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特許7596094潤滑剤組成物、摺動装置、定着装置および画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物、摺動装置、定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/38 20060101AFI20241202BHJP
   C10M 119/22 20060101ALI20241202BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20241202BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20241202BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20241202BHJP
   C10M 147/04 20060101ALI20241202BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
C10M107/38
C10M119/22
C10M147/02
C10M169/04
G03G15/20 505
C10M147/04
C10N40:02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020138389
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2021036034
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2019153016
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大島 義人
(72)【発明者】
【氏名】宮内 陽平
(72)【発明者】
【氏名】能登屋 康晴
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-273684(JP,A)
【文献】特開2004-029607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 107/38
C10M 119/22
C10M 147/02
C10M 169/04
G03G 15/20
C10N 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油としてのパーフルオロポリエーテルと、増ちょう剤としてのフッ素樹脂粒子と、を含む潤滑剤組成物であって、
該潤滑剤組成物は、さらにテトラフルオエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを該パーフルオロポリエーテルに溶解した状態で含んでおり、
該含フッ素ポリマーの該パーフルオロポリエーテルに対する溶解量が、0.05~10 .00質量%であり、
該含フッ素ポリマーが、下記構造式(7)または下記構造式(8)で示される構造を有し、
該フッ素樹脂粒子が、ポリテトラフルオロエチレンであり、
該潤滑剤組成物における該フッ素樹脂粒子の含有量が、10~50質量%であることを特徴とする潤滑剤組成物。
(構造式(7)中、n7及びm7は各々独立に1以上の整数を表す。)
(構造式(8)中、n8及びm8は各々独立に1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記含フッ素ポリマー中のテトラフルオロエチレン構造のモル分率が、10~90mol%である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた摺動装置であって、該潤滑剤組成物が、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする摺動装置。
【請求項4】
2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた定着装置であって、該潤滑剤組成物が、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
エンドレス形状を有する定着ベルトと、加圧部材と、該定着ベルトを非輻射熱で加熱するヒータとを備え、未定着トナー像を有する記録媒体を該定着ベルトとが加圧部材とで形成されるニップで加熱して該未定着トナー像を該記録媒体に定着する定着装置であって、該定着ベルトの内周面と、該ヒータの少なくとも一部とが潤滑剤組成物を介して接しており、該潤滑剤組成物が、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた画像形成装置であって、該潤滑剤組成物が、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑剤組成物、摺動装置、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、潤滑剤として用いられるフッ素グリースは、蒸気圧が低いために加熱環境下や真空化環境下でも蒸発による枯渇やアウトガスの発生が少ないという特徴がある。このため、複写機や半導体露光装置といった工業製品に広く使用されている。
