(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241202BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20241202BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241202BHJP
C08K 3/015 20180101ALI20241202BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/02
C08K3/22
C08K3/015
C08K5/521
(21)【出願番号】P 2021028496
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020204748
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】相馬 実
(72)【発明者】
【氏名】北川 征樹
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-246925(JP,A)
【文献】特開2004-359755(JP,A)
【文献】特開2005-255517(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-69/00
C08L 101/00-101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が17000~28000の芳香族ポリカ
ーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ISO527-1
及び-2による引張弾性率が1.0~2.5GPaかつISO489による屈折率が1.45~1.59である、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)5~80質量部、及び、Ag、Zn、ZrまたはCu元素を少なくとも一つ含有する無機酸化物(C)
0.2~2.5質量部を含有し、
熱可塑性樹脂(B)が、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含む熱可塑性ポリエステル樹脂であり、厚さ2mmのプレートでのヘイズ値が20%以下であることを特徴とする抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、リン系安定剤(D)を、芳香族ポリカ
ーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~0.15質量部含有する請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
無機酸化物(C)のISO489による屈折率が、1.45~1.59である請求項1
または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
無機酸化物(C)が、Ag、Zn、ZrまたはCuイオンの溶出能を有する無機酸化物である請求項1~
3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
リン系安定剤(D)が、ステアリルアシッドホスフェート系安定剤である請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
ISO179によるノッチ付きシャルピー衝撃強さが、20kJ/m
2以上である請求項1~
5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物および成形体に関し、詳しくは、高い透明性と耐衝撃性に優れた抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、光透過率が高く、透明性に優れた樹脂であり、耐熱性、成形性、実用強度に優れることから、電気製品、自動車部品、文具、家具、日用品などに幅広く使用されている。
【0003】
近年、衛生観念、清潔志向の高まりから、各種の樹脂成形品にも抗菌性を付与した商品が好まれるようになり、また、最近のコロナウイルス禍により使用する樹脂材料への抗菌性の付与が特に強く要望されるようになっている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂に抗菌性を付与した製品は多くあるが、抗菌剤を添加することにより、ポリカーボネート樹脂の有意な特性の1つである透明性が低下するという問題がある。そこで、抗菌性を付与しつつも透明性の低下を抑制した抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物が各種提案されている。例えば、特許文献1には、銀イオンを溶出する特定の組成のガラスと酸化防止剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物が、色相の変化や透明性の不良をもたらすことなく抗菌性に優れるとの提案がなされている。
【0005】
しかし、無機系抗菌剤は、ポリカーボネート樹脂に配合した際、ポリカーボネート樹脂本来の透明性を大きく低下させるという欠点があり、特許文献1に記載の発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性は不十分であり、また耐衝撃性も悪いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決し、透明性を低下させることなく、耐衝撃性にも優れた抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、特定の粘度平均分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に、特定の引張弾性率を有し特定の屈折率を有する熱可塑性樹脂と、特定元素を含む無機酸化物を、それぞれ特定の量で組み合わせて含有することにより、高い透明度、高い耐衝撃性及び高度の抗菌性を有し、さらには耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性の全てを併せ有する抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物および成形体に関する。
【0009】
1.粘度平均分子量が17000~28000の芳香族ポリカ―ボネート樹脂(A)100質量部に対し、ISO527-1.2による引張弾性率が1.0~2.5GPaかつISO489による屈折率が1.45~1.59である、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)5~80質量部、及び、Ag、Zn、Zr、またはCu元素を少なくとも一つ含有する無機酸化物(C)0.1~2.5質量部を含有し、厚さ2mmのプレートでのヘイズ値が20%以下であることを特徴とする抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物。
2.さらに、リン系安定剤(D)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~0.15質量部含有する上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.熱可塑性樹脂(B)が、非晶性熱可塑性ポリエステル樹脂である上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.熱可塑性樹脂(B)が、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含む熱可塑性ポリエステル樹脂である上記1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.熱可塑性樹脂(B)が、カルボン酸構成単位が、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸残基のうち少なくとも1種から選ばれるカルボン酸単位であり、ジオール由来の構成単位が、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンを全ジオール構成単位中10~100モル%、および、エチレングリコールもしくは1,4-シクロヘキサンジメタノールを全ジオール構成単位中90~0モル%である熱可塑性ポリエステル樹脂である上記1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0010】
