岐点114において、第五の分岐線路115と第六の分岐線路118に分配される。この分配は電力比1:1で行われる(Nが4で、iが3であるので、1:4-3)。
第五の分岐線路115に分配された信号電力は、分岐後、第三の放射素子接続部116まで、動作周波数帯域の略四分の一波長の長さを伝送し、第三の放射素子117で放射される。第三の放射素子接続部116での信号位相は略180度となる。
第六の分岐線路118に分配された信号電力は、分岐後、第四の放射素子接続部119まで動作周波数帯域の略四分の二波長の長さを伝送し、第四の放射素子120で放射される。第四の放射素子接続部119での信号位相は略270度となる。
このように、本実施形態の給電線路は、1番目から3番目(つまりN-1番目)の放射素子接続部107、112、116のそれぞれの前に、1番目の分岐点104、2番目の分岐点109、3番目の分岐点114を有している。
【0022】
放射素子108、113、117、120は、開放端が反時計回りになるように配置されている。つまり、放射素子接続部107、112、116、119から見た場合、放射素子108、113、117、120は反時計回りに略360度/Nずつ異なる方向へ延びる開放端を有している。反時計回りの方向は、所定の巡回方向と称してよい。
給電部103から分配された信号電力は、各放射素子108、113、117、120に信号振幅が等しく、信号位相が90度ずつずれて給電されることで円偏波を形成する。なお、放射基板102上の各放射素子108、113、117、120は、ステンレスや銅などの金属板で構成されてもよく、その場合は、基材を用いなくてもよい。
【0023】
図3は本実施形態のアンテナ13の給電構造の優位性を説明するための比較例(アンテナ300)を示している。
図3(a)が
図2(a)に対応し、アンテナ300の給電基板301を示している。
図3(b)が
図2(b)に対応し、アンテナ300の放射基板302を示している。
図3(a)に示すように、給電基板301は、1つの給電部303と、1つの分岐点304と、4つの分岐線路305、306、307、308と、4つの放射素子接続部309、310、311、312とを有している。また、
図3(b)に示すように、放射基板302は、4つ放射素子313、314、315、316を有している。
放射基板302上における放射素子313~316の配置は
図2(b)と同様である。また、給電基板301と放射基板302の位置関係も、
図2(c)と同様である。さらに、給電基板301と放射基板302の接続も
図2(c)に示したものと同様であり、給電基板301は4つの放射素子接続部309、310、311、312により放射基板302に接続されている。
【0024】
図3の比較例の給電構造では、分岐点304において、各分岐線路305~308に信号電力が等分配(電力比1:1:1:1)される。等分配された信号電力は各放射素子接続部309~312まで、それぞれ、略四分の一、略四分の二、略四分の三、略四分の四波長の長さを伝送する。伝送された信号電力は各放射素子313~316で放射される。各放射素子313~316での信号振幅および信号位相は
図2と同様であり、円偏波を形成する。
【0025】
次に、
図2の給電構造と
図3の給電構造を比較する。
図2のアンテナ13の給電構造では、第一の分岐点104から各放射素子接続点107、112、116、119までの給電線路の総長は略四分の七波長である。これに対し、
図3のアンテナ300の給電構造では、分岐点304から各放射素子接続点309、310、311、312までの給電線路の総長は略四分の十波長である。従って、給電線路の総長は、本実施形態(
図2)の給電構造の方が短い。つまり、給電基板上で給電線路が占める面積は、本実施形態の給電構造の方が小さい。その結果、本実施形態の給電構造を採用すると、給電基板を小さくすることができるので、アンテナ13全体を小型化することができる。あるいは、給電基板の大きさを変えない場合は、本実施形態の給電構造を採用すると、給電線路が占める面積が小さくなって給電基板上に空き領域が増えるので、当該領域を無線通信部11や記憶部14などの周辺の回路の実装領域として使用することができる。
【0026】
図4は本実施形態の給電基板101の給電線路(給電構造)の電磁界シミュレーションの例を示しており、
