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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】描画装置、描画システムおよび描画方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
G03F7/20 505
G03F7/20 521
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020211277
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022097979
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】間嶋 翔太
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-046460(JP,A)
【文献】特開2007-250810(JP,A)
【文献】特開昭64-061753(JP,A)
【文献】特開2020-109477(JP,A)
【文献】特開昭55-080318(JP,A)
【文献】特開2009-115844(JP,A)
【文献】特開2006-276491(JP,A)
【文献】特開2004-077824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において設計パターンに基づいた描画を行うための描画装置であって、
前記基板を水平方向に沿った姿勢に載置可能なステージと、
光源からの光を変調することによって変調光を発生する空間光変調器と、前記ステージ上での高さ方向におけるフォーカス位置に前記変調光をフォーカスさせる投影光学系と、を含む描画ヘッドと、
前記ステージと前記描画ヘッドとを前記水平方向において相対的に移動させる移動部と、
前記移動部および前記描画ヘッドを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記基板の表面プロファイルにおける一部領域の高さである基準高さからの前記表面プロファイルの相違に基づいて、前記設計パターンを表す設計パターンデータを補正することによって、補正パターンを表す補正パターンデータを生成するパターン補正部と、
前記基板上において前記基準高さからの前記表面プロファイルの相違が大きい位置ほど露光量密度が高い露光量密度分布を生成する露光量密度分布生成部と、を含み、
前記制御部は、前記補正パターンデータに基づいて前記空間光変調器を制御し、
前記制御部は、前記露光量密度分布に基づいて前記基板を露光するように前記移動部および前記描画ヘッドを制御する、描画装置。
【請求項2】
請求項1に記載の描画装置であって、
前記露光量密度分布生成部は、デフォーカスの影響が実質的にない場合において最適な露光量密度である標準的な露光量密度、前記露光量密度の増大補正係数、および前記相違に基づいて前記露光量密度分布を生成する、描画装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の描画装置であって、
前記制御部は、前記露光量密度の連続的な変化に近似する離散的な変化に対応する階調で前記空間光変調器を制御する、描画装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の描画装置であって、
前記基板が有する斜面によって段差を形成しており、
前記補正パターンは、水平面への前記斜面の法線方向の射影と定義される傾斜方向の途中で幅が変化している、描画装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の描画装置であって、
前記制御部は、前記描画ヘッドのフォーカス位置を前記基準高さに設定する、描画装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の描画装置であって、
記パターン補正部は、前記基板上において前記基準高さからの前記表面プロファイルの相違が大きい位置ほど前記設計パターンに対して前記補正パターンが縮小るように前記設計パターンデータを補正することによって前記補正パターンデータを生成る、描画装置。
【請求項7】
請求項からのいずれか1項に記載の描画装置であって、
前記表面プロファイルの前記一部領域は、前記表面プロファイルのうち最大高さを有する部分および最小高さを有する部分のいずれかである、描画装置。
【請求項8】
請求項に記載の描画装置であって、
前記表面プロファイルの前記一部領域は、前記最大高さを有する部分および前記最小高さを有する部分で、より広い面積を有する方である、描画装置。
【請求項9】
基板上において設計パターンに基づいた描画を行うための描画装置であって、
前記基板を水平方向に沿った姿勢に載置可能なステージと、
光源からの光を変調することによって変調光を発生する空間光変調器と、前記ステージ上での高さ方向におけるフォーカス位置に前記変調光をフォーカスさせる投影光学系と、を含む描画ヘッドと、
前記ステージと前記描画ヘッドとを前記水平方向において相対的に移動させる移動部と、
前記移動部および前記描画ヘッドを制御する制御部と、
を備える描画装置と、
前記基板の表面プロファイルにおける一部領域の高さである基準高さからの前記表面プロファイルの相違に基づいて、前記設計パターンを表す設計パターンデータを補正することによって、補正パターンを表す補正パターンデータを生成するパターン補正部と、
前記基板上において前記基準高さからの前記表面プロファイルの相違が大きい位置ほど露光量密度が高い露光量密度分布を生成する露光量密度分布生成部と、備える設計装置と、
を備え
前記制御部は、前記補正パターンデータに基づいて前記空間光変調器を制御し、
前記制御部は、前記露光量密度分布に基づいて前記基板を露光するように前記移動部および前記描画ヘッドを制御する、描画システム。
【請求項10】
基板上において設計パターンに基づいた描画を行うための描画方法であって、
(a)前記基板の表面プロファイルを表す表面プロファイルデータを受け付ける工程と、
(b)前記表面プロファイルデータにおける一部領域の高さである基準高さからの前記表面プロファイルの相違に基づいて、前記設計パターンを表す設計パターンデータを補正することによって、補正パターンを表す補正パターンデータを生成する工程と、
(c)前記基板上において前記基準高さからの前記表面プロファイルの相違が大きい位置ほど露光量密度が高くなる露光量密度分布を生成する工程と、
)水平方向に沿った姿勢に前記基板をステージに載置する工程と、
)前記基板載置た前記ステージと、描画ヘッドとを、連続的または間欠的に、前記水平方向において相対的に移動る工程と、
)前記描画ヘッドが有する空間光変調器によって変調光を生成する工程と、
