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  • 特許-ケイ酸リチウムおよびケイ素の生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ケイ酸リチウムおよびケイ素の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/32 20060101AFI20241202BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241202BHJP
【FI】
C01B33/32
H01M4/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020155262
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049185
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】末永 広志
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-073942(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189747(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/46
H01M 4/00- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の混合粉体を減圧雰囲気下、400℃以上前記炭酸リチウムの融点未満の範囲内の温度で加熱し、炭酸リチウムの脱炭酸反応の完結後に1050℃超の温度に加熱する、
ケイ酸リチウム(SiLi )およびケイ素(Si)を生成させる方法。
【請求項2】
酸リチウムの粉体の層とケイ素の粉体の層との間に二酸化ケイ素の粉体の層が位置するように、前記炭酸リチウムの粉体、前記二酸化ケイ素の粉体および前記ケイ素の粉体を層状に敷き詰めて前記炭酸リチウムの融点以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱する、
ケイ酸リチウム(SiLi )およびケイ素(Si)を生成させる方法。
【請求項3】
酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体との混合粉体の層と、ケイ素の粉体の層とが隣接するように、前記混合粉体および前記ケイ素の粉体を層状に敷き詰めて前記炭酸リチウムの融点以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱する、
ケイ酸リチウム(SiLi )およびケイ素(Si)を生成させる方法。
【請求項4】
前記ケイ素の粉体の層は最下層とされる
請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体との混合粉体を加熱し、前記炭酸リチウムの脱炭酸反応の完結後にその系内にケイ素の粉体を投入する、
ケイ酸リチウム(SiLi )およびケイ素(Si)を生成させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一系内で炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末、必要に応じて二酸化ケイ素粉末を混合したものを1次原料とし、その混合粉末を反応容器内に仕込んで加熱して焼成して、2次原料であるケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させること」及び「2次原料を加熱して、当該原料からSiOガスとLiガスとを同時に発生させること」が提案されている(例えば、国際公開第2018/074175号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/074175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述の通り、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末を混合し、その混合粉末を炭酸リチウムの融点(723℃)超の温度で加熱すると、炭酸リチウムとケイ素が反応して副産物として炭化ケイ素(SiC)が生成してしまう。このように炭化ケイ素が生成すると、目的とするケイ酸リチウムおよびケイ素の収率が低下してしまうだけでなく、嵩密度の増加に伴ってその生成物(すなわち、ケイ酸リチウム、ケイ素および炭化ケイ素)の取り扱いが難しくなってしまう。また、特許文献1には1次原料の過熱焼成を減圧下で行うことにより、不純物元素がより分離されやすくなるとの記述があるが、炭素不純物については炭酸基の状態の不純物は分離することはできても、それが炭化ケイ素(SiC)の状態になってしまうと減圧下でも炭素不純物を分離することが困難になる。
【0005】
本発明の課題は、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる際において、炭化ケイ素の生成を低減することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る方法では、炭化ケイ素(SiC)の生成よりも二酸化炭素(CO)の排出が優先するように、同一系内で炭酸リチウム(LiCO)の粉体、二酸化ケイ素(SiO)の粉体およびケイ素(Si)の粉体からケイ酸リチウムおよびケイ素が生成される。なお、ここで、ケイ酸リチウムおよびケイ素はそれぞれ単相物(単一の相から成る化合物(すなわち粉末等))であってもよいし、一般式SiLiで示される化合物のようにケイ素相、酸化ケイ素相(SiO相)、ケイ酸リチウム相(LiSi相やLiSiO相等)等から成る複相物(複数の相から成る化合物)であってもよい。なお、ここでは、「ケイ酸リチウムおよびケイ素が生成される」とは、何らかの反応前のケイ素がそのまま残っている場合も含み得る。また、ここで、系は、真空(減圧)であることが好ましい。また、ここで、炭化ケイ素の生成よりも二酸化炭素の排出を優先させる方法としては、例えば、(i)LiCO+Si→LiSiO+SiCで示される反応の進行よりもLiCO→LiO+CO↑で示される反応の進行を優先させる方法、(ii)LiCO+Si→LiSiO+SiCで示される反応の進行よりもLiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行を優先させる方法が挙げられる。なお、ここで、一般式SiLiで示される組成物は、ケイ素相、酸化ケイ素相(SiOx相)、ケイ酸リチウム相(LiSi相やLiSiO相等)、酸化リチウム相(LiO)相等から成る複相物(複数の相から成る組成物)である。
