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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】画像形成装置、定着器
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020188488
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077615
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】安井 龍生
(72)【発明者】
【氏名】竹松 浩二
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-016667(JP,A)
【文献】特開2015-075715(JP,A)
【文献】特開2012-163821(JP,A)
【文献】特開2020-052346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材を加熱及び加圧することで該記録材に画像を定着させる定着器を備える画像形成装置であって、
前記定着器は、薄肉中空で回転するエンドレスベルトと、前記エンドレスベルトとの間で前記記録材を挟持搬送するためのニップ部を形成する加圧ローラと、を有し、
前記エンドレスベルトは、前記エンドレスベルトの内周面側に配設されたニップ形成部材と、前記エンドレスベルトの内周面を支持する保持部材と、を有しており、
前記保持部材は、前記エンドレスベルトの回転方向の上流側の部分が前記ニップ形成部材の前記エンドレスベルトの内周面を摺擦する摺動面に対して、前記エンドレスベルトの側から見て凹んでおり、
前記エンドレスベルトは、自然状態のときの円弧が前記摺動面を接線とし、且つ前記摺動面の前記上流側の角部を通るときに、前記保持部材の凹んでいる面の少なくとも一部が前記円弧の上もしくは外に配置されることを特徴とする、
画像形成装置。
【請求項2】
記保持部材、前記摺動面に対して前記エンドレスベルトの側から見て0.02[mm]以上凹んでいることを特徴とする、
請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記ニップ形成部材は、前記摺動面の前記上流側の角部が除去された形状であることを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ニップ形成部材は、前記角部が曲面形状に形成されることを特徴とする、
請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記ニップ形成部材は、前記摺動面の前記上流側の角部を覆うように保護部材が設けられていることを特徴とする、
請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記ニップ形成部材は、前記記録材を加熱するための加熱部材であることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記ニップ形成部材は、板の上に前記記録材を加熱するための加熱部材を備えて構成されることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記ニップ形成部材の前記摺動面に保護層を有し且つ前記摺動面の前記上流側が前記保護層から露出する場合に、
前記エンドレスベルトは、自然状態のときの円弧が前記保護層の前記エンドレスベルトに接する面を接線とし、且つ前記保護層の前記エンドレスベルトに接する前記面の前記上流側の角部を通るときに、前記保持部材の凹んでいる面の少なくとも一部が前記円弧の上もしくは外に配置され、
前記ニップ形成部材の前記摺動面の前記上流側の角部は、前記エンドレスベルトの前記円弧内に配置されることを特徴とする、
請求項1~7のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項9】
記録材を加熱及び加圧することで該記録材に画像を定着させる定着器であって、
薄肉中空で回転するエンドレスベルトと、前記エンドレスベルトとの間で前記記録材を挟持搬送するためのニップ部を形成する加圧ローラと、を有し、
前記エンドレスベルトは、前記エンドレスベルトの内周面側に配設されたニップ形成部材と、前記エンドレスベルトの内周面を支持する保持部材と、を有しており、
前記保持部材は、前記エンドレスベルトの回転方向の上流側の部分が前記ニップ形成部材の前記エンドレスベルトの内周面を摺擦する摺動面に対して、前記エンドレスベルトの側から見て凹んでおり、
