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特許7596155レーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】レーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/58 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
G01S13/58 210
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021002649
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022107936
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】原 隆将
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】星 将広
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-012351(JP,A)
【文献】特開2002-341025(JP,A)
【文献】特開2019-144094(JP,A)
【文献】特開平11-281737(JP,A)
【文献】特開2012-002686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾部と、
一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾部に出力するゲート処理部と、を備え
前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記位置ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とするレーダ物標追尾装置。
【請求項2】
レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾部と、
一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾部に出力するゲート処理部と、を備え
前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分の周囲に設定した速度ゲートの内部において、今回の観測ドップラ速度が存在する前記レーダ物標を、当該複数の前記レーダ物標のうちの当該一つの前記レーダ物標として選択し、
前記ゲート処理部は、さらに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記速度ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とするレーダ物標追尾装置。
【請求項3】
前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の観測信号点クラスタについて、今回の観測ドップラ速度の分散値が大きいほど、前記速度ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とする、請求項に記載のレーダ物標追尾装置。
【請求項4】
レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾ステップと、
一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾ステップに出力するゲート処理ステップと、
をコンピュータに実行させ
前記ゲート処理ステップは、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記位置ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とするレーダ物標追尾プログラム。
【請求項5】
レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾ステップと、
一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾ステップに出力するゲート処理ステップと、
をコンピュータに実行させ
前記ゲート処理ステップは、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分の周囲に設定した速度ゲートの内部において、今回の観測ドップラ速度が存在する前記レーダ物標を、当該複数の前記レーダ物標のうちの当該一つの前記レーダ物標として選択し、
前記ゲート処理ステップは、さらに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記速度ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とするレーダ物標追尾プログラム。
【請求項6】
前記ゲート処理ステップは、当該一つの前記レーダ物標の観測信号点クラスタについて、今回の観測ドップラ速度の分散値が大きいほど、前記速度ゲートの幅を広く設定する