【0007】
この方法では、炭化ケイ素の生成よりも二酸化炭素の排出が優先される。このため、この方法では、炭化ケイ素の生成を低減することができる。
【0008】
本発明の第2局面に係る方法は第1局面に係る方法であって、この方法では、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の混合粉体が減圧雰囲気下、400℃以上炭酸リチウムの融点未満の範囲内の温度で加熱される。
【0009】
この方法では、先ず、上記混合粉体を減圧雰囲気下において400℃以上炭酸リチウムの融点未満の範囲内の温度で加熱して、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行を抑えつつ炭酸リチウムの脱炭酸反応(LiCO→LiO+CO↑の反応)を進行させる。その後、それを1150℃以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱すると、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑で示される、LiとSiOが同時に発生する反応が進む。このため、この方法では、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる際において、炭化ケイ素の生成を低減することができる。
【0010】
本発明の第3局面に係る方法は第1局面に係る方法であって、この方法では、炭酸リチウムの粉体の層とケイ素の粉体の層との間に二酸化ケイ素の粉体の層が位置するように、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体が層状に敷き詰められて炭酸リチウムの融点以上の温度で加熱される。なお、加熱温度の上限は1400℃である。
【0011】
この方法では、上述の通り、炭酸リチウムの粉体の層とケイ素の粉体の層との間に二酸化ケイ素の粉体の層を位置させる。すなわち、この方法では、炭酸リチウムの粉体とケイ素の粉体とが接触しないが、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体と接触することになる。このため、この方法では、これらの粉体を炭酸リチウムの融点以上の温度で加熱した際において、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行よりもLiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行が優先される。その後、それを1150℃以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱すると、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応を進めることができる。このため、この方法では、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる際において、炭化ケイ素の生成を低減することができる。
【0012】
本発明の第4局面に係る方法は第1局面に係る方法であって、この方法では、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体との混合粉体の層と、ケイ素の粉体の層とが隣接するように、混合粉体およびケイ素の粉体が層状に敷き詰められて炭酸リチウムの融点以上の温度で加熱される。なお、加熱温度の上限は1400℃である。
【0013】
この方法では、上述の通り、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体とが混ぜられた状態で層とされ、その層がケイ素の粉体の層と隣接させられている。このため、この方法では、これらの粉体を炭酸リチウムの融点以上の温度で加熱した際において、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行よりもLiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行が優先され、さらにそれを1150℃以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱すると、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応を進めることができる。このため、この方法では、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる際において、炭化ケイ素の生成を低減することができる。
【0014】
本発明の第5局面に係る方法は第3局面または第4局面に係る方法であって、この方法では、ケイ素の粉体の層が最下層とされる。
【0015】
ケイ素の融点は1414℃であり、ケイ酸リチウムの融点はケイ素の融点よりも低い(例えば、LiSiOの融点は1201℃である。)。このため、この方法では、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応段階において、融解したケイ酸リチウムが自然にケイ素の粉体の隙間に浸入する。この結果、ケイ素に対するケイ酸リチウムの接触面積が大きくなり、延いては同反応の進行を促進することができる。
【0016】
本発明の第6局面に係る方法は第1局面に係る方法であって、この方法では、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体との混合粉体の加熱中に、系内にケイ素の粉体が投入される。
【0017】
このため、この方法では、LiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行が完了したと推察される時点で、ケイ素の粉体を投入すれば、その投入時点からSiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応を進めることができる。このため、この方法では、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させる際において、炭化ケイ素の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係るリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係るリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造方法は、ケイ素粉末、炭酸リチウム粉末および二酸化ケイ素粉末からケイ酸リチウムおよびケイ素を生成させた後に、ケイ酸リチウムおよびケイ素からリチウム含有酸化ケイ素粉体を生成させる方法であって、その方法の過程において炭化ケイ素の生成を低減するものである。なお、このリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造方法で得られるリチウム含有酸化ケイ素粉体は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極の活物質として用いられる。