フッ素グリースは、一般的に基油であるパーフルオロポリエーテルと、固体増ちょう剤であるフッ素樹脂粒子を主成分とする混合物である(特許文献1)。このため、増ちょう剤による構造粘性によって、非ニュートン流体として振る舞い、見かけ粘度のせん断速度依存性があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5073986号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素グリースを装置摺動部の潤滑剤として使用する際には、見かけ粘度のせん断速度依存性が課題となる。これは、装置摺動部のせん断速度変化に応じて潤滑剤の見かけ粘度が変化することで、装置摺動部のトルク変動が生じる場合があるためである。
【0005】
そこで、本開示の一態様は、見かけ粘度のせん断速度依存性が小さい潤滑剤組成物に向けたものである。
本開示の他の態様は、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた摺動装置であって、該部材間のせん断速度が変化してもトルク変動が生じにくい摺動装置の提供に向けたものである。
本開示の他の態様は、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備え、該部材間のせん断速度が変化してもトルクの変動が生じにくい定着装置の提供に向けたものである。
本開示の更に他の態様は、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備え、該部材間のせん断速度が変化してもトルクの変動が生じにくい画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、基油としてのパーフルオロポリエーテルと、増ちょう剤としてのフッ素樹脂粒子と、を含む潤滑剤組成物であって、該潤滑剤組成物は、さらにテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを該パーフルオロポリエーテルに溶解した状態で含んでいる潤滑剤組成物が提供される。
本開示の他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた摺動装置であって、該潤滑剤組成物が、上記の潤滑剤組成物である摺動装置が提供される。
本開示の他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた定着装置であって、該潤滑剤組成物が、上記の潤滑剤組成物である定着装置が提供される。
また、本開示の他の態様によれば、エンドレス形状を有する定着ベルトと、加圧部材と、該定着部材を非輻射熱で加熱するヒータとを備え、未定着トナー像を有する記録材を該定着ベルトとが加圧部材とで形成されるニップで加熱して該未定着トナー像を該記録材に定着する定着装置であって、該定着ベルトの内周面と、該ヒータの少なくとも一部とが潤滑剤組成物を介して接しており、該潤滑剤組成物が、上記の潤滑剤組成物である定着装置が提供される。
さらに、本開示の他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた画像形成装置であって、該潤滑剤組成物が、上記の潤滑剤組成物である画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、見かけ粘度のせん断速度依存性が小さい潤滑剤組成物を得ることができる。
本開示の他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた摺動装置であって、該部材間のせん断速度が変化してもトルク変動が生じにくい摺動装置を得ることができる。
本開示の他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備え、該部材間のせん断速度が変化してもトルクの変動が生じにくい定着装置を得ることができる。
本開示の更に他の態様によれば、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備え、該部材間のせん断速度が変化してもトルクの変動が生じにくい画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一態様に係る潤滑剤組成物を用いた定着装置の、(a)断面模式図と(b)記録材搬送方向から見た断面模式図の一例である。
図2】本開示の一態様に係る画像形成装置の一態様を示す概略断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係る潤滑剤組成物は、基油としてのパーフルオロポリエーテル(以下、「PFPE」と称することがある。)と、増ちょう剤としてのフッ素樹脂粒子と、を含む潤滑剤組成物であって、該潤滑剤組成物は、さらにテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを該PFPEに溶解した状態で含んでいることを特徴とする。
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、PFPEにテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを溶解させた状態で含むことによって、低せん断速度での見かけ粘度を低下させることができた。一方で、高せん断速度での見かけ粘度を維持することができるため、見かけ粘度のせん断速度依存性を小さくすることができることを見出した。
【0011】