)前記工程()および前記工程(つつ、前記補正パターンデータに基づいて制御た前記空間光変調器によって生成た変調光を、前記描画ヘッドが有する投影光学系によって、前記露光量密度分布に基づいて前記基板を露光するように制御して、前記ステージ上での高さ方向におけるフォーカス位置にフォーカスながら前記基板へ照射する工程と、
を備える、描画方法。
【請求項11】
請求項10に記載の描画方法であって、
デフォーカスの影響が実質的にない場合において最適な露光量密度である標準的な露光量密度、前記露光量密度の増大補正係数、および前記相違に基づいて前記露光量密度分布を生成する、描画方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の描画方法であって、
前記露光量密度の連続的な変化に近似する離散的な変化に対応する階調露光を行う、描画方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項に記載の描画方法であって、
前記基板が有する斜面によって段差を形成しており、
前記補正パターンは、水平面への前記斜面の法線方向の射影と定義する傾斜方向の途中で幅が変化している、描画方法。
【請求項14】
請求項10に記載の描画方法であって、
前記工程()は、前記描画ヘッドと前記ステージとの間の前記高さ方向における距離維持ながら行、描画方法。
【請求項15】
請求項10または14に記載の描画方法であって、
前記基板は、100μm以上の段差をともなう前記表面プロファイルを有している、描画方法。
【請求項16】
請求項15に記載の描画方法であって、
前記基板が有する斜面によって前記段差形成ており、
水平面への前記斜面の法線方向の射影を傾斜方向と定義して、前記傾斜方向における前記斜面の寸法に比して、前記描画方法の分解能の方が小さい、描画方法。
【請求項17】
請求項15に記載の描画方法であって、
前記設計パターンは、前記段差にまたがる部分を有している、描画方法。
【請求項18】
請求項17に記載の描画方法であって、
前記設計パターンの、前記段差にまたがる部分は、一定幅で延在するラインパターンであり、
前記補正パターンの、前記ラインパターンに対応する部分は、前記基板の前記表面プロファイルが前記段差を有していることに起因して、非一定幅で延在している、描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画装置、描画システムおよび描画方法に関し、特に、描画ヘッドを用いた、描画装置、描画システムおよび描画方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィにおける代表的な露光方法として、フォトマスクのパターンを光学系によって基板上に投影する方法が広く用いられている。一方で、これとは異なり、描画ヘッドを用いて感光面上にパターンを描画する方法、言い換えれば直接描画、も用いられており、この場合、フォトマスクを必要としないという利点を有している。直接描画の技術として、例えば、特開2015-170838号公報(特許文献1)によれば、配線などの膜パターンを凹部あるいは凸部等の斜面に形成するときの露光不良を低減することが意図された露光方法が開示されている。上記公報によれば、露光不良の低減が、偏光状態を制御することによって迷光を抑制することにより達成される、という旨が主張されている。また上記公報によれば、斜面に対して高解像度で微細なパターンを形成する場合、投影光学系の焦点深度に限界があるために、1つの斜面を複数の露光領域に分けて微細なパターンを露光する必要がある、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-170838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デバイス構造の複雑化にともない、斜面形状または段差形状のような様々な形状を有する面上での直接描画が求められている。描画装置の焦点深度は、例えば、数μmから十数μm程度であり、上記形状の高さがこれを大きく超える場合においては、デフォーカスに起因して描画パターンと設計パターンとの相違が大きくなりやすい。この問題に対応して、上記公報で開示されているように、1つの斜面を複数の露光領域に分けて微細なパターンを露光する方法もあり得る。しかしこの方法においては、各領域に対応して光学系のフォーカスを複雑に調整する必要があり、その結果、描画装置の制御が複雑化してしまう。特に、上記高さが100μmを超える場合、描画装置用の典型的なオートフォーカス機構では、高さ変化への追従が困難である。
【0005】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、焦点深度を超える高さを有する形状を有する面上で、光学系のフォーカスを複雑に調整することなく、高精度で描画することができる、描画装置、描画システムおよび描画方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、基板上において設計パターンに基づいた描画を行うための描画装置である。描画装置は、ステージと、描画ヘッドと、移動部と、制御部とを備える。ステージは、基板を水平方向に沿った姿勢に載置可能である。描画ヘッドは、光源からの光を変調することによって変調光を発生する空間光変調器と、ステージ上での高さ方向におけるフォーカス位置に変調光をフォーカスさせる投影光学系と、を含む。移動部は、ステージと描画ヘッドとを水平方向において相対的に移動させる。制御部は、移動部および描画ヘッドを制御する。制御部は、補正パターンを表す補正パターンデータに基づいて空間光変調器を制御し、補正パターンデータは、基板の表面プロファイルを表す表面プロファイルデータに基づいて、設計パターンを表す設計パターンデータを補正することによって生成される。
【0007】
第2態様は、第1態様に記載の描画装置であって、補正パターンデータは、表面プロファイルにおける一部領域の高さである基準高さからの表面プロファイルの相違に基づいて設計パターンデータを補正することによって生成されている。
【0008】
第3態様は、第2態様に記載の描画装置であって、制御部は、描画ヘッドのフォーカス位置を基準高さに設定する。
【0009】
第4態様は、第2または第3態様に記載の描画装置であって、補正パターンデータは、基板上において基準高さからの表面プロファイルの相違が大きい位置ほど設計パターンに対して補正パターンが縮小されるように設計パターンデータを補正することによって生成されている。
【0010】
第5態様は、第2から第4態様のいずれか1項に記載の描画装置であって、制御部は、露光量密度分布に基づいて基板が露光されるように移動部および描画ヘッドを制御し、露光量密度分布は、基板上において基準高さからの表面プロファイルの相違が大きい位置ほど露光量密度が高い。
【0011】
第6態様は、第2から第5態様のいずれか1項に記載の描画装置であって、表面プロファイルの一部領域は、表面プロファイルのうち最大高さを有する部分および最小高さを有する部分のいずれかである。
