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特許7596109水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
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  • 特許-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図1
  • 特許-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20241202BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20241202BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20241202BHJP
   C09B 29/28 20060101ALI20241202BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241202BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C09D11/328
C09B67/22 B
C09B67/20 K
C09B29/28
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020168316
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2021075696
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019204528
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】村井 康亮
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 早貴
(72)【発明者】
【氏名】山上 英樹
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-145451(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143279(WO,A1)
【文献】特開2000-297240(JP,A)
【文献】特開2014-105229(JP,A)
【文献】特表2015-532666(JP,A)
【文献】特開昭60-081266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/328
C09B 67/22
C09B 67/20
C09B 29/28
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の色材及び第2の色材を含有するインクジェット用の水性インクであって、
前記第1の色材が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記第2の色材が、下記一般式(2)で表される化合物であり、
前記水性インク中の前記第1の色材及び前記第2の色材の合計含有量に占める、前記第2の色材の含有量の割合(質量%)が、0.60質量%以上1.60質量%以下であることを特徴とする水性インク。
(前記一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
(前記一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、nは1又は2の整数を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
【請求項2】
前記水性インク中の前記第1の色材及び前記第2の色材の合計含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、3.00質量%以上6.00質量%以下である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR、及び前記一般式(2)におけるRが同一である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記第1の色材が、C.I.アシッドレッド249である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
前記第2の色材が、下記一般式(2.1)で表される化合物及び下記一般式(2.2)で表される化合物の少なくとも一方である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インク。
(前記一般式(2.1)及び前記一般式(2.2)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
【請求項6】
前記水性インクが、熱エネルギーの作用を利用する方式のインクジェット用の水性インクであり、
前記水性インク中の前記第1の色材及び前記第2の色材の合計含有量に占める、前記第2の色材の含有量の割合(質量%)が、1.40質量%以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
前記水性インク中の前記第1の色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記水性インク中の前記第2の色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.01質量%以上5.00質量%以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
