(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】液体水素気化装置及び水素を生成する生成方法
(51)【国際特許分類】
F28D 3/02 20060101AFI20241202BHJP
F28F 9/26 20060101ALI20241202BHJP
F28F 19/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
F28D3/02
F28F9/26
F28F19/00 561
(21)【出願番号】P 2021153176
(22)【出願日】2021-09-21
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】江頭 慎二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 朝寛
(72)【発明者】
【氏名】鶴 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】中森 涼馬
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109357159(CN,A)
【文献】特開2017-040296(JP,A)
【文献】特開2017-116090(JP,A)
【文献】特開2003-185096(JP,A)
【文献】特開2016-070301(JP,A)
【文献】中国実用新案第208982182(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 3/02
F28F 9/26
F28F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素か
らガス状又は超臨界状態の水素を生成する液体水素気化装置であって、
海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有する加熱流体との熱交換によって液体水素を
下記の主熱交換器の前段として予熱して前記液体水素の温度よりも高い温度の水素に昇温させる補助熱交換器と、
水素を流す伝熱管と、前記伝熱管の外表面に海水又は工業用水を供給するトラフ部とを有し、前記補助熱交換器から流出した
前記水素を海水又は工業用水との熱交換により
さらに昇温させるオープンラック式の主熱交換器と、を備える、液体水素気化装置。
【請求項2】
前記補助熱交換器は、
前記加熱流体としての中間媒体が用いられ、前記中間媒体を介して液体水素と外部から供給される熱源流体との間で熱交換を行う中間媒体式の熱交換器であって、
前記熱源流体との熱交換によって前記中間媒体の少なくとも一部を気化させる中間媒体蒸発部と、
液体水素を流す伝熱管が設けられており、前記気化した中間媒体との熱交換によって伝熱管内の液体水素を昇温させる水素加熱部と、を備える、請求項1に記載の液体水素気化装置。
【請求項3】
前記主熱交換器につながる主流路と、
外部から供給された液体水素を分流させる分流流路であって、前記外部から供給された液体水素の一部を流入させる第1分流流路と、前記外部から供給された液体水素の他部を流入させる第2分流流路と、を含む前記分流流路と、をさらに備え、
前記補助熱交換器は、前記第1
分流流路上に設けられており、
前記分流流路は、前記第1分流流路に流入して補助熱交換器により昇温した水素と、前記第2分流流路に流入した液体水素と、を合流させて前記主流路に流入させるように、前記主流路につながっている、請求項2に記載の液体水素気化装置。
【請求項4】
液体水素か
らガス状又は超臨界状態の水素を生成する液体水素気化装置であって、
水素を流通させる伝熱管と、前記伝熱管の外表面に海水又は工業用水を供給するトラフ部とを有し、海水又は工業用水との熱交換により水素を昇温させるオープンラック式の主熱交換器と、
前記主熱交換器につながる主流路と、
外部から供給された液体水素を分流させる分流流路であって、前記外部から供給された液体水素の一部を流入させる第1分流流路と、前記外部から供給された液体水素の他部を流入させる第2分流流路と、を含む前記分流流路と、
前記第1分流流路上に配置されており、前記第1分流流路を流れる液体水素を加熱流体との熱交換により昇温させる補助熱交換器と、を備え、
前記分流流路は、前記第1分流流路を流れる前記昇温した水素と、前記第2分流流路を流れる液体水素とを合流させて前記主流路に流入させるように、前記主流路につながっており、
前記補助熱交換器において液体水素の昇温に要する加熱流体の熱負荷の大きさは、前記主熱交換器において水素の昇温に要する海水又は工業用水の熱負荷の大きさよりも小さい、液体水素気化装置。
【請求項5】
前記補助熱交換器における液体水素の加熱により、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する
前記水素が生成されるように構成されている、請求項1又は請求項2に記載の液体水素気化装置。