【0012】
第7態様は、第6態様に記載の描画装置であって、表面プロファイルの一部領域は、最大高さを有する部分および最小高さを有する部分で、より広い面積を有する方である。
【0013】
第8態様は、第1から第7態様のいずれか1項に記載の描画装置であって、制御部は、補正パターンデータを生成するパターン補正部を含む。
【0014】
第9態様は、描画システムであって、第1から第7態様のいずれか1項に記載の描画装置と、補正パターンデータを生成するパターン補正部を含む設計装置と、を備える。
【0015】
第10態様は、基板上において設計パターンに基づいた描画を行うための描画方法であって、
(a)基板の表面プロファイルを表す表面プロファイルデータを受け付ける工程と、
(b)表面プロファイルデータに基づいて、設計パターンを表す設計パターンデータを補正することによって、補正パターンを表す補正パターンデータを生成する工程と、
(c)水平方向に沿った姿勢に基板をステージに載置する工程と、
(d)基板が載置されたステージと、描画ヘッドとを、連続的または間欠的に、水平方向において相対的に移動させる工程と、
(e)描画ヘッドが有する空間光変調器によって変調光を生成する工程と、
(f)工程(d)および工程(e)が行われつつ、補正パターンデータに基づいて制御された空間光変調器によって生成された変調光を、描画ヘッドが有する投影光学系によってステージ上での高さ方向におけるフォーカス位置にフォーカスさせながら基板へ照射する工程と、を備える。
【0016】
第11態様は、第10態様に記載の描画方法であって、工程(f)は、描画ヘッドとステージとの間の高さ方向における距離が維持されながら行われる。
【0017】
第12態様は、第10または第11態様に記載の描画方法であって、基板は、100μm以上の段差をともなう表面プロファイルを有している。
【0018】
第13態様は、第12態様に記載の描画方法であって、基板が有する斜面によって段差が形成されており、水平面への斜面の法線方向の射影を傾斜方向と定義して、傾斜方向における斜面の寸法に比して、描画方法の分解能の方が小さい。
【0019】
第14態様は、第12または第13態様に記載の描画方法であって、設計パターンは、段差にまたがる部分を有している。
【0020】
第15態様は、第14態様に記載の描画方法であって、設計パターンの、段差にまたがる部分は、一定幅で延在するラインパターンであり、補正パターンの、ラインパターンに対応する部分は、基板の表面プロファイルが段差を有していることに起因して、非一定幅で延在している。
【発明の効果】
【0021】
上記各態様によれば、基板の表面プロファイルデータに基づいて設計パターンデータを補正することによって、補正パターンデータが生成される。この補正パターンデータに基づいて空間光変調器が制御される。これにより、焦点深度を超える高さを有する形状を有する面上で、光学系のフォーカスを複雑に調整することなく、高精度で描画することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る描画システムの構成を概略的に示すブロック図である。
図2図1の描画装置の構成を概略的に示す側面図である。
図3図1の描画装置の構成を概略的に示す平面図である。
図4図1の制御部の構成を概略的に示す平面図である。
図5】一実施形態に係る描画方法における露光走査を概略的に示す平面図である。
図6】比較例における、設計パターンの平面図(図中、上段)と、基板の断面図(図中、中段)と、露光量密度分布(図中、下段)と、の組み合わせを示す図である。
図7】比較例における、描画パターンの平面図(図中、上段)と、基板の断面図(図中、下段)と、を示す図である。
図8】フォーカスの高さずれと、設計パターンから描画パターンへの拡大率と、の関係の例を示すグラフ図である。
図9】一実施形態における描画方法を概略的に示すフロー図である。
図10図9の描画方法における、設計パターンを縮小することによって補正パターンを生成するために用いられる縮小補正係数の例を示すグラフ図である。
図11図9の描画方法における、露光量密度の増大補正係数の例を示すグラフ図である。
図12図9の描画方法における、設計パターンの平面図(図中、上段)と、基板の断面図(図中、中段)と、露光量密度分布(図中、下段)と、の組み合わせを示す図である。
図13図9の描画方法における、描画パターンの平面図(図中、上段)と、基板の断面図(図中、下段)と、を示す図である。
図14図12の補正パターンを、描画装置の分解能を考慮して示す平面図である。
図15】他の実施形態における描画装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。また、いくつかの図には、図面間での方向の関係性をわかりやすくするために、XYZ直交座標系におけるX軸、Y軸およびZ軸が示されている。
【0024】
図1は、一実施形態に係る描画システム500の構成を概略的に示すブロック図である。描画システム500は、描画装置100と、設計装置300とを備える。描画装置100は、基板上において設計パターンに基づいた描画を行うためのものである。描画装置100は、それが有する各部を制御するための制御部60を有している。設計装置300は、設計パターンを準備するためのものであり、例えば、配線パターン設計用のCAD(Computer-Aided Design)装置である。設計装置300は、基板の表面形状を表す表面プロファイルデータを受け付ける表面プロファイル入力部61を有している。この表面プロファイルデータは、基板表面の実測データ、または、基板の設計データに基づいて準備される。なお、表面プロファイル入力部61から表面プロファイルデータを受け付ける代わりに、設計装置300が設計データに基づいて表面プロファイルデータを生成してもよい。また設計装置300は、パターン補正部310と、露光量密度分布生成部320とを有している。パターン補正部310は、後述する補正パターンデータを生成する。露光量密度分布生成部320は、後述する露光量密度分布を生成する。描画装置100の制御部60は、補正パターンデータと露光量密度分布とを受け付ける描画条件入力部62を有している。
【0025】
図2および図3のそれぞれは、図1の描画装置100の構成を概略的に示す側面図および平面図である。描画装置100は、フォトレジストのような感光層が形成された基板Wに、所定のデータに応じて変調した描画光を照射することで、例えば回路パターンのようなパターンを露光(描画)する。所定のデータは、CADデータのようなパターンを示すデータである。これにより、マスクを用いずに、描画光により基板W上の感光層を走査することで、感光層に直接にパターンを描画するマスクレス露光が行われる。基板Wは、例えば、シリコンウエハ、樹脂基板、または、ガラス・石英基板である。基板Wは、例えば、半導体基板、プリント基板、カラーフィルタ用基板、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、磁気ディスク用基板、光ディスク用基板、または、太陽電池用パネルである。カラーフィルタ用基板は、例えば、液晶表示装置等に具備される。フラットパネルディスプレイ用ガラス基板は、例えば、液晶表示装置、またはプラズマ表示装置に具備される。図3には、基板Wとして、円形の半導体基板が例示されている。なお、基板Wの形状は特に限定されない。基板Wは、例えば、矩形状に形成されていてもよい。
