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特許7596151フィラー組成物、シリコーン樹脂組成物及び放熱部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】フィラー組成物、シリコーン樹脂組成物及び放熱部品
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20220101AFI20241202BHJP
   C01F 5/02 20060101ALI20241202BHJP
   C01B 21/072 20060101ALI20241202BHJP
   C01B 21/086 20060101ALI20241202BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241202BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C01F7/02
C01F5/02
C01B21/072 A
C01B21/086
C08K3/013
C08L83/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020567734
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020003573
(87)【国際公開番号】W WO2020153505
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019010735
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 修治
(72)【発明者】
【氏名】中園 淳一
(72)【発明者】
【氏名】田上 将太朗
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131486(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190189(WO,A1)
【文献】特開2009-274929(JP,A)
【文献】特開2004-244491(JP,A)
【文献】特開2007-277406(JP,A)
【文献】特開2009-164093(JP,A)
【文献】特開2011-219309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/02
C01F 5/02
C01B 21/072
C01B 21/086
C08K 3/013
C08L 83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.3~1.0μmのフィラー(A1)と、平均粒子径が3~15μmのフィラー(A2)と、平均粒子径が45~140μmのフィラー(A3)と、を含み、
前記フィラー(A1)の含有量は、5体積%~20体積%であり、前記フィラー(A2)の含有量は、25体積%~50体積%であり、前記フィラー(A3)の含有量は、53体積%~70体積%であり、
前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)は、アルミナ、マグネシア、AlN被覆アルミナ、AlN及びSNから選択されるいずれか1種以上であって、
前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)の少なくとも1つが、AlN被覆アルミナまたはマグネシアであり、
前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)の平均球形度は、0.82以上であるフィラー組成物。
【請求項2】
前記AlN被覆アルミナのAlN被覆量が10~40質量%である請求項に記載のフィラー組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフィラー組成物(A)と、シリコーン樹脂(B)とを含むシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項に記載のシリコーン樹脂組成物を用いてなる放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラー組成物、シリコーン樹脂組成物及び放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。小型化及び高性能化に伴い、電子機器を構成する電子部品の実装密度が高くなってきており、電子部品から発生する熱を効果的に放出させる必要性が高まっている。
【0003】
また、環境負荷の抑制が可能な電気自動車などのパワーデバイス用途においては、電子部品に高電圧が印加されたり、あるいは大電流が流れたりすることがある。この場合高い熱量が発生し、発生する高い熱量に対処するために、従来にも増して効果的に熱を放出させる必要が高まってきている。
このような要求に対応するための技術として、例えば、特許文献1には3種類のフィラーを含んでなる熱伝導性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-164093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子部品等に対する放熱性への要求は、さらに高まっており、より放熱性に優れる材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、放熱性に優れ、粒径の異なる3種類のフィラーを用いることにより、放熱性をより高めることができることを見出した。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
