(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ICAM-1マーカーおよびその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20241202BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241202BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241202BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20241202BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20241202BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241202BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241202BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12M1/34 F
C12Q1/04
C07K14/705
C07K16/28
C12N15/113 Z
(21)【出願番号】P 2020562822
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 CN2019073725
(87)【国際公開番号】W WO2019144971
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】201810085799.7
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515153233
【氏名又は名称】シャンハイ インスティテュート オブ ニュートリション アンド ヘルス、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】Shanghai Institute of Nutrition and Health,Chinese Academy of Sciences
【住所又は居所原語表記】319 Yueyang Road, Xuhui District, Shanghai 200031 China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】シー,ユファン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,チュンシン
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】小暮 道明
【審判官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-239450(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103103213(CN,A)
【文献】Oncotarget,2017,Vol.8,No.29,pp.46875-46890
【文献】Chinese Journal of Tissue Engineering Research,2017,Vol.21,No.17,pp.2638-2643
【文献】Blood,2007,Vol.110,No.11,1412
【文献】DEVELOPMENTAL DYNAMICS,2011,Vol.240,pp.65-74
【文献】Int J Obes(Lond).,2013 August,Vol.37,No.8, pp.1079-1087
【文献】J. Exp. Med.,2009,Vol.206,No.11,pp.2483-2496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICAM-1
の発現を阻害する阻害剤の使用であって、
脂肪幹細胞の脂肪細胞への自発的な分化を促進する製剤または組成物を調製するために使用され、
前記脂肪幹細胞は、
脂肪組織から分離された間質細胞から単離されたCD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+細胞であることを特徴とする、前記ICAM-1
の発現を阻害する阻害剤の使用。
【請求項2】
前記脂肪幹細胞は、脂肪生成分化のための調節遺伝子を発現し、前記調節遺伝子は、Pparg、Cebpa、Cebpb、Cebpg、Gata2、Gata3、Irs1、Pparg、Cebpa、およびFabp4、またはそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記製剤または組成物はさらに、脂肪組織をリモデリングするために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
インビトロで非治療的に脂肪細胞を調製する方法であって、
ICAM-1陽性脂肪間質細胞を提供するステップ(a)と
、
前記脂肪間質細胞を培養して自発的に脂肪細胞に分化させ、分化した脂肪細胞を含む細胞集団を取得するステップ(b)と、
前記細胞集団の脂肪細胞を分離するステップ(c)と
を含み、
前記脂肪間質細胞は、
脂肪組織から分離された間質細胞から単離されたCD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+細胞であることを特徴とする、前記インビトロで非治療的に脂肪細胞を調製する方法。
【請求項5】
ステップ(b)およびステップ(c)において、ICAM-1の発現レベルを検出して、細胞集団における脂肪間質細胞の脂肪細胞への分化の程度を判断することを特徴とする、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
ICAM-
1の検出試薬の使用であって、
(a)脂肪幹細胞の検出、およ
び(b)被験者が肥満を発症するリスクを判断するための検出キットを調製するために使用され、
前記脂肪幹細胞は、CD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+細胞であ
り、前記判断は、被験者からのサンプルのICAM-1
+
細胞比率A1を正常な集団の対応するICAM-1
+
細胞比率A0と比較して、A1/A0≧1.25である場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを示すことであることを特徴とする、前記ICAM-
1の検出試薬の使用。
【請求項7】
診断キットであって、
ICAM-
1の検出試薬を含有する容器と、
(a)脂肪幹細胞の検出、およ
び(b)被験者が肥満を発症するリスクの判断のために使用されることを明記するラベルまたは説明書を含み、
前記脂肪幹細胞は、CD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+細胞であ
り、前記判断は、被験者からのサンプルのICAM-1
+
細胞比率A1を正常な集団の対応するICAM-1
+
細胞比率A0と比較して、A1/A0≧1.25である場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを示すことであることを特徴とする、前記診断キット。
【請求項8】
間質細胞の使用であって、
前記間質細胞は、脂肪組織から分離され、またICAM-1陽性間質細胞であり、前記間質細胞は、脂肪組織をリモデリングするための細胞製剤を調製するために使用され、
前記間質細胞は、CD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+細胞であることを特徴とする、前記間質細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、より具体的に、ICAM-1およびその脂肪幹細胞の認識、および脂肪細胞分化の調節における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満の発生は、脂肪組織の増加に反映され、これは、脂肪細胞肥大(hypertrophy)--過剰な脂質の摂取と蓄積、および脂肪細胞過形成(hyperplasia)を2つの作用を含む。成熟脂肪細胞には有糸分裂能力がないため、脂肪細胞過形成は、脂肪前駆細胞の新しい脂肪細胞への分化によって引き起こされる。成人の脂肪組織は1年に10%の速度で更新され、肥満の人では、脂肪細胞の除去速度は通常の人と同じであるが、新生の補充速度は通常の人より大幅に高く、脂肪細胞の過形成を引き起こす。齧歯動物では、高脂肪食で肥満を誘発すると、最初に脂肪細胞のサイズを増加し、高脂肪食の時間が増加するにつれて脂肪細胞の数が徐々に増加すると一般に考えられる。新生脂肪細胞にマークできる遺伝子組み換えマウスを通じて、肥満の初期段階では脂肪生成分化は明らかではないことが判明したが、後期では、特に内臓脂肪組織に新生脂肪細胞を分化させる多数の脂肪細胞がある。したがって、肥満は脂肪幹細胞の脂肪生成分化を伴い、ヒトおよび齧歯動物における肥満の重要な原因である。しかし、これらの脂肪幹細胞の定義と、その生インビボでの脂肪生成分化(特に肥満期中)の細胞レベルおよび分子レベルの調節メカニズムは不明である。