ことを特徴とする、請求項に記載のレーダ物標追尾プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のレーダ物標を追尾する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲート処理を用いて既追尾物標に加えて新しい物標を検出する技術が、特許文献1等に開示されている。従来技術のゲート処理の具体例を図1に示す。
【0003】
図1の左欄では、レーダシステムRは、レーダ物標T1を検出する。レーダ物標T1の観測位置は、黒丸で示され、レーダ物標T1の観測ドップラ速度は、v<0(レーダシステムRへと近づく方向)である。ゲートG1は、レーダ物標T1の観測位置の周囲に設定され、レーダ物標T1の観測ドップラ速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、ゲート幅を広く設定される。レーダシステムRは、既追尾物標T2を検出する。既追尾物標T2の予測位置は、白丸(ゲートG1の内部)で示され、既追尾物標T2の予測ドップラ速度は、vである。|v-v|≦v(vは閾値ドップラ速度差)が成り立つとすると、レーダ物標T1は、既追尾物標T2と同一の物標であると判定される。
【0004】
図1の右欄では、レーダシステムRは、レーダ物標T3を検出する。レーダ物標T3の観測位置は、黒丸で示され、レーダ物標T3の観測ドップラ速度は、v>0(レーダシステムRから遠ざかる方向)である。ゲートG3は、レーダ物標T3の観測位置の周囲に設定され、レーダ物標T3の観測ドップラ速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、ゲート幅を広く設定される。レーダシステムRは、既追尾物標T4を検出する。既追尾物標T4の予測位置は、白丸(ゲートG3の内部)で示され、既追尾物標T4の予測ドップラ速度は、vである。|v-v|>v(vは閾値ドップラ速度差)が成り立つとすると、レーダ物標T3は、既追尾物標T4と異なる新物標であると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-156449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲート処理を用いて一つの物標のみならず複数の物標を追尾する技術が、以下に示すように考えられる。解決課題のゲート処理の具体例を図2に示す。
【0007】
図2の左欄では、レーダシステムRは、既追尾物標T5、T6を検出する。既追尾物標T5の予測位置は、黒丸で示され、既追尾物標T5の観測位置は、黒四角で示される。ゲートG5は、既追尾物標T5の予測位置を中心としてその周囲に設定される。既追尾物標T6の予測位置は、白丸で示され、既追尾物標T6の観測位置は、白四角で示される。ゲートG6は、既追尾物標T6の予測位置を中心としてその周囲に設定される。既追尾物標T5、T6の予測位置は、あまり接近しておらず、ゲートG5、G6は、互いに重複しておらず、既追尾物標T5の観測位置は、ゲートG5の内部のみに存在し、既追尾物標T6の観測位置は、ゲートG6の内部のみに存在する。よって、既追尾物標T5の予測位置と、既追尾物標T5の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、既追尾物標T6の予測位置と、既追尾物標T6の観測位置と、を正しく紐付けることができる。
【0008】
図2の右欄では、レーダシステムRは、既追尾物標T7、T8を検出する。既追尾物標T7の予測位置は、黒丸で示され、既追尾物標T7の観測位置は、黒四角で示される。ゲートG7は、既追尾物標T7の予測位置を中心としてその周囲に設定される。既追尾物標T8の予測位置は、白丸で示され、既追尾物標T8の観測位置は、白四角で示される。ゲートG8は、既追尾物標T8の予測位置を中心としてその周囲に設定される。既追尾物標T7、T8の予測位置は、かなり接近しており、ゲートG7、G8は、互いに重複しており、既追尾物標T7の観測位置は、ゲートG7、G8の内部に存在し、既追尾物標T8の観測位置は、ゲートG7、G8の内部に存在する。よって、既追尾物標T7の予測位置と、既追尾物標T8の観測位置と、を誤って紐付けることがあり得る。そして、既追尾物標T8の予測位置と、既追尾物標T7の観測位置と、を誤って紐付けることがあり得る。
【0009】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、複数のレーダ物標を追尾するにあたり、複数のレーダ物標が接近しているときでも、各々のレーダ物標の予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標を高精度に追尾することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、一つのレーダ物標の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標の観測位置が存在するときに、当該一つのレーダ物標の予測速度のドップラ成分に最も近い観測ドップラ速度を有するレーダ物標を選択し、当該一つのレーダ物標の予測位置と、選択したレーダ物標の観測位置と、を紐付ける。
【0011】
