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特許7596244電池診断装置、プログラムおよび電池診断方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】電池診断装置、プログラムおよび電池診断方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241202BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241202BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20241202BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241202BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20241202BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/367
G01R31/387
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021154751
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023046058
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山内 晋
(72)【発明者】
【氏名】小松 大輝
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/198631(WO,A1)
【文献】特開2020-038138(JP,A)
【文献】国際公開第2021/070453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L1/00-3/12
B60L7/00-13/00
B60L15/00-58/40
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の時系列の稼働情報と当該蓄電池の劣化率とを基に、前記蓄電池の稼働状態と当該蓄電池の劣化リスクとを関連付けて記憶する診断情報データベースを更新する診断情報更新部と、
前記蓄電池の稼働状態を基に、前記診断情報データベースを参照して当該蓄電池の劣化リスクを診断する診断部とを備える
ことを特徴とする電池診断装置。
【請求項2】
前記蓄電池の稼働状態は、充電率、温度、電流、電圧のうち何れか2つ以上で示される
ことを特徴とする請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項3】
前記蓄電池の劣化率は、当該蓄電池の容量の使用開始時との比、当該蓄電池の内部抵抗の使用開始時との比のうち何れか1つ以上で示される
ことを特徴とする請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項4】
前記診断情報更新部は、
前記蓄電池の稼働状態、前記蓄電池の使用時間経過または充放電総量に伴う劣化率の変化を示す劣化曲線、および劣化リスクを関連付けて記憶する劣化特性情報を参照し、
前記診断情報データベースが示す前記蓄電池の稼働状態に対応する劣化曲線との乖離よりも小さい乖離となる劣化曲線がある場合には、
前記診断情報データベースが示す当該蓄電池の稼働状態の劣化リスクを、当該劣化曲線に対応する劣化リスクに更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項5】
前記蓄電池の稼働状態は、充電率と温度で示され、
前記診断情報更新部は、
前記蓄電池の稼働状態に対応する劣化リスクを小さくなるように更新した場合には、前記蓄電池の稼働状態より充電率が低い稼働状態、および、前記蓄電池の稼働状態より温度が低い稼働状態に対応する劣化リスクを小さくなるように更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の電池診断装置。
【請求項6】
前記蓄電池の稼働状態は、充電率と温度で示され、
前記診断情報更新部は、
前記蓄電池の稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新した場合には、前記蓄電池の稼働状態より充電率が高い稼働状態、および、前記蓄電池の稼働状態より温度が高い稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の電池診断装置。
【請求項7】
前記蓄電池の稼働状態は、電圧と温度で示され、
前記診断情報更新部は、
前記蓄電池の稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新した場合に、前記蓄電池の稼働状態より電圧が高い稼働状態、および、前記蓄電池の稼働状態より温度が低い稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の電池診断装置。
【請求項8】
前記蓄電池の稼働状態は、電流と温度で示され、
前記診断情報更新部は、
前記蓄電池の稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新した場合に、前記蓄電池の稼働状態より電流が多い稼働状態、および、前記蓄電池の稼働状態より温度が低い稼働状態に対応する劣化リスクを大きくなるように更新する
ことを特徴とする請求項4に記載の電池診断装置。
【請求項9】
コンピュータを、
蓄電池の時系列の稼働情報と当該蓄電池の劣化率とを基に、前記蓄電池の稼働状態と当該蓄電池の劣化リスクとを関連付けて記憶する診断情報データベースを更新する診断情報更新部と、