【0003】
脂肪細胞のインビトロ分化プロセスおよびその分子メカニズムは、インビトロで完全な分化システムを確立したが、インビボでの脂肪細胞の分化を調節する方法を研究することが急務である。多くの学者は、Sca-1、CD34、CD29、CD24、PDGFR-βおよびPDGFR-αが脂肪細胞前駆細胞をマークできることを以前に確立したが、これらのマーカーは特定のタイプの脂肪細胞分化を明確に定義していいない。
【0004】
したがって、脂肪幹細胞を認識し、脂肪細胞分化をマークすることができる新しい分子を開発することが当技術分野で緊急に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、脂肪幹細胞の認識および脂肪細胞分化の調節におけるICAM-1およびその応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化を促進する製剤または組成物を調製するために使用されるICAM-1阻害剤の使用を提供する。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、ICAM-1陽性脂肪間質細胞である。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、CD45-CD31-Sca-1+PDGFR-α+ICAM-1+細胞である。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、CD45-CD31-ICAM-1+細胞である。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、脂肪生成分化のための調節遺伝子を発現する。
別の好ましい例では、前記脂肪生成分化の調節遺伝子は、Pparg、Cebpa、Cebpb、Cebpg、Gata2、Gata3、Irs1、Pparg、Cebpa、およびFabp4、またはそれらの組み合わせから選択される。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、Sca-1、CD34、CD29、CD24、Pdgfr-β、Zfp423、またはそれらの組み合わせから選択される特徴的な分子を発現する。
【0007】
別の好ましい例では、前記製剤または組成物はさらに、脂肪組織をリモデリングするために使用される。
別の好ましい例では、前記ICAM-1阻害剤は、ICAM-1の発現または活性を特異的に阻害する。
別の好ましい例では、前記ICAM-1阻害剤は、MicroRNA、siRNA、shRNA、またはそれらの組み合わせを含む。
別の好ましい例では、前記ICAM-1阻害剤は、抗体を含む。
別の好ましい例では、前記ICAM-1は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物に由来する。
別の好ましい例では、前記組成物は、薬学的組成物である。
別の好ましい例では、前記薬学的組成物は、(a)ICAM-1阻害剤、および(b)薬学的に許容される担体を含む。
別の好ましい例では、前記薬学的組成物の剤形は、経口剤形、注射剤、または外部医薬剤形である。
【0008】
本発明の第2の態様では、脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化を阻害するための製剤または組成物を調製するために使用されるICAM-1またはその促進剤の使用を提供する。
別の好ましい例では、前記製剤または組成物は、脂肪幹細胞の未分化状態を維持するために使用される。
別の好ましい例では、前記ICAM-1促進剤は、ICAM-1の発現または活性を特異的に促進する。
【0009】
本発明の第3の態様では、
ICAM-1陽性脂肪間質細胞を提供するステップ(a)と、
脂肪細胞分化に適した条件下で、前記脂肪間質細胞を培養して、分化した脂肪細胞を含む細胞集団を取得するステップ(b)と、
前記細胞集団の脂肪細胞を分離するステップ(c)と
を含むインビトロで非治療的に脂肪細胞を調製する方法を提供する。
別の好ましい例では、前記脂肪間質細胞は、CD45-CD31-Sca-1+PDGFR-α+ICAM-1+細胞である。
別の好ましい例では、前記脂肪間質細胞は、CD45-CD31-ICAM-1+細胞である。
別の好ましい例では、前記ICAM-1陽性脂肪間質細胞は、脂肪幹細胞である。
【0010】
別の好ましい例では、ステップ(b)およびステップ(c)において、ICAM-1の発現レベルを検出して、細胞集団における脂肪間質細胞の脂肪細胞への分化の程度を判断する。
別の好ましい例では、脂肪間質細胞の脂肪細胞の分化の程度の増加につれて、前記脂肪間質細胞のICAM-1の発現レベルは減少する。
別の好ましい例では、ステップ(b)において、前記脂肪間質細胞のICAM-1発現を阻害して、脂肪間質細胞の脂肪細胞への分化を促進する。
別の好ましい例では、ステップ(b)において、培養の進行につれて、前記脂肪間質細胞のICAM-1発現レベルは徐々に減少する。
別の好ましい例では、ステップ(b)において、前記細胞集団がICAM-1を基本的に発現しない場合、前記細胞集団の脂肪細胞を分離する。
別の好ましい例では、前記基本的に発現しないとは、ICAM-1を発現する細胞の数N1と細胞集団の細胞総数N2を比率N1/N2が5%以下、好ましくは、1%以下であることを意味する。
【0011】
本発明の第4の態様では前記脂肪幹細胞のICAM-1発現レベルを維持することを含むインビトロで非治療的に脂肪幹細胞の脂肪細胞分化への分化を阻害する方法を提供する。
別の好ましい例では、前記ICAM-1発現レベルを維持することは、脂肪幹細胞の培養系にICAM-1またはその促進剤を添加することを含む。
【0012】
本発明の第5の態様では、(a)脂肪幹細胞の検出、および/または(b)被験者が肥満を発症するリスクの判断のための検出キットを調製するために使用されるICAM-1またはその検出試薬の使用を提供する。
別の好ましい例では、前記キットは、FABP4またはその検出試薬をさらに含む。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、脂肪生成分化能力を有する。
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞は、脂肪細胞に分化することができ、脂肪細胞の数の増加を引き起こす。
【0013】
別の好ましい例では、前記脂肪幹細胞の検出は、
(i)検出サンプルに脂肪幹細胞が含まれているかどうか、および/または
(ii)検出サンプルに含まれる脂肪幹細胞の数の検出を含む。
別の好ましい例では、前記サンプルは、組織サンプルであり、好ましくは、前記組織サンプルは脂肪組織を含み、より好ましくは、前記組織は、血管周囲の脂肪組織である。
別の好ましい例では、前記キットは、サンプルのICAM-1+細胞の比率または検出サンプル中の細胞のICAM-1の発現レベルを検出して、脂肪幹細胞を検出する。
別の好ましい例では、前記判断は、補助判断および/または治療前判断を含む。
【0014】
別の好ましい例では、前記判断は、被験者からのサンプルのICAM-1+細胞比率A1を正常な集団の対応するICAM-1+細胞比率A0と比較して、A1がA0より大幅に高い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明する。
別の好ましい例では、前記判断は、被験者からのサンプルのFABP4+細胞比率B1を正常な集団のFABP4+細胞比率B0と比較して、B1がB0より大幅に低い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明する。
別の好ましい例では、前記「大幅に高い」とは、A1/A0≧1.25、好ましくはA1/A0≧1.5、より好ましくはA1/A0≧2.0を指す。
別の好ましい例では、前記「大幅に低い」とは、B0/B1≧1.25、好ましくはB0/B1≧1.5、より好ましくはB0/B1≧2.0を指す。
別の好ましい例では、前記正常な集団の数は少なくとも100人、好ましくは少なくとも300人、より好ましくは少なくとも500人、最も好ましくは少なくとも1000人である。
【0015】
別の好ましい例では、前記検出試薬は、プロテインチップ、核酸チップ、またはそれらの組み合わせを含む。
別の好ましい例では、前記検出試薬は、ICAM-1特異的抗体を含む。