具体的には、本開示は、レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾部と、一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾部に出力するゲート処理部と、を備えることを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0012】
また、本開示は、レーダ物標の今回の予測位置及び観測位置に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑位置を算出し、前記レーダ物標の今回の予測位置、観測位置及び予測速度に基づいて、前記レーダ物標の今回の平滑速度を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑位置及び平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測位置を算出し、前記レーダ物標の今回の平滑速度に基づいて、前記レーダ物標の次回の予測速度を算出する物標追尾ステップと、一つの前記レーダ物標の今回の予測位置の周囲に設定した位置ゲートの内部において、複数の前記レーダ物標の今回の観測位置が存在するときに、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有する前記レーダ物標を選択し、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測位置と、選択した前記レーダ物標の今回の観測位置と、を紐付けて前記物標追尾ステップに出力するゲート処理ステップと、をコンピュータに実行させるためのレーダ物標追尾プログラムである。
【0013】
これらの構成によれば、複数のレーダ物標が接近しているときでも、各々のレーダ物標のドップラ速度の情報を用いたうえで、各々のレーダ物標の予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標を高精度に追尾することができる。
【0014】
また、本開示は、前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記位置ゲートの幅を広く設定することを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0015】
この構成によれば、各々のレーダ物標の予測速度と同一方向について、各々のレーダ物標の観測位置を確実に紐付け、各々のレーダ物標の予測速度と反対方向について、ノイズを拾う確率を確実に低減し、位置ゲートの面積を抑制することができる。そして、各々のレーダ物標の予測速度は、レーダから見て360°に渡る方向のうちのいずれかの方向であり、位置ゲートを絞る方向が2方向に制限されない。
【0016】
また、本開示は、前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度のドップラ成分の周囲に設定した速度ゲートの内部において、今回の観測ドップラ速度が存在する前記レーダ物標を、当該複数の前記レーダ物標のうちの当該一つの前記レーダ物標として選択することを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0017】
この構成によれば、複数のレーダ物標が接近しているときでも、各々のレーダ物標の位置ゲートのみならず速度ゲートを設定したうえで、各々のレーダ物標の予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標を高精度に追尾することができる。
【0018】
また、本開示は、前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の観測信号点クラスタについて、今回の観測ドップラ速度の分散値が大きいほど、前記速度ゲートの幅を広く設定することを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0019】
この構成によれば、各々のレーダ物標が急激に速度を変化させるときでも、各々のレーダ物標の観測ドップラ速度が各々の速度ゲートの内部から外れることを防止したうえで、各々のレーダ物標が突然現れた新物標であると判定されることを防止することができる。
【0020】
また、本開示は、前記ゲート処理部は、当該一つの前記レーダ物標の今回の予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、前記速度ゲートの幅を広く設定することを特徴とするレーダ物標追尾装置である。
【0021】
この構成によれば、各々のレーダ物標の予測速度と同一方向について、各々のレーダ物標の観測ドップラ速度を確実に紐付け、各々のレーダ物標の予測速度と反対方向について、ノイズを拾う確率を確実に低減し、速度ゲートの容積を抑制することができる。そして、各々のレーダ物標の予測速度は、レーダから見て360°に渡る方向のうちのいずれかの方向であり、速度ゲートを絞る方向が2方向に制限されない。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、複数のレーダ物標を追尾するにあたり、複数のレーダ物標が接近しているときでも、各々のレーダ物標の予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標を高精度に追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来技術のゲート処理の具体例を示す図である。