【0026】
描画装置100は、本体フレーム2を備える。本体フレーム2は、描画装置100の筐体を構成する。本体フレーム2の内部には、処理領域3と、受渡し領域4とが形成される。処理領域3と、受渡し領域4とは、互いに区分されている。描画装置100は、基台5と、支持フレーム6と、カセット載置部7と、ステージ10と、駆動機構20(移動部)と、ステージ位置計測部30と、光学ユニット40と、搬送装置50と、制御部60とをさらに備える。基台5、支持フレーム6、ステージ10、駆動機構20、ステージ位置計測部30、および光学ユニット40は、処理領域3に設置される。搬送装置50は、受渡し領域4に設置される。カセット載置部7は、本体フレーム2の外部に設置される。以下では、描画装置100が備える各部の構成について説明する。
【0027】
基台5は、ステージ10を支持する。支持フレーム6は、基台5に設置される。支持フレーム6は、光学ユニット40を支持する。
【0028】
ステージ10は、基板Wを保持する。ステージ10は、平板状の形状を有している。ステージ10の上面には、基板Wを載置可能な載置面11が形成される。ステージ10の載置面11には、複数の吸引孔(図示省略)が形成されている。ステージ10の吸引孔に負圧(吸引圧)が形成されることによって、ステージ10の載置面11に載置された基板Wがステージ10に固定される。その結果、ステージ10は、基板Wを保持する。
【0029】
駆動機構20は、制御部60によって制御されることで、ステージ10とヘッド部402とを水平方向において相対的に移動させる。具体的には、駆動機構20はステージ10を、主走査方向Y、副走査方向X、および回転方向θに沿って移動させる。主走査方向Yは、図2および図3に示すY軸の+側方向である。副走査方向Xは、図2および図3に示すX軸の+側方向である。回転方向θは、図2および図3に示すZ軸周りの回転方向である。本実施形態では、Z軸の+側方向は、鉛直方向の上方を示す。ステージ10の載置面11は、X軸およびY軸の各々に対して平行であり、よってステージ10は、基板Wを水平方向に沿った姿勢に載置可能である。
【0030】
駆動機構20は、回転機構21と、支持プレート22と、副走査機構23と、ベースプレート24と、主走査機構25とを有している。回転機構21は、ステージ10を回転させる。支持プレート22は、回転機構21を介してステージ10を支持する。副走査機構23は、支持プレート22を副走査方向Xに沿って移動させる。ベースプレート24は、副走査機構23を介して支持プレート22を支持する。主走査機構25は、ベースプレート24を主走査方向Yに沿って移動させる。
【0031】
回転機構21は、回転軸Aを中心にしてステージ10を回転させる。回転軸Aは、ステージ10の中心を通るとともに、Z軸に対して平行な軸である。回転機構21は、例えば、回転軸部211と、回転駆動部212とを含む。回転軸部211は、載置面11の裏側に固定され、Z軸に沿って延びる。回転駆動部212は、例えば、モータを含む。回転駆動部212は、回転軸部211の下端に設けられ、回転軸部211を回転させる。回転駆動部212が回転軸部211を回転させることにより、ステージ10が回転軸Aを中心として回転する。
【0032】
副走査機構23は、リニアモータ231を有している。リニアモータ231は、移動子と、固定子とで構成される。移動子は、支持プレート22の下面に取り付けられる。固定子は、ベースプレート24の上面に敷設される。ベースプレート24には、副走査方向Xに延びる一対のガイド部材232が敷設される。各ガイド部材232と支持プレート22との間には、ボールベアリングが設置されている。ボールベアリングは、ガイド部材232に沿って摺動する。支持プレート22は、ボールベアリングを介して一対のガイド部材232に支持される。リニアモータ231が動作すると、支持プレート22はガイド部材232に案内されつつ、副走査方向Xに沿って移動する。
【0033】
主走査機構25は、リニアモータ251を有している。リニアモータ251は、移動子と、固定子とにより構成される。移動子は、ベースプレート24の下面に取り付けられる。固定子は、描画装置100の基台5上に敷設される。基台5には、主走査方向Yに延びる一対のガイド部材252が敷設されている。各ガイド部材252とベースプレート24との間には、例えば、エアベアリングが設置されている。エアベアリングには、ユーティリティ設備からエアが供給される。ベースプレート24は、エアベアリングによってガイド部材252上に浮上する。その結果、ベースプレート24は、ガイド部材252に対して非接触の状態で支持される。リニアモータ251が動作すると、ベースプレート24はガイド部材252に案内されつつ、主走査方向Yに沿って移動する。このとき、ベースプレート24とガイド部材252との間に摩擦が生じることが回避される。
【0034】
ステージ位置計測部30は、ステージ10の位置を計測する。ステージ位置計測部30は、例えば、干渉式のレーザ測長器により構成される。ステージ位置計測部30は、例えば、ステージ10外からステージ10に向けてレーザ光を出射するとともに、ステージ10で反射したレーザ光を受光する。そして、ステージ位置計測部30は、ステージ10に向けて出射したレーザ光と、ステージ10で反射したレーザ光との干渉からステージ10の位置を計測する。ステージ10の位置は、主走査方向Yの位置と、回転方向θの位置とを示す。
【0035】
光学ユニット40は、ステージ10上に保持された基板Wに描画光を照射することで、基板Wにパターンを描画する。パターンは、例えば、ホール(Hole)、トレンチ(Trench)、およびゲート(Gate)など一般的なパターンである。光学ユニット40は、光源部401と、ヘッド部402(描画ヘッド)と、を有しており、これらの各々は制御部60によって制御される。光源部401は、支持フレーム6に設置される。ヘッド部402は、支持フレーム6に取り付けられた付設ボックスの内部に収容される。
【0036】
光源部401は、I線を出射するレーザ光源として機能する。光源部401は、レーザ駆動部41と、レーザ発振器42と、照明光学系43とを有している。レーザ発振器42は、レーザ駆動部41からの駆動を受けて、出力ミラー(図示省略)からレーザ光であるスポットビームを出射する。スポットビームは、照明光学系43に入射する。照明光学系43は、スポットビームから線状の光を生成する。線状の光は、強度分布が略均一であり、光束断面が帯状のラインビームである。ラインビームは、ヘッド部402に入射する。以下では、ヘッド部402に入射したラインビームを、入射光と記載することがある。なお、入射光がヘッド部402に入射する前の段階で入射光に絞りをかけることで、入射光の光量を調整する構成としてもよい。