[1]平均粒子径が0.3~1.0μmのフィラー(A1)と、平均粒子径が3~15μmのフィラー(A2)と、平均粒子径が35~140μmのフィラー(A3)と、を含み、前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)は、アルミナ、マグネシア、AlN被覆アルミナ、AlN及びSNから選択されるいずれか1種以上であるフィラー組成物。
[2]前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)の少なくとも1つがAlN被覆アルミナである[2]に記載のフィラー組成物。
[3]前記AlN被覆アルミナのAlN被覆量が10~40質量%である[2]に記載のフィラー組成物。
【0008】
[4]前記フィラー(A1)、前記フィラー(A2)及び前記フィラー(A3)の少なくとも1つがマグネシアである[1]~[3]のいずれかに記載のフィラー組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のフィラー組成物(A)と、シリコーン樹脂(B)とを含むシリコーン樹脂組成物。
[6][5]に記載のシリコーン樹脂組成物を用いてなる放熱部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィラー組成物、フィラー組成物を含む樹脂組成物を用いれば、放熱性に優れた放熱部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0011】
本発明のフィラー組成物は、平均粒子径が0.3~1.0μmのフィラー(A1)と、平均粒子径が3~15μmのフィラー(A2)と、平均粒子径が35~140μmのフィラー(A3)と、を含み、フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)は、アルミナ、マグネシア、AlN被覆アルミナ、AlN及びSNから選択されるいずれか1種以上である。
【0012】
本発明のフィラー組成物は、特定の平均粒子径の超微粉フィラー(A1)、微粉フィラー(A2)及び粗粉フィラー(A3)を含むことに特徴がある。フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)のいずれかの平均粒子径の上限値又は下限値のいずれかが1つでも範囲外になると所望の効果が得られない。この本発明の効果は、3種類の平均粒子径のフィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)を用いることで、フィラー(A3)の間隙をフィラー(A2)、更にフィラー(A2)の間隙をフィラー(A1)が充填され、フィラー間の熱パス経路が形成される為、熱伝導性が向上すると考えられる。
【0013】
フィラー(A1)の平均粒子径は0.3μm以上とする。フィラー(A1)の平均粒子径を0.3μm以上にすることで、フィラー(A2)の間隙に効率良く入り込んで充填率を高め、熱伝導性を高めることができる。フィラー(A1)の平均粒子径は、好ましくは0.4μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。また、フィラー(A1)の平均粒子径は1.0μm以下とする。フィラー(A1)の平均粒子径を1.0μm以下とすることで、フィラー中に分散するフィラー(A1)の粒子個数が多くなり、フィラー間距離が狭まる。その為、熱パス効率が向上し、熱伝導性を高めることができる。フィラー(A1)の平均粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。
【0014】
なお、本明細書において、平均粒子径はレーザー回折光散乱法による質量基準の粒度測定に基づく値であり、マルバーン社製「マスターサイザー3000、湿式分散ユニット:Hydro MV装着」を用いて測定する。測定に際しては、溶媒には水を用い、前処理として2分間、トミー精工社製「超音波発生器UD-200(超微量チップTP-040装着)」を用いて200Wの出力をかけて分散処理する。分散処理後のフィラーを、レーザー散乱強度が10~15%になるように分散ユニットに滴下する。分散ユニットスターラーの撹拌速度は1750rpm、超音波モードは無しとする。粒度分布の解析は粒子径0.01~3500μmの範囲を100分割にして行う。水の屈折率には1.33を用い、フィラーの屈折率には各種文献値を用いる。測定した粒度分布において、累積質量が50%となる粒子が平均粒子径である。
【0015】
また、上記平均粒子径を有するフィラー(A1)は市販品を用いてもよいし、公知の方法で調整したものを用いてもよい(フィラー(A2)、フィラー(A3)も同様である)。
【0016】
フィラー組成物中におけるフィラー(A1)の含有量を5体積%以上とすることが、本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A1)の含有量は、より好ましくは7体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上である。また、上限については20体積%以下とすることが本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A1)の含有量は、より好ましくは18体積%以下、さらに好ましくは15体積%以下である。フィラー(A1)の含有量をこの範囲にすることで、フィラー組成物の高充填が容易となる。
【0017】
フィラー(A1)の形状は、充填性向上の観点から球状であることが好ましい。球状とすることで、樹脂との摩擦抵抗を低減させることができ高充填が可能となる。球状の程度としては平均球形度が0.80以上であることが好ましい。フィラー(A1)の平均球形度は、より好ましくは0.82以上、更に好ましくは0.85以上である。
【0018】