6.無機酸化物(C)のISO489による屈折率が、1.45~1.59である上記1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
7.無機酸化物(C)が、Ag、Zn、ZrまたはCuイオンの溶出能を有する無機酸化物である上記1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
8.リン系安定剤(D)が、ステアリルアシッドホスフェート系安定剤である上記2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
9.ISO179によるノッチ付きシャルピー衝撃強さが、20kJ/m2以上である上記1~8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
10.上記1~9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物は、高い透明度と高度の抗菌性と高い耐衝撃性、さらには耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性の全てをバランスよく併せ有する。
粘度平均分子量が17000~28000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に、引張弾性率が1.0~2.5GPaという柔らかく、且つ屈折率が芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と同レベルである熱可塑性樹脂(B)、さらに抗菌性の無機酸化物(C)を組み合わせることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性と透明性の両方をより高度なものとし、優れた抗菌性を有しながら、優れた耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性も有するポリカーボネート樹脂組成物とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例における耐薬品性の評価に使用した三点曲げ荷重用治具の形状を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
【0014】
本発明の抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量が17000~28000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、ISO527-1.2による引張弾性率が1.0~2.5GPaかつISO489による屈折率が1.45~1.59である、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)5~80質量部、及び、Ag、Zn、ZrまたはCu元素を少なくとも一つ含有する無機酸化物(C)0.1~2.5質量部を含有し、厚さ2mmのプレートでのヘイズ値が20%以下であることを特徴とする。
【0015】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、一般式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で表される、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは、芳香族炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、芳香族ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料モノマーとしての芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、以下の通りである。
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0018】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0019】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0020】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,10-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0021】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0022】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0023】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類がより好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が特に好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0025】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0026】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0027】
・芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち、特に好適なものについて具体的に説明する。
【0028】
界面重合法
まず、芳香族ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによって芳香族ポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調節剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0029】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述の通りである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0030】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0032】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限はないが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10~12にコントロールするために、5~10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10~12、好ましくは10~11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0033】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’-ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m-メチルフェノール、p-メチルフェノール、m-プロピルフェノール、p-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロぺニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o-ヒドロキシ安息香酸、2-メチル-6-ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。