【0037】
入射光は、ヘッド部402において、パターンデータに応じた空間変調を施される。入射光を空間変調させることは、入射光の空間分布を変化させることを示す。入射光の空間分布は、例えば、光の振幅、光の位相、および/または、偏光を示す。入射光の空間分布は、例えば、CADを用いて生成されたパターンの設計データをラスタライズすることにより生成される。パターンデータは、基板Wに対する描画光の照射位置を示す情報が画素単位で記録された情報である。描画装置100は、パターンデータを示す情報を、予め取得している。本実施形態においては、描画装置100は、設計装置300(図1)からネットワークを介してパターンデータを示す情報を受信することによって取得する。描画装置100は、描画装置100に接続された記録媒体からパターンデータを示す情報を読み取ることによって取得してもよい。
【0038】
ヘッド部402は、空間光変調ユニット44と、投影光学系45と、ミラー46とを有している。ヘッド部402に入射した入射光は、ミラー46を介して、予め定められた角度で空間光変調ユニット44に入射する。空間光変調ユニット44は、空間光変調器441を有している。
【0039】
空間光変調器441は、光源部401からの光を変調することによって変調光を発生する。具体的には、空間光変調器441は、入射光を空間変調させることで、入射光を描画光と不要光とに分別する。そして、空間光変調器441は、副走査方向Xに沿った複数画素分の描画光を出射する。描画光は、パターンの描画に寄与する光を示す。不要光は、パターンの描画に寄与しない光を示す。
【0040】
空間光変調器441は、例えば、固定リボンと可撓リボンとが配設された回折格子型の光変調素子である。回折格子型の空間変調器は、格子の深さを変更することができる回折格子であり、例えば、半導体装置製造技術を用いて製造される。回折格子型の光変調素子は、本実施形態においては、GLV(Grating Light Valve:グレーチング・ライト・バルブ)(「GLV」は登録商標)である。GLVには、例えば、幅4mmにわたって8000個のミラーが形成されており、4個のミラーから構成される変調単位ごとに制御される。その場合、4mmの範囲に2000個の変調単位が設けられるので、幅方向における最小分解能は、4mm/2000=2μmである。なお光変調素子は、GLVに限定されるものではなく、例えば、DMD(Digital Mirror Device:デジタルミラーデバイス)であってよい。なお光変調素子からの変調光による露光幅は、光学系の構成によって調整可能である。
【0041】
描画装置100は階調露光の機能を有している。具体的には、露光量密度分布に基づいて基板Wが露光されるように、制御部60が駆動機構20およびヘッド部402を制御する。光変調素子がGLVの場合、階調は、0%~100%の範囲で調整可能である。当該調整は、任意のパーセンテージで行われてもよいが、典型的には、0%および100%を含む数段階程度の離散的な階調で制御される。0%は可動リボンが十分に下がることによって実現され、100%は可動リボンが十分に上がることによって実現され、50%は可動リボンが中間に位置することによって実現される。一方、光変調素子がDMDの場合は、光の照射回数および/または照射時間を調整することによって階調露光を行うことができる。
【0042】
空間光変調器441は、複数の変調単位442(図5参照)と、ドライバ回路ユニット443とを有している。複数の変調単位442は、副走査方向Xに沿って並べられる。ドライバ回路ユニット443は、複数の変調単位442の各々に対して電圧を印加する。ドライバ回路ユニット443は、複数の変調単位442の各々に印加する電圧を、独立して制御することができる。ドライバ回路ユニット443は、変調単位442の状態を、オフ状態、およびオン状態のうちのいずれかの状態に切り替えることができる。オフ状態は、変調単位442に電圧が印加されていない状態を示す。オン状態は、変調単位442に電圧が印加されている状態を示す。
【0043】
変調単位442がオフ状態にされると、可撓リボンが撓まないので、変調単位442の表面は、平面となる。変調単位442の平面に入射光が入射すると、入射光は回折せずに正反射する。入射光は、正反射することで、0次回光である描画光になる。描画光は、変調単位442から出射すると、基板Wに到達する。変調単位442がオン状態にされると、可撓リボンが撓むことで、変調単位442の表面には溝が形成される。変調単位442の溝に入射光が入射すると、入射光は回する。入射光は、回することで、非0次回折光である不要光になる。不要光は、変調単位442から出射すると、基板Wに到達しない。以下では、変調単位442の表面に形成される溝を、表面溝を記載することがある。
【0044】
ドライバ回路ユニット443は、変調単位442に印加する電圧を変更することで、表面溝の深さを変更できる。表面溝の深さが変更されることで描画光の光量が調整される。制御部60は、ドライバ回路ユニット443を制御することで、変調単位442毎に描画光の出射率を調整する。描画光の出射率は、入射光量に対する出射光量の比(出射光量/入射光量)を示す。入射光量は、変調単位442に入射する入射光の光量を示す。出射光量は、変調単位442から出射する描画光の光量を示す。変調単位442がオフ状態のとき、つまり、変調単位442の表面が平面のとき、描画光の出射率は出射率100%になる。変調単位442の表面に表面溝が形成されると、出射率が低下する。表面溝が深くなる程、出射率が小さくなる。制御部60は、ドライバ回路ユニット443を制御して、表面溝の深さを変更することで、描画光の出射率を、出射率0%から出射率100%までの間で調整できる。
【0045】
変調単位442から出射した描画光は、投影光学系45に入射する。投影光学系45は、空間光変調器441から入射する光のうち、描画光を基板Wに導く。投影光学系45は、ステージ10上での高さ方向におけるフォーカス位置に変調光をフォーカスさせる。投影光学系45は、例えば、遮断板を有している。遮断板は、貫通孔が形成された板状の部材である。描画光は、貫通孔を通過する。その結果、描画光は、基板Wに到達する。これに対し、不要光は、貫通孔を通過せず、遮断板に到達する。その結果、不要光は、遮断板により、基板Wに到達することが遮られる。描画光が基板Wに到達することで、基板Wにパターンが描画される。1個の変調単位442から出射された描画光は、基板Wに描画されるパターンの1個の画素を形成する。投影光学系45は、縮小投影光学系であってよい。投影光学系45は、ズームレンズ、および/または、対物レンズを有していてもよく、ズームレンズは、描画光の幅を調整するズーム部を構成する。描画光の幅を調整することは、描画光の幅を広げること、および/または、描画光の幅を狭めることを示す。対物レンズは、描画光を所定の倍率で基板W上に結像させる。