別の好ましい例では、前記ICAM-1特異的抗体は、検出可能なマーカーとカップリングするか、検出可能なマーカーを有する。
別の好ましい例では、前記検出可能なマーカーは、発色団、化学発光基、フルオロフォア、同位体または酵素から選択される。
別の好ましい例では、前記ICAM-1特異的抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0016】
本発明の第6の態様では、ICAM-1またはその検出試薬を含有する容器と、(a)脂肪幹細胞の検出および/または(b)被験者が肥満を発症するリスクの判断のために使用されることを明記するラベルまたは説明書とを含む診断キットを提供する。
別の好ましい例では、前記キットは、FABP4またはその検出試薬をさらに含む。
別の好ましい例では、前記ICAM-1およびFABPは、標準品として使用される。
別の好ましい例では、前記キットは、検出とセットのサンプル前処理試薬および説明書をさらに含む。
別の好ましい例では、前記説明書は、検出方法およびA1値にしたがって判断する方法を説明している。
別の好ましい例では、前記キットは、ICAM-1遺伝子配列、タンパク質の標準品をさらに含む。
【0017】
本発明の第7の態様では、
被験者のサンプルを提供すること(a)と、
A1として前記サンプルのICAM-1+細胞の比率を測定すること(b)と、
(b)を正常な集団サンプルのICAM-1+細胞の比率A0を比較して、A1がA0より大幅に高い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明すること(c)と
を含む、被験者が肥満を発症するリスクを判断する方法を提供する。
別の好ましい例では、前記方法は、サンプルのFABP4+細胞比率B1を測定し、B1を正常な集団のFABP4+細胞比率B0と比較して、B1がB0より大幅に低い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明することをさらに含む。
別の好ましい例では、前記被験者は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
別の好ましい例では、前記試験サンプルは、組織サンプルであり、好ましくは、脂肪組織サンプルである。
【0018】
本発明の第8の態様では、間質細胞の使用を提供し、前記間質細胞は、脂肪組織から分離され、またICAM-1陽性間質細胞であり、ここで、前記間質細胞は、脂肪組織をリモデリングするための細胞製剤を調製するために使用される。
好ましくは、前記脂肪組織のリモデリングは、顔、臀部、および乳房の脂肪組織のリモデリングを含む。
別の好ましい例では、前記リモデリングは、美容応用における脂肪組織リモデリングおよび創傷修復における脂肪組織リモデリングを含む。
別の好ましい例では、前記リモデリングは、脂肪組織充填を含む。
別の好ましい例では、前記美容は、顔、腰、脚、胸、手、首の美容を含む。
別の好ましい例では、前記リモデリングは、美容、身体および整形応用における脂肪組織の充填をさらに含む。
別の好ましい例では、前記美容は、脂肪組織の充填、および脂肪組織の充填よってもたらされる全体的な美容、身体、および整形効果を含む。
別の好ましい例では、前記製剤は、ICAM-1阻害剤をさらに含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の範囲内で、本発明の上記の技術的特徴及び以下に(例えば、実施例)具体的に説明する技術的特徴を互いに組み合わせて、新規または好ましい技術的解決策を形成できることを理解されたい。スペースの制限のため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ICAM-1
+脂肪間質細胞が脂肪幹細胞を分化させる可能性があることを示す。具体的に、フローサイトメトリーを使用して、内臓脂肪組織のCD31
-CD45
-脂肪間質細胞を単一細胞分析用にソーティングする。
図1Aは、フローサイトメトリー技術を使用して内臓脂肪組織のCD31
-CD45
-脂肪間質細胞におけるSca-1およびPDGFR-αの発現の分析状況を示す。
図1Bは、フローサイトメトリーを使用して内臓脂肪組織(副睾丸脂肪)および皮下脂肪組織(鼠径部脂肪)のICAM-1のCD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+細胞集団における発現レベルを示す。
図1Cは、CD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+細胞集団におけるICAM-1
+およびICAM-1
-細胞をソーティングし、real-time PCRによって脂肪生成分化および脂肪幹細胞関連遺伝子の発現レベルを検出したことを示す。
図1Dは、野生型マウス脂肪組織におけるCD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+細胞集団からICAM-1
-細胞を分離およびGFPマウス脂肪組織におけるCD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+細胞集団からICAM-1
+細胞を分離し、共培養して、細胞の自発的な脂肪生成分化状況を観察したことを示す。
【0021】
【
図2A-D】ICAM-1
+脂肪幹細胞のインビボ脂肪生成分化を示す。
図2Aは、mTmGマウスをIcam1-CreERT2ノックインマウスと交雑し、タモキシフェンで組換え酵素を活性化し、ICAM-1脂肪幹細胞トレーサーマウスを構築することを示す。
図2Bは、脂肪組織の全体的な蛍光染色技術により、新生マウス脂肪組織の発育プロセス中のICAM-1
+脂肪幹細胞によって生成された脂肪細胞の状況の観察を示す。
図2Cは、脂肪組織の全体的な蛍光染色技術により、高脂肪食によって肥満を誘発するプロセス中のICAM-1
+脂肪幹細胞によって生成された脂肪細胞の状況の観察を示す。
【
図2D】
図2Dは、Icam1-CreERT2ノックインマウスとトレーサーレポートマウスmTmGのハイブリダイゼーション後の脂肪組織におけるCD45
-CD31
-ICAM-1
+細胞とCD45
-CD31
-ICAM-1
-細胞を分離し、上記の細胞をそれぞれマトリゲル(基底膜マトリックス)から分離し、マウスの皮下組織に混合移植し、タモキシフェンで処理して脂肪の分化を観察した結果を示す。
【0022】
【
図3】肥満条件下でICAM-1
+脂肪幹細胞の進化特性を示す。
図3Aは、Fabp4-Creの構築、mTmGマウスの脂肪生成分化にある脂肪幹細胞を研究したことを示す。
図3Bは、フローサイトメトリーを使用して脂肪組織の脂肪生成分化状態にある脂肪前駆細胞におけるICAM-1の発現レベルを示す。
図3Cは、フローサイトメトリーを使用して通常の食事と高脂肪食によって肥満を誘発した状態下での内臓脂肪組織および皮下脂肪組織におけるICAM-1
+脂肪幹細胞のFABP4(EGFPマーカー)の発現レベルを示す。
図3Dおよび
図3Eは、
図3に示される実験の反復統計分析である。
図3Fは、フローサイトメトリーを使用して脂肪細胞(Adi)、ICAM-1
+EGFP
+(I
+G
+)、ICAM-1
+EGFP
-(I
+G
-)およびICAM-1
-(I
-)細胞をソーティングし、トランスクリプトーム分析と相関分析を示す。
図3Gは、トランスクリプトームで成熟脂肪細胞、I
+G
+細胞,I
+G
-細胞およびI
-細胞の差異性発現遺伝子分析を示し、主にPPARシグナル、脂肪を形成と吸収酸生合成、および脂肪酸伸長に関する。
【0023】
【
図4】ICAM-1が脂肪幹細胞の有向分化を負に調節することを示す。
図4Aは、野生型(wild-type、WT)マウスおよびICAM-1
-/-マウスの通常の食餌と高脂肪食状況下での体重変化を示す。
図4Bは、野生型(wild-type、WT)マウスおよびICAM-1
-/-マウスの通常の食餌と高脂肪食状況下での脂肪組織重量変化を示す。
図4Cは、脂肪組織における脂肪細胞のサイズの蛍光染色分析した結果を示す。
図4Dは、蛍光染色分析脂肪組織における脂肪細胞のサイズの統計結果を示す。
図4E~4Hは、WTマウス骨髄を放射線照射後のWTマウスおよびICAM-1
-/-マウスに移植して、骨髄を再建し、高脂肪食を与え、異なる時点でマウス体重変化(
図4E)と脂肪組織重量の変化(
図4f)を観察し、および蛍光染色で脂肪組織中の脂肪細胞のサイズ(
図4G)を分析し、統計分析を行った(
図4H)ことをそれぞれ示す。
図4Iは、ICAM-1
-/-マウスおよびICAM-1
+/+マウスをFabp4-Cre;mTmGマウスとそれぞれ交配し、フローサイトメトリーによるICAM-1欠失条件下、脂肪幹細胞によって生成された脂肪細胞の状況を分析し、統計分析を行ったことを示す。
図4Jは、複数のマウスに4Iに示したようなフローサイトメトリー分析の統計分析を行ったことを示す。
