(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】生分解性繊維からなるシート状油吸着材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/24 20060101AFI20241202BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20241202BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241202BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241202BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241202BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
B01J20/24 C
D06M15/643
B32B5/26
C02F1/28 N
B01J20/30
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2020184314
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木下 正規
(72)【発明者】
【氏名】水越 充
(72)【発明者】
【氏名】寺嶌 祐
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-023267(JP,A)
【文献】特開平07-232061(JP,A)
【文献】特開平05-321139(JP,A)
【文献】実開昭52-051335(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/24
D06M 15/643
B32B 5/26
C02F 1/28
B01J 20/30
D06M 101/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
国土交通省型式承認試験基準に準拠する沈降試験において、5cm角の試験片を、清水300mLを入れた容器に入れ、毎分120往復、振幅4cmで60分間、水平振動を与えたとき、該試験片の一部が水面上にあり、かつ、国土交通省型式承認試験基準に準拠する油吸着性能試験において、10cm角の試験片を、サラダ油、機械油、及び軽油をそれぞれ満たした浴中の油面に浮かべ、5分間静置した後、取り出し、金網の上に乗せ、5分間放置した後、試験片の重量から自重を引いたものを油吸着量とし、試験片の自重の何倍吸着しているかを算出するとき、上記各試験油について油吸着量が8g以上であり、かつ、自重の6倍以上吸着して
いる、生分解性繊維からなるシート状油吸着材であって、250g/m
2
以上450g/m
2
以下の目付、及び、3.5mm以上6.5mm以下の厚みを有し、かつ、前記油吸着材を構成する生分解性繊維の単糸長測定において、該測定に用いた繊維の全数の30%以上90%未満が単糸長50mm以上の繊維であることを特徴とする、生分解性繊維からなるシート状油吸着材。
【請求項2】
前記生分解性繊維がセルロース繊維である、請求項1に記載のシート状油吸着材。
【請求項3】
前記生分解
性繊維の表面に浮力成分が付着している、請求項1又は2に記載のシート状油吸着材。
【請求項4】
シリコーン系撥水加工剤により撥水加工されているセルロース繊維の反毛綿からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート状油吸着材。
【請求項5】
前記撥水加工剤がシリコーン系撥水加工剤である、請求項4に記載のシート状油吸着材。
【請求項6】
前記セルロース繊維の反毛綿が、セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿である、請求項4又は5に記載のシート状油吸着材。
【請求項7】
前記セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿が、セルロース不織布とセルロース糸条(セルロース不織布:セルロース糸条)が、10:90~60:40の重量比で反毛されたものである、請求項6に記載のシート状油吸着材。
【請求項8】
前記セルロース繊維は、植物繊維が混用されたものである、請求項
2に記載のシート状油吸着材。
【請求項9】
前記セルロース繊維の反毛綿からなるシートの表裏が、生分解性を有する不織布で積層されている、請求項
2に記載のシート状油吸着材。
【請求項10】
以下の工程:
セルロース不織布とセルロース糸条を、セルロース不織布:セルロース糸条=10:90~60:40の重量比で、反毛して、反毛綿を得る工程;
得られた反毛綿をニードルパンチングして、所定厚みの不織布とする工程;
得られた不織布を、所定濃度の撥水加工剤溶液に浸漬(ディッピング)し、次いで乾燥して、シート状物とする工程;及び
所望により、得られたシート状物の表裏に、生分解性を有する不織布を積層する工程;