前記水性インク中のすべての色材の合計含有量(質量%)に占める、前記第1の色材及び前記第2の色材の合計含有量(質量%)の割合が、10.0質量%以上100.0質量%以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項10】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項11】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法で得られた記録物は、銀塩写真と比較して、画像保存性が低い。すなわち、記録物が、光、湿度、熱、空気中に存在する環境ガスなどに長時間さらされた際に、記録物の色材(主に、染料)が劣化し、画像の色調変化や退色が発生しやすいなどの問題があった。しかし、近年の色材(主に、染料)の高機能化は著しく、記録物の画像保存性も、銀塩写真と遜色のないほどに向上してきている。特に、マゼンタ領域の色相を呈する染料(アントラピリドン染料、アゾ染料)の画像保存性の向上は著しい(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2004/104108号
【文献】特開2006-143989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが検討した結果、上述した染料は、耐オゾン性や耐光性などの画像保存性は良好であるが、マゼンタ領域の色相としては、改善の余地があることがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、マゼンタインクとしての色相が良好な画像を記録することが可能な水性インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、第1の色材及び第2の色材を含有するインクジェット用の水性インクであって、前記第1の色材が、下記一般式(1)で表される化合物であり、前記第2の色材が、下記一般式(2)で表される化合物であり、前記水性インク中の前記第1の色材及び前記第2の色材の合計含有量に占める、前記第2の色材の含有量の割合(質量%)が、0.60質量%以上1.60質量%以下であることを特徴とする水性インクが提供される。
【0007】
(前記一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
【0008】
(前記一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、nは1又は2の整数を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マゼンタインクとしての色相が良好な画像を記録することが可能な水性インクを提供することができる。また、本発明によれば、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0012】
本発明者らは、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出させるインクジェット記録方法において、特許文献1に記載されたアントラピリドン染料を含むインクを詳細に検討した。その結果、そのインクを用いて得られた画像は、マゼンタ領域の色相を有しているが、若干青味を帯びており、マゼンタインクの色相として適していないことがわかった。また、本発明者らが、特許文献2に記載されたアゾ染料についても同様に詳細に検討したところ、その手法による画像は、マゼンタ領域の色相を有しているが、若干黄味を帯びており、やはり、マゼンタインクの色相として適していないことがわかった。
【0013】
本発明者らは、さらに検討した結果、以下の水性インクを用いれば、マゼンタインクとしての色相が良好な画像が得られることを見出した。すなわち、本発明の水性インクは、第1の色材及び第2の色材を含有する。第1の色材は、後述する一般式(1)で表される化合物である。第2の色材は、後述する一般式(2)で表される化合物である。そして、水性インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量に占める、第2の色材の含有量の割合(質量%)が、0.60質量%以上であることを要する。
【0014】
本発明者らの検討の結果、第2の色材は、第1の色材と類似の吸収スペクトルを持っていることと、第1の色材と比較して、第2の色材の水溶性は高い一方で、メタノールなどの水溶性有機溶剤への溶解性が低い。第1の色材と第2の色材とを併用することで、マゼンタインクとして好ましい色相となる。このメカニズムは以下のように推測される。すなわち、記録ヘッドからインクが吐出されてインク滴が形成されると、単位質量当たりの表面積が飛躍的に増大するため、水が蒸発し始めて、水溶性有機溶剤が濃縮され、まず、水溶性有機溶剤への溶解性が相対的に低い第2の色材が凝集し始める。その後、記録媒体にインク滴が付着すると、前もって凝集し始めていた第2の色材は記録媒体の表面近傍に定着するとともに、第1の色材が記録媒体において凝集する。このようにして、記録媒体の厚さの方向において、第1の色材及び第2の色材が互いに近い位置で定着するため、発色の効率が良くなり、マゼンタインクとして好ましい色相を有する画像を記録することができると考えられる。
【0015】
インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量に占める、第2の色材の含有量の割合(質量%)は、0.60質量%以上であることが必要である。この割合が0.60質量%以上であることにより、マゼンタインクとして好ましい色相を有する画像を記録することが可能となる。この理由は、以下のように推測される。上述の通り、第2の色材は、第1の色材と比較して、水溶性が高い一方、水溶性有機溶剤への溶解性が低い。このことから、上記の割合(質量%)が0.60質量%以上であると、記録媒体の表面近傍により多くの第2の色材が定着するため、マゼンタインクとして好ましい色相を有する画像を記録することができる。一方、上記の割合(質量%)が0.60質量%未満であると、記録媒体の表面近傍に定着する第2の色材が不足して、マゼンタインクとして好ましい色相が得られ難いと推測される。
【0016】
<インク>