前記蓄電池の稼働状態を基に、前記診断情報データベースを参照して当該蓄電池の劣化リスクを診断する診断部とを備える電池診断装置として機能させるための
プログラム。
【請求項10】
電池診断装置が、
蓄電池の時系列の稼働情報と当該蓄電池の劣化率とを基に、前記蓄電池の稼働状態と当該蓄電池の劣化リスクとを関連付けて記憶する診断情報データベースを更新するステップと、
前記蓄電池の稼働状態を基に、前記診断情報データベースを参照して当該蓄電池の劣化リスクを診断するステップとを実行する
電池診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化状態を診断する電池診断装置、プログラムおよび電池診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2排出量の削減のため、自動車に限らず、水陸空のあらゆる移動体(乗用車、トラック、バス、非電化路線の鉄道車両、航空機や飛翔体など)について、バッテリ(蓄電池)による電動化が進められている。バッテリは充放電に伴い劣化が進行するが、劣化の進み方は、バッテリの使用履歴(使用状態)に応じて異なる。
【0003】
このような特性を有するバッテリの劣化を推定・予測する技術の例として、特許文献1には「蓄電池と、蓄電池の使用履歴を検出する電池使用履歴検出部と、蓄電池の使用履歴に基づき、蓄電池の稼動モードを分類する稼動モード分類部と、蓄電池の使用履歴に基づき、蓄電池の劣化指標の値を推定するSOH推定部と、蓄電池の稼動モードの使用履歴および蓄電池の劣化指標の値に基づき、蓄電池の余寿命を算出する余寿命推定部と、を有し、蓄電池の使用履歴は、蓄電池の電流値、蓄電池の電池温度、および蓄電池の電池電圧である蓄電システム」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/208251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術では、蓄電池の使用履歴を基に稼働モードを分類し、分類した稼働モードと予め準備した劣化パラメータを含む劣化予測式とを用いて蓄電池の劣化を予測・診断する。このため、電池の特性や使用方法に応じて様々に異なる劣化を表現できるように劣化推定式あるいは推定式中に含まれる劣化速度を示す各種パラメータを、事前に実施した劣化試験結果から抽出しておき、システムへ搭載しておく必要がある。
【0006】
劣化試験により蓄電池の劣化特性が判明している場合には、劣化の予測精度が向上できる。一方、特性が未知の電池、つまりは電池の使用履歴に応じた劣化速度が不明な場合には、将来の劣化(劣化速度、劣化リスク)を予測することができない。また、電池の使用状態が適切かどうか、つまりは劣化が進行しやすい領域で充放電されていないかの使用状態の診断も正確に実行することができない。
【0007】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、劣化特性が不明である蓄電池に対しても蓄電池の劣化リスクの診断を可能とする電池診断装置、プログラムおよび電池診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、本発明に係る電池診断装置は、蓄電池の時系列の稼働情報と当該蓄電池の劣化率とを基に、前記蓄電池の稼働状態と当該蓄電池の劣化リスクとを関連付けて記憶する診断情報データベースを更新する診断情報更新部と、前記蓄電池の稼働状態を基に、前記診断情報データベースを参照して当該蓄電池の劣化リスクを診断する診断部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、劣化特性が不明である蓄電池に対しても蓄電池の劣化リスクの診断を可能とする電池診断装置、プログラムおよび電池診断方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る電池診断装置を含む運行管理システムの全体構成図である。
図2】第1実施形態に係る電池診断装置の機能ブロック図である。
図3】第1実施形態に係る稼働状態データベースに記憶される稼働状態テーブルのデータ構成図である。
図4】第1実施形態に係る劣化特性情報を説明するためのグラフである。
図5】第1実施形態に係る診断テーブルのデータ構成図である。
図6】第1実施形態に係る診断テーブルの更新を説明するためのグラフである。
図7】第1実施形態に係る更新後の診断テーブルを示す図である。
図8】第1実施形態に係る診断テーブルの更新を説明するためのグラフである。
図9】第1実施形態に係る更新後の診断テーブルを示す図である。
図10】第1実施形態に係る診断テーブル更新処理のフローチャートである。
図11】第1実施形態に係る診断処理のフローチャートである。
図12】第2実施形態に係る電池診断装置の機能ブロック図である。
図13】第2実施形態に係る稼働状態データベースに記憶される稼働状態テーブルのデータ構成図である。
図14】第2実施形態に係る劣化特性情報を説明するためのグラフである。
図15】第2実施形態に係る診断テーブルのデータ構成図である。
図16】第2実施形態に係る診断テーブルの更新を説明するためのグラフである。
図17】第2実施形態に係る更新後の診断テーブルを示す図である。
図18】第3実施形態に係る電池診断装置の機能ブロック図である。
図19】第3実施形態に係る稼働状態データベースに記憶される稼働状態テーブルのデータ構成図である。
図20】第3実施形態に係る劣化特性情報を説明するためのグラフである。
図21】第3実施形態に係る診断テーブルのデータ構成図である。
図22】第3実施形態に係る診断テーブルの更新を説明するためのグラフである。