なお、本明細書において、フィラー(A1)の平均球形度は、以下の方法で測定する。フィラーとエタノールを混合して、フィラー1質量%のスラリーを調整し、BRANSON社製「SONIFIER450(破砕ホーン3/4’’ソリッド型)」を用い、出力レベル8で2分間分散処理する。その分散スラリーを、スポイトでカーボンペースト塗布した試料台に滴下する。試料台に滴下したフィラーが乾燥するまで大気中放置後、オスミウムコーティングを行い、日本電子社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」で撮影した倍率50000倍、解像度1280×960ピクセルの画像をパソコンに取り込む。この画像を、マウンテック社製画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて粒子を認識させ、粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)から球形度を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなるので、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円(半径r)を想定すると、PM=2πr、B=πrであるから、B=π×(PM/2π)となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)となる。このようにして得られた任意の投影面積円相当径10μm以上の粒子200個の球形度を求め、その平均値を平均球形度とする。
【0019】
フィラー(A2)の平均粒子径は3μm以上とする。フィラー(A2)の平均粒子径を3μm以上にすることで、フィラー(A3)の間隙に効率良く入り込んで充填率を高め、熱伝導性を高めることができる。フィラー(A2)の平均粒子径は、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上である。また、フィラー(A2)の平均粒子径は15μm以下とする。フィラー(A2)の平均粒子径を15μm以下とすることで、やはりフィラー(A3)の間隙に効率良く入り込んで充填率を高め、熱伝導性を高めることができる。フィラー(A2)の平均粒子径は、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0020】
フィラー組成物中におけるフィラー(A2)の含有量を25体積%以上とすることが、本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A2)の含有量は、より好ましくは28体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上である。また、上限については50体積%以下とすることが本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A2)の含有量は、より好ましくは45体積%以下、さらに好ましくは40体積%以下である。
フィラー(A2)の含有量をこの範囲にすることで、フィラー組成物の高充填が容易となる。
【0021】
フィラー(A2)の形状は、充填性向上の観点から球状であることが好ましい。球状とすることで、樹脂との摩擦抵抗を低減させることができ高充填が可能となる。球状の程度としては平均球形度が0.80以上であることが好ましい。フィラー(A2)の平均球形度は、より好ましくは0.82以上、更に好ましくは0.85以上である。
【0022】
なお、本明細書において、フィラー(A2)の平均球形度は、上述したフィラー(A1)の測定方法と同様に実施し、走査型電子顕微鏡の撮影倍率のみ2000倍に変更して測定した。
【0023】
フィラー(A3)の平均粒子径は35μm以上とする。フィラー(A3)は、フィラーの主粒となる粒子成分であり、フィラー(A3)の平均粒子径を35μm以上にすることで、粒子同士の接触による熱パス効果を向上させることができる。また粒子の比表面積が小さくなることで、充填率を高めることができるため、熱伝導性を更に高めることができる。フィラー(A3)の平均粒子径は、好ましくは45μm以上、より好ましくは60μm以上である。また、フィラー(A3)の平均粒子径は140μm以下とする。フィラー(A3)の平均粒子径を140μm以下とすることで、フィラーを充填した樹脂複合体の表面平滑性を保つことができ、界面抵抗を低下させることができるため、熱伝導性を高めることができる。フィラー(A3)の平均粒子径は、好ましくは130μm以下、より好ましくは120μm以下である。
【0024】
フィラー組成物中におけるフィラー(A3)の含有量を50体積%以上とすることが、本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A3)の含有量は、より好ましくは53体積%以上、さらに好ましくは55体積%以上である。また、上限については70体積%以下とすることが本発明の効果を高める観点から好ましい。フィラー(A3)の含有量は、より好ましくは65体積%以下、さらに好ましくは60体積%以下である。
フィラー(A3)の含有量をこの範囲にすることで、フィラー組成物の高充填が容易となる。
【0025】
フィラー(A3)の形状は、充填性向上の観点から球状であることが好ましい。球状とすることで、樹脂との摩擦抵抗を低減させることができ高充填が可能となる。球状の程度としては平均球形度が0.80以上であることが好ましい。フィラー(A3)の平均球形度は、より好ましくは0.82以上、更に好ましくは0.85以上である。
【0026】
なお、本明細書において、フィラー(A3)の平均球形度は、上述したフィラー(A1)の測定方法と同様に実施し、走査型電子顕微鏡の撮影倍率のみ200倍に変更して測定した。
【0027】