を含む、請求項7~
9のいずれか1項に記載のシート状油吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に浮き、かつ、油吸着性能が高い生分解性繊維からなるシート状油吸着材に関する。より詳しくは、本発明は、好ましくはセルロース繊維からなり、該繊維表面に浮力成分が付着した反毛綿からなるシート状油吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油消費の増大につれて油による深刻な海洋汚染事故が拡大の一途をたどっており、洪水、地震、津波等による油流出事故も頻発している。また、産業排水等に懸濁している油類の増加に伴い活性汚泥等の排水の技術処理が困難になっている。かかる状況下、多種多様なシート状の(港湾用)油吸着材が市販されている。これらの油吸着材は、主材として、天然コットン、カポック繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などが混用されており、概ね、厚み4mm~8mm、1枚サイズ37~75cm×50~65cm、油吸収量1.1~4.0(L/枚)である。
しかしながら、これらの市販されているシート状油吸着材の主材はいずれも、生分解性繊維100%ではなく、また、未利用繊維を100%使用したものでもない。
【0003】
以下の特許文献1には、カポック繊維、木綿繊維およびポリプロピレンまたはポリエステルである熱溶融繊維とからなり、前記カポック繊維および木綿繊維が熱溶融繊維により接着、固定されているシート状油吸着材が開示されている。特許文献1に開示されたシート状油吸着材の目的は、石油消費の増大につれて油による深刻な海洋汚染が拡大の一途をたどっており、また、産業排水、とりわけ食品、畜産の排水等に懸濁している油類の増加に伴い活性汚泥等排水の技術処理が困難になっている状況下、低廉であり、カポック繊維が飛散せず、かつ、使用後に十分な強度を有するシート状油吸着材を提供することである。カポック繊維は、油吸着には優れるものの、加工性の困難さやコシがない等の使用上の不便さがあることから、繊維長さ20~40mmの安価な木綿繊維を用い、ニードルパンチ工程を省略しても繊維の絡み合いが良好で吸着量が低下しないように、熱溶融繊維によりカポック繊維と木綿繊維とを接着、固定し、シート状油吸着材の表裏面に熱溶融繊維を付着させ、かつ、表裏面の周囲や、対角線状に木綿糸等で縫製している。特許文献1では、ポリエステル繊維の表面は一般的に親水性であるので、撥水処理により親油性にすることが推奨されているものの、天然繊維であるカポック繊維や木綿繊維を撥水処理することは記載されていない。
【0004】
以下の特許文献2には、活性炭及び/又はゼオライトを含み、汚染水中の放射性物質を吸着する放射性物質吸着層と、前記放射性物質吸着層の表面を覆い、汚染水を吸収する脱脂綿を含む表面不織布と、前記放射性物質吸着層の裏面を覆い、汚染水中の油を吸収する羊毛を含む裏面不織布とも有する、汚染水に含まれる油および放射性物質を回収するシート状ハイブリッド吸着体が開示されている。また、前記表面不織布の表面をPP不織布でさらに覆うことも開示されている。特許文献2に開示されるシート状ハイブリッド吸着体は、油を含む汚染水から放射性物質を吸着材に吸着させる場合、活性炭を含む吸着材を露出させると、汚染水中の油が吸着シートの吸着孔を塞いでしまい、吸着材に汚染水を通過させることができない、ポリエチレン、ポリプロピレン等の疎水性繊維からなる液通過層により活性炭層を覆っても、汚染水中に含まれる油により、液通過層の通過孔が塞がれてしまい、液通過層の内側に位置する活性炭層まで、汚染水を通過することができないという問題を解決すべく、海面に流出した油の量に応じて3つタイプが提案されている。
【0005】
第1のタイプは、表面不織布を脱脂綿およびPP不織布とし、裏面不織布を羊毛不織布とするものであり、汚染水の水面において油がほとんど確認されない場合、脱脂綿が高い吸水性を有し、羊毛は通気性に優れ、比重が軽く、少量の油を吸収した後も水面に長期間浮遊することができるため、汚染水の水面に全く油膜が確認できない場合には、脱脂綿からなる表面不織布を下面にした状態で汚染水に投下して、瞬時に汚染水を表面不織布に吸収させ、汚染水中の放射性物質を放射性物質吸収層で吸着させる。また、汚染水の水面にごく少量の油膜が確認できる場合には、羊毛製不織布からなる裏面不織布を下面にした状態で汚染水に投下して、汚染水中の油を裏面不織布で除去した後に、放射性物質吸収層に汚染水を通過させる(すなわち、油が除去された汚染水のみを放射性物質吸着層に接触させる)ことができる。尚、脱脂綿は羊毛よりも吸水速度が極めて高いこと、羊毛は脱脂綿よりも硬く撥水性を備えていることが記載されている。第2のタイプは、表面不織布と裏面不織布を共に、羊毛製不織布とするものであり、汚染水の水面において油が確認される場合に適したものである。第3のタイプは、表面不織布と裏面不織布を共に、カポック繊維を主材として不織布とするものであり、汚染水の水面において多量の油が確認される場合に適したものである。尚、特許文献2には、カポック繊維は、ボンバセアエ(Bombaceae)科に属する植物の種子繊維であり、セルロース、リグニン、ペントザンを含み、カポック繊維自身は、1つの細胞を構成し、細胞壁は薄いがルーメンは厚いため、その中に気泡を有するため、比重が極めて軽く、例えばジャワ産のもので0.038、インド産のもので0.05であり、自重の20~40倍まで増量しても水面に浮上することができ、素材1gに対して約50倍程度の高い吸油性能を備えることが記載されている。このような比重が軽く、高い吸油性能を備えるカポック繊維を用いて放射性物質層を覆うことにより、ハイブリッド吸着シートを汚染水の水面に長時間浮遊あせて、汚染水中の油を多量に吸着させることができる。