なお、分子量調節剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調節剤の使用量をこの範囲とすることで、樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0036】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)~数時間(例えば、6時間)である。
【0037】
溶融エステル交換法
次に、芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0038】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0040】
芳香族ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0041】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0042】
溶融エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。中でも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100~320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0044】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0045】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0047】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量(Mv)が17000~28000の範囲にあるものを使用する。粘度平均分子量(Mv)がこのような範囲にあるものを使用することで、耐衝撃性と透明性に優れた樹脂組成物とすることができる。Mvが17000より低いと耐衝撃性が不十分であり、28000を超えると熱可塑性樹脂(B)との均一な分散が難しくなって樹脂組成物の透明性が悪くなりやすい。
粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは18000以上、より好ましくは19000以上、さらに好ましくは20000以上であり、好ましくは27000以下、より好ましくは26000以下である。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して、上記範囲に調整することでもよい。
【0048】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0049】
芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これにより芳香族ポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造された芳香族ポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0050】
なお、末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0051】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、芳香族ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。
【0052】
[熱可塑性樹脂(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ISO527-1.2による引張弾性率が1.0~2.5GPaかつISO489による屈折率が1.45~1.59である、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含有する。引張弾性率と屈折率がこのような範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に組み合わせて含有することにより、樹脂組成物の耐衝撃性を向上させ、屈折率が芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(1.584)に近似することで、透明性に優れたものが可能となる。
熱可塑性樹脂(B)の引張弾性率は、好ましくは1.1GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上、さらに好ましくは1.3GPa以上、特に好ましくは1.4GPa以上であり、好ましくは2.4GPa以下、より好ましくは2.3GPa以下、さらに好ましくは2.2GPa以下、中でも2.1GPa以下、2.0GPa以下、1.9GPa以下、1.8GPa以下、1.7GPa以下であることが好ましい。
【0053】
熱可塑性樹脂(B)は、上記引張弾性率と屈折率を満たす芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂であれば制限はないが、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、メチルメタクリレート系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-フェニルメタクリレート共重合樹脂)等が好ましく挙げられる。
また、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外の、上記引張弾性率と屈折率を満たす脂肪族ポリカーボネート樹脂も好ましく使用できる。脂肪族ポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジヒドロキシ化合物を原料とするものであり、代表例としては、例えば、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。また、イソソルビド、イソマンニド等の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物を原料としたものも好ましく挙げられる。
【0054】
熱可塑性樹脂(B)としては、熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましく、特に非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂の非晶性とは、示差走査熱量計(DSC)で測定した際に明確な融点(Tm)を示さないことを意味する。
【0055】
非晶性ポリエステル樹脂としては、脂環式ジオール及び/又は環状アセタール骨格を有するジオール由来の構造単位を有する非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
脂環式ジオールとしては、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(シス、トランス、もしくはこれらの混合物であってもよい。)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(または1,3-および1,4-シクロヘキサンジメタノールの混合物、シス、トランス、もしくはこれらの混合物であってもよい。)が好ましく挙げられる。
【0056】
環状アセタール骨格を有するジオールとしては、下記一般式(1)で表されるジオール等が好ましく挙げられる。
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3~10の脂環式炭化水素基または炭素数が6~10の芳香族炭化水素基を示す。
【0057】
上記一般式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3~10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6~10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基であるが、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、ジメチルエチレニル基、イソプロピレン基、イソブチレン基である。