本開示に係るテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーは、基油であるPFPEよりも高分子量かつ室温で固体状であり、PFPEに添加し混合するだけでは溶解しない。また、PFPE中に粒子状で分散することによりフッ素樹脂粒子の増ちょう剤と同様に、構造粘性によって見かけ粘度のせん断速度依存性の要因となりうる。
【0012】
しかしながら本発明者らは、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーについて、加熱および撹拌などの操作を行うことによってPFPEに溶解させることができることを見出した。さらに、該PFPEを基油として潤滑剤組成物に用いることで、見かけ粘度のせん断速度依存性が小さくなることを見出した。
【0013】
これは、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーに含まれるテトラフルオロエチレン構造が、増ちょう剤であるフッ素樹脂粒子と相互作用し、増ちょう剤が不均一に分散することで、構造粘性が低下するためであると考えられる。
【0014】
また、見かけ粘度のせん断速度依存性が小さくなることで、装置摺動部において起動時から定常駆動時における幅広いせん断速度範囲において、摺動部のトルク変化を小さくできる。
【0015】
[潤滑剤組成物]
以下に、本開示に係る潤滑剤組成物について、具体的な構成に基づき詳細に説明する。
【0016】
(1)基油:PFPE
基油としては、PFPEの如きフッ素オイルが用いられる。PFPEは、パーフルオロアルキレンエーテルを繰り返し単位として有するポリマーである。パーフルオロアルキレンエーテルの具体例としては、パーフルオロメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロプロピルエーテルおよび、パーフルオロイソプロピルエーテルが挙げられる。
【0017】
高温環境下で使用される潤滑剤組成物に使用される基油については、耐熱性の観点から、構成原子が、炭素原子、フッ素原子および酸素原子のみであり、かつ、これらの原子が単結合で結合している化学構造を有するPFPEを用いることが好ましい。
【0018】
PFPEには、市販品を用いることができる。該市販品としては、構造式(1)で表されるPFPE(例えば、デムナム(Demnum)S-200、デムナムS-65(いずれも商品名)、ダイキン工業社製)、構造式(2)で表されるPFPE(例えば、クライトックス(Krytox)GPL-107、クライトックスGPL-106、クライトックスGPL-105(いずれも商品名)、ケマーズ社製)、構造式(3)で表されるPFPE(例えば、フォンブリン(Fomblin)M60、フォンブリンZ25(いずれも商品名)、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)、構造式(4)で表されるPFPE(例えば、フォンブリンY45、フォンブリンY25(いずれも商品名)、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
【化1】
【0020】
構造式(1)中、n1は正の整数であり、n1は、PFPEの40℃における動粘度が10~300mm/sの範囲を満たす範囲の数である。
構造式(2)中、n2は正の整数であり、n2は、PFPEの40℃における動粘度が5~1200mm/sの範囲を満たす範囲の数である。
構造式(3)中、n3及びm3は各々が正の整数であって、m3/n3が0.5以上2以下となる数であり、また、n3+m3は、PFPEの40℃における動粘度が10~900mm/sの範囲を満たす範囲の数である。
構造式(4)中、n4及びm4は各々が正の整数であって、m4/n4が20以上1000以下となる数であり、また、n4+m4は、PFPEの40℃における動粘度が10~700mm/sの範囲を満たす範囲の数である。
【0021】
(2)増ちょう剤:フッ素樹脂粒子
増ちょう剤は主にフッ素樹脂粒子であり、潤滑剤等の増ちょう剤として利用されているものから、適宜選択して利用することができる。
【0022】
一般的にフッ素グリースの増ちょう剤として用いられるポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することがある。)は、他のフッ素樹脂粒子に比較して硬いため耐摩耗性に優れ、摺動部に使用される潤滑剤組成物の増ちょう剤として好適である。
【0023】
増ちょう剤としては、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、ポリフロンPTFEルブロン L-5F(商品名、ダイキン工業社製)、FluonPTFEL150J、FluonPTFE L173JE(いずれも商品名)、AGC社製)、3MダイニオンPTFEマイクロパウダー TF9207Z(商品名)、スリーエム社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
増ちょう剤の含有量は、潤滑剤組成物全体の10~50質量%、好ましくは15~40質量%の割合で添加混合される。増ちょう剤の量を上記範囲にすることにより、優れた摺動性を得ることができる。
増ちょう剤であるフッ素樹脂粒子の一次粒子の平均粒子径としては、レーザー散乱法粒子径分布分析計により測定される体積基準のメジアン径の値で、0.1μm~20.0μmが好ましく、特には、0.1μm~10.0μmがより好ましい。
【0025】
(3)添加剤:テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマー
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーは、分子鎖にテトラフルオロエチレン構造を持てばよく、例えば、以下に例示列挙するポリマーが単独もしくは複合されて用いられる。
テトラフルオロエチレン-パーフルオロジメチルジオキソール共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロメトキシジオキソール共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロポリエーテル共重合体。
【0026】
また、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーがテトラフルオロエチレン構造に加え、ヘテロ原子として酸素原子を有する複素環構造を有することが好ましい。また、複素環構造中の環構造を形成している少なくとも1個の炭素原子にはフッ素原子、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、及び炭素数1~3のパーフルオロアルコキシ基からなる群から選択される原子または基が結合している構造を有することが好ましい。
【0027】
上記構造を有することで、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーが、PFPEに溶解しやすくなり、見かけ粘度のせん断速度依存性をよりよく調整することができる。
【0028】
また、前記の複素環構造が、下記構造式(5)で表されるオキソラン構造、または構造式(6)で表されるジオキソラン構造であることがさらに好ましい。
【0029】
【化2】
(式中、R~R10は、各々独立に、フッ素原子、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、及び炭素数1~3のパーフルオロアルコキシ基からなる群から選択される原子または基を表す。)
【0030】
ここで、前記含フッ素ポリマー中の、前記含フッ素ジオキソラン構造のモル分率、および含フッ素オキソラン構造のモル分率の総和は、10~90mol%であることが好ましく、30~70mol%であることがより好ましく、40~60mol%であることがさらに好ましい。
【0031】
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーとしては、市販品を用いることができる。該市販品としては、構造式(7)で表されるテフロン(登録商標)AFシリーズ(例えばAF1600X、AF2400X(いずれも商品名)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)等が挙げられる。構造式(8)で表されるアルゴフロンADシリーズ(例えばアルゴフロンAD40L、アルゴフロンAD60(いずれも商品名)、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)等が挙げられる。
【0032】
【化3】
構造式(7)中、n7及びm7は各々独立に1以上の整数を表す。
【0033】
【化4】
構造式(8)中、n8及びm8は各々1以上の整数を表す。
【0034】
ここで、前記含フッ素ポリマー中のテトラフルオロエチレン構造のモル分率は、10~90mol%であることが好ましく、30~70mol%であることがより好ましく、40~60mol%であることがさらに好ましい。
【0035】
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーをPFPEに溶解させる方法について説明する。溶解させる方法については、簡便な手法として、下記があげられるが、これに限定されない。
【0036】
(a)テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーをPFPEに添加し、あらかじめ測定したテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーのガラス転移点以上の温度で加熱し撹拌する。
【0037】
(b)テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを、あらかじめ可溶な溶剤に溶解させ、その溶液をPFPEに添加し十分に混合したのち、溶剤の沸点以上に加熱し、用いた溶剤を揮発させる。
【0038】
(c)テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを、PFPEを含むフッ素グリースに添加し、使用する摺動環境下において、あらかじめ測定したテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーのガラス転移点以上の温度で使用する。
【0039】
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーは少なくとも一部がPFPEに溶解していることが好ましい。テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーのPFPEへの溶解の有無は、例えば、以下の方法によって確認できる。
【0040】