図4Kは、ウエスタンブロット(western blot)で脂肪組織間質細胞中のGFPの含有量を分析し、脂肪細胞の再生状況を明らかにしたことを示す。
【0024】
【
図5】ICAM-1が脂肪幹細胞の脂肪生成分化を負に調節することを示す。
図5A~5Dは、WTマウスとICAM-1
-/-マウスの脂肪幹細胞を分離し、脂肪生成分化を行い、異なる時点でPparg(
図5A)、Cebpa(
図5B)、Fabp4(
図5C)、Plin1(
図5D)を含む脂肪生成分化関連遺伝子の発現を検出したことをそれぞれ示す。
【0025】
【
図6】ICAM-1がRho GTPaseを介して脂肪幹細胞の有向分化を負に調節することを示す。
図6Aは、活性Rho GTPases pull-down実験を使用して、WTマウスおよびICAM-1
-/-マウスに由来する脂肪幹細胞のRho-GTP、Rho-GDPおよびtotal Rhoの発現レベルを検出したことを示す。
図6Bは、F-actin細胞骨格染色の結果を示す。
図6Cは、WTマウスおよびICAM-1
-/-マウスに由来する脂肪幹細胞インビトロ分化時にDMSOまたは10μM Y-27632(ROCK阻害剤)を添加して、オイルレッド染色によって脂肪幹細胞脂肪生成分化状況をそれぞれ観察したことを示す。
図6Dは、ウエスタンブロットで、Y-27623またはDMSO処理下でWTおよびICAM-1
-/-マウスに由来する脂肪幹細胞脂肪生成分化後のPerilipin Aタンパク質の発現を検出した状況を示す。
図6E、
図6Fは、Real time PCR方法を使用して、Y-27623またはDMSO処理下でWTおよびICAM-1
-/-マウスに由来する脂肪幹細胞脂肪生成分化後のPparg(
図6E)およびFabp4(
図6F)のmRNAレベルを検出したことをそれぞれ示す。
図6Gは、WTマウスおよびICAM-1
-/-マウスに由来する脂肪幹細胞インビトロ分化時に、RA2(Rhoアゴニスト)を添加し、オイルレッド染色によって脂肪幹細胞脂肪生成分化状況をそれぞれ観察したことを示す。
図6H~6Kは、Real time PCR方法を使用して、Pparg(
図6H)、Cebpa(
図6I)、Fabp4(
図6J)およびPlin1(
図6K)のmRNAレベルを検出したことをそれぞれ示す。
図6L~6Nは、高脂肪食により肥満を誘導したWTマウスおよびICAM-1
-/-マウスの右側皮下脂肪組織にRA2(2日ごとに1回、0.5μg)を注射し、目視観察し(
図6L)、脂肪組織を観察し(
図6M)、および皮下脂肪組織重量変化を統計分析(6N)したことをそれぞれ示す。
【0026】
【
図7】ヒト脂肪幹細胞の認識と調節におけるICAM-1の作用を示す。
図7Aは、フローサイトメトリー分析技術でヒト脂肪組織脂肪前駆細胞におけるICAM-1の発現を示す。
図7Bは、免疫蛍光法によりヒト脂肪組織におけるICAM-1
+脂肪幹細胞の組織位置づけを検出したことを示す。
図7Cは、Real time PCR方法を使用して、脂肪幹細胞脂肪生成分化プロセス中のICAM-1およびFABP4の発現変化を検出したことを示す。
図7Dは、ICAM-1 siRNAを使用してヒト脂肪幹細胞のICAM-1の発現をノックダウンしたことを示す。
図7Eは、ICAM-1 siRNAを使用してヒト脂肪幹細胞のICAM-1の発現をノックダウンした後、オイルレッド染色によって細胞の脂肪生成分化能力を観察したことを示す。
図7F~7Gは、脂肪生成分化プロセスにおけるICAM-1発現を干渉する脂肪幹細胞の脂肪生成関連遺伝子発現およびRho GTP活性を検出したことをそれぞれ示す。
図7H~7Jは、ICAM-1発現を干渉した後、RA2でRhoを活性化し、脂肪幹細胞中の脂肪生成分化関連遺伝子(PPARG、CEBPA、FABP4)の発現を観察したことをそれぞれ示す。
図7K~7Lは、ヒト脂肪組織標本を使用して、体脂肪率BMI指数、ICAM-1の発現強度およびCD31
-CD45
-脂肪間質細胞中のFabp4
+脂肪前駆細胞の発現レベルで関連分析を行ったことをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者は、広範囲にわたる綿密な研究により、脂肪幹細胞を認識するための新しい分子を初めて発見した。具体的に、本発明は、脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化の促進または阻害におけるICAM-1およびそのレギュレーターの応用、および(a)脂肪幹細胞の検出、および/または(b)被験者が肥満を発症するリスクを判断におけるICAM-1またはその検出試薬の応用および対応する診断キットと方法を提供する。本発明はさらに、インビトロで非治療的に脂肪細胞を調製する方法を提供する。実験により、ICAM-1+脂肪幹細胞は、脂肪組織の血管周囲に位置し、自発的に脂肪生成分化する能力を有し、インビトロおよびインビボ実験で脂肪細胞に分化し、脂肪組織の発育とリモデリングに参加できる。なお、ICAM-1+脂肪幹細胞の数は、肥満脂肪肥大の増加および過形成に比例し、肥満の診断の指針として使用できる。これに基づいて、本発明を完成した。
【0028】
用語
本明細書で使用される用語「標的脂肪前駆細胞」、「脂肪前駆細胞」は、脂肪組織の多能性を失い始め、脂肪細胞に分化できる前駆細胞になる間葉系幹細胞を指す。
本明細書で使用される用語「間質予備細胞」は、その分化特性が不明である脂肪間質細胞中の細胞を指し、それらは特定の脂肪生成分化能を有する可能性があるが、その能力は脂肪前駆細胞より低い。
本明細書で使用される用語「脂肪間質細胞」は、間葉系幹細胞の多くの特徴を有する非血液細胞および非内皮細胞である脂肪組織の細胞を指す。
本明細書で使用される用語「脂肪幹細胞」は、脂肪細胞に分化することができる幹細胞を指す。
【0029】
ICAM-1
ICAM-1(Intercellular adhesion molecule-1、ICAM-1、CD54)は注目を集めている細胞表面接着分子で、タイプIの膜貫通タンパク質で、分子量は80kDaから114kDaのグリコシル化度に依存し、非グリコシル化ICAM-1の分子量は60kDa(38)である。ICAM-1の細胞外部分は、453アミノ酸、主に疎水性アミノ酸を含み、5つの免疫グロブリン(Immunoglobulin、Ig)のようなドメインを形成する。細胞外部分は、24アミノ酸を含む疎水性膜貫通領域を介して非常に短い(28アミノ酸を含む)細胞質尾部に接続されている。その細胞質領域の尾部は典型的なシグナル伝達モチーフ(signaling motif)が欠けているが、そのシグナル伝達に重要な役割を果たす可能性のあるチロシン残基を有する。ICAM-1の遺伝子配列は7つのエクソンを含み、エクソン1はシグナルペプチドをエンコードし、エクソン2~6は5つのIgドメインの1つをエンコードし、エクソン7は膜貫通領域と細胞質領域尾部をエンコードする。
ICAM-1のリガンドは、白血球上のβ2インテグリンLFA-1(CD11a/CD18)およびMac-1(CD11b/CD18)、フィブリノーゲン(fibrinogen)、およびライノウイルス(rhinoviruses)を含む。
【0030】
ICAM-1は、自然免疫と獲得免疫応答の両方に重要な役割を果たす。血管壁を介して白血球を仲介して炎症部位に入り、抗原提示細胞(antigen presenting cells、APC)とT細胞の相互作用も調節し、免疫シナプスの形成(immunological synapse formation)に参加する。ICAM-1は、外部から内部に信号を送信できる。ICAM-1の細胞質領域の尾部は28アミノ酸長のみを有し、下流のシグナル伝達分子を動員できる既知のキナーゼ活性とタンパク質相互作用ドメインを欠けている。しかし、それは多くの正電荷を有るアミノ酸と1つのチロシン残基(Y512)を持っている。現在、異なる細胞から多くのシグナル伝達分子とリンカータンパク質がICAM-1経路に関連する、特にα-アクチニン(α-actinin)、ERMタンパク質、コルタクチン(cortactin)、およびβ-チューブリン(β-tubulin)を含むアクチン-細胞骨格の関連分子が見られた。B細胞では、ICAM-1架橋により、p53/p56 LynなどのSrcファミリーキナーゼを活性化できる。ICAM-1シグナル経路で非常に重要な分子は、Gタンパク質のRasスーパーファミリーのメンバーである小さなGTPase Rhoであり、Rhoおよび下流のRho関連キナーゼ(Rho associated kinase、ROCK)が細胞骨格の再構成を調節し、細胞の形態を維持する上で重要な役割を果たす。抗体の架橋(cross-linking)または単球との共培養は、ICAM-1のクラスター化、ならびにERMタンパク質の共局在化と張力線維の集合を誘導する。このプロセスはRhoAの活性化を必要とし、ICAM-1の細胞質領域の尾部はこのプロセスで重要な役割を果たす:細胞質領域の尾部を欠くICAM-1のクラスターはRhoタンパク質を活性化できない。Rhoの活性化と不活性化は、グアニン交換因子(guanine exchange factors、GEFs)、GTPase活性化タンパク質(GTPaseactivating proteins、GAPs)、およびグアニンヌクレオチド解離阻害剤(Guanine nucleotide dissociation Inhibitor、GDI)を含む多くの因子によって厳密に調節されている。ICAM-1がRhoを活性化する特定のメカニズムは不明であるが、ERMタンパク質とRho-GDIが重要な役割を果たす可能性がある。内皮細胞では、ICAM-1は白血球のLFA-1またはMac-1に結合し、下流のRhoおよびROCKを活性化して、細胞骨格の再配置と形態学的変化を引き起こし、白血球が血管を通過して炎症組織に入るのを仲介する。