図5はシミュレーションの結果を示している。基板401の基材はFR4(Flame Retardant Type 4)である。基板401の厚さは0.5mmとし、給電線路構造(線路種)はマイクロストリップ線路とし、動作周波数は900MHzとした。
給電点402から給電された信号電力は、分岐403において、分岐線路404、405に分岐(分配)される。分岐線路405はさらに分岐線路407、408に分岐される。分岐線路408はさらに分岐線路410、413に分岐される。分岐線路405、408、413および分岐線路404、407、410の長さは、ぞれぞれ、46mmである。46mmという長さは、この基材(基板401)での900MHzの四分の一波長相当の長さである。以下の説明では、分岐線路404、407、410、413の先端406、409、412、414をポート1、2、3、4と称する。
【0027】
給電点402からポート1、2、3、4に向かう電力の割合はそれぞれ
図5の「透過量」に示した通りであり、各ポートに等分配されている。なお、損失等があるので、透過量の合計は1.0にはならない。
ポート1とポート2の位相差(∠2-∠1)は93.9度であり、ポート2とポート3の位相差(∠3-∠2)は83.9度であるので、位相差は略90度であると言える。分岐線路の幅については、分岐403の幅がw0で0.78mm、分岐線路404の幅がw1で0.06mm、分岐線路407の幅がw2で0.3mm、分岐線路410の幅がw3で0.16mm、分岐線路413の幅がw4で0.16mmである。また、分岐線路405の幅がw0’で0.61mm、分岐線路408の幅がw0”で0.4mmである。
なお、本シミュレーションにおいて、線路は直線であるが、曲がっていても同様の効果が得られる。また、他の基材、基板厚および線路種においても適用可能である。
【0028】
上記したように、本実施形態によれば、給電線路に3つの分岐点104、109、114を効率良く配置して、6つの分岐線路105、106、110、111、115、118の長さを抑制したので、給電基板101上の給電線路の総長を短くすることができる。つまり、
図2と
図3の比較で説明したように、本実施形態によれば、給電基板101上で給電線路の総長が短くなり、給電基板101上で給電線路が占める面積を小さくすることができる。よって、本実施形態の給電構造を採用すると、省スペースで放射素子108、113、117、120への給電を行うことができる。これにより、アンテナ13全体を小型化することができる。また、給電線路が長いと各放射素子への電力分配が乱れてしまう可能性があるが、本実施形態によればその可能性が低減される。なお、給電基板101の大きさを変えない場合は、給電基板101上における給電線路の占有面積が小さくなるので、給電基板101上に空き領域に、無線通信部11や記憶部14などの周辺の回路の実装することができる。
また、本実施形態では、導波管を使用していないので、導波管を使用するアンテナ(特許文献1)と比較して、アンテナ13を小型化することができる。
【0029】
なお、第一の実施形態において、給電線路はマイクロストリップ線路としたが、給電線路はマイクロストリップ線路に限定されない。例えば、給電線路は、コプレナー線路、グランド付コプレナー線路、ストリップ線路、スロット線路などでもよい。このような給電線路にしても、第一の実施形態と同様の効果が得られる。
第一の実施形態において、放射素子108、113、117、120はモノポールを折り曲げた逆Lアンテナ形状であるとしたが、放射素子の形状はこれに限定されない。例えば、放射素子は、接地面に短絡する逆Fアンテナ形状としてもよい。
第一の実施形態において、給電基板101と給電線路をまとめて、アンテナ13の給電構造と称するとしたが、給電構造は給電部103や放射素子接続部107、112、116、119を含んでもよい。
【0030】
図2(a)において、給電線路(104~106、110、111、115、118)は直線片(条)形状であるが、蛇行形状、らせん形状としてもよい。また、放射素子108、113、117、120も直線片形状であるが、蛇行形状、螺旋形状としてもよい。
第一の実施形態では、給電基板101の裏側にグランド(接地部)を設けるとしたが、接地部を設ける位置は給電基板101の裏側に限定されない。また、放射素子の種類や接地部の位置によっては、放射素子は、接地部への短絡部を備えてもよい。例えば、
図2(b)に示した放射素子108、113、117、120に短絡部を取り付けてもよい。
【0031】