【請求項6】
前記第1分流流路からの水素と前記第2分流流路からの液体水素との合流により、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素が生成されるように構成されている、請求項3又は請求項4に記載の液体水素気化装置。
【請求項7】
液体水素を昇温させ
てガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法であって、
補助熱交換器において、海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有する加熱流体との熱交換により、外部から供給された液体水素を
下記の第2加熱工程の前段として予熱して前記液体水素の温度よりも高い温度の水素に昇温させる第1加熱工程と、
前記補助熱交換器から流出した水素を
オープンラック式の主熱交換器の伝熱管に流入させて、海水又は工業用水との熱交換により、前記伝熱管内の水素を所定の温度まで
さらに昇温させる第2加熱工程と、を含む
、ガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法。
【請求項8】
前記第1加熱工程において、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素を生成する、請求項7に記載
のガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法。
【請求項9】
液体水素を昇温させ
てガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法であって、
外部から供給された液体水素を第1分流流路と第2分流流路に分流させる分流工程と、
前記第1分流流路上に設けられた補助熱交換器において、加熱流体との熱交換によって前記第1分流流路の液体水素を昇温させる第1加熱工程と、
前記第1分流流路からの水素と、前記第2分流流路からの液体水素とを合流させて主流路に流す合流工程と、
前記主流路の水素を主熱交換器の伝熱管に流入させて、海水又は工業用水との熱交換により、前記伝熱管内の水素を所定の温度まで昇温させる第2加熱工程と、を含み、
第1加熱工程における液体水素を昇温させるための加熱流体の熱負荷の大きさが、前記第2加熱工程における水素を昇温させるための海水又は工業用水の熱負荷の大きさよりも小さい
、ガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法。
【請求項10】
前記合流工程において、前記水素と前記液体水素とを合流させた流体が常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有している、請求項9に記載
のガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素気化装置及び水素を生成する生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ガスを燃料として用いる火力発電所等において、液化天然ガス(LNG)等の低温液化ガスを加熱流体である海水を用いて気化させるオープンラック式のガス気化装置(ORV)が知られている。特許文献1には、低温液化ガスと加熱流体とを熱交換させることにより低温液化ガスを気化させるオープンラック式の気化装置が開示されている。
図6に示すように、このオープンラック式の気化装置
600は、多数の伝熱管
614,624が設けられた熱交換パネル
612,622と、伝熱管
614,624の外表面に海水を供給するためのトラフが設けられた熱源媒体供給部とを有している。特許文献1の気化装置では、伝熱管
614,624の外表面を流下する海水との熱交換によって、伝熱管
614,624内を流れる液化天然ガスを気化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
火力発電所等において、二酸化炭素の排出削減を目的として、液化天然ガスの代替燃料として液体水素を用いることが考えられている。この場合、液体水素は液化天然ガスと同様に、常温まで加熱された上で発電装置に供給される。しかし、液体水素の温度(-253℃)は液化天然ガスの温度(-162℃)よりも低い。このため、液化天然ガス用のオープンラック式の気化装置を用いて液体水素を気化させた場合、伝熱管に加わる熱応力が増加し易くなるとともに伝熱管の外表面における加熱流体の着氷が生じ易くなる。
【0005】