ソーティングにより得られたICAMI-1陽性脂肪間質細胞は、脂肪組織のリモデリングなどの医学的美学に使用できる。
【0031】
ICAM-1阻害剤および促進剤
本発明は、脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化の阻害におけるICAM-1阻害剤の応用、および脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化の促進におけるICAM-1またはその促進剤の応用を提供する。ここで、前記ICAM-1阻害剤は、ICAM-1の発現または活性を特異的に阻害し、前記ICAM-1促進剤は、ICAM-1の発現または活性を特異的に促進する。
上記の適用に基づいて、本発明は、インビトロで非治療的に脂肪細胞を調製する方法をさらに提供し、前記方法は、
ICAM-1陽性脂肪間質細胞を提供するステップ(a)と、
脂肪細胞分化に適した条件下で、前記脂肪間質細胞を培養して、分化した脂肪細胞を含む細胞集団を取得するステップ(b)と、
前記細胞集団の脂肪細胞を分離するステップ(c)と
を含む。
【0032】
RNA干渉(RNAi)
本発明において、有効なICAM-1阻害剤は干渉性RNAである。
本明細書で使用される用語「RNA干渉(RNA interference、RNAi)」は、体内の特定の遺伝子の発現を効率的かつ特異的にブロックし、mRNAの分解を促進し、特定の遺伝子の欠缺の表現型を示すように細胞を誘導できる、いくつかの小さな二本鎖RNAを指し、RNA介入またはRNA干渉とも呼ばれる。RNA干渉は、mRNAレベルでの非常に特異的な遺伝子抑制メカニズムである。
本明細書で使用される用語「低分子干渉RNA(small interfering RNA、siRNA)」は、mRNAの相同相補配列をターゲットとして特定のmRNAを分解できる短い二本鎖RNA分子を指し、このプロセスは、RNA干渉経路(RNA interference pathway)である。
本発明では、干渉RNAは、siRNA、shRNAおよび対応する構成物を含む。
【0033】
典型的な構成物は二本鎖であり、そのプラス鎖またはマイナス鎖は式Iに示す構造を含む。
Seq順方向-X-Seq逆方向 式I
式中、
Seq順方向は、ICAM-1遺伝子またはフラグメントのヌクレオチド配列であり、
Seq逆方向は、Seq順方向と基本的に相補的なヌクレオチド配列であり、
Xは、Seq順方向とSeq逆方向との間のスペーサー配列に位置し、前記スペーサー配列は、Seq順方向およびSeq逆方向に相補的ではない。
本発明の1つの好ましい例では、Seq順方向、Seq逆方向の長さは、19~30bpであり、好ましくは、20~25bpである。
【0034】
本発明では、典型的なshRNAは、式IIに示した通りであり、
【化1】
式中、
Seq’
順方向は、Seq
順方向配列に対応するRNA配列または配列フラグメントであり、
Seq’
逆方向は、Seq’
順方向と基本的に相補的な配列であり、
X’は、なし、またはSeq’
順方向とSeq’
逆方向との間のスペーサー配列に位置し、前記スペーサー配列は、Seq’
順方向およびSeq’
逆方向に相補的ではなく、
【化2】
は、Seq
順方向とSeq
逆方向との間に形成される水素結合を表す。
別の好ましい例では、前記スペーサー配列Xの長さは、3~30bpであり、好ましくは、4~20bpである。
ここで、Seq
順方向配列のターゲットとなるターゲット遺伝子は、Beclin-1、LC3B、ATG5、ATG12、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0035】
組成物および投与方法
本発明は、ICAM-1阻害剤または促進剤を有効成分として含有する、脂肪幹細胞の脂肪細胞への分化を促進または阻害するための組成物をさらに提供する。前記組成物は、薬学的組成物、食品組成物、栄養補助食品、飲料組成物などを含むが、これらに限定されない。
本発明では、ICAM-1阻害剤は、例えば、脂肪細胞のリモデリングなどの医学的美学に直接使用することができる。本発明のICAM-1阻害剤を使用する場合、脂肪幹細胞との併用など、他の成分も同時に使用することができる。
【0036】
本発明は、安全かつ有効な量の本発明のICAM-1阻害剤または促進剤および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物をさらに提供する。このような担体は、生理食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセリン、エタノール、粉末、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。医薬品は投与方法とマッチングする必要がある。本発明の薬学的組成物は、注射剤の形態で調製することができ、例えば、生理食塩水またはグルコースおよびその他のアジュバントを含む水溶液を用いて、常法により調製することができる。錠剤およびカプセルなどの薬学的組成物は、従来の方法によって調製することができる。注射剤、液剤、錠剤、カプセル剤などの薬学的組成物は、無菌条件下で製造する必要がある。本発明の薬学的組成物は、エアロゾル吸入用の粉末にすることもできる。投与される活性成分の量は、治療的に有効な量であり、例えば、約1μg/kg体重~約5mg/kg体重/日である。なお、本発明のICAM-1阻害剤は、他の治療薬と併用することができる。
【0037】
本発明の薬学的組成物については、従来の方法で所望の対象(ヒトおよび非ヒト哺乳動物など)に投与することができる。代表的な投与方法は、経口、注射、噴霧吸入などを含むが、これらに限定されない。
薬学的組成物を使用する場合、安全かつ有効な量のICAM-1阻害剤を哺乳動物に投与し、安全かつ有効な量は通常少なくとも約10μg/kg体重であり、ほとんどの場合、約8mg/kg体重を超えず、好ましくは、約10μg/kg体重から約1mg/kg体重である。もちろん、特定の投与量は、熟練した医師のスキルの範囲内である、投与経路、患者の健康状態などの要因も考慮する必要がある。
【0038】
検出試薬
本発明の検出試薬は、プロテインチップ、核酸チップ、またはそれらの組み合わせを含む。
別の好ましい例では、本発明の検出試薬は、ICAM-1特異的抗体をさらに含む。
プロテインチップは、標的分子と捕獲分子の相互作用を通じてタンパク質分子間の相互作用を監視するハイスループット監視システムである。捕獲分子は一般的にチップ表面に固定化され、抗体の特異性が高く、抗原の結合性が強いため、捕獲分子として広く利用されている。プロテインチップの研究では、チップの表面に抗体を効果的に固定化することが非常に重要であり、プロテインチップの感度を高めるために、特に固定化された抗体の一貫性で非常に重要である。Gタンパク質は抗体結合タンパク質であり、抗体FCフラグメントに特異的に結合するため、さまざまな種類の抗体の固定に広く使用されている。本発明のICAM-1を検出するためのプロテインチップは、当業者に公知の様々な技術により作製することができる。
【0039】
核酸チップは、DNAチップ、遺伝子チップ(gene chip)、マイクロアレイとも呼ばれ、固体支持体上で、インサイチュでオリゴヌクレオチドを合成するか、顕微印刷で多数のDNAプローブを直接に支持体の表面に順番に固化し、標識されたサンプルとハイブリダイズし、ハイブリダイゼーションシグナルの検出と分析により、サンプルの遺伝情報を取得できる。言い換えれば、遺伝子チップは、マイクロ処理技術で数万または数百万のDNAフラグメント(遺伝子プローブ)を2cm2のシリコンウェーハ、スライド、などの支持体上に一定に配置し、2次元DNAプローブアレイを構成し、電子コンピューターの電子チップと非常によく似たため、遺伝子チップと呼ばれる。