まず、潤滑剤組成物を遠心分離することで、潤滑剤組成物に含まれる増ちょう剤を沈降させ、基油及び基油に溶解したテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーのみを上澄み液として抽出する。この際、増ちょう剤を沈降させやすくするために潤滑剤組成物を希釈することが好ましい。希釈剤にはハイドロフルオロエーテル(Novec7300(商品名、スリーエム社製))を用いて、遠心分離に供する潤滑剤組成物を2倍に希釈する。希釈後、下記条件において遠心分離により、増ちょう剤を沈降させる。
このとき、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーがPFPEに溶解していない場合は、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーが遠沈するため、上澄み液はPFPEとハイドロフルオロエーテルのみとなる。
【0041】
(遠心分離による抽出)
装置名: 高速遠心分離機7780(久保田商事社製)
ロータ:マイクロロータ A-224
サンプルチューブ:1.5mL
回転数:20,000rpm
遠心力:36,670×g
温度:40℃
時間:30分
【0042】
続いて、得られた上澄み液に対して、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(以下、「HFIP」と称する。)を添加し、PFPE成分のみを溶媒抽出する。PFPE成分を残さず抽出するためには、得られた上澄み液1mg程度に対して、HFIPを1mL以上添加することが好ましい。テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーはHFIPに不溶であるため、孔径が0.45μmのポリプロピレン製のフィルターを用いて、捕集することができる。ここで、捕集したテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーをフーリエ変換赤外分光法やNMRなどにより分析することで、構造の同定が可能となる。
【0043】
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーは、PFPEに対して0.05~10.00質量%、好ましくは0.5~5質量%の割合で添加される。
【0044】
また、耐熱性や摺動性を損なわない範囲において、熱伝導性フィラー、固体潤滑剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、染料、色相安定剤、粘度指数向上剤、構造安定剤等、通常配合される添加剤を添加してもよい。
【0045】
該潤滑剤組成物の製造方法としては、例えば、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを溶解させたPFPEとフッ素樹脂粒子ならびに必要な他の添加剤を添加し、混合することで製造できる。混合装置としては、ミキサー、ロールミル、自転公転ミキサー、ホノジナイザーの如き公知の混合装置を用いることができる。
さらに、上記加工手段に加え、必要に応じて濾過、減圧、加圧、過熱、冷却、不活性ガス置換等を単独、あるいは複合して行ってもよい。
【0046】
[摺動装置]
該潤滑剤組成物は、従来からフッ素グリースが用いられていた用途に、広く適用することができる。具体的には、転がり軸受、すべり軸受、焼結軸受、ガイドレール、LMガイド、ボールねじ、エアシリンダー、ギヤ、バルブ、コック、オイルシール、電気接点の如き摺動部個体間接触部の潤滑を目的として使用される。たとえば、自動車のハブユニット、トラクションモータ、燃料噴射装置、オルタネータ等に代表される自動車補機の軸受、動力伝達装置、パワーウインドウモータ、ワイパ等のギヤ部等が挙げられる。情報機器に使用されるハードディスク、フレキシブルディスク記憶装置、コンパクトディスクドライブ、光磁気ディスクドライブの軸受、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の定着ロール部分に代表される摺動部が挙げられる。真空ポンプ、半導体製造装置、樹脂製造装置、コンベア、に使用される軸受やLMガイド、ギヤ等の摺動部、すべり接触するロールの摺動部が挙げられる。ブレーカ、リレー、スイッチ等に使用されている電気機器の電気接点等に使用されている金属表面を有効に潤滑する。特に複写機の定着装置における摺動部および半導体製造装置に使用される軸受やレール等の摺動部に好適に使用することができる。これにより、2つの部材が潤滑剤組成物を介して接し、該部材のうちの少なくとも一方が他方に対して摺動可能である摺動部を備えた摺動装置を得ることができる。
【0047】
[定着装置]
図1は、本開示の一態様に係る定着装置の概略説明図である。
図1(a)は、該定着装置を、記録材Pの搬送方向(矢印L1)に対し直交する方向から見た断面図であり、図1(b)は、記録材Pの搬送方向上流側から見た図である。
該定着装置において、定着ベルト101は、エンドレス形状を有する。定着ベルト101を保持するために、耐熱性・断熱性を有する樹脂によって成型されたベルトガイド部材121が形成されている。
このベルトガイド部材121と定着ベルト101の内面とが接触する位置に熱源としてのセラミックヒータ120を具備する。
【0048】
そして、該潤滑剤組成物は、一方の摺動部材であり、かつ、該定着ベルトを非輻射熱で加熱するヒータであるセラミックヒータ120の表面と、他方の摺動部材としての定着ベルト101の内周面との間に介在している(不図示)。すなわち、セラミックヒータ120の表面と、定着ベルト101の内周面とは、該潤滑剤組成物を介して接している。これにより、セラミックヒータ120に対する定着ベルト101の摺動性が向上させられる。また、該潤滑剤組成物は、その見かけ粘度のせん断速度依存性が小さいため、セラミックヒータ120に対する定着ベルト101のせん断速度が変化しても、摺動部のトルク変動が生じにくい。