図23】第3実施形態に係る更新後の診断テーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪第1実施形態:電池診断装置の概要≫
電池診断装置は、蓄電池の稼働情報として温度および充電率の時系列データ(実測値データ)を取得して、最も頻度が高い温度および充電率を当該蓄電池の稼働状態とする。電池診断装置は、蓄電池の稼働状態と、劣化リスク(劣化速度)との関連を示す診断テーブル(診断情報データベース)を参照して、当該蓄電池の劣化リスクを診断する。
【0012】
電池診断装置は、蓄電池の稼働状態、時間と劣化率との関係(劣化曲線)および劣化リスクを関連付けて劣化特性情報として記憶している。劣化特性情報が示す蓄電池の稼働状態に対応する劣化曲線と、当該蓄電池の稼働情報(劣化率を含む実測値)とに乖離があれば、電池診断装置は診断テーブルを更新する。詳しくは、電池診断装置は当該蓄電池の稼働状態に対応する診断テーブルの劣化リスクを、当該蓄電池の稼働情報に近い劣化曲線に関連付けられた劣化リスクに更新する。
このようにすることで、電池診断装置は、劣化特性が未知の蓄電池に対しても、稼働情報に基づいて診断テーブルを更新することで、高い精度で劣化リスクを診断することができるようになる。
【0013】
≪運行管理システムの全体構成≫
図1は、第1実施形態に係る電池診断装置100を含む運行管理システム10の全体構成図である。運行管理システム10は、運行管理装置210、電池診断装置100、充電器230、および管理対象である電動車両220を含んで構成される。運行管理装置210、電池診断装置100、充電器230、および電動車両220は、ネットワーク280を介して相互に通信可能である。
【0014】
運行管理装置210は、1つ以上の電動車両220(例えば配送トラック、バス)の運行を管理し、運行経路の設定や運行経路への電動車両220の割り当て、乗務員の割り当てを行って運行計画を生成する。運行管理装置210は、電池診断装置100が出力した電動車両220のバッテリ223(蓄電池)の劣化リスクを基に、運行経路の設定や電動車両220の割り当てを行う。また運行管理装置210は、運行計画に基づき、電動車両220の乗務員に運行経路などを指示し、電動車両220に対する充電を充電器230に指示する。
【0015】
≪電動車両の構成≫
電動車両220は、通信装置221、制御装置222、バッテリ223、インバータ/モータ224、および車両側充電コネクタ225(車側インレット)を含んで構成される。バッテリ223は、電圧が3.5~4.2V程度の単電池を直列もしくは並列に接続した多直列多並列電池、および電池制御装置を含んで構成される。電池制御装置は、充放電中の電流や電圧を監視するとともに電池の充電率(SOC、State Of Charge)や劣化率(SOH(State of Health)、初期状態における電池容量と劣化後における電池容量との比)を算出する。バッテリ223は、電動車両220の駆動力を生成するインバータ/モータ224と接続される。バッテリ223には、充電器230から電力供給を受けるための車両側充電コネクタ225が接続されている。
【0016】
車両側充電コネクタ225は、後記する充電器230の充電器側充電プラグ235と接続可能な構成となっている。車両側充電コネクタ225は、充電器230からの充電電力をバッテリ223へと供給する動力線、および、電池制御装置が推定する充電率や充電電流指令値などの情報を伝送する信号線を含む。
【0017】
制御装置222は、バッテリ223の電流、電圧、温度、充電率などの稼働情報や劣化率の検知結果、インバータ/モータ224の電流、電圧を収集し、通信装置221へ出力する。また制御装置222は、電動車両220を運転する乗務員によるアクセルやハンドルなどの操作情報を基に、電動車両220の走行を制御する。
通信装置221は、制御装置222から受信したバッテリ223の稼働情報や劣化率を電池診断装置100に送信する。
【0018】
≪充電器の構成≫
充電器230は、通信装置231、充電制御装置232、充電回路233、および充電器側充電プラグ235を含んで構成される。充電回路233は、充電制御装置232が決定した充電電流を基に、バッテリ223へ充電電力を供給する。
【0019】
充電制御装置232は、バッテリ223の充電率や充電電流指令値などの情報を基に充電電流を決定するとともに、充電中のバッテリ223の電流や電圧を監視・制御する。充電制御装置232は、車両側充電コネクタ225および充電器側充電プラグ235を介して充電中の電流、電圧、充電率に関する情報を取得し、通信装置231に出力する。
通信装置231は、充電制御装置232が収集した充電中の電流、電圧、充電率に関する情報を電池診断装置100に送信する。
【0020】
≪電池診断装置の構成≫
図2は、第1実施形態に係る電池診断装置100の機能ブロック図である。電池診断装置100はコンピュータであって、制御部110、記憶部120、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。また、入出力部180は通信デバイスを備え、運行管理装置210他とのデータ送受信が可能である。
【0021】
≪電池診断装置の記憶部≫
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、電池情報データベース130、稼働状態データベース140、劣化特性情報150、診断テーブル160、およびプログラム128が記憶される。
【0022】
プログラム128は、診断テーブル更新処理(後記する図10参照)および診断処理(後記する図11参照)の記述を含む。電池情報データベース130は、電動車両220や充電器230から受信したバッテリ223の電流、電圧、充電率、温度、および劣化率を含む時系列データである稼働情報を記憶する。第1実施形態では、時系列データは所定周期のデータであり、例えば1時間おきのデータである。