本発明は、ヒトICAM-1に特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、特にモノクローナル抗体に関する。ここで、「特異的」は、抗体がヒトICAM-1遺伝子産物またはフラグメントに結合できることを意味する。好ましくは、ヒトICAM-1遺伝子産物またはフラグメントに結合することができるが、他の無関係の抗原分子を認識および結合しないそれらの抗体を指す。本発明における抗体は、ヒトICAM-1タンパク質に結合して阻害することができる分子、ならびにヒトICAM-1タンパク質の機能に影響を及ぼさないものを含む。本発明は、ヒトICAM-1遺伝子産物の修飾型または非修飾型に結合することができる抗体をさらに含む。
【0040】
本発明は、完全なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体だけでなく、Fab’または(Fab)2フラグメントなどの免疫学的活性を有する抗体フラグメント、抗体重鎖、抗体軽鎖、遺伝子操作された単鎖Fv分子(Ladnerら、米国特許第4,946,778号)、またはマウス抗体の結合特異性を有するがヒトからの抗体部分をなお保持する抗体などのキメラ抗体をさらに含む。
【0041】
本発明の抗体は、当業者に知られている様々な技術によって調製することができる。例えば、精製されたヒトICAM-1遺伝子産物またはその抗原性フラグメントを動物に投与して、ポリクローナル抗体の産生を誘導することができる。同様に、ヒトICAM-1タンパク質または抗原性フラグメントを発現する細胞を使用して、動物を免疫して抗体を産生することができる。本発明の抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。このようなモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を使用して調製することができる(Kohlerら、Nature 256;495, 1975;Kohlerら、Eur.J.Immunol. 6:511, 1976;Kohlerら、Eur.J.Immunol. 6:292, 1976;Hammerlingら、In Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas, Elsevier, N.Y., 1981を参照)。本発明の抗体は、ヒトICAM-1タンパク質の機能をブロックすることができる抗体およびヒトICAM-1タンパク質の機能に影響を及ぼさない抗体を含む。本発明の様々な抗体は、ヒトICAM-1遺伝子産物のフラグメントまたは機能的領域を使用する従来の免疫化技術によって得ることができる。これらのフラグメントまたは機能的領域は、組換え法により調製するか、またはポリペプチド合成機を使用して合成することができる。ヒトICAM-1遺伝子産物の非修飾型に結合する抗体は、原核細胞(大腸菌(E. Coli)など)で生成された遺伝子産物で動物を免疫することによって生成でき、翻訳後修飾型(グリコシル化またはリン酸化されたタンパク質またはペプチドなど)は、真核細胞(酵母または昆虫細胞など)で産生された遺伝子産物で動物を免疫することにより得ることができる。
【0042】
検出方法および検出キット
本発明は、ICAM-1およびその検出試薬を用いた検出方法および検出キットを提供する。
具体的に、本発明は、ICAM-1またはその検出試薬を含有する容器と、(a)脂肪幹細胞の検出、および/または(b)被験者が肥満を発症するリスクの判断のために使用されることを明記するラベルまたは説明書とを含む、前記キットを提供する。
【0043】
本発明は、被験者が肥満を発症するリスクを判断する方法をさらに提供し、前記方法は、
被験者のサンプルを提供すること(a)と、
A1として前記サンプルのICAM-1+細胞の比率を測定すること(b)と、
(b)を正常な集団サンプルのICAM-1+細胞の比率A0を比較して、A1がA0より大幅に高い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明すること(c)と
を含む。
別の好ましい例では、前記方法は、サンプルのFABP4+細胞比率B1を測定し、B1を正常な集団のFABP4+細胞比率B0と比較して、B1がB0より大幅に低い場合、被験者が肥満を発症するリスクが高いことを説明することをさらに含む。
【0044】
本発明は以下の主な利点を含む。
(a)本発明は、ICAM-1+脂肪幹細胞は、自発的に脂肪生成分化する能力を有し、インビトロおよびインビボ実験で脂肪細胞に分化し、脂肪組織の発育とリモデリングに参加できることを見出した。
(b)本発明は、ICAM-1+脂肪幹細胞の数は、肥満脂肪肥大の増加および過形成に比例し、肥満の診断の指針として使用できることを見出した。
(c)本発明は、ICAM-1がヒト脂肪前駆細胞のインビボでの脂肪生成分化に負の調節作用を有し、ICAM1のヒト脂肪前駆細胞における発現レベルが脂肪生成分化とともに徐々に減少することを発見した。
【0045】
以下では具体的な実施例に結び合わせて、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例にある具体的な条件のない実験方法は、通常、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に基づく。特に明記しない限り、パーセンテージと部数は重量によって計算される。
【0046】
一般的な材料と方法
ICAM-1-/-マウス(B6.129S4-Icam1tm1Jcgr/J)は、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME、USA)から購入した。Fabp4-Cre(B6.Cg-Tg(Fabp4-cre)1Rev/JNju)マウス、mTmG(B6.129(Cg)-Gt(ROSA)26Sortm4(ACTB-tdTomato、-EGFP)Luo/JNju)マウスは、南京モデル動物研究所から購入した。Icam1-CreERT2ノックインマウスは、南方モデル生物センターによって構築され、CreERT2発現配列は、Cas9テクノロジーを使用してIcam1遺伝子の開始コドンATGに直接挿入した。
【0047】
Tamoxifenによってインビボで細胞系譜追跡を誘導
出産後、Icam-1-CreRET2、mTmGマウスにP1からP3に、3日間連続して200μg/mice Tamoxifenを腹腔内注射した。Tamoxifenは、コーン油を20mg/mlの母液として配合した。4~6週間後、マウスを安楽死させ、脂肪組織を分析してEGFP+脂肪細胞を検出した。
【0048】
マウス体脂肪率の検出
体組成計(Body Composition Analyzer)で高脂肪誘導肥満マウスの脂肪組織および他の「痩」組織を検出し、各マウスを2~3連続して測定し、平均値を取得した。
【0049】
脂肪間質細胞の培養
ソーティングして得られたCD31-CD45-Sca-1+PDGFR-α+脂肪間質細胞、CD31-CD45-Sca-1+PDGFR-α+ICAM-1+およびCD31-CD45-Sca-1+PDGFR-α+ICAM-1-などの成分を単独または混合して、10% FBSを添加したDMEM低グルコース培地で培養した。一部の実験では、付着脂肪単核細胞を、10% FBSを添加したDMEM低グルコース培地で直接培養し、免疫細胞と血管内皮細胞を液体交換と継代により除去して、純粋な脂肪間質細胞を得た。
【0050】
間質細胞脂肪生成分化の誘導
分化培地を準備し、10% FBSのDMEM高グルコース培地に0.5mMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン(3-isobutyl-1-methylxanthine、IBMX)、50μMのインドメタシン(indomethacin)、10μg/mlのインスリンおよび0.5μMのデキサメタゾン(dexamethasone)を添加した。脂肪間質細胞が100%コンフルエンスに成長したら、分化培地を交換し、分化が完了するまで約2日ごとに培地を交換し、約5日かかった。
【0051】
[実施例1]
ICAM-1を発現する脂肪間質細胞は潜在的な脂肪幹細胞である
脂肪幹細胞が豊富な脂肪組織における非内皮細胞および非白血球(CD31
-CD45
-細胞)の細胞特性を分析することにより、CD31
-CD45
-の間質細胞のほとんどがCD34
+およびCD29
+であり、同時にPDGFR-α
+ Sca-1
+(
図1A)であり、後者は間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cells、MSCs)の2つの特徴的な表面分子である。
フローサイトメトリーによる脂肪間質細胞のさらなる分析により、CD45
-CD31
-の間質細胞のほとんどがSca-1
+PDGFR-α
+であり、この細胞集団はICAM-1
+とICAM-1
-の2つの集団に分けることができ、この集団CD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+細胞は、鼠径部脂肪組織(皮下脂肪組織)の約50%程度はICAM-1陽性で、副睾丸脂肪組織(内臓脂肪組織)で80%程度はICAM-1陽性であることを発見した(