【0006】
特許文献2には、裏面不織布の上に活性炭を散布し、その上に表面不織布を配し、これをニードルパンチング装置により、繊維を互いに交絡させて表面不織布、裏面不織布、放射性物質吸着層を一体的に絡合させることが記載されている。
特許文献2には、天然繊維である、脱脂綿、羊毛、カポック繊維を撥水加工することは記載されていない。
【0007】
また、近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的な社会問題となっており、生態系への影響が懸念されている状況下、合成繊維の繊維屑がマイクロプラスチックの発生源の内の一つとして問題視されている。したがって、環境保全の観点から、油吸着材として合成繊維を含まないものが望まれている。
【0008】
かかる状況下、海洋汚染におけるマイクロプラスチック問題を引き起こさず、かつ、「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通じて環境への負荷が少なく、環境保全に役立つ油吸収性能の高い油吸着材を提供する必要性が未だ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-161289号公報
【文献】特許第5759265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術のシート状の油吸着材としては、コットン繊維を使用した使用した市販品があるが、一般に、コットンの繊維長は、短繊維綿(21mm以下)、中繊維綿(21mm~28mm未満)、長繊維綿(28mm以上)、超長繊維綿(35mm以上)に分類され、これら市販品には、繊維長が21mm~28mmと短く絡みにくい綿が使われている。このように短い繊維長のものだけで反毛綿を得ようとすると、シート状にした時の纏まりを保持しづらく、生分解性繊維ではないポリエステル繊維、ポリプロピレン(PP)繊維等の合成繊維を混用したり、これらの合成繊維からなる不織布等で表裏を押さえる必要がある。他方、超長繊維綿(35mm以上)を用いれば、反毛綿を得ることができるかもしれないが、コスト高となってしまう。そこで、例えば、以下に述べる比較例4で用いた橋本クロス(株)製のものは、レーヨンとポリエステル短繊維の混綿からなるシートである。また、浮力及び拘束力を付与することができるポリエステル又はPP不織布でコットン繊維の反毛綿が挟まれた構造となっているものもある。しかしながら、現在、生分解性繊維100%のシート状油吸着材は現在市販されていないようである。かりに主成分として生分解性繊維からなるシート状油吸着材が知られていたとしても、生分解性繊維100%のシート状油吸着材では、強度が不足しがちであり、また、浮力成分として、撥水剤又は油剤付与剤を付与しなければ、水に沈降してしまい、水面に浮遊することができないため、シート状の油吸着材としては機能しえないと考えられる。
以上の技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、海洋汚染におけるマイクロプラスチック問題を引き起こさず、かつ、「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通じて環境への負荷が少なく、環境保全に役立つ油吸着材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、好ましくは、セルロース繊維の反毛綿をニードルパンチングして、所定厚みの不織布とし、これを所定濃度の撥水加工剤溶液に浸漬して、シート状の油吸着材とすることにより、前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]国土交通省型式承認試験基準に準拠する沈降試験において、5cm角の試験片を、清水300mLを入れた容器に入れ、毎分120往復、振幅4cmで60分間、水平振動を与えたとき、該試験片の一部が水面上にあり、かつ、国土交通省型式承認試験基準に準拠する油吸着性能試験において、10cm角の試験片を、サラダ油、機械油、及び軽油をそれぞれ満たした浴中の油面に浮かべ、5分間静置した後、取り出し、金網の上に乗せ、5分間放置した後、試験片の重量から自重を引いたものを油吸着量とし、試験片の自重の何倍吸着しているかを算出するとき、上記各試験油について油吸着量が8g以上であり、かつ、自重の6倍以上吸着していることを特徴とする、生分解性繊維からなるシート状油吸着材。