【0046】
搬送装置50は、処理領域3への基板Wの搬入、および処理領域3からの基板Wの搬出を行う。搬送装置50は、複数のハンド51と、ハンド駆動機構52とを有している。ハンド51は、基板Wを搬送する。ハンド駆動機構52は、ハンド51を駆動させる。カセット載置部7には、未処理の基板Wが収容される。搬送装置50は、カセット載置部7から基板Wを取り出して処理領域3に搬入するとともに、処理領域3から処理済みの基板Wを搬出してカセットCに収容する。
【0047】
図4は、図1の制御部60の構成を概略的に示すブロック図である。制御部60は、電気回路を有する一般的な1つまたは複数のコンピュータによって構成されていてよい。複数のコンピュータが用いられる場合、これらは相互に通信可能に接続される。制御部60は、一つの電装ラック(図示省略)内に配置されていてよい。具体的には、制御部60は、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)161、リードオンリーメモリ(Read Only Memory:ROM)162、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)163、記憶装置164、入力部166、表示部167および通信部168と、これらを相互に接続するバスライン165とを有している。ROM162は基本プログラムを格納している。RAM163は、CPU161が所定の処理を行う際の作業領域として用いられる。記憶装置164は、フラッシュメモリまたはハードディスク装置などの不揮発性記憶装置によって構成されている。入力部166は、各種スイッチ、タッチパネル、または記録媒体読取装置などによって構成されており、オペレータから処理レシピなどの入力設定指示を受ける。表示部167は、たとえば、液晶表示装置およびランプなどによって構成されており、CPU161の制御の下、各種の情報を表示する。通信部168は、local area network(LAN)などを介してのデータ通信機能を有している。これにより通信部168は、設計装置300(図1)からデータを受け付けることができる。記憶装置164には、描画装置100におけるそれぞれの構成の制御についての複数のモードがあらかじめ設定されている。CPU161が処理プログラム164Pを実行することによって、上記の複数のモードのうちの1つのモードが選択され、当該モードでそれぞれの構成が制御される。なお、処理プログラム164Pは、記録媒体に記憶されていてもよい。この記録媒体を用いれば、制御部60に処理プログラム164Pをインストールすることができる。また、制御部60が実行する機能の一部または全部は、必ずしもソフトウェアによって実現される必要はなく、専用の論理回路などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0048】
描画条件入力部62(図1)は、通信部168または入力部166によって構成されていてよい。なお、設計装置300も図4と同様のハードウェア構成を有していてよい。その場合、表面プロファイル入力部61(図1)は、同様のハードウェア構成における通信部168または入力部166によって構成されてよい。
【0049】
図5は、一実施形態に係る描画方法における露光走査を概略的に示す平面図である。なお図5においては、2つのヘッド部402が用いられる場合が示されているが、ヘッド部402の個数は任意である。
【0050】
露光走査において、駆動機構20が、ステージ10を、主走査方向(Y方向)に沿って往路方向(ここでは、+Y方向である場合について例示する)に移動させることによって、基板Wを各ヘッド部402に対して主走査軸に沿って相対的に移動させる(往路主走査)。これを基板Wからみると、各ヘッド部402は、矢印AR11に示すように、基板Wを主走査軸に沿って-Y方向に横断することになる。また、往路主走査の開始とともに、各ヘッド部402から描画光の照射が行われる。すなわち、パターンデータ(詳細には、パターンデータのうち、当該往路主走査で描画対象となるストライプ領域に描画するべきデータを記述した部分)が読み出され、該パターンデータに応じて空間光変調器441が制御される。そして、各ヘッド部402から、該パターンデータに応じて空間変調が施された描画光が、基板Wに向けて照射される。
【0051】
各ヘッド部402が、基板Wに向けて断続的または連続的に描画光を出射しながら、主走査軸に沿って基板Wを一回横断すると、1本のストライプ領域(主走査軸に沿って延在し、副走査軸に沿う幅が描画光の幅に相当する領域)に、パターン群が描画されることになる。ここでは、2個のヘッド部402が同時に基板Wを横断するので、一回の往路主走査により2つのストライプ領域のそれぞれにパターン群が描画されることになる。
【0052】
描画光の照射を伴う往路主走査が終了すると、駆動機構20は、ステージ10を副走査方向(X方向)に沿って所定方向(例えば、-X方向)に、描画光の幅に相当する距離だけ移動させる。これによって、基板Wが各ヘッド部402に対して副走査方向に沿って相対的に移動する(副走査)。これを基板Wからみると、矢印AR12で示すように、各ヘッド部402が副走査方向に沿って+X方向に、ストライプ領域の幅分だけ移動することになる。
【0053】
副走査が終了すると、描画光の照射を伴う復路主走査が実行される。すなわち、駆動機構20は、ステージ10を主走査方向(Y方向)に沿って復路方向(ここでは、-Y方向)に移動させる。これによって、基板Wが各ヘッド部402に対して主走査方向に沿って相対的に移動する(復路主走査)。これを基板Wからみると、矢印AR13で示すように、各ヘッド部402が、基板W上を、主走査方向に沿って+Y方向に移動して横断することになる。その一方で、復路主走査が開始されると、各ヘッド部402から描画光の照射が開始される。この復路主走査によって、先の往路主走査で描画されたストライプ領域の隣のストライプ領域に、パターン群が描画される。
【0054】
描画光の照射を伴う復路主走査が終了すると、副走査が行われた上で、再び、描画光の照射を伴う往路主走査が行われる。当該往路主走査によって、先の復路主走査で描画されたストライプ領域の隣のストライプ領域に、パターン群が描画される。以後も同様に、副走査を挟みつつ、描画光の照射を伴う主走査が繰り返して行われ、描画対象領域の全域にパターンが描画されると、1つのパターンデータについての描画処理が終了する。
【0055】
次に、本実施形態における描画方法の例示に先立って、比較例における描画方法を例示する。
【0056】