本発明の水性インクは、第1の色材及び第2の色材を含有する。第1の色材は、下記一般式(1)で表される化合物である。第2の色材は、下記一般式(2)で表される化合物である。そして、水性インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量に占める、第2の色材の含有量の割合(質量%)が、0.60質量%以上である。本発明のインクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、本発明のインクを構成する成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0017】
(色材)
本発明のインクは、第1の色材として下記一般式(1)で表される化合物、及び第2の色材として下記一般式(2)で表される化合物を含有する。これらの色材は水溶性の染料である。調色などのために、第1の色材及び第2の色材とは異なる構造の染料を併用してもよい。
【0018】
【0019】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。
【0020】
【0021】
一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を表し、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、nは1又は2の整数を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。
【0022】
一般式(1)中のR及びR、並びに一般式(2)中のRでそれぞれ表されるアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を挙げることができる。アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましく、1乃至4であることがより好ましい。そのようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びn-ブチル基などの直鎖のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基などの分岐鎖のアルキル基などを挙げることができる。これらのなかでも、直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
一般式(1)中のR及びR、並びに一般式(2)中のRでそれぞれ表されるアルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基を挙げることができる。アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましく、1乃至4であることがより好ましい。そのようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、及びn-ブトキシ基などの直鎖のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などの分岐鎖のアルコキシ基などを挙げることができる。これらのなかでも、直鎖のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0024】
第1の色材としては、一般式(1)中のRが水素原子を表す化合物や、Rがアルキル基を表す化合物が好ましい。また、第2の色材としては、一般式(2)中のRがアルキル基を表す化合物が好ましい。さらに、第1の色材と第2の色材の組み合わせに関して、一般式(1)におけるR、及び一般式(2)におけるRが、同一であることが好ましい。これにより、インクの吐出性にさらに優れ、かつ、マゼンタインクとしてより好ましい色相を有する画像を記録することが可能となる。この観点から、一般式(1)におけるR及び一般式(2)におけるRは、同一のアルキル基であることがより好ましく、いずれもメチル基であることがさらに好ましい。
【0025】
一般式(1)中のX、及び一般式(2)中のXでそれぞれ表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子などを挙げることができる。これらのなかでも、塩素原子が好ましい。
【0026】
一般式(1)及び(2)中のMで表されるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどを挙げることができる。また、同様にMで表される有機アンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、n-プロピルアンモニウム、及びn-ブチルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム類;モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、及びトリエタノールアンモニウムなどのモノ、ジ、又はトリアルカノールアンモニウム類などを挙げることができる。これらのなかでも、ナトリウム、カリウム、及びアンモニウムがより好ましい。
【0027】
第1の色材である一般式(1)で表される化合物の好適例を遊離酸型で表すと、下記式(I-1)~(I-6)のそれぞれに示す化合物I-1~I-6を挙げることができる。勿論、本発明においては、一般式(1)の構造及びその定義に包含されるものであれば、一般式(1)で表される化合物は以下に示す化合物に限定されない。本発明においては、以下に示す遊離酸型の化合物のなかでも、化合物I-1(C.I.アシッドレッド249)が好ましい。第1の色材としては、ナトリウム塩型の化合物I-1(下記式(I-1)中の「SOH」が「SONa」である化合物)がさらに好ましい。
【0028】
【0029】
第2の色材としては、マゼンタインクとしてより好ましい色相を表現することができるため、以下に示す一般式(2.1)で表される化合物及び一般式(2.2)で表される化合物の少なくとも一方が好ましい。一般式(2.1)及び一般式(2.2)中のMは、一般式(2)中のMと同義である。