セラミックヒータ120はベルトガイド部材121の長手方向に沿って成型具備された溝部に嵌入して固定支持されている。
【0049】
ベルトガイド部材121の長手方向中央部には、セラミックヒータ120に接触するように配置されたる温度検知素子(サーミスタ)123を収納する孔が設けてある。
セラミックヒータ120は、不図示の電源装置から電力が供給されて昇温する。セラミックヒータ120の温度はサーミスタ123で検知され、その検知情報が不図示の制御回路部にフィードバックされる。制御回路部はサーミスタ123から入力される検知温度が所定の目標温度に維持されるように電源装置からセラミックヒータ120に入力する電源を制御する。
シームレス形状の定着ベルト101はフランジ部材124にルーズに外嵌させてある。加圧用剛性ステイ122はフランジ部材124の内側に挿通してある。
【0050】
加圧部材としての加圧ローラ111はステンレス芯金112にシリコーンゴムの弾性層113を設けて表面硬度を低下させたものである。加圧ローラ111は、芯金112の両端部に軸受け126を用いて回転自由に保持させて配設してある。また、加圧ローラ111は、芯金に設けられた駆動ギヤ127に対して制御部(不図示)で制御されるモータ(駆動源)の駆動力が動力伝達機構(不図示)を介して伝達されて、図1(a)において矢印R1の方向に所定の速度で回転駆動される。そして、定着ベルト101は、加圧ローラ111の回転に従動して矢印R2の方向に回転する。
加圧ローラ111は、表面性及び離型性を向上させるために表層として、厚さ50μmのフッ素樹脂チューブが被覆されている。
【0051】
加圧用剛性ステイ122の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ125を縮設することで、加圧用剛性ステイ124に押し下げ力A2を付与している。これによってベルトガイド部材121の下面に配設したセラミックヒータ120の下面と加圧ローラ111の上面とが定着ベルト101を挟んで圧接して所定の定着ニップNが形成される。
この定着ニップNに未定着トナーTによって未定着トナー像が形成された、被加熱体となる記録媒体Pを、搬送速度Vで挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって記録媒体P上にトナー像が定着される。
【0052】
[画像形成装置]
画像形成装置としては、電子写真方式を用いた複合機、コピー、ファックス、プリンタなどがある。ここではカラーレーザープリンタを例に用い、画像形成装置の全体構成について概略説明する。
【0053】
図2は本開示の一様態に係るカラープリンタの概略断面図である。図2に示したカラーレーザープリンタ(以下「プリンタ」と称す)40は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の色毎に一定速度で回転する電子写真感光体ドラム(以下「感光体ドラム」と称す)を有する画像形成部を有する。また、画像形成部で現像され多重転写されたカラー画像を保持し、給送部から給送された記録媒体Pにさらに転写する中間転写体38を有する。
【0054】
感光体ドラム39(39Y、39M、39C、39K)は、駆動手段(不図示)によって、反時計回りに回転駆動される。
【0055】
感光体ドラム39の周囲には、その回転方向にしたがって順に、感光体ドラム39表面を均一に帯電する帯電装置21(21Y、21M、21C、21K)、画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム39上に静電潜像を形成するスキャナユニット22(22Y、22M、22C、22K)、静電潜像にトナーを付着させてトナー像として現像する現像ユニット23(23Y、23M、23C、23K)、感光体ドラム39上のトナー像を一次転写部T1で中間転写体38に転写させる一次転写ローラ24(24Y、24M、24C、24K)、転写後の感光体ドラム39表面に残った転写残トナーを除去するクリーニングブレードを有するクリーニングユニット25(25Y、25M、25C、25K)が配置されている。
【0056】
画像形成に際しては、ローラ26、27及び28に張架されたベルト状の中間転写体38が回転するとともに各感光体ドラム39に形成された各色トナー像が前記中間転写体38に重畳して一次転写されることでカラー画像が形成される。
【0057】
前記中間転写体38への一次転写と同期するように搬送手段によって記録媒体Pが二次転写部T2へ搬送される。搬送手段は複数枚の記録媒体Pを収納した給送カセット29、給送ローラ30、分離パッド31、レジストローラ対32を有する。画像形成時には給送ローラ30が画像形成動作に応じて駆動回転し、給送カセット29内の記録媒体Pを一枚ずつ分離し、該レジストローラ対32によって画像形成動作とタイミングを合わせて二次転写部T2へ搬送する。
【0058】
二次転写部T2には移動可能な二次転写ローラ33が配置されている。二次転写ローラ33は、略上下方向に移動可能である。そして、像転写に際して、二次転写ローラ33は記録媒体Pを介して中間転写体38に所定の圧で押しつけられる。この時同時に二次転写ローラ33にはバイアスが印加され中間転写体38上のトナー像は記録媒体Pに転写される。