前記エンドレスベルトは、自然状態のときの円弧が前記摺動面を接線とし、且つ前記摺動面の前記上流側の角部を通るときに、前記保持部材の凹んでいる面の少なくとも一部が前記円弧の上もしくは外に配置されることを特徴とする、
定着器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ、複合機等の電子写真技術を利用した画像形成装置に用いられる定着器に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、未定着のトナー像が形成された記録材に対して熱と圧力を加えることにより、該記録材にトナー像を定着させる定着器を備えている。定着器には、無端状の定着ベルトと、定着ベルトの内周面側に配設されたニップ形成部材と、定着ベルトに当接するローラ(加圧ローラ)と、を備えたものが従来から用いられている。このような定着器では、ニップ形成部材により加圧ローラ側に定着ベルトが押圧されることで、定着ベルトとローラとの間に定着ニップ部が形成される。定着ニップ部は、記録材を加熱及び加圧した状態で挟持搬送する。これにより、記録材にトナー像が定着する。
【0003】
定着器は、定着ニップ部に平面部を形成することで、記録材に対して均一な圧力と熱を付与して良好な定着性と記録材の搬送性を得ることができる。また、定着器は、定着ニップ部の平面部の回転方向上下流に曲面部を形成することで、定着ベルト内周とニップ形成部材との摺動抵抗を低減させてベルト走行が安定するように構成される。「回転方向」は、定着ニップ部における定着ベルトの回転方向である。これらを高度に実現するため、定着器は、平面度・強度・熱伝導性に優れる部材から成るニップ形成部材と、定着ベルト内面に滑らかに沿うように曲面部を形成しつつニップ形成部材を保持する保持部材と、で構成されている。
【0004】
ニップ形成部材と保持部材の回転方向上流側のつなぎ部分において、相対的に保持部材が定着ベルト内面方向に突出する段差が生じることがある。この場合、封筒のように1枚のシートを折り曲げて袋構造にした記録材が搬送されると、段差部における記録材の屈曲により、定着ベルト側のシートと加圧ローラ側のシートとの間で速度差が生じる。その結果、記録材全体にストレスがかかる。ストレスの大きさによっては、袋構造の記録材にシワが生じることがある。逆に、ニップ形成部材と保持部材の回転方向上流側のつなぎ部分において、相対的にニップ形成部材が定着ベルト内面方向に突出する段差が生じることがある。この場合、硬質のニップ形成部材に対して定着ベルト内面が乗り上げながら摺擦することで、定着ベルトの耐久性が低下することがある。これらのことを防止するために、特許文献1には、封筒通紙域においてニップ形成部材と保持部材の回転方向上流側のつなぎ部分の段差をゼロにする構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-107643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニップ形成部材と保持部材は、圧力と熱によるクリープ変形や摩擦摩耗等の耐久変化が生じる。そのためにニップ形成部材と保持部材の回転方向上流側のつなぎ部分の段差をゼロにする構成では、保持部材側が突出する段差が生じて、耐久変化後に袋構造の記録材にシワが発生する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑み、ニップ形成部材と保持部材の耐久変化を含めて袋構造の記録材のシワの発生を抑制する画像形成装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像形成装置は、記録材を加熱及び加圧することで該記録材に画像を定着させる定着器を備える画像形成装置であって、前記定着器は、薄肉中空で回転するエンドレスベルトと、前記エンドレスベルトとの間で前記記録材を挟持搬送するためのニップ部を形成する加圧ローラと、を有し、前記エンドレスベルトは、前記エンドレスベルトの内周面側に配設されたニップ形成部材と、前記エンドレスベルトの内周面を支持する保持部材と、を有しており、前記保持部材は、前記エンドレスベルトの回転方向の上流側の部分が前記ニップ形成部材の前記エンドレスベルトの内周面を摺擦する摺動面に対して、前記エンドレスベルトの側から見て凹んでおり、前記エンドレスベルトは、自然状態のときの円弧が前記摺動面を接線とし、且つ前記摺動面の前記上流側の角部を通るときに、前記保持部材の凹んでいる面の少なくとも一部が前記円弧の上もしくは外に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ニップ形成部材と保持部材の耐久変化を含めて封筒シワの発生を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】画像形成装置の構成説明図。
