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  • 特許-官能基密度測定方法 図1
  • 特許-官能基密度測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】官能基密度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2273 20180101AFI20241202BHJP
【FI】
G01N23/2273
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021039203
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139005
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曹 健
(72)【発明者】
【氏名】薮原 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 友佳子
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0308969(US,A1)
【文献】特開2001-033405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 31/00-31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の官能基Aを含む物質の薄膜が基板の表面に形成された試料について、前記薄膜における前記特定の官能基Aの密度を測定する官能基密度測定方法であって、
前記試料において前記基板に形成された前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、
前記試料において前記基板に形成された前記薄膜に、前記官能基Aと反応する官能基Bを有する化学修飾剤を作用させる化学修飾工程と、
前記化学修飾工程において前記化学修飾剤が作用した前記試料についてXPS法で解析を行うXPS解析工程と、
前記XPS解析工程で得た解析結果、および、前記膜厚測定工程で測定した前記薄膜の膜厚結果を用いて、前記薄膜における前記特定の官能基Aの密度を求める官能基密度算出工程と、
を備え
前記試料は、前記基板に形成された前記薄膜の膜厚が、前記XPS解析工程で行うXPS法の検出深さ未満であって、前記基板が前記官能基Aと同じ構成元素を含み、
前記膜厚測定工程では、前記化学修飾工程において前記化学修飾剤を前記薄膜に作用させる前に、前記薄膜の膜厚を測定する、
官能基密度測定方法。
【請求項2】
前記化学修飾剤は、前記官能基B以外に、分子構造中にハロゲン原子を有する、
請求項1に記載の官能基密度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、官能基密度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学修飾XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法(化学修飾X線光電子分光法)は、試料中に含まれる特定の官能基Aの量等を測定する方法として知られている。化学修飾XPS法では、官能基Aと反応する官能基Bを有する化学修飾剤を試料に作用させることで、官能基Aと官能基Bとを結合させた後に、XPS法で測定を行う。XPS法では、試料の表面にX線を照射し、その照射された表面から放出される光電子の運動エネルギー及び強度を計測する。
【0003】
例えば、シラノール基を有する物質を含む試料について、シラノール基と反応する官能基を一つ有するシランカップリング剤を作用させることで、シラノール基とシランカップリング剤とを結合させた後に、XPS法で試料中のシラノール基の密度(mol/g)を算出する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-198458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
XPS法の検出深さは、試料の表面から数nmの深さである。そのため、基板の表面に検出深さの下限値よりも厚みが薄い薄膜(自然酸化膜など)が形成されている試料の場合には、XPS法では、薄膜の構成元素の他に、基板の構成元素も検出される場合がある。
【0006】
従って、従来においては、基板の構成元素の検出結果に起因して、薄膜に含まれる特定の官能基(シラノール基など)の密度を正確に求めることができない場合がある。
【0007】