本発明は、液体水素気化装置において、オープンラック式の熱交換器の伝熱管に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管への着氷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における液体水素気化装置は、液体水素からガス状又は超臨界状態の水素を生成する液体水素気化装置であって海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有する加熱流体との熱交換によって液体水素を下記の主熱交換器の前段として予熱して前記液体水素の温度よりも高い温度の水素に昇温させる補助熱交換器と、水素を流す伝熱管と前記伝熱管の外表面に海水又は工業用水を供給するトラフ部とを有し前記補助熱交換器から流出した水素を海水又は工業用水との熱交換により昇温させるオープンラック式の主熱交換器と、を備える。
【0007】
このように構成された液体水素気化装置では、主熱交換器の前段として液体水素を予熱する補助熱交換器が設けられているので、液体水素の温度よりも高い温度の水素を主熱交換器に流入できる。このため、主熱交換器において、伝熱管に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管外表面への着氷を抑制できる。さらに、補助熱交換器の加熱流体として、水の凝固点よりも低い凝固点を有する流体が用いられているので、加熱流体が凝固し難くなるため、補助熱交換器における着氷を抑制できる。
【0008】
前記補助熱交換器は、前記加熱流体としての中間媒体が用いられ、前記中間媒体を介して液体水素と外部から供給される熱源流体との間で熱交換を行う中間媒体式の熱交換器であってもよい。前記補助熱交換器は、前記熱源流体との熱交換によって前記中間媒体の少なくとも一部を気化させる中間媒体蒸発部と、液体水素を流す伝熱管が設けられていてもよく、前記気化した中間媒体との熱交換によって伝熱管内の液体水素を昇温させる水素加熱部と、を備えていてもよい。
【0009】
この態様では、主熱交換器の前段の補助熱交換器として、加熱媒体を中間媒体として用いた中間媒体式の熱交換器が用いられる。この場合、中間媒体を加熱して蒸発させる熱源流体として海水又は工業用水を用いることが可能となる。
【0010】
液体水素気化装置は、前記主熱交換器につながる主流路と、外部から供給された液体水素を分流させる分流流路であって前記外部から供給された液体水素の一部を流入させる第1分流流路と前記外部から供給された液体水素の他部を流入させる第2分流流路とを含む前記分流流路と、をさらに備えていてもよい。前記補助熱交換器は、前記第1分流流路上に設けられていてもよく、前記分流流路は、前記第1分流流路に流入して補助熱交換器により昇温した水素と、前記第2分流流路に流入した液体水素と、を合流させて前記主流路に流入させるように、前記主流路につながっていてもよい。
【0011】
この態様では、第1分流流路に分流して補助熱交換器により昇温させた水素と、第2分流流路に分流した液体水素とを合流させて主流路に流入させることにより、主熱交換器に液体水素よりも高温の水素を流入させることができる。このため、主熱交換器において、伝熱管に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管外表面への着氷を抑制できる。
【0012】
液体水素気化装置は、液体水素からガス状又は超臨界状態の水素を生成する液体水素気化装置であり、水素を流通させる伝熱管と前記伝熱管の外表面に海水又は工業用水を供給するトラフ部とを有し海水又は工業用水との熱交換により水素を昇温させるオープンラック式の主熱交換器と、前記主熱交換器につながる主流路と、外部から供給された液体水素を分流させる分流流路であって前記外部から供給された液体水素の一部を流入させる第1分流流路と前記外部から供給された液体水素の他部を流入させる第2分流流路とを含む前記分流流路と、前記第1分流流路上に配置されており前記第1分流流路を流れる液体水素を加熱流体との熱交換により昇温させる補助熱交換器と、を備える。前記分流流路は、前記第1分流流路を流れる前記昇温した水素と、前記第2分流流路を流れる液体水素とを合流させて前記主流路に流入させるように、前記主流路につながっており、前記補助熱交換器において液体水素の昇温に要する加熱流体の熱負荷の大きさは、前記主熱交換器において水素の昇温に要する海水又は工業用水の熱負荷の大きさよりも小さい。
【0013】
このように構成された液体水素気化装置では、第1分流流路に分流して補助熱交換器により昇温した水素を、第2分流流路に分流した液体水素と合流させて主流路に流入させることにより、液体水素よりも高温の水素を主熱交換器に流入させることができる。このため、主熱交換器において、伝熱管に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管外表面への着氷を抑制できる。さらに、補助熱交換器における加熱流体の熱負荷は主熱交換器における海水又は工業用水の熱負荷よりも小さいため、補助熱交換器においても、熱交換によって生じる着氷を抑制できる。
【0014】