図1B)。
【0052】
フローサイトメトリーによるソーティングにより、間質細胞の2つのグループ、CD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
+およびCD45
-CD31
-Sca-1
+PDGFR-α
+ICAM-1
-を取得し、遺伝的に分析し、分析により、脂肪細胞前駆細胞の特徴的な分子Pdgfrb、Zfp423および脂肪生成分化関連分子Pparg、CebpaおよびFabp4がICAM-1
+細胞で高度に発現していることが見つかった(
図1C)。結果は、脂肪前駆細胞が主にICAM-1陽性間質細胞に存在し、ICAM-1
+脂肪間質細胞(CD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+)は脂肪幹細胞と脂肪前駆細胞が豊富であることを示した。
【0053】
ICAM-1
+脂肪幹細胞が自発的な脂肪分化の可能性があるかどうかをさらにテストするために、ICAM-1
+脂肪間質細胞(CD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+)およびICAM-1
-脂肪間質細胞(CD31
-CD45
-Sca-1
+PDGFR-α
+)をソーティングし、自発的な脂肪分化の能力を分析した。自発的な脂肪生成分化がパラクリンや他の効果による異なる細胞集団の相互影響の結果である可能性があることを考慮して、野生型のICAM-1
-間質細胞をEGFPマウスのICAM-1
+間質細胞を混合して培養し、その相互作用に影響を与えずに異なる細胞集団を追跡できるようにする。
結果は、最初の付着成長期間中、両方2種類に由来する細胞が線維芽細胞の形態を示し、培養後期(8日目)で自発的な脂肪生成分化が起こり、一部の細胞に脂肪滴が蓄積したことを示し、自発的な脂肪生成分化細胞のほとんどはEGFP
+であり、ICAM-1
+脂肪間質細胞が脂肪幹細胞である可能性があることを示している(
図1D)。
【0054】
同時に、逆混合培養も行い--野生型ICAM-1+細胞とEGFPのICAM-1-細胞を混合培養し、自発的な脂肪生成分化した細胞がすべてICAM-1+細胞であることを発見した。なお、ICAM-1-脂肪間質細胞とICAM-1+脂肪間質細胞を別々に培養し、ICAM-1+細胞だけが自発的に脂肪細胞に分化できることがわかった。これらの結果は、ICAM-1+脂肪間質細胞が脂肪生成分化能力を有する脂肪幹細胞であることを示している。
【0055】
[実施例2]
ICAM-1
+脂肪幹細胞のインビボでの脂肪生成分化
ICAM-1
+脂肪間質細胞が脂肪幹細胞であるかどうか、すなわち、成熟した脂肪細胞をインビボで生成できるかどうかを完全に検証するために、Icam1-CreERT2ノックインマウスを作成し、CRISPR/Cas9テクノロジーを使用して、相同組換えにより、ICAM-1遺伝子のATG部位にCreERT2発現ボックスをノックインした。このIcam1-CreERT2ノックインマウスでは、ICAM-1を発現する細胞はすべてCreERT2を発現し、CreERT2自体にはリコンビナーゼ活性がなく、リコンビナーゼ活性を活性化するためにタモキシフェン(Tamoxifen)と組み合わせる必要がある。mTmGトレーサーレポーターマウスはCreリコンビナーゼが存在しない場合、全身の細胞と組織が細胞膜上にある赤い蛍光タンパク質--tdTomatoを発現し、Creリコンビナーゼが存在する場合、tdTomato発現配列を組換えによって削除し、下流の細胞膜ローカライズドEGFP発現を開始し、その子孫細胞は細胞膜ローカライズドEGFPのみを発現する。したがって、Icam1-CreERT2ノックインマウスをトレーサーレポーターマウスmTmGと交配し、新生マウスをタモキシフェンで処理してリコンビナーゼの活性を活性化した。ICAM-1
+細胞の活性化されたCreERT2リコンビナーゼは、Rosa26遺伝子座の2つのloxPサイト間のtdTomato発現配列を切断し、後続の配列でEGFPの発現を開始するため、ICAM-1
+細胞およびその派生子孫細胞すべてがEGFPを発現する(
図2A)。
【0056】
結果は、新生マウスをタモキシフェンで処理した後、EGFP脂肪細胞が成人期の皮下脂肪組織と内臓脂肪組織で検出されたことを示した(
図2B)。さらに重要なことに、高脂肪食によって肥満が誘発されたマウスはタモキシフェンで早期に処理され、EGFP脂肪細胞は肥満の後期にも観察された(
図2C)。脂肪細胞はICAM-1を発現しないため、上記の結果は、ICAM-1
+脂肪細胞が、成熟した脂肪細胞への分化を通じて脂肪の発育と肥満のプロセスに関与していることを示している。
【0057】
なお、Icam1-CreERT2ノックインマウスとトレーサーレポートマウスmTmGのハイブリダイゼーション後の脂肪組織におけるCD45
-CD31
-ICAM-1
+細胞とCD45
-CD31
-ICAM-1
-細胞を分離し、上記の細胞をそれぞれマトリゲル(基底膜マトリックス)から分離し、マウスの皮下組織に混合移植し、タモキシフェンで処理して脂肪の分化を観察した。結果は、ICAM-1
+細胞がEGFPで標識された脂肪細胞に分化できることを示し、これはICAM-1
-細胞が埋め込まれたマトリゲルではほとんど見られなかった(
図2D)。これは、本発明がICAM-1陽性細胞(CD45
-CD31
-ICAM-1
+脂肪幹細胞(脂肪間質細胞))を体内に埋め込んで、自発的に脂肪細胞に分化させることができることを説明する。
【0058】
[実施例3]
肥満でのICAM-1
+脂肪幹細胞の脂肪生成分化
次に、ICAM-1
+脂肪前駆細胞と肥満との相関関係を調査するために、別の系統追跡システムを導入した。FABP4は、脂肪幹細胞が脂肪細胞に変化したときに発現する特徴的な分子であり、Fabp4-CreマウスとmTmGトレーサーマウスをハイブリダイズして、得られた子孫マウスでは、脂肪前駆細胞の脂肪生成分化がFabp4発現の初期の脂肪細胞段階に進行し、EGFPを発現する(
図3A)。Fabp4-Cre、mTmGマウスに通常の食事と高脂肪の食事をそれぞれ与え、フローサイトメトリーによって鼠径部と副睾丸脂肪組織の間質細胞(CD45
-CD31
-Sca-1
+)でEGFP
+を発現する初期分化脂肪細胞を分析した。
【0059】
この研究では、一般的な飼料給餌条件下で、Fabp4-Cre、mTmG成体マウスには、同じ同腹のFabp4-Creマウスの脂肪組織に少量のEGFP
+脂肪前駆細胞しかなく、主にCD31
-CD45
-Sca-1
+ICAM-1
+(
図3B)であることを発見し、これは、ICAM-1
+脂肪幹細胞に由来し、脂肪幹細胞の表面分子表現型を維持し、ICAM-1
+脂肪幹細胞は、脂肪細胞の正常な置換に関与することを示す。重要なことに、これらのマウスを高脂肪食で肥満に誘発した場合、両方の脂肪組織でEGFPを発現する初期の脂肪細胞が多数存在し、ICAM-1
+脂肪幹細胞の表面分子特性(CD31
-CD45
-Sca-1
+ICAM-1
+)を維持し(
図3C~D)、これは肥満が脂肪細胞の再生を誘導することを示し、これらの新しく分化した脂肪細胞は主にICAM-1
+脂肪幹細胞に由来することを説明する。同時に、免疫蛍光分析を使用して、肥満脂肪組織でこれらのEGFP
+ICAM-1
+の初期脂肪細胞を発見し、これらはすべて血管の周りにあり、ICAM-1
+脂肪幹細胞と同じ位置にある(
図3E)。
【0060】
これらのICAM-1
+EGFP
+細胞をさらに特定するため、成熟脂肪細胞、ICAM-1
+EGFP
+、ICAM-1
+EGFP
-およびICAM-1
-細胞サブセットを、RNA-seq解析のために肥満マウスからソーティングした。ICAM-1
+EGFP
+サブセットの遺伝子発現プロファイルは、ICAM-1
+EGFP
-サブセットと非常によく似て、相関係数は0.98である(
図3F)。他のサブセットと比較して、ICAM-1
+EGFP
+細胞は、特に脂肪細胞シグナル伝達経路に特徴的な遺伝子(
図3G)に焦点を当てている場合、脂肪細胞(
図3F)と類似した遺伝子発現パターンを持っている。これらの脂肪細胞の特徴的な遺伝子の発現において、脂肪細胞はICAM-1
+EGFP
+と最も高い相関関係があり、ICAM-1
+EGFP
-細胞がそれに続き、ICAM-1
-と最も低い相関関係がある。これらの結果は、ICAM-1
+EGFP
+細胞がICAM-1
+EGFP
-脂肪幹細胞に由来する脂肪生成分化の中間産物であることを示している。
【0061】
[実施例4]
ICAM-1は脂肪前駆細胞の最終分化を負に調節する