[2]前記生分解性繊維がセルロース繊維である、前記[1]に記載のシート状油吸着材。
[3]前記生分解繊維の表面に浮力成分が付着している、前記[1]又は[2]に記載のシート状油吸着材。
[4]シリコーン系撥水加工剤により撥水加工されているセルロース繊維の反毛綿からなる、前記[1]~[3]のいずれかに記載のシート状油吸着材。
[5]前記撥水加工剤がシリコーン系撥水加工剤である、前記[4]に記載のシート状油吸着材。
[6]前記セルロース繊維の反毛綿が、セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿である、前記[4]又は[5]に記載のシート状油吸着材。
[7]前記セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿が、セルロース不織布とセルロース糸条(セルロース不織布:セルロース糸条)が、10:90~60:40の重量比で反毛されたものである、前記[6]に記載のシート状油吸着材。
[8]前記セルロース繊維は、植物繊維が混用されたものである、前記[2]~[7]のいずれかに記載のシート状油吸着材。
[9]250g/m2以上450g/m2以下の目付、及び、3.5mm以上6.5mm以下の厚みを有する、前記[1]~[8]のいずれかに記載のシート状油吸着材。
[10]前記油吸着材を構成する生分解性繊維の単糸長測定において、該測定に用いた繊維の全数の30%以上90%未満が単糸長50mm以上の繊維である、前記[1]~[9]のいずれかに記載のシート状油吸着材。
[11]前記セルロース繊維の反毛綿からなるシートの表裏が、生分解性を有する不織布で積層されている、前記[2]~[10]のいずれかに記載のシート状油吸着材。
[12]以下の工程:
セルロース不織布とセルロース糸条を、セルロース不織布:セルロース糸条=10:90~60:40の重量比で、反毛して、反毛綿を得る工程;
得られた反毛綿をニードルパンチングして、所定厚みの不織布とする工程;
得られた不織布を、所定濃度の撥水加工剤溶液に浸漬(ディッピング)し、次いで乾燥して、シート状物とする工程;及び
所望により、得られたシート状物の表裏に、生分解性を有する不織布を積層する工程;
を含む、前記[7]~[11]のいずれかに記載のシート状油吸着材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシート状油吸着材は、海洋汚染におけるマイクロプラスチック問題を引き起こさず、かつ、「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通じて環境への負荷が少なく、環境保全に役立つ油吸着材である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本発明の1の実施形態は、国土交通省型式承認試験基準に準拠する沈降試験において、5cm角の試験片を、清水300mLを入れた容器に入れ、毎分120往復、振幅4cmで60分間、水平振動を与えたとき、該試験片の一部が水面上にあり、かつ、国土交通省型式承認試験基準に準拠する油吸着性能試験において、10cm角の試験片を、サラダ油、機械油、及び軽油をそれぞれ満たした浴中の油面に浮かべ、5分間静置した後、取り出し、金網の上に乗せ、5分間放置した後、試験片の重量から自重を引いたものを油吸着量とし、試験片の自重の何倍吸着しているかを算出するとき、上記各試験油について油吸着量が8g/以上であり、かつ、自重の6倍以上吸着していることを特徴とする、生分解性繊維からなるシート状油吸着材である。
上記沈降試験において、24時間振動を与え続けても、該試験片の一部が水面上にあるものが好ましい。
【0016】
本実施形態の好ましい態様は、生分解性繊維としてセルロース繊維を用い、その表面に浮力成分が付着された前記シート状油吸着材であり、さらに好ましくは、シリコーン系撥水加工剤により撥水加工されている再生セルロース繊維の反毛綿からなる前記シート状油吸着材である。セルロース繊維は反毛綿であることが好ましく、前記セルロース繊維の反毛綿は、より好ましくは、セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿である。
【0017】
本明細書中、用語「セルロース繊維」は、コットン、靭皮、バナナ、カポックなどの植物繊維や、樹木やパルプ、コットンリンター等の天然セルロースを溶解して人工的に製造した「再生セルロース繊維」(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、テンセル、リヨセル等)を包含し、さらにセルロースを原料とした半合成繊維(アセテート等)もセルロース繊維の一種とする。
本実施形態では、セルロース繊維は、植物繊維が混用されているものであることができる。
【0018】