図2】定着器の構成説明図。
図3】定着器の構成説明図。
図4】定着器の構成説明図。
図5】(a)、(b)は、保持部材と加熱部材の構成説明図。
図6】(a)、(b)は、定着ベルトの内周面の傷や摩耗を防止する構成の説明図。
図7】(a)、(b)は、定着ベルトの内周面の傷や摩耗を防止する別の構成の説明図。
図8】(a)、(b)は、ニップ形成部材の別の構成例示図。
図9】(a)~(c)は、定着ベルトの耐久性の低下を抑制するための構成の説明図。
図10】定着ベルトの耐久性の低下を抑制するための別の構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明を実施形態に記載されたものだけに限定するものではない。
【0012】
(画像形成装置)
図1は、本実施形態の画像形成装置の構成説明図である。この画像形成装置1は、中間転写ベルト31に沿ってイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を形成する画像形成部PY、PM、PC、PKが配列されたタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0013】
画像形成部PYは、イエローのトナー像が形成される感光ドラム11を有しており、感光ドラム11から中間転写ベルト31へトナー像を転写する。画像形成部PMは、マゼンタのトナー像が形成される感光ドラム11を有しており、感光ドラム11から中間転写ベルト31へトナー像を転写する。画像形成部PCは、シアンのトナー像が形成される感光ドラム11を有しており、感光ドラム11から中間転写ベルト31へトナー像を転写する。画像形成部PKは、ブラックのトナー像が形成される感光ドラム11を有しており、感光ドラム11から中間転写ベルト31へトナー像を転写する。各感光ドラム11から中間転写ベルト31へは、各色のトナー像が順次重畳するように転写される。画像形成部PY、PM、PC、PKは、形成するトナー像の色が異なるのみで同じ構成である。以下、画像形成部PYを例に説明し、画像形成部PM、PC、PKについては説明を省略する。
【0014】
画像形成部PYが有する感光ドラム11は、円筒形の感光体であり、像担持体として機能する。感光ドラム11は、ドラム軸を中心に、図中矢印方向に回転駆動される。感光ドラム11の周囲には、コロナ帯電器12、露光器13、現像器14、転写ブレード17、及びドラムクリーナ15が配置される。コロナ帯電器12は、回転する感光ドラム11の表面を一様な電位に帯電させる。露光器13は、レーザビームにより、帯電した感光ドラム11の表面を走査することで、感光ドラム11の表面に静電潜像を形成する。現像器14は、対応する色のトナーを収容する。画像形成部PYの現像器14は、感光ドラム11の表面に形成された静電潜像を、収容するイエローのトナーにより現像して、感光ドラム11の表面にイエローのトナー像を形成する。転写ブレード17は、所定の転写電圧が印加されることで、感光ドラム11の表面に形成されたトナー像を中間転写ベルト31へ転写させる。ドラムクリーナ15は、転写後に感光ドラム11の表面を清掃する。
【0015】
中間転写ベルト31は、二次転写内ローラ34を含む複数のローラに張架されて矢印R方向に回転駆動される転写体である。中間転写ベルト31は、各色の感光ドラム11から、回転速度に応じたタイミングで順次重畳するようにトナー像が転写される。これにより中間転写ベルト31にはフルカラーのトナー像が形成される。二次転写内ローラ34に対して中間転写ベルト31を挟んで対向する位置には、二次転写外ローラ35が配置される。二次転写内ローラ34と二次転写外ローラ35とは、中間転写ベルト31上のトナー像を記録材Pに転写する二次転写部T2を構成している。中間転写ベルト31は、回転することでフルカラーのトナー像を二次転写部T2へ搬送する。記録材Pの搬送方向で二次転写部T2の下流側には定着器40が配置される。
【0016】
記録材Pは、給紙カセット20に収納されている。本実施形態の画像形成装置1は、2つの給紙カセット20を備えるが、給紙カセットの数はこれに限らず、1つ或いは複数であってもよい。複数の給紙カセットが設けられる場合、各給紙カセットには異なる種類の記録材が収納されていてもよい。給紙カセット20内の記録材Pは、1枚ずつ取り出されて搬送経路をレジストローラ23まで搬送される。なお、記録材Pは手差しトレイ25からも給送可能である。
【0017】