液体水素気化装置は、前記補助熱交換器における液体水素の加熱により、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素が生成されるように構成されていてもよい。液体水素気化装置はさらに、前記第1分流流路からの水素と前記第2分流流路からの液体水素との合流により、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素が生成されるように構成されていてもよい。
【0015】
この態様では、補助熱交換器により液体水素が加熱されて、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素が主熱交換器に導入される。このため、液化天然ガスを気化するためのオープンラック式気化器を主熱交換器として活用できる。この場合、液体水素気化装置の導入コストを削減できる。
【0016】
本開示における水素を生成する生成方法は、液体水素を昇温させてガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法である。補助熱交換器において、海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有する加熱流体との熱交換により、外部から供給された液体水素を下記の第2加熱工程の前段として予熱して前記液体水素の温度よりも高い温度の水素に昇温させる第1加熱工程と、前記補助熱交換器から流出した水素をオープンラック式の主熱交換器の伝熱管に流入させて、海水又は工業用水との熱交換により、前記伝熱管内の水素を所定の温度まで昇温させる第2加熱工程と、を含む。
【0017】
前記第1加熱工程において、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素を生成してもよい。
【0018】
本開示における水素を生成する生成方法は、液体水素を昇温させてガス状又は超臨界状態の水素を生成する生成方法であって、外部から供給された液体水素を第1分流流路と第2分流流路に分流させる分流工程と、前記第1分流流路上に設けられた補助熱交換器において、加熱流体との熱交換によって前記第1分流流路の液体水素を昇温させる第1加熱工程と、前記第1分流流路からの水素と、前記第2分流流路からの液体水素とを合流させて主流路に流す合流工程と、前記主流路の水素を主熱交換器の伝熱管に流入させて、海水又は工業用水との熱交換により、前記伝熱管内の水素を所定の温度まで昇温させる第2加熱工程と、を含む。第1加熱工程における液体水素を昇温させるための加熱流体の熱負荷の大きさが、前記第2加熱工程における水素を昇温させるための海水又は工業用水の熱負荷の大きさよりも小さい。
【0019】
前記合流工程において、前記水素と前記液体水素とを合流させた流体が常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、液体水素気化装置において、オープンラック式の熱交換器の伝熱管に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管への着氷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る液体水素気化装置の概略の構成図である。
【
図2】第1実施形態の変形例に係る液体水素気化装置の概略の構成図である。
【
図3】第2実施形態に係る液体水素気化装置の概略の構成図である。
【
図4】第2実施形態の変形例に係る液体水素気化装置の概略の構成図である。
【
図5】第2実施形態の変形例に係る液体水素気化装置の概略の構成図である。
【
図6】液化天然ガスを気化するための気化装置の一部の概略の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
第1実施形態に係る液体水素気化装置100は、第1熱源流体及び第2熱源流体を用いて、液体水素を昇温させてガス状又は超臨界状態の水素を生成する液体水素気化装置である。液体水素気化装置100は、単に「気化装置100」とも称する。気化装置100は、
図1に示すように、補助熱交換器110と、補助熱交換器110の下流側に配置された主熱交換器150と、補助熱交換器110及び主熱交換器150を接続する接続流路140とを備えている。
【0024】
補助熱交換器110は、液体水素と第1熱源流体との間で熱交換を媒介する中間媒体M1を用いて、液体水素を加熱する中間媒体式の熱交換器である。すなわち、第1実施形態では、中間媒体M1が液体水素を昇温させる加熱流体として機能する。第1熱源流体には、海水又は工業用水が用いられる。中間媒体M1には、海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有し且つ海水又は工業用水の温度より低い沸点を有する流体(例えば、プロパン)が用いられる。
【0025】