図2(a)において、分岐点104、109、114は時計回りに配置されたが、反時計回りに配置されてもよい。また、放射素子接続部107、112、116、119も反時計回りに配置されてよい。
図2(c)において、放射素子108、113、117、120の開放端は反時計回りに配置されたが、時計回りに配置されてもよい。
第一の実施形態において、放射素子の数は4としたが、当該数は4に限定されず、5以上でもよい。
放射素子の数が4以上の自然数Nのとき、給電点(給電部103)からi番目の分岐点において、1:N-iで信号分配する分岐線の線幅は、分岐前の線路インピーダンスをZとしたとき線路インピーダンスがそれぞれ、式(1)および式(2)のようになる線幅となる。sqrtはsquare rootの略である。
sqrt(N-i+1) * Z 式(1)
sqrt((N-i+1)/(N-i)) * Z 式(2)
【0032】
例えば、Nが4で、iが2の場合、2番目の分岐点109において、1:2で信号分配する分岐線路110、111の線幅は、分岐線路110のインピーダンスが30.5Zとなり、分岐線路111のインピーダンスが(3/2)0.5Zとなる線幅である。
【0033】
第二の実施形態
次に、
図6および
図7を参照して、本発明の第二の実施形態を説明する。
図6は第二の実施形態のアンテナ500の給電基板501を示しており、
図2(a)に対応する図である。本実施形態のアンテナ500も、
図1の個体識別リーダ10に使用される。第二の実施形態の個体識別リーダは、アンテナ500以外の構成において、第一の実施形態の個体識別リーダ10と同様な構成を有する。また、
図2(b)および
図2(c)に示した構成は、第二の実施形態のアンテナ501でも採用する。つまり、第一の実施形態の放射基板102と放射素子接続部107、112、116、119は第二の実施形態のアンテナ500においても採用される。以下、第一の実施形態との相違点を説明する。
図6では、第一実施形態と同様な構成要素には同じ参照番号を付けている。
【0034】
図6に示すように、給電基板501は、1つの給電部103と、3つの信号分配部506、507、508と、6つの分岐部504、514、515、516、517、518とを有する。分岐部504、515、517、518の端部には、ぞれぞれ、放射素子接続部107、112、116、119が接続されている。給電部103から4つの放射素子接続部107、112、116、119までの給電線路の配置は、
図2(a)とほぼ同じである。
【0035】
本実施形態では、第一の実施形態の分岐点104、109、114の代わりに、信号分配部506、507、508が設けられている。信号分配部506~508には色々なタイプ(型)の分配部を用いることができる。
図7には、例として、信号分配部506~508の3つのタイプが示されている。
図7(a)はT型の信号分配部506-Aを示している。信号分配部506-Aは、3つの抵抗509、510、511をT字状に結線して構成されている。なお、信号分配部507-A、508-Aは、信号分配部506-Aと同様な構造を有する。
図7(b)はΔ型の信号分配部506―Bを示している。信号分配部506―Bは、3つの抵抗509、510、511をΔ状に結線して構成されている。なお、信号分配部507-B、508-Bは、信号分配部506-Bと同様な構造を有する。
図7(c)は
図7(a)とは異なるT型の信号分配部506―Cを示している。信号分配部506―Cは、3つのキャパシタ(コンデンサ)512と3つのインダクタ513をT字状に結線して構成されている。なお、信号分配部507-C、508-Cは、信号分配部506-Cと同様な構造を有する。
【0036】
上記したように、本実施形態によれば、
図3の比較例と比較して、給電基板501上の給電線路の総長を短くすることができる。よって、本実施形態のアンテナ給電構造でも、第一の実施形態と同様な効果を得ることができる。
なお、上記した第一の実施形態と第二の実施形態では、個体識別リーダ10に用いられるアンテナ10を説明したが、本発明のアンテナの給電構造は、個体識別リーダ10以外の通信装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…個体識別リーダ,13…アンテナ,101…給電基板,102…放射基板,103…給電部,104、109、114…分岐点,105、106、110、111、115、118…分岐線路,108、113、117、120…放射素子,500…アンテナ