図2】解決課題のゲート処理の具体例を示す図である。
図3】本開示のレーダシステムの構成を示す図である。
図4】本開示の物標追尾処理の具体例を示す図である。
図5】本開示の第1のゲート処理の手順を示す図である。
図6】本開示の第1のゲート処理の具体例を示す図である。
図7】本開示の第1のゲート処理の具体例を示す図である。
図8】本開示の第1のゲート処理の具体例を示す図である。
図9】本開示の位置ゲートの設定の具体例を示す図である。
図10】本開示の第2のゲート処理の手順を示す図である。
図11】本開示の第2のゲート処理の具体例を示す図である。
図12】本開示の速度ゲートの設定の具体例を示す図である。
図13】本開示の速度ゲートの設定の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(本開示のレーダシステムの概要)
本開示のレーダシステムの構成を図3に示す。レーダシステムRは、レーダ送受信装置1、レーダ物標観測装置2及びレーダ物標追尾装置3を備える。レーダ物標観測装置2は、信号処理部21、信号点抽出部22、クラスタリング部23及び代表点抽出部24を備える。レーダ物標追尾装置3は、ゲート処理部31及び物標追尾部32を備え、図5又は図10に示すレーダ物標追尾プログラムをインストールされるコンピュータである。
【0026】
レーダ送受信装置1は、レーダ送信信号をレーダ物標Tへと照射し、レーダ反射信号をレーダ物標Tから受信する。信号処理部21は、レーダ反射信号に対して、距離ビン毎、方位セクタ毎及びドップラ速度ビン毎に信号処理する。信号点抽出部22は、レーダ反射信号に対して、強度の閾値処理に基づいて、信号点を抽出する。クラスタリング部23は、抽出された信号点に対して、信号点の密度判定に基づいて、クラスタを抽出する。代表点抽出部24は、抽出されたクラスタに対して、信号点の密度及び強度に基づいて、代表点を抽出し、レーダ物標Tの観測位置及び観測ドップラ速度を算出する。
【0027】
本開示の物標追尾処理の具体例を図4に示す。物標追尾部32は、レーダ物標Tの今回の予測位置xpk及び観測位置xokに基づいて、レーダ物標Tの今回の平滑位置xskを算出する。そして、レーダ物標Tの今回の予測位置xpk、観測位置xok及び予測速度vpkに基づいて、レーダ物標Tの今回の平滑速度vskを算出する。さらに、レーダ物標Tの今回の予測位置xpk、観測位置xok及び予測加速度apkに基づいて、レーダ物標Tの今回の平滑加速度askを算出する。αβγフィルタでは、数1のように算出され、αは位置ゲインであり、βは速度ゲインであり、γは加速度ゲインであり、Tはサンプリング周期である。y方向についても、x方向とほぼ同様に、数1のように算出される。
【数1】
【0028】
物標追尾部32は、レーダ物標Tの今回の平滑位置xsk、平滑速度vsk及び平滑加速度askに基づいて、レーダ物標Tの次回の予測位置xpk+1を算出する。そして、レーダ物標Tの今回の平滑速度vsk及び平滑加速度askに基づいて、レーダ物標Tの次回の予測速度vpk+1を算出する。さらに、レーダ物標Tの今回の平滑加速度askに基づいて、レーダ物標Tの次回の予測加速度apk+1を算出する。αβγフィルタでは、数2のように算出され、αは位置ゲインであり、βは速度ゲインであり、γは加速度ゲインであり、Tはサンプリング周期である。y方向についても、x方向とほぼ同様に、数2のように算出される。
【数2】
【0029】
よって、各々のレーダ物標Tを追尾するにあたり、レーダ物標軌跡を平滑化することができ、レーダ観測雑音を抑制することができる。ただし、複数のレーダ物標Tを追尾するにあたり、物標接近時の物標間乗り移りを以下に示すように防止する必要がある。
【0030】
図4の上段では、今回の時刻tについて説明する。物標追尾部32は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tでの予測位置x1、pk、x2、pkを算出する。代表点抽出部24は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tでの観測位置x1、ok、x2、okを算出する。ゲート処理部31は、後述の方法に基づいて、第1のレーダ物標Tについて、時刻tでの予測位置x1、pkと観測位置x1、okとを紐付け、第2のレーダ物標Tについて、時刻tでの予測位置x2、pkと観測位置x2、okとを紐付ける。物標追尾部32は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tでの平滑位置x1、sk、x2、skを算出する。
【0031】
図4の下段では、次回の時刻tk+1について説明する。物標追尾部32は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tk+1での予測位置x1、pk+1、x2、pk+1を算出する。代表点抽出部24は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tk+1での観測位置x1、ok+1、x2、ok+1を算出する。ゲート処理部31は、後述の方法に基づいて、第1のレーダ物標Tについて、時刻tk+1での予測位置x1、pk+1と観測位置x1、ok+1とを紐付け、第2のレーダ物標Tについて、時刻tk+1での予測位置x2、pk+1と観測位置x2、ok+1とを紐付ける。物標追尾部32は、第1、2のレーダ物標Tについて、時刻tk+1での平滑位置x1、sk+1、x2、sk+1を算出する。以降の処理は、上述の処理とほぼ同様である。