【0020】
ところで、本発明の実施の形態に係るリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造方法は、例えば、基体にリチウム含有酸化ケイ素粉体の薄膜を形成した後、その薄膜を基体から掻き取ることによって実施することができるが、製造費用抑制等の観点から図1に示されるような蒸着装置100を用いて実施されることが好ましい。このため、先ず、この蒸着装置100を説明した後に、この蒸着装置100を用いたリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造方法を説明する。なお、ここでは、同製造方法につき4つの例を示す。
【0021】
<蒸着装置の説明>
蒸着装置100は、図1に示されるように、主に、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141、粒体ガイド143、チャンバ150、原料供給ホッパ160、原料導入管170、回収容器180、第1バルブVL1および第2バルブVL2から構成されている。
【0022】
ルツボ110は、図1に示されるように天壁の中央部分が開口する耐熱容器であって、チャンバ150に設置されている。また、このルツボ110の天壁の周囲部の一箇所に貫通孔(図示せず)が形成されており、この貫通孔には原料導入管170が挿通されている。すなわち、原料供給ホッパ160内の原料は、原料導入管170を通ってルツボ110に供給されている。また、このルツボ110の天壁の上側には、ガスガイドGgが配設されている。このガスガイドGgは、ルツボ110で発生する原料ガスを蒸着ドラム130に導く部材であって、図1に示される通り、天壁の中央部分を囲むように天壁の上面に設置されている。
【0023】
ヒータ120は、ルツボ110を高温加熱するためのものであって、ルツボ110の外周を取り込むように配設されている。
【0024】
蒸着ドラム130は、例えば、円筒形状の水平ドラムであって、図1に示されるように、ルツボ110の天壁の開口OPの上方に配設されており、その下部がガスガイドGgに囲まれている。そして、この蒸着ドラム130は、図示されない駆動機構により一方向に回転駆動される。なお、この蒸着ドラム130には、外周面を一定温度に保つための温度調節器(図示せず)が設けられている。この温度調節器は、外部から供給される冷却媒体により、蒸着ドラム130の外周面温度を、蒸着源ガスの蒸着に適した温度に冷却する。また、蒸着ドラム130の外周面温度は、蒸着ドラム上に残った析出物の上に堆積する析出物の結晶性に影響を与え得る。この温度が低すぎると、析出物の組織構造が疎になりすぎるおそれがあり、反対に高すぎると不均化反応による結晶成長が進行するおそれがある。なお、この温度は、900℃以下であることが好ましく、150℃以上800℃以下の範囲内であることがより好ましく、150℃以上700℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0025】
スクレーパ141は、蒸着ドラム上に形成される薄膜を蒸着ドラム130から掻き取る役目を担う部材であって、図1に示されるように蒸着ドラム130の近傍に配設されている。このスクレーパ141によって掻き落とされた薄片(活物質粒子)は、粒体ガイド143に落下する。また、このスクレーパ141の材質は活物質粒子の不純物汚染に影響する。その影響を抑制する観点から、スクレーパ141の材質はステンレス鋼やセラミックスであることが好ましく、セラミックスであることが特に好ましい。また、このスクレーパ141は、蒸着ドラム130の外周面に接触させないのがよい。回収される活物質粒子に、蒸着ドラム130とスクレーパ141との直接接触により生じ得る不純物汚染が混入することを防止することができるからである。
【0026】
粒体ガイド143は、例えば、振動式の搬送部材であって、図1に示されるように、蒸着ドラムの近傍からチャンバ150の回収部152に向かうに従って下方に傾斜するように配設されており、その上方に配設されるスクレーパ141により掻き落とされる薄膜片を受けてチャンバ150の回収部152へと送る。
【0027】
チャンバ150は、図1に示されるように、主に、チャンバ本体部151、回収部152および排気管153から形成されている。チャンバ本体部151は、図1に示されるように内部に析出室RMを有する箱状部位であって、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141および粒体ガイド143を収容している。回収部152は、図1に示されるように、チャンバ本体部151の側壁から外方に突出する部位であって、チャンバ本体部151の析出室RMに連通する空間を有している。なお、上述の通り、この回収部152には、粒体ガイド143の先端部位が位置している。
【0028】
原料供給ホッパ160は、原料供給源であって、図1に示されるように出口が原料導入管170に接続されている。すなわち、原料供給ホッパ160に投入された原料は、適当なタイミングで原料導入管170を介してルツボ110に供給される。なお、ルツボ110に供給された原料は、溶湯Srとなった後に気化して原料ガスとなる。
【0029】
原料導入管170は、原料供給ホッパ160に投入されている固体の原料をルツボ110に供給するための丸孔状のノズルであって、ルツボ110の天板部の中央部分において上方に口を向けるように配設されている。
【0030】
回収容器180は、第1バルブVL1および第2バルブVL2を通過してきた薄膜片を回収するための容器である。
【0031】
第1バルブVL1および第2バルブVL2は、開閉により回収容器180への薄膜片の回収量を調整するためのものであって、チャンバ150の回収部152と回収容器180とを繋ぐ回収管190に設けられている。
【0032】
<本実施の形態に係るリチウム含有酸化ケイ素粉体の製造方法の例の説明>