補助熱交換器110は、第1熱源流体との熱交換により中間媒体M1を蒸発させる中間媒体蒸発部E1と、中間媒体蒸発部E1の上方に配置されており、中間媒体M1との熱交換により液体水素を気化させる水素加熱部E2と、を備えている。中間媒体蒸発部E1と水素加熱部E2は、1つの中空状のケーシング112を共有している。ケーシング112は水平方向に長い形状であり、ケーシング112を構成する一対の側壁116,118を含んでおり、ケーシング112の下部には液状の中間媒体M1が貯溜されている。
【0026】
中間媒体蒸発部E1は、一方の側壁116に隣接する入口室134と、他方の側壁118に隣接する出口室136と、入口室134と出口室136間に架け渡された多数の伝熱管132と、を備えている。各伝熱管132は一方向に延びて形成されており、ケーシング112内の液状の中間媒体M1の液面よりも下方に配置されている。入口室134には、ポンプ等が設けられた図略の導入管が接続されており、気化装置100の外部から入口室134に供給された第1熱源流体が、複数の伝熱管132を通じて、出口室136に流れるように構成されている。出口室136には、第1熱源流体を気化装置100から排出する図略の排出管が接続されている。
【0027】
中間媒体蒸発部E1では、伝熱管132が液状の中間媒体M1内を通過するように配置されている。すなわち、伝熱管132内を流れる第1熱源流体と液状の中間媒体M1とは熱交換可能である。さらに、ケーシング112内の中間媒体蒸発部E1側の内部空間と、ケーシング112内の水素加熱部E2側の内部空間とが連通しており、中間媒体蒸発部E1側の内部空間で気化したガス状の中間媒体M1が、水素加熱部E2側の内部空間に流入可能である。
【0028】
水素加熱部E2は、中間媒体蒸発部E1の出口室136の上方に形成された入口室124と、入口室124の上側に隣接するように形成された出口室126と、入口室124と出口室126とを連通する多数の伝熱管122と、を備えている。入口室124には、外部から液体水素を流入させる図略の供給管が接続されている。各伝熱管122は略U字状に形成されており、ケーシング112内の下部に貯溜されている液状の中間媒体M1の液面よりも上方に配置されている。出口室126には、補助熱交換器110から流出した水素を主熱交換器150に流入させるための接続流路140が接続されている。
【0029】
水素加熱部E2では、液体水素を流通させる伝熱管122が、ケーシング112内における中間媒体M1の液面よりも上方の空間を通過するように配置されている。すなわち、伝熱管122内の液体水素とガス状の中間媒体M1とは水素加熱部E2において熱交換可能である。ガス状の中間媒体M1との熱交換により気化した水素は、出口室126を通じて接続流路140に流出する。液体水素との熱交換により液化した中間媒体M1は、ケーシング112内の中間媒体蒸発部E1側に流れ落ちる。
【0030】
水素加熱部E2はさらに、ガス状の中間媒体M1との熱交換により、伝熱管122内の液体水素を、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度まで昇温するように構成されている。なお、水素加熱部E2は、伝熱管122内の液体水素を、常圧下における液化天然ガスの沸点以下の所定の温度まで昇温するように構成されていてもよい。補助熱交換器110において加熱されたガス状又は超臨界状態の水素は、接続流路140を通じて、主熱交換器150に流入する。
【0031】
主熱交換器150は、水素を流通させた伝熱管166の外表面に第2熱源流体である海水又は工業用水を流下させて、伝熱管内の水素を加熱するオープンラック式の熱交換器である。主熱交換器150は、複数の伝熱管パネル160と、各伝熱管パネル160に第2熱源流体を供給する熱源流体供給部170と、を備えている。
【0032】
各伝熱管パネル160は、水素を流通させる多数の伝熱管166(
図1における破線矢印)と、各伝熱管166の下端部に接続された下部ヘッダ162と、各伝熱管166の上端部に接続された上部ヘッダ164と、を有する。1つの伝熱管パネル160には、例えば数十本の伝熱管166が配置されている。これらの伝熱管166は、上下方向に延びており且つ垂直平面上に整列して配置されている。各伝熱管166の材料には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等の熱伝導率の高い金属材料が用いられる。
【0033】
各下部ヘッダ162は、接続流路140からの水素を各下部ヘッダ162に分配するための図略の供給側マニホールドに接続されている。各下部ヘッダ162内に流入した水素はさらに、それぞれの下部ヘッダ162に接続された多数の伝熱管166に分配される。すなわち、各伝熱管166では、ガス状又は超臨界状態の水素が、下から上に向かって流れる。各上部ヘッダ164は、各上部ヘッダ164からの水素を合流させるための図略の送出側マニホールドに接続されている。
【0034】