【0032】
(本開示の第1のゲート処理の詳細)
本開示の第1のゲート処理の詳細について説明する。本開示の第1のゲート処理の手順を図5に示す。ゲート処理部31は、一つのレーダ物標Tの今回の予測位置の周囲に位置ゲートを設定する(ステップS1)。そして、当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在するかどうかを確認する(ステップS2)。
【0033】
当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在するときに(ステップS2、YES)、ゲート処理部31は、当該一つのレーダ物標Tの今回の予測速度のドップラ成分に最も近い今回の観測ドップラ速度を有するレーダ物標Tを選択する(ステップS3)。そして、当該一つのレーダ物標Tの今回の予測位置と、選択したレーダ物標Tの今回の観測位置と、を紐付けて物標追尾部32に出力する(ステップS4)。
【0034】
当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在せず、当該一つのレーダ物標Tの今回の観測位置のみが存在するときに(ステップS2、NO)、ゲート処理部31は、当該一つのレーダ物標Tの今回の予測位置と、当該一つのレーダ物標Tの今回の観測位置と、を紐付けて物標追尾部32に出力する(ステップS5)。
【0035】
本開示の第1のゲート処理の具体例として、すれ違いの場合を図6に示す。図6の左欄のXY平面内では、レーダ物標T9は、レーダシステムRから遠ざかる人であり、レーダ物標T10は、レーダシステムRへと近づく人である。レーダ物標T9とレーダ物標T10は、接近してすれ違うところ、方向転換と誤認識されることを防止する。
【0036】
図6の中欄のXY平面内では、レーダ物標T9の予測位置は、黒丸で示され、レーダ物標T9の観測位置は、黒四角で示される。位置ゲートPG9は、レーダ物標T9の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T10の予測位置は、白丸で示され、レーダ物標T10の観測位置は、白四角で示される。位置ゲートPG10は、レーダ物標T10の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T9、T10の予測位置は、かなり接近しており、位置ゲートPG9、PG10は、互いに重複しており、レーダ物標T9の観測位置は、位置ゲートPG9、PG10の内部に存在し、レーダ物標T10の観測位置は、位置ゲートPG9、PG10の内部に存在する。
【0037】
図6の右欄のXYV空間(Vはドップラ速度)では、レーダ物標T9の予測速度のドップラ成分(>0)は、黒丸で示され、レーダ物標T9の観測ドップラ速度(>0)は、黒四角で示される。レーダ物標T10の予測速度のドップラ成分(<0)は、白丸で示され、レーダ物標T10の観測ドップラ速度(<0)は、白四角で示される。ここで、レーダ物標T9、T10の予測速度のドップラ成分と、レーダ物標T9、T10の観測ドップラ速度と、の一致程度を確認する。よって、レーダ物標T9の予測位置と、レーダ物標T9の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T10の予測位置と、レーダ物標T10の観測位置と、を正しく紐付けることができる。
【0038】
本開示の第1のゲート処理の具体例として、追い越しの場合を図7に示す。図7の左欄のXY平面内では、レーダ物標T11は、レーダシステムRから遠ざかる人であり、レーダ物標T12も、レーダシステムRから遠ざかる人である。レーダ物標T11はレーダ物標T12に、接近して追い越すところ、速度入換と誤認識されることを防止する。
【0039】
図7の中欄のXY平面内では、レーダ物標T11の予測位置は、黒丸で示され、レーダ物標T11の観測位置は、黒四角で示される。位置ゲートPG11は、レーダ物標T11の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T12の予測位置は、白丸で示され、レーダ物標T12の観測位置は、白四角で示される。位置ゲートPG12は、レーダ物標T12の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T11、T12の予測位置は、かなり接近しており、位置ゲートPG11、PG12は、互いに重複しており、レーダ物標T11の観測位置は、位置ゲートPG11、PG12の内部に存在し、レーダ物標T12の観測位置は、位置ゲートPG11、PG12の内部に存在する。
【0040】