レジストローラ23は、記録材Pが搬送されるタイミングでは回転を停止している。そのために記録材Pは先端がレジストローラ23に衝突してループを形成する。ループの形成により記録材Pの搬送方向に対する斜行が補正される。レジストローラ23は、斜行補正後に、中間転写ベルト31上のトナー像が二次転写部T2に搬送されるタイミングに応じて回転を開始し、記録材Pを二次転写部T2へ搬送する。記録材Pは、二次転写部T2において中間転写ベルト31からトナー像が転写される。トナー像を転写された記録材Pは、二次転写外ローラ35により定着器40へ搬送される。定着器40は、トナー像が転写された記録材Pを加熱及び加圧することで、トナー像を記録材Pに定着させる。以上により記録材Pに画像が形成される。トナー像が定着された記録材Pは、排出ローラ63によって外部トレイ64へ排出される。
【0018】
なお、記録材Pの両面に画像を形成する場合、一方の面に画像が形成された記録材Pは、切換部材61によって画像形成装置1の上方へ案内される。記録材Pは、搬送路73においてスイッチバック搬送されることにより表裏反転され、その後、両面搬送路70を経由してレジストローラ23へ搬送される。記録材Pは、二次転写部T2で他方の面にもトナー像を形成され、定着器40によってトナー像を定着された後に、外部トレイ64へ排出される。なお、記録材Pとしては、用紙、プラスチックフィルム、布等のシート材を用いることができる。
【0019】
(定着器)
図2図3図4は、定着器40の構成説明図である。定着器40は、定着ベルト100及び回転体である加圧ローラ101を備える。定着ベルト100は、薄肉中空のエンドレスベルトであり、保持部材103によって内周面を支持されている。定着ベルト100は、例えば後述するベルトフレーム104やベルトガイド105に対して着脱自在であり、寿命等により交換可能となっている。加圧ローラ101は、表面に弾性層を有するローラ部材である。後述するように、加圧ローラ101は、保持部材103によって加圧ローラ101に向けて付勢された定着ベルト100の外周面に当接する。加圧ローラ101は、定着ベルト100の外周面に当接して回転する。定着ベルト100は、加圧ローラ101の回転に従動して回転する。定着ベルト100と加圧ローラ101の当接部分が、トナー像が形成された記録材Pを加熱及び加圧する定着ニップ部Nとなる。
【0020】
図3は、図2のX-X断面図である。定着ベルト100の内側には、定着ベルト100の幅方向(定着ベルトの回転軸方向、図3の左右方向)に沿って梁状にベルトフレーム104が配置される。また、図3では左端部の構成を省略しているが、ベルトフレーム104の幅方向の両端部には、ベルトガイド105が設けられる。ベルトガイド105は、定着ベルト100の幅方向の端部の回転を案内するとともに、定着ベルト100の幅方向の位置を規制する。即ち、ベルトガイド105は、円筒状のガイド部105aと、ガイド部105aの端部に設けられたフランジ状の規制部105bとを有する。ガイド部105aは、定着ベルト100の幅方向端部の内側に挿入され、定着ベルト100の幅方向の端部を内側から円筒状態に保持しつつ、定着ベルト100の回転を案内している。規制部105bは、定着ベルト100の幅方向の端部に対向して、定着ベルト100の幅方向の移動を規制する。
【0021】
図4は、定着器40の斜視図である。加圧ローラ101は、定着フレーム115に固定されたベアリング116によって回転自在に支持されている。定着ベルト100の両端部に配置されたベルトガイド105は、上方から圧縮バネ113により加圧レバー112を介して加圧ローラ101方向へ付勢される。
【0022】
加圧レバー112は、中心軸111を中心にして揺動可能に定着フレーム115の幅方向の両端部にそれぞれ支持されている。各加圧レバー112は、揺動端が圧縮バネ113によって下方へ付勢されている。一対の加圧レバー112により付勢された一対のベルトガイド105は、ベルトフレーム104及び後述する摺擦部106を介して、定着ベルト100の外周面を加圧ローラ101に圧接させる。これにより、記録材Pの定着ニップ部Nが形成される。
【0023】
加圧ローラ101は、定着器40の運転中、不図示のモータ等の定着駆動部からギア117を介して駆動力が伝達されて、回転駆動される。上記の通り、加圧ローラ101の回転により、定着ベルト100が従動回転する。
【0024】
加圧レバー112は、ギア121を通じて手動操作により駆動されるカム120の回転により、中心軸111を中心にして揺動回転する。加圧レバー112の揺動端が押し上げられることで、定着ベルト100が加圧ローラ101から離間して、定着ニップ部Nが開放される。定着器40の運転中に搬送されている記録材Pがジャムを起こした場合、ユーザが加圧レバー112により定着ニップ部Nを離間する機構を操作する。これによりユーザは、定着ベルト100と加圧ローラ101との間に挟み込まれて停止した記録材Pを容易に除去することができる。