(1)第1例
本例では、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の混合粉体が原料としてルツボ110に投入される。なお、この混合粉体における炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の質量比は、1:0.81~7.73:0.76~3.99であることが望ましい(なお、この質量比はリチウム元素(Li)と酸素元素(O)のモル比(Li/O)が0.10以上0.66以下の範囲内になることを想定して決定されている。)。また、この原料投入は、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介して行ってもよいし、直接ルツボ110に行ってもよい。
【0033】
ルツボ110への原料投入後、析出室RM内を減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって400℃以上炭酸リチウムの融点未満の範囲内の温度に加熱する。なお、析出室RM内の圧力は、高すぎると原料から二酸化炭素やその他のガスが脱離しにくくなると共に、SiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RMを8000Pa以下に減圧する。なお、この際の析出室RMの圧力は、5000Pa以下であることが好ましく、2000Pa以下であることがより好ましく、1000Pa以下であることが特に好ましい。また、ルツボ110内の温度は脱炭酸反応(LiCO→LiO+CO↑の反応)および炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行速度に影響し、同温度が低すぎると脱炭酸反応速度が遅くなり、同温度が炭酸リチウムの融点以上になると、炭化ケイ素の生成反応が進行してしまう。この観点から、ルツボ110内の温度は、425℃以上720℃以下の範囲内であることが好ましく、450℃以上715℃以下の範囲内であることがより好ましく、475℃以上710℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、500℃以上705℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、525℃以上700℃以下の範囲内であることが特に好ましい。減圧と温度上昇は順不同である。また、本例の原料粉末はそのまま粉末形状を保つ。なお、脱炭酸反応後の酸化リチウム(LiO)はCOを吸収してLiCOに戻る場合がある。このため、酸化リチウム(LiO)を大気中に取り出す必要がある場合は、事前に析出室RM内を不活性ガス雰囲気にした後、800℃以上1400℃以下の範囲内の温度で加熱することが望ましい。このように処置することにより酸化リチウム(LiO)が二酸化ケイ素に取り込まれてケイ酸リチウムとなりCOを吸収しにくくなる。
【0034】
上段落に記載の通りに原料を加熱することにより、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行が抑制されつつ炭酸リチウムの脱炭酸反応(LiCO→LiO+CO↑の反応)が進行する。なお、この際、原料重量を監視するか二酸化炭素を検知するか、圧力の減少速度の低下を検知することによって炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合を確認することができる。また、上述の確認後に本例に係る方法を繰り返し行う場合、時間管理によって炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合を管理することも可能である。また、外部の装置で上段落に記載の通りに原料を過熱し脱炭酸反応をさせた粉末を、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110に投入することで、本例における脱炭酸反応の進行具合の管理を省くことも可能である。
【0035】
上述の通りにして炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合を管理し、炭酸リチウムの脱炭酸反応が完結したと思われる時点から、析出室RMの圧力(減圧状態)を維持するかその圧力をさらに低下させる。なお、析出室RM内の圧力が高すぎる場合、原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RM内の圧力は、1000Pa以下であることが好ましく、750Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。析出室RMを減圧し終えた後に、ツルボ110をヒータ120によって1050℃超の温度に加熱する。なお、この加熱温度は、1100℃超であることが好ましく、1150℃超であることがより好ましく、1200℃超であることがさらに好ましく、1250℃超であることがさらに好ましく、1300℃超であることが特に好ましい。なお、この加熱温度の上限は1400℃である。なお、この際、一定時間経過後に原料を攪拌機等により撹拌するようにしてもよい。また、この際、析出室RMは減圧状態に維持される。
【0036】
上段落に記載の通りに原料を減圧加熱することにより、酸化リチウム(LiO)が二酸化ケイ素に取り込まれケイ酸リチウムとなる反応が進むと共に、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑で示される反応が進む。なお、加熱温度が1050℃以上1150℃未満の範囲内である場合、後者の反応よりも前者の反応が速く進み、加熱温度が1150℃以上1400℃以下の範囲内である場合、前者の反応と後者の反応とがほぼ同時に進む。そして、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着し析出させて堆積し、スクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物が掻き取られる。なお、掻き取られた堆積物の欠片は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0037】
(2)第2例