図7の右欄のXYV空間(Vはドップラ速度)では、レーダ物標T11の予測速度のドップラ成分(高速)は、黒丸で示され、レーダ物標T11の観測ドップラ速度(高速)は、黒四角で示される。レーダ物標T12の予測速度のドップラ成分(低速)は、白丸で示され、レーダ物標T12の観測ドップラ速度(低速)は、白四角で示される。ここで、レーダ物標T11、T12の予測速度のドップラ成分と、レーダ物標T11、T12の観測ドップラ速度と、の一致程度を確認する。よって、レーダ物標T11の予測位置と、レーダ物標T11の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T12の予測位置と、レーダ物標T12の観測位置と、を正しく紐付けることができる。
【0041】
本開示の第1のゲート処理の具体例として、壁際歩行の場合を図8に示す。図8の左欄のXY平面内では、レーダ物標T13は、静止物のクラッタと認識されるべき壁であり、レーダ物標T14は、レーダシステムRから遠ざかる人である。レーダ物標T14はレーダ物標T13に、沿いつつ歩行するところ、停止状態と誤認識されることを防止する。
【0042】
図8の中欄のXY平面内では、レーダ物標T13の予測位置は、黒丸で示され、レーダ物標T13の観測位置は、黒四角で示される。位置ゲートPG13は、レーダ物標T13の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T14の予測位置は、白丸で示され、レーダ物標T14の観測位置は、白四角で示される。位置ゲートPG14は、レーダ物標T14の予測位置を中心としてその周囲に設定される。レーダ物標T13、T14の予測位置は、かなり接近しており、位置ゲートPG13、PG14は、互いに重複しており、レーダ物標T13の観測位置は、位置ゲートPG13、PG14の内部に存在し、レーダ物標T14の観測位置は、位置ゲートPG13、PG14の内部に存在する。
【0043】
図8の右欄のXYV空間(Vはドップラ速度)では、レーダ物標T13の予測速度のドップラ成分(=0)は、黒丸で示され、レーダ物標T13の観測ドップラ速度(=0)は、黒四角で示される。レーダ物標T14の予測速度のドップラ成分(>0)は、白丸で示され、レーダ物標T14の観測ドップラ速度(>0)は、白四角で示される。ここで、レーダ物標T13、T14の予測速度のドップラ成分と、レーダ物標T13、T14の観測ドップラ速度と、の一致程度を確認する。よって、レーダ物標T13の予測位置と、レーダ物標T13の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T14の予測位置と、レーダ物標T14の観測位置と、を正しく紐付けることができる。
【0044】
このように、複数のレーダ物標Tが接近しているときでも、各々のレーダ物標Tのドップラ速度の情報を用いたうえで、各々のレーダ物標Tの予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標Tを高精度に追尾することができる。なお、複数のレーダ物標Tが並行しているときには、各々のレーダ物標Tの予測位置と観測位置とを正しく紐付けるまでもなく、複数のレーダ物標Tをまとめて追尾することで足りる。
【0045】
本開示の位置ゲートの設定の具体例を図9に示す。図9の左欄では、位置ゲートPGは、レーダ物標Tの予測位置を中心としてその周囲に設定される円である。つまり、位置ゲートPGのゲート幅は、レーダ物標Tの予測速度に対して、同一方向についても反対方向についても、同様に設定される。ここで、位置ゲートPGのゲート幅は、レーダ物標Tのクラスタの観測位置の分散値が大きいほど、広く設定してもよい。
【0046】
図9の中欄では、位置ゲートPGは、レーダ物標Tの予測位置を中心とせずその周囲に設定される円である。つまり、位置ゲートPGのゲート幅は、レーダ物標Tの予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、広く設定される。ここで、図9の左欄の位置ゲートPGを、レーダ物標Tの予測速度と同一方向に平行移動すればよい。
【0047】
図9の右欄では、位置ゲートPGは、レーダ物標Tの予測位置を中心とせずその周囲に設定される楕円である。つまり、位置ゲートPGのゲート幅は、レーダ物標Tの予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、広く設定される。ここで、図9の中欄の位置ゲートPGを、レーダ物標Tの予測速度と垂直方向に圧縮すればよい。
【0048】
このように、各々のレーダ物標Tの予測速度と同一方向について、各々のレーダ物標Tの観測位置を確実に紐付け、各々のレーダ物標Tの予測速度と反対方向について、ノイズを拾う確率を確実に低減し、位置ゲートPGの面積を抑制することができる。
【0049】
そして、各々のレーダ物標Tの予測速度は、レーダシステムRから見て360°に渡る方向のうちのいずれかの方向であり、位置ゲートPGを絞る方向が2方向に制限されない。
【0050】
(本開示の第2のゲート処理の詳細)
本開示の第2のゲート処理の詳細について説明する。本開示の第2のゲート処理の手順を図10に示す。ゲート処理部31は、一つのレーダ物標Tの今回の予測位置の周囲に位置ゲートを設定する(ステップS11)。そして、当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在するかどうかを確認する(ステップS12)。
【0051】