【0025】
保持部材103下面(定着ニップ部N側の面)の長手方向(定着ベルト100の幅方向)には連続した凹所が形成されている。凹所内にはニップ形成部材である加熱部材102が配置されている。加熱部材102は、定着ベルト100の内周面側に配設される。加熱部材102は、面状の抵抗加熱素子であり、定着ベルト100を介して記録材Pの画像面を加熱する。
【0026】
摺擦部106は、加熱部材102に設けられる。摺擦部106は、定着ベルト100の内周面に摺擦し、定着ベルト100の外周面を加圧ローラ101に当接させて、定着ベルト100と加圧ローラ101との間で定着ニップ部Nを形成する。
【0027】
保持部材103は、圧縮バネ113により、加圧レバー112、ベルトガイド105及びベルトフレーム104を介して加圧ローラ101方向に付勢される。この際、保持部材103は、加圧ローラ101によって押圧されて弓状に変形しようとする。但し、保持部材103が変形しようとする方向にはベルトフレーム104が配置されている。ベルトフレーム104は、保持部材103を抑え付けて、弓状に変形しようとする保持部材103を直線状に維持する。本実施形態において、保持部材103は液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)等の耐熱性樹脂材料により構成されている。
【0028】
以上のような構成の定着器40は、図2に示すように、定着ニップ部Nによって記録材Pを挟持搬送する過程で、加熱部材102から定着ベルト100を介して熱エネルギーを記録材Pに与える。同時に、記録材Pが定着ベルト100と加圧ローラ101との間で加圧される。これにより、記録材P上の未定着のトナー像が溶融されて、記録材P上に定着される。記録材Pは、定着ニップ部Nを通過したのち、定着ベルト100から分離して排出される。
【0029】
このような定着器40に使用される定着ベルト100、加圧ローラ101、及び加熱部材102の詳細な構成について説明する。
【0030】
図3に示すように、定着ベルト100は、無端状の基層100aと、基層100aの外周面に設けられた離型層100bとを備える。基層100aは、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、厚みを総厚100[μm]以下、好ましくは60[μm]以下且つ20[μm]以上の範囲としたポリイミド、ピーク等の耐熱樹脂を採用することが好ましい。基層100aの記録材Pに接する側の面(外周面)に設けられた離型層100bは、トナーの離型性が高いシート又はコート層である。
【0031】
本実施形態では、基層100aとして厚み50[μm]のポリイミドが用いられ、定着ベルト100の内径がφ30[mm]とされている。離型層100bとして厚み10[μm]のフッ素樹脂層であるPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)層が設けられる。なお、定着ベルト100は、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドアミド等に代表される耐熱性の高いシート状部材を基層とし、その上に導電層、さらにその上に離型層を積層して構成されてもよい。
【0032】
加圧ローラ101は、鉄、アルミ等の金属製の円柱状芯金の外周面にスポンジやシリコンゴム等の弾性層を設け、弾性層の表面に離型層を設けて構成されることで、記録材Pの分離性を高めることが好ましい。本実施形態では、加圧ローラ101は、外径がφ30[mm]、芯金径が約φ22[mm]、弾性層の厚みが4[mm]、離型層の厚みが50[μm]で構成される。
【0033】
加熱部材102は、セラミックヒータである。加熱部材102は、細長薄板状の熱伝導性が良好なAlN基板上にAg・Pdペーストを厚膜印刷して焼成することで、発熱体が形成される。発熱体上に摺動絶縁部材として50~60[μm]程度の厚さのガラスコーティング層が一体に設けられて、セラミックヒータが構成される。AlN基板を挟んで発熱体が設けられている側と反対側の基板上には、不図示のサーミスタが設けられている。サーミスタは、不図示のバネ等の加圧部材により基板に所定の圧力で当接するように固定されている。
【0034】
また本実施形態の定着器40は、加熱部材102及び保持部材103の摺動面と定着ベルト100の内周面との間に、摩擦力を低減する目的で、図2に示すように、予め、潤滑剤110が塗布されている。
【0035】