コットンリンターとは、コットンシードまわりのうぶ毛であり、綿糸として使用されない未利用繊維であり、これを洗浄後、蒸煮、ろ過を繰り返して不純物を除去し、精製リンターとし、これを精製し、硫酸銅水溶液に水酸化ナトリウムを加えて沈殿させた水酸化銅(II)にアンモニア水を加えてセルロースを溶解させた銅アンモニア溶液(シュバイツァー溶液、銅アンモニア錯体により濃い青色を呈する)に溶解して、液状(原液)にし、これを酸性の水中に押し出してセルロースを紡糸(再生)し、セルロース100%の再生繊維として生まれ変わらせることによりキュプラ糸条(ベンベルグ(登録商標)、長繊維、短繊維)やキュプラ長繊維不織布(ベンリーゼ(登録商標))が生産されている。
ベンベルグ(登録商標)は、繊維の断面が真円に近く、表面がなめらかであるため肌への刺激が少なく、摩擦が生じにくく体の動きをスムーズにし、また、美しい発色と光沢や独特の風合いがあり、また、コットンファイバーに比較し、湿気を吸いやすくはきだしやすい非晶部分を多く持つため、吸放湿性能に優れ、快適な衣服環境をつくりだすことができる衣料用繊維である。
キュプラ糸条の吸水率は、概ね自重の11倍程度である。
【0019】
また、ベンリーゼ(登録商標)は、低発塵性(リントフリー)、優れた吸液性、耐熱性、拭き取り性、不純物の少なさから、フェイスマスク・パフ、ガーゼ・除菌ウェット、産業用ワイパー、緑化用資材、ティーバッグ・おしぼり等に利用されている。
これらのキュプラ糸条やキュプラ長繊維及び/又は短繊維不織布は、前記したように、天然由来のコットンリンターを原料とするため、利用後に廃棄された後も、自然の働きによって分解される生分解性繊維からなるものであり、例えば、夏の条件下(温度35℃、湿度80%)で土に埋めると原布の重量は約2か月で半分になり、また、燃やしても有害物質の発生もほとんどない。他方、ポリエステル原布では、重量変化はほとんどない。
【0020】
本明細書中、用語「再生セルロース繊維」とは、前記したキュプラに加え、レーヨン、リヨセルを含む。
レーヨン(rayon)は、絹に似せて作った再生繊維であり、昔は人絹(じんけん、人造絹糸)とも呼ばれ、パルプやコットンリンターなどのセルロースを水酸化ナトリウムなどのアルカリと二硫化炭素に溶かしてビスコースにし、酸の中で紡糸して(湿式紡糸)製造される。ポリエステルなど石油を原料とした化学繊維と違い、加工処理したあと埋めると土に還るため、レーヨン自体は環境に負荷をかけない繊維とされるが、製造時の二硫化炭素の毒性や、強度が低いことなどが問題となっていたことと、日本においては原料パルプを針葉樹に求めていたため製造は中止されている。
【0021】
リヨセル(Lyocell)も、再生セルロース繊維の一つであり、アセテート繊維などのように、誘導体化というプロセスを経由せずに、セルロースそのものを溶剤に溶解させた溶液を紡糸して得られる。レーヨンなどと同様に、木材(ユーカリなど)等のパルプが原料である。これらを、N-メチルモルホリンN-オキシドの水溶液に溶解させて紡糸原液(ドープ)とし、N-メチルモルホリンN-オキシドの希薄溶液中に押出、繊維とする。二硫化炭素を用いるビスコース法などと違って、完全クローズドシステムを構築できるため、環境負荷が比較的低い。リヨセルは、誘導体化などのプロセスを経ないため、セルロース分子の重合度の低下が少なく、強度面で優れているが、紡糸時に、繊維長軸方向に分子が高度に配列させられているため、ストリングチーズの様に繊維が裂ける(フィブリル化)という欠点が生じ易い。
【0022】
エコマーク事業とは、国際標準化機構の規格ISO14020(環境ラベルおよび宣言・一般原則)およびISO14024(環境ラベルおよび宣言・タイプI環境ラベル表示・原則および手続き)に則って公益財団法人 日本環境協会により実質される事業であり、エコマークは、様々な商品(商品およびサービス)の中で、「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通じて環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられる環境ラベルである。
【0023】
前記したように、キュプラは、コットンシードまわりのうぶ毛であり、綿糸として使用されない未利用繊維を原料とするため、レーヨンやリヨセルに比較して、より環境への負荷が少ない。
【0024】
また、国土交通省による形式承認制度とは、船舶安全法、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の規定に基づき検査を合理化するための制度であり、同一の形式の物件が大量に生産される場合において、形式承認を取得することにより検査をより合理的に受検できる制度である。油吸着材の製造者は形式承認を取得することで、製造した物件が形式承認を取得した物件と同一であることを確認するための検査(検定)を受け、これに合格した場合は、当該検定に合格した事項について検査が省略される。
国土交通省による形式承認制度における性能試験の試験基準を満たすものであれば、十分な油吸着効果を有し、実使用に耐えられるシート性能を有するものといえる。
【0025】
所望の性能を発揮するために、シート状油吸着材は、油吸着性能、浮力性能、及び強度を有することが重要である。