熱源流体供給部170は、複数の伝熱管パネル160の上端部近傍に配置されており、伝熱管166の並ぶ方向に長い形状であり且つ上面が開口した容器状の複数のトラフ171を含んでいる。複数のトラフ171には、外部から第2熱源流体を流入させるためのヘッダ172が接続されている。トラフ171では、熱源流体が、トラフ171上面の開口からトラフ171外にあふれ出すように構成されている。
【0035】
主熱交換器150では、各トラフ171からあふれ出た第2熱源媒体が、各伝熱管パネル160の多数の伝熱管166の外表面に沿って流れ落ちるように構成されている。すなわち、伝熱管166内の水素と第2熱源媒体とが熱交換可能に構成されている。主熱交換器150では、第2熱源流体との熱交換により、常温又は所定の温度まで加熱された水素が、上部ヘッダ164及び送出側マニホールドを通じて、外部の水素ガス需要先に向けて導出されるように構成されている。伝熱管166の外表面に沿って流れ落ちた第2熱源流体は、図略の排水路等により主熱交換器150外に排出される。
【0036】
(運転動作)
液体水素気化装置100の補助熱交換器110では、外部の液体水素供給源から入口室124に液体水素が供給されるとともに、外部の第1熱源流体供給源から中間媒体蒸発部E1の入口室134に第1熱源流体である海水又は工業用水が供給される。さらに、主熱交換器150では、外部の第2熱源流体供給源から熱源流体供給部170のトラフ171に第2熱源流体である海水又は工業用水が供給される。
【0037】
中間媒体蒸発部E1の入口室134に供給された第1熱源流体は、伝熱管132を通じて出口室136に流れた後、外部に排出される。このとき、第1熱源流体は、ケーシング112の下部に貯溜されている液状の中間媒体M1を加熱し、これにより液状の中間媒体M1の少なくとも一部が蒸発する。蒸発したガス状の中間媒体M1は、ケーシング112内の水素加熱部E2側の内部空間に流入する。
【0038】
水素加熱部E2の入口室124に供給された液体水素は、伝熱管122に流入する。このとき、ケーシング112内の水素加熱部E2側の内部空間を流通するガス状の中間媒体M1は、伝熱管122内の液体水素を、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度まで加熱する(第1加熱工程)。なお、水素加熱部E2のガス状の中間媒体M1は、伝熱管122内の液体水素を、常圧下における液化天然ガスの沸点以下の所定の温度まで加熱してもよい。加熱されたガス状又は超臨界状態の水素は、出口室126から接続流路140に流れ出る。一方で、伝熱管122内の液体水素により冷やさたガス状の中間媒体M1は、凝縮して液化しケーシング112内の中間媒体蒸発部E1側の内部空間に流れ落ちる。
【0039】
接続流路140に流れ出たガス状又は超臨界状態の水素は、主熱交換器150の供給側マニホールドと下部ヘッダ162を通じて、伝熱管166内に供給される。このとき、トラフ171から供給されて伝熱管166の外表面に沿って流れ落ちる第2熱源流体が、伝熱管166内の水素を加熱し、これにより伝熱管166内の水素が、常温又は所定の温度まで昇温する(第2加熱工程)。常温又は所定の温度まで昇温したガス状又は超臨界状態の水素は、上部ヘッダ164と送出側マニホールドを通じて、外部の水素ガス需要先に向けて導出される。
【0040】
このように構成された気化装置100では、主熱交換器150の前段として液体水素を予熱する補助熱交換器110を設けることにより、水素の温度を、液体水素の温度よりも高くして主熱交換器150に流入させられる。このため、主熱交換器150では、伝熱管166に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管166外表面への着氷を抑制できる。さらに、補助熱交換器110の中間媒体M1として、海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有する流体を用いることにより、中間媒体M1は凝固し難くなるため、補助熱交換器110の伝熱管122外表面への着氷も抑制できる。
【0041】
また本実施形態では、外部からの液体水素が補助熱交換器110により加熱されて、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素を主熱交換器150に導入できる。このため、液化天然ガスを気化するための既設のオープンラック式気化器を、気化装置100の主熱交換器150としても活用できる。この場合、気化装置100の導入コストを削減できる。また、気化装置100は、補助熱交換器110と主熱交換器150とが別個の機器として構成されているため、各機器のメンテナンスがより容易に実施できる。
【0042】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例について
図2を参照しつつ説明する。第1実施形態の気化装置100は、補助熱交換器が中間媒体式熱交換器ではなく、マイクロチャネル式の熱交換器により構成されていてもよい。マイクロチャネル式の熱交換器とは、複数の高温プレートと複数の低温プレートとが積層された積層体において、高温流路を流れる高温流体と低温流路を流れる低温流体との間で熱交換させるように構成された熱交換器である。