【0023】
≪電池診断装置の記憶部:稼働状態テーブル≫
図3は、第1実施形態に係る稼働状態データベース140に記憶される稼働状態テーブル141のデータ構成図である。稼働状態テーブル141は、電動車両220が搭載するバッテリ223それぞれに対して作成され、バッテリ223の稼働状況を示す。稼働状態テーブル141の横軸(列)の0・10・…・100は充電率であり、縦軸(行)の-30・-10・…・60は温度である。
【0024】
各セルの値は、電池情報データベース130にあるバッテリ223のデータであって、データの充電率および温度が当該セルの充電率および温度であるデータの総数である。例えば、充電率が50%で温度が40度のセルには、充電率が50%台で温度が40度付近であるバッテリ223のデータの総数が格納される。電池情報データベース130のデータは所定周期の時系列データであるので、セルの値は、バッテリ223が当該セルの充電率および温度であった時間と見なせる。
【0025】
≪電池診断装置の記憶部:劣化特性情報≫
図4は、第1実施形態に係る劣化特性情報150を説明するためのグラフ310である。劣化特性情報150は、バッテリ223の劣化速度を示す情報であり、稼働状態ごとのバッテリ223の使用開始からの経過時間または充放電総量と、劣化率との関係(劣化曲線)および劣化リスクを示す。なおバッテリ223の稼働状態とは、最高頻度の充電率と温度との組み合わせであり、稼働状態テーブル141の最大値となるセルの充電率と温度との組み合わせである。以下、後記するグラフ320,330,340,350,360,370を含め、グラフ310の横軸となる使用開始からの経過時間または充放電総量を単に時間とも記す。劣化曲線は、時間と劣化率との関係を示すテーブルであってもよい。
【0026】
グラフ310は、バッテリ223の劣化因子となる充電率および温度が異なる3つのケースに対する劣化曲線(劣化の進み方)を示している。バッテリ223は、一般に使用中の温度が高いほど、充電率が高いほど、劣化が進行する。実線の劣化曲線313は、高充電率で高温である充電率が90%で温度が60度付近という稼働状態でバッテリ223が使用された場合の劣化の進み方を示しており、劣化は大きく進み(劣化速度が速い/高)劣化リスク大である。点線の劣化曲線311は、低充電率で低温である充電率30%で温度25度付近という稼働状態でバッテリ223が使用された場合の劣化の進み方を示しており、劣化の進みは小さく(劣化速度が遅い/低)劣化リスク小である。破線の劣化曲線312は、中間の充電率・温度である充電率が60%で温度が40度中心という稼働状態でバッテリ223が使用された場合の劣化率を示しており、劣化の進みも中間(劣化速度が中)であり劣化リスク中である。
【0027】
電動車両220および充電器230から送信されるバッテリ223の稼働情報を基に、どのような充電率および温度域でバッテリ223が充放電されていたかを分析することで、バッテリ223の劣化速度を診断することができる。
なお、劣化速度が速いほど使用可能期間は短くなり、劣化速度が遅いほど使用可能期間は長くなるので、劣化速度をバッテリ223の寿命の指標と見なすこともできる。このため、劣化速度を寿命に対するリスクと見なして、劣化リスクとも記す。例えば、バッテリ223の稼働状態が高充電率で高温であるのは、劣化リスク大である。また、劣化曲線311,312,313の劣化リスクは、それぞれ小/中/大(低/中/高)である。
【0028】
≪電池診断装置の記憶部:診断テーブル≫
図5は、第1実施形態に係る診断テーブル161のデータ構成図である。診断テーブル160とは、診断テーブル161,162,163(後記する図7図9参照)を含めた診断テーブルの総称である。図5記載の診断テーブル161は、初期状態の診断テーブル160である。診断テーブル160は、バッテリ223の稼働状態と劣化リスク(劣化速度)との関連を示す。診断テーブル160の横軸(列)の0・10・…・100は充電率であり、縦軸(行)の-30・-10・…・60は温度である。セルの値は、バッテリ223の稼働状態が当該セルの充電率および温度である場合の劣化リスクであって、0/1/2はそれぞれ劣化リスク小/中/大を示す。例えば、充電率が60%台で温度が40度付近である稼働状態のバッテリ223の劣化リスクは中(「1」)である。
【0029】
初期状態の診断テーブル161は、既存の電動車両やバッテリの実績を参考にして、劣化リスクが設定される。このためバッテリ223が新規で劣化特性が不明の場合には、診断テーブル161は劣化特性を正しく反映しているとは限らない。後記するように診断テーブル更新部112は、電池情報データベース130に蓄積されるバッテリ223の実際の稼働情報(実測値)を基に診断テーブル160を更新する。
【0030】
以上に説明したように、バッテリ223の稼働状態に対応して、診断テーブル161には劣化リスクが示されており、劣化特性情報150には劣化曲線および劣化リスクが示されている。
【0031】
≪電池診断装置の制御部≫
図2に戻って、制御部110を説明する。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、データ分析部111、診断テーブル更新部112、および診断部113が備わる。
【0032】
≪電池診断装置の制御部:データ分析部≫
データ分析部111は、電池情報データベース130に記憶されるそれぞれのバッテリ223の稼働情報に基づいて稼働状態テーブル141(図3参照)を生成して、稼働状態データベース140に格納する。データ分析部111は、電池情報データベース130にあるバッテリ223それぞれの稼働情報である時系列のデータについて、データが示す充電率と温度に該当するデータの総数を、該当するセルに格納する。