したがって、本発明が解決する課題は、基板の表面に形成された薄膜における特定の官能基の密度を正確に求めることが可能な特定官能基密度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の官能基密度測定方法は、膜厚測定工程と化学修飾工程とXPS解析工程と官能基密度算出工程とを備え、特定の官能基Aを含む物質の薄膜が基板の表面に形成された試料について、薄膜における特定の官能基Aの密度を測定する。膜厚測定工程では、試料において基板に形成された薄膜の膜厚を測定する。化学修飾工程では、試料において基板に形成された薄膜に、官能基Aと反応する官能基Bを有する化学修飾剤を作用させる。XPS解析工程では、化学修飾工程において化学修飾剤が作用した試料についてXPS法で解析を行う。官能基密度算出工程では、XPS解析工程で得た解析結果、および、膜厚測定工程で測定した薄膜の膜厚結果を用いて、薄膜における特定の官能基Aの密度を求める。試料は、基板に形成された薄膜の膜厚が、XPS解析工程で行うXPS法の検出深さ未満であって、基板が官能基Aと同じ構成元素を含み、膜厚測定工程では、化学修飾工程において化学修飾剤を薄膜に作用させる前に、薄膜の膜厚を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る官能基密度測定方法で測定される試料の断面図である。
図2図2は、実施形態に係る官能基密度測定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[A]試料
図1は、実施形態に係る官能基密度測定方法で測定される試料の断面図である。
【0012】
図1に示すように、試料1は、薄膜付き基板であって、基板10の表面に薄膜20が形成されている。基材10は、たとえば、金属基板や半導体基板であり、有機物基板でもよい。薄膜20は、たとえば、無機化合物等の物質で形成されている膜であり、有機物で形成されている膜でもよい。
【0013】
具体的には、試料1は、たとえば、基板10であるSi基板の表面に、自然酸化膜であるSiOが薄膜20として形成された試料である。この他に、試料1は、基板10であるAl基板の表面に自然酸化膜であるAiが薄膜20として形成された試料等である。この場合、薄膜20である自然酸化膜(SiO薄膜、Al薄膜)の膜厚は、XPS法による検出深さ未満である。このため、基板10が薄膜20と同様にSiやAlを構成元素として含む場合には、上述したように、XPS法での測定において基板10中のSi元素やAl元素の量も同時に検出されるため、自然酸化膜中において特定の官能基Aが占める割合である官能基密度を正確に測定できない。しかし、本実施形態による官能基密度測定方法によれば、官能基密度を正確に求めることができる。
【0014】
[B]官能基密度測定方法
図2は、実施形態に係る官能基密度測定方法のフローチャートである。
【0015】
[B-1]膜厚測定工程(ST10)
先ず、図2に示すように、膜厚測定工程(ST10)を実行する。膜厚測定工程(ST10)では、試料1(図1参照)において基板10の表面に形成された薄膜20の膜厚を測定する。膜厚の測定は、エリプソメータやTEM(透過型電子顕微鏡)等の公知の方法で行うことができる。尚、薄膜20は、元素aを含むものとする。
【0016】
[B-2]化学修飾工程(ST20)
次いで、化学修飾工程(ST20)を実行する。化学修飾工程(ST20)では、試料1において基板10の表面に形成された薄膜20に化学修飾剤を作用させる。化学修飾剤は、薄膜20において測定対象として含まれる特定の官能基Aと反応する官能基Bを一つ有する物質である。
【0017】
例えば、金属Siで形成された基板10の表面に、自然酸化膜であるSiOが薄膜20として形成されている試料1の場合には、薄膜20を構成するSiOは、官能基Aとしてシラノール基を含んでいる。このためこの場合には、化学修飾剤としては、官能基Aであるシラノール基と選択的に反応する官能基Bを1つ有するシランカップリング剤を用いる。
【0018】
シランカップリング剤は、たとえば、オルガノクロロシラン類、オルガノアルコキシシラン類、オルガノシラザン類である。具体的には、シランカップリング剤は、トリメチルクロロシラン、ブチルジメチルクロロシラン、シアノプロピルジメチルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、3-クロロプロピルジメチルクロロシラン、4-クロロブチルジメチルクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルジメチルクロロシラン、1H,1H,2H,2H‐パーフルオロオクチルジメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ブチルジメチルメトキシシラン、シアノプロピルジメチルメトキシシラン、クロロメチルジメチルメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルジメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、クロロジメチル(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフロロ-n-オクチル)シラン(FOCS)等である。
【0019】
シランカップリング剤などの化学修飾剤は、XPS法で官能基Aを明確に同定するために、官能基Bの他に、XPS法での検出効率が高いハロゲン原子をヘテロ原子として有するものが好ましい。
【0020】