本発明のフィラー組成物においてはフィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)以外の成分(平均粒子径が上記範囲外のフィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)を含む)を含んでもよい。フィラー以外の成分としては、酸化イットリウム、窒化ホウ素、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化ホウ素等が挙げられる。これらのその他の成分は積極的に少量含ませてもよいし、不純物として含まれてもよい。しかし、本発明の効果を高める観点からは、フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)の合計量は90体積%以上が好ましく、95体積%以上がより好ましく、97体積%以上がさらに好ましい。
【0028】
フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)として、アルミナ、マグネシア、AlN被覆アルミナ、AlN及びSNから選択されるいずれか1種以上を用いることで、放熱性に優れるフィラー組成物にすることができる。本発明においては、フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)として、アルミナ、マグネシア、AlN被覆アルミナを用いることが好ましい。
【0029】
熱伝導性に優れたフィラー組成物にするためには、AlN被覆アルミナを用いることが好ましい。特に、原料のアルミナ100質量%に対するAlN被覆アルミナのAlN被覆量が10質量%以上であることで、アルミナ表面のAlN被覆層を厚くすることができるため、粒子表面の熱パス性が大きく向上し、熱伝導性を高めることができる。このため、上記AlN被覆量の下限について好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上である。また、AlN被覆量が40質量%以下であれば、AlN被覆アルミナの表面を平滑にすることができ、充填率を高め、熱伝導性を高めることができる。このため、上限について好ましくは40質量%以下、より好ましくは37質量%以下、さらに好ましくは33質量%以下である。特に、フィラー(A3)をAlN被覆アルミナとすることで、効果的に熱伝導性を高めることができる。これは3種類のフィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)の中で最も平均粒子径の大きいフィラー(A3)の熱伝導に与える影響が大きいためと考えられる。
【0030】
本発明に適用することが好ましい上記AlN被覆アルミナは、以下の方法で製造することができる。
まず、球状アルミナ粒子とカーボンとを混合する。球状アルミナ粒子とカーボンの総量100質量%中、65~80質量%の球状アルミナ粒子に対して、20~35質量%のカーボンを混合する。球状アルミナ粒子は、市販品を利用でき、使用する球状アルミナの平均粒子径はフィラー組成物に含まれるフィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)の平均粒子径に応じて適宜決定すればよい。カーボンとしてはECブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末黒鉛等を例示することができる。球形度の高いAlN被覆アルミナを得るためには、これらカーボンの中でも、平均粒子径が30nm以上60nm以下、比表面積が20m/g以上50m/g以下、かさ密度が0.10g/cm以上0.20g/cm以下のカーボンを用いることが好ましい。これらの特徴を有するカーボンを用いて、後述の焼成時に、還元反応雰囲気を形成し、また、カーボンがスペーサーとして寄与することでアルミナ同士の合着を抑制し、球形度の高いAlN被覆アルミナを得ることができる。
混合は球状アルミナ粒子とカーボンとを均一に分散できる条件にする。混合方法は特に限定されず、湿式混合、乾式混合のいずれも採用できる。
【0031】
次いで、球状アルミナ粒子とカーボンとを混合した混合物60~68gに対して、表面窒化のための焼成を行う。焼成雰囲気は窒素雰囲気としNガスの流量を3~6L/minの範囲で制御する。焼成時間は4~12時間、焼成温度は1500~1700℃とする。この焼成により、AlN被覆アルミナとなる。上記の表面窒化のための焼成条件は、所望のAlN被覆量に応じて適宜調整する。焼成温度が高いほど、焼成時間が長いほど、Nガス流量が多いほどAlN被覆量が多くなる。
【0032】
次いで、AlN被覆アルミナの表面に残留するカーボンを除去するための焼成を行う。焼成雰囲気は大気雰囲気とし、焼成温度は600~900℃、焼成時間は2~6時間とする。
【0033】
また、熱伝導性に優れたフィラー組成物にするためには、フィラー(A1)、フィラー(A2)及びフィラー(A3)として、マグネシアを用いることが好ましい。マグネシアは熱伝導性が高く、熱伝導性に特に優れるフィラー組成物とすることができる。マグネシアの製造方法としては、炭酸マグネシウム(マグネサイトともいう)を焼成する方法、海水あるいは塩化マグネシウム水溶液(苦汁またはかん水)に水酸化カルシウムを加えて水酸化マグネシウムを生成させ、これを濾過、乾燥した後、焼成する方法を挙げることができる。球形度の高いマグネシアを得るためには、上述の方法で得られたマグネシウム粉末をプラズマ溶射などで溶融球状化する方法を挙げることができる。
また、フィラー(A3)をマグネシアとすれば、AlN被覆アルミナを用いるよりもさらに効率よくフィラー組成物の熱伝導性を高めることができる。
【0034】
本発明のフィラー組成物は、樹脂に添加して、熱伝導性が要求される部材の原料として好ましく用いることができる。樹脂としては、シリコーン樹脂が好ましい。そこで、本発明のシリコーン樹脂組成物を以下に説明する。