本例では、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体が原料としてルツボ110に投入される際に、炭酸リチウムの粉体の層とケイ素の粉体の層との間に二酸化ケイ素の粉体の層が位置するように、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体が層状に積み重ねられる。すなわち、本例では、炭酸リチウムの粉体とケイ素の粉体とが接触しないが、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体と接触することになる。なお、このような原料投入は、ルツボ110に直接行われる。また、この際、ケイ素の粉体の層が最下層とされるのが好ましい。また、この際、炭酸リチウムの粉体の層と二酸化ケイ素の粉体の層とが一層ずつ積層されてもよいし、炭酸リチウムの粉体の層と二酸化ケイ素の粉体の層とが交互に複数層積み重ねられてもよい。ここで、炭酸リチウムの粉体の層の厚みは100μm以上50mm以下の範囲内であることが好ましく、200μm以上45mm以下の範囲内であることがより好ましく、500μm以上40mm以下の範囲内であることがさらに好ましく、1mm以上35mm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、二酸化ケイ素の粉体の層の厚みは85μm以上400mm以下の範囲内であることが好ましく、170μm以上360mm以下の範囲内であることがより好ましく、430μm以上320mm以下の範囲内であることがさらに好ましく、850μm以上280mm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、ケイ素の粉体の層の厚みは84μm以上220mm以下の範囲内であることが好ましく、168μm以上198mm以下の範囲内であることがより好ましく、420μm以上176mm以下の範囲内であることがさらに好ましく、840μm以上154mm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、炭酸リチウムの粉体の層の厚みに対する二酸化ケイ素の粉体の層の厚みの比は、0.25以上15.0以下の範囲内であることが好ましく、0.5以上10.0以下の範囲内であることがより好ましく、0.75以上7.5以下の範囲内であることがさらに好ましく、1.0以上5.0以下の範囲内であることが特に好ましい。また、炭酸リチウムの粉体の層の厚みに対するケイ素の粉体の層の厚みの比は、0.25以上10.0以下の範囲内であることが好ましく、0.5以上7.5以下の範囲内であることがより好ましく、0.75以上5.0以下の範囲内であることがさらに好ましく、1.0以上2.5以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0038】
ルツボ110への原料投入後、ルツボ110をヒータ120によって炭酸リチウムの融点以上の温度に加熱する。ルツボ110内の温度は二酸化炭素の脱離速度に影響し、同温度が低すぎると同脱離速度が遅くなり、同温度が高すぎると炭酸リチウムとケイ素が共に融解することで層がくずれて炭酸リチウムとケイ素とが接触して炭化ケイ素が生成してしまう。この観点から、ルツボ110内の温度は、800℃以上1400℃以下の範囲内であることが好ましく、900℃以上1300℃以下の範囲内であることがより好ましく、1000℃以上1200℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、この温度の上限は1400℃である。なお、この段階ではSiOガスの発生より二酸化炭素の脱離を優先させるため、析出室RM内の圧力は1000Pa~大気圧+1000Paとされる。また、この際、析出室RMにはアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスが供給される。
【0039】
上段落に記載の通りに原料を加熱することにより、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)が抑制されつつ炭酸リチウムの脱炭酸反応(LiCO→LiO+CO↑の反応)が進行する。なお、炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合は、時間管理によって実現することができる。また、外部の装置で上段記載の通りに原料を過熱し脱炭酸反応をさせた粉末を、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110に投入することで、本例における脱炭酸反応の進行具合の管理を省くことも可能である。
【0040】
上述の通りにして炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合を管理し、炭酸リチウムの脱炭酸反応が完結したと思われる時点から、析出室RMを減圧する。なお、析出室RM内の圧力は、高すぎると原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RM内の圧力は、1000Pa以下であることが好ましく、750Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。減圧が完了した後ツルボ110をヒータ120によって加熱する。加熱温度は1050℃超であることが好ましく、1100℃超であることがより好ましく、1150℃超であることがさらに好ましく、1200℃超であることがさらに好ましく、1250℃超であることがさらに好ましく、1300℃超であることが特に好ましい。なお、この温度の上限は1400℃である。なお、この際、一定時間経過後に原料を攪拌機等により撹拌するようにしてもよい。
【0041】
上段落に記載の通りに原料を減圧加熱することにより、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行よりもLiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行が優先される。そして、その後にSiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応が進行する。そして、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)して堆積し、スクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物が掻き取られる。なお、掻き取られた堆積物の欠片は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0042】
(3)第3例