図6は、比較例における、設計パターンPDの平面図(図中、上段)と、基板Wの断面図(図中、中段)と、露光量密度分布(図中、下段)と、の組み合わせを示す図である。基板Wの表面プロファイルは、最大高さを有する部分(最高位面S1)と、最小高さを有する部分(最低位面S3)と、これらをつなぐ部分(斜面S2)と、を有している。図示された例においては、基板Wは、斜面S2によって、100μm以上の段差HTをともなう表面プロファイルを有している。設計パターンPDは、図6の上段および中段に示されているように、段差HTにまたがる部分を有している。設計パターンPDの、段差HTにまたがる部分は、一定幅で延在するラインパターンである。なお、基板Wの表面は、段差HTよりも十分に薄いフォトレジスト層(図示せず)が形成されることによって、感光面とされている。設計パターンPDは、最高位面S1、斜面S2および最低位面S3のそれぞれに位置する部分A1、部分A2および部分A3を有しており、部分A1~部分A3のそれぞれの幅(X方向における寸法)D1~D3は同じである。言い換えれば、設計パターンPDは、Y方向に沿って一定幅で延在するラインパターンである。設計パターンPDのZ方向におけるヘッド部402のフォーカス位置は、最高位面S1に設定される。露光量密度は、本比較例においては、均一とされる。なお露光量密度(mJ/cm)は、照度(mW/cm)と時間(s)との積である。
【0057】
図7は、上記比較例における、基板W上で描画される描画パターンQCの平面図(図中、上段)と、基板Wの断面図(図中、下段)と、を示す図である。図示されているように、描画パターンQCにおいて、部分A1は設計パターンPDと同様に幅D1を有しているものの、部分A3は幅D1よりも拡大された幅D3を有しており、部分A1と部分A3との間の部分A2は、幅D1から幅D3へと徐々に拡大する幅D2を有している。
【0058】
図8は、フォーカスの高さずれと、設計パターンPDから描画パターンQCへの拡大率と、の関係を模式的に示すグラフ図である。上述したような幅の拡大は、フォーカス位置に対応する最高位面S1からの高さずれに起因したデフォーカスによって引き起こされる。このデフォーカスに起因して、描画パターンQC(図7上段)は、設計パターンPD(図6上段)から、大きく相違してしまっている。
【0059】
次に、本実施形態における描画方法を例示する。図9は、描画方法を概略的に示すフロー図である。図10は、設計パターンPD(図6上段)を縮小することによって補正パターンPC(図12上段)を生成するために用いられる縮小補正係数を模式的に示すグラフ図であり、この縮小補正係数は、実質的に、上記比較例において説明した拡大率(図8)であってよい。図11は、露光量密度の増大補正係数の例を示すグラフ図であり、この増大補正係数は、実質的に、上記比較例において説明した拡大率(図8)であってよい。なお図10および図11の各々の係数は、高さずれに対して線形依存性を有しているが、より複雑な依存性を有していてもよい。当該依存性は、パターン補正部310および露光量密度分布生成部320に、テーブルデータまたは関数データとして記憶されていてよい。
【0060】
ステップST10(図9)にて、表面プロファイル入力部61(図1)は、基板Wの表面プロファイルを表す表面プロファイルデータを受け付ける。
【0061】
ステップST20(図9)にて、パターン補正部310は、設計パターンPD(図6上段)を表す設計パターンデータを、表面プロファイルデータに基づいて補正する。具体的には、まず、表面プロファイルにおける一部領域(本例においては最高位面S1)の高さである基準高さからの表面プロファイルの相違が読み取られる。当該相違と、縮小補正係数(図10)とに基づいて、設計パターンPDの幅(より一般的に言えば、寸法)を縮小する補正が行われる。この補正によって、パターン補正部310は、補正パターンPC(図12上段)を表す補正パターンデータを生成する。この補正によって、基板W上において上記相違が大きい位置ほど、設計パターンPD(図6上段)に対して補正パターンPC(図12上段)が縮小される。補正パターンPCの、設計パターンPD(図6上段)におけるラインパターンに対応する部分(部分A1~A3の全体)は、基板Wの表面プロファイルが段差HTを有していることに起因して、図12に示されているように、非一定幅で延在している。
【0062】
さらに本実施形態においては、露光量密度分布生成部320が、上述した相違と、標準的な露光量密度と、増大補正係数(図11)とに基づいて、露光量密度分布を生成する。標準的な露光量密度は、デフォーカスの影響が実質的にない場合において最適な露光量密度であってよい。露光量密度分布は、基板W上において上記相違が大きい位置ほど、露光量密度が高い。なお、図12においては、露光量密度の連続的な変化が示されているが、この連続的な変化を近似する離散的な変化に対応する階調露光が行われてよい。例えば、0%、25%、50%、75%および100%の5段階での階調露光が可能な場合において、部分A1、部分A2および部分A3のそれぞれに、50%、75%および100%の露光量密度が適用されてよい。
【0063】
ステップST30(図9)にて、図2に示されているように、水平方向に沿った姿勢に基板Wがステージ10に載置される。なおこのステップST30のタイミングは、後述のステップST40以前であれば任意である。
【0064】
次に、図5を参照して前述したように、露光走査が行われる。具体的には、ステップST40(図9)にて、基板Wが載置されたステージ10と、ヘッド部402とが、連続的または間欠的に、水平方向において相対的に移動させられる。ステップST50(図9)にて、ヘッド部402が有する空間光変調器441によって変調光が生成される。
【0065】
ステップST60(図9)にて、上記のステップST40およびステップST50が行われつつ、変調光が、投影光学系45によってステージ10上での高さ方向におけるフォーカス位置にフォーカスさせられながら、基板Wへ照射される。変調光は、補正パターンデータに基づいて制御部60によって制御された空間光変調器441によって生成される。ヘッド部402のフォーカス位置は、制御部60によって、前述した基準高さ(ここでは最高位面S1の高さ)に設定される。よってステップST60は、ヘッド部402とステージ10との間の高さ方向における距離が維持されながら行われる。当該距離は、走査が段差HTを通過する際も維持される。
【0066】
上記露光走査の結果として得られる描画パターンQE(図13上段)の幅D2およびD3は、比較例の描画パターンQC(図7上段)の幅D2およびD3に比して、設計パターンPD(図6上段)の幅D2(および幅D3)に近いものへと補正されている。なお図13は、当該補正が高精度で行われることによって、一定幅で延在するラインパターンである設計パターンPDが実質的に忠実に描画されている場合を示している。補正の精度がより低い場合は、設計パターンPDを実質的に忠実に描画することまでは困難であるが、比較例の場合に比して、設計パターンPDにより近い描画が可能となる。