【0059】
中間転写体38と二次転写ローラ33とはそれぞれ駆動されているため、両者に挟まれた状態の記録媒体Pは、図2に示す左矢印方向に所定の搬送速度Vで搬送され、更に搬送ベルト34により次工程である定着部35に搬送される。定着部35では熱及び圧力が印加されて転写トナー像が記録媒体Pに定着される。その記録媒体Pは排出ローラ対36によって装置上面の排出トレイ37上へ排出される。
【0060】
そして、図1に例示した本発明の定着装置を、図2に例示した電子写真画像形成装置の定着部35に適用することにより、画像の均一性に優れた高品位な画像を提供可能な画像形成装置を得ることができる。
【0061】
以上、本実施形態について説明したが、本実施形態は上記の形態に限定的に解釈されるものではなく、種々の変形、変更、改良をし得るものであり、本実施形態の要件を満足する範囲内で実現し得るものであることは言うまでもない。
【実施例
【0062】
以下に、実施例を用いて本開示に係る潤滑剤組成物、摺動装置、定着装置及び画像形成装置について具体的に説明する。なお、本開示に係る潤滑剤組成物、摺動装置、定着装置及び画像形成装置は、以下の実施例に具体化される構成に限定されるものではない。
【0063】
本実施例では、以下のPFPE、フッ素樹脂粒子、及びテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーを用いて潤滑剤組成物の作製を行った。
・PFPE(以下、基油と称する)
基油-1:「Krytox GPL-107」(商品名、ケマーズ社製)
上記基油-1は構造式(1)で表され、温度40℃における動粘度は450mm/sである。
基油-2:「Demnum S-200」(商品名、ダイキン社製)
上記基油-2は構造式(2)で表され、温度40℃における動粘度は200mm/sである。
基油-3:「Fomblin M60」(商品名、ソルベイスペシャリティポリマー社製)
上記基油-3は構造式(3)で表され、温度40℃における動粘度は310mm/sであり、m/nは0.8~0.9の範囲の数である。
【0064】
・テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマー(以下、添加剤と称す)
添加剤-1:「テフロン(登録商標)AF1600X」(商品名、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)
上記添加剤-1は構造式(7)で表され、ガラス転移温度は160℃である。
添加剤-2:「テフロン(登録商標)AF2400X」(商品名、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)
上記添加剤-2は構造式(7)で表され、ガラス転移温度は240℃である。
添加剤-3:「アルゴフロンAD60」(商品名、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)
上記添加剤-3は構造式(8)で表され、ガラス転移温度は125℃である。
添加剤-4:「アルゴフロンAD40L」(商品名、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)
上記添加剤-4は構造式(8)で表され、ガラス転移温度は95℃である。
【0065】
・フッ素樹脂粒子(以下、増ちょう剤と称する)
増ちょう剤-1:「ルブロンL-5F」(商品名、ダイキン社製)
増ちょう剤-2:「FluonPTFE L150J」(商品名、AGC社製)
増ちょう剤-3:「FluonPTFE L172JE」(商品名、AGC社製)
【0066】
(実施例1)
基油-1にテトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマー(添加剤-1)をPFPEに対する溶解量が1質量%になるように混合した。その後、添加剤-1のガラス転移点(160℃)以上である300℃に加熱し、撹拌しながら5時間保持し溶解させた。
テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーが溶解したPFPEに対して、潤滑剤組成物に対する増ちょう剤の割合が30質量%になるように増ちょう剤-1を添加した。その後、自転公転ミキサー(商品名:ARV-310、シンキー社製)により大気圧下、回転数:2000rpmで10分間混合し、本実施例にかかる潤滑剤組成物を調製した。該潤滑剤組成物は、白色の半固体状であった。
得られた潤滑材組成物が、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマー(添加剤-1)が、PFPEに溶解した状態で含むことを、以下のようにして確認した。
すなわち、まず、潤滑剤組成物に、ハイドロフルオロエーテルを含むフッ素系溶剤(商品名:Novec7300、スリーエム社製)を用いて潤滑剤組成物を質量基準で2倍に希釈した希釈物を得た。希釈物を、下記条件にて遠心分離し、増ちょう剤を含む沈降物と上澄み液とに分離した。
【0067】
装置名: 高速遠心分離機7780(久保田商事社製)
ロータ:マイクロロータ A-224
サンプルチューブ:1.5mL
回転数:20,000rpm
遠心力:36,670×g
温度:40℃
時間:30分
【0068】