【0030】
【0031】
第2の色材である一般式(2)で表される化合物の好適例を遊離酸型で表すと、下記式(II-1)~(II-6)のそれぞれに示す化合物II-1~II-6を挙げることができる。勿論、本発明においては、一般式(2)の構造及びその定義に包含されるものであれば、一般式(2)で表される化合物は以下に示す化合物に限定されない。本発明においては、以下に示す遊離酸型の化合物のなかでも、上述した一般式(2.1)で表される化合物に含まれる化合物II-1、又は上述した一般式(2.2)で表される化合物に含まれる化合物II-5が好ましい。
【0032】
【0033】
上述した第1の色材である一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下に説明する方法によって、合成することができる。以下の合成方法の説明で挙げる一般式(b)及び(c)におけるR、並びに一般式(d)におけるR及びXは、いずれも上記一般式(1)中のものと同義である。また、下記一般式(b)中のXはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子など)を表す。
【0034】
下記一般式(a)で表される化合物と、下記一般式(b)で表される化合物とを反応させ、下記一般式(c)で表される化合物(中間体)を得る。例えば、一般式(a)で表される化合物を含有する水溶液を加熱し、その溶液のpHを2~4程度に調整し、その状態の溶液に一般式(b)で表される化合物を添加して、所定時間反応させた後、pHを5~7程度に調整して反応させる。その反応後、反応液のpHを1程度に調整し、析出した不溶物をろ別などすることにより、一般式(c)で表される化合物(中間体)を得ることができる。
【0035】
【0036】
次に、下記一般式(d)で表される化合物を常法によりジアゾ化して得られたジアゾ化合物、及び上述のようにして得られる上記一般式(c)で表される化合物(中間体)を、常法によりカップリング反応させる。これにより、遊離酸型の一般式(1)(当該式中のMが水素原子を表す。)で表される化合物(第1の色材)を得ることができる。
【0037】
【0038】
一般式(d)で表される化合物のジアゾ化は、例えば、その化合物の溶液に、塩酸、硫酸などの無機酸の存在下、液温が-50~100℃(好ましくは-10~10℃)程度の条件下で、ジアゾ化剤を添加することにより、行うことができる。ジアゾ化剤としては、例えば、ニトロシル硫酸;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどのアルカリ金属の亜硝酸塩などを用いることができる。一般式(d)で表される化合物のジアゾ化合物と、一般式(c)で表される化合物とのカップリング反応は、例えば、液媒体中で、-50~100℃程度(好ましくは-10~10℃)程度の温度、かつ、弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことができる。液媒体としては、水、有機溶剤、これらの混合物を用いることができる。pH値は、弱酸性から弱アルカリ性が好ましく、例えばpH5~10でカップリング反応を行うことができ、pH値の調整は、塩基の添加によって行うことができる。塩基としては、例えば、水酸化リチウム及び水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;アンモニア;有機アミンなどを用いることができる。一般式(c)で表される化合物と、一般式(d)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
【0039】
一方、上述した第2の色材である一般式(2)で表される化合物は、例えば、以下に説明する方法によって、合成することができる。以下の合成方法の説明で挙げる一般式(e)乃至(g)における、R、X、及びnは、いずれも上記一般式(2)中のものと同義である。また、下記一般式(e)中のXはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子など)を表す。
【0040】
上記の一般式(a)で表される化合物と、下記一般式(e)で表される化合物とを反応させ、下記一般式(f)で表される化合物(中間体)を得る。例えば、一般式(a)で表される化合物を含有する水溶液を加熱し、その溶液のpHを2~4程度に調整し、その状態の溶液に一般式(e)で表される化合物を添加して、所定時間反応させた後、pHを5~7程度に調整して反応させる。その反応後、反応液のpHを1程度に調整し、析出した不溶物をろ別などすることにより、一般式(f)で表される化合物(中間体)を得ることができる。
【0041】
【0042】
次に、下記一般式(g)で表される化合物を常法によりジアゾ化して得られたジアゾ化合物、及び上述のようにして得られる上記一般式(f)で表される化合物を、常法によりカップリング反応させる。これにより、遊離酸型の一般式(2)(当該式中のMが水素原子を表す。)で表される化合物(第2の色材)を得ることができる。
【0043】
【0044】
一般式(g)で表される化合物のジアゾ化は、例えば、その化合物の溶液に、塩酸、硫酸などの無機酸の存在下、液温が-50~100℃(好ましくは-10~10℃)程度の条件下で上述したジアゾ化剤を添加することにより、行うことができる。一般式(g)で表される化合物のジアゾ化合物と、一般式(f)で表される化合物とのカップリング反応は、例えば、液媒体中で、-50~100℃程度、好ましくは-10~10℃程度の温度、かつ、弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことができる。液媒体としては、水、有機溶剤、これらの混合物を用いることができる。pH値は、弱酸性から弱アルカリ性が好ましく、例えばpH5~10でカップリング反応を行うことができ、pH値の調整は上述した塩基の添加によって行うことができる。一般式(f)で表される化合物と、一般式(g)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いればよい。