本例では、炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体が原料としてルツボ110に投入される際に、炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体とが混合され、その混合粉体の層とケイ素の粉体の層とが隣接するように、混合粉体およびケイ素の粉体が層状に積み重ねられる。なお、この混合粉体における炭酸リチウムの粉体および二酸化ケイ素の粉体の質量比は、1:0.3~0.6であることが望ましい(なお、この質量比はリチウム元素(Li)と酸素元素(O)のモル比(Li/O)が0.10以上0.66以下の範囲内になることを想定して決定されている。)。また、このような原料投入は、ルツボ110に直接行われる。また、この際、ケイ素の粉体の層が混合粉体の層よりも下側に配置されるのが好ましく、ケイ素の粉体の層が最下層とされるのが好ましい。また、この際、混合粉体の層とケイ素の粉体の層とが一層ずつ積層されてもよいし、混合粉体の層とケイ素の粉体の層とが交互に複数層積み重ねられてもよい。ここで、混合粉体の層の厚みは185μm以上450mm以下の範囲内であることが好ましく、370μm以上405mm以下の範囲内であることがより好ましく、930μm以上360mm以下の範囲内であることがさらに好ましく、1.85mm以上315mm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、ケイ素の粉体の層の厚みは84μm以上220mm以下の範囲内であることが好ましく、168μm以上198mm以下の範囲内であることがより好ましく、420μm以上176mm以下の範囲内であることがさらに好ましく、840μm以上154mm以下の範囲内であることが特に好ましい。また、ケイ素の粉体の層の厚みに対する混合粉体の層の厚みの比は、0.3以上0.7以下の範囲内であることが好ましく、0.33以上0.65以下の範囲内であることがより好ましく、0.37以上0.6以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.4以上0.55以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0043】
ルツボ110への原料投入後、ルツボ110をヒータ120によって炭酸リチウムの融点以上の温度に加熱する。ルツボ110内の温度は二酸化炭素の脱離速度に影響し、同温度が低すぎると同脱離速度が遅くなり、同温度が高すぎると炭酸リチウムとケイ素が共に融解することで層がくずれて炭酸リチウムとケイ素とが接触して炭化ケイ素が生成してしまう。この観点から、ルツボ110内の温度は、800℃以上1400℃以下の範囲内であることが好ましく、900℃以上1300℃以下の範囲内であることがより好ましく、1000℃以上1200℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、この温度の上限は1400℃である。なお、この段階ではSiOガスの発生より二酸化炭素の脱離を優先させるため、析出室RM内の圧力は1000Pa~大気圧+1000Paとされる。また、この際、析出室RMにはアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスが供給される。
【0044】
上段落に記載の通りに原料を加熱することにより、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)が抑制されつつ炭酸リチウムの脱炭酸反応(LiCO→LiO+CO↑の反応)が進行する。なお、炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合は、時間管理によって実現することができる。また、外部の装置で上段記載の通りに原料を過熱し脱炭酸反応をさせた粉末を、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110に投入することで、本例における脱炭酸反応の進行具合の管理を省くことも可能である。
【0045】
上述の通りにして炭酸リチウムの脱炭酸反応の進行具合を管理し、炭酸リチウムの脱炭酸反応が完結したと思われる時点から、析出室RMを減圧する。なお、析出室RM内の圧力は、高すぎると原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RM内の圧力は、1000Pa以下であることが好ましく、750Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。減圧が完了した後ツルボ110をヒータ120によって加熱する。加熱温度は1050℃超であることが好ましく、1100℃超であることがより好ましく、1150℃超であることがさらに好ましく、1200℃超であることがさらに好ましく、1250℃超であることがさらに好ましく、1300℃超であることが特に好ましい。なお、この温度の上限は1400℃である。なお、この際、一定時間経過後に原料を攪拌機等により撹拌するようにしてもよい。
【0046】
上段落に記載の通りに原料を減圧加熱することにより、炭化ケイ素の生成反応(LiCO+Si→LiSiO+SiC)の進行よりもLiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応の進行が優先される。そして、その後にSiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応が進行する。そして、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)して堆積し、スクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物が掻き取られる。なお、掻き取られた堆積物の欠片は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0047】
(4)第4例
本例では、先ず、炭酸リチウムの粉体および二酸化ケイ素の粉体の混合粉体が原料としてルツボ110に投入される。なお、なお、この混合粉体における炭酸リチウムの粉体および二酸化ケイ素の粉体の質量比は、1:0.8~7.7であることが望ましい(なお、この質量比はリチウム元素(Li)と酸素元素(O)のモル比(Li/O)が0.10以上0.66以下の範囲内になることを想定して決定されている。)。また、この原料投入は、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介して行ってもよいし、直接ルツボ110に行ってもよい。
【0048】
ルツボ110への原料投入後、ルツボ110をヒータ120によって炭酸リチウムの融点以上の温度に加熱する。かかる場合、析出室RM内を減圧しておいてもよいし、析出室RMに不活性ガスを通してもよい。ここで、不活性ガスとは、例えば、希ガス(アルゴンガスン等)や窒素ガス等である。