【0033】
バッテリ223の稼働状態テーブル141において最大値となるセル(稼働データのなかで最も頻度・滞在時間が長い)の充電率および温度が、バッテリ223の稼働状態(最頻となる(代表的な)稼働情報の組み合わせ)であり、稼働状態を中心にバッテリ223が稼働していることになる。
【0034】
≪電池診断装置の制御部:診断テーブル更新部≫
診断テーブル更新部112は、電池情報データベース130にあるデータ(実測値)に基づいて診断テーブル160を更新する。図6は、第1実施形態に係る診断テーブル160の更新を説明するためのグラフ320である。グラフ320に記載の実線・破線・点線の劣化曲線は、図4記載の劣化曲線313,312,311と同様であって、劣化速度(劣化リスク)は高、中、低である。
【0035】
一点鎖線321で囲われた円(〇)は、充電率が60%台、温度が40度付近を稼働状態とするバッテリ223の劣化率の稼働情報(実測値)を示す。初期状態の診断テーブル161(図5参照)および劣化特性情報150(図4参照)によれば、バッテリ223の劣化速度(劣化リスク)は中であり、破線の劣化曲線で示される劣化速度が想定されていた。しかしながら、実測値では劣化速度が中の破線の劣化曲線ではなく点線の劣化曲線に近く、バッテリ223の劣化速度は低である。このように診断テーブル160および劣化特性情報150が示す劣化速度(劣化曲線)が実測値と異なる場合、診断テーブル更新部112は、診断テーブル160を更新する。
【0036】
詳しくは、診断テーブル更新部112は、実測値の各時間における劣化率と、劣化特性情報150が示すバッテリ223の稼働状態に対応する劣化曲線(以下、現劣化曲線と記す)の各時間における劣化率との差の和を乖離として算出する。診断テーブル更新部112は、劣化特性情報150にある劣化曲線で、現劣化曲線より実測値の乖離が小さい劣化曲線があれば、診断テーブル160が示すバッテリ223の稼働状態に対応する劣化リスクを、劣化特性情報150に示される当該劣化曲線に対応する劣化リスクに更新する。
【0037】
図7は、第1実施形態に係る更新後の診断テーブル162を示す図である。初期状態の診断テーブル161(図5参照)と比較すると、充電率が60%台、温度が40度のセル(太い枠で示したセル)の値が1から0に更新されている。このように診断テーブル更新部112は、バッテリ223の稼働情報(実測値)に基づいて、バッテリ223の稼働状態の充電率・温度に対応するセルの値を更新する。
【0038】
合わせて診断テーブル更新部112は、同じ温度で充電率が低い側のセルについても、一般的な劣化の傾向として、充電率が低い場合には劣化速度が遅くなることを考慮して、1から0に更新する。また診断テーブル更新部112は、同じ充電率で温度が低い側のセルについても、一般的な傾向として、温度が低い場合には劣化速度が遅くなることを考慮して、1から0に更新する。図7では、このように実測値からの推定により更新されたセルを太い破線の枠で示している。診断テーブル更新部112は、さらに充電率も温度も低いセルの値を1から0に更新してもよい。
【0039】
上記とは稼働状態が異なる場合を説明する。図8は、第1実施形態に係る診断テーブル160の更新を説明するためのグラフ330である。グラフ330に記載の実線、破線、点線の劣化曲線は、図4記載の劣化曲線313,312,311と同様である。
一点鎖線331で囲われた円は、充電率が90%台、温度が60度付近を稼働状態とするバッテリ223の劣化率の実測値を示す。診断テーブル161(図5参照)によれば、バッテリ223の劣化速度(劣化リスク)は大であり、実線の劣化曲線で示される劣化速度が想定されていた。しかしながら、実測値では劣化速度が高の実線の劣化曲線ではなく破線の劣化曲線に近く、バッテリ223の劣化速度は中である。このように診断テーブル160が示す劣化速度が実測値と異なるので、診断テーブル更新部112は、診断テーブル160を更新する。
【0040】
図9は、第1実施形態に係る更新後の診断テーブル163を示す図である。診断テーブル162(図7参照)と比較すると、充電率が90%台、温度が60度のセル(太い枠で示したセル)の値が2から1に更新されている。合わせて診断テーブル更新部112は、同じ温度で充電率が低い側のセル、および、同じ充電率で温度が低い側のセルについても、2から1に更新する。図9では、このように実測値からの推定により更新されたセルを太い破線の枠で示している。診断テーブル更新部112は、さらに充電率も温度も低いセルで値が2であるセルを1に更新してもよい。
【0041】
ここまで、劣化リスクを下げる更新を説明したが、劣化リスクが上げる場合も同様に処理される。ある稼働状態における劣化速度が低ではなく中と判明した場合には、診断テーブル更新部112は当該稼働状態に対応する診断テーブル160のセルの値を0から1に更新し、さらに当該セルの下側(温度が高い)および右側(充電率が高い)のセルの値も0から1に更新する。
【0042】
≪電池診断装置の制御部:診断部≫
図2に戻って、制御部110の説明を続ける。診断部113は、バッテリ223の稼働状態を基に診断テーブル160(診断情報データベース)を参照して、バッテリ223の劣化リスク(劣化速度)を診断する。詳しくは、診断部113は診断テーブル160のなかでバッテリ223の稼働状態の劣化リスクを、バッテリ223の診断結果として出力する。なお、診断部113が参照するのは、最新の診断テーブル160である。
【0043】
≪診断テーブル更新処理≫
図10は、第1実施形態に係る診断テーブル更新処理のフローチャートである。診断テーブル更新処理は所定のタイミング、例えば周期的に実行される。
ステップS11において診断テーブル更新部112は、バッテリ223ごとにステップS12~S14の処理を繰り返す。