【0045】
上述した一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の各合成の後に、必要に応じて以下の処理を行うことで、塩型の一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を得ることができる。反応系に所望の塩を加えて塩析する方法が挙げられる。また、反応系に塩酸などの鉱酸を加えて、遊離酸型の化合物を分取した後、得られた化合物を洗浄し、再度、液媒体(好適には水)中で、遊離酸に所望の塩を添加して塩型の化合物を得る方法が挙げられる。
【0046】
(色材の検証方法)
本発明で用いる色材がインク中に含まれているか否かを検証するには、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)~(3)の検証方法を適用することができる。
(1)ピークの保持時間
(2)(1)のピークについての極大吸収波長
(3)(1)のピークについてのマススペクトルのm/z(posi)、m/z(nega)
【0047】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は、以下に示す通りである。純水で約1,000倍に希釈した液体(インク)を測定用サンプルとする。そして、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)、及びピークの極大吸収波長を測定する。
・カラム:SunFire C18(日本ウォーターズ製)2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・PDA:200nm~700nm
・移動相及びグラジエント条件:表1
【0048】
【0049】
また、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたm/zをposi及びnegaのそれぞれに対して測定する。
・イオン化法:ESI
・キャピラリ電圧:3.5kV
・脱溶媒ガス:300℃
・イオン源温度:120℃
・検出器:
posi;40V 200~1500amu/0.9sec
nega;40V 200~1500amu/0.9sec
【0050】
上記した方法及び条件下で測定した際の結果を以下に示す。
・上記化合物I-1のナトリウム塩(後記「化合物1-1」)
254nmでのHPLC純度=98.4%
m/z=350.5([M-2Na]2-)、702.1([M-2Na+H]
・上記化合物II-1のナトリウム塩(後記「化合物2-1」)
254nmでのHPLC純度=98.9%
m/z=322.5([M-2Na]2-)、644.0([M-2Na+H]
・上記化合物II-5のナトリウム塩(後記「化合物2-5」)
254nmでのHPLC純度=97.6%
m/z=304.7([M-2Na]2-)、610.1([M-2Na+H]
【0051】
(色材の含有量)
上述の通り、水性インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量に占める、第2の色材の含有量の割合(質量%)は、0.60質量%以上であることを要する。また、水性インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量に占める、第2の色材の含有量の割合(質量%)は、インクの吐出性の観点から、1.60質量%以下であることが好ましい。この割合は、より好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.40質量%以下である。この割合(質量%)は、インク中の第1の色材の含有量をC(質量%)、第2の色材の含有量をC(質量%)で表すと、式:C/(C+C)×100(質量%)により、算出することができる。前述の通り、第1の色材と比較して、第2の色材の水溶性は高いものの、水溶性有機溶剤への溶解性は低い。インクジェット記録装置において、インク中の水が蒸発することで、水溶性有機溶剤の含有量が相対的に増えると、第2の色材の溶解状態は不安定になりやすい。このような状態の第2の色材に吐出のエネルギーが加わると、凝集しやすくなる。この現象が吐出のたびに起こるため、凝集物が記録ヘッドのインク流路に付着し、これによってインクの吐出方向が曲がり、ヨレを引き起こす。このような事態を抑制してインクの吐出性を良好にするために、インク中の第2の色材の含有量の上記割合(質量%)を1.60質量%以下にすることが好ましい。
【0052】
水性インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量(上記C+C;質量%)は、インク全質量を基準として、2.50質量%以上6.50質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以上6.00質量%以下であることがさらに好ましい。インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量が、3.00質量%以上であることにより、画像の光学濃度をより高めやすい。また、インク中の第1の色材及び第2の色材の合計含有量が、6.00質量%以下であることにより、インクの耐固着性をより高めやすい。すなわち、インクが充填されたインクカートリッジをインクジェット記録装置に装着した状態で長期間放置された場合などに生じやすい目詰まりに対して、所定の吸引動作などの回復操作を行うことで回復しやすく、例えば回復操作の回数が少なくて済む。
【0053】
水性インク中の第1の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以上6.50質量%以下であることがさらに好ましい。また、水性インク中の第2の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1.00質量%以下であることがさらに好ましい。水性インク中のすべての色材の合計含有量(質量%)に占める、第1の色材及び第2の色材の合計含有量(質量%)の割合は、10.0質量%以上であることが好ましい。前記割合は、20.0質量%以上であることがさらに好ましく、50.0質量%以上であることが特に好ましく、また、100.0質量%であってもよい。