【0035】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、上記の本発明のフィラー組成物(A)とシリコーン樹脂(B)とを含む。本発明のフィラー組成物(A)とシリコーン樹脂(B)とを組み合わせることにより、フィラー組成物(A)の充填率を高めることができる。その結果、熱伝導性に優れたシリコーン樹脂組成物とすることができる。
【0036】
シリコーン樹脂(B)は、特に限定されない。例えば、シリコーン樹脂(B)として、過酸化物硬化型、縮合反応硬化型、付加反応硬化型、紫外線硬化型等のシリコーン樹脂を使用することができる。
【0037】
本発明のシリコーン樹脂組成物におけるシリコーン樹脂(B)の含有量を、30体積%以下とすることで、本発明のフィラー組成物(A)による熱伝導性向上効果を高めることができる。このため、本発明のシリコーン樹脂組成物中のシリコーン樹脂(B)の含有量は30体積%以下が好ましい。より好ましくは25体積%以下であり、さらに好ましくは20体積%以下である。一方、シリコーン樹脂(B)の含有量が少なすぎると、シリコーン樹脂組成物を成形して所望の部材を製造するのが難しくなる。そこで、シリコーン樹脂(B)の含有量は12体積%以上が好ましい。より好ましくは15体積%以上、さらに好ましくは17体積%以上である。
【0038】
本発明のシリコーン樹脂組成物におけるフィラー組成物(A)の含有量は、シリコーン樹脂組成物の熱伝導性を高める観点から70体積%以上が好ましい。より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは78体積%以上である。一方、フィラー組成物(A)の含有量が多くなると、シリコーン樹脂組成物の成形が難しくなる場合がある。このため、フィラー組成物(A)の含有量は88体積%以下が好ましい。より好ましくは85体積%以下、さらに好ましくは83体積%以下である。本発明のシリコーン樹脂組成物は、フィラー組成物の充填率を高めることができる点に特徴がある。
【0039】
シリコーン樹脂組成物には、フィラー組成物(A)、シリコーン樹脂(B)以外の成分を含んでもよいが、その他の成分はフィラー組成物の充填率を低下させたり、その他の成分自体の熱伝導性が低かったりする。そのため、その他の成分は少ない方が好ましい。具体的には、フィラー組成物(A)、シリコーン樹脂(B)を合計で90体積%以上含むことが好ましい。より好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは97体積%以上である。
【0040】
本発明のシリコーン樹脂組成物を用いれば、熱伝導性の高い樹脂組成物が得られる。特に、本発明の好ましい態様によれば、実施例に記載の方法で測定した熱伝導率を5.3W/m・K以上の範囲にすることも可能である。上限については、例えば、11.0W/m・K程度にすることは十分に可能である。
【0041】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、上記の通り、優れた熱伝導性を有する。このため、本発明のシリコーン樹脂組成物は電子部品用に好ましく用いることができる。具体的には、半導体封止材、放熱シート等の放熱部品の素材として好ましく用いることができる。なお、本発明のシリコーン樹脂組成物を、半導体封止材や放熱シート等の電子部品へ適用する方法は、従来公知の方法を採用できる。
【実施例
【0042】
1.シリコーン樹脂組成物の製造
実施例1~5および比較例1~6のシリコーン樹脂組成物を製造した。
【0043】
[フィラー]
以下のフィラーを用いた。なお、平均粒子径は、上述の方法で測定した。
表1に記載の平均粒子径を有するアルミナを用いた。平均粒子径は上述の方法で測定して得られる値を採用する。また、上述の方法で測定した球形度も表1に記載した。なお、アルミナについては、平均粒子径を測定する際の屈折率は、1.77とした。
【0044】
AlN被覆アルミナ(平均粒子径50μm)は以下の方法で製造した。
アルミナとしてデンカ社製「DAW-45」を50g、カーボンとしてデンカ社製「HS-100」を10g用い、これらを混合し、AlN被覆量が15質量%になるように、N量が3L/minの窒素雰囲気中、焼成温度が1600℃、焼成時間が12時間の条件で焼成した。その後、大気雰囲気中、700℃、4時間の条件でカーボン除去のための焼成を行った。得られたAlN被覆アルミナの平均粒子径、球形度を上述の方法で測定した。平均粒子径は50μmであった。AlN被覆アルミナについては平均粒子径を測定する際の屈折率は1.77とした。
【0045】
AlN被覆アルミナ(平均粒子径55μm)は以下の方法で製造した。
アルミナとしてデンカ社製「DAW-45」を50g、カーボンとしてデンカ社製「HS-100」を18g用い、これらを混合し、AlN被覆量が31質量%になるように、N量が6L/minの窒素雰囲気中、焼成温度が1600℃、焼成時間が24時間の条件で焼成した。その後、大気雰囲気中、700℃、4時間の条件でカーボン除去のための焼成を行った。得られたAlN被覆アルミナの平均粒子径、球形度を上述の方法で測定した。平均粒子径は55μmであった。
【0046】
マグネシアは、表1に記載の平均粒子径、球形度を有するマグネシアである。なお、マグネシアについては、平均粒子径を測定する際の屈折率は、1.74とした。
【0047】
[シリコーン樹脂]
以下のシリコーン樹脂を用いた。
(シリコーン樹脂B)シリコーン樹脂 東レ・ダウコーニング社製「SE-1885」
表1に示す割合で、フィラー組成物とシリコーン樹脂とを混合し、厚さ3mmのシリコーン樹脂組成物を製造した。
【0048】
[熱伝導率測定]
熱伝導率の測定は定常法という方法で、ASTM D5470に準拠した。測定は株式会社日立テクノロジーアンドサービス社製「樹脂材料熱抵抗測定装置TRM-046RHHT」を用いて行った。シリコーン樹脂組成物は幅10mm×10mm、厚み3mmに加工し、2Nの荷重をかけながら、厚み方向の熱抵抗値の測定を実施した。測定結果を表1に示した。
【0049】
【表1】