【0043】
気化装置100には、マイクロチャネル式の熱交換器により構成された補助熱交換器210が設けられている。補助熱交換器210では、高温流体である第1熱源流体と、低温流体である液体水素が熱交換する。第1熱源流体は、液体水素を加熱するための加熱流体である。第1熱源流体には、海水又は工業用水の凝固点よりも低い凝固点を有し且つ海水又は工業用水の温度より低い沸点を有する流体(例えば、プロパン)が用いられる。
【0044】
補助熱交換器210は、積層体212と、積層体212の側面に設けられた入口ヘッダ216及び出口ヘッダ218と、積層体212の下面に設けられた入口ヘッダ226及び上面に設けられた出口ヘッダ228と、を有する。前記高温プレートには、入口ヘッダ216から出口ヘッダ218に向けて蛇行するように形成された高温流路214(
図2における実線矢印)が設けられている。外部から供給された第1熱源流体は、入口ヘッダ216から出口ヘッダ218に向けて高温流路214を流れる。前記低温プレートには、入口ヘッダ226から出口ヘッダ228に向けて一方向に延びて形成された複数の低温流路224(
図2における破線矢印)が設けられている。外部の液体水素供給源から供給された液体水素は入口ヘッダ226から出口ヘッダ228に向けて複数の低温流路224を流れる。このとき、高温流路214の第1熱源流体と低温流路224の液体水素との間で熱交換が行われ、低温流路224の液体水素は、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度まで加熱されてガス状又は超臨界状態となり、出口ヘッダ228から接続流路240に流れ出る。液体水素により冷やされた低温流路224の第1熱源流体は、出口ヘッダ218から外部に排出される。なお、低温流路224の液体水素は、常圧下における液化天然ガスの沸点以下の所定の温度まで加熱されてもよい。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る気化装置300は、
図3に示すように、主熱交換器150の前段に液体水素を分流させる分流流路330が設けられており、外部から供給された液体水素の一部を補助熱交換器により予熱する点において、第1実施形態とは異なっている。
【0046】
気化装置300は、外部から供給された液体水素を流入させる供給流路320と、供給流路320を流れる液体水素を分流して流す分流流路330と、分流流路330及び主熱交換器150に接続された主流路340と、を備えている。分流流路330は、供給流路320につながる第1分流流路332と、供給流路320につながるとともに第1分流流路332に対して分岐して形成された第2分流流路334と、を含んでいる。供給流路320の液体水素の一部は第1分流流路332に分流され、供給流路320の液体水素の他部は第2分流流路334に分流される(分流工程)。
【0047】
第2分流流路334には、第2分流流路334を流れる液体水素の流量を制御可能な調整弁333が設けられている。
【0048】
第1分流流路332には、外部から供給される第1熱源流体との熱交換により第1分流流路332を流れる液体水素を昇温させる補助熱交換器310が設けられている。補助熱交換器310は、第1分流流路332からの液体水素を流す多数の伝熱管312(
図3における破線矢印)と、多数の伝熱管312の外周面に第1熱源流体を流下させるトラフ314とを有するオープンラック式の熱交換器である。補助熱交換器310の第1熱源流体には、主熱交換器150と同様に海水又は工業用水が用いられる。補助熱交換器310は、第1分流流路332の液体水素を所定の温度まで加熱する(第1加熱工程)。
【0049】
気化装置300では、補助熱交換器310において液体水素を処理するために第1熱源流体に加わる熱負荷の大きさが、主熱交換器150において液体水素を処理するために第2熱源流体に加わる熱負荷の大きさよりも小さくなるように構成されている。すなわち、補助熱交換器310と主熱交換器150それぞれにおいて同じ熱量だけ水素が加熱されたとすると、補助熱交換器310への第1熱源流体の供給量は、主熱交換器150への第2熱源流体の供給量よりも大きい。具体的に、例えば、補助熱交換器310における第1熱源流体の入口側には、補助熱交換器310への第1熱源流体の流入量を大きくするためのポンプが設けられている。このポンプにより、より大きな流量の第1熱源流体を補助熱交換器310に供給することにより、補助熱交換器310において第1熱源流体に加わる熱負荷は小さくなっている。
【0050】
第1分流流路332に流入して補助熱交換器310により加熱された水素と、第2分流流路334に流入した液体水素とは、主流路340に流入して合流する(合流工程)。
【0051】