【0054】
(インクの色相)
本発明において、マゼンタインクとして好ましい色相を有する画像とは、具体的には、以下のことを意味する。マゼンタインクのみを用いて、白色の記録媒体にインクの付与量を約0.06g/inchとして記録したベタ画像について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系におけるa及びbを測定する。そして、得られたa及びbの値から、下記式(A)に基づいて算出される色相角(H°)が、16°以上26°以下である画像を、マゼンタインクとしての色相が良好な画像であるとする。また、そのような色相角(H°)を有する画像を記録することが可能なインクを、マゼンタインクとして好ましい色相を有するインクであるとする。マゼンタインクとしての色相がより良好である観点から、上記色相角(H°)は、18°以上24°以下であることがより好ましく、20°以上22°以下であることがさらに好ましい。a及びbの値は、例えば、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて測定することができる。勿論、本発明においては、これに限られるものではない。測色の際に用いる「白色の記録媒体」としては、拡散青色光反射率を利用するISO白色度(JIS P 8148)が約80%以上である記録媒体などを挙げることができる。
【0055】
式(A)
≧0、b≧0(第一象現)では、H°=tan-1(b/a
≦0、b≧0(第二象現)では、H°=180+tan-1(b/a
≦0、b≦0(第三象現)では、H°=180+tan-1(b/a
≧0、b≦0(第四象現)では、H°=360+tan-1(b/a
【0056】
(水性媒体)
本発明のインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクである。水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.00質量%以上90.00質量%以下であることが好ましく、50.00質量%以上90.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
水性媒体は、さらに水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤は水溶性であれば特に制限はなく、1価アルコール、多価アルコール、(ポリ)アルキレングリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶剤、含硫黄極性溶剤などを用いることができる。水溶性有機溶剤としては、水よりも蒸気圧の低いものを用いることが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。
【0058】
(その他の添加剤)
本発明のインクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、本発明のインクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び水溶性樹脂など、種々の添加剤を含有してもよい。これらのなかでも、インクには界面活性剤を含有させることが好ましい。水性インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上1.50質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上1.20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明の水性インクである。図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0060】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明の水性インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0061】
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。記録媒体32としては、特に制限はないが、普通紙などのコート層を有しない記録媒体、光沢紙やマット紙などのコート層を有する記録媒体などの、紙を基材とした記録媒体を用いることが好ましい。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0063】
<色材の合成>
(化合物1-1)
300mL三口フラスコに8-アミノ-1-ヒドロキシナフタレン-3,6-ジスルホン酸(下記式(a1)参照)30g、純水30mLを加え、75℃で加熱撹拌した。この溶液に、25%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを3に調整した。この溶液を25%水酸化ナトリウム水溶液でpHを3に保持しながら、p-トルエンスルホン酸クロリド(下記式(b1)参照)15gをゆっくり添加した。添加後、75℃で1時間撹拌した後、25%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを6に調整した。反応後、濃塩酸を加え、溶液のpHを1に調整した後、析出した沈殿をろ別し、ろ液を減圧留去することで濃縮した後、メタノールを添加し、析出した不溶物をろ別した。メタノールを減圧留去し、脱塩を行うことで、下記式(c1)で表される化合物(中間体)を得た。
【0064】
【0065】
100mL三角フラスコに3-クロロ-6-フェノキシアニリン(下記式(d1)参照)5gを入れ、濃塩酸10mL、メタノール50mLに溶解させた。この溶液が入った三角フラスコをアイスバスに入れ、液温が0~5℃になるように冷却した。純水5mLに亜硝酸ナトリウム2gを溶解させ、三角フラスコに速やかに滴下し、同温度で30分間撹拌した。次に、スルファミン酸を0.3g添加した。このようにしてジアゾ化液を調製した。