次に、得られた上澄み液に、該上澄み液1mg当り、HFIPを1mL添加し、該上澄み液中のPFPEをHFIPに溶解させた。その後、孔径が0.45μmのポリプロピレン製のフィルターを用いて、HFIPの不溶物を捕集した。捕集した不溶物について19F-NMR測定を行った結果、構造式(7)に示される構造に由来する化学シフトを確認した。これにより本実施例に係る潤滑剤組成物が、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーである添加剤―1を、PFPEに溶解した状態で含んでいることを確認した。
【0069】
(実施例2~12)
基油の種類、添加剤の種類、増ちょう剤の種類、およびそれぞれの添加量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして各実施例に係る潤滑剤組成物を調製した。各実施例に係る潤滑剤組成物が、テトラフルオロエチレン構造を有するポリマー(添加剤-1~添加剤―4)を、PFPEに溶解した状態で含んでいることを、実施例1に記載した方法と同じ方法で確認した。
【0070】
(実施例13)
添加剤-1の濃度が10wt%になるようにフッ素系の溶剤であるオプテオンSF10(商品名、三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)を添加し、室温で撹拌しながら10時間保持し溶解させ、添加剤-1と溶剤の混合溶液を得た。
溶解後、基油-1に対して添加剤-1の溶解量が5wt%になるように混合溶液を添加し、室温で撹拌しながら5時間保持し、十分に混合させた。混合後、撹拌しながら120℃に加熱することで、溶剤を揮発させ、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーが溶解したPFPEを得た。
その後は実施例1と同様に、テトラフルオロエチレン構造を有する含フッ素ポリマーが溶解したPFPEに対して、潤滑剤組成物に対する増ちょう剤の割合が30質量%になるように増ちょう剤-1を添加した。その後、実施例1と同様に混合し、本実施例にかかる潤滑剤組成物を調製した。該潤滑剤組成物は、白色の半固体状であった。本実施例に係る潤滑剤組成物が、テトラフルオロエチレン構造を有するポリマー(添加剤-1)を、PFPEに溶解した状態で含んでいることを、実施例1に記載した方法と同じ方法で確認した。
【0071】
(比較例1)
実施例1に係る潤滑剤組成物の調製基油-1に対して、潤滑剤組成物に対する増ちょう剤の割合が30質量%になるように増ちょう剤-1を添加した。その後、その後、自転公転ミキサー(商品名:ARV-310、シンキー社製)により大気圧下、回転数:2000rpmで10分間混合し、本比較例にかかる潤滑剤組成物を調製した。該潤滑剤組成物は、白色の半固体状であった。
得られた潤滑剤組成物に、ハイドロフルオロエーテルを含むフッ素系溶剤(商品名:Novec7300、スリーエム社製)を用いて潤滑剤組成物を質量基準で2倍に希釈した希釈物を得た。希釈物を、実施例1における条件と同じ条件で遠心分離し、増ちょう剤を含む沈降物と上澄み液とに分離した。
【0072】
次に、得られた上澄み液に、該上澄み液1mg当り、HFIPを1mL添加し、該上澄み液中のPFPEをHFIPに溶解させた。その結果、HFIPの不溶物は観察されなかった。すなわち、本比較例に係る潤滑剤組成物は、PFPEに溶解した状態で含まれるテトラフルオロエチレン構造を有するポリマーを含んでいないことが確認された。
【0073】
以下に、潤滑剤組成物の評価方法についての詳細に説明する。
(見かけ粘度の評価)
潤滑剤組成物の見かけ粘度は、キャピラリー型レオメーター(商品名:ロザンドRH2000、マルバーン・パナリティカル社製)を用いて測定した。あらかじめ脱泡した潤滑剤組成物を、直径φ15mmのバレルに充填し、穴径φ0.5mm、長さ16mm、入射角度90°のダイを用いた。これを、温度50℃において潤滑剤組成物にかかるせん断速度を10s-1(低せん断速度での評価)と10000s-1(高せん断速度での評価)に設定し押し出した際のバレル内の圧力から見かけ粘度を算出した。
【0074】
(トルクの評価)
本試験には、画像形成装置として、キヤノン社製モノクロレーザービームプリンター:LBP(商品名:Satera LBP312i)を使用した。
【0075】
具体的な評価手順は以下の通りである。あらかじめ調製した潤滑剤組成物をセラミックヒータ上に300mg塗布した上で組み立てを行った定着装置を、LBPに組み込んだ。画像形成装置を組み立てた後にヒータの設定温度を210℃に設定し、10分間空回転させ摺動部をなじませた後に、定着装置が室温になるまで十分に冷ました。その後、ヒータの設定温度を50℃、加圧ローラの表面速度を250mm/secにした時の加圧ローラ軸上トルクを測定した。起動トルクは起動開始直後の最大トルク、定常トルクは10分間の最後の15秒間におけるトルクの平均値とした。
【0076】
実施例1~13、比較例1に係る潤滑剤組成物を見かけ粘度の評価とトルクの評価に供した。結果を表1および表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1から、本開示に係る潤滑剤組成物が、低せん断速度での見かけ粘度を低下させることができる一方で、高せん断速度での見かけ粘度を維持することができるため、見かけ粘度のせん断速度依存性を小さくすることができることが分かった。また、表2から、広いせん断速度領域においてトルク変化を小さくすることができ、せん断速度変化が大きい場合にも好適に用いることができることが分かった。
【符号の説明】
【0080】
35 画像形成装置の定着部
101 定着ベルト
120 セラミックヒータ
図1
図2