気化装置300は、第1分流流路332からの水素と、第2分流流路334からの液体水素と、を合流させることにより、主流路340において、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素が生成されるように構成されている。これにより、主流路340から主熱交換器150には、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有するガス状又は超臨界状態の水素が導入される。なお、第1分流流路332からの水素と第2分流流路334からの液体水素との合流により、常圧下における液化天然ガスの沸点以下の温度を有する水素が生成されてもよい。
【0052】
主熱交換器150に供給された水素は、第1実施形態と同様に、第2熱源流体との熱交換により、所定の温度まで加熱される(第2加熱工程)。所定の温度まで加熱された水素は外部の水素ガス需要先に向けて導出される。
【0053】
このように構成された気化装置300では、第1分流流路332に流入して補助熱交換器310により昇温した水素を、第2分流流路334の液体水素と合流させて主流路340に流入させることにより、液体水素よりも高温の水素を主熱交換器150に流入させられる。このため、主熱交換器150において、伝熱管166に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管166外表面への着氷を抑制できる。
【0054】
さらに、補助熱交換器310では、第1熱源流体の供給量が大きくすることにより、主熱交換器150と比べて、液体水素を処理するために第1熱源流体に加わる熱負荷の大きさが小さくなるように構成されている。このため、補助熱交換器310においても、伝熱管312に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管外表面への着氷を抑制できる。また、第1実施形態と同様に、常圧下における液化天然ガスの沸点以上の温度を有する水素を主熱交換器150に導入できるため、液化天然ガスを気化するための既設のオープンラック式気化器を主熱交換器150として活用できる。なお、主熱交換器150に導入する水素の温度は、常圧下における液化天然ガスの沸点以下の温度であってもよい。
【0055】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の気化装置300は、
図4に示すように、第1分流流路432上に設けられた補助熱交換器410は、オープンラック式の熱交換器ではなく中間媒体式の熱交換器によりに構成されていてもよい。
【0056】
気化装置300には、分流流路430の第1分流流路432に設けられた補助熱交換器410は、第1実施形態における補助熱交換器110とほぼ同様に構成されている。補助熱交換器410は、ケーシング内に収容された中間媒体M1を第1熱源流体との熱交換により蒸発させる中間媒体蒸発部E1と、蒸発させたガス状の中間媒体M1との熱交換により第1分流流路432の液体水素を加熱する水素加熱部E2とを有している。補助熱交換器410により加熱された第1分流流路432の水素は主流路440に流入して、第2分流流路434からの液体水素と合流した後に、主熱交換器150に流入する。
【0057】
この場合でも、第2実施形態と同様に、液体水素よりも高温の水素を主熱交換器150に流入させられるため、主熱交換器150において伝熱管166に加わる熱応力を緩和しつつ伝熱管166外表面への着氷を抑制できる。
【0058】
なお、第1分流流路432の補助熱交換器410は、中間媒体式の熱交換器ではなく、第1実施形態の変形例で説明した補助熱交換器210と同様に、マイクロチャネル式の熱交換器により構成されていてもよい。この場合、
図5に示すように、分流流路530の第1分流流路532には、マイクロチャネル式の熱交換器である補助熱交換器510が設けられている。分流流路530に流入した液体水素は補助熱交換器510において、第1熱源流体との熱交換により加熱される。
【0059】
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
100,300・・・・・・・・液体水素気化装置(気化装置)
110,410・・・・・・・・補助熱交換器(中間媒体式の熱交換器)
122・・・・・・・・・・・・伝熱管(水素加熱部E2)
132・・・・・・・・・・・・伝熱管(中間媒体蒸発部E1)
150・・・・・・・・・・・・主熱交換器
166・・・・・・・・・・・・伝熱管(主熱交換器)
171・・・・・・・・・・・・トラフ部
210,510・・・・・・・・補助熱交換器(マイクロチャネル式の熱交換器)
310・・・・・・・・・・・・補助熱交換器(オープンラック式の熱交換器)
330・・・・・・・・・・・・分流流路
332・・・・・・・・・・・・第1分流流路
334・・・・・・・・・・・・第2分流流路
340・・・・・・・・・・・・主流路
M1・・・・・・・・・・・・・中間媒体(補助熱交換器)