【0066】
【0067】
300mLの三口フラスコに、上記の通り得た式(c1)で表される化合物(中間体)10g、炭酸ナトリウム10g、純水100mLを入れ、撹拌して溶解させた。この溶液が入った三口フラスコをアイスバスに入れ、液温が0~5℃になるように冷却し、上記ジアゾ化液を、温度0~5℃、pHが8以上である状態を維持しながら、滴下した。一晩撹拌した後、常法にしたがって塩析及び脱塩を行うことで、前述の式(I-1)で表される化合物I-1のナトリウム塩(これを「化合物1-1」と記す。)を合成した(収率85%)。そして、純水を加え、化合物1-1(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0068】
(化合物1-2)
化合物1-1の合成において、3-クロロ-6-フェノキシアニリン(上記式(d1)参照)を4-クロロ-2-フェノキシアニリンに変えた以外は、同条件で反応を行った。このようにして、前述の式(I-2)で表される化合物I-2のナトリウム塩(これを「化合物1-2」と記す。)を合成した(収率84%)。そして、純水を加え、化合物1-2(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0069】
(化合物1-3)
化合物1-1の合成において、3-クロロ-6-フェノキシアニリン(上記式(d1)参照)を3-クロロ-6-(p-メチル)フェノキシアニリンに変えて、反応を行った。反応後、塩酸でpHを1未満まで下げ、固形物をろ別して200mL三角フラスコに入れ、25%水酸化カリウム水溶液を加え、溶液のpHを8に調整した後、塩析及び脱塩を行った。このようにして、前述の式(I-3)で表される化合物I-3のカリウム塩(これを「化合物1-3」と記す。)を合成した(収率75%)。そして、純水を加え、化合物1-3(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0070】
(化合物1-4)
化合物1-1の合成において、3-クロロ-6-フェノキシアニリン(上記式(d1)参照)を3-クロロ-6-(p-メトキシ)フェノキシアニリンに変えて、反応を行った。反応後、塩酸でpHを1未満まで下げ、25%水酸化カリウム水溶液を加え、溶液のpHを8に調整した後、塩析及び脱塩を行った。このようにして、前述の式(I-4)で表される化合物I-4のカリウム塩(これを「化合物1-4」と記す。)を合成した(収率76%)。そして、純水を加え、化合物1-4(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0071】
(化合物1-5)
化合物1-1の合成において、上記中間体の合成に用いたp-トルエンスルホン酸クロリド(上記式(b1)参照)をベンゼンスルホン酸クロリドに変えた以外は、同条件で一連の反応を行った。このようにして、前述の式(I-5)で表される化合物I-5のナトリウム塩(これを「化合物1-5」と記す。)を合成した(収率80%)。そして、純水を加え、化合物1-5(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0072】
(化合物1-6)
化合物1-1の合成において、上記中間体の合成に用いたp-トルエンスルホン酸クロリド(上記式(b1)参照)をp-メトキシ-ベンゼンスルホン酸クロリドに変えて、一連の反応を行った。反応後、塩酸でpHを1未満まで下げ、25%アンモニア水溶液を加え、溶液のpHを8に調整した後、塩析及び脱塩を行った。このようにして、前述の式(I-6)で表される化合物I-6のアンモニウム塩(これを「化合物1-6」と記す。)を合成した(収率77%)。そして、純水を加え、化合物1-6(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0073】
(化合物2-1)
化合物1-1の合成において、3-クロロ-6-フェノキシアニリン(上記式(d1)参照)を、2,5-ジクロロアニリン(下記式(g1)参照)に変えた以外は、同条件で反応を行った。このようにして、前述の式(II-1)で表される化合物II-1のナトリウム塩(これを「化合物2-1」と記す。)を合成した(収率85%)。そして、純水を加え、化合物2-1(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0074】
【0075】
(化合物2-2)
化合物2-1の合成において、2,5-ジクロロアニリン(上記式(g1)参照)を、2,4-ジクロロアニリンに変えた以外は、同条件で反応を行った。このようにして、前述の式(II-2)で表される化合物II-2のナトリウム塩(これを「化合物2-2」と記す。)を合成した(収率80%)。そして、純水を加え、化合物2-2(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0076】
(化合物2-3)
化合物2-1の合成において、上記中間体の合成に用いたp-トルエンスルホン酸クロリド(上記式(b1)参照)をベンゼンスルホン酸クロリドに変えて、一連の反応を行った。反応後、塩酸でpHを1未満まで下げ、固形物をろ別して200mL三角フラスコに入れ、25%水酸化カリウム水溶液を加え、溶液のpHを8に調整した後、塩析及び脱塩を行った。このようにして、前述の式(II-3)で表される化合物II-3のカリウム塩(これを「化合物2-3」と記す。)を合成した(収率79%)。そして、純水を加え、化合物2-3(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0077】
(化合物2-4)
化合物2-1の合成において、上記中間体の合成に用いたp-トルエンスルホン酸クロリド(上記式(b1)参照)をp-メトキシ-ベンゼンスルホン酸クロリドに変えて、一連の反応を行った。反応後、塩酸でpHを1未満まで下げ、固形物をろ別して200mL三角フラスコに入れ、25%アンモニア水溶液を加え、溶液のpHを8に調整した後、塩析及び脱塩を行った。このようにして、前述の式(II-4)で表される化合物II-4のアンモニウム塩(これを「化合物2-4」と記す。)を合成した(収率84%)。そして、純水を加え、化合物2-4(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0078】