ステップS12においてデータ分析部111は、バッテリ223の稼働状態テーブル141を生成する。
【0044】
ステップS13において診断テーブル更新部112は、バッテリ223の稼働状態(代表的な稼働情報の組み合わせ、稼働状態テーブル141の最大値となる充電率・温度)を特定する。
ステップS14において診断テーブル更新部112は、診断テーブル160を更新する(図6図9参照)。
【0045】
図10記載の診断テーブル更新処理は、全てのバッテリ223の実測値に基づいて診断テーブル160を更新している。バッテリ223それぞれの稼働情報のデータ量が所定値(使用開始からの経過時間または充放電総量が所定値)に達したタイミングにおいて、当該バッテリ223に対してステップS12~S14が実行されてもよい。
【0046】
≪診断処理≫
図11は、第1実施形態に係る診断処理のフローチャートである。診断処理は、所定のタイミング、例えば周期的に実行されたり、運行管理装置210が運行計画を立てるタイミングで実行されたりする。
ステップS21においてデータ分析部111は、診断対象となるバッテリ223の稼働状態テーブル141を生成する。
【0047】
ステップS22において診断部113は、バッテリ223の稼働状態を特定する。
ステップS23において診断部113は、診断テーブル160のなかでステップS22に特定した稼働状態の劣化リスクを取得して、バッテリ223の劣化リスクとして出力する。
【0048】
≪電池診断装置の特徴≫
電池診断装置100は、バッテリ223の稼働状態を特定して(ステップS22参照)診断テーブル160を参照して劣化リスクを出力する(ステップS23参照)。診断テーブル160は、バッテリ223の温度、充電率、劣化率の実測値に基づいて更新される(図10参照)。診断テーブル160の初期状態(図5記載の診断テーブル161参照)では、既存のバッテリの劣化速度を参照して劣化リスクが設定されるため、劣化特性が未知であるバッテリ223の診断の精度が低くなる可能性がある。しかしながら、バッテリ223の実測値を基に診断テーブル160を更新するので、バッテリ223の稼働情報が蓄積されるのに応じて診断の精度が向上する。延いてはバッテリ223の劣化特性に合わせた運行計画が立案できるようになる。
【0049】
≪変形例:稼働状態≫
上記した実施形態においてバッテリ223の稼働状態テーブル141のセルで最大値となるセル(稼働データのなかで最も頻度・滞在時間が長い)の充電率・温度が、バッテリ223の稼働状態である(ステップS13,S22参照)。稼働情報(実測値)が散らばっている(頻度・滞在時間が複数の充電率・温度条件に広く分布している)場合を考慮して、セルの値で重み付けして稼働状態が特定されるようにしてもよい。例えば、充電率が50・60・70で温度が25・40・60である9つのセルにほぼ等しくデータが散らばっている場合には、稼働状態は充電率が60%で温度が40度であるとしてもよい。
また、診断部113は、劣化リスクが0と1のセルにほぼ等しくデータが散らばっている場合には、劣化リスクが0~1、例えば「1-」と判断してもよい。
【0050】
≪第2実施形態≫
第1実施形態では、バッテリ223の劣化因子として充電率および温度に注目しているが、他の劣化因子に基づいて劣化リスクを診断してもよい。第2実施形態において注目する劣化因子は電圧と温度であり、劣化リスクが大きくなるのはリチウム金属析出による特異的劣化が発生する場合である。この意味で、第2実施形態における劣化リスクとは、リチウム金属析出による特異的劣化が発生するリスクとなる。以下、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0051】
図12は、第2実施形態に係る電池診断装置100Aの機能ブロック図である。第1実施形態の電池診断装置100(図2参照)とは、稼働状態データベース140Aに含まれる稼働状態テーブル141A(後記する図13参照)、劣化特性情報150A、および診断テーブル160Aの構成が異なる。
【0052】
図13は、第2実施形態に係る稼働状態データベース140Aに記憶される稼働状態テーブル141Aのデータ構成図である。第1実施形態の稼働状態テーブル141(図3参照)の横軸(列)は充電率であるのに対して、稼働状態テーブル141Aの横軸は電圧である。
【0053】
バッテリ223は、低温での主に連続的な充電中において、電池を構成する負極表面で電解液中のリチウムイオンが金属となって析出することがある。これは、負極電位が連続的な充電中に、リチウム金属の析出電位である0Vを下回ることで、リチウム金属の析出反応が進みやすくなることが原因である。この反応が進行すると、電解液中のリチウムイオンが減少し、結果として電池容量が大きく低下する。この様子を後記する図14に示す。
【0054】
図14は、第2実施形態に係る劣化特性情報150Aを説明するためのグラフ340である。実線の劣化曲線341は、上記したようなリチウム金属の析出に伴う電池容量の低下がない場合の時間と劣化率の関係を示す。リチウム金属の析出が起こらない場合には、グラフ310(図4参照)と同様に、実線の劣化曲線341が示すように時間とともに徐々に劣化率(バッテリ223の容量)が低下する。特異的劣化が発現する特異的劣化ありのケースでは、点線の劣化曲線342が示すように、あるタイミングでのリチウム金属析出に伴い電池容量が大幅に低下する。第2実施形態の電池診断装置100Aは、このような事象を特異的な劣化として把握する。
【0055】
図15は、第2実施形態に係る診断テーブル161Aのデータ構成図である。診断テーブル160Aとは、診断テーブル161A,162A(後記する図17参照)を含めた診断テーブルの総称である。図15記載の診断テーブル161Aは、初期状態の診断テーブル160Aである。診断テーブル160Aは、バッテリ223の稼働状態と劣化リスク(特定的劣化が発生するリスク)との関連を示す。第1実施形態の診断テーブル160(図5参照)と比較すると、診断テーブル160Aの横軸(列)は電圧となる。