当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在するときに(ステップS12、YES)、ゲート処理部31は、一つのレーダ物標Tの今回の予測速度のドップラ成分の周囲に速度ゲートを設定する(ステップS13)。そして、当該速度ゲートの内部において、今回の観測ドップラ速度が存在するレーダ物標Tを選択する(ステップS14)。さらに、当該一つのレーダ物標Tの今回の予測位置と、選択したレーダ物標Tの今回の観測位置と、を紐付けて物標追尾部32に出力する(ステップS15)。
【0052】
当該位置ゲートの内部において、複数のレーダ物標Tの今回の観測位置が存在せず、当該一つのレーダ物標Tの今回の観測位置のみが存在するときに(ステップS12、NO)、ゲート処理部31は、当該一つのレーダ物標Tの今回の予測位置と、当該一つのレーダ物標Tの今回の観測位置と、を紐付けて物標追尾部32に出力する(ステップS16)。
【0053】
本開示の第2のゲート処理の具体例として、すれ違いの場合を図11の左欄に示す。図11の左欄に示したすれ違いは、図6に示したすれ違いと同様である。
【0054】
レーダ物標T9の予測位置及び予測速度のドップラ成分は、黒丸で示され、レーダ物標T9の観測位置及び観測ドップラ速度は、黒四角で示される。速度ゲートVG9のうちのXY平面を含む断面は、レーダ物標T9の予測位置を中心としてその周囲に設定される。速度ゲートVG9のうちのV軸(Vはドップラ速度)を含む断面は、レーダ物標T9の予測速度のドップラ成分の周囲に設定される。レーダ物標T10の観測位置及び観測ドップラ速度は、白四角で示される。レーダ物標T10の予測位置、予測速度のドップラ成分及び速度ゲートについては、図11の左欄の簡単化のために示していない。
【0055】
レーダ物標T9の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG9の内部に存在するが、レーダ物標T10の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG9の内部に存在しない。よって、レーダ物標T9の予測位置と、レーダ物標T9の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T10の予測位置と、レーダ物標T10の観測位置と、を正しく紐付けることができる(図11の左欄に不図示)。
【0056】
本開示の第2のゲート処理の具体例として、追い越しの場合を図11の中欄に示す。図11の中欄に示した追い越しは、図7に示した追い越しと同様である。
【0057】
レーダ物標T12の予測位置及び予測速度のドップラ成分は、白丸で示され、レーダ物標T12の観測位置及び観測ドップラ速度は、白四角で示される。速度ゲートVG12のうちのXY平面を含む断面は、レーダ物標T12の予測位置を中心としてその周囲に設定される。速度ゲートVG12のうちのV軸(Vはドップラ速度)を含む断面は、レーダ物標T12の予測速度のドップラ成分の周囲に設定される。レーダ物標T11の観測位置及び観測ドップラ速度は、黒四角で示される。レーダ物標T11の予測位置、予測速度のドップラ成分及び速度ゲートについては、図11の中欄の簡単化のために示していない。
【0058】
レーダ物標T12の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG12の内部に存在するが、レーダ物標T11の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG12の内部に存在しない。よって、レーダ物標T12の予測位置と、レーダ物標T12の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T11の予測位置と、レーダ物標T11の観測位置と、を正しく紐付けることができる(図11の中欄に不図示)。
【0059】
本開示の第2のゲート処理の具体例として、壁際歩行の場合を図11の右欄に示す。図11の右欄に示した壁際歩行は、図8に示した壁際歩行と同様である。
【0060】
レーダ物標T14の予測位置及び予測速度のドップラ成分は、白丸で示され、レーダ物標T14の観測位置及び観測ドップラ速度は、白四角で示される。速度ゲートVG14のうちのXY平面を含む断面は、レーダ物標T14の予測位置を中心としてその周囲に設定される。速度ゲートVG14のうちのV軸(Vはドップラ速度)を含む断面は、レーダ物標T14の予測速度のドップラ成分の周囲に設定される。レーダ物標T13の観測位置及び観測ドップラ速度は、黒四角で示される。レーダ物標T13の予測位置、予測速度のドップラ成分及び速度ゲートについては、図11の右欄の簡単化のために示していない。
【0061】
レーダ物標T14の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG14の内部に存在するが、レーダ物標T13の観測位置及び観測ドップラ速度は、速度ゲートVG14の内部に存在しない。よって、レーダ物標T14の予測位置と、レーダ物標T14の観測位置と、を正しく紐付けることができる。そして、レーダ物標T13の予測位置と、レーダ物標T13の観測位置と、を正しく紐付けることができる(図11の右欄に不図示)。
【0062】