(化合物2-5)
化合物2-1の合成において、2,5-ジクロロアニリン(上記式(g1)参照)を、3-クロロアニリンに変えた以外は、同条件で反応を行った。このようにして、前述の式(II-5)で表される化合物II-5のナトリウム塩(これを「化合物2-5」と記す。)を合成した(収率89%)。そして、純水を加え、化合物2-5(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0079】
(化合物2-6)
化合物2-1の合成において、2,5-ジクロロアニリン(上記式(g1)参照)を、2-クロロアニリンに変えた以外は、同条件で反応を行った。このようにして、前述の式(II-6)で表される化合物II-6のナトリウム塩(これを「化合物2-6」と記す。)を合成した(収率83%)。そして、純水を加え、化合物2-6(染料)の含有量が10.0%である水溶液を得た。
【0080】
(比較化合物1)
比較化合物1として、特許文献1の実施例4の記載を参考にして、下記式(III-1)で表される化合物(特許文献1に記載の「式(13)の化合物」)を得た。そして、純水を用いて、比較化合物1(染料)の含有量が10.0%である水溶液を用意した。
【0081】
【0082】
(比較化合物2)
比較化合物2として、市販されているC.I.アシッドレッド289(下記式(III-2)参照)を使用した。そして、この比較化合物2(C.I.アシッドレッド289)の含有量が10.0%である水溶液を用意した。
【0083】
【0084】
(比較化合物3)
比較化合物3として、特許文献2の実施例1の記載を参考にして、下記式(III-3)で表される化合物(特許文献2に記載の「化合物(d-5)」)を得た。下記式(III-3)中の「Et」はエチル基を表す。そして、純水を用いて、比較化合物3(染料)の含有量が10.0%である水溶液を用意した。
【0085】
【0086】
<インクの調製>
表2(表2-1~表2-4)の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ0.20μmのフィルターで加圧ろ過して各インクを調製した。表2中の「アセチレノールE100」(川研ファインケミカル製)は、ノニオン性界面活性剤の商品名である。表2の下段には、インク中の、第1の色材(一般式(1)で表される化合物)の含有量C(%)、第2の色材(一般式(2)で表される化合物)の含有量C(%)、色材の合計含有量(%)、並びにC/(C+C)×100の値(%)を示した。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
<評価>
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置(商品名「PIXUS iP8600」、キヤノン製)に搭載した。本実施例においては、1/2400インチ×1/1200インチの単位領域に2.6ngのインク滴を8滴付与して記録したベタ画像を「記録デューティが100%である」と定義する。但し、参考例1及び2では、解像度の条件は変えずに、ピエゾ素子を利用した力学的エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドに変更したこと以外は同様にして評価した。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に示す。
【0092】
(色相)
温度23℃、相対湿度55%の条件で、記録媒体として光沢紙(商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]PT201」、キヤノン製)に、記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた画像を記録した。この画像を温度23℃、相対湿度55%で24時間自然乾燥し、記録物を得た。得られた記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL表色系におけるa及びbを測定した。a及びbの値は、分光光度計(商品名「Spectrolino」、Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。得られたa及びbの値から、下記式(A)に基づいて色相角(H°)をそれぞれ算出した。
式(A)
≧0、b≧0(第一象現)では、H°=tan-1(b/a
≦0、b≧0(第二象現)では、H°=180+tan-1(b/a
≦0、b≦0(第三象現)では、H°=180+tan-1(b/a
≧0、b≦0(第四象現)では、H°=360+tan-1(b/a
【0093】
得られたH°の値から、以下に示す評価基準にしたがって、画像の色相を評価した。
AA:H°が20°以上22°以下であった。
A:H°が18°以上20°未満、又は、22°を超えて24°以下であった。
B:H°が16°以上18°未満、又は、24°を超えて26°以下であった。
C:H°が16°未満、又は26°を超えていた。
【0094】
(吐出性)
上記で得られたインクをカートリッジに充填して、上記インクジェット記録装置に装着した。PIXUS iP8600のノズルチェックパターンを記録後、記録デューティが100%の20cm×29cmのベタ画像を5000枚記録し、再度ノズルチェックパターンを記録した。5000枚記録前後のノズルチェックパターンを比較することで、吐出状態を確認した。以下の評価基準にしたがって、インクの吐出性を評価した。
AA:ノズルチェックパターンは正常に記録されていた。
A:ノズルチェックパターンにわずかなヨレがあったが、罫線は連続していた。
B:ノズルチェックパターンにややヨレがあり、罫線の一部が欠けていた。
C:ノズルチェックパターンに顕著な乱れがあり、不吐出もあった。
【0095】
図1
図2