一般式(1)の環状アセタール骨格を有するジオール化合物としては、R1およびR2がジメチルエチレニル基である、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンが特に好ましい。
【0058】
脂環式ジオール及び環状アセタール骨格を有するジオール成分の構成割合としては、ジオール成分の総モル%を100モル%としたとき、好ましくは10~100モル%、より好ましくは20~100モル%、さらに好ましくは30~100モル%である。
【0059】
非晶性ポリエステル樹脂は、脂環式ジオール及び環状アセタール骨格を有するジオール以外の他のジオール成分を含んでいてもよい。他のジオールの含有量は、非晶性ポリエステル樹脂のジオール成分の総モル数を100モル%としたとき、90モル%以下とすることが好ましく、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。
他のジオールとしては、2~16個の炭素原子を含むジオールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール又はそれらの混合物が挙げられる。
【0060】
非晶性ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分としては、脂環式ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸が挙げられるが、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸が好ましく、その量は好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上で構成される。テレフタル酸に加えて、ジカルボン酸成分は、最大50モル%未満までの他のジカルボン酸を有することができる。
テレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-、1,5-、2,6-、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-スチルベンジカルボン酸等が挙げられる。
さらに、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アザレン酸等の脂肪族ジカルボン酸を含むことも可能であるが、その量は好ましくは10モル%以下である。
【0061】
非晶性ポリエステル樹脂の極限粘度は、好ましくは0.3~1.2dl/g、より好ましくは0.5~1.0dl/g、更に好ましくは0.7~0.9dl/gの範囲である。極限粘度が上記範囲にあることで、成形性や強度が優れる。
なお、本発明においてポリエステル樹脂の極限粘度[η]は、1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、25℃で測定される。
【0062】
非晶性ポリエステル樹脂として、特に好ましいのは、テレフタル酸残基と、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」ともいう。)残基及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(以下「TMCD」ともいう。)残基を含むポリエステル樹脂が好ましい。
全ジオール残基に占めるCHDM残基とTMCD残基の合計の割合が85モル%以上、特に90~100モル%、とりわけ95~100モル%であることが、透明性、耐熱性の観点から好ましい。
また、CHDM残基とTMCD残基の合計100モル%に占めるCHDM残基の割合が10~90モル%で、TMCD残基の割合が90~10モル%であることが好ましく、CHDM残基の割合が20~85モル%でTMCD残基の割合が15~80モル%であることがより好ましく、CHDM残基の割合が30~80モル%でTMCD残基の割合が20~70モル%であることが特に好ましい。
【0063】
このような非晶性ポリエステル樹脂は、市販品を使用することも可能であり、例えばイーストマンケミカル社製の商品名「トライタン」シリーズから選択して使用することができる。
【0064】
さらに、非晶性ポリエステル樹脂として、特に好ましいのは、カルボン酸構成単位が、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸残基のうち少なくとも1種から選ばれるカルボン酸単位であり、ジオール由来の構成単位が、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「スピログリコール」ともいう。)を全ジオール構成単位中10~100モル%、および、エチレングリコールもしくは1,4-シクロヘキサンジメタノールを全ジオール構成単位中90~0モル%であるポリエステル樹脂である。
【0065】
スピログリコール由来の構成単位は、全ジオール構成単位中の10~80モル%であることが好ましく、より好ましくは30~75モル%である。また、エチレングリコール由来の構成単位は0~65モル%であることが好ましい。
カルボン酸構成単位はテレフタル酸残基が90~100モル%であることが好ましい。
【0066】
このような非晶性ポリエステル樹脂は、市販品を使用することも可能であり、例えば
三菱ガス化学社製の商品名「アルテスタ」シリーズから選択して使用することができる。
【0067】
熱可塑性樹脂(B)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5~80質量部であり、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。このような範囲で含有することにより、耐衝撃性と透明性、さらには耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性をバランスよく向上させることができる。
【0068】
[無機酸化物(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、Ag、Zn、ZrまたはCu元素を少なくとも一つ含有する無機酸化物(C)を含有する。無機酸化物(C)はAg、Zn、ZrまたはCu元素(原子)の少なくとも一種を含有する抗菌性の無機酸化物粒子であり、このような無機酸化物(C)を、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)に、組み合わせて含有することにより、樹脂組成物の耐衝撃性を維持したまま、透明性に優れた抗菌性樹脂組成物が可能となる。
【0069】
無機酸化物(C)は、Ag、Zn、ZrまたはCu元素(原子)の少なくとも一つが含まれていればよく、その種類は特に制限されない。また、Ag、Zn、ZrまたはCu元素(原子)の形態も特に制限されず、例えば、金属、イオン、酸化物、塩(錯体を含む)など形態で含まれる。無機酸化物(C)は、Ag、Zn、ZrまたはCuイオンの溶出能を有する無機酸化物が好ましい。
例えば、銀の場合を代表として挙げると、銀イオンを徐放する銀粒子や、銀を含む無機酸化物の抗菌剤が挙げられる。
【0070】
Ag、Zn、Zr、Cu元素(原子)は一種単独でもよく、2種またはそれ以上を組み合わせてもよい。これらの中でもAg、Zn、Cuが抗菌性に優れる点で好ましく、Ag系、Ag-Zn系、Zn系、Ag-Cu系が好ましく、AgまたはAgとZnを組み合わせたものが好ましい。
【0071】
抗菌性を有する無機酸化物としては、Ag、Zn、ZrまたはCuの酸化物あるいはこれらの複合酸化物を挙げることができ、酸化銀、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化銅、またこれらの複合酸化物が好ましく挙げられる。また酸化銅ゾル、銀オキシドゾル、亜鉛ゾル、ジルコニアゾル等でもよい。
【0072】
抗菌性の無機酸化物(C)としては、Ag、Zn、ZrまたはCuの金属、イオン、金属酸化物、金属塩等を無機酸化物担体に担持したものも使用できる。金属塩は、Ag、Zn、ZrまたはCuの硝酸塩、硫酸塩、およびハロゲン化物等である。