上記の研究に基づいて、ICAM-1は脂肪幹細胞および脂肪前駆細胞で発現され、肥満が発生すると脂肪生成分化されることが証明されたが、成熟脂肪細胞はICAM-1を発現せず、ICAM-1の発現は脂肪生成分化で徐々に低下した。この発現特性は、脂肪前駆細胞の特性遺伝子Pref-1、GATA2/GATA3と非常によく似て、これらの遺伝子は、脂肪生成分化に抵抗し、脂肪前駆細胞の未分化状態を維持する機能がある。これに基づいて、ICAM-1は同じ調節作用を発揮すると推測できる。この研究では、野生型マウスと比較して、ICAM-1
-/-マウスは通常の食餌または高脂肪食条件下で体重と脂肪組織の重量を大幅に増加させ、脂肪組織の増加は脂肪細胞の量の増加に依存しないことが分かった(
図4A~D)。ICAM-1は免疫細胞で発現しているため、肥満に対するICAM-1の欠失の影響を除外するために、骨髄置換実験を行い、ICAM-1
-/-マウスの免疫細胞が野生型マウスで置き換えられた場合でも、それらはまだ肥満になりやすいことを発見した(
図4E~F)。脂肪過形成は細胞の拡大と増加の2つのモードを含むため、ICAM-1
-/-マウスの脂肪細胞のサイズは有意に増加しないことがわかり(
図4G~H)、脂肪細胞の数の増加が肥満に役割を果たすことを示し、これは脂肪幹細胞の過剰な分化の結果である。
【0062】
肥満の発生に対する脂肪細胞の数の増加の寄与を判断するために、ICAM-1
-/-マウスとFabp4-Cre、mTmGマウスを交配し、ICAM-1
+/+、Fabp4-Cre、mTmG同じ同腹マウスと比較して、ICAM-1
-/-、Fabp4-Cre、mTmGマウスのEGFP
+脂肪細胞分化中間状態の細胞は大幅に増加し(
図4I~K)、ICAM-1の欠失がインビボでの脂肪幹細胞の脂肪生成分化プロセスを促進できることを示す。野生型脂肪幹細胞と比較して、ICAM-1
-/-の初代脂肪前駆細胞はより速く分化し(
図4H)、脂肪生成分化遺伝子(Pparg、Cebpa、Fabp4、およびPlin1を含む)は大幅に増加した(
図5A~D)。したがって、ICAM-1は脂肪幹細胞の最終分化を負に調節する。
【0063】
[実施例5]
ICAM-1はRhoおよびROCKを介して脂肪幹細胞の未分化状態を維持する
次に、脂肪生成分化を制御するICAM-1の分子メカニズムについて深く議論する。ICAM-1の下流シグナルの非常に重要なコンポーネントは、小さなGTPase Rhoである。ICAM-1
-/-脂肪前駆細胞の活性化型Rho(Rho-GTP)は野生型前駆細胞よりも有意に少なく、非活性型Rho-GDPは野生型前駆細胞よりも高いことが分かった(
図6A)。活性化Rhoは、ROCKを介して細胞内張力線維の形成を調節できる。F-アクチンの蛍光イムノアッセイを通じて、野生型前駆細胞に多数の緊密に構造化された張力線維があり、F-アクチン線維束とICAM-1クラスターが共存し、ICAM-1
-/-の前駆細胞では、張力線維の密度は野生型間質細胞の密度よりも大幅に低く、構造は緩んで、線維束はほとんどないことを発見した(
図6B)。これは、ICAM-1が脂肪前駆細胞でRhoおよびROCKを活性化し、その張力線維の構築と細胞骨格の構築に重要な役割を果たすことを示している。
【0064】
RhoとROCKは、細胞骨格依存またはインスリン信号依存的に脂肪生成分化を負に調節することができ、同時にRNA-seqデータも、脂肪生成分化におけるRho GTPaseの役割をサポートする。RhoとROCKがICAM-1の脂肪幹細胞の脂肪分化への抑制効果に関与しているかどうかをテストするために、それぞれ脂肪幹細胞をROCK阻害剤Y-27632で処理した。DMSO処理グループと比較して、Y-27623は、野生型脂肪幹細胞の脂肪生成分化を大幅に加速できることを発見したが、ICAM-1
-/-脂肪幹細胞の脂肪生成分化への影響は明らかではない(
図6C)。同時に、成熟脂肪細胞の特徴的なタンパク質であるペリリピンA(Perilipin A)の発現レベルを分析し、Y-27632が野生型脂肪幹細胞におけるこのタンパク質の発現レベルを大幅に増加できることを発見したが、ICAM-1
-/-脂肪幹細胞には有意な影響がなかった(
図6C)。また、ROCKの阻害により、ペリリピンA、PpargおよびFabp4を含む野生型マウス脂肪幹細胞における脂肪生成分化関連タンパク質および遺伝子の発現が大幅に増加する可能性があるが、ICAM-1
-/-マウス由来の脂肪幹細胞における効果は明らかではないため(
図6D~F)、ICAM-1は、Rho-ROCK経路を介した脂肪幹細胞の脂肪生成分化を阻害する。
【0065】
Rho GTPase活性がICAM-1欠失によって引き起こされる過剰な脂肪生成分化を逆転できるかどうかを検証するために、Rho GTPaseを構成的に活性化できるRhoアゴニストRhoアクチベーターII(RA2)を使用した。RA2がICAM-1
-/-脂肪幹細胞の脂肪生成分化能力を有意に阻害したが、野生型脂肪細胞には明らかな影響がなかったことを発見した(
図6G)。これと一致して、ICAM-1
-/-前駆細胞におけるRho GTPaseの活性化は、Pparg、Cebpa、Fabp4、およびPlin1を含む脂肪生成分化遺伝子の広範な減少をもたらしたが、PpargおよびFabp4のみが野生型細胞において有意でRho GTPase活性化により変化(
図6H~K)した。重要なことに、野生型とICAM-1
-/-細胞の脂肪生成分化遺伝子の発現の違いは、Rho GTPaseの活性化によって排除された(
図6H~K)。これらの結果は、ICAM-1がRho GTPaseを介して脂肪生成分化を調節することを確認した。
【0066】
ICAM-1がインビボでRho GTPaseによる脂肪分化を調節するかどうかをテストするために、RA2をマウスの右鼠径部脂肪体に局所的に注入し、左脂肪体と比較してRho GTPaseの局所活性化の効果を示した。高脂肪食を与えたマウスのRA処理を10週間行った後、ICAM-1
-/-マウスの過剰な脂肪生成分化が弱まり、両側の鼠径部脂肪体が非対称性を示した(
図6L)。この非対称性は、RA2処理WTマウスとPBS処理マウスでは観察されなかった(
図6L)。これらの脂肪組織を収集して計量したところ、RA2がWTマウスではなく、ICAM-1
-/-で脂肪重量を有意に減少させることが分かった(
図6M~N)。
【0067】
[実施例6]
ICAM-1はヒト脂肪前駆細胞分化を負に調節する
まず、ヒト脂肪組織におけるICAM-1の発現レベルを分析した。現在、認められたヒト脂肪前駆細胞の特徴的な分子はない。ICAM-1がヒトCD31
-CD45
-脂肪間質細胞で広く発現していることを発見した(
図7A)。これらのICAM-1
+細胞は、マウス脂肪組織と同様に、主に血管の周囲に位置する(
図7B)。ヒト脂肪幹細胞に対するICAM-1の調節効果をテストするために、ヒト初代脂肪幹細胞を分離し、脂肪生成分化を誘導した。マウスと一致して、ヒト脂肪前駆細胞におけるICAM1の発現レベルが脂肪生成分化とともに徐々に減少することを発見した(
図7C)。siRNAでICAM1の発現をノックダウンすると(
図7D)、ヒト脂肪前駆細胞の脂肪生成分化は大幅に強化され(
図7E)、PPARG、CEBPAおよびFABP4を含む脂肪生成遺伝子の発現が大幅に増加し(
図7F)、ICAM-1がヒト脂肪幹細胞の脂肪生成分化に負の調節効果を持っていることを示した。ICAM-1のノックダウンにより、ヒト脂肪幹細胞のRho GTPase活性が低下したことに注目すべきである(
図7G)。分化中にRA2でヒト脂肪幹細胞を処理すると、ICAM-1ノックダウン細胞の脂肪生成分化の増強は排除された(
図7H~J)。したがって、ICAM-1はまた、ヒト脂肪幹細胞の最終分化を負に調節する能力を持っている。
【0068】
ヒト脂肪前駆細胞でのICAM-1の生理学的作用をテストするために、形成手術を受けている患者からヒト脂肪組織のサンプルを収集し、フローサイトメトリーを使用してCD31
-CD45
-脂肪間質細胞のICAM-1およびFABP4の発現レベルを分析した。ICAM-1の発現レベルは、被験者の体脂肪率(BMI)と有意に相関し(
図7K)、この結果はマウスで観察された結果と類似した。線形回帰分析を使用して、ICAM-1の発現レベルとFABP4
+脂肪前駆細胞の比率との相関性をテストした。BMIとICAM-1の発現の間の強い相関を考慮して、BMIとICAM-1 MFIの相互作用項が変更された線形モデルを導入した。これに基づいて、FABP4
+脂肪前駆細胞の比率がICAM-1の発現レベルと有意に負の相関があることがわかり(
図7K~L)、ICAM-1がインビボでヒト脂肪前駆細胞の脂肪生成分化に負の調節的役割を持っていることを示している。
【0069】
本発明で言及されるすべての文書は、あたかも各文書が個々に参照により組み込まれたかのように、本出願に参照により組み込まれている。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も本願に添付された特許請求の範囲によって定義される範囲内にあることを理解されたい。