強度は、国土交通省型式承認試験基準に基づく強度試験において、油吸着材の任意の一端から、10cmの位置に直径8mmのフックをかけてつるし、その鉛直方向の一点に重量試験により算出された最大単位重量の2.5倍の荷重をかけ、3分後に破断が無いことが判定基準となり、本実施形態のシート状油吸着材は、本基準を満たすことが好ましい。
【0026】
本実施形態のシート状油吸着材を構成する生分解性繊維は、該生分解性繊維の単糸長測定において、該測定に用いた繊維の全数の30%以上90%未満が単糸長50mm以上の繊維であることが好ましい。このように比較的繊維長の長い単糸が混用されることで、強度と浮力に優れたシート状物とすることができる。全体の40%以上が単糸長50mm以上であることが好ましく、全体の50%以上が単糸長50mm以上であることがより好ましいが、全体の90%以上が単糸長50mm以上であると、シート成型工程上の点から好ましくない。
【0027】
さらに、本実施形態の生分解性繊維からなるシート状油吸着材において、セルロース繊維は、植物繊維が混用されたものであることができ、該植物繊維の少なくとも一種にカポック繊維を用いることが好ましい。カポックとは、東南アジアを中心に広く生育されるパンヤ科の木であり、その種子から採れる繊維(わた毛)を利用する目的で広く栽培されている。カポック繊維は、単糸長2mm~7mmほどの環境負荷が小さい植物繊維であり、極めて軽くて、緻密であるうえに、中空率約80%という高中空構造であることを特徴とする。ただし、単糸長が短いため、単独ではシート加工性およびシート強度が悪く、上述の単糸長50mm以上の繊維と混用して用いることが好ましい。混率は特に限定されず、得られたシートにおいて全体の50%以上が単糸長50mm以上の繊維となればよい。
【0028】
本実施形態の生分解性繊維からなるシート状油吸着材において、生分解性繊維の表面に浮力成分が付着していることが好ましい。例えば、脱脂されたコットンからなるシートでは、必要な浮力を得ることは困難である。浮力成分としては植物繊維由来の油脂分、再生繊維等の紡糸の際に付着される油剤成分、またはシート形成時やその後の加工工程で付着される撥水成分等が挙げられる。撥水成分としては、撥水加工剤、例えば、公知のフッ素系撥水加工剤、シリコーン系撥水加工剤、アクリル系撥水加工剤などが挙げられる。
【0029】
本実施形態のシート状油吸着材は、植物由来の油分が付着した植物繊維、例えば、脱脂していないコットンの綿状物をシート状に形成することによって得ることができる。上述の通り単糸長の長い繊維比率を上げるためには、特殊な超長繊維綿を使用するか、又はコットン以外の単糸長の長いセルロース繊維と混用することが好ましく、これらの材料をニードルパンチングやケミカルボンディング等によってシート状にする方法で得られる。浮力や強度が不足する場合には、更に浮力成分の付着処理や、シート表裏面に生分解性繊維からなる他の不織布を貼りつけることが好ましい。但し、油吸着性能の点から、表裏に不織布を積層せず、単一層構成のシートであることが好ましい。
【0030】
本実施形態のシート状油吸着材は、セルロース繊維を反毛して得られた反毛綿をシート化することによって得られるものであることができる。セルロース繊維としては植物繊維、再生セルロース繊維のいずれでもよく、これらを混用してもよい、形状としては紡糸・紡績された糸の形状でも、不織布、織編物といった繊維構造物であってもよく、これらの混合物でもよい。また、例えば、繊維製造、紡績、不織布又は織編物製造といった製造工程で発生する不良品や屑などを再利用することも可能であり、このような材料由来であれば、環境負荷の点で特に好ましい。
【0031】
本発明の他の実施形態は、以下の工程:
セルロース不織布とセルロース糸条を、セルロース不織布:セルロース糸条=10:90~60:40の重量比で、反毛して、反毛綿を得る工程;
得られた反毛綿をニードルパンチングして、所定厚みの不織布とする工程;
得られた不織布を、所定濃度の撥水加工剤溶液に浸漬(ディッピング)し、次いで乾燥して、シート状物とする工程;及び
所望により、得られたシート状物の表裏に、生分解性を有する不織布を積層する工程;
を含む、前記シート状油吸着材の製造方法である。
【0032】
反毛とは、繊維廃棄物を循環資源に変換するリサイクル技術であり、様々な形態(糸、紐、布など)の繊維廃棄物や端切れ品をワタ状に戻す処理である。糸や不織布(フェルト)に加工し、再利用するためには、繊維廃棄物等はワタ(反毛)に戻す必要があり、いわば糸を製造する工程の逆の操作を行うことが反毛である。一般に、反毛工程は、原料を適当な大きさにカットする工程(1)、原料を積層して素材間のバラツキを抑える工程(2)、反毛機に6~8回とおしてワタにする工程(3)、ドンタと呼ばれる袋に反毛を詰める工程(4)の一連の流れで行われる。反毛機には、荒打ち用、中打ち用、テーカイン、ガーネットなど様々な形状の回転刃が取り付けられており、処理条件により、反毛の性状(繊維長さや絡み合い)が大きく変わる。糸用、フェルト原料用、詰め綿用なで最終製品によって、これらを組み合わせて要求性能を満たす反毛への加工していく。基本的には繊維長はできるだけ長く、よくほぐし、繊維の損傷を最小限に抑えることが重要である。