図5は、保持部材103と加熱部材102の構成説明図である。図5(a)は定着器40の概略断面図である。図5(b)は定着ニップ部Nにおける定着ベルト100の回転方向上流側の詳細図である。
【0036】
本実施形態では、定着ベルト100の回転方向上流側において、保持部材103の加熱部材102とのつなぎ部分である上流保持面103aが、加熱部材102の定着ベルト100との摺動面106に対して定着ベルト100側から見て凹んでいる。加熱部材102の摺動面106から保持部材103の上流保持面103aまでの距離を凹み量dhとする。本実施形態では凹み量dhを0.15[mm]としている。
【0037】
加熱部材102と保持部材103は、定着器40の圧力と熱によるクリープ変形や耐久による摩擦摩耗等によって凹み量dhが減少する方向へ形状が変化する。本実施形態のように保持部材103の材料に耐熱性樹脂を使用する場合、このような耐久による凹み量dhの減少量は0.05[mm]である。また、保持部材103に変形しにくい材料(例えば金属性材料)を用いた場合、耐久による凹み量dhの減少量は0.02[mm]である。そのために凹み量dhを0.02[mm]以上に設定することで、耐久変化後においても、上流保持面103aが加熱部材102の摺動面106より突出しない構成とすることができる。これにより耐久変化後においても封筒のような袋構造にした記録材Pにシワ(封筒シワ)が発生してしまうことを防止することができる。
【0038】
このような構成では、加熱部材102の摺動面106側の回転方向上流側の角部102aと定着ベルト100の内周面が接触する場合がある。これは、定着ベルト100の内周面の傷や摩耗の原因となる可能性がある。図6は、このような定着ベルト100の内周面の傷や摩耗を防止する構成の説明図である。図6(a)は定着器40の概略断面図である。図6(b)は定着ニップ部Nにおける定着ベルト100の回転方向上流側付近の詳細図である。加熱部材102は、摺動面106側の回転方向上流側の角部102a(図5(b))を除去するように曲面形状に加工した曲面部102bが形成される。
【0039】
このような構成により、加熱部材102の摺動面106の回転方向上流側の角部102aと定着ベルト100の内周面の接触が防止される。そのために、定着ベルト100の内周面の傷や摩耗を抑制することができる。図6(b)の形状は一例であり、面取り加工等の角部除去する形状であれば、加熱部材102の摺動面106の特に形状は限定しない。
【0040】
図7は、定着ベルト100の内周面の傷や摩耗を防止する別の構成の説明図である。図7(a)は定着器40の概略断面図である。図7(b)は定着ニップ部Nにおける定着ベルト100の回転方向上流側付近の詳細図である。加熱部材102は、摺動面106側の回転方向上流側の角部102aを覆うように、定着ベルト100の保護部材102bが設けられている。本実施形態の保護部材102bは、ステンレス層であり、加熱部材102の摺動面106及び側面部に、加熱部材102の摺動面106側の角部102aを覆うように構成される。図7(b)の構成では、凹み量dhが、保護部材102bの摺動面106aから保持部材103の上流保持面103aまでの距離となる。ここでは、凹み量dhを0.15[mm]としている。
【0041】
このような構成では、加熱部材102の摺動面106の回転方向上流側の角部102aが定着ベルト100の内周面に接触することを防止し、定着ベルト100の内周面の傷や摩耗を抑制することができる。図7の保護部材102bは一例であり、ステンレス層の代わりに、PFA層やアルミ層、折り曲げした板状の部材(ステンレス板、アルミ板)等で角部102aを覆う構成であってもよい。
【0042】
本実施形態では、定着ニップ部Nを形成するニップ形成部材に、セラミックヒータである加熱部材102を用いているが、ニップ形成部材には別の構成を用いてもよい。図8は、ニップ形成部材の別の構成例示図である。図8(a)は定着器40の概略断面図である。図8(b)は定着ニップ部Nにおける定着ベルト100の回転方向上流側付近の詳細図である。
【0043】
ニップ形成部材は、アルミ板等で形成されたニップ板202上に加熱部材としてのハロゲンヒータ201を備える。ハロゲンヒータ201は、ニップ板202とベルトフレーム104で囲まれた箇所に配置され、ニップ板202及び定着ベルト100を加熱することで、記録材P上のトナーを加熱している。図8(b)の構成では、ニップ板202の摺動面106から保持部材103の上流保持面103aまでの凹み量dhを0.15[mm]としている。
【0044】
以上のように、本実施形態の定着器40は、加熱部材102の摺動面106から保持部材103の上流保持面103aまでの凹み量dhを0.02[mm]以上に設定する。これにより、加熱部材102と保持部材103の耐久変化後においても、上流保持面103aが加熱部材102の摺動面106より突出することを防止することができる。そのために、耐久変化後においても封筒シワが発生してしまうことを防止することができる。