【0056】
リチウム金属の析出は、低温かつ電圧が高い領域で発生リスクが高まる。このため、図15に示すように、電圧が高く温度が低い場合に特異的劣化が発生する可能性があると考えられ、劣化リスク大(特異的劣化あり)を示す1が設定される。それ以外はリチウム金属の析出の可能性は低いと考えられ、劣化リスク小(特異的劣化なし)を示す0が設定される。
【0057】
図16は、第2実施形態に係る診断テーブル160Aの更新を説明するためのグラフ350である。グラフ350に記載の実線と点線の劣化曲線は、図14記載の劣化曲線341,342と同様であって、劣化リスク小と大の劣化曲線である。
一点鎖線351で囲われた円(〇)は、電圧が4.0V前後、温度が0度付近を稼働状態とするバッテリ223の劣化率の稼働情報(実測値)を示す。初期状態の診断テーブル161A(図15参照)によれば、バッテリ223の劣化リスクは小であり、実線の劣化曲線で示される劣化速度が想定されていた。しかしながら、実測値は時間経過とともに実線の劣化曲線から大きく乖離している。このように診断テーブル160Aおよび劣化特性情報150Aが示す劣化速度(劣化曲線)が実測値と乖離する場合、診断テーブル更新部112Aは、診断テーブル160Aを更新する。
【0058】
図17は、第2実施形態に係る更新後の診断テーブル162Aを示す図である。初期状態の診断テーブル161A(図15参照)と比較すると、電圧が4.0V、温度が0度のセル(太い枠で示したセル)の値が0から1に更新されている。このように診断テーブル更新部112Aは、バッテリ223の稼働情報(実測値)に基づいて、バッテリ223の稼働状態の電圧・温度に対応するセルの値を更新する。
合わせて診断テーブル更新部112Aは、同じ温度で電圧が高い側のセルについても、電圧が高い場合には特異的劣化が発生しやすくなることを考慮して、0から1に更新する。図17では、このように実測値からの推定により更新されたセルを太い破線の枠で示している。また診断テーブル更新部112Aは、同じ電圧で温度が低い側のセルについても、温度が低い場合には特異的劣化が発生しやすくなることを考慮して、0から1に更新してもよい。
【0059】
≪第2実施形態:特徴≫
第2実施形態における電池診断装置100Aは、バッテリ223の稼働状態として温度および電圧に基づくことで、リチウム金属析出による特異的劣化を考慮した劣化リスクを出力する。診断テーブル160Aは、バッテリ223の温度、電圧、劣化率の実測値に基づいて更新される。診断テーブル160Aの初期状態(図15記載の診断テーブル161A参照)では、既存のバッテリの劣化速度を参照して劣化リスクが設定されるため、劣化特性が未知であるバッテリ223の診断の精度が低くなる可能性がある。しかしながら、バッテリ223の実測値を基に診断テーブル160Aを更新するので、バッテリ223の稼働情報が蓄積されるのに応じて診断の精度が向上する。
【0060】
≪第3実施形態≫
バッテリ223の劣化因子として、第1実施形態では充電率および温度に、第2実施形態では電圧および温度に注目している。第3実施形態において注目する劣化因子は電流と温度であり、劣化リスクが大きくなるのは大電流での充電もしくは放電により生じたリチウムイオン濃度の偏りによる特異的劣化が発生する場合である。この意味で、第3実施形態における劣化リスクとは、リチウムイオン濃度の偏りによる特異的劣化が発生するリスクとなる。以下、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0061】
図18は、第3実施形態に係る電池診断装置100Bの機能ブロック図である。第1実施形態の電池診断装置100(図2参照)とは、稼働状態データベース140Bに含まれる稼働状態テーブル141B(後記する図19参照)、劣化特性情報150B、および診断テーブル160Bの構成が異なる。
【0062】
図19は、第3実施形態に係る稼働状態データベース140Bに記憶される稼働状態テーブル141Bのデータ構成図である。第1実施形態の稼働状態テーブル141(図3参照)の横軸(列)は充電率であるのに対して、稼働状態テーブル141Bの横軸は電流である。マイナスの電流は放電、プラスの電流は充電を示す。
【0063】
バッテリ223に対して、大電流での充電もしくは放電が繰り返されると、リチウムイオン電池内部のリチウムイオン濃度分布に大きな偏りが生じる。これに起因してバッテリ223の内部抵抗値が大きく増大することがある。なお第3実施形態における劣化率は、第1実施形態での電池容量の劣化率(SOH)ではなく、内部抵抗値の劣化率(初期状態おける内部抵抗値と劣化後における内部抵抗値との比、SOHR)である。バッテリ223の使用に伴い、SOHRは100%から増大する。
【0064】
図20は、第3実施形態に係る劣化特性情報150Bを説明するためのグラフ360である。実線の劣化曲線361は、上記したようなリチウムイオン濃度分布の偏りに伴う電池内部抵抗の増大がない場合の時間と劣化率の関係を示す。リチウムイオン濃度の偏りがない場合には、実線の劣化曲線361が示すように時間とともに徐々に劣化率(バッテリ223の内部抵抗)が増大する。特異的劣化が発現する特異的劣化ありのケースでは、点線の劣化曲線362が示すように、あるタイミングでのリチウムイオン濃度の偏りに伴い電池内部抵抗が大幅に増大する。第3実施形態の電池診断装置100Bは、このような事象を特異的な劣化として把握する。
【0065】