【0033】
ニードルパンチング装置は、一般に、外周部に突出した鋭利なハーブを有するニードルを所定の間隔、密度で、ニードルボードに埋め込んだビームを有する。このビームを駆動装置により上下動して、反毛綿のシートに対してニードルを挿通させて、受け板に近接させる。このニードルの挿通動作により、ニードルに形成されたハーブが繊維を引っ掛けて、繊維を互いに交絡させることにより、繊維が一体的に絡合した所定の厚みの不織布を作製することができる。
【0034】
本実施形態においては、ニードルの密度を40,000本/m2程度とし、ニードルのニードルボードへの埋め込み間隔を5mm程度とすることが好ましい。なぜなら、一般的には、密な法が、資材全体の強度保持に適するが、過度に密にすると、セルロース不織布の繊維が過度に短く切断されて、得られる不織布の強度がかえって低下するからである。
【0035】
ニードルパンチングにより得られる不織布の強度と厚み、繊維の損傷の観点から、前記セルロース不織布とセルロース糸条に由来する反毛綿は、セルロース不織布とセルロース糸条(セルロース不織布:セルロース糸条)が、10:90~60:40の重量比で反毛されたものであることが好ましく、より好ましくは30:70~50:50である。
セルロース不織布を構成する繊維は、反毛~ニードルパンチ工程により細かく刻まれ、糸長自体は短くなるが、繊維幅方向に交絡が残った破片状物が残るために、シート状物の強度を確保することができる。他方、セルロース糸条は、反毛~ニードルパンチ工程を経ても、繊維長がある程度長い状態で残るため、シート状物の強度確保に有効である。そのため、セルロース不織布の重量が10%以上あれば、繊維の損傷及び不織布の強度低下を抑制できる、他方、セルロース糸条の重量が40%以上であれば、同様に繊維の損傷及び不織布の強度低下を抑制できる。
【0036】
例えば、セルロース不織布が、キュプラ不織布であり、かつ、セスロース糸条が、キュプラ糸条である場合には、毛綿中の前記キュプラ不織布に由来する繊維の繊維径が、約10μm~約15μmであり、かつ、繊維長が、約1cm~約2cmであることが好ましい。また、前記反毛綿中の前記キュプラ糸条に由来する繊維の繊維径が、約10μm~約15μmであり、かつ、繊維長が、平均で約3cm~約10cmであることが好ましい。
ニードルパンチングでは、反毛綿中の繊維の損傷を最小限に抑えることが肝要である。
【0037】
ニードルパンチングにより得られる不織布は、油付着量や浮力の観点から、250g/m2以上450g/m2以下の目付、及び、3.5mm以上6.5mm以下の厚みを有することが好ましく、350g/m2以上450g/m2以下の目付、及び、4.5mm以上5.5mm以下の厚みを有することがより好ましい。
【0038】
本明細書中、「シリコーン系撥水加工剤」とは、化学結合の主骨格がシロキサン結合(Si-O-Si)であるシリコーンをいい、繊維上に被膜(油膜あるいは硬化被膜)を形成し、撥水性能を発揮するものであればよく特に制限されるものではないが、例えば、信越シリコーン(株)製の耐洗濯性に優れるエマルジョン型POLON-MK-206であることができる。
【0039】
前記したように、キュプラ糸条の吸水率は、概ね自重の11倍程度であるが、本願発明者らは、これに前記シリコーン系撥水加工剤で撥水加工処理することで、水よりも油を選択的に吸収することができるようになること、及び水に浮くようになることを予想外に発見し、かかる発見に基づき本発明を完成するに至ったものである。
ニードルパンチングを経て得られた不織布を、所定濃度のシリコーン系撥水加工剤溶液に浸漬(ディッピング)する工程におけるシリコーン系撥水加工剤の濃度は、油吸着量と撥水性(キュプラ糸条が吸水しない程度)とのバランスの観点から、3%~6%であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を、実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例等における測定値は、下記の測定法により求めたものである。
【0041】
[油吸着性能試験]
国土交通省による型式承認制度における試験基準に準拠し、以下の手順でシート状油吸着材の性能試験を実施した。
10cm角の試験片を、以下の各試験油を満たした浴中の油面に浮かべ、5分間静置した後、取り出し、金網の上に乗せ、5分間放置した後、その重量を測定する。
試験片:10cm × 10cm/枚
試験油:サラダ油(食用なたね油)、機械油(ISOグレード:46)、軽油
(i)試験片1枚の自重(油を吸着させる前)を測定する。
(ii)試験片を1枚、試験油に浮かせ、5分間待つ。
(iii)その後、試験片を取り出し金網の上に、油が垂れ落ちる状態で、5分間静置する。
(iv)その後、試験片の重量(グロス重量)を測定する。グロス重量から自重を引いたものを油吸着量とし、試験片の自重の何倍吸着しているかを算出する。
(v)以上を3回繰り返す(N数=3)。