尚、化学修飾は公知の方法で行うことができる。また、化学修飾による薄膜20の膜厚の変化は実質的に無視できる。
【0021】
[B-3]XPS解析工程(ST30)
次いで、XPS解析工程(ST30)を実行する。XPS解析工程(ST30)では、薄膜20に化学修飾剤が作用した試料1についてXPS法による解析を実行する(XPS解析工程)。XPS法による解析は、公知の方法で行うことが可能である。
【0022】
[B-4]官能基密度算出工程(ST40)
次いで、官能基密度算出工程(ST40)を実行する。官能基密度算出工程(ST40)では、XPS解析工程(ST30)で得た解析結果、および、膜厚測定工程(ST10)で得た膜厚測定結果を用いて、薄膜20における特定の官能基Aの密度を求める)。
【0023】
薄膜20の表面から深さL(nm)までの領域に含まれる官能基Aの密度X(mol/g)は、下記の式(1)を用いて算出される。深さLは、膜厚測定工程(ST10)で測定された薄膜20の膜厚よりも小さい値であって、任意に選択される。
【0024】
【数1】
【0025】
NA:薄膜20に含まれる官能基Aの物質量(mol)、
NB:薄膜20のうち深さLnmまでの部分の物質量(mol)、
V:薄膜20を構成する物質の分子量
【0026】
ここで、下記のように、各因子を定義した場合、式(1)は、式(2)に置換可能である。
【0027】
d:薄膜20の膜厚(膜厚測定工程(ST10)で測定した薄膜20の膜厚)、
P:化学修飾XPS法で測定した特定元素の割合(薄膜20に化学修飾剤が作用した試料1についてXPS解析工程(ST30)を行った結果において試料1の全元素の物質量のうち特定元素の物質量が占める割合)、
Q:薄膜20に作用した後の化学修飾剤に含まれる特定元素の個数、
R:化学修飾XPS法で測定した元素aの割合(薄膜20に化学修飾剤が作用した試料1についてXPS解析工程(ST30)を行った結果において、試料1の全元素の物質量のうち元素aの物質量が占める割合)、
S:化学修飾XPS法で測定した薄膜20の元素aの割合(薄膜20に化学修飾剤が作用した試料1についてXPS法で解析を行った結果において、試料1の元素aの物質量のうち薄膜20の元素aの物質量が占める割合)、
V:薄膜20を構成する物質の分子量(g/mol)、
W:薄膜20を構成する物質の分子式中において元素aが含まれる個数
【0028】
【数2】
【0029】
即ち、深さLは、膜厚測定工程で測定された薄膜20の膜厚未満であるため、薄膜20のみに含まれる官能基Aの密度となる。これにより、試料1に形成されている薄膜20の官能基Aの密度を、基板10の影響を排除して正確に求めることができる。
【0030】
[C]実施例
実施例では、試料1として、基板10であるSi基板の表面に、SiO膜が薄膜20として形成された試料を準備した。
【0031】
先ず、試料1において薄膜20であるSiO膜の膜厚dをエリプソメータにより測定したところ、1.87nmであった(d=1.87(nm))。
【0032】
次いで、試料1に化学修飾を行った。化学修飾剤には、クロロジメチル(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフロロ-n-オクチル)シラン(FOCS)を用いた。FOCSは、下記の化学式で示され、化学修飾反応が実行される際には、FOCSのうち塩素元素(Cl)が脱離したSi部分が、シラノール基(Si-OH)の酸素元素に結合した状態になる。このため、化学修飾後のFOCSは、一分子中にフッ素元素Fが13個存在すると共に、シリコン元素が1個存在する(式(2)では、Q=13)。
【0033】
【化1】
【0034】
次いで、FOCSを化学修飾剤として用いて化学修飾された試料1に関して、XPS法により表面の元素比率を測定した。測定結果は、下記の通りであった。
F=22.25%(式(2)では、P=22.25%)、
C=24.14%、
Si=53.62%(式(2)では、R=53.62%)
【0035】
また、薄膜20であるSiO膜を構成するSi元素(元素a)が試料1のSi元素(元素a)に対して占める割合である「式(2)中の因子S」を求めるために、FOCSを化学修飾剤として用いて化学修飾された試料1の表面に関して、XPS法によるナロースキャンを実施した。そして、Si元素の2p軌道に関するスペクトルをついてピークを分割することで、「式(2)中の因子S」の値を求めたところ、0.29であった(S=0.29)。
【0036】
そして、式(2)に基づいて、深さ1nm(L=1(nm))におけるシラノール基の密度Xを算出した。式(2)において、薄膜20を構成する物質(SiO)の分子量Vは、60.1(g/mol)である(V=60.1)。薄膜20を構成する物質(SiO)の分子式中において元素a(Si元素)が含まれる個数は、1個である(W=1)。
【0037】
【数3】
【0038】
上記計算式から判るように、シラノール基の官能基密度Xは、3.42mmol/gであった。
【0039】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1:試料(薄膜付き基板)、10:基板、20:薄膜
図1
図2