無機酸化物担体としては、ガラス、セラミックス、シリカ、シリカゲル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化チタン、ゼオライト、粘土鉱物などが挙げられる。これらの担体は粒子状、特に微粒子状のものが好ましい。
【0073】
無機酸化物(C)は、ISO489による屈折率が、1.45~1.59であることが好ましい。屈折率がこのような範囲にあることで、樹脂組成物の透明性をより良好にすることができる。
【0074】
抗菌性の無機酸化物(C)としては、銀、あるいは銀-亜鉛を、ガラス、セラミックス等に担持したものが特に好ましい。
【0075】
抗菌性の無機酸化物(C)は粒子状のものが好ましく、その平均粒子径は好ましくは0.1~20μmであり、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは13μm以下である。平均粒子径がこのような範囲にあると、抗菌効果が高く、配合量をより微量とすることができ、樹脂組成物の透明性をより良好にすることができる。
【0076】
無機酸化物(C)におけるAg、Zn、Zr、Cu元素(原子)の含有量は、無機酸化物(C)全質量100質量%に対して、0.1~10質量%が好ましい。
【0077】
無機酸化物(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1~2.5質量部であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、特には0.4質量部以上が好ましく、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.8質量部以下、さらに好ましくは1.5質量部以下である。このような範囲で含有することにより、優れた透明性を有しながら、耐衝撃性を維持し、さらには耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性をバランスよく保つことができる。
【0078】
[リン系安定剤(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2C族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物や有機ホスフェート化合物が好ましく、有機ホスフェート化合物が特に好ましい。
【0079】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0080】
有機ホスフェート化合物としては、下記一般式で表される有機ホスフェートが好ましい。
【化2】
式中、R
1はアルキル基又はアリール基を表す。nは1~2の整数を表す。なお、nが1のとき、2つのR
1は同一でも異なっていてもよい。
【0081】
上記一般式において、R1はアルキル基又はアリール基を表す。R1は、炭素数が1以上、好ましくは2以上であり、通常30以下、好ましくは25以下のアルキル基、又は、炭素数が6以上、通常30以下のアリール基であることがより好ましいが、R1は、アリール基よりもアルキル基が好ましい。なお、R1が2以上存在する場合、R1同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0082】
上記一般式で示される好ましい化合物として、R1が炭素原子数8~30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8~30の長鎖アルキル基の具体例としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0083】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクタデシルアシッドホスフェート(即ち、ステアリルアシッドホスフェート)、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0084】
これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェート(即ち、ステアリルアシッドホスフェート)、或いは、モノ-、及びジ-ステアリルアシッドホスフェートが、耐熱性が高いため樹脂加工温度での分解ガス発生が少なく、樹脂との相溶性や樹脂中への分散性が良いため樹脂加工品表面へのブリードアウトが少なく好ましい。このものはADEKA社製の商品名「アデカスタブAX-71」として、市販されている。
【0085】
有機ホスフェート化合物としては、有機ホスフェート金属塩も含め好適に使用できる。具体的にはジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、モノ-、及びジ-ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
このような有機ホスフェート金属塩としては、具体的には、例えば、城北化学工業社製「JP-518Zn」、モノ-、及びジ-ステアリルアシッドホスフェートとしては、ADEKA社製「AX-71」等が挙げられる。
【0086】
上記の中でも、モノ-、またはジ-ステアリルアシッドホスフェート、及びこれらの混合物が、少ない添加量で樹脂安定性を発揮するため、例えば湿熱環境下での白化等の外観変化が起こりにくく好ましい。
【0087】
リン系安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~0.15質量部であり、より好ましくは0.015質量部以上であり、より好ましくは0.14質量部以下、より好ましくは0.13質量部以下である。リン系安定剤の含有量が上記範囲にあることで、良好な熱安定効果が発揮される。
【0088】
[フェノール系安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、フェノール系安定剤を含有することも好ましい。フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0089】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0090】
フェノール系安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0091】
[離型剤]
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することも好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0092】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0093】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0094】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0095】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0096】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0097】
数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0098】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0099】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0100】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0101】
離型剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0102】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0103】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0104】