【0067】
なお、上記の例においては、表面プロファイルにおける基準高さを決定するための一部領域が最高位面S1とされているが、当該一部領域はこれに限定されるものではない。当該一部領域は、表面プロファイルのうち最高位面S1および最低位面S3のいずれかであることが好ましく、最高位面S1および最低位面S3で、より広い面積を有する方であることが、より好ましい。
【0068】
図14は、図12の補正パターンPCを、描画装置100の分解能を考慮して示す平面図である。斜面S2(図6)の法線方向の、水平面への射影を傾斜方向と定義して、傾斜方向における斜面S2の寸法に比して、描画方法の分解能の方が小さい場合、図14に例示されているように、傾斜方向の途中で幅が変化している補正パターンPCを用いることができる。分解能が高いほど、補正パターンPCの幅を多段階で変化させることができ、図14に示された例においては、幅D2が、幅D2a~D2dのように4つの段階で変化している。
【0069】
本実施形態によれば、基板Wの表面プロファイルデータに基づいて設計パターンデータを補正することによって、補正パターンデータが生成される。この補正パターンデータに基づいて空間光変調器441が制御される。これにより、焦点深度を超える高さを有する形状を有する面上で、光学系のフォーカスを複雑に調整することなく、高精度で描画することができる。
【0070】
補正パターンデータは、表面プロファイルにおける一部領域の高さである基準高さからの表面プロファイルの相違に基づいて設計パターンデータを補正することによって生成されている。これにより、表面プロファイルを補正パターンPCへ容易かつ効果的に反映させることができる。
【0071】
表面プロファイルの上記一部領域は、表面プロファイルのうち最高位面S1および最低位面S3のいずれかである。これにより、当該一部領域を容易に決定することができる。
【0072】
表面プロファイルの一部領域は、最高位面S1および最低位面S3で、より広い面積を有する方である。これにより、広い面積を有する部分において、高精度での露光が補正なしで可能となる。よって、補正による効果を十分に維持しつつ、補正処理を簡素化することができる。
【0073】
制御部60は、ヘッド部402のフォーカス位置を上記基準高さに設定する。これにより、デフォーカスは、基準高さからのずれに応じて発生する。よって、デフォーカスによる影響を高精度で補正することができる。
【0074】
補正パターンデータは、基板W上において上記基準高さからの表面プロファイルの相違が大きい位置ほど設計パターンPDに対して補正パターンPCが縮小されるように設計パターンデータを補正することによって生成されている。これにより、表面プロファイルを補正パターンPCへ容易かつ効果的に反映させることができる。
【0075】
露光量密度分布は、基板W上において上記基準高さからの表面プロファイルの相違が大きい位置ほど露光量密度が高い。これにより、デフォーカスに起因しての露光量密度の低下が補正される。よって、露光量密度の不足に起因しての解像不良(例えば、現像後における、意図しないレジスト残渣の発生など)を抑制することができる。
【0076】
ステップST60(図9)は、ヘッド部402とステージ10との間の高さ方向における距離が維持されながら行われる。これにより、ヘッド部402とステージ10との間の高さ方向における距離の制御が簡素化される。具体的には、リアルタイムでのオートフォーカスが不要となる。
【0077】
100μm以上の段差HTをともなう表面プロファイルを基板Wが有している場合、段差HTに起因してのデフォーカスの影響が顕著となりやすい。本実施形態によれば、当該影響を効果的に抑制することができる。
【0078】
前述した傾斜方向における斜面S2の寸法に比して、描画方法の分解能の方が小さい。これにより、傾斜方向における斜面S2の複数部分を個別の条件で露光することができる。よって、斜面S2での露光補正を、より精密に行うことができる。
【0079】
設計パターンPD(図6上段)は、段差HTにまたがる部分を有している。この場合に発生しやすい、段差HTをまたがる箇所での描画パターンの乱れが、本実施形態によれば効果的に抑制される。
【0080】
補正パターンPC(図12上段)の、一定幅で延在するラインパターンに対応する部分は、基板Wの表面プロファイルが段差HTを有していることに起因して、非一定幅で延在している。補正パターンPCにおける当該非一定幅を調整することによって、描画パターンQE(図13上段)を、より一定幅に近いものへと、調整することができる。
【0081】
図15は、他の実施形態における描画装置100Vの構成を概略的に示すブロック図である。描画装置100Vの制御部60Vは、前述した制御部60の構成に加えて、パターン補正部310と、露光量密度分布生成部320とを有している。なお、これら以外の構成については、前述した実施形態(図1図4)の構成とほぼ同じであるため、その説明を繰り返さない。
【0082】
なお、描画処理の条件によっては、露光量密度分布に応じた制御が不要なこともある。その場合、露光量密度は均一であってよく、上述した構成および方法のうち、当該制御に関連しているものは省略されてよい。
【0083】
また基板Wには、斜面S2に代わって、水平面に垂直な側壁面が設けられていてもよい。その場合、設計パターンPD(図6上段)、補正パターンPC(図12上段)および描画パターンQE(図13上段)の各々において、部分A2は省略され、部分A1と部分A2とが互いに隣接する。
【0084】
また設計パターンPD(図6上段)は、走査方向(Y方向)に沿って延びるラインパターンであるが、ラインパターンは、走査方向と交差する方向に沿って延びていてもよい。また設計パターンは、ラインパターンに限定されるものではなく、他のパターン(例えば円形パターン)であってもよい。
【0085】
描画パターンQE(図13)は、ネガ型レジストが用いられる場合においては、露光処理および現像処理によってレジストが残存させられる部分のパターンに対応しており、ポジ型レジストが用いられる場合においては、露光処理および現像処理によってレジストが除去される部分のパターンに対応している。
【0086】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0087】
20 :駆動機構(移動部)
40 :光学ユニット
44 :空間光変調ユニット
45 :投影光学系
60,60V :制御部
61 :表面プロファイル入力部
62 :描画条件入力部
100,100V:描画装置
300 :設計装置
310 :パターン補正部
320 :露光量密度分布生成部
401 :光源部
402 :ヘッド部(描画ヘッド)
441 :空間光変調器
500 :描画システム
PD :設計パターン
QC,QE :描画パターン
W :基板
図1
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