このように、複数のレーダ物標Tが接近しているときでも、各々のレーダ物標Tの位置ゲートのみならず速度ゲートを設定したうえで、各々のレーダ物標Tの予測位置と観測位置とを正しく紐付けることにより、複数のレーダ物標Tを高精度に追尾することができる。なお、複数のレーダ物標Tが並行しているときには、各々のレーダ物標Tの予測位置と観測位置とを正しく紐付けるまでもなく、複数のレーダ物標Tをまとめて追尾することで足りる。
【0063】
本開示の速度ゲートの設定の具体例を図12及び図13に示す。図12では、急激な速度の変化に対処する。図13では、ノイズを拾う確率を低減する。
【0064】
図12の左欄では、レーダ物標T15の観測信号点クラスタについて、観測ドップラ速度の分散値が小さい。そこで、速度ゲートVG15のV軸(Vはドップラ速度)方向のゲート幅は、狭めに設定される。具体的には、速度ゲート幅は、レーダ物標T15の予測速度のドップラ成分と、レーダ物標T15の観測ドップラ速度の分散値に基づき変化する変数(小さな分散値に応じた小さな変数)と、の和として設定される。さらに、速度ゲート幅として、これらの和に定数を加算してもよい。つまり、速度ゲート幅は、レーダ物標T15の予測速度のドップラ成分を主として含むため、実際のほぼ一定の速度を反映したうえで、安定したゲート幅となる。
【0065】
図12の右欄では、レーダ物標T16の観測信号点クラスタについて、観測ドップラ速度の分散値が大きい。そこで、速度ゲートVG16のV軸(Vはドップラ速度)方向のゲート幅は、広めに設定される。具体的には、速度ゲート幅は、レーダ物標T16の予測速度のドップラ成分と、レーダ物標T15の観測ドップラ速度の分散値に基づき変化する変数(大きな分散値に応じた大きな変数)と、の和として設定される。さらに、速度ゲート幅として、これらの和に定数を加算してもよい。つまり、速度ゲート幅は、レーダ物標T16の観測ドップラ速度の分散値を大きめに含むため、過去のほぼ一定の速度に影響されずに、臨機応変なゲート幅となる。
【0066】
このように、各々のレーダ物標Tが急激に速度を変化させるときでも、各々のレーダ物標Tの観測ドップラ速度が各々の速度ゲートの内部から外れることを防止したうえで、各々のレーダ物標Tが突然現れた新物標であると判定されることを防止することができる。なお、このようなレーダ物標Tとして、歩行者及び動物(鳥や熊等)が挙げられる。
【0067】
図12の各欄では、速度ゲートVG15、VG16は、XYV空間(Vはドップラ速度)での回転楕円体である。速度ゲートVG15、VG16のうちのXY平面を含む断面は、レーダ物標T15、T16の予測位置を中心としてその周囲に設定される円である。速度ゲートVG15、VG16のうちのV軸を含む断面は、レーダ物標T15、T16の予測速度のドップラ成分の周囲に設定される楕円である。つまり、速度ゲートVG15、VG16のXYV各方向のゲート幅は、レーダ物標T15、T16の予測速度に対して、同一方向についても反対方向についても、同様に設定される。ここで、速度ゲートVG15、VG16のXY各方向のゲート幅は、図9の各欄と同様に、レーダ物標T15、T16のクラスタの観測位置の分散値が大きいほど、広く設定してもよい。
【0068】
図13の各欄でも、速度ゲートVGは、XYV空間(Vはドップラ速度)での回転楕円体である。速度ゲートVGのうちのXY平面を含む断面は、レーダ物標Tの予測位置を中心とせずその周囲に設定される円である。速度ゲートVGのうちのV軸を含む断面は、レーダ物標Tの予測速度のドップラ成分の周囲に設定される楕円である。つまり、速度ゲートVGのXYV各方向のゲート幅は、レーダ物標Tの予測速度に対して、同一方向については反対方向と比べて、広く設定される。ここで、図12の各欄の速度ゲートVG15、VG16を、レーダ物標T15、T16の予測速度と同一方向に平行移動すればよい。
【0069】
このように、各々のレーダ物標Tの予測速度と同一方向について、各々のレーダ物標Tの観測ドップラ速度を確実に紐付け、各々のレーダ物標Tの予測速度と反対方向について、ノイズを拾う確率を確実に低減し、速度ゲートVGの容積を抑制することができる。
【0070】
そして、各々のレーダ物標Tの予測速度は、レーダシステムRから見て360°に渡る方向のうちのいずれかの方向であり、速度ゲートVGを絞る方向が2方向に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示のレーダ物標追尾装置及びレーダ物標追尾プログラムは、車載用広帯域MIMOレーダ、先進運転支援システム(ADAS)等に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
R:レーダシステム
T1、T3、T、T9、T10、T11、T12、T13、T14、T15、T16:レーダ物標
T2、T4、T5、T6、T7、T8:既追尾物標
G1、G3、G5、G6、G7、G8:ゲート
PG9、PG10、PG11、PG12、PG13、PG14、PG:位置ゲート
VG9、VG12、VG14、VG15、VG16、VG:速度ゲート
1:レーダ送受信装置
2:レーダ物標観測装置
3:レーダ物標追尾装置
21:信号処理部
22:信号点抽出部
23:クラスタリング部
24:代表点抽出部
31:ゲート処理部
32:物標追尾部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13