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
ただし、その他の樹脂を含有する場合の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらに5質量部以下、中でも3質量部以下、特には1質量部以下とすることが好ましい。
【0105】
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0106】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0107】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0108】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い透明性を有し、これを用いて成形された厚さ2mmのプレートでのヘイズ値が20%以下を示す。ヘイズ値は好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下であり、その下限は好ましくは2%以上、さらには3%以上である。
ヘイズ値を測定する方法の詳細は、実施例に記載する通りであるが、得られた2mm厚、縦50mm×横50mmのプレートを、JIS K7136、JIS K7361に準拠し、ヘイズメーターで、D65光源、10°視野にて、行われる。
【0109】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い耐衝撃性を有し、ISO179によるノッチ付きシャルピー衝撃強さが、好ましくは20kJ/m2以上を達成することができる。シャルピー衝撃強さは、より好ましくは25kJ/m2以上、さらに好ましくは30kJ/m2以上、中でも35kJ/m2以上、40kJ/m2以上、45kJ/m2以上、50kJ/m2以上、55kJ/m2以上、特には60kJ/m2以上である。
【0110】
成形体の製造方法は、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられ、また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。中でも、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などの射出成形法が好ましい。
【0111】
[成形体]
成形体の例を挙げると、電気・電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。特に、人の手が触れる製品や部品に好適であり、例えば、雑貨、一般家電のスイッチやボタン、エレベータの操作ボタン、パチンコやスロットマシン等のアミューズメント機器のボタンや前面カバー、レジャー用品や遊具等が挙げられる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
実施例および比較例に使用した各成分は、以下の表1の通りである。
【0113】
【0114】
(実施例1~15、比較例1~12)
[樹脂ペレット製造]
上記表1に記載した各成分を、後記表2以下に記した割合(質量比)で配合し、二軸押出機(芝浦機械社製「TEM26SX」)により、バレル温度280℃、200rpmで混練し、吐出量20Kg/hrでポリカーボネート樹脂組成物ペレットを製造した。
【0115】
[成形条件]
得られたペレットを、80℃、5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、ASTM D790曲げ試験片を得た。
【0116】
[耐薬品性試験]
図1に示す三点曲げ荷重をかけられる治具を使用し、ASTM D790曲げ試験片1を、エタノールを塗布した状態で、試験片取り付け用治具2の中央下部に取り付け、試験片取り付け用治具2に、撓み量を調整する為のかしめ調整用円筒3を取り付け、蝶ネジ4で固定することにより、撓み量(変形率%)が調整可能となっている。
試験片の長さ方向の中心部にエタノールを塗布後、変形率が1%となるよう3点曲げし、室温23℃50%Rh環境下で48時間静置後、エタノール塗布部を光学顕微鏡にて観察し、クラックの有無を確認した。
【0117】
[耐薬品性評価]
以下の基準で、耐薬品性の評価を行った。
クラック発生しない場合をA。
クラック発生し、そのクラック長さがいずれも5mm未満をB。
クラック発生し、そのいずれかのクラック長さが5mm以上の場合をCとした。
【0118】
[抗菌性評価用およびHAZE測定用プレート作製]
得られたペレットを、80℃、5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所製「J85AD」)を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、2mm厚、縦100mm×横100mmのプレートを得た後に、2mm厚、縦50mm×横50mmとなるよう裁断し、抗菌性評価およびHAZE測定用プレートを得た。
【0119】
[抗菌性評価]
得られた2mm厚、縦50mm×横50mmを用いJIS Z2801に記載の方法で、室温35℃、90%Rh環境下の24時間後の大腸菌の生菌数を確認し、24時間後で生菌数に増加なければ〇、増加した場合は×とした。
【0120】
[透明性:HAZE測定]
得られた2mm厚、縦50mm×横50mmプレートを、JIS K7136、JIS K7361に準拠し、日本電色工業株式会社製ヘイズメーター「NDH4000」で、D65光源、10°視野にて、HAZE値(%)を測定した。
【0121】
[耐湿熱性評価]
得られた2mm厚、縦50mm×横50mmプレートを85℃、85%Rhの湿熱環境下に100時間静置し、その前後でのヘイズ値差(%)を測定した。
【0122】
[耐衝撃性:ノッチ付きシャルピー衝撃試験]
得られたペレットを80℃、5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、ISO527-1,2のダンベル試験片1A型を3mm厚で作製し、ISO179に記載のノッチ付きシャルピー試験片形状に切削後、シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を測定した。
【0123】
[耐熱性:DTUL測定(荷重たわみ温度、単位:℃)]
得られたペレットを80℃、5時間乾燥した後、日本製鋼所社製射出成形機「J85AD」を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、ISO527-1,2のダンベル試験片1A型を4mm厚で作製し、ISO75-2記載の試験片形状に切削し、ISO75-2記載の方法で、1.8MPa荷重でのDTUL(単位:℃)を測定した。
以上の結果を以下の表2-5に示す。
なお、表中、「実n」は実施例nを、「比n」は比較例nを表す。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
[抗菌性評価-抗菌活性値]
さらに、実施例1と比較例1につき、以下の抗菌試験を行った。
得られた2mm厚、縦50mm×横50mmのプレートを用い、50℃の水中に18時間浸漬(抗菌製品技術協議会持続性基準の耐水性区分2に相当)したのちに、JIS Z2801に記載の方法で、室温35℃、90%Rh環境下の24時間後の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)の抗菌活性値Rを測定した。
得られた抗菌活性値Rが2以上であればA、抗菌活性値Rが1以上2未満であればB、抗菌活性値Rが1未満であればCと判定した。
結果を以下の表6に示す。
【0129】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の抗菌性ポリカーボネート樹脂組成物は、高い透明度と高度の抗菌性と高い耐衝撃性、さらには耐熱性と耐湿熱性、耐薬品性に優れるので、人の手が触れる家電製品、生活用品、雑貨、遊技機、ゲーム機器、遊具等の部品に広く好適に利用でき、産業上の利用性は非常に高い。