図21は、第3実施形態に係る診断テーブル161Bのデータ構成図である。診断テーブル160Bとは、診断テーブル161B,162B(後記する図23参照)を含めた診断テーブルの総称である。図21記載の診断テーブル161Bは、初期状態の診断テーブル160Bである。診断テーブル160Bは、バッテリ223の稼働状態と劣化リスク(特定的劣化が発生するリスク)との関連を示す。第1実施形態の診断テーブル160(図5参照)と比較すると、診断テーブル160Bの横軸(列)は電流となる。
【0066】
リチウムイオン濃度の偏りは、低温かつ電流が多い領域で発生リスクが高まる。このため、図21に示すように、電流が多く温度が低い場合に特異的劣化が発生する可能性があると考えられ、劣化リスク大(特異的劣化あり)を示す1が設定される。それ以外はリチウムイオン濃度の偏る可能性は低いと考えられ、劣化リスク小(特異的劣化なし)を示す0が設定される。
【0067】
図22は、第3実施形態に係る診断テーブル160Bの更新を説明するためのグラフ370である。グラフ370に記載の実線と点線の劣化曲線は、図20記載の劣化曲線361,362と同様であって、劣化リスク小と大の劣化曲線である。
一点鎖線371で囲われた円(〇)は、電流が±180A前後、温度が0度付近を稼働状態とするバッテリ223の劣化率の稼働情報(実測値)を示す。初期状態の診断テーブル161B(図21参照)によれば、バッテリ223の劣化リスクは小であり、実線の劣化曲線で示される劣化速度が想定されていた。しかしながら、実測値は時間経過とともに実線の劣化曲線から大きく乖離している。このように診断テーブル160Bおよび劣化特性情報150Bが示す劣化速度(劣化曲線)が実測値と乖離する場合、診断テーブル更新部112Bは、診断テーブル160Bを更新する。
【0068】
図23は、第3実施形態に係る更新後の診断テーブル162Bを示す図である。初期状態の診断テーブル161B(図21参照)と比較すると、電流が±180A、温度が0度のセル(太い枠で示したセル)の値が0から1に更新されている。このように診断テーブル更新部112Bは、バッテリ223の稼働情報(実測値)に基づいて、バッテリ223の稼働状態の電流・温度に対応するセルの値を更新する。
合わせて診断テーブル更新部112Bは、同じ温度で電流が多い側のセルについても、電流が多い場合には特異的劣化が発生しやすくなることを考慮して、0から1に更新する。図23では、このように実測値からの推定により更新されたセルを太い破線の枠で示している。また診断テーブル更新部112Bは、同じ電流で温度が低い側のセルについても、温度が低い場合には特異的劣化が発生しやすくなることを考慮して、0から1に更新してもよい。
【0069】
≪第3実施形態:特徴≫
第3実施形態における電池診断装置100Bは、バッテリ223の稼働状態として温度および電流に基づくことで、リチウムイオン濃度の偏りによる特異的劣化を考慮した劣化リスクを出力する。診断テーブル160Bは、バッテリ223の温度、電流、劣化率の実測値に基づいて更新される。診断テーブル160Bの初期状態(図21記載の診断テーブル161B参照)では、既存のバッテリの劣化速度を参照して劣化リスクが設定されるため、劣化特性が未知であるバッテリ223の診断の精度が低くなる可能性がある。しかしながら、バッテリ223の実測値を基に診断テーブル160Bを更新するので、バッテリ223の稼働情報が蓄積されるのに応じて診断の精度が向上する。
【0070】
≪変形例:劣化因子≫
バッテリ223の劣化因子は、第1実施形態では温度と充電率であり、第2実施形態では温度と電圧、第3実施形態では温度と電流である。3つ以上の劣化因子を組み合わせてもよい。例えば劣化因子を温度と充電率と電流としてもよい。データ分析部111は、バッテリ223の稼働情報から、この3軸の稼働状態テーブルを生成する。また、診断テーブル更新部112は、この3軸の診断テーブルを更新するようにしてもよい。
【0071】
≪その他変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば、電池情報データベース130や稼働状態データベース140、劣化特性情報150、診断テーブル160は、記憶部120に記憶されるが、電池診断装置100とは異なる装置、例えばクラウドにあるストレージに記憶されてもよい。上記した実施形態では、電池診断装置100,100A,100Bが診断テーブル更新部112,112A,112Bと診断部113,113A,113Bとを備えるが、別の装置が備えるようにしてもよい。
【0072】
上記した実施形態における劣化リスクの数は、3または2であったが、これに限る必要はなく、3超であってもよい。上記した実施形態では、診断テーブル160,160A,160Bと劣化特性情報150,150A,150Bとは、別のデータであったが、一体となってもよい。上記した実施形態における劣化率は、電池容量の劣化率(SOH)または内部抵抗値の劣化率(SOHR)であったが、この2つの劣化率の組み合わせであってもよい。
【0073】
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
100,100A,100B 電池診断装置
111,111A,111B データ分析部
112,112A,112B 診断テーブル更新部(診断情報更新部)
113,113A,113B 診断部
130 電池情報データベース(稼働情報)
150,150A,150B 劣化特性情報
160,160A,160B,161,161A,161B,162,162A,162B,163 診断テーブル(診断情報データベース)
223 バッテリ(蓄電池)
310,320,330,340,350,360,370 グラフ(劣化曲線のグラフ)
311,312,313,341,342,361,362 劣化曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23