油吸着量が8g/以上であり、かつ、自重の6倍以上吸着しているものを、合格と判定した。
【0042】
[沈降試験]
国土交通省型式承認試験基準に準拠し、以下の手順で沈降試験を実施した。
5cm×5cmの試験片を、清水300mLの入った試薬ビンに入れ、毎分120往復、振幅4cmで、60分間、24時間、120時間にわたり、水平振動を与えた。
試験片の一部が水面上にあれば、合格「〇」、すなわち、水に浮く、と判定し、不合格は「×」とした。
【0043】
[強度試験]
国土交通省による型式承認制度における試験基準に準拠し、以下の手順でシート状油吸着材の性能試験を実施した。
油吸着材の任意の一端から、10cmの位置に直径8mmのフックをかけてつるし、その鉛直方向の一点に重量試験により算出された、最大単位重量の2.5倍の荷重をかけ、3分後、300分後に破断が無いことを判定基準とした。破断がなければ、「○」、破断があれば「×」と判定した。
尚、本試験における最大単位重量は、以下の方法で算出した。
10cm×10cmの試験片を摂氏20度の重油に5分間浸漬し、金網の上に5分間放置した後、その重量を測定し、単体の吸油後の全重量を算出する。3サンプルについて同様の測定を行い、最も重量が大きくなったサンプルの数値を、最大単位重量とする。
【0044】
[単糸長測定]
シートの切断されていない場所で、無作為に繊維を抜き出して、ほぼまっすぐになるよう台紙に貼りつけ、その単糸長を測定した。20点測定し、単糸長50mm以上となる単糸の割合を算出した。
【0045】
[実施例1]
市販の、脱脂されていない中繊維綿コットン(単糸長21~28mm)を用い、これをニードルパンチして厚み3mmのシート状不織布を得た。予め撥水加工を施したセルロース不織布(旭化成株式会社製「ベンリーゼ」厚み1mm、目付28g/m2)を上下に積層し、以下の条件下でニードルパンチによって一体化し、50cm角に裁断してシート状油吸着材を得た。
ニードルパンチ条件:ラインスピード5m/min、プレパンチ回転数450rpm、ダブルパンチ回転数800rpm。
【0046】
[実施例2]
市販のテンセル(LENZING社製、繊度1.2dtex)長繊維を回転刃裁断機で平均単糸長75mm程度に粗切りし、市販のカポック繊維と30:70(カポック:テンセル)の重量比率でミキシングボックスに投入・混合し、反毛機でワタ状にした後、カーディング、ニードルパンチ工程を経てシート化し、50cm角に裁断してシート状油吸着材を得た。
【0047】
[実施例3]
実施例2で用いたテンセルに予め市販のシリコーン系撥水加工剤(5%溶液)を浸漬付与する加工を行い、乾燥した以外は、実施例2と同様の方法でシート状油吸着材を得た。
【0048】
[実施例4]
市販のベンベルグ糸(旭化成株式会社製、繊維径12μm)とベンリーゼ不織布(旭化成株式会社製、品番M-3II)を、それぞれ回転刃裁断機で、平均単糸長75mm程度になるよう粗切りし、50:50の重量比でミキシングボックスに投入・混合し、反毛機でワタ状にした後、カーディング、ニードルパンチ工程を経てシート化した。
得られたシートに、市販のシリコーン系撥水加工剤(5%溶液)を浸漬付与し、乾燥後、50cm角に裁断してシート状油吸着材を得た。
【0049】
[実施例5]
実施例4において、ベンベルグ、ベンリーゼに加え、市販のカポック繊維を、3者の重量比が40:40:20になるよう混合する以外は、実施例4と同条件でシート状油吸着材を得た。
【0050】
[比較例1]
レーヨンとポリエステルからなる市販の油吸着シート(橋本クロス社製 HOC-5052)を評価した。油吸着材として必要な性能を有するが、生分解性は有さない、すなわち、「×」と判定した。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、ニードルパンチにより得られたシートをそのまま裁断してシート状油吸着材とした。強度が低く、油吸着材として性能不十分であった。
【0052】
実施例及び比較例にて得られたサンプルの性能評価結果を、以下表1に示す。尚、実施例1における単糸長は、両外層不織布に挟まれた不織布の構成繊維についての値である。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るシート状油吸着材は、合成繊維を含まない生分解性の繊維から構成され、海洋汚染におけるマイクロプラスチック問題を引き起こさないため、重油タンカー座礁等の油流出事故による海洋汚染防止に使用される油吸着材として好適に利用可能であり、国土交通省形式承認取得予定である。また、本発明に係るシート状油吸着材は、好ましくは、未利用繊維であるコットンリンターを原料として製造されるキュプラ不織布(ベンリーゼ(登録商標))とキュプラ糸条(ベンベルグ(登録商標))の生産工程における端切れ品等を反毛して製造されるため、厨房フライヤー周りや工場の製造現場における、油が飛散し床が滑りやすい状態になる場合に、作業者が転倒しないようにするため、また、靴裏の汚れを綺麗にするために使用される油吸着マットとして好適に利用可能であり、エコマーク取得予定である。