【0045】
図9は、定着ベルト100の耐久性の低下を抑制するための構成の説明図である。定着ベルト100は、力を受けていない自然状態の内径が自然円弧半径Rnとなる。加熱部材102の摺動面106の角部である上流側端部102cと定着ベルト100の内周面が接触する場合、定着ベルト100の内周面に傷や摩耗が生じて、定着ベルト100の耐久性が低下する可能性がある。角度θは、上流側端部102cにおける摺動面106と定着ベルト100の内周面とのなす角度である。加熱部材102の上流側端部102cから保持部材103の上流保持面103aの上流側端部103bまでの距離(搬送方向距離)はdxで表される。
【0046】
定着ベルト100の耐久性の低下は、上流側端部102cに対して定着ベルト100の内周面が乗り上げながら摺擦することに起因する。「乗り上げ」とは、角度θが0°未満(図9(a))の状態である。角度θが0°以上(図9(b)、図9(c))の場合は、乗り上げていない状態である。角度θが0°以上になるように上流保持面103aの位置形状を決定することで、定着ベルト100の乗り上げを抑制することができる。乗り上げを抑制する条件として、自然円弧半径Rnの円が、摺動面106を接線とし、摺動面106の上流側端部102cを通るときに、上流保持面103aの少なくとも一部を自然円弧半径Rn上もしくは外に配置すればよい。本実施例においては、dh=0.15[mm]、dx=2.2[mm]としている。このような構成により、定着ベルト100の耐久性の低下を抑制することが可能となる。
【0047】
図10は、定着ベルト100の耐久性の低下を抑制するための別の構成の説明図である。加熱部材102の摺動面106側に保護層107がコーティングされ且つ摺動面106の上流側端部102cが保護層107から露出している場合、上流側端部102cと定着ベルト100の内周面が接触する可能性がある。これは、定着ベルト100の内周面の傷や摩耗の原因となり、定着ベルト100の耐久性が低下する可能性がある。
【0048】
そのために、上流側端部102cに対して定着ベルト100の内周面が必ず非接触になるように上流保持面103aの位置形状を決定する。これにより、定着ベルト100の耐久性の低下を抑制することができる。ここで、「dh」は保護層107の上流側端部107aに対する上流保持面103aの凹み量、「dx」は上流側端部102cと上流側端部103bの搬送方向距離である。
【0049】
上記の条件として、定着ベルト100は、自然円弧半径Rnの円が、保護層107の定着ベルト100に接する面107bを接線とする。定着ベルト100は、自然円弧半径Rnの円が、保護層107の角部である上流側端部107aを通り、上流保持面103aの少なくとも一部を円弧上もしくは円弧外になるように配置される。また定着ベルト100は、自然円弧半径Rの円弧内に、加熱部材102の上流側端部102cが配置される。本実施形態では、上流保持面103aの凹み量dhが0.15[mm]であり、上流側端部102cと上流側端部103bの搬送方向距離dxが2.3[mm]である。
【0050】
以上、記録材Pの加熱側にエンドレスベルトを具備した定着器40について説明したが、定着器40の定着方式はこれに限定されない。例えば、定着器40は、記録材Pと反対の加圧側に、上述したように内周面に潤滑剤が塗布されているエンドレスベルトを具備した定着方式でもよい。また、定着ベルト100に当接して定着ニップ部Nを形成する回転体は、ローラ部材に限らずエンドレスベルトであってもよい。この場合、いずれのエンドレスベルトについても、上述したように内周面に潤滑剤が塗布されている構成としてもよい。
【0051】
また、画像形成装置1に搭載される定着器40は、熱源として、電磁誘導加熱、ランプヒータ、面状発熱抵抗体のいずれを用いても良い。即ち、定着ニップ部Nの加熱方法は、抵抗加熱に限らず、輻射加熱、誘導加熱、ガス燃焼、ヒートパイプ等でも良い。定着器40は、画像の光沢や表面性を調整する加熱処理装置を含んでも良い。また、画像形成装置1は、フルカラーの画像形成装置に限らず、モノクロの画像形成装置であっても良い。また、画像形成装置は、プリンタ、ファクシミリ、複写機、これらの複数の機能を有する複合機のいずれであっても良い。
図1
図2
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図8
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図10