【0049】
以上の通りに原料を加熱することにより、LiCO+SiO→SiLi+CO↑で示される反応のみを優先して行わせることができる。なお、この際、原料重量を監視するか二酸化炭素を検知することによって上記反応の進行具合を確認することができる。また、上述の確認後に本例に係る方法を繰り返し行う場合、時間管理によって上記反応の進行具合を管理することも可能である。
【0050】
上述の通りにして上記反応の進行具合を管理し、上記反応が完結したと思われる時点から、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110にケイ素の粉体を投入する。なお、ケイ素の粉体の投入前に既に析出室RMが減圧されていた場合、上記の減圧度および温度はそのまま維持されてもよいし、適切に変更されてもよい。また、ケイ素の粉体の投入前に析出室RMが減圧されていかった場合、析出室RMは減圧される。なお、析出室RM内の圧力は、高すぎると原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RM内の圧力は、1000Pa以下であることが好ましく、750Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。また、析出室RM内の温度はSiOの反応速度に影響し、同温度が低すぎると反応速度が遅くなり、同温度が高すぎると原料の融解による副反応進行や、エネルギー効率低下などが懸念される。この観点から、析出室RM内の温度は、1050℃超であることが好ましく、1100℃超であることがより好ましく、1150℃超であることがさらに好ましく、1200℃超であることがさらに好ましく、1250℃超であることがさらに好ましく、1300℃超であることが特に好ましい。なお、この温度の上限は1400℃である。また、この際、撹拌機等により原料が撹拌混合されてもよい。
【0051】
そして、SiLi+(y-1)Si→xLi↑+ySiO↑の反応が進行する。そして、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)して堆積し、スクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物が掻き取られる。なお、掻き取られた堆積物の欠片は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0052】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例1】
【0053】
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の混合粉体(炭酸リチウムの粉体:二酸化ケイ素の粉体:ケイ素の粉体=1:1.63:1.14(質量比))を投入し、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって410℃に加熱した。なお、この加熱は、排気に二酸化炭素が検出されなくなるまで継続された。
【0054】
系内からの排気に二酸化炭素が検出されなくなったことを確認した後に、ヒータ120の出力を上げてルツボ110の温度を1100℃にまで上昇させて、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0055】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は47.1質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110に僅かに残存しており、その生成率は1.4質量%であった。
【実施例2】
【0056】
初期加熱温度を700℃に代え、二酸化炭素非検出確認後の加熱温度を1400℃に代えた以外は実施例1と同様にしてリチウム含有酸化ケイ素粉体を製造した。このときのリチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は96.2質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.1質量%未満であった。
【実施例3】
【0057】
図1に示す蒸着装置100のルツボ110にケイ素の粉体の層を形成し、そのケイ素の粉体の層の上に二酸化ケイ素の粉体の層を形成し、さらにその二酸化ケイ素の粉体の層の上に、炭酸リチウムの粉体の層を形成した。なお、この際、ケイ素の粉体の層の厚みを16.8mmとし、二酸化ケイ素の粉体の層の厚みを17.0mmとし、炭酸リチウムの粉体の層の厚みを20.0mmとした。次に、析出室RM内を大気圧+100Paになるようにアルゴン(Ar)ガスを通しながら、ルツボ110をヒータ120によって1100℃に加熱した。系内からの排気に二酸化炭素が検出されなくなったことを確認した後、析出室RM内を5Paまで減圧し、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0058】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は43.7質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.5質量%であった。
【実施例4】
【0059】
加熱温度を1400℃に代えた以外は実施例3と同様にしてリチウム含有酸化ケイ素粉体を製造した。このときのリチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は94.1質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.3質量%であった。
【実施例5】
【0060】
図1に示す蒸着装置100のルツボ110にケイ素の粉体の層を形成し、そのケイ素の粉体の層の上に二酸化ケイ素の粉体と炭酸リチウムの粉体との混合粉体(炭酸リチウムの粉体:二酸化ケイ素の粉体=1:0.42(質量比))の層を形成した。なお、この際、ケイ素の粉体の層の厚みを37.0mmとし、混合粉体の層の厚みを16.8mmとした。次に、析出室RM内を大気圧+100Paになるようにアルゴン(Ar)ガスを流しながら、ルツボ110をヒータ120によって1100℃に加熱した。系内からの排気に二酸化炭素が検出されなくなったことを確認した後、析出室RM内を5Paまで減圧し、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0061】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は31.9質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.8質量%であった。
【実施例6】
【0062】
加熱温度を1400℃に代えた以外は実施例5と同様にしてリチウム含有酸化ケイ素粉体を製造した。このときのリチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は91.7質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.5質量%であった。
【実施例7】
【0063】
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に炭酸リチウムの粉体と二酸化ケイ素の粉体との混合粉体(炭酸リチウムの粉体:二酸化ケイ素の粉体=1:1.63(質量比))を投入し、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって1400℃に加熱した。なお、この加熱は、排気に二酸化炭素が検出されなくなるまで継続された。
【0064】
系内からの排気に二酸化炭素が検出されなくなったことを確認した後に、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110にケイ素の粉体を投入して、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0065】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は75質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110にほぼ残存しておらず、その生成率は0.1質量%未満であった。
【0066】
(比較例1)
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に炭酸リチウムの粉体、二酸化ケイ素の粉体およびケイ素の粉体の混合粉体(炭酸リチウムの粉体:二酸化ケイ素の粉体:ケイ素の粉体=1:1.63:1.14(質量比))を投入し、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって1400℃に加熱して、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0067】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は7.3質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110に残存しており、その生成率は4.7質量%であった。
【0068】
(比較例2)
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に二酸化ケイ素の粉体の粉体の層を形成し、その二酸化ケイ素の粉体の層の上に炭酸リチウムの粉体の層を形成し、さらにその炭酸リチウムの粉体の層の上にケイ素の層を形成した。なお、この際、二酸化ケイ素の粉体の層の厚みを17.0mmとし、炭酸リチウムの粉体の層の厚みを20.0mmとし、ケイ素の粉体の層の厚みを16.8mmとした。次に、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって1400℃に加熱し、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0069】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は11.7質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110に残存しており、その生成率は3.5質量%であった。
【0070】
(比較例3)
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に炭酸リチウムの粉体とケイ素の粉体との混合粉体(炭酸リチウムの粉体:ケイ素の粉体=1:1.26(質量比))の層を形成し、その混合粉体の層の上に二酸化ケイ素の粉体の層を形成した。なお、この際、混合粉体の層の厚みを36.8mmとし、二酸化ケイ素の粉体の層の厚みを17.0mmとした。次に、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって1400℃に加熱し、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0071】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は3.9質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110に残存しており、その生成率は6.3質量%であった。
【0072】
(比較例4)
図1に示す蒸着装置100のルツボ110に炭酸リチウムの粉体とケイ素の粉体との混合粉体(炭酸リチウムの粉体:ケイ素の粉体=1:1.26(質量比))を投入し、析出室RM内を5Paまで減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって1400℃に加熱した。
【0073】
1時間経過後に、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110に二酸化ケイ素の粉体を投入して、一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを発生させた。そして、その一酸化ケイ素ガスおよびリチウムガスを蒸着ドラム130の外周面に蒸着(析出)させて堆積させ、そのスクレーパ141により蒸着ドラム130からその堆積物を掻き取った。
【0074】
このときの、リチウム含有酸化ケイ素粉体の収率は2.1質量%であった。また、炭化ケイ素はルツボ110に残存しており、その生成率は6.5質量%であった。
【符号の説明】
【0075】
100 蒸着装置
110 ルツボ
120 ヒータ
130 蒸着ドラム
141 スクレーパ
143 粒体ガイド
150 チャンバ
151 チャンバ本体部
152 回収部
153 排気管
160 原料供給ホッパ
170 原料導入管
180 回収容器
190 回収管
Gg ガスガイド
OP 開口
RM 析出室
Sr 溶湯
VL1 第1バルブ
